(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097240
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】複合多孔質体、および複合多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20240710BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240710BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240710BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240710BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20240710BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240710BHJP
B01D 71/60 20060101ALI20240710BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20240710BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240710BHJP
B01D 69/06 20060101ALI20240710BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20240710BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240710BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/36
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/60
B01D69/04
B01D69/10
B01D69/06
C08J9/04 101
C08J9/04 CEW
B32B5/18
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000679
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】野々村 和也
(72)【発明者】
【氏名】諏澤 和葉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大
(72)【発明者】
【氏名】宮永 美紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 徹
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
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4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる複合多孔質体を提供する。
【解決手段】第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、前記被覆層は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子と、親水性ポリマーと、を含む多孔質膜であり、前記被覆層の平均孔径が5nm以上500nm以下であり、前記被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい、複合多孔質体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面を有する基材と、
前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、
前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、
前記被覆層は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子と、親水性ポリマーと、を含む多孔質膜であり、
前記被覆層の平均孔径が5nm以上500nm以下であり、
前記被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい、
複合多孔質体。
【請求項2】
前記被覆層の臨界湿潤表面張力は、第一の液体の表面張力と第二の液体の表面張力との平均値であり、
前記第一の液体は、前記被覆層に滴下されて所定時間放置された状態で、前記被覆層に吸収されない液体であり、
前記第二の液体は、前記被覆層に滴下されて所定時間放置された状態で、前記被覆層に吸収される液体であり、
前記第一の液体の表面張力と前記第二の液体の表面張力との差は、2dyn/cm以上4dyn/cm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項3】
前記複数の粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項4】
前記被覆層の平均厚さが10nm以上10000nm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項5】
前記被覆層は、前記被覆層の表面に開口した開口孔を備え、
前記開口孔の平均孔径が10nm以上1000nm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項6】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、およびカルボキシル基を含むポリアクリル酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項7】
前記親水性ポリマーは、前記親水性ポリマーおよび前記ポリテトラフルオロエチレンに由来する複数の化学構造を含み、
前記複数の化学構造のうちCH2-O-R結合の含有量が3%以上15%以下である、請求項6に記載の複合多孔質体。
【請求項8】
前記基材の前記第一面における平均孔径が20nm以上2000nm以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項9】
前記基材の前記第一面における平均孔径に対する前記被覆層の平均孔径の比率が0.01以上1以下である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項10】
前記基材の形状はシートである、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項11】
前記基材の平均厚さが1μm以上100μm以下である、請求項10に記載の複合多孔質体。
【請求項12】
前記基材の形状はチューブであり、
前記第一面は、前記チューブの外周面である、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項13】
前記基材の平均厚さが50μm以上1000μm以下である、請求項12に記載の複合多孔質体。
【請求項14】
前記基材は、前記第一面を含む第一層と、前記第一層に隣接する第二層と、を備え、
前記第二層の平均孔径は、前記第一層の平均孔径よりも大きい、請求項1に記載の複合多孔質体。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の複合多孔質体の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材を用意する工程Aと、
ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子を含む第一液を用意する工程Bと、
前記基材の第一面に前記第一液を塗布する工程Cと、
前記第一液が塗布された前記基材を熱処理する工程Dと、
前記第一液が熱処理されて構成された被覆層を親水化処理する工程Eと、を備え、
前記工程Bでは、前記複数の粒子の平均粒径を10nm以上1000nm以下とし、
前記工程Dでは、80℃以上400℃以下の加熱雰囲気下で熱処理し、
前記工程Eでは、第一工程および第二工程の少なくとも一つを行い、
前記第一工程では、前記基材と面する外部空間を前記被覆層と面する外部空間よりも低圧にして、親水性ポリマーを含む第二液を前記被覆層から前記基材に向かって通液させ、
前記第二工程では、チャンバーに貯留された前記第二液に前記基材および前記被覆層の一体物を浸漬させた状態で、前記チャンバー内の気相を大気圧未満の雰囲気にする、
複合多孔質体の製造方法。
【請求項16】
前記第二液中の前記親水性ポリマーの分子量を20000以上100000以下とする、請求項15に記載の複合多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合多孔質体、および複合多孔質体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多孔質基材と粒子層とを備えるフッ素系樹脂多孔質分離膜が開示されている。多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレンを主体として含む。粒子層は、多孔質基材の少なくとも表面に設けられており、ポリテトラフルオロエチレンからなる粒子を含む。
【0003】
特許文献2には、多孔質バルクの第1の多孔質面に粒子被覆を備える多孔質膜が開示されている。粒子被覆は、ポリテトラフルオロエチレンからなる粒子を含む。粒子被覆中の粒子は、25dyn/cm(ダイン/センチメートル)以下の臨界湿潤表面張力を有する。
【0004】
以下では、特許文献1の多孔質基材、および特許文献2の多孔質バルクの各々に相当する部材を基材と呼ぶ。また、特許文献1の粒子層、および特許文献2の粒子被覆の各々に相当する部材を被覆層と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-015002号公報
【特許文献2】特開2015-003322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる複合多孔質体が望まれている。特許文献2の技術では、被覆層中の粒子の臨界湿潤表面張力が25dyn/cm以下であるため、被覆層自体の臨界湿潤表面張力も25dyn/cm以下である。被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cm以下では、水相から油といった有機相を分離することができても、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できないおそれがある。耐熱性および耐薬品性に優れるポリテトラフルオロエチレンによって構成され、かつナノオーダーの小さい物質を除去できる多孔質膜において、被覆層の臨界湿潤表面張力を25dyn/cmよりも大きくする技術は確立されていない。
【0007】
本開示は、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる複合多孔質体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の複合多孔質体は、第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、前記被覆層は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子と、親水性ポリマーと、を含む多孔質膜であり、前記被覆層の平均孔径が5nm以上500nm以下であり、前記被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の複合多孔質体は、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るシート形状の複合多孔質体の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1の複合多孔質体の構造を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、
図2の複合多孔質体の被覆層の表面を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、被覆層の平均孔径を求める通液試験に用いられる試験装置の概略図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る複合多孔質体の製造方法の工程Dを示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る複合多孔質体の製造方法の工程Eの第一工程を示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る複合多孔質体の製造方法の工程Eの第二工程を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係るチューブ形状の複合多孔質体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様の複合多孔質体は、第一面を有する基材と、前記第一面の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、前記基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体であり、前記被覆層は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子と、親水性ポリマーと、を含む多孔質膜であり、前記被覆層の平均孔径が5nm以上500nm以下であり、前記被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい。
【0013】
上記(1)の複合多孔質体は、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる。複数の粒子で構成された被覆層では、粒子間の隙間が空孔となり、流路として機能する。被覆層の平均孔径が500nm以下であると、ろ過性能に優れる。ろ過性能とは、流体からの物質の分離のし易さのことである。この被覆層によって、ナノオーダーの不純物が流体から除去される。被覆層の平均孔径が5nm以上では、流体が適度に通過し易い。被覆層が親水性ポリマーを含み、かつ被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きいと、上記物質がろ過されるときの流体の流速が速くなる。よって、被覆層の平均孔径が5nm以上であり、かつ被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きいと、通液性に優れる。通液性とは、流体の通り易さのことである。通液性が高い複合多孔質体は、ろ過時間を短縮できる。
【0014】
ポリテトラフルオロエチレンは耐熱性および耐薬品性に優れる。従って、上記(1)の複合多孔質体は、耐熱性および耐薬品性に優れる。
【0015】
(2)上記(1)の複合多孔質体において、前記被覆層の臨界湿潤表面張力は、第一の液体の表面張力と第二の液体の表面張力との平均値であってもよい。前記第一の液体は、前記被覆層に滴下されて所定時間放置された状態で、前記被覆層に吸収されない液体である。前記第二の液体は、前記被覆層に滴下されて所定時間放置された状態で、前記被覆層に吸収される液体である。前記第一の液体の表面張力と前記第二の液体の表面張力との差は、2dyn/cm以上4dyn/cm以下である。
【0016】
第一の液体の表面張力と第二の液体の表面張力との平均値で求めた被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きければ、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる。
【0017】
(3)上記(1)または上記(2)の複合多孔質体において、前記複数の粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下であってもよい。
【0018】
複数の粒子の平均粒径が10nm以上であると、複数の粒子による目詰まりが抑制され、粒子間に隙間が構成され易く、流体が流れ易い。複数の粒子の平均粒径が1000nm以下であると、平均孔径が小さくなり易く、ナノオーダーの小さい物質でも分離し易い。
【0019】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかの複合多孔質体において、前記被覆層の平均厚さが10nm以上10000nm以下であってもよい。
【0020】
被覆層の平均厚さが10nm以上であると、ろ過性能が向上し易い。被覆層の平均厚さが10000nm以下であると、通液性が向上し易い。
【0021】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかの複合多孔質体において、前記被覆層は、前記被覆層の表面に開口した開口孔を備え、前記開口孔の平均孔径が10nm以上1000nm以下であってもよい。
【0022】
開口孔の平均孔径が10nm以上であると、通液性が向上し易い。開口孔の平均孔径が1000nm以下であると、ろ過性能が向上し易い。
【0023】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれかの複合多孔質体において、前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、およびカルボキシル基を含むポリアクリル酸からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0024】
上記に列挙した材質は、高い親水性を有する。上記に列挙した材質の少なくとも一種を含む親水性ポリマーであれば、通液性が向上し易い。
【0025】
(7)上記(6)の複合多孔質体において、前記親水性ポリマーは、前記親水性ポリマーおよび前記ポリテトラフルオロエチレンに由来する複数の化学構造を含み、前記複数の化学構造のうちCH2-O-R結合の含有量が3%以上15%以下であってもよい。
【0026】
CH2-O-R結合が上記範囲で含まれると、通液性が向上し易い。
【0027】
(8)上記(1)から上記(7)のいずれかの複合多孔質体において、前記基材の前記第一面における平均孔径が20nm以上2000nm以下であってもよい。
【0028】
基材の第一面における平均孔径が20nm以上であると、流体が流れる孔の径が比較的大きく、通液性が向上し易い。基材の第一面における平均孔径が2000nm以下であると、被覆層を構成する粒子が第一面上に引っ掛かり易く、第一面上に被覆層が適切に構成され易い。
【0029】
(9)上記(1)から上記(8)のいずれかの複合多孔質体において、前記基材の前記第一面における平均孔径に対する前記被覆層の平均孔径の比率が0.01以上1以下であってもよい。
【0030】
上記比率が0.01以上であると、基材の第一面における平均孔径と被覆層の平均孔径との差が大きくなり過ぎず、第一面上に被覆層が適切に構成され易い。上記比率が1以下であると、被覆層の平均孔径が基材の第一面における平均孔径と同じまたは基材の第一面における平均孔径よりも小さくなり、被覆層によって、ナノオーダーの不純物が流体から除去され易い。
【0031】
(10)上記(1)から上記(9)のいずれかの複合多孔質体において、前記基材の形状はシートであってもよい。
【0032】
シート形状の基材を備える複合多孔質体の全体形状はシート形状である。シート形状の複合多孔質体は、様々な形状に加工し易く、種々の形態のろ過装置に適用可能である。
【0033】
(11)上記(10)の複合多孔質体において、前記基材の平均厚さが1μm以上100μm以下であってもよい。
【0034】
シート形状の基材の平均厚さが1μm以上であると、基材を含む複合多孔質体の強度が確保され易い。シート形状の基材の平均厚さが100μm以下であると、基材を含む複合多孔質体によるろ過時間が長くなり過ぎない。
【0035】
(12)上記(1)から上記(9)のいずれかの複合多孔質体において、前記基材の形状はチューブであり、前記第一面は、前記チューブの外周面であってもよい。
【0036】
チューブ形状の基材を備える複合多孔質体の全体形状はチューブ形状である。チューブ形状の複合多孔質体では、不純物を含む流体はチューブ形状の複合多孔質体の外部に流通される。複合多孔質体を透過した流体はチューブ形状の複合多孔質体の内部に流通される。上記複合多孔質体は、複合多孔質体自体で流体の流路を構成できる。この複合多孔質体を複数本束ねることで浄化装置のモジュールを構成することができる。
【0037】
(13)上記(12)の複合多孔質体において、前記基材の平均厚さが50μm以上1000μm以下であってもよい。
【0038】
チューブ形状の基材の平均厚さが50μm以上であると、基材を含む複合多孔質体の強度が確保され易い。チューブ形状の基材の平均厚さが1000μm以下であると、基材を含む複合多孔質体によるろ過時間が長くなり過ぎない。
【0039】
(14)上記(1)から上記(13)のいずれかの複合多孔質体において、前記基材は、前記第一面を含む第一層と、前記第一層に隣接する第二層と、を備え、前記第二層の平均孔径は、前記第一層の平均孔径よりも大きくてもよい。
【0040】
基材の厚さが厚くなるほど、基材の強度、即ち複合多孔質体の強度が高くなる。反面、基材の通液性、即ち複合多孔質体の通液性は低下する。平均孔径が大きい第二層を備える基材aの通液性は、基材aと同じ厚さを有し、かつ第一層のみからなる基材bの通液性よりも優れる。従って、基材が第一層と第二層とで構成されることで、基材を厚くしても複合多孔質体のろ過時間が長くなり難い。
【0041】
(15)本開示の一態様の複合多孔質体の製造方法は、上記(1)から上記(14)のいずれかの複合多孔質体の製造方法であって、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材を用意する工程Aと、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子を含む第一液を用意する工程Bと、前記基材の第一面に前記第一液を塗布する工程Cと、前記第一液が塗布された前記基材を熱処理する工程Dと、前記第一液が熱処理されて構成された被覆層を親水化処理する工程Eと、を備える。前記工程Bでは、前記複数の粒子の平均粒径を10nm以上1000nm以下とする。前記工程Dでは、80℃以上400℃以下の加熱雰囲気下で熱処理する。前記工程Eでは、第一工程および第二工程の少なくとも一つを行う。前記第一工程では、前記基材と面する外部空間を前記被覆層と面する外部空間よりも低圧にして、親水性ポリマーを含む第二液を前記被覆層から前記基材に向かって通液させる。前記第二工程では、チャンバーに貯留された前記第二液に前記基材および前記被覆層の一体物を浸漬させた状態で、前記チャンバー内の気相を大気圧未満の雰囲気にする。
【0042】
上記(15)の複合多孔質体の製造方法では、複数の粒子で構成される被覆層の平均孔径を小さくできる上に、被覆層を均一的に親水化することができる。被覆層を均一的に親水化できると、被覆層の臨界湿潤表面張力を25dyn/cmよりも大きくすることができると考えられる。被覆層の平均孔径を小さくでき、かつ被覆層の臨界湿潤表面張力を25dyn/cmよりも大きくできると、ナノオーダーの小さい物質をろ過対象の流体から除去できる複合多孔質体が得られる。
【0043】
工程Bでは、平均粒径が10nm以上1000nm以下である比較的小さい粒子を用いている。平均粒径が小さい複数の粒子を用いることで、被覆層の平均孔径を小さくすることができる。
【0044】
工程Dでは、基材に複数の粒子を堆積させた状態で熱処理している。熱処理温度を80℃以上とすることで、複数の粒子同士が密着され、かつ複数の粒子で構成される被覆層と基材とを密着することができる。熱処理温度を80℃以上とすることで、粒子間の隙間を小さくでき、複数の粒子で構成される被覆層の平均孔径を小さくすることができる。熱処理温度を400℃以下とすることで、各粒子が溶融し難く、粒子間の隙間を確保し易い。
【0045】
工程Eでは、熱処理で構成された上記被覆層を親水化処理している。親水性ポリマーは、上記熱処理の温度域では溶融される。熱処理後に親水化処理を行うため、上記複合多孔質体の製造方法で得られた複合多孔質体では、被覆層に親水性ポリマーが適切に分散される。親水化処理として第一工程または第二工程を行うことで、親水性ポリマーを被覆層の孔内に十分に入り込ませることができる。
【0046】
親水化処理として第一工程を行うと、第二液が被覆層から基材に向かって強制的に通液させられるため、親水性ポリマーが被覆層の孔内に入り込み、粒子を覆うように分散される。親水化処理として第二工程を行うと、浸漬によって第二液を被覆層の表面に付着させることができ、大気圧未満の雰囲気によって第二液に含まれる親水性ポリマーを被覆層の孔内に入り込ませることができる。浸漬を行っただけでは、第二液を被覆層の表面に付着させることができるものの、被覆層の孔内にまで入り込ませることはできない。このとき、被覆層の孔内には、空気が含まれている。第二液に一体物を浸漬させた状態で、チャンバー内の気相を大気圧未満の雰囲気にすれば、被覆層の孔内に残存した空気が抜け出し、表面に付着した親水性ポリマーが被覆層の孔内に入り込み、粒子を覆うように分散される。第一工程または第二工程を行えば、被覆層が親水性ポリマーを含み、かつ被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい複合多孔質体を製造することができる。
【0047】
(16)上記(15)の複合多孔質体の製造方法において、前記第二液中の前記親水性ポリマーの分子量を20000以上100000以下としてもよい。
【0048】
親水性ポリマーの分子量を20000以上とすると、親水性ポリマーによるポリマー鎖が長くなり易く、工程Eにおいて各粒子を親水性ポリマーで被覆し易い。親水性ポリマーの分子量を100000以下とすると、親水性ポリマーによるポリマー鎖が長くなり過ぎず、親水性ポリマーが粒子間の隙間に目詰まりすることを抑制できる。
【0049】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の複合多孔質体、および複合多孔質体の製造方法の具体例を図面に基づいて説明する。以下、図中の同一符号は同一または相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。
【0050】
≪実施形態1≫
実施形態1では、
図1から
図4を参照して、シート形状の複合多孔質体1を説明する。
【0051】
<複合多孔質体>
複合多孔質体1は、基材2と被覆層3とを備える。基材2は多孔質体である。被覆層3は多孔質膜である。被覆層3は、基材2の第一面21の少なくとも一部を覆うように第一面21に配置されている。実施形態1の複合多孔質体1の特徴の一つは、被覆層3の平均孔径が小さく、かつ被覆層3の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きい点にある。
【0052】
〔基材〕
基材2は、
図1および
図2に示すように、第一面21と第二面22とを備える。本例では、
図1に示すように、基材2の形状はシートである。基材2は、
図2に示すように、複数の空孔2hを備える。
図2は断面図であるため、各空孔2hが独立しているように見えるが、隣り合う空孔2h同士がつながっている。基材2には、第一面21から第二面22に至る無数の流路が形成されている。
【0053】
基材2は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって構成されている。ポリテトラフルオロエチレンは、耐熱性および耐薬品性に優れる。従って、複合多孔質体1の耐熱性および耐薬品性が向上する。また、ポリテトラフルオロエチレンは可とう性に優れるため、基材2は可とう性に優れる。
【0054】
基材2は、図示しない親水性ポリマーを含んでいてもよい。基材2が親水性ポリマーを含むと、基材2を流れる流体の流速が速くなる。親水性ポリマーの材質は、後述する被覆層3に含まれる親水性ポリマーと同じである。基材2が親水性ポリマーを含むと、基材2の臨界湿潤表面張力は、例えば25dyn/cmより大きい。基材2の臨界湿潤表面張力は、30dyn/cm以上、50dyn/cm以上、または72dyn/cm以上であってもよい。基材2の臨界湿潤表面張力の求め方は後述する。
【0055】
基材2の厚さは、第一面21と第二面22との間の長さである。基材2の平均厚さは、例えば1μm以上100μm以下である。基材2の平均厚さが1μm以上であると、基材2を含む複合多孔質体1は強度に優れる。基材2の平均厚さが100μm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。基材2の平均厚さが100μm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1は可とう性に優れる。複合多孔質体1は、円筒状に丸められた状態で浄化装置のモジュールのフィルターを構成してもよい。この場合、複合多孔質体1には曲げに対する耐性が求められる。可とう性に優れる複合多孔質体1は、浄化装置のモジュールのフィルターに好適である。円筒状のモジュールでは、被覆層3は円筒の外周側に配置される。
【0056】
基材2の平均厚さは、5μm以上、10μm以上、15μm以上、または20μm以上であってもよい。基材2の平均厚さは、90μm以下、80μm以下、または50μm以下であってもよい。基材2の平均厚さの範囲は、例えば10μm以上90μm以下、または、20μm以上50μm以下である。
【0057】
基材2の平均厚さは、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって求められる。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。基材2と被覆層3とは、複合多孔質体1の製造時に熱融着される。そのため、基材2と被覆層3との境界は、SEM画像において確認することができる。上記境界から基材2の第二面22までの距離が基材2の厚さである。基材2の平均厚さは、基材2における異なる5点以上の厚さを平均したものである。
【0058】
基材2の第一面21における平均孔径は、例えば20nm以上2000nm以下である。基材2の第一面21における平均孔径が20nm以上であると、基材2を含む複合多孔質体1は通液性に優れる。基材2の第一面21における平均孔径が2000nm以下であると、被覆層3を構成する粒子4が第一面21上に引っ掛かり易く、第一面21上に被覆層3が適切に構成され易い。基材2の第一面21における平均孔径が2000nm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1は強度に優れる。基材2の第一面21における平均孔径は、50nm以上、100nm以上、または200nm以上であってもよい。基材2の第一面21における平均孔径は、450nm以下、400nm以下、または350nm以下であってもよい。基材2の第一面21における平均孔径の範囲は、例えば50nm以上450nm以下、または200nm以上350nm以下であってもよい。
【0059】
第一面21には複数の空孔2hが形成されている。第一面21の上に被覆層3が形成されていると、基材2の第一面21における空孔2hの平均孔径を測定することは難しい。本明細書における基材2の第一面21における平均孔径は、基材2の厚さに沿って切断した断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率は、5000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。上記SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各空孔2hを抽出する。各空孔2hの円相当径を求め、全ての空孔2hの円相当径の平均を求める。円相当径は、空孔2hの面積と同じ大きさの真円の直径のことである。この平均円相当径を基材2の第一面21における平均孔径とみなす。
【0060】
基材2は、
図2に示すように、複数の層を備えていてもよい。本例の基材2は、第一層2Aと第二層2Bとを備える。
図2では、第一層2Aと第二層2Bとの境界を二点鎖線で模式的に示している。第一層2Aは、第一面21を含む。第二層2Bは、第一層2Aに隣接する。本例の第二層2Bは、第二面22を含む。第二層2Bの平均孔径は、第一層2Aの平均孔径よりも大きい。平均孔径が大きい第二層2Bを備える基材2の通液性は、基材2と同じ厚さを有し、かつ第一層2Aのみからなる基材2の通液性よりも優れる。従って、基材2が第一層2Aと第二層2Bとで構成されることで、基材2を厚くしても複合多孔質体1のろ過時間が長くなり難い。第二層2Bの平均孔径は、例えば、第一層2Aの平均孔径の2倍以上2000倍以下、または10倍以上1000倍以下であってもよい。基材2が3層以上の層からなる場合、第一面21から遠い層ほど平均孔径が大きくてもよい。本例とは異なり、基材2は、第一層2Aのみから構成されていてもよい。この場合、第一層2Aは第一面21と第二面22とを含む。
【0061】
第一層2Aおよび第二層2Bの平均孔径は、基材2の厚さに沿って切断した断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率およびサイズは、第一面21の平均孔径を求める場合と同じである。第一層2Aと第二層2Bとは、基材2の作製時に熱融着される。そのため、第一層2Aと第二層2Bとの境界はSEM画像において確認することができる。SEM画像において、境界を挟んで第一面21を含む領域に存在する各空孔2hの円相当径の平均が、第一層2Aの平均孔径である。同様に、SEM画像において、境界を挟んで第二面22を含む領域に存在する各空孔2hの円相当径の平均が、第二層2Bの平均孔径である。
【0062】
〔被覆層〕
被覆層3は、複数の粒子4と親水性ポリマー5とを含む。被覆層3は、隣り合う粒子4同士が焼結により結合して構成されている。
図2では、複数の粒子4の一部を図示し、分かり易いように表面30を直線で示している。被覆層3の図示に関しては、他の図も同様である。親水性ポリマー5は、各粒子4の表面を覆うように配置されている。隣り合う粒子4間には隙間が構成されている。親水性ポリマー5のサイズはオングストロームのオーダーであり、粒子4間の隙間が被覆層3の空孔であるとみなすことができる。この空孔が流路として機能する。被覆層3には、被覆層3の表面から基材2の第一面21との接触面に至る無数の流路が形成されている。
【0063】
各粒子4は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって構成されている。ポリテトラフルオロエチレンは、耐熱性および耐薬品性に優れる。従って、複合多孔質体1の耐熱性および耐薬品性が向上する。
【0064】
被覆層3の平均孔径は、5nm以上500nm以下である。被覆層3の平均孔径が5nm以上であると、被覆層3を含む複合多孔質体1は通液性に優れる。被覆層3の平均孔径が500nm以下であると、ろ過性能に優れる。この被覆層3によって、ナノオーダーの不純物が流体から除去される。被覆層3の平均孔径は、10nm以上、15nm以上、または20nm以上であってもよい。被覆層3の平均孔径は、400nm以下、300nm以下、200nm以下、または100nm以下であってもよい。被覆層3の平均孔径の範囲は、例えば5nm以上200nm以下、5nm以上100nm以下、10nm以上100nm以下、15nm以上100nm以下、または20nm以上100nm以下である。
【0065】
被覆層3の平均孔径は、通液試験によって求められる。通液試験は、
図4に示す試験装置7を用いて行われる。試験装置7は、ビーカー70とチャンバー71と吐出部72とを備える。複合多孔質体1は、チャンバー71の下端開口部71Uと吐出部72の上端開口部72Dとの間に配置される。複合多孔質体1は、被覆層3がチャンバー71を向くように配置される。
【0066】
被覆層3の平均孔径を求める手順は以下の通りである。既知の平均粒径を有する複数の粒子を含む試験液を作製する。試験液における粒子の濃度(g/cm3)は既知である。試験液をチャンバー71に入れ、試験液の上から加圧する。加圧する圧力は0.6MPa以上とする。この加圧によって、試験液が複合多孔質体1の内部を流れる。複合多孔質体1を透過したろ液が吐出部72からビーカー70に流れる。ビーカー70に溜まったろ液に含まれる粒子の濃度(g/cm3)を測定する。粒子の濃度は、測定したろ液の体積と、ろ液を蒸発させた後に残る粒子の質量とから計算によって求められる。ろ液における粒子の濃度が、試験液における粒子の濃度の10%以下になれば、試験液に含まれる粒子の平均粒径を被覆層3の平均孔径とみなす。
【0067】
基材2の第一面21における平均孔径に対する被覆層3の平均孔径の比率は、例えば0.01以上1以下ある。上記比率が0.01以上であると、基材2の第一面21における平均孔径と被覆層3の平均孔径との差が大きくなり過ぎず、第一面21上に被覆層3が適切に構成され易い。上記比率が1以下であると、被覆層3の平均孔径が基材2の第一面21における平均孔径と同じまたは基材2の第一面21における平均孔径よりもが小さくなり、被覆層3によるろ過性能が向上する。上記比率は、0.05以上0.8以下、0.1以上0.5以下、または0.2以上0.4以下であってもよい。
【0068】
被覆層3は、
図3に示すように、被覆層3の表面30に開口した開口孔3hを備える。開口孔3hの平均孔径は、例えば10nm以上1000nm以下である。開口孔3hの平均孔径が10nm以上であると、通液性が向上し易い。開口孔3hの平均孔径が1000nm以下であると、ろ過性能が向上し易い。開口孔3hの平均孔径は、第一面21の平均孔径と同様に、画像解析によって求められる。表面30のSEM画像を取得し、二値化処理によって開口孔3hを特定する。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。開口孔3hの平均円相当径が、開口孔3hの平均孔径である。
【0069】
複数の粒子4の平均粒径は、例えば10nm以上1000nm以下である。複数の粒子4の平均粒径は、被覆層3の平均孔径の大きさに寄与する。複数の粒子4の平均粒径が10nm以上であると、複数の粒子4による空孔への目詰まりが抑制され、粒子4間に隙間が構成され易い。複数の粒子4の平均粒径が1000nm以下であると、平均孔径が小さくなり易い。複数の粒子4の平均粒径は、被覆層3の厚さに沿って切断した断面のSEM画像から求められる。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。上記SEM画像を二値化処理し、SEM画像における各粒子4を抽出する。各粒子4の円相当径を求め、全ての粒子4の円相当径の平均を求める。円相当径は、粒子4の面積と同じ大きさの真円の直径のことである。この平均円相当径を複数の粒子4の平均粒径とみなす。
【0070】
被覆層3の臨界湿潤表面張力は、25dyn/cmよりも大きい。被覆層3は、親水性ポリマー5を含むことで親水化されている。被覆層3の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きいと、通液性に優れると言える。被覆層3の臨界湿潤表面張力は、30dyn/cm以上、50dyn/cm以上、または72dyn/cm以上であってもよい。被覆層3の臨界湿潤表面張力は、例えば110dyn/cm以下である。被覆層3の臨界湿潤表面張力の範囲は、例えば25dyn/cm超110dyn/cm以下、30dyn/cm以上94dyn/cm以下、または50dyn/cm以上87dyn/cm以下である。
【0071】
被覆層3の臨界湿潤表面張力は、複数の液体を順に被覆層3の表面30に滴下し、各液体が被覆層3に吸収されたか否かを観察することで求められる。被覆層3の臨界湿潤表面張力を求める手順は以下の通りである。表面張力(dyn/cm)の異なる複数の液体を準備する。各液体の表面張力(dyn/cm)は既知である。複数の液体は、小さい表面張力から大きい表面張力まで等間隔で連続した表面張力を有する。表面張力が最も近い液体同士の表面張力の差は、2dyn/cm以上4dyn/cm以下である。各液体を10滴ずつ被覆層3の表面に滴下する。各液体を滴下後、10分間放置する。放置開始から10分後、各液体が被覆層3に吸収されたか否かを目視にて観察する。各液体において、10滴中少なくとも9滴が被覆層3に吸収されなければ、その液体は被覆層3に吸収されない液体であるとみなす。各液体において、10滴中少なくとも9滴が被覆層3に吸収されたら、その液体は被覆層3に吸収される液体であるとみなす。複数の液体のうち、被覆層3に吸収されない第一の液体と被覆層3に吸収される第二の液体とが決定される。表面張力の差が2dyn/cm以上4dyn/cm以下の範囲にある第一の液体と第二の液体との平均値を求める。この平均値を被覆層3の臨界湿潤表面張力とみなす。
【0072】
例えば、表面張力がαである液体α1、表面張力がβである液体β2、表面張力がγである液体γ3、および表面張力がδである液体δ4を準備したとする。表面張力は、α、β、γ、δの順に小さくなる。液体α1の表面張力αと液体β2の表面張力βとの差、液体β2の表面張力βと液体γ3の表面張力γとの差、および液体γ3の表面張力γと液体δ4の表面張力δとの差がそれぞれ2dyn/cm以上4dyn/cm以下である。液体α1および液体β2が被覆層3に吸収されない第一の液体であり、液体γ3および液体δ4が被覆層3に吸収される第二の液体であったとする。この場合、液体β2の表面張力βと液体γ3の表面張力γとの平均値が被覆層3の臨界湿潤表面張力である。
【0073】
複数の液体を順に基材2の第二面22に滴下し、各液体が基材2に吸収されたか否かを上述した手順と同様に観察すれば、基材2の臨界湿潤表面張力を求めることができる。
【0074】
親水性ポリマー5は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、およびカルボキシル基を含むポリアクリル酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む。上記に列挙した材質は、高い親水性を有する。上記に列挙した材質の少なくとも一種を含む親水性ポリマー5であれば、通液性が向上し易い。
【0075】
親水性ポリマー5は、親水性ポリマー5およびポリテトラフルオロエチレンに由来する複数の化学構造を含む。化学構造の一種であるCH2-O-R結合は、被覆層3の通液性を向上させる。上記複数の化学構造のうちCH2-O-R結合の含有量は、例えば3%以上15%以下である。CH2-O-R結合が上記範囲で含まれると、被覆層3の通液性が向上し易い。CH2-O-R結合の含有量はXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によって求められる。XPSの条件の詳細は、後述する試験例に示す。
【0076】
被覆層3の平均厚さは、例えば10nm以上10000nm以下である。被覆層3の平均厚さが10nm以上であると、被覆層3によって効率的に不純物を分離し易い、つまりろ過性能が向上し易い。被覆層3の平均厚さが10000nm以下であると、被覆層3を含む複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。被覆層3の平均厚さが10000nm以下であると、被覆層3を含む複合多孔質体1は可とう性に優れる。被覆層3の平均厚さは、15nm以上、50nm以上、100nm以上、または200nm以上であってもよい。被覆層3の平均厚さは、900nm以下、800nm以下、または500nm以下であってもよい。被覆層3の平均厚さの範囲は、例えば15nm以上900nm以下、または200nm以上500nm以下である。
【0077】
被覆層3の平均厚さは、基材2の平均厚さと同様の求め方で求められる。即ち、SEM-EDXによって求めた基材2と被覆層3との境界から被覆層3の表面30までの距離が被覆層3の厚さである。SEM画像の倍率は、10000倍である。SEM画像のサイズは、8μm×11μmである。被覆層3の平均厚さは、例えば被覆層3における異なる5点の厚さを平均したものである。
【0078】
<複合多孔質体の製造方法>
図5から
図7を参照して、実施形態1の複合多孔質体の製造方法を説明する。実施形態1の複合多孔質体の製造方法は、実施形態1の複合多孔質体1を製造できる。実施形態1の複合多孔質体の製造方法の特徴の一つは、複合多孔質体の表裏または内外の圧力差を利用して、平均孔径の小さい被覆層の内部にまで親水ポリマーを含む液体を浸透させる工程を備える点にある。複合多孔質体の製造方法は、以下の工程A、工程B、工程C、工程D、および工程Eを備える。工程A、工程B、工程C、工程D、および工程Eは順に行われる。工程Aと工程Bの順序は入れ替えてもよい。
【0079】
〔工程A〕
工程Aでは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体からなる基材2を用意する。基材2は、上述した複合多孔質体1に備わる基材2と同じである。
【0080】
基材2は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンからなる圧延材を延伸加工することで得られる。圧延材は、押出材を圧延加工することで作製できる。押出材は、樹脂ペーストを押出成形することで作製できる。樹脂ペーストは、ポリテトラフルオロエチレンからなるパウダーと助剤とを混合して作製できる。助剤は例えば潤滑剤である。延伸加工は、例えば第一延伸加工と第二延伸加工とを含んでいてもよい。第一延伸加工は、圧延材を第一方向に沿って延伸して第一延伸材を作製する。第二延伸加工は、第一延伸材を第二方向に延伸して第二延伸材を作製する。第一方向は、圧延に沿った方向である。第一方向と第二方向とは互いに直交している。
【0081】
〔工程B〕
工程Bでは、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子4を含む第一液を用意する。第一液は、分散媒中に複数の粒子4が分散されている。分散媒は、主に水またはイソプロピルアルコール(IPA)である。分散媒は、水とIPAとの混合溶液であってもよい。IPAは、基材2の表面に対する分散媒の濡れ性を向上させる。分散媒は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。
【0082】
第一液における複数の粒子4の濃度は、例えば0.1質量%以上40質量%以下である。濃度は、第一液の質量を100%としたときの質量割合である。複数の粒子4の濃度が0.1質量%以上であると、第一液における複数の粒子4の濃度が十分であるため、第一面21に複数の粒子4が堆積され易い。複数の粒子4の濃度が40質量%以下であると、第一液における複数の粒子4の濃度が高くなり過ぎない。複数の粒子4の濃度が高過ぎる第一液は、第一面21上に薄く均一に塗布し難い。
【0083】
複数の粒子4の平均粒径は、例えば、10nm以上1000nm以下である。上述した複合多孔質体1に備わる被覆層3を構成する複数の粒子4の平均粒径は、製造過程における複数の粒子4の平均粒径を実質的に維持する。
【0084】
〔工程C〕
工程Cでは、工程Aで用意した基材2の第一面21に、工程Bで用意した第一液を塗布する。第一液は、任意の方法で第一面21上に塗布することができる。塗布する方法は、例えば、スピンコート、バーコート、ディップコート、またはダイコートである。チューブ状やシート状の基材2を回転軸に固定し、基材2を回転させながら第一液をスプレーで塗布してもよい。薄い被覆層3を成膜するためには、スピンコートが好ましい。基材2を回転させながら、基材2上に第一液を滴下するスピンコートは、第一液を薄く、かつ均一に塗布できる。スピンコートの周速は、例えば5000mm/分以上20000mm/分以下、または7000mm/分以上15000mm/分以下である。
【0085】
〔工程D〕
工程Dでは第一液が塗布された基材2を、80℃以上400℃以下の熱雰囲気下で熱処理する。この熱処理によって、分散媒が蒸発し、
図5に示すように、第一面21上に複数の粒子4が堆積された被覆層3が構成される。隣り合う粒子4間には隙間が構成される。熱処理温度を80℃以上とすることで、隣り合う粒子4同士が結合し、かつ複数の粒子4で構成される被覆層3と基材2とを密着することができる。熱処理温度を80℃以上とすることで、粒子4間の隙間を小さくでき、複数の粒子4で構成される被覆層3の平均孔径を小さくすることができる。熱処理温度が高いほど、隣り合う粒子4同士が結合し易く、粒子4が脱落し難い。熱処理温度が高いほど、粒子4間の隙間が小さくなり易い。熱処理温度を400℃以下とすることで、各粒子4が溶融し難く、粒子4間の隙間を確保し易い。熱処理温度は、100℃以上380℃以下、150℃以上360℃以下、または200℃以上340℃以下であってもよい。加熱雰囲気は、例えば、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気、または減圧雰囲気である。
【0086】
工程Cと工程Dとからなる成膜サイクルを複数回繰り返してもよい。成膜サイクルのリピート数kは、例えば2以上5以下である。k回目の工程Cでは、k-1回目の工程Dによって形成された被覆層の上に第一液を塗布する。成膜サイクルを2回以上とすることで、第一面21に被覆層3が成膜されない領域が形成されることを抑制できる。このとき、k回目の工程Cで用いる第一液に含まれる複数の粒子4の平均粒径を、k-1回目の工程Cで用いる第一液に含まれる複数の粒子4の平均粒径よりも小さくしてもよい。平均粒径を変えると、第一面21上の複数の粒子4は、第一面21の近くほど大きくなり、第一面21から離れるにつれて小さくなる。第一面21の近くほど大きい粒子4が多いと、粒子4が第一面21上の空孔2hに落ち込み難く、第一面21上に被覆層3が適切に構成され易い。
【0087】
〔工程E〕
工程Eでは、第一液が熱処理されて構成された被覆層3を親水化処理する。親水化処理では、
図6および
図7に示すように、第二液8を用いる。
【0088】
第二液8は、分散媒中に親水性ポリマー5が分散されている。分散媒は、主に水である。親水性ポリマー5の分子量は、例えば20000以上100000以下である。親水性ポリマー5の分子量が20000以上であると、親水性ポリマー5によるポリマー鎖が長くなり易く、各粒子4が親水化され易い。親水性ポリマーの分子量が100000以下であると、親水性ポリマー5によるポリマー鎖が長くなり過ぎず、親水性ポリマー5が粒子4間の隙間に目詰まりすることを抑制できる。親水性ポリマー5の分子量は、数平均分子量である。親水性ポリマー5の分子量は、30000以上90000以下、40000以上80000以下、または50000以上70000以下であってもよい。
【0089】
工程Eでは、第一工程および第二工程の少なくとも一つを行う。第一工程および第二工程のいずれかを行ってもよいし、第一工程および第二工程の双方を行ってもよい。第一工程および第二工程の双方を行う場合、どちらを先に行ってもよい。以下では、工程Dで得られた基材2および被覆層3の一体物を、単に一体物と呼ぶ。
【0090】
〈第一工程〉
主に
図6を参照して、第一工程を説明する。第一工程では、基材2と面する外部空間を被覆層3と面する外部空間よりも低圧にして、第二液8を被覆層3から基材2に向かって通液させる。第一工程は、
図6に示すフラスコ91およびチャンバー92を用いて行う。フラスコ91は、内部を真空に排気できるように構成されている。フラスコ91とチャンバー92との間に一体物を配置する。一体物は、基材2の第二面22がフラスコ91を向くように配置され、被覆層3の表面30がチャンバー92を向くように配置される。第二液8をチャンバー92に入れる。フラスコ91内を真空引きする。この真空引きによって、基材2の第二面22と面する空間が被覆層3の表面30と面する空間よりも低圧になり、第二液8が被覆層3から基材2に向かって流れる。真空度は、例えば、80Pa以下、50Pa以下、または10Pa以下とする。真空度が高いほど、第二液8が被覆層3から基材2に向かって流れ易い。第二液8が被覆層3の空孔を流れると、第二液8に含まれる親水性ポリマー5が粒子4の表面を覆うように分散される。親水性ポリマー5は、粒子4の表面の少なくとも一部を覆う。第二液8が基材2の空孔2hを流れると、第二液8に含まれる親水性ポリマー5が基材2の構成材料の表面を覆うように分散される。親水性ポリマー5は、基材2の構成材料の表面の少なくとも一部を覆う。第一工程を行う時間は、例えば、0.1時間以上、1時間以上、または5時間以上とする。第一工程を行う時間が長いほど、親水性ポリマー5が被覆層3内に多く分散される。第一工程を行う時間が長いほど、親水性ポリマー5が基材2内に多く分散される。第一工程を行う時間は、例えば、6時間以下である。
【0091】
〈第二工程〉
主に
図7を参照して、第二工程を説明する。第二工程では、チャンバー93に貯留された第二液8に一体物を浸漬させた状態で、チャンバー93内の気相を大気圧未満の雰囲気にする。一体物の浸漬は、一体物の全体が第二液8の液面下に沈むように行われる。一体物を第二液8に浸漬させると、一体物の表面に第二液8が付着する。一体物を第二液8に浸漬させた段階では、親水性ポリマー5は被覆層3内に入り込んでいない。一体物を第二液8に浸漬させた段階では、被覆層3内および基材2内には空気が含まれている。第二液8に一体物を浸漬させた状態で、チャンバー93内の気相を大気圧未満の雰囲気にすると、被覆層3内の空気および基材2内の空気が外部に抜け出し、空気に代わって第二液8が被覆層3内および基材2内に入り込む。チャンバー9内の気相の真空度は、例えば、80Pa以下、50Pa以下、または10Pa以下とする。真空度が高いほど、被覆層3内の空気および基材2内の空気が外部に抜け出し易く、第二液8が被覆層3内および基材2内に入り込み易い。第二液8が被覆層3内および基材2内に入り込むと、第二液8に含まれる親水性ポリマー5が粒子4の表面を覆うように分散される。親水性ポリマー5は、粒子4の表面の少なくとも一部を覆う。第二液8が基材2の空孔2hを流れると、第二液8に含まれる親水性ポリマー5が基材2の構成材料の表面を覆うように分散される。親水性ポリマー5は、基材2の構成材料の表面の少なくとも一部を覆う。第二工程を行う時間は、例えば、0.1時間以上、1時間以上、または5時間以上とする。第二工程を行う時間が長いほど、親水性ポリマー5が被覆層3内に多く分散される。第二工程を行う時間が長いほど、親水性ポリマー5が基材2内に多く分散される。第二工程を行う時間は、例えば、6時間以下である。
【0092】
第一工程または第二工程を複数回繰り返してもよい。各工程のリピート数は、例えば2以上5以下である。各工程を複数回繰り返すことで、一回の工程で被覆層3内に入り込んだ親水性ポリマー5の量が少なくても、被覆層3の内部まで十分に親水化することができる。第二工程は、シートに比べて厚さの大きな一体物、例えば棒状またはブロック状の一体物であっても、親水化処理を行い易い。
【0093】
第一工程または第二工程を行った後は、架橋工程を行う。架橋工程では、親水性ポリマー5を架橋する架橋剤を含む第三液を親水性ポリマーに接触させる。架橋工程では、例えば、第一工程または第二工程によって得られた一体物を第三液に浸漬する。架橋剤は、親水性ポリマー5に比べて非常に小さく、被覆層3内および基材2内に入り込み易い。そのため、第三液に浸漬させただけで、架橋剤は被覆層3内および基材2内に入り込むことができる。架橋工程により、被覆層3の各粒子4および基材2の構成材料に親水性ポリマー5を強固に付着することができる。
【0094】
架橋工程後に得られた複合多孔質体1は、
図2に示すように、被覆層3に親水性ポリマー5を含む。よって、上記複合多孔質体1では、被覆層3の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きくなる。本例の複合多孔質体1は、図示しないものの、基材2に親水性ポリマー5を含む。よって、上記複合多孔質体1では、基材2の臨界湿潤表面張力も25dyn/cmよりも大きくなる。
【0095】
≪実施形態2≫
実施形態2では、
図8を参照して、チューブ形状の複合多孔質体1を説明する。実施形態2の複合多孔質体1は、基材2の形状がチューブである点が実施形態1の複合多孔質体1と相違する。チューブ形状の基材2の第一面21は基材2の外周面である。第一面21上に形成される被覆層3は、チューブ形状の複合多孔質体1の外周面を構成する。第二面22は、チューブ形状の複合多孔質体1の内周面を構成する。チューブ形状の複合多孔質体1では、不純物を含む流体はチューブ形状の複合多孔質体の外部に流通される。例えば液体または気体に固体が混ざっている混合流体をろ過する場合、混合流体は複合多孔質体1の外周側に導入される。混合流体は被覆層3と基材2とを通って複合多孔質体1の内部空間に流入する。内部空間に流入した混合流体は、複合多孔質体1の長さに沿って複合多孔質体1の外部に排出される。
【0096】
チューブ形状の基材2の平均厚さは、例えば50μm以上1000μm以下である。チューブ形状の基材2の平均厚さが50μm以上であると、基材2を含む複合多孔質体1の強度が確保され易い。チューブ形状の基材2の平均厚さが1000μm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1によるろ過時間が長くなり過ぎない。チューブ形状の基材2の平均厚さが1000μm以下であると、基材2を含む複合多孔質体1は可とう性に優れる。チューブ形状の基材2の平均厚さは、100μm以上500μm以下であってもよい。
【0097】
[試験例]
試験例では、被覆層に親水化処理を行った複合多孔質体を作製し、その複合多孔質体の通液性を調べた。
【0098】
<試料の作製>
表1および表2に示す試料No.1-1から試料No.1-14、試料No.1-101、および試料No.1-102の複合多孔質体を作製した。
【0099】
〔基材〕
いずれの試料も、基材は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された多孔質体である。基材の形状、厚さ、第一面の平均孔径、第二層の平均孔径は、表1に示す通りである。
【0100】
〈形状〉
基材の形状は、丸棒、シート、またはチューブである。丸棒形状およびチューブ形状の基材では、基材の外周面が第一面であり、その外周面に被覆層が設けられている。
【0101】
〈平均厚さ〉
シート形状の基材の平均厚さは、シート形状の複合多孔質体の厚さに沿って複合多孔質体を切断した断面を撮影したSEM画像から求めた。チューブ形状の基材の平均厚さは、チューブ形状の複合多孔質体の軸に直交する方向に複合多孔質体を切断した断面を撮影したSEM画像から求めた。いずれのSEM画像の倍率も10000倍とした。いずれのSEM画像のサイズも8μm×11μmとした。平均厚さは5点平均とした。丸棒形状の基材の平均厚さは、丸棒形状の基材の直径である。
【0102】
〈第一面の平均孔径〉
第一面の平均孔径は、複合多孔質体の厚さに沿って複合多孔質体を切断した断面のSEM画像を画像解析することによって求めた。SEM画像の倍率は5000倍とした。SEM画像のサイズは8μm×11μmとした。画像処理ソフト『ImageJ』を用いてSEM画像を二値化処理した。二値化処理の閾値は127とした。二値化処理された画像における各空孔の円相当径を平均することで、基材の平均孔径を求めた。基材の平均孔径を、基材の第一面の平均孔径とみなす。
【0103】
〈第二層の平均孔径〉
表1において、「-」表記されている試料は、基材が
図2に示される第二層2Bを備えておらず、第一層2Aのみで構成されていることを意味する。表1において数値が記載されている試料は、第二層2Bを備える。第二層の平均孔径は、複合多孔質体の厚さに沿って複合多孔質体を切断した断面のSEM画像を画像解析することによって求めた。画像解析の条件は、上述した画像解析の条件と同じである。二値化処理された画像における第二層の各空孔の円相当径を平均することで、第二層の平均孔径を求めた。第一層の平均孔径も、第二層の平均孔径と同様に、上記SEM画像を画像解析することによって求めた。第二層の平均孔径は、第一層の平均孔径よりも大きかった。
【0104】
〔被覆層〕
いずれの試料も、被覆層は、ポリテトラフルオロエチレンによって構成された複数の粒子を含む多孔質膜である。被覆層は、複数の粒子を含む第一液を基材の第一面に塗布した後、熱処理することで作製した。熱処理温度は、320℃とした。熱処理後に工程Eを行うことで、被覆層を親水化した。親水化は、被覆層に親水性ポリマーを分散させることで行った。被覆層における粒子の平均粒径、平均孔径、開口孔の平均孔径、平均孔径の比、平均厚さ、親水性ポリマーの材質、親水性ポリマーの分子量、親水性ポリマーに含まれるCH2-O-R結合の含有量、および親水化処理を行う工程Eの内容は、表2に示す通りである。試料No.1-102は親水化処理していない。
【0105】
〈複数の粒子の平均粒径〉
複数の粒子の平均粒径は、複合多孔質体の厚さに沿って複合多孔質体を切断した断面のSEM画像を画像解析することによって求めた。SEM画像の倍率は10000倍とした。その他の画像解析の条件は、上述した画像解析の条件と同じである。二値化処理された画像における各粒子の円相当径を平均することで、複数の粒子の平均粒径を求めた。
【0106】
〈平均孔径〉
被覆層の平均孔径は、
図4に示す試験装置7を用いた通液試験により求めた。通液試験では、複数の試験液を用意した。各試験液に含まれる粒子の平均粒径は既知である。表2に示す値は、この通液試験の結果である。
【0107】
〈開口孔の平均孔径〉
被覆層の開口孔の平均孔径は、被覆層の表面を撮影したSEM画像から測定した。SEM画像の倍率は10万倍とした。SEM画像のサイズは8μm×11μmとした。開口孔の平均孔径は、開口孔の円相当径の平均値である。
【0108】
〈平均孔径の比〉
平均孔径の比は、基材の第一面における平均孔径に対する被覆層の平均孔径の比率である。
【0109】
〈平均厚さ〉
被覆層の平均厚さは、複合多孔質体の厚さに沿って複合多孔質体を切断した断面のSEM画像から測定した。SEM画像の倍率は10000倍とした。SEM画像のサイズは8μm×11μmとした。平均厚さは5点平均とした。
【0110】
〈親水性ポリマーの材質〉
親水性ポリマーの材質は、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルアルコール(PVA)である。試料No.1-102では、親水化処理していないので「-」で示している。
【0111】
〈親水性ポリマーの分子量〉
親水性ポリマーの分子量は、親水化処理を行う際に用いた第二液に含まれる親水性ポリマーの数平均分子量である。
【0112】
〈親水性ポリマーに含まれるCH2-O-R結合の含有量〉
CH2-O-R含有量は、親水性ポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンに由来する複数の化学構造におけるCH2-O-R結合の含有量をパーセンテージで表したものである。CH2-O-R含有量はXPSによって求めた。測定機器は、ULVAC PHI製のQuanteraSXMであった。測定の条件は以下とした。
・X線源:MONO Al Kα
・ビーム条件:100μmφ,100W,20kV HP
・透過エネルギー:55eV(ナロー)、280eV(ワイド)
・分析元素:C,O,F
・光電子取り出し角:45°
【0113】
XPSによって得られたC1sスペクトルのピークに、12成分が存在すると仮定してピークを分離し、各成分のピークの積分強度を求めた。12成分の結合エネルギーはそれぞれ、284.0eV、285.0eV、285.8eV、286.6eV、287.5eV、288.4eV、289.1eV、289.9eV、290.7eV、291.8eV、292.6eV、および293.6eVである。CH2-O-R結合を含む化学構造は、286.6eVのピークに帰属される。上記ピークを12成分のピークに分離し、各成分のピークの積分強度を求めた。CH2-O-R含有量は、{(286.6eVの結合エネルギーのピークの積分強度)/(12成分のピークの積分強度の合計)}×100である。
【0114】
〈親水化処理を行う工程Eの内容〉
試料No.1-1から試料No.1-9では、第二工程によって親水化を行った。第二工程では、
図7に示すように、チャンバー93に貯留された第二液8に基材および被覆層の一体物を浸漬させた状態で、チャンバー93内の気相を大気圧未満の雰囲気にした。第二液8は、分散媒中に親水性ポリマーが分散された液である。チャンバー93内の気相の真空度は10Paとした。第二工程の時間は0.1時間とした。
【0115】
試料No.1-10から試料No.1-14では、第一工程によって親水化を行った。第一工程では、
図6に示すように、フラスコ91とチャンバー92との間に上記一体物を配置した。一体物は、基材の第二面がフラスコ91を向くように配置し、被覆層の表面がチャンバー92を向くように配置した。フラスコ91内を真空引きしながら、チャンバー92から上記第二液8を上記一体物に流した。フラスコ91内の真空度は10Paとした。第一工程の時間は0.1時間とした。
【0116】
試料No.1-101では、上記一体物を上記第二液に浸漬させただけとした。試料No.1-102では、親水化処理を行っていない。
【0117】
<被覆層の臨界湿潤表面張力>
各試料の複合多孔質体における被覆層の臨界湿潤表面張力を以下のように測定した。表面張力の異なる複数の液体を10滴ずつ各試料における被覆層の表面に滴下した。各液体の表面張力は既知である。複数の液体は、小さい表面張力から大きい表面張力まで2dyn/cmずつ表面張力が異なる。各液体を滴下後、10分間放置した。放置開始から10分後、各液体が被覆層に吸収されたか否かを目視にて観察した。各液体において、10滴中少なくとも9滴が被覆層に吸収されなければ、その液体は被覆層に吸収されない第一の液体であるとみなした。各液体において、10滴中少なくとも9滴が被覆層に吸収されたら、その液体は被覆層に吸収される第二の液体であるとみなした。2dyn/cmの差を有する第一の液体と第二の液体とを決定した。第一の液体の表面張力と第二の液体の表面張力との平均値を、被覆層の臨界湿潤表面張力とした。その結果を表3に示す。
【0118】
<流束比>
各試料の複合多孔質体の流束比を測定した。流束比は、試料No.1-2の流束を1としたときの各試料の流束である。流束は、試料を透過したろ液の流束である。流束は、ろ液の流量を所定の断面積で除した値である。所定の断面積は、複合多孔質体における第一面に平行な断面、即ち、ろ液の流れに直交する断面の面積である。全ての試料において、原液の流量は同じである。その結果を表3に示す。シート形状の複合多孔質体では、被覆層の表面から基材の第二面に向かってろ液が流れる。チューブ形状の複合多孔質体では、チューブの外周面からチューブの内部空間に向かって、ろ液が流れる。内部空間に流れ込んだろ液は、チューブの軸に沿ってチューブの外部に排出される。丸棒形状の複合多孔質体では、丸棒の外周面から内部に向かってろ液が流れる。丸棒の内部に流れ込んだろ液は、丸棒の軸に沿って移動し、丸棒の端面から丸棒の外部に排出される。流束比が高いほど、複合多孔質体の通液性が高い。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
表3に示すように、試料No.1-1から試料No.1-14の複合多孔質体は、試料No.1-101および試料No.1-102の複合多孔質体に比較して、通液性に優れる。試料No.1-1から試料No.1-14の複合多孔質体では、被覆層の臨界湿潤表面張力が25dyn/cmよりも大きいことで、被覆層の平均孔径が400nm以下と小さくても、優れた通液性を発揮したと考えられる。試料No.1-1から試料No.1-14の複合多孔質体では、第一工程または第二工程によって親水化処理を行っているため、被覆層の臨界湿潤表面張力を25dyn/cmよりも大きくできたと考えられる。第一工程または第二工程によって、被覆層の内部にまで親水性ポリマーを均一的に分散できたことで、被覆層の臨界湿潤表面張力を25dyn/cmよりも大きくできたと考えられる。被覆層の平均孔径が400nm以下と小さいと、この被覆層によって、ナノオーダーの不純物が流体から除去できると期待される。
【0123】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
1 複合多孔質体
2 基材
2h 空孔
2A 第一層
2B 第二層
21 第一面
22 第二面
3 被覆層
3h 開口孔
30 表面
4 粒子
5 親水性ポリマー
7 試験装置
70 ビーカー
71 チャンバー
71U 下端開口部
72 吐出部
72D 上端開口部
8 第二液
91 フラスコ
92,93 チャンバー