(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097025
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】改変CMV gBタンパク質及びこれを含むCMVワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/045 20060101AFI20240709BHJP
A61K 39/245 20060101ALI20240709BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20240709BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240709BHJP
C12N 15/38 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C07K14/045
A61K39/245 ZNA
A61P31/22
A61P37/04
C12N15/38
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069598
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2020552606の分割
【原出願日】2019-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018201201
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 正治
(72)【発明者】
【氏名】森 泰亮
(72)【発明者】
【氏名】西村 知裕
(72)【発明者】
【氏名】松本 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河邉 昭博
(72)【発明者】
【氏名】長友 隆将
(72)【発明者】
【氏名】井上 直樹
(57)【要約】
【課題】本発明は、免疫誘導に際して、野生型CMV gBに比べて、CMV gBタンパク質に対する高い中和活性を示す中和抗体の含有割合が高い抗体群を誘導でき、CMV感染症の予防及び/又は治療に利用し得る、改変CMV gBタンパク質及びこれを含むCMVワクチンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の改変CMV gBタンパク質は、ヘッド領域に改変を含む、ボディ領域認識抗体の誘導能が向上した、改変CMV gBタンパク質である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型サイトメガロウイルスのエンベロープ糖タンパク質B(CMV gBタンパク質)のヘッド領域が改変され、かつ、ボディ領域認識抗体の誘導能が向上した、改変CMV gBタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変CMV gBタンパク質及びこれを含むCMVワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染症には、主に大きく移植、AIDS、先天性免疫不全などの免疫抑制状態の患者において発症するCMV肺炎、腸炎、網膜炎などの臓器障害と、妊婦が初感染した場合に胎児が発症する先天性CMV感染症との2つがある。このうち、先天性CMV感染症は、TORCH症候群の1つを構成する重要な先天性感染症であり、胎児に奇形又は重篤な臨床症状を引き起こす。妊婦がCMVに初感染した場合、およそ40%で胎盤を通して胎児の先天性感染が発生する。また、死産の約15%が先天性CMV感染によるという報告もある。先天性感染児の年間発生件数は、日本で3000人以上、米国で約4万人であり、症候性は日本で約1000人、米国で約8000人とも言われ、このうち約9割に中枢神経障害や難聴などの後障害が残る。
【0003】
日本におけるCMV抗体保有率は欧米諸国に比して高く、日本人成人の80%~90%はCMV抗体陽性であり、乳幼児期にほとんどの人が感染を受けている。しかし、最近の傾向として、若年者のCMV抗体保有率は90%台から60%台に低下傾向を示しており、先天性CMV感染症の予防対策の必要性はさらに高まっている(非特許文献1)。
【0004】
ごく最近の研究によれば、これまで妊娠中に初感染した母体から多く生じると考えられていた先天性CMV感染児が、妊娠中に初感染を起こした妊婦よりもむしろ慢性感染状態の妊婦から多く発生しているという報告も有る(非特許文献2)。
【0005】
米国医学研究所(The Institute of Medicine)は、先天性CMV感染症が先進国における先天性の中枢神経障害の原因としてダウン症候群を凌ぐインパクトを持っており、障害が残った先天性感染児の生涯に及ぶQOLの低下と社会経済的損失をQALYs(Quality-adjusted life years)として算出すると、CMVワクチンは、最も医療経済効果が高いカテゴリーに分類されると分析している(非特許文献3)。
【0006】
感染症を引き起こす病原体は、従来型ワクチンで十分な効果を得ることができるClass I群病原体と、従来型ワクチン又は病原体感染歴では十分な防御免疫を獲得できないClass II群病原体とに大別されるが、CMVは後者に分類される(非特許文献4)。Class II群病原体の克服が難しい理由として、それらが有する巧妙な免疫逃避機構が指摘されている。人類はこれまでにClass I群病原体に対する数多くの有効なワクチンを開発し、それらの引き起こす感染症の脅威に打ち勝ってきた。そして今後のワクチン開発の焦点は、Class II群病原体へと移りつつある。
【0007】
CMV関連疾患に取り組むために、弱毒生ワクチン及びサブユニットワクチンを含むワクチンの開発が行われている。特許文献1~3には、改変型CMV エンベロープ糖タンパク質B(gB)に関するワクチンが開示されている。
【0008】
先天性CMV感染症の被害を最小限に留めるために、妊婦スクリーニングで未感染妊婦を同定し、生活上の注意を啓発することも行われているが、十分ではない。さらに初感染妊婦を同定して、CMV抗体高力価免疫グロブリンを妊婦に投与することで胎児への感染予防や重症化の軽減に有効であったとする報告もあるようであるが、現在のところ有効性に疑問が出てきている(非特許文献5)。
【0009】
CMVの治療にはアシクロビルなどの抗ウイルス薬が用いられている。しかし、これらの抗ウイルス薬は、ウイルスを完全に除去することはできず、また服用を中止するとウイルスが再活性化する。低分子薬としてガンシクロビル(ganciclovir)も上市されているが、その効果は限定的であり、副作用の問題もある。そのため、CMVの感染そのものを防御する予防用ワクチン或いは再発症状を軽減緩和する治療用ワクチンの開発が望まれるが、現在、有効なワクチンは存在せず、そのアンメットニーズは高い。
【0010】
CMVワクチン開発に関しては、これまで複数の製薬企業やアカデミアにおいて弱毒生ワクチンやアジュバント添加組換え蛋白ワクチン、DNAワクチンなどを用いた検討が試みられてきたが、何れもT細胞免疫、B細胞免疫共に応答が不十分であり、結果としてワクチンとして実用に耐え得る効果は得られていない。
【0011】
臓器移植患者及び造血細胞移植患者におけるCMV感染症及びそれに伴う合併症の予防を目的としてアステラス製薬とVical社が共同開発中の二価DNAワクチンASP0113(gB gene+pp65 gene/ポリキサマーCRL1005)は、腎移植患者を対象とした第II相試験においてプラセボ群に対する有意な効果を確認できなかった。また、造血細胞移植患者を対象とした第III相試験においてもプラセボ群に対する有意な効果を確認できなかった。またサノフィパスツール社が先天性CMV感染症予防を目的として開発を試みた組換え蛋白ワクチン(gB/MF59)は、未感染成人女性を対象とした感染防御試験(第II相試験)において約50%の有効性を示したものの効果不十分により開発が中断された(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2016/092460号
【特許文献2】国際公開第2012/049317号
【特許文献3】国際公開第2015/089340号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Azuma H, Takanashi M, et al., “Cytomegalovirusseropositivity in pregnant women in Japan during 1996-2009, ” J Jpn Soc Perin Neon Med 46 (2010) 1273-1279
【非特許文献2】Tanimura K et al., “Universal screening withuse of Immunoglobulin G avidity for congenital cytomegalovirus infection. ” Clin Infect Dis 65 (2017) 1652-1658, https://doi.org/10.1093/cid/cix621
【非特許文献3】Kathleen R.Stratton et al., “Vaccines forthe 21st centrury : a tool for decision making” TheNational Academies Presss,2000
【非特許文献4】Tobin GJ et al., “Deceptive imprinting andimmune refocusing in vaccine design.”, Vaccine 26(2008) 6189-6199
【非特許文献5】Revello MG et al., “Randomized trial ofhyperimmune globulin to prevent congenital cytomegalovirus.”, N Engl J Med 370 (2014) 1316-1326
【非特許文献6】Pass RF et al., “Vaccine prevention ofmaternal cytomegalovirus infection.” N Engl J Med 360(2009) 1191-1199
【非特許文献7】Sonja Potzsch et al., “B cell repertoireanalysis identifies new antigenic domains on glycoprotein B of humancytomegalovirus which are target of neutralizing antibodies.” PLoS Pathog, 2011; 7(8):e1002172
【非特許文献8】Burke HG et al., “Crystal structure of thehuman cytomegalovirus glycoprotein B.” PLoS Pathog 2015Oct 20, 11(10): e1005227. doi:10.1371/journal.ppat.1005227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、現在有効なCMVワクチンが存在しない。したがって、本発明は、免疫誘導に際して、野生型CMV gBに比べて、CMV感染に対する高い中和活性を示す中和抗体の含有割合が高い抗体を誘導でき、CMV感染症の予防及び/又は治療に利用し得る、改変CMV gBタンパク質及びこれを含むCMVワクチンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、CMVの主要な抗原であり、感染防御の標的抗原の一つとして知られているgBタンパク質に関して、CMV感染に対して高い中和活性を有する抗体を誘導する中和エピトープと、中和活性が低い又はない抗体を誘導する非中和エピトープとに分類することを試みた。そして、非中和エピトープを脱エピトープ化し、中和エピトープを免疫的に目立たせることによって、中和抗体誘導能及び感染防御能を増強させた改変CMV gBタンパク質を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の各発明に関する。
[1] 野生型サイトメガロウイルスのエンベロープ糖タンパク質B(CMV gBタンパク質)のヘッド領域が改変され、かつ、ボディ領域認識抗体の誘導能が向上した、改変CMV gBタンパク質。
[2] ヘッド領域における改変が糖鎖導入による改変を含む、[1]の改変CMV gBタンパク質。
[3] ヘッド領域における改変が2つ以上の糖鎖導入による改変を含む、[1]又は[2]の改変CMV gBタンパク質。
[4] ヘッド領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、588、及び609の相当位置のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも2つのアミノ酸残基への糖鎖導入による改変を含む、[1]~[3]のいずれかの改変CMV gBタンパク質。
[5] ヘッド領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、588、及び609の相当位置のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも3つのアミノ酸残基への糖鎖導入による改変を含む、[1]~[4]のいずれかの改変CMV gBタンパク質。
[6] ヘッド領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、及び588の相当位置のアミノ酸残基への糖鎖導入による改変を含む、[1]~[5]のいずれかの改変CMV gBタンパク質。
[7] ヘッド領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、588、及び609の相当位置のアミノ酸残基への糖鎖導入による改変を含む、[1]~[6]のいずれかの改変CMV gBタンパク質。
[8] 糖鎖が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置79の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換と、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置544の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置546の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換と、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置588の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置589の相当位置のアミノ酸残基のグリシン残基への置換と、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置609の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換、位置610の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換及び位置611の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換と
によって導入された、[7]の改変CMV gBタンパク質。
[9] ヘッド領域における改変がヘッド領域の少なくとも一部の欠損を含む、[1]の改変CMV gBタンパク質。
[10] ヘッド領域における改変がヘッド領域の全領域の欠損である、[9]の改変CMV gBタンパク質。
[11] CMV gBタンパク質のヘッド領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置432及び434の相当位置のアミノ酸残基の置換を含み、さらに、上記改変CMV gBタンパク質はボディ領域における改変を含み、該ボディ領域における改変が、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置132、133、及び216の相当位置のアミノ酸残基の置換を含む、[1]の改変CMV gBタンパク質。
[12] ボディ領域における改変が、さらに配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置215の相当位置のアミノ酸残基の置換を含む、[11]の改変CMV gBタンパク質。
[13] ボディ領域における改変が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置131から133、及び位置216から218の相当位置のアミノ酸残基の欠損を含む、[11]又は[12]の改変CMV gBタンパク質。
[14] [1]~[13]のいずれかの改変CMV gBタンパク質を含む、CMVワクチン。
【発明の効果】
【0017】
本発明の改変CMV gBタンパク質又はこれを含むワクチンによって免疫誘導した場合、野生型CMV gBで免疫誘導した場合に比べて、CMV感染症に対して高い予防及び/又は治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(VC31)を示す図である。
【
図2】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(VC33)を示す図である。
【
図3】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(VC37)を示す図である。
【
図4】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(VC39)を示す図である。
【
図5】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(VC40)を示す図である。
【
図6】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果(D1D2)を示す図である。
【
図7】実施例6におけるヘッド領域からボディ領域への免疫リフォーカシングの結果((D1D2)×2)を示す図である。
【
図8】実施例7における各改変CMV gBタンパク質免疫血清の線維芽細胞系中和試験の結果を示す図である。
【
図9】実施例7における各改変CMV gBタンパク質免疫血清の線維芽細胞系中和試験の結果を示す図である。
【
図10】実施例7における各改変CMV gBタンパク質免疫血清の上皮細胞系中和試験の結果を示す図である。
【
図11】実施例7における各改変CMV gBタンパク質免疫血清の上皮細胞系中和試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明のサイトメガロウイルス(CMV)のエンベロープ糖タンパク質B(gBタンパク質)の改変タンパク質は、野生型CMV gBタンパク質のヘッド領域が改変され、かつ、gBタンパク質のボディ領域を認識する抗体の誘導能が向上した改変CMV gBタンパク質である。
【0021】
「野生型CMV gB」とは、任意のCMV株に由来するgBタンパク質を意味し、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するCMV AD169株由来のgBタンパク質(GenBankの登録番号:GenBank ACCESSION No.: X17403.1、配列番号1)が挙げられる。理解を容易にするために本明細書におけるアミノ酸残基位置に関して番号付けは、他に記載する場合を除いて、AD169株に由来し、かつリーダー配列を除いた配列番号1のgBタンパクのアミノ酸配列との関係で記載する。この場合は、配列アライメントに基づいて、gBタンパク質におけるアミノ酸残基の位置を、配列番号1に記載のアミノ酸配列において相当する位置、すなわち、「相当位置」として記載する。
【0022】
「改変CMV gBタンパク質」(「gB改変体」又は「改変体」ともいう。)とは、野生型CMV gBに対して、少なくとも一つのアミノ酸残基又は連続したアミノ酸残基領域が、置換、欠損(欠失)又は付加されたタンパク質をいい、アミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖導入されたタンパク質などの野生型に存在しないタンパク質修飾がされたタンパク質も含む。
【0023】
CMV gBタンパク質の立体構造は解析されており(非特許文献8)、例えば、AD169株由来のgBにおいて、配列番号1における109-319番目のアミノ酸残基を有するドメインI、97-108番目のアミノ酸残基と320-414番目のアミノ酸残基とを有するドメインII、71-87番目のアミノ酸残基と453-525番目のアミノ酸残基と614-643番目のアミノ酸残基とを有するドメインIII、65-70番目のアミノ酸残基と526-613番目のアミノ酸残基とを有するドメインIV、及び、644-675番目のアミノ酸残基を有するドメインVを有することが知られている。
【0024】
CMV gBのドメイン構造は非特許文献7によって報告されている。CMV gBタンパク質において、ドメインIVを含む領域をヘッド領域といい、例えば、AD169株由来のCMV gBタンパク質において、1-87番目と415-649番目のアミノ酸残基からなる領域である。ドメインIとドメインIIを主に含む残りのエクトドメイン領域をボディ領域といい、例えば、AD169株由来のCMV gBタンパク質において、88―414番目のアミノ酸残基と650-682番目のアミノ酸残基からなる領域である。他のCMV gBタンパク質のヘッド領域及びボディ領域は、AD169株由来のCMV gBタンパク質に対応させた相当位置のアミノ酸残基で規定され得る。
【0025】
CMV gBタンパク質の結晶構造においては、ボディ領域よりもヘッド領域の方が高い抗原提示性を有していること、すなわち、ヘッド領域は、ボディ領域と比較して抗体を多く誘導することが知られている。しかし、ドメインIVに存在するエピトープは、中和活性がない又は低い抗体を多く誘導する。その結果gBタンパク質のドメインIVはCMVの免疫回避機構として働いているという報告がされている(非特許文献7、8)。
【0026】
実際に本発明者らが調べたところ、血液中の抗体においても、ヘッド領域に対する抗体の割合の方が、ボディ領域に対する抗体の割合よりも高い。しかし一方で、本発明者らの研究によれば、野生型CMV gBのヘッド領域は、中和活性が高い中和抗体よりも、中和活性がない又は低い非中和抗体の方を多く誘導していた。よって、ヘッド領域には、中和抗体を誘導する中和エピトープよりも非中和抗体を誘導する非中和エピトープの方が多く存在していると結論された。非中和抗体は、ウイルスと結合するものの、ウイルスの感染能を抑えることができない。よって、ワクチン抗原のデザインには、中和抗体の産生を誘導できることが重要とされている。
【0027】
本発明の改変CMV gBタンパク質は、非中和エピトープが多く存在していると思われるgBタンパクのヘッド領域に改変を行うことにより、ヘッド領域よりも中和抗体の誘導能力が高いボディ領域であるドメインIとドメインIIを目立たせた。その結果、ボディ領域認識抗体の誘導能が向上し、ボディ領域であるドメインIとドメインIIに存在するエピトープが誘導する抗体量を増加させることができ、本発明の改変CMV gBタンパク質は、野生型CMV gBタンパク質と比較して多くの中和抗体を誘導することができる。
【0028】
「ボディ領域認識抗体の誘導能」又は「ボディ領域認識抗体の誘導活性」とは、ボディ領域に存在するエピトープを認識する抗体の産生を誘導する能力又は活性をいう。「中和抗体誘導能」又は「中和抗体誘導活性」とは、抗原タンパク質に対する中和抗体を誘導できる能力をいい、抗原タンパク質を被検動物に接種することで得られる免疫血清中の中和抗体価(neutralizing antibody titer)で評価され得る。「中和抗体」とは、ウイルス粒子の感染性を失わせることができる抗体をいい、例えば被検ウイルスのプラーク数を50%減少させるのに必要な抗体の濃度(NT50)にてその抗体の中和活性の高さを評価することができる。
【0029】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ヘッド領域に糖鎖導入(糖鎖修飾)をする改変を加えることでgBタンパク質のボディ領域を認識する抗体の誘導能を向上させてもよい。さらに、ヘッド領域への糖鎖修飾として、2か所に糖鎖修飾を行ってもよい。より好ましくは、ヘッド領域の3か所に糖鎖修飾を行ってもよい。さらに好ましくは、ヘッド領域の4か所に糖鎖修飾を行ってもよいし、5か所以上に糖鎖修飾を行ってもよい。
【0030】
改変CMV gBタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の位置77、544、588、及び609の相当位置のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも2か所、又は少なくとも3箇所に糖鎖修飾を加える改変を行ってもよい。配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、及び588の相当位置のアミノ酸残基に糖鎖導入修飾を加える改変、或いは、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77、544、588、及び609の相当位置のアミノ酸残基への糖鎖導入修飾を加える改変であることが好ましい。ここで、アミノ酸残基に糖鎖導入修飾を加えることは、糖鎖を導入する目的部位のアミノ酸残基を、糖鎖を導入できるように適切な他のアミノ酸残基へ変異させることを含む。
【0031】
糖鎖修飾方法は、通常の方法であればよく、特に限定されないが、たとえば、N型糖鎖を導入する場合、野生型gBタンパク質のcDNAをテンプレートとし、N型糖鎖を導入する目的部位の3つの連続したアミノ酸配列が、N-X-S/T(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸)となるように、プライマーを設計し、PCRによって変異を導入する。糖鎖導入のための変異は、たとえば、配列番号1に記載のアミノ酸配列における以下の変異が挙げられる:(D77N、I79T)、(E544N、P546T)、(L588N、P589G)、及び(K609N、R610T、M611T)。目的の改変gBタンパク質の核酸配列、さらに必要あれば6×Hisなどのタグを連結した核酸配列を適切なベクターにクローニングし、発現させることによって改変CMV gBタンパク質を得ることができる。そして、gB改変体の目的部位のアスパラギンに通常の方法によってN型糖鎖を付加する。
【0032】
糖鎖導入は例えば、下記によって行われることが好ましい。これらの位置における糖鎖導入によって、ヘッド領域におけるエピトープが改変され(脱エピトープされ)、ボディ領域におけるエピトープを目立たせた改変CMV gBタンパク質を得ることができる。このような改変CMV gBタンパク質は、野生型CMV gBに比べて、中和活性の高い中和抗体をより多く誘導できると考えられる。
・配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置77の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置79の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換、並びに/或いは
・配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置544の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置546の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換、並びに/或いは
・配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置588の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換及び位置589の相当位置のアミノ酸残基のグリシン残基への置換、並びに/或いは
・配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置609の相当位置のアミノ酸残基のアスパラギン残基への置換、位置610の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換及び位置611の相当位置のアミノ酸残基のトレオニン残基への置換。
【0033】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ヘッド領域の少なくとも一部を欠損させる改変を加えることでgBタンパク質のボディ領域を認識する抗体の誘導能を向上させてもよい。ヘッド領域の全領域を欠損させてもよい。ヘッド領域の少なくとも一部の欠損によって、ヘッド領域におけるエピトープが脱エピトープされ、ボディ領域におけるエピトープが目立たせた改変CMV gBタンパク質を得ることができる。このような改変CMV gBタンパク質は、野生型CMV gBに比べて、中和活性の高い中和抗体をより多く誘導できると考えられる。
【0034】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ボディ領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における132番目のイソロイシン残基(I132)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、132番目のイソロイシンのヒスチジンへの置換が挙げられる。
【0035】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ボディ領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における133番目のチロシン残基(Y133)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、133番目のチロシンのアルギニンへの置換が挙げられる。
【0036】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ボディ領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における216番目のトリプトファン残基(W216)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、216番目のトリプトファンのアラニンへの置換が挙げられる。
【0037】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ヘッド領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における432番目のアルギニン残基(R432)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、432番目のアルギニンのトレオニンへの置換が挙げられる。
【0038】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ヘッド領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における434番目のアルギニン残基(R434)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、434番目のアルギニンのグルタミンへの置換が挙げられる。
【0039】
改変CMV gBタンパク質の一例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるI132、Y133、W216、R432、及びR434に相当するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、ヘッド領域におけるR432、及びR434に相当する2箇所のアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。さらに好ましくは、I132、Y133、W216、R432、及びR434の5か所に相当するアミノ酸残基すべての置換を含んでいてもよい。ここで、アミノ酸残基の置換は、他の任意のアミノ酸残基への置換であってよく、該置換によって得られた改変CMV gBタンパク質は、野生型CMV gBに比べて、中和活性の高い中和抗体をより多く誘導できると考えられる。
【0040】
改変CMV gBタンパク質の一例として、ボディ領域における改変として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における215番目のトレオニン残基(T215)に相当するアミノ酸残基の置換を含んでいてもよい。好ましくは、215番目のトレオニンのグルタミン酸への置換が挙げられる。T215に加えて、I132、Y133、W216、R432、及びR434に相当するアミノ酸残基の5か所の置換をさらに含んでいてもよい。
【0041】
改変CMV gBタンパク質の一例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置131から133に相当する位置(相当位置)にあるアミノ酸Y-I-Yによって定義される融合ループ1(FL1)ドメイン、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置216から218に相当する位置にあるアミノ酸W-L-Yによって定義される融合ループ2(FL2)ドメインのアミノ酸残基の改変を含んでいてもよい。
【0042】
ここでアミノ酸残基への改変とは、アミノ酸残基の欠損、置換、若しくは付加、又は糖鎖導入であってもよい。また、FL1のアミノ酸残基を改変し、FL2のアミノ酸残基を改変しなくてもよい。また、FL2のアミノ酸残基を改変し、FL1のアミノ酸残基を改変しなくてもよい。好ましくは、FL1とFL2両方のアミノ酸残基を改変することが挙げられる。
【0043】
FL1とFL2のアミノ酸残基の改変の一例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置131から133に相当するアミノ酸残基を全て欠損させてもよい。また、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置216から218に相当するアミノ酸残基を全て欠損させてもよい。さらに好ましくは、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置128から138に相当するアミノ酸残基を欠損させてもよい。
【0044】
改変CMV gBタンパク質の一例として、FL1を欠損させた改変CMV gBタンパク質は、さらに、配列番号1に記載のアミノ酸配列における欠損されたアミノ酸残基の位置にリンカーを挿入してもよい。好ましくは、配列番号1に記載のアミノ酸配列における位置128から138を欠損させて、その欠損された位置に、すなわち、欠損させたアミノ酸残基の前後のアミノ酸残基の間にリンカーを挿入してもよい。さらに好ましくはリンカーとしてグリシンリンカーを挿入してもよい。
【0045】
本発明の改変CMV gBタンパク質は、遺伝子工学の手法によって作製することができる。作製方法は特に限定されないが、たとえば、野生型gBタンパク質のcDNAをテンプレートとし、目的の変異を導入するためのプライマーを設計して、PCRによって変異が導入された核酸を得て、発現プロモータと機能的に連結し、場合によってタグも連結し、適切な発現ベクターに導入し、発現させることによって得ることができる。また、糖鎖導入による改変体の場合は、上述のとおりに得ることができる。
【0046】
作製された改変CMV gBタンパク質は、必要に応じて精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーカラムなどによる精製が挙げられる。
【0047】
本発明のCMVワクチンは、本発明の改変CMV gBタンパク質を含む。
【0048】
本実施形態のCMVワクチンの剤形は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態であってもよい。
【0049】
本実施形態のCMVワクチンは、医薬として許容されうる担体を含んでいてもよい。上記担体としては、ワクチン製造に通常用いられる担体を制限なく使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液及びそれらの組み合わせが挙げられる。ワクチンは、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、不活化剤(例えば、ホルマリン)などが、更に適宜配合されてもよい。
【0050】
本実施形態のCMVワクチンの免疫原性をさらに高めるために、アジュバントを更に含むことも可能である。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムアジュバント又はスクアレンを含む水中油型乳濁アジュバント(AS03、MF59など)、CpG及び3-O-脱アシル化-4’-モノホスホリル lipid A(MPL)などのToll様受容体のリガンド、サポニン系アジュバント、ポリγ-グルタミン酸などのポリマー系アジュバント、キトサン及びイヌリンなどの多糖類が挙げられる。
【0051】
本実施形態のCMVワクチンは、本発明の改変CMV gBタンパク質と、必要に応じて、担体、アジュバントなどとを混合することにより得ることができる。アジュバントは、用時に混合するものであってもよい。
【0052】
本実施形態のCMVワクチンの投与経路は、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与であってもよい。
【0053】
本実施形態のCMVワクチンの投与方法は、例えば、シリンジ、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、スプレーによって投与する方法であってもよい。
【実施例0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1 CMV gBタンパク質及びその改変体の調製
AD169株に由来するCMV gBのエクトドメイン(ectodomain)(配列番号1における位置1-682のアミノ酸残基、本明細書において場合によって「gB1-682」という))を国際公開第03/004647号に開示されているpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。gBのC末端にはHis tag、Strep tagII又はFLAG tagが付加されるようにデザインした。これをベースに表1に示す改変体と表2に示す改変体を作製した。
【0056】
【0057】
表1に示す「gB1-682-fm」は、gB1-682においてR434A及びR435Aのアミノ酸残基の置換が行われた改変体であり、「gB1-682-fm3Mv9」は、非特許文献8を参考にgB1-682においてI132H、Y133R、T215E、W216A、R432T、及びR434Qのアミノ酸残基の置換が行われた改変体である。
【0058】
【0059】
表2に示す改変体(1)「gB1-682-fm3M」は、gB1-682においてI132H、Y133R、W216A、R432T、R434Qのアミノ酸残基の置換が行われた改変体であり、改変体(2)「gB-D1」はgB1-682における位置1-108及び320-682欠損させ、かつ、I132A、Y133A及びW216Aのアミノ酸残基の置換が行われた改変体であり、改変体(3)「gB-D2」はgB1-682における位置1-87及び109-682を欠損させた欠損体とgB1-682における位置1-319及び415-682を欠損させた欠損体とをIAGSGの5アミノ酸残基でつないだ改変体であり、改変体(4)「gB-Δd1」はgB1-682における位置109-682を欠損させた欠損体とgB1-682における位置1-319及び650-682を欠損させた欠損体とをIAGSGの5アミノ酸残基でつないだ改変体である。
【0060】
各改変体の発現には、Freestyle293又はExpi293発現システム(ライフテクノロジー社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。His tagを付加したgB改変体を含む培養上清は、Ni-NTA Agarose(QIAGEN社 Cat.30230)を使った精製を行い、精製gB改変体を取得した。Strep TagIIを付加したgB改変体を含む培養上清は、培地中に含まれるBiotinを除くためにUF膜(Ultracel YM-3/ミリポア社 Cat.4303又はCentriprep-10K/ミリポア社 Cat.4305)でPBSへのbuffer置換及び濃縮を行った。濃縮した培養上清は、StrepTactinカラムを使った精製を行い、精製gB改変体を取得した。FLAG tagを付加したgB改変体を含む培養上清は、Anti-FLAG M2 Agarose Affinity gel(SIGMA-ALDRICH社 Cat.A2220)を使った精製を行い、精製gB改変体を取得した。
【0061】
実施例2 抗gB抗体の作製
ヒトB細胞(例えばリンパ節や脾臓)由来のmRNAからヒトVH及びVLのcDNAを使用して調製された1011種以上の多様なscFv分子を含むファージディスプレイライブラリ(XOMA020)をスクリーニングすることによって、改変体に対する抗体を単離した。スクリーニング方法としては、抗原固相化パンニングの標準的な手法を用いた(Antibody Phage Display Methods and Protocols, Edited by Philippa M.O’Brien and Robert Aitken)。
【0062】
具体的には、96ウェルプレートにgB抗原を固相化し、scFv分子を含むファージディスプレイライブラリを反応させ、洗浄後、アルカリ溶液で溶出を行った。大腸菌TG1株とM13KO7ヘルパーファージを用いてscFv分子を含むファージをレスキューした。このサイクルを2~3回繰り返し、gB抗原特異的なファージクローンを濃縮し単離した。
【0063】
パンニングの際にサブトラクションを行う場合には、以下の手法で行った。96ウェルプレートにgB抗原を固相化し、scFv分子を含むファージディスプレイライブラリを反応させる際に、下記の1-3-13、6-2-8、8-2-2のscFv-hFcを共存させた。洗浄工程以降は上記のパンニングと同様の方法にて行った。
【0064】
スクリーニングの結果、65種のクローンを取得した。取得したクローン名を「J9」、「J19」、「J25」、「J47」、「J58」、「J61」、「J82」、「J92」、「K12」、「K17」、「K29」、「K42」、「K61」、「K74」、「K90」、「K91」、「M33」、「N66」、「N79」、「N80」、「N93」、「P12」、「P30」、「P40」、「P86」、「Q5」、「Q12」、「Q25」、「Q38」、「Q41」、「Q44」、「Q62」、「Q92」、「R18」、「R23」、「R40」、「R47」、「R57」、「R87」、「S68」、「S80」、「1-3-13」、「2-3-4」、「2-3-42」、「2-3-77」、「3-3-15」、「3-3-88」、「6-2-5」、「6-2-8」、「6-2-18」、「6-2-98」、「6-2-146」、「6-3-106」、「7-2-25」、「7-2-36」、「7-2-58」、「7-2-64」、「7-2-66」、「7-3-38」、「7-3-45」、「8-2-2」、「8-2-12」、「8-2-16」、「8-2-72」及び「8-2-82」とした。
【0065】
<scFv-Fcの作製方法>
単離したscFv遺伝子の可変領域をヒトIgG1に由来するFc遺伝子(CH2-CH3)と連結し、国際公開第2015/115331号を参考に作製したpCAGGS1-dhfr-neoベクターにクローニングし、scFv-hFc発現プラスミドを構築した。発現には、FreeStyle293又はExpi293発現システム(ライフテクノロジー社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。培養上清をAb-Rapid PuRe 10(ProteNova社 Cat.P-012-10)又はAb-Rapid PuRe Ex(ProteNova社 Cat.P-015-10)を用いて精製し、scFv-hFcを得た。
【0066】
<ヒトIgGの作製方法>
次に、単離したscFv遺伝子のVH領域をヒトIgG1に由来するH鎖定常領域遺伝子(CH1-CH2-CH3)と連結し、国際公開第2015/115331号を参考に作製したpKMA010-hCg1ベクターにクローニングし、H鎖発現プラスミドを構築した。また、VL領域をヒトCL遺伝子と連結し、国際公開第2015/115331号を参考に作製したpKMA009-hCLベクターにクローニングし、L鎖発現プラスミドを構築した。発現には、FreeStyle293又はExpi293発現システム(ライフテクロノジー社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。培養上清をHi-Trap ProteinA HP Column(GEヘルスケア社 Cat.17040303)を用いて精製し、ヒトIgGを得た。
【0067】
<scFvファージの作製方法>
単離したscFv遺伝子がクローニングされているファージミドベクターを有する大腸菌TG1株を2×YTCG培地(37℃)で培養し、M13K07ヘルパーファージをmoi=20で感染させた後、2×YTCK培地(25℃)、オーバーナイトでファージの発現を行った。得られたscFvファージは20%-PEG-2.5M NaClによる濃縮を行った。
【0068】
実施例3 gB抗体の反応性解析とグループ化
<scFvファージの各改変体への結合活性によるグループ化>
実施例2で取得したscFvファージの結合活性を実施例1の表2に示した改変体を用いてELISAによって評価した。各改変体をPBS(SIGMA)で1μg/mLに希釈し、MaxiScorp plate(Nunc)に100μL入れ、4℃でオーバーナイト又は室温で1~2時間インキュベートすることによって、各改変体を固相化した。
【0069】
固相化後、プレートをPBSで洗浄し、取得したscFvファージをプレートのウェルに100μL加え、室温で1時間インキュベートした。その後PBS-0.05%Tween20(PBST)で洗浄後、検出抗体Anti-M13/HRP(GEヘルスケア社 Cat.27-9421-01)をプレートのウェルに100μL加え、室温で1時間インキュベートした。その後、PBSTで洗浄し、TMB(SIGMA社 Cat.T-4444)をプレートのウェルに100μL加えることによって発色させた。30分後、1N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。
【0070】
取得した65クローンの抗体と、実施例1で作製した改変体との反応性の差異により各抗体の認識領域を決定した。改変体として、実施例1の表2に示す改変体(1)gB1-682-fm3M、改変体(2)gB-D1、改変体(3)gB-D2、改変体(4)gB-Δd1を使用した。
【0071】
各改変体との反応性により、取得した65クローン抗体を改変体(2)又は(3)との反応性を有するもの、及び、改変体(1)との反応性を有し改変体(4)との反応性を有さないものをボディ領域認識抗体、改変体(1)との反応性を有し、上記ボディ領域認識抗体でないものをヘッド領域認識抗体として分類した。
【0072】
その結果、65クローンをボディ領域認識抗体21クローンと、ヘッド領域認識抗体44クローンとに分類できた。この結果から、取得した65クローンの抗体のエピトープは、ヘッド領域に集中していたことが分かった。
【0073】
<scFvファージとscFv-Fcの競合ELISAによるグループ化>
実施例2で取得したscFvファージとscFv-Fc間の競合ELISAによって65クローンの抗体の分類を行った。表1に示す改変体gB1-682 fm3Mv9をPBS(SIGMA)で1μg/mLに希釈し、MaxiSorp Plate(Nunc)に100μL入れ、4℃でオーバーナイトでインキュベートすることによって改変体を固相化した。固相化後、プレートをPBSで洗浄し、取得したscFv-Fcをプレートのウェルに50μL加え、室温で1時間インキュベートした。その後、PBSTで洗浄し、検出抗体anti-M13/HRP(GEヘルスケア社 Cat/27-9421-01)をプレートのウェルに100μL加え、室温で1時間インキュベートした。その後、PBSTで洗浄後、TMB(SIGMA Cat.T-4444)をプレートのウェルに100μL加えることによって発色させた。30分後、1N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。
【0074】
各抗体の反応性の傾向から、表3に示すように、ボディ領域は7グループ、ヘッド領域は13グループに細分化された。
【表3】
【0075】
実施例4 各抗体の中和試験
[細胞とウイルスの調製]
<線維芽細胞系の細胞とウイルスの調製>
線維芽細胞系のウイルスの培養、中和試験、及び中和抗体誘導能解析にはATCCから購入したMRC-5細胞(CCL.171)を使用した。細胞培養用培地はMEM培地に2mM L-glutamine、1mM sodium pyruvate、及び、非必須アミノ酸(Glycine、L-Alanine、L-Asparagine、L-Aspartic acid、L-Glutamic Acid、L-Proline及びL-Serine各10mM)を添加して調製した。拡張、維持、及び解析プレート作製時は10%FBS含有培地を使用し、中和抗体誘導能評価時は2%FBS含有培地を使用し、いずれも37℃、5%のCO2濃度の条件下で培養した。
【0076】
線維芽細胞系の中和試験、及び中和抗体誘導能解析に用いるウイルスは、ATCCから購入した、Human herpesvirus 5(CMV) AD169株(VR-538)を使用した。フルシートのMRC-5細胞にmoi=0.1~1でウイルスを接種後、4~11日間2%FBS含有培地で培養し、3回凍結融解後、室温で2150gの遠心を10分間行い、その上清を線維芽細胞を用いた中和抗体価解析用のウイルスバンクとした。
【0077】
<上皮細胞系の細胞とウイルスの調製>
上皮細胞系のウイルスの培養、中和試験、及び中和抗体誘導能解析には、ATCCから購入したAPRE-19細胞(CRL2302)を使用した。ヒト上皮細胞ARPE-19は、10%FBS含有F12/DMEM培地(Fisher Scientific)を用いて1:5で継代培養を行った。
【0078】
上皮細胞系の中和試験、及び中和抗体誘導能解析に用いるウイルスは、AD169株(VR-538)をAPRE-19細胞に感染させ、感染細胞を非感染細胞と1:4から1:10の比で長期継代することにより、APRE-19細胞で増殖可能なAD169rev株を樹立した。50%CPEを呈したCMV AD169rev株感染細胞を0.1moiになるように10%FBS含有培地にて調整し、それを約80%フルシートのARPE-19細胞に接種した。接種後1週間培養し、培養液を回収し、室温で1800gの遠心を10分間行い、その上清を上皮細胞での中和抗体価解析用のウイルスバンク(5-10×104PFU/mL)とした。なお、線維芽細胞で継代培養されているAD169株は、UL131Aにフレームシフト変異がありペンタマーが形成されないことが報告されているが、AD169rev株では、この変異が野生型に戻っていることを塩基配列解析で確認した。
【0079】
[中和試験]
<各抗体の線維芽細胞系における中和試験>
線維芽細胞を用いた中和抗体価解析は、フォーカス数減少活性(フォーカスリダクション活性)を用いて行った。解析には、CellBIND加工されたblack wall 96 well plate(Corning 3340)又はsell carrier-96 Ultra Collagen coated plate(PerkinElmer 6055700)に2×104細胞/ウェルで播種したMRC-5細胞を一晩培養したプレートを使用した。
【0080】
各モノクローナル抗体を段階希釈して所定の濃度になるように調整し約100~1000PFUのCMV AD169株と混合後、37℃で1時間反応させた。反応液を解析プレートの細胞に30μL/ウェルで接種後、室温で400gの遠心を30分行いウイルスを細胞に吸着させた。反応液を除去し、FBS不含培地で1回洗浄後、2%FBS含有培地で16~20時間培養した。培養後、細胞を50%アセトン/PBSによる不活化及び固定を室温で20分間行った。その後、室温で10分間0.1%のTriton-X100で処理し、洗浄後抗CMV IE1-IE2モノクローナル抗体(CH160:Abcam ab53495、Santacruz sc-69748)1μg/mLを37℃で1時間反応させた。洗浄後にGoat Anti-Rabbit IgG H&L (Alexa Fluor(登録商標) 488)(Abcam ab150077)1μg/mLを37℃で1時間反応させ、さらに洗浄後-Cellstain(登録商標)-Hoechst 33342 solution(dojindo 346-07951)1μg/mLを室温で10分間反応させ洗浄したプレートに100μL/ウェルで0.5%BSA含有PBSを添加して、ImageXpress micro(Molecular Devices)で各ウェルの画像を取り込み、解析ソフトMetaXpress (Molecular Devices)を使用してCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数及び総細胞数をカウントし、総細胞数におけるCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を算出した。ウイルスのみを添加した場合のCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を基準に、各免疫血清による細胞数の割合の抑制率から、中和活性を判定した。
【0081】
<各gB抗体の上皮細胞系における中和試験>
上皮細胞を用いた各抗体の中和抗体価解析は、フォーカス数減少活性(フォーカスリダクション活性)を用いて行った。解析には、24ウェルプレート(Corning 3526)に7×104細胞/ウェルで播種したARPE-19細胞を一晩培養したプレートを使用した。被験物質を段階希釈して所定の濃度になるように調整し、約200PFUのAD169rev株と混合し、全量25μLを37℃で30分間反応させた。反応液20μLを解析プレートの細胞に接種後、37℃で2時間静置しウイルスを細胞に吸着させた。反応液を除去し、10%FBS含有培地で5日間培養した。培養後、細胞を3.7%フォルマリン/PBSによる不活化及び固定を室温で5分間行った。室温で5分ごとに3回PBSで洗浄後、0.5%Triton-X100/PBSで10分間処理し、PBSで洗浄後、抗CMV IE1/IE2モノクローナル抗体(MAb810、 Millipore)2μg/mLを37℃で1時間反応させた。洗浄後にペルオキシダーゼ標識Anti-mouse IgG(N-Histofine Simple Stain MAXPO、 Nichirei)100μL/ウェル37℃で1時間反応させ、最終的にDAB基質(Roche)を用いて発色反応を行い、水洗、乾燥後、実体顕微鏡下で免疫染色されたフォーカス数をカウントした。被験物質の代わりに培地のみを添加した場合のフォーカス数を基準に被験物質によるフォーカス数の抑制率から、中和活性を判定した。判定した結果を表4(ボディ領域認識抗体の中和活性)及び表5(ヘッド領域認識抗体の中和活性)に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
MRC-5(線維芽細胞)感染系、ARPE(上皮細胞)感染系におけるウイルス中和活性は、1μg/mL、10μg/mL、及び100μg/mLの3点の濃度で解析し、50%プラーク減少濃度(IC50)でみたウイルス中和活性強度が1μg/mL以下であった強い中和抗体を「+++」、1~10μg/mLであった中程度の中和抗体を「++」、10~100μg/mLであった弱い中和抗体を「+」、100μg/mLで50%未満のプラーク減少率であるがわずかに中和傾向を示したものを「±」、全く中和活性を示さない非中和抗体を「-」、として評価した。なお、「NT」は試験しなかったことを意味する。
【0085】
MRC-5感染系においては、ボディ領域認識抗体21クローンのうち50%プラーク数減少濃度(IC50)でみたウイルス中和活性強度が1μg/mL以下であった強い中和抗体(+++)が14クローン、1~10μg/mLであった中程度の中和抗体(++)が1クローン、10~100μg/mLであった弱い中和抗体(+)が3クローン、100μg/mLでは全く中和活性を示さない非中和抗体(-)が3クローンであった。
【0086】
一方、ヘッド領域認識抗体44クローンのうち強い中和抗体(+++)は無く、中程度の中和抗体(++)が2クローン、弱い中和抗体(+)が4クローン、また100μg/mLで50%未満のプラーク数減少率ではあるが僅かに中和傾向を示したもの(±)が6クローン、全く中和活性を示さない非中和抗体(-)が32クローンであった。
【0087】
ARPE感染系において検討した28クローンのウイルス中和活性(50%フォーカス数減少濃度)の結果に関しては、概ねMRC-5感染系において中和活性を示すクローンはARPE感染系でも中和活性を示す傾向がみられたが、一部、どちらか一方の系のみで中和活性を示すもの、両系で中和活性を示すものの活性強度が大きく異なるものなどが存在していた。
【0088】
以上から、ヘッド領域を認識する抗体の大半は非中和抗体であり、ボディ領域であるドメインI及びIIを認識する抗体の多くは強い中和抗体であることが確認された。
【0089】
実施例5 改変体と各gB抗体との反応性解析
<改変体の作製>
本発明者らは、中和抗体を誘導する中和エピトープを有益なエピトープ、非中和抗体を誘導する非中和エピトープを有害・無益なエピトープと考えた。そこで、ヘッド領域に存在する非中和エピトープを脱エピトープ化するため、大きく2つの方策を立て、改変gB抗原をデザインした。
【0090】
1つ目の方策は、N型糖鎖付加によるgBの改変である。N型糖鎖はO型糖鎖と異なり、コンセンサス配列であるNXT又はNXSの配列に付与される。糖ペプチドに対しては一般的に抗体ができにくく、糖鎖の嵩高さによって、その周辺にも抗体ができにくくなる(The Journal of Immunology, 1997,159 279-289.)。CMV gBのヘッド領域は、レセプターとの結合に重要な領域と考えられているが、ウイルス膜表面から最も遠い位置にあり、表面に露呈しているため抗体が結合しやすい。実際、ヒト血清中には、ヘッド領域の一部であるドメインIVを認識する抗体が多く含まれていることが報告されている。(非特許文献7)そこでヘッド領域の中でドメインIVとドメインIIIの非中和エピトープにN型糖鎖を導入することとした。
【0091】
一方、ボディ領域の一部であるドメインIは、gBの根元に位置しており、宿主細胞との融合に重要な領域であるが、ectodomainのみを発現させた場合には、本来ウイルス膜表面と接触していた領域が表面に露呈する可能性がある。それを回避するために、その露呈領域(Fusion Loop部分)を欠失する改変を行った。
【0092】
二つ目の方策は、ヘッド領域の一部の欠失である。この方策の改変体を作製した。作製した改変体とその発現量を表6に示す。作製方法としては実施例1の改変体の作製方法と同様に、CMVのAD169株に由来するgBのectodomain(1-682aa)を国際公開第03/004647号に開示されているpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。gBのC末端にはHis tagが付加されるようにデザインした。
【0093】
発現には、FreeStyle293又はExpi293発現システム(ライフテクノロジー社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。改変CMV gBを含む培養上清は、Ni-NTA Agarose(QIAGEN社Cat.30230)を使った精製を行い、精製改変CMV gBを取得した。培養上清1mLあたりのタンパク収量を発現量として表6にまとめた。精製改変CMV gBの結合活性はELISAによって評価した。
【0094】
作製した改変CMV gBのうち、VC5、VC6、VC11、VC15の4種類の改変体においては変異導入していない改変体と比較し、発現量が低下し、分解物又は凝集物が増加していた。これは糖鎖を一つ導入することにより本来のgB立体構造(3量体)を保てなくなり発現量が減少し、さらに発現・調製時にプロテアーゼによる分解を受けたためだと考えられる。その為、VC5、VC6、VC11、VC15についてはELISAの評価を行わなかった。
【0095】
【0096】
<改変体と抗体との競合ELISA>
各精製改変体をPBS(SIGMA)で1μg/mLに希釈し、MaxiSorp plate (Nunc)に50μL入れ、4℃でオーバーナイトインキュベートすることによって精製改変体を固相化した。固相化後、プレートをPBSで洗浄し、実施例4で評価した抗体をプレートのウェルに100μL加え室温でインキュベートした。1時間後、PBSTで洗浄し、検出抗体anti-human IgG Fc/HRP(ROCKLAND社 Cat.709-1317)をプレートのウェルに100μL加え、室温でインキュベートした。1時間後、PBSTで洗浄し、TMB(SIGMA社 Cat.T-4444)をプレートのウェルに100μL加えることによって発色させた。30分後、1N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。測定した結果を表7、及び表8に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
作製した改変体VC7、VC9、VC10、VC12、VC13、VC14、VC16の反応性解析を実施した。コントロールとして、gB1-682-fm3M v9を用いた。その結果、VC7は、K609N、R610T、M611Tの変異を導入することによりヘッド領域認識抗体であるK29、S80、J92、K74、1-3-13、R18、R47、J82との反応性がなくなり、同様にVC9はK543Nの変異を導入することによりJ47との反応性がなくなり、VC10はE544N、P546Tの変異を導入することにより、J47、J82、J61、K61、J58との反応性がなくなっていた。
【0100】
改変体VC11とVC12は、改変アミノ酸部位は同じである。しかし、糖鎖の付加による立体障害と構造のゆがみを考慮しVC11はG579N、H581Tの変異を導入し、VC12はG579N、H581Sの変異を導入したところ、VC11では発現量の低下と凝集物の増加が見られたが、VC12は3量体構造を保っており、J47、Q92、K17、J82、N66、N93の抗体との反応性がなくなっていた。
【0101】
改変体VC13とVC14は、改変アミノ酸部位は同じである。しかし、角度の付きやすいP589を自由度の高いGlyに変えることによる構造の維持を目的とし、VC13はL588N、P589Aの変異を導入し、VC14はL588N、P589Gの変異を導入した。その結果、発現量及び性状には殆ど差はなく、共にK17、J82、N66、J61、J58、N93の抗体との反応性がなくなっていた。
【0102】
改変体VC15とVC16は糖鎖付加部位による構造変化を考慮し近傍のアミノ酸に糖鎖を導入し比較した。VC15はV604N、Y606Tの変異を導入し、VC16はD605N、L607Tの変異を導入したところ、VC15では発現量の低下と凝集物の増加が見られた。VC16では3量体構造を保っており、K17、J82、N66抗体との反応性がなくなっていた。
【0103】
改変体VC22は、Q74Nの変異を導入することによりK29、S80抗体との反応性がなくなり、VC23はD77N、I79Tの変異を導入することによりJ9、K29、S80、J19との反応性がなくなっていた。
【0104】
改変体VC33は、VC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)を導入することにより、J47、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。これはVC10とVC14の一つずつ糖鎖を導入した場合にマスキングされる抗体と一致しており、糖鎖を複数導入しても構造を維持した上で、糖鎖によるエピトープのマスキングができていることを表している。
【0105】
改変体VC24は、VC7の変異(K609N、R610T、M611T)とVC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)を導入することにより、K29、S80、J92、K74、1-3-13、R18、R47、J47、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。
【0106】
改変体VC31は、VC7の変異(K609N、R610T、M611T)とVC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)とVC23の変異(D77N、I79T)を導入することにより、J9、K29、S80、J92、K74、1-3-13、R18、R47、J47、P40、Q92、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。VC31では、VC7、VC10、VC14、VC23の一つずつの糖鎖を導入した場合にマスキングされる抗体のうちJ19抗体の反応性低下の度合いが弱くなっていた。また、それぞれ単独では反応性が低下していなかったP40、Q92の反応性が低下しており、導入する糖鎖の数が増える事により、わずかな構造変化によるエピトープの露出や糖鎖の嵩高さによるさらなるエピトープの消失がおこっていると考えられる。
【0107】
改変体VC39は、Fusion Loop1、2を欠損させたgB1-682-fm3M Del21をベースに、VC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)を導入することにより、J47、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。これはVC10とVC14の一つずつ糖鎖を導入した場合と一致していた。また、gB1-682-fm3M v9をベースとしてVC10の変異とVC14の変異を2つ導入したVC31で反応性の低下した抗体とも一致していた。このことから、Fusion Loop部分を欠失させ、さらに糖鎖を複数導入しても、構造を維持したまま糖鎖によるエピトープのマスキングができていることがわかった。
【0108】
改変体VC40は、gB1-682-fm3M Del21をベースにVC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)とVC23の変異(D77N、I79T)を導入することにより、J9、K29、S80、J47、Q92、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。VC10、VC14、VC23の糖鎖を一つずつ導入したものと比較し、抗体との反応性はほぼ一致していたが、VC23の糖鎖単独では反応性が消失していたJ19との反応性がVC40では保っていた。また、VC10、VC14、VC23では反応性を保っていたQ92の反応性がVC40では消失していた。これもVC31と同様、導入する糖鎖の数が増えることにより、わずかな構造変化によるエピトープの露出や糖鎖の嵩高さによるさらなるエピトープの消失がおこっていると考えられる。
【0109】
改変体VC37は、gB1-682-fm3M Del21をベースにVC7の変異(K609N、R610T、M611T)とVC10の変異(E544N、P546T)とVC14の変異(L588N、P589G)とVC23の変異(D77N、I79T)を導入することによって、J9、K29、S80、J92、K74、1-3-13、R18、R47、J47、P40、Q92、K17、J82、N66、J61、K61、J58、N93抗体との反応性がなくなっていた。これは、gB1-682-fm3M v9をベースとしてVC7、VC10、VC14、VC23の変異を導入したVC31で反応性の低下した抗体とも一致していた。
【0110】
改変体D1D2は、立体構造を加味しながらドメインIVを含むヘッド領域の一部を除き、gB97から468とgB631から682をGGGSGSGGGリンカー(配列番号2)で結合させ、さらにFusion Loop部分のY131A、 I132A、 Y133A、 W216Aのアミノ酸改変とFurin切断サイトのR432T、R434Qのアミノ酸改変を導入して作出した。ボディ領域であるドメインI、ドメインIIを結合するだけでなく3量体の中心となるドメインVを残し、さらにFusion Loop部分のアミノ酸を改変することにより、3量体構造を維持しつつgB1-682と同等の発現量を保っていた。また、既取得抗体との反応性解析ELISAを実施したところ、ボディ領域認識抗体8種類との反応性は維持しつつ、ヘッド領域認識抗体との反応性は消失していた。
【0111】
改変体(D1D2)×2は、二つのD1D2をGGGGSGGGGSリンカー(配列番号3)で連結して作出し、(D1’D2)×2は、(D1D2)×2のFusion Loop1、2を欠失させて作出した。(D1D2)×2と(D1’D2)×2を既取得抗体との反応性解析ELISAを実施したところ、ボディ領域認識抗体8種類との反応性は維持しつつ、ヘッド領域認識抗体との反応性は完全に消失していた。
【0112】
実施例6 改変体抗原のモルモット免疫原性試験及び免疫リフォーカシングの解析
実施例5で作製した改変体VC31、VC33、VC37、VC39、VC40、D1D2及び(D1D2)×2のヘッド領域とボディ領域の抗体誘導能の評価をELISAにより行った。
【0113】
<免疫血清の作製>
実施例5で作製した改変体gB1-682-fm3M v9、VC31、VC33、VC37、VC39、VC40、D1D2及び(D1D2)×2を抗原としてモルモットに免疫した。対照としてgB1-682-fm3M v9を野生型gB抗原の代替抗原とした。各抗原は0.2、1、5μg/匹になるように、生理食塩水(大塚製薬)で調整し、アジュバントとして10v/v%のAlum(Invivogen)及び50μg/匹のCpG ODN1826(Invivogen)を使用した。調整した抗原液を2週間間隔で3回、Hartleyモルモット(メス 3匹/群)に筋肉内接種(100μL/後肢両足)にし、最終免疫の2週間後にイソフルラン吸入麻酔下での心臓採血により全採血した。得られた血液は凝固促進剤入り分離管で血清分離した。本血清を用いて、gB1-682-fm3M v9に対する結合抗体価誘導活性(anti-gB ELISA)を評価した。
【0114】
<ELISAによる結合抗体価誘導活性測定>
gB1-682-fm3M v9又はD1D2抗原をPBS(SIGMA)で1μg/mLに希釈し、MaxiSorp plate (Nunc)に50μL入れ、4℃でオーバーナイトインキュベートすることによって抗原を固相化した。固相化後、プレートをPBSで洗浄し、取得したgB抗原免疫血清をPBSで段階希釈し、プレートのウェルに100μL加え室温でインキュベートした。1時間後、PBSTで洗浄し、検出抗体anti-human IgG Fc/HRP(ROCKLAND社 Cat.709-1317)をプレートのウェルに100μL加え、室温でインキュベートした。1時間後、PBSTで洗浄し、TMB(SIGMA社 Cat.T-4444)をプレートのウェルに100μL加えることによって発色させた。30分後、1N硫酸で反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。
【0115】
改変体抗原VC31、VC33、VC37、VC39、VC40、D1D2及び(D1D2)×2の免疫血清について、免疫リフォーカシングが誘導されているか否かをそれぞれgB1-682-fm3M v9及びドメインIVを欠損させたD1D2を固相化したELISAにより解析した。
【0116】
結果を
図1~7に示し、
図1~7における(a)はgB1-682-fm3M v9を固相化したELISAの結果を示し、(b)はD1D2を固相化したELISAの結果を示す。gB1-682-fm3M v9の免疫血清と比較して、VC31、VC33、VC37、VC39、VC40、D1D2及び(D1D2)×2の免疫血清は何れもgB1-682-fm3M v9に対する結合抗体活性は同等又はむしろ少ない値を示したのに対して、D1D2に対する結合抗体活性は上昇しており、ボディ領域に対する抗体ポピュレーション(抗体群比率)が上昇していることが確認された。
【0117】
本結果は、CMV gB抗原のヘッド領域の一部であるドメインIII又はドメインIVに対するN型糖鎖導入或いはドメインIVを含むヘッド領域の欠損変異により非中和エピトープ(有害・無益なエピトープ)の脱エピトープ化を図ることによって、重要領域であるボディ領域上に残存している中和エピトープ(有益なエピトープ)に対する免疫応答をより効率的・効果的に誘導することができた結果であると考えられる。言い換えれば、CMV gB抗原上のデコイ領域に対する偏った免疫応答(免疫偏向)を、免疫リフォーカシング戦略によって理想的な形に矯正(免疫矯正)することができたものと考えられる。
【0118】
実施例7 改変体抗原のモルモット抗血清を用いた中和試験
実施例6で作製したVC31、VC37、VC40及び(D1D2)×2の免疫血清に加え、(D1’D2)×2の免疫血清を使用して、線維芽細胞系及び上皮細胞系における中和抗体誘導活性(プラーク数減少率)を評価した。
【0119】
<CMV AD169株/線維芽細胞中和試験>
線維芽細胞を用いた中和抗体価解析は、フォーカス数減少活性(フォーカスリダクション活性)を用いて行った。解析には、CellBIND加工されたblack wall 96 well plate(Corning 3340)又はsell carrier-96 Ultra Collagen coated plate(PerkinElmer 6055700)に2×104細胞/ウェルで播種したMRC-5細胞を一晩培養したプレートを使用した。各免疫血清を段階希釈して所定の濃度になるように調整し約100~1000PFUのCMV AD169株と混合後、37℃で1時間反応させた。反応液を解析プレートの細胞に30μL/ウェルで接種後、室温で400×gの遠心を30分行いウイルスを細胞に吸着させた。反応液を除去し、FBS不含培地で1回洗浄後、2%FBS含有培地で16~20時間培養した。培養後、細胞を50%アセトン/PBSによる不活化及び固定を室温で20分間行った。その後、室温で10分間0.1%のTriton-X100で処理し、洗浄後抗CMV IE1-IE2モノクローナル抗体(CH160:Abcam ab53495、Santacruz sc-69748)1μg/mLを37℃で1時間反応させた。洗浄後にGoat Anti-Rabbit IgG H&L (Alexa Fluor(登録商標) 488)(Abcam ab150077)1μg/mLを37℃で1時間反応させ、さらに洗浄後-Cellstain(登録商標)- Hoechst 33342solution(dojindo 346-07951)1μg/mLを室温で10分間反応させ洗浄したプレートに100μL/ウェルで0.5%BSA含有PBSを添加して、ImageXpress micro(Molecular Devices)で各ウェルの画像を取り込み、解析ソフトMetaXpress (Molecular Devices)を使用してCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数及び総細胞数をカウントし、総細胞数におけるCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を算出した。ウイルスのみを添加した場合のCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を基準に、各免疫血清による細胞数の割合の抑制率(阻害率)から、中和活性を判定した。
【0120】
線維芽細胞系中和試験の結果を
図8及び9に示す。
図8及び9のグラフ中にはn=3の平均値をプロットし±SEエラーバーを付記している。VC31、VC37、VC40、(D1D2)×2及び(D1’D2)×2の免疫血清は、gB1-682-fm3M v9より高い中和抗体活性を誘導していることが確認された。
【0121】
<CMV AD169rev/上皮細胞中和試験>
上皮細胞を用いた中和抗体価解析は、フォーカス数減少活性(フォーカスリダクション活性)を用いて行った。解析には、cell carrier-96 Ultra Collagen coated plate(PerkinElmer 6055700)に2×104細胞/ウェルで播種したAPRE-19細胞を一晩培養したプレートを使用した。ウイルスは、実施例4で調製したAD169rev株を用いた。各免疫血清を段階希釈して所定の濃度になるように調整し約1000PFUのCMV AD169rev株と混合後、37℃で1時間反応させた。反応液を解析プレートの細胞に30μL/ウェルで接種後、室温で400×gの遠心を30分行いウイルスを細胞に吸着させた。反応液を除去し、FBS不含培地で1回洗浄後、2%FBS含有培地で16~20時間培養した。培養後、細胞を50%アセトン/PBSによる不活化及び固定を室温で20分間行った。その後、室温で10分間0.1%Triton-X100で処理し、洗浄後抗CMV IE1-IE2モノクローナル抗体(CH160:Santacruz sc-69748)1μg/mLを37℃で1時間反応させた。洗浄後にGoat Anti-Rabbit IgG H&L(Alexa Fluor(登録商標) 488)(Abcam ab150077)1μg/mLを37℃で1時間反応させ、さらに洗浄後-Cellstain(登録商標)- Hoechst 33342 solution(dojindo 346-07951)1μg/mLを室温で10分間反応させ洗浄したプレートに100μL/ウェルで0.5%BSA含有PBSを添加して、ImageXpress micro (Molecular Devices)で各ウェルの画像を取り込み、解析ソフトMetaXpress (Molecular Devices)を使用してCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数及び総細胞数をカウントし、総細胞数におけるCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を算出した。ウイルスのみを添加した場合のCMV IE1-IE2モノクローナル抗体反応細胞数の割合を基準に、被験物質による細胞数の割合の抑制率から、中和活性を判定した。
【0122】
上皮細胞系中和試験の結果を
図10及び11に示す。
図10及び11のグラフ中にはn=3の平均値をプロットし±SEエラーバーを付記している。VC31、VC37、VC40、(D1D2)×2及び(D1′D2)×2の免疫血清は、gB1-682-fm3M v9より高い中和抗体活性を誘導していることが確認された。
【0123】
以上の結果は、CMV gB抗原のヘッド領域であるドメインIIIまたはドメインIVに対するN型糖鎖導入或いはヘッド領域の一部であるドメインIVの欠損変異により非中和エピトープ(有害・無益なエピトープ)の脱エピトープ化を図ることによって、重要領域であるボディ領域上に残存している中和エピトープ(有益なエピトープ)に対する免疫応答をより効率的・効果的に誘導することができた結果であると考えられる。言い換えれば、CMV gB抗原に対する偏った免疫応答(免疫偏向)を、免疫リフォーカシング戦略によって理想的な形に矯正(免疫矯正)することができたものと言える。