(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097213
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000613
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸次
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】村岡 大悟
(72)【発明者】
【氏名】森垣 勇人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 己思人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】高田 典子
【テーマコード(参考)】
4D020
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020CB01
4D020CB08
4D020CB25
4D020CC09
4D020DA03
4D020DB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸性ガスの回収量が多く、放散しにくい酸性ガス吸収剤等を提供する。
【解決手段】式(1)又は(2)の第二級ヘテロ環状アミンと、式(3)のアルカノールアミンを含む、酸性ガス吸収剤。該吸収剤を用いる酸性ガス除去方法及び除去装置。
(3)HNR
4R
5
R
1、R
2は、水素、水酸基、C1~6のヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基(但し、R
1、R
2の少なくとも一つは上記ヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基)。R
3は、水素、水酸基、C1~6のヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基(但し、R
3の少なくとも一つは上記ヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基)。R
4は、C1~8の分岐状又は環状のアルキル基。R
5は、C1~6の、水酸基を2つ以上有するアルキル基。pは2~4。qは3~6。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物と、下記一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物とを含んでなることを特徴とする、酸性ガス吸収剤。
【化1】
[R
1は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
R
2は、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
1およびR
2のうち少なくともひとつは、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
pは、それぞれ独立に、2~4の整数である。
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
3のうち少なくともひとつは、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
qは、3~6の整数である。]
ここで、前記第二級ヘテロ環状アミン化合物は、その環状骨格の構成員として酸素を含んでいてもよい。
【化2】
[R
4は、炭素数1~8の、分岐状または環状のアルキル基を表す。
R
5は、炭素数1~6の、水酸基を2つ以上有するヒドロキシアルキル基を表す。]
【請求項2】
前記第二級ヘテロ環状アミン化合物において、R2が、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシペンチル基、3-ヒドロキシペンチル基、4-ヒドロキシペンチル基、2-ヒドロキシヘキシル基、3-ヒドロキシヘキシル基、4-ヒドロキシヘキシル基、5-ヒドロキシヘキシル基からなる群から選択されるである、請求項1記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項3】
前記酸性ガス吸収剤の総質量に対する前記第二級ヘテロ環状アミン化合物の含有量が、10~50質量%である、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項4】
前記第二級ヘテロ環状アミン化合物が、
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、
1-(3-ヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(4-ヒドロキシブチル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(2-アミノエチル)ピペラジン、
1-(3-アミノプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジアミノプロピル)ピペラジン、
1-(4-アミノブチル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン、
1-(6-アミノヘキシル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン、
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、
4-(2-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(4-ヒドロキシブチル)ピペリジン、
4-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペリジン、
4-(2-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(3-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジアミノプロピル)ピペリジン、
4-(4-アミノブチル)ピペリジン、および
4-(6-アミノヘキシル)ピペリジン
からなる群から選択される、請求項1に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項5】
前記第二級アルカノールアミン化合物において、R4がイソプロピル基である、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項6】
前記第二級アルカノールアミン化合物において、R5が2,3-ジヒドロキシプロピル基である、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項7】
前記第二級アルカノールアミン化合物が、
3-(イソプロピルアミノ)-1,2-プロパンジオール、
4-イソプロピルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-イソプロピルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-イソプロピルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-secブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-secブチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-secブチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-secブチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-イソブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-イソブチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-イソブチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-イソブチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-シクロペンチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-シクロへキシルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-シクロへキシルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-シクロヘキシスアミノ-1,3-ブタンジオール、および
4-シクロヘキシルアミノ-2,3-ブタンジオール
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項8】
前記酸性ガス吸収剤の総質量に対する前記第二級アルカノールアミン化合物の含有量が、10~50質量%である、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項9】
酸性ガスを含有するガスと、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤とを接触させて、前記酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去することを特徴とする、酸性ガス除去方法。
【請求項10】
酸性ガスを含有するガスと請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用することを特徴とする、酸性ガス除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化現象の一因として二酸化炭素(CO2)濃度の上昇による温室効果が指摘され、地球規模で環境を守る国際的な対策が急務となっている。CO2の発生源としては産業活動によるところが大きく、その排出抑制への機運が高まっている。
【0003】
CO2をはじめとする酸性ガスの濃度の上昇を抑制するための技術としては、省エネルギー製品の開発、排出する酸性ガスの分離回収技術、酸性ガスの資源としての利用や隔離貯留させる技術、酸性ガスを排出しない自然エネルギーや原子力エネルギーなどの代替エネルギーへの転換などがある。
【0004】
現在までに研究されてきた酸性ガス分離技術としては、吸収法、吸着法、膜分離法、深冷法などがある。中でも吸収法は、ガスを大量に処理するのに適しており、工場や発電所への適用が検討されている。
【0005】
したがって、化石燃料を使用する火力発電所などの設備を対象に、化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)を燃焼する際に発生する排ガスを化学吸収剤と接触させ、燃焼排ガス中のCO2を除去して回収する方法、さらに回収されたCO2を貯蔵する方法が世界中で行われている。また、化学吸収剤を用いてCO2以外に硫化水素(H2S)等の酸性ガスを除去することが提案されている。
【0006】
一般に、吸収法において使用される化学吸収剤としてモノエタノールアミン(MEA)に代表されるアルカノールアミン類が1930年代ころから開発されており、現在も使用されている。この方法は、経済的でありまた除去装置の大型化が容易である。
【0007】
既存に広く使用されるアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2-アミノ2-メチルプロパノール、エチルジエタノールアミン、2-メチルアミノエタノール、2-イソプロピルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール(DMAE)、2-ジエチルアミノエタノール、エチレンジアミンなどがある。
【0008】
特に、2級アミンのメチルエタノールアミンおよびエチルエタノールアミンなどは、反応速度が速いため広く使用されてきた。しかし、これらの化合物は、再生に要するエネルギーが高く、腐食性や劣化し易いという課題がある。一方、メチルジエタノールアミンは、腐食性は低く、また再生に要するエネルギーも低いものの、吸収速度が低いという問題点を有する。したがって、これらの点を改善した、新しい吸着剤が開発されている。
【0009】
さて、酸性ガスの吸収剤として、アミン系化合物の中でも、特に構造的に立体障害を有するアルカノールアミンに対する研究が盛んに試みられている。立体障害を有するアルカノールアミンは、酸性ガスを重炭酸塩として吸収することができるため吸収量が多く、また再生に要するエネルギーが少ないという長所を有している。
【0010】
また、特定構造のジアミン化合物が公知の二酸化炭素吸収剤よりも高い吸収放出性能を有しながら、且つ低い反応熱で二酸化炭素と反応できるという長所を有している。
【0011】
一般的に、立体障害を有するアミン系化合物の反応速度は、その立体構造によって決定される反応の障害の程度に依存する。立体障害を有するアミン系化合物の反応速度は、例えばメチルエタノールアミン、エタノールアミンなどの2級アミンよりは低いものの、3級アミンよりは高い反応速度を有している。
【0012】
一方、アルカノールアミン類とは異なる構造を有するアミン系化合物として、環状アミンを吸収剤として使用する方法も知られている。
【0013】
さらに、吸収性は上記立体障害を有するアミン系化合物を含む吸収液に比べて劣るものの放散性を改善した吸収液も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008-307519号公報
【特許文献2】特許第5039276号公報
【特許文献3】特許第5575122号公報
【特許文献4】特許第2871334号公報
【特許文献5】特開2017-121610号公報
【特許文献6】特許第5688335号公報
【特許文献7】米国特許第4112052号明細書
【特許文献8】特開2019-098316号公報
【特許文献9】特開2019-202298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来から、アミノ化合物が有する立体障害は、酸性ガス吸収時の生成物に対する影響が大きく、低反応熱を示す重炭酸イオンの生成に有利に働くことが知られている。例えば、分岐構造を有するN-イソプロピルアミノエタノールは、二酸化炭素の吸収反応に対して低反応熱性を示すことが報告されている。しかしながら、この化合物は蒸気圧が大きいため大気中へ放散しやすい。
【0016】
上述のような従来技術は、酸性ガス吸収量や大気中に放散するなど酸性ガス吸収能力や環境面に関してはいまだ不十分であり、これらを同時に解決できる吸収液が求められている。
【0017】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、酸性ガスの回収量が多く、大気中への放散が少ない酸性ガス吸収剤、並びにこれを用いた酸性ガス除去方法除去装置および酸性ガス除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、下記の通り、特定の第二級ヘテロ環状アミン化合物と、特定の第二級アルカノールアミン化合物とを含んでなる酸性ガス吸収剤が、酸性ガスの回収量が多いことに加えて、アミン化合物の放散性も小さいことを見出した。
[1]
下記一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物と、下記一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物とを含んでなることを特徴とする、酸性ガス吸収剤。
【化1】
[R
1は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
R
2は、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
1およびR
2のうち少なくともひとつは、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
pは、それぞれ独立に、2~4の整数である。
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
3のうち少なくともひとつは、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
qは、3~6の整数である。]
ここで、前記第二級ヘテロ環状アミン化合物は、その環状骨格の構成員として酸素を含んでいてもよい。
【化2】
[R
4は、炭素数1~8の、分岐状または環状のアルキル基を表す。
R
5は、炭素数1~6の、水酸基を2つ以上有するヒドロキシアルキル基を表す。]
[2]
前記第二級ヘテロ環状アミン化合物において、R
2が、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシペンチル基、3-ヒドロキシペンチル基、4-ヒドロキシペンチル基、2-ヒドロキシヘキシル基、3-ヒドロキシヘキシル基、4-ヒドロキシヘキシル基、5-ヒドロキシヘキシル基からなる群から選択される、[1]に記載の酸性ガス吸収剤。
[3]
前記酸性ガス吸収剤の総質量に対する
前記第二級ヘテロ環状アミン化合物の含有量が、10~50質量%である、[1]または[2]に記載の酸性ガス吸収剤。
[4]
前記第二級ヘテロ環状アミン化合物が、
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、
1-(3-ヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(4-ヒドロキシブチル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(2-アミノエチル)ピペラジン、
1-(3-アミノプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジアミノプロピル)ピペラジン、
1-(4-アミノブチル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン、
1-(6-アミノヘキシル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン、
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、
4-(2-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(4-ヒドロキシブチル)ピペリジン、
4-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペリジン、
4-(2-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(3-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジアミノプロピル)ピペリジン、
4-(4-アミノブチル)ピペリジン、および
4-(6-アミノヘキシル)ピペリジン
からなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤。
[5]
前記第二級アルカノールアミン化合物において、R
4がイソプロピル基である、[1]~[4]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤。
[6]
前記第二級アルカノールアミン化合物において、R
5が2,3-ジヒドロキシプロピル基である、[1]~[5]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤。
[7]
前記第二級アルカノールアミン化合物が、3-(イソプロピルアミノ)-1,2-プロパンジオールである、[1]~[6]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤。
[8]
前記酸性ガス吸収剤の総質量に対する前記第二級アルカノールアミン化合物の含有量が、10~50質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤。
[9]
酸性ガスを含有するガスと、[1]~[8]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤とを接触させて、前記酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去することを特徴とする、酸性ガス除去方法。
[10]
酸性ガスを含有するガスと[1]~[8]のいずれかに記載の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用することを特徴とする、酸性ガス除去装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、酸性ガスの回収量が多く、放散が少ない酸性ガス吸収剤、これを用いた酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態について詳細に説明する。
<酸性ガス吸収剤>
本発明の実施形態の酸性ガス吸収剤は、下記一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物と、下記一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物とを含んでなること、を特徴とするものである。
【化3】
[R
1は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6(好ましくは、炭素数1~4)の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
R
2は、水素原子、水酸基、炭素数1~6の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
1およびR
2のうち少なくともひとつは、炭素数1~6(好ましくは、炭素数1~4)の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
pは、それぞれ独立に、2~4(好ましくは、2~3)の整数である。
R
3は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~6(好ましくは、炭素数1~4)の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。
ここで、R
3のうち少なくともひとつは、炭素数1~6(好ましくは、炭素数1~4)の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。
qは、3~6(好ましくは、3~5)の整数である。]
ここで、前記第二級ヘテロ環状アミン化合物は、その環状骨格の構成員として酸素を含んでいてもよい。
【化4】
[R
4は、炭素数3~8(好ましくは、炭素数3~6)の、分岐状または環状のアルキル基を表す。
R
5は、炭素数3~6(好ましくは、3~4)の、水酸基を2つ以上有するヒドロキシアルキル基を表す。]
以下の実施態様では、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明するが、本発明の実施形態の酸性ガス吸収剤は、硫化水素等、その他の酸性ガスに関しても同様の効果を得ることができる。
【0022】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、第二級アミン化合物であることから、第二級アミノ基の窒素原子が二酸化炭素と結合し、カルバメートイオンを形成することで、反応初期段階における吸収速度の向上に寄与する。さらに、第二級アミノ基の窒素原子は、これに結合した二酸化炭素を重炭酸イオン(HCO3
-)に転換する役割を担っており、反応後半段階の速度向上に寄与していると考えられる。
【0023】
一般式(3)で表される化合物も、同様に第二級アミン化合物であるが、炭素数1~8の分岐状または環状という立体的に嵩高いアルキル基を有するために、二酸化炭素と結合した際に、カルバメートイオンを形成するのと同時に重炭酸塩への変換が起こって、吸収量の増大に寄与していると考えられる。
【0024】
さらに、本発明の実施明の実施例態様によって回収される二酸化炭素の純度は、通常、95~99体積%程度と極めて純度が高いものである。この純粋な二酸化炭素または高濃度の二酸化炭素は、化学品、または高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いられる。その他、回収した二酸化炭素を、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【0025】
さらに、一般式(1)、(2)および(3)で表される化合物は、従来から酸性ガス吸収剤として用いられてきた2-アミノエタノール等のアルカノールアミン類と比較して、炭素鋼などの金属材料に対し、著しく高い耐腐食性を有している。したがって、このような酸性ガス吸収剤を用いた酸性ガス除去方法とすることで、例えばプラント建設において、高コストの高級耐食鋼を用いる必要がなくなり、コスト面で有利である。
【0026】
一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物におけるR1、R2またはR3が、「ヒドロキシアルキル基」である場合、このヒドロキシアルキル基の好ましい具体例しては、たとえば、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシペンチル基、3-ヒドロキシペンチル基、4-ヒドロキシペンチル基、2-ヒドロキシヘキシル基、3-ヒドロキシヘキシル基、4-ヒドロキシヘキシル基、5-ヒドロキシヘキシル基、などを挙げることができる、なお、ヒドロキシアルキル基としては、2-ヒドロキシプロピル基が特に好ましい。
【0027】
R1、R2またはR3が、「アミノアルキル基」である場合、このアミノアルキル基の好ましい具体例しては、たとえば、2-アミノエチル基、2-アミノプロピル基、3-アミノプロピル基、2-アミノブチル基、3-アミノブチル基、4-アミノブチル基、2-アミノペンチル基、3-アミノペンチル基、4-アミノペンチル基、5-アミノペンチル基、2-アミノヘキシル基、3-アミノヘキシル基、4-アミノヘキシル基、5-アミノヘキシル基、6-アミノへキシル基などを挙げることができる。なお、アミノアルキル基としては、2-アミノエチル基が特に好ましい。
【0028】
また、R1、R2またはR3の「ヒドロキシアルキル基」または「アミノアルキル基」において、アルキル基の好ましい具体例しては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。なお、二酸化炭素と、一般式(1)または(2)の第二級ヘテロ環状アミン化合物との反応性の観点から、R1、R2またはR3のアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。さらに、R1、R2またはR3のアルキル基は、Si、O、N、S等のヘテロ原子を含有していてもよい。
【0029】
一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物におけるR4(即ち、炭素数1~8の分岐状または環状のアルキル基)の好ましい具体例としては、例えば、イソプロピル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロへキシル基などを挙げることができる。二酸化炭素と、一般式(3)のアミン化合物との反応性の観点から、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が特に好ましい。
【0030】
一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物におけるR5(即ち、炭素数1~6の、水酸基を2つ以上有するアルキル基)の好ましい具体例としては、例えば、2,3-ジヒドロキシプロピル基、2,3-ジヒドロキシブチル基、2,4-ジヒドロキシブチル基、3,4-ジヒドロキシブチル基などを挙げることができる。二酸化炭素と、一般式(3)のアミン化合物との反応性の観点から、2,3-ジヒドロキシプロピル基が特に好ましい。
【0031】
上記のように水酸基を2つ有するアミン化合物は、酸性ガスの回収量が多く、優れた放散防止性を具備していることに加えて、入手容易性の観点からも優れている。なお、R5において水酸基の数の上限は、3程度である。
【0032】
一般式(1)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物の好ましい具体例としては、例えば下記を挙げることができる。
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、
1-(3-ヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペラジン、
1-(4-ヒドロキシブチル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペラジン、
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペラジン、
1-(2-アミノエチル)ピペラジン、
1-(3-アミノプロピル)ピペラジン、
1-(2,3-ジアミノプロピル)ピペラジン、
1-(4-アミノブチル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン、
1-(6-アミノヘキシル)ピペラジン、
1-(5-アミノペンチル)ピペラジン。
これらのうち、特に、1-(2-ヒドロキシプロピル)ピペラジン、1-(3-ヒドロキシプロピル)ピペラジン、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-(3-アミノプロピル)ピペラジンが好ましい。
なお、上記から選択された1種の化合物を用いることができ、また、上記から選択された2種以上の化合物を併用することができる。
【0033】
一般式(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物の好ましい具体例としては、例えば下記を挙げることができる。
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、
4-(2-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペリジン、
4-(4-ヒドロキシブチル)ピペリジン、
4-(6-ヒドロキシヘキシル)ピペリジン、
4-(2-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(3-アミノプロピル)ピペリジン、
4-(2,3-ジアミノプロピル)ピペリジン、
4-(4-アミノブチル)ピペリジン、
4-(6-アミノヘキシル)ピペリジン。
【0034】
これらのうち、特に、4-(2-ヒドロキシルエチル)ピペリジン、4-(2-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、4-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、4-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ピペリジン、4-(2-アミノプロピル)ピペリジンが好ましい。
なお、上記から選択された1種の化合物を用いることができ、また、上記から選択された2種以上の化合物を併用することができる。
【0035】
一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物の好ましい具体例としては、例えば下記を挙げることができる。
3-イソプロピルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-イソプロピルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-イソプロピルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-イソプロピルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-secブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-secブチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-secブチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-secブチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-イソブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-イソブチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-イソブチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-イソブチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-シクロペンチルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-シクロペンチルアミノ-2,3-ブタンジオール、
3-シクロへキシルアミノ-1,2-プロパンジオール、
4-シクロへキシルアミノ-1,2-ブタンジオール、
4-シクロヘキシスアミノ-1,3-ブタンジオール、
4-シクロヘキシルアミノ-2,3-ブタンジオール。
これらのうち、特に3-イソプロピルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-secブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-イソブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-シクロペンチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-シクロへキシルアミノ-1,2-プロパンジオールが好ましい。
なお、上記から選択された1種の化合物を用いることができ、また、上記から選択された2種以上の化合物を併用することができる。
【0036】
上記の一般式(1)、(2)、(3)で表されるアミン化合物を、例えば水などの溶媒に溶解させることで、本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤を得ることができる。
【0037】
実施形態による酸性ガス吸収剤において、一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物の含有量は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~40質量%、である。一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物の含有量は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~40質量%、である。
【0038】
実施形態による酸性ガス吸収剤において、溶媒として水を用いる場合、この水の量は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは30~60質量%、である。ここにおいて、酸性ガス吸収剤の全量(即ち、一般式(1)、(2)、(3)で表されるアミン化合物の合計量と、水との総量)を100質量%とする。
【0039】
一般に、アミン化合物の濃度が高い方が、単位容量当たりの二酸化炭素の吸収量ならびに脱離量が多くなり、また二酸化炭素の吸収速度、脱離速度が速くなるため、エネルギー消費の面やプラント設備の大きさ、処理効率の面においては好ましい。
【0040】
しかし、アミン化合物の濃度が高すぎると、二酸化炭素吸収のための活性剤としての水が充分に機能しないことや、吸収液の粘度が上昇するなどの問題点が生じることがある。
【0041】
アミン化合物(即ち、一般式(1)、(2)、(3)で表されるアミン化合物)の合計の含有量が60質量%以下の場合、そのような性能の低下は実質的に見られない。
【0042】
一般式(1)または(2)で表される第二級ヘテロ環状アミン化合物の含有量を10質量%以上とし、かつ一般式(3)で表される第二級アルカノールアミン化合物の含有量を10質量%以上とし、そして、一般式(1)、(2)、(3)で表されるアミン化合物の合計量を60質量%以下とすることは、二酸化炭素回収用として用いた場合、二酸化炭素の吸収量および二酸化炭素の吸収速度が高いだけでなく、二酸化炭素の脱離量ならびに二酸化炭素の脱離速度も高いため、二酸化炭素の回収を効率的に行える点で有利である。
【0043】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、必要に応じて、アルカノールアミン類を含むことができる。
そのようなアルカノールアミンの好ましい具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-ジプロパノールアミン、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、プロピルアミノエタノール、ジエタノールアミン、ビス(2-ヒドロキシ-1-メチルエチル)アミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノ-1-メチルエタノール、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-プロピルアミノエタノール、n-ブチルアミノエタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、3-エチルアミノプロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等を挙げることができる。
【0044】
アルカノールアミン類の含有量は、好ましくは0~10質量%である(ここでは、アルカノールアミン類を含有した酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。
【0045】
さらに、実施形態による酸性ガス吸収剤は、必要に応じて、プラント設備の腐食を防止するためのリン酸系等の防食剤や、泡立ち防止のためのシリコーン系等の消泡剤や、酸性ガス吸収剤の劣化防止のための酸化防止剤等を含むことができる。
【0046】
<酸性ガス除去方法>
本発明の実施形態の酸性ガス除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、前記の酸性ガス吸収剤とを接触させて、前記酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去すること、を特徴とするものである。
【0047】
以下、酸性ガスが二酸化炭素である場合について詳述する。
二酸化炭素の吸収分離工程の基本的な構成は、
(1)酸性ガス吸収剤に、二酸化炭素を含有するガス(例えば、燃焼ガス、排ガス等)を接触させて、酸性ガス吸収剤に二酸化炭素を吸収させる工程(二酸化炭素吸収工程)と、
(2)上記二酸化炭素の吸収工程で得られた、二酸化炭素が吸収された酸性ガス吸収剤を加熱して、二酸化炭素を脱離して回収する工程(二酸化炭素分離工程)とを含む。
【0048】
二酸化炭素を含むガスを、上記の酸性ガス吸収剤を含む水溶液に接触させる方法は特に限定されないが、例えば、酸性ガス吸収剤中に二酸化炭素を含むガスをバブリングさせて吸収する方法、二酸化炭素を含むガス気流中に酸性ガス吸収剤を霧状に降らす方法(噴霧乃至スプレー方式)、または磁製や金属網製の充填材の入った吸収器内で二酸化炭素を含むガスと酸性ガス吸収剤を向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0049】
二酸化炭素を含むガスを水溶液に吸収させる時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常、室温から60℃以下で行うことができる。好ましくは50℃以下、より好ましくは20~45℃程度で行うことができる。
【0050】
一般に、低温度で行うほど、酸性ガスの吸収量は増加するが、処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。二酸化炭素吸収時の圧力は通常ほぼ大気圧で行われる。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるために大気圧下で行うのが好ましい。
【0051】
二酸化炭素を吸収した酸性ガス吸収剤から二酸化炭素を分離し、純粋なまたは高濃度の二酸化炭素を回収する方法としては、蒸留と同じく酸性ガス吸収剤を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段器、スプレー器、磁製や金属網製の充填材の入った再生器内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。これにより、カルバミン酸アニオンや重炭酸イオンから二酸化炭素が遊離して放出される。
【0052】
二酸化炭素分離時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90~120℃、である。温度が高いほど酸性ガス回収量は増加するが、温度を上げると吸収液の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。
【0053】
二酸化炭素脱離時の圧力は、通常、大気圧から2気圧である。脱離性能を高めるためより低い圧力まで減圧することもできるが、減圧のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧以上で行うのが好ましい。
【0054】
二酸化炭素を分離した後の酸性ガス吸収剤は、再び二酸化炭素吸収工程に送られ循環使用(リサイクル)することができる。また、二酸化炭素吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において再生器に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0055】
上述した工程のうち、酸性ガス吸収剤から二酸化炭素を分離して酸性ガス吸収剤を再生する工程が、最も多量のエネルギーを消費する部分である。従って、酸性ガス吸収剤の再生工程における消費エネルギーを低減することにより、二酸化炭素の吸収分離工程のコストを低減でき、排気ガスからの酸性ガス除去を、経済的に有利に行うことができる。
【0056】
本実施形態によれば、上記の実施形態の酸性ガス吸収剤を用いることで、二酸化炭素脱離(再生工程)のために必要なエネルギーを低減することができる。このため、二酸化炭素の吸収分離工程を、経済的に有利な条件で行うことができる。
【0057】
<酸性ガス除去装置>
本発明の実施形態の酸性ガス除去装置は、
酸性ガスを含有するガスと前記の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用すること、を特徴とするものである。
【0058】
図1は、好ましい実施形態の酸性ガス除去装置の概略図である。
この酸性ガス除去装置1は、酸性ガスを含むガス(以下、排気ガスと示す。)と酸性ガス吸着剤とを接触させ、この排気ガスから酸性ガスを吸収させて除去する吸収器2と、酸性ガスを吸収した酸性ガス吸着剤から酸性ガスを分離し、酸性ガス吸着剤を再生する再生器3と、を備えている。以下、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明する。
【0059】
図1に示すように、例えば火力発電所から排出される燃焼排ガス等の、二酸化炭素を含む排気ガスが、ガス供給口4を通って吸収器2下部へ導かれる。この排気ガスは、吸収器2に押し込められ、吸収器2上部の酸性ガス吸収剤供給口5から供給された酸性ガス吸収剤と接触する。酸性ガス吸収剤としては、上述した実施形態に係る酸性ガス吸収剤を使用する。 酸性ガス吸収剤のpH値は、少なくとも9以上に調整すればよいが、排気ガス中に含まれる有害ガスの種類、濃度、流量等によって、適宜最適条件を選択することがよい。
【0060】
また、この酸性ガス吸収剤には、上記のアミン系化合物、および水などの溶媒の他に、二酸化炭素の吸収性能を向上させる含窒素化合物、酸化防止剤、pH調整剤等、その他化合物を任意の割合で含有していてもよい。
【0061】
このように、排気ガスが酸性ガス吸収剤と接触することで、この排気ガス中の二酸化炭素が酸性ガス吸収剤に吸収され除去される。二酸化炭素が除去された後の排気ガスは、ガス排出口6から吸収器2の外部へ排出される。
【0062】
二酸化炭素を吸収した酸性ガス吸収剤は、熱交換器7、加熱器8に送液され、加熱された後、再生器3に送液される。再生器3内部に送液された酸性ガス吸収剤は、再生器3の上部から下部に移動し、この間に、酸性ガス吸収剤中の二酸化炭素が脱離し、酸性ガス吸収剤が再生する。
【0063】
再生器3で再生した酸性ガス吸収剤は、ポンプ9によって熱交換器7、吸収液冷却器10に送液され、酸性ガス吸収剤供給口5から吸収器2に戻される。
【0064】
一方、酸性ガス吸収剤から分離された二酸化炭素は、再生器3上部において、還流ドラム11から供給された還流水と接触し、再生器3の外部へ排出される。
【0065】
二酸化炭素が溶解した還流水は、還流冷却器12で冷却された後、還流ドラム11において、二酸化炭素を伴う水蒸気が凝縮した液体成分と分離され、この液体成分は、回収二酸化炭素ライン13により二酸化炭素回収工程に導かれる。一方、二酸化炭素が分離された還流水は、還流水ポンプ14で再生器3に送液される。
【0066】
本実施形態の酸性ガス除去装置1によれば、二酸化炭素の吸収特性および脱離特性に優れた酸性ガス吸収剤を用いることで、効率の高い二酸化炭素の吸収除去を行うことが可能となり、そして、分離された高純度の二酸化炭素を得ることができる。
【0067】
そして、本実施形態の酸性ガス除去装置1によれば、放散性が防止された酸性ガス吸収剤を用いることで、吸収器2ならびに再生器3の内部から外部への酸性ガス吸収剤の放散が効果的に防止されている。このことにより、酸性ガス吸収剤では酸性ガス除去装置1の外部への放散が防止され、酸性ガス吸収剤の消費が防止されている。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明したが、上記の実施例は、本発明の一例として挙げたものであり、本発明を限定するものではない。
【0069】
また、上記の各実施形態の説明では、酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置において、本発明の説明に直接必要とされない部分等についての記載を省略したが、これらについて必要とされる各要素を適宜選択して用いることができる。
【0070】
その他、本発明の要素を具備し、本発明の趣旨に反しない範囲で当業者が適宜設計変更しうる全ての酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例0071】
以下、本発明について実施例、比較例を参照してさらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
3-(イソプロピルアミノ)-1,2-プロパンジオール30質量%、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン20重量%を水に溶解させ、50mlの水溶液(以下、吸収液と示す。)とした。この吸収液を試験管に充填して40℃に加熱し、二酸化炭素(CO2)10体積%、窒素(N2)ガス90体積%含む混合ガスを流速500mL/minで通気して、試験管出口でのガス中の二酸化炭素(CO2)濃度を赤外線式ガス濃度計を用いて測定し、試験管入口と出口のガス中の二酸化炭素(CO2)濃度が同じになるまで通気して吸収性能を評価した。
【0072】
また、上記のように混合ガスを40℃で吸収させた後の水溶液を70℃に加熱し、前記ガスを流速500mL/minで通気し、ガス中に含まれるCO2濃度を赤外線式ガス濃度測定計を用いて測定して回収量を評価した。なお、通気時間は試験管出口のガス中の二酸化炭素(CO2)濃度が一定になるまでとした。放散性は別途用意したCO2を吸収する前の上記アミン水溶液(100g)を40℃に加熱し、二酸化炭素(CO2)1体積%、窒素(N2)ガス99体積%含む混合ガスを、流速500mL/minで2時間通気した際に混合ガスに同伴されてくるアミン化合物を蒸留水中に回収して濃度を求めた。
40℃の吸収液におけるアミン化合物1mol当りの二酸化炭素吸収量、二酸化炭素回収量ならびにアミン化合物の放散性は、表1に示される通りである。
なお、表1に示される実施例1の各数値は、比較例1における値を1とした場合の相対値である。実施例2および実施例3についても同様である。
【0073】
<実施例2>
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンに代えて、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液(水溶液)を調製した。
実施例1と同様に、二酸化炭素吸収量、二酸化炭素回収量および放散性を評価した。
結果は、表1に示される通りである。
【0074】
<実施例3>
3-(イソプロピルアミノ)-1,2-プロパンジオールに代えて、3-(sec-ブチルアミノ)-1,2-プロパンジオールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液(水溶液)を調製した。
実施例1と同様に、二酸化炭素吸収量、二酸化炭素回収量および放散性を評価した。
結果は、表1に示される通りである。
【0075】
<比較例1>
3-(イソプロピルアミノ)-1,2-プロパンジオールに代えて、メチルジエタノールアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液(水溶液)を調製した。
実施例1と同様に、二酸化炭素吸収量、二酸化炭素回収量および放散性を評価した。
結果は、表1に示される通りである。
【0076】
実施例1~3による酸性ガス吸収剤は、比較例に比べてCO
2吸収量および回収量が多く、また放散量も同等に小さいことが認められた。
【表1】
【0077】
以上述べた実施形態によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの回収量を多くすることができるのと同時に放散性が小さいものとなっている。
1…酸性ガス除去装置、2…吸収器、3…再生器、4…ガス供給口、5…酸性ガス吸収剤供給口、6…ガス排出口、7…熱交換器、8…加熱器、9…ポンプ、10…吸収液冷却器、11…還流ドラム、12…還流冷却器、13…回収二酸化炭素ライン、14…還流水ポンプ