(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097136
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】木質耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20240710BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
E04B2/56 643H
E04B1/82 J
E04B1/82 W
E04B2/56 604F
E04B2/56 622C
E04B2/56 643F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000403
(22)【出願日】2023-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの閲覧場所:大成建設株式会社、アドレス:https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220517_8790.html、ウェブサイト掲載日:2022年5月17日。
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 正寿
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】濱田 由記子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰知
(72)【発明者】
【氏名】野島 僚子
(72)【発明者】
【氏名】関山 泰忠
(72)【発明者】
【氏名】梅森 浩
【テーマコード(参考)】
2E001
2E002
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001DF04
2E001FA03
2E001GA42
2E001GA55
2E001GA66
2E001HA32
2E001HC01
2E001HC11
2E002FB07
2E002HA03
2E002MA16
2E002MA18
(57)【要約】
【課題】壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性に優れた、木質耐力壁を提供する。
【解決手段】木質耐力壁10Aは、柱梁架構の構面内に設けられる木質耐力壁10Aであって、所定の間隔をおいて配置される複数の鋼製間柱11と、複数の鋼製間柱11を壁厚方向Dtで挟むように、対として配置されている木質壁部12A、12Bと、木質壁部12A、12B同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて形成されている充填部13と、を備え、鋼製間柱11が柱梁架構を構成する上下の鉄骨梁にボルト接合を介して固定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁架構の構面内に設けられる木質耐力壁であって、
所定の間隔をおいて配置される複数の鋼製間柱と、
複数の前記鋼製間柱を壁厚方向で挟むように、対として配置されている木質壁部と、
前記木質壁部同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて形成されている充填部と、を備え、
前記鋼製間柱が前記柱梁架構を構成する上下の鉄骨梁にボルト接合を介して固定されていることを特徴とする木質耐力壁。
【請求項2】
前記木質壁部は、取付金物を介して前記鉄骨梁と接合されていることを特徴とする請求項1に記載の木質耐力壁。
【請求項3】
前記鋼製間柱と前記木質壁部との間に介装された耐火板と、
前記木質壁部と前記鉄骨梁との間に設けられた耐火充填部と、
のいずれか一方または双方を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の木質耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁架構の構面内に設けられる木質耐力壁に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物においては、壁を、木質の部材で構成することがある。壁は人の目線の高さに位置するため、これを木質の部材で構成して木表しとすれば、意匠性を高めることができる。また、樹木が伐採されて製造される木質の部材においては、伐採される前に、光合成により大気中の二酸化炭素を取り込んだことに由来する炭素を含んでいる。このような木質の部材を燃焼させない限りは、炭素が大気中に再放出されず、木質の部材の内部に固定されている状態となっている。したがって、特に面積が広い壁に木質の部材を使用すれば、二酸化炭素の固定量も増えることとなり、地球環境の保全にも有効である。
【0003】
このような木質の部材を用いた壁においても、高い耐震性が求められることがある。特許文献1、2には、次に説明するように、上記のような木質の部材を用いた耐震壁が開示されている。
特許文献1には、鉄骨造の柱、上部梁及び下部梁よりなるフレーム内に嵌め込まれる矩形形状の木質壁パネルと、木質壁パネルの四隅にそれぞれ配置され、フレームに作用する水平力を木質壁パネルに伝達する荷重伝達部と、を備える構成が開示されている。
また、特許文献2には、建物の架構内に設置される耐震壁において、架構の内周面に固定される壁材を木質材料で形成した構成が開示されている。
【0004】
また、木質の部材を用いた壁においては、耐震性に加え、耐火性をも求められることがある。これに対し、特許文献3には、上下の水平部材の間に設置された木質壁が、セメント系固化材で水平部材に接合されている構成が開示されている。
ところで、壁には遮音性が求められることがある。木質の部材は、例えば鉄筋コンクリート等に比べると、単位面積当たりの物理量である面密度が小さいため、壁に木質の部材を使用した場合においては、遮音性を高くできない可能性がある。
壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性を高めることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-16022号公報
【特許文献2】特開2008-280747号公報
【特許文献3】特開2016-216899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性に優れた、木質耐力壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、木質耐力壁として、柱梁架構内に設置される複数の鋼製間柱と、鋼製間柱を挟んだ両側に一対として設置される木質壁部が共に鉄骨梁に接合されることで、木質壁部と、鋼製間柱、及び鉄骨梁でトラス構造が形成される。したがって、木質耐力壁に地震荷重(水平力)が作用した際に、木質壁部が圧縮材の場合には鋼製間柱は引張材として抵抗し、木質壁部が引張材の場合には鋼製間柱は圧縮材として抵抗することになるために、優れた耐震性を確保できる点に着目して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の木質耐力壁は、柱梁架構の構面内に設けられる木質耐力壁であって、所定の間隔をおいて配置される複数の鋼製間柱と、複数の前記鋼製間柱を壁厚方向で挟むように、対として配置されている木質壁部と、前記木質壁部同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて形成されている充填部と、を備え、前記鋼製間柱が前記柱梁架構を構成する上下の鉄骨梁にボルト接合を介して固定されていることを特徴とする。
このような構成によれば、木質耐力壁は、複数の鋼製間柱と、これらを壁厚方向で挟むように設けられている木質壁部を備えている。鋼製間柱は、柱梁架構を構成する上下の鉄骨梁にボルト接合を介して固定されている。このような木質壁部においては、鋼製間柱を束材とし、木質壁部を、上下の鉄骨梁を斜めに連結する斜材として見做すと、鋼製間柱が曲げ抵抗し、木質壁部が圧縮束としてせん断抵抗する、トラス構造が形成されていることになる。これにより、耐震性を高くすることができる。
また、木質壁部は、鋼製間柱を壁厚方向で挟むように、対として配置され、この木質壁部同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて、充填部が形成されている。これにより、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性を高めることができる。
また、繊維系材料の遮音材は、断熱材としても作用する。すなわち、木質耐力壁が仕切る空間の一方の側で火災が生じた場合には、当該一方の側に位置する木質壁部が燃焼したとしても、その熱が、他方の木質壁部へと及びにくくなる。これにより、耐火性が高まる。
したがって、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性に優れた、木質耐力壁を提供することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記木質壁部が、取付金物を介して前記鉄骨梁と接合されている。
このような構成によれば、木質壁部が、取付金物を介して鉄骨梁と接合されているので、木質壁部と鉄骨梁とが一体化された、強固な木質耐力壁を形成することができる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の木質耐力壁は、前記鋼製間柱と前記木質壁部との間に介装された耐火板と、前記木質壁部と前記鉄骨梁との間に設けられた耐火充填部と、のいずれか一方または双方を備えている。
このような構成によれば、鋼製間柱と木質壁部との間に介装された耐火板、木質壁部と鉄骨梁との間に設けられた耐火充填部、により、火災によって木質壁部が燃焼した際には、鋼製間柱や鉄骨梁に熱が伝達されるのを抑えることができる。したがって、耐火性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性に優れた、木質耐力壁を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る木質耐力壁を、壁厚方向から見た図である。
【
図4】
図2の鋼製間柱の鉄骨梁に対する取付構造を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の第1変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
【
図6】本実施形態の第3変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
【
図7】本実施形態の第5変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
【
図8】耐震性についての検討を行った木質耐力壁の構成をモデル化した図である。
【
図11】耐火性についての検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、柱梁架構内に設ける木質耐力壁であり、鋼製間柱を挟んで、両側に一対をなす木質壁部が設置されるとともに、鋼製間柱と鉄骨梁がボルト接合されている。よって、木質壁部と、鋼製間柱、及び鉄骨梁でトラス構造が形成される。したがって、木質耐力壁に地震荷重(水平力)が作用した際に、木質壁部が圧縮材の場合には鋼製間柱は引張材として抵抗し、木質壁部が引張材の場合には鋼製間柱は圧縮材として抵抗することになる。
また、木質耐力壁は、木質壁部を形成する木材や耐火板の面密度によって音響透過損失を増大させることで、空気伝搬音や固体伝搬音を低減しつつ、充填部を形成する繊維系断熱材によって吸音性能が増大されるために、遮音性能に優れた耐力壁を実現できる。
以下、添付図面を参照して、本発明による木質耐力壁を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る木質耐力壁を、壁厚方向から見た図を
図1に示す。
図2は、
図1のI-I矢視断面図である。
図3は、
図1のII-II矢視断面図である。
図1に示されるように、木質耐力壁10Aは、建物の躯体を構成する柱梁架構1の構面内に設けられている。柱梁架構1は、水平方向に間隔をあけて設けられた柱2A、2Bと、互いに隣り合う柱2A、2B同士の間に、上下方向Dvに間隔をあけて設けられた鉄骨梁3A、3Bと、を備えている。
図1、
図2に示されるように、本実施形態において、梁3A、3Bは、それぞれ、H型鋼からなり、上部フランジ3fと、下部フランジ3bと、上部フランジ3fと下部フランジ3bとの間に設けられたウェブ3cと、を有している。
【0013】
木質耐力壁10Aは、水平方向で隣り合う柱2A、2B同士と、上下方向で隣り合う梁3A、3B同士と、に囲まれた構面内に設けられている。木質耐力壁10Aは、複数の鋼製間柱11と、木質壁部12A、12Bと、充填部13と、耐火板14A、14Bと、耐火充填部15と、を備えている。
複数の鋼製間柱11は、鉄骨梁3A、3Bの延伸方向Daに、所定の間隔をあけて設けられている。各鋼製間柱11は、上下方向Dvに延びている。各鋼製間柱11は、上下方向Dvに直交する平面での断面形状が矩形の鋼管から形成されている。
図4は、
図2の鋼製間柱の鉄骨梁に対する取付構造を示す断面図である。
図2、
図4に示されるように、鋼製間柱11の上端部11t、及び下端部11bは、一対の接合金物16を介して鉄骨梁3に接合されている。一対の接合金物16のそれぞれは、木質耐力壁10Aの壁厚方向Dtから見て、L字状に形成されている。各接合金物16は、ベース部16aと、挿入部16bと、を有している。ベース部16aは、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fにボルト101により接合されている。挿入部16bは、ベース部16aから直交して、上部フランジ3f、下部フランジ3bから離間する方向に突出している。挿入部16bは、鋼製間柱11の上端部11t、下端部11b内に挿入されている。挿入部16bは、延伸方向Daに直交する面に沿って形成された板状をなしている。挿入部16bは、鋼製間柱11内で、延伸方向Daに直交する内側面11sに沿った状態で、ボルト102により内側面11sに接合されている。これにより、鋼製間柱11は、柱梁架構1を構成する上下の鉄骨梁3A、3Bに、ボルト接合されている。
【0014】
図3に示されるように、各鋼製間柱11に対し、延伸方向Daの両側に、一対のチャンネル材17が設けられている。各チャンネル材17は、上下方向Dvに直交する平面での断面形状がC型の、鋼製のCチャンネル材である。各チャンネル材17は、鋼製間柱11に沿う基部17aと、基部17aの壁厚方向Dtの両端部から延伸方向Daに延びる一対の板状部17bと、を一体に有している。一対のチャンネル材17の基部17aは、鋼製間柱11を延伸方向Daに貫通するボルト・ナット103により、鋼製間柱11に接合されている。板状部17bの、基部17aとは反対側の先端は、壁厚方向Dtにおいて反対側に位置する他の板状部17bへ向けて、屈曲された形状となっている。
また、隣り合う鋼製間柱11同士の中間部には、中間チャンネル材18が設けられている。中間チャンネル材18は、チャンネル材17と同様、上下方向Dvの断面形状がC型の、基部18aと一対の板状部18bとを有する、鋼製のCチャンネル材である。板状部18bの、基部18aとは反対側の先端は、壁厚方向Dtにおいて反対側に位置する他の板状部18bへ向けて、屈曲された形状となっている。
チャンネル材17、及び中間チャンネル材18は、それぞれ、壁厚方向Dtの厚みが、鋼製間柱11の壁厚方向Dtの厚みと同等に設定されている。
【0015】
木質壁部12A、12Bは、複数の鋼製間柱11を、壁厚方向Dtの両側から挟むように、対として配置されている。木質壁部12A、12Bの各々は、壁厚方向Dtに直交する面に沿った板状をなしている。木質壁部12A、12Bの各々は、例えば、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成材)板により形成されている。木質壁部12A、12Bの各々は、CLT板を、壁厚方向Dtに複数枚積層するようにしてもよい。
図3においては、木質壁部12A、12Bの各々として、ラミナが3層に積層されたCLT板が、壁厚方向Dtに1枚設けられた状態が図示されている。木質壁部12A、12Bは、水平方向で隣り合う柱2A、2B同士と、上下方向で隣り合う梁3A、3B同士と、に囲まれた構面の全体を閉塞するように設けられている。これにより、水平方向で隣り合う柱2A、2B同士と、上下方向で隣り合う梁3A、3B同士と、に囲まれた構面に形成される木質耐力壁10Aが、木表しとなる。
木質壁部12A、12Bは、CLT板に限らず、製材、集成材、合板、ファイバーボード等であってもよい。
【0016】
木質壁部12A、12Bの各々は、水平方向で隣り合う柱2A、2B同士と、上下方向で隣り合う梁3A、3B同士と、に囲まれた構面の全体を、1枚のCLT板で閉塞するようにして構成されても良いし、複数枚のCLT板を、延伸方向Daと上下方向Dvのいずれか一方または双方に並べることで、構面を閉塞するように構成されてもよい。
本実施形態においては、木質壁部12A、12Bの各々は、複数枚のCLT板を、延伸方向Daに並べることで構成されている。
より詳細には、木質壁部12A、12Bの各々においては、
図3に示されるように、延伸方向DaにおけるCLT板の端部12eは、鋼製間柱11に対応する位置で突き合わせられるように設けられている。互いに突き合せられた端部12e間には、壁厚方向Dtにおける外側に、凹部12mが形成されている。凹部12m内は、適宜のコーキング材、パッキン、蓋部材等によって閉塞されている。
【0017】
図1、
図2に示されるように、木質壁部12A、12Bは、複数の取付金物21、22を介して鉄骨梁3A、3Bと接合されている。
取付金物21、22は、第1取付金物21と、第2取付金物22を備えている。
図1に示されるように、第1取付金物21は、壁厚方向Dtから見た場合、鋼製間柱11、及び一対のチャンネル材17に対して、延伸方向Daの両側に配置されている。また、
図2に示されるように、第1取付金物21は、延伸方向Daから見た場合、鋼製間柱11と一対のチャンネル材17を挟んで両側に対として配置された、木質壁部12A、12Bのそれぞれに対して設けられている。
第1取付金物21は、ラグスクリューボルト(LSB)であり、ボルト21aと、軸部21bと、を有している。軸部21bは、長尺で円柱状の部材であり、周囲に雄ネジが形成されている。軸部21bは、木質壁部12A、12Bの壁厚方向Dtの中間部において、木質壁部12A、12Bの上下の端部12t、12b内にねじ込まれて、埋設されている。軸部21bの、木質壁部12A、12Bにねじ込まれていない側の端部は、木質壁部12A、12Bから突出して設けられいる。この端部には、端面から軸部21bの軸方向に窪むように雌ネジ穴が形成されている。この雌ネジ穴に対して、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fを挟んでボルト21aが緊締されている。このようにして、木質壁部12A、12Bは、第1取付金物21を介して、鉄骨梁3A、3Bに固定されている。
【0018】
図1に示されるように、第2取付金物22は、延伸方向Daにおいて隣り合う鋼製間柱11同士の間に配置されている。第2取付金物22は、延伸方向Daから見た場合、L字状の金属板からなる。第2取付金物22は、鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、鉄骨梁3Bの上部フランジ3fにボルト等によって固定される基部22aと、基部22aから連続して、木質壁部12A、12Bの壁厚方向Dtの内側(鋼製間柱11側)の表面12fに沿い、ボルト、ビス等によって木質壁部12A、12Bに固定された固定板部22bと、を一体に有している。
このようにして、木質壁部12A、12Bは、第2取付金物22を介して、鉄骨梁3A、3Bに固定されている。
【0019】
図2、
図3に示されるように、耐火板14A、14Bは、複数の鋼製間柱11と、対として配置された木質壁部12A、12Bの各々との間に介装されている。つまり、耐火板14A、14Bは、複数の鋼製間柱11を、壁厚方向Dtで挟むように、対として配置され、木質壁部12A、12Bは、これら耐火板14A、14Bと、複数の鋼製間柱11を、壁厚方向Dtで挟むように配置されている。
耐火板14A、14Bの各々は、耐火性、及び遮音性を有した、例えばケイ酸カルシウム板である。耐火板14A、14Bは、木質壁部12A、12Bにおいて、木質壁部12A、12Bの壁厚方向Dtの内側(鋼製間柱11側)の表面12fを覆うように設けられている。本実施形態において、耐火板14A、14Bは、壁厚方向Dtに複数層に重ねて設けられている。壁厚方向Dtの各層において、耐火板14A、14Bは、複数枚の耐火単板14pを延伸方向Daに並べることで構成されている。
図3に示されるように、壁厚方向Dtに重ねられた一層目の耐火板14A-1、14B-1と、二層目の耐火板14A-2、14B-2とでは、複数枚の耐火単板14p同士の継ぎ目Jが重ならないように配置されている。具体的には、一層目の耐火板14A-1、14B-1を構成する複数枚の耐火単板14pに対し、二層目の耐火板14A-2、14B-2を構成する複数枚の耐火単板14pは、延伸方向Daに位置をずらして配置されている。これにより、耐火板14A、14Bは、上下方向Dvから見た際に、複数枚の耐火単板14pが千鳥状に配置されている。
【0020】
中間チャンネル材18は、耐火板14A、14Bの位置固定のために設けられている。延伸方向Daに隣り合う鋼製間柱11同士の間には一定の距離があり、中間チャンネル材18がない場合には、耐火板14A、14Bを設置するに際し、耐火板14A、14Bの位置決めが容易ではない。これに対し、中間チャンネル材18が設けられていることで、耐火板14A、14Bを設置する際に、鋼製間柱11に加え、中間チャンネル材18に対して、位置を決定し、配置することができる。このため、施工時の作業性が向上する。
耐火板14A、14Bと、鋼製間柱11、チャンネル材17、及び中間チャンネル材18と、の間には、絶縁材20が介装されている。絶縁材20は、例えばガラス繊維系の材料で形成されている。
【0021】
木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bは、複数本のネジ105により、チャンネル材17に接合されている。各ネジ105は、木質壁部12A、12Bにおいて、壁厚方向Dtの外側(鋼製間柱11から離間する側)の表面12gに形成された凹部12m内に設けられ、当該凹部12mから、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bを貫通し、チャンネル材17の板状部17bにねじ込まれている。凹部12m内においては、ネジ105の外側が、適宜のコーキング材、パッキン、蓋部材等によって閉塞されている。
このように、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bは、複数本のネジ105により、鋼製間柱11ではなく、チャンネル材17に対して接合されている。これにより、ネジ105を過度に締め付けた場合等に、鋼製間柱11が変形するのを抑えつつ、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bを、強固に保持することができる。
【0022】
また、本実施形態においては、木質壁部12A、12Bの各々を構成するCLT板は、延伸方向Daに並べられて、
図3に示されるように、延伸方向Daにおける端部12eが、鋼製間柱11に対応する位置で突き合わせられるように設けられている。ここで、CLT板を端部12eにおいて鋼製間柱11に接合しようとすると、鋼製間柱11の延伸方向Daに延在する部分に、ネジ105が挿通するための孔を2つ、近接して設ける必要がある。この場合においては、鋼製間柱11の断面積が部分的に低減するため、圧縮力等に対する抵抗力が低減する可能性がある。また、CLT板の端部12eにおける端面から浅い位置にネジ105を設ける構成となるために、ネジ105を介してCLT板に作用する力に対して、CLT板が十分に抵抗できない可能性がある。
これに対し、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bを、鋼製間柱11ではなく、チャンネル材17にボルト接合することで、鋼製間柱11に、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bと接合するための孔を形成する必要が無い。なおかつ、CLT板の端部12eにおける端面とネジ105の間の距離を一定以上に確保することができるので、鋼製間柱11と木質壁部12A、12Bとが強固に接合される。
【0023】
充填部13は、対として配置された木質壁部12A、12B同士の間の空間に形成されている。充填部13は、対として配置された耐火板14A、14B同士の間で、鋼製間柱11及び一対のチャンネル材17と中間チャンネル材18との間の空間を埋めるように設けられている。充填部13は、例えばロックウール、セルロースファイバー等の、繊維系材料の遮音材が充填されることで形成されている。
【0024】
図1、
図2に示されるように、耐火充填部15は、木質壁部12A、12Bと、その上下の鉄骨梁3A、3Bとの間に設けられている。本実施形態において、木質壁部12A、12Bの上端部12t及び下端部12bと、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fとは、上下方向に間隔を空けて配置されている。なお、本実施形態において、耐火板14A、14Bの上端部14t及び下端部14bは、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fに接触、または近接するように設けられている。
耐火充填部15は、木質壁部12A、12Bの上端部12t及び下端部12bと、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fとの間に、充填剤が充填されることで、形成されている。耐火充填部15は、取付金物21、22を介した、木質壁部12A、12Bと、鉄骨梁3A、3Bとの間の熱の伝達を抑えつつ、木質壁部12A、12Bと、鉄骨梁3A、3Bとの間で上下方向の力の伝達が行えるような材料で形成するのが好ましい。このような耐火充填部15としては、例えば、熱容量が大きく、かつ高い強度を有したモルタル等を用いるのが好ましい。
【0025】
また、
図3に示されるように、上記したような木質耐力壁10Aが、建物の外周面に沿って配置されている場合、木質耐力壁10Aは、外装材30を更に備えている。外装材30は、壁厚方向Dtの一方側で、建物の屋外側を向く木質壁部12Aに、スペーサ31を介して取り付けられている。本実施形態において、外装材30は、例えば、耐水合板、ゴム系アスファルトルーフィング、ガルバリウム鋼板(登録商標)等を積層して構成されている。
【0026】
上記のような構造においては、上方の鉄骨梁3Aに作用する荷重は、互いに隣り合う柱2A、2Bに加え、鋼製間柱11によって負担されて、下方の鉄骨梁3Bへと伝達される。
また、木質壁部12A、12Bは、複数の取付金物21、22を介して鉄骨梁3A、3Bと接合されている。更には、木質壁部12A、12Bは、ネジ105及びチャンネル材17を介して、鋼製間柱11に接合され、鋼製間柱11は、一対の接合金物16を介して、ボルト接合により、鉄骨梁3A、3Bに接合されている。
このため、地震が作用し、上方の鉄骨梁3Aが下方の鉄骨梁3Bに対して、例えば延伸方向Daに相対移動しようとすると、木木質壁部12A、12Bが
図1に示されるような斜材201として作用し、この相対移動が抑制される。
このように、木質耐力壁10Aにおいては、鋼製間柱11を束材200(
図1参照)とし、木質壁部12A、12Bを斜材201とする、トラス構造が形成され、これにより、高い耐震性を実現することができる。
【0027】
また、例えば
図3における上側の、外装材30の側で騒音が生じた場合においては、騒音は、下側の室内へと伝達するに際し、遮音性を有する耐火板14A、14B、及び、遮音材が充填されることで形成された充填部13によって、低減される。
充填部13が設けられていない部分、すなわち木質壁部12A、12Bの間に鋼製間柱11や一対のチャンネル材17、中間チャンネル材18が設けられている部分においては、これらの鋼材と木木質壁部12A、12Bとの間に介装された絶縁材20により、騒音の直接的な伝達が抑えられる。
このようにして、木質耐力壁10Aを挟んだ一方の側から他方の側への騒音の伝達が抑制される。
【0028】
更に、例えば
図3における上側の、外装材30の側で火災が生じた場合においては、外装材30の側に設けられた木質壁部12Aが燃えしろとなり、なおかつ耐火板14A、14B、及び、ロックウール、セルロースファイバー等の、繊維系材料が充填された充填部13が設けられていることで、室内側に位置する木質壁部12Bに火災が及ぶことが抑制される。
また、木質壁部12A、12Bの上端部12t及び下端部12bと、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fとの間に充填された耐火充填部15により、木質壁部12Aから鉄骨梁3A、3Bへの伝熱が抑制される。
【0029】
上述したような木質耐力壁10Aは、柱梁架構1の構面内に設けられる木質耐力壁10Aであって、所定の間隔をおいて配置される複数の鋼製間柱11と、複数の鋼製間柱11を壁厚方向Dtで挟むように、対として配置されている木質壁部12A、12Bと、木質壁部12A、12B同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて形成されている充填部13と、を備え、鋼製間柱11が柱梁架構1を構成する上下の鉄骨梁3A、3Bにボルト接合を介して固定されている。
このような構成によれば、木質耐力壁10Aは、複数の鋼製間柱11と、これらを壁厚方向Dtで挟むように設けられている木質壁部12A、12Bを備えている。鋼製間柱11は、柱梁架構1を構成する上下の鉄骨梁3A、3Bにボルト接合を介して固定されている。このような木質壁部12A、12Bにおいては、鋼製間柱11を束材200とし、木質壁部12A、12Bを、上下の鉄骨梁3A、3Bを斜めに連結する斜材201として見做すと、鋼製間柱11が曲げ抵抗し、木質壁部12A、12Bが圧縮束としてせん断抵抗する、トラス構造が形成されていることになる。これにより、耐震性を高くすることができる。
また、木質壁部12A、12Bは、鋼製間柱11を壁厚方向Dtで挟むように、対として配置され、この木質壁部12A、12B同士の間の空間に、繊維系材料の遮音材が充填されて、充填部13が形成されている。これにより、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性を高めることができる。
具体的には、木質壁部12A、12Bでは、壁として木質の部材と耐火板14A、14Bにより音響透過損失が増大されるために、空気伝搬音や固体伝搬音を低減できる。また、充填部13では、繊維系断熱材の吸音率が高いために、遮音性能が高められた木質耐力壁10Aを形成できる。
また、繊維系材料の遮音材は、断熱材としても作用する。すなわち、木質耐力壁10Aが仕切る空間の一方の側で火災が生じた場合には、当該一方の側に位置する木質壁部12A、12Bが燃焼したとしても、その熱が、他方の木質壁部12A、12Bへと及びにくくなる。これにより、耐火性が高まる。
したがって、壁として木質の部材を使用しつつも、遮音性と、耐火性、耐震性に優れた、木質耐力壁10Aを提供することが可能となる。
【0030】
また、木質壁部12A、12Bが、取付金物21、22を介して鉄骨梁3A、3Bと接合されている。
このような構成によれば、木質壁部12A、12Bが、取付金物21、22を介して鉄骨梁3A、3Bと接合されているので、木質壁部12A、12Bと鉄骨梁3A、3Bとが一体化された、強固な木質耐力壁10Aを形成することができる。
【0031】
また、木質耐力壁10Aは、鋼製間柱11と木質壁部12A、12Bとの間に介装された耐火板14A、14Bと、木質壁部12A、12Bと鉄骨梁3A、3Bとの間に設けられた耐火充填部15と、を備えている。
このような構成によれば、鋼製間柱11と木質壁部12A、12Bとの間に介装された耐火板14A、14B、木質壁部12A、12Bと鉄骨梁3A、3Bとの間に設けられた耐火充填部15、により、火災によって木質壁部12A、12Bが燃焼した際には、鋼製間柱11や鉄骨梁3A、3Bに熱が伝達されるのを抑えることができる。したがって、耐火性能を高めることができる。
【0032】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の木質耐力壁は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、耐火板14A、14Bの上端部14t及び下端部14bを、鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、鉄骨梁3Bの上部フランジ3fに接触、または近接するように設けたが、これに限られない。
図5は、本実施形態の第1変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
図5に示すように、本変形例の木質耐力壁10Bにおいて、耐火板14A、14Bの上端部14t及び下端部14bは、木質壁部12A、12Bの上端部12t及び下端部12bと同様、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fとは、上下方向に間隔をあけて配置してもよい。
この場合、耐火充填部15Bは、木質壁部12A、12Bの上端部12t及び下端部12b、及び耐火板14A、14Bの上端部14t及び下端部14bと、上方の鉄骨梁3Aの下部フランジ3b、下方の鉄骨梁3Bの上部フランジ3fとの間に充填される。
【0033】
(実施形態の第2変形例)
また、上記実施形態では、外装材30として、耐水合板、ゴム系アスファルトルーフィング、ガルバリウム鋼板(登録商標)等を積層するようにしたが、例えば、耐水合板と、ゴム系アスファルトルーフィングとの間に、フェノールフォーム断熱材等の、断熱材を挟み込むようにしてもよい。
【0034】
(実施形態の第3変形例)
また、上記実施形態では、鋼製間柱11として、断面視矩形の鋼管を用いるようにしたが、これに限られない。
図6は、本実施形態の第3変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
例えば、
図6に示される木質耐力壁10Cのように、鋼製間柱51として、一対のチャンネル材52を設けるようにしてもよい。各チャンネル材52は、上下方向Dvの断面形状がC型の、鋼製のCチャンネル材である。各チャンネル材52は、延伸方向Daに直交する面に沿って形成された基部52aと、基部52aの壁厚方向Dtの両端部から延伸方向Daに延びる一対の板状部52bと、を一体に有している。一対のチャンネル材52の基部52a同士は、ビス留め、溶接、接着等により、互いに接合されている。
木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bは、複数本のネジ105により、鋼製間柱51としての一対のチャンネル材52に接合されている。各ネジ105は、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bを貫通し、一対のチャンネル材52の板状部52bにねじ込まれている。
【0035】
ここで、各鋼製間柱51にねじ込まれているネジ105は、木質壁部12A、12B、及び耐火板14A、14Bのうち、壁厚方向Dtのいずれか一方側のみに設けられている。具体的には、延伸方向Daにおいて隣り合う鋼製間柱51のうち、一方の鋼製間柱51Aでは、壁厚方向Dtの一方側の木質壁部12A、及び耐火板14Aが、ネジ105により接合されているが、他方側の木質壁部12B、及び耐火板14Bは接合されていない。延伸方向Daにおいて隣り合う鋼製間柱51のうち、他方の鋼製間柱51Bでは、壁厚方向Dtの他方側の木質壁部12B、及び耐火板14Bが、ネジ105により接合されているが、一方側の木質壁部12A、及び耐火板14Aは接合されていない。
【0036】
このような構成では、壁厚方向Dtの一方側の木質壁部12A、及び耐火板14Aと、壁厚方向Dtの他方側の木質壁部12B、及び耐火板14Bとが、同一の鋼製間柱51に接合されていない。このため、壁厚方向Dtの一方側の木質壁部12A、及び耐火板14Aと、壁厚方向Dtの他方側の木質壁部12B、及び耐火板14Bとの間においては、いずれかの位置で、縁が切れている。これにより、壁厚方向Dtの一方側の木質壁部12Aと他方側の木質壁部12Bとの間における振動の伝播が抑えられ、遮音性が高められる。
【0037】
(実施形態の第4変形例)
また、上記実施形態では、木質壁部12A、12Bが、取付金物21、22を介して鉄骨梁3A、3Bと接合されているようにしたが、これに限られない。例えば、木質壁部12A、12Bを、鉄骨梁3A、3Bには接合せず、鋼製間柱11のみに接合するようにしてもよい。
【0038】
(実施形態の第5変形例)
図7は、本実施形態の第5変形例における木質耐力壁の構成を示す断面図である。
また、
図7に示すように、鉄骨梁3A、3Bの上部フランジ3fと、下部フランジ3bとの間に、ロックウール等の断熱材60を充填し、上部フランジ3fと、下部フランジ3bとの隙間を、耐火性、及び遮音性を有した塞ぎ板61で閉塞するようにしてもよい。
【0039】
(実施形態の第6変形例)
また、上記実施形態では、鋼製間柱11と木質壁部12A、12Bとの間に介装された耐火板14A、14Bと、木質壁部12A、12Bと鉄骨梁3A、3Bとの間に設けられた耐火充填部15と、の双方を備えるようにしたが、これに限られない。例えば、耐火板14A、14Bのみを備え、耐火充填部15を備えない構成としてもよいし、耐火板14A、14Bを省略し、耐火充填部15のみを備える構成としてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0040】
(耐震性についての検討例)
次に、上記したような木質耐力壁における耐震性について検討を行ったので、その結果を以下に示す。
図8は、耐震性についての検討を行った木質耐力壁の構成をモデル化した図である。
図9は、耐震性についての検討結果を示す図である。
木質耐力壁10Aの鋼製間柱11に対して壁厚方向Dtの両側に、木質壁部12A、12Bとして、CLT板を設けた。CLT板は、樹種スギ、強度等級Mx60-3-3、厚さ90mm、幅2000mm、高さ3500mmとしたものを用いた。木質壁部12A、12Bの上下の端部12t、12bの中央部を、十分な耐力を有する第2取付金物22により鉄骨梁3A、3Bに固定した。
このような条件において、
図8、
図9に示すように、木質壁部12A、12BとしてのCLT板が、短期許容応力度に達するときの負担せん断量を算定した。
短期許容応力度Mを、M=61.2kN、CLT板の高さをL(m)とすると、CLT板1枚あたりの負担せん断力Qは、
Q=2M/L=61.2×2/3.5=約35kN
となる。
つまり、壁厚方向Dtの両側の2枚のCLT板(木質壁部12A、12B)により、約70kNのせん断力を負担することが期待される。
【0041】
(遮音性についての検討例)
次に、上記したような木質耐力壁における遮音性について検討を行ったので、その結果を以下に示す。
試験体1:上記実施形態の第3変形例(
図6参照)と同一構成とした。
試験体2:上記実施形態(
図1~
図4参照)と同一構成とした。
試験体3:上記実施形態(
図1~
図4参照)の構成から、木質壁部12A、12Bを備えていない構成とした。
【0042】
柱梁架構1の木質耐力壁の幅を4000mm、高さを2500mmとした。
試験体1における鋼製間柱51は、チャンネル材52としてのリップ付き溝形鋼(ウェブ100mm×フランジ50mm×リップ20mm×厚さ2.3m×長さ2490mm)を2本接合した。
耐火板14A、14Bは、強化石膏ボード(厚さ21mm 吉野石膏株式会社 タイガーボード(登録商標)タイプZ JIS A 6901 強化石膏ボード GB-F)とした。
木質壁部12A、12Bは、CLT板(樹種スギ、強度等級Mx60、厚さ60mm、銘建工業株式会社 3層3プライ ラミナ厚さ20mm×3 CLT厚さ60mm)とした。
充填部13は、ロックウール(JFEロックファイバー株式会社 ロクセラムフェルト 厚さ50mm×2枚 40kg/m3)とした。
【0043】
上記試験体1~3のそれぞれについて、JIS A 1416:2000「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」に基づき、木質耐力壁に入射する音の音圧レベルと透過した音圧レベルに関し、周波数125、250、500、1000、2000、4000Hzの6帯域の値を測定し、音響透過損失を計算した。
図10は、音響性能試験の結果を示すものである。この
図10において、JIS A 1419-1:2000「建築物及び建築部材の遮音性の評価方法-第1部:空気音遮断性能」に基づくRr-55等級、Rr-50等級、及びRr-45等級の基準の値を破線で表示した。
図10に示すように、試験体1は、Rr-55等級の基準を上回る良好な遮音性が確認された。試験体2では、Rr-45等級の基準を上回る遮音性が確認された。この結果によれば、試験体1と比較して、壁厚方向Dtの両側の木質壁部12A、12Bが同一の鋼製間柱11に接合されているため、一部の周波数帯域で低下することもあったが、木質壁部12A、12Bを備えない試験体3と比較すれば、2000Hz以上の周波数帯域における音響透過損失が大きく、木質壁部12A、12Bを備えることで、一定程度の遮音効果が存在することが確認された。
【0044】
(耐火性についての検討例)
次に、上記したような木質耐力壁における耐火性について検討を行ったので、その結果を以下に示す。
上記実施形態で示したような木質耐力壁10Aについて、壁厚方向Dtの一方側を加熱側とし、他方側を非加熱側として、加熱試験を行った。
鋼製間柱11としては、100mm×100mm×板厚12mmの鋼管を用いた。壁厚方向Dtの非加熱側の木質壁部12A、12Bは、厚さ60mmのCLT板とし、加熱側の木質壁部12A、12Bは、厚さ90mmのCLT板とした。耐火板14A、14Bには、それぞれ、厚さ20mmのケイ酸カルシウム板を用いた。また、充填部13には、40kg/m
3のロックウールを用いた。
このような木質耐力壁10Aに対し、加熱炉内で120分間加熱した。加熱時における炉内、加熱側の耐火板14A、14Bの表面(計測点1)、加熱側における鋼製間柱11の表面(計測点2)、非加熱側の鋼製間柱11の表面(計測点3)、非加熱側の木質壁部12A、12Bの外側の表面12g(計測点4)、の温度をそれぞれ計測した。
図11は、耐火性についての検討結果を示す図である。
図11に示すように、100分で加熱側の木質壁部12A、12Bが脱落し、加熱側の耐火板14A、14Bが加熱炉内に露出状態となり、その結果、計測点1における温度が急上昇した。しかし、加熱側の耐火板14A、14Bによって、鋼製間柱11は守られ、加熱終了時(120分、炉内温度1000℃超)においても、計測点2、3で、鋼管温度は100℃に満たなかった(計測点2で91.4℃、計測点3で69.1℃)。また、非加熱側の木質壁部12A、12Bの表面の計測点4では、加熱終了時においても25℃であり、木質耐力壁10Aにより、十分な断熱性、耐火性を有していることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 柱梁架構 14A、14B 耐火板
3A、3B 鉄骨梁 15、15B 耐火充填部
10A~10C 木質耐力壁 21 第1取付金物(取付金物)
11、51 鋼製間柱 22 第2取付金物(取付金物)
12A、12B 木質壁部 Dt 壁厚方向
13 充填部