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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097093
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】電池及び電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240710BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240710BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240710BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240710BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020429
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】上野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 長
(72)【発明者】
【氏名】向井 崇将
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA08
5G301CA11
5G301CA12
5G301CA13
5G301CA15
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA18
5G301CA22
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA26
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029CJ03
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050FA02
5H050GA03
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】充放電効率の高い電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかる電池は、正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間にある固体電解質層と、を備える電池要素を含み、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層とのうち少なくとも一つは、Li3+a-e1-bd-e・・・(1)で表される固体電解質を含み、前記電池要素に含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上1mg/g以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間にある固体電解質層と、を備える電池要素を含み、
前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層とのうち少なくとも一つは、以下の式(1)で表される固体電解質を含み、
Li3+a-e1-bd-e・・・(1)
式(1)中において、
EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
Gは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Si、Al、Ti、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Au、Biからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
DはCO、SO、BO、PO、NO、SiO、OH、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
n=(Eの価数)-(Gの価数)としたとき、a=nb、0≦b<0.5、0≦c≦5、0<d≦6.1、0≦e≦2であり、
前記電池要素に含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上1mg/g以下である、電池。
【請求項2】
前記電池要素に含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上0.5mg/g以下である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記電池要素を覆う外装体をさらに備え、
前記電池要素と前記外装体との間の収容空間における水分量は、400ppmv以下である、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
正極活物質層と負極活物質層との間に固体電解質層を挟み、これらを加圧成形し電池要素を作製する素子作製工程と、
前記電池要素を外装体内に収容する収容工程と、を有し、
前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層とのうち少なくとも一つは、以下の式(1)で表される固体電解質を含み、
Li3+a-e1-bd-e・・・(1)
式(1)中において、
EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
Gは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Si、Al、Ti、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Au、Biからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
DはCO、SO、BO、PO、NO、SiO、OH、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
n=(Eの価数)-(Gの価数)としたとき、a=nb、0≦b<0.5、0≦c≦5、0<d≦6.1、0≦e≦2であり、
前記素子作製工程における露点を-30℃より低く-90℃より高くする、電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれており、電解質として固体電解質を用いる全固体電池が注目されている。
【0003】
全固体電池の作製方法の一例として、焼結法と粉末成形法とがある。焼結法は、負極と固体電解質層と正極とを積層後、焼結して全固体電池を形成する。粉末成形法は、負極と固体電解質層と正極とを積層後、圧力を加えて全固体電池を形成する。固体電解質層に用いることができる材料は、製造方法によって異なる。固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質(LiBHなど)などが知られている。
【0004】
特許文献1には、正極と負極と一般式Li3-2XIn1-YM´6-ZL´で表される化合物からなる固体電解質とを有する固体電解質二次電池が開示されている。上記の一般式中、MおよびM´は金属元素であり、LおよびL´はハロゲン元素である。また、X、YおよびZは独立に0≦X<1.5、0≦Y<1、0≦Z≦6を満たす。また正極は、Li元素を含む正極活物質を含有する正極層および正極集電体を備える。また負極は、負極活物質を含有する負極層および負極集電体を備える。
【0005】
特許文献2には、下記の組成式(1)により表される、固体電解質材料が開示されている。
Li6-3Z・・・式(1)
ここで、0<Z<2、を満たし、Xは、ClまたはBrである。
また、特許文献2には、負極と正極のうちの少なくとも1つは、前記固体電解質材料を含む電池が記載されている。
【0006】
特許文献3には、第一固体電解質材料と、第二固体電解質材料と、を有する電極活物質層を備える全固体電池が記載されている。第一固体電解質材料は、単相の電子-イオン混合伝導体であり、活物質と、前記活物質に接触し、前記活物質のアニオン成分とは異なるアニオン成分を有する材料である。第二固体電解質材料は、第一固体電解質材料に接触し、第一固体電解質材料と同じアニオン成分を有し、電子伝導性を有しないイオン伝導体である。第一固体電解質材料は、LiZrSである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-244734号公報
【特許文献2】国際公開第2018/025582号
【特許文献3】特開2013-257992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載された固体電解質は、いずれも充放電効率が十分得られない場合があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、充放電効率の高い電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、電池要素を製造する際に生じるクラックが電池の充放電効率を低下させる一要因であることを見出した。そして電池要素中に含まれる水分がクラックの発生に寄与していることを見出した。すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかる電池は、正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間にある固体電解質層と、を備える電池要素を含み、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層とのうち少なくとも一つは、以下の式(1)で表される固体電解質を含む。
Li3+a-e1-bd-e・・・(1)
式(1)中において、EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Gは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Si、Al、Ti、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Au、Biからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、DはCO、SO、BO、PO、NO、SiO、OH、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、n=(Eの価数)-(Gの価数)としたときa=nbであり、0≦b<0.5、0≦c≦5、0<d≦6.1、0≦e≦2である。また第1の態様にかかる電池の前記電池要素に含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上1mg/g以下である。
【0012】
(2)上記態様にかかる電池において、前記電池要素に含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上1mg/g以下でもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかる電池は、前記電池要素を覆う外装体をさらに備え、前記電池要素と前記外装体との間の収容空間における水分量は、400ppmv以下であってもよい。
【0014】
(4)第2の態様にかかる電池の製造方法は、正極活物質層と負極活物質層との間に固体電解質層を挟み、これらを加圧成形し電池要素を作製する素子作製工程と、前記電池要素を外装体内に収容する収容工程と、を有し、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層とのうち少なくとも一つは、上記式(1)で表される固体電解質を含み、前記素子作製工程における露点を-30℃より低く-90℃より高くする。
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかる電池は、充放電効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態にかかる全固体電池の斜視図である。
図2】本実施形態にかかる全固体電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる全固体電池100の斜視図である。図1に示す全固体電池100は、蓄電素子10と外装体20とを備える。蓄電素子10は、外装体20内の収容空間Kに収容される。図1では、理解を容易にするために、蓄電素子10が外装体20内に収容される直前の状態を図示している。蓄電素子10は、外部と電気的に接続される外部端子12、14を有する。
【0019】
外装体20は、例えば、金属箔22と、金属箔22の両面に積層された樹脂層24と、を有する(図2参照)。外装体20は、金属箔22を高分子膜(樹脂層)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。金属箔22は、例えばアルミ箔である。樹脂層24は、例えば、ポリプロピレン等の高分子膜である。樹脂層24は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の樹脂層として、融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の樹脂層として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等、耐熱性、耐候性、耐酸化性、耐還元性の高いものを用いることができる。
【0020】
図2は、本実施形態にかかる全固体電池100の断面図である。全固体電池100は、正極11、負極13、固体電解質層15と、外部端子12、14と、外装体20とを有する。正極11、負極13、固体電解質層15及び外部端子12、14が蓄電素子10である。蓄電素子10と外装体20との間には、収容空間Kがある。正極11は、正極集電体11Aと正極活物質層11Bとを有する。負極13は、負極集電体13Aと負極活物質層13Bとを有する。固体電解質層15は、例えば、正極活物質層11Bと負極活物質層13Bとの間にある。電池要素ELは、正極活物質層11Bと、固体電解質層15と、負極活物質層13Bとからなる。
【0021】
全固体電池100は、正極集電体11Aと負極集電体13Aを介した電子の授受、固体電解質層15を介したリチウムイオンの授受により充電又は放電する。全固体電池100、正極11、負極13及び固体電解質層15が積層された積層体でも、これらの巻回体でもよい。全固体電池100は、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に用いられる。
【0022】
電池要素ELに含まれる水分量は、単位質量当たり0.01mg/g以上1mg/g以下である。電池要素ELに含まれる水分量は、好ましくは、単位質量当たり0.01mg/g以上0.5mg/g以下である。電池要素ELに含まれる単位質量当たりの水分量は、電池要素ELに含まれる水分の重さを電池要素ELの重さで割って求められる。電池要素ELに含まれる水分量は、例えば、カールフィッシャー法を用いて測定できる。
【0023】
電池要素ELに含まれる単位質量当たりの水分量が0.01mg/g以上1mg/g以下の場合、加圧成型の際において電池要素ELを構成する粒子が流動し、電池要素ELにクラックが発生することを抑制できる。電池要素EL内のクラックを抑制することで、全固体電池100の充放電効率が向上する。これは、クラックを迂回する電流やリチウムイオンの流れが生じにくく、充電、放電反応が局所的に不均一になることを抑制できるためである。
【0024】
電池要素ELに含まれる水分量が多い場合、加圧成型の際に、治具と電池要素ELとが強く密着する場合がある。そのため、電池要素ELを治具から外す際にクラックが生じやすくなる。上述のように、電池要素EL内のクラックは、局所的に不均一な充電/放電反応の原因となりえる。
【0025】
これに対し、電池要素ELに含まれる水分量が少なすぎる場合は、加圧成型の際において電池要素ELを構成する粒子が流動しにくくなり、粒子同士の密着が不均一になり、電池要素ELにクラックが生じやすくなる。上述のように、電池要素EL内のクラックは、局所的に不均一な充電/放電反応の原因となりえる。
【0026】
収容空間Kにおける水分量は、例えば、400ppmv以下である。収容空間Kにおける水分量は、例えば、0.5ppmv以上120ppmv以下であることが好ましい。収容空間K内の水分量が当該範囲であれば、固体電解質と水分との反応によるハロゲン化ガスの発生を抑制できる。ハロゲン化ガスは、電池要素ELの金属部分(集電体や導電助剤、収納容器など)に腐食を生み出し、集電機能を低下させる一因である。ハロゲン化ガスの発生が抑制されると、電気化学反応が局所的に不均一になることを抑制でき、全固体電池100の充放電効率がより向上する。
【0027】
「固体電解質層」
固体電解質層15は、固体電解質を含む。固体電解質層15は、例えば、下記式(1)で表される固体電解質を含む。
Li3+a-e1-bd-e・・・(1)
【0028】
上記の式(1)中において、Eは3価または4価の元素である。Eは、例えば、Al、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。ランタノイドは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。固体電解質がEの元素を含むと、固体電解質層の電位窓が広がり、イオン電導度が高まる。Eは、ScまたはZrを含むことが好ましく、Zrであることが特に好ましい。EがScまたはZrを含むと、固体電解質のイオン電導度が高まる。
【0029】
上記の式(1)で表される固体電解質において、Gは、必要に応じて含有される元素である。Gは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Si、Al、Ti、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Au、Biからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。固体電解質がGの元素を含むと、キャリアイオンであるリチウムイオン量が増減してイオン伝導度が高くなるとともに、還元側の電位窓が広くなる。
【0030】
式(1)におけるGは、上記のうちNa、K、Rb、Cs、Agから選ばれる1価の元素であってもよい。Gが1価の元素である場合、イオン伝導度が高く還元側の電位窓が広い固体電解質となる。Gは特に、Naおよび/またはCsが好ましい。
【0031】
式(1)におけるGは、上記のうちMg、Ca、Ba、Sr、Cu、Snから選ばれる2価の元素であってもよい。Gが2価の元素である場合、キャリアイオンが増加しイオン伝導度が高く還元側の電位窓が広い固体電解質となる。Gは特に、Mgおよび/またはCaが好ましい。
【0032】
式(1)におけるGは、上記のうちAl、Y、In、Au、Biから選ばれる3価であってもよい。Gが3価の元素である場合、キャリアイオンが増加しイオン伝導度の高い固体電解質となる。Gは特に、In、Au、Biからなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0033】
式(1)におけるGは、上記のうち4価の元素であるZr、Hf、Snであってもよい。Gが4価の元素である場合、イオン伝導度の高い固体電解質となる。Gは特に、Hfおよび/またはZrを含むことが好ましい。
【0034】
式(1)におけるGは、上記のうちNb、Sb、Taから選ばれる5価の元素であってもよい。Gが5価の元素である場合、ホールが形成されキャリアイオンが移動しやすくなるためイオン伝導度の高い固体電解質となる。Gは特に、Sbおよび/またはTaを含むことが好ましい。
【0035】
式(1)におけるGは、上記のうち6価の元素であるWであってもよい。Gが6価の元素である場合、イオン伝導度の高い固体電解質となる。
【0036】
式(1)におけるDは、必要に応じて含有される元素である。DはCO、SO、BO、PO、NO、SiO、OH、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。固体電解質がDを含むと、固体電解質の還元側の電位窓が広いものとなる。Dは、SO、BO、CO、PFからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましく、特にSOであることが好ましい。DとEとの間の共有結合性が強いと、EとXとの間のイオン結合も強くなる。このため、化合物中のEが還元されにくく、還元側の電位窓が広い化合物になるものと推定される。
【0037】
式(1)におけるXは、必須の元素である。Xは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種以上である。Xは、価数当たりのイオン半径が大きい。固体電解質がXを含むことにより、固体電解質内におけるリチウムイオンの電導度が高まる。固体電解質のイオン伝導度を高めるためには、XはClを含むことが好ましい。固体電解質の耐酸化性および耐還元性のバランスを高めるためには、XはFを含むことが好ましい。固体電解質の還元耐性を高めるためにはXはIを含むことが好ましい。
【0038】
式(1)において、n=(Eの価数)-(Gの価数)としたときa=nbである。式(1)においてb=0の場合(Gを含まない場合)は、a=0である。式(1)において、aはGの価数に応じて決定される上記の数値である。
【0039】
式(1)において、bは0以上0.5未満である。式(1)で表される固体電解質は、Eを必須元素として含む一方、Gは含まなくてもよい。bが0.1以上であれば、固体電解質がGを含むことで得られる効果を十分に得られる。またbが0.5未満であると、Gの含有量が多すぎることにより、固体電解質のイオン伝導度が低下することを抑制できる。bは0.45以下であることが好ましい。
【0040】
式(1)において、cは0以上5以下である。したがって、Dは、固体電解質に含まれていなくてもよい。式(1)で表される化合物にDが含まれている場合、cは0.1以上であることが好ましい。cが0.1以上であると、Dを含むことによるイオン伝導度向上効果が十分に得られる。Dの含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、cは5以下であり、2.5以下であることが好ましい。
【0041】
式(1)において、dは、0より大きく6.1以下である。dが6.1以下であると、Xの含有量が多すぎることにより固体電解質のイオン伝導度が低下することを抑制できる。
【0042】
式(1)において、eは、0以上2以下である。式(1)が0<eを満たすと、式(1)で表される化合物に含まれるLi含有量およびX含有量が適正となり、固体電解質のイオン伝導度が高まる。式(1)がe≦2を満たすと、式(1)で表される化合物に含まれるLi含有量およびX含有量が不足することにより固体電解質のイオン伝導度が低下することを抑制できる。
【0043】
電位窓が広く、イオン伝導度の高い固体電解質を得るために、式(1)で表される固体電解質は、EがZrでありXがClであることが好ましい。具体的には、式(1)で表される化合物は、イオン伝導度と電位窓のバランスが良好な固体電解質となるため、LiZrClまたはLiZrClSOあることが好ましい。
【0044】
固体電解質層15は、式(1)で表される固体電解質とともに、他の物質を含んでもよい。他の物質は、例えば、LiO、LiX(XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種以上である。)、Sc、ScX(XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。)、GO(Gは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Si、Al、Ti、Cu、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Au、Biからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。Gの価数がm価のときn=m/2である。)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【0045】
固体電解質層15が上記他の物質を含むと、固体電解質層15のイオン伝導度が高まる。その理由の詳細は不明であるが、次のように考えられる。固体電解質層15において、上記の他の物質は、式(1)で表される固体電解質からなる粒子間におけるイオン的な接続を助ける機能を有する。このことにより、式(1)で表される固体電解質の粒子間における粒界抵抗が小さくなり、固体電解質層15全体としてのイオン電導度が高まると推定される。
【0046】
固体電解質層15における他の物質の含有量は、例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下である。他の物質の含有量が0.1質量%以上であると、粒子間の粒界抵抗を小さくする効果が顕著となる。また、他の物質の含有量が1.0質量%以下であると、固体電解質層15が硬くなり、粒子間のイオン的な接続を助ける界面が粒子間に良好に形成されにくくなることがない。
【0047】
固体電解質層15は、結着材を含んでも良い。固体電解質層15は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などのイミド系樹脂、イオン導電性高分子等を含んでもよい。イオン導電性高分子は、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF、LiTFSI等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させた化合物である。結着材の含有率は固体電解質層15全体の0.1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。結着材は、固体電解質層15の固体電解質間の良好な接合を維持することを助け、固体電解質間のクラックなどの発生を防止し、イオン伝導性の低下、粒界抵抗の増大を抑制する。
【0048】
「正極」
図2に示すように、正極11は、例えば、正極集電体11Aと、正極活物質を含む正極活物質層11Bとを有する。
【0049】
(正極集電体)
正極集電体11Aは、導電率が高いことが好ましい。例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属およびそれらの合金、または導電性樹脂を用いることができる。正極集電体11Aは、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。正極集電体11Aの集電機能を低下させない観点から、アルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、加熱真空乾燥などにより脱水したガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて、正極集電体11Aを保管することが好ましい。グローブボックス内の露点は、例えば、-30℃より低く-90℃より高くする。
【0050】
(正極活物質層)
正極活物質層11Bは、正極集電体11Aの片面又は両面に形成される。正極活物質層11Bは、正極活物質を含む。正極活物質層11Bは、例えば、上記の式(1)で表される固体電解質を含んでもよい。また正極活物質層11Bは、導電助剤、結着材を含んでもよい。
【0051】
正極活物質層11Bに用いる正極合剤は、例えばアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、メノウ乳鉢やポットミル、ブレンダー、ハイブリッドミキサーなどを用いて混合して作製される。電池要素ELの加圧成型を良好に行う観点から、グローブボックス内の露点は、-30℃より低く-90℃より高くすることが好ましい。グローブボックス内の酸素濃度は、例えば、1ppm以下とする。
【0052】
(正極活物質)
正極活物質層11Bに含まれる正極活物質は、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物である。
【0053】
正極活物質は、リチウムイオンの放出及び吸蔵、リチウムイオンの脱離及び挿入を可逆的に進行させることが可能であれば、正極活物質として特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池に用いられている正極活物質を使用できる。正極活物質は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV、Li(PO、LiVOPO4)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、V、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素を示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物である。
正極活物質層11Bに用いる正極活物質は、加圧成型を良好に行う観点から、アルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、加熱真空乾燥などにより脱水したガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて保管すると良い。グローブボックス内の露点は、-30℃以下-90℃以上とすることが好ましい。
【0054】
また、あらかじめ負極に金属リチウムやリチウムイオンをドープした負極活物質を配置しておけば、電池を放電から開始することで、リチウムを含有していない正極活物質も使用できる。このような正極活物質としては、リチウム非含有金属酸化物(MnO、Vなど)、リチウム非含有金属硫化物(MoSなど)、リチウム非含有フッ化物(FeF、VFなど)などが挙げられる。
【0055】
「負極」
図2に示すように、負極13は、例えば、負極集電体13Aと、負極活物質を含む負極活物質層13Bとを有する。
【0056】
(負極集電体)
負極集電体13Aは、導電率が高いことが好ましい。例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属およびそれらの合金、または、導電性樹脂を用いることが好ましい。負極集電体13Aは、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。また負極集電体の集電機能を低下させない観点から、アルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、加熱真空乾燥などにより脱水したガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて、負極集電体13Aを保管すると良い。グローブボックス内の露点は、-30℃より低く-90℃より高くすることが好ましい。
【0057】
(負極活物質層)
負極活物質層13Bは、負極集電体13Aの片面又は両面に形成される。負極活物質層13Bは、負極活物質を含む。負極活物質層13Bは、例えば、上記の式(1)で表される固体電解質を含んでもよい。また負極活物質層13Bは、導電助剤、結着材を含んでもよい。
【0058】
負極活物質層13Bに用いる負極合剤は、例えばアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、メノウ乳鉢やポットミル、ブレンダー、ハイブリッドミキサーなどを用いて混合して作成される。電池要素ELの加圧成型を良好に行う観点からグローブボックス内の露点は、-30℃より低く-90℃より高くすることが好ましい。グローブボックス内の酸素濃度は、例えば、1ppm以下とする。
【0059】
(負極活物質)
負極活物質層13Bに含まれる負極活物質は、可動イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、アルカリ金属単体、アルカリ金属合金、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ、ゲルマニウムおよびその合金等のアルカリ金属等の金属と化合することのできる金属、SiO(0<x<2)、酸化鉄、酸化チタン、二酸化スズ等の酸化物、チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム金属酸化物である。負極活物質層13Bに用いる負極活物質は、加圧成型を良好に行う観点からアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、加熱真空乾燥などにより脱水したガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて保管すると良い。グローブボックス内の露点は、-30℃より低く以下-90℃より高くすることが好ましい。
【0060】
(導電助剤)
導電助剤は、正極活物質層11B、負極活物質層13Bの電子伝導性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。導電助剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料や、金、白金、銀、パラジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属、ITOなどの伝導性酸化物、またはこれらの混合物が挙げられる。導電助剤は、粉体、繊維の各形態であっても良い。また集電機能を低下させない観点からアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、加熱真空乾燥などにより脱水したガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて、導電助剤を保管すると良い。グローブボックス内の露点は、-30℃より低く-90℃より高くすることが好ましい。
【0061】
(結着材)
結着材は、正極集電体11Aと正極活物質層11B、負極集電体13Aと負極活物質層13B、正極活物質層11B、および負極活物質層13Bと固体電解質層15、正極活物質層11Bを構成する各種材料、負極活物質層13Bを構成する各種材料を接合する。
【0062】
結着材は、正極活物質層11B、負極活物質層13Bの機能を失わない範囲内で用いることが好ましい。結着材は、上述の接合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、結着材として、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、結着材として電子伝導性を有する導電性高分子や、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性を有する導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、結着材が導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性を有するイオン導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等を伝導するものを使用することができ、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤などである。結着材に要求される特性としては、酸化・還元耐性があること、接着性が良いことが挙げられる。
【0063】
正極活物質層11B中のバインダーの含有量は特に限定されないが、正極活物質層の0.5~30体積%であることが正極活物質層11Bの抵抗を低くする観点から好ましい。エネルギー密度を向上させる観点から正極活物質層11B中のバインダーの含有量は、0体積%が好ましい。
【0064】
負極活物質層13B中のバインダーの含有量は特に限定されないが、負極活物質層の0.5~30体積%であることが負極活物質層13Bの抵抗を低くする観点から好ましい。エネルギー密度を向上させる観点から正極活物質層11B中のバインダーの含有量は、0体積%が好ましい。
【0065】
正極活物質層11B、負極活物質層13B、固体電解質層15のうち少なくとも1つには、電池特性の一つであるレート特性を向上させる目的で、非水電解液、イオン液体、ゲル電解質を混合してもよい。
【0066】
「固体電解質の製造方法」
式(1)で表される固体電解質の製造方法について説明する。固体電解質は、目的とする組成となるように所定のモル比で原料粉末を混合、反応させることで得られる。反応させる方法は問わないが、メカノケミカルミリング法、焼結法、溶融法、液相法、固相法などを用いることができる。
【0067】
固体電解質は、例えばメカノケミカルミリング法により製造できる。まず、遊星ボールミル装置を準備する。遊星ボールミル装置は、専用容器にメディア(粉砕またはメカノケミカル反応を促進するための硬いボール)と材料を投入し、自転および公転を行い、材料を粉砕または材料同士のメカノケミカル反応を起こさせる装置である。
【0068】
例えばアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で、ジルコニア製の容器に、所定量のジルコニアボールを用意する。目的の化合物を安定して合成する観点からグローブボックス内の露点は、-30℃より低く-90℃より高くすることが好ましい。グローブボックス内の酸素濃度は、例えば、1ppm以下とする。
【0069】
次いで、目的とする組成となるように、ジルコニア製の容器に、所定のモル比で所定の原材料を用意し、ジルコニア製の蓋で密閉する。原材料は粉末であっても液体であっても良い。例えば塩化チタン(TiCl)および塩化すず(SnCl)などは、常温で液体である。次に所定の自転および公転速度において所定時間、メカノケミカルミリングを行うことで、メカノケミカル反応を起こす。この方法により、目的の組成を有する化合物からなる粉末状の固体電解質を得ることができる。
【0070】
「全固体電池の製造方法」
次いで、本実施形態にかかる全固体電池100の製造方法について説明する。本実施形態にかかる全固体電池100は、例えば、蓄電素子10を作製する素子作製工程と、蓄電素子10を外装体20内に収容する収容工程と、を有する。本実施形態にかかる電池要素ELは、例えば、粉末成型法を用いて作製される。粉末成形法は、露点が-30℃より低く-90℃より高い環境で行う。粉末形成法は、露点が-50℃以下-85℃以上の環境で行うことが好ましい。粉末形成法は、例えば、グローブボックス内の露点を調整して行う。
【0071】
(素子作成工程:粉末成型法)
まず、中央に貫通穴を有する樹脂ホルダーと、下パンチと、上パンチとを用意する。成型性をよくするために樹脂ホルダーの代わりにダイス鋼製の金属ホルダーを用いてもよい。樹脂ホルダーの貫通穴の直径は例えば10mmとし、下パンチ及び上パンチの直径は例えば9.99mmとする。樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から、粉末状の固体電解質を投入する。次いで投入した粉末状の固体電解質の上に上パンチを挿入し、プレス機に載置し、プレスする。プレスの圧力は、例えば、373MPaとする。粉末状の固体電解質は、樹脂ホルダー内で上パンチと下パンチとでプレスされることで、固体電解質層15となる。
【0072】
次いで、上パンチを一旦取り外し、固体電解質層15の上パンチ側に、正極活物質層の材料を投入する。その後、再度、上パンチを挿入し、プレスする。プレスの圧力は、例えば、373MPaとする。正極活物質層の材料は、プレスにより正極活物質層11Bとなる。
【0073】
次いで、下パンチを一旦取り外し、固体電解質層15の下パンチ側に、負極活物質層の材料を投入する。例えば、試料を上下逆にして、正極活物質層11Bと対向するように、固体電解質層15上に、負極活物質層の材料を投入する。その後、再度、下パンチを挿入し、プレスする。プレスの圧力は、例えば、373MPaとする。負極活物質層の材料は、プレスにより負極活物質層13Bとなる。金属ホルダーを分割し、正極活物質層11Bと固体電解質層15と負極活物質層13Bとからなる電池要素ELを取り出す。上記手順を経て、本実施形態の電池要素ELが得られる。
【0074】
(収容工程)
収容工程は、例えばアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で行う。グローブボックス内の露点は、-30℃以下-90℃以上とする。グローブボックス内の露点は、-50℃以下-85℃以上であることが好ましい。グローブボックス内の酸素濃度は、例えば、1ppm以下とする。
【0075】
外部端子12の一端(外装体20の内部に入れる部分)に超音波溶接などを用いて、正極集電体11Aを取り付け正極集電体ユニットとする。次に外部端子14の一端(外装体20の内部に入れる部分)に超音波溶接などを用いて、負極集電体13Aを取り付け負極集電体ユニットとする。次いで、外部端子12と14の間で短絡が生じないように間隔をあけて、正極集電体ユニットと負極集電体ユニットとを外装体の開口部に仮熱接着する。この際に、正極集電体11Aと負極集電体13Aとが平面視で重なる位置に配置されるようにする。そして、正極集電体11Aと電池要素ELの正極活物質層11Bとが接続され、負極集電体13Aと電池要素ELの負極活物質層13Bとが接続されるように電池要素ELを外装体20内に挿入する。最後に開口部をヒートシールすることで全固体電池100が得られる。外装体20により全固体電池100の耐候性が向上する。
【0076】
正極集電体11Aと正極活物質層11B、負極集電体13Aと負極活物質層13Bの接続をよりよくする観点から、四隅にねじ穴を有するステンレス製板およびベークライト製板を用意してもよい。ステンレス板/ベークライト板/全固体電池100/ベークライト板/ステンレス板の順序で積載し、四隅のネジを締めることで、全固体電池100にこれらが取り付けられる。
【0077】
上述した蓄電素子10の製造方法は、粉末成型法を例に挙げて説明したが、樹脂を含有させたシート成型方法で製造してもよい。シート成型方法も、グローブボックス内で作製される。シート成型方法も、露点が-30℃より低く-90℃より高い環境で行う。シート成型方法は、露点が-50℃以下-85℃以上の環境で行うことが好ましい。シート成型方法は、例えば、グローブボックス内の露点を調整して行う。
【0078】
例えば、初めに、粉末状の固体電解質を含む固体電解質ペーストを作製する。作製した固体電解質ペーストをPETフィルムやフッ素系樹脂フィルムなどに塗布、乾燥、仮成型、剥離することにより固体電解質層15を作製する。また、正極集電体11A上に、正極活物質を含む正極活物質ペーストを塗布し、乾燥、仮成型させて正極活物質層11Bを形成することにより、正極11を作製する。また、負極集電体13A上に、負極活物質を含むペーストを塗布し、乾燥、仮成型させて負極活物質層13Bを形成することにより、負極13を作製する。正極11、負極13、固体電解質層15は必要な大きさ、形状に打ち抜くことができる。
【0079】
次に、固体電解質層15を正極活物質層11Bと負極活物質層13Bが対向するように正極11と負極13で挟み、全体を加圧、接着する。以上の工程により、本実施形態の蓄電素子10が得られる。
【0080】
本実施形態にかかる全固体電池100は、水分量が調整された環境下で作製されており、電池要素ELにクラックが生じにくい。電池要素ELにおけるクラックを抑制すると、正極活物質層11Bと固体電解質層15の間、負極活物質層13Bと固体電解質層15との間、及び、固体電解質層15内において、クラックを迂回するような電荷やリチウムイオンの移動が低減され、充放電が局所的に不均一になることを防止できる。その結果全固体電池100の電気化学反応が均一になる。本実施形態にかかる全固体電池100は、電池要素ELにクラックが少なく、充放電効率が優れる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0082】
(実施例1)
‐固体電解質の合成‐
アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で固体電解質の合成を行った。まず原料粉として、LiSO、ZrClとをモル比で1:1となるように秤量した。次いで、秤量した原料粉をZr容器内に直径5mmのZrボールとともに入れ、遊星型ボールミルを用いてメカノケミカルミリング処理を行った。処理は、回転数500rpmの条件で、50時間混合し、その後200μmメッシュの篩にかけた。これにより固体電解質としてLiZrSOClの粉末を得た。
【0083】
‐正極合剤の混合‐
ついで、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で正極合剤の秤量および混合を行った。コバルト酸リチウム(LiCoO):LiZrSOCl:カーボンブラック=77:18:5重量部になるように秤量し、めのう乳鉢で3分間混合して、正極合剤を得た。
【0084】
‐負極合剤の調合‐
次に、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で負極合剤の秤量および混合を行った。チタン酸リチウム(LiTi12):LiZrSOCl:カーボンブラック=72:22:6重量部になるように秤量し、めのう乳鉢で3分間混合して、負極合剤を得た。
【0085】
‐成型工程‐
上記の固体電解質、正極合剤、負極合剤を用いて、粉末成型法により、正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層からなる電池要素を作製した。電池要素の作製は、アルゴンガスを循環させた露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で行った。
【0086】
まず、中央に直径10mmの貫通穴(成型部)を有する分割式ホルダー(金属ホルダー)と、直径9.99mmの下パンチ、上パンチをSKD11ダイス鋼で用意した。金属ホルダーは2枚の金属板からなり四隅を六角ねじで固定した。金属ホルダーと下パンチ、上パンチの成型部には鏡面加工を施した。また金属ホルダーの成型部には、成型時の短絡防止と成型後に取り出しやすくするためにDLC(ダイアモンドライクカーボン)コートを施した。
【0087】
金属ホルダーの下から下パンチを挿入し、金属ホルダーの開口部から固体電解質を110mg投入した。次いで固体電解質の上に上パンチを挿入した。この第1ユニットをプレス機に載置し、圧力373MPaでプレスし固体電解質層を成形した。第1ユニットをプレス機から取り出し、上パンチを取り外した。
【0088】
次いで、金属ホルダーの開口部から、固体電解質層(上パンチ側)の上に正極合剤を10mg投入し、その上に上パンチを挿入した。プレス機にこの第2ユニットを静置し、圧力373MPaでプレスし、正極活物質層を固体電解質層の上に成型した。第2ユニットを取り出し、上下を逆にして下パンチを取り外した。
【0089】
次に、金属ホルダーの開口部から、固体電解質層(下パンチ側)の上に負極合剤を11mg投入し、その上に下パンチを挿入した。そして、プレス機にこの第3ユニットを静置し、圧力373MPaでプレスし固体電解質層を挟んで正極活物質層と対向するように負極活物質層を成型した。上パンチ、下パンチを外し、金属ホルダーを分割し、正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層からなる電池要素を取り出した。このように、電池要素を作製した。作製した電池要素は直径10mm、厚さ0.7mm、132mgであった。
【0090】
作製した電池要素の外周を光学顕微鏡(対物レンズ100倍)で観察しクラックの発生数を確認し、クラックの発生数/電池要素の半径×厚さ、から単位面積当たりの発生数を求めた。
【0091】
電池要素の水分量を、カールフィッシャー法(電量滴定法)を用いて測定した。水分気化装置(VA-300)の試料室に電池要素10個(1.32g)をセットし、170℃に加熱した。キャリアガスに窒素ガスを用いて0.15mL/分なるように調整し、水分測定装置(CA-310)を用いて水分含有量を測定した。測定は窒素ガス(G1グレード)を満たしたグローブボックス中で行った。
【0092】
‐収容工程‐
次に、得られた電池要素を外装体に収容した。電池要素の収容は、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内のグローブボックス内で行った。
【0093】
電池要素を封入する外装体として、縦5cm、横5cmのアルミニウムラミネート袋を用意した。まず、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を中央に巻き付けたアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)の一端に正極集電体(Φ10mm、厚さ20um、アルミニウム箔)を超音波溶接し、正極集電体ユニットを作製した。正極集電体を溶接していない一方を外部端子とした。
【0094】
次に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を中央に巻き付けたニッケル箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)の一端に負極集電体(Φ10mm、厚み10um、銅箔)を超音波溶接し、負極集電体ユニットを作製した。負極集電体を溶接していない一方を外部端子とした。
【0095】
次いで、アルミニウムラミネート袋の開口部の一辺に、正極集電体と負極集電体が平面視で重なるように、また外部端子の間で短絡が生じないように間隔をあけ、外部端子が外側になるように、これらを熱接着した。外部端子を取り付けたアルミラミネート袋の中で、正極集電体と電池要素の正極活物質層と、及び、負極集電体と電池要素の負極活物質層とが接続するように、アルミニウムラミネート袋内に、電池要素を挿入した。そして、開口部をヒートシールして全固体電池とした。
【0096】
その後、四隅にねじ穴を有する縦10cm、横10cm、厚み5mmのステンレス製板およびベークライト製板を用意し、ステンレス板/ベークライト板/全固体電池/ベークライト板/ステンレス板の順序で積載し、四隅のネジを締め充放電試験を行った。
【0097】
充放電試験は、25℃の恒温槽内にて行った。充電は0.1Cで2.8Vまで定電流定電圧(CCCVと言う)で行った。充電終了は、電流が1/20Cになるまで行った。放電は、0.1Cで1.3Vまで定電流放電した。そして、初回充放電効率を下記の式(2)より算出した。
【0098】
初回充放電効率[%]=(初回放電容量[Ah]/初回充電容量[Ah])×100・・・(2)
【0099】
実施例1の結果は、後述する表1にまとめた。
【0100】
(実施例2~11、比較例1~3)
実施例2~11、比較例1~3は、電池要素に含まれる水分量を検討するために、固体電解質合成時の露点、または正極合剤、負極合剤を混合する際の露点と混合時間、成型時の露点をそれぞれ変更した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にして、電池要素のクラック発生率、電池要素の水分量、全固体電池の初回充放電効率のそれぞれを測定した。実施例2~11、比較例1~3の結果は、以下の表1にまとめた。
【0101】
(実施例12)
実施例12は、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で固体電解質の合成を行った。まず原料粉としてLiClとZrClとを、モル比で2:1となるように秤量した。次いで、秤量した原料粉をZr容器内に直径5mmのZrボールとともに入れ、遊星型ボールミルを用いてメカノケミカルミリング処理を行った。処理は、回転数500rpmの条件で、50時間混合し、その後200μmメッシュの篩にかけた。これにより固体電解質としてLiZrClを得た。実施例12は、固体電解質の組成を変更した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にして、電池要素のクラック発生率、電池要素の水分量、全固体電池の初回充放電効率のそれぞれを測定した。
【0102】
(実施例13~22、比較例4~6)
実施例13~22、比較例4~6は、電池要素に含まれる水分量を検討するために、固体電解質合成時の露点、または正極合剤、負極合剤を混合する際の露点と混合時間、成型時の露点をそれぞれ変更した点が実施例12と異なる。その他の条件は、実施例12と同様にして、電池要素のクラック発生率、電池要素の水分量、全固体電池の初回充放電効率のそれぞれを測定した。実施例13~22比較例4~6の結果は、以下の表1にまとめた。
【0103】
(実施例23~30)
実施例23~30は、電池要素の収容をアルゴンガスが循環している露点-20℃以下-85℃以上とし、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で行った以外は実施例4と同様にと同様にして、電池要素のクラック発生率、電池要素の水分量、全固体電池の初回充放電効率のそれぞれを測定した。また、収容空間Kの水分量は静電容量方式トランスミッター(EasidewOnline、+ED Transmitter-99J、ミッシェル社製)を用いて測定した。実施例23~30の結果は、以下の表2にまとめた。
【0104】
(実施例31~38)
実施例31~28は、電池要素の収容をアルゴンガスが循環している露点-20℃以下-85℃以上とし、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で行った以外は実施例15と同様にと同様にして、電池要素のクラック発生率、電池要素の水分量、全固体電池の初回充放電効率のそれぞれを測定した。また、収容空間Kの水分量は静電容量方式トランスミッター(EasidewOnline、+ED Transmitter-99J、ミッシェル社製)を用いて測定した。実施例31~38の結果は、以下の表2にまとめた。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
実施例1~22に係る全固体電池は、170℃でカールフィッシャー測定した水分含有量が0.01mg/g以上1mg/g以下であり、クラックの発生が抑制され、比較例1から比較例6に係る全固体電池よりも充放電効率がいずれも良好であった。
【0108】
比較例1~6に係る全固体電池は、170℃でカールフィッシャー測定した水分含有量が0.01mg/g未満、または1mg/gを超えており、クラックの発生が抑制できておらず、充放電効率がいずれも不良であった。
【0109】
実施例23~28に係る全固体電池は、収容空間Kの水分量が400ppmv以下であり、実施例29、30に係る全固体電池よりも充放電効率がいずれも良好であった。同様に、実施例31~36に係る全固体電池は、収容空間Kの水分量が400ppmv以下であり、実施例37、38に係る全固体電池よりも充放電効率がいずれも良好であった。
【符号の説明】
【0110】
11…正極、11A…正極集電体、11B…正極活物質層、12…外部端子、13…負極、13A…負極集電体、13B…負極活物質層、14…外部端子、15…固体電解質層、10…蓄電素子、20…外装体、K…収容空間、EL…電池要素、100…全固体電池
図1
図2