(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097162
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用集電体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000482
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前川 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】山下 智史
(72)【発明者】
【氏名】都藤 靖泰
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017BB16
5H017DD06
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH03
5H017HH10
(57)【要約】
【課題】十分な導電性を有し、液滲みを抑制することができ、異常時安全性が高いリチウムイオン電池用集電体を提供する。
【解決手段】高分子材料と導電性フィラーとを含む導電性樹脂層と、上記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部とを備え、上記金属めっき部は、上記導電性樹脂層の表面から露出した上記導電性フィラーを覆っており、上記導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であり、上記金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vであるリチウムイオン電池用集電体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料と導電性フィラーとを含む導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部とを備え、
前記金属めっき部は、前記導電性樹脂層の表面から露出した前記導電性フィラーを覆っており、
前記導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であり、
前記金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vである
リチウムイオン電池用集電体。
【請求項2】
前記金属めっき部が、金、白金及び銀からなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項1に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項3】
前記金属めっき部の平均膜厚が、0.03~3μmである請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項4】
前記金属めっき部の表面抵抗率が2.0×10-1~5.7×103Ω/□である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項5】
前記導電性樹脂層が有する2つの主面が、前記金属めっき部を備える請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項6】
前記導電性フィラーが、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ハードカーボン、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼及びチタンからなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。
【0003】
一般的なリチウムイオン電池は、集電体の一面に正極活物質層及び負極活物質層をそれぞれ設けた後に、活物質層間にセパレータを挾んでこれら正極活物質と負極活物質を積層することで略平板状のリチウム二次単電池を製造し、この単電池を複数層積層して構成される。
【0004】
このような、単電池を複数層積層してなるリチウムイオン電池において、集電体に樹脂集電体を用いたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
高分子材料に導電性フィラーを分散させる形態の樹脂集電体の場合、十分な導電性が得られないといった課題や、導電性フィラーを介して電解液の液滲みが生じる等の課題があり、これらを解決するために導電性フィラーの種類や量を最適化する試み(特許文献2参照)や、樹脂集電体の少なくとも一方に抵抗低減層として金属層を設ける試み(特許文献3参照)がなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-62081号公報
【特許文献2】特開2020-61300号公報
【特許文献3】特開2020-126803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂集電体が十分な導電性を有することと、液滲みが生じないこと、及び、異常時安全性が高いこととがトレードオフの関係にあり、これらの両立という観点で、従来の試みでは十分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、十分な導電性を有し、液滲みを抑制することができ、異常時安全性が高いリチウムイオン電池用集電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、樹脂集電体(本発明では導電性樹脂層ともいう)が有する2つの主面のうち、一部に設けられた金属めっき部を備え、上記金属めっき部は、導電パスの出入り口である導電性樹脂層の表面から露出した上記導電性フィラーを覆っており、かつ、上記導電性フィラーの体積抵抗率と、上記金属めっき部の標準水素電極とを基準とした電極電位を所定の範囲にすることにより、上述した課題を全て解決できることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、高分子材料と導電性フィラーとを含む導電性樹脂層と、上記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部とを備え、上記金属めっき部は、上記導電性樹脂層の表面から露出した上記導電性フィラーを覆っており、上記導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であり、上記金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vであるリチウムイオン電池用集電体である。
【発明の効果】
【0011】
十分な導電性を有し、液滲みを抑制することができ、異常時安全性が高いリチウムイオン電池用集電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の別の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<リチウムイオン電池用集電体>
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、高分子材料と導電性フィラーとを含む導電性樹脂層と、上記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部とを備え、上記金属めっき部は、上記導電性樹脂層の表面から露出した上記導電性フィラーを覆っており、上記導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であり、上記金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vである。
【0014】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、リチウムイオン電池用集電体10では、導電性樹脂層1と、導電性樹脂層1が有する主面の一部に設けられた金属めっき部2とを備える。
導電性樹脂層1は、導電性フィラー3により形成された導電パスを有しており、導電性樹脂層1の表面から露出した導電性フィラー3が金属めっき部2により覆われている。
【0015】
図2は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の別の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、リチウムイオン電池用集電体10は、導電性樹脂層1が有する2つの主面の一部に金属めっき部2を備える。
導電性樹脂層1が有する2つの主面が金属めっき部2を備えることにより、液滲みを好適に抑制することができ、異常時安全性を好適に付与することができる。
以下、本発明のリチウムイオン電池用集電体の各構成について説明する。
【0016】
(導電性樹脂層)
本発明のリチウムイオン電池用集電体において、導電性樹脂層は、高分子材料と導電性フィラーとを含む。
【0017】
高分子材料としては、特に制限はないが、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリオレフィン[ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、及びポリシクロオレフィン(PCO)等]が挙げられる。より好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)が挙げられる。
また、これらのポリオレフィン樹脂の変性物(以下、変性ポリオレフィンという)又は混合物であってもよい。
【0019】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、以下のものが市場から入手できる。
PE:「ノバテックLL UE320」「ノバテックLL UJ960」いずれも日本ポリエチレン(株)製
PP:「サンアロマーPM854X」「サンアロマーPC684S」「サンアロマーPL500A」「サンアロマーPC630S」「サンアロマーPC630A」「サンアロマーPC900A」「サンアロマーPM900A」「サンアロマーPB522M」「クオリアCM688A」いずれもサンアロマー(株)製、「プライムポリマーJ-2000GP」(株)プライムポリマー製、「ウィンテックWFX4T」日本ポリプロ(株)製
PMP:「TPX」三井化学(株)製
【0020】
変性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入したものが挙げられ、極性官能基としては、カルボキシル基、1,3-ジオキソ-2-オキサプロピレン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基及びイミド基等が挙げられる。
【0021】
ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入した変性ポリオレフィンの例としては、三井化学株式会社製アドマーシリーズ等が市販されている。
【0022】
高分子材料の含有量は、導電性樹脂層の強度の観点から、導電性樹脂層の重量を基準として、20~80重量%であることが好ましく、30~75重量%であることがより好ましく、60~75重量%であることがさらに好ましい。
【0023】
導電性フィラーとしては、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)鋼、銀、銅及びチタン等]、黒鉛やハードカーボン等のカーボン材料[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及び、これらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。
【0024】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。
【0025】
なお、本明細書中において、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0026】
導電性フィラーの形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0027】
導電性フィラーは、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレスのような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。導電性フィラーが導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0028】
導電性フィラーは、電気的安定性の観点から、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ハードカーボン、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼及びチタンからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
なお、導電性フィラーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0029】
導電性フィラーの体積抵抗率は、1.0Ω・cm未満である。導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であれば、後述する金属めっき部を形成することができる。導電性フィラーの体積抵抗率は、0.1Ω・cm未満であることが好ましく、0.05Ω・cm未満であることがより好ましく、0.025Ω・cm未満であることが更に好ましい。
【0030】
導電性フィラーの体積抵抗率は、以下の方法で測定した体積抵抗率(Ω・cm)を意味する。すなわち、Φ20mmの電気抵抗測定治具内に導電性フィラーを入れて20kNの荷重をかけた状態で、電気抵抗測定器(ロレスタPAシステムMCP-PD51、日東精工製)及び抵抗計(ロレスタ-GX MCP-T700、日東精工製)を用いて、導電性フィラーの体積抵抗率(Ω・cm)を測定する。
【0031】
導電性フィラーの重量割合は、導電性樹脂層の重量を基準として、10~70重量%であることが好ましく、15~50重量%であることがより好ましく、20~40重量%であることがさらに好ましい。特に、導電性フィラーがカーボンの場合、導電性フィラーの重量割合は、導電性樹脂層の重量を基準として、20~30重量%であることが好ましい。
【0032】
導電性樹脂層は、必要に応じて、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、分散剤、着色剤、紫外線吸収剤、シリコーンオイル、可塑剤(フタル酸骨格含有化合物、トリメリット酸骨格含有化合物、リン酸基含有化合物及びエポキシ骨格含有化合物等)等が挙げられる。
【0033】
分散剤としては、三洋化成工業(株)製ユーメックスシリーズ、東洋紡(株)製ハードレンシリーズ、トーヨータックシリーズ、サンノプコ社製SNスパース70等を用いることができる。
【0034】
着色剤、紫外線吸収剤及び可塑剤等は、公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0035】
その他の成分の合計含有量は、導電性樹脂層の重量を基準として0.001~5重量%であることが好ましい。
【0036】
導電性樹脂層の平均膜厚は、例えば、30~100μmであることが好ましい。
導電性樹脂層の平均膜厚が上記範囲であることにより、十分な厚みの電極活物質層を形成することができ、リチウムイオン電池に十分な体積エネルギー密度を付与することができる。
【0037】
導電性樹脂層の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。
ポリオレフィン樹脂、及び、導電性フィラー、必要に応じてその他の成分を混合することにより、樹脂混合物を得る。
混合の方法としては、導電性フィラーのマスターバッチを得てから、さらに樹脂と混合する方法、及び、全ての原料を一括して混合する方法等がある。その混合はペレット状又は粉体状の成分を適切な公知の混合機、例えばニーダー、インターナルミキサー、バンバリーミキサー及びロールを用いて混合することで行うことができる。
【0038】
混合時の各成分の添加順序には特に限定はない。得られた混合物は、さらにペレタイザーなどによりペレット化又は粉末化してもよい。
【0039】
得られた樹脂混合物を例えばフィルム状に成形することにより導電性樹脂層が得られる。フィルム状に成形する方法としては、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。
なお、導電性樹脂層は、フィルム成形以外の成形方法によっても得ることができる。
【0040】
(金属めっき部)
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、上記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部を備え、金属めっき部は、導電性樹脂層の表面から露出した導電性フィラーを覆っている。
【0041】
金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vである。
金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が上記範囲であることにより、リチウムイオン電池用集電体に十分な導電性を付与することができる。
【0042】
金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位は、基準電極との電位差として、サイクリックボルタンメトリー等を用いて測定することができる。
例えば、正極側から、カーボンコートアルミ[昭和電工(株)製、SDX]、サンプル(金属めっき部を構成する金属の金属箔等)、セパレータ[商品名#3501、セルガード社製]、リチウム金属箔(4.0cm2)[商品名「リチウムフォイル(厚み0.5mm)」、本城金属(株)製]、銅箔をこの順に重ね合わせ、電解液を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、評価用セルを作製する。
作製した評価用セルを用い、電位領域3~5V(vs.Li/Li+)、電位掃引速度35mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行い、得られた酸化電位に対して、3.045を差し引いた値を、標準水素電極を基準とした電極電位とする。
【0043】
金属めっき部としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム、鉄、金、白金、銀、コバルト、及びマンガン等からなるものが挙げられる。
なかでも、上述した標準水素電極を基準とした電極電位を好適に充足し、リチウムイオン電池用集電体に導電性を好適に付与する観点から、金、白金及び銀からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
【0044】
金属めっき部の表面抵抗率が2.0×10-1~5.7×103Ω/□であることが好ましい。
金属めっき部の表面抵抗率が上記範囲であれば、リチウムイオン電池用集電体が導電性(電子伝導性)を十分に備えていると判断することができる。
金属めっき部の表面抵抗率は、3.0×10-1~4.8×103Ω/□であることがより好ましい。
なお、金属めっき部の表面抵抗率は、JIS K 7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)に準拠する方法により測定することができる。
【0045】
金属めっき部の平均膜厚は、0.03~3μmであることが好ましい。
金属めっき部の平均膜厚が上記範囲であれば、異常時安全性を好適に付与することができ、かつ、液滲みを好適に抑制することができる。
金属めっき部の平均膜厚は、0.1~1.0μmであることがより好ましい。
なお、金属めっき部の平均膜厚は、例えば、リチウムイオン電池用集電体を厚み方向に切断した断面に冷却クロスセクションポリッシャ(日本電子、IB-19520CCP)でイオンミリング処理を施し、垂直断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテク、S-4800)で拡大観察して、金属めっき部の平均膜厚を測定すればよい。
【0046】
金属めっき部は、導電性樹脂層が有する主面の一部に設けられている。
すなわち、金属めっき部は、導電性樹脂層が有する主面の全てを覆うもの(層状)ではない。
金属めっき部が、導電性樹脂層が有する主面の全てを覆う(層状)場合、面方向の導電性が高くなりすぎるため、異常時安全性が不十分となる。
導電性樹脂層の主面の面積に対する金属めっき部の面積としては、10~30%であることが好ましい。
【0047】
金属めっき部の形成方法について、例えば、金属めっき部が金(Au)である場合を例に挙げて説明する。
導電性樹脂層に対して、イートレックス(EEJA製)を用いた脱脂処理を行い、導電性樹脂層の表面を清浄化処理する。続いて、Auを10g/l含有するpH=14の電解めっき液を調製する。
なお、電解めっき液には、シアン化金カリウムを水に溶解させた水溶液等を用いることができる。
次いで、清浄化処理を行った導電性樹脂層が有する主面に対し、上記電解めっき液を用いた電解めっきを行い、電解めっき完了後、水洗、乾燥する。
上記方法により、導電性樹脂層表面の導電性フィラーが露出した部分に金からなる金属めっき部を形成することができる。
【0048】
上記は金属めっき部が金以外である場合、金属めっき部を構成する金属に応じて電解めっき液を調製すればよい。
例えば、金属めっき部が銀の場合は、シアン化銀カリウムを水に溶解させた水溶液等を用いればよく、金属めっき部が白金の場合は、塩化白金酸を水に溶解させた水溶液等を用いればよい。
【0049】
電解めっき条件としては、金属めっき部を構成する金属の種類、平均膜厚等に応じて適宜選択すればよい。
めっき温度は、例えば、40~60℃程度とすればよい。
電流密度は、例えば、0.1~3A/dm2程度とすればよい。
めっき時間は、例えば、1~30分程度とすればよい。
【0050】
導電性樹脂層が有する2つの主面が金属めっき部を備える場合には、導電性樹脂層の2つの主面に対して上記電解めっきを行えばよい。
【0051】
<リチウムイオン電池>
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、金属めっき部を備える側に電極活物質を備えることが好ましい。
本発明のリチウムイオン電池用集電体を用いたリチウムイオン電池は、液滲みを抑制することができ、異常時安全性が高いものとすることができる。
なお、本発明のリチウムイオン電池用集電体は、負極用集電体又は正極用集電体のいずれにも用いることができる。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、公知のリチウムイオン電池に適用することができる。
すなわち、正極活物質、負極活物質、電解液及びセパレータ等の材料としては、公知の材料を使用することができる。
【0053】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0054】
本開示(1)は、高分子材料と導電性フィラーとを含む導電性樹脂層と、上記導電性樹脂層が有する2つの主面のうち、少なくとも一方の主面の一部に設けられた金属めっき部とを備え、上記金属めっき部は、上記導電性樹脂層の表面から露出した上記導電性フィラーを覆っており、上記導電性フィラーの体積抵抗率が1.0Ω・cm未満であり、上記金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位が、0.79~1.52Vであるリチウムイオン電池用集電体である。
【0055】
本開示(2)は、上記金属めっき部を構成する金属が、金、白金及び銀からなる群から選択される少なくとも1種からなる本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用集電体である。
【0056】
本開示(3)は、上記金属めっき部の平均膜厚が、0.03~3μmある本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用集電体である。
【0057】
本開示(4)は、上記金属めっき部の表面抵抗率が2.0×10-1~5.7×103Ω/□である本開示(1)~(3)の何れかに記載のリチウムイオン電池用集電体である。
【0058】
本開示(5)は、上記導電性樹脂層が有する2つの主面が、上記金属めっき部を備える本開示(1)~(4)の何れかに記載のリチウムイオン電池用集電体である。
【0059】
本開示(6)は、上記導電性フィラーが、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ハードカーボン、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼及びチタンからなる群から選択される1種以上である本開示(1)~(5)の何れかに記載のリチウムイオン電池用集電体である。
【実施例0060】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0061】
後述する表1に記載の導電性フィラーは、以下の通りである。
AB(アセチレンブラック:製品名「デンカブラックLi-100」、デンカ(株)製)
黒鉛(薄片状黒鉛:体積平均粒子径4.5μm)
Ni(ニッケル:製品名「ニッケル粉 Type123」ヴァーレ社製)
FB(ファーネスブラック:製品名「Super-P」、TIMCAL社製)
KB(ケッチェンブラック:製品名「ケッチェンブラックEC300J」ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
白色酸化チタン(製品名「白色導電粉 W-1」三菱マテリアル電子化成(株)製)
なお、表1に記載の体積抵抗率は、本明細書に記載の方法を用いて測定した。
【0062】
(実施例1)
<導電性樹脂層の作製>
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70重量部、導電性フィラー(アセチレンブラック:製品名「デンカブラックLi-100」、デンカ(株)製)25重量部、及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5重量部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それをフィルム形状に成形することにより、平均膜厚が85μmの導電性樹脂層を作製した。
【0063】
<金属めっき部の形成>
作製した導電性樹脂層に対して、イートレックス(EEJA製)を用いた脱脂処理を行い、導電性樹脂層の表面を清浄化処理した。続いて、Auを10g/l含有するpH=14の電解めっき液(シアン化金カリウムを水に溶解させた水溶液)を調製した。
次いで、清浄化処理を行った導電性樹脂層が有する一方の主面に対し、上記電解めっき液を用いた電解めっきを行い、電解めっき完了後、水洗、乾燥し、導電性樹脂層の一方の主面(片面)の一部に平均膜厚が0.1μmの金からなる金属めっき部を備えたリチウムイオン電池用集電体を作製した。
なお、電解めっき条件は、めっき温度50℃、電流密度2A/dm2、めっき時間1分とした。
【0064】
(実施例2)
導電性樹脂層が有する2つの主面(両面)に対し、電解めっきを行ったこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0065】
(実施例3)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製し、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0066】
(実施例4)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製し、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0067】
(実施例5)
白金(Pt)を10g/l含有するpH=14の電解めっき液(塩化白金酸を水に溶解させた水溶液)を調製し、白金からなる金属めっき部を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0068】
(実施例6)
銀(Ag)を10g/l含有するpH=14の電解めっき液(シアン化銀カリウムを水に溶解させた水溶液)を調製し、銀からなる金属めっき部を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0069】
(実施例7)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製した。その後、表1に記載の平均膜厚の金属めっき部を形成した。上記以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0070】
(実施例8)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製した。その後、表1に記載の平均膜厚の金属めっき部を形成した。上記以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0071】
(比較例1)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製し、金属めっき部を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
【0072】
(比較例2)
表1に記載の導電性フィラーを用いて導電性樹脂層を作製し、実施例1と同様にして導電性樹脂層の一方の主面(片面)の全面に平均膜厚が0.1μmの金属めっき部を形成しようとしたが、金属めっき部を形成することができなかった。
なお、電解めっき条件は、めっき温度50℃、電流密度0.1A/dm2、めっき時間20分とした。
【0073】
(比較例3)
電解めっき条件を変更して導電性樹脂層の一方の主面(片面)の全面に平均膜厚が0.1μmの金属めっき部を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
なお、電解めっき条件は、めっき温度50℃、電流密度2.0A/dm2、めっき時間2分とした。
【0074】
(比較例4)
電解めっき条件を変更して導電性樹脂層の一方の主面(片面)に平均膜厚4.0μmの金属めっき部を作製したところ、導電性樹脂層の一方の主面の全面に金属めっき部が形成された。上記以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製した。
なお、電解めっき条件は、めっき温度50℃、電流密度5.0A/dm2、めっき時間16分とした。
【0075】
(比較例5)
電解めっき条件を変更して導電性樹脂層の一方の主面(片面)の全面に平均膜厚が0.01μmの金属めっき部を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用集電体を作製したが、上記金属めっき部では、導電性樹脂層の表面から露出した導電性フィラーを覆うことができなかった。
なお、電解めっき条件は、めっき温度50℃、電流密度0.1A/dm2、めっき時間2分とした。
【0076】
<標準水素電極を基準とした電極電位>
金属めっき部を構成する金属の標準水素電極を基準とした電極電位は、正極側から、カーボンコートアルミ[昭和電工(株)製、SDX]、サンプル(金属めっき部を構成する金属の金属箔等)、セパレータ[商品名#3501、セルガード社製]、リチウム金属箔(4.0cm2)[商品名「リチウムフォイル(厚み0.5mm)」、本城金属(株)製]、銅箔をこの順に重ね合わせ、電解液を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、評価用セルを作製した。
作製した評価用セルを用い、電位領域3~5V(vs.Li/Li+)、電位掃引速度35mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行い、得られた酸化電位に対して、3.045を差し引いた値を、標準水素電極を基準とした電極電位とした。
【0077】
<表面抵抗率の測定>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン電池用集電体について、金属めっき部の表面抵抗率をJIS K 7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)に準拠して測定した。
【0078】
<内部抵抗値の測定>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン電池用集電体の金属めっき部を備える側に正極活物質スラリーを塗工したものを正極とし、同様に銅箔(古川電工製)に負極活物質スラリーを塗工したものを負極とした。ここで得られた正極と負極とを枠材付セパレータを介して貼り合わせ、評価用リチウムイオン電池を作製し、内部抵抗値を測定した。
以下にそのプロセスを詳しく示す。
【0079】
<正極の作製>
[被覆用高分子化合物とその溶液の作製]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF70.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸ブチル20.0部、アクリル酸55.0部、メタクリル酸メチル22.0部、アリルスルホン酸ナトリウム3部及びDMF20部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.8部をDMF10.0部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃に昇温し反応を5時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液はテフロン(登録商標)製のバットに移して120℃、0.01MPaで3時間の減圧乾燥を行ってDMFを留去し、被覆用高分子化合物を得た。
【0080】
[被覆正極活物質の作成]
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記被覆用高分子化合物をイソプロパノールに1.0重量%の濃度で溶解して得られた被覆用高分子化合物溶液11.2部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤としてアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.2部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を得た。
【0081】
[評価用リチウムイオン電池の正極の作製]エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO2)2を2mol/Lの割合で溶解させて作製したリチウムイオン電池用電解液42部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]4.2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合し、続いて上記電解液30部と上記被覆正極活物質206部を追加した後、更にあわとり練太郎により2000rpmで1.5分間混合し、上記電解液20部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、上記電解液2.3部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1.5分間混合して、正極活物質スラリーを作製した。
得られた正極活物質スラリーをそれぞれ実施例及び比較例で作製したリチウムイオン電池用集電体の金属めっき部を備える側に塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、リチウムイオン電池用正極(58mm×42mm)を作製した。
【0082】
<負極の作製>
[被覆用高分子化合物とその溶液の作製]
上記<正極の作製>において用いた被覆用高分子化合物とその溶液を作製した。
【0083】
[被覆負極活物質の作成]
炭素系材料である難黒鉛化性炭素粉末(体積平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記被覆用高分子化合物をイソプロパノールに19.8重量%の濃度で溶解して得られた被覆用高分子化合物溶液9.2部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]11.3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質を得た。
【0084】
[評価用リチウムイオン電池の負極の作製]エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO2)2を2mol/Lの割合で溶解させて作製したリチウムイオン電池用電解液20部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合し、続いて上記電解液50部と上記被覆負極活物質98部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで1.5分間混合し、上記電解液25部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に上記電解液50部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1.5分間混合して、負極活物質スラリーを作製した。
得られた負極活物質スラリーをそれぞれ銅箔[古河電工(株)製]の片面に塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、リチウムイオン電池用負極(62mm×46mm)を作製した。
【0085】
[セパレータ本体の製造]
平板状のセルガード2500(PP製、厚さ25μm)を70mm×55mmの正方形に切り出して、セパレータ本体とした。
【0086】
[枠状部材の作製]
シール層となる低融点ポリエチレン(PE)からなる積層フィルムを延伸して厚さ25μmの延伸フィルム(低融点PE延伸フィルム)を準備した。その後、耐熱性環状支持部材となるポリエチレンナフタレート(帝人社製、PEN)からなる厚さ250μmのフィルムと接着性ポリオレフィン系樹脂フィルム(三井化学社製、アドマーVE300、厚さ50μm)とを加熱ロールまたはラミネート機により接着して積層体を準備した。その後、積層体を90mm×74mmの長方形に切断し、さらに、中央の66mm×50mmの長方形の領域を打ち抜くことにより、PENからなる耐熱性環状支持部材(PEN層)と低融点PE延伸フィルムからなるシール層(低融点PE層)とが積層され、長方形の4辺における環状の積層体(枠状部材)を得た。
【0087】
[セパレータ本体と枠状部材との接合]
枠状部材の外形寸法に基づく重心とセパレータ本体の外形寸法に基づく重心が重なるように、かつ、各枠状部材のPEN層がそれぞれセパレータ本体と接触するように、セパレータ本体の両面に枠状部材を貼り合わせ、インパルスシーラーを用いて接着することにより、セパレータ本体の外周に沿って枠状部材が環状に配置されたリチウムイオン電池用セパレータを得た。
なお、正極用集電体と接触する側のシール層(低融点PE層)を第1シール層、負極用集電体と接触する側のシール層(低融点PE層)を第2シール層とする。
PEN層は、外周から幅0.5mmの部分では互いに接触しているが、その内側の幅1.5mmの部分ではセパレータ本体を介して対向している。
【0088】
[評価用リチウムイオン電池の作製]
負極に予めセパレータを電解液で湿らせた枠材付セパレータを乗せ(このときの負極に乗せる面は、セパレータが枠材に貼り合わされている面と逆の面)、この負極と枠材付セパレータが一体化したものと、作製したリチウムイオン電池用正極を重ね合わせた。重ね合わせた後に3辺を加熱シーラーにて長辺、短辺、長辺の順でシールした。最後の1辺は、トスパック(TOSEI製)を用いてセル内を真空にし、短辺をシールした。
このとき得られたセルをアルミラミセル(正極:カーボンコートアルミ、負極:銅箔)に入れて、充放電試験を行った。
【0089】
[内部抵抗値の測定]
25℃に温調した恒温槽内で、充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]を用いてリチウムイオン電池の充放電を実施した。
0.1Cの電流で電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電した。
0.1C放電時における放電0秒後の電圧及び電流、並びに、0.1Cにおける放電10秒後の電圧及び電流を測定し、以下の式により電池内部抵抗(Ω・cm2)を算出した。電池内部抵抗の数値が小さいほど電池性能が良好であることを示す。
[内部抵抗(Ω)]×[電極面積(cm2)]={[(0.1Cにおける放電0秒後の電圧)-(0.1Cにおける放電10秒後の電圧)]/[(0.1Cにおける放電0秒後の電流)-(0.1Cにおける放電10秒後の電流)]}×[電極面積(cm2)]
【0090】
<液滲み試験>
[評価用コインセルの作製と液滲み試験]
「内部抵抗値の測定」において作製した評価用リチウムイオン電池(評価用ラミネートセルともいう)を、充放電測定装置[「HJ1001SM8A」、北斗電工株式会社製]を用いて電圧4.2Vまで充電し、温度45度、電圧4.2Vの状態のまま200時間保持した。
[液滲みの有無評価]
上記評価用ラミネートセルについて、上記充放電試験後のセルのリチウムイオン電池用集電体の外側に、液滴等のセル内部から浸透した液滲みがないか目視で確認した。電解液由来による液滴がなければ液滲み判定を無し(表1中では「〇」と表記)と判断し、液滴が滲み出ていたら液滲み判定をあり(表1中では「×」と表記)と判断した。
【0091】
<釘指し試験>
電池を満充電した後、直径3mmの釘状の導電体で「内部抵抗値の測定」において作製した評価用リチウムイオン電池をセルの厚さ方向に貫通させる釘刺し試験を実施した。
釘刺し試験結果の良否判断は、発煙および発火の有無により行った。発煙および発火が観察された場合にはNG(表1中では「×」と表記)とし、発煙および発火が観察されなかった場合はOK(表1中では「〇」と表記)とした。
【0092】
【0093】
表1より、実施例のリチウムイオン電池用集電体は、十分な導電性を有しており、かつ、これを用いた場合に液滲みを抑制することができ、異常時安全性が高いリチウムイオン電池が得られることが確認された。
一方で、金属めっき部が形成されていない比較例1、2のリチウムイオン電池用集電体では、液滲みを抑制することができず、導電性樹脂層の主面の全面に金属めっき部が形成された比較例3、4のリチウムイオン電池用集電体では、異常時安全性が不十分であり、導電性樹脂層の表面から露出した導電性フィラーが金属めっき部により覆われていない比較例5のリチウムイオン電池用集電体では、液滲みを抑制することができなかった。