(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097103
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】過酸化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 15/03 20060101AFI20240710BHJP
C01B 3/06 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C01B15/03
C01B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083340
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 重成
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】森 泰生
(72)【発明者】
【氏名】坂口 怜子
(57)【要約】
【課題】本発明は、新規な過酸化水素の製造方法の提供を課題とし、好ましくは、製造コストや製造効率、環境負荷の点においても良好である、過酸化水素の製造方法の提供を課題とする。加えて、本発明は、これにより製造可能な、過酸化水素製品の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、水とラジカル安定化剤とを含む水系混合液と、非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成する、過酸化水素の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とラジカル安定化剤とを含む水系混合液と、非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成する、過酸化水素の製造方法。
【請求項2】
前記接触が、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を一定に保つこと又は増大させることによって実施される、請求項1に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項3】
前記非水系媒体が気体である、請求項1又は2に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項4】
前記接触が、前記気体の存在下にて、前記水系混合液の液滴を形成することによって実施される、請求項3に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項5】
前記液滴が、10pL以上の体積を有する、請求項4に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項6】
前記非水系媒体が疎水性液状物質である、請求項1又は2に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項7】
前記接触が、機械的及び/又は物理的操作によって前記水系混合液と前記疎水性液状物質との界面積を増大させることを含む、請求項6に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項8】
前記疎水性液状物質は、疎水性基としてアルカジエニル基を有する化合物又は疎水性基と親水性基とを有する化合物である、請求項6又は7に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項9】
前記疎水性液状物質は、芳香族アルコール化合物である、請求項8に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項10】
前記接触前における、前記水系混合液に対する前記疎水性液状物質の体積比が、0.001以上100以下である、請求項6~9のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項11】
80℃以下の温度で、前記接触を行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項12】
前記ラジカル安定化剤は、水に由来するラジカルとの反応を経由して、活性種を生成しうるものであり、
前記活性種は、水を酸化して過酸化水素を生成する作用を有するものである、請求項1~11のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項13】
前記ラジカル安定化剤が、炭酸水素イオンであり、前記活性種が、過炭酸水素イオンである、請求項1~12のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項14】
前記水系混合液におけるラジカル安定化剤の濃度が、0.3mmol/L以上である、請求項1~13のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項15】
過酸化水素とともに、水素を生成する、請求項1~14のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項16】
水とラジカル安定化剤と過酸化水素とを含み、
前記ラジカル安定化剤の濃度が、0.3mmol/L以上である、過酸化水素製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の製造方法に関する。また、本発明は、過酸化水素製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、酸化力を有することから殺菌剤、漂白剤、食品添加剤、化学合成等に用いられており、さらに、半導体基板等の洗浄、銅/銅合金表面の化学的研磨、電子回路のエッチング等、電子工業においても需要が増加している。さらに、近年では、ロケットや人工衛星の燃料に使われるなど、様々な分野において用いられている。過酸化水素の重要な特徴として、その分解物が水と酸素であり、環境負荷が低い酸化剤である点が挙げられる。環境への配慮の意識が高まるなか、過酸化水素の使用量は、年々増加する傾向にある。
【0003】
過酸化水素は、主に、水素と酸素とを原料として用い、アントラセン誘導体の自動酸化反応を利用するアントラキノン法により製造されてきた。しかし、ベンゼンなど大量の有機溶媒の添加を必要とし、また多くの副生成物や触媒の劣化が生じるので、環境負荷が大きく、また、様々な分離工程や再生工程を必要とするなどの不利な点がある。さらに、原料として水素を用いるため、製造コストが高い点で問題である。
【0004】
過酸化水素の製造方法としては、例えば、アントラセン誘導体の自動酸化を利用する、いわゆるアントラキノン法において、2-(1-エチルプロピル)アントラキノンを用いることが提案されている(特許文献1)。また、水素と酸素とを直接反応させて過酸化水素を得る方法において、パラジウムと金と酸素原子と臭素原子とを含み、前記酸素原子及び臭素原子が最表面に存在する貴金属触媒を用いることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-156661号公報
【特許文献2】再表2018/016359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、従来から知られる過酸化水素の合成法では、多段プロセスであること、製造工程において排出される有機溶剤の処理が必要であること、特にアントラキノン法では、副反応により生じたアントラキノンの再生が必要であることなど、製造コストや製造効率、環境負荷の点から問題があり、新規な過酸化水素の製造方法が求められている。
【0007】
本発明は、新規な過酸化水素の製造方法の提供を課題とし、好ましくは、製造コストや製造効率、環境負荷の点においても良好である、過酸化水素の製造方法の提供を課題とする。加えて、本発明は、これにより製造可能な、過酸化水素製品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]
水とラジカル安定化剤とを含む水系混合液と、非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成する、過酸化水素の製造方法。
[2]
前記接触が、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を一定に保つこと又は増大させることによって実施される、[1]に記載の過酸化水素の製造方法。
[3]
前記非水系媒体が気体である、[1]又は[2]に記載の過酸化水素の製造方法。
[4]
前記接触が、前記気体の存在下にて、前記水系混合液の液滴を形成することによって実施される、[3]に記載の過酸化水素の製造方法。
[5]
前記液滴が、10pL以上の体積を有する、[4]に記載の過酸化水素の製造方法。
[6]
前記非水系媒体が疎水性液状物質である、[1]又は[2]に記載の過酸化水素の製造方法。
[7]
前記接触が、機械的及び/又は物理的操作によって前記水系混合液と前記疎水性液状物質との界面積を増大させることを含む、[6]に記載の過酸化水素の製造方法。
[8]
前記疎水性液状物質は、疎水性基としてアルカジエニル基を有する化合物又は疎水性基と親水性基とを有する化合物である、[6]又は[7]に記載の過酸化水素の製造方法。
[9]
前記疎水性液状物質は、芳香族アルコール化合物である、[8]に記載の過酸化水素の製造方法。
[10]
前記接触前における、前記水系混合液に対する前記疎水性液状物質の体積比が、0.001以上100以下である、[6]~[9]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[11]
80℃以下の温度で、前記接触を行う、[1]~[10]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[12]
前記ラジカル安定化剤は、水に由来するラジカルとの反応を経由して、活性種を生成しうるものであり、
前記活性種は、水を酸化して過酸化水素を生成する作用を有するものである、[1]~[11]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[13]
前記ラジカル安定化剤が、炭酸水素イオンであり、前記活性種が、過炭酸水素イオンである、[1]~[12]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[14]
前記水系混合液におけるラジカル安定化剤の濃度が、0.3mmol/L以上である、[1]~[13]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[15]
過酸化水素とともに、水素を生成する、[1]~[14]のいずれか1つに記載の過酸化水素の製造方法。
[16]
水とラジカル安定化剤と過酸化水素とを含み、
前記ラジカル安定化剤の濃度が、0.3mmol/L以上である、過酸化水素製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な過酸化水素の製造方法を提供することが可能である。好ましくは、電圧の印加や多段プロセス、有機溶剤の排出等を伴うことなく過酸化水素を製造できるため、製造コストや製造効率、環境負荷の点においても良好である、過酸化水素の製造方法を提供することが可能である。加えて、本発明によれば、これにより製造可能な、過酸化水素製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例2-1において測定した、気相部分のガスクロマトグラフィスペクトルを表す。
【
図2】
図2は、参考例1において測定した、99%
13C含有炭酸水素ナトリウム水溶液の
13C NMRスペクトルを表す。
【
図3】
図3は、参考例2において測定した、各炭酸水素ナトリウム水溶液の電子スピン共鳴(EPR)スペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記過酸化水素の製造方法は、水とラジカル安定化剤とを含む水系混合液と、非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成することを含む。
【0012】
前記水系とは、水を溶媒として含むことを意味する。前記水系混合液の溶媒中、水の含有率(水/溶媒)は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。水系混合液は、水とラジカル安定化剤とを含むものであればよく、ラジカル安定化剤の水溶液であることが好ましい。
【0013】
前記ラジカル安定化剤は、水を酸化して過酸化水素を生成する作用を有する中間体(以下、単に「活性種」という)の生成に寄与するものであればよく、好ましくは、該ラジカル安定化剤と、水に由来するラジカルとの反応を経由して、前記活性種を形成しうるものであることが好ましい。
【0014】
前記ラジカル安定化剤は、その構造中に、共鳴構造を有するものであることが好ましく、酸素原子が関与する共鳴構造を有するものであることがより好ましく、共鳴安定化されていることがさらに好ましい。また、前記ラジカル安定化剤は、水溶性であることが好ましい。
【0015】
前記ラジカル安定化剤としては、具体的には、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)、炭酸イオン、カルボキシ基を含むイオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオンなどが好ましいものとして挙げられる。
【0016】
前記ラジカル安定化剤の濃度は、前記水系混合液中、好ましくは0.3mmol/L以上、より好ましくは0.5mmol/L以上、さらに好ましくは1mmol/L以上であり、ラジカル安定化剤又はラジカル安定化剤とその対イオンとの塩の水への溶解度以下、例えば1.2mol/L以下、好ましくは1mol/L以下、さらに好ましくは700mmol/L以下である。
【0017】
前記水系混合液は、水及びラジカル安定化剤のみからなっていてもよく、それ以外に、その他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、前記ラジカル安定化剤との塩を形成しうるイオン等が挙げられ、具体的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンなどが挙げられる。前記水系混合液において、前記ラジカル安定化剤と、前記イオンとは、塩を形成していてもよい。
【0018】
前記水系混合液は、水と混和しうる溶媒を含んでいてもよい。
【0019】
前記非水系媒体における非水系とは、水との界面を形成しうるものであることを意味し、好ましくは疎水性であることを意味する。前記非水系媒体は、流体であることが好ましく、気体及び/又は液体であることがより好ましい。前記流体、気体、液体は、前記水系混合液との接触時における状態を表すものとする。
【0020】
前記非水系媒体のオクタノール/水分配係数(Pow(線形スケール))は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上であり、上限は100,000,000であることが好ましい。前記オクタノール/水分配係数は、JIS Z 7260-107:2000に準拠して測定することができる。
【0021】
前記非水系媒体としての気体は、例えば、空気;又は窒素等の不活性気体であることが好ましい。前記気体としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
前記非水系媒体としての液体は、疎水性液状物質であることが好ましい。
【0023】
前記疎水性液状物質は、疎水性基を有し、常温(大気圧下、25℃)で液体である化合物であればよく、疎水性基としてアルカジエニル基を有する化合物(以下、「ジエン化合物」という場合がある)であるか、疎水性基及び親水性基を有する化合物であることが好ましい。作用機序は明らかではないが、前記疎水性液状物質においては、疎水性基同士が疎水性相互作用により集合し、親水性基が水系混合液側に配置されやすくなると考えられる。また、疎水性基中にπ共役系が存在する場合、前記疎水性相互作用に加えてπ-π相互作用も生じ得、疎水性基が、より集合しやすくなると考えられる。
【0024】
前記アルカジエニル基としては、ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基、ヘプタジエニル基、オクタジエニル基、ノナジエニル基、デカジエニル基等が挙げられる。前記アルカジエニル基の炭素数は、好ましくは4~12、より好ましくは4~10である。前記ジエン化合物は、好ましくは共役ジエン化合物である。
【0025】
前記疎水性基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ブタデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ブタデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基等の炭素数2~20の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基、ヘプタジエニル基、オクタジエニル基、ノナジエニル基、デカジエニル基、ウンデカジエニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、ブタデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基等の炭素数5~20の直鎖状又は分岐鎖状アルカジエニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基;前記アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基における水素原子を結合手とした2価の基と、前記芳香族炭化水素基とを組み合わせた炭素数7~20のアラルキル基;フッ素原子基、塩素原子基、臭素原子基、ヨウ素原子基等のハロゲン原子基等が挙げられる。
【0026】
前記疎水性基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アラルキル基が好ましく、アルキル基、アラルキル基がより好ましい。前記疎水性基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましい。前記脂肪族炭化水素基(好ましくはアルキル基)の炭素数は、1~5がより好ましい。前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がさらに好ましい。前記アラルキル基の炭素数は、7~20が好ましく、7~15がより好ましく、7~10がさらに好ましい。
【0027】
前記親水性基としては、ヒドロキシ基、アミノ基等の1価の親水性基;カルボニル基、エーテル結合、エステル結合等の2価の親水性基等が挙げられる。前記親水性基としては、1価の親水性基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
【0028】
前記親水性基は、前記疎水性基の第2級以上の炭素原子に置換していることが好ましい。
【0029】
なかでも、前記疎水性液状物質は、疎水性基とヒドロキシ基とを有するアルコール化合物が好ましく、脂肪族アルコール化合物、芳香族アルコール化合物がより好ましく、炭素数1~5のアルキル基とヒドロキシ基とが結合した脂肪族アルコールアルコール;炭素数7~15のアラルキル基とヒドロキシ基とが結合した芳香族アルコール化合物が好ましく、炭素数1~5の第2級脂肪族アルコール化合物;炭素数7~15の第2級芳香族アルコール化合物がより好ましく、2-ブタノール、1-フェニル-2-プロパノールが特に好ましい。前記芳香族アルコール化合物において、ヒドロキシ基は、芳香環と反対側の末端の炭素原子又は芳香環と反対側の末端から2番目の炭素原子に結合していることが好ましい。また、前記芳香族アルコール化合物において、ヒドロキシ基は、芳香環からみてα位又はβ位の炭素原子を置換していることが好ましく、β位の炭素原子を置換していることが好ましい。
【0030】
前記疎水性液状物質としては、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-フェニル-2-プロパノール、1-フェニルエチルアルコール、4-フェニル-2-ブタノール等のアルコール化合物;メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル化合物;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;トリオレイン、トリリノレイン等のエステル化合物;トリエチルアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン等のアミン化合物;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ジメチルブタジエン、ミルセン等の共役ジエン化合物;リモネン等の脂環式炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン置換脂肪族炭化水素化合物などが挙げられる。前記疎水性液状物質としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
前記疎水性液状物質の水への溶解度は、好ましくは300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下であることが好ましく、下限は0g/Lである。
【0032】
前記非水系媒体の沸点は、大気圧下において、常温以上であり、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、いっそう好ましくは50℃以上であり、例えば600℃以下であることが好ましい。
【0033】
前記非水系媒体の分子量は、好ましくは50以上、より好ましくは60以上であり、例えば1,000以下、より好ましくは800以下である。
【0034】
前記過酸化水素の製造方法は、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成することを含む。後述するように前記水系混合液と前記非水系媒体との接触により界面が形成され、ラジカル安定化剤の寄与により、前記水を酸化して過酸化水素を生成する作用を有する中間体が生成し、過酸化水素が発生するものと考えられる。
【0035】
前記水系混合液と前記非水系媒体との接触は、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を減少させないこと、すなわち、実質的に一定に保つこと又は増大させることによって実施されることが好ましい。前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を減少させないことで、ラジカル発生が維持されうる。また、前記水系混合液と前記非水系媒体との接触において、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を増大させることが含まれるのがより好ましい。前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を増大させることによって、ラジカル発生がより促進されうる。また、前記水系混合液と前記非水系媒体との接触の実施では、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を増大させた後に、実質的に一定に保つことも好ましい。
【0036】
前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を一定に保つことは、例えば、前記非水系媒体中に存在する前記水系混合液の液滴を保持(例えば静置)すること等により実施されることが好ましい。本明細書において、液滴は、液体の滴下により形成されうるものに限定されず、例えば、容器内に貯留されたバルク状の液体も包含する概念とする。
【0037】
前記水系混合液と前記非水系媒体との界面の界面積を増大させることは、例えば、前記非水系媒体中に前記水系混合液の液滴を形成すること;前記非水系媒体中に前記非水系混合液の微小領域を形成すること;前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させ機械的及び/又は物理的操作を行うことにより実施されることが好ましい。前記水系混合液中に前記非水系媒体の微小領域を形成することは、例えば、前記非水系媒体が気体の場合にはバブリング、前記非水系媒体が液体の場合には注入など、前記水系混合液中に前記非水系媒体を微小量導入する操作を行うことにより実施されてもよい。前記機械的及び/又は物理的操作は、撹拌操作等の、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面を直接変形させる操作であってもよく;振とう操作、超音波振動付与操作等の、前記水系混合液及び/又は前記非水系媒体に外力を及ぼすことによって、前記水系混合液と前記非水系媒体との界面を変形させる操作であってもよい。
【0038】
前記振とう操作を行う場合、回転数は、例えば1,000rpm以上であることが好ましく、好ましくは1,200rpm以上であり、上限は、例えば5,000rpm以下、4,000rpm以下としてもよい。
【0039】
前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる際の温度は、前記水系混合液が、液体として存在しうる温度であればよく、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上であり、例えば80℃以下、好ましくは75℃以下である。
【0040】
前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上であり、例えば100時間以下、好ましくは80時間以下である。
【0041】
前記水系混合液と前記非水系媒体との接触は、大気圧下(例えば、900~1,200hPa、好ましくは950~1,100hPa(絶対圧))で実施することができる。
【0042】
前記水系混合液に対する前記非水系媒体の体積比(非水系媒体/水系混合液)は、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させない状態において、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上であり、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下、いっそう好ましくは50以下である。
【0043】
前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させることにより生成した過酸化水素は、前記水系混合液に溶解し、過酸化水素を含む水系混合液として回収することができる。
【0044】
前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させて生成した過酸化水素の存在は、例えば、前記接触後、前記水系混合液に、過酸化水素のプローブを添加し、各プローブに対応した蛍光を測定することで確認することができる。前記過酸化水素のプローブとしては、Peroxy green 1(9-(4-メトキシ-2-メチルフェニル)-6-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-キサンテン-3-オン)、Oxiselect(コスモ・バイオ株式会社製)、HYDROP-EX(五稜化薬株式会社製)等を用いることができる。
【0045】
前記蛍光を測定する際、濃度消光等の影響を抑制するため、前記非水系媒体との接触後の水系混合液を希釈してもよい。前記希釈媒体としては、例えば、リン酸緩衝食塩水等を用いることができる。希釈倍率は、体積基準で、例えば1倍~1,000倍、5~500倍とすることができる。
【0046】
前記過酸化水素の製造方法において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させて、さらに水素を生成することが好ましい。
【0047】
前記水系混合液と前記非水系媒体との接触により過酸化水素が生成するメカニズムは確定されるものではないが、一例として、前記ラジカル安定化剤として過酸化水素イオンを用いた場合、以下に示されるように推測される。
【0048】
【0049】
すなわち、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させることで、炭酸水素イオンと、ヒドロキシラジカルとの反応によりCO3
-ラジカルが生成し、CO3
-ラジカルとヒドロキシラジカルとの反応;あるいはCO3
-ラジカルの会合により生じたC2O6
2-と水素イオンとの反応により、活性種としてのHCO4
-が生成すると考えられる。HCO4
-は、ヒドロキシラジカルよりも安定であるものの、反応性が高く、水を酸化する作用を有するものであり、HCO4
-と水との反応により、過酸化水素が生成すると考えられる。
【0050】
さらに、前記の反応式に基づいて、反応に関与する成分の物質収支を考慮すると、水素が発生することも説明することができる。
【0051】
実施態様1として、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成する際、前記接触が、前記水系混合液と気体である前記非水系媒体との界面の界面積を増大させた後、一定に保つことによって実施されることが好ましい。具体的には、前記気体である非水系媒体中に、前記水系混合液の液滴を形成し、その液滴を保持することによって実施されることが好ましい。
【0052】
前記液滴の形成は、例えば、前記非水系媒体中の存在下、前記水系混合液を滴下又は噴霧することにより実施することができる。前記滴下又は噴霧の際、非水系媒体以外に、基材が存在していてもよい。前記基材としては、液滴を保持可能なように水(水系混合液)との接触角の大きい材料であるのが好ましく、ガラス基材;ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル等の樹脂からなる樹脂基材等を用いることができる。
【0053】
前記基材上における水の接触角は、例えば10°以上、好ましくは20°以上、より好ましくは30°以上であり、例えば150°以下、120°以下であることも許容される。前記水の接触角は、例えば、JIS R 3257:1999に準拠して測定することができる。
【0054】
前記液滴の体積は、好ましくは10mL以下、より好ましくは5mL以下、さらに好ましくは1mL以下であり、好ましくは10pL以上、より好ましくは50pL以上である。また、前記液滴の体積は、好ましくは700μL以下、より好ましくは500μL以下であって、好ましくは100nL以上、より好ましくは500nL以上、さらに好ましくは1μL以上であってもよく;好ましくは1μL以下、より好ましくは500nL以下、さらに好ましくは100nL以下、いっそう好ましくは10nL以下、好ましくは10pL以上、より好ましくは50pL以上であってもよい。前記水系混合液は、前記ラジカル安定化剤を含んでおり、液滴の体積が大きく、非水系媒体との界面積が大きくとも、過酸化水素を生成することができる。
【0055】
なお、前記液滴の形状は、例えば、球状、半球状、半楕円球状等であってよく、基材上に濡れ広がった形状であってもよい。また、前記液滴が容器内に貯留され、液滴の上部でのみ非水系媒体と接している状態であってもよい。この場合、前記液滴と前記非水系媒体との界面積が大きくなるように、容器の底面と平行な平面における断面(以下、単に「容器断面」という場合がある)の断面積が大きいことが好ましい。また、前記容器断面にわたって水系混合液の表面が存在しうるよう、前記容器断面の断面積に応じ、前記水系混合液の体積を10mLより大きくしてもよい。前記液滴の体積は、例えば、容器中における液滴の高さが、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは5mm以上であり、好ましくは10m以下、より好ましくは1m以下、さらに好ましくは50cm以下となるような体積であってよい。前記容器断面の断面積は、例えば10cm2以上、好ましくは20cm2以上であり、場合により1m2以上、100m2以上、1,000m2以上であってもよく、場合により8,000m2以下、2,000m2以下、200m2以下であってよく、1m2以下、100cm2以下であってもよい。
【0056】
実施態様1において、前記非水系媒体としては、気体が好ましく、空気や、窒素等の不活性ガス等が挙げられる。なお、水の酸化反応であるものの、上記化1に示すように酸素は過酸化水素の発生に寄与しないので、気体に酸素が含まれている必要はない。
【0057】
実施態様1において、前記液滴は、その界面の全てが前記非水系媒体と接していてもよく、前記液滴の一部が、前記基材と接していてもよい。
【0058】
実施態様1において、前記液滴と前記非水系媒体との界面の界面積Sと、前記液滴の体積Vとの比(S/V、以下、「比表面積」という場合がある)は、好ましくは100m-1以上、より好ましくは200m-1以上、さらに好ましくは500m-1以上であり、例えば10,000m-1以下、8,000m-1以下、5,000m-1以下であってもよい。
【0059】
前記液滴の体積Vは、滴下時の条件に即して特定することができ、滴下時の条件が不明である場合は、液滴の重量を測定し、密度を1g/cm3と仮定して算出することができる。また、前記界面積Sは、液滴の体積Vと、光学顕微鏡等により測定した液滴の半径rとを用いて算出することができる。具体的には、まず液滴の高さhを以下の式を用いて算出した後、
V=(1/6)πh(3r2+h2)
液滴の半径rと高さhとから、以下の式を用いて界面積Sを算出することができる。
S=π(r2+h2)
【0060】
前記実施態様1において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる温度は、前記水系混合液が液体として存在する温度であればよく、具体的には、前記水系混合液の凝固点より高く、好ましくは、0℃以上、より好ましくは4℃以上、さらに好ましくは10℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、いっそう好ましくは75℃以下である。
【0061】
前記実施態様1において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上であり、例えば500時間以下、好ましくは200時間以下、より好ましくは100時間以下である。前記実施態様1において、液滴を接触させる時間が一定時間以上になると、過酸化水素の発生量が飽和する傾向にある。この観点からは、接触時間を、例えば50時間以下、30時間以下、20時間以下、10時間以下とすることも許容される。
【0062】
前記実施態様1において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを、0℃以上、80以下℃以下の温度で20分以上、20時間以下接触させることが好ましく、20℃以上、75℃以下の温度で1時間以上、10時間以下接触させることが好ましい。
【0063】
前記実施態様1において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる際の圧力は、大気圧、例えば、絶対圧で、900~1,200hPa、好ましくは950~1,100hPaであることが好ましい。
【0064】
実施態様2として、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させて過酸化水素を生成する際、前記非水系媒体として前記疎水性液状物質を用い、前記接触が、前記水系混合液と疎水性液状物質との界面の界面積を増大させることによって実施されることが好ましい。具体的には、前記水系混合液と前記疎水性液状物質との界面の界面積を、機械的及び/又は物理的操作によって増大させることが好ましい。前記水系混合液と、前記疎水性液状物質とを接触させる際、気体である非水系媒体が共存していてもよい。
【0065】
実施態様2において、前記水系混合液に対する前記疎水性液状物質の体積比(疎水性液状物質/水系混合液)は、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる前の状態において、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0066】
実施態様2において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる温度は、前記水系混合液が、液体として存在しうる温度であればよく、好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上であり、例えば70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0067】
実施態様2において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上であり、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは3時間以下であり、特に、接触時間が5分以下、3分以下であっても過酸化水素を生成することができる。
【0068】
実施態様2において、前記水系混合液と前記非水系媒体とを接触させる際の圧力は、大気圧、例えば、絶対圧で、900~1,200hPa、好ましくは950~1,100hPaであることが好ましい。
【0069】
水と前記ラジカル安定化剤と過酸化水素とを含み、前記ラジカル安定化剤の濃度が、0.3mmol/L以上である過酸化水素製品も本発明の技術的範囲に包含される。前記過酸化水素製品は、非水系媒体、例えば空気中において、過酸化水素を安定的に生成しうる。
【0070】
前記ラジカル安定化剤の濃度は、前記過酸化水素製品中、好ましくは0.3mmol/L以上、より好ましくは0.5mmol/L以上、さらに好ましくは1mmol/L以上であり、ラジカル安定化剤又はラジカル安定化剤とその対イオンとの塩の水への溶解度以下、例えば1.2mol/L以下、好ましくは1mol/L以下、さらに好ましくは700mmol/L以下である。
【0071】
過酸化水素の濃度は、前記過酸化水素製品中、好ましくは0.1μmol/L以上、より好ましくは1μmol/L以上、さらに好ましくは10μmol/L以上であり、例えば10mol/L以下、1mol/L以下、500mmol/L以下、100mmol/L以下であってもよい。なお、過酸化水素の濃度は、蒸留などの濃縮、加水などの希釈により調整することが可能である。
【0072】
前記過酸化水素製品は、水、前記ラジカル安定化剤及び過酸化水素以外に、その他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、前記ラジカル安定化剤との塩を形成しうるイオン等が挙げられ、具体的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンなどが挙げられる。前記水系混合液において、前記ラジカル安定化剤と、前記イオンとは、塩を形成していてもよい。
【0073】
前記水系混合液は、水と混和(例えば相溶)しうる溶媒を含んでいてもよい。前記水と混和しうる溶媒としては、エタノール、2-プロパノール等の低級アルコール類(特に、炭素数1~4、好ましくは炭素数2~3のアルコール類)などが挙げられる。
【0074】
前記過酸化水素製品は、殺菌剤、漂白剤、洗浄剤、除菌剤、食品添加剤等に好適に用いることができる。
【実施例0075】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない
【0076】
実施例1-1:滴下による液滴作製
水と炭酸水素ナトリウムとを混合し、ラジカル安定化剤としての炭酸水素イオンが表1に示す濃度となるように水系混合液を調製した。前記水系混合液を、大気圧下、空気中、100mm cell culture dish(Corning製)に、表1に示す体積となるように滴下して液滴(droplet)を作製した。作製した液滴を、表1に示す条件で静置して過酸化水素を生成した。
【0077】
実施例1-2:噴霧による液滴作製
水と炭酸水素ナトリウムとを混合し、ラジカル安定化剤としての炭酸水素イオンが表1に示す濃度となるように水系混合液を調製した。前記水系混合液を、大気圧下、空気中、ラップの上にネブライザNE-U200(OMRON)を用いて噴霧し、液滴(droplet)を作製した。作製した液滴を、表1に示す条件で静置して過酸化水素を生成した。
【0078】
実施例1-3:容器中における液滴作製
(1)~(4)については、水と炭酸水素ナトリウムとを混合し、ラジカル安定化剤としての炭酸水素イオンが表1に示す濃度となるように水系混合液を調製した。(5)については、水と炭酸水素カリウムとを混合し、ラジカル安定化剤としての炭酸水素イオンが表1に示す濃度となるように水系混合液を調製した。前記水系混合液を、大気圧下、空気中、100mm cell culture dish(Corning製)に、6mL滴下して液滴(droplet)を作製した。作製された液滴は、前記100mm cell culture dish上に、まんべんなく行きわたった状態であった。作製した液滴を、表1に示す条件で静置して過酸化水素を生成した。
【0079】
[液滴(droplet)の表面積の算出]
実施例1-1で得られた各液滴(droplet)について、光学顕微鏡を用いて底面の半径rを測定した。各液滴(droplet)の体積Vは、滴下時の条件に基づいて特定した。以下の式に基づいて、液滴(droplet)の高さhを算出し、
V=(1/6)πh(3r2+h2)
前記半径rと高さhとから、液滴(droplet)と非水系媒体としての空気との界面の界面積Sを算出した。
S=π(r2+h2)
【0080】
[過酸化水素量の測定]
非水系媒体との接触後の水系混合液における過酸化水素濃度を測定することにより、過酸化水素の生成を確認した。実施例、比較例に記載の各条件にて3回以上実施し、各実施により得られた水系混合液について、それぞれ3回以上測定を行った。具体的な測定は、以下のように行った。すなわち、実施例、比較例で得られた静置後の水系混合液を回収し、リン酸緩衝食塩水を用いて、体積基準で10倍又は100倍に希釈した。塩酸を用いてpHを7.6に調整した。その後、過酸化水素のプローブとして、Peroxy Green 1(9-(4-メトキシ-2-メチルフェニル)-6-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-キサンテン-3-オン)、OxiSelect(コスモ・バイオ株式会社製)、HYDROP-EX(五稜化薬株式会社製)の3種類を用い、非水系媒体との接触後の水系混合液における過酸化水素濃度を測定した。
【0081】
Peroxy Green 1を用いた場合については、前記希釈及びpH調整を行った後の水系混合液に、5μmol/Lの濃度となるようにPeroxy Green 1を加え、温度37℃、CO2濃度5%の雰囲気下で24時間静置した。その後、分光光度計Spark 10M(TECAN製)を用い、励起波長450nm、検出する蛍光波長515nmとして、蛍光強度を測定した。
【0082】
OxiSelectを用いた場合については、前記希釈及びpH調整を行った後の水系混合液に、製造元のプロトコルに従いOxiSelectを加え、室温で30分静置した。その後、分光光度計Spark 10M(TECAN製)を用い、励起波長550nm、検出する蛍光波長590nmとして、蛍光強度を測定した。
【0083】
HYDROP-EXを用いた場合については、前記希釈及びpH調整を行った後の水系混合液に、2μmol/Lの濃度となるようにHYDROP-EXを加え、温度37℃、CO2濃度5%雰囲気下で1時間静置した。その後、分光光度計Spark 10M(TECAN製)を用い、励起波長490nm、検出する蛍光波長530nmとして、蛍光強度を測定した。
【0084】
各試料における過酸化水素濃度は、各プローブについて作成した検量線に基づいて定量した。まず、過酸化水素濃度0.1μmol/L、0.3μmol/L、1μmol/L、3μmol/L、10μmol/L、30μmol/L、100μmol/Lとなるように過酸化水素水を調製し、それぞれ、塩酸を用いてpH7.6とした標準試料を調製した。次いで、上記の操作に従って各標準試料の蛍光強度を測定することによって検量線を作成した。プローブ間で定量された過酸化水素濃度に差異がないことを確認した。
プローブとしてHYDROP-EXを用いて定量した過酸化水素濃度を表1に示す。
【0085】
【0086】
実施例2-1:振とうによる水系分散液と空気との界面積増大
濃度0.5mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液と空気2mLをガスバリアバッグ(三菱ガス化学株式会社製、体積100mL)に入れ、約50℃に加熱しながら50分間、vortex(MicroMixerE-36(株式会社TAITEC製))を用いて振とうした。振とう時の振動数は、3,200rpmとした。
【0087】
[水素の生成の確認]
振とう後、前記ガスバリアバッグから気相部分を取り出した。取り出した気相部分を、ガスクロマトグラフィ(GC-2014(株式会社島津製作所製)、検出器:TCD(熱伝導度検出器)、カラム:Shincarbon-ST50/80(長さ6.0m、内径3.0mm)、キャリアガス:アルゴン)を用い、測定した。ガスクロマトグラフィのスペクトルを
図1に示す。
図1より、水素が生成していることを確認することができる。
【0088】
実施例2-2:振とうによる水系分散液と疎水性液状物質との界面積増大
各疎水性液状物質と表2~5に示す濃度の炭酸水素水溶液を、表1に示す混合比(体積基準)となるように容器に入れ、vortex(MicroMixerE-36(株式会社TAITEC製))を用いて、表2~5に示す条件で振とうを行った。振とう時の振動数は、3,200rpmとした。
【0089】
[過酸化水素量の測定]
非水系媒体との接触後の水系混合液における過酸化水素濃度を測定することにより、過酸化水素の生成を確認した。具体的には、水系分散液と、疎水性液状物質とを接触させた後、遠心分離して油層を取り除き、水層をリン酸緩衝食塩水(PBS)で、疎水性液状物質として1-フェニル-2-プロパノール、1-フェニルエチルアルコール、2-ブタノールを用いて得られた水相を除き、100倍(体積基準)に希釈した。1-フェニル-2-プロパノール、1-フェニルエチルアルコール、2-ブタノールを用いた場合の水相については、リン酸緩衝食塩水(PBS)で、1,000倍(体積基準)に希釈した。疎水性液状物質として、トリエチルアミンを用いた場合は、塩酸を用い、pHを7.6に調整した。前記希釈を行った後の水系混合液に、2μmol/Lの濃度となるように過酸化水素のプローブとしてのHYDROP-EXを加え、温度37℃、CO2濃度5%雰囲気下で1時間静置した。その後、分光光度計Spark 10M(TECAN製)を用い、励起波長490nm、検出する蛍光波長530nmとして、蛍光強度を測定した。
【0090】
非水系媒体との接触後の水系混合液における過酸化水素濃度は、前記検量線に基づいて定量した。定量した過酸化水素濃度を表2~5に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表2~5中、疎水性液状物質(1)~(26)は、それぞれ、以下の化合物を表す。
(1)1-フェニル-2-プロパノール
(2)1-フェニルエチルアルコール
(3)2-ブタノール
(4)トリエチルアミン
(5)3-メチル-1-ブタノール
(6)トリオレイン
(7)オクタノール
(8)シクロヘキサノン
(9)3-ペンタノール
(10)ミルセン
(11)イソプレン
(12)ジエチルエーテル
(13)2-ペンタノール
(14)(R)-(+)-リモネン
(15)エチルベンゼン
(16)4-フェニル-2-ブタノール
(17)キシレン
(18)トリリノレイン
(19)ベンゼン
(20)トルエン
(21)スチレン
(22)ジクロロメタン
(23)クロロホルム
(24)2-ブタノン
(25)1-ブタノール
(26)tert-アミルアルコール
【0096】
以上より、水とラジカル安定化剤とを含む水系分散液と、非水系媒体とを接触させることにより過酸化水素が生成することを確認できる。
【0097】
参考例1:過炭酸イオン(HCO4
-)の検出
ポジティブコントロール
ポジティブコントロールとして、99%13C含有炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度500mol/L)を100μLと、酢酸(濃度1mol/L)を65μL混合し、イオン交換水335μLと混合して、二酸化炭素を充分発生させたのちに、8.5mol/Lの過酸化水素水を68μL加えることで過炭酸イオン(HCO4
-)を含む試料を調製した。炭酸水素ナトリウムの終濃度(二酸化炭素を発生させる前の段階における最終的な濃度)は0.1mol/L、酢酸の終濃度(過酸化水素を加える前の段階における最終的な濃度)は0.13mol/L、過酸化水素の終濃度(調製後の最終的な濃度)は、1.0mol/Lであった。この試料を5mmNMR管に移し、0℃の氷浴上で冷やした後に、リン酸ナトリウム緩衝液でpHを調節した。溶媒ロックをかけるために終濃度12質量%となるようにD2Oを加え、即座にJEOL JNM-ECZ500R Spectrometer(500MHz)にセットし、13C NMRスペクトルを測定した。積算回数は1,024回、測定時間は1~2時間で、pH調節から最初のスキャンまでは約5分間であった。
【0098】
炭酸水素ナトリウム水溶液
測定試料として、99%13C含有炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度500mmol/L)と、1-フェニル-2-プロパノールとを、混合前の体積比が1:2となるような割合で混合した。-20℃において、測定試料を採取し、溶媒ロックをかけるため終濃度20体積%となるようにCD3ODを加え、5mmNMR管に移した。-20℃に設定したJEOL JNM-ECZ600R Spectrometer(600MHz)にセットし、13C NMRスペクトルを測定した。積算回数は200回、測定時間は10分であった。同様の方法で、3回測定を行った。
【0099】
ポジティブコントロールに基づいてHCO
4
-のスペクトルを同定した。1-フェニル-2-プロパノールとの混合液から水相として採取した炭酸水素ナトリウム水溶液の測定において得られた
13C NMRスペクトルを、
図2に示す。
【0100】
参考例2:水系混合液の界面におけるラジカル種の生成の検出
3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-2H-ピロール 1-オキシド(DMPO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、Fe(II)SO4・7H2O、過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
水系混合液としての炭酸水素ナトリウム水溶液と、非水系媒体としての空気との気液界面におけるラジカルの検出においては、3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-2H-ピロール 1-オキシド(DMPO)を終濃度300mmol/Lとなるように用いてスピントラッピング剤とし、DMPOを含む炭酸水素ナトリウム水溶液(炭酸水素ナトリウム濃度500mmol/L)をラップの上にネブライザNE-U200(OMRON)を用いて噴霧し、液滴(droplet)とした。ガスバリアPTS袋(三菱ガス化学株式会社製)を用い、無酸素環境下37°Cで4.5時間インキュベートし、その後液滴(droplet)を回収してひとつに合わせた。
【0101】
また、水系混合液としての炭酸水素ナトリウム水溶液と、非水系媒体としての1-フェニル-2-プロパノールとの界面におけるラジカルの検出においては、3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-2H-ピロール 1-オキシド(DMPO)を終濃度300mmol/Lとなるように用いてスピントラッピング剤とし、DMPOを含む炭酸水素ナトリウム水溶液(炭酸水素ナトリウム濃度500mmol/L)と1-フェニル-2-プロパノールとを、混合前の体積比が1:2となるような割合で容器に入れ、vortex(MicroMixerE-36(株式会社TAITEC製))を用いて1分間振とうした。振とう時の振動数は、3,200rpmとした。水相を電子スピン共鳴(ESR)スペクトル測定に供した。
【0102】
電子スピン共鳴(EPR)スペクトルは、室温においてJES-X320(株式会社JEOL RESONANCE製)で検出し、キャビティには5mm ESR sampletube(SHIGEMI)を使用して測定した。測定条件は、以下の通りとした。
center field:328.000mT
sweepwidth:5mT
scan time:2分
microwave frequency:9.206GHz
microwave power:5mW
【0103】
【0104】
図2に示すように、前記99%
13C含有炭酸水素ナトリウム水溶液と1-フェニル-2-プロパノールとの混合液の水相について測定した
13C NMRスペクトルから、HCO
4
-が、該水相中に存在していることが確認された。つまり、水系混合液と疎水性液状物質との接触により、過炭酸水素イオン(HCO
4
-)を生成させることができることが確認できた。HCO
4
-は、きわめて不安定であり、通常であれば、即座に水と反応して過酸化水素と炭酸水素イオンを生じうる。ところが、
図2の
13C NMRからは、HCO
4
-が高濃度で存在していることが示唆される。このことから、HCO
3
-の寄与によりHCO
4
-が生じ、HCO
4
-の作用により過酸化水素が生成していると推察される。
【0105】
さらに、
図3に示すように、ネブライザを用いて作成した液滴(droplet)として空気と接触させた後の水系混合液としての炭酸水素ナトリウム水溶液、1-フェニル-2-プロパノールと混合した後の炭酸水素ナトリウム水溶液のいずれにおいても、水に由来するラジカル種(H・、OH・)がそれぞれ存在していることが確認された。
【0106】
これらの結果から、炭酸水素ナトリウム水溶液と、非水系媒体とを接触させることにより過酸化水素及び水素が生成する妥当なメカニズムとして、以下の反応式により示されるメカニズムが成立しうる。
【0107】
【0108】
すなわち、炭酸水素イオンと、ヒドロキシラジカルとの反応によりCO3
-ラジカルが生成し、CO3
-ラジカルとヒドロキシラジカルとの反応;あるいはCO3
-ラジカルの会合により生じたC2O6
2-と水素イオンとの反応により、活性種としてのHCO4
-が生成すると考えられる。HCO4
-は、ヒドロキシラジカルよりも安定であるものの、反応性が高く、水を酸化する作用を有するものであり、HCO4
-と水との反応により、過酸化水素が生成すると考えられる。
【0109】
さらに、前記反応の量論式は以下に示される式となる。このことから、前記反応において、過酸化水素以外に、水素も発生すること、炭酸水素イオンそれ自身は、過酸化水素生成後に、再び炭酸水素イオンに戻ること、すなわち触媒的に作用していることが推察され、注目される。
【0110】
本発明によれば、新規な過酸化水素の製造方法を提供することが可能である。好ましくは、本発明によればは、電圧の印加や多段プロセス、有機溶剤の排出等を伴うことなく過酸化水素を製造できるため、製造コストや製造効率、環境負荷の点においても良好であり、過酸化水素の製造方法として有用である。