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特開2024-97144ジオポリマー組成物およびジオポリマー硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097144
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物およびジオポリマー硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20240710BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B22/06 Z
C04B22/08 A
C04B24/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000433
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】堀田 太洋
(72)【発明者】
【氏名】シダート ロイ チョウドゥリー
(72)【発明者】
【氏名】ジン チェ
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MB02
4G112PA27
4G112PA29
4G112PB03
4G112PB05
4G112PB25
(57)【要約】
【課題】本発明は、シリカフュームの配合量を抑えつつ、長時間における良好な流動性と簡便な手法による短期間での硬化体の高強度発現とを両立できるジオポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ジオポリマー組成物は、活性フィラーと骨材とアクティベーターと分散剤と添加水とを含むジオポリマー組成物であって、前記ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まない、またはシリカフュームを前記ジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満含み、前記ジオポリマー組成物の合計水分量は、10質量%~13質量%であり、前記活性フィラーは、前記活性フィラーの全質量に対して35質量%以上の高炉スラグ微粉末、およびJIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰を含み、かつ前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラーと、骨材と、アクティベーターと、分散剤と添加水とを含むジオポリマー組成物であって、
前記ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まない、または、シリカフュームを前記ジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満含み、
前記ジオポリマー組成物の合計水分量は、10質量%~13質量%であり、
前記活性フィラーは、前記活性フィラーの全質量に対して35質量%以上の高炉スラグ微粉末、およびJIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰を含み、かつ、
前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である、ジオポリマー組成物。
【請求項2】
前記ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まない、請求項1に記載のジオポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のジオポリマー組成物の硬化物である、ジオポリマー硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー組成物およびその硬化物であるジオポリマー硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、モルタル、人造石、建築用硬化部材等の硬化体は、一般的に、セメントを含んでいる。しかしながら、セメントは、焼成する際に多量のCOを排出してしまう。そのため、セメントを使用せず、環境面から好適である、コンクリート等の硬化体を製造する方法が注目されている。特に、ジオポリマー法を用いる硬化体の製造方法が盛んに研究されている。
【0003】
ジオポリマー法では、ケイ素やアルミニウムを主成分として含む粉体をバインダーとして用い、粉末同士を接合して、人工の岩石を製造する。ジオポリマー法により形成されるジオポリマー硬化体は、アルミノシリケート源としての活性フィラーとアクティベーターとしてのアルカリ水溶液とを用い、ジオポリマー反応を生じさせることによって製造される。活性フィラーとしては、カオリン、粘土等の天然物、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、もみ殻灰等が利用できる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)等の水溶液が用いられる。
【0004】
活性フィラーの主な役割は、ジオポリマー硬化体を形成するとともに、その強度を向上させることである。活性フィラーのうち、シリカフュームは、ジオポリマー硬化体の短期間での強度向上に大きく寄与するだけでなく、混練直後のジオポリマー組成物に長時間における良好な流動性を付与する機能も有する。そのため、ジオポリマー硬化体の製造において、シリカフュームはその施工性の高さのため広く用いられている。例えば、特許文献1には、粉体原料としての高炉スラグ微粉末およびフライアッシュと、細骨材と、シリカフュームと、アルカリ源としての水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムと、水と、を含み、高炉スラグ微粉末の粉体原料に対する容量比:BFS/Pが35~80%であり、シリカフュームに含まれるケイ素のアルカリ源に対するモル比:Si/Aが0.05~0.35であり、アルカリ源の水に対するモル比:A/Wが0.1~0.3である、ジオポリマー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-066613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリカフュームは、現在製造、開発されているほとんどのジオポリマー組成物中に活性フィラーとして含まれている。特許文献1に記載のジオポリマー組成物にも、必須の活性フィラーの成分としてシリカフュームが含まれている。一方、シリカフュームは、他の活性フィラーと比較すると材料コストが高い。そのため、シリカフュームは、ジオポリマー組成物の硬化体を製造する際のコスト高の原因となっている。
【0007】
ジオポリマー組成物中にシリカフュームを全く含ませない、または少量のシリカヒュームしか含ませない場合、混練直後のジオポリマー組成物の流動性が低下し、かつ、短期間で所望する強度の硬化体を得ることも難しくなる。
【0008】
混練直後のジオポリマー組成物の流動性が低下すると、硬化体製品の製造現場におけるジオポリマー組成物の取り扱いが悪くなってしまう。このようなジオポリマー組成物の流動性の低下を補うために、アクティベーターに含まれる水分量や別途加えられる添加水の量を増加させる方法が考えられる。しかし、ジオポリマー組成物中の合計水分量が増加すると、硬化体の強度を得るために長期間の養生が必要となったり、組成物または硬化体にブリーディングが発生したり、または製造される硬化体の強度が不足する等の問題が起こりうる。また、短期間で所望する強度を得るために、水中、湿潤、気中等の通常の養生を蒸気養生に代える方法も考えられる。しかし、蒸気養生は高価であるため、製造コストが顕著に高くなってしまう。
【0009】
このように、製造コストの削減のために、ジオポリマー組成物中のシリカフュームの配合量を抑えると、混練直後の組成物の流動性と硬化体の強度の両方の観点から様々な問題が生じてしまう。
【0010】
そこで、本発明は、シリカフュームの配合量を抑えつつ、長時間における良好な流動性と簡便な手法による短期間での硬化体の高強度発現とを両立できるジオポリマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0012】
本発明の第一の局面に係るジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、アクティベーターと、分散剤と添加水とを含むジオポリマー組成物であって、
前記ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まない、または、シリカフュームを前記ジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満含み、
前記ジオポリマー組成物の合計水分量は、10質量%~13質量%であり、
前記活性フィラーは、前記活性フィラーの全質量に対して35質量%以上の高炉スラグ微粉末、およびJIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰を含み、かつ、
前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である。
【0013】
前述のジオポリマー組成物において、前記ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まないことが好ましい。
【0014】
本発明の第二の局面に係るジオポリマー硬化体は、前述の第一の局面に係るジオポリマー組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリカフュームの配合量を抑えつつ、長時間における良好な流動性と簡便な手法による短期間での硬化体の高強度発現とを両立できるジオポリマー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例におけるジオポリマー組成物の流動性試験結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例におけるジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、シリカフュームの配合量を抑えつつ、長時間において高流動性を確保し、かつ、簡便な手法により短期間で高強度の硬化体を得られるジオポリマー組成物について、様々な研究を重ねた。そして、ジオポリマー組成物に含まれる活性フィラーの種類とその配合量および分散剤の種類、ならびにジオポリマー組成物の合計水分量に着目し、本発明を完成した。
【0018】
具体的には、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、アクティベーターと、分散剤と添加水とを含み、当該ジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まない、または、シリカフュームをジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満含む。分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である。ジオポリマー組成物がこのような特定の種類の分散剤を含むことによって、シリカフュームの配合量が0質量%、または1質量%未満であっても、長時間における高流動性を確保するために必要なジオポリマー組成物の合計水分量を少なくすることができる。
【0019】
加えて、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、活性フィラーとしての高炉スラグ微粉末を、活性フィラーの全質量に対して35質量%以上含む。後に詳細に述べるように、高炉スラグ微粉末は、シリカフューム以外の他の活性フィラーと比べると、硬化体の強度向上により大きく寄与する。そのため、高炉スラグ微粉末を多く含むことによって、蒸気養生等の複雑な処理を行わなくても、通常の養生によって短期間で高強度の硬化体を得ることができる。換言すると、本実施形態におけるジオポリマー組成物では、特定の種類の分散剤が配合されて、かつ、活性フィラーとしての高炉スラグ微粉末の量と組成物の合計水分量が適切な量に調整される。その結果、コスト高の原因となるシリカフュームの配合量を抑えても、混練後の組成物の流動性と硬化体の強度の両方において、好適な効果を維持することができる。また、活性フィラーとして、その品質を均一にするための特別な前処理(具体的には、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理)を施していない石炭灰を含んでいても、このような本実施形態に係るジオポリマー組成物の効果を得ることができる。
【0020】
本明細書において、「水」とは、アクティベーター中に含有されている水、分散剤中に含有されている水、添加水、任意で含まれるその他の材料中に含有されている水等、本実施形態におけるジオポリマー組成物中に含有されている全ての水を意味する。さらに、本明細書において、「合計水分量」(質量%)とは、本実施形態におけるジオポリマー組成物中の、これらの「水」の合計量(質量%)を意味する。このような「合計水分量」(質量%)は、後の実施例で述べる通り、モイスチャーアナライザを用いて水を含有する成分の合計の固形分量(質量%)を求め、合計の溶液量(質量%)から減算することによって算出することができる。
【0021】
また、本明細書において、「添加水」とは、アクティベーター中に含有されている水、分散剤中に含有されている水、および任意で含まれるその他の材料中に含有されている水とは別の水である、ジオポリマー組成物の流動性を調整する目的、ジオポリマー反応に寄与する各種イオンの移動を促進させる目的等で、本実施形態におけるジオポリマー組成物中に別途添加される水を意味する。例えば、これらに限定されないが、水道水、イオン交換水等が挙げられる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0023】
1.ジオポリマー組成物
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、活性フィラー、骨材、アクティベーター、分散剤および添加水を含む。分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である。
【0024】
本実施形態において、ジオポリマー組成物に含まれる骨材は、細骨材および/または粗骨材を含む。すなわち、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、細骨材を含み、粗骨材を含まないジオポリマーモルタル組成物、ならびに、細骨材および粗骨材を含むジオポリマーコンクリート組成物の両方に適用できる。
【0025】
各成分の機能およびその配合量、ジオポリマー組成物の合計水分量、ならびにジオポリマー組成物の調製方法を、以下詳細に説明する。なお、以下に記すジオポリマー組成物の各成分の配合量および配合比率は、特に記載がない限り、主として、ジオポリマー組成物がジオポリマーモルタル組成物として適用される場合の配合量および配合比率を意味する。ただし、当該各成分の配合量および配合比率は、ジオポリマー組成物がジオポリマーコンクリート組成物として適用される場合であっても、必要に応じて適宜調整し、採用することができる。
【0026】
<活性フィラー>
活性フィラーは、アルミノシリケートを主たる成分として含む粉末である。アルミノシリケートは、アルカリに対して活性を有する。活性フィラーに、後述するアクティベーター、添加水等を加えると、活性フィラー中のケイ素やアルミニウムが部分的に溶解またはイオン化する。溶解後、アルカリシリカ溶液中で単量体(モノマー)に近い状態で存在するシリカ成分が、金属イオンを取り込む。その結果、脱水縮合反応が起こり、硬化した高分子化合物(ポリマー)が生成し、ジオポリマー組成物の硬化物となる。
【0027】
本実施形態におけるジオポリマー組成物では、活性フィラーは、活性フィラーの全質量に対して35質量%以上の高炉スラグ微粉末、およびJIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰を含めば、特に限定されない。例えば、活性フィラーは、高炉スラグ微粉末および石炭灰に加えて、上記の機能を有する当業者に公知の任意の活性フィラーの1つ以上を含むことができる。本実施形態におけるジオポリマー組成物では、活性フィラーとしてシリカフュームを含んでもよいが、その配合量は、ジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満である。以下、これらの活性フィラーを詳細に説明する。
【0028】
(石炭灰)
本実施形態では、石炭灰として、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理が施されていない、産業副産物として産生された石炭灰(以下、「未処理の石炭灰」とも称する)が含まれる。要するに、未処理の石炭灰とは、産生箇所からの運搬等を目的とした通常の粉砕等以外の処理が施されていない石炭灰である。活性フィラーとして未処理の石炭灰を用いると、産業副産物の石炭灰を未処理のまま資源として効率的に有効利用することができる。さらに、製造コストも下げることができる。このような未処理の石炭灰は、例えば、火力発電所、ボイラー等から石炭燃焼の際に生成する産業副産物として得ることができる。未処理の石炭灰は、主成分として、二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等を含む。
【0029】
本明細書において、「JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰」とは、換言すれば、粉砕処理および/または粒度調整(好ましくは粒度調整)がなされていない石炭灰である。または、例えば、「JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰」とは、換言すれば、2900cm/g~6000cm/g程度のブレーン比表面積を有し、粉砕処理および/または粒度調整(好ましくは粒度調整)がなされていない石炭灰である。あるいは、例えば、「JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰」とは、換言すれば、好ましくは、火力発電所およびボイラーのうちの少なくとも一つから産業副産物として生産される石炭灰(未処理の石炭灰)である。なお、一つの実施形態において、「JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰」は、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合しない石炭灰であってもよく、または当該規格に適合しない石炭灰を含んでもよい。
【0030】
具体的には、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)は、例えば、集塵機によって排ガスから捕捉されるフライアッシュ、ボイラー底部の灰の塊を粉砕したボトムアッシュ等を含む。石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)は、2種以上の石炭灰を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本実施形態に係るジオポリマー組成物によると、活性フィラーとして未処理の石炭灰を含む場合であっても、ジオポリマー組成物自体の長時間における良好な高流動性、および、短期間での硬化体の高強度発現の効果を得ることができる。換言すると、使用する石炭灰の大きさ、組成等が均一でなく、その品質にある程度バラツキがある場合でも、前述した効果を得ることができる。
【0032】
活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量は、後述する高炉スラグ微粉末の配合量の条件を満たす限り、特に限定されない。例えば、未処理の石炭灰の配合量は、活性フィラーの全質量に対して3質量%~65質量%であることが好ましい。未処理の石炭灰の配合量が3質量%以上であると、産業副産物として生成する未処理の石炭灰を資源として有効利用することができ、環境面およびコスト面から好適であるジオポリマー組成物を得ることができる。また、未処理の石炭灰の配合量が65質量%以下であると、高炉スラグ微粉末の配合量が不足することがないため、短期間で所望する高強度の硬化体を得ることができる。
【0033】
活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量は、23質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。なお、任意にて、活性フィラーとしてJIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施した石炭灰を活性フィラーの全質量に対して例えば5質量%程度含んでも構わない。
【0034】
(高炉スラグ微粉末)
高炉スラグ微粉末は、主成分として、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等を含む。
【0035】
高炉スラグ微粉末は、当業者に公知の任意の高炉スラグ微粉末を使用することができる。例えば、高炉スラグ微粉末は、高炉水砕スラグを微粉砕することによって得ることができる。高炉水砕スラグは、高炉で鉄を精製する際に副産物として得られる。また、市販の高炉スラグ微粉末を用いてもよい。市販の高炉スラグ微粉末としては、例えば、JIS A 6206の高炉スラグ微粉末4000の規格を満たす高炉スラグ微粉末を用いることができる。このような市販の高炉スラグ微粉末は、例えば、神鋼スラグ製品株式会社が販売する「ケイメント」、日鉄高炉セメント社製の「エスメント」等を含む。
【0036】
本実施形態におけるジオポリマー組成物では、活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、35質量%以上である。高炉スラグ微粉末の配合量を35質量%以上とすると、シリカフュームの配合量を抑えたことによる硬化体の強度への影響を補うことができる。その結果、簡便な手法であっても短期間において硬化体の高強度を発現させることができる。さらに、産業副産物を資源として有効利用することができ、環境面およびコスト面から好適であるジオポリマー組成物を得ることができる。
【0037】
活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、36質量%以上であることが好ましく、37質量%以上であることがより好ましい。
【0038】
活性フィラー全量に占める高炉スラグ微粉末の配合比率を増加させた場合、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)等の他の種類の活性フィラーの配合比率を増加させた場合と比較して、硬化体の強度をより向上できることが本発明者らによって確認された。本発明者らの実験によると、これは、最終的に生成される硬化体の構造の差異によるものではないことが分かった。より詳細には、本発明者らは、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)と高炉スラグ微粉末の配合比率を変えたジオポリマー組成物を用い、高炉スラグ微粉末をより多く含む硬化体と石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)をより多く含む硬化体のSi原子周辺の構造を、NMR分析によって比較した。その結果、スペクトルのピーク位置やピーク幅に差異はなかった。一方で、スペクトルのピーク強度は、高炉スラグ微粉末をより多く含む硬化体の方がより高くなっていた。そのため、石炭灰と高炉スラグ微粉末の配合比率を変えると、類似の構造の硬化体が生成されるが、その生成物の量が異なることが分かった。
【0039】
この結果から、高炉スラグ微粉末が硬化体の強度へより大きい影響を与える理由は、高炉スラグ微粉末が、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)等の他の種類の活性フィラーよりも反応性が高いためと予測される。この予測は、例えば、反応性の指標の一つとなり得るガラス化率から推定することができる。具体的には、一般的に使用される高炉スラグ微粉末のガラス化率は99%である一方、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)のガラス化率は70%~80%程度である。従って、本実施形態のジオポリマー組成物に含まれる高炉スラグ微粉末のガラス化率は99%以上が好ましく、石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)のガラス化率は70%~80%が好ましい。
【0040】
活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量の上限は、特に限定されない。例えば、高炉スラグ微粉末の配合量が100%でもよい。活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、77質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。高炉スラグ微粉末の配合量を77質量%以下とすることによって、ジオポリマー組成物の過剰な早期強度化を防ぐことができる。
【0041】
(シリカフューム)
シリカフュームは、主成分として、二酸化ケイ素(SiO)を含む。具体的には、シリカフュームは、高純度の二酸化ケイ素(SiO)の非晶質球状微粒子である。
【0042】
シリカフュームは、当業者に公知の任意のシリカフュームを使用することができる。例えば、シリカフュームは、フェロシリコン、金属シリコン、電解ジルコニア等を製造する際に発生する排ガス中のダストを集塵した副産物として得られる。また、市販のシリカフュームを用いてもよい。
【0043】
シリカフュームは、通常の活性フィラーとしての機能、すなわち脱水縮重合反応の起点となり硬化体の強度向上に繋がる機能だけでなく、調製後のジオポリマー組成物の流動性を高める機能も有する。これは、シリカフュームの形状が、球状であるためである。
【0044】
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まないか、または、シリカフュームをジオポリマー組成物の全質量に対して1質量%未満しか含まない。シリカフュームの配合量を1質量%未満とすることによって、ジオポリマー組成物の製造コストを抑えることができる。さらに、本実施形態におけるジオポリマー組成物によると、シリカフュームの配合量を減少させる一方で、高炉スラグ微粉末や石炭灰(具体的には未処理の石炭灰)等の産業副産物をその代替としてより多く有効利用することができる。そのため、環境面およびコスト面から好ましいジオポリマー組成物を得ることができる。
【0045】
ジオポリマー組成物の全質量に対するシリカフュームの配合量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。特に、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、シリカフュームを含まないことがさらに好ましい。
【0046】
(他の活性フィラー)
本実施形態におけるジオポリマー組成物に含まれ得る他の活性フィラーとしては、例えば、赤泥、長石類、雲母類、沸石類、パーライト、粘土鉱物、カオリン、メタカオリン、下水道汚泥等が挙げられる。
【0047】
ジオポリマー組成物の全質量に対する活性フィラーの合計配合量(質量%)は、ジオポリマー組成物中のアクティベーターの配合量との比率によって決定され得る。具体的には、アクティベーターとして例えば8mol/L~10mol/L程度のアルカリ水溶液を使用する場合、活性フィラーの合計配合量に対するアクティベーターの配合量の割合(すなわち、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量))が、5%~30%であることが好ましい。この場合において、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)が5%以上であると、活性フィラーの脱水縮合反応を十分に生じさせることができ、最終的に、十分な強度を有するジオポリマー硬化体を得ることができる。また、この場合において、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)が30%以下であると、過剰量のアクティベーターを原因とする偽凝結を防ぐことができる。
【0048】
同様に、この場合において、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)は、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。また、この場合において、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)は、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
前述した好ましい比率は、アクティベーターの種類および濃度によって多少変動するが、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)は、活性フィラーが十分に反応し、かつ偽凝結が生じない範囲において、適宜調整すればよい。
【0050】
また、ジオポリマー組成物の全質量に対する活性フィラーの合計配合量(質量%)は、最終製造物であるジオポリマー硬化体の種類に応じても異なる。従って、活性フィラーの合計配合量は、所望するジオポリマー硬化体の種類に合わせて適宜調整すればよい。例えば、活性フィラーの合計配合量は、ジオポリマー組成物の全質量に対して、20質量%~60質量%程度である。ジオポリマー硬化体の種類としては、例えば、前述したように、モルタル、コンクリート等が挙げられる。
【0051】
<骨材>
骨材は、当業者に公知の任意の骨材を使用することができる。例えば、コンクリート、モルタル、人造石等の製造時に用いられる一般的な公知の骨材が用いられ得る。
【0052】
骨材としては、粗骨材および細骨材のいずれの骨材を用いてもよい。粗骨材は、85%以上において直径が5mm以上の骨材である。細骨材は、85%以上において直径が5mm以下の骨材である。骨材の種類は、最終製造物であるジオポリマー硬化体の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、粗骨材および細骨材の組み合わせ等の2種以上の骨材を用いてもよい。
【0053】
細骨材としては、高炉スラグ細骨材、天然の骨材である一般的な珪砂等の細骨材等が挙げられる。これらのうち、高炉スラグ細骨材を用いることが好ましい。高炉スラグ細骨材は、潜在水硬性を有する。潜在水硬性とは、高炉スラグ細骨材中に含有される二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等に起因して水和物が生成されることにより硬化物の強度が上がる性質である。そのため、骨材として高炉スラグ細骨材を用いることによって、最終製造物であるジオポリマー硬化体の長期間強度をより高くすることができる。
【0054】
高炉スラグ細骨材は、JIS A 5011-1:2018に規定されている。また、市販の高炉スラグ細骨材を用いてもよい。市販の高炉スラグ細骨材としては、例えば、神鋼スラグ製品株式会社が販売する「シンコーサンド」、JFEミネラル社製の高炉スラグ細骨材等が挙げられる。
【0055】
粗骨材としても、高炉スラグを原料とする高炉スラグ粗骨材を用いることが好ましい。骨材として高炉スラグ粗骨材および/または前述した高炉スラグ細骨材が用いられると、産業副産物を資源として有効利用することができ、環境適合性が高いジオポリマー組成物を得ることができる。さらに、製造コストも下げることができる。
【0056】
ジオポリマー組成物の全質量に対する骨材(好ましくは細骨材)の配合量は、特に限定されず、所望する最終製造物であるジオポリマー硬化体の用途に合わせて調整すればよい。例えば、ジオポリマー組成物の全質量に対する骨材(好ましくは細骨材)の配合量は、30質量%~70質量%であることが好ましい。骨材(好ましくは細骨材)の配合量が30質量%以上であると、骨材とジオポリマー組成物のペーストとが分離してしまうことを防ぎ、均一な硬化体を形成し易くすることができる。骨材(好ましくは細骨材)の配合量が70質量%以下であると、ジオポリマー組成物の長時間における良好な流動性を維持し易くなる。
【0057】
ジオポリマー組成物の全質量に対する骨材(好ましくは細骨材)の配合量は、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、ジオポリマー組成物の全質量に対する骨材(好ましくは細骨材)の配合量は、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
<添加水>
添加水の種類は特に限定されず、例えば、水道水、イオン交換水等が挙げられる。さらに、添加水のpH、温度等も任意であり、ジオポリマー組成物に含まれる各成分の種類やその配合量等に合わせて、適宜一般的な数値に調整すればよい。
【0059】
添加水は、ジオポリマー組成物の流動性に寄与する。本実施形態におけるジオポリマー組成物は、後に述べる組成物の流動性を顕著に高める特定の種類の分散剤を含んでいる。従って、添加水の配合量はごくわずかで構わない。
【0060】
一方、本実施形態におけるジオポリマー組成物では、シリカフュームの配合量が抑えられているため、後に詳細に述べる通り、合計水分量を10質量%~13質量%に調整する必要がある。そのため、ジオポリマー組成物の全質量に対する添加水の配合量は、アクティベーター中に含有されている水の量(質量%)および分散剤中に含有されている水の量(質量%)に応じて、合計水分量が10質量%~13質量%の範囲内となるように適宜調整する必要がある。具体的には、ジオポリマー組成物の全質量に対する添加水の配合量は、4.5質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。また、添加水の配合量は、7.8質量%以下であることが好ましく、7.6質量%以下であることがより好ましく、7.3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
<アクティベーター>
アクティベーターは、活性フィラーの脱水縮合反応によるポリマー化の起点となる成分である。具体的には、アクティベーターは、活性フィラー中のアルミノシリケートと接触し、ケイ素やアルミニウムを溶解するアルカリ水溶液である。アクティベーターとしては、一般的に使用されているものであれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、ケイ酸カリウム等の水溶液を用いることができる。また、アクティベーターとして、アルカリ源を含有する市販のアクティベーターを用いてもよい。このような市販のアクティベーターとしては、例えば、ポゾリス ソリューションズ社製のマスタークリート ACシリーズ等を挙げることができる。
【0062】
アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、その種類およびその配合量に応じて適宜調整する必要があるが、例えば、6mol/L~12mol/Lであることが好ましい。アクティベーターの濃度が6mol/L以上であると、活性フィラーにおける脱水縮合反応を十分に生じさせることができる。アクティベーターの濃度が12mol/L以下であると、高濃度による過度な融解熱の発生を避けることができる。
【0063】
アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、その種類およびその配合量に応じて適宜調整する必要があるが、7mol/L以上であることがより好ましく、8mol/L以上であることがさらに好ましい。また、アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、その種類およびその配合量に応じて適宜調整する必要があるが、11mol/L以下であることがより好ましく、10mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0064】
ジオポリマー組成物の全質量に対するアクティベーターの配合量(質量%)は、ジオポリマー組成物中の活性フィラーの合計配合量(質量%)との比率から、前述と同様に決定することができる。
【0065】
同時に、アクティベーター中に含有されている水の量(質量%)は、添加水の配合量(質量%)と分散剤中に含有されている水の量(質量%)に応じて、合計水分量が10質量%~13質量%の範囲内となるようにも適宜調整され得る。
【0066】
<分散剤>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤を含む。具体的には、この分散剤は、水溶液の状態におけるポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤である(本明細書中、水溶液の状態であっても単に「分散剤」とも称する。)。
【0067】
ジオポリマー組成物中にこの分散剤が含まれることによって、ジオポリマー組成物中における粒子が分散し、組成物の硬化反応を遅くすることができる。加えて、この分散剤による硬化反応の遅延作用は、数時間においてその効果が消える。そのため、ジオポリマー組成物がこの分散剤を含むと、長時間における高流動性維持と短期間での高強度発現の両立を実現させることができる。
【0068】
本明細書において、「ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤(具体的には、水溶液の状態におけるポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤)」とは、前述した作用を有し、かつ、規定された構造を有する高分子の水溶液であれば、特に限定されない。このような分散剤としては、例えば、以下の構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび構成単位Dを含む重縮合物を含む高分子の水溶液が挙げられる。
【0069】
構成単位A:下記式(1)に示される、少なくとも1種のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル。
【化1】
[ただし、式(1)中、mは、3~280の整数である]
【0070】
構成単位B:少なくとも1つの水酸基を持つ環式化合物およびその誘導体。例えば、ベンゼン-1,2-ジオール、ベンゼン-1,2,3-トリオール、2-ヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシフタル酸、2,3-ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、3,4-ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン-5-スルホン酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン-5-スルホン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族化合物。
【0071】
構成単位C:フェノール、エチレンオキサイドの繰り返し数が1もしくは2のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、または、フォスフェートもしくはフォスホネートを含むフェノキシエチル誘導体。例えば、フェノール、2-フェノキシエタノール、2-フェノキシエチルホスフェート、2-フェノキシエチルホスホネート、2-フェノキシ酢酸、2-(2-フェノキシエトキシ)エタノール、2-(2-フェノキシエトキシ)エチルホスフェート、2-(2-フェノキシエトキシ)エチルホスホネート、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスフェート、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスホネート、2-[4-(2-ホスホナトオキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスフェート、2-[4-(2-ホスホナトオキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスホネート、メトキシフェノール、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の他の芳香族化合物。
【0072】
構成単位D:アルデヒド類。例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒド、ベンズアルデヒドスルホン酸、ベンズアルデヒドジスルホン酸、バニリン、イソバニリン、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のアルデヒド。
【0073】
ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤(水溶液)の配合量(質量%)は、その種類、その濃度等に応じて適宜調整されるが、0.5質量%~3.5質量%であることが好ましい。分散剤(水溶液)の配合量(質量%)が0.5質量%以上であると、前述した分散剤の作用を良好に発揮させることができ、長時間における高流動性と短期間での高強度発現とをより確実に両立することができる。分散剤(水溶液)の配合量(質量%)が3.5質量%以下であると、過剰な分散剤の添加によるジオポリマー組成物の分離やブリーディングの発生を抑制することができる。
【0074】
ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤(水溶液)の配合量(質量%)は、0.8質量%以上であることがより好ましく、0.85質量%以上であることがさらに好ましい。また、分散剤(水溶液)の配合量(質量%)は、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
分散剤の濃度(水溶液濃度)とその配合量(質量%)は、本実施形態におけるジオポリマー組成物の合計水分量が10質量%~13質量%の範囲内となるように適宜調整すればよい。換言すると、分散剤中に含有されている水の量(質量%)は、添加水の配合量(質量%)とアクティベーター中に含有されている水の量(質量%)に応じて、合計水分量が10質量%~13質量%の範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0076】
<その他の材料>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、流動性向上および強度向上の効果を損なわない限り、モルタル、コンクリート等の原料として一般的に添加され得る任意の材料を含んでもよい。例えば、アルカリに対して活性を持たない粉末である不活性フィラー、各種添加剤等を含んでもよい。不活性フィラーとしては、例えば、セメント、炭酸カルシウム等が挙げられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、流動化剤、収縮低減材、防錆剤、防水材、消泡剤、粉塵低減剤、顔料等の従来公知の成分が挙げられる。
【0077】
<ジオポリマー組成物の合計水分量>
本実施形態におけるジオポリマー組成物の合計水分量は、10質量%~13質量%である。合計水分量を10質量%以上とすることによって、シリカフュームの配合量を抑えたことによる組成物の流動性への影響を補うことができる。その結果、ジオポリマー組成物の長時間における良好な流動性を維持できる。合計水分量を13質量%以下とすることによって、ブリーディングの発生を低減させることができ、短期間で所望する高強度の硬化体を得ることができる。
【0078】
合計水分量は、10.5質量%以上であることが好ましく、11質量%以上であることがより好ましく、11.5質量%以上であることがさらに好ましく、11.8質量%以上であることが特に好ましい。また、合計水分量は、12.8質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましく、12.3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
ジオポリマー組成物の合計水分量は、前述した通り、添加水の配合量(質量%)、アクティベーター中に含有されている水の量(質量%)および分散剤中に含有されている水の量(質量%)を各々適切な値に調整することによって、10質量%~13質量%の範囲内とすることができる。特に、添加水の配合量(質量%)を適宜変動させることによって、合計水分量を容易に当該範囲内に調整することができる。
【0080】
<ジオポリマー組成物の調製方法>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。例えば、ジオポリマー組成物の調製方法は、粉体混合工程と、その後の混練工程とを含む。粉体混合工程では、主たる粉体原料である活性フィラー(例えば、石炭灰(未処理の石炭灰を含む)および高炉スラグ微粉末を含む活性フィラー)および骨材を、所定の配合量で混合する。その後の混練工程では、粉体混合物に、水とアクティベーターと分散剤とを、所定の配合量でさらに加えて、その混合物を混合および混練する。混合方法および混練方法としては、特に限定されず、ミキサー等を用いた当業者に公知の任意の方法を用いればよい。
【0081】
また、前述のジオポリマー組成物の調製方法において、主たる粉体原料である活性フィラー(例えば、石炭灰(未処理の石炭灰を含む)および高炉スラグ微粉末を含む活性フィラー)および骨材を所定の配合量で混合した粉体混合物を予め調製し、調製した粉体混合物をプレミックスジオポリマー組成物として用いてもよい。具体的には、施工、作業等の前に、水とアクティベーターと分散剤とを所定の配合量でプレミックスジオポリマー組成物に加えて混合および混練する。これによって、任意の所望量におけるジオポリマー組成物を、現場で容易に調製することができる。
【0082】
本実施形態におけるジオポリマー組成物によると、長時間における良好な流動性と簡便な手法による短期間での硬化体の高強度発現とを両立することができる。長時間における良好な流動性が確保されると、硬化体製品の製造現場において、ジオポリマー組成物を良好に取り扱うことができる。簡便な手法による短期間での硬化体の高強度発現が可能であると、長期間の養生や高価な蒸気養生を行わなくても、例えば気中、封緘等の通常の養生によって同等の強度の硬化体を得ることができる。加えて、本実施形態におけるジオポリマー組成物によると、コスト高の原因となるシリカフュームの配合量を抑えつつ、産業副産物である高炉スラグ微粉末を効率的に有効利用することができる。そのため、製造コスト低減および環境負荷低減の観点から有利である。
【0083】
2.ジオポリマー硬化体
本実施形態におけるジオポリマー硬化体は、前述の実施形態におけるジオポリマー組成物の硬化物である。ジオポリマー硬化体は、任意の成型方法、施工方法等によって形成され得る任意の形状を有する。詳細には、ジオポリマー硬化体は、次の方法によって製造することができる。まず、調製後のジオポリマー組成物を、例えば、型枠を用いた成型、左官工事におけるコテ塗り、吹付け、はりつけ等の当業者に公知の任意の方法を用いて、成型または施工する。その後、成型または施工後のジオポリマー組成物に、蒸気養生等の複雑な処理を行わなくても、例えば気中、封緘等の通常の養生を行うことによって、短期間で高強度のジオポリマー硬化体を製造することができる。
【0084】
また、前述の実施形態におけるジオポリマー組成物から型枠を用いてジオポリマー硬化体を製造する場合、予め剥離剤等を型枠に適宜塗布しておくことが好ましい。剥離剤は、硬化後のジオポリマー組成物(すなわち、ジオポリマー硬化体)に剥離性を付与する当業者に公知の任意の剥離剤であれば特に限定されない。
【0085】
本実施形態におけるジオポリマー硬化体は、特に限定されないが、例えば、道路用または護岸用ブロック、雨水路または用水路等のブロック、タイル、煉瓦、下水管、パイル、ポール、枕木等のプレキャスト製品、場所打ちコンクリート、吹き付けコンクリート、コンクリート補修、ダムコンクリート等の現場打ち製品等を含む。
【実施例0086】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0087】
本実施例では、原料の配合比を変更した各種ジオポリマー組成物を実際に調製し、ジオポリマー組成物の評価(ジオポリマー組成物の流動性試験、ジオポリマー組成物のブリーディング試験およびジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験)を行った。
【0088】
1.ジオポリマー組成物の調製
実施例および各比較例のジオポリマー組成物の原料およびその調製方法を、以下詳細に説明する。
【0089】
[ジオポリマー組成物の原料]
実施例および各比較例で用いたジオポリマー組成物の原料は、以下の通りである。
・石炭灰(未処理の石炭灰):火力発電所で採取される産業副産物の石炭灰をそのまま使用した。具体的には、電気集塵機で捕捉されるフライアッシュと、ボイラー内に付着および成長し、それを粉砕機で解砕したボトムアッシュとの混合物を使用した。すなわち、品質を均一にするための厳密な前処理(換言すれば、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合させるための処理)を施さず、未処理の石炭灰をそのまま使用した。
・高炉スラグ微粉末:神鋼スラグ製品株式会社製、「ケイメント」(比表面積4700cm/g程度)
・シリカフューム:ポゾリス ソリューションズ社製、「マスタークリート SF 5000」、嵩密度:2.2g/cm
・骨材(高炉スラグ細骨材):神鋼スラグ製品株式会社製、「シンコーサン+ド」(最大粒径2.5mm、ふるいの呼び寸法0.6mmの場合のふるい通過質量分率55%)
・添加水:水道水
・アクティベーター(水溶液):ポゾリス ソリューションズ社製、「マスタークリート AC 5025」
・分散剤(水溶液):日本特許第6290176号公報の実施例5に記載の化合物の水溶液(この化合物の水溶液は、次の方法によって製造することができる。まず、撹拌機と計量供給ポンプを備えた加熱可能な反応器に、ポリ(エチレンオキシド)モノフェニルエーテル(平均分子量2000g/モル)300質量部、3,4-ジヒドロキシ安息香酸46.2質量部、2-フェノキシエチルホスフェート33質量部およびパラホルムアルデヒド19.9質量部を、90℃で窒素下に充填する。続いて、この反応混合物を撹拌しながら110℃に加熱し、次いでメタンスルホン酸(70%)41質量部を、反応温度が115℃を上回らないようにして25分以内で添加する。計量供給後、この反応混合物を110℃でさらに2.5時間撹拌する。その後、反応混合物を冷却し、水350質量部と混合し、混合物を30分間100℃で加熱する。最後に、50%苛性ソーダ液で中和してpH値を約7.0にする。)
【0090】
[ジオポリマー組成物の調製方法]
後の表1に示す各々の原料を、(組成物の全質量に対する)各質量%において配合し、実施例1および実施例2ならびに比較例1~比較例4におけるジオポリマー組成物を調製した。具体的には、まず、後の表1に示す各配合量における、活性フィラーとしての石炭灰(未処理の石炭灰)および高炉スラグ微粉末を混合した。比較例1では、活性フィラーとしてシリカフュームも加えて混合した。次いで、この混合粉末にさらに骨材としての高炉スラグ細骨材を加えて混合した。最後に、添加水としての水道水、アクティベーター(水溶液)および分散剤(水溶液)を各配合量において混合物に加えて、ホバート式ミキサーを用いて混合した。
【0091】
ジオポリマー組成物中の合計水分量は、添加水としての水道水量(質量%)と、アクティベーター中に含有されている水の量(質量%)と、分散剤中に含有されている水の量(質量%)とを加算することによって、算出した。アクティベーター中に含有されている水の量(質量%)および分散剤中に含有されている水の量(質量%)は、アクティベーターまたは分散剤のそれぞれの水溶液の量(質量%)から、それぞれの固形分量(質量%)を減算することによって求めた。固形分量(質量%)は、エー・アンド・デイ社製のモイスチャーアナライザ(「MX-50」)を用いて、110℃で約15分間蒸発乾固することによって求めた。
【0092】
【表1】
【0093】
2.ジオポリマー組成物の評価
上記のように調製した各ジオポリマー組成物を用いて、ジオポリマー組成物の流動性試験、ブリーディング試験および硬化物の一軸圧縮強度試験を行った。試験方法および試験結果を、以下詳細に説明する。
【0094】
[ジオポリマー組成物の流動性試験]
ジオポリマー組成物の流動性は、JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)に規定されるフロー試験に準拠して測定した。ただし、タンピングを行わない状態でフロー試験を行った。
【0095】
[ジオポリマー組成物のブリーディング試験]
ジオポリマー組成物のブリーディング試験は、次の方法で行った。合計1.5Lの容量のジオポリマー組成物の原料を混練した後、混練した組成物を1時間放置した。1時間経過後、放置した組成物の表面に浮いている水分を、スポイトで抜き取った。その後、メスシリンダーを用いて、抜き取った水分の容量を測定し、ブリーディングの発生の程度を評価した。
【0096】
ジオポリマー組成物の各経過時間(min)における流動性(mm)の測定結果とブリーディング試験の結果を、以下の表2にまとめて示す。さらに、図1のグラフにおいて、以下の表2に示すジオポリマー組成物の流動性試験結果を示す。図1において、目標流動性は、ジオポリマー組成物に一般的に所望される流動性の基準となる200mmを示す。
【0097】
【表2】
【0098】
[ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験]
ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度は、次の方法によって測定した。直径5cmかつ高さ10cmの円柱型モールドに、調製した各ジオポリマー組成物を装入し、後の表2に示す各材齢日まで封緘養生した後、成型物を脱型した。脱型後、JIS A 1108:2018に準拠して、成型物の一軸圧縮強度を測定した。
【0099】
各材齢日(強度測定日)における一軸圧縮強度試験の測定結果を、以下の表3に示す。さらに、図2のグラフにおいて、以下の表3に示すジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験結果を示す。図2における目標強度は、ジオポリマー組成物の硬化物に一般的に所望される高強度の基準となる18MPaを示す。
【0100】
【表3】
【0101】
[考察]
上記表1に示すように、比較例1のジオポリマー組成物は、シリカフュームを多く配合する。そのため、上記表2および表3ならびに図1および図2に示すように、比較例1のジオポリマー組成物は、5分経過時点を除き200mmの目標流動性を超え、ブリーディングも発生せず、かつ28日目には硬化物の強度は目標強度を超えていた。しかしながら、比較例1のジオポリマー組成物は、高価なシリカフュームを多く配合しているため、このようなジオポリマー組成物を用いて各種硬化体を製造すると、製造コストが嵩む。加えて、ジオポリマー組成物の流動性に関しても、より良好な流動性を奏すれば好適である。
【0102】
比較例2のジオポリマー組成物は、比較例1のジオポリマー組成物と比べると、シリカフュームを含まないことを除き、その他の成分の配合比率に大きな差異はない。具体的には、比較例2のジオポリマー組成物における、活性フィラー中の高炉スラグ微粉末の配合比率および合計水分量の値は、比較例1のジオポリマー組成物のそれらの値と概ね類似した値である。しかし、比較例2のジオポリマー組成物は、200mmの目標流動性に達することができず、かつ硬化物の強度も目標強度に達することができなかった。
【0103】
一方、実施例1および実施例2のジオポリマー組成物も、比較例2のジオポリマー組成物と同様に、シリカフュームを含まない。しかし、上記表2および表3ならびに図1および図2に示すように、実施例1および実施例2のジオポリマー組成物は、長時間において200mmの目標流動性をはるかに超え、ブリーディングも発生せず、かつ28日目には硬化物の強度は目標強度を超えていた。特に、実施例1および実施例2のジオポリマー組成物の流動性は、長時間において300mmをも超え、シリカフュームを多く配合する従来の比較例1のジオポリマー組成物と比較した場合であっても、予想外に顕著に優れていた。これは、実施例1および実施例2のジオポリマー組成物は、特定の種類の分散剤を含み、活性フィラー中の高炉スラグ微粉末の配合比率が高く、かつ合計水分量も適切な量に調整されていたためと想定される。
【0104】
すなわち、前述した比較例2では、比較例1のようにシリカフュームが多く含有されているわけでもなく、加えて、活性フィラー中の高炉スラグ微粉末の配合比率は小さく、かつ合計水分量も少なかったため、流動性と強度の効果が得られなかったと想定される。
【0105】
比較例3~比較例4のジオポリマー組成物も、シリカフュームを含まない。比較例3のジオポリマー組成物では、実施例1と同様に活性フィラー中の高炉スラグ微粉末の配合比率は高いが、合計水分量が過剰に多い。そのため、200mmの目標流動性を超えることはできたが、ブリーディングが発生してしまい、硬化物の強度も目標強度に達することができなかった。比較例4のジオポリマー組成物においても、実施例1と同様に活性フィラー中の高炉スラグ微粉末の配合比率は高いが、合計水分量が多い。そのため、200mmの目標流動性を超え、ブリーディングも発生しなかったが、硬化物の強度は目標強度に達することができなかった。
図1
図2