(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097234
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 1/525 20150101AFI20240710BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20240710BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H04B1/525
H04B1/10 N
G06K7/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000654
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 尚弘
【テーマコード(参考)】
5K011
5K052
【Fターム(参考)】
5K011BA01
5K011BA04
5K011DA02
5K011DA03
5K011DA06
5K011DA12
5K011DA27
5K011EA02
5K011EA03
5K011JA01
5K011KA05
5K052AA01
5K052BB15
5K052DD15
5K052FF32
5K052FF33
5K052FF34
(57)【要約】
【課題】キャンセル信号に起因して応答データを正しく復号できない状況が生じることを防止する。
【解決手段】実施形態の通信装置は、第1の生成部、共用部、第2の生成部、抑圧部、検出部、設定部及び制御部を備える。抑圧部は、出力端からの出力信号に含まれる自己干渉信号を、第2の生成部により生成されたキャンセル信号を用いて抑圧する。検出部は、自己干渉信号の抑圧量を検出する。設定部は、抑圧量が最大となるときに第2の生成部により生成されているキャンセル信号の位相である最適位相を含んだ第1の位相範囲から、最適位相を含み、かつ第1の位相範囲よりも狭い第2の位相範囲を除いた位相範囲として定まる調整範囲を設定する。制御部は、検出される抑圧量を増大するべく、キャンセル信号の位相を調整範囲内で調整するように第2の生成部を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信のための送信信号を生成する第1の生成部と、
前記第1の生成部により生成された送信信号を入力端より入力して入出力端より出力するとともに、前記入出力端から入力された信号を出力端より出力する共用部と、
前記第1の生成部により生成された送信信号の振幅及び位相を変化させてキャンセル信号を生成する第2の生成部と、
前記出力端からの出力信号に含まれる自己干渉信号を、前記第2の生成部により生成されたキャンセル信号を用いて抑圧する抑圧部と、
前記抑圧部での自己干渉信号の抑圧量を検出する検出部と、
前記検出部により検出される抑圧量が最大となるときに前記第2の生成部により生成されているキャンセル信号の位相である最適位相を含んだ第1の位相範囲から、前記最適位相を含み、かつ前記第1の位相範囲よりも狭い第2の位相範囲を除いた位相範囲として定まる調整範囲を設定する設定部と、
前記検出部により検出される抑圧量を増大するべく、キャンセル信号の位相を前記調整範囲内で調整するように前記第2の生成部を制御する制御部と、
を具備した通信装置。
【請求項2】
前記設定部は、最大の抑圧量よりも小さな予め定められた抑圧量が前記検出部により検出される際に前記第2の生成部で生成されたキャンセル信号の位相を含んだ予め定められた幅の位相範囲として前記調整範囲を設定する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記第1の生成部により生成された送信信号の位相を変化させずにキャンセル信号を生成する状態から移相量を徐々に増加させるように前記第2の生成部を制御しつつ、前記検出部により検出される抑圧量の増加量が予め定められた量に達した時点で前記第2の生成部で生成されたキャンセル信号の位相を含んだ予め定められた幅の位相範囲として前記調整範囲を設定する、
請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記設定部は、キャンセル信号の位相を徐々に変化させるように前記第2の生成部を制御しつつ前記最適位相を判定し、当該判定した最適位相に応じた調整範囲を設定する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記設定部は、判定した最適位相に対して予め定められた第1の位相差を持った位相を中心位相とし、前記第1の位相差よりも小さな予め定められた第2の位相差だけ中心位相から両方向に離れた2つの位相の間の範囲として調整範囲を設定する、
請求項4に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナを送信及び受信で共用する通信装置では、送信信号の一部が受信信号に重畳されて受信系に流入してしまうことがある。この受信信号に重畳された送信信号成分は、自己干渉信号となり、受信系の飽和及びノイズの増加による通信品質の低下を来す恐れがある。
そこで、自己干渉信号とは位相が逆であるキャンセル信号を送信信号から生成し、このキャンセル信号を用いて自己干渉信号を相殺する技術は知られている。
【0003】
この技術を用いる場合、自己干渉信号とキャンセル信号とで振幅が同じであり、自己干渉信号とキャンセル信号との位相差が180度であれば、自己干渉信号を完全にキャンセルできる。しかしながら、そのような状況にキャンセル信号を維持することは難しく、自己干渉信号の成分(以下、残留信号と称する)が残る場合が多い。
残留信号の位相は、自己干渉信号とキャンセル信号との合成ベクトルの方向となる。このため、キャンセル信号の位相が、自己干渉信号との位相差が180度である状態から進み方向にずれた場合と、遅れ方向にずれた場合とでは、残留信号の位相方向が逆方向となる。このため、自己干渉信号に対する位相差が180度となるようにキャンセル信号の位相を調整していると、残留信号の位相方向が頻繁に反転することになる。
【0004】
キャンセル信号により自己干渉信号の低減を図ったのちにおける受信信号と残留信号との合成信号の位相は、受信信号と残留信号との合成ベクトルの方向となる。つまり、残留信号の位相方向が頻繁に反転するならば、受信信号と残留信号との合成信号の位相方向も頻繁に反転してしまうことになる。そして当該合成信号からの復調信号は、合成信号の位相方向に応じて反転するので、応答データの受信途中で復調信号の反転が生じてしまうと、応答データを正しく復号できない。
このような事情から、キャンセル信号に起因して応答データを正しく復号できない状況が生じることを防止できることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、キャンセル信号に起因して応答データを正しく復号できない状況が生じることを防止できる通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の通信装置は、第1の生成部、共用部、第2の生成部、抑圧部、検出部、設定部及び制御部を備える。第1の生成部は、無線送信のための送信信号を生成する。共用部は、第1の生成部により生成された送信信号を入力端より入力して入出力端より出力するとともに、入出力端から入力された信号を出力端より出力する。第2の生成部は、第1の生成部により生成された送信信号の振幅及び位相を変化させてキャンセル信号を生成する。抑圧部は、出力端からの出力信号に含まれる自己干渉信号を、第2の生成部により生成されたキャンセル信号を用いて抑圧する。検出部は、抑圧部での自己干渉信号の抑圧量を検出する。設定部は、検出部により検出される抑圧量が最大となるときに第2の生成部により生成されているキャンセル信号の位相である最適位相を含んだ第1の位相範囲から、最適位相を含み、かつ第1の位相範囲よりも狭い第2の位相範囲を除いた位相範囲として定まる調整範囲を設定する。制御部は、検出部により検出される抑圧量を増大するべく、キャンセル信号の位相を調整範囲内で調整するように第2の生成部を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る読取装置の要部回路構成を示すブロック図。
【
図2】第1の実施形態における制御処理のフローチャート。
【
図3】キャンセル信号の位相変化に伴う残留信号レベルの変化を表す図。
【
図4】自己干渉信号とキャンセル信号との関係をIQ直交座標系において表した図。
【
図5】第2の実施形態に係る読取装置の要部回路構成を示すブロック図。
【
図6】第2の実施形態における制御処理のフローチャート。
【
図7】キャンセル信号の生成のための移相量変化に伴う残留信号レベルの変化を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。なお、以下においては、RFID(radio frequency identification)タグが記憶するデータを読み取る読取装置を例に説明する。この読取装置は、上記のデータ読み取りに際してRFIDタグと無線通信を行うのであり、通信装置の一例である。
【0010】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態に係る読取装置100の要部回路構成を示すブロック図である。
読取装置100は、発振器11、移相器12、DA(digital to analog)変換器13、直交変調器14、BPF(band-pass filter)15、電力増幅器16、LPF(low-pass filter)17、アンテナ共用器18、給電線19、アンテナ20、可変減衰器21、可変移相器22、DA変換器23、電力合成器24、直交検波器25、BPF26、ベースバンド増幅器27、AD(analog to digital)変換器28、LPF29、AD変換器30、制御部31及びメモリ32を含む。制御部31は、CPU311及びFPGA(field programmable gate array)312を含む。なお、アンテナ20、あるいは給電線19及びアンテナ20は、読取装置100に含めず、別体の任意のデバイスを接続可能としてもよい。
【0011】
発振器11は、予め定められた周波数の正弦波を搬送波として発生する。
移相器12は、発振器11により発生された搬送波の位相を90度ずらすことで、余弦波をもう1つの搬送波として出力する。
DA変換器13は、CPU311からディジタル状態で出力される2系統の送信ベースバンド信号を、アナログ化する。なお以下においては、2系統の送信ベースバンド信号をそれぞれ、I信号及びQ信号と称する。
【0012】
直交変調器14は、DA変換器13でアナログ化されたI信号及びQ信号を変調波として入力する。直交変調器14は、発振器11により発生された搬送波と、移相器12から出力された搬送波とを、それぞれI系統及びQ系統の搬送波として入力する。そして直交変調器14は、直交変調により送信信号を得る。
BPF15は、直交変調器14で得られた送信信号から、帯域制限のために低周波成分及び高周波成分を除去する。
【0013】
電力増幅器16は、BPF15を通過した送信信号を、無線送信に適するレベルまで電力増幅する。
LPF17は、電力増幅器16により増幅された送信信号から、高調波成分を除去する。
これらBPF15、電力増幅器16及びLPF17での各処理により、送信信号は無線送信のための信号となる。つまりBPF15、電力増幅器16及びLPF17により、無線送信のための送信信号を生成する第1の生成部が構成される。
【0014】
アンテナ共用器18は、入力端TI、入出力端TIO、出力端TOA及び出力端TOBを備える。LPF17を通過した送信信号は、入力端TIに入力される。アンテナ共用器18は、入力端TIに入力された送信信号を入出力端TIO及び出力端TOBより出力する。アンテナ共用器18は、入出力端TIOに入力された信号を出力端TOAより出力する。アンテナ共用器18の出力端TOAから出力される信号は、アンテナ20に生じる受信信号と後述する自己干渉信号とが合成された信号であるが、この信号を以下では単に受信信号と称する。アンテナ共用器18は、共用部の一例である。
【0015】
給電線19は、アンテナ共用器18の入出力端TIOから出力される送信信号をアンテナ20に供給する。給電線19は、アンテナ20に生じた受信信号をアンテナ共用器18の入出力端TIOに伝送する。
アンテナ20は、給電線19により供給される送信信号に応じた電波を放射する。アンテナ20は、到来する電波に応じた電気信号を受信信号として生じさせる。
【0016】
可変減衰器21は、アンテナ共用器18の出力端TOBから出力される送信信号を、DA変換器23から供給される利得設定信号に応じた利得で減衰させる。
可変移相器22は、可変減衰器21により減衰された後の送信信号の位相を、DA変換器23から供給される移相量設定信号に応じた移相量で変化させる。可変移相器22で移相された後の送信信号を、以下においてキャンセル信号と称する。
かくして、可変減衰器21及び可変移相器22により、キャンセル信号を生成する第2の生成部としての機能が実現される。
【0017】
DA変換器23は、制御部31から出力される利得設定データをアナログ状態の利得設定信号に変換した上で可変減衰器21へと供給する。DA変換器は、制御部31から出力される移相量設定データをアナログ状態の移相量設定信号に変換した上で可変移相器22へと供給する。
電力合成器24は、アンテナ共用器18の出力端TOAから出力される受信信号に、可変移相器22から出力されるキャンセル信号を電力合成する。これにより電力合成器24は、受信信号に含まれる自己干渉信号を低減する。電力合成器24は、抑圧部の一例である。
【0018】
直交検波器25は、電力合成器24から出力された受信信号を、発振器11及び移相器12からそれぞれ出力される2つの搬送波を用いて直交検波する。直交検波器25は、直交検波により得られる2系統のアナログ状態の受信ベースバンド信号を、並列に出力する。
BPF26は、直交検波器25から出力された2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれから、所要周波数帯域の成分を抽出する。
ベースバンド増幅器27は、BPF26を通過した2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれを、AD変換器28でのディジタル化に適するレベルまで増幅する。
【0019】
AD変換器28は、ベースバンド増幅器27で増幅された2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれをディジタル化する。
LPF29は、直交検波器25から出力された2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれに含まれる高調波成分を除去する。
AD変換器30は、LPF29から出力された2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれをディジタル化する。
【0020】
メモリ32は、CPU311に実行させる情報処理について記述された情報処理プログラムを記憶する。メモリ32が記憶する情報処理プログラムの1つは、自己干渉信号のキャンセルのための後述する制御処理に関する制御プログラムPRAである。メモリ32は、CPU311が各種の情報処理を実行する上で必要となる各種のデータを記憶する。メモリ32は、CPU311が各種の情報処理を実行する際に生成又は取得された各種のデータを記憶する。
【0021】
CPU311は、RFIDタグ200との通信時には、予め定められたシーケンスに従って、I信号及びQ信号を出力する。CPU311は、AD変換器28でディジタル化された2系統の受信信号に基づいて、RFIDタグ200から送られたデータを再構築する。CPU311は、AD変換器30でディジタル化された2系統の受信ベースバンド信号に基づいて可変減衰器21での利得と可変移相器22での移相量を調整するための後述する情報処理を実行する。
【0022】
FPGA312は、予めプログラムされた信号処理を行うことで、CPU311による情報処理に付随する各種の演算を高速に実行する。FPGA312の機能の1つは、AD変換器30でディジタル化された2系統の受信ベースバンド信号のレベルに基づいて、キャンセル信号による自己干渉信号の抑圧量を算出する処理である。かくしてFPGA312は、2系統の受信ベースバンド信号のレベルに基づく演算により抑圧量を検出する検出部として機能する。
【0023】
次に以上のように構成された読取装置100の動作について説明する。なお、RFIDタグ200を読み取るための動作は、例えば無線通信のための変調方式として直交変調方式を用いる他の既に知られた動作であってよい。そこで、ここではその動作の説明は省略し、可変減衰器21の利得及び可変移相器22での移相量を調整するための動作について説明する。
【0024】
動作の説明に先立ち、自己干渉信号について説明する。
アンテナ共用器18は、入力端TIに入力された送信信号が出力端TOAから出力されないように設計される。しかしながら実際の回路構成では、入力端TIに入力された送信信号が出力端TOAから漏れ出ることを完全に防止することが困難である。このため、入力端TIに入力された送信信号の一部がそのまま出力端TOAから出力される。またアンテナ共用器18の入出力端TIOから出力された送信信号は、その一部がアンテナ20の給電点で反射されて給電線19によりアンテナ共用器18へと伝送される。このような反射信号は、アンテナ共用器18の機能により、出力端TOAから出力される。かくしてアンテナ共用器18の出力端TOAから出力される信号には、入出力端TIOから出力されずに漏れ出た送信信号の成分と、入出力端TIOに反射信号として入力される送信信号の成分とが含まれる。このような送信信号の成分が合成された信号が自己干渉信号である。なお、アンテナ20の給電点における送信信号の反射の特性は、アンテナ20へのRFIDタグ200及びその他の物体の近接状況などのアンテナ20の周辺の環境に応じて変化する。このため、アンテナ20の給電点で反射される信号の振幅及び位相も、アンテナ20の周辺の環境に応じて変動する。この影響で、自己干渉信号の振幅及び位相も、アンテナ20の周辺の環境に応じて変動する。
【0025】
なお、自己干渉信号は、送信信号に由来する信号である。このため、送信信号から分岐した信号の振幅及び位相を変化させることにより生成したキャンセル信号をアンテナ共用器18の出力端TOAから出力される受信信号に合成することによって、受信信号に含まれる自己干渉信号を相殺することができる。読取装置100では、可変減衰器21及び可変移相器22で振幅及び位相を変化させて得られるキャンセル信号を、アンテナ共用器18の出力端TOAから出力される受信信号に電力合成器24にて合成することにより、受信信号に含まれる自己干渉信号の低減を図る。
【0026】
CPU311は、RFIDタグ200との通信のための送信を開始するとともに、これに対するRFIDタグ200からの応答信号を受信し、この応答信号からデータを復調するための周知の情報処理(以下、受信処理と称する)を実行する。またCPU311は、この受信処理と並行して、可変減衰器21の利得及び可変移相器22での移相量を調整するための情報処理(以下、制御処理と称する)を実行する。
【0027】
図2は第1の実施形態における制御処理のフローチャートである。
ACT1としてCPU311は、キャンセル信号の振幅を自己干渉信号の振幅に合わせるように調整する。つまりCPU311は、可変減衰器21から出力される信号の振幅を自己干渉信号の振幅に近づけるように可変減衰器21の利得を調整する。
ACT2としてCPU311は、位相スキャンを開始する。つまりCPU311は、移相量を徐々に変化させることでキャンセル信号の位相を徐々に変化させるための可変移相器22の制御を開始する。
【0028】
このようにキャンセル信号の位相を徐々に変化させることで、電力合成器24での自己干渉信号の抑圧量が変化し、直交検波器25の出力信号に残留する自己干渉信号の成分(以下、残留信号と称する)のレベルが変化する。
そこでFPGA312は、AD変換器30から出力される2系統のディジタル状態の受信ベースバンド信号を対象とした予め定められた演算処理を行うことによって抑圧量を求める処理を繰り返し行う。FPGA312は、一例としては、2系統の受信ベースバンド信号のそれぞれの信号レベルをLI及びLQと表すならば、LI2+LQ2として求まる値の平方根として算出する。つまり本実施形態においては、抑圧量が大きいほどに残留信号のレベルが小さくなるので、残留信号のレベルとして抑圧量を算出する。かくして、抑圧量が大きいほど、FPGA312にて算出される値は小さくなる。なお、残留信号のレベルに基づき、抑圧量が大きくなるほどに大きな値となるような変換処理を伴って抑圧量の算出が行われても構わない。また抑圧量の算出のための処理は、CPU311が実行する情報処理の中で行われても構わない。
【0029】
ACT3としてCPU311は、自己干渉信号の抑圧状態が規定抑圧状態ではない状態から規定抑圧状態となるのを待ち受ける。規定抑圧状態は、位相スキャンを停止するための抑圧状態として、例えば読取装置100の設計者などにより適宜に定められる。より具体的には、一例として、残留信号のレベルが、無抑圧時に比べて-20db以下まで低下した状態を規定抑圧状態とする。つまりCPU311は、FPGA312により測定される抑圧量の変化をチェックし、これが無抑圧時から-20db以下に低下したことを確認できたならば、規定抑圧状態であるとしてYESと判定し、ACT4へと進む。なお規定抑圧状態は、残留信号の影響によって直交検波器25が飽和することのない最低限の抑圧量(以下、所要抑圧量と称する)が得られる状態として定められること望ましい。
かくして、規定抑圧状態、あるいはこれよりも抑圧量が大きい状態が、直交検波器25が飽和することなく正常な受信を行える状態(以下、正常抑圧状態と称する)となる。
【0030】
図3はキャンセル信号の位相変化に伴う残留信号レベルの変化を表す図である。
なお
図3における位相の度数は、キャンセル信号の自己干渉信号に対する位相差に相当する。
キャンセル信号の位相が
図3中における範囲RA内であれば、正常抑圧状態が形成されることになる。つまり、範囲RAは、必要最小限の抑圧量を得ることが可能となるキャンセル信号の位相として許容される範囲となる。そして範囲RAの中央となる位相180度において、抑圧量が最大となり、残留信号は最小となる。
図3中の位相PAは、CPU311が
図2中のACT3にてYESと判定する際のキャンセル信号の位相である。
【0031】
ACT4としてCPU311は、位相スキャンを停止する。このときにCPU311は、可変移相器22の移相量を、位相スキャンを停止したときの移相量のままとする。
ACT5としてCPU311は、移相量の調整範囲を設定する。CPU311は、例えば
図3に表すように、位相PAから予め定められた角度AAだけ進めた位相PBとして調整範囲の中心位相PBを決定する。さらにCPU311は、位相PAから、位相PBから角度AAだけ進めた位相PCまでの範囲として調整範囲RBを設定する。なお角度AAは、調整範囲RB内に180度が含まれることがないように、例えば読取装置100の設計者などにより適宜に定められる。角度AAは、例えば2.5度とすることが想定される。かくして、正常抑圧状態を形成することができる位相の範囲RAのうちで、自己干渉信号とは逆相となる位相を含んだ範囲RCを除いた範囲として調整範囲RBが設定されることとなる。なお、範囲RA及び範囲RCは、第1の位相範囲及び第2の位相範囲にそれぞれ相当する。つまりCPU311は、制御プログラムPRAに基づく情報処理を実行することによって設定部として機能する。
【0032】
なお、調整範囲は、位相PBを含み、180度を含まない範囲として設定されればよく、例えば位相PBから角度AAだけ遅れた位相から、位相PBから角度AAとは異なる角度ABだけ進んだ位相までの範囲として設定されてもよい。あるいは調整範囲は、例えば位相PBから角度ABだけ遅れた位相から、位相PBから角度AAだけ進んだ位相までの範囲として設定されてもよい。さらに調整範囲は、例えば位相PBから角度ABだけ遅れた位相から、位相PBから角度AA及び角度ABのいずれとも異なる角度ACだけ進んだ位相までの範囲として設定されてもよい。調整範囲を、位相PBから角度ABだけ遅れた位相からの範囲として設定するのであるならば、位相PBから角度ABだけ遅れた位相が、所要抑圧量が得られる位相であればよく、規定抑圧状態は、所要抑圧量とは異なる抑圧量が得られる状態として定められても構わない。
【0033】
ACT6としてCPU311は、抑圧不足状態となるのを待ち受ける。
自己干渉信号に位相変動が生じると、自己干渉信号の位相とキャンセル信号の位相との関係に変化が生じることとなり、抑圧量も変化することになる。そして抑圧量が低下し、正常抑圧状態ではなくなった状態を抑圧不足状態とする。つまりCPU311は例えば、抑圧量が-20dBよりも大きくなったならば、抑圧不足状態となったとしてYESと判定し、ACT7へと進む。
【0034】
ACT7としてCPU311は、可変範囲の一部の範囲に限って振幅及び位相をスキャンする。CPU311は、ここでの振幅のスキャンのために、例えばスキャン前に可変減衰器21に設定されていた利得を中心として予め定められた幅の利得範囲で可変減衰器21の利得を変化させる。ここでの利得範囲の幅は、例えば読取装置100の設計者などにより適宜に定められる。当該幅は、例えば±3dBとすることが想定される。またCPU311は、ここでの位相のスキャンのために、ACT5で設定した調整範囲内でキャンセル信号の位相を変化させるべく可変移相器22の移相量を変化させる。そしてCPU311は、このようにしてキャンセル信号の振幅及び位相を変化させながら、FPGA312により測定される抑圧量の変化をチェックし、この抑圧量が最大となったときの可変減衰器21の利得及び可変移相器22の移相量を判定する。
【0035】
ACT8としてCPU311は、ACT7にて判定した利得及び移相量により正常抑圧状態となるか否かを確認する。CPU311は、ACT7にて判定した利得及び移相量により正常抑圧状態となるか否かを確認する。そしてCPU311は、正常抑圧状態となるならばYESと判定し、ACT9へと進む。
ACT9としてCPU311は、ACT7にて判定した利得及び移相量を可変減衰器21及び可変移相器22に設定する。そしてCPU311はこののち、ACT6の待ち受け状態に戻る。
かくしてCPU311は、キャンセル信号の位相に関しては、調整範囲内での変更により正常抑圧状態を維持できるならば、調整範囲内での調整を継続する。つまりCPU311は、制御プログラムPRAに基づく情報処理を実行することによって、キャンセル信号の位相を調整するための制御を行う制御部として機能する。
【0036】
さて、自己干渉信号の振幅又は位相が大幅に変動すると、ACT7でのスキャンでは正常抑圧状態を維持することができない場合がある。CPU311はこの場合には、ACT8にてNOと判定し、ACT1以降を前述と同様に繰り返す。つまりCPU311は、調整範囲の設定からやり直す。
【0037】
図4は自己干渉信号とキャンセル信号との関係をIQ直交座標系において表した図である。
キャンセル信号の位相は、
図4に表されるように、自己干渉信号の逆相からずらされ、かつ逆相を含まない調整範囲RB内で調整される。この結果、
図4に表されるような残留信号が残るものの、そのレベルは非常に小さく抑えられ、かつその位相方向は
図4に表される方向から逆転することはない。かくして、この残留信号は、並行して実行されている受信処理におけるデータ復調に影響しない。つまり、制御処理が
図3中のACT6~ACT9のループにあるときには、受信処理においてRFIDタグ200の応答信号からのデータ復調を正常に行える。
かくして読取装置100によれば、キャンセル信号に起因して応答データを正しく復号できない状況が生じることを防止できる。
【0038】
[第2の実施形態]
図5は第2の実施形態に係る読取装置300の要部回路構成を示すブロック図である。
読取装置300の要部回路構成は、読取装置100と同様である。読取装置300は、メモリ32が記憶する情報処理プログラムの1つが、制御プログラムPRAとは異なる制御プログラムPRBである点で読取装置100と異なる。
かくして読取装置300の動作は、制御プログラムPRBに基づく自己干渉信号のキャンセルのための制御処理の内容が読取装置100とは異なる。
【0039】
図6は第2の実施形態における制御処理のフローチャートである。
なお、
図6において、
図2に表されるのと同じ処理に対しては同じ符号を付している。
ACT11としてCPU311は、全範囲での振幅及び位相のスキャンを開始する。つまりCPU311は例えば、可変減衰器21の利得の調整可能範囲と可変移相器22の移相量の調整可能範囲の全範囲を対象として利得及び移相量を徐々に変化させながら、FPGA312により測定される抑圧度をチェックする処理を開始する。
【0040】
ACT12としてCPU311は、抑圧量が最大となる抑圧状態(以下、最大抑圧状態と称する)が検出されるのを待ち受ける。そして最大抑圧状態を検出できたならばYESと判定し、ACT13へと進む。
ACT13としてCPU311は、振幅及び位相のスキャンを停止する。
【0041】
ACT14としてCPU311は、可変減衰器21の利得を、上記のスキャンで抑圧量が最大となった際の利得に設定する。
図7はキャンセル信号の生成のための移相量変化に伴う残留信号レベルの変化を表す図。
ACT15としてCPU311は、可変移相器22の移相量を、上記のスキャンで抑圧量が最大となった際の移相量に基づいて設定する。CPU311は例えば、
図7に表すように上記のスキャンで抑圧量が最大となった際の移相量SAから規定量SBを減じた移相量SCに設定する。
【0042】
ACT16としてCPU311は、移相量の調整範囲を設定する。CPU311は例えば、ACT15にて設定した移相量SCを中心とする予め定められた規定幅WAの範囲を調整範囲RDとして設定する。CPU311は例えば、[SC-WA/2]として求まる移相量から[SC+WA/2]として求まる移相量までの範囲を調整範囲RDとして設定する。
【0043】
ここで、規定量SB及び規定幅WAは、例えば読取装置100の設計者などにより適宜に定められる。ただし規定量SB及び規定幅WAは、範囲RAの幅をWBとするとき、[SB>WA/2]及び[SB+WA/2≦WB/2]が成立するように定められるべきである。規定量SB及び規定幅WAは、例えば7.5度及び5度とすることが想定される。
ここで、スキャンで抑圧量が最大となった際の移相量SAで生じるキャンセル信号の位相が最適位相であって、この最適位相に対して規定量SBに応じた第1の位相差を持った位相が調整範囲RDの中心位相となる。そして、調整範囲RDは、第2の位相差としてのWA/2だけ中心位相から両方向に離れた位相の間の範囲となる。
【0044】
なおCPU311は、移相量SAよりも大きな移相量の範囲として調整範囲を設定してもよい。たとえばCPU311は、ACT15としては、移相量SAに規定量SBを加えた移相量SCに設定し、[SC-WA/2]として求まる移相量から[SC+WA/2]として求まる移相量までの範囲を調整範囲RDとして設定するのでもよい。
【0045】
CPU311はこののち、ACT6~ACT9を第1の実施形態と同様に実行する。なおCPU311は、ACT8にてNOと判定した場合には、ACT11以降を繰り返す。
かくして読取装置300によれば、読取装置100と同様に、キャンセル信号に起因して応答データを正しく復号できない状況が生じることを防止できる。
【0046】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
RFIDタグ200に書き込みを行うためにRFIDタグ200と通信する通信装置として実現することも可能である。またRFIDタグ200とは別の通信装置と通信するための通信装置として実現することも可能である。
【0047】
情報処理によりCPU311が実現する各機能は、その一部又は全てをロジック回路などのようなプログラムに基づかない情報処理を実行するハードウェアにより実現することも可能である。また上記の各機能のそれぞれは、上記のロジック回路などのハードウェアにソフトウェア制御を組み合わせて実現することも可能である。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
11…発振器、12…移相器、13…DA変換器、14…直交変調器、15…BPF、16…電力増幅器、17…LPF、18…アンテナ共用器、19…給電線、20…アンテナ、21…可変減衰器、22…可変移相器、23…DA変換器、24…電力合成器、25…直交検波器、26…BPF、27…ベースバンド増幅器、28…AD変換器、29…LPF、30…AD変換器、31…制御部、311…CPU、312…FPGA、32…メモリ、100,300…読取装置、200…RFIDタグ。