IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図1
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図2
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図3
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図4
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図5
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図6
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図7
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図8
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図9
  • 特開-蛍光標識剤、及び蛍光色素 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097046
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】蛍光標識剤、及び蛍光色素
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20240709BHJP
   C09B 47/067 20060101ALI20240709BHJP
   A61K 51/04 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C09K11/06
C09B47/067
A61K51/04 200
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070874
(22)【出願日】2024-04-24
(62)【分割の表示】P 2022511162の分割
【原出願日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2020066924
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】横倉 梨乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】皆嶋 英範
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リン脂質への集積性に優れ、高い蛍光強度を示す蛍光色素及び蛍光標識剤を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される蛍光色素を含む蛍光標識剤。一般式(1):Q-Z-R-R-R(式中、Qは、蛍光色素の残基;Zは、直接結合、アルキレン基、又はアリーレン基;Rは、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-;Rは、アルキレン基、アリーレン基、及び複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基;Rは、COOM、NR、又はN1011;ここで、Rは、H、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又は複素環基;R、Rは、アルキル基、アリール基、又は複素環基;R~R11は、H、アルキル基、アリール基;Mは、1価のカチオン)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される蛍光色素を含む蛍光標識剤。
一般式(1):

Q-Z-R-R-R

(式中、Qは、蛍光色素の残基を表す。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
は、-COOM、-NR、-N1011、-OM、又は-P(=O)(OM)OMを表す。
前記Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記M、M、M、及びMは、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)
【請求項2】
リン脂質集積型蛍光標識剤である、請求項1に記載の蛍光標識剤。
【請求項3】
前記蛍光色素が、下記一般式(2)で表されるフタロシアニン色素を含む、請求項1又は2に記載の蛍光標識剤。
(式中、X~X16は、それぞれ独立に、-Z-R-R-R、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO、又は-COOMを表す。
前記-ABにおいて、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記M、及びMは、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。
17は、-Z-R-R-R、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X1819、-OC(=O)X20、-OS(=O)21、又は-OSiX222324を表す。
前記X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、X~X17の少なくとも1つは、-Z-R-R-Rである。)
【請求項4】
前記一般式(2)のX17が、-Z-R-R-Rである、請求項3に記載の蛍光標識剤。
【請求項5】
下記一般式(3)で表される化合物。
(式中、X~X16は、それぞれ独立に、-Z-R-R-R、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO、又は-COOMを表す。
前記-ABにおいて、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記M、Mは、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
前記X~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。
17は、-Z-R-R-R、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X1819、-OC(=O)X20、-OS(=O)21、又は-OSiX222324を表す。
前記X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記X22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、X~X17の少なくとも1つは-Z-R-R-Rである。
式中、Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
は、COOM、NR、N1011、-OM、又は-P(=O)(OM)OMを表す。
前記Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
前記R~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
前記M、M、M、及びMは、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蛍光標識剤、及び蛍光標識剤に用いられる蛍光色素に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオイメージングは、生体内のタンパク質、細胞、及び組織等を可視化する技術である。バイオイメージングは、例えば、生体内の分子及び細胞の機能の解明、並びに創薬の研究等といった生物学及び医学の研究領域で幅広く活用されている。
なかでも、蛍光バイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、及び高感度観察が可能なイメージング法である。近年、蛍光バイオイメージング法は、非侵襲的に診断可能なイメージング法としても注目されており、患者への負担が少ない画像診断、及び手術中のリアルタイム診断など、臨床現場における応用が期待されている。
【0003】
蛍光バイオイメージング法は、標的物質と特異的に結合する結合型か、あるいは、標的部位に集積する集積型の蛍光色素を用いて標的を可視化する方法である。上記方法では、上記蛍光色素に紫外領域から近赤外領域の光を照射した際に発する蛍光を検出する。
【0004】
標的部位への集積を用いた集積型の蛍光バイオイメージングは、標的物質との特異的な結合を用いた結合型の蛍光バイオイメージングに比べて、標識方法が単純かつ迅速である。また、上記集積型の蛍光バイオイメージングは、標的物質との特異的な結合を必要としないため、蛍光強度が安定するまでの待機時間がない、標的物質に対する影響が最小限であるといった利点がある。
【0005】
特許文献1及び特許文献2では、細胞膜を形成しているリン脂質に集積することを特徴とした集積型の蛍光色素が開示されている。
【0006】
リン脂質は、細胞、リポソーム、及び細胞外小胞等といった様々な生体物質の表面を形成している。近年、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のためのリポソームイメージング、及び非特許文献1に記載されたエクソソームイメージング等のように、リン脂質を有する微小物質のイメージングに注目が集まっている。このようなイン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングを行うために、特許文献1及び特許文献2で開示されている蛍光色素を使用した場合、蛍光強度が低いといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-524580号公報
【特許文献2】特開2008-209361号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Drug Delivery System 第29巻、第2号、2014年3月25日発行、p.116-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の状況に鑑み、本発明の実施形態は、リン脂質への集積性に優れ、高い蛍光強度を示す蛍光色素であって、特にイン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングに用いる蛍光標識剤に適した蛍光強度を有する、蛍光色素を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、優れた蛍光色素を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されず、様々な実施形態を含む。
【0011】
一実施形態は、下記一般式(1)で表される蛍光色素を含む蛍光標識剤に関する。
一般式(1):

Q-Z-R-R-R

式中、Qは、蛍光色素の残基を表す。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
は、COOM、NR、N1011、-OM、又は-P(=O)(OM)OMを表す。
上記において、Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
、M、M、及びMは、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。
【0012】
一実施形態において、上記蛍光標識剤は、リン脂質集積型蛍光標識剤であることが好ましい。
【0013】
一実施形態において、上記蛍光色素は、下記一般式(2)で表されるフタロシアニン色素を含むことが好ましい。
【化1】
式中、X~X16は、それぞれ独立に、-Z-R-R-R、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO、又は-COOMを表す。
上記において、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。M及びMは、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。
17は、-Z-R-R-R、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X1819、-OC(=O)X20、-OS(=O)21、又は-OSiX222324を表す。
上記において、X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、上記において、X~X17の少なくとも1つは、-Z-R-R-Rである。
【0014】
一実施形態において、上記蛍光標識剤は、上記一般式(2)のX17が-Z-R-R-Rである蛍光色素を含むことが好ましい。
【0015】
一実施形態は、下記一般式(3)で表される化合物に関する。
【化2】
式中、X~X16は、それぞれ独立に、-Z-R-R-R、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO、又は-COOMを表す。
上記において、Aは、16族元素を表す。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。M及びMは、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。
~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。
17は、-Z-R-R-R、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X1819、-OC(=O)X20、-OS(=O)21、又は-OSiX222324を表す。
上記において、X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。
但し、上記において、X~X17の少なくとも1つは、-Z-R-R-Rであり、以下のとおりである。
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。
は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。
は、COOM、NR、N1011、-OM、又は-P(=O)(OM)OMを表す。
上記において、Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。M、M、M、及びMは、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、リン脂質への集積性が高い官能基の導入によって、イン・ビトロ(in vitro)及びイン・ビボ(in vivo)でのイメージングに用いる蛍光標識剤に適した蛍光強度を有する蛍光色素を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、蛍光標識剤1、15、19、24、25、68、75の蛍光強度の評価結果を示すグラフである。
図2図2は、蛍光標識剤1で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図3図3は、蛍光標識剤15で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図4図4は、蛍光標識剤19で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図5図5は、蛍光標識剤24で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図6図6は、蛍光標識剤25で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図7図7は、蛍光標識剤68で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図8図8は、蛍光標識剤75で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図9図9は、蛍光標識剤42で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図10図10は、蛍光標識剤53で標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の記載に限定されず様々な実施形態を含む。
本発明の一実施形態である蛍光標識剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。下記一般式(1)で表される化合物は、蛍光色素である。
一般式(1):

Q-Z-R-R-R
【0019】
式中、Qは、蛍光色素の残基を表す。本明細書において蛍光色素とは、紫外領域から近赤外領域の光(例えば、波長560~900nmの光)を照射した際に蛍光を発する色素であり、公知の化合物であってよい。蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、シアニン類、フタロシアニン類、ジケトピロロピロール類、ボロンジピロメテン(BODIPY)類、キサンテン類、ピレン類、メロシアニン類、ぺリレン類、アクリジン類、スチルベン類、ピロメテン類、アクリジン類、及びウンべリフェロン類等の色素が挙げられる。
一実施形態において、上記一般式(1)で表される化合物(蛍光色素)は、蛍光色素の残基Qとして、例えば、上記例示の色素の骨格を有してよい。すなわち、上記一般式(1)で表される化合物は、上記例示の色素の骨格に対して、-Z-R-R-Rで表される置換基(官能基)が少なくとも1つ導入された構造を有する化合物であってよい。
【0020】
一実施形態において、蛍光色素は、安定性、及び蛍光波長の観点から、フタロシアニン類が好ましい。一実施形態において、下記一般式(2)で表される化合物(フタロシアニン色素)を蛍光色素として好適に使用することができる。但し、式中、X~X17の少なくとも1つは、-Z-R-R-Rで表される置換基であることを前提とする。
上記蛍光標識剤を構成する蛍光色素が、下記一般式(2)で表される化合物を含む場合、フタロシアニン色素の骨格に由来して、優れた耐久性を有する蛍光標識剤を容易に得ることができる。また、フタロシアニン色素の骨格に由来して、イン・ビトロ及びイン・ビボでのバイオイメージングに適した波長(例えば、650~900nm)での発光を容易に得ることができる。
【0021】
【化3】
【0022】
上記実施形態の蛍光色素において、「-Z-R-R-R」は、親水基を有する置換基であり、リン脂質における親水基との静電的な相互作用によって、リン脂質に対する蛍光色素の集積性を高めることができる。上記置換基の具体的な構成は以下のとおりである。
【0023】
Zは、直接結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。一実施形態において、Zは、直接結合であることが好ましい。
【0024】
は、直接結合、-O-、-OP(=O)R-、-OC(=O)-、-OS(=O)-、-OSiR-、-C(=O)-、又は-C(=O)NH-を表す。一実施形態において、Rは、-OP(=O)R-、-OS(=O)-、又は-OSiR-であることが好ましい。
【0025】
は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、及び、置換もしくは無置換の複素環基からなる群から選択される1種の基、又はこれらの基を組み合わせてなる基を表す。一実施形態において、Rは、置換もしくは無置換のアルキレン基、又は、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、又は、置換もしくは無置換のアルキレン基であることがより好ましい。一実施形態において、Rは、アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基の主鎖の炭素数は1~10であることが好ましい。
【0026】
は、-COOM、-NR、又は-N1011を表す。また、Rは、-OM、又は-P(=O)(OM)OMを表す。一実施形態において、Rは、-COOM、-NR、-OM、又は-P(=O)(OM)OMであることが好ましい。
【0027】
上記において、Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、Rは、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。
【0028】
及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。一実施形態において、R及びRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、又は無置換のアリール基であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0029】
~R11は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は、置換もしくは無置換のアリール基を表す。一実施形態において、R~R11は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましい。アルキル基は、炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキル基であることがより好ましい。
【0030】
、M、M、及びMは、それぞれ独立に、水素原子、又は1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。一実施形態において、M、M、M、及びMは、それぞれ、水素原子であることが好ましい。
【0031】
~X16は、それぞれ独立に、水素原子、又は、-Z-R-R-R、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換の複素環基、-AB、-SO、-COOMからなる群から選択される置換基を表す。
上記において、M及びMは、それぞれ独立に、1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属、及び4級アミン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等が挙げられる。
【0032】
一実施形態において、X~X16の少なくとも1つ、好ましくは4つ以上は、上記置換基であることが好ましい。一実施形態において、色素骨格に対する上記置換基は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は-ABであることが好ましい。
【0033】
上記式-ABにおいて、Aは、第16族元素を表す。第16族元素としては、酸素、硫黄、セレン、及びテルル等が挙げられる。一実施形態において、Aは、酸素、硫黄、又はセレンであることが好ましい。合成の容易さ、及び安定性の点から、酸素、又は硫黄がより好ましい。蛍光強度の点から、酸素がさらに好ましい。Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表し、それぞれ先に説明したとおりである。一実施形態において、Bは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。したがって、一実施形態において、-ABは、-OR、-OAr、-SR、又は-SArであることが好ましい。ここで、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を表す。
【0034】
Yは、2価~5価の金属原子を表し、kは整数である。Yが2価の金属原子である場合のkは0であり、Yが3価の金属原子である場合のkは1であり、Yが4価または5価の金属原子である場合のkは2である。2価の金属原子としては、Mg、Cu、Zn等が挙げられる。3価の金属原子としては、Al、Ga、In等が挙げられる。4価の金属原子としては、Si、Mn、Sn、Cr、Zr等が挙げられる。5価の金属原子としては、P等が挙げられる。蛍光強度の観点からは、Yは、Al、Si、又はPであることが好ましく、Alがより好ましい。耐光性の観点からは、Yは、Al、又はSiが好ましい。
【0035】
一実施形態において、X~X16は、隣接する置換基同士が互いに連結して、環を形成してもよい。上記環の構造は、シクロアルキル、シクロアルケン、アリール、ヘテロアリールのいずれであってもよく、フタロシアニン骨格における芳香環との縮合環を形成する。上記環の構造は、さらに置換基を有してもよく、非置換であってもよい。環の構造を形成する炭素数は、2~30であってよく、4~6の範囲が好ましい。環は、5員環又は6員環であることが好ましい。
一実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結してフェニレン基を形成することが好ましい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、ナフタレン構造が形成される。他の実施形態において、隣接する置換基同士が互いに連結して窒素原子を含む環を形成してもよい。この場合、フタロシアニン骨格における芳香環と結合し、例えば、イミダゾール構造が形成される。上記ナフタレン構造又はイミダゾール構造などの環構造は、さらにアルキル基又はアリール基などの置換基を有してもよい。
【0036】
17は、-Z-R-R-R、水酸基、ハロゲン元素、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、-OP(=O)X1819、-OC(=O)X20、-OS(=O)21、-OSiX222324を表す。一実施形態において、X17は、-Z-R-R-R、又は水酸基であることが好ましい。Z、R、R、及びRは、先に説明したとおりである。
【0037】
上記において、X18及びX19は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
20は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
21は、水酸基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
22~X24は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換の複素環基を表す。
【0038】
ここで、上記R~R11、及びX~X24におけるアルキル基は、それぞれ独立して選択される。アルキル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2-エチルヘキシル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、tert-オクチル基、及びネオペンチル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数は、1~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、1~20の範囲がより好ましく、1~10の範囲がさらに好ましい。
【0039】
上記アルキル基における置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基等の他、上述したアルキル基、後述するアリール基、シクロアルキル基、複素環基が挙げられる。また、構造の一部が、アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、又はウレタン結合(-NHCOO-)で置換されている場合、その置換部分も「置換基」とみなす。
【0040】
したがって、置換アルキル基としては、上記の置換基で置換されたアルキル基を意味する。置換アルキル基は、一つ又は二つ以上の置換基で置換されたアルキル基であってもよい。例えば、ハロゲン原子で置換されたアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、トリクロロメチル基、2,2-ジブロモエチル基等を挙げることができる。
【0041】
アミド結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-CH-CH-NHCO-CH-CH、-CH-CH(-CH)-CH-NHCO-CH-CH、-CH-CH-CH-NHCO-CH-CH、-CH-CH-CH-CH-NHCO-CH-CH(CH-CH)-CH-CH-CH-CH、-(CH-NHCO-(CH11-CH、-CH-CH-CH-C(-NHCO-CH-CH等を挙げることができる。アミド結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0042】
エステル結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-CH-CH-COO-CH-CH、-CH-CH(-CH)-CH-COO-CH-CH、-CH-CH-CH-OCO-CH-CH、-CH-CH-CH-CH-COO-CH-CH(CH-CH)-CH-CH-CH-CH、-(CH-COO-(CH11-CH、-CH-CH-CH-CH-(COO-CH-CH等を挙げることができる。エステル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0043】
エーテル結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-O-CH、-CH-CH-O-CH-CH、-CH-CH-CH-O-CH-CH、-(CH-CH-O)-CH(ここでnは1から8の整数である)、-(CH-CH-CH-O)-CH(ここでmは1から5の整数である)、-CH-CH(CH)-O-CH-CH-、-CH-CH-(OCH等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。エーテル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0044】
ウレア結合(-NHCONH-)で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-NHCONH-CH、-CH-CH-NHCONH-CH-CH、-CH-CH-CH-NHCONH-CH-CH、-(CH-CH-NHCONH)-CH(ここでnは1から8の整数である)、-(CH-CH-CH-NHCONH)-CH(ここでmは1から5の整数である)、-CH-CH(CH)-NHCONH-CH-CH-、-CH-CH-(NHCONHCH等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。エーテル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0045】
ウレタン結合で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-CH-CH-NHCOO-CH-CH、-CH-CH(-CH)-CH-NHCOO-CH-CH、-CH-CH-CH-NHCOO-CH-CH、-CH-CH-CH-CH-NHCOO-CH-CH(CH-CH)-CH-CH-CH-CH、-(CH-NHCOO-(CH11-CH、-CH-CH-CH-CH-(NHCOO-CH-CH等を挙げることができる。エステル結合で置換されたアルキル基の炭素数は、2~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10の範囲がより好ましく、2~5の範囲がさらに好ましい。
【0046】
アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、およびエーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、ウレタン結合(-NHCOO-)のうち2種以上の置換基で置換されたアルキル基の具体例としては、-CH-CH-NHCO-CH-CH-O-CH-CH(CH-CH)-CH-CH-CH-CH、-CH-CH-COO-CH-CH-O-CH-CH-NHCOO-CH-CH(CH-CH)-CH-CH-CH-CH、-CH-CH-NHCO―CH(OCO-CH2)-CH-を挙げることができる。アミド結合(-NHCO-)、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、ウレア結合(-NHCONH-)、およびウレタン結合(-NHCOO-)のうち2種以上の置換基で置換されたアルキル基の炭素数は、3~30の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、3~10の範囲がより好ましく、3~5の範囲がさらに好ましい。
【0047】
上記R~R11、及びX~X24におけるアリール基は、それぞれ独立して選択される。アリール基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アリール基としては、単環、又は縮合多環のアリール基が挙げられる。例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、p-ビフェニル基、m-ビフェニル基、2-アントリル基、9-アントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、9-フェナントリル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、9-フルオレニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、3-ペリレニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、4-メチルビフェニル基、ターフェニル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-tert-ブチル-1-ナフチル基、4-ナフチル-1-ナフチル基、6-フェニル-2-ナフチル基、10-フェニル-9-アントリル基、スピロフルオレニル基、2-ベンゾシクロブテニル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は6~18の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、6~10の範囲がより好ましい。
置換アリール基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0048】
~X16におけるシクロアルキル基は、それぞれ独立して選択される。シクロアルキル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、4-tert-プチルシクロヘキシル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基の炭素数は3~12の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は3~6の範囲内であることがより好ましい。置換シクロアルキル基の置換基は、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0049】
~X16におけるアルケニル基は、それぞれ独立して選択される。アルケニル基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルケニル基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基は、一般的に、その構造内に一つの二重結合を有する基を指すが、本明細書において、アルケニル基は、その構造内に複数の二重結合を有してもよい。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、1,3-ブタジエニル基等を挙げることができる。アルケニル基の炭素数は、2~18の範囲内であることが好ましい。上記炭素数は、2~10であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。置換アルケニル基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0050】
上記R、R~R11、及びX~X24における複素環基は、それぞれ独立して選択される。複素環基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
複素環基としては、脂肪族複素環基や芳香族複素環基が挙げられる。具体例としては、ピリジル基、ピラジル基、ピペリジノ基、ピラニル基、モルホリノ基、アクリジニル基等が挙げられる。また、下記構造式で表される基も挙げられる。複素環基の炭素数(環を構成する炭素数)は、4~12であることが好ましい。環員数は、5~13であることが好ましい。
【0051】
【化4】
【0052】
置換複素環基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換複素環基は、例えば、複素環基3-メチルピリジル基、N-メチルピペリジル基、N-メチルピローリル基等が挙げられる。
【0053】
上記R、X18、及びX19におけるアルコキシ基は、それぞれ独立して選択される。アルコキシ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アルコキシ基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシル基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2-エチルへキシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシル基の炭素数は1~6の範囲内であることが好ましい。
置換アルコキシル基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。
【0054】
置換アルコキシ基の置換基としては、上記アルキル基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換アルコキシ基の具体例としては、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロポキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-ブトキシエトキシ基、2-ニトロプロポキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0055】
上記R、X18、及びX19におけるアリールオキシ基は、それぞれ独立して選択される。アリールオキシ基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。
アリールオキシ基としては、単環または縮合多環のアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基は、単環のアリールオキシ基が好ましい。また、炭素数6~12のアリールオキシ基が好ましい。
【0056】
置換アリールオキシ基の置換基としては、上記アリール基における置換基として例示した置換基と同じであってよい。置換アリールオキシ基として、例えば、p-ニトロフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基、2,4-ジクロロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、2-メチル-4-クロロフェノキシ基等が挙げられる。
【0057】
上記Z、及びRにおけるアルキレン基は、それぞれ独立して選択される。アルキレン基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アルキレン基としては、上記アルキル基から一つの水素原子を除いた二価の基が挙げられる。置換もしくは無置換のアルキレン基の具体例としては、-CH-CH-、-CH-CH-CH-NHCO-CH-CH-、-CH-CH-CH-OCO-CH-CH-、-CH-CH-CH-O-CH-CH-等が挙げられる。
【0058】
上記Z、及びRにおけるアリーレン基は、それぞれ独立して選択される。アリーレン基は、置換基を有しても、非置換であってもよい。アリーレン基としては、アリール基から一つの水素原子を除いた二価の基が挙げられる。アリーレン基は、炭素数6~10の範囲であることが好ましい。一実施形態において、アリーレン基は、フェニレン基、またはナフチレン基であってよい。置換もしくは無置換のアリーレン基の具体例としては、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0059】
【化5】
【0060】
本発明の一実施形態は、上記蛍光色素を含む蛍光標識剤に関する。この蛍光標識剤は、生化学研究から医療診断までの幅広い分野において、バイオイメージングでの蛍光標識のために応用可能である。例えば、遺伝子診断分野、免疫診断分野、医療開発分野、再生医療分野、環境試験分野、バイオテクノロジー分野、及び蛍光検査等の分野において、蛍光標識等の用途で使用することができる。
【0061】
なかでも、上記実施形態の蛍光標識剤は、蛍光色素における、-Z-R-R-Rで表される構造(置換基)が、リン脂質に対して相互作用する機能を担っている。そのため、リン脂質集積型の蛍光標識剤として好適に使用できる。リン脂質集積型蛍光標識剤は、細胞膜の染色、エクソソームの追跡、及びドラッグデリバリーシステム(DDS)のためのリポソームイメージングなどにおいて、蛍光標識剤として好適に使用できる。
【0062】
上記実施形態の蛍光標識剤において、蛍光色素の濃度は特に限定されない。例えば、細胞を取り扱う場合、細胞の機能障害、及び増殖阻害等への影響を考慮すると、蛍光色素の濃度は低い方が好ましい。一実施形態において、例えば、96ウェルプレートに播種した10,000cells/wellの細胞に対する上記蛍光色素の濃度は、100μM以下であることが好ましい。上記濃度は、50μM以下であることがより好ましく、10μM以下であることがさらに好ましい。上記実施形態の蛍光標識剤によれば、リン脂質への優れた集積性によって、低濃度の蛍光色素であっても高い蛍光強度でイメージングできる。そのため、例えば2μM以下の低濃度であっても、より高精度な検出を行うことができる。
【0063】
上記実施形態の蛍光標識剤は、上記実施形態の蛍光色素を含有していればよいが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、当技術分野で周知の成分であってよい。例えば、溶剤、及び両親媒性物質等が挙げられる。
【0064】
溶剤は、水、又は有機溶剤であってよく、水がより好ましい。蛍光色素の溶解性を考慮し、水と有機溶剤とを混合して使用してもよい。例えば、有機溶剤は、エタノール、又はジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0065】
両親媒性物質とは、一つの分子内に親水基と疎水基とを有する化合物の総称である。具体例として、界面活性剤、又はリン脂質等が挙げられる。両親媒性物質は、1類のみを使用しても、又は2種以上を混合して使用してもよい。上記実施形態の蛍光標識剤において、両親媒性物質は、特に限定されず、近赤外領域で蛍光を発する非水溶性の蛍光色素を水に可溶化できれば、いかなる化合物でもよい。特に限定するものではないが、使用できる両親媒性物質の具体例を以下に挙げる。
【0066】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び高分子界面活性剤などを挙げることができる。
【0067】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、及びTween(登録商標)80等のポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Cremophor(登録商標)EL、及びCremophor(登録商標)RH60等のポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、Solutol(登録商標)HS 15等の12-ヒドロキシステアリン酸-ポリエチレングリコールコポリマー、並びに、Triton(登録商標)X-100、及びTriton(登録商標)X-114等のオクチルフェノールエトキシレート、などを挙げることができる。
【0068】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、及び塩化ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)等のアルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、及び塩化ベンゼトニウム、などを挙げることができる。
【0069】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、及びノニルベンゼンスルホネート、並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0070】
高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリアルキル、ポリエチレングリコール-ポリ乳酸、ポリエチレングリコール-ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール-ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール-ポリ(ラクチド-グリコリド)等のブロック共重合体を挙げることができる。
【0071】
一実施形態において、上記実施形態の蛍光標識剤は、両親媒性物質として上記例示した化合物の1種又は2種以上を含んでよい。しかし、上記実施形態の蛍光標識剤は、リン脂質などの標的部位に対する集積性に優れるため、両親媒性物質を必要とすることなく、高い感度での検出が可能である。
【0072】
上記実施形態の蛍光標識剤において、蛍光色素は、フタロシアニン色素を含むことが好ましい。フタロシアニン色素の合成方法は、特に限定されない。例えば、先ず、フタロニトリル誘導体を原料として公知の方法でフタロシアニン骨格を有する色素(フタロシアニン金属錯体)を合成する。次いで、上記色素に、置換基(-Z-R-R-R)を有する成分を加え、これらをジメチルスルホキシド溶媒中で加熱撹拌しながら反応させる。このような反応によって、所望とする蛍光色素を得ることができる。上記置換基を有する成分として、例えば、後述の実施例において酸性化合物、又は軸配位子として示す化合物を使用することができる。
【0073】
原料であるフタロニトリル誘導体が非対称の構造である場合、フタロシアニンは、置換基の位置が異なる異性体の混合物として得られる。以下、本明細書においては、フタロシアニン構造の一例のみを示すが、置換基の位置が異なる異性体を排除するものではない。
【0074】
本発明の一実施形態である蛍光色素の具体例としては、以下が挙げられる。但し、本発明による蛍光色素は、これらに限定されない。
【0075】
【表1-1】
【0076】
【表1-2】
【0077】
【表1-3】
【0078】
【表1-4】
【0079】
上記例示した蛍光色素において、蛍光色素1~37は、それぞれフタロシアニン色素の骨格(色素の残基)を有する蛍光色素である。蛍光色素38は、ジケトピロロピロール色素の骨格を有する蛍光色素である。蛍光色素39及び40は、キサンテン色素の骨格を有する蛍光色素である。
蛍光色素41は、下記構造を有するボロンジピロメテン色素の骨格(色素の残基)を有する蛍光色素である。例えば、蛍光色素41における置換基「-Z-R-R-R」は、Zが-C-、Rが-C(=O)NH-、Rが-C-、Rが-N(CHである。
【0080】
【化6】
【0081】
【表1-5】
【0082】
【表1-6】
【0083】
【表1-7】
【0084】
【表1-8】
【0085】
上記例示した蛍光色素において、蛍光色素42~59は、それぞれフタロシアニン色素の骨格を有する蛍光色素である。蛍光色素60は、ジケトピロロピロール色素の骨格を有する蛍光色素である。蛍光色素61は、キサンテン色素の骨格を有する蛍光色素である。蛍光色素62は、シアニン色素の骨格を有する蛍光色素である。蛍光色素63は、ボロンジピロメテン色素の骨格を有する蛍光色素である。
【0086】
特に限定するものではないが、一実施形態において、蛍光標識剤は、耐久性などの安定性の観点から、フタロシアニン色素の骨格を有する蛍光色素を含むことが好ましい。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中「部」とは、「質量部」を表す。
【0088】
(質量分析)
質量分析装置(TOF-MS:ブルカー・ダルトニクス社製 autoflexII)により分析した。
【0089】
<I>蛍光色素
[製造例1]
<化合物A-1の製造方法>
キノリン50部と無水塩化アルミニウム1部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-エトキシフタロニトリルを5部添加し、これらを180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部、及び10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、4.7部の表2に示す化合物A-1を得た(収率88.4%)。
【0090】
[製造例2~11]
<化合物A-2~A-10の製造方法>
化合物A-1の製造方法で使用した3-エトキシフタロニトリルと無水塩化アルミニウムを、表2に示すフタロニトリル誘導体と金属源に変更した以外は、化合物A-1の製造と同様にして、表2に示す化合物A-2~A-10をそれぞれ製造した。なお、フタロニトリル誘導体、及び金属源は、化合物A-1の製造における3-エトキシフタロニトリル、及び無水塩化アルミニウムと同じモル量で使用した。
【0091】
【表2-1】
【0092】
【表2-2】
【0093】
[製造例11]
<化合物B-1の製造方法>
化合物A-1を3部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)10部に溶解させた溶液に対して、水酸化カリウム0.45部を水1部に溶解させた水溶液を全量添加した。これらを110℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水100部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、2.9部の表3に示す化合物B-1を得た(収率99.2%)。
【0094】
[製造例12~15]
<化合物B-2~B-5の製造方法>
化合物B-1の製造方法で使用した化合物A-1を表3に示す化合物Aに変更した以外は、化合物B-1の製造と同様にして、表3に示す化合物B-2~B-5をそれぞれ製造した。なお、化合物Aは、化合物B-1の製造における化合物A-1と同じモル量で使用した。
【0095】
【表3】
【0096】
[製造例16]
<化合物C-1の製造方法>
キノリン50部と無水塩化アルミニウム1部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-エトキシフタロニトリルを3.8部と4―フルオロフタロニトリルを1.1部添加した。これらを180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部と10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体(粗製物)を、中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、1.6部の表4に示す化合物C-1を得た(収率30.5%)。
【0097】
[製造例17~19]
<化合物C-2~C-4の製造方法>
化合物C-1の製造方法で使用した無水塩化アルミニウムを表4に示す金属源に変更した以外は、化合物C-1の製造と同様にして、表4に示すフタロシアニンC-2~C-4をそれぞれ製造した。なお、金属源は、化合物C-1の製造における無水塩化アルミニウムと同じモル量で使用した。
【0098】
【表4】
【0099】
[実施例1]
<蛍光色素1の製造方法>
化合物B-1を1部と、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン0.6部とをピリジンに溶解させ、この溶液を115℃で3時間還流して反応液を得た。エバポレーターを用いて反応液からピリジンを除去した後、エタノール10部と水50部の混合溶液を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.39部の表1に示す蛍光色素1を得た(収率33.7%)。質量分析の結果、m/z=848.64(理論値847.99)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素1の構造を有することが同定された。
【0100】
[実施例2~5]
<蛍光色素2~5の製造方法>
蛍光色素1の製造方法で使用した化合物B-1を表5に示す化合物Bに変更した以外は、蛍光色素1の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素2~5をそれぞれ製造した。なお、化合物Bは、蛍光色素1の製造における化合物B-1と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素2~5の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0101】
【表5】
【0102】
[実施例6]
<蛍光色素6の製造方法>
化合物A-1を0.7部と、4-(3-アミノプロピル)ベンゼンスルホン酸0.4部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、さらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.3部を添加し、これらを90℃で5時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.36部の表1に示す蛍光色素6を得た(収率41.6%)。質量分析の結果、m/z=916.57(理論値915.96)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素6の構造を有することが同定された。
【0103】
[実施例7~14]
<蛍光色素7~14の製造方法>
蛍光色素6の製造方法で使用した化合物A-1と4-(3-アミノプロピル)ベンゼンスルホン酸を、表6に示す化合物Aと酸性化合物に変更した以外は、蛍光色素6の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素7~14をそれぞれ製造した。なお、化合物A及び酸性化合物は、蛍光色素6の製造における化合物A-1及び4-(3-アミノプロピル)ベンゼンスルホン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素7~14の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0104】
【表6】
【0105】
[実施例15]
<蛍光色素15の製造方法>
化合物A-1を0.5部と、(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸0.29部とをジメチルスルホキシド20部に溶解させ、この溶液を80℃で8時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水50部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.46部の表1に示す蛍光色素15を得た(収率74.4%)。質量分析の結果、m/z=929.46(理論値928.88)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素15の構造を有することが同定された。
【0106】
[実施例16~18]
<蛍光色素16~18の製造方法>
蛍光色素15の製造方法で使用した化合物A-1と(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸を、表7に示す化合物Aと酸性化合物に変更した以外は、蛍光色素15の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素16~18をそれぞれ製造した。なお、化合物A及び酸性化合物は、蛍光色素15の製造における化合物A-1及び(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素16~18の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0107】
【表7】
【0108】
[実施例19]
<蛍光色素19の製造方法>
蛍光色素1を0.5部と、ヨウ化メチルを0.8部と、炭酸カリウム0.8部とをテトラヒドロフラン50部に溶解させ、この溶液を25℃で5時間反応させた。エバポレーターを用いて反応液からテトラヒドロフランを除去した後、テトラヒドロフラン20部と水60部を加えた。次いで、析出物した固体をろ取し、水60部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.21部の表1に示す蛍光色素19を得た(収率33.3%)。質量分析の結果、m/z(positive)=892.25(理論値891.08)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素19の構造を有することが同定された。
【0109】
[実施例20~23]
<蛍光色素20~23の製造方法>
蛍光色素19の製造方法で使用したヨウ化メチルと蛍光色素1を、表8に示すヨウ化化合物とアミン類に変更した以外は、蛍光色素19の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素20~23をそれぞれ製造した。なお、ヨウ化化合物及びアミン類は、蛍光色素19の製造におけるヨウ化メチル及び蛍光色素1と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素20~23の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0110】
【表8】
【0111】
[実施例24]
<蛍光色素24の製造方法>
蛍光色素1を0.06部と、無水コハク酸0.007部とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)5部に溶解させ、この溶液を90℃で4時間反応させた。遠心エバポレーターを用いて反応液からNMPを除去した後、水5部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水5部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.041部の表1に示す蛍光色素24を得た(収率61.1%)。質量分析の結果、/z=949.07(理論値948.06)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素24の構造を有することが同定された。
【0112】
[実施例25~30]
<蛍光色素25~30の製造方法>
蛍光色素24の製造方法で使用した無水コハク酸と蛍光色素1を、表9に示す無水コハク酸誘導体とアミン類に変更した以外は、蛍光色素24の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素25~30をそれぞれ製造した。なお、無水コハク酸誘導体及びアミン類は、蛍光色素24の製造における無水コハク酸及び蛍光色素1と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素25~30の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0113】
【表9】
【0114】
[実施例31]
<蛍光色素31の製造方法>
化合物C-1を1.0部と、(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸0.6部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、さらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.4部を添加した後、この溶液を90℃で8時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。得られた固体(粗製物)を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、0.72部の表1に示す蛍光色素31を得た(収率60.1%)。質量分析の結果、m/z=901.46(理論値900.82)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素31の構造を有することが同定された。
【0115】
[実施例32~37]
<蛍光色素32~37の製造方法>
蛍光色素31の製造方法で使用した化合物C-1と(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸を、表10に示す化合物Cと酸性化合物に変更した以外は、蛍光色素31の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素32~37をそれぞれ製造した。なお、化合物C及び酸性化合物は、蛍光色素31の製造における化合物C-1及び(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素32~37の構造は、質量分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
【0116】
【表10】
【0117】
[実施例38]
<蛍光色素38の製造方法>
ジケトピロロピロール系色素であるPigmentRED255(東京化成製)を1.0部と、4-ブロモ酪酸0.6部と、水素化ナトリウム(60%)0.1部とを、N,N-ジメチルホルムアミド50部に溶解させ、この溶液を90℃で4時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体(粗製物)を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、0.70部の表1に示す蛍光色素38を得た(収率53.9%)。質量分析の結果、m/z=375.28(理論値374.40)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素38の構造を有することが同定された。
【0118】
[実施例39]
<蛍光色素39の製造方法>
5-カルボキシフルオレセイン(東京化成製)を1.0部と、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン0.3部と、パラトルエンスルホン酸0.1部とをキシレン50部に溶解させ、この溶液を140℃で24時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、エバポレーターを用いて反応液からキシレンを除去し、石油エーテルを50部加えた。次いで、不溶物を吸引ろ過によって除去した後、エバポレーターを用いて石油エーテルを除去し、固体を得た。この固体を80℃で乾燥させ、0.57部の表1に示す蛍光色素39を得た(収率46.6%)。質量分析の結果、m/z=461.37(理論値460.49)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素39の構造を有することが同定された。
【0119】
[実施例40]
<蛍光色素40の製造方法>
RhodaminB(東京化成製)を1.0部と、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン0.2部と、パラトルエンスルホン酸0.1部とをキシレン50部に溶解させ、この溶液を140℃で24時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、エバポレーターを用いて反応液からキシレンを除去し、石油エーテルを50部加えた。次いで、不溶物を吸引ろ過によって除去した後、エバポレーターを用いて石油エーテルを除去し、固体を得た。この固体を80℃で乾燥させ、0.46部の表1に示す蛍光色素40を得た(収率39.1%)。質量分析の結果、m/z=564.02(理論値563.18)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素40の構造を有することが同定された。
【0120】
[実施例41]
<蛍光色素41の製造方法>
BODIPY系色素であるBDP FL(東京化成製)を1.0部と、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン0.3部とをキシレン50部に溶解させ、この溶液を140℃で24時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、エバポレーターを用いて反応液からキシレンを除去し、石油エーテルを50部加えた。次いで、不溶物を吸引ろ過によって除去した後、エバポレーターを用いて石油エーテルを除去し、固体を得た。この固体を80℃で乾燥させ、0.38部の表1に示す蛍光色素41を得た(収率29.3%)。質量分析の結果、m/z=379.11(理論値378.27)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素41の構造を有することが同定された。
【0121】
【表11】
【0122】
[製造例20]
<化合物A-11の製造方法>
キノリン50部と、無水塩化アルミニウム1部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3、6-ビス(フェニルチオ)フタロニトリルを5部添加し、これらを180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部と10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、表12に示す化合物A-11を得た(収率72.8%)。
【0123】
[製造例21、22]
<化合物A-12、A-13の製造方法>
化合物A-11の製造方法で使用した3、6-ビス(フェニルチオ)フタロニトリルを、表12に示すフタロニトリル誘導体に変更した以外は、化合物A-11の製造と同様にして、表12に示す化合物A-12及びA-13をそれぞれ製造した。なお、フタロニトリル誘導体は、化合物A-11の製造における3、6-ビス(フェニルチオ)フタロニトリルと同じモル量で使用した。
【0124】
【表12】
【0125】
[実施例42]
<蛍光色素42の製造方法>
化合物A-1を0.7部と、1,2-エチレンジホスホン酸0.4部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、さらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.3部を添加した後、この溶液を90℃で5時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.42部の表1に示す蛍光色素1を得た(収率50.6%)。質量分析の結果、m/z=905.35(理論値905.21)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素1の構造を有することが同定された。
【0126】
[実施例43-55]
<蛍光色素43-55の製造方法>
蛍光色素1の製造方法で使用した化合物A-1と1,2-エチレンジホスホン酸を表13に示す化合物Aと軸配位子に変更した以外は、蛍光色素6の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素2~14をそれぞれ製造した。なお、化合物A及び軸配位子は、蛍光色素1の製造における化合物A-1及び1,2-エチレンジホスホン酸と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素2~14の構造は、質量分析装置を用いた分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表3にマススペクトルの分析結果を示した。
【0127】
【表13-1】
【0128】
【表13-2】
【0129】
【表13-3】
【0130】
[製造例23]
<化合物D-1の製造>
スルホラン200部、及び1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)15.7部に、4-ブチルチオ-1,3-ジイミノイソインドリン5部、及び四塩化ケイ素8.8部を加え、これらを160~170℃で8時間にわたって加熱撹拌した。次いで、反応液を室温(25℃)まで冷却し、メタノール200部を加えた。次いで、析出した沈澱物(固体)を濾別して、メタノール:水(質量比4:1)の混合溶液で固体を洗浄後、乾燥して、2.6部の表14に示す化合物D-1を得た(収率63.6%)。質量分析の結果、m/z=751.65(理論値751.24)に分子イオンピークが検出され、表14に示す化合物D-1の構造を有することが確認された。
【0131】
【表14】
【0132】
[実施例56]
<蛍光色素56の製造方法>
化合物B-5を1.0部と1,2-エチレンジホスホン酸0.5部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、さらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.3部を添加し、これらを90℃で5時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.52部の表1に示す蛍光色素1を得た(収率42.3%)。質量分析の結果、m/z=923.47(理論値923.21)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素56の構造を有することが同定された。
【0133】
[製造例57]
<蛍光色素57の製造方法>
蛍光色素1の製造方法で使用した化合物B-5をD-1に変更した以外は、蛍光色素56の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素57を製造した。尚、化合物D-1は、蛍光色素56の製造における化合物B-5と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素57の構造は、質量分析装置を用いた分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表15にマススペクトルの分析結果を示した。
【0134】
【表15】
【0135】
[実施例58]
<蛍光色素58の製造方法>
化合物C-3を0.7部と1,2-ヘキシレンジホスホン酸0.7部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、この溶液にさらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.3部を添加し、これらを90℃で5時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.39部の表1に示す蛍光色素1を得た(収率42.3%)。質量分析の結果、m/z=913.66(理論値913.24)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素58の構造を有することが同定された。
【0136】
[実施例59]
<蛍光色素59の製造方法>
蛍光色素58の製造方法で使用した化合物C-3及び1,2-ヘキシレンジホスホン酸を、表16に示す化合物C-4及び環置換基に変更した以外は、蛍光色素58の製造と同様にして、表1に示す蛍光色素59を製造した。なお、化合物C-4は、蛍光色素17の製造における化合物C-3と同じモル量で使用した。得られた蛍光色素59の構造は、質量分析装置を用いた分析によって同定し、表1に示した構造を有することが確認された。表16にマススペクトルの分析結果を示した。
【0137】
【表16】
【0138】
[実施例60]
<蛍光色素60の製造方法>
ジケトピロロピロール系色素であるPigmentRED255(東京化成)を1.0部と、3-アミノプロピルホスホン酸0.6部と、水素化ナトリウム(60% dispersion)0.1部とをN,N-ジメチルホルムアミド50部に溶解させ、この溶液を90℃で4時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体(粗製物)を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、0.65部の表1に示す蛍光色素60を得た(収率45.5%)。質量分析の結果、m/z=411.52(理論値411.10)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素60の構造を有することが同定された。
【0139】
[実施例61]
<蛍光色素61の製造方法>
5-カルボキシフルオレセイン(東京化成)を1.0部と、3-アミノプロピルホスホン酸0.7部と、パラトルエンスルホン酸0.1部とをキシレン50部に溶解させ、この溶液を140℃で24時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、エバポレーターを用いて反応液からキシレンを除去し、石油エーテルを50部加えた。次いで、不溶物を吸引ろ過によって除去した後、エバポレーターを用いて石油エーテルを除去し、固体を得た。この固体を80℃で乾燥させ、0.75部の表1に示す蛍光色素61を得た(収率51.2%)。質量分析の結果、m/z=551.02(理論値551.18)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素61の構造を有することが同定された。
【0140】
[実施例62]
<蛍光色素62の製造方法>
Cy5-NHS ester(フナコシ)1.0部と、3-アミノプロパノール0.5部と、トリエチルアミン0.5部とをDMF50部に溶解させ、この溶液を室温で12時間反応させた。この反応液に水50部を加え、析出した沈殿物(固体)を濾過し、さらに水で固体を洗浄した。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、0.70部の表1に示す蛍光色素62を得た(収率86.4%)。質量分析の結果、m/z=541.18(理論値541.36)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素62の構造を有することが同定された。
【0141】
[実施例63]
<蛍光色素63の製造方法>
BODIPY系色素であるBDP FL(東京化成製)を1.0部と、3-アミノプロパノール0.3部とをキシレン50部に溶解させ、この溶液を140℃で24時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、エバポレーターを用いて反応液からキシレンを除去し、石油エーテルを50部加えた。次いで、析出した不溶物を吸引ろ過によって除去した後、エバポレーターを用いて反応液から石油エーテルを除去し、固体を得た。この固体を80℃で乾燥させ、0.64部の表1に示す蛍光色素63を得た(収率70.6%)。質量分析の結果、m/z=350.01(理論値350.18)に分子イオンピークが検出され、表1に示す蛍光色素63の構造を有することが同定された。
【0142】
[比較例1]
比較化合物1として、化合物A-1を用いた。
【0143】
[比較例2]
比較化合物2として、化合物A-9を用いた。
【0144】
後述する比較例3~11において、表17に示す比較化合物3~11を製造した。
【0145】
【表17】
【0146】
[比較例3]
<比較化合物3の製造方法>
塩化アルミニウム7.0部と、尿素39部と、モリブデン酸アンモニウム0.2部と、無水トリメリット酸25部とをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)40部に溶解させ、この溶液を139℃で9時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、14.5部の表17に示す比較化合物3を得た(収率59.3%)。質量分析の結果、m/z=751.84(理論値751.00)に分子イオンピークが検出され、表17に示す比較化合物3の構造を有することが同定された。
【0147】
[比較例4]
<比較化合物4の製造方法>
キノリン30部と、無水塩化アルミニウム0.7部との溶液に、アンモニアガスを導入し、さらに3-エトキシフタロニトリルを1.5部と4―オクタデシルオキシフタロニトリルを2.1部添加し、この溶液を180℃で7時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール200部と10%塩酸水溶液200部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水200部で固体の洗浄を行った。洗浄した固体(粗製物)を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製した。得られた精製物を80℃で乾燥させ、0.36部の表17に示す比較化合物4を得た(収率12.6%)。質量分析の結果、m/z=976.44(理論値975.61)に分子イオンピークが検出され、表17に示す比較化合物4の構造を有することが同定された。
【0148】
[比較例5]
<比較化合物5の製造方法>
化合物A-9を1.0部と、トリフェニルシラノール0.35部とをジメチルスルホキシド20部に溶解させ、この溶液を80℃で8時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水50部と食塩10部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、1.00部の表17に示す比較化合物5を得た(収率80.5%)。質量分析の結果、m/z=1282.53(理論値1271.67)に分子イオンピークが検出され、表17に示す比較化合物5の構造を有することが同定された。
【0149】
[比較例6~9]
<比較化合物6~9の製造方法>
比較化合物5の製造方法で使用した化合物A-9とトリフェニルシラノールを、表18に示すハロゲン類と酸性化合物に変更した以外は、比較化合物5の製造と同様にして、表17に示す比較化合物6~9をそれぞれ製造した。なお、ハロゲン類及び酸性化合物は、比較化合物5の製造における化合物A-9及びトリフェニルシラノールと同じモル量で使用した。得られた比較化合物6~9の構造は、質量分析によって同定し、表17に示した構造を有することが確認された。表19にマススペクトルの分析結果を示す。
【0150】
【表18】
【0151】
[比較例10]
<比較化合物10の製造方法>
化合物A-9を2.0部と、パラトルエンスルホン酸1.0部とをジメチルスルホキシド50部に溶解させ、この溶液にさらに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン0.3部を添加した、これらを90℃で5時間反応させた。この反応液を室温まで冷却した後、水100部を加えた。次いで、析出した固体をろ取し、水50部で固体の洗浄を行った。洗浄後の固体を80℃で乾燥させ、1.35部の表17に示す比較化合物10を得た(収率60.0%)。質量分析の結果、m/z=933.67(理論値932.74)に分子イオンピークが検出され、表17に示す比較化合物10の構造を有することが同定された。
【0152】
[比較例11]
<比較化合物11の製造方法>
濃硫酸9.2部と、25%発煙硫酸5.5部との混合溶液に、化合物A-1を1部加え、この溶液を50℃で4時間加熱撹拌した。この反応液を冷却後、80部の氷に添加し、析出した沈澱物(固体)を濾別した。さらに、濾別した固体をテトラヒドロフラン50部に懸濁させ、再度沈澱を濾別した。濾別した固体をテトラヒドロフラン50部で洗浄し、洗浄後の固体を乾燥して、0.5部の粗製物を得た。粗製物を中圧分取液体クロマトグラフ(山善製Smart Flash AKROS)を用いて精製し、0.2部の比較化合物11を得た(収率16.0%)。質量分析の結果、m/z=939.65(理論値940.75)に分子イオンピークが検出され、表17に示す比較化合物11の構造を有することが同定された。
【0153】
比較例3~11で製造した比較化合物3~11のマススペクトルの分析結果を示す。
【表19】
【0154】
[比較例12]
比較化合物12として、シアニン系色素であるXenoLight DIR(住商ファーマ製)を用いた。この化合物は、長鎖アルキレン基を有する従来の蛍光標識剤に相当し、疎水相互作用を介してリン脂質に集積する。
【0155】
【化7】
【0156】
[比較例13]
比較化合物13として、ローダミンB(東京化成製)を用いた。
【0157】
<II>色素溶液
[実施例64]
<色素溶液1の調製>
ジメチルスルホキシド10mlに蛍光色素1を1.696mg溶解した。この溶液を孔径0.2μmのナイロン製メンブレンフィルターを用いてろ過した後、ジメチルスルホキシドで100倍希釈することによって、蛍光色素1の色素溶液1を調製した。
【0158】
[実施例65~126]
<色素溶液2~63の調製>
色素溶液1の調製で使用した蛍光色素1とジメチルスルホキシドを、表20に示す蛍光色素と溶剤に変更した以外は、色素溶液1の調製と同様にして、色素溶液2~63をそれぞれ調製した。但し、各蛍光色素は蛍光色素1と同じモル量、溶剤はジメチルスルホキシドと同じ体積量で使用した。
【0159】
[比較例12~24]
<色素溶液64~76の調製>
色素溶液1の調製で使用した蛍光色素1とジメチルスルホキシドを、表20に示す蛍光色素と溶剤に変更した以外は、色素溶液1の調製と同様にして、色素溶液64~76をそれぞれ調製した。但し、各蛍光色素は蛍光色素1と同じモル量、溶剤はジメチルスルホキシドと同じ体積量で使用した。
【0160】
【表20-1】
【0161】
【表20-2】
【0162】
【表20-3】
【0163】
<色素溶液の蛍光強度評価>
各々の色素溶液について、蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP-6500)を用いて蛍光スペクトルを測定した。さらに、得られた測定値に、表22に示す蛍光波長の範囲内での蛍光強度を足し合わせることで蛍光強度を求めた。また、この時の励起光は色素の最も長波長側の吸収極大波長に相当する波長を用いた。
【0164】
<III>蛍光標識剤
[実施例127]
<蛍光標識剤1の調製>
ジメチルスルホキシド10mlに蛍光色素1を1.696mg溶解した。孔径0.2μmのナイロン製メンブレンフィルターでろ過した後、RPMI1640培地で100倍希釈することで蛍光色素1の蛍光標識剤1を調製した。
【0165】
[実施例128~189]
<蛍光標識剤2~63の調製>
蛍光標識剤1の調製で使用した蛍光色素1とジメチルスルホキシドを、表21に示す蛍光色素と溶剤に変更した以外は、蛍光標識剤1の調製と同様にして、蛍光標識剤2~63をそれぞれ調製した。但し、各蛍光色素は蛍光色素1と同じモル量、溶剤はジメチルスルホキシドと同じ体積量で使用した。
【0166】
[比較例25~37]
<蛍光標識剤64~76の調製>
蛍光標識剤1の調製で使用した蛍光色素1とジメチルスルホキシドを、表21に示す蛍光色素と溶剤に変更した以外は、蛍光標識剤1の調製と同様にして、蛍光標識剤64~76をそれぞれ調製した。但し、各蛍光色素は蛍光色素1と同じモル量、溶剤はジメチルスルホキシドと同じ体積量で使用した。
【0167】
【表21-1】
【0168】
【表21-2】
【0169】
【表21-3】
【0170】
<蛍光標識剤の細胞毒性評価>
ヒト類上皮がん細胞A431を96ウェルプレートに播種(1×10cell/well)した。次いで、10%Fetal Bovine Serum(FBS)及び1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたRPMI1640培地を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で、上記A431を24時間培養した。RPMI1640培地には、シグマアルドリッチ製のRPMl-164- Mediumを使用した。
上記培養の後、培地を取り除き、実施例83~123、及び比較例25~37にて調製した蛍光標識剤と、1%ジメチルスルホキシドを含むRPMI1640培地(DMSO培地溶液)とを添加した。これらをインキュベーター内に1時間静置した後、RPMI1640培地で洗浄した。各wellにセルカウンティングキット-8(同仁化学製)を10μLずつ添加し、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で1時間静置した。次いで、プレートリーダー(TECAN社製、SPARK)を用いて、450nmにおける吸光度を測定した。
DMSO培地溶液を添加したwellの吸光度を1とした時の、各々の蛍光標識剤の吸光度の相対値を算出し、下記の基準に基づいて評価した。評価が「P」であれば細胞毒性を示さないといえる。なお、蛍光標識剤の吸光度の相対値を算出する際には、測定した吸光度からセルカウンティングキット-8(同仁化学製)添加前の吸光度を差し引いた値を用いた。評価結果を表22に示す。
(評価基準)
P(合格):0.8以上
F(不合格):0.8未満
【0171】
<蛍光標識剤の蛍光強度評価>
ヒト類上皮がん細胞A431を96ウェルプレートに播種(1×10cell/well)した。次いで、10%Fetal Bovine Serum(FBS)および1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたRPMI1640培地を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で、上記A431を24時間培養した。
上記培養の後、培地を取り除き、実施例127~167、及び比較例25~37にて調製した蛍光標識剤を添加し、インキュベーター内に1時間静置した。次いで、RPMI1640培地で洗浄した。プレートリーダー(TECAN社製、SPARK)を用いて、表22に示す蛍光波長の範囲内で蛍光強度評価を行った。
【0172】
図1に蛍光標識剤1、15、19、24、25、68、及び75の蛍光強度評価結果を示す。本発明の実施形態である蛍光標識剤1、15、19、24、及び25(実施例)は、比較化合物を用いて調製した蛍光標識剤68及び75(比較例)に比べて、高い蛍光強度を示すことが確認できた。
【0173】
<蛍光色素のリン脂質集積性評価>
表22に示す、色素溶液の蛍光スペクトルにより求めた蛍光強度積分値と、蛍光標識剤の蛍光強度より得た蛍光強度から、式(1)を用いて各色素のリン脂質集積性を算出した。比較化合物12のリン脂質集積性を1とした時の、各々の蛍光標識剤のリン脂質集積性の相対値を算出し、下記の基準に基づいて評価した。評価が3以上である場合、各蛍光色素はリン脂質集積性が良好であるといえる。
(評価基準)
4:リン脂質集積性 4以上
3:リン脂質集積性 2以上、4未満
2:リン脂質集積性 1以上、2未満
1:リン脂質集積性 1未満
【0174】
【数1】
【0175】
リン脂質集積性の評価結果を表22に示す。
本発明の実施形態である蛍光標識剤(実施例)は、比較化合物を用いて調製した蛍光標識剤(比較例)に比べて、高いリン脂質集積性を示すことが確認できた。
【0176】
<細胞の視認性評価>
ヒト類上皮がん細胞A431を96ウェルプレートに播種(1×10cell/well)した。10%Fetal Bovine Serum(FBS)及び1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたRPMI1640培地を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で、上記A431を24時間培養した。
上記培養の後、培地を取り除き、実施例127~189、及び比較例25~37にて調製した蛍光標識剤を添加し、インキュベーター内に1時間静置した。次いで、RPMI1640培地で洗浄した。適切な波長の励起フィルター及び蛍光フィルターを設置した蛍光顕微鏡(キーエンス社製、BZ-X800)を用いて、細胞の暗視野像と蛍光像を観察し、下記の基準に基づいて評価した。評価結果を表22に示す。
(評価基準)
P(合格):明瞭
F(不合格):不明瞭
【0177】
【表22-1】
【0178】
【表22-2】
【0179】
【表22-3】
【0180】
蛍光標識剤1、15、19、24、25、68、及び75で標識した細胞の視認性評価結果を、順に、図2~8に示す(倍率:10倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【0181】
蛍光標識剤42、及び53で標識した細胞の視認性評価結果を、順に、図9及び図10に示す(倍率:40倍、蛍光取り込み時間:1秒)。
【0182】
比較例に対応する図7及び8と、実施例に対応する図2~6、9及び10との対比から明らかなように、本発明の実施形態による蛍光標識剤によれば、特定の置換基に由来して、より高い蛍光強度を示すことが観察された。このように、本発明の実施形態による蛍光標識剤(実施例)は、比較化合物に比べて細胞集積性に優れることによって、より優れた視認性が得られることが分かる。以上のことから、本発明の実施形態による蛍光標識剤は、蛍光標識剤として優れた特性を有することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0179
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0179】