(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097135
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】生育状態モニタリング装置、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240710BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000401
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】梅田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小長谷 圭志
(72)【発明者】
【氏名】倉本 誠
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043CA05
2G043EA01
2G043LA03
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】青果物を始めとした植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期等を非接触かつ非破壊的で測定できる測定精度に優れた生育状態モニタリング装置、それを利用した、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムの提供。
【解決手段】植物体1へ励起光を照射し、植物体1から発光する蛍光の画像を計測する蛍光画像センサ3を備え、植物体の一部位4から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位5から発光する第2の蛍光強度値とを演算することを特徴とする生育状態モニタリング装置。ならびに、それを利用した、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体へ励起光を照射し、前記植物体から発光する蛍光の画像を計測する蛍光画像センサを備え、
前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することを特徴とする生育状態モニタリング装置。
【請求項2】
前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値との蛍光強度比を用いる、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項3】
前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値との蛍光強度差を用いる、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項4】
前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値とを規格化して用いる、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項5】
前記一部位が前記植物体の種子部であり、前記異なる部位が前記植物体の果実部である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項6】
前記一部位が前記植物体の果実部であり、前記異なる部位が前記植物体の葉である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項7】
前記一部位が前記植物体の病変部位であり、前記異なる部位が前記植物体の正常部位である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項8】
前記一部位が前記植物体の葉に遺伝子を導入した部位であり、前記異なる部位が前記導入した遺伝子が拡散していない部位である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項9】
前記一部位が前記植物体に寄生する害虫の存在部位であり、前記異なる部位が前記害虫の存在部周辺部位である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項10】
前記植物体が、イチゴ、メロンまたはタバコ葉である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項11】
前記植物体がイチゴであり、
前記一部位がイチゴ果実表面の種子部であり、前記異なる部位が前記種子部の外周部である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項12】
前記励起光の波長が、クロロフィル吸収波長である、請求項11に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項13】
前記蛍光の波長が、クロロフィル蛍光波長である、請求項11に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項14】
イチゴ果実表面の種子部の第1の蛍光強度値(a)と、前記種子部の外周部の第2の蛍光強度値(b)との比a/bを用いる、請求項11~13のいずれか一項に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項15】
前記励起光は、1つもしくは2つ以上の励起波長帯の励起光である、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項16】
前記蛍光画像センサは、1つもしくは2つ以上の波長帯を計測する、請求項1に記載の生育状態モニタリング装置。
【請求項17】
植物体へ励起光を照射し、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別することを特徴とする生育状態モニタリング方法。
【請求項18】
照射装置は、植物体へ励起光を照射し、
計測装置は、前記植物体から発光する蛍光の画像を計測し、
コンピュータは、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別することを特徴とする生育状態モニタリング方法。
【請求項19】
植物体へ励起光を照射する照射装置と、
前記植物体から発光する蛍光の画像を計測する計測装置と、
前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別するコンピュータと、
を有することを特徴とするコンピュータシステム。
【請求項20】
栽培者が使用する端末装置と、前記端末装置がネットワークを介して接続可能なサーバ装置とを備える栽培植物管理システムであって、
前記端末装置は、
前記栽培者からの栽培植物データの入力を受け付ける栽培者入力手段と、
前記入力を前記サーバ装置に対して送信する栽培者送信手段と、
前記サーバ装置から送信された通知を受信する栽培者受信手段と、
を有し、
前記サーバ装置は、
前記端末装置から送信された前記入力を受信するサーバ装置受信手段と、
前記サーバ装置受信手段によって受信した前記栽培植物データを記憶するサーバ装置記憶手段と、
前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培植物データに基づいて、前記栽培植物へ励起光を照射した際に、前記栽培植物の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記栽培植物の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算し、前記栽培者に対する通知を生成するサーバ装置演算手段と、
前記サーバ装置演算手段によって生成された前記通知を前記端末装置に対して送信するサーバ装置送信手段と、
を有する栽培植物管理システム。
【請求項21】
前記サーバ装置演算手段が、前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培者の前記栽培植物データを抽出する抽出手段と、所定の前記栽培植物の品種に係る栽培植物データから前記栽培植物の生育状態を予測するモデルを構築するモデル構築手段と、前記モデルに対して前記栽培植物データを入力することによって生育状態の予測値を得る予測手段とを有する、請求項20に記載の栽培植物管理システム。
【請求項22】
前記モデルが人工知能モデルである、請求項21に記載の栽培植物管理システム。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一項に記載の栽培植物管理システムに含まれる前記端末装置において実行可能な栽培植物管理プログラムであって、
前記端末装置を、前記栽培者入力手段と、前記栽培者送信手段と、前記栽培者受信手段として機能させることを特徴とする栽培植物管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生育状態モニタリング装置、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、市場でやり取りされる植物体、特に、イチゴやメロン、トマト等の青果物は、収穫作業者がその色合い(カラーチャート)から目視で収穫時期を判別していた。しかしながら、収穫作業者によってその判断が異なることから、成熟度等を見分ける、より信頼性の高い判別装置の開発が求められていた。
【0003】
このような状況を受け、果実の糖酸度等の生育状態を、果汁を絞り取って計測する方法などが提案されてきたが、測定時に測定対象物を破壊する必要があることから、青果物の生育状態を非破壊で測定する装置の研究が進められてきた。
【0004】
特許文献1には、測定対象に当接させた状態で、収穫時期の見極め等のために非破壊で吸光度を測定して糖度を把握できる、小型化が可能な非破壊測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1を始めとした、測定対象物を非破壊的に測定できる光センサー(近赤外糖度計)は、実際に選果場などで広く普及している。しかしながら、このような赤外線照射による糖度計測器は、測定対象物1個1個を装置に押さえつけて計測する必要があり、さらに、計測環境によっては、測定結果にバラツキが生じ再現性に課題があり、より測定精度の優れた、生育状態をモニタリングできる装置の開発が求められていた。
【0007】
本開示は、このような課題を鑑みてなされたものであり、青果物を始めとした植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期等を非接触かつ非破壊的で測定できる測定精度に優れた生育状態モニタリング装置、それを利用した、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の[1]~[23]に示す本実施形態により達成される。
[1]植物体へ励起光を照射し、前記植物体から発光する蛍光の画像を計測する蛍光画像センサを備え、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することを特徴とする生育状態モニタリング装置。
[2]前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値との蛍光強度比を用いる、[1]に記載の生育状態モニタリング装置。
[3]前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値との蛍光強度差を用いる、[1]に記載の生育状態モニタリング装置。
[4]前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値とを規格化して用いる、[1]に記載の生育状態モニタリング装置。
[5]前記一部位が前記植物体の種子部であり、前記異なる部位が前記植物体の果実部である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[6]前記一部位が前記植物体の果実部であり、前記異なる部位が前記植物体の葉である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[7]前記一部位が前記植物体の病変部位であり、前記異なる部位が前記植物体の正常部位である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[8]前記一部位が前記植物体の葉に遺伝子を導入した部位であり、前記異なる部位が前記導入した遺伝子が拡散していない部位である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[9]前記一部位が前記植物体に寄生する害虫の存在部位であり、前記異なる部位が前記害虫の存在部周辺部位である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[10]前記植物体が、イチゴ、メロンまたはタバコ葉である、[1]~[9]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[11]前記植物体がイチゴであり、前記一部位がイチゴ果実表面の種子部であり、前記異なる部位が前記種子部の外周部である、[1]~[4]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[12]前記励起光の波長が、クロロフィル吸収波長である、[11]に記載の生育状態モニタリング装置。
[13]前記蛍光の波長が、クロロフィル蛍光波長である、[11]または[12]に記載の生育状態モニタリング装置。
[14]イチゴ果実表面の種子部の第1の蛍光強度値(a)と、前記種子部の外周部の第2の蛍光強度値(b)との比a/bを用いる、[11]~[13]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[15]前記励起光は、1つもしくは2つ以上の励起波長帯の励起光である、[1]~[14]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[16]前記蛍光画像センサは、1つもしくは2つ以上の波長帯を計測する、[1]~[15]のいずれかに記載の生育状態モニタリング装置。
[17]植物体へ励起光を照射し、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別することを特徴とする生育状態モニタリング方法。
[18]照射装置は、植物体へ励起光を照射し、計測装置は、前記植物体から発光する蛍光の画像を計測し、コンピュータは、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別することを特徴とする生育状態モニタリング方法。
[19]植物体へ励起光を照射する照射装置と、前記植物体から発光する蛍光の画像を計測する計測装置と、前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、前記植物体の生育状態を判別するコンピュータと、を有することを特徴とするコンピュータシステム。
[20]栽培者が使用する端末装置と、前記端末装置がネットワークを介して接続可能なサーバ装置とを備える栽培植物管理システムであって、前記端末装置は、前記栽培者からの栽培植物データの入力を受け付ける栽培者入力手段と、前記入力を前記サーバ装置に対して送信する栽培者送信手段と、前記サーバ装置から送信された通知を受信する栽培者受信手段と、を有し、前記サーバ装置は、前記端末装置から送信された前記入力を受信するサーバ装置受信手段と、前記サーバ装置受信手段によって受信した前記栽培植物データを記憶するサーバ装置記憶手段と、前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培植物データに基づいて、前記栽培植物へ励起光を照射した際に、前記栽培植物の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記栽培植物の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算し、前記栽培者に対する通知を生成するサーバ装置演算手段と、前記サーバ装置演算手段によって生成された前記通知を前記端末装置に対して送信するサーバ装置送信手段と、を有する栽培植物管理システム。
[21]前記サーバ装置演算手段が、前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培者の前記栽培植物データを抽出する抽出手段と、所定の前記栽培植物の品種に係る栽培植物データから前記栽培植物の生育状態を予測するモデルを構築するモデル構築手段と、前記モデルに対して前記栽培植物データを入力することによって生育状態の予測値を得る予測手段とを有する、[20]に記載の栽培植物管理システム。
[22]前記モデルが人工知能モデルである、[21]に記載の栽培植物管理システム。
[23][20]~[22]のいずれかに記載の栽培植物管理システムに含まれる前記端末装置において実行可能な栽培植物管理プログラムであって、前記端末装置を、前記栽培者入力手段と、前記栽培者送信手段と、前記栽培者受信手段として機能させることを特徴とする栽培植物管理プログラム。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、青果物を始めとした植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期等を非接触かつ非破壊的で測定できる測定精度に優れた生育状態モニタリング装置、それを利用した、生育状態モニタリング方法、コンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る生育状態モニタリング装置を説明するための模式図である。
【
図2】本実施形態に係る生育状態モニタリング方法の一例のブロック図である。
【
図3】(a)は、イチゴへ波長450nmの励起光を照射した際の、イチゴから発光する波長680nmの一例の蛍光画像図であり、(b-1)および(b-2)はそれぞれ、イチゴ上部およびイチゴ下部の蛍光画像拡大図である。
【
図4】(a)はイチゴ種子部の蛍光強度、(b)はイチゴ種子外周部の蛍光強度、(c)は種子部/種子外周部の蛍光強度比をそれぞれ画像処理した一例の図である。
【
図5】本実施形態に係る生育状態モニタリング装置を用いた蛍光強度比と、糖度との関係を説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係る生育状態モニタリング装置を用いた蛍光強度比と、糖度との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本開示が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
また、本明細書では、植物体として主にイチゴに着目した説明を行うことがあるが、本開示に係る生育状態モニタリング装置(以降、本装置とも記す)の測定対象物(植物体)は、イチゴに限定されず、(マスク)メロンやトマトなどの青果物や、果実と周辺の葉、タバコ葉などの全ての植物体に適用し得るものである。
【0012】
上述したように、従来のイチゴ栽培でのイチゴ果実の収穫判断は、収穫作業者が当該イチゴ果実の赤味の付き具合を、イチゴ色合いチャートを用いて目合わせする方法で収穫時期を判断していた。しかし、イチゴの赤味の付き具合とイチゴの糖度、酸度、美味しさ等とは直接的な関係は無く、例えば赤く色付いたイチゴでも甘くないものがあり、逆にまだ白っぽい状態のイチゴでも甘く、美味しい状態に成熟しているものもある。即ち、従来からのイチゴ果実の収穫判別方法ではイチゴの美味しさは正確には判別できず、的確な収穫判断ができない場合があった。
また、RGBカラーカメラなどの画像センサを使用した場合でも、イチゴの赤味の比率で収穫時期を判断しており、目視での判別は収穫作業者によりバラツキがあり、また、赤味の比率と糖度を含めた成熟度とが対応していない場合もあった。
さらに、果実を絞って果汁を用いる糖度計による計測は測定対象物を破壊してしまうため、改善が求められた。
また、特許文献1に記載の装置を始めとした、赤外線照射による糖度計測器は、測定対象物を1個1個装置に押さえつけて計測する必要があり、さらに、測定環境によって測定結果にバラツキが生じ、再現性に課題があり精度が良くない場合があった。
【0013】
一方、本装置では、測定対象物(植物体)の発する蛍光を複数の部位に対して検出し、得られた各部位の蛍光強度値から例えば蛍光強度比を取得することで、測定対象物の成熟度、生育状態、糖酸度等を非接触かつ非破壊的に計測できる。さらに、測定対象物の成熟度を分析することで、測定対象物の収穫時期や、美味しさ、棚持ち予測等を数値化してリアルタイムで判定することも可能である。
以下、本装置(レーザ励起小型蛍光画像センサ装置)について詳しく説明する。なお、
図1は、本実施形態に係る生育状態モニタリング装置を説明するための模式図である。
【0014】
本装置は、
図1に示すように、植物体1へ照射装置2より励起光を照射し、植物体1から発光する蛍光のうち、バンドパスフィルタ6で特定の波長帯のみを通過させた画像を計測する計測装置(蛍光画像センサ)3を備えることができる。また、本装置は、植物体の一部位4から発光する第1の蛍光強度値と、植物体の一部位4とは異なる部位5から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、植物体1の、例えば、成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期などを判別することができる。
なお、
図1に示す照射装置2は、1つの励起波長帯の励起光を照射する装置であってもよいし、2つ以上(複数)の励起波長帯の励起光(例えば、複数の色のLED光)を照射する装置であってもよい。すなわち、前記励起光は、1つもしくは2つ以上の励起波長帯の励起光であることができる。
また、計測装置(蛍光画像センサ)3は、1つの波長帯のバンドパスフィルタ6を具備する装置あってもよいし、2つ以上(複数)の波長帯のバンドパスフィルタ6を具備する装置であってもよい。なお、複数の波長帯に対応する蛍光画像センサは、複数のバンドパスフィルタを切り替えて使用することができる。例えば、複数の励起波長帯を用いる場合は、各々の波長帯の励起光で植物体1を照射して、植物体1から発光する(各々の波長帯の励起光に対応する)蛍光を、前記各々の波長帯のバンドパスフィルタ6を通過させて画像を計測する。計測した各々の画像データから、植物体の一部位4から発光する第1の蛍光強度値と、植物体の一部位4とは異なる部位5から発光する第2の蛍光強度値とを各々演算することにより、植物体1の、例えば、成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期などを判別することができる。このように、前記蛍光画像センサは、1つもしくは2つ以上の波長帯を(例えば、個別に)計測することができる。
【0015】
その際、本装置では、第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値との比(蛍光強度比)、差分(蛍光強度差)、または、第1の蛍光強度値および第2の蛍光強度値を規格化(正規化、標準化)等の演算を用いて、植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期などを判別することができる。このように、本実施形態では、励起光の強度が変化しても、特定部位における蛍光強度比、差分、規格化値等を演算するため、励起光強度に依らない一定の値を得ることができる。
【0016】
また、前記植物体の一部位4と植物体の一部位とは異なる部位5との組み合わせは、例えば、植物体(例えば、イチゴ)の種子部および果実部(イチゴの場合は果肉部)、植物体の果実部および葉、植物体(例えばマスクメロン)の紐状領域とその周辺部分、植物体の病変部位および正常部位(非病変部位)、植物体(例えば、植物体の葉)に遺伝子を導入した部位(遺伝子が拡散している部位)および導入した前記遺伝子が拡散していない部位、植物体に寄生する害虫の存在部位および前記害虫の存在部周辺部位、などを挙げることができる。なお、これらの組み合わせは、どちらが植物体の一部位4および異なる部位5であってもよく、本開示の効果が得られる範囲で適宜設定できる。例えば、植物体の種子部(一部位4)および果実部(イチゴの場合は果肉部)(異なる部位5)や、植物体の果実部(一部位4)および葉(異なる部位5)、植物体の紐状領域(一部位4)およびその周辺部分(異なる部位5)を用いることで、本開示により植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期などを判別できる。また、植物体の病変部位(一部位4)および正常部位(異なる部位5)を用いることで、本開示により植物体の病気の有無やその程度などを判別できる。さらに、植物体(例えば、タバコ葉)の遺伝子導入部位(拡散部位)(一部位4)および遺伝子非導入部位(非拡散部位)(異なる部位5)を用いることで、本開示をワクチン製造や医薬品製造に役立てることができる。具体的には、通常、タバコ葉からワクチンを製造する際には、タバコ葉の気孔からウィルス遺伝子を導入し、葉の細胞にウィルスを感染させた状態で栽培することで、ウィルスを増殖させ、ウィルスが十分増えたところで葉を抽出精製し、ワクチンとして利用する。したがって、本開示により、タバコ葉においてウィルスの増殖している部分と増殖していない部分とを判別でき、タバコ葉栽培時のウィルス部位の増殖が計測可能となり、適切な時期に当該タバコ葉を収穫でき、ワクチン製造や医薬品製造に活用できる。また、植物体に寄生する害虫の存在部位(一部位4)および前記害虫の存在部周辺部位(異なる部位5)を用いることで、植物を栽培する上で重要となる、植物体への害虫の存在有無およびその存在比率などを知ることができ、植物体の栽培に役立てることができる。具体的には、作物の葉に害虫が寄生した際に、食害にあった葉の部位は660nmなどの低い波長のクロロフィル蛍光を発するのに対し、正常な(害虫の食害にあっていない)部位の葉は740nmなどの長い波長の蛍光を発する。これらの波長に関する画像データを演算することで、植物体中の害虫の存在を検出することができる。なお、上記存在部周辺部位における、存在部位の周辺範囲は本開示の効果が得られる範囲で適宜設定でき、特に限定されない。
【0017】
以下では、植物体としてイチゴを採用した場合を例に挙げて説明する。イチゴ果実の表面上には粒状の種子(痩果)の部位があり、種子部以外は果肉(花托)という部位で構成される。イチゴは受粉後、花托部が肥大化し、果実として生長するが、成熟前の果肉部にはクロロフィルを多く含み、緑色や白色の状態である。そして、果肉部は、成熟と共に前記クロロフィルが分解され、アントシアニンが生成されるため、赤味が付いてくる。一方、種子部はクロロフィルが果実の成熟にかかわらずほとんど変化しない。なお、本明細書では、イチゴの実の痩果部を種子部と称し、花托部を果肉部と称し、イチゴの実全体を果実部と称する。
【0018】
以上のことから、本装置をイチゴ果実の計測に用いる場合、植物体の一部位4として、イチゴ果実表面の種子部を採用し、植物体の一部位と異なる部位5として、前記種子部の外周部(果肉部分)を採用する。この際、外周部の範囲は本開示の効果が得られる範囲で適宜設定できる。また、照射装置2で照射する励起光の波長は、成熟とともに変化が起きるクロロフィル吸収波長とし、計測装置3で計測する蛍光の波長は、クロロフィル蛍光波長とする。より具体的には、励起光(照射光)には約450nm波長の青色LED(照明)を使用し、特定の波長帯域のみを通過できるバンドパスフィルタ6には、680nm付近の波長を通過するものを用いる。そして、上記励起光を連続的にイチゴ全体に照射することにより、イチゴは果実全体から680nm付近の波長をピークとする蛍光を発光する。この蛍光はクロロフィル蛍光に起因するもので、果肉部は成熟と共にクロロフィル量が減少するため、果実の成熟と共に蛍光発光強度が減少する。一方、種子(痩果)部はクロロフィル量が果実の成熟にかかわらずほとんど変化しないため、蛍光発光強度もほとんど変化しない。なお、波長680nmの蛍光は、植物体のクロロフィル蛍光の波長、葉の光合成状態等を観測できることが知られている。
【0019】
次に、
図2に、本装置を用いた生育状態モニタリング方法(蛍光画像の計測および取得した画像データの画像解析方法)の一例のブロック図を示す。本実施形態に係る生育状態モニタリング方法では、植物体へ励起光を照射し、植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、植物体の一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期等を判別できる。また、本実施形態に係る生育状態モニタリング方法は、照射装置が植物体へ励起光を照射し、計測装置が前記植物体から発光する蛍光の画像を計測し、コンピュータが前記植物体の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記植物体の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、植物体の上述した特性を判別できる。
【0020】
より具体的には、
図2に示すように、本実施形態に係る生育状態モニタリング方法が開始されると(ステップS(SS))、まず、
図1に示す本装置によって、測定対象物(植物体)にLED等の固有スペクトルを持つ励起光を照射し、特定の波長帯域のみを通過するバンドパスフィルタ6を具備した画像センサで蛍光画像を撮影し取得する(ステップ1(S1):蛍光画像取得)。測定対象がイチゴの場合は、イチゴ果実に450nmの単一波長光を照射し、画像センサで680nm近辺の蛍光画像を撮影する。
そして、測定対象物がイチゴの場合は、当該蛍光画像をエッジ検出等で種子部のみを抽出し(ステップ2-1(S2-1):種子部抽出)、抽出した当該種子部の蛍光強度の平均値aを取得する(ステップ2-2(S2-2):種子部蛍光強度値(a))。
つづいて、抽出した前記種子部の外周円と当該外周円半径に例えば10ピクセル加算した半径の円とで形成される円環領域を抽出し(ステップ3-1(S3-1):種子外周円環部抽出)、当該円環領域の蛍光強度の平均値bを取得する(ステップ3-2(S3-2):種子外周円環部蛍光強度値(b))。
次に、これらの前記蛍光強度値a、bを演算、ここではaとbとの比(a/b)を取る(ステップ4(S4):蛍光強度演算(a/b))。
そして、得られた数値を疑似カラー(カラーマップ)で画像表示する(ステップ5(S5):演算結果疑似カラーマップ表示)ことで、イチゴ果実の部位毎の蛍光強度比が可視化でき、イチゴ果実群中での美味しい個体の判別や個体内での部位による成熟度、収穫適期等を判別することが可能となる(ステップ6(S6):生育状態判別)。そして、本実施形態に係る生育状態モニタリング方法を終了する(ステップE(SE))。なお、本明細書に記載する図面は、カラー画像表示ではなく、白黒画像表示されていることに留意されたい。
【0021】
ここで、
図3(a)に、イチゴへ波長450nmの励起光を照射した際の、イチゴから発光する波長680nmの一例の蛍光画像図を示し、
図3(b-1)および(b-2)に、それぞれ、イチゴ上部およびイチゴ下部の蛍光画像拡大図を示す。
図3(b-1)に示すイチゴ上部の蛍光画像は、
図3(b-2)に示すイチゴ下部の蛍光画像と比較して、種子周辺の輝度が高い、すなわち、クロロフィル蛍光に起因する蛍光強度が強いことが分かる。このことから、イチゴ下部の果肉部の方がイチゴ上部の果肉部よりも熟していることが視覚的に分かり、イチゴの成熟度を可視化、場合によっては数値化することができる。
【0022】
また、
図4に、イチゴに波長450nmの励起光を照射した際の、イチゴから発光する波長680nmに関する、(a)イチゴ種子部の蛍光強度、(b)イチゴ種子外周部の蛍光強度、(c)種子部/種子外周部の蛍光強度比a/bをそれぞれ画像処理した一例の図を示す。
ここで、上述したイチゴの特性から、種子部と種子部外周領域の蛍光強度には差が生じるが、照明(LED)の照射強度によって得られる明るさ(輝度)が変化し、これらの蛍光強度を単に計測するだけでは評価結果が照明強度によって変わってしまう可能性がある。このため、本装置では、特定部位(例えば、種子部位と、種子の周辺部位(果肉部位))同士の蛍光強度比や、蛍光強度差または蛍光強度の正規化等の演算値を評価することで、光の強さ(照射強度)に依存しない評価方法を確立できる。なお、イチゴ種子外周部の範囲は、本開示の効果が得られる範囲で適宜設定できるが、例えば、種子部周辺の10ピクセル分の領域とすることができる。
【0023】
なお、前記特定の波長帯域のみを通過するバンドパスフィルタ6を具備した計測装置(蛍光画像センサ)3は、上記蛍光発光強度に応じたイチゴ果実の蛍光画像を収集するもの(イチゴ蛍光計測装置)である。したがって、前記照射光の約450nmの青色光のよる反射光等は、680nm近辺の波長を通過させるバンドパスフィルタ6によって遮断され、蛍光画像センサ3には入力されない。また、前記蛍光画像センサ3はフィルタ切替機構等を具備することにより、680nm付近の画像の他に、通常のカラーカメラの画像や他の波長の画像等を取得することも可能となる。このように、照射装置2から照射される励起光の波長や、計測装置3が計測する蛍光波長は、測定対象物(植物体)に応じて適宜設定でき特に限定されない。また、照射装置および計測装置の構成も本開示の効果を得られる範囲で、従来公知の装置を適宜使用でき、特に限定されない。
【0024】
このように、本装置では、イチゴ果実の蛍光発光特性で、種子部と種子部周辺(果肉部)とで異なる発光強度があることを利用している。また、一般的に、イチゴは下部より熟することが知られており、イチゴの上部と下部で種子周辺の果肉部の輝度が異なり、下部の方がより種子周辺の輝度が低いことから、イチゴの成熟度の指標とすることができる。また、本装置では、特定部位同士の蛍光強度演算値、すなわち、蛍光強度比、蛍光強度差、規格化値を用いて評価を行うため、照射光の強さやバラツキに寄らず一定値が得られ、信頼性のおける評価を行うことができる。また、本装置では、測定対象物(植物体)に対して非接触かつ非破壊で測定を行うことができ、さらに、選定した照射光波長と蛍光波長で撮影した画像だけで、測定対象の成熟度等を判別できるため、低コストかつ簡単な装置構成(小型画像センサ)とすることができる。
また、本装置は、前記蛍光強度演算値と美味しさ、糖度、酸度等とを関連付け、教師データを用いて深層学習手法で解析することで、より良好な美味しいイチゴの判別装置として提供可能である。
さらに、本装置は、例えば、イチゴの果実以外でもマスクメロンの紐状領域とその周辺部分との蛍光強度比や、果実とその周辺の葉との蛍光強度比、植物体の病気部分とその周辺部分との蛍光強度比、植物体の遺伝子導入部位(拡散部位)等と非拡散部位との蛍光強度比等でも生育状態モニタリング装置として適用が可能である。
また、本装置の画像解析部分をクラウド等に設置し、顧客から提供される果実の蛍光画像をクラウドで解析し、美味しさ、収穫時期、生育状態等の判別結果を顧客へ提供するサービスビジネスも可能である。
【0025】
より具体的には、本実施形態は、以下に示すコンピュータシステム、栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムに適用できる。
すなわち、本実施形態に係るコンピュータシステムは、植物体1へ励起光を照射する照射装置2と、植物体1から発光する蛍光の画像を計測する計測装置3と、植物体の一部位4から発光する第1の蛍光強度値と、植物体の前記一部位とは異なる部位5から発光する第2の蛍光強度値とを演算することにより、植物体1の生育状態を判別するコンピュータと、を有する。
計測装置は、計測した蛍光画像データをコンピュータに送信する。計測装置は、例えば、LAN(Local Area Network)ケーブルなどの通信ケーブルを介して画像データを送信してもよいし、WiFi(Wireless Fidelity)などの無線LAN、またはBluetooth(登録商標)、およびNFC(Near Field Communication)などの近距離無線通信手段を介して画像データを送信してもよい。
コンピュータは、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、及びスマートフォンなどの従来公知のものを使用でき、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、通信インターフェース部(通信IF)、入力部および表示部などを有することができる。CPUは、相互に電気信号を送受信できるようにメモリ、通信IF、入力部および表示部とバスなどを介して接続される。メモリは、CPUを駆動するプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)、およびCPUのワーキングメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)が含まれる。通信IFは、計測装置、インターネットおよびLANなどとの通信を処理する。入力部は、操作者がCPUに各種の情報を入力するための装置であり、例えばキーボード、マウスおよびタッチパネルなどが挙げられる。表示部は、CPUからの各種の情報を表示する装置であり、例えばディスプレイおよびタッチパネルなどが挙げられる。通信IFは、計測装置から画像データを受信してCPUに出力する。CPUは、画像データに基づいて、上記第1の蛍光強度値と第2の蛍光強度値とを演算し、当該演算結果(例えば、両者の蛍光強度比)を識別する。CPUは、当該演算結果を表示部に出力して、例えば、
図4(c)に示すように画像表示し、あるいは通信IFを介してサーバなどの他の装置に出力する。このように、コンピュータは、上述した特定の部位の蛍光強度の演算値に基づいて、植物体の生育状態を判別する。コンピュータが判別する植物体の生育状態は多岐にわたり、例えば、上述した成熟度、糖酸度、病変の有無および病変の発生率、害虫の存在有無および存在比率などの様々な情報を含むものである。また、当該コンピュータは、植物体の生育状態だけではなく、植物体の美味しさや、収穫時期なども判別可能であり、それらの結果に基づき、植物体の生産量を予測や調整することも可能である。
【0026】
また、本実施形態に係る栽培植物管理システムは、栽培者が使用する端末装置と、前記端末装置がネットワークを介して接続可能なサーバ装置とを備える栽培植物管理システムであり、前記端末装置は、前記栽培者からの栽培植物データの入力を受け付ける栽培者入力手段と、前記入力を前記サーバ装置に対して送信する栽培者送信手段と、前記サーバ装置から送信された通知を受信する栽培者受信手段と、を有し、前記サーバ装置は、前記端末装置から送信された前記入力を受信するサーバ装置受信手段と、前記サーバ装置受信手段によって受信した前記栽培植物データを記憶するサーバ装置記憶手段と、前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培植物データに基づいて、前記栽培植物へ励起光を照射した際に、前記栽培植物の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記栽培植物の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算し、前記栽培者に対する通知を生成するサーバ装置演算手段と、前記サーバ装置演算手段によって生成された前記通知を前記端末装置に対して送信するサーバ装置送信手段とを有するものである。
なお、端末装置(例えば、携帯型のパーソナルコンピュータ(PC))とサーバ装置にはそれぞれIPアドレスが割り当てられ、インターネットなどにより構築されているネットワークに有線または無線で接続されており、相互にデータ通信が可能な構成となっている。なお、サーバ装置は、栽培植物管理システムを使用するユーザ(栽培者)に関するデータベースなどを備え、端末装置から送信される栽培植物データを記憶し、また、ユーザからの要求に応じてアドバイス情報なども生成できる。
当該栽培植物管理システムでは、栽培者が、提供された照射装置および計測装置を用いて、栽培植物の特定部位の蛍光強度データを測定し、当該蛍光強度データを栽培植物データとして、栽培入力手段に入力することができる。そして、当該栽培植物データに基づいて、前記第1の蛍光強度値と、前記第2の蛍光強度値とを演算して、前記栽培者に対する通知(栽培植物の生育状態などの情報)を生成することができる。
【0027】
さらに、本実施形態に係る栽培植物管理システムは、前記サーバ装置演算手段が、前記サーバ装置記憶手段に記憶された前記栽培者の前記栽培植物データを抽出する抽出手段と、所定の前記栽培植物の品種に係る栽培植物データから前記栽培植物の生育状態を予測するモデルを構築するモデル構築手段と、前記モデルに対して前記栽培植物データを入力することによって生育状態の予測値を得る予測手段とを有していてもよい。また、前記モデルは、人工知能(AI)モデルであってもよい。
なお、当該栽培植物データも上述した蛍光強度データであってもよいが、例えば、特定の栽培者に対して蓄積されたデータ等が存在する場合は、栽培植物のそれ以外のデータ(例えば、イチゴの赤味割合や、生育環境(天候、気温、土壌条件など))を栽培植物データとして入力し、サーバ装置記憶手段に記憶された、これらのデータと、これまでに蓄積された対応する蛍光強度データとの関係とを抽出し、抽出された蛍光強度データに基づいて、栽培植物の生育状態の予測値を栽培者に対して通知してもよい。
【0028】
また、本実施形態に係る栽培植物管理プログラムは、上述した栽培植物管理システムに含まれる前記端末装置において実行可能な栽培植物管理プログラムであり、前記端末装置を、前記栽培者入力手段と、前記栽培者送信手段と、前記栽培者受信手段として機能させるものである。
これらの栽培植物管理システムおよび栽培植物管理プログラムは、栽培植物へ励起光を照射した際に、前記栽培植物の一部位から発光する第1の蛍光強度値と、前記栽培植物の前記一部位とは異なる部位から発光する第2の蛍光強度値とを演算し、前記栽培者に対する通知を生成すること以外は、従来公知のシステムやプログラムを適宜適用できる。このため、本明細書ではこれらの他の構成部分に関しては、詳細な説明は省略する。
【実施例0029】
以下に複数の例を用いて本開示をさらに詳しく説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0030】
[例1~例4]
図5および
図6に示すように、4つのイチゴ(例1~例4)のそれぞれに対して、
図2に示す生育状態モニタリング方法に従い、カラー画像、波長680nmにおける蛍光画像、種子部/種子外周部の蛍光強度比a/bを計測し、演算結果を画像表示した。ここで、各例のカラー画像は、例1:
図5(a)、例2:
図5(d)、例3:
図6(a)、例4:
図6(d)である。また、各例の波長680nmにおける蛍光画像は、例1:
図5(b)、例2:
図5(e)、例3:
図6(b)、例4:
図6(e)である。さらに、各例の種子部/種子外周部の蛍光強度比a/bは、例1:
図5(c)、例2:
図5(f)、例3:
図6(c)、例4:
図6(f)である。なお、
図5および
図6は、本実施形態に係る生育状態モニタリング装置を用いた蛍光強度比と、糖度との関係を説明するための図であるが、カラー画像ではなく、白黒画像で記載されていることに留意されたい。また、各例の蛍光強度比は、円(ドット)で囲まれている部分において蛍光強度比a/bが高いこと、すなわち、イチゴがより成熟していることを表し、特に白い丸で表される部分が蛍光強度比が高く、特に成熟していることを表す。当該蛍光強度比a/bを0~255の段階で表した場合、黒色部分が0、白色部分が255となる。
また、4つのイチゴの糖度を、それぞれ糖度計を用いて測定したところ、例1:糖度6.67、例2:糖度8.47、例3:糖度7.67,例4:糖度6.90という結果が得られた。
なお、糖度が7.0以上となる例2および例3の蛍光強度比(
図5(f)および
図6(c))は、糖度が7.0未満となる例1および例4の蛍光強度比(
図5(c)および
図6(f))と比較して、円(ドット)で囲まれた部分が多く存在しており、蛍光強度比が高いことが分かる。
この結果から、蛍光強度比が高い部分が多いイチゴは、蛍光強度比が低い部分が多いイチゴと比較して、糖度が高いということが分かる。
また、これらの図を参照すると、イチゴの下部に白い丸で表される部分が多く存在していることから、イチゴは下部から成熟するという従来の知識とも一致した結果が得られていることが分かる。このことからも、本装置を用いた生育状態モニタリング方法の信頼性が高いことが分かる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。本装置を用いることで、例えば、植物体の成熟度、生育状態、糖酸度、収穫時期の他に、傷み、美味しさ、過熟、健康状態、棚持ち予測などをリアルタイムで自動判別することも可能となる。また、本装置を、ドローンに搭載し、植物体の生育状態をドローンでモニタリングすることにより、播種から収穫までロボットによる自動化が可能となる。