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特開2024-97130石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097130
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20240710BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
E02D29/02 304
E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000391
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 省吾
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】会沢 拓也
(72)【発明者】
【氏名】市川 達
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044DB53
2D048AA34
(57)【要約】
【課題】補強対象の石積壁の壁面を比較的平坦に仕上げることができる石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具を実現する。
【解決手段】この石積壁の補強構造100であれば、補強した石積壁2の壁面には、穿孔3に挿通された鋼棒5の頭部5aに連結されている固定部材8の平板部8aが支圧板7とともに露出した態様になっており、その壁面には薄い平板部8aが張り出している程度であるので、補強対象の石積壁2の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。そして、穿孔3の開口部分に形成されており、穿孔3よりも大きな径を有しているザグリ孔4には固化材料充填部6が充填されていて、その固化材料充填部6を支圧板7と固定部材8とで好適に拘束して鋼棒5を定着させているので、石積壁2の補強が好適になされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の前面に複数の石積みブロックが積み重ねられてなる石積壁を補強する石積壁の補強構造であって、
前記石積みブロックから前記地山の内部に達するように設けられている穿孔と、
前記穿孔の開口部分に相当する位置に孔の中心を合わせて設けられており、前記穿孔よりも大きな径を有しているザグリ孔と、
前記穿孔および前記ザグリ孔の略中心に挿通されており、その頭部が前記ザグリ孔に収められている鋼棒と、
前記穿孔および前記ザグリ孔に充填された固化材料が硬化してなる固化材料充填部と、
前記ザグリ孔に満たされている前記固化材料充填部の表面に配設され、その略中央に開口が設けられている支圧板と、
平板部とその平板部に略直交して配設されている筒状部を有しており、前記支圧板の開口を通じて挿し入れられている前記筒状部が前記鋼棒の頭部に連結され、前記平板部が前記支圧板に密着されている固定部材と、
を備えていることを特徴とする石積壁の補強構造。
【請求項2】
地山の前面に複数の石積みブロックが積み重ねられてなる石積壁を補強する石積壁の補強方法であって、
前記石積みブロックから前記地山の内部に達する穿孔と、前記石積みブロックにおける前記穿孔の開口部分に相当する位置に、前記穿孔よりも大きな径を有しており前記穿孔と同心のザグリ孔を設ける工程と、
前記穿孔の略中心に鋼棒を挿通する工程と、
鋼棒位置合わせ用の所定の器具を前記鋼棒の頭部に取り付けて、前記鋼棒の頭部を前記ザグリ孔に収め、前記鋼棒の頭部を孔の略中心に位置合わせする工程と、
前記穿孔に第1固化材料を充填して硬化させる工程と、
前記所定の器具を前記鋼棒の頭部から取り外す工程と、
少なくとも前記ザグリ孔に第2固化材料を充填する工程と、
前記ザグリ孔に満たされている前記第2固化材料の表面に、その略中央に開口が設けられている支圧板を配置する工程と、
平板部とその平板部に略直交して配設されている筒状部を有している固定部材の前記筒状部を前記支圧板の開口から挿し入れて前記鋼棒の頭部に連結させるとともに、前記平板部を前記支圧板に密着させる工程と、
前記第2固化材料を硬化させる工程と、
を備えていることを特徴とする石積壁の補強方法。
【請求項3】
前記所定の器具は、
前記鋼棒の頭部に取り付けられる第1治具と、
前記第1治具が取り付けられる器具中心部からほぼ同じ長さを有して放射状に配設され、前記ザグリ孔の内壁面に当接する複数の当接片を有している第2治具と、
を備えた器具であることを特徴とする請求項2に記載の石積壁の補強方法。
【請求項4】
前記器具中心部に前記第1治具が取り付けられた前記第2治具が、前記複数の当接片を前記ザグリ孔の内壁面に当接させて前記ザグリ孔内に設置された状態で、前記第1治具が前記ザグリ孔の内部に収まるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の石積壁の補強方法。
【請求項5】
前記第2治具は、前記複数の当接片のうちの1つが前記ザグリ孔における石積壁の低部側の内壁面に当接する向きに配置され、その当接片の端部には前記石積壁の表面に掛けられる爪部が設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の石積壁の補強方法。
【請求項6】
石積壁に設けられており、その開口部分に径の大きなザグリ孔を有している穿孔に挿通される石積壁補強用鋼棒の頭部を前記ザグリ孔の孔心に位置合わせする石積壁補強用鋼棒の支持器具であって、
前記石積壁補強用鋼棒の頭部に取り付けられる第1治具と、
前記第1治具が取り付けられる器具中心部と、前記器具中心部からほぼ同じ長さを有して放射状に配設されているとともに円周方向に略等間隔で配設されており、その端部が前記ザグリ孔の内壁面に当接可能な3つの当接片を有している第2治具と、
を備えていることを特徴とする石積壁補強用鋼棒の支持器具。
【請求項7】
前記第1治具は、雄ネジ部を有する雄ねじ具と、雌ネジ部を有する雌ねじ具を備えており、
前記第2治具の器具中心部には、前記雄ねじ具の雄ネジ部が挿通される開口部が設けられており、
前記雄ねじ具と前記雌ねじ具が前記器具中心部を挟んで螺合された状態で、前記第2治具に前記第1治具が取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の石積壁補強用鋼棒の支持器具。
【請求項8】
前記当接片は、その自由端部が略垂直に折曲されてなる端部を有しており、その端部が前記ザグリ孔の内壁面に当接されるように構成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の石積壁補強用鋼棒の支持器具。
【請求項9】
前記3つの当接片のうちのいずれか1つの端部には、外側に向かって折曲されて前記石積壁の表面に当接可能な爪部が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の石積壁補強用鋼棒の支持器具。
【請求項10】
前記3つの当接片のうち、前記爪部が設けられていない2つの当接片の端部には、その端部を前記ザグリ孔の内壁面に固定するためのアジャスターボルトが螺着されていることを特徴とする請求項9に記載の石積壁補強用鋼棒の支持器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石積壁に穿孔を設けてロックボルトを設置するとともに、その穿孔内に注入したウレタン発泡材料を硬化させて、石積壁を補強する補強工法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-42542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の補強工法で施工した場合、ロックボルトの頭部部位が穿孔から突出しており、その頭部部位にはカバー部材が取り付けられるようになっているので、施工後の壁面から突き出ているカバー部材が建築限界や歩道限界に支障してしまうことがあるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、補強対象の石積壁の壁面を比較的平坦に仕上げることができる石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本出願に係る一の発明は、
地山の前面に複数の石積みブロックが積み重ねられてなる石積壁を補強する石積壁の補強構造であって、
前記石積みブロックから前記地山の内部に達するように設けられている穿孔と、
前記穿孔の開口部分に相当する位置に孔の中心を合わせて設けられており、前記穿孔よりも大きな径を有しているザグリ孔と、
前記穿孔および前記ザグリ孔の略中心に挿通されており、その頭部が前記ザグリ孔に収められている鋼棒と、
前記穿孔および前記ザグリ孔に充填された固化材料が硬化してなる固化材料充填部と、
前記ザグリ孔に満たされている前記固化材料充填部の表面に配設され、その略中央に開口が設けられている支圧板と、
平板部とその平板部に略直交して配設されている筒状部を有しており、前記支圧板の開口を通じて挿し入れられている前記筒状部が前記鋼棒の頭部に連結され、前記平板部が前記支圧板に密着されている固定部材と、
を備えているようにした。
【0007】
かかる構成の石積壁の補強構造であれば、石積壁の壁面には、穿孔に挿通された鋼棒の頭部に連結されている固定部材の平板部が支圧板とともに露出した態様になっており、その壁面には薄い平板部が張り出している程度であるので、補強対象の石積壁の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
そして、ザグリ孔に充填されている固化材料充填部を支圧板と固定部材とで好適に拘束して鋼棒を定着させているので、石積壁の補強が好適になされている。
【0008】
また、本出願に係る他の発明は、
地山の前面に複数の石積みブロックが積み重ねられてなる石積壁を補強する石積壁の補強方法であって、
前記石積みブロックから前記地山の内部に達する穿孔と、前記石積みブロックにおける前記穿孔の開口部分に相当する位置に、前記穿孔よりも大きな径を有しており前記穿孔と同心のザグリ孔を設ける工程と、
前記穿孔の略中心に鋼棒を挿通する工程と、
鋼棒位置合わせ用の所定の器具を前記鋼棒の頭部に取り付けて、前記鋼棒の頭部を前記ザグリ孔に収め、前記鋼棒の頭部を孔の略中心に位置合わせする工程と、
前記穿孔に第1固化材料を充填して硬化させる工程と、
前記所定の器具を前記鋼棒の頭部から取り外す工程と、
少なくとも前記ザグリ孔に第2固化材料を充填する工程と、
前記ザグリ孔に満たされている前記第2固化材料の表面に、その略中央に開口が設けられている支圧板を配置する工程と、
平板部とその平板部に略直交して配設されている筒状部を有している固定部材の前記筒状部を前記支圧板の開口から挿し入れて前記鋼棒の頭部に連結させるとともに、前記平板部を前記支圧板に密着させる工程と、
前記第2固化材料を硬化させる工程と、
を備えているようにした。
【0009】
かかる構成の石積壁の補強方法であれば、補強した石積壁の壁面には、穿孔に挿通された鋼棒の頭部に連結されている固定部材の平板部が支圧板とともに露出した態様になっており、その壁面には薄い平板部が張り出している程度であるので、補強対象の石積壁の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
そして、ザグリ孔に充填されている固化材料充填部を支圧板と固定部材とで好適に拘束して鋼棒を定着させているので、石積壁の補強が好適になされている。
【0010】
また、望ましくは、
前記所定の器具は、
前記鋼棒の頭部に取り付けられる第1治具と、
前記第1治具が取り付けられる器具中心部からほぼ同じ長さを有して放射状に配設され、前記ザグリ孔の内壁面に当接する複数の当接片を有している第2治具と、
を備えた器具であるようにする。
【0011】
このような所定の器具であれば、第1治具をザグリ孔の孔心に配置することができるので、鋼棒の頭部をザグリ孔の略中心に容易に位置合わせすることができる。
【0012】
また、望ましくは、
前記器具中心部に前記第1治具が取り付けられた前記第2治具が、前記複数の当接片を前記ザグリ孔の内壁面に当接させて前記ザグリ孔内に設置された状態で、前記第1治具が前記ザグリ孔の内部に収まるように構成されているようにする。
【0013】
こうすることで、支持器具をザグリ孔内に設置した状態において、第1治具がザグリ孔の内部に収まり、その第1治具がザグリ孔の孔心に配されるようになっているので、第1治具に取り付けられている鋼棒の頭部をザグリ孔内に適正に収め、その頭部をザグリ孔の孔心に位置合わせすることができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記第2治具は、前記複数の当接片のうちの1つが前記ザグリ孔における石積壁の低部側の内壁面に当接する向きに配置され、その当接片の端部には前記石積壁の表面に掛けられる爪部が設けられているようにする。
【0015】
こうすることで、第2治具をザグリ孔の所定位置に配置することができるので、所定の器具をザグリ孔に設置し易くなる。
【0016】
また、本出願に係る他の発明は、
石積壁に設けられており、その開口部分に径の大きなザグリ孔を有している穿孔に挿通される石積壁補強用鋼棒の頭部を前記ザグリ孔の孔心に位置合わせする石積壁補強用鋼棒の支持器具であって、
前記石積壁補強用鋼棒の頭部に取り付けられる第1治具と、
前記第1治具が取り付けられる器具中心部と、前記器具中心部からほぼ同じ長さを有して放射状に配設されているとともに円周方向に略等間隔で配設されており、その端部が前記ザグリ孔の内壁面に当接可能な3つの当接片を有している第2治具と、
を備えているようにした。
【0017】
かかる構成の石積壁補強用鋼棒の支持器具であれば、支持器具をザグリ孔内に設置した状態において、鋼棒の頭部に取り付けられる第1治具がザグリ孔の孔心に配されるようになっているので、第1治具に取り付けられている鋼棒の頭部をザグリ孔内に収めるようにして、その頭部をザグリ孔の孔心に位置合わせすることができる。
【0018】
また、望ましくは、
前記第1治具は、雄ネジ部を有する雄ねじ具と、雌ネジ部を有する雌ねじ具を備えており、
前記第2治具の器具中心部には、前記雄ねじ具の雄ネジ部が挿通される開口部が設けられており、
前記雄ねじ具と前記雌ねじ具が前記器具中心部を挟んで螺合された状態で、前記第2治具に前記第1治具が取り付けられるように構成されているようにする。
【0019】
こうすることで、支持器具における第1治具を、ザグリ孔の孔心に適正に位置合わせすることができる。
【0020】
また、望ましくは、
前記当接片は、その自由端部が略垂直に折曲されてなる端部を有しており、その端部を前記ザグリ孔の内壁面に当接させるように構成されているようにする。
【0021】
こうすることで、支持器具をザグリ孔内に好適に設置することができる。
【0022】
また、望ましくは、
前記3つの当接片のうちのいずれか1つの端部には、外側に向かって折曲されて前記石積壁の表面に当接可能な爪部が設けられているようにする。
【0023】
こうすることで、第2治具をザグリ孔の所定位置に配置することができるので、支持器具をザグリ孔に設置し易くなる。
【0024】
また、望ましくは、
前記3つの当接片のうち、前記爪部が設けられていない2つの当接片の端部には、その端部を前記ザグリ孔の内壁面に固定するためのアジャスターボルトが螺着されているようにする。
【0025】
こうすることで、ザグリ孔に設置した支持器具の姿勢がずれないようにすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、補強対象の石積壁の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態の石積壁の補強構造を示す概略断面図である。
図2】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図3】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図4】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図5】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図6】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図7】本実施形態の石積壁の補強方法に関する工程図であり、その断面図(a)と斜視図(b)である。
図8】本実施形態の石積壁補強用鋼棒の支持器具を示す斜視図であり、第2治具から第1治具が取り外された状態(a)と、第2治具に第1治具が取り付けられた状態(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明に係る石積壁の補強構造、石積壁の補強方法及び石積壁補強用鋼棒の支持器具の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0029】
本実施形態の石積壁の補強構造100は、例えば、図1に示すように、地山Gの前面に複数の石積みブロック1が積み重ねられてなる石積壁2を補強するための補強構造である。
本実施形態でいう石積ブロック1は、石材からなるブロックと、コンクリート製のブロックのいずれであってもよい。
この石積ブロック1が積み重ねられてなる石積壁2が内側の地山Gを支えている。
【0030】
本実施形態の石積壁の補強構造100は、例えば、図1図7に示すように、石積みブロック1から地山Gの内部に達するように設けられている穿孔3と、穿孔3の開口部分に相当する位置に孔の中心を合わせて設けられており、穿孔3よりも大きな径を有しているザグリ孔4と、穿孔3およびザグリ孔4の略中心に挿通されており、その頭部5aがザグリ孔4に収められている鋼棒5と、穿孔3およびザグリ孔4に充填された固化材料が硬化してなる固化材料充填部6と、ザグリ孔4に満たされている固化材料充填部6(第2充填部6b)の表面に配設され、その略中央に開口7aが設けられている支圧板7と、平板部8aとその平板部8aに略直交して配設されている筒状部8bを有しており、支圧板7の開口7aを通じて挿し入れられている筒状部8bが鋼棒5の頭部5aに連結され、平板部8aが支圧板7に密着されている固定部材8と、を備えている。
【0031】
穿孔3は、周知の削孔機によって形成された円柱状の穴である(図2(a)(b)参照)。
この穿孔3の径は、例えば90~160mmであり、穿孔3の長さ(深さ)は、例えば2000~10000mm(2.0~10.0m)である。
【0032】
ザグリ孔4は、削孔機の削孔ビットを付け替えることで形成することができる穿孔3よりも大きな径を有する円柱状の穴である(図2(a)(b)参照)。ザグリ孔4は、石積ブロック1に設けられている。
このザグリ孔4の径は、例えば、160~200mmであり、その長さ(深さ)は、例えば40~60mmである。
つまり、ザグリ孔4は、穿孔3の開口側に穿孔3の一部として形成されており、ザグリ孔4の奥に穿孔3が連なるようになっている。
なお、穿孔3の一部であるザグリ孔4は、穿孔3と孔心が一致するように形成されている。
【0033】
鋼棒5は、所謂ねじ節鉄筋であり、穿孔3の長さ(深さ)に応じた長さを有している。
この鋼棒5の頭部5aには、後述する固定部材8(筒状部8b)や支持器具30の第1治具10が螺着可能になっている。
また、鋼棒5の頭部5aとは反対側の端部には、鋼棒5のかぶりを適正に確保するためのスペーサー5bが取り付けられている。
【0034】
固化材料充填部6は、穿孔3やザグリ孔4に充填されたグラウトやモルタルなどの固化材料が硬化してなる充填層である。
本実施形態の固化材料充填部6は、後述するように、穿孔3に充填されたグラウトが硬化してなる第1充填部6aと、ザグリ孔4側に充填されたモルタルが硬化してなる第2充填部6bとを有している。
【0035】
支圧板7は、例えば、図6(a)(b)に示すように、その略中央に開口7aが設けられている円板型のドーナツ状の鋼板であり、その外径はザグリ孔4の径よりも僅かに小さなサイズを有している。
また、この支圧板7の開口7aは、後述する固定部材8の筒状部8bを挿し入れ可能なサイズを有している。
【0036】
固定部材8は、例えば、図6(a)(b)に示すように、平板部8aと、平板部8aに略直交して固設されている筒状部8bとを有している。
平板部8aは、平面視六角形を呈する板状部分であり、所謂六角ボルトの頭部に相当している。
筒状部8bは、略円筒形状を呈しており、その内周面には鋼棒5(ねじ節鉄筋)と螺着可能な雌ネジ(図示省略)が形成されている。
【0037】
このような石積壁の補強構造100であれば、図1図7(a)(b)に示すように、石積壁2の壁面には、穿孔3に挿通された鋼棒5の頭部5aに連結されている固定部材8の平板部8aが支圧板7とともに露出した態様になっており、その壁面には薄い平板部8aが張り出している程度であるので、補強対象の石積壁2の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
【0038】
次に、地山Gの前面に複数の石積みブロック1が積み重ねられてなる石積壁2を補強する補強方法について説明する。
ここでは、本実施形態の石積壁の補強方法として、前述した石積壁の補強構造100を構築する手順について説明する。
【0039】
まず、図2(a)(b)に示すように、石積みブロック1から地山Gの内部に達する穿孔3と、石積みブロック1における穿孔3の開口部分に相当する位置に、穿孔3よりも大きな径を有しているとともに穿孔3と同心のザグリ孔4を設ける(第1工程)。
この径の異なる穿孔3とザグリ孔4は、周知の削孔機の削孔ビットを付け替えることでそれぞれ形成することができる。
なお、穿孔3を設けた後にザグリ孔4を設けるようにしても、ザグリ孔4を設けた後に穿孔3を設けるようにしてもよい。
【0040】
次いで、図3(a)(b)に示すように、穿孔3の略中心に鋼棒5を挿通する(第2工程)。
次いで、図4(a)(b)に示すように、所定の器具である支持器具30を鋼棒5の頭部5aに取り付けて、鋼棒5の頭部5aをザグリ孔4に収めるとともに、鋼棒5の頭部5aを孔の略中心に位置合わせする(第3工程)。
【0041】
ここで、石積壁補強用鋼棒の支持器具30について説明する。なお、石積壁補強用鋼棒とは、これまで説明していた鋼棒5のことである。
所定の器具である支持器具30は、石積壁2(石積みブロック1)に設けられており、その開口部分に径の大きなザグリ孔4を有している穿孔3に挿通される鋼棒5の頭部5aをザグリ孔4の孔心に位置合わせするための器具である。
【0042】
本実施形態の支持器具30は、図4(a)(b)、図8(a)(b)に示すように、鋼棒5の頭部5aに取り付けられる第1治具10と、第1治具10が取り付けられる第2治具20とを備えている。
【0043】
第1治具10は、雄ネジ部11aを有する雄ねじ具11と、雌ネジ部12aを有する雌ねじ具12を備えている。この第1治具10は、雄ねじ具11と雌ねじ具12が螺合されてなる。
第2治具20は、第1治具10が取り付けられる器具中心部21と、器具中心部21からほぼ同じ長さを有して放射状に配設され、その端部22aがザグリ孔4の内壁面に当接する複数の当接片22を有している。本実施形態では3つの当接片22を有しており、それら当接片22は円周方向に略等間隔に配設されている。
各当接片22は、その自由端部が略垂直に折曲されてなる端部22aを有しており、その端部22aがザグリ孔4の内壁面に当接可能になっている。
【0044】
また、第2治具20は、3つの当接片22のうちの1つが、ザグリ孔4における石積壁2の低部側の内壁面に当接する向きに配置されるように構成されており、その当接片22の端部22aには、石積壁2(石積みブロック1)の表面に掛けられる爪部23が設けられている。具体的には、3つの当接片22のうちの1つの端部22aには、外側に向かって折曲されて石積壁2(石積みブロック1)の表面に当接可能な爪部23が設けられている。
また、3つの当接片22のうち、爪部23が設けられていない2つの当接片22の端部22aには、その端部22aをザグリ孔4の内壁面に固定するためのアジャスターボルト24が螺着されている。
換言すると、支持器具30がザグリ孔4に設置された状態で、第2治具20は3つの当接片22がY字状を呈する向きに設置されるようになっており、下向きになる当接片22の端部22aに爪部23が設けられており、斜め上向きになる当接片22の端部22aにアジャスターボルト24が螺着されている。
【0045】
第1治具10には、貫通孔10aが設けられており、その貫通孔10aの内周面には鋼棒5(ねじ節鉄筋)と螺着可能な雌ネジ(図示省略)が形成されている。
この第1治具10は、鋼棒5の頭部5aに螺着によって連結されて取り付けられるようになっている。
なお、貫通孔10aは、第1治具10の雄ねじ具11に設けられており、雄ねじ具11の雄ネジ部11aを貫いている。
【0046】
第2治具20の器具中心部21には、雄ねじ具11の雄ネジ部11aが挿通される開口部21aが設けられており、雄ねじ具11と雌ねじ具12が器具中心部21を挟んで螺合された状態で、第2治具20に第1治具10が取り付けられるようになっている。
そして、器具中心部21に第1治具10が取り付けられている第2治具20が、3つの当接片22の端部22aをザグリ孔4の内壁面に当接させて、支持器具30がザグリ孔4内に設置された状態で、第1治具10がザグリ孔4の内部に収まるように構成されている。
【0047】
上記した支持器具30の構造を踏まえて、第3工程(図4(a)(b))について詳述する。
第2工程において穿孔3に挿通された鋼棒5の頭部5aに、雌ねじ具12と第2治具20を順に仮設した後、その鋼棒5の頭部5aに雄ねじ具11を取り付け、器具中心部21を挟んで雄ねじ具11と雌ねじ具12を螺合する。
このようにして、第2治具20に第1治具10が取り付けられてなる支持器具30を鋼棒5の頭部5aに取り付け、その支持器具30をザグリ孔4内に設置する。
このとき、第2治具20の3つの当接片22の端部22aは、ザグリ孔4の内壁面に当接している。
また、3つの当接片22のうち、爪部23が設けられている当接片22を下向きにし、その爪部23を石積壁2(石積みブロック1)の表面に掛けている。
また、その姿勢がずれないように、アジャスターボルト24によって上側2つの当接片22をザグリ孔4の内壁面に固定するようにする。
【0048】
この状態で支持器具30の第1治具10がザグリ孔4内に収まっており、第1治具10がザグリ孔4の縁から外側に少しも出ていない配置になっている。
またこの状態で支持器具30の第1治具10がザグリ孔4の孔心に配されているので、その第1治具10に取り付けられて貫通孔10aに通されている鋼棒5の頭部5aが、ザグリ孔4の孔心に位置合わせされている。
【0049】
そして、図4(a)(b)に示すように、鋼棒5の頭部5aの端部が、第1治具10の貫通孔10a内の所定位置にあるように、鋼棒5の頭部5aと第1治具10との螺着の程度を調整する。
ここでは、鋼棒5の頭部5aの端部が、第1治具10の雄ねじ具11の外端面と面一になるように調整している。
第1治具10(雄ねじ具11)の長さであって、その貫通孔10aの長さは、鋼棒5の頭部5aが固定部材8(筒状部8b)に螺着にて嵌合されるのに必要な嵌合長を有しているので、鋼棒5の頭部5aの端部が第1治具10の貫通孔10aにおける所定位置にあれば、鋼棒5の頭部5aと固定部材8(筒状部8b)とを適正に連結することが可能になる。
このように第3工程では、ザグリ孔4に設置した支持器具30によって、鋼棒5の頭部5aをザグリ孔4内に収めるとともに、鋼棒5の頭部5aを孔の略中心に位置合わせしている。
【0050】
次いで、図5(a)(b)に示すように、穿孔3に第1固化材料であるグラウトを充填し、そのグラウト(第1固化材料)を硬化させて第1充填部6aを形成する(第4工程)。なお、次の工程でザグリ孔4に設置されている支持器具30を取り外すので、ザグリ孔4にはグラウトが入らないようにする。
そして、第1充填部6aが形成されて穿孔3内に鋼棒5が固定されたら、支持器具30を鋼棒5の頭部5aから取り外す(第5工程)。
【0051】
次いで、図6(a)(b)に示すように、ザグリ孔4と、第1充填部6aが形成されていない穿孔3部分に第2固化材料6cである無収縮モルタルを充填する(第6工程)。
次いで、図6(a)(b)に示すように、ザグリ孔4に充填された無収縮モルタル(第2固化材料6c)が硬化する前に、その無収縮モルタル(第2固化材料6c)の表面を平らに整形し、そのザグリ孔4に満たされている無収縮モルタル(第2固化材料6c)の表面に支圧板7を配置する(第7工程)。
【0052】
次いで、図6(a)(b)に示すように、固定部材8の筒状部8bを支圧板7の開口7aから挿し入れて、鋼棒5の頭部5aに連結させるとともに、固定部材8の平板部8aを支圧板7に密着させる(第8工程)。
この工程では、無収縮モルタル(第2固化材料6c)は硬化していない。例えば、図7(a)(b)における第2充填部6bを無収縮モルタル(第2固化材料6c)に見立てた状態が、第8工程である。
【0053】
次いで、図7(a)(b)に示すように、ザグリ孔4に満たされている無収縮モルタル(第2固化材料6c)を硬化させて第2充填部6bを形成する(第9工程)。
こうして、穿孔3およびザグリ孔4に充填された固化材料(グラウト、無収縮モルタル)が硬化してなる固化材料充填部6が形成されて石積壁の補強構造100が構築される。
【0054】
このような工程を経て、石積壁の補強構造100を構築することができ、補強対象の石積壁2を補強することができる。
このように補強されてなる石積壁の補強構造100であれば、図1図7(a)(b)に示すように、石積壁2の壁面には、穿孔3に挿通された鋼棒5の頭部5aに連結されている固定部材8の平板部8aが支圧板7とともに露出した態様になっており、その壁面には薄い平板部8aが張り出している程度であるので、補強対象の石積壁2の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
【0055】
そして、穿孔3の開口部分に形成されていて、穿孔3よりも大きな径を有しているザグリ孔4には固化材料充填部6(第2充填部6b)が充填されており、その固化材料充填部6(第2充填部6b)を支圧板7と固定部材8とで好適に拘束して鋼棒5を定着させているので、石積壁2の補強が好適になされている。
【0056】
また、本実施形態の積壁補強用鋼棒の支持器具30を、石積壁の補強方法における第3工程で用いることで、鋼棒5の頭部5aをザグリ孔4内に収めるとともに、その頭部5aをザグリ孔4の孔心に位置合わせすることができる。
具体的には、支持器具30をザグリ孔4に設置した状態において、第1治具10がザグリ孔4の縁から外側に少しも出ていない配置でザグリ孔4の孔心に配されるようになっているので、その第1治具10に取り付けられている鋼棒5の頭部5aをザグリ孔4内に適正に収め、その頭部5aをザグリ孔4の孔心に容易に位置合わせすることができる。
特に、第1治具10の長さであってその貫通孔10aの長さは、鋼棒5の頭部5aが固定部材8(筒状部8b)に嵌合されるのに必要な嵌合長を有しているので、鋼棒5の頭部5aの端部が第1治具10の貫通孔10aにおける所定位置にあるように取り付けられているようにすれば、鋼棒5の頭部5aと固定部材8(筒状部8b)とを適正に連結するための嵌合長の管理を容易にすることができる。
このような支持器具30を用いて鋼棒5の頭部5aを適正な配置に位置合わせしているので、その鋼棒5の頭部5aに固定部材8を適正に嵌合することができる。
そして、補強対象の石積壁2の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態の石積壁の補強構造100、石積壁の補強方法、石積壁補強用鋼棒の支持器具30であれば、補強対象の石積壁2の壁面を比較的平坦に仕上げることができる。
【0058】
なお、以上の実施の形態においては、固定部材8の筒状部8bを鋼棒5の頭部5aに螺着して連結するとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、固定部材8の筒状部8bを鋼棒5の頭部5aに嵌め込むように被せて連結してもよい。
【0059】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 石積みブロック
2 石積壁
3 穿孔
4 ザグリ孔
5 鋼棒(石積壁補強用鋼棒)
5a 頭部
5b スペーサー
6 固化材料充填部
6a 第1充填部
6b 第2充填部
7 支圧板
7a 開口
8 固定部材
8a 平板部
8b 筒状部
10 第1治具
10a 貫通孔
11 雄ねじ具
11a 雄ネジ部
12 雌ねじ具
12a 雌ネジ部
20 第2治具
21 器具中心部
21a 開口部
22 当接片
22a 端部
23 爪部
24 アジャスターボルト
30 支持器具(石積壁補強用鋼棒の支持器具、所定の器具)
100 石積壁の補強構造
G 地山
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8