(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097137
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】水溶液及びその製造方法、茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液における茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/62 20060101AFI20240710BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20240710BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240710BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C07D311/62
D06M15/03
A01P3/00
A01N43/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000405
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祟紀
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕司
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB08
4H011BC06
4H011BC08
4H011DA13
4H011DF03
4L033AA02
4L033AB04
4L033AC10
4L033CA02
(57)【要約】
【課題】茶ポリフェノールの経時的減少を抑制した、茶葉由来固形分と茶ポリフェノールを含む水溶液を提供する。
【解決手段】茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液は、-COOH官能基を有する添加剤を配合したことを特徴とする。前記添加剤はクエン酸とし、この添加剤を添加してpHを2.5~4.5にするのが好ましい。また、前記茶葉由来固形分の粒径を1mm以下にするのが好ましい。この水溶液は、繊維、革、紙、建材のいずれかに機能性を付与する機能性付与用にすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉由来固形分と、茶ポリフェノールと、-COOH官能基を有する添加剤とを含む水溶液。
【請求項2】
前記水溶液のpHが2.5~4.5である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
前記添加剤がクエン酸である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項4】
前記茶葉由来固形分の粒径が1mm以下である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項5】
前記茶葉由来固形分及び前記茶ポリフェノールが緑茶由来である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項6】
繊維、革、紙、建材のいずれかに機能性を付与する機能性付与用の請求項1に記載の水溶液。
【請求項7】
茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、-COOH官能基を有する添加剤を配合する、茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【請求項8】
前記水溶液のpHが2.5~4.5である、請求項7に記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【請求項9】
前記添加剤がクエン酸である、請求項7に記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【請求項10】
前記水溶液が緑茶である、請求項7に記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【請求項11】
茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、-COOH官能基を有する添加剤を配合する、水溶液の製造方法。
【請求項12】
前記水溶液のpHを2.5~4.5に調整する、請求項11に記載の水溶液の製造方法。
【請求項13】
前記添加剤がクエン酸である、請求項11に記載の水溶液の製造方法。
【請求項14】
前記茶葉由来固形分の粒径を1mm以下に調整する、請求項11に記載の水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶ポリフェノールの経時的減少を抑制させた、茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液及びその製造方法、並びに茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液における茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテキンなどの茶ポリフェノールは、緑茶などに多く含まれる成分であり、飲用した際には苦渋味を感じる成分であるといわれる。この茶ポリフェノールはさらに消臭性、抗菌性や抗ウイルス効果などの機能を有するともいわれ、茶ポリフェノールを含む緑茶の茶殻などが機能性付与剤として活用されている。
カテキンの機能性を繊維、革、紙、建材などに付与させるため、カテキンの水溶液や茶葉、茶殻を抽出した水溶液で、繊維、革、紙などを染色することが行われている。
一例として、タオル類などの日用品や靴下などの衣類をカテキンの水溶液や茶葉、茶殻を抽出した水溶液で染色して抗菌防臭効果や抗ウイルス効果を付与したものがある。
【0003】
より具体的には、例えば、下記特許文献1では、飲料工場等から多量の飲料製造残渣を脱水した粒子径が小さい飲料残渣を含んだ廃液や、微細ろ過工程で発生する粒子径が小さい残渣を原料粘土に対して混合して成形し、その粘土成形体を焼成して吸水性、調湿性及び消臭性に優れる粘土焼成品を得ることを提案する。
【0004】
下記特許文献2では、 木質材と茶殻と水とを含有するスラリーを調製し、スラリーから水を排出して木質材及び茶殻を有する木質マットを成形し、木質マットを乾燥して抗菌性を有する木質ボードを提案する。
【0005】
下記特許文献3では、木質ボードに茶ポリフェノール等の機能性成分を効率的かつ安定的に含有させるために、木質原料をフォーミングして得られる木質マットを乾燥した後、機能性成分を含有する水溶液を乾燥後の木質マットに添加した抗菌性を有する木質ボードを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5580259号公報
【特許文献2】特許第3696801号公報
【特許文献3】特許第4021455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カテキンなどの茶ポリフェノールを用いて繊維、革、紙、建材などに機能性を付与した場合、カテキンなどの茶ポリフェノールが時間とともに変性し諸機能を発揮しなくなることがあった。それを防ぐために、乾燥固形物の溶解や抽出液の調製を直前に行い使用することなどが提案されている。
【0008】
本発明者は、茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、クエン酸などの‐COOH官能基を有する添加剤を配合することにより、水溶液中の茶ポリフェノールの経時的減少を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
そこで、本発明は、茶ポリフェノールの経時的減少を抑制することを目的し、‐COOH官能基を有する添加剤を配合した、茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1) 茶葉由来固形分と、茶ポリフェノールと、-COOH官能基を有する添加剤とを含む水溶液。
【0012】
(2) 前記水溶液のpHが2.5~4.5である、(1)に記載の水溶液。
【0013】
(3) 前記添加剤がクエン酸である、(1)又は(2)に記載の水溶液。
【0014】
(4) 前記茶葉由来固形分の粒径が1mm以下である、請求項1に記載の水溶液。
【0015】
(5) 前記水溶液が緑茶である、(1)~(4)のいずれかに記載の水溶液。
【0016】
(6) 繊維、革、紙、建材のいずれかに機能性を付与する機能性付与用の(1)~(5)のいずれかに記載の水溶液。
【0017】
(7) 茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、-COOH官能基を有する添加剤を配合する、茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【0018】
(8) 前記水溶液のpHが2.5~4.5である、(7)に記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【0019】
(9) 前記添加剤がクエン酸である、(7)又は(8)に記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【0020】
(10) 前記茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液が緑茶である、(7)~(9)のいずれかに記載の茶ポリフェノールの経時的減少の抑制方法。
【0021】
(11) 茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、-COOH官能基を有する添加剤を配合する、水溶液の製造方法。
【0022】
(12) 前記水溶液のpHを2.5~4.5に調整する、(11)に記載の水溶液の製造方法。
【0023】
(13) 前記添加剤がクエン酸である、(11)又は(12)に記載の水溶液の製造方法。
【0024】
(14) 前記茶葉由来固形分の粒径を1mm以下に調整する、(11)~(13)のいずれかに記載の水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水溶液は、抗菌性、消臭性や抗ウイルス効果などの機能性を付与することができ、例えば、繊維、革、紙、建材などに吹き付けて機能性を付与することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態を以下に説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、以下に示す実施形態以外の公知手法を適宜選択することも可能である。
【0027】
本発明の一実施形態の水溶液(以下、本水溶液ともいう。)は、茶葉由来固形分と、茶ポリフェノールと、-COOH官能基を有する添加剤とを含むことを特徴とする。
【0028】
(茶ポリフェノール)
本水溶液における茶ポリフェノールは、茶生葉、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来するものである。例えば、これらのいずれか単独で、若しくはこれらのうち任意のものを2種類以上を抽出して得られる抽出液、又はそれぞれを抽出して得られた抽出液の混合物を用いることができる。
不発酵茶としては、煎茶、番茶、玉露、釜煎り茶、てん茶、ほうじ茶などの緑茶類を挙げることができ、半発酵茶としては、鉄観音、黄金桂、水仙、包種茶などのウーロン茶類を挙げることができ、発酵茶としては、ダージリン、ウバなどの紅茶類を挙げることができ、後発酵茶としてはプアール茶等を挙げることができる。なかでも、緑茶が好ましい。
【0029】
更に、この抽出液を溶媒抽出法、樹脂吸着法、限外濾過・逆浸透濾過等の濾過などの精製手段によって、中でもカテキンの含有量を高める方向に精製することによって、茶ポリフェノールを得ることもできる。
また、市販の茶ポリフェノール製剤を用いることもできる。例えば、テアフラン30A((株)伊藤園製)は、緑茶を熱水抽出処理し、この抽出物を乾燥させてカテキン濃度を約30%とした茶ポリフェノール製剤であり、テアフラン90S((株)伊藤園製)は、緑茶を熱水抽出処理して得た抽出物を、水と低・高濃度アルコールを使って吸着カラムにて分離し乾燥させ、茶ポリフェノール濃度を約85から99.5%とした茶ポリフェノール製剤である。その他、市販の茶ポリフェノール製剤として、三井農林(株)製「ポリフェノン」、太陽化学(株)製「サンフェノン」、サントリー(株)製「サンウーロン」等が挙げられる。
【0030】
なお、本水溶液における茶ポリフェノールは、カテキン類を含むものである。カテキン類は、フラバン-3-オ-ル骨格を有する化合物であり、(-)-エピガロカテキンガレ-ト(EGCg)、(-)-エピカテキンガレ-ト(ECg)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(-)-エピカテキン(EC)、(-)-ガロカテキンガレ-ト(GCg)、(-)-カテキンガレ-ト(Cg)、(±)-ガロカテキン(GC)及び(±)-カテキン(C)の8種類の存在が知られている。また、カテキン類は、ガレート基を有するエステル型カテキンとガレート基を有さない遊離型カテキン、或いは、エピ体と非エピ体などに分類することができる。本発明においてカテキン類とは、上述の1種又は2種以上であってよいが、(-)-エピガロカテキンガレ-ト(EGCg)を含むのが好ましい。
【0031】
本水溶液中の8種のカテキン類の総量は、1000ppm~100ppmが好ましく、800ppm~200ppmがより好ましく、700ppm~300ppmがさらに好ましい。
また、本水溶液中のEGCg量は、500ppm~50ppmが好ましく、400ppm~100ppmがより好ましく、350ppm~150ppmがさらに好ましい。
【0032】
(茶葉由来固形分)
本水溶液における茶葉由来固形分は、茶生葉、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来する不溶性固形分、いわゆる茶殻(抽出残渣)である。
茶葉由来固形分は、好ましくは粒径1mm以下であり、より好ましくは粒径0.8mm以下であり、さらに好ましくは粒径0.5mm以下である。茶葉由来固形分が粒径1mmを超える場合、水溶液表面に浮いた茶葉由来固形分からカビが発生するおそれがある。
なお、この粒径は、例えば、ふるい分けにより測定することができる。
【0033】
本水溶液において茶葉由来固形分量は、水溶液中に0.1質量%以上6質量%以下含有することが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下含有することがより好ましく、0.3質量%以上4質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0034】
(添加剤)
本水溶液における‐COOH官能基を有する添加剤は、カルボキシ基が1つあるギ酸や酢酸、カルボキシ基が2つあるシュウ酸、カルボキシ基が3つあるクエン酸などが挙げられる。また、いずれか単独で、若しくはこれらのうち任意のものを2種類以上で混合して得られる混合物を用いることができる。なかでも、クエン酸が好ましい。
【0035】
本水溶液における添加剤は、水溶液のpHが2.5~4.5になるように配合するのが好ましく、pHが2.5~4.3がより好ましく、pHが2.8~4.0がさらに好ましい。
【0036】
(製造方法)
以下、本水溶液の製造方法の一例を説明する。
本水溶液の製造方法は、例えば、茶生葉、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶からなる群から選ばれる茶葉の1種又は2種以上を水で抽出して得られる抽出液、又はそれぞれを抽出して得られた抽出液の混合物を用いることができる。
抽出は、水1Lあたりの茶葉を5g/L~20g/Lにするのが好ましく、6g/L~15g/Lがより好ましく、7g/L~12g/Lがさらに好ましい。
抽出する際の水は、100℃~25℃が好ましく、95℃~40℃がより好ましく、90℃~60℃がさらに好ましい。また、茶葉を水に浸漬する時間は、1分~30分が好ましく、3分~20分がより好ましく、5分~15分がさらに好ましい。
この抽出液を茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液として用いてもよいが、飲用茶の量産製造工程における残渣を利用する観点から、以下のようにするのが好ましい。
【0037】
上記において、茶葉を水で抽出した後に固液分離を行い、得た茶葉由来固形分(いわゆる茶殻)を脱水する。脱水は例えば、水分率が好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは77%以下になるようにする。この脱水は、茶葉由来固形分を圧搾・せん断などすることにより行うことができ、例えば、スクリュープレスやフィルタープレスなどを用いることができる。
【0038】
脱水した後、脱水液と不溶性固形分とを、好ましくは99.9:0.1~95:5(脱水液:不溶性固形分)の質量割合で混合する。より好ましくは99.8:0.2~96:4、さらに好ましくは99.5:0.5~97:3の質量割合である。この混合液を茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液として用いることもできる。
【0039】
上記水溶液を篩に通して、粒度の大きな不溶性固形分を取り除くのが好ましい。この際の篩の目は、目開き1mm以下にするのが好ましい。
【0040】
茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、-COOH官能基を有する添加剤を添加し、本水溶液を調製することができる。
-COOH官能基を有する添加剤は、例えば、クエン酸、ギ酸、酢酸などを挙げることができる。
この添加剤は、上記したとおり、本水溶液がpH2.5~4.5になるように添加するのが好ましい。
【0041】
(用途)
本水溶液は、抗菌効果、消臭効果、抗ウイルス効果などの機能性を有し、対象物品、例えば、繊維、革、紙、建材などに機能性を付与する機能性付与用水溶液又は機能性付与剤として用いることができる。
機能性の付与は、対象物品に本水溶液を塗布、噴霧などして付着させることや、対象物品を本水溶液に浸漬させて含浸させることなどにより行うことができる。
【0042】
本水溶液は、茶ポリフェノールの経時的減少を抑制できるものであり、本水溶液により機能性を付与された対象物品は、茶ポリフェノールの有する、抗菌性、脱臭性や抗ウイルス効果などの機能性を長期間に渡り持続させることができるものである。
【実施例0043】
以下、本発明の一実施例を説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(サンプル調製)
以下のとおりサンプルを調製した。
【0045】
(茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液)
2020年宮崎県産一番茶の茶葉を10g/L、90℃、5分間の抽出条件で抽出した。その抽出液を固液分離して得た固形分(水分率85.5%)を、スクリュープレス(川口精機(株)製 DM-10型)で74.5%まで脱水した。脱水後の脱水液と固形分を100:1の質量割合で混合し、目開き3mm、目開き2mm、目開き1mmのいずれかの篩を通し、茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む各水溶液を得た。
得られた茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液は、固形分を取り除いた水溶液中の総カテキン類(8種カテキン:C,EC,GC,EGC,Cg,ECg,GCg,EGCgの合計)量は561.8ppm、EGCgが274.9ppm、pH4.6であった。
【0046】
なお、カテキン類の測定は、以下条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、検量線法により定量した。
<HPLC条件>
装置名:Waters Alliance 2695セパレーションモジュール
カラム:YMC HPLC COLUMN J'sphere ODS-H80 250×3.0mmI.D.
カラム温度:40℃
移動相A:超純水
移動相B:100%アセトニトリル
移動相C:1%リン酸水溶液
流速:0.43mL/min
検出器:Waters2487デュアル波長吸光度検出器、またはWaters2996PDA検出器
検出波長:230nm
【0047】
(酸の添加)
上記で得られた茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む各水溶液を分注し、(1)クエン酸(和光純薬工業(株)製 食品添加物)、(2)ギ酸(和光純薬工業(株)製 特級)、(3)酢酸(ナカライテスク(株)製 特級)、(4)アスコルビン酸(ナカライテスク(株)製 特級)を各々に添加し、サンプルを調製した。また、(5)無添加(コントロール)を調製した。
さらに、(1)クエン酸、(2)ギ酸及び(4)アスコルビン酸については、各種酸の添加量を調整することにより、pH4、pH3、pH2.5の各群を調製した。(3)酢酸については、pH4、pH3の各群を調製した。
【0048】
(保管試験)
上記サンプル群を37℃にて7日間保管したところ、目開き3mm又は目開き2mmの篩にかけた各サンプルは、浮遊している茶葉にカビが発生した。
目開き1mmの篩にかけた各サンプルはカビの発生は確認されなかった。
そこで目開き1mmの篩で脱水したサンプルを用いたもので保管試験を実施した。
なお、目開き1mmの篩で脱水したサンプルの固形分含有率は、3.5質量%であった。この固形分含有率は、サンプルを熱風乾燥(105℃、12時間)した後に残存する固形物量より算出した。
【0049】
(各サンプル群のカテキン量)
保管後の各サンプル群中のカテキン類を測定した。
なお、(5)無添加のサンプル(コントロール)は、総カテキン類(8種カテキン:C,EC,GC,EGC,Cg,ECg,GCg,EGCgの合計)量は444.7ppm、EGCgは202.5ppmであった。また、(1)~(4)についての結果は、表1のとおりであった。
【0050】
【0051】
(結果)
EGCg残存量について、いずれかの酸を添加した(1)~(4)は、(5)無添加と比較して、EGCgが多く残存していた。また、総カテキン類残存量について、(1)~(3)は、(5)無添加と比較して、総カテキン類が多く残存していた。
【0052】
(30日間保管)
上記保管試験に続けて、サンプルを37℃にて30日間保管した後、カテキン類の測定を実施した。(4)アスコルビン酸と(5)無添加のサンプルは、カビが発生したため試験を中止した。
【0053】
【0054】
(結果)
EGCg残存量について、表2に示すとおり、クエン酸、ギ酸、酢酸のいずれかを添加した(1)~(3)は、(5)無添加の7日目のものと比較して、EGCgが多く残存していた。また、総カテキン類残存量について、(1)~(3)では、(4)アスコルビン酸添加、(5)無添加の7日目のものと比較して、総カテキン類が多く残存していた。
【0055】
(抗菌試験)
次に、以下のサンプルを調製して抗菌試験を実施した。
【0056】
(サンプルの調製)
2021年宮崎県産一番茶の茶葉を10g/L、90℃、7分間の抽出条件で抽出した。この抽出液を固液分離し、得た固形分(水分率85.0%)をスクリュープレス(川口精機(株)製 DM-10型)で75.7%まで脱水し、目開き1mmの篩を通して茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液を得た。この水溶液の総カテキン量は372ppmであった。
茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液に、クエン酸(和光純薬工業株式会社製 食品添加物)を加えてpH3に調製し21日保管したものをサンプルとした。
サンプルの総カテキン量は348ppmであった。また、サンプルの固形分含有率は2.8質量%であった。
上記サンプルに綿タオル生地を10:1(サンプル:生地)の質量比率で10分間浸漬させた後、水洗して105℃で12時間乾燥させて、染色生地とした。
また、pH3のクエン酸水溶液に綿タオル生地を10:1(水溶液:生地)の質量比率で10分間浸漬させた後、水洗して105℃で12時間乾燥させたものを対照試料とした。
【0057】
(試験)
上記サンプルで染色した綿タオル生地の抗菌試験は、JEC301 SEK マーク繊維製品認証基準に記載のJIS L 1902:2015を参考にして、各試験片0.4gをバイアル瓶に入れ、黄色ブドウ球菌の菌液0.2mLを滴下後、37℃で18時間培養し、それに洗い出し液20mLを加えて各試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を測定した。また、生菌数に基づいて、以下の式1により、抗菌活性値・増殖値を算出した。その結果を表3に示す。
【0058】
(式1)
抗菌活性値=(logCt-logCO)-(logTt-logTO)
増殖値=logCt-logCO
logCO:標準布の試験菌接種直後の生菌数の常用対数
logCt:標準布の18時間培養後の生菌数の常用対数
logTO:染色生地・対照試料の試験菌接種直後の生菌数の常用対数
logTt:染色生地・対照試料の18時間培養後の生菌数の常用対数
【0059】
【0060】
JIS L 1902:2015では、2.0≦抗菌活性値<3.0となる試料に抗菌効果が認められ、抗菌活性値≧3.0となる試料に強い抗菌効果が認められると定義されている。このことから、クエン酸にてpH3に調製した茶葉由来固形分及び茶ポリフェノールを含む水溶液は、強い抗菌性を示すことが確認された。