(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097104
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(4-ナイロン)及びそのナノ粒子
(51)【国際特許分類】
C08G 69/40 20060101AFI20240710BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20240710BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240710BHJP
A61K 31/785 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C08G69/40
C08J3/14 CEZ
A61P25/24
A61K31/785
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084422
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】ブイドク トリ
【テーマコード(参考)】
4C086
4F070
4J001
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086FA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA12
4F070AA54
4F070AB08
4F070AC12
4F070AC40
4F070AE28
4F070DA22
4F070DA26
4F070DA42
4F070DB09
4F070DC07
4F070DC16
4J001DA02
4J001DB05
4J001DC05
4J001EA04
4J001EE26C
4J001FA01
4J001FB01
4J001FC01
4J001GB01
4J001GB02
4J001GD07
4J001GD08
4J001GD10
4J001JA20
4J001JB01
4J001JB50
4J001JC02
(57)【要約】
【課題】γ-アミノ酪酸(GABA)の新規薬物デリバリー系を提供する。
【解決手段】
ポリ(エチレングリコール)(又はPEG)セグメントとポリ(GABA)(又はNylon 4)セグメントを含むブロックコポリマー、並びに当該ブロックコポリマーのナノ粒子が提供される。当該ナノ粒子は、抑うつの予防又は治療に有用である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
-(CH2CH2-O)m- (I)
式中、mは2~500の整数である、
で表される反復単位のセグメントと、
式II:
-(NHCH2CH2CH2C(=O))n- (II)
式中、nは、5~1000の整数である、
で表される反復単位のセグメントを、含むブロックコポリマー。
【請求項2】
次式IIIa又は式IIIbで表される請求項1のブロックコポリマー。
式IIIa:
A1-(CH2CH2-O)m1-L1-(NHCH2CH2CH2C(=O))n1-W1
(IIIa)
又は式IIIb:
A2-(CH2CH2-O)m2-L2-(C(=O)CH2CH2CH2NH)n2-W2
(IIIb)
で表され、各式中、
A1及びA2は独立して、非置換又は置換C1-C12アルキルオキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基又は式R'R"CH-基を表し、ここで、R'及びR"は独立してC1-C4アルコキシ又はR'とR"は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH2)3O-若しくは-O(CH2)4O-を表し、
L1及びL2は独立して、二価の連結基又は存在する場合には直接結合を表し、
W1は、ヒドロキシル基又は非置換若しくは置換O-C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基又はC1-C3アルキル基を表し、
W2は、水素原子又は非置換若しくは置換C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基又はC1-C3アルキルを表し、又は非置換若しくは置換C(=O)C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基若しくはC1-C3アルキル基を表し、
m1及びm2は独立して、前記mについて定義したとおりであり、かつ、
n1及びn2は独立して、前記nについて定義したとおりである。
【請求項3】
請求項1又は2のブロックコポリマーであって、水性媒体中でポリマーのナノ粒子を形成する、前記ブロックコポリマー。
【請求項4】
請求項2のブロックコポリマーであって、
L1は、(CH2)pC(=O)、C(=O)(CH2)q又はC(=O)(CH2)rC(=O)を表し、
L2は、直接結合、(CH2)sO又は(CH2)tNHを表し、
p、q、r、s、及びtは、それぞれ独立して、1~6の整数である、ブロックコポリマー。
【請求項5】
請求項2のブロックコポリマーをギ酸(HCOOH)含有水溶液に溶解するステップと、
前記ポリマーの溶解した溶液を透析膜を介して水に対して透析するステップと、
得られたポリマー懸濁液を超音波ホモジナイザー中で処理して懸濁液中の粒子を分割するステップと、
粒子を分割した分散液を細孔を備えた膜でろ過するステップを含む、ポリマーのナノ粒子の作製方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一つに記載のブロックコポリマーを有効成分として含む、抑うつの予防又は治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸(GABA)の新規薬物デリバリー系に関し、より具体的には、ポリ(エチレングリコール)(PEG)-b-ポリ(4-ナイロン)のコポリマー並びにその経口又は非経口投与に適するGABA含有ポリマーのナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理学の観点に立つと、γ-アミノ酪酸(GABA)はヒトの幾つかの疾患において主としてシグナル伝達経路及び病理学に関与する脳内の重要な神経伝達物質である。そのため、GABAのデリバリー能を増大することはGABA関連疾患を処置する上で有益であることを意味する(非特許文献1、非特許文献2)。例えば、抑うつ病では、GABAは腸管神経系を介して気分や感情に影響を及ぼし得るとの証拠が増加しつつある。ところで、GABAは低分子量の親水性化合物であることから、経口摂取された後、迅速に全身の循環系に入り、次いで、体内から排泄されるので腸管神経系を標的とすることに限界がある。したがって、胃腸管で持続可能にGABAを放出する新規薬物デリバリー系の開発は、神経疾患(又は障害)の処置にとって旧来のGABAに比べてより有益であろう。
【0003】
本発明者等は、低分子量の作用物質をポリマー化し、さらに当該ポリマーを、所謂、ペグ化してコポリマーとし、さらにポリマーの性質をもつナノ粒子とすることにより、血液循環系をはじめとする、生体内での前記作用物質の滞留性を改善できることを見出し、公表した(例えば、特許文献1、特許文献2、参照。)。特許文献1では、PEG-b-ポリ(アルギニン)とポリアニオン性ポリマーとの組合せ物が水性媒体中でポリマーのナノ粒子を形成でき、特許文献2では、ポリ(L-DOPA)のL-DOPA中の3,4-ヒドロキシル基を低分子アルキルエステル化することで、親水-疎水性ブロックコポリマーとすることによりポリマーのナノ粒子を形成することでき、こうして形成されたナノ粒子は、それぞれ、生体内滞留性を改善するとともに、生体内でアルギニン及びL-DOPAを放出でき、これらの低分子化合物それら自体が有する機能に基づく所期の効果を奏する旨報告されている。
【0004】
仮に、γ-アミノ酪酸(GABA)もアルギニン等と同様にポリマー化、ペグ化、かつ、ペグ化コポリマーをポリマーのナノ粒子とすることができ、さらに、当該ナノ粒子が生体内で遊離のGABAを持続可能に放出できるものであれば、当該技術分野で有益な新規なGABAデリバリー系を提供できるかも知れない。
【0005】
ポリ(γ-アミノ酪酸(GABA))について物質の観点に立つと、ポリGABA(又はナイロン4)は反復単位中に4個の炭素原子を有するポリアミドの一つである。現在のところ、ナイロン4は市場から入手できず、その用途も他のポリアミドファミリー群に比べ限定されている。ナイロンはバイオマスから、又は開環重合により合成できる。 Kamal他は、低分子量開始剤を用いて2-ピロリドンとε-カプロラクタムのバルク開環重合によるナイロン4とナイロン6のコポリマーの合成について報告している(非特許文献3)。しかし、ナイロン4をベースとするブロックコポリマーは今までのところ報告されていない。別の観点に立てば、ナイロン4はポリアミドの同族体であるが、γ-アミノ酪酸(GABA)のポリマーであると考えることができる。したがって、ナイロン4は、加水分解されるとGABAを放出するので、GABAの供給源として有力な候補材料であり得る。
【0006】
しかし、ポリアミドの一般的な性質として、ナイロン4は、ポリマー分子間及びポリマー分子内で強い水素結合性を有し、生物学的環境に適用するためのナノ粒子を調製することが困難である。今までのところ、本発明者が知る限りでは、界面活性剤や安定化剤を用いることなく、ナイロン4をベースとするナノ粒子の作製に成功したことを報告する刊行物の存在を知らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2016/167333パンフレット
【特許文献2】WO 2020/166473パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岡田・他,Nippon Shokuhin Kagaku Kaishi Vol. No. 8, 596-603 (2000)
【非特許文献2】Ngo, et. al., Molecules 24.15 (2019): 2678
【非特許文献3】Kamal, et al,Fibers and Polymers 15.5 (2014):899-907
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、γ-アミノ酪酸(GABA)の新規薬物デリバリー系を提供することを目的とし、具体的には、経口又は非経口投与に適するGABA含有ポリマーのナノ粒子を提供することを目的として鋭意研究を重ねた。本発明者は、所謂、トップ-ダウン法(top-down method:超音波、マイクロフルイダイザーの使用)により得ることができた、ポリマー形状のGABA(ナイロン4)と親水性ポリマーであるポリ(エチレングリコール)(以下、また、PEGと略記する場合もある)の間を、アミド結合を介して連結した新規ブロックコポリマーである、ポリ(エチレングリコール)-b-ナイロン4(以下、PEG-b-Nylon4ともいう。)は、意外なことに、ポリマーのナノ粒子(NanoBABAと略記する場合もある)を効率よく形成できることを見出した。理論により、本発明の解釈に影響を受けるものでないが、PEG-b-Nylon 4は、特許文献2に開示されるブロックコポリマーのように、親水-疎水性ブロックコポリマーの範疇に入らないものの、GABAそれ自体に何らの修飾を行わなくとも、PEGセグメントの存在が、ナイロン4における水素結合を介する相互作用を抑制し、水性環境下で大きな粒子の形成及び凝集を防ぐことができ、こうして、経口又非経口経路による投与に適する安定なナノ粒子を形成することができた、ものと理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、主たる態様として次のものを挙げることができる
〔態様1〕式I:
-(CH2CH2-O)m- (I)
式中、mは2~500、好ましくは5~300,より好ましくは10~200の整数である、
で表される反復単位のセグメントと、
式II:
-(NHCH2CH2CH2C(=O))n- (II)
式中、nは、5~1000,好ましくは10~600,より好ましくは15~400の整数である、
で表される反復単位のセグメントを、含むブロックコポリマー。
〔態様2〕次式IIIa又は式IIIbで表される態様1のブロックコポリマー。
式IIIa:
A1-(CH2CH2-O)m1-L1-(NHCH2CH2CH2C(=O))n1-W1
(IIIa)
又は式IIIb:
A2-(CH2CH2-O)m2-L2-(C(=O)CH2CH2CH2NH)n2-W2
(IIIb)
で表され、各式中、
A1及びA2は独立して、非置換又は置換C1-C12アルキルオキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基又は式R'R"CH-基を表し、ここで、R'及びR"は独立してC1-C4アルコキシ又はR'とR"は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH2)3O-若しくは-O(CH2)4O-を表し、
L1及びL2は独立して、二価の連結基又は存在する場合には直接結合を表し、
W1は、ヒドロキシル基、又は非置換若しくは置換O-C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基又はC1-C3アルキル基を表し、
W2は、水素原子、又は非置換若しくは置換C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基若しくはC1-C3アルキルを表し、又は非置換若しくは置換C(=O)C1-C6アルキルを表し、置換されている場合の置換基はハロゲン原子、ヒドロキシル基若しくはC1-C3アルキル基を表し、
m1及びm2は独立して、前記mについて定義したとおりであり、かつ、
n1及びn2は独立して、前記nについて定義したとおりである。
〔態様3〕態様1又は2のブロックコポリマーであって、水性媒体中でポリマーのナノ粒子を形成する、前記ブロックコポリマー。
〔態様4〕態様2のブロックコポリマーであって、
L1は、(CH2)pC(=O)、C(=O)(CH2)q又はC(=O)(CH2)rC(=O)を表し、
L2は、直接結合、(CH2)sO又は(CH2)tNHを表し、
p、q、r、s、及びtは、それぞれ独立して、1~6の整数である、ブロックコポリマー。
〔態様5〕態様2のブロックコポリマーをギ酸(HCOOH)含有水溶液に溶解するステップと、
前記ポリマーの溶解した溶液を透析膜を介して水に対して透析するステップと、
得られたポリマー懸濁液を超音波ホモジナイザー中で処理して懸濁液中の粒子を分割するステップと、
粒子を分割した分散液を細孔を備えた膜でろ過するステップを含む、ポリマーのナノ粒子の作製方法。
〔態様6〕態様1~4のいずれか一つに記載のブロックコポリマーを有効成分として含む、抑うつの予防又は治療用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、本発明者が知る限り従来の刊行物に未載のブロックコポリマーであり、これ
らは理化学的にも、薬理学的にも特有の性質を有し、具体的には、前記ブロックコポリマーは特定の水性媒体中で、安定なポリマーのナノ粒子を形成でき、かようなナノ粒子は、特に、患者に経口投与すると、胃腸管においてそれらを徐々に崩壊させ、GABAを持続可能に放出することができるので、低分子量GABAそれ自体が効能を有する疾患又は障害を経口又は非経口投与により有効に予防又は治療できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】製造例1で得られたPEG-b-Nylon-4ブロックコポリマーの
1H NMRスペクトルである。
【
図2】製造例1で得られたPEG-b-Nylon-4ブロックコポリマーのMALDI-TOFマススペクトルである。
【
図3】製造例2で得られたGABA含有ポリマーのナノ粒子(Nano
GABA)溶液における粒子の流体力学的直径を測定した結果のグラフ表示及びNano
GABAの水溶液のデジタル映像である。
【
図4】試験例1におけるNano
GABAの用量と抑うつ様挙動間の相関性を示すグラフ表示である。
【
図5】試験例1におけるNano
GABA又はGABAで処置したマウスの抑うつ様挙動を観察した結果のグラフ表示である。
【
図6】試験例2における各処置例の抑うつモデルおける血清中ストレスホルモン濃度のグラフ表示である。
【
図7】試験例2における抑うつモデルマウスにおける抑うつ挙動の観察結果のグラフ表示である。
【
図8】試験例3におけるNano
GABAのマウスに対する急性毒性を示す指標としての被験動物の体重変化のグラフ表示である。
【
図9】前記急性毒性を示す指標としての被験動物の各種臓器の重量変化、並びに臓器の機能関連バイオマーカー及び血液の組成の量の測定結果を表すグラフ表示である。
【発明の具体的な記述】
【0013】
本願発明に関して記述された用語等は、特に言及しない限り当該技術分野で常用されている意味又は内容を有するものとして使用されている。本発明について、さらに、以下の説明を行う。
【0014】
本発明にいうブロックコポリマーは、当該コポリマーを構成するブロックとして、PEGセグメントとNylon-4セグメントを含み、具体的には後述するように、水性媒体(例えば、ギ酸含有水溶液)中でポリマーのナノ粒子を形成できるものであれば、限定されることなく、そのα末端やω末端や両セグメントの二価の連結基が如何なる有機の基、部分、等であることもできる。ポリマーのナノ粒子は、かようなブロックコポリマーとしては、限定されるものでないが、例えば、PEG-b-Nylon-4ブロックコポリマーから構成されるナノ粒子を挙げることができ、粒子の平均直径がナノメーターのサイズにある粒子を意味する。ナノメーターのサイズは、粒子の水溶液における、動的散乱光により測定される流体力学的直径として、40nm~400nm、好ましくは40nm~250nm、より好ましくは60nm~200nmの範囲内にあることができる。
【0015】
前記の連結基は、一般的には、最大34個、好ましくは最大18個、より好ましくは最大10個の炭素原子、並びに任意に酸素及び窒素原子を含有する基を意味する。より具体的には、前記態様4において、L1及びL2について定義した基であることができる。これらの連結基の方向性は、それぞれ、式IIIa及び式IIIbにおけるL1及びL2の記載方向に適合するものとして記載している。例えば、式IIIaにあっては、L1の(CH2)pC(=O)は、(CH2)pのα末端のメチレン基の炭素原子がCH2CH2-O単位の酸素原子に結合し、カルボニル基C(=O)の炭素原子がNHCH2CH2CH2C(
=O)単位の窒素原子に結合する方向性を有する。
【0016】
本発明のブロックコポリマーは、PEGのいずれかの末端のOHを当該技術分野で周知の保護基で必要があれば保護しておき、別に、Nylon-4のいずれかの末端(NH2又はCOOH)を当該技術分野で周知の保護基で必要があれば保護しておき、他の末端を必要があれば相互に連結し得る官能基を導入しておき、これらの両セグメント又はブロックを含む化合物、それ自体当該技術分野で周知のカップリング又は連結方法により連結することにより、製造できる。しかし、都合よくは、次のスキーム1に従って製造できる。
【0017】
【0018】
スキーム1に従えば、簡潔には、PEGイニシエーターを用意し、これに2-ピロリドンをアニオン開環重合することにより、ナイロン4セグメントを伸長させることにより、目的のブロックコポリマーを得ることができる。
【0019】
本発明に従う、ポリマーのナノ粒子(NanoGABA)は、都合よくは、次のスキーム2に従って作製できる。
【0020】
【0021】
スキーム2に従えば、例えば、態様2のブロックコポリマーをギ酸(HCOOH)含有水溶液、例えば、20容量%~90容量%、好ましくは、30容量%~75容量%、より好ましくは、35容量%~60容量%のギ酸含有液に溶解するステップと、
前記ポリマーの溶解した溶液を透析膜、例えば、1kDa~3.5kDaのカットオフ細孔を備えたダイアライシスメンブラン、を介して水に対してギ酸が実質的に存在しなくなるまで透析するステップと、
得られたポリマー懸濁液を超音波ホモジナイザー中で処理して、懸濁液を再度懸濁させるステップと、
再懸濁液をマイクロフルイダイザ―中で懸濁液中の微粒子を分割するステップと、次いで、必要により、
粒子を分割した分散液を、例えば、細孔径0.1μm~1.0μmを備えた膜でろ過するステップを利用することができる。
【0022】
ポリマーのナノ粒子(NanoGABA)は、例えば、凍結乾燥、遠心分離、等によりそれらの溶液又は分散液から分離できるので、必要により、生理食塩水中に再溶解又は懸濁させ、経口又は非経口投与用の製剤とすることができる。経口投与用の製剤とするときは、必要があれば、当該技術分野で常用されている、添加剤、希釈剤、等を利用して、錠剤、丸薬、顆粒剤として提供できる。添加剤又は希釈剤としては、限定されるものでないが、クロロカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、マクロゴール4000、酸化チタン、等を挙げることができる。
【0023】
このようなナノ粒子を有効成分として含む組成物は、処置対処たる疾患の重篤度、投与対象たる患者の年齢、性別、体重により、最適の用量が変動し得るので、一義的に特定できないが、小規模の臨床試験等を通して得られる有効のデータ等に基づいて専門医が決定することができる。
【0024】
以下、説明が煩雑になることを避けるため、本発明の典型例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
製造例1:PEG-b-Nylon-4ブロックコポリマー:
CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-CO-(NHCH2CH2CH2CO)m-
の合成
ステップ1:PEGマクロイニシエーター(CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COCl)の合成
(1)市販のCH3O-(CH2CH2O)n-H (mPEG-OH、 MW=2,000、20 g, 10 mmol)を、減圧下で2時間110 ℃で加熱し、予め水分を除去した。反応系を55℃に冷却した。窒素流下でテトラヒドロフラン(THF)の50mLを反応系に加え、mPEG-OHを完全に溶解した。室温で、ブチルリチウムの1.6 M-ヘキサン(BuLi, 10 mL, 16 mmol)とブロモ化酢酸エチル(3.6 mL, 30 mmol)を窒素流下で前記反応系に加えた。反応混合物を室温下で1日撹拌した。その後、反応混合物を3℃で貯蔵した2-プロパノール(冷IPA)に滴下することにより沈殿を形成させた。沈殿物を遠心 (9000 rpm, 5 分) により集め、次いで、メタノール(100 mL)に溶解させた。IPA中での沈殿、遠心による収集、メタノールへの溶解を3回繰り返した。その後、IPA中の沈殿物を遠心により集め、次いで、n-ヘキサン中に再分散させ、遠心し、さらに減圧下で完全に乾燥するまで乾燥した。生成物は、 CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COOC2H5, 18.5 gであった。
(2)前記 CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COOC2H5(18 g, 9 mmol)を、50mLのミリQ水(MiliQ Water)で溶解し、1.5Mの水
酸化ナトリウム溶液(10 mL、15 mmol)を用いて加水分解した。1日撹拌した後、塩酸を用いて反応系のpHを1~2に調節し、ジクロロメタン(DCM, 3 ℃, 各60 mL )により有機相に生成物を抽出し、DCM部を集め、次いで、ロータリーエバポラーターによりDCMの量を減少させた。このDCM溶液を冷IPAにより沈殿させ、遠心(9000 rpm, 5 分)により集め、メタノール中に再溶解し、冷IPAで再沈殿させた。これらの精製ステップは3回繰り返した。最後に、沈殿物をヘキサン中に分散し、遠心分離し、完全に乾燥するまで減圧下で乾燥した。生成物は、 CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COOH,16gであった。
(3)前記 CH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COOH (6.6g, 2 mmol)を、30分間75℃で予備加熱して水分を除去し、室温の窒素流下でTHF(15mL)に溶解した。得られた溶液に塩化チオニル(SOCl2, 0.5 mL, 6.9 mmol) を窒素流下で加え一夜撹拌した。反応フラスコ中のTHFと過剰のSOCl2を60℃の減圧下で30分間留去した。その後、この反応混合物を15mLのTHFに再溶解して、生成物:マクロイニシエーターCH3O-(CH2CH2O)n-CH2-COClのTHF溶液を得た。
【0026】
ステップ2:重合
(1)使用する前に市販の2-ピロリドンを減圧下、2時間110℃で加熱し、水分を除去して精製した。
(2)反応フラスコ中で、カリウムtert-ブトキシド(t-BuOK, 1.35 g,
12 mmol)を減圧下、2時間110℃で加熱乾燥した。次いで、精製2-ピロリドン (7.6 mL, 100 mmol)を、50℃の窒素流下で反応フラスコに加えてt-BuOKを完全に溶解した。この反応フラスコを減圧にして泡立ちが何ら残存しなくなるまで副産物を留去した。この反応系を窒素流下に戻し、前記で生成したPEGマクロイニシエーター(15 mL, 2 mmol)を加えた。当該反応系を再度減圧下に戻してTHFを除去し、反応混合物が不動化し、撹拌棒が動かなくなるまで減圧を維持した。最後に、窒素流下に戻し、反応系を2日間密封した。
(3)精製プロセス:40mLの80%HCOOHに前記反応混合物を溶解し、350mLのアセトンで沈殿させ、沈殿物を13000rpmで遠心して沈殿物を集めた。次いで、沈殿物をヘキサンに再分散させ、再度、遠心分離により集めた(2回繰り返す)。最後に、粗生成物が完全に乾燥するまで減圧下で乾燥した。生成物は、
図1及び
図2のデータから同定できるとおり、4.6gのPEG-b-Nylon-4であった。
図1の
1H NMRスペクトルから換算された分子量:M=5,000(35単位のGABAを含む)であった。
図2のMALDI-TOFマススペクトルの高マス領域は、それぞれ、44m/z及び85m/zの間隔を伴うPEG及びNylon 4の反復シグナルを示す。
【0027】
製造例2:GABA含有ポリマーのナノ粒子(Nano
GABA)の作製
3.0gのPEG-b-Nylon-4を40mLの80%HCOOHに完全に溶解し、3.5kDa RC ダイアライシスメンブランを介して3日間2Lの MiliQ 水に対して透析した(水は1日に2回交換した)。その後、ポリマー懸濁液を超音波ホモジナイザーの影響下で再度物理的に分散させた(パルス:50%、持続時間:300秒、反復:3回、出力4,氷冷却)。綿により大きな粒子を除去した後、ポリマー懸濁液をマイクロフルイダイザ―中に移し、高圧力によりより小さな粒子に粒子を分割した(15000psi, 20000psi, 20000psiのシステム圧で連続して3回)。最終ステップでは、ナノ粒子の溶液(分散液)を0.2μmの膜で濾過した。濾過された粒子を集め、さらなる使用に備えて4℃で保存した。生成物:Nano
GABAの溶液、200mL、11.2mg/mL、
図3参照。)
図3は、流体力学的直径のデータのグラフ表示とNano
GABAの水溶液のデジタル映像である。これらから、作製された溶液中のナノ粒子は80nmの流体力学的直径を有し
、水溶液中で安定であり、かつ、経口及び非経口注入経路による投与に適することが判る。
【0028】
試験例1:急性モデルにおける抗抑うつ様効果
雄C57BL/6マウス(6~10週令)を異なる用量のNano
GABA又はGABAでフリードリンク瓶を介して3日間処置した。3日処置後、これらのマウスに若干改変したPorsolt 他 (Nature 1977, 266: 730-732)に記載されているフォースド・スイム・テスト(Forced Swim Tests )を受けさせた。この試験では、マウスが彼らの尾を底に届くことができない水のレベルまでに25℃の水を充填した2Lのプラスチックビーカー内に各マウスを置き、モデル動物の挙動を6分間ビデオレコーダーで録画し、泳いでいる(可動性)期間及び浮遊挙動(不動性)期間を測定した。
<結果>
Nano
GABAの自由摂取群は、フォースド・スイム・テストを通して抑うつ様挙動が用量依存的に減少した。この結果はNano
GABAの抗抑うつ様効果の証左である(
図4(実験動物:1群7又は8匹)参照。)。3日間自由摂取の別の同様な試験群と比べてみると、Nano
GABA群は、同様なGABA含有濃度(それぞれ、6mM)を用いる従来のGABA処置よりも統計的に有意に優れた抗抑うつ効果を示した(
図5(実験動物:1群8匹)参照。)。なお、
図5において、*:p < 0.005、**: p < 0.005 である。
【0029】
試験例2:抑うつモデルにおける治療効果
抑うつモデルを誘発するために、雄C57BL/6マウス(6~10週令)を50mLの透明な遠沈管の狭い場所に14日の期間中、1日当たり3時間閉じ込めた。Nano
GABAの自由摂取処置は第7日から開始しこの試験の最終日まで続けた。第15日目に、尾の静脈中の血液を集め、ストレスホルモン(コルチコステロン)の濃度を測定した。別に同様な試験をテイル・サスペンション・テスト(Tial suspension test)により抑うつ挙動を測定した。このテストでは、マウスの正面の後ろ脚が底面に触れない高さで水平棒にマウスの尾を接着テープで差し込み、付着することにより各マウスを吊るし、6分間マウスの挙動をビデオレコーダーで録画した。
<結果>
Nano
GABA処置群はストレスホルモンの濃度が低下し(
図6参照(実験動物:1群6匹)。)、抑うつモデルマウスにおける抑うつ挙動を弱めた(
図7(実験動物:1群8又は9匹)参照。)。なお、
図6及び
図7において、それぞれ、**:p < 0.005、***:p < 0.0005である。
【0030】
試験例3:インビボ(in vivo)毒性
ICR雄マウス(5週令、一群3匹)に高用量のNano
GABA、GABA又はMiliQ 水を腹腔内に注入した。3日後、マウスを安楽死させ、血液と臓器を集めた。血液の組成と臓器の機能関連バイオマーカーをも測定し、Nano
GABAの急性毒性評価した。
<結果>
Nano
GABA処置群は、72mM GABA含有量の用量において、体重に顕著な影響を及ぼさず(
図8参照。)、さらに、臓器の重量、臓器の機能関連バイオマーカー及び血液の組成にも顕著な影響を及ぼさなかった。このことは、この試験では、Nano
GABAがマウスに対して急性毒性を誘発しなかったことを示す(
図9参照。)。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明従うPEG-b-Nylon-4ブロックコポリマーは、それ自体特有の物理化学的性質又は薬理学的性質を有し、また、それ自体若しくはそれから作製されたポリマ
ーのナノ粒子は、例えば、経口又は非経口投与することにより患者の抑うつを予防又は治療できるので、各所有機材料を提供若しくは利用する産業又は医薬製造業で利用できる可能性をもつ。