IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国際航業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-測位システム 図1
  • 特開-測位システム 図2
  • 特開-測位システム 図3
  • 特開-測位システム 図4
  • 特開-測位システム 図5
  • 特開-測位システム 図6
  • 特開-測位システム 図7
  • 特開-測位システム 図8
  • 特開-測位システム 図9
  • 特開-測位システム 図10
  • 特開-測位システム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097151
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/43 20100101AFI20240710BHJP
   G01S 19/14 20100101ALI20240710BHJP
【FI】
G01S19/43
G01S19/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000455
(22)【出願日】2023-01-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 渉
(72)【発明者】
【氏名】江川 真史
(72)【発明者】
【氏名】福場 俊和
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA09
5J062BB08
5J062CC07
5J062DD25
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわちスタティック測位とキネマティック測位それぞれの長所を活かし、換言すればスタティック測位とキネマティック測位それぞれの短所を補いつつ、観測点の変位を求めることができる測位システムに関するものである。
【解決手段】 本願発明の測位システムは、測位衛星を利用して測位対象の観測点を測位するシステムであって、スタティック座標算出手段と統計処理変位算出手段、RTK座標算出手段、RTK差分値算出手段、推定変位算出手段を備えたものである。このうち推定変位算出手段は、対比時刻に係る統計処理変位に、着目時刻に係るRTK差分値を加算することによって、着目時刻に係る「推定変位」を求める手段である。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星を利用して、測位対象に配置される観測点を測位するシステムであって、
前記観測点を測位して得られる測位データに対して基線解析を行うことによって、スタティック測位に基づく前記観測点のスタティック座標を第1期間ごとに求めるとともに、該スタティック座標に基づいて該観測点に係るスタティック変位を該第1期間ごとに求めるスタティック座標算出手段と、
前記観測点に係る過去の複数の前記スタティック変位に対して統計処理を行い、ノイズを除去した統計処理変位を求める統計処理変位算出手段と、
前記測位データに対して基線解析を行うことによって、リアルタイムキネマティック測位に基づく前記観測点のRTK座標を第2期間ごとに求めるとともに、該RTK座標に基づいて該観測点に係るRTK変位を該第2期間ごとに求めるRTK座標算出手段と、
前記RTK変位と、該RTK変位に係る着目時刻からあらかじめ定められた比較期間だけ遡った対比時刻に係る前記RTK変位と、の差分から該着目時刻に係るRTK差分値を求めるRTK差分値算出手段と、
前記対比時刻に係る前記統計処理変位に、前記着目時刻に係る前記RTK差分値を加算することによって、該着目時刻に係る推定変位を求める推定変位算出手段と、を備え、
前記第2期間は、前記第1期間より短い期間である、
ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記RTK座標算出手段は、観測時刻から遡った一定期間内にある前記RTK変位を統計処理することによって代表RTK変位を求め、
前記RTK差分値算出手段は、前記着目時刻に係る前記代表RTK変位と前記対比時刻に係る該代表RTK変位とに基づいて前記RTK差分値を求める、
ことを特徴とする請求項1記載の測位システム。
【請求項3】
測位衛星を利用して、測位対象に配置される観測点を測位するシステムであって、
前記観測点を測位して得られる測位データに対して基線解析を行うことによって、スタティック測位に基づく前記観測点のスタティック座標を第1期間ごとに求めるとともに、該スタティック座標に基づいて該観測点に係るスタティック変位を該第1期間ごとに求めるスタティック座標算出手段と、
前記観測点に係る過去の複数の前記スタティック変位に対して統計処理を行い、ノイズを除去した統計処理変位を求める統計処理変位算出手段と、
前記測位データに対して基線解析を行うことによって、リアルタイムキネマティック測位に基づく前記観測点のRTK座標を第2期間ごとに求めるRTK座標算出手段と、
前記RTK座標と、該RTK座標に係る着目時刻からあらかじめ定められた比較期間だけ遡った対比時刻に係る前記RTK座標と、の差分から該着目時刻に係るRTK差分値を求めるRTK差分値算出手段と、
前記対比時刻に係る前記統計処理変位に、前記着目時刻に係る前記RTK差分値を加算することによって、該着目時刻に係る推定変位を求める推定変位算出手段と、を備え、
前記第2期間は、前記第1期間より短い期間である、
ことを特徴とする測位システム。
【請求項4】
前記RTK座標算出手段は、観測時刻から遡った一定期間内にある前記RTK座標を統計処理することによって代表RTK座標を求め、
前記RTK差分値算出手段は、前記着目時刻に係る前記代表RTK座標と前記対比時刻に係る該代表RTK座標とに基づいて前記RTK差分値を求める、
ことを特徴とする請求項3記載の測位システム。
【請求項5】
前記統計処理変位算出手段は、複数の前記スタティック変位に対してフィルタリング及び平滑化処理を行うことによって、前記統計処理変位を求める、
ことを特徴とする請求項1又は請求項3記載の測位システム。
【請求項6】
前記比較期間が、前記測位衛星の恒星日である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項3記載の測位システム。
【請求項7】
前記推定変位算出手段は、前記対比時刻に対応する前記統計処理変位がないとき、該対比時刻に前後する前記統計処理変位に基づいて補完統計処理変位を求めるとともに、該補完統計処理変位に前記着目時刻に係る前記RTK差分値を加算する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項3記載の測位システム。
【請求項8】
前記観測点に係る過去の複数の前記推定変位と前記統計処理変位に対して統計処理を行うことによって、修正推定変位を求める修正変位算出手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項3記載の測位システム。
【請求項9】
前記推定変位又は前記RTK差分値と、あらかじめ定めた変位閾値と、を照らし合わせ、該推定変位又は該RTK差分値が該変位閾値を上回るときに、前記修正変位算出手段に対して処理を実行させる修正制御手段を、さらに備え、
前記修正変位算出手段は、前記修正制御手段の制御に応じて前記修正推定変位を求める、
ことを特徴とする請求項8記載の測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、衛星測位に関する技術であり、より具体的には、測位対象に配置された観測点の変位を求める測位システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。例えば橋梁に関しては、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象とし、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。
【0003】
代表的な建設インフラとしては、トンネルや橋梁といった道路構造物のほか道路斜面(自然斜面や、人工的なのり面を含む)を挙げることができる。我が国で供用されている道路の総延長は、約9,000kmの高速自動車国道を含めるとおよそ120万kmを超え、そのうち約30%の道路が山地区間にあるといわれており、すなわち夥しい数の道路斜面が維持管理されているわけである。
【0004】
これまで道路斜面の点検は、昭和43年の国道41号飛騨川バス転落事故や、昭和45年の国道56号土砂崩壊事故、平成元年の国道305号岩盤崩壊事故など、大規模な斜面災害が発生したときに実施される傾向にあった。そして、平成8年には国道229号豊浜トンネルの坑口付近で11,000mの岩盤が崩落し、この年には全国で緊急的に道路防災総点検が行われている。なお、特に甚大な被害を受けた飛騨川バス転落事故をきっかけとして、事前通行規制や道路防災点検が制度化されている。
【0005】
近年の道路斜面の点検は、定期的(原則として5年に1度)に実施することとされ、また点検した結果を斜面ごとに記録するなど、体系的な制度のもとに実施されている。例えば、平成2年の国道11号鳴門落石事故後からは安定度調査表が導入されており、道路防災総点検が実施された平成8年以降には安定度調査表に「要対策」、「カルテ対応」、「対策不要」からなる総合評価を記録する運用が導入されている。
【0006】
このように道路斜面の点検を実施することで、斜面ごとにその状況を把握することができるとともに、その後の対策方針も把握することができるが、既述したとおり維持管理の対象となる道路斜面は大量にあることから、頻繁に本格的な点検を行うことは現実的でない。また現状の道路斜面の点検は点検者の目視結果に基づく評価が基本であり、すなわち点検者の経験や知識等に依存するためその結果は定性的であって点検者によってばらつきが生じるといった問題も指摘することができる。
【0007】
道路斜面の点検のほか、崩壊のおそれがある斜面、あるいは地すべりの兆候のある斜面では、その動きを監視するための観測(いわゆる動態観測)が行われることもある。例えば、地すべり兆候のある斜面では、伸縮計や抜き板を利用した観測や、孔内傾斜計による観測、地表面変位計測などが実施されていた。しかしながら、伸縮計や抜き板による観測では、地すべり境界(特に頭部)に亘って設置しなければ効果がなく、孔内伸縮計も地すべり深度を正確に推定しなければ効果がないうえに多数箇所設けるとコストがかかるという問題がある。そもそもこれらの手法は、地すべり面がある程度推定される斜面でのみ実施できる観測手法であって、地すべり面が推定できない斜面や崩壊のおそれがある斜面などには採用することができない。
【0008】
一方、地表面変位計測は、斜面上に設置した多数の観測点の座標を求め、経時的な変位を検出することで斜面の動きを監視することから、直接的に異常を把握することができるうえ、伸縮計や孔内傾斜計のようにその効果が計器設置場所に依存することがないという長所がある。ただし、トータルステーションなどを用いて人が観測点を測位する場合、大きな手間とコストが必要となる。
【0009】
そこで特許文献1や特許文献2では、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いた動態観測を行うことによって斜面の監視を行う発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3742346号公報
【特許文献2】特許第6644970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1や特許文献2に開示される発明を利用すれば、崩壊のおそれや地すべりの兆候がある斜面はもちろん、特段の動きがみられない斜面であっても監視することができ、しかも直接的かつ定量的に異常を把握することができるうえ、トータルステーション計測のように大きな手間とコストがかからないという長所もある。
【0012】
ところで、GNSS測位によって観測点の座標を求めるには、「単独測位方式(絶対単独測位やディファレンシャル測位)」と「干渉測位方式」に二分され、このうち干渉測位方式の方が高い精度で結果を得られることが知られている。そして干渉測位方式としては、スタティック測位とキネマティック測位を挙げることができる。このうちスタティック測位は、複数の受信機で4以上の衛星を観測する手法であり、最も高精度(水平精度5~10mm程度)で観測点の座標を求めることができる反面、長い観測時刻(例えば1時間)が必要であり、したがって結果が得られるまでに時間を要するという短所もある。一方のキネマティック測位は、短時間での観測(例えば、120~3,600点/1時間)が可能であるが、スタティック測位に比べるとその精度が劣る(水平精度20~30mm程度)という短所がある。
【0013】
このように、GNSS測位によって観測点の座標を求める場合、高い精度を求めるという点においては干渉測位方式が望ましいものの、スタティック測位とキネマティック測位には一長一短があり、いずれかの手法を採用すればその手法に伴う短所は甘受しなければならない。
【0014】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわちスタティック測位とキネマティック測位それぞれの長所を活かし、換言すればスタティック測位とキネマティック測位それぞれの短所を補いつつ、観測点の変位を求めることができる測位システムに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、観測点の測位データに対して基線解析を行い、スタティック測位に基づく変位と、キネマティック測位に基づく変位をそれぞれ求めるとともに、これら2種類の変位を活用することによって観測点の変位を得る、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0016】
本願発明の測位システムは、測位衛星を利用して測位対象の観測点を測位するシステムであって、スタティック座標算出手段と統計処理変位算出手段、RTK座標算出手段、RTK差分値算出手段、推定変位算出手段を備えたものである。このうちスタティック座標算出手段は、測位データ(観測点を測位して得られるデータ)に対して基線解析を行うことによって、スタティック測位に基づく観測点の「スタティック座標」を第1期間ごとに求めるとともに、スタティック座標に基づいて観測点に係るスタティック変位を第1期間ごとに求める手段である。また統計処理変位算出手段は、観測点に係る過去の複数のスタティック変位に対して統計処理を行い、ノイズを除去することによって「統計処理変位」を求める手段である。RTK座標算出手段は、測位データに対して基線解析を行うことによって、リアルタイムキネマティック測位に基づく観測点の「RTK座標」を第2期間ごとに求めるとともに、RTK座標に基づいて観測点に係るRTK変位を第2期間ごとに求める手段である。RTK差分値算出手段は、着目時刻に係るRTK変位と、対比時刻(その着目時刻からあらかじめ定められた比較期間だけ遡った時刻)に係るRTK変位との差分から、着目時刻に係る「RTK差分値」を求める手段である。推定変位算出手段は、対比時刻に係る統計処理変位に、着目時刻に係るRTK差分値を加算することによって、着目時刻に係る「推定変位」を求める手段である。なおRTK座標を求める第2期間は、スタティック座標をもとめる第1期間より短い期間とされる。
【0017】
本願発明の測位システムは、RTK座標算出手段が「RTK座標」のみを第2期間ごとに求めるものとすることもできる。この場合、RTK差分値算出手段は、着目時刻に係るRTK座標と対比時刻に係るRTK座標との差分から「RTK差分値」を求める。
【0018】
本願発明の測位システムは、「代表RTK変位」や「代表RTK座標」に基づいてRTK差分値を求めるものとすることもできる。ここで代表RTK変位とは、着目時刻から遡った一定期間内にあるRTK変位を統計処理することによって求められる変位であり、代表RTK座標とは、着目時刻から遡った一定期間内にあるRTK座標を統計処理することによって求められる座標である。この場合、RTK座標算出手段は、観測時刻から遡った一定期間内にあるRTK変位やRTK座標を統計処理することによって代表RTK変位や代表RTK座標を求め、またRTK差分値算出手段は、着目時刻に係る代表RTK変位や代表RTK座標と、対比時刻に係る代表RTK変位や代表RTK座標とに基づいてRTK差分値を求める。
【0019】
本願発明の測位システムは、複数のスタティック変位に対してフィルタリングや平滑化処理を行うことによって統計処理変位を求めるものとすることもできる。
【0020】
本願発明の測位システムは、比較期間を測位衛星の恒星日としたものとすることもできる。
【0021】
本願発明の測位システムは、対比時刻に対応する統計処理変位がないときに「補完統計処理変位」を求めるものとすることもできる。この場合、推定変位算出手段は、対比時刻に前後する統計処理変位に基づいて補完統計処理変位を求めるとともに、補完統計処理変位に着目時刻に係るRTK差分値を加算することによって推定変位を求める。
【0022】
本願発明の測位システムは、修正変位算出手段をさらに備えたものとすることもできる。この修正変位算出手段は、観測点に係る過去の複数の推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行うことによって、「修正推定変位」を求める手段である。
【0023】
本願発明の測位システムは、修正制御手段をさらに備えたものとすることもできる。この修正制御手段は、推定変位(あるいはRTK差分値)と変位閾値を照らし合わせ、推定変位(あるいはRTK差分値)が変位閾値を上回るときに修正変位算出手段に対して処理を実行させる手段である。この場合、修正変位算出手段は、修正制御手段の制御に応じて修正推定変位を求める。
【発明の効果】
【0024】
本願発明の測位システムには、次のような効果がある。
(1)スタティック測位と同等の精度で、観測点の変位量を求めることができる。したがって、高い精度で測位対象の変化や変状を監視することができる。
(2)キネマティック測位と同等の観測速度で、観測点の変位量の変化を把握することができる。したがって、測位対象の突発的な変化や変状を迅速に監視することができる。
(3)従来の測位衛星用の受信機を利用することができ、すなわち特段のコストがかかることがなく従来どおりの費用で測位対象を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本願発明の測位システムの主な構成を示すブロック図。
図2】統計処理変位算出手段による処理を説明するための数式図。
図3】統計処理変位算出手段によるカルマンフィルタと平滑化処理について説明するためのモデル図。
図4】統計処理変位算出手段122によって生成された統計処理変位を「一連の線形」と「定期的な点」で表示したモデル図。
図5】(a)は「観測点No1」における南北方向の変位の推移を示すグラフ図、(b)は「観測点No1」における東西方向の変位の推移を示すグラフ図、(c)は「観測点No1」における高さ方向の変位の推移を示すグラフ図。
図6】代表RTK変位を求める手順について説明するモデル図。
図7】RTK差分値を求める手順について説明するモデル図。
図8】(a)は「観測点No1」におけるスタティック変位の推移を示すグラフ図、(b)は「観測点No1」におけるRTK変位の推移を示すグラフ図、(c)は「観測点No1」におけるRTK差分値の推移を示すグラフ図。
図9】推定変位を求める手順について説明するモデル図。
図10】統計処理変位とともに推定変位がプロットされたグラフ図。
図11】本願発明の測位システムが推定変位を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明の測位システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明は、「測位対象」の変位を把握することができる技術であり、スタティック測位とキネマティック測位それぞれの長所を活かした測位技術である。ここで測位対象とは、変位を測定しようとする対象物のことであり、自然斜面や切土のり面、盛土のり面といった斜面のほか、橋梁やダム、擁壁といった土木構造物、オフィスビルや集合住宅といった建築構造物、あるいは任意の地盤面など、様々な物が測位対象となりうる。なお便宜上ここでは、測位対象が斜面の例で説明することとする。
【0027】
図1は、本願発明の測位システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の測位システム100は、主に測位装置110と解析装置120で構成され、これらは無線通信手段(又は有線通信手段)で接続されている。測位装置110は斜面(測位対象)上の観測点に設置され、一方の解析装置120は情報管理企業など斜面から離れた場所に設けられる。なおこの図では、1つの解析装置120に対して1つの測位装置110が接続されているが、複数の斜面の測位装置110と1つの解析装置120を接続することもできる。
【0028】
測位装置110は、受信機111と通信手段112を含んで構成され、さらに発電手段113を含んで構成することもできる。また解析装置120は、スタティック座標算出手段121と統計処理変位算出手段122、RTK座標算出手段123、RTK差分値算出手段124、推定変位算出手段125を含んで構成され、さらに修正変位算出手段126や修正制御手段127、測位データ記憶手段128などを含んで構成することもできる。
【0029】
解析装置120は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることによって、解析装置120を構成する各種手段の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)といったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、を具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0030】
また、測位データ記憶手段128は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0031】
以下、本願発明の測位システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0032】
(測位装置)
測位装置110を構成する受信機111は、GNSS測位に用いられるものであり、すなわち測位衛星Sからの電波(搬送波)を受信する機器である。この受信機111は、斜面(測位対象)上に計画される複数の観測点に設置され、さらに斜面(測位対象)以外の基準点(不動点)にも設置される。これら受信機111は同時に4以上の衛星から受信することができ、しかもスタティック測位が可能であってキネマティック測位(特に、リアルタイムキネマティック測位)も可能なものである。そして、受信機111が受信したデータ、つまりスタティック測位やネマティック測位が可能なデータ(以下、「測位データ」という。)は通信手段112によって解析装置120に送信される。測位データの送信は、無線通信を利用することもできるし、もちろん有線通信を利用することもできる。そして通信手段112によって送信された測位データは、解析装置120の測位データ記憶手段128に記憶される(図1)。
【0033】
発電手段113は、測位装置110に供給するための電気を発電するもので、例えば太陽光発電装置などを利用することができる。発電手段113を配備することで商用電力の使用を回避でき、さらに斜面上の配電線を省略することができるため景観やメンテナンスの点で好適となる。また測位装置110は、演算手段を備えたものとすることもできる。この演算手段は観測点の座標を求めるものであり、すなわち現地(斜面)にて観測点座標を算出するわけである。この場合、通信手段112は、測位データに観測点座標を含めたうえで解析装置120に送信するとよい。
【0034】
(スタティック座標算出手段)
解析装置120を構成するスタティック座標算出手段121は、測位データ記憶手段128に記憶された測位データを読み出し、その測位データを用いて観測点の座標を算出するとともに、その観測点の変位を求める手段である。ただしスタティック座標算出手段121は、受信機111がスタティック測位(静的干渉測位)を行った結果得られる測位データに基づいて座標を求め、そのうえで観測点の「初期(設置時)の座標」と「今回の測位データに基づく座標」との差分を観測点の変位として算出する。なお、ここで取り扱う座標は3次元座標であるから、2時期(初期と今回)の座標により求められる変位は、大きさ(変位量)と方向(変位方向)を具備する変位ベクトルとして得ることもできる。
【0035】
本願発明は、後述するようにキネマティック測位の手法により観測点の座標も求め、さらに観測点の変位も求めることもある。そこで便宜上ここでは、スタティック測位の手法による観測点の座標のことを「スタティック座標」、スタティック座標に基づく変位のことを「スタティック変位」ということとし、同様にキネマティック測位の手法による観測点の座標のことを「RTK座標」、RTK座標に基づく変位のことを「RTK変位」ということとする。
【0036】
通常、受信機111は、極めて短い間隔(例えば毎秒)で電波を受信し、すなわち極めて短い間隔で測位データが生成される。一方、干渉測位では、電波(搬送波)の波長の整数個(整数値バイアス)を決定する必要があり、特にスタティック測位では、複数の受信機で4個以上の衛星を長時間(概ね1時間)観測し、衛星の時間的な位置変化を利用して整数値バイアスを決定する。そのためスタティック座標算出手段121は、その観測時刻(例えば1時間)ごとにスタティック座標とスタティック変位を求めることとなる。便宜上ここでは、スタティック座標算出手段121がスタティック座標とスタティック変位を求める時間間隔(例えば1時間)のことを「第1期間」ということとする。
【0037】
(統計処理変位算出手段)
GNSS測位によるデータは、衛星配置や上空視界、気象条件等の様々な誤差要因のため、その値がばらつくことが知られている。例えば、比較的高い精度とされる水平方向(南北方向NS、東西方向EW)では±5mm+1ppm×D(D:基線長km)程度でばらつきが生じ、高さ方向(UD)では±10mm+1ppm×D程度でばらつきが生じる。つまり、スタティック座標算出手段121は、ノイズを含んだ状態でスタティック変位を求めるわけである。
【0038】
そこで本願発明では、統計処理変位算出手段122によって、スタティック変位からノイズを除去することとした。便宜上ここでは、統計処理変位算出手段122によってノイズが取り除かれたスタティック変位のことを、特に「統計処理変位」ということとする。統計処理変位算出手段122がこの統計処理変位を求めるにあたっては、例えば、「トレンドモデル」と「状態空間モデル」を利用した統計処理とすることができる。以下、その処理の内容について図2図3を参照しながら詳しく説明する。図2は、統計処理変位算出手段122による処理を説明するための数式図であり、図3は、カルマンフィルタと平滑化処理について説明するためのモデル図である。
【0039】
測位データのような「時系列計測データ」は、「変位トレンド」に「変動成分」が加わったものと考えることができる。そこで、変動成分を単純な正規白色雑音(ホワイトノイズ)とすると、図2の式1に基づく観測モデルで表現することができる。また図2の式2と式3を用いることによって、時系列YからトレンドUを推定するためのモデル、すなわち式1の観測モデルにトレンド成分モデルを組み合わせた「トレンドモデル」を設定することができる。
【0040】
時系列解析では、その多くの場合で状態空間モデルの状態推定問題として定式化することができる。例えば、図2の式4と式5を用いることによって、トレンドモデルを「状態空間モデル」で表すことができる。そしてこの状態空間モデルに対して、カルマンフィルタによる状態推定、及び平滑化処理を行うことによってノイズを除去することができる。ところで状態空間モデルの状態推定問題では、時系列Yの測位データに基づいて状態Xの推定を行うことが重要となる。しかしながら、通常の時系列解析で行われる回帰分析では、測位データに含まれる異常値(極めて誤差の大きな観測値)に追随しすぎるため、異常値と斜面変位の区別ができないこともある。そこで図3に示すように、カルマンフィルタのアルゴリズムを適用して状態推定を行うとよい。図3に示す手法では、現在のGNSS測定値(測位データ)から一期先の予測を行い、新しい測位データが得られたときにその予測誤差を評価することによって推定精度が改善されることとなる。この処理を随時行いながら、新しい測位データが得られるたびにフィルタリングと固定区間平滑化法による平滑化処理を行うわけである。
【0041】
ここまで、「トレンドモデル」と「状態空間モデル」を利用した統計処理について説明してきたが、スタティック変位からノイズを除去することができれば、これに限らず従来知られている種々の統計処理を採用することもできる。統計処理変位算出手段122によって統計処理変位が生成されると、図4に示すように、一連の線形(図では実線)として統計処理変位を出力することも、あるいは定期的(例えば1時間ごと)に点(図では白抜きの点)として出力することもできる。
【0042】
(RTK座標算出手段)
RTK座標算出手段123は、測位データ記憶手段128に記憶された測位データを読み出し、その測位データを用いて観測点のRTK座標を算出するとともに、その観測点のRTK変位を求める手段である。あるいは、単にRTK座標を算出する手段とすることもできる。ただしRTK座標算出手段123は、キネマティック測位(特に、リアルタイムキネマティック測位)を行った結果得られる測位データに基づいて座標を求める。またRTK変位を求める場合は、観測点における「初期(設置時)の座標」と「今回の測位データに基づくRTK座標」との差分を観測点のRTK変位として算出する。なおRTK変位も、スタティック変位と同様、変位量と変位方向を具備する変位ベクトルとして得ることもできる。
【0043】
既述したとおり、受信機111は、極めて短い間隔(例えば毎秒)で電波を受信する。そしてリアルタイムキネマティック測位(以下、「RTK測位」という。)では、観測開始時に整数値バイアスを決定(初期化)し、以後は受信機間で無線や携帯電話などを利用して観測データの交信を行い、即時に解析処理を行う。そのためRTK測位では、短期間(例えば毎秒)の測位が可能となる。これに伴いRTK座標算出手段123は、図5に示すようにその観測時刻(例えば、1秒ごとや30秒ごと等)ごとにRTK座標やRTK変位を求めることとなる。図5(a)は「観測点No1」における南北方向の変位の推移を示すグラフ図、図5(b)は「観測点No1」における東西方向の変位の推移を示すグラフ図、図5(c)は「観測点No1」における高さ方向の変位の推移を示すグラフ図である。なお便宜上ここでは、RTK座標算出手段123がRTK座標やRTK変位を求める時間間隔(例えば、1秒ごとや30秒ごと等)のことを「第2期間」ということとする。ただし第2期間(例えば、1秒ごとや30秒ごと等)は、スタティック変位に係る第1期間(例えば1時間)よりも短い間隔で設定される。
【0044】
RTK座標算出手段123がRTK変位(あるいは、RTK座標のみ)を算出すると、そのRTK変位やRTK座標はRTK差分値算出手段124に受け渡されて後続の処理が実行される。あるいは、RTK座標算出手段123が「代表RTK変位」や「代表RTK座標」を算出したうえで、その代表RTK変位や代表RTK座標をRTK差分値算出手段124に渡す仕様とすることもできる。以下、代表RTK変位を求める手順について、図6を参照しながら詳しく説明する。図6は、代表RTK変位や代表RTK座標を求める手順について説明するモデル図である。
【0045】
この場合、RTK座標算出手段123は、まず「観測時刻から遡った一定期間」にあるRTK変位を抽出する。ここで一定期間とは、あらかじめ定めた期間であり、図6では1太陽日(24時間)としているが、これに限らず後述する1恒星日とすることもできるし、6時間や12時間など時間単位で設定することもできる。所定のRTK変位(例えば観測時刻から24時間前までのRTK変位)が抽出されると、RTK座標算出手段123は、その複数のRTK変位に対して、単純平均したり、観測時刻を基準に重みを付する(観測時刻から近いほど大きな重みを付する)加重平均としたり、その他種々の統計処理を行うことによって、代表RTK変位を求める。このように数多くのRTK変位を統計処理した結果得られる代表RTK変位は、誤差が緩和された値と言える。同様に、RTK座標算出手段123が代表RTK座標を求める場合は、観測時刻から遡った一定期間にあるRTK座標を抽出するとともに、これらRTK座標に対して種々の統計処理を行うことによって代表RTK座標を求める。なお代表RTK変位や代表RTK座標は、第2期間ごとに(図6では1秒ごと)求めることもできるし、第2期間よりも長い間隔(以下、「第3期間」という。)で求めることもできる。ただし第3期間は、1時間や10分とするなど第1期間よりも短い間隔で設定される。そしてRTK座標算出手段123は、代表RTK変位をRTK変位としたうえで、あるいは代表RTK座標をRTK座標としたうえで、RTK差分値算出手段124に引き渡す。
【0046】
(RTK差分値算出手段)
RTK差分値算出手段124は、2時期のRTK変位あるいはRTK座標に基づいて「RTK変位の差分(以下、「RTK差分値」という。)」を求める手段である。もちろんRTK座標算出手段123が代表RTK変位や代表RTK座標を算出するケースでは、このRTK差分値算出手段124は、2時期の代表RTK変位あるいは代表RTK座標に基づいて「RTK差分値」を求める。なお、RTK差分値を求めるための2時期は、RTK差分値を求めようとする時刻(以下、「着目時刻」という。)と、その着目時刻からあらかじめ定められた期間(以下、「比較期間」という。)だけ遡った時刻(以下、「対比時刻」という。)である。この比較期間は、太陽日(24時間)とすることもできるし、「恒星日」とすることもできるし、これら日単位に限らず6時間や12時間など時間単位で設定することもできる。ここで恒星日とは、測位衛星Sが同じ位置に配置される期間であって、見かけの日周運動に基づく公転周期であり、そして太陽日(24時間)よりも3分56秒だけ短いことが知られている。以下、RTK差分値算出手段124がRTK差分値を求める手順について、図7を参照しながら詳しく説明する。図7は、RTK差分値を求める手順について説明するモデル図である。
【0047】
図7では、1の比較期間(例えば、太陽日や恒星日)に対して時刻T~T(例えば1秒間隔)が設定されており、そして受信機111は時刻T~Tに電波を受信しており、すなわちRTK座標算出手段123は時刻T~TにRTK変位やRTK座標を求めている。なおこの図では、便宜上5期間(例えば、5日間)のみの観測期間を示しているが、もちろん通常は長期間にわたって観測される。例えば図7において、第3日の時刻TにおけるRTK差分値を求める場合、換言すれば第3日の時刻Tを着目時刻とする場合、第2日の時刻Tが対比時刻となり、したがって「第3日の時刻TにおけるRTK変位(あるいは、RTK座標)」から「第2日の時刻TにおけるRTK変位(あるいは、RTK座標)」を差し引いた値が「第3日の時刻TにおけるRTK差分値」となる。なおRTK差分値は、「着目時刻に係るRTK変位(あるいは、RTK座標)」から「対比時刻に係るRTK変位(あるいは、RTK座標)」を差し引いた値であるため、正負の値を取り得る。また、上記したとおりRTK座標算出手段123が代表RTK変位や代表RTK座標を算出するケースでは、「着目時刻に係る代表RTK変位(あるいは、代表RTK座標)」から「対比時刻に係る代表RTK変位(あるいは、代表RTK座標)」を差し引いてRTK差分値を求めることになる。
【0048】
既述したとおり、GNSS測位によるデータは衛星配置や視通、気象条件等の様々な誤差要因による影響を受ける。ところがRTK差分値は、着目時刻と対比時刻のRTK変位を比較することによって、つまり測位衛星Sが同じ位置に配置される時刻どうしのRTK変位を比較することによって得られる値であり、特に比較期間を恒星日としたケースでは衛星配置に伴う誤差が排除されているわけである。
【0049】
(推定変位算出手段)
図8は、「観測点No1」における一定期間(6月1日~6月4日)の各種変位を表す図であり、(a)はスタティック変位を示すグラフ図、(b)はRTK変位の推移を示すグラフ図、(c)はRTK差分値の推移を示すグラフ図である。既述したとおり、スタティック測位はキネマティック測位よりも精度が高い。したがって、スタティック測位に基づく統計処理変位は、キネマティック測位に基づくRTK差分値よりも精度が高い。一方、RTK差分値が第2期間(例えば1秒)ごとに得られるのに対して、統計処理変位は第2期間よりも長い第1期間(例えば1時間)ごとにしか得られない。すなわち、高い精度で観測点の変位を把握したいときはスタティック測位に基づく統計処理変位が好ましいが、速やかに観測点の変化を把握したいときはキネマティック測位に基づくRTK差分値の方が好ましいわけである。
【0050】
そこで本願発明では、推定変位算出手段125によって、統計処理変位とRTK差分値を活用した変位(以下、「推定変位」という。)を求めることとした。以下、推定変位算出手段125が推定変位を求める手順について、図9を参照しながら詳しく説明する。図9は、推定変位を求める手順について説明するモデル図である。
【0051】
図9では、現在の変位として統計処理変位Aが得られており、また現在を着目時刻としたRTK差分値Kも得られている。そしてこの図の数式に示すように、現在から1比較期間(例えば、1太陽日や1恒星日)だけ遡った時刻(つまり、対比時刻)に係る統計処理変位A-1(いわば、1比較期間前の統計処理変位)にRTK差分値Kを加算することによって、推定変位Zは求められる。このように推定変位は、「着目時刻に係るRTK差分値」を「対比時刻に係る統計処理変位」に加算することによって求められるわけである。また、統計処理変位が変位であるのに対して、一方のRTK差分値はあくまで「2時期の変位(あるいは、座標)の差分」であるところ、統計処理変位に着目時刻に係るRTK差分値を加算することによって推定変位は「変位」として取り扱うことができる。なお、既述したとおりRTK差分値は正負の値となることがあり、もちろん統計処理変位も正負の値となることがある。そのため、正負を勘案したうえで(正負を付した値のまま)、着目時刻に係るRTK差分値に対比時刻に係る統計処理変位が加算される。
【0052】
ところで、統計処理変位算出手段122が第1期間ごとに統計処理変位を求めているケースでは、第2期間より第1期間の方が長いため、対比時刻に相当する統計処理変位がないこともある。例えば、統計処理変位が毎正時(第1期間)で求められ、RTK差分値が毎秒(第2期間)で求められているケースでは、午前10時25分を着目時刻にすると、前回(前太陽日や前恒星日など)における対比時刻(午前10時25分)には統計処理変位が存在しない。この場合、統計処理変位算出手段122は、統計処理変位を補正した変位(以下、「補完統計処理変位」という。)を求めたうえで、推定変位を算出するとよい。具体的には、「比時刻に対応する統計処理変位」がないとき、「対比時刻に前後する統計処理変位」に基づいて補完統計処理変位を求め、その補完統計処理変位に「着目時刻に係るRTK差分値」を加算して推定変位を算出するわけである。補完統計処理変位を求めるにあたっては、対比時刻に前後する統計処理変位に対して、対比時刻を基準として按分したり、あるいは単純平均したり、その他種々の統計処理を行うことによって求めることができる。なお、前回における対比時刻に統計処理変位が存在しない場合、推定変位算出手段125は推定変位を算出しない仕様とすることもできる。
【0053】
(修正変位算出手段と修正制御手段)
随時、推定変位が得られていくと、図10に示すように統計処理変位とともに推定変位をプロットすることができる。この統計処理変位は、既述したとおり統計処理変位算出手段122によって統計処理された値であり、すなわちノイズが取り除かれた変位である。一方、推定変位は、RTK差分値を含むため統計処理された値とは言えず、ノイズが残った状態である。修正変位算出手段126は、過去に得られた複数の推定変位と統計処理変位に対して、統計処理を行うことでノイズを除去する手段である。便宜上ここでは、推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行うことでノイズが除去された変位のことを「修正推定変位」という。なお、修正変位算出手段126によって実行される統計処理は、統計処理変位算出手段122によって実行される処理と同じである。したがって本願発明の測位システム100は、統計処理変位算出手段122とは別に修正変位算出手段126を備えたものとすることもできるし、別体としての修正変位算出手段126は備えることなく修正変位算出手段126が実行すべき処理を統計処理変位算出手段122によって実行させる仕様とすることもできる。
【0054】
修正変位算出手段126(あるいは統計処理変位算出手段122)は、あらかじめ定めた期間(例えば1時間や1太陽日、1恒星日など)が経過するたびに、推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行う仕様とすることもできるし、オペレータが判断したタイミングで、オペレータが修正変位算出手段126を操作することによって、推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行う仕様とすることもできる。あるいは、修正制御手段127の制御に応じて統計処理を行う(つまり、修正推定変位を算出する)仕様とすることもできる。修正制御手段127は、図10に示すように推定変位に異常(突発変位)が発生したときに、修正変位算出手段126に対して修正推定変位の算出を実行するように制御する(指令する)。具体的には、推定変位と、あらかじめ定めた閾値(以下、「変位閾値」という。)を照らし合わせ、推定変位が変位閾値を上回る(あるいは以上となる)ときに、修正制御手段127が修正変位算出手段126に対して処理を実行させるわけである。なお修正制御手段127は、推定変位に代えてRTK差分値に基づいて制御することもできる。この場合、修正制御手段127は、RTK差分値が変位閾値を上回る(あるいは以上となる)ときに、修正変位算出手段126に対して処理を実行させることとなる。
【0055】
(処理の流れ)
以下、図11を参照しながら本願発明の測位システム100の主な処理について詳しく説明する。図11は、本願発明の測位システム100が推定変位を算出するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、中央の列に実行する処理を示し、左列にはその処理に必要なものを、右列にはその処理から生ずるものを示している。
【0056】
測位システム100が推定変位を算出するにあたっては、まず図11に示すように受信機111が測位衛星Sからの電波(搬送波)を随時受信することで観測点の測位を行い(図11のStep201)、その測位データが通信手段112によって送信されて測位データ記憶手段128に記憶される(図11のStep202)。
【0057】
測位データが得られると、スタティック座標算出手段121が測位データ記憶手段128から測位データを読み出して「スタティック座標」と「スタティック変位」を算出する(図11のStep203)。そして統計処理変位算出手段122が、スタティック変位に対して統計処理を行い、ノイズが取り除かれた「統計処理変位」を算出する(図11のStep204)。
【0058】
一方では、RTK座標算出手段123が測位データ記憶手段128から測位データを読み出して「RTK座標」と「RTK変位」(あるいは、「RTK座標」のみ)を算出する(図11のStep205)。そしてRTK差分値算出手段124が、「着目時刻に係るRTK変位や代表RTK変位(あるいは、RTK座標や代表RTK座標)」と「対比時刻に係るRTK変位や代表RTK変位(あるいは、RTK座標や代表RTK座標)」に基づいて「RTK差分値」を算出する(図11のStep206)。
【0059】
統計処理変位とRTK差分値が得られると、推定変位算出手段125が統計処理変位とRTK差分値に基づいて「推定変位」を算出する(図11のStep207)。このとき、「対比時刻に対応する統計処理変位」がないときは、推定変位算出手段125が「補完統計処理変位」を求めたうえで推定変位を算出することは既述したとおりである。
【0060】
随時、推定変位が得られていくと、修正制御手段127が修正変位算出手段126に対して処理を実行させる(図11のStep208)。具体的には、推定変位(あるいはRTK差分値)と変位閾値を照らし合わせ、推定変位が変位閾値を上回る(あるいは以上となる)ときに(図11のStep208のYes)、修正制御手段127は修正制御手段127に対して統計処理を実行するように制御する(指令する)。一方、推定変位(あるいはRTK差分値)が変位閾値を下回る(あるいは以下となる)ときは(図11のStep208のNo)、引き続き観測点の測位を行う(図11のStep201)。そして修正制御手段127の制御に応じて、修正変位算出手段126が所定の処理を実行する(図11のStep209)。具体的には修正変位算出手段126が、複数の推定変位と統計処理変位に対して統計処理変位算出手段122と同様の処理を実行することによって、「修正推定変位」を算出する。なお、修正変位算出手段126は、修正制御手段127の制御にかかわらず、所定期間が経過するたびに、推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行う仕様とすることもできるし、オペレータが判断したタイミングで、オペレータが修正変位算出手段126を操作することによって、推定変位と統計処理変位に対して統計処理を行う仕様とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本願発明の測位システムは、自然斜面や切土のり面、盛土のり面といった斜面のほか、橋梁やダム、擁壁といった土木構造物、オフィスビルや集合住宅といった建築構造物、あるいは任意の地盤面など様々な測位対象に利用することができる。崩壊や地すべりなど斜面に起因する事故を未然に防ぐことができ、また橋梁などの建設インフラの異常を事前に察知し得ることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0062】
100 本願発明の測位システム
110 測位装置
111 受信機
112 通信手段
113 発電手段
120 解析装置
121 スタティック座標算出手段
122 統計処理変位算出手段
123 RTK座標算出手段
124 RTK差分値算出手段
125 推定変位算出手段
126 修正変位算出手段
127 修正制御手段
128 測位データ記憶手段
S 測位衛星
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11