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特開2024-97221固形透析用剤および固形透析用剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097221
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】固形透析用剤および固形透析用剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20240710BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61K47/02
A61P7/08
A61K47/12
A61K47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000626
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 大介
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 建人
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康孝
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076BB12
4C076CC14
4C076CC21
4C076DD23
4C076DD41Z
4C076DD67
4C076FF01
4C076GG01
(57)【要約】
【課題】溶解性に支障がなく、保存安定性を有する固形透析用剤を提供すること。
【解決手段】糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含む、固形透析用剤であって、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備え、当該糖質成分が、ブドウ糖を含み、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含む、固形透析用剤であって、
前記糖質成分および前記電解質成分からなる混合領域を備え、
前記糖質成分が、ブドウ糖を含み、
前記固形透析用剤における前記糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満である、固形透析用剤。
【請求項2】
前記固形透析用剤における前記糖質成分の混合度が、0.30以上、0.85未満である、請求項1に記載の固形透析用剤。
【請求項3】
前記固形透析用剤における前記糖質成分の混合度が、0.40以上、0.85未満である、請求項1に記載の固形透析用剤。
【請求項4】
前記pH調整剤が酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物を含み、前記pH調整剤および前記電解質成分からなる混合領域をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の固形透析用剤。
【請求項5】
ブドウ糖を含む糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含み、前記糖質成分および前記電解質成分からなる混合領域を備える、固形透析用剤の製造方法であって、
容器に、前記糖質成分と、前記電解質成分と、前記pH調整剤とを、これら各成分が、前記容器の底面に対して略平行な層状となるように、かつ、前記糖質成分と前記pH調整剤とが接触しないように加える工程と、
成分が加えられた前記容器の上部に空間を設けて、蓋をする工程と、
前記固形透析用剤における前記糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満となるように、蓋をした前記容器を、水平に横転した状態で、前記容器の底面の中心を軸にして回転させる工程と、
を含む、固形透析用剤の製造方法。
【請求項6】
前記固形透析用剤における前記糖質成分の混合度が、0.30以上、0.85未満である、請求項5に記載の固形透析用剤の製造方法。
【請求項7】
前記糖質成分の混合度が、0.40以上、0.85未満である、請求項5に記載の固形透析用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形透析用剤および固形透析用剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析用剤は、透析液を作製するための薬剤である。透析液は、血液透析、血液濾過、腹膜透析などにより、本来腎臓が行う機能に代わって体液の老廃物を取り去り、場合によっては、血液中に必要な成分を補うために用いられるもので、体液に近い電解質組成を有する。透析用剤の剤型として、固形化された透析用剤が広く用いられている。
【0003】
透析用剤の固形化の手段としては、各原料成分(粉末)を混合して、粒状に造粒する顆粒化があるが、単位操作が複雑になり生産性が低下し、単位操作が増えることにより異物の混入の可能性が増大するという問題点がある。
【0004】
その他の固形化の手段として、顆粒剤に成形しない固形透析用剤も種々検討されている。顆粒剤に成形しない固形透析用剤は、顆粒化する場合よりも、生産性に優れるが、水で用事溶解(使用するときに溶解する)して用いる際に、原料成分同士が凝集して、規定時間内に薬剤を溶解できない場合がある。
【0005】
この問題に対し、特許文献1は、少なくとも電解質成分と、pH調整剤と、ブドウ糖とを含有し、混合度が、0.850以上1.000以下の範囲である透析用剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-188193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、透析用剤の溶解性は向上するものの、原料成分を均一に攪拌して完全に混合している状態またはそれに近い状態にする必要がある。このため、異なる成分間で一部反応が起こり得る。この成分間での反応は、時間経過とともに顕著になるため、特に、製品の長期保存時における安定性をさらに向上させる必要がある。
【0008】
また、透析用剤を完全またはそれに近い混合状態とするには、煩雑な操作、追加の設備も必要となり得る。例えば、自動化により大量生産を行う場合には、ロボットによる大がかりな操作、安全柵の設置等も必要となり得る。
【0009】
本発明の目的は、溶解性に支障がなく、保存安定性を有する固形透析用剤を提供することにある。また、簡便な方法による固形透析用剤の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る一態様は、糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含む、固形透析用剤であって、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備え、当該糖質成分が、ブドウ糖を含み、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満である。
【0011】
本発明に係る別の態様は、ブドウ糖を含む糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含み、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備える固形透析用剤の製造方法であって、容器に、当該糖質成分と、当該電解質成分と、当該pH調整剤とを、これら各成分が、当該容器の底面に対して略平行な層状となるように、かつ、当該糖質成分と当該pH調整剤とが接触しないように加える工程と、成分が加えられた当該容器の上部に空間を設けて、蓋をする工程と、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満となるように、蓋をした当該容器を、水平に横転した状態で、当該容器の底面の中心を軸にして回転させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固形透析用剤は、溶解性に支障がなく、保存安定性を有する。また、本発明の方法によれば、固形透析用剤を簡便に製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】透析用剤を、各区画に区分けした様子を示す模式図であり、(a)は、容器内に透析用剤が充填されている様子を示す図であり、(b)は、透析用剤を、底面でA~Dの4分割、高さ方向で1~6の6分割した様子を示す図であり、(c)は、(b)に示す透析用剤を、高さ方向で分離させ、各区画を1A、1B、・・・6C、6Dでナンバリングした図である。
図2】透析用剤を充填した容器の上部を取り除き、容器内にセパレータを挿入した様子を示す模式図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、平面図である。
図3】透析用剤の作製の様子を示す模式図であり、(a)は、容器に原料成分を、容器の底面から略平行な層状となるように加えた様子を示す図であり、(b)は、(a)において調製した各成分を充填した容器を、回転機の回転ローラーに横転状態で載置した様子を示す図であり、(c)は、回転機により原料成分を混合して作製した透析用剤を示す図である。
図4A】24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図であり、実施例1の透析用剤についてのブドウ糖の存在率を示す。
図4B】実施例2の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図4C】実施例3の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図4D】実施例4の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図4E】比較例1の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図4F】比較例4の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図4G】比較例5の透析用剤について、24に区分けをした透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示した図である。
図5】実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および比較例5の透析用剤についての透析用剤についての保存安定性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物も含まれ得る。
【0015】
<本発明に至る過程>
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至る過程を説明する。
【0016】
固形透析用剤は、糖質成分として、ブドウ糖を含む。ブドウ糖は、水への用事溶解時に凝集体を形成し易い。このため、透析用剤を充填した容器内でブドウ糖が、ある程度の量で塊として存在する場合に、規定時間内に透析用剤が溶解せず、透析装置の配管、ホースが詰まり、透析治療の継続に支障をきたす可能性がある。さらにブドウ糖が規定の濃度に到達せず、治療に適さない透析液組成になる可能性もある。これら溶解性の問題の解決策として、透析用剤の製造時に、顆粒剤を形成させること、あるいは、特許文献1のように、原料成分を均一または略均一に混合する(透析用剤の混合度を、0.850以上1.000以下の範囲にする)ことが挙げられる。
【0017】
しかしながら、原料成分を均一に混合する場合、ブドウ糖は、他の成分、例えば、pH調整剤に含まれる酸と接触する割合が高くなり、この状態で長期間保持されると、脱水反応により、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)などを生成し得る。このため、透析用剤の保存安定性をさらに向上させることが求められる。
【0018】
そこで、本発明者らは、原料成分を均一または略均一に混合することなく、透析用剤の溶解不良を防ぎ、保存安定性を向上させることを考えた。溶解性は透析用剤中のブドウ糖の分散の程度に大きく影響すると考え、ブドウ糖を適度に分散させ、溶解不良を防ぐ一方で、糖質成分(ブドウ糖)とpH調整剤との接触をできるだけ回避するように各成分を容器内に配置させることで、良好な保存安定性を達成するに至った。
<第1の実施形態に係る固形透析用剤>
【0019】
第1の実施形態の固形透析用剤は、糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含み、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備え、当該糖質成分が、ブドウ糖を含み、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満である。
【0020】
先ず、固形透析用剤を構成する、糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤について説明する。なお、各成分は、固体状態であれば特にその形態に制限はなく、例えば、結晶物、造粒物、粉砕物のいずれでもよい。また、各成分は、その製造過程で混入し得る不純物を含んでいてもよく、その含有量は、5質量%以下であることが望ましい。
【0021】
糖質成分には、無水結晶ブドウ糖などのブドウ糖が含まれる。
【0022】
電解質成分には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが含まれる。塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムの水和物、塩化カルシウムの水和物(例えば、塩化カルシウム二水和物)は、水に接触した場合であっても、凝集し難い成分であるため、糖質成分であるブドウ糖との混合に適している。
【0023】
pH調整剤としては、クエン酸(無水物、一水和物)、酢酸(氷酢酸)、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸等の有機固体酸、クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩、二酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、乳酸ナトリウム等の乳酸塩、リンゴ酸ナトリウム等のリンゴ酸塩、フマル酸ナトリウム等のフマル酸塩、コハク酸ナトリウム等のコハク酸塩、マロン酸ナトリウム等のマロン酸塩等の有機酸塩、ならびに酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物である酢酸混合物等が挙げられる。
【0024】
この中で、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物である酢酸混合物が好ましい。酢酸ナトリウムには、酢酸ナトリウム無水物、酢酸ナトリウム三水和物等が含まれる。酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物は、酢酸ナトリウムと氷酢酸とを混合して粉末化したものである。この酢酸混合物において、酢酸ナトリウムの少なくとも一部と氷酢酸とは錯体を形成していると考えられる。この酢酸混合物において、錯体を形成してない酢酸ナトリウムが含まれていてもよい。なお、酢酸ナトリウムと氷酢酸とが錯体を形成していることは、X線回折法により確認することができる。
【0025】
酢酸混合物における酢酸ナトリウムと氷酢酸とのモル比は、1:1~5:1の範囲であることが好ましく、3:1~4:1の範囲であることがより好ましい。酢酸ナトリウムに対する氷酢酸のモル比が1以下であると、氷酢酸が酢酸ナトリウムと錯体を形成して粉末化が容易となり、薬剤の安定性が保持される。氷酢酸に対する酢酸ナトリウムのモル比が5未満の場合には、糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤を含む透析用剤A剤と、炭酸水素ナトリウムを含む透析用剤B剤とを組み合わせて調製される透析液のpHおよびアルカリ化剤濃度が透析治療に適しているという利点を有する。この酢酸混合物としては、酢酸ナトリウムと氷酢酸との1:1混合物(二酢酸ナトリウム)、酢酸ナトリウムと氷酢酸との3:1混合物、酢酸ナトリウムと氷酢酸との8:2.2混合物、酢酸ナトリウムと氷酢酸との10:2混合物等が挙げられる。また、酢酸ナトリウムと氷酢酸との1:1~5:1混合物を用いると、透析用剤で用いられる酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の全量を粉末化した混合物として添加することができる。さらに、必要な酢酸ナトリウムを別途添加しなくてもよく、製造工程の短縮化につながるという利点もある。特に、酢酸ナトリウム無水物と氷酢酸との3:1~4:1混合物の場合には、酢酸ナトリウム無水物に氷酢酸を添加しても粒度の安定した酢酸混合物を製造することができるという利点もある。
【0026】
固形透析用剤に適用される成分として、糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤以外の成分を用いてもよい。
【0027】
次に、各成分の混合状態について説明する。
【0028】
先ず糖質成分および電解質成分からなる混合領域について説明する。
【0029】
透析用剤を充填した容器内で糖質成分(ブドウ糖)が、ある程度の量で塊として存在すると、水への用事溶解時に凝集体を形成する。凝集体が形成されると水に対する表面積が小さくなり、溶解不良の原因となる。そこで、本発明の透析用剤では、糖質成分(ブドウ糖)に電解質成分を混合させた領域を設けて、凝集体の形成を防いでいる。
【0030】
本開示において、「糖質成分および電解質成分からなる混合領域」(以下、単に「糖質成分等の混合領域」とも称する)には、糖質成分および電解質成分のみを含んでいるに限られず、透析用剤の溶解性および保存安定性に悪影響を及ぼさない範囲で、これら成分に加えて、pH調整剤を含んでいる場合も含まれる。糖質成分(ブドウ糖)は、pH調整剤に含まれる酸と接触すると、脱水反応が生じ、保存安定性が損なわれる恐れがあるため、本来、糖質成分等の混合領域にpH調整剤が含まれないことが好ましい。しかしながら、原料成分を均一に混合して調製した透析用剤との比較において、糖質成分(ブドウ糖)とpH調整剤との接触割合が低い場合には、より高い安定性を保持できると考えられる。このため、pH調整剤が含まれる場合において、糖質成分等の混合領域における糖質成分に対するpH調整剤の質量比が、透析用剤全体における糖質成分に対するpH調整剤の質量比よりも小さいことが好ましい。より好ましくは、糖質成分等の混合領域における糖質成分に対するpH調整剤の質量比は、透析用剤全体における糖質成分に対するpH調整剤の質量比の4/5以下であり、さらに好ましくは、1/2以下である。
【0031】
糖質成分等の混合領域において、糖質成分は、電解質成分と完全に混合されていなくてもよい。透析用剤の溶解性に悪影響を及ぼさない範囲で、電解質成分と混合されていない糖質成分が単独で存在していてもよい。例えば、糖質成分等の混合領域は、糖質成分と電解質成分が混合されている領域と、糖質成分のみが存在している領域とを含んでいてもよい。
【0032】
糖質成分等の混合領域に含まれる糖質成分は、好ましくは、透析用剤全体に含まれる糖質成分の70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0033】
糖質成分等の混合領域は、透析用剤内で種々の状態で存在することができる。例えば、糖質成分等の混合領域は、透析用剤内で一塊の状態で存在していてもよいし、または、透析用剤全体に広がりながらひと続きに存在していてもよい。また、糖質成分等の混合領域は、透析用剤内で不連続に複数存在していてもよい。例えば、糖質成分等の混合領域は、その他の領域と海島構造を形成し、そのうちの島状に存在していてもよい。あるいは、その他の領域と層構造を形成し、そのうちの1または複数の層として存在していてもよい。
【0034】
糖質成分(ブドウ糖)が透析用剤内で一塊の状態で存在している場合には、特に溶解不良が懸念される。この場合には、糖質成分(ブドウ糖)は、電解質成分と均一混合された糖質成分等の混合領域を形成していることが好ましい。この糖質成分等の混合領域において、電解質成分が、糖質成分および電解質成分の合計質量に対して、好ましくは1質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上含まれていることが好ましい。
【0035】
次に、透析用剤における、糖質成分および電解質成分からなる混合領域以外の領域について説明する。
【0036】
糖質成分および電解質成分からなる混合領域以外の領域に関し、その混合状態について特に制限はない。例えば、pH調整剤は、電解質成分と混合された状態であってもよいし、単独で存在していてもよい。また、透析用剤内で一か所に存在していてもよいし、複数箇所に分かれて存在していてもよい。同様に、電解質成分も他の成分と混合状態で存在していてもよいし、単独で存在していてもよい。また、透析用剤内で一か所に存在していてもよいし、複数箇所に分かれて存在していてもよい。
【0037】
糖質成分は、上記のとおり、電解質成分と混合された状態で存在しているが、これとは別に、溶解不良を生じさせない程度の量で単独で存在していてもよい。
【0038】
透析用剤の保存安定性の観点からは、糖質成分(ブドウ糖)は、pH調整剤(酸)との接触を避けるために、これら成分間に電解質成分が介在していることが好ましい。このことから、糖質成分および電解質成分からなる混合領域または糖質成分の単独領域と、pH調整剤および電解質成分からなる混合領域またはpH調整剤の単独領域との間に電解質成分の単独領域が存在していることが好ましい。
【0039】
次に、固形透析用剤における糖質成分の混合度について説明する。
【0040】
本実施形態において、固形透析用剤における糖質成分の混合度を以下のように算出する。
【0041】
混合度の計算には、Laceyの式(下記式(1))を使用する。
【0042】
【数1】
【0043】
式(1)中、σsは、混合処理を行った透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差であり、σ0は、混合処理を行なっていない透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差であり、σrは、完全混合状態に至るまで混合処理を行った透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差である。σrは、便宜上、0.010と定める。
【0044】
σsおよびσ0は、以下の手順で算出することができる。
【0045】
先ず、混合処理を行った、または行っていない透析用剤の内容物10を、図1に示すとおり、底面でA~Dの4分割、高さ方向で1~6の6分割して、24に区分けする。区分けは、例えば、図2に示すとおり、透析用剤10を充填した容器12の上部を取り除き、容器12内にセパレータ14を挿入して、容器12の底面を4分割し、次いで、4分割した各領域から、内容物10を高さ方向で6分割して、順次取り出すことにより行うことができる。さらに、このように区分けされた内容物10を溶媒に溶解して試料溶液を調製し、この溶液から、各区分けに対応する各区画におけるブドウ糖含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定する。この各区画におけるブドウ糖含有量から、ブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差を算出する。混合処理を行った透析用剤の内容物10を区分けして、各区画におけるブドウ糖含有量から算出した標準偏差がσsであり、混合処理を行なっていない透析用剤の内容物10を区分けして、各区画におけるブドウ糖含有量から算出した標準偏差がσ0である。
【0046】
本実施形態において、以上の手順で算出した固形透析用剤10における糖質成分の混合度は、0.13以上、0.85未満である。後述する実施例において示すとおり、糖質成分の混合度がこの範囲である場合に、用事溶解における糖質成分の凝集が抑制され、規定時間内に透析用剤10は溶解する。用事溶解における糖質成分の凝集をより効果的に抑制する観点から、糖質成分の混合度は、0.30以上、0.85未満が好ましく、0.40以上、0.85未満がさらに好ましい。固形透析用剤10における糖質成分が、このような混合度を有する場合には、特許文献1のように、溶解性を向上させるために、原料成分を均一または略均一に分散させて、透析用剤10の混合度を、0.850以上1.000以下の範囲にする必要はない。
【0047】
本実施形態に係る透析用剤10は、糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤を含む「透析用剤A剤」と、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)等のアルカリ化成分を含む「透析用剤B剤」との2剤構成となっている薬剤の「透析用剤A剤」に対応する。「透析用剤A剤」の成分のうちの一部の成分を別包装にし、3剤構成とすることも可能である。
【0048】
本実施形態に係る透析用剤10を「透析用剤B剤」とともに用い、適切な濃度に希釈して、透析液とした場合のイオン濃度は、例えば、下記の範囲となることが好ましい。
Na+ 79.0~143.0mEq/L
+ 0.0~4.0mEq/L
Ca2+ 0.00~3.50mEq/L
Mg2+ 0.25~1.50mEq/L
Cl- 81.0~115.5mEq/L
ブドウ糖 0~250mg/dl
クエン酸イオン 2.4~0mEq/L
または、酢酸イオン 12~0mEq/L
HCO3 - 25.0~39.0mEq/L
【0049】
<第1の実施形態に係る固形透析用剤の効果>
第1の実施形態に係る固形透析用剤10によれば、水への用事溶解時における糖質成分の凝集体の形成が抑制され、溶解不良を回避することができる。これにより、透析装置の配管、ホースの詰まりもなく、継続的に透析治療を行うことができる。さらに、治療に適した透析液組成を安定して提供することができる。特許文献1のように、原料成分を均一または略均一に分散させなくても溶解性に支障をきたさないという利点もある。
【0050】
また、原料成分を均一に混合して調製した透析用剤10の場合と比較して、糖質成分とpH調整剤との糖質成分とpH調整剤との接触割合が低いことから保存安定性にも優れる。
【0051】
<第2の実施形態の固形透析用剤>
第2の実施形態の固形透析用剤は、第1の実施形態の固形透析用剤において、pH調整剤が酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物を含み、当該pH調整剤および当該電解質成分からなる混合領域をさらに含む。
【0052】
第2の実施形態に係る固形透析用剤に関する以下の説明では、本実施形態の特徴的な構成のみに言及する。特に言及しない構成については、第1の実施形態に係る固形透析用剤と同様とし、その説明を省略する。
【0053】
pH調整剤である酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物は、水への用事溶解時に凝集体を形成する性質を有する。このため、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物を含む固形透析用剤では、凝集体の形成を防ぐために、当該混合物に電解質成分を混合させた領域を設けることが好ましい。
【0054】
本開示において、「pH調整剤および電解質成分からなる混合領域」(以下、単に「pH調整剤等の混合領域」とも称する)には、pH調整剤および電解質成分のみを含んでいる場合に限られず、透析用剤の溶解性および保存安定性に悪影響を及ぼさない範囲で、これら成分に加えて、糖質成分を含んでいる場合も含まれる。pH調整剤に含まれる氷酢酸は、糖質成分(ブドウ糖)と接触すると、脱水反応が生じ、保存安定性が損なわれるため、本来、pH調整剤等の混合領域に糖質成分(ブドウ糖)が含まれないことが好ましい。しかしながら、原料成分を均一に混合して調製した透析用剤との比較において、pH調整剤と糖質成分(ブドウ糖)との接触割合が低い場合には、より高い安定性を保持できると考えられる。このため、糖質成分が含まれる場合において、pH調整剤等の混合領域におけるpH調整剤に対する糖質成分の質量比が、透析用剤全体におけるpH調整剤に対する糖質成分の質量比よりも小さいことが好ましい。より好ましくは、pH調整剤等の混合領域におけるpH調整剤に対する糖質成分の質量比は、透析用剤全体におけるpH調整剤に対する糖質成分の質量比の4/5以下であり、さらに好ましくは、1/2以下である。
【0055】
pH調整剤等の混合領域において、pH調整剤は、電解質成分と完全に混合されていなくてもよい。透析用剤の溶解性に悪影響を及ぼさない範囲で、電解質成分と混合されていないpH調整剤が単独で存在していてもよい。例えば、pH調整剤等の混合領域は、pH調整剤と電解質成分が混合されている領域と、pH調整剤のみが存在している領域とを含んでいてもよい。
【0056】
pH調整剤等の混合領域に含まれるpH調整剤は、好ましくは、透析用剤全体に含まれるpH調整剤の70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0057】
pH調整剤等の混合領域は、透析用剤内で種々の状態で存在することができる。例えば、pH調整剤等の混合領域が、透析用剤内で一塊の状態で存在していてもよいし、または、透析用剤全体に広がりながらひと続きに存在していてもよい。また、pH調整剤等の混合領域は、透析用剤内で不連続に複数存在していてもよい。例えば、pH調整剤等の混合領域は、その他の領域と海島構造を形成し、そのうちの島状に存在していてもよい。あるいは、その他の領域と層構造を形成し、そのうちの1または複数の層として存在していてもよい。
【0058】
<第2の実施形態の固形透析用剤の効果>
第2の実施形態の固形透析用剤によれば、第1の実施形態の固形透析用剤の場合と比較し、さらに高い溶解性が達成される。
【0059】
<固形透析用剤の製造方法>
本開示の固形透析用剤は、種々の方法により製造することができる。例えば、予め糖質成分と電解質成分とを混合しておき、これを容器内の所望の位置に充填する方法、あるいは、原料成分を容器に充填した後に、容器を回転もしくは振動する方法、または容器内の成分を撹拌する方法が挙げられる。
【0060】
これら方法の中で、本開示は、煩雑な操作、複雑な設備を必要としない簡便な方法による固形透析用剤の製造方法も提供する。
【0061】
すなわち、本発明の製造方法は、ブドウ糖を含む糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含み、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備える、固形透析用剤の製造方法であって、容器に、当該糖質成分と、当該電解質成分と、当該pH調整剤とを、これら各成分が、当該容器の底面に対して略平行な層状となるように、かつ、当該糖質成分と当該pH調整剤とが接触しないように加える工程と、成分が加えられた当該容器の上部に空間を設けて、蓋をする工程と、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満となるように、蓋をした当該容器を、水平に横転した状態で、当該容器の底面の中心を軸にして回転させる工程と、を含む。
【0062】
まず、容器に糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤を加える工程を説明する。
【0063】
糖質成分、電解質成分、およびpH調整剤は、<第1の実施形態に係る固形透析用剤>
の項で説明したとおりである。
【0064】
容器は、任意の形状、材質のものを使用できるが、容器の持ち運び、容器回転時の原料成分のスムーズな混合を容易にさせる等の観点から、プラスチック製の円筒形容器が好ましい。また、容器は、原料成分を加えた後、上部に空間ができるような大きさのものを選択する。容器上部に空間が存在すると、容器回転時における原料成分の混合を効率よく行うことができるからである。
【0065】
各成分を加える順番および方法は、特に制限はないが、図3(a)に示すとおり、各成分が容器12の底面に対して略平行な層状となるように、かつ、糖質成分2とpH調整剤6とが接触しないように加える。結果的に、糖質成分2の層と、pH調整剤6の層の間に、電解質成分4の層が形成されることになる。図3(a)に示す例では、容器12の底面から、糖質成分2、電解質成分4、pH調整剤6の順に層が形成されている。糖質成分2とpH調整剤6とが接触しないように加えるのは、容器回転時における糖質成分2とpH調整剤6との混合を防止するためである。
【0066】
また、各成分を、分割して加えてもよい。これにより、1成分につき複数の層が形成される。例えば、電解質成分4が2層形成されるように、容器12の底面から、電解質成分4、糖質成分2、電解質成分4、pH調整剤6を順に加えてもよい。
【0067】
次に、図3(b)を参照して、原料成分が加えられた容器12を、水平に横転した状態で、容器12の底面の中心を軸にして回転させる工程について説明する。
【0068】
容器12の回転は、例えば、図3(b)に示すように、回転ローラーを備えた回転機16などの装置を用いることにより、あるいは底部および上部を手で支えながら、容器12を回転させることにより行うことができる。また、図3(b)に示す例では、容器12を回転機16の回転ローラー上に水平に横転した状態で設置して、容器12の底面の中心を軸にして回転させている。本実施形態において、「水平」とは、水平方向に対して0°以上10°以下の傾斜までの状態を言う。水平方向に対して傾斜を付けた状態では、容器12の上部の位置が底部よりも高くなる、または容器12の上部の位置が底部よりも低くなる。さらに、回転速度、回転数などの回転条件は、固形透析用剤10における糖質成分2の混合度が、0.13以上、0.85未満となるように適宜調整される。さらに用事溶解における糖質成分2の凝集をより効果的に抑制する観点から、回転条件は、糖質成分2の混合度が、好ましくは0.30以上、0.85未満、より好ましくは0.40以上、0.85未満となるように適宜調整される。
【0069】
以上のように、原料成分を充填した容器12を適切に回転することにより、図3(c)に示すように、糖質成分2および電解質成分4からなる混合領域5を備える、固形透析用剤10を製造することができる。なお、図3(c)の例では、糖質成分2および電解質成分4からなる混合領域5に加えて、pH調整剤6および電解質成分4からなる混合領域7ならびに混合領域5と混合領域7の間に電解質成分4を備える、固形透析用剤10が示されている。
【0070】
当該本発明の方法によれば、煩雑な操作、大がかりな設備等が不要となり、簡便に固形透析用剤10を製造することができる。このような利点は、特に、透析用剤10を完全混合状態とする場合と比較して、顕著である。
【実施例0071】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0072】
<透析用剤の作製>
(実施例1)
容積4リットルのポリエチレン円筒形容器に、47.0gの塩化カリウム、57.9gの塩化カルシウム二水和物、32.0gの塩化マグネシウム六水和物、315.0gのブドウ糖、1969.8gの塩化ナトリウム、pH調整剤:206.7gの無水酢酸ナトリウムと42.0gの氷酢酸の混合物を、これら各成分が充填順に容器の底面から略平行な層状となるように加え、容器を蓋で密封した。次いで、各成分を充填した容器を、回転機(伊藤製作所社製PSL-1M)の回転ローラーに、横転状態で載置した。この載置した容器を、容器の底面の中心を軸に回転速度60rpmで、5回転させた後、回転を停止し、透析用剤を調製した。
【0073】
(実施例2)
回転ローラーに載置した容器を、30回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0074】
(実施例3)
回転ローラーに載置した容器を、40回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0075】
(実施例4)
回転ローラーに載置した容器を、50回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0076】
(比較例1)
回転ローラーに載置した容器を、回転させなかった以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0077】
(比較例2)
回転ローラーに載置した容器を、1回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0078】
(比較例3)
回転ローラーに載置した容器を、2回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0079】
(比較例4)
回転ローラーに載置した容器を、3回転させた以外は、実施例1と同様の方法で透析用剤を調製した。
【0080】
(比較例5)
特許文献1に記載の方法に従い透析用剤を調製した。具体的には、実施例1のとおりに各成分を容器に充填し、容器を蓋で密封した後、密封容器を、撹拌機(京町産業製:DSK-30)に設置し、撹拌機を60秒間稼働させて、容器の内容物を攪拌した。
【0081】
<糖質成分(ブドウ糖)の混合度>
上記調製した、実施例1および2、ならびに比較例4の透析用剤におけるブドウ糖の混合度を以下のように算出した。
【0082】
混合度の計算には、Laceyの式(下記式(1))を使用した。
【0083】
【数2】
【0084】
式(1)中、σsは、混合処理を行った透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差であり、σ0は、混合処理を行なっていない透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差であり、σrは、完全混合状態に至るまで混合処理を行った透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差であり、便宜上、0.010と定める。
【0085】
σsおよびσ0は、以下の手順で算出した。
【0086】
先ず、内容物を容易に取り出せるように、透析用剤を充填した容器の上部を取り除いた。次いで、容器内にセパレータを挿入して、容器の底面を4分割した。4分割した各領域から、内容物を高さ方向で6分割して、順次取り出すことにより、透析用剤の内容物を24に区分けした。各区分の取り出しまでは以下のように行った。
【0087】
(1)容器12を正立させ、シールフィルムのタブを手前に置いた状態で、粉体を垂直方向に四分割するよう領域を設定する。右手前のエリアをAとして時計回りでB、C、Dと名称づける。
(2)容器12の上部テーパリング部分をハサミ等で切断除去する。(寸胴状態とする)
(3)仕切り板を挿入する。(粉体を四分割する)
(4)粉体の総高さをスケールで測定する。高さを6分割して1層あたりの高さを算出する。
(5)仕切り板で分割した各領域(A-D)から、1層当たりの高さ分の粉体を吸引回収装置により吸引して回収する。
(6)回収した粉体はPE袋に入れて密封して保存する。
【0088】
次いで、試料溶液を調製した。この調整は、具体的に以下のように行った。
【0089】
(7)PE袋に入れたサンプリング粉体の質量[g]を電子天秤で量り、記録する。…(i)
(8)質量350g程度のRO水を三角フラスコに投入する。
(9)三角フラスコに投入したRO水の質量[g]を電子天秤で量り、記録する。…(ii)
(10)スターラーで撹拌しながら、三角フラスコ内RO水にサンプリング粉体を少しずつ投入する。
(11)サンプリング粉体をすべて投入したら、試料の質量パーセント濃度が20%となるように計算し、不足分のRO水を投入する。また、不足分の水の計算式は以下に示す。
不足分の水[g]={((i)の質量)×4}-((ii)の質量)
この際、不足分の水については駒込ピペット等を使用して正確な量を投入する。
(12)三角フラスコ内溶液をスターラーでもう一度撹拌する。
(13)50ml遠沈管に39gのRO水を入れる(電子天秤で計量)。
(14)(13)で作成した遠沈管に、1gの(12)で作製した三角フラスコ内溶液を入れる(投入した溶液の質量は電子天秤で計量・記録)。
(15)試料の質量パーセント濃度0.5%の検体となる。
【0090】
この溶液を測定用試料とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて、各区画におけるブドウ糖含有量を測定した。高速液体クロマトグラフィーの測定は、以下の条件で行った。
装置:島津製作所社製LC-20AD
検出器:島津製作所社製RID-10A
カラム:東ソー社製TSKgelSCX
カラム温度:40.0℃
移動相:過塩素酸(0.1→1000)水溶液
流速:1.0ml/分
注入量:15μL
【0091】
表1-1から表1-7は、実施例1から4、ならびに比較例1、4および5について、HPLC測定により得られた各区画におけるブドウ糖含有量を示す。これらの表において、左側の列は実施例または比較例の種類、回転数(完全分散を含む)、および区画を示す。
【0092】
【表1-1】
【0093】
【表1-2】
【0094】
【表1-3】
【0095】
【表1-4】
【0096】
【表1-5】
【0097】
【表1-6】
【0098】
【表1-7】
【0099】
次いで、HPLC測定により得られた各区画におけるブドウ糖含有量から、ブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差を算出した。実施例1から4、ならびに比較例1、4および5の各透析用剤の標準偏差を以下の表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2中、比較例5以外の各標準偏差は、混合処理を行った各透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差σsを示し、比較例1の標準偏差(109.43)は、混合処理を行なっていない透析用剤内でのブドウ糖の分散の度合を示す標準偏差σ0を示す。
【0102】
以上により算出したσsおよびσ0を式(1)に適用して、各透析用剤におけるブドウ糖の混合度を得た。その結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
また、上記のHPLC測定により得られた24の各区画におけるブドウ糖含有量から、各区画におけるブドウ糖の存在率を算出した。なお、各区画におけるブドウ糖の存在率は、各区画の原料成分が全てブドウ糖であった場合を100%として計算した値である。その結果を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
上記表の値をプロットした図を、図4Aから図4Gに示す。図4Aは実施例1、図4Bは実施例2、図4Cは実施例3、図4Dは実施例4、図4Eは比較例1、図4Fは比較例4、図4Gは比較例5の透析用剤についてのブドウ糖の存在率を示それぞれ示す。なお、図4Aから図4Gにおいて、横軸の区画No.1~6は、図1(c)に示される内容物10を高さ方向で分割した1~6に対応し、各図中の折れ線グラフA~Dは、図1(c)に示される内容物10を底面で4分割したA~Dに対応している。したがって、例えば、実施例1の透析用剤における区画6Dでのブドウ糖存在率は、図4Aから、51%と読み取ることができる。
【0107】
<溶解性の評価>
上記調製した透析用剤について、透析用剤溶解装置(日機装(株)社製、型式DAD-50NX)を用いて溶解試験(試験条件:溶解プログラムver.2.0,溶解流量100%,溶解水温24℃±2℃)を実施し、下記基準で評価した。実施例1から4、ならびに比較例1から4の溶解試験結果を表5に示す。
【0108】
(評価基準)
合格:規定の溶解時間(130sec)で溶解した
不合格:規定の溶解時間(130sec)で溶解できなかった
【0109】
【表5】
【0110】
表5に示すとおり、透析用剤におけるブドウ糖の混合度がそれぞれ0.13および0.40である実施例1および2では、容器中の内容物が全て溶解した。これに対し、ブドウ糖の混合度が-0.04である比較例4では、ブドウ糖の凝集による溶け残りが生じ、規定時間内に透析用剤を溶解することができなかった。
【0111】
また、比較例1~4の結果から分かるとおり、透析用剤を調製する際の回転数が少なくなるにつれて、溶け残り量が増大した。これは、透析用剤におけるブドウ糖の混合度が小さくなるにつれ、溶け残り量が増大することを示している。
【0112】
このブドウ糖の溶け残りについて、透析用剤の各区画におけるブドウ糖の存在率を示す表4および対応する図を参照して考察する。溶け残りが生じた比較例4では、区画6C、および5Cのブドウ糖存在率がそれぞれ、55%、および66%であり、これら2区画において50%以上の高いブドウ糖存在率を示し、さらに一方の区画のブドウ糖存在率は60%以上である(図4F)。これは、比較例4の透析用剤において、隣接する区画6C,および5Cにブドウ糖の大きな塊が存在していたことを示唆している。これに対し、実施例1では、60%以上の区画は存在せず、ブドウ糖存在率が50%を超える区画は、6D(51%)の1区画のみである(図4A)。実施例2では、ブドウ糖存在率が50%を超える区画は存在しない(図4B)。
【0113】
以上により、規定時間内に透析用剤を溶解するには、透析用剤内でブドウ糖をある程度分散させる必要があり、透析用剤におけるブドウ糖の混合度は透析用剤の溶解性の指標になると言える。表5の結果から、溶解性の問題を解決するためには、ブドウ糖の混合度が少なくとも0.13以上である必要がある。
【0114】
<保存安定性の評価>
次に、透析用剤の保存安定性について、加速試験により評価を行った。
【0115】
医薬品の保存安定性を確認する手段としての加速試験では、40℃で6箇月保管することにより、室温で1.5年相当の安定性を確認できる(PMDA;医薬品の安定性試験の実施方法、安定性試験ガイドライン)が、アレニウス式により、保管温度を50℃とすると、保管温度を40℃とした場合のおよそ1/3の期間となる。本実施例では、上記安定性試験ガイドラインに沿って加速試験を行う際に、容器に充填された、上記調製した実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、および比較例5の透析用剤を、恒温恒湿器(エスペック社製;PH-4KT)に入れ、50℃、相対湿度75%の条件下で2箇月保管した。
【0116】
次いで、分光光度計(島津製作所社製UV-2450)による吸光度測定により、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)を測定した。測定結果を図5に示す。
【0117】
図5に示す吸光度は、6箇月の保管期間経過後の結果に相当する。いずれの実施例の値も、比較例5の値を下回っており、保存安定性に優れていると言える。
【0118】
(発明の実施態様)
1.糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含む、固形透析用剤であって、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備え、当該糖質成分が、ブドウ糖を含み、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満である。
【0119】
これにより、水への用事溶解時における糖質成分(ブドウ糖)の凝集体の形成が抑制され、溶解不良を回避することができる。また、原料成分を均一に混合して調製した透析用剤の場合と比較して保存安定性にも優れる。
【0120】
2.上記1の実施の態様において、固形透析用剤における糖質成分の混合度が、0.30以上、0.85未満である。
【0121】
これにより、さらに、糖質成分(ブドウ糖)の凝集体の形成を防ぐことができ、良好な溶解性を奏することが可能となる。
【0122】
3.上記1の実施の態様において、固形透析用剤における糖質成分の混合度が、0.40以上、0.85未満である。
【0123】
これにより、さらに、糖質成分(ブドウ糖)の凝集体の形成を防ぐことができ、良好な溶解性を奏することが可能となる。
【0124】
4.上記1~3のいずれかの実施の態様において、pH調整剤が酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の混合物を含み、pH調整剤および電解質成分からなる混合領域をさらに含む。
【0125】
これにより、水への用事溶解時における、pH調整剤の凝集体の形成を防ぎ、さらに良好な溶解性を奏することが可能となる。
【0126】
5.ブドウ糖を含む糖質成分と、電解質成分と、pH調整剤とを含み、当該糖質成分および当該電解質成分からなる混合領域を備える、固形透析用剤の製造方法であって、容器に、当該糖質成分と、当該電解質成分と、当該pH調整剤とを、これら各成分が、当該容器の底面に対して略平行な層状となるように、かつ、当該糖質成分と当該pH調整剤とが接触しないように加える工程と、成分が加えられた当該容器の上部に空間を設けて、蓋をする工程と、当該固形透析用剤における当該糖質成分の混合度が、0.13以上、0.85未満となるように、蓋をした当該容器を、水平に横転した状態で、当該容器の底面の中心を軸にして回転させる工程とを含む。
【0127】
これにより、煩雑な操作、大がかりな設備等が不要となり、簡便に固形透析用剤の製造することができる。
【0128】
6.上記5の実施の態様において、固形透析用剤における糖質成分の混合度が、0.30以上、0.85未満である。
【0129】
これにより、さらに、糖質成分(ブドウ糖)の凝集体の形成を防ぐことができ、良好な溶解性を奏する固形透析用剤を製造することができる。
【0130】
7.上記5の実施の態様において、固形透析用剤における糖質成分の混合度が、0.40以上、0.85未満である。
【0131】
これにより、さらに、糖質成分(ブドウ糖)の凝集体の形成を防ぐことができ、良好な溶解性を奏する固形透析用剤を製造することができる。
【符号の説明】
【0132】
2 糖質成分
4 電解質成分
5 糖質成分および電解質成分からなる混合領域
6 pH調整剤
7 糖質成分および電解質成分からなる混合領域
10 固形透析用剤(固形透析用剤の内容物)
12 容器
14 セパレータ
16 回転機
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5