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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097117
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】流体の電気加熱装置
(51)【国際特許分類】
   F24H 1/10 20220101AFI20240710BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
F24H1/10 G
H05B3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000342
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】末松 芳章
(72)【発明者】
【氏名】松田 まどか
【テーマコード(参考)】
3K058
3L034
【Fターム(参考)】
3K058AA87
3K058BA11
3K058FA02
3L034BA14
3L034BA17
3L034BB05
(57)【要約】
【課題】流体の加熱効率の高効率化と加熱装置の小型化とを可能にする、流体の電気加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明は、外殻の中空筒状体の内部に導電性の発熱体が配設される加熱部で、通電加熱により昇温した発熱体により被加熱流体を加熱する流体の電気加熱装置であって、(a)発熱体は、所定幅Wの薄板帯状電気抵抗板が所定間隔S1で重ねられ一端部に折り返し部を有する二重帯状体からなる、渦巻状往復路発熱体であり、(b)渦巻状往復路発熱体は、二重帯状体の折り返し部を内巻側端部とし、間隔S1及び内部の隣接二重帯状体同士の間隔S2が共に同等の所定間隔を有し、外巻側端部が外部電源に接続され、(c)加熱部は、渦巻状往復路発熱体の渦巻軸が、中空筒状体の軸方向及び流体流路軸方向と略同一方向に配設され、渦巻状往復路発熱体内の間隔S1及び間隔S2の間隙部を被加熱流体の流体流路とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻が中空筒状体をなし内部に導電性の発熱体が配設される加熱部で、通電加熱により昇温した前記発熱体により被加熱流体を加熱する、流体の電気加熱装置であって、
(a)前記発熱体は、所定幅Wの薄板帯状の電気抵抗板が、所定間隔S1で重ね合わされた二枚重ねの一端部に、通電往復路の一部となる折り返し部を有する二重帯状体からなる、渦巻状往復路発熱体であり、
(b)前記渦巻状往復路発熱体は、前記二重帯状体の前記折り返し部を内巻側端部とし、前記間隔S1および内部で隣り合う前記二重帯状体同士の間隔S2が共に同等の所定間隔を有し、外巻側端部が外部電源に接続され、
(c)前記加熱部は、前記渦巻状往復路発熱体の渦巻軸が、前記中空筒状体の軸方向および流体流路軸方向と略同一方向に配設されるようにして、前記渦巻状往復路発熱体内の前記間隔S1および間隔S2を有する間隙部を被加熱流体の流体流路とする、
流体の電気加熱装置。
【請求項2】
前記電気抵抗板の面外方向に張出加工され先端に電気絶縁性を有する絶縁被膜が施された凸部、または、前記電気抵抗板とは別体の電気絶縁性を有するスペーサーにより、前記間隔S1および前記間隔S2が確保される、請求項1に記載の流体の電気加熱装置。
【請求項3】
前記被加熱流体の流路壁を成す前記電気抵抗板の片面または両面に、電気絶縁性を有する絶縁被膜が配設される、請求項1または請求項2に記載の流体の電気加熱装置。
【請求項4】
前記加熱部を成す中空筒状体の外周部に断熱材が配設される、請求項1または請求項2に記載の流体の電気加熱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の電気加熱装置に関し、詳しくは高い加熱効率を有して小型化可能な流体の電気加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策のために、エネルギー効率の高効率化や二酸化炭素排出量の少ない燃料への転換が進められている。大規模で大容量の流体の加熱装置の分野では、従来より、種々なものが使用されており、例えば、燃焼ガスを利用したボイラ等の加熱装置が例示できる。しかし、燃焼ガスを使用するボイラ等の加熱装置は、加熱効率が高効率のものでも35%程度と効率の限界がある。また、流体を効率的に高温まで加熱するためには燃焼ガスの高温化とそれに伴う耐火断熱構造が必要であり、設備の大型化と高コスト化とが避けられないという問題がある。また、二酸化炭素排出抑制の観点からもあまり好ましくない。
【0003】
このような大容量流体の加熱設備の小型化、加熱効率の効率化および二酸化炭素排出抑制のいずれの問題に対しても、大電力を限られた空間に効率的に投入できる電気加熱手段が有利であるといえる。例えば、特許文献1には、図5の(a)縦断面図(ただし、発熱体62は、横断面図での記載より単純化して2本のみを記載)と(b)横断面図とで示すような、誘導加熱による流体の電気加熱装置60が開示されている。具体的には、発熱体62は、例えばSUS304からなる非磁性管62aおよび例えばSUS430からなる磁性体としての磁性管62bによって構成される。非磁性管62aの両端は、管支え板64、66で固定支持される。また、発熱体62の外側周囲には、図示しない交流電源に接続された誘導加熱コイル72が配設される。この誘導加熱コイル72は、円筒形状の内側断熱材68と外側断熱材70との間に介在し、内側断熱材68の両端が、管支え板64、66に固定支持されることにより、位置決めされる。管支え板64、66には、それぞれ流体入口ヘッダー74、流体出口ヘッダー76が設けられ、気体または液体の被加熱流体は、流体入口ヘッダー74から非磁性管62aを通って加熱されて流体出口ヘッダー76へと導かれる。
【0004】
特許文献1に記載の発明では、磁性管62bは、被加熱流体が流れる非磁性管62aの外周面に接触しており、誘導加熱により磁性管62bにおいて生じた熱は磁性管62bから非磁性管62aに、非磁性管62aから被加熱流体に熱伝導している。そのため、非磁性管62aに比べ耐食性に劣る磁性管62bに被加熱流体が接触することがなく、耐食性が向上するとする。また、複数の発熱体62を、互いに平行に、且つ、誘導加熱コイル72内で互いに略均等間隔をもって分布して配置することで、流体の電気加熱装置60の大型化を抑えながら、有効に被加熱流体を加熱することもできるとする。
【0005】
また、特許文献2には、図6に示すような通電加熱による流体の電気加熱装置(気体加熱装置)80が開示されている。この電気加熱装置80は、内燃機関始動時の特に低温始動時にも好適な温度の二次空気を安定的に触媒装置に供給することで、高い性能で排気ガス浄化をなしうる内燃機関の二次空気供給装置の電気加熱装置に関するものである。電気加熱装置80は、図6に示すように、ケース82と電極84、86と発熱体88とからなる。ケース82は中空筒状とされ、両端部にはフランジ部90が形成され、このフランジ部90が二次空気供給管の途中に形成されたフランジ部に締結具によって結合される。
【0006】
特許文献2に記載の電気加熱装置80では、発熱体88はケース82に内蔵されている。この発熱体88は所定の抵抗値をもった導体である電気抵抗体(例えばステンレス)によって所定の表面積を確保した状態で構成された薄板が渦巻状に巻回され、この巻回された薄板同士の間が空気通路92とされる。図6に示す例では、渦巻中心部から負極側接続片86aが延出されて負極側の電極86に接続され、渦巻周縁部から正極側接続片84aが延出されて正極側の電極84に接続される。したがって、発熱体88はこれら接続片84a、86aによってケース82内に支持された状態で、車載バッテリーに直列に接続されている。このようにして、発熱体88を薄板の電気抵抗体を渦巻状にして構成して渦巻同士の間部分を空気通路92とすることにより、流通する空気を十分に加熱できる程度の発熱面積を確保できるとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-134041号公報
【特許文献2】特開平06-336918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のようなソレノイドコイル状の誘導加熱コイル72の内側の発熱体62(磁性管62b)を加熱する場合には、次のような理由により、その加熱効率を向上させるには、限界があった。これは、誘導加熱コイル72により生じる磁束を、誘導加熱コイル内の発熱体(導体)に全て通すことは難しいからである。このような効率低下の要因を、図5(b)を参照しながら具体的に説明すると次のとおりである。
(ア)誘導加熱コイル72で発生した磁束は、誘導加熱コイル72の内側では、誘導加熱コイル72に近接した発熱体62の表層を貫通して誘導電流を起こす。ただし、交流電流の近接効果の性質から、誘導コイル近傍の金属に磁束が入りやすいという交流電流加熱の性質上、加熱に寄与する発熱体62の部位は誘導加熱コイル72側の半周程度に集中する。
(イ)一方、誘導加熱コイル72の内側の発熱体62の内、外側の発熱体62では、誘導加熱コイル72と反対の面側が、発熱体62自体の誘導加熱コイル72側の陰に隠れて、有効な磁束の貫通量が少なくなる。また中心側の発熱体62では、全体的に誘導加熱コイル72から離れており、加えて外側の発熱体62の陰に隠れる配置により、有効な磁束の貫通量が少ない。
(ウ)さらに、誘導加熱コイル72の外側の磁束は自由に放射されるため、発熱体62以外の周囲の金属に入る磁束も相当程度多い。
以上のとおり、ソレノイドコイル状の誘導加熱コイルにより生じる磁束の全てを、被加熱材に集中させることは困難であり、そのためにソレノイドコイル状の誘導加熱コイルでの加熱効率向上には限界があるという問題がある。
【0009】
これに対し、特許文献2に記載のような流体の電気加熱装置80では、渦巻状の発熱体88に直流の通電加熱を採用することから、特許文献1に記載の誘導加熱による問題は回避できる。しかし、本発明者らが、特許文献2に記載の発明を、車載用途以外に広く利用する為に交流電源の利用を検討してみると、渦巻状発熱体の内外方向に隣り合う発熱体同士に同相の電流が流れインダクタンス・インピーダンスが高くなることが分かった。そのため、大容量の加熱時には電源の高電圧化が避けられず、安全上、設備上等の問題があり改善の余地があることが分かった。
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑み、流体の電気加熱の高効率化、大容量流体用の加熱装置の小型化、および渦巻状発熱体の交流加熱で生じ易い高インピーダンス化を低減可能にする、流体の電気加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]外殻が中空筒状体をなし内部に導電性の発熱体が配設される加熱部で、通電加熱により昇温した前記発熱体により被加熱流体を加熱する、流体の電気加熱装置であって、
(a)前記発熱体は、所定幅Wの薄板帯状の電気抵抗板が、所定間隔S1で重ね合わされた二枚重ねの一端部に、通電往復路の一部となる折り返し部を有する二重帯状体からなる、渦巻状往復路発熱体であり、
(b)前記渦巻状往復路発熱体は、前記二重帯状体の前記折り返し部を内巻側端部とし、前記間隔S1および内部で隣り合う前記二重帯状体同士の間隔S2が共に同等の所定間隔を有し、外巻側端部が外部電源に接続され、
(c)前記加熱部は、前記渦巻状往復路発熱体の渦巻軸が、前記中空筒状体の軸方向および流体流路軸方向と略同一方向に配設されるようにして、前記渦巻状往復路発熱体内の前記間隔S1および間隔S2を有する間隙部を被加熱流体の流体流路とする、
流体の電気加熱装置。
[2]前記電気抵抗板の面外方向に張出加工され先端に電気絶縁性を有する絶縁被膜が施された凸部、または、前記電気抵抗板とは別体の電気絶縁性を有するスペーサーにより、前記間隔S1および前記間隔S2が確保される、[1]に記載の流体の電気加熱装置。
[3]前記被加熱流体の流路壁を成す前記電気抵抗板の片面または両面に、電気絶縁性を有する絶縁被膜が配設される、[1]または[2]に記載の流体の電気加熱装置。
[4]前記加熱部を成す中空筒状体の外周部に断熱材が配設される、[1]または[2]に記載の流体の電気加熱装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流体の電気加熱装置の発熱体を渦巻状往復路発熱体とし、発熱体を構成する二重帯状体の内外の間隙の渦巻軸方向を被加熱流体の流路とすることで、交流通電しても隣接する帯状体には逆相の電流が流れるため、インピーダンスを小さくできる。さらに、向き合う発熱体間で電流が引き合うこと、逆相の電流が対向する発熱体を流れることにより、発熱体の外部を囲む金属ケースなどの誘導加熱が避けられ、効率低下が避けられる。また、発熱体は渦巻状であるため、大きな伝熱面積の確保と空間的な小型化とを同時に達成できる。さらに、通電加熱を採用することで、誘導加熱とは異なり、そもそも磁束漏れによる効率低下がなく、高い加熱効率を確保することができる。以上のとおり、本発明によれば、伝熱面積拡大を含む空間的な加熱装置の小型化と電気的な高効率化とが相まって大容量の流体の加熱設備の小型化を有利に達成することができる流体の電気加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1を、加熱部を主体にした断面図で模式的に示す図である。
図2】第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1の略円形断面の渦巻状往復路発熱体を模式的に示す断面図である。
図3】第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1の略矩形断面の渦巻状往復路発熱体を模式的に示す断面図である。
図4】第2の実施形態に係る流体の電気加熱装置2の流路方向に沿った全体的な構成を模式的に示す図である。
図5】従来技術に係る誘導加熱による流体の電気加熱装置を、(a)流路方向の縦断面図と(b)流路方向の横断面図とで模式的に示す図である。
図6】従来技術に係る通電加熱による流体の電気加熱装置を、(a)流路方向の縦断面図と(b)流路横断面側の正面図とで模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1を、加熱部を主体にした断面図で模式的に示す図である。また、図2は、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1の略円形断面の渦巻状往復路発熱体を模式的に示す断面図である。図3は、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1の略矩形断面の渦巻状往復路発熱体を模式的に示す断面図である。図1図3を参照して、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置について説明する。
なお、図1図3において、渦巻形成前の二重帯状体24および渦巻状往復路発熱体26は、共に折り返し部28を内巻側端部とする渦巻(前者では仮定渦巻)の渦巻軸を垂線とする渦巻横断面を基準面にして表示した。
【0016】
図1に示すように、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1では、外殻が中空筒状体12をなし内部に導電性の発熱体20が配設される加熱部10で、交流の通電加熱により昇温した発熱体20により被加熱流体を加熱する。なお、図1は加熱部10を主体にした断面図であり図1中に図示されておらず、また公知の技術であり説明も省略するが、流体の給排ヘッダー等の公知の給排手段を備えている。図1では、電源に交流を使用しているが、直流であっても構わない。
【0017】
また、図1では、加熱部10の外郭の中空筒状体12の外周部に断熱材46が配設されているが、この断熱材46は、加熱部10の周囲の状況、放熱量、等により選択的に配設すればよく、場合によっては省略してもよい。断熱材46が配設される場合は、加熱部10からの熱放散による加熱効率の低下を低く抑えることができ、さらには加熱部周辺設備を加熱部10の放散熱から保護することができるため好ましい。ここでの断熱材としては、低熱伝導のセラミックスファイバーなどの公知の断熱材を用いることができる。場合によっては、本実施形態に係る流体の電気加熱装置1全体を、断熱したケース内に配置してもよい。
【0018】
本実施形態に係る流体の電気加熱装置1では、外部の電源は直流でも交流でもよいが、特に一般的に使用され汎用性が高く課題の多い交流電源を前提に説明する。なお、図1に示す本実施形態に係る電気加熱装置1では、外部交流電源50と加熱部10の発熱体20とは、変圧器52を介して電気的に接続されているが、これに限ったわけではない。例えば、加熱部10の発熱体20が共振回路と直接接続される形態でも構わず、発熱体20に交流が通電されれば良い。ここで、変圧器52は、1次巻き線の巻き数Nと2次巻き線の巻き数Nとを選択可能にすることにより、発熱体20のインピーダンスにより最適な電圧と電流を選択することができる。例えば、二次巻き線のインピーダンスが小さく、低電圧大電流が欲しい場合には、変圧器52の二次巻線側を発熱体20を含めて巻き数Nを1とすると、低電圧かつ大電流での加熱部10の通電加熱を実現できる。逆に、発熱体20の固有抵抗が大きいとか巻きまわしの長さが長いためにインピーダンスが高い場合には、高電圧低電流の選択が可能となる。このように、変圧器52の1次巻き線の巻き数Nと2次巻き線の巻き数Nとを適切に選択することにより、負荷に応じたインピーダンスマッチングを容易にとることができる。また、インピーダンスマッチングだけではなく、ここでの例示のように、大電力通電時であっても低電圧通電加熱ができれば、高電圧に伴うスパーク発生等のトラブルや、他設備への漏洩電流などの電気的なトラブル、感電等を有利に回避できるなどの効果もある。
【0019】
本実施形態での被加熱流体には液体および気体が含まれ、これらの具体的な加熱用途の例としては、燃焼装置へ送られる燃料ガスおよび燃焼用空気の予熱、または重油アトマイズのための重油およびアトマイズ蒸気の加熱、等を例示できるが、これに限定されない。
【0020】
本実施形態に係る発熱体20は、巻き形状付与前で図2(a)に示すように、所定幅Wの薄板帯状の電気抵抗板22が、所定間隔S1で重ね合わされた二枚重ねの一端部に、通電往復路の一部となる折り返し部28を有する二重帯状体24を構成要素とする。薄板帯状の電気抵抗板22の所定幅Wは、後述するように二重帯状体24が巻き回されて渦巻状往復路発熱体26として発熱体20を構成したときの発熱体20の巻軸方向の長さになるものであり、必要な加熱装置容量等に応じて適宜決定されればよい。なお、二重帯状体24の所定間隔S1については、後述する。
【0021】
本実施形態に係る二重帯状体24が折り返し部28を有することで二重帯状体24の通電路が往復路となり、外部交流電源50からの給電を、二重帯状体24の他方の端部である渦巻状往復路発熱体26の外巻側端部の一箇所にまとめることができる。この二重帯状体24の折り返し部28は、電気抵抗板22一枚を長手方向中間部で折り曲げて形成するようにしてもよいし、また、電気抵抗板22の二枚の長手方向片側端部が電気的に接続されるようにして形成してもよい。後者の場合、電気抵抗板22の二枚の長手方向片側端部同士を溶接、ロウ付け、またはカシメ加工等で接合して形成してもよいし、さらに、その接合部には、電気導電性を有する部材を介在させるようにしてもよい。
【0022】
本実施形態に係る電気抵抗板22は、導電性を有し、被加熱流体の加熱温度に耐える耐熱性および耐食性を有し、発熱体20に成形できるものである等の要件を満たすものであれば特にその材質は限定されない。このような要件を満たす好ましい材質として、例えば、公知のCr合金鋼(炭素鋼に1質量%前後のCrが添加された合金鋼から、さらに高合金のCr系ステンレス鋼も含む。)がある。また他の合金鋼として、Cr-Ni合金鋼(炭素鋼に0.2~1.0質量%程度のCr、および、1.0~3.5質量%程度のNiが添加された合金鋼から、さらに高合金のCr-Ni系ステンレス鋼も含む。)が例示できる。さらに、特に1000℃超での使用に耐える、カーボン素材、または導電性セラミックスが例示できる。これらの材質は、比較的固有抵抗が大きいので、発熱体として好ましい材質である。導電性セラミックスとしては、公知のSiC等の導電性セラミックスを採用すればよい。その他、被加熱流体や設置場所等によっては、必要に応じて公知のタングステン、モリブデン等の高融点金属またはこれらの合金を用いてもよい。
【0023】
本実施形態に係る発熱体20は、図2(b)、図3に示すように、二重帯状体24の折り返し部28を内巻側端部とし、二重帯状体24内の間隔S1および内部で隣り合う二重帯状体24同士の間隔S2が同等の所定間隔を有する渦巻状往復路発熱体26である。典型的な巻き形状としては、図2(b)に示すような断面が略円形の略円筒形、および、図3に示すような断面が略矩形の略四角柱形状を例示できるが、これらに限定されない。発熱体20が図2(b)のような略円筒形状の場合は、巻き形状の形成が比較的容易であること、外周面の面積を最小化できる形状であり外周部からの熱放散を低く抑えることができること、等から好ましい形状といえる。一方、発熱体20が図3のような略四角柱形状の場合は、限られた加熱装置設置スペースの中で、周囲との干渉を避けつつデッドスペースをなくすように加熱部10を配設することができ、その中の発熱体20の伝熱面積も最大化できる点で、好ましい形状といえる。発熱体20の断面形状をいずれの形状とするかは、加熱装置の設置場所の条件等に応じて適宜決定すればよい。なお、この渦巻状往復路発熱体26内の間隔S1および間隔S2の間隙部については、流体流路との関係を含めて後述する。
【0024】
本実施形態に係る加熱部10は、渦巻状往復路発熱体26の渦巻軸が、中空筒状体12の軸方向および流体流路軸方向と略同一方向に配設されるようにして、渦巻状往復路発熱体26内の間隔S1および間隔S2を有する間隙部を被加熱流体の流体流路とする。これは、渦巻状往復路発熱体26の渦巻軸を、中空筒状体12の軸方向および流体流路軸方向に揃えることにより、間隔S1および間隔S2の間隙部を、被加熱流体が加熱部10を流れる際の流動抵抗を低く抑えた被加熱流体の流路とすることができるからである。
ここで、流体流路となる渦巻状往復路発熱体26内の間隙部の間隔S1および間隔S2を同等にするのは、次のような要因を考慮すると、加熱部の横断面内で被加熱流体の温度分布を均一にするために好ましいからである。すなわち、隣接流路の間隔S1および間隔S2が大きく異なると、それに応じて隣接流路間で流量差が生じる一方で、発熱体20の流路壁の単位面積当たりの発熱量はどこでも同じである為、間隔の広い側の方が狭い側より流体温度が低くなるからである。
なお、流体流路間隔となる間隔S1、S2は、典型的な寸法を例示すると、数mm~数十mm程度が望ましいが、具体的設備では、被加熱流体の処理量、加熱温度および圧力損失等を考慮して決めればよい。
【0025】
本実施形態に係る渦巻状往復路発熱体26は、折り返し部28で往復する電流路を成すため、内部の流体流路を挟んで隣接する薄板帯状の電気抵抗板22には、図2(b)、図3に瞬間電流方向を矢印で示すように、互いに電流の向きが異なる逆相の電流が流れる。このため、本実施形態では、図6に示すような従来技術に係る流体の電気加熱装置80に交流通電する場合の次のような問題は生じない。すなわち、図6に示す従来技術では、渦巻状の発熱体88の内外方向に隣り合う発熱体同士に電流の向きが同じ同相の電流が流れることになり、インダクタンスは巻き数の2乗に比例して高くなる等の問題が生じる。本実施形態では、向かい合う発熱体面の電流の向きが逆であることからインダクタンスを低く抑えることができる。これにより、インピーダンスを小さくできることから、電源電圧を低くすることができ、延いては設備費の低減、操業の安定、およびメンテナンス性の改善、等を図ることができる。また、この隣接する発熱体26面には値が一緒で逆向きの電流が流れるので、電流による電磁力の影響による発熱体面の変形が生じないこと、ケースなどの発熱体外部の金属体には逆相の磁場が働き誘導加熱が起きないこと、等から安定して稼働が続けられる。
【0026】
また、本実施形態に係る加熱部10は、従来技術に係る単管構造で長尺の加熱管からなる流体の電気加熱装置(図示せず。)と比較して、同等の加熱部容積の条件では、広い伝熱面(発熱面、加熱面ともいう。)の確保の点で有利である。すなわち、本実施形態では、図1に示すように、短い加熱部10長さの範囲でも流路の横方向に渦巻状の発熱体26を密に配設することができることから、被加熱流体が発熱体に触れる伝熱面積を広く確保することができ、延いては装置の小型化が図られる。
【0027】
以上のとおり、本実施形態に係る流体の電気加熱装置1においては、装置を大型化させることなく加熱能力を大幅に増大させることができる。また逆に、本実施形態に係る流体の電気加熱装置1によれば、従来技術に係る単管構造で長尺の加熱管からなる流体の電気加熱装置の代替として、加熱能力を損なうことなく小型化した加熱装置にすることもできる。
【0028】
本実施形態では、間隔S1および間隔S2が、電気抵抗板22の面外方向に張出加工され先端に電気絶縁性を有する絶縁被膜が施された凸部、または、電気抵抗板22とは別体の電気絶縁性を有するスペーサーにより確保されるようにしてもよい。上述したとおり、加熱部10の横断面内での被加熱流体の均一な温度分布を確保するためには、間隔S1および間隔S2を同等にするのが好ましく、上記した凸部またはスペーサーを配設することで確実に所定間隔を確保できるからである。
なお、凸部またはスペーサーの大きさ、配設位置および配設数等の流体流路内への配設条件については、凸部またはスペーサーの目的からすれば限定的な配設で十分であるため、凸部またはスペーサーが被加熱流体の流れの阻害要因となることはない。
また、流体流路を挟んで隣接する電気抵抗板22がショートしてスパークが発生することを回避するために、上記の凸部またはスペーサーは電気絶縁性を有するようにするのが好ましい。この電気的な絶縁被膜の素材については、電気的な絶縁性の他、被加熱流体の加熱温度に耐える耐熱性および耐食性を有するものである等の要件を満たすものであれば特にその素材は限定されない。例えば、Cr含有鋼からなる電気抵抗板22を高温酸化させて形成される酸化クロム皮膜や、溶融アルミニウムを被覆した後に高温酸化させて形成されるアルミナ等の絶縁性酸化物セラミックス等の公知の素材および被覆方法を用いればよい。また、電気絶縁性を有するスペーサーの素材についても、電気的な絶縁性の他、被加熱流体の加熱温度に耐える耐熱性および耐食性を有するものである等の要件を満たすものであれば特にその素材は限定されない。例えば、ZrOやAlなどの絶縁性セラミックスを例示できる。
【0029】
本実施形態に係る加熱部10の渦巻状往復路発熱体26は、被加熱流体の流路壁を成す電気抵抗板22の片面または両面に、電気絶縁性を有する絶縁被膜が配設されるようにしてもよい。このような電気的な絶縁被膜を設けることで、電気導電性を有する被加熱流体も、通電加熱による加熱が可能になるからである。なお、この電気的な絶縁被膜の素材については、電気的な絶縁性の他、被加熱流体の加熱温度に耐える耐熱性および耐食性を有するものである等の要件を満たすものであれば特にその素材は限定されない。例えば、Cr含有鋼からなる素管を高温酸化させて形成される酸化クロム皮膜や、溶融アルミニウムを被覆した後に高温酸化させて形成されるアルミナ等の絶縁性酸化物セラミックス等の公知の素材および被覆方法を用いればよい。
【0030】
本実施形態では、渦巻状往復路発熱体26内の流体流路は間隔S1および間隔S2の間隙部であるため、被加熱流体はその狭い間隙を通らざるを得ず乱流となり易い。乱流によって圧力損失が発生する一方で流体が撹拌されるため、同一の流路断面積を有する他の加熱装置より伝熱能力を向上させることができる。これに加えて、流路壁となる電気抵抗板22の板面の表面粗度を粗くしたり、凹凸等の流体が乱れやすい形状を流路壁に付与することで、被加熱流体に適切な程度の乱流を発生させて更に伝熱効率を向上させることができる。
【0031】
本実施形態に係る流体の電気加熱装置1は、電流、電圧、および電力等を制御する公知技術に基づいて、加熱制御することができる。また、電気加熱装置の加熱能力については、発熱体20(渦巻状往復路発熱体26)の抵抗、発熱量、および被加熱流体の昇温量等を勘案して設計すればよい。
【0032】
さらに、本実施形態では、被加熱流体の少なくとも温度および流量を含む物理量、ならびに電気抵抗板22の少なくとも単位面積当たりの単位発熱量を含む設備能力に基づいて、発熱体20への投入電力を制御する制御装置(図示せず。)を有する。この制御装置により、外部交流電源50から発熱体20へ投入する電力を制御しながら、発熱体20を通電加熱し発熱体20内を流通する流体を加熱する。流体の昇温制御は、加熱された流体の温度実測値をもとに通電電力へのフィードバック制御をしてもよい。また、この制御装置では、発熱体20の監視箇所での測温データに基づいて発熱体20の過加熱等の異常時ないし緊急時に、警報の発信および/または電力遮断等を行う機能を有するようにするのが好ましい。なお、ここでの制御装置は、演算装置、記憶装置、入出力装置等を含む公知の制御装置でよく、その詳細な説明は省略する。
【0033】
加熱制御に用いる、被加熱流体の温度および流量を含む所定の物理量は、加熱部10での被加熱流体の入口および/または出口の近傍で測定するのが好ましい。入口近傍および/または出口近傍での被加熱流体の物理量の測定結果は、投入電力、電流、および電圧等の電源へのフィードフォワード制御および/またはフィードバック制御による被加熱流体温度制御の高精度化に寄与できるからである。加熱部10の少なくとも発熱体20の単位面積当たり単位発熱量を含む設備能力は、上記のフィードバック制御およびフィードフォワード制御のいずれにおいても、加熱部10への投入電力、電流、および電圧等の電源制御の基礎データとして用いられる。ここでの被加熱流体の温度測定手段としては、公知の熱電対による温度測定等が例示できる。また、被加熱流体の流量測定手段としては、公知の電磁流量計、超音波流量計、および差圧式流量計(オリフィス流量計)等が例示できる。
【0034】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る流体の電気加熱装置2の流路方向に沿った全体的な構成を模式的に示す図である。図4を参照して、第2の実施形態に係る流体の電気加熱装置2について説明する。
【0035】
図4に示すように、第2の実施形態に係る流体の電気加熱装置2は、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1と比較した場合に、主に、次のような点で相違する。すなわち、第2の実施形態では、2つの流体給排ヘッダー40の間で、加熱部10a、10b、10cおよび10dを、伸縮継手42およびメタルパッキン44を介して2つずつ直列配置しつつ並列配置と組み合わせる点で、第1の実施形態とは相違する。第2の実施形態のその他の構成については、第1の実施形態とほぼ同様である。
【0036】
以上のように構成される場合であっても、第2の実施形態に係る流体の電気加熱装置2は、第1の実施形態に係る流体の電気加熱装置1とほぼ同様の効果が得られる。
【0037】
加えて、本実施形態では、異なる長さの加熱部10a~10dを直列配置および並列配置とで種々組み合わせることにより、流路方向および並行流路間で、加熱能力の制御単位を変更するとともに被加熱流体の昇温パターンを複数変更することができる。さらに、加熱部10a~10dの各々の発熱体20(26)の、電気抵抗、伝熱面積、および材質等を、被加熱流体の昇温パターン等に合わせて設計しておけば、より適切な流体の電気加熱装置とすることができる。なお、本実施形態では、加熱条件に応じて加熱部10a~10dが熱膨張または熱収縮しても、その影響を有利に回避するために、直列配置で少なくとも1箇所に伸縮継手42を用いるようにするのが好ましい。この伸縮継手42により、加熱部10およびその内部の発熱体20の破断、給電回路の遮断、ならびに流体給排ヘッダー40の変形および損傷、等を回避可能であり、これを通じて、さらに設備のメンテナンス性および耐久性、等をも高めることができるからである。
【0038】
なお、伸縮継手42は、被加熱流体の温度が低い流体供給側に配設されるようにすると、伸縮継手42の耐熱性の要件を緩和できることから好ましいが、本実施形態ではこれに限らず、伸縮継手42は、流体排出側に配設されるようにしてもよい。さらに、伸縮継手42は、各々の加熱部10a~10dの接続部にそれぞれ配設されるようにしてもよい。
【0039】
また、伸縮継手42には、耐熱性が特に要求される部位では、例えば公知の金属製ベローズ等を採用するのが好ましい。また、伸縮継手42は、被加熱流体の流体流路でもあることから、被加熱流体を漏洩させない密閉性を有する。同様に、伸縮継手42の両側および流体給排ヘッダー40との間には、メタルパッキンを使用して密閉性を担保するのが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1、2 流体の電気加熱装置
10、10a、10b、10c、10d 加熱部
12 中空筒状体
20 発熱体
22 薄板帯状の電気抵抗板
24 二重帯状体
26 渦巻状往復路発熱体
28 折り返し部
30 流体流路
32 二重帯状体内の間隙部(流体流路)
34 二重帯状体間の間隙部(流体流路)
40 流体給排ヘッダー
42 伸縮継手
44 メタルパッキン
46 断熱材
50 外部交流電源
52 変圧器
60 流体の電気加熱装置
62 発熱体
62a 非磁性管
62b 磁性管
64、66 管支え板
68 内側断熱材
70 外側断熱材
72 誘導加熱コイル
74 流体入口ヘッダー
76 流体出口ヘッダー
80 流体の電気加熱装置(気体加熱装置)
82 ケース
84 電極(正極)
84a 正極側接続片
86 電極(負極)
86a 負極側接続片
88 発熱体
90 フランジ部
92 空気通路

図1
図2
図3
図4
図5
図6