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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097098
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】土壌侵食防止剤の散布方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/20 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
C09K17/20 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078063
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純平
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【テーマコード(参考)】
4H026
【Fターム(参考)】
4H026CB09
4H026CC04
(57)【要約】
【課題】十分な厚さを有する固着層を形成可能な土壌侵食防止剤の散布方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、散布工程を備え、前記散布工程では、含まれる水分量が最大容水量の75%以下である土壌に対して土壌侵食防止剤を散布し、前記土壌侵食防止剤は樹脂エマルジョンを含む、散布方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散布工程を備え、
前記散布工程では、含まれる水分量が最大容水量の75%以下である土壌に対して土壌侵食防止剤を散布し、
前記土壌侵食防止剤は樹脂エマルジョンを含む、
散布方法。
【請求項2】
前記樹脂エマルジョンが、酢酸ビニルに由来する構造単位を含む樹脂のエマルジョンである、請求項1記載の散布方法。
【請求項3】
前記樹脂エマルジョンが、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有するエマルジョンである、請求項1又は請求項2に記載の散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌侵食防止剤の散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農地や土木工事現場等では降雨等により表面の土壌が侵食され、雨水と同時に表層の土壌が流れるといった、土壌浸食及び土壌流出の課題がある。
【0003】
特許文献1には、樹脂エマルジョンを含有する土壌侵食防止剤の散布について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-052289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、土壌侵食防止剤の散布による土壌侵食防止には固着層の形成が必要であるが、固着層が十分に形成されないことがあった。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、十分な厚さを有する固着層を形成可能な土壌侵食防止剤の散布方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、散布工程を備え、前記散布工程では、含まれる水分量が最大容水量の75%以下である土壌に対して土壌侵食防止剤を散布し、前記土壌侵食防止剤は樹脂エマルジョンを含む、散布方法が提供される
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、土壌侵食防止剤の散布対象である土壌の水分量が所定の範囲内である場合に十分な厚さを有する固着層を形成可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、
前記樹脂エマルジョンが、酢酸ビニルに由来する構造単位を含む樹脂のエマルジョンである、散布方法である。
好ましくは、前記樹脂エマルジョンが、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有するエマルジョンである、散布方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0011】
1.土壌侵食防止剤の散布方法
本発明の一実施形態に係る散布方法は、散布工程を備える。
【0012】
<散布工程>
散布工程では、含まれる水分量が最大容水量の75%以下である土壌に対して土壌侵食防止剤を散布する。散布時の土壌に含まれる水分量は、好ましくは土壌の最大容水量に対して60%以下であり、より好ましくは45%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。このような範囲であれば、十分な厚さの固着層の形成が可能となる。散布時の土壌に含まれる水分量は、具体的には例えば、土壌の最大容水量に対して、0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0013】
ここで、「最大容水量」とは、乾燥状態の土壌が保持することが可能な最大の水分量(質量)である。そのような最大容水量は、乾燥させた土壌に水を付与し、保持させることができた水分量を種々の方法により測定することにより決定することができる。
【0014】
一態様においては、十分に乾燥(例えば、100℃のオーブンで5時間乾燥)させた土壌(質量:S)を湿らせたろ紙を設置した漏斗に入れ、水(質量:W)を土壌に注ぎ、漏斗から滴下した水の量(質量:W)に基づき乾燥土壌が保持することができる最大の水分量(質量:W)を下記式(1)に基づき算出することができる。ただし、「W>0」であって、Wは最大容水量より十分に多い量である。
=WーW (1)
また、上記の水を注いだ後の保水土壌の質量(S)を利用して、下記式(2)に基づき算出してもよい。
=SーS (2)
その他、同様の手法により最大容水量を決定してもよい。
【0015】
土壌に含まれる水分の質量がMである場合には、土壌の最大容水量に対する水分量の割合Rは、下記式(3)に基づき算出される。
=100×(M/W) (3)
【0016】
本発明の対象とする土壌は、特に限定されないが、最大容水量を保持する土壌の含水比が25%以上である土壌が好ましく、30%以上である土壌がより好ましくは、50%以上であるものがさらに好ましい。このような範囲であれば、土壌侵食防止剤を散布する際の土壌の舞い上がりを抑制することができる。土壌は、具体的には、赤土又は珪砂であり、特に赤土を対象とする。ここで、「含水比」とは、乾燥土壌の質量に対する、土壌が保持する水分の質量の割合である。最大容水量を保持する土壌の含水比Rは、下記式(4)により表すことができる。
=W/S (4)
【0017】
本発明の一実施形態に係る散布方法は、散布対象とする農地等の土壌の水分量を算出する水分量算出工程を備えていてもよい。土壌の水分量は、例えば、採取した土壌を乾燥させた場合の前後の質量変化に基づき算出することにより行うことができる。また、土壌の水分量は、土壌水分計等を用いて測定することもできる。
【0018】
また、水分量算出工程における水分量の算出は、土壌の実測に基づかず、各種データに基づき一定以上の確度の推定値を算出するものであってもよい。各種データとは、算出時およびそれ以前の所定期間における気温、湿度、降水量、風速等の天候情報および過去の実測時の天候情報と水分量との関係の統計データである。また、各種データを用いて機械学習により推定値を算出可能な情報処理装置、情報処理方法、プログラム等を用いてもよい。
【0019】
土壌侵食防止剤の散布は、種々の方法に行うことができるが、例えば、小面積に散布する場合では、じょうろや動力散布機等を使用することができ、大面積を散布する場合ではハイドロシーダー
やブームスプレーヤ等を使用することができる。また、散布された土壌侵食防止剤は粉粒状堆積物に、粉粒状堆積物の粉粒体と土壌侵食防止剤とからなる固着層を形成する役割を果たすとともに、固着層に流入した雨水を保持し、固着層下に存在する粉粒状堆積物へ流入する水量を少なくすることにより、粉粒状堆積物の崩れ、流出防止に効果を示しうる。また、固着層を形成することにより、粉塵発生の防止にも効果を示しうる。
【0020】
散布は、散布によって形成される固着層の厚さが、好ましくは4mm以上、より好ましくは9mm以上となるように行う。このような範囲にすることにより、十分な土壌流出防止性と透水性が得られる。また、散布によって形成される固着層の厚さが、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下となるように行う。
【0021】
散布工程は、土壌の単位面積あたりに散布される土壌侵食防止剤由来の固形分量が、好ましくは10~600g/m、より好ましくは150~500g/mとなるように散布することが好ましい。このような範囲にすることにより、十分な固着層の厚みが得られる。
【0022】
散布工程は、土壌の単位面積あたりの散布液量が、好ましくは1000~8000g/m、より好ましくは1500~4000g/mとなるように散布することが好ましい。このような範囲にすることにより、十分な固着層の厚みが得られる。
【0023】
<土壌侵食防止剤>
土壌侵食防止剤は、樹脂エマルジョンを含む。樹脂エマルジョンは、水を分散媒、樹脂を分散質とした組成物である。
【0024】
樹脂エマルジョンは、主モノマーとして、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ブタジエン等の、種々のオレフィン系化合物を単独または複数用いて重合し調製した樹脂エマルジョンが使用できる。具体的には、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル共重合体エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂エマルジョン、スチレンアクリル酸エステル共重合体エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン(EVAエマルジョン)、スチレン-ブタジエン共重合体エマルジョン、ビニリデン樹脂エマルジョン、ポリブテン樹脂エマルジョン、アクリルニトリル-ブタジエン樹脂エマルジョン、メタアクリレート-ブタジエン樹脂エマルジョン、アスファルトエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、シリコン樹脂エマルジョンなどが例示され、このうち、酢酸ビニルに由来する構造単位を含む樹脂のエマルジョン(酢酸ビニル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル共重合体エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン等)が好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体を有するエマルジョンがさらに好ましい。
【0025】
樹脂エマルジョンの製造方法は、特に限定されないが、例えば、水を主成分とする分散媒中に乳化剤とモノマーを添加し、撹拌させながらモノマーを乳化重合させることによって製造することができる。乳化剤としては、イオン性(カチオン性・アニオン性・双性)界面活性剤や非イオン性(ノニオン性)界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、アルキルグリコシドのような低分子系界面活性剤、あるいはポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような高分子系界面活性剤が挙げられ、高分子系界面活性剤が好ましい。高分子系界面活性剤は、ポリビニルアルコールからなるものが特に好ましく、その平均重合度は例えば200~2500であり、400~2200が好ましく、500~2000がさらに好ましい。ポリビニルアルコールは、平均重合度が大きいほど乳化分散力が高まるので、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適切な平均重合度を有するポリビニルアルコールを使用すればよい。また、ポリビニルアルコールは、平均重合度が互いに異なる複数種類のものを組み合わせて使用してもよい。ポリビニルアルコールのケン化度は、特に限定されないが、例えば、70%以上であり、80~95%が好ましい。ケン化度が低すぎると極端に水への溶解性が低下し、特殊な溶解方法を用いなければ溶解できず、工業的には使用し難いからである。ポリビニルアルコールは、ケン化度が低いほど乳化分散力が高まるので、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適切なケン化度を有するポリビニルアルコールを使用すればよい。乳化剤は異なる複数種類のものを組み合わせて使用してもよい。乳化剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、分散媒100質量部に対して0.5~20質量部であり、1から10質量部が好ましい。乳化剤は添加量が多いほど乳化分散力が高まるので、乳化剤の添加量は、所望の分散度のエマルジョンが得られるように、適宜調整される。
【実施例0026】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0027】
<樹脂エマルジョンの調整>
攪拌機付きの高圧重合缶に、予め100部の純水に乳化剤としてポリビニルアルコール(デンカポバールB-05(鹸化度88mol%、平均重合度600、デンカ株式会社製)4.1部及びデンカポバールB-17(鹸化度88mol%、平均重合度1700、デンカ株式会社製)1.5部)、助剤としてホルムアミジンスルフィン酸0.1部、酢酸ソーダ0.2部、硫酸第一鉄七水和物0.005部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム0.01部を溶解したものを投入後、攪拌下で酢酸ビニルモノマー83部及びエチレン20部を充填し内液温度を55℃とした後、過硫酸アンモニウム水溶液を連続添加し重合を行った。高圧重合缶内の圧力が4.3MPaまで低下した時点から、酢酸ビニルモノマー26部を2時間かけて分添した。重合末期にt-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を添加し、未反応の酢酸ビニルモノマー量が2%未満になるまで重合を継続した。
重合後に残存するエチレンをパージし、生成したエマルジョン中の未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧除去した結果、未反応の酢酸ビニルモノマーが0.5%以下の樹脂エマルジョン1を得た。
得られた樹脂エマルジョン1の固形分率をJIS K 6828に準じて測定した。乾燥条件は、105℃で3時間とした。固形分率は55%であった。
【0028】
[実施例1]
次の条件に基づいて、試験土壌を準備し、土壌侵食防止剤を散布し、固着層の厚さについて調べた。
試験土壌の準備は、充填容器に土壌を仕込み、土壌Aの最大容水量に達するまで水を散布したものを、土壌の最大容水量に対する水分量が所定割合(R=18.9%)となるまで養生・乾燥させることにより行った(後述の試験方法2を参照)。
土壌侵食防止剤の散布は、上記樹脂エマルジョン1を純水で4倍に希釈して調製した散布溶液を土壌侵食防止剤として散布量が2000g/mとなるように散布し、養生した。
・土壌充填容器:セーフティーBOX(内寸:d175mm×w275mm×h120mm)
・土壌充填量:3.5kg/器
・転圧の有無:EVA散布前、土壌の最大容水量に達するまで水を散布する
・養生条件:屋内(エアコンを23℃に設定)
・土壌侵食防止剤散布方法:霧吹き
・固着層の厚みの測定タイミング:樹脂エマルジョン散布後の6日後
【0029】
<試験方法1:最大容水量の測定方法>
試験土壌の最大容水量の測定は、次の方法により行った。
1.土壌200gを100℃で5時間乾燥させた。
2.100mLメスシリンダーに直径110mmの漏斗を乗せ、直径185mmのろ紙(アドバンテック5C)をセットし、霧吹き(水)で軽く湿らせた。
3.乾燥した土壌100g(S)を漏斗に入れた。
4.土壌表面から100g(W)の水を満遍なく注ぎ、ろ液の滴下終了を確認後、その滴下水量(W)を確認した。「100-W」が土壌の最大容水量となる。
【0030】
<試験方法2:土壌侵食防止剤散布時の土壌の水分量の測定>
土壌侵食防止剤散布時の土壌の水分量の測定は、次の方法により行った。
1.土壌充填容器の風袋を測定した。
2.容器に規定量(3.5kg)の乾燥した土壌を充填した。
3.土壌が最大容水量に達するまで、霧吹きで土壌に水を加えた。
4.23℃の室内で養生し、徐々に乾燥させた。
5.散布時点の充填された容器の重量を測定し、以下の式により土壌の水分量を算出した。
水分量=(充填された容器の重量)ー(乾燥土壌の重量)ー(容器の重量)
6.土壌の最大容水量に対する水分量の割合Rを、上記式(3)に基づき算出した。
【0031】
<試験方法3:固着層の厚さ測定>
ピンセットを用いて試験土壌の表面の固着層を剥ぎ取り、ノギスにより固着層の厚みを測定した。
N=5で測定を行い、最大値と最小値を除いたN=3で平均値を算出した。
なお、固着層とは土壌表面から浸透した土壌侵食防止剤が土壌粒子を含んで固化した層である。
【0032】
[実施例2~4・比較例1~2]
土壌の種類及び土壌の最大容水量に対する水分量の割合Rを表1の通りに変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0033】
各実施例で用いた土壌の詳細は、次の通りである。
土壌A:赤土(含水比R=60.0%)
土壌B:豊浦珪砂(含水比R=31.9%)
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示す通り、散布時の土壌の水分量が所定の範囲内である場合には、十分な厚みの固着層の形成が確認できた。