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特開2024-97031検出試薬、検出方法、定量方法、及び処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097031
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】検出試薬、検出方法、定量方法、及び処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20240709BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240709BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070037
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2019228496の分割
【原出願日】2019-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
(72)【発明者】
【氏名】末永 光
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 健太郎
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シアン酸経路によりチオシアン酸イオンを分解するチオシアン酸デヒドロゲナーゼ、検出試薬、検出方法、定量方法、及び処理方法を提供する。
【解決手段】以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質であるチオシアン酸デヒドロゲナーゼ。(a)特定のアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(b)特定のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(c)特定のアミノ酸配列と配列同一性が98%以上のアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列の部分配列を含むポリヌクレオチドを有する検出試薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質であるチオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出可能なプライマー機能を有する組み合わせで、以下の(1)及び(3)のポリヌクレオチドからなるプライマーセットを備える検出試薬。
(1)配列番号11に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(3)配列番号12に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
【請求項2】
請求項1に記載の検出試薬を用いて、前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の検出試薬を用いて、前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を定量する定量方法。
【請求項4】
チオシアンを含有する被処理水と、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質であるチオシアン酸デヒドロゲナーゼを有する微生物とを含む混合相を形成させ、前記チオシアンを分解する処理工程を有する処理方法であって、
請求項1の記載の検出試薬を用いて前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出工程を有する、処理方法。
【請求項5】
前記チオシアンを含有する被処理水が、コークス炉から排出された安水である請求項4に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出試薬、検出方法、定量方法、及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉排水(安水)は物理化学的処理の後、生物学的水処理方法である活性汚泥法によって、排水基準であるCOD(Chemical Oxygen Demand)成分が処理され、放流される。安水中のチオシアン酸[チオシアン酸イオン(SCN)として存在]はCOD成分であるため、処理が求められるが、処理が不安定になりがちである。チオシアン酸イオンの生分解には、硫化カルボニル(COS)を経てチオシアン酸イオンが分解されるCOS経路が知られている。COS経路のチオシアン分解微生物は既に分離されており(特許文献1)、チオシアン分解酵素の遺伝子配列もデータベースに登録されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4672816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硫化カルボニルは温室効果ガスのため、硫化カルボニルの発生を抑えつつチオシアン酸イオンを分解することが望ましい。
チオシアン酸イオンの生分解には2つの経路があり、一方はシアン酸イオン(OCN)を経るシアン酸経路にて、もう一方が硫化カルボニル(COS)を経る硫化カルボニル経路にて、チオシアン酸イオンが分解されることが知られていた(図1)。発明者らは、このことに着想を得て、活性汚泥におけるチオシアン酸イオンの分解においても、シアン酸経路を経た分解が可能であると考えた。しかし、これまでに、硫化カルボニル経路でチオシアン酸イオンを分解する微生物の検出方法は報告されているが、シアン酸経路によりチオシアン酸イオンを分解する微生物を検出する方法はない。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、シアン酸経路によりチオシアン酸イオンを分解するチオシアン酸デヒドロゲナーゼ、検出試薬、検出方法、定量方法、及び処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、新たにチオシアン酸デヒドロゲナーゼを同定し、本発明を完成させるに至った。
また、チオシアン酸デヒドロゲナーゼを有する微生物を利用して、チオシアンを含有する被処理水を処理可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
[1]以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質であるチオシアン酸デヒドロゲナーゼ。
(a)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(b)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列と配列同一性が98%以上のアミノ酸配列を含み、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
[2]以下の(I)~(VI)からなる群から選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドを有する検出試薬。
(I)前記[1]に記載のチオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列の部分配列を含むポリヌクレオチド
(II)前記[1]に記載のチオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子若しくは該遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列の部分配列を含むポリヌクレオチド
(III)前記(I)の部分配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(IV)前記(II)の部分配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(V)前記(I)の部分配列との配列同一性が98%以上の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(VI)前記(II)の部分配列との配列同一性が98%以上の塩基配列を含むポリヌクレオチド
[3]チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出可能なプライマー機能を有する組み合わせで、以下の(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチド、及び以下の(3)及び(4)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチドを有するプライマーセットを備える、前記[2]に記載の検出試薬。
(1)配列番号11で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)配列番号11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(3)配列番号12で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(4)配列番号12で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
[4]前記[2]又は[3]に記載の検出試薬を用いて、前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出方法。
[5]前記[2]又は[3]に記載の検出試薬を用いて、前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を定量する定量方法。
[6]チオシアンと、前記[1]に記載のチオシアン酸デヒドロゲナーゼと、を含む混合相を形成させ、前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼにより前記チオシアンを分解させる処理工程を有する処理方法。
[7]チオシアンを含有する被処理水と、チオシアン酸デヒドロゲナーゼを有する微生物とを含む混合相を形成させ、前記チオシアンを分解する処理工程と、
前記チオシアンを分解するシアン酸経路に係る遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出工程と、を有する処理方法。
[8]前記シアン酸経路に係る遺伝子が、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子である前記[7]に記載の処理方法。
[9]前記微生物が、シアン酸を経由して前記チオシアンを分解するチオシアン分解能を有する微生物である前記[7]又は[8]に記載の処理方法。
[10]更に、硫化カルボニルを経由して前記チオシアンを分解する硫化カルボニル経路に係る遺伝子又は該遺伝子産物を検出する第二検出工程を有する前記[7]~[9]のいずれか一つに記載の処理方法。
[11]前記硫化カルボニル経路に係る遺伝子が、チオシアン酸ヒドロラーゼ遺伝子である前記[10]に記載の処理方法。
[12]チオシアンを含有する被処理水と、前記[1]に記載のチオシアン酸デヒドロゲナーゼを有する微生物とを含む混合相を形成させ、前記チオシアンを分解する処理工程を有する処理方法。
[13]前記[2]又は[3]に記載の検出試薬を用いて前記チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出工程を有する、前記[12]に記載の処理方法。
[14]前記チオシアンを含有する被処理水が、コークス炉から排出された安水である前記[7]~[13]のいずれか一つに記載の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のチオシアン酸デヒドロゲナーゼによれば、チオシアンの分解が可能である。
本発明の検出試薬によれば、チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物の検出が可能である。
本発明の検出方法によれば、チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物の検出が可能である。
本発明の定量方法によれば、チオシアン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子又は該遺伝子産物の定量が可能である。
本発明の処理方法によれば、チオシアンの分解が可能である。
本発明の処理方法によれば、被処理水がチオシアンを含有する場合、チオシアン酸デヒドロゲナーゼを有する微生物を利用して、チオシアンを含有する被処理水を処理可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】チオシアンの分解に関与する反応経路を説明する図である。
図2】実施例で用いた、生物処理装置の構成を示す模式図である。
図3】実施例において取得された、生物処理装置での亜硝酸生成速度の結果を示す図である。
図4】実施例において取得された、生物処理装置でのチオシアン除去速度の結果を示す図である。
図5】実施例において設計したプライマーセットを使用して得られた検量線である。
図6】実施例において設計したプライマーセットを使用して得られた検量線である。
図7】実施例において生物処理装置から取得されたサンプルに含まれる、チオシアン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及び硫化カルボニル経路遺伝子の割合を運転日数ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書においては、図1に示すようなチオシアン酸イオンの分解について、チオシアン酸イオン(SCN)のことを、単に「チオシアン」ということがあり、シアン酸イオン(OCN)のことを、単に「シアン酸」ということがある。
【0011】
≪チオシアン酸デヒドロゲナーゼ≫
以下、実施形態のチオシアン酸デヒドロゲナーゼについて説明する。
実施形態のチオシアン酸デヒドロゲナーゼ(thiocyanate dehydrogenase、以下、TcDHともいう)は、以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質である。
(a)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含み、TcDH活性を有するタンパク質
(b)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、TcDH活性を有するタンパク質
(c)配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列と配列同一性が98%以上のアミノ酸配列を含み、TcDH活性を有するタンパク質
【0012】
前記(a)において、配列番号1で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例で取得されたTcDH1のアミノ酸配列である。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸としては、配列番号2で表される塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0013】
前記(a)において、配列番号3で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例で取得されたTcDH2のアミノ酸配列である。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸としては、配列番号4で表される塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0014】
前記(a)において、配列番号5で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例で取得されたTcDH3のアミノ酸配列である。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸としては、配列番号6で表される塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0015】
前記(a)において、配列番号7で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例で取得されたTcDH4のアミノ酸配列である。配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸としては、配列番号8で表される塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0016】
前記(a)において、配列番号9で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例で取得されたTcDH5のアミノ酸配列である。配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸としては、配列番号10で表される塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0017】
実施形態のTcDHは、TcDH活性を有するタンパク質である限りにおいて、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列に対して変異を有するものであってよく、前記(b)のタンパク質、及び(c)のタンパク質であってもよい。
【0018】
前記(b)のタンパク質において、1又は複数個とは、例えば、1~30個であってもよく、1~20個であってもよく、1~10個であってもよく、1~5個であってもよく、1~4個であってもよく、1~3個であってもよく、1~2個であってもよい。
【0019】
前記(c)のタンパク質において、アミノ酸配列の配列同一性は98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。アミノ酸配列の配列同一性は、GenBankデータベース上で提供されるBLAST検索により求めることができる。
【0020】
(a)~(c)のいずれかのタンパク質は、TcDH活性を有する。TcDH活性とは、図1に示す通り、OCN経路でチオシアンを、シアン酸と元素硫黄(S)とに分解する活性であってよい。TcDHの候補タンパク質がTcDH活性を有することは、当該候補タンパク質の機能を解析することにより判断でき、例えば、後述の実施例に示す方法により判断できる。具体的には、本来はチオシアン分解能を有していない微生物に、TcDHの候補タンパク質の遺伝子を導入し、TcDHの候補タンパク質を発現させる。そして、当該微生物がチオシアン分解能を獲得した場合、当該候補タンパク質はTcDHであると判断できる。
【0021】
当該実施形態に係るTcDHは、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列に基づいて化学的に合成してもよく、また、当該TcDHをコードする遺伝子を用いて、公知のタンパク質発現系によって製造することもできる。また、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列に対して変異を有するTcDHは、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列基づき、公知のアミノ酸変異を導入する遺伝子組換え技術を用いて製造することもできる。
【0022】
当該実施形態に係るTcDHは、チオシアンの分解に使用することができ、排水処理や物質製造など種々の反応に用いることができる。
【0023】
≪検出試薬≫
以下、実施形態の検出試薬について説明する。
実施形態の検出試薬は、以下の(I)~(VI)からなる群から選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
(I)本発明に係るTcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列の部分配列を含むポリヌクレオチド
(II)本発明に係るTcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列と相補的な塩基配列の部分配列を含むポリヌクレオチド
(III)前記(I)の部分配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(IV)前記(II)の部分配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(V)前記(I)の部分配列との配列同一性が98%以上の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(VI)前記(II)の部分配列との配列同一性が98%以上の塩基配列を含むポリヌクレオチド
【0024】
本明細書における「遺伝子」とは、ゲノム上のTcDHの転写産物に対応するタンパク質コード領域の他に、イントロン、非翻訳領域、及び隣接した転写調節領域を含んでもよい。隣接した転写調節領域としては、プロモーターが挙げられる。ここでのTcDHの「遺伝子産物」としては、mRNA、mRNA前駆体が挙げられる。
【0025】
実施形態の検出試薬におけるTcDHの遺伝子とは、上記(a)~(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子である。
実施形態の検出試薬において、前記(I)の部分配列とは、本発明に係るTcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列の全部は含まない、前記塩基配列の任意の連続する一部の塩基配列であって、後述するプローブ又はプライマーとして使用可能な長さを有する。
実施形態の検出試薬において、前記(II)の部分配列とは、本発明のTcDH遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列と相補的な塩基配列の全部は含まない、前記塩基配列の任意の連続する一部の塩基配列であって、後述するプローブ又はプライマーとして使用可能な長さを有する。
実施形態の検出試薬において、前記(I)と(II)のポリヌクレオチドは、TcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物の塩基配列の部分配列、又は該部分配列と相補的な配列を含んでいるので、前記TcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物とハイブリダイズすることで、これらの存在を検出できる。
ポリヌクレオチド同士のハイブリダイズは、完全に相補的な配列同士でなくとも生じることが知られている。そのため、前記(I)又は(II)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする限りにおいて、ポリヌクレオチドは変異を有するものであってよい。実施形態の検出試薬が含んでもよいポリヌクレオチドとしては、例えば、前記(III)~(VI)のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0026】
上記において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1重量% N-ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%フォルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55℃以上70℃以下で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0027】
前記(III)及び(IV)の配列において、1又は複数個とは、例えば、1~30個であってもよく、1~20個であってもよく、1~10個であってもよく、1~5個であってもよく、1~4個であってもよく、1~3個であってもよく、1~2個であってもよい。
【0028】
前記(V)及び(VI)の配列において、塩基配列の配列同一性は98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。塩基配列の配列同一性は、GenBankデータベース上で提供されるBLAST検索により求めることができる。
【0029】
実施形態の検出試薬に含まれるポリヌクレオチドは、プライマー又はプローブとして使用することができる。実施形態の検出試薬に含まれるポリヌクレオチドの長さは、プライマー又はプローブとして使用可能な長さであればよく、用途により適切な長さを適宜選択できる。検出試薬がプローブである場合、プローブの長さは、例えば、10~500塩基であってよく、20~200塩基であってよく、50~100塩基であってよい。検出試薬がプライマーである場合、プライマーの長さは、例えば、10~40塩基であってよく、18~35塩基であってよく、20~25塩基であってよい。当該ポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの塩基配列に基づき、化学的合成又は公知の遺伝子組換え技術により製造することができる。
【0030】
実施形態の検出試薬がプライマーである場合、実施形態の検出試薬は、前記(I)、(III)、及び(V)からなる群から選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドと、前記(II)、(IV)、及び(VI)からなる群から選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドとを含んでいてもよい。
【0031】
実施形態の検出試薬に含まれるポリヌクレオチドは、DNAが好ましく、DNAと同様の機能を有するものであれば、PNA(ペプチド核酸)やLNA(Locked Nucleic Acid)等の人工核酸を含むものであってもよい。
【0032】
<プライマーセット>
【0033】
実施形態の検出試薬は、前記TcDHの遺伝子又は該遺伝子産物を検出可能なプライマー機能を有する組み合わせで、以下の(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチド、及び以下の(3)及び(4)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチドを有するプライマーセットを備えてもよい。
(1)配列番号11で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)配列番号11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(3)配列番号12で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(4)配列番号12で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
【0034】
配列番号11及び12で表される塩基配列は、配列番号1、3、5、7及び9で表される塩基配列に共通して存在する部分配列、又は当該部分配列と相補的な配列である。これら(1)~(4)のポリヌクレオチドの組み合わせによれば、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含む、5種類のTcDHの遺伝子を同時に増幅可能であり、増幅産物を検出することで、当該全てのTcDHの遺伝子を同時に検出可能である。
【0035】
検出試薬が備えるポリヌクレオチドの、好ましい組み合わせとしては、(1)及び/又は(2)のポリヌクレオチドと、(3)及び/又は(4)のポリヌクレオチドとの組み合わせ、を例示できる。
当該ポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの塩基配列に基づき、化学的合成又は公知の遺伝子組換え技術により製造することができる。
【0036】
前記(2)及び(4)のポリヌクレオチドにおいて、1又は複数個とは、例えば、1~5個であってもよく、1~4個であってもよく、1~3個であってもよく、1~2個であってもよい。また、これらポリヌクレオチドの3’末端から2塩基には塩基の欠失、置換及び付加が存在しないことが好ましい。
【0037】
当該実施形態に係る検出試薬によれば、TcDHの遺伝子若しくは該遺伝子産物を精度よく検出することができる。
【0038】
≪検出方法≫
実施形態の検出方法は、上記実施形態の検出試薬を用いて、TcDHの遺伝子又は該遺伝子産物を検出する方法である。
【0039】
実施形態の検出試薬に含まれるポリヌクレオチドは、プライマー又はプローブとして使用することができる。プライマー又はプローブを用いたTcDHの遺伝子又は該遺伝子産物の検出方法は、特に制限されず、各種方法に適用可能である。例えば、PCR法、RT-PCR法、マイクロアレイ、シーケンス解析等の各種方法が挙げられる。
【0040】
実施形態の検出方法は、上記実施形態のプライマーセットを用いて、分析対象物からTcDHの遺伝子の増幅反応を行う工程と、前記増幅反応により増幅された増幅産物を検出する工程と、を有する。
【0041】
増幅反応としては、PCR法が挙げられる。増幅産物の検出は、例えば、アガロースゲル電気泳動等により、遺伝子断片の増幅産物を観察することにより行ってもよい。また、SYBRグリーン等のインターカレーター色素の存在下で遺伝子増幅反応を行い、インターカレーター色素の蛍光を検出することにより行ってもよい。
【0042】
当該実施形態に係る検出方法により、前記増幅産物が検出された場合には、前記分析対象物にTcDHの遺伝子が存在すると判定できる。また、前記分析対象物にTcDHの遺伝子が存在するとの判定により、前記分析対象物にTcDHの遺伝子を有する微生物が存在すると判断することも可能となる。
【0043】
また、当該実施形態に係る検出方法のうち下記(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチド、及び下記(3)及び(4)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチドを有するプライマーセットを用いることにより、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含む、5種類のTcDHの遺伝子を同時に検出できる。また、前記分析対象物におけるTcDHの遺伝子が存在することの判定により、前記分析対象物に存在する配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含むTcDHの遺伝子を有する微生物が存在すると一度に判断することも可能となる。
【0044】
(1)配列番号11で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)配列番号11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(3)配列番号12で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(4)配列番号12で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
【0045】
≪定量方法≫
実施形態の定量方法は、上記実施形態の検出試薬を用いて、TcDHの遺伝子又は該遺伝子産物を定量する方法である。
【0046】
実施形態の定量方法は、上記実施形態のプライマーセットを用いて、分析対象物からTcDHの遺伝子の増幅反応を行う工程と、前記増幅反応により増幅された増幅産物を検出する工程と、検出された前記増幅産物の量から、分析対象物に含まれる前記遺伝子の量を定量する工程と、を有する。
遺伝子の量の定量は、例えば、増幅産物に対応する遺伝子のコピー数と、蛍光強度の相関関係を利用した検量線を予め用意することにより、蛍光強度から遺伝子のコピー数を定量できる。
【0047】
当該実施形態に係る定量方法によれば、前記増幅産物を定量することで、前記分析対象物に含まれるTcDHの遺伝子のコピー数を定量できる。また、前記分析対象物におけるTcDHの遺伝子のコピー数から、前記分析対象物に存在するTcDHの遺伝子を有する微生物の数を推定することも可能となる。
【0048】
また、当該実施形態に係る定量方法のうち下記(1)及び(2)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチド、及び下記(3)及び(4)からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリヌクレオチドを有するプライマーセットを用いることにより、配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列を含む、5種類のTcDHの遺伝子を同時に定量できる。また、前記分析対象物におけるTcDHの遺伝子のコピー数から、前記分析対象物に存在する配列番号1、3、5、7又は9で表されるアミノ酸配列含むTcDHの遺伝子を有する微生物の数を一度に推定することも可能となる。
【0049】
(1)配列番号11で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)配列番号11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(3)配列番号12で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(4)配列番号12で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド
【0050】
≪処理方法≫
<第1実施形態>
本実施形態の処理方法は、チオシアンと、上記実施形態のTcDHと、を含む混合相を形成させ、前記TcDHにより前記チオシアンを分解させる処理工程を有する。上記実施形態のTcDHは、チオシアン分解活性を有するので、チオシアンとTcDHが反応し、チオシアンがシアン酸と元素硫黄とに分解される。
チオシアンとしては、チオシアン酸塩であってもよく、チオシアン酸イオンであってもよい。チオシアン酸塩としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等が挙げられる。
【0051】
当該実施形態に係る処理方法によれば、本発明に係るTcDHを用いることで、チオシアンの分解が可能である。
【0052】
<第2実施形態>
(処理工程)
本実施形態の処理方法は、チオシアンを含有する被処理水と、TcDHを有する微生物とを含む混合相を形成させ、前記チオシアンを分解する処理工程を有する。
【0053】
チオシアンを含有する被処理水としては、各種工場排水が挙げられ、コークス炉から排出された安水が好ましい。
【0054】
チオシアンを含有する被処理水と、TcDHを有する微生物とを混合させ、これらを含む混合相を形成させる。例えば、TcDHを有する微生物を含んだ活性汚泥が溜められた処理槽に、チオシアンを含有する被処理水を導入すると、前記混合相が形成される。
【0055】
被処理水に含まれるチオシアンとしては、チオシアン酸塩であってもよく、チオシアン酸イオンであってもよい。チオシアン酸塩としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム等が挙げられる。
【0056】
被処理水に含まれるチオシアンは、TcDHにより分解されてシアン酸となる。生成されたシアン酸は、シアン酸分解酵素を有する微生物により分解される。
【0057】
被処理水に含まれるチオシアンのシアン酸への分解は、混合相に含まれる微生物によりなされてもよい。TcDHを有する前記微生物が、チオシアンのシアン酸への分解と、シアン酸の分解の両方の分解能を有してもよい。すなわち、TcDHを有する前記微生物が、シアン酸を経由して前記チオシアンを分解するチオシアン分解能を有する微生物であってよい。
【0058】
処理工程は、嫌気的条件下で行われてもよいが、好気的条件下で行われることが好ましい。
【0059】
(検出工程)
本実施形態の処理方法は、前記チオシアンをシアン酸に分解するシアン酸経路に係る遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出工程を有する。
【0060】
チオシアンの分解には、図1に示すとおり、シアン酸を経由してチオシアンを分解するシアン酸経路と、硫化カルボニルを経由してチオシアンを分解する硫化カルボニル経路がある。
【0061】
シアン酸経路は、図1に示すとおり、チオシアンが、シアン酸と元素硫黄とに分解される経路である。シアン酸経路に係る遺伝子としては、当該経路に係る反応に関与する酵素の遺伝子が挙げられ、未知の酵素の遺伝子であってもよく、TcDH遺伝子が好ましい。
【0062】
実施形態の処理方法におけるTcDHは、チオシアン分解酵素活性を有する。TcDH活性とは、シアン酸又はシアン酸イオンを分解する活性であり、図1に示す通り、チオシアンを、シアン酸と元素硫黄とに分解する活性であってよい。
【0063】
実施形態の処理方法におけるTcDHとしては、例えば上記≪チオシアン酸デヒドロゲナーゼ≫で例示したものが挙げられる。TcDHの遺伝子又は該遺伝子産物の検出には、上記実施形態の検出試薬を用いてもよく、例えば<検出方法・定量方法>で例示した方法により実施することができる。
なお、本実施形態の検出工程では、遺伝子産物として、タンパク質を検出してもよい。タンパク質の検出方法としては、例えば、ELISA、ウエスタンブロット等の種々の方法が採用できる。
【0064】
本実施形態の処理方法は、検出工程として、更に、硫化カルボニルを経由して前記チオシアンを分解する硫化カルボニル経路に係る遺伝子又は該遺伝子産物を検出する第二検出工程を有してもよい。
【0065】
硫化カルボニル経路は、図1に示すとおり、チオシアンが、硫化カルボニルを経由して二酸化炭素と硫化水素へと分解される経路である。硫化カルボニル経路に係る遺伝子としては、当該経路に係る反応に関与する酵素の遺伝子が挙げられ、未知の酵素の遺伝子であってもよく、硫化カルボニル分解酵素遺伝子であってもよく、チオシアン酸ヒドロラーゼ遺伝子であってもよい。
【0066】
実施形態の処理方法におけるチオシアン酸ヒドロラーゼは、チオシアン分解酵素活性を有する。チオシアン酸ヒドロラーゼは「EC 3.5.5.8」が付与されている。チオシアン酸ヒドロラーゼ活性とは、チオシアン又はチオシアン酸イオンを加水分解する活性であり、図1に示す通り、チオシアン又はチオシアン酸イオンを、硫化カルボニルへと分解する活性であってよい。
【0067】
チオシアン酸ヒドロラーゼの候補タンパク質がチオシアン分解酵素活性を有することは、当該候補タンパク質の機能を解析することにより判断できる。例えば、本来はチオシアン分解能を有していない微生物に、チオシアン酸ヒドロラーゼの候補タンパク質の遺伝子を導入し、チオシアン酸ヒドロラーゼの候補タンパク質を発現させる。そして、当該微生物がチオシアン分解能を獲得した場合、当該候補タンパク質はチオシアン酸ヒドロラーゼであると判断できる。
【0068】
チオシアン酸ヒドロラーゼの遺伝子又は該遺伝子産物の検出は、TcDHの場合と同様の方法により行うことができる。例えば、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0069】
遺伝子又は該遺伝子産物の検出対象は、前記混合相であってよく、前記混合相からサンプリングして得られたサンプルであってよい。サンプルからの核酸又はタンパク質の抽出方法は公知の方法により行うことができる。サンプリングは、処理工程の開始前や終了後に行ってもよいが、処理工程での処理状況を把握するとの観点から、処理工程の途中で行うことが好ましい。
検出工程は、処理工程と別々に行ってもよく、同時に行ってもよい。検出工程は、処理工程において経時的に行ってもよい。
【0070】
当該実施形態に係る処理方法によれば、シアン酸経路に係る遺伝子又は該遺伝子産物を検出する検出工程を有することで、処理水に含まれる微生物のシアン酸経路の存在や活性化状況を把握することが可能となる。また、処理水におけるシアン酸経路でチオシアンを分解する微生物の存在や量を把握することが可能となる。
【0071】
従来、チオシアンを含む排水の処理において、硫化カルボニル経路でチオシアンを分解する微生物が分離されていたため、当該微生物に関する情報を得ることで、チオシアンの処理状況を把握や制御が試みられてきた。
【0072】
今回、発明者らは、チオシアンを含む排水の処理において、シアン酸経路によるチオシアンの分解が生じていることを見出した。さらにシアン酸経路が硫化カルボニル経路よりも、優勢となり得ることを見出した。
【0073】
当該実施形態に係る処理方法によれば、処理水に含まれる微生物のシアン酸経路の存在や活性化状況、シアン酸経路でチオシアンを分解する微生物の存在や量をモニタリングすることができるので、シアン酸経路によるチオシアンの処理が向上するよう処理条件をコントロールでき、シアン酸経路によるチオシアンの処理効率を向上させることができる。
【0074】
硫化カルボニルは温室効果ガスのため、硫化カルボニルの発生を抑えつつチオシアンを分解することが望ましい。
当該実施形態に係る処理方法によれば、シアン酸経路に係るモニタリングに加え、処理水に含まれる微生物の硫化カルボニル経路の存在や活性化状況、硫化カルボニル経路でチオシアンを分解する微生物の存在や量をモニタリングすることで、例えば、硫化カルボニル経路よりも、シアン酸経路によるチオシアンの処理が向上するよう処理条件をコントロールでき、硫化カルボニルの発生を制御しつつ、チオシアンの処理を行うことができる。
【実施例0075】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
(1)生物学的排水処理プロセスの運転、水質分析、分解速度算出および微生物試料の採取
特開2016-112556号公報に記載の方法に沿って微生物サンプルを得て、工業用水と自然海水とを体積比2:3で混合して得られた溶媒中に、表1に示す溶質を表1に示す濃度で溶解し、人工排水(被処理水)を調製した。
【0077】
【表1】
【0078】
また、図2に示すように、1つの槽内で生物処理領域20aと沈降領域20bとが隔壁23により互いに隔てられていると共にこの隔壁23の下方で互いに連通する構造を有する一体型の生物処理装置20(処理槽)を用意し、生物処理装置20の生物処理領域20a内に10mm×10mm×10mmの大きさのスポンジ担体21〔流動担体(関東イノアック製AQ-1)〕を体積比で20%(v/v)となるように投入した。
【0079】
このようにして準備された生物処理装置20内にそれぞれ上記の被処理水24を流入させると共に微生物植種源として活性汚泥を投入し、スポンジ担体21に微生物を定着させる微生物馴致処理(第1段処理)時には、被処理水24の水理学的滞留時間が24時間となるように流入させた。また、各生物処理装置20内の被処理水24に空気曝気22を行って好気性流動床を形成させ、微生物の馴致を行った。
【0080】
この生物学的処理の運転開始後、すぐにチオシアン酸イオンの除去が認められたが、徐々にpHの低下傾向が認められ、また、チオシアン酸イオンの除去が不安定であったので、運転開始後69日目から5質量%-水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7.5付近に調整しながら処理を継続し、チオシアン酸イオンの除去率が98%以上で安定した段階で微生物馴致処理(第1段処理)を終了した。この微生物馴致処理(第1段処理)の終了時には亜硝酸イオンが増加していた。
【0081】
この微生物馴致処理(第1段処理)の終了後、各生物処理装置20の生物処理領域20a内の処理水についてチオシアン酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度とを測定してチオシアン酸イオン及び亜硝酸イオンのモニタリングを行なった。
また、各生物処理装置20の生物処理領域20a内の処理水のpHを測定してpH値のモニタリング行いながら、運転開始後90日目より領域内の水理学的滞留時間が18時間となるように被処理水24の流入量を増やし(第2段処理)、また、運転開始後111日目より領域内の水理学的滞留時間が12時間となるように被処理水24の流入量を更に増やし(第3段処理)、更に、運転開始後118日目より領域内の水理学的滞留時間が8時間となるように被処理水24の流入量を更に増やし(第4段処理)、最終的に175日目まで運転を継続した。
【0082】
この間、第2段処理において領域内の水理学的滞留時間を18時間に短縮したことにより、チオシアン酸イオンの除去率を高い値に維持しつつ、亜硝酸イオンの生成の減少傾向が観察され始め、また、第3段処理において領域内の水理学的滞留時間を12時間に短縮したことにより、チオシアン酸イオンの除去率を高い値に維持しつつ、亜硝酸イオンの生成をほぼ完全に抑制することができ、更に、第4段処理において領域内の水理学的滞留時間を8時間に短縮した場合にも、亜硝酸イオンの生成を抑制しつつチオシアン酸イオンの除去率を高い値に維持できることを確認した。
【0083】
この実施例1での生物学的処理において、運転日数に対する一日当たりの亜硝酸生成速度およびチオシアン除去速度を式(1)および式(2)に従い算出した。
【0084】
【数1】
【0085】
【数2】
【0086】
運転日数に対する一日当たりの亜硝酸生成速度を図3、チオシアン除去速度を図4に示す。
また、微生物叢解析のため、生物処理装置20の生物処理領域20a内の微生物が付着したスポンジ担体21を水質分析と同日または±1日程度採取し、-20℃で冷凍保存した。
【0087】
(2)DNA抽出
生物処理装置20の生物処理領域20a内の微生物が付着したスポンジ担体21からのDNA抽出を実施した。
スポンジ担体はチオシアン除去が良好な127日目に採取した。スポンジ担体を中央で切断したところ、周辺部が褐色、中心部が黒色であった。この相違がスポンジ内外の環境状態(溶存酸素量)および微生物相の違いを反映している可能性があるため、色の相違に沿ってスポンジ試料を切断・分収した。
スポンジ内部、外部それぞれの切断片を、ISOIL for Beads Beating(ニッポンジーン)および細胞破砕装置Fast Prep 24 Instrument(MPバイオメディカルズ)を用いてDNAを抽出および精製をおこなった。
【0088】
(3)次世代シーケンサーによる塩基配列決定
抽出したDNAを次世代シーケンサー(Hiseq 2000)を用いて解析することで、塩基配列を決定した。この塩基配列決定は委託(タカラバイオ)により実施した。この結果、スポンジ内側および外側の試料から表2の通りシーケンスデータが得られた。
【0089】
【表2】
【0090】
(4)配列アセンブリング
アセンブラーにSPAdesを用いアセンブルを行った。解析は委託(J-Bio21センター)により実施した。
【0091】
(5)チオシアン分解に係る遺伝子候補配列の選択および機能解析
Thiohalobacter thiocyaniticus strain FOKN1株由来のTcDHが、チオシアンを分解する主要な酵素であると推測されている(genome Announcement 5:32, e00799-17, 2017)。
そこで、アセンブリで得た全コンティグに対して、前記FOKN1株由来のTcDHと相同性が高い遺伝子を探索した。この結果、前記FOKN1株由来のTcDHと相同性が高いオープンリーディングフレーム(ORF)が5つ得らえた。
TcDHは図1の通り、シアン酸経路のチオシアン分解に関わる。硫化カルボニル経路でチオシアンを分解する微生物の遺伝子の検出方法は報告されているが、シアン酸経路でチオシアンを分解する微生物のTcDH遺伝子の検出方法はまだ報告されていない。上記で得られた5つのORFは、前記FOKN1株由来のTcDHと相同性が高いため、いずれもシアン酸経由でチオシアン分解に係る、TcDH遺伝子であると判断した。これら5つのTcDH遺伝子をTcDH遺伝子A~Eとした。
配列番号2で表される塩基配列は、TcDH遺伝子Aの塩基配列である。配列番号4で表される塩基配列は、TcDH遺伝子Bの塩基配列である。配列番号6で表される塩基配列は、TcDH遺伝子Cの塩基配列である。配列番号8で表される塩基配列は、TcDH遺伝子Dの塩基配列である。配列番号10で表される塩基配列は、TcDH遺伝子Eの塩基配列である。
【0092】
次に、TcDH遺伝子A~Eの塩基配列をアミノ酸配列に変換した。配列番号1で表されるアミノ酸配列は、TcDH遺伝子Aがコードするタンパク質のアミノ酸配列である。配列番号3で表されるアミノ酸配列は、TcDH遺伝子Bがコードするタンパク質のアミノ酸配列である。配列番号5で表されるアミノ酸配列は、TcDH遺伝子Cがコードするタンパク質のアミノ酸配列である。配列番号7で表されるアミノ酸配列は、TcDH遺伝子Dがコードするタンパク質のアミノ酸配列である。配列番号9で表されるアミノ酸配列は、TcDH遺伝子Eがコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
これら、配列番号1、3、5、7、9のそれぞれで表されるアミノ酸配列を有するTcDHを、以下、それぞれ「TcDH1」、「TcDH2」、「TcDH3」、「TcDH4」、「TcDH5」という。
【0093】
(6)シアン酸経由でチオシアン分解に係るTcDH1~5の遺伝子の包括定量するためのプライマーの設計
TcDH1~5の遺伝子配列の共通配列を対象にプライマーを設計した。プライマー設計にはPrimer3Plusを用いた。設計したプライマー配列をBLAST検索することで目的遺伝子のみを定量対象にしているか確認した。
この結果、表3に示す1組のプライマーセットが設計できた。
【0094】
【表3】
【0095】
(7)シアン酸経由でチオシアン分解に係る遺伝子の包括定量
シアン酸経由でチオシアン分解に係る前記TcDH1~5の遺伝子の包括定量にあたり、リアルタイムPCRを用いて、上記1組のプライマーセットを用いた検量線を作成した。リアルタイムPCR法反応試薬はSYBR Premix Ex Taq II (Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を、リアルタイムPCR装置はThermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System II MRQ(タカラバイオ)を用いた。PCR反応条件は95℃30秒のホットスタート反応の後、95℃5秒、60℃30秒の反応を40サイクル繰り返した。この結果、図5に示したように、設計したプライマーセットで良好な検量線を得ることができ、定量方法を確立できた。なお、図5において、xとyの関係式が検量線の式を表す。式中のyは遺伝子コピー数、xはCt値、Rは相関係数をそれぞれ表す。
【0096】
(8)硫化カルボニル経由でチオシアン分解に係る遺伝子の定量
硫化カルボニル経由でチオシアンを分解する微生物は分離されており、唯一Thiobacillus thioparus THI 115が報告されている。これまでに活性評価されているthiocyanate hydrolaseとしてThiobacillus thioparus THI 115株由来の遺伝子のみ報告がある(J. Bacteriol. 1998. 180.2583-2589)。thiocyanate hydrolaseはα、β、γの3つのサブユニットから成るが、このうち、表4に示す、比較的保存残基が多く存在するγサブユニットを標的遺伝子としたthiocyanate hydrolase遺伝子(チオシアン分解酵素遺伝子)検出プライマーを設計した。
【0097】
【表4】
【0098】
硫化カルボニル経由でチオシアン分解に係るチオシアン分解酵素の遺伝子の定量にあたり、リアルタイムPCRを用いて、上記のプライマーセットを用いた検量線を作成した。リアルタイムPCR法反応試薬はSYBR Premix Ex Taq II (Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を、リアルタイムPCR装置はThermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System II MRQ(タカラバイオ)を用いた。PCR反応条件は95℃30秒のホットスタート反応の後、95℃5秒、60℃30秒の反応を40サイクル繰り返した。この結果、図6に示す通り良好な検量線が得られた。なお、図6において、xとyの関係式が検量線の式を表す。式中のyは遺伝子コピー数、xはCt値、Rは相関係数をそれぞれ表す。
【0099】
(9)微生物総数の定量
真正細菌の遺伝子数を微生物総数として定量を実施した。定量方法は多くの方法が報告されているため、それら方法から適切なものを用いればよく、例えば、Kumar et al, 2012 Bioresource Technology, 113, 148-153で記載されている方法を用いてもよい。
【0100】
(10)シアン酸経由でチオシアンを分解するチオシアン分解微生物の定量
1)好気性流動床のスポンジ担体付着微生物からのDNA抽出
生物処理装置20の生物処理領域20a内の微生物が付着したスポンジ担体21を4分割した後、Extrap Soil DNA Plus ver.2(J-Bio21センター)を用いてDNAの抽出および精製を行った。DNAの抽出は委託(J-Bio21センター)により実施した。続いて、精製DNA溶液のDNA濃度を、PicoGreen dsDNA Assay Kit(Invitrogen)を用いて測定した。
【0101】
上述の1)で抽出したDNA中の、TcDH1~5の遺伝子数の定量を実施した。比較のため、硫化カルボニル経由でチオシアン分解するチオシアン分解酵素の遺伝子数の定量も実施した。加えて、採取したスポンジ担体および活性汚泥中の微生物総数は異なるため、サンプル中から得られた全微生物の指標遺伝子数を別途定量し、TcDH1~5の遺伝子、及び硫化カルボニル経由のチオシアン分解酵素の遺伝子数の定量値を、全微生物の指標遺伝子数の定量値で除すことで正規化した。なお、本実施例では、全微生物の指標遺伝子として、16S rRNA遺伝子を定量した。
その結果、図7に示すように、運転が進むにつれ、好気性流動床のスポンジ担体付着微生物のTcDH遺伝子数が上昇した。このことから、硫化カルボニル経由のチオシアン分解微生物よりも、シアン酸経由のチオシアン分解微生物が優占したことが示唆された。また、運転開始直後にTcDH遺伝子数が急増しており、シアン酸経由のチオシアン分解微生物は、水処理装置の立ち上げ時に大きくチオシアン分解に寄与することが示唆された。このため、好気性流動床では、シアン酸経由のチオシアン分解微生物が、排水中のチオシアン除去の大半を担っていたことが分かった。すなわち、活性汚泥中に含まれるTcDH遺伝子数とチオシアン分解性能が関係していることが分かり、TcDH遺伝子を検出することで、チオシアン除去能を判断するための指標となることが示された。
【0102】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0103】
20…生物処理装置、20a…生物処理領域、20b…沈降領域、21…スポンジ担体、22…空気曝気、23…隔壁、24…被処理水、25…生物処理装置で処理された処理水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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