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特開2024-97010プレフィルドシリンジ用のシリンジ本体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097010
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】プレフィルドシリンジ用のシリンジ本体
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20240709BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61M5/31 530
A61M5/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068930
(22)【出願日】2024-04-22
(62)【分割の表示】P 2022142040の分割
【原出願日】2017-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2016086947
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勝之
(72)【発明者】
【氏名】柳下 英司
(72)【発明者】
【氏名】赤池 伸和
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏司
(72)【発明者】
【氏名】上田 努
(72)【発明者】
【氏名】森 公哉
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プレフィルドシリンジ用のシリンジ本体を提供する。
【解決手段】プレフィルドシリンジ10用のシリンジ本体18は、中空状の胴体部24と、胴体部24の基端部に設けられた基端開口部26と、胴体部24の先端部に設けられた先端ノズル28とを備える。胴体部24は、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなる。胴体部24は、軸方向に沿って胴体部24の80%以上を占める肉厚本体部24bを有する。肉厚本体部24bの肉厚Tは、2.39~2.40mmである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
公称容量が0.1~0.5mLであり、薬液(M)が充填されるプレフィルドシリンジ(10)用のシリンジ本体(18)であって、
中空状の胴体部(24)と、
前記胴体部(24)の基端部に設けられた基端開口部(26)と、
前記胴体部(24)の先端部に設けられた先端ノズル(28)と、を備え、
前記胴体部(24)は、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなり、
前記薬液(M)は、酸化しやすい有効成分を含有する医薬品、エマルジョン製剤又は臨床使用時の感染防止のために前記シリンジ本体(18)の外面を滅菌する必要のある医薬品であり、
前記胴体部(24)は、軸方向に沿って前記胴体部(24)の80%以上を占める肉厚本体部(24b)を有し、
前記肉厚本体部(24b)の肉厚(T)は、2.39~2.40mmである、
ことを特徴とするシリンジ本体(18)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ用のシリンジ本体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブリスター包装体等の包装容器に包装されたプレフィルドシリンジの外面を滅菌する方法として、以下の2つが知られている。
【0003】
第1の方法では、包装容器内に過酸化水素水を滴下して包装し、包装体内で揮発した過酸化水素ガスでプレフィルドシリンジのシリンジ本体の外面を滅菌する。第2の方法では、包装容器の一部にガス透過性を有する材料を用いて、プレフィルドシリンジが収容された包装容器ごとプレフィルドシリンジのシリンジ本体の外面をエチレンオキサイドガスで滅菌する。特に、第1の方法は、10mLのヘパリン製剤を充填したプレフィルドシリンジにおいて、よく用いられている(特許第5325247号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した滅菌方法では、滅菌ガスが、プラスチック製のシリンジ本体等を透過して、シリンジ本体内に移行することで、薬液中に滅菌媒体が残留することがある。10mLのプレフィルドシリンジでは、滅菌時のエアレーション等を調整することにより、プラスチック製のシリンジ本体内の薬液中に残留する滅菌媒体の量を、薬液量に対して限りなく少なくすることができる。
【0005】
しかしながら、薬液量が0.1~5mLのように少量のプレフィルドシリンジの場合、薬液中に残留する滅菌媒体の量が無視できない量となるおそれがあった。また、薬液中の有効成分が、滅菌媒体によって酸化等の変性を起こしやすい場合、薬液に移行する滅菌媒体量が短時間でも多くなると、有効成分が変性する恐れがあった。
【0006】
一方、プラスチックの一種である環状オレフィンポリマーや環状オレフィンコポリマー製のシリンジ本体では、公称容量1mL、厚み2.43mmのものが提案されている。しかしながら、環状オレフィンポリマーや環状オレフィンコポリマーで厚み2.43mmのシリンジ本体を成形する場合、成形時にヒケと呼ばれる収縮が発生してシリンジ本体の寸法に狂いが生じ、液漏れの原因となったり、成形時の冷却工程が非常に長くなって生産効率が極端に悪くなったりすることがあった。
【0007】
そこで、本発明は、シリンジ本体の外面をガス滅菌する際に、シリンジ本体内に充填される薬液への滅菌媒体の移行を極力抑えつつ、シリンジ本体の成形時のヒケが少なく、十分な効率で生産可能なプレフィルドシリンジ用のシリンジ本体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、公称容量が0.1~0.5mLであり、薬液が充填されるプレフィルドシリンジ用のシリンジ本体であって、中空状の胴体部と、前記胴体部の基端部に設けられた基端開口部と、前記胴体部の先端部に設けられた先端ノズルと、を備え、前記胴体部は、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなり、前記薬液は、酸化しやすい有効成分を含有する医薬品、エマルジョン製剤又は臨床使用時の感染防止のために前記シリンジ本体の外面を滅菌する必要のある医薬品であり、前記胴体部は、軸方向に沿って前記胴体部の80%以上を占める肉厚本体部を有し、前記肉厚本体部の肉厚は、2.39~2.40mmである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された本発明のシリンジ本体によれば、胴体部の80%以上を占める肉厚本体部の肉厚が2.39~2.40mmと適度に厚いため、シリンジ本体の外面をガス滅菌する際に、シリンジ本体内への滅菌媒体の移行を効果的に抑制することができる。従って、シリンジ本体内に充填される薬液中の有効成分が酸化等の変性を起こしやすい場合でも、有効成分の変性を抑制することができる。また、胴体部が環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなるものの、胴体部の肉厚が厚すぎないため、シリンジ本体を成形する際に、成形時のヒケを少なくすることができる。成形時のヒケが少なくなることにより、シリンジ本体の適正な寸法精度を確保しやすいとともに、冷却工程の長時間化が回避されるため十分な効率でシリンジ本体を生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るプレフィルドシリンジが収納された包装体(プレフィルドシリンジ入り包装体)の平面図である。
図2図1に示したプレフィルドシリンジ入り包装体の側面図である。
図3】本発明の実施形態に係るプレフィルドシリンジの斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係るプレフィルドシリンジの断面図である。
図5】過酸化水素移行量試験の結果を示す表1である。
図6】シリンジ本体の胴体部の肉厚と過酸化水素の移行量との関係を示すグラフである。
図7】菌死滅性試験の結果を示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るシリンジ本体について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1及び図2において、本実施形態に係るプレフィルドシリンジ10は、包装体12内に収容されている。包装体12は、プレフィルドシリンジ10を収容する容器本体14と、容器本体14の開口14aを開封可能に封止する封止フィルム16とを備える。図1に示す包装体12は、ブリスター包装体である。なお、包装体12は、封止及び開封可能な袋状の包装体であってもよい。以下、プレフィルドシリンジ10が収容された包装体12を「プレフィルドシリンジ入り包装体12a」という。
【0013】
容器本体14は、プレフィルドシリンジ10を収容可能であり且つプレフィルドシリンジ10の移動を抑制する形状に形成された収容凹部14bと、収容凹部14bの上端部周囲に形成された張り出し部14cとを有する。封止フィルム16は、張り出し部14cに剥離可能に取り付けられている。封止フィルム16は、張り出し部14cの上面に全周に亘って剥離可能に接合されている。
【0014】
包装体12の材質としては、過酸化水素又はエチレンオキサイドガスにより容易に変質しないものであることが好ましい。また、包装体12の材質としては、防水性を有することが好ましい。
【0015】
容器本体14の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン/アイオノマー(例えば、エチレン系、スチレン系、フッ素系)/ポリエチレン等が好適に使用できる。
【0016】
封止フィルム16は、例えばポリエチレン等により構成された基材フィルムと、基材フィルムの下面の少なくとも外周部分に固着された接着性樹脂層とを有し、好ましくは、基材フィルムの上面に設けられた表面保護層をさらに有する。
【0017】
図3に示すように、プレフィルドシリンジ10は、主たる構成要素として、中空体からなるシリンジ本体18と、シリンジ本体18内に摺動可能に挿入されたガスケット20と、シリンジ本体18の先端ノズル28(図4参照)を封止するキャップ22と、シリンジ本体18とガスケット20とにより形成される充填空間19に充填された薬液Mとを備える。プレフィルドシリンジ10用のシリンジシステム11は、シリンジ本体18と、ガスケット20と、キャップ22とを備える。
【0018】
図4において、シリンジ本体18は、中空状の胴体部24と、胴体部24の基端部に設けられた基端開口部26と、胴体部24の先端部に設けられた先端ノズル28と、先端ノズル28の外側に設けられたロックアダプタ30と、胴体部24の基端から径方向外方に突出形成されたフランジ32とを有する。図示例のシリンジ本体18において、胴体部24、先端ノズル28、ロックアダプタ30及びフランジ32は一体成形されている。シリンジ本体18は、例えば射出成形により製作される。
【0019】
胴体部24は、略円筒形状に形成されている。胴体部24は、周方向の全周に延在する側壁25を有する。胴体部24は、軸方向に沿って胴体部24の80%以上を占める肉厚本体部24bを有する。肉厚本体部24b(フランジ32を除く)の肉厚(側壁25の厚み)Tは、2.23~2.40mmに設定されている。胴体部24の一部(例えば先端部又は基端部)に、上記範囲から外れた部分が存在していてもよい。特に、胴体部24において、少なくとも薬液Mが充填される部分の肉厚が上記範囲に設定され、薬液Mが充填される部分よりも基端側の部分の肉厚は、上記範囲から外れていてもよい。胴体部24の外周面24aの面積は、例えば、1300~1600mm2に設定されている。
【0020】
シリンジ本体18は、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなる。シリンジ本体18は、少なくとも胴体部24が環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなればよく、胴体部24以外の部分は他の素材により構成されてもよい。シリンジ本体18の公称容量は、例えば、0.1~5mLである。シリンジ本体18の公称容量は、好ましくは、0.1~0.5mLである。
【0021】
シリンジ本体18の外面は、過酸化水素ガス又はエチレンオキサイドガスで滅菌処理されている。
【0022】
過酸化水素ガスで滅菌処理する場合、封止していない状態の包装体12内に過酸化水素水を添加する。その際、容器本体14内にプレフィルドシリンジ10を収容してから過酸化水素水を添加してもよく、あるいは、過酸化水素水を添加した後に容器本体14内にプレフィルドシリンジ10を収容してもよい。過酸化水素を添加して包装体12を封止した後、過酸化水素水がガス化する条件下にプレフィルドシリンジ入り包装体12aを所定時間おき、包装体12内の過酸化水素水をガス化させる。これにより、包装体12内のプレフィルドシリンジ10は、過酸化水素ガスにより滅菌される。
【0023】
一方、エチレンオキサイドガスで滅菌処理する場合、包装体12内にプレフィルドシリンジ10を収容して封止した後、プレフィルドシリンジ入り包装体12aごと滅菌装置内に配置して、包装体12の周囲にエチレンオキサイドガスを供給する。この際、エチレンオキサイドガスが、封止フィルム16を透過することで、包装体12内に入り込む。これにより、プレフィルドシリンジ10の外面がエチレンオキサイドガスにより滅菌される。
【0024】
シリンジ本体18内には、基端開口部26を介してガスケット20が挿入されている。ガスケット20は、その外周部がシリンジ本体18の内周面に液密に接するとともに、シリンジ本体18内に摺動可能に配置されている。ガスケット20は、例えばゴム材等の弾性材料により構成されガスケット本体20aと、ガスケット本体20aの外面に設けられた(コーティングされた)フッ素系樹脂20bとを有する。
【0025】
ガスケット20には、押し子34の先端部が連結されている。ユーザが押し子34を先端方向に押圧することにより、ガスケット20がシリンジ本体18内を先端方向に摺動する。なお、押し子34は、薬液Mを患者に投与するときにガスケット20に連結されてもよい。また、押し子34は、ガスケット20を先端方向に押圧可能であればよく、ガスケット20に連結されず、単にガスケット20に当接する構成でもよい。
【0026】
ガスケット20によってシリンジ本体18の基端側が液密に封止され、薬液Mがシリンジ本体18内に封入されている。薬液Mは、酸化しやすい有効成分を含有する医薬品、エマルジョン製剤又は臨床使用時の感染防止のためにシリンジ本体の外面を滅菌する必要のある医薬品等である。薬液Mが含有する酸化しやすい有効成分は、例えば、タンパク質、ペプチド又は核酸である。このような酸化しやすい有効成分の具体例としては、例えば、アフリベルセプト、ラニビズマブ、ベバシズマブ等の血管内皮増殖因子阻害剤が挙げられる。エマルジョン製剤の具体例としては、例えばプロポフォールが挙げられる。また、臨床使用時の感染防止のためにシリンジ本体の外面を滅菌する必要のある医薬品としては、眼科用医薬品、抗生物質又は麻酔薬等が挙げられる。
【0027】
先端ノズル28は、胴体部24の先端中心部からシリンジ本体18に対して縮径して先端方向に延出している。先端ノズル28は、シリンジ本体18内の充填空間19と連通し且つ軸方向に貫通した液体通路29を有する。
【0028】
先端ノズル28からキャップ22が外された状態で、先端ノズル28には、図示しない針ユニットが着脱可能である。針ユニットは、針先を有する針体と、針体の基端部に固定されるとともに外方に突出した突起を有する針ハブとを備える。先端ノズル28は、針ハブの内周部にテーパ嵌合可能である。プレフィルドシリンジ10の使用に際し、キャップ22は開栓され(先端ノズル28及びロックアダプタ30から取り外され)、代わりに針ユニットの針ハブが先端ノズル28及びロックアダプタ30に接続される。
【0029】
図示例のロックアダプタ30は、胴体部24の先端から先端方向に延出し且つ先端ノズル28を囲む略中空円筒状に構成されている。ロックアダプタ30の内周面には雌ネジ部30aが形成されている。キャップ22の装着状態で、雌ネジ部30aは、キャップ22に設けられた雄ネジ部22aと離脱可能に螺合している。キャップ22がシリンジ本体18から離脱した状態で、雌ネジ部30aは、上述した針ユニットの針ハブに設けられた突起と係合可能である。
【0030】
なお、本図示例のロックアダプタ30は、先端ノズル28の基端部に一体成形によって設けられていてもよい。ロックアダプタ30は、胴体部24及び先端ノズル28とは別部品として構成され、シリンジ本体18又は先端ノズル28に固定された部材であってもよい。
【0031】
キャップ22は、先端ノズル28に離脱可能に装着されている。キャップ22は、先端ノズル28の先端開口部を封止する封止部23を有する。図示例のキャップ22は、先端ノズル28に着脱可能に構成されている。本実施形態において、封止部23は、ブチルゴムからなる。なお、封止部23は、他の弾性材料(例えば、ラテックスゴム、シリコーンゴム等)により構成されてもよい。キャップ22は、全体が弾性材料により構成されたものに限らず、例えば、封止部23と、封止部23の周囲に固定されたカバー部とを有していてもよい。
【0032】
先端ノズル28にキャップ22が装着された状態で、キャップ22は先端ノズル28の先端面に液密に密着している。これによりキャップ22の外部に薬液Mが漏れ出ないようになっている。
【0033】
上記のように構成された本実施形態に係るシリンジ本体18、シリンジシステム11及びプレフィルドシリンジ10は、以下の効果を奏する。
【0034】
上述したように、シリンジ本体18の胴体部24は、環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなり、胴体部24の肉厚Tは、2.23~2.40mmである。
【0035】
このように、シリンジ本体18では、胴体部24の80%以上を占める肉厚本体部24bの肉厚Tが2.23~2.40mmと適度に厚いため、シリンジ本体18内への滅菌ガスの移行を効果的に抑制することができる。従って、シリンジ本体18内に充填される薬液M中の有効成分が酸化等の変性を起こしやすい場合でも、有効成分の変性を抑制することができる。また、胴体部24が環状オレフィンポリマー又は環状オレフィンコポリマーからなるものの、胴体部24の肉厚Tが厚すぎないため、シリンジ本体18を成形する際に、成形時のヒケを少なくすることができる。成形時のヒケが少なくなることにより、シリンジ本体18の適正な寸法精度を確保しやすいとともに、冷却工程の長時間化が回避されるため十分な効率でシリンジ本体18を生産することが可能となる。胴体部24の80%以上が肉厚本体部24bであるため、滅菌媒体の移行を十分に抑えつつ、成形性も確保することができる。なお、肉厚本体部24bは、軸方向に沿って胴体部24の90%以上を占めていることが好ましい。これにより、滅菌媒体の移行をより抑えつつ、成形性もより確保することができる。
【0036】
シリンジ本体18の公称容量は、0.1~5mLである。公称容量が0.1~5mLの場合、充填される薬液量が少量であり、シリンジ本体18内への滅菌ガスの移行を極力少なくする必要があるため、本発明で採用される胴体部24の厚みが効果的である。
【0037】
シリンジ本体18の公称容量は、0.1~0.5mLであることがより好ましい。公称容量が0.1~0.5mLの場合、充填される薬液量が非常に少量であり、シリンジ本体18内への滅菌ガスの移行を極力少なくする必要があるため、本発明で採用される胴体部24の厚みが特に効果的である。
【0038】
胴体部24の外周面24aの面積は、1300~1600mm2である。滅菌ガスと胴体部24の外周面24aとが接触する面積を極力小さくすることで、外周面24aを滅菌するために必要となる滅菌ガスの量を少なくできる。その結果、シリンジ本体18内への滅菌ガスの移行量を少なくすることができる。
【0039】
ガスケット20は、ガスケット本体20aと、ガスケット本体20aの外面に設けられたフッ素系樹脂20bとを有する。この構成によれば、フッ素系樹脂20bによりガスバリア性が向上し、シリンジ本体18内に滅菌ガスがより移行しにくくなる。
【0040】
キャップ22の封止部23は、ブチルゴムからなる。この構成によれば、ブチルゴムはガス透過性が低いため、シリンジ本体18内に滅菌ガスがより移行しにくくなる。
【0041】
薬液Mは、酸化しやすい有効成分を含有する医薬品、エマルジョン製剤又は臨床使用時の感染防止のためにシリンジ本体18の外面を滅菌する必要のある医薬品である。薬液Mがこれらの医薬品等である場合、過酸化水素ガス又はエチレンオキサイドガス等の滅菌ガスにより薬液Mが酸化されたり変性したりするため、本発明で採用される胴体部24の厚みが効果的である。
【0042】
薬液M中の有効成分は、タンパク質、ペプチド又は核酸である。これらのいずれかが有効成分である場合、薬液Mが特に酸化しやすいため、本発明で採用される胴体部24の厚みが効果的である。
【0043】
次に、本発明の効果を確認するために実施した試験について説明する。
【0044】
1. 移行量試験
[サンプル]
本発明を適用したプレフィルドシリンジ(実施例A)と、本発明を適用していないプレフィルドシリンジ(比較例A)とを、それぞれ14本ずつ用意した。
実施例Aの詳細は次の通りである。
・シリンジ本体の材質:環状オレフィンポリマー
・シリンジ本体の公称容量:0.5mL
・シリンジ本体の胴体部の肉厚:2.39mm(内径4.7mm、外径9.48mm)
・ガスケット:ブチルゴム製のガスケット本体の外面にシリコーン樹脂をコーティングしたもの
・キャップの材質:ブチルゴム
・薬液:注射用水0.165mL
【0045】
比較例Aの詳細は、シリンジ本体の胴体部の肉厚が1.24mm(内径4.7mm、外径7.18mm)である点以外は、実施例Aと同じである。
【0046】
[試験方法]
用意したプレフィルドシリンジをブリスター包装体の容器本体に収容した後、濃度が2.0w/v%に調整された過酸化水素水を容器本体内に20μL滴下した。過酸化水素水の滴下後、容器本体の上に封止フィルムを載せ、封止フィルムを容器本体にヒートシールした。その後、プレフィルドシリンジが収容されたブリスター包装体の測定用サンプルを、温度が約20℃、湿度が約50%RHの条件下で保管した。封止フィルムは、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/架橋発泡ポリエチレンの多層ラミネートフィルムにより作製されている(大日本印刷製)。容器本体は、低密度ポリエチレン/アイオノマー/低密度ポリエチレンの多層ラミネートフィルムにより作製されている(大日本印刷製)。
【0047】
[過酸化水素の移行量の測定]
測定機器として、ORITECTOR M-5(千代田製作所製)を用いた。実施例Aのプレフィルドシリンジ7本分をまとめて1.155mLとし、抽出用溶液0.845mLを加えて2mLにメスアップした。メスアップしたサンプルの過酸化水素濃度(ppm)を測定した。実施例Aのプレフィルドシリンジの残りの7本についても、同様にメスアップしたサンプルを測定した。比較例Aについても同様の手順で測定した。測定においては、検出値を希釈率1.73倍で割り戻して、測定値とした。測定は、過酸化水素水の滴下後、0日目、3日目及び14日目について実施した。
【0048】
[結果]
図5(表1)に測定結果を示す。表1において、測定値は、実施例A及び比較例Aの各々における2回の測定の平均値で示している。検出限界(下限値)は0.01ppmであるため、濃度が0.01ppm未満の場合には測定値ではなく「N.D.」と表記した。表1によれば、実施例Aでは、シリンジ内への過酸化水素の移行が良好に抑制されていることが認められた。一方、比較例Aでは、短期間(3日目)でシリンジ内への過酸化水素の移行量が許容できないレベルにまで上昇し、日数の経過に伴ってさらに移行量が上昇することが認められた。
【0049】
表1に示した結果から、シリンジ本体の胴体部の肉厚と過酸化水素の移行量との関係は、図6に示す式(y=-0.3217x+0.769)によって示されるものと推測される。移行量が0.05ppm以下であれば、薬液への影響を十分抑えられるものと考えられる。測定結果から、0.05ppmとなるシリンジ本体の胴体部の肉厚は、2.23mmである。従って、シリンジ本体の胴体部の肉厚が2.23mm以上であれば、移行量を0.05ppm以下に抑えることが可能である。
【0050】
2. 菌死滅性試験
[サンプル]
移行量試験の実施例Aと同じプレフィルドシリンジを用意した。
【0051】
[試験方法]
過酸化水素水(濃度及び量が移行量実験と同じ)をブリスター包装体内に滴下し、プレフィルドシリンジをブリスター包装体で包装したものを実施例Bとして用意した。また、ブリスター包装体内に過酸化水素水を滴下せず、プレフィルドシリンジをブリスター包装体で包装したものを比較例Bとして用意した。バイオロジカルインジケータをキャップの近傍に設置した。過酸化水素水は、押し子の基端近傍に滴下した。実施例B及び比較例Bを、温度が約20℃、湿度が約50%RHの条件下で保管した。
【0052】
[生菌数の測定]
保管したサンプルを、過酸化水素水の滴下後0日目及び14日目に取り出し、菌数を測定した。その際、バイオロジカルインジケータを無菌的に取り出し、滅菌済み洗浄液(ペプトン5%、塩化ナトリウム0.9%、Tween80 0.1%)を10mL添加し、付着菌を抽出・回収した。この洗浄液を10-0(1倍)希釈液として、適宜希釈後、TSA寒天培地(トリプチックソイ20gを500mLの蒸留水で撹拌溶解したのち、121℃で20分間オートクレーブにかけた培地)にて平板混釈し、55℃で2日間培養した。培養後、出現したコロニー数を計測した。測定結果は、実施例B及び比較例Bについて、それぞれ5検体の平均値で示した。
【0053】
[結果]
図7(表2)に測定結果を示す。表2によれば、実施例Bにおいて、0日目では4.02×106だけ生存していた菌が、14日目では完全に死滅していた。すなわち、シリンジ本体の外面に菌が付着していた場合でも、シリンジ本体の外面が滅菌されたと考えられる。一方、比較例Bでは、14日目において菌の減少が見られたものの、菌が依然として生存していることが認められた。
【0054】
表2に示した結果から、滅菌のために十分な量の過酸化水素を添加した場合でも、シリンジ本体内への過酸化水素の移行を効果的に抑制することが可能であることが分かる。
【0055】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7