(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097198
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20240710BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01M12/06 F
H01M12/06 G
H01M12/06 Z
H01M4/90 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000570
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018EE01
5H018EE16
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS06
5H032AS19
5H032CC16
5H032EE08
5H032EE17
5H032EE20
5H032HH02
(57)【要約】
【課題】白金などのレアメタルを使用しないため比較的安価であり、また、正極側で優れた酸素還元触媒能を有し、高容量かつ高出力化を可能とする空気電池を提供すること。
【解決手段】フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む正極と、
負極と、
正極電解質と、
前記正極電解質のpHよりも大きいpHを有する負極電解質と、
前記正極電解質と前記負極電解質との間を仕切るセパレータと
を備える、空気電池。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む正極と、
負極と、
正極電解質と、
前記正極電解質のpHよりも大きいpHを有する負極電解質と、
前記正極電解質と前記負極電解質との間を仕切るセパレータと
を備える、空気電池。
【請求項2】
前記金属錯体又はその付加体が、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記式(1)又は(2)において、Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子である、請求項2に記載の空気電池。
【請求項4】
前記式(1)又は(2)において、D1からD16が、窒素原子又は炭素原子である、請求項2に記載の空気電池。
【請求項5】
前記式(1)又は(2)において、D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である、請求項2に記載の空気電池。
【請求項6】
前記金属錯体又はその付加体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表される、請求項2に記載の空気電池。
【請求項7】
前記正極電解質のpHが、-2より大きく、7以下である、請求項1又は2に記載の空気電池。
【請求項8】
前記負極電解質のpHが、7より大きく、16以下である、請求項1又は2に記載の空気電池。
【請求項9】
前記セパレータが、陰イオン交換膜である、請求項1又は2に記載の空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電極における酸化還元反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスの一つとして、空気電池が知られている。空気電池はリチウムイオン電池と比較して容量が大きいという特徴を有しているが、パワー密度が小さく、その用途が限定される場合があった。
【0003】
一方、ドローンや電気自動車などのバッテリーには従来と比べて高容量化が求められており、このような高容量化を必要とする用途に空気電池を適用することが期待されている。したがって、高容量という特性を維持したまま、高い出力を可能とする空気電池が求められていた。
【0004】
特許文献1には、電解質をセパレータにより正極側領域と負極側領域に仕切ることにより、電解質中のサレン系金属錯体の濃度を制御した空気電池が提案されている。しかしながら、サレン系金属錯体を利用した酸素還元触媒能は十分なものではなかった。また、その出力は依然として低く、高出力が求められるドローンや電気自動車への応用には不十分なものであった。
【0005】
また、空気電池の正極側で還元反応を促進するための触媒としては、白金を用いることが一般的である。しかしながら、白金などのレアメタルは高価であるとともに資源量も限られているため、レアメタルを使用することなく、安価な触媒を使用することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、白金などのレアメタルを利用することなく、正極側で優れた酸素還元触媒能を有するとともに、高容量かつ高出力化を可能とする空気電池が求められていた。
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、白金などのレアメタルを使用しないため比較的安価であり、また、正極側で優れた酸素還元触媒能を有し、高容量かつ高出力化を可能とする空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む正極を使用し、かつ、正極電解質と負極電解質で異なるpHを有する電解質を使用することにより、優れた酸素還元触媒能を有するとともに、空気電池の高出力化を実現することができることを見出し本発明に到達した。
【0010】
本発明の態様1は、
フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む正極と、
負極と、
正極電解質と、
前記正極電解質のpHよりも大きいpHを有する負極電解質と、
前記正極電解質と前記負極電解質との間を仕切るセパレータと
を備える、空気電池である。
【0011】
本発明の態様2は、態様1において、前記金属錯体又はその付加体が、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される。
【0012】
本発明の態様3は、態様1又は態様2において、前記Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子である。
【0013】
本発明の態様4は、態様1から3のいずれか一つにおいて、D1からD16が、窒素原子又は炭素原子である。
【0014】
本発明の態様5は、態様1から4のいずれか一つにおいて、D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である。
【0015】
本発明の態様6は、態様1から5のいずれか一つにおいて、前記金属錯体又はその付加体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表される。
【0016】
本発明の態様7は、態様1から6のいずれか一つにおいて、前記正極電解質のpHが、-2より大きく、7以下である。
【0017】
本発明の態様8は、態様1から7のいずれか一つにおいて、前記負極電解質のpHが、7より大きく、16以下である。
【0018】
本発明の態様9は、態様1から8のいずれか一つにおいて、前記セパレータが、陰イオン交換膜である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、本発明の空気電池を用いることによって、優れた酸素還元触媒能を有するとともに、高容量かつ高出力の空気電池を提供することができる。
【0020】
また、本発明は、白金などのレアメタルを使用することなく優れた酸素還元触媒能を有する電極を提供することができるため、比較的安価な空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】正極電解質と負極電解質とがセパレータで仕切られていない空気電池の模式図を示す。
【
図3】正極電解質と負極電解質とがセパレータで仕切られた本発明の空気電池の模式図を示す。
【
図4】実施例及び比較例2の空気電池のI-V及びI-P特性を示す。
【
図5】実施例及び比較例2の空気電池の放電特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の空気電池は、
フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む正極と、
負極と、
正極電解質と、
前記正極電解質のpHよりも大きいpHを有する負極電解質と、
前記正極電解質と前記負極電解質との間を仕切るセパレータと
を備えることを特徴とする。
【0023】
[正極]
本発明の空気電池の正極は空気極とも呼ばれるものであり、フタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を触媒として含む。正極は基材の上にフタロシアニン系又はアザフタロシアニン系の金属錯体又はその付加体を含む触媒層を備えることができ、当該金属錯体又はその付加体は酸素還元反応用の触媒として使用することができる。また、触媒層は導電性材料を含んでいてもよい。触媒層は基材と直接接触していてもよく、あるいは基材と触媒層との間に他の層が存在していてもよい。
【0024】
金属錯体又はその付加体は1種のみを用いることもできるが、2種以上の金属錯体又はその付加体を組み合わせて用いることもできる。金属錯体はアザフタロシアニン骨格を有することが好ましく、以下の式(1)又は(2):
【化7】
(式中、
Mは金属原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表されることが好ましい。
【0025】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。さらに、電気的に中性の分子が付加した付加体として存在していてもよい。
【0026】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体又はその付加体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0027】
Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、及びローレンシウム原子が例示される。これらの中でも、Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、又は亜鉛原子であることが好ましく、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、又は銅原子であることがより好ましい。
【0028】
本発明においてハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が例示される。
【0029】
本発明においてアルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0030】
本発明においてシクロアルキル基とは、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0031】
本発明においてアルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0032】
本発明においてアルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチン-1-イル基(1-ブチニル基)、2-ブチン-1-イル基(2-ブチニル基)、3-ブチン-1-イル基(3-ブチニル基)、1-メチル-2-プロピン-1-イル基(1-メチル-2-プロピニル基)、2-メチル-3-ブチン-2イル基(2-メチル-3-ブチニル基)、1-ペンチン-1-イル基(1-ペンチニル基)、2-ペンチン-1-イル基(2-ペンチニル基)、3-ペンチン-2-イル基(3-ペンチニル基)、4-ペンチン-1-イル基(4-ペンチニル基)、1-メチル-2-ブチン-1-イル基(1-メチル-2-ブチニル基)、2-メチル-3-ペンチン-1-イル基(2-メチル-3-ペンチニル基)、1-ヘキシン-1-イル基(1-ヘキシニル基)、及び1,1-ジメチル-2-ブチン-1-イル基(1,1-ジメチル-2-ブチニル基)が例示される。
【0033】
本発明においてアリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0034】
本発明においてアルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0035】
本発明においてアルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0036】
本発明においてアルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0037】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0038】
D1からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。D1からD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0039】
好ましくは、本発明の空気電池に使用される金属錯体又はその付加体は、以下の式で表される化合物である。
【0040】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0041】
金属錯体又はその付加体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0042】
導電性材料は、導電性を具備するものであれば特に限定されないが、例えば、炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料が挙げられる。導電性材料としては炭素材料が好ましい。導電性材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも炭素材料は、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、又はカーボンナノチューブであることが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、又はグラフェンであることがより好ましい。
【0044】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。
【0045】
炭素材料は、ヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、及びケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、又は珪化されていてもよい。
【0046】
金属材料としては、チタン及びスズを挙げることができる。また、金属酸化物材料としては、チタン酸化物及びスズ酸化物(SnO2、ITO、ATO)等が挙げられる。
【0047】
導電性材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、及びスルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有していてもよい。特に、炭素材料は、カルボキシル基を有していることが好ましい。導電性材料がカルボキシル基を有することにより、導電性材料の表面に金属錯体が吸着しやすくなり、触媒の耐久性が向上するとともに、酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0048】
導電性材料は、酸化処理による表面処理を行ってもよい。特にカーボンブラック等の炭素材料は酸化処理をすることで、カルボキシル基やヒドロキシル基等の親水性官能基を付与することにより金属錯体との相互作用を改良することができ、イオン化ポテンシャルを最適な範囲に制御することが可能となる。酸化処理の方法としては、公知の方法を採用することができ、硝酸、硫酸、塩素酸等の酸化剤水溶液中に撹拌混合する湿式処理や、プラズマ処理やオゾン処理等の気相処理を用いることが出来る。
【0049】
導電性材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、導電性材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、触媒の製造コストが低下するため有利である。また、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、触媒の耐久性及び酸素還元触媒能をさらに高めることができる。なお、カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定することができる。
【0050】
導電性材料の比表面積は0.8m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましく、100m2/g以上が特に好ましく、500m2/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m2/g以上であると、触媒の担持量を増やしやすくなり、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば、2000m2/gとすることができる。なお、比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0051】
導電性材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、5nm~1000μmが好ましく、10nm~100μmがより好ましく、20nm~10μmがさらに好ましい。導電性材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):導電性材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置又は電子顕微鏡等により測定することができる。
【0052】
本発明の触媒層において、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の含有量が前記上限値以下であると、触媒の導電性が優れる。また、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の割合が前記下限値以上であると、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0053】
正極を製造する方法は特に限定されないが、例えば、金属錯体又はその付加体及び溶媒を含む液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、溶媒を除去することによって製造してもよい。溶媒を除去する際には、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。また、真空蒸着等によって触媒層を基材の表面に設けてもよい。正極は触媒層を基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。
【0054】
溶媒は特に限定されないが、水などの無機溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、及び1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びアセトン等の非プロトン性極性溶媒;並びにクロロホルム、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、及びトルエン等の非極性溶媒が例示される。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
液状組成物は、任意成分として、任意の導電剤、バインダー、及びその他の添加剤を含むことができる。また、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を含んでもよい。パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。
【0056】
液状組成物は、金属錯体又はその付加体と、溶媒と、必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練することにより、製造することができる。混合又は混練は、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、及びボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。また、パーフルオロカーボン材料を含む液状組成物を調製する際には、金属錯体又はその付加体とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0057】
基材は特に限定されないが、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。また、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、及びリチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、及びアンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;並びにカーボンシート、グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、及びカーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材を使用することもできる。
【0058】
触媒層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、正極の耐久性が優れている。厚みが前記上限値以下であると、正極の性能が低下しにくくなる。
【0059】
正極は酸素還元反応用触媒としての機能を有しており、以下に示す還元反応の触媒としての機能を有する。
O2+4H++4e-→2H2O
O2+2H2O+4e-→4OH-
【0060】
[負極]
本発明の空気電池の負極は金属極とも呼ばれるものであり、負極活物質を含むものであれば特に限定されない。負極活物質としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リチウム、及び亜鉛等の金属単体、これらの金属の合金、並びにこれらの金属の酸化物が例示される。
【0061】
[正極電解質及び負極電解質]
本発明の空気電池は、正極電解質と、前記正極電解質のpHよりも大きいpHを有する負極電解質とを備える。正極電解質及び負極電解質は、特に限定されないが、水性電解質が好ましい。
【0062】
本発明の空気電池の正極電解質は、特に限定されないが、塩酸水溶液及び硫酸水溶液等の酸性水溶液であることが好ましい。具体的には、正極電解質のpHは、-2より大きく、7以下であることが好ましく、-1.5より大きく、5以下であることがより好ましく、-1より大きく、3以下であることが特に好ましい。正極電解質のpHを7以下とすることで、より高い正極の電極電位を得ることができる。正極電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明の空気電池の負極電解質は、特に限定されないが、水酸化カリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液であることが好ましい。具体的には、負極電解質のpHは、7より大きく、16以下であることが好ましく、9より大きく、15以下であることがより好ましく、11より大きく、14以下であることが特に好ましい。負極電解質のpHを7より大きくすることで、高い理論電圧を得ることができる。負極電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明の空気電池の正極電解質及び負極電解質は、電解質供給経路及び電解質排出経路を備えたフロー式であってもよい。すなわち、正極電解質及び負極電解質を、ポンプ等の送液手段によって循環させることによって、正極電解質又は負極電解質の劣化によって電池の性能が低下することなく、安定した電位及び出力を得ることができる。また、電解質と電極を効率よく接触させることができ、反応を効率的に進行させることができる。
【0065】
正極電解質及び負極電解質がフロー式である場合、各電解質はタンクを備えることができ、電解質供給経路及び電解質排出経路をタンクと接続することができる。タンクを大きく設計することにより、空気電池の容量を大きくすることが可能となり、寿命の長い電池とすることができる。
【0066】
したがって、本発明の空気電池の正極電解質は、正極電解質供給経路、正極電解質排出経路、正極用送液手段、及び正極用タンクを備えていてもよく、正極電解質はフロー式で循環していてもよい。同様に、本発明の空気電池の負極電解質は、負極電解質供給経路、負極電解質排出経路、負極用送液手段、及び負極用タンクを備えていてもよく、負極電解質はフロー式で循環していてもよい。
【0067】
本発明の空気電池は、負極電解質のpHを正極電解質のpHよりも大きくすることによって、高出力化を可能にするものである。この原理を、負極活物質が亜鉛の場合を例として、
図1を使用して説明する。
【0068】
図1は、亜鉛の電位-pH図を示す。
図1の横軸はpH、縦軸は電位を示しており、
図1から各pHにおける電池の理論電圧を求めることができる。電解質としてアルカリ性水溶液を使用した場合には、
図1の(a)で示したpH条件における電圧が理論電圧となる。これに対して、電解質として酸性水溶液を使用した場合には、
図1の(b)で示したpH条件における電圧が理論電圧となる。酸性条件下では理論電圧値は高いものの、亜鉛種の溶解が発生するため、電池容量を低下させ、水素ガスが発生してしまう。そのため、亜鉛空気電池では、通常、電解質としてアルカリ性水溶液が使用されている。
【0069】
本発明は、負極電解質のpHを正極電解質のpHよりも大きくすることによって、高い理論電圧を実現することができる。すなわち、正極では比較的pHが小さい電解質を使用し、負極では比較的pHが大きい電解質を使用することによって、金属種の溶解及びそれにともなう水素ガスの発生を抑制しつつ、高い理論電圧が得られるpH領域で正極の反応を進行させることができるものである。
【0070】
図2には、正極電解質と負極電解質とがセパレータで仕切られていない通常の空気電池の模式図を示す。電解質としてアルカリ性水溶液を使用した場合、正極の電極電位が低く、電池の理論電圧が低くなってしまう。これに対し、
図3には、正極電解質と負極電解質とがセパレータで仕切られた本発明の空気電池の模式図を示す。正極電解質として酸性水溶液を使用することができるため、正極の電極電位が比較的高くなり、高い理論電圧を得ることができる。その結果、高出力の空気電池を得ることができる。
【0071】
[セパレータ]
セパレータは正極電解質と負極電解質とを隔離し、正極側と負極側との間のイオン伝導性を確保する部材である。セパレータは特に限定されないが、イオン交換膜、特に水酸化物イオンのみを透過させる陰イオン交換膜であることが好ましい。セパレータは非多孔質膜でも多孔質膜であってもよく、多孔質膜の場合は、孔径は10μm以下が好ましい。
【0072】
[空気電池の構成]
本発明の空気電池は、正極、負極、正極電解質、負極電解質、及びセパレータを備えるものであるが、これらが一体となって構成されている形態であってもよく、各部品が別々に交換可能に取り外せる形態であってもよい。例えば、正極、負極、正極電解質、負極電解質、及びセパレータのそれぞれが着脱可能なカートリッジの形態であってもよく、正極及び正極電解質が一体となってカートリッジを構成していてもよく、負極及び負極電解質が一体となってカートリッジを構成していてもよく、正極、正極電解質、及びセパレータが一体となってカートリッジを構成していてもよい。カートリッジの構造は、他の部品と着脱可能なものであれば、特に限定されない。
【0073】
特に空気電池を構成する部品のうち、負極及び負極電解質を着脱可能に設けることで、負極が消費された後に、正極、正極電解質、及びセパレータを再度使用し、負極及び負極電解質のみを交換することで、正極等に使用される材料の消費を低減することができる。空気電池においては、放電に伴って負極を構成する金属が電解質中に溶解するため、負極の寿命に限界があった。これに対し、負極及び負極電解質をカートリッジとして交換可能にすることで、正極、正極電解質及びセパレータを製造するための資源及び費用を節約することができ、有利である。また、負極及び負極電解質のみを交換することで空気電池を使用し続けることができるとも考えることができ、長寿命化を実現することができる。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例>
2580mgのピリジン-2,3-ジカルボニトリルと1350mgの塩化鉄(III)六水和物と200mgのDBUのとを試験管で混合し、100mLのメタノールと100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)とを含む混合溶媒に溶解させ、溶解液を得た。溶解液を窒素置換し、180℃で3時間加熱し、化合物(16)を含む反応生成物を得た。反応生成物をアセトンで3回遠心分離し、乾燥させた。遠心分離後の沈殿物を濃硫酸に溶解させ、水に滴下し、化合物(16)を析出させた。析出した化合物(16)を遠心分離で回収し、メタノールで洗浄し、乾燥させ、目的とする金属錯体を得た。
【0076】
得られた化合物(16)1.0gと4.0gのケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、カーボンECP600JD)とを、250mLのDMSO中に分散させた。分散に際しては、超音波処理(20kHz)を15分間行った。得られた分散液から固液分離及びメタノール洗浄によって溶媒であるDMSOを除去し、80℃3時間乾燥させて、、残存している溶媒を120℃で3時間蒸発させ、正極用の触媒を得た。
【0077】
次いで、0.5gの得られた触媒を、ボールミルによって18mLのイソプロピルアルコールと、4.5mLの脱イオン水と、0.9mLの20質量%のNafion(登録商標)分散液と混合した。得られた混合液を18mLのイソプロピルアルコールと4.5mLの脱イオン水と混合し、1.29質量%の正極用触媒液を得た。
【0078】
得られた正極用触媒液を疎水性のカーボンシート(70mm×70mm)上に、触媒量が0.6mg/cm2となるようにスプレーコーターにより塗布して乾燥させ、正極を得た。
【0079】
上記で得られた正極、負極として亜鉛箔(厚さ0.2mm)、負極用電解質として6.0Mの水酸化カリウム水溶液、正極用電解質として3.5Mの塩酸水溶液、正極電解質と負極電解質との間を仕切るセパレータとして陰イオン交換膜(FuMA-Tech社製、Fumasep FAA-3-50)を使用し、空気電池を作製した。
【0080】
<比較例1>
電解質として6.0Mの水酸化カリウム水溶液を使用し、セパレータを使用しなかったこと以外は実施例と同様にして空気電池を作製した。
【0081】
<比較例2>
1.0gの20質量%のグラファイト化カーボン担持白金(Sigma-Aldrich社製、738549-1G)を、ボールミルによって4.2mLのイソプロピルアルコールと、4.2mLの脱イオン水と、1.8mLの20質量%のNafion(登録商標)分散液と混合した。得られた混合液を12.6mLのイソプロピルアルコールと混合し、5.0質量%の正極用触媒液を得た。得られた正極用触媒液を疎水性のカーボンシート(70mm×70mm)上に、触媒量が0.6mg/cm2となるようにスプレーコーターにより塗布して乾燥させ、正極を得たこと以外は実施例と同様にして空気電池を作製した。
【0082】
<電池性能の測定>
ポテンショスタット(Versastat-3及びVersastat-4)で電流電圧測定により電池の出力特性の評価を行い、抵抗を変化させての一定電流放電測定を行い、電池の容量特性の評価を行った。
【0083】
(I-V及びI-P特性)
実施例及び比較例の空気電池のI-V及びI-P特性を表1および
図4に示す。表1および
図4の結果から、実施例及び比較例1の開回路電圧(OCV)は、それぞれ2.25V及び1.56Vであった。これらの結果から、本発明の空気電池は、正極電解質と負極電解質で異なるpHを有する電解質を使用することにより、開回路電圧の値を大きく上昇させることができることが分かる。
【0084】
【0085】
また、実施例、比較例1及び比較例2の最大出力(Pmax)の値は、それぞれ318mW/cm2、225mW/cm2及び238mW/cm2であった。これらの結果から、本発明の空気電池は、特定の金属錯体又はその付加体を使用することにより、出力の値を大きく上昇させることができることが分かる。
【0086】
(放電特性)
実施例及び比較例2の空気電池の放電特性を
図5に示す。
図5の結果から、実施例の空気電池は、10mA/cm
2で放電した場合、初期の電圧は1.99Vであり、1.70V以上を維持していた。また、放電電流密度が10mA/cm
2、100mA/cm
2、200mA/cm
2及び300mA/cm
2のいずれの場合であっても、電圧がよく維持されることが分かった。さらに、正極の触媒としてPt/Cを使用する比較例2と比較しても、本願発明の空気電池の方が放電特性が優れていることも分かった。
本発明の空気電池は、優れた酸素還元触媒能を有するとともに、高出力であるため有用である。また、白金などのレアメタルを使用することもないため、製造コストを抑えることができ、大量生産に適した製造工程を設計することができる。