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特開2024-97097インクジェットインク、印刷物の製造方法、印刷物および金属顔料分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097097
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】インクジェットインク、印刷物の製造方法、印刷物および金属顔料分散液
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240710BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240710BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076159
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】原 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】井上 義隆
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EE18
2C056FC01
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA18
2H186FB04
2H186FB29
2H186FB40
2H186FB42
2H186FB45
2H186FB46
2H186FB56
4J039AD21
4J039AE05
4J039BA06
4J039BA36
4J039BC13
4J039BC25
4J039BD04
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA33
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA11
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくいインクジェットインクを提供すること。
【解決手段】金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク;金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク;ならびに金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有重合性化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、
当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク。
【請求項2】
金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、
当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク。
【請求項3】
金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、
当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有重合性化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のインクジェットインクであって、
前記金属顔料は、鱗片状の金属インジウムおよび/または金属クロムを含む、インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のインクジェットインクであって、
前記金属顔料のZ平均粒子径が50~500nmである、インクジェットインク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインクジェットインクであって、
当該インクジェットインクの不揮発成分中の前記金属顔料の比率が、1~8質量%である、インクジェットインク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のインクジェットインクであって、
光重合性である、インクジェットインク。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、基材表面に吐出して画像を形成する画像形成工程と、
吐出された前記インクジェットインクを硬化させる硬化工程と、
を含む、印刷物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェットインクの硬化物を備える印刷物。
【請求項10】
金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有する金属顔料分散液であり、
当該金属顔料分散液中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比が10質量%以下である、金属顔料分散液。
【請求項11】
請求項10に記載の金属顔料分散液であって、
前記金属顔料は、鱗片状の金属インジウムおよび/または金属クロムを含む、金属顔料分散液。
【請求項12】
請求項10または11に記載の金属顔料分散液であって、
前記金属顔料のZ平均粒子径が50~500nmである、金属顔料分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、印刷物の製造方法、印刷物および金属顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式により、物品の表面に金属光沢がある画像を設けることが検討されている。
従来、金属光沢がある画像を設ける方法としては「箔押し」が主流である。しかし、箔押しは工程が煩雑となりがちであり、また、少量多品種への対応に不向きであるといったデメリットがある。よって、比較的簡便かつ少量多品種への対応に向いているインクジェット方式により、金属光沢がある画像を設けることが望まれる。
【0003】
一例として、インジウム顔料を含有する水性インク特許文献1の記載によれば、このインクを用いることで、金属調意匠性を有する画像を記録することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-132998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、インジウム顔料を含むインクジェットインクを用いて、インクジェット方式により、物品表面に金属光沢がある画像を設ける試みが知られている。
しかし、本発明者の検討により、インジウム顔料などの金属顔料を含むインクジェットインクは、インク調整後、経時により、印刷により得られる画像の金属光沢が失われる傾向があることが明らかとなった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、長期保存後も、印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくいインクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
本発明によれば、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインクが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインクが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、
当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有重合性化合物の含有量比が10質量%以下である、インクジェットインクが提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記のインクジェットインクを、基材表面に吐出して画像を形成する画像形成工程と、吐出された上記インクジェットインクを硬化させる硬化工程と、を含む、印刷物の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記のインクジェットインクの硬化物を備える印刷物が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有する金属顔料分散液であり、当該金属顔料分散液中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比が10質量%以下である、金属顔料分散液が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期保存後も、印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくいインクジェットインクが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0017】
<インクジェットインク>
本実施形態のインクジェットインクは、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有するインクジェットインクであり、当該インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が10質量%以下である。
【0018】
(ヒドロキシ基含有化合物)
ヒドロキシ基含有化合物とは、1分子あたり1つ以上のヒドロキシ基を含有する化合物である。
【0019】
本実施形態のインクジェットインクは、インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が低減されており、このことにより、長期保存後も、印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくくなる。
詳細なメカニズムには不明点もあるが、おそらくは、ヒドロキシ基は水分を抱えやすいため、インクジェットインク中のヒドロキシ基の量を低減させることで、ヒドロキシ基が抱えた水分による化学変化(酸化、腐食等)が防止されるためであると推定される。
【0020】
インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0021】
ヒドロキシ基含有化合物は、インクジェットインクの親水性を調整する等の性能を付与することを目的としてインクジェットインクに配合することがあるが、この場合、含有量比が上記数値範囲内に抑えることが好ましい。
【0022】
ヒドロキシ基含有化合物としては、溶媒であって、その構造中に1分子あたり、1つ以上のヒドロキシ基を有するものであるヒドロキシ基含有溶媒;重合性化合物であって、その構造中に1分子あたり1つ以上のヒドロキシ基を有するものであるヒドロキシ基含有重合性化合物等を挙げることができる。
【0023】
インクジェットインク中のヒドロキシ基含有溶媒の含有量比は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、インクジェットインク中のヒドロキシ基含有溶媒を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0024】
ヒドロキシ基含有溶媒は、インクジェットインクの親水性を調整する等の性能を付与することを目的としてインクジェットインクに配合することがあるが、この場合、含有量比が上記数値範囲内に抑えることが好ましい。
【0025】
インクジェットインク中のヒドロキシ基含有重合性化合物の含有量比は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、インクジェットインク中のヒドロキシ基含有重合性化合物を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0026】
ヒドロキシ基含有重合性化合物は、インクジェットインクの親水性を調整する等の性能を付与することを目的としてインクジェットインクに配合することがあるが、この場合、含有量比が上記数値範囲内に抑えることが好ましい。
【0027】
(金属顔料)
本実施形態のインクジェットインクは、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料を含有する。このことにより、長期保存後も、印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくくなる。
詳細なメカニズムには不明点もあるが、おそらくは、金属インジウムおよび金属クロムは、他の金属顔料に比べて、インクジェットインク中において化学変化(酸化、腐食等)を起こしにくいためであると推定される。
【0028】
以下、本実施形態のインクジェットインクが含有する金属インジウムおよび/または金属クロムについて詳細な説明を続ける。以下では、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料のことを、単に「金属顔料」と表記することがある。
【0029】
金属顔料は、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む限り限定されない。換言すると、金属顔料は、インジウムおよび/またはクロムを含み、かつ、光輝性が認められるものである。光輝性の観点から、通常、金属顔料の少なくとも一部は、酸化物、窒化物、水酸化物などの化合物ではなく、インジウムおよび/またはクロムの単体である。ただし、このことは、金属顔料が酸化物、窒化物、水酸化物などの化合物を全く含まないことを意味しない。光輝性かつ/または金属光沢がある限りにおいて、金属顔料の一部(全部ではない)は、酸化物、窒化物、水酸化物などであってもよい。また、金属顔料は、インジウムおよび/またはクロムを含む合金であってもよい。
【0030】
金属顔料の大きさは特に限定されない。所望の金属光沢や、インクの吐出のしやすさ等を考慮して適宜選択される。
金属顔料のZ平均粒子径は、好ましくは50~500nm、より好ましくは100~400nmである。Z平均粒子径がある程度大きいことにより、最終的な画像の金属光沢を一層高めることができる。また、Z平均粒子径が大きすぎないことにより、ヘッドからのインクジェットインクの吐出がよりスムーズとなる傾向がある。また、ヘッドの詰まりが抑えられるとも考えられる。
【0031】
金属顔料のZ平均粒子径は、ISO 22142:2017の規定に基づき、光散乱法により測定することができる。より具体的には、キュムラント法に基づき、散乱光強度で重み付けされた調和平均粒子径をZ平均粒子径として採用することができる。
光散乱法による測定が可能な測定装置としては、例えば、マルバーン社製のゼータサイザーナノZSを挙げることができる。測定は、通常、湿式で行われる。つまり、金属顔料を溶媒で分散させたものを測定サンプルとすることができる。
【0032】
金属顔料は、鱗片状の金属インジウムおよび/または金属クロムを含むことが好ましい。
「鱗片状」とは、平板状、湾曲板状等の形状を含む概念を意味する。具体的には、ある1つの方向から観察した際(平面視した際)の面積が、その方向と直交する方向から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいう。
別観点として、鱗片状の金属インジウムおよび/または金属クロムにおいて、平均長径÷平均厚みの計算で求められるアスペクト比は、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは3.5以上である。アスペクト比の上限は特にないが、例えば100以下、好ましくは75以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは25以下である(平均長径と平均厚みの求め方については後述する)。
【0033】
金属顔料が、鱗片状の金属インジウムおよび/または金属クロムを含む場合、その平均長径は、好ましくは80~600nm、より好ましくは100~500nmである。また、平均厚みは、好ましくは10~50nm、より好ましくは20~40nmである。適切な平均長径/平均厚みの鱗片状の金属顔料を用いることで、インクジェット性能(例えば吐出性)などを維持しつつ、最終的な印刷物における金属光沢を一層高めることができる。
上記において、「平均長径」とは、電子顕微鏡を用いて金属顔料を撮影し、撮影された画像中の任意の50個の金属顔料(鱗片状の粒子)の長径を平均した値である。「平均厚み」についても同様である。
【0034】
金属顔料は、例えば、尾池工業株式会社から入手することができる。また、金属顔料の製法については、特開平11-323223号公報、特開平11-343436号公報、特開2011-52041号公報などを参考にすることもできる。
【0035】
本実施形態のインクジェットインクは、金属顔料を1種のみ含んでもよいし、2種以上の金属顔料を含んでもよい。
また、本実施形態のインクジェットインクは、性能を過度に損なわない範囲において、金属インジウムおよび/または金属クロムを含む金属顔料とは異なる顔料(金属顔料または非金属顔料)を含んでもよい。もちろん、本実施形態のインクジェットインクは、そのような顔料を含まなくてもよい。
【0036】
本実施形態のインクジェットインク中の金属顔料の比率は、不揮発成分全体中、好ましくは1~8質量%、より好ましくは2~6質量%である。この比率が1質量%以上であることにより、最終的な印刷物において十二分な金属光沢を得ることができる。また、この比率が8質量%以下であることにより、インクジェットインク中に他の成分(重合性成分)を十分な量含めることができる。このことは、ヘッドの目詰まり低減や、最終的な印刷物の耐久性向上などの点で好ましい。
【0037】
(インクジェットインクの重合様式、重合性成分について)
本実施形態のインクジェットインクは、典型的には光重合性または熱重合性であり、好ましくは光重合性である。
【0038】
インクジェットインクの重合様式は特に限定されない。重合様式は、好ましくはカチオン重合型またはラジカル重合型である。換言すると、本実施形態のインクジェットインクは、具体的には、(i)金属顔料のほか、カチオン重合性化合物と、カチオン重合開始剤とを含むもの、(ii)金属顔料のほか、ラジカル重合性化合物と、ラジカル重合開始剤とを含むもの、などであることができる。
以下、(i)におけるカチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤、(ii)におけるラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤について説明する。
【0039】
まず、上記(i)における、カチオン重合性化合物およびカチオン重合開始剤について説明する。
【0040】
・カチオン重合性化合物
カチオン重合性化合物としては、典型的には、オキセタン化合物、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらのうち2種以上を併用してもよい。例えば、カチオン重合型のインクは、オキセタン化合物とエポキシ化合物の両方を含んでもよい。異なる2種以上のカチオン重合性化合物を併用することで、硬化性と貯蔵安定性をより高度に両立させることができる。
本実施形態においては、特に、カチオン重合性化合物は、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0041】
エポキシ化合物としては、芳香族エポキシド、脂環族エポキシド、脂肪族エポキシド等が挙げられる。芳香族エポキシドとしては、少なくとも1個の芳香族環を有する多価フェノール又はそのアルキレンオキシド付加体、エピクロルヒドリンとの反応により得られるジ又はポリグリシジルエーテルが用いられる。例えば、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキシド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA又はそのアルキレンオキシド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、及びノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここで、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、一分子中に2~6個のエポキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0042】
脂環族エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロヘキセン環、シクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の酸化剤でエポキシ化することにより得られるシクロヘキセンオキシド又はシクロペンテンオキシド含有化合物が用いられる。
【0043】
脂肪族エポキシドとしては、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキシド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等が用いられる。例えば、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン又はそのアルキレン付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール又はそのアルキレンオキシド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール又はそのアルキレンオキシド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここで、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
【0044】
硬化性の点から、芳香族エポキシド又は脂環族エポキシドが好ましく、脂環族エポキシドがさらに好ましい。
【0045】
また、長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないエポキシドが好ましい。ヒドロキシ基を含有しないエポキシドの市販品としては、例えば、セロキサイド 2021P(株式会社ダイセル製)またはリモネンジオキサイド(株式会社ダイセル製)等を挙げることができる。
【0046】
エポキシ化合物については、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0047】
オキセタン化合物としては、一分子中にオキセタニル基を1~4個有するものが好ましく、一分子中にオキセタニル基を2~4個有するものがより好ましい。
【0048】
オキセタン化合物として具体的には、3-エチル-3-[〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕メチル]オキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、4,4'-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル〕ビフェニル、3-(メタ)アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン、(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ベンゼン、4-フルオロ-〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4-メトキシ-〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-エチルヘキシル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-テトラブロモフェノキシエチル-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-トリブロモフェノキシエチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、3,7-ビス(3-オキセタニル)-5-オキサノナン、3,3'-〔1,3-(2-メチレニル)-プロパンジイルビス(オキシメチレン)〕-ビス(3-エチルオキセタン)、1,4-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,2-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,3-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキシド変性ビスフェノールA-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、プロピレンオキシド変性ビスフェノールA-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキシド変性水素化ビスフェノールA-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、プロピレンオキシド変性水素化ビスフェノールA-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキシド変性ビスフェノールF-(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0049】
長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないオキセタン化合物が好ましい。ヒドロキシ基を含有しないオキセタン化合物の市販品としては、例えば、アロンオキセタン OXT-221(東亞合成社製)等を挙げることができる。
【0050】
オキセタン化合物については、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0051】
ビニルエーテル化合物については、硬化性や密着性の観点から、ジ又はトリビニルエーテル化合物が好ましく、ジビニルエーテル化合物がさらに好ましい。
【0052】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物を挙げることができる。
【0053】
また、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物を挙げることもできる。
【0054】
長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないビニルエーテル化合物が好ましい。
【0055】
ビニルエーテル化合物については、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0056】
カチオン重合性化合物としては、オキセタン化合物とエポキシ化合物(特に脂環族エポキシド)とを併用することがより好ましい。本発明者らの知見として、このような併用により、特にインクジェットインクの硬化性を良好とすることができる。また、エポキシ化合物を単独使用する場合よりも、設けた画像の金属光沢を高められる傾向がある。
オキセタン化合物とエポキシ化合物とを併用する場合、エポキシ化合物の比率(質量%)、すなわち、{エポキシ化合物の量÷(オキセタン化合物の量+エポキシ化合物の量)}×100は、好ましくは15~85質量%、より好ましくは20~80質量%である。エポキシ化合物の割合がある程度大きいことで、より良好な硬化性を得やすい。また、エポキシ化合物の割合が大きすぎないことで、貯蔵安定性がより良好となる傾向がある(増粘が抑えられやすい)。
【0057】
本実施形態のインクジェットインクがカチオン重合性化合物を含む場合、その量は特に限定されない。その量は、インク中の不揮発成分(揮発性の有機溶媒以外の成分)全体を100質量%としたときに、通常70~99.9質量%、好ましくは85~99.5質量%、より好ましくは90~99質量%である。
【0058】
・カチオン重合開始剤
カチオン重合開始剤としては、光照射などの外部刺激によりカチオンを発生して上記のカチオン重合性化合物を重合させることが可能なものであれば任意のものを用いることができる。例えばオニウム塩、より具体的にはスルホニウム塩誘導体やヨードニウム塩誘導体などの公知の光カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0059】
カチオン重合開始剤としてより具体的には、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。これらは、カチオン部分がそれぞれ芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウムまたは芳香族スルホニウムであり、アニオン部分がBF 、PF 、SbF 、[BX(Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)、(Rf)PF6-n(Rfはフッ化アルキル基等のフッ素含有基、nは0~6の整数) 等により構成されたオニウム塩である。
具体的な化合物としては、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス( ペンタフルオロフェニル) ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン-鉄錯体等を挙げることができる。
【0060】
カチオン重合開始剤の市販品としては、CPI-100P、CPI-110A、CPI-210S(サンアプロ社製)、WPI-113、WPI-124(富士フィルム和光純薬株式会社製)等の光カチオン重合開始剤を挙げることができる。
【0061】
長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないカチオン重合開始剤が好ましい。ヒドロキシ基を含有しないカチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、CPI-100P、CPI-110A、CPI-210S(いずれもサンアプロ社製)またはWPI-124(富士フイルム和光純薬社製)等を挙げることができる。
【0062】
本実施形態のインクジェットインクは、カチオン重合開始剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本実施形態のインクジェットインク中のカチオン重合開始剤の量は、特に限定されない。その量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、通常0.5~15質量部、好ましくは1.0~10質量部、より好ましくは2~8質量部、特に好ましくは3~6質量部である。カチオン重合開始剤の量を適切に調整することで、貯蔵安定性と硬化性をより高度に両立させることができる。
【0063】
次に、上記(ii)における、ラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤について説明する。
【0064】
・ラジカル重合性化合物
ラジカル重合性化合物としては、一分子中に重合性の炭素-炭素二重結合を1つまたは2つ以上有する化合物(ラジカル重合性モノマー)を挙げることができる。ラジカル重合性化合物は、好ましくは、一分子中に(メタ)アクリロイル基を1つまたは2つ以上有する化合物である。
【0065】
単官能モノマー(一分子中に重合性の炭素-炭素二重結合を1つのみ有する化合物)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0066】
多官能モノマー(一分子中に重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上、好ましくは2~6個有する化合物)としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能モノマーを挙げることができる。
【0067】
また、多官能モノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなども挙げることができる。
【0068】
重合性官能基の数とは別の観点として、ラジカル重合性モノマーとして、極性基(例えばリン酸基やカルボキシ基)を有するモノマーを用いてもよい。
リン酸基を有するモノマーとしては、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、ジ(2-メタアクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、カプロラクトン変性-2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェートなどを挙げることができる。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸などを挙げることができる。
【0069】
本実施形態のインクジェットインクは、ラジカル重合性モノマーを一種のみ含んでもよいし、二種以上含んでもよい。適度な重合性、架橋密度、密着性などの観点からは、例えば単官能モノマーと多官能モノマーをあわせて用いることが好ましい。また、密着性の調整やインクの分散性などの点で、極性基を有するモノマーと、そうでないモノマーとを併用することが好ましい。
【0070】
本実施形態のインクジェットインクは、長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないラジカル重合性モノマーを含むことが好ましい。ヒドロキシ基を含有しないラジカル重合性モノマーの市販品としては、例えば、NKエステル A-HD-N、NKエステル A-TMPT(いずれも新中村化学工業社製)等を挙げることができる。
【0071】
本実施形態のインクジェットインクがラジカル重合性モノマーを含む場合、その量は特に限定されない。その量は、インク中の不揮発成分(揮発性の有機溶媒以外の成分)全体を100質量%としたときに、通常85~99.5質量%、好ましくは90~99質量%である。
【0072】
・ラジカル重合開始剤
ラジカル重合開始剤は、光照射などの外部刺激によりラジカルを発生し、上記のラジカル重合性モノマーを重合させることが可能なものであれば、特に限定されない。
ラジカル重合開始剤の具体例としては、α-ヒドロキシケトン光開始剤、α-アミノケトン光開始剤、ビスアシルホスフィン光開始剤、モノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシド、エチル-2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート、モノ-およびビス-アシルホスフィン光開始剤、ベンジルジメチル-ケタール光開始剤、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]等が挙げられる。
【0073】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、BASF社にて販売されているIRGACURE(登録商標)シリーズ等の光ラジカル重合開始剤を挙げることができる。もちろん、これ以外のラジカル重合開始剤も使用可能である。
【0074】
本実施形態のインクジェットインクは、ラジカル重合開始剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0075】
本実施形態のインクジェットインクは、長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、ヒドロキシ基を含有しないラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。ヒドロキシ基を含有しないラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、Omnirad819((IGM Resins B. V.製)等を挙げることができる。
【0076】
本実施形態のインクジェット中のラジカル重合開始剤の量は、特に限定されない。その量は、ラジカル重合性モノマー100質量部に対して、通常0.5~15質量部、好ましくは1.0~10質量部である。
【0077】
(さらに他の成分)
本実施形態のインクジェットインクは、上記に加え、任意の成分を含んでもよい。任意成分としては、分散剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、ワックス類、酸化防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、保存安定剤、溶媒(典型的には有機溶媒)等が挙げられる。本実施形態のインクジェットインクは、これらのうち一種または二種以上を含むことができる。
【0078】
本実施形態のインクジェットインクは、インクジェットヘッドから吐出可能な粘度/流動性を有する限り、溶媒を含んでもよいし、含まなくてもよい。なお、意図的に溶媒を用いずとも、例えば原料の金属顔料が分散液の形態である場合には、インクジェットインク中に溶媒が含まれうる。
本実施形態のインクジェットインクは、通常、溶媒を含まないか、または、溶媒を含むとしても、その量はインク全体に対して、例えば30質量%以下、好ましくは25質量%以下である。
本実施形態のインクジェットインクは、好ましくは、インキが基材に定着する段階で、溶媒等の揮発や基材へのインクのしみ込みがほとんど無いものである。
【0079】
本実施形態のインクジェットインクが溶媒を含有する場合、溶媒の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。溶媒の沸点が上記条件をクリアすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍でインクが乾燥することによるノズル詰まりを抑制できるため、印刷時の吐出安定性を向上させることができる。また、残留溶媒により重合性化合物の硬化性を阻害しない観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは220℃以下である。
【0080】
本実施形態のインクジェットインクが溶媒を含有する場合、溶媒の種類は特に限定されないが、グリコールエーテル系溶媒等のエーテル系溶媒、アセテート系溶媒等のエステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒等を例示できる。
【0081】
例えば、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルーn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。
【0082】
例えば、アセテート系溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールーモノーn―ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-エトキシブチルアセテート、3-メチル-3-プロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-イソプロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-n-ブトキシエチルアセテート、3-メチル-3-イソブトキシブチルアセテート、3-メチル-3-sec-ブトキシブチルアセテート、3-メチル-3-tert-ブトキシブチルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテートおよびトリプロピレングリコールジアセテート等を例示することができる。
【0083】
例えば、アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の一価アルコール;エチレングリコール、グリセリン、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の二価以上のアルコール;等を例示することができる。
【0084】
長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢を失われにくくするという観点から、本実施形態のインクジェットインクが溶媒を含有する場合、ヒドロキシ基を含有しない溶媒であることが好ましい。ヒドロキシ基を含有しない溶媒としては、上記で列挙した溶媒のなかでヒドロキシ基を含有しないものを適宜選択することができ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、酢酸ブチルまたはメチルイソブチルケトン等であることが特に好ましい。
【0085】
(インクジェットインクの製造方法)
本実施形態のインクジェットインクは、上記各成分を十分に混合することで得ることができる。混合には、インクの分野で公知の手法や装置を適宜用いることができる。
【0086】
<印刷物の製造方法および印刷物>
本実施形態のインクジェットインクを、基材表面に吐出して画像を形成する画像形成工程と、
吐出されたインクジェットインクを硬化させる硬化工程と、
を含む一連の工程により、印刷物(インクジェットインクの硬化物を備える印刷物)を製造することができる。この印刷物におけるインクジェットインクの硬化物の部分は金属光沢を有する。
【0087】
画像形成工程は、公知のインクジェット装置(インクジェットプリンタ)を用いて行うことができる。すなわち、インクジェットインクを微細な液滴にして吐出可能なインクジェットヘッドを備える装置を用いて、基材表面にインクジェットインクの液滴を吐出することで、基材表面に画像を形成すればよい。
インクジェットヘッドとしては、インクの劣化を抑える点では、ピエゾ方式のものが好ましい。インクジェットヘッドの市販品としては、例えば、コニカミノルタ社のKM1024シリーズなどを挙げることができる。
【0088】
画像形成工程において、インクジェットヘッドから吐出される液滴の体積は特に限定されない。液滴の体積は、典型的には2~50pL程度である。
【0089】
画像形成工程において、インクジェットヘッドから吐出される液滴の密度は特に限定されない。インクジェット装置のスペックや、最終的な印刷物の意匠性などを考慮して、液滴の密度を適宜決定すればよい。
【0090】
画像形成工程におけるインクジェットヘッドの動かし方は特に限定されない。シングルパス方式、マルチパス方式、スキャン方式など、一般的なインクジェット印刷における任意の方式を採用することができる。
【0091】
画像形成工程における基材(インクジェットインクが吐出される基材)は、特に限定されない。基材の材質は、例えば、紙、木材、金属、ガラス、樹脂、ゴム、石材、コンクリート等であることができる。これら以外でも、インクジェットインクが密着可能である限り、基材は限定されない。
【0092】
硬化工程は、典型的には光硬化工程である。すなわち、インクジェットインクが光重合性である場合、基材表面に吐出されて着弾したインクジェットインクに対し、活性エネルギー線を照射することで、インクジェットインクを硬化させる。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましく挙げられる。活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。また、積算光量は例えば100~10000mJ/cmとすることができる。
インクジェットインクが熱重合性である場合には、熱風、オーブン、ホットプレート等の任意の手段での加熱により、インクを硬化させる。
ちなみに、硬化工程が光硬化工程である場合、活性エネルギー線の照射の後に、更に加熱を行ってもよい。この加熱は密着性の向上などを意図して行われる。この加熱を行う場合、その条件は、例えば40~200℃で1~60分間とすることができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0094】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0095】
<金属顔料分散液の調製>
膜厚100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、セルロースアセテートブチレート(ブチル化度37%)を酢酸エチルに溶解した3.0質量%下引き液を均一に塗布し、PETフィルム上に下引き層を形成した。次いで、真空蒸着により、上記下引き層上に平均膜厚33nmのインジウム蒸着層またはクロム蒸着層を形成し積層体を得た。
【0096】
得られた積層体について、表3-1、3-2、4-1および4-2に示す溶媒中で、超音波分散機を用いて、剥離・微細化・分散処理を同時に行った。得られたものを開き目5μmのSUSメッシュフィルターにてろ過処理して粗大粒子を除去し、さらに剥離・微細化・分散処理で用いた溶媒で希釈することで金属顔料と溶媒が表3-1、3-2、4-1および4-2に示す質量部になるように調整し、金属顔料分散液を得た。
【0097】
<Z平均粒子径>
得られた金属顔料分散液を、以下条件で光散乱測定することで、金属顔料分散液中の金属顔料のZ平均粒子径(散乱光強度で重み付けされた調和平均粒子径)を算出した。各実施例および比較例の金属顔料分散液中の金属顔料のZ平均粒子径を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。
・測定装置:ゼータサイザーナノZS(マルバーン社製)
・測定温度:25℃
・使用セル:ガラスセル
・測定サンプルの調製:金属顔料分散液を、金属顔料分散液の調製で用いた溶媒で1000倍に希釈したものを測定サンプルとした。
【0098】
<アスペクト比>
金属顔料分散液を、測定に使用する顕微鏡の試料台に滴下し、60℃に設定した金庫式オーブンで溶媒を蒸発させ、これを観察用の試料とした。走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧25kVの条件下、適切な測定倍率で顔料の観察と画像の撮影を行った。撮影された画像中に写っている任意の50個の金属顔料(鱗片状の粒子)の長径と厚みを計測し、平均長径、平均厚みおよびアスペクト比を算出した。各実施例および比較例の金属顔料分散液中の金属顔料の平均長径、平均厚みおよびアスペクト比を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。
【0099】
<インクジェットインクの製造>
上記で得られた金属顔料分散液と、表3-1、3-2、4-1および4-2に記載の各成分を十分に混合して、インクジェットインクを製造した。
【0100】
インクジェットインクを調製するために用いた原料を表1~2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
<インクジェットインクの評価>
(硬化性)
以下手順で評価した。結果を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。
(1)インクジェットインクを、6ミルのアプリケータを用い、厚みが10μmとなるように、ガラス板(サイズ10cm×10cm×5mm)に塗布した。これにより、ガラス板上に未硬化膜を形成した。
(2)高圧水銀ランプ(アイグラフィック株式会社製、UB041-5A/B 60Hz)を使用して、上記未硬化膜に、積算光量500mJ/cmの条件で紫外線を照射した。これにより未硬化膜を硬化膜にした。
(3)硬化膜の硬化状態について、以下の評価基準に従って評価した。
5・・・十分に硬化しており、タック感もない。
4・・・タック感があるが、指で触れても指紋は残らない。
3・・・タック感があり、指で触れると指紋が残る。
2・・・指で塗膜に触れると塗料成分が指につくが、増粘(硬化)はしている。
1・・・全く硬化していない。
【0104】
(吐出安定性)
インクジェットプリンタとして、ピエゾ型インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製、KM1024iM、インク液滴量13pL)を搭載したインクジェットプリンタ(株式会社トライテック製、Stage JET)を準備した。このプリンタを用い、各インクジェットインクを充填し、ヘッド温度35℃の条件で吐出を行った。
その後、デキャップ状態(インクの乾燥を抑制する保護キャップがインクジェットヘッドに装着されていない状態)で10分間静置した後、再度各インクジェットインクを充填し、ヘッド温度35℃の条件で吐出を行い、インクが吐出されなかったノズル(不吐出ノズル)の本数を確認し、以下の評価基準に従って吐出安定性を評価した。
〇:不吐出ノズルが存在しなかった。
△:不吐出ノズルの本数がノズルの本数全体の10%未満であった。
×:不吐出ノズルの本数ノズルの本数全体の10%以上であった。
【0105】
<インクジェットインクによる印刷物の評価>
(評価用印刷物の作製)
調整後1時間以内の各インクジェットインクについて、吐出安定性の評価で用いたプリンタを用い、ヘッド温度35℃、解像度720dpi、8分割マルチパスの条件で、PETフィルム(東洋紡株式会社製、A4300)にインクジェット印刷(ベタ印刷)を行った。所定の範囲を印刷した後に紫外線を照射することによってインクを硬化させつつ、最終的に100℃で3分間加熱することにより、印刷物を得た。なお、紫外線の照射は、上記プリンタに付属の装置を用い、所定の範囲を印刷した後、照射線量500mJ/cmの条件で紫外線を照射するものとした。
【0106】
(金属光沢性:60°光沢値)
得られた印刷物の金属光沢性の評価は、60°光沢値を測定することにより行った。具体的には、得られた印刷物の裏側(印刷していない面)に、隠ぺい率測定紙(TP技研株式会社製、JISK5600-4-1に準拠したもの)の黒色部を貼り付け、光沢計(BYK-Gardner GmbH社製、マイクロ-グロス)を用いて測定し、測定された値をGとした。結果を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。
【0107】
各インクジェットインクを、容量250mLの密閉できるガラス容器に200mL充填して密閉し、40℃で14日間静置した。40℃で14日間静置した後の各インクジェットインクについて、Gの評価と同様にして印刷物を作成し、さらに60°光沢値を測定し、測定された値をG14とした。結果を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。
【0108】
(金属光沢変化率)
下記の式(1)より光沢変化率(%)を算出した。結果を表3-3、3-4、4-3および4-4に示す。この値が小さいほど、長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくいインクジェットインクであることを表す。
光沢変化率(%)=(G-G14)/G×100 (1)
【0109】
【表3-1】
【0110】
【表3-2】
【0111】
【表3-3】
【0112】
【表3-4】
【0113】
【表4-1】
【0114】
【表4-2】
【0115】
【表4-3】
【0116】
【表4-4】
【0117】
各実施例のインクジェットインクは、比較例のインクジェットインクに比べて、金属光沢変化率を低く抑えられており、長期保存後も印刷により得られる画像の金属光沢が失われにくいインクジェットインクであることがわかる。
【0118】
加えて、実施例間の対比より、インクジェットインク中のヒドロキシ基含有化合物の含有量比が低いほど、印刷により得られる画像の金属光沢変化率が抑えられる傾向があることがわかる。また、実施例間の対比より、溶媒の沸点が高いほど吐出安定性が向上する傾向があること、溶媒の沸点が低いほど硬化性が向上する傾向があることがわかる。