(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009725
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ、インクジェットプリンタの制御方法、および印字システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/115 20060101AFI20240116BHJP
B41J 2/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B41J2/115
B41J2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111470
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達之介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 博之
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】坪内 繁貴
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF21
2C057AG17
2C057AM03
2C057AM16
2C057BC02
2C057BC07
2C057DB02
2C057DC03
2C057EC03
2C057EC04
(57)【要約】
【課題】ノズルの個体差に依らず高い印字品質を実現する、ロバスト性の高いインクジェットプリンタ、インクジェットプリンタの制御方法、および印字システムを提供する。
【解決手段】インクジェットプリンタは、インク粒子による印字を行う印字ヘッドと、ノズルにインクを供給する本体と、印字ヘッドおよび本体を制御する制御部と、を備える。制御部は、参照ノズルのL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、ノズルから吐出されたインク柱の切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性を測定し、参照ノズルのL-V特性および印字可能な励振電圧条件と、実装ノズルのL-V特性とに基づいて、実装ノズルの前記励振電圧条件を演算する。そして、その演算された励振電圧条件を適用して印字を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク粒子を連続して生成させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルに対するインク供給および前記ガターが捕捉したインクを回収する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を備えたインクジェットプリンタであって、
前記制御部は、
参照ノズルにおけるインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、
前記ノズルにおける前記L-V特性を測定し、
前記参照ノズルの前記L-V特性と前記ノズルの前記L-V特性との相対的位置関係および前記参照ノズルの前記励振電圧条件に基づいて前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧条件を演算し、
該演算された前記ノズルの前記励振電圧条件に基づき前記印字ヘッドを制御するインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記L-V特性を、線図化したL-V線図にて表わすことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、前記L-V特性に含まれる極小点又は極大点を用いて前記ノズルの印字可能な前記励振電圧条件を演算することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記切断位置は、カメラにより撮影された画像を利用して測定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記切断位置に代え、励振電圧条件間の位相差の積算値を励振電圧に対してプロットする値を用いて前記L-V特性を求めることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項1に記載されたインクジェットプリンタにおいて、
前記ノズルの前記励振電圧条件は、前記制御部にて演算することに代え、予め演算された前記ノズルの前記励振電圧条件を記憶している外部メモリまたは外部サーバーから供給することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項7】
インク粒子を連続して生成させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルに対するインクの供給および前記ガターが捕捉した前記インク粒子を回収する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を備えたインクジェットプリンタの制御方法であって、
参照ノズルにおけるインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、
前記ノズルから吐出されたインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性を測定し、
前記参照ノズルの前記L-V特性と前記ノズルの前記L-V特性との相対的位置関係および前記参照ノズルの前記励振電圧条件に基づいて前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧条件を演算し、
該演算された前記ノズルにおける前記励振電圧条件に基づき印字を行うインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載されたインクジェットプリンタの制御方法において、
前記L-V特性を、線図化したL-V線図にて表わすことを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項9】
請求項7に記載されたインクジェットプリンタの制御方法において、
前記相対的位置関係は、前記L-V特性に含まれる極小点又は極大点を用いて取得することを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項10】
請求項7に記載されたインクジェットプリンタの制御方法において、
前記切断位置は、カメラにより撮影された画像を利用して測定することを特徴とする請求項7に記載されたインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項11】
請求項7に記載されたインクジェットプリンタの制御方法において、
前記切断位置に代え、励振電圧条件間の位相差の積算値を励振電圧に対してプロットする値を用いて前記L-V特性を求めることを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項12】
インク粒子を連続的に噴出させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を帯電量に応じて偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルにインクを供給する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を有するインクジェットプリンタと、
参照ノズルのインクの切断位置と励振電圧との関係を示すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、前記ノズルから吐出されたインクの前記L-V特性を測定し、前記参照ノズルのL-V特性と前記ノズルのL-V特性との相対的位置関係と前記参照ノズルの前記励振電圧条件とに基づいて前記ノズルの印字可能な励振電圧条件を演算する演算装置とを備え、
前記制御部は、前記演算された前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧を入力して前記印字ヘッドを制御する印字システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ、インクジェットプリンタの制御方法、および印字システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのうち、帯電制御式インクジェットプリンタは、生産ラインを移動中の製品に対し製造番号や消費期限日などの印字(印刷)を行う用途など、主に産業用のプリンタとして用いられている。この帯電制御式インクジェットプリンタでは、インクタンクに充填された液体状のインクをポンプで加圧し、印字ヘッドのノズルに供給するようになっている。ノズルでは、供給されたインクを連続的にインク柱として吐出するが、吐出の際にノズルに隣接して設置した圧電素子等に励振電圧を印加して励振させることにより周期的な振動がインクに与えられる。振動が与えられたインク柱は途中で切断されて連続的(周期的)に発生するインク粒子を形成し、高速で飛行する。このインク粒子が形成される位置(インクの切断位置)あるいはその近傍に帯電電極を配置し、この帯電電極に電界を発生させることにより、高速飛行中の各インク粒子を帯電させることができる。帯電電極において、印字内容に対応する電界を与えることにより、各インク粒子には印字内容に応じて必要な帯電量が与えられる。帯電電極の下流位置には、一定の電圧が印加されている2枚の電極で構成される偏向電極が配置され、帯電された各インク粒子は、その偏向電極内を飛行する際に付与された帯電量に応じて飛行方向が偏向される。そして、この偏向されたインク粒子を、搬送装置によって移動中の被印字物に着弾させ(付着させ)、被印字物にインク粒子による印字を行なう仕組みになっている。なお、帯電電極内で帯電されなかったインク粒子は、偏向電極内を直進してガターにより捕捉され、回収インクとしてインク容器に回収される。
【0003】
このようなインクジェットプリンタでは、ノズルから吐出されるインク柱が切断されインク粒子となる位置(ノズル先端からインク粒子となる位置までの距離)、すなわち「切断位置」を適切な位置に維持しないと、帯電電極において飛行中のインク粒子に適切な電荷を帯電することができず、品質の高い印字を実現することができない。そのため、この切断位置が所定の範囲となるように適切に制御することは重要である。切断位置は、ノズルに隣接して設置された圧電素子等に印加される励振電圧により調整が可能であることが知られており、印字に際しては、印字可能な励振電圧をノズルに印加する(より詳細には、ノズルに隣接して設置された圧電素子に励振電圧を印加する)ように調整される。
【0004】
ところで、印字環境や被印字物は多様であり、インクジェットプリンタに使用可能なインクは複数種ある。また、インクの種類のほか、ノズルや、温度環境など様々な条件によっても適切な(印字可能な)印字設定内容(励振電圧、励振周波数、ポンプ圧力、帯電電圧、偏向電圧の値、等)は異なる。上述したように、インクの種類や温度に対して、ノズルに印加する励振電圧条件が適切でないと精度の高い印字を実現することが難しいので、印字の際には、励振電圧条件を適切に設定してから印字を行うことが要求される。このような課題に対し、励振電圧条件(励振電圧値や励振周波数)を適切に設定することを目的とした技術が、例えば、特表2011-502827号公報(特許文献1)に開示されている。
【0005】
特許文献1には、インク柱における分割点(分割位置)の移動を考慮し、変調電圧対分割位置を示す特性において、特性が所定の勾配又はこの所定の勾配と関連した勾配を有することを保証するような励振電圧条件を求め、求めた励振電圧条件を保証する励振電圧を用いて印字を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1の技術を用いれば、あるノズルに対して、インクの種類や温度の変化等に対応した印字可能な励振電圧条件を求め、この求められた励振電圧をノズル(内蔵の圧電素子)に印加することができる。
【0008】
しかしながら、あるノズルに対して適切な励振電圧条件(励振電圧値や励振周波数)であるとしても、他のノズルを使用して印字する場合に適切な励振電圧条件であるとは限らない。特許文献1では、励振電圧条件が1つの値に設定されているが、同じノズルであってもインク種類が異なると適切な励振電圧条件が変化すること等の考慮が不十分であり、ロバスト性に欠けるという技術課題が残されている。
【0009】
また、特許文献1では、印字に使用するノズル毎の個体差に基づく適切な(印字可能な)励振電圧条件に大きな差異が生じることについての考慮がなされていない。すなわち、インクジェットプリンタ、印字に使用するするインクの種類、温度環境等の条件を同一にしても、インクジェットプリンタの印字ヘッドに装着するノズル毎に、印字可能な励振電圧条件に差異が生じる。これは同じ規格内のノズルであっても、ノズル毎に個体差があるためである。このノズル毎の個体差による印字可能な励振電圧条件の差異は無視できない程大きく、あるノズルで適切な励振電圧条件を満たす場合でも他のノズルでは印字可能な励振電圧条件を逸脱する程度に大きい。そのため、ノズル毎の個体差を考慮しない場合には、印字品質が大きく低下するリスクがあり、ロバスト性に欠ける。また、ノズル毎の印字可能な励振電圧条件の差異が大きい場合には、人手を介してノズル毎に印字可能な励振電圧条件を確認し設定する作業が必要であり、非常に大きな手間がかかる。
【0010】
本発明の目的は、ノズルの個体差に依らず高い印字品質を実現する、ロバスト性の高いインクジェットプリンタ、インクジェットプリンタの制御方法、および印字システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明は、その一例を挙げると、インク粒子を連続して生成させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルに対するインク供給および前記ガターが捕捉したインクを回収する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を備えたインクジェットプリンタであって、前記制御部は、参照ノズルにおけるインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、前記ノズルにおける前記L-V特性を測定し、前記参照ノズルの前記L-V特性と前記ノズルの前記L-V特性との相対的位置関係および前記参照ノズルの前記励振電圧条件に基づいて前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧条件を演算し、該演算された前記ノズルの前記励振電圧条件に基づき前記印字ヘッドを制御するインクジェットプリンタである。
【0012】
また、本発明の他の例を挙げると、インク粒子を連続して生成させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルに対するインクの供給および前記ガターが捕捉した前記インク粒子を回収する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を備えたインクジェットプリンタの制御方法であって、参照ノズルにおけるインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、前記ノズルから吐出されたインクの切断位置と励振電圧との関係を表すL-V特性を測定し、前記参照ノズルの前記L-V特性と前記ノズルの前記L-V特性との相対的位置関係および前記参照ノズルの前記励振電圧条件に基づいて前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧条件を演算し、該演算された前記ノズルにおける前記励振電圧条件に基づき印字を行うインクジェットプリンタの制御方法である。
【0013】
さらに、本発明の他の例を挙げると、インク粒子を連続的に噴出させるノズル、該インク粒子に印字内容に対応した電荷を帯電させる帯電電極、帯電後の該インク粒子を帯電量に応じて偏向させる偏向電極、および印字に使用しない該インク粒子を捕捉するガターを有する印字ヘッドと、前記ノズルにインクを供給する本体と、前記印字ヘッドおよび前記本体を制御する制御部と、を有するインクジェットプリンタと、参照ノズルのインクの切断位置と励振電圧との関係を示すL-V特性および印字可能な励振電圧条件を記憶し、前記ノズルから吐出されたインクの前記L-V特性を測定し、前記参照ノズルのL-V特性と前記ノズルのL-V特性との相対的位置関係と前記参照ノズルの前記励振電圧条件とに基づいて前記ノズルの印字可能な励振電圧条件を演算する演算装置とを備え、前記制御部は、前記演算された前記ノズルにおける印字可能な前記励振電圧を入力して前記印字ヘッドを制御する印字システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ノズルの個体差に依らず高い印字品質を実現する、ロバスト性の高いインクジェットプリンタ、インクジェットプリンタの制御方法、および印字システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1におけるインクジェットプリンタの外観を示す図である。
【
図2】実施例1におけるインクジェットプリンタの内部構成を示す図である。
【
図3】カメラ撮影画像から作成したL-V線図(インク柱の切断位置Lと励振電圧Vの関係性を示す線図)である。
【
図4】最適位相を利用して作成したL-V線図である。
【
図5】カメラ撮影画像から作成したL-V線図と、最適位相を利用して作成したL-V線図との比較図である。
【
図6A】演算対象のノズル(第2ノズル)において印字可能な励振電圧範囲を演算することを説明するための図である。
【
図6B】演算対象のノズル(第2ノズル)において印字可能な励振電圧範囲を推定演算することを説明のための図である。
【
図7】印字評価において、「印字可能」および「印字不可」と判定した際の印字パターンの例である。
【
図8】実施例1における参照ノズル(第1ノズル)のL-V線図である。
【
図9】実施例1における第2ノズルのL-V線図である。
【
図10】第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲の実測値と推定演算値との比較を示す図である。
【
図11】本発明の実施例2における構成を説明するための図である。
【
図12】本発明の実施例5における印字システム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、具体的な実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定して解釈されるものではなく、本発明の技術思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、以下に説明する実施例の構成において、同一機器、同様の動作や機能を有する部分には同一の符号を用いており、重複する説明を省略することがある。また、図面に示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、本発明の理解を容易にするために簡略化して示しており、実際の各構成の位置、大きさ、形状、範囲などを表しているわけではない。
【0017】
[実施例1]
次に、本発明の実施例1におけるインクジェットプリンタについて、
図1~
図10を用いて詳細に説明する。
図1は、実施例1におけるインクジェットプリンタの外観を示す図であり、
図2は実施例1におけるインクジェットプリンタの内部構成をブロック図として示す図である。
図3~
図10は、実施例1を説明するために用いる図である。
【0018】
(インクジェットプリンタの全体構成)
まず、
図1により、インクジェットプリンタの全体構成の概略について説明する。
図1において、インクジェットプリンタ100は、本体1と、印字ヘッド2と、を備えている。本体1と印字ヘッド2との間は、ケーブル4で繋がれている。本体1内には、印字用のインクを貯蔵したインクタンク、インク容器内のインクを汲み出して印字ヘッド2に供給する循環ポンプ、インクを所定圧力に調整する減圧弁、それらを連結する配管、等が備えられている。所定の圧力に調整されて本体1から出力されたインクは、ケーブル4を通り印字ヘッド2内のノズルに供給される。印字ヘッド2は、インクの供給を受け、内部でインク粒子を発生させ、そのインク粒子に対し必要な電荷を与え、さらに偏向させて被印字物にインク粒子による印字(ドット印字)を行う。また、本体1の正面部には、表示部5及び読取部7が設けられている。表示部5は、ユーザーが行うべき操作等に関する情報等を表示するものである。この表示部5は、画面上面にタッチパネルによる入力機能を備え、ユーザーが操作することにより情報(データ)を入力することができるようになっている。読取部7は、インクカートリッジ等に付与された、情報記録媒体に記録された情報を読取るために設けられる。情報記録媒体とは、例えば、ICタグ、バーコード又は二次元コード(例えば、QRコード(登録商標)など)である。ユーザーが表示部5を介して入力等の操作を行う際に、読取部7にインクカートリッジのICタグを近づける操作も並行して行う場合があるため、読取部7は、表示部5の近くに設けている。さらに、表示部5や読取部7から入力された情報を内部の制御部200(
図1では図示せず)が、本体1内に設けられている。制御部200は、本体1内のポンプや弁などの制御、および印字ヘッド内に設けられているノズル、帯電電極などの制御を行う。なお、制御部200からの制御信号(駆動信号)等は、ケーブル4内に配備された線路を経由して印字ヘッド2に与えられる。
【0019】
(インクジェットプリンタの内部構成)
次に、
図2を用いて、実施例1におけるインクジェットプリンタの具体的な構成を説明する。
図2において、インクジェットプリンタ100は、本体1と、印字ヘッド2と、制御部200と、を含む。また、インクジェットプリンタ100の外部には、印字物検出器3が設置されている。この印字物検出器3は、搬送装置260上を移動している被印字物261(製品、等)を検出し、制御部200に出力する。制御部200は、この検出信号を用いることにより印字開始のタイミングを最適に調整することができる。
【0020】
(本体の構成)
図2において、本体1は、インクジェットプリンタ100において印字ヘッド2を除く部分である。すなわち、この実施例における本体1は、インク供給部、インク回収部、および制御部200を含んでいる。なお、制御部200は、本体1の外部に設けても良い。インク供給部は、インクを印字ヘッド2(より直接的には、ノズル211)に供給するための機器である。この実施例における「インク供給部」は、インク241を収容するインクタンク240、循環ポンプ245、減圧弁246、フィルタ250、補助インクタンク251、補力液タンク252、および配管232aにより構成されている。また、「インク回収部」は、ガター215が捕捉したインク(インク粒子)をインクタンク240に回収するものであり、この実施例では回収ポンプ233と配管232bにより構成されている。
【0021】
インクタンク240は、配管232aによりノズル211に接続されている。一方、ガター215は、配管232bによりインクタンク240に接続されている。配管232a、232bは、インク流路を構成する。配管232aの途中には、循環ポンプ245及び減圧弁246が設置されている。循環ポンプ245と減圧弁246との間には、フィルタ250が設置されている。なお、フィルタ250の配置は、上記の位置に限定されるものではない。フィルタは、主として配管232a及びノズル211の目詰まりを防止することを目的とするものであるため、この目的を達成できる位置であれば配管232aの任意の位置に設置することができる。インクタンク240内のインク241は、循環ポンプ245により吸い上げられ、減圧弁246で圧力が調整された状態でノズル211に供給される。
【0022】
さらに、この実施例では、インクタンク240に、補助インクタンク251及び補力液タンク252が接続され、それぞれの液を補給することができるようになっている。ここで、補助インクタンク251は、インクタンク内のインクの消費が進んだ場合に、インクを補給する。補力液タンク252は、補力液をインクタンク240に供給し、インク241の粘度を適切に調整するために用いられる。補力液は、インクに含まれる揮発性の高い成分(溶剤)を補充する液体である。
【0023】
(印字ヘッドの構成)
次に、
図2に示す印字ヘッド2の構成について詳細に説明する。印字ヘッド2は、配管232aにより圧送されるインクの供給を受けてインク柱221を吐出するノズル211を備えている。このノズル211には、吐出されるインク柱に振動を与えるための圧電素子212(加振器)が設けられている。圧電素子212に対し、制御部200から励振電圧を印加することにより、インク柱221に振動を与え、インク柱を途中で切断し、インク粒子222を発生させる。インク柱221への加振により、インク粒子は、連続的に発生し高速で飛行する。
【0024】
また、印字ヘッド2は、ノズル211により発生されたインク粒子222を帯電させるための電場を形成する帯電電極213と、帯電したインク粒子222の帯電量に応じてその軌道を変化させる偏向電極214と、印字に寄与しなかったインク粒子を回収するガター215と、を備えている。帯電電極213では、飛行中のインク粒子に対し、印字する文字の形状に対応した電荷が与えられ、インク粒子が帯電される。帯電されたインク粒子は、偏向電極214内を飛行する。偏向電極214には一定の電圧が印加されており、帯電された各インク粒子は偏向電極内を飛行する際に付与された帯電量に応じて飛行方向が偏向される。
【0025】
偏向電極214で偏向されたインク粒子222は、搬送装置260で搬送されている被印字物261に向けて飛翔し、被印字物261に着弾する(付着する)ことにより、被印字物261への印字を行う。搬送装置260は、ロータリーエンコーダ262で動きが監視されている。ロータリーエンコーダ262は、搬送装置260の移動速度に応じてパルス信号を発生する。ロータリーエンコーダ262の検出した移動速度は、インクジェットプリンタ100の制御部200に入力され、制御部200により印字のタイミング調整に利用される。
【0026】
このように、インクジェットプリンタ100が稼働中は、被印字物261が印字位置に到着して印字が行われていないときも、インク粒子222が連続的に噴射されるように操作される。そのため、帯電制御方式のインクジェットプリンタ100は、コンティニュアス方式のインクジェットプリンタ又は連続式のインクジェットプリンタとも呼ばれる。
【0027】
(制御部の構成)
次に、印字ヘッド2および本体1を制御する制御部200について説明する。制御部200は、設定されたソフトウェアパラメータに従って、ノズル211(より具体的には、圧電素子212)に印加する励振電圧(励振電圧値および励振周波数)、帯電電極に印加する帯電電圧、偏向電極に印加する偏向電圧、ノズルに供給するインクの圧力、等を制御する。なお、以下では、本発明の説明には直接関係しない本体1のインク供給部やインク回収部の制御に関する詳しい説明は省略する。
【0028】
まず、この実施例における制御部200は、本体1および印字ヘッド2を制御するための演算処理を実行するMPU201(マイクロプロセシングユニット)と、MPU201が動作するのに必要な制御用プログラム及びデータを記憶するROM202(リードオンリーメモリ)と、プログラム実行中に必要となるデータを一時的に記憶するRAM203(ランダムアクセスメモリ)と、を備えている。ROM202には、インク241のインク情報及び制御に最適なソフトウェアパラメータ値が記録されている。インク情報には、例えば、インク241のインク型式名又は溶剤に関する情報が含まれる。インク241の印字制御及びインクジェットプリンタの稼動制御に使用されるソフトウェアでは、印字制御のために各種パラメータ値を設定する。
【0029】
また、制御部200は、印字内容や設定値等を入力する入力パネル204と、表示制御部205と、を備えている。入力パネル204は、表示部5のタッチパネルに相当する。表示制御部205は、入力されたデータ、印字内容等の表示部5に表示する内容を制御する。
【0030】
なお、制御部200には、バスライン206が設けられている。MPU201、ROM202、RAM203、入力パネル204、表示制御部205は、バスライン206を介して接続され、各機器間における信号の送受信をすることができる。また、以下に説明する制御部200内のその他の機器も同様に、バスライン206に接続されており、各機器間で互いに送受信が可能な構成としている。バスライン206は、MPU201のデータ信号、アドレス信号及びコントロール信号を伝送する機能も有する。
【0031】
また、制御部200は、プログラムや印字データなどを記憶している記憶装置209(記憶部)と接続可能である。制御部200は、記憶装置209に記憶された情報(
データ)を内部のRAM203に記憶する。記憶装置209の代表例としては、USBメモリなどがある。制御部200は、設定されたソフトウェアパラメータに従って、励振電圧(励振電圧値および励振周波数)、ポンプ圧力、帯電電圧、偏向電圧等を制御する。
【0032】
また、制御部200は、帯電電圧発生回路207と、励振電圧発生回路208と、を備えている。帯電電圧発生回路207は、インク粒子222に付与される電荷が文字信号に応じた量となるような電圧を帯電電極213に印加する。励振電圧発生回路208は、ノズル211に設けられた圧電素子212に付与する高周波の励振電圧を発生させる。この励振電圧は、後述するように、励振電圧演算部274が演算する印字可能な励振電圧条件を保証する励振電圧が選定される。
励振電圧を圧電素子212に印加することにより、ノズル211から発射された直後のインク柱221を振動させてインク粒子を連続的に発生させることができる。帯電電圧発生回路207及び励振電圧発生回路208も、バスライン206に接続されている。
【0033】
更に、この実施例における制御部200は、最適位相検出回路210と、インク柱221の切断位置と励振電圧との関係性を示す特性を測定する特性測定部273と、ノズル毎に最適な励振電圧条件を演算する励振電圧演算部274と、を備えている。この特性測定部273と、励振電圧演算部274とにより、実装されているノズル211における印字可能な励振電圧条件を演算する。この印字可能な励振電圧条件の具体的な演算方法については、後述する。
【0034】
最適位相検出回路210は、圧電素子212で生成される振動の1周期を例えば16位相に分割し、どのタイミング(位相)での電場印加がインク粒子の帯電に最も適しているか自動判定する機能を有する。具体的には、噴射するインク粒子に対し各位相で印字に影響しないような微弱な電場を帯電電極213にて印加し、各位相条件におけるインクへの微弱な帯電量を有するインク粒子をガター215で吸い込んだ後に、インク回収用の配管232bの途中に設けた帯電量測定部234にてインク粒子の微弱な帯電量を測定し、その測定した帯電量が最も高いときの位相を最適位相として検出(判定)する。
【0035】
次に、制御部200に0おける特性測定部273の詳細について説明する。特性測定部273は、ノズルから吐出されたインクの切断位置と励振電圧との関係を示す特性を測定するために設けられている。この切断位置と励振電圧との関係を示す特性のことを、本明細書では「L-V特性」と称する。
【0036】
このL-V特性は、切断位置と励振電圧との対応関係を表す特性であり、グラフ上で対応関係をプロットした線図として表すと理解が容易となる。L-V特性を線図として表したものを「L-V線図」と称する。以下の説明では、特性測定部273は、L-V線図を測定するものとして説明する。なお、以下の説明では、L-V線図を用いて実施例を説明するが、L-V線図による測定方法は一例である。本発明は、L-V特性を求めることができれば実施することができる。
【0037】
(L-V線図の測定方法)
次に、L-V線図を測定する具体的な方法について説明する。特性測定部273は、ノズル211から噴射されたインク柱221の切断位置と励振電圧の関係性を示すL-V線図を測定するが、この測定方法としては2つの方法が考えられる。
【0038】
一番目の方法は、励振電圧を変更させながらインクの切断位置をカメラの撮影画像から直接得る方法である。また、二番目の方法は、最適位相検出回路210により得られる最適位相を利用する方法である。特性測定部273によるL-V線図の測定は、いずれの方法を用いても良い。なお、
図2の実施例では、カメラの撮影画像を利用してL-V線図を測定するものを記載している。そのため、
図2では、帯電電極213近傍にインク柱がインク粒子に切断される切断位置を検出するカメラ271を設け、このカメラ271が撮影した画像を特性測定部273に入力し、この画像を処理してL-V線図を測定している。二番目の方法を用いる場合は、
図2で破線の矢印で示したように、最適位相検出回路210の検出した最適位相を特性測定部273に入力することによりL-V線図を測定できる。
【0039】
次に、一番目の方法と二番目の測定方法についてさらに詳細に説明する。
まず、一番目の方法(カメラで撮影した画像を用いるL-V線図の測定方法)を詳細に説明する。
図2において、ノズル211から噴射されたインク柱221の切断位置は、帯電電極213付近に設置したストロボ照明272によって照明したインク柱221を、カメラ271で画像として撮影する。ノズル211から噴射されたインク柱221が静止画像として撮影できるように、ストロボ照明272の励振周波数には圧電素子212に印加する励振電圧の励振周波数と同じ値を使用する。励振電圧を変更させながらカメラ271で撮影することにより、各励振電圧条件のインク柱221の静止画像群が得られる。この静止画像群は特性測定部273に送られる。特性測定部273にて、ノズル211の噴射口を基準点とした各励振電圧に対応するインク柱221の切断位置が、静止画像群から抽出される。このようにして、特性測定部273は、カメラ271で撮影された静止画像をもとに、これらの静止画像を画像処理して、L-V線図を求める(測定する)ことができる。
【0040】
特性測定部273にて作成された、ノズル211から噴射されたインク柱221のL-V線図の例を
図3に示す。
図3の線図の横軸は励振電圧であり、縦軸は各励振電圧を印加した時のインクの切断位置を示している。
図3に示すL-V線図からわかるように、インク柱221の切断位置は励振電圧を上げていくと、まず極小点が現れ、更に励振電圧を上げていくと極大点が観測された。なお、測定する励振電圧範囲や諸条件によって極大点は観測されない場合もある。
【0041】
続いて、第2の測定方法(最適位相を用いることによりL-V線図を測定する第2の方法)について説明する。ここでは、圧電素子212で生成される振動の1周期を16位相に分割して、最適位相を検出した場合を考える。ある2点の励振電圧条件間で、最適位相がΔn相分ずれたとすると、インク柱221の切断タイミングの時間差Δtは、圧電素子212で生成される振動の周期Tを用いて以下の式で表される。
Δt=(T/16)・Δn ……… (1)
【0042】
なお、最適位相の差分Δnは1周期以内(16位相内)におさまるよう励振電圧条件の間隔は充分に小さくとる必要がある。2点の励振電圧条件間のインク切断点の差分ΔLは、インク柱221の流速vを用いて以下の式で表される。
ΔL=v・Δt=v・(T/16)・Δn ……… (2)
【0043】
2点の励振電圧条件間でvとTは一定のため、(2)式より、インク切断点の差分ΔLと、最適位相の位相差Δnの間に比例関係が成り立つことがわかる。よって、励振電圧条件間の位相差ΔLの積算値を励振電圧に対してプロットすると、切断位置Lを求めることができ、
図3と同じ傾向を示す線図が描ける。これを確認するために、一番目の方法と同じ条件でノズル211からインク柱221を噴出した状態で、各励振電圧条件における最適位相を最適位相検出回路210で検出し、検出した最適位相を特性測定部273に送った。特性測定部273にて生成された、励振電圧の最小点を縦軸の基準点の0とし、各励振電圧間の最適位相の位相差の積算値を励振電圧に対してプロットしたL-V線図を
図4に示した。
図4では、励振電圧を上げていくと、
図3の場合と同様に極小点、極大点が観測された。
【0044】
ここで、2つの測定方法を比較するために、一番目の方法で得られたL-V線図と、二番目の方法で得られたL-V線図とを重ね合わせた線図を
図5に示す。
図5から分かるように、全体の傾向および極小点、極大点の位置が2つの測定方法においてほぼ合致している。最適位相から求めたL-V線図(二番目の方法)ではインク切断位置の距離の絶対値はわからないが、後述するノズル毎の励振電圧条件を推定するにあたっては、インク切断位置の絶対値は必要ない。従って、最適位相の位相差積算値から求めたL-V線図も、ノズル211から噴射されたインク柱221の切断位置と励振電圧の関係性を示すL-V線図として利用可能であることがわかる。
【0045】
(印字可能な励振電圧条件の演算方法)
次に、
図2に示す励振電圧演算部274の演算内容、すなわち、ノズル211における印字可能な励振電圧条件の演算方法について説明する。印字可能な励振電圧条件として、印字可能な励振電圧範囲(適切な励振電圧値の範囲および励振周波数の範囲)を求めることは必須であり、ここでは印字可能な励振電圧範囲を推定演算する方法を説明する。すでに説明したように、インクジェットプリンタに装着するノズル毎に、印字可能な励振電圧範囲に差異が生じる。その差異に関して、ノズル毎の印字可能な励振電圧範囲とともに、ノズル毎のL-V線図とを検討した結果、ノズル間の印字可能な励振電圧範囲のずれと、ノズル間のL-V線図の横軸(励振電圧Vの対数軸)のずれが連動する特性を発見した。
【0046】
そこで、この実施例1(
図2)では、この特性を踏まえ、印字可能な励振電圧範囲が既知のノズルをレファレンス(基準)として、印字可能な励振電圧範囲が未知のノズルにおける印字可能な励振電圧範囲を、L-V線図の相対比較から推定する構成を考えた。以降、L-V線図(L-V特性)および印字可能な励振電圧範囲が既知の参照ノズルを「第1ノズル」、印字可能な励振電圧範囲を推定しようとする対象ノズルを「第2ノズル」と称する。つまり、
図2に示す実施例においては、印字ヘッド2に装着されているノズル211が第2ノズルということになる。
【0047】
次に、L-V線図(L-V特性)および印字可能な励振電圧範囲が既知である第1ノズルのデータから第2ノズル(ノズル211)における印字可能な励振電圧範囲を求める方法を
図6Aにより説明する。
図6Aの(a)は第1ノズルのL-V線図であり、(b)は第2ノズルのL-V線図を表している。ここで、第1ノズルのL-V線図(L-V特性)および印字可能な励振電圧範囲は、既知である。この実施例1では、既知である第1ノズルのL-V線図(L-V特性)および印字可能な励振電圧範囲は、制御部200内部のメモリ(ROM202またはRAM203)に記憶しておく。
図2の実施例ではROM202に記憶しておくものとする。記憶された第1ノズルに関するL-V線図および印字可能な励振電圧範囲は、励振電圧演算部274における演算処理の際に利用する。第2ノズルのL-V線図(L-V特性)は、上述した測定方法により特性測定部273により計測する。
【0048】
ここで、
図6Aの(a)に示すように、第1ノズルを装着したとき(第1ノズル装着時)の印字可能な励振電圧範囲はL-V線図の極小点を挟んだ領域であるとする。一方、
図6Aの(b)に示すように、特性測定部273で測定する第2ノズルを装着した際のL-V線図(第2ノズル装着時)が第1ノズル装着したときのL-V線図と比較して、相対的に低励振電圧側に存在している場合には、第2ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲も図に示した通り相対的に低励振側に存在していると推定できる。第2ノズルのL-V線図を測定するために第2ノズルをインクジェットプリンタに装着した状態でインクを噴射する必要はあるが、印字評価をせずとも、相対的位置関係(励振電圧の位置の(a)と(b)の位置ずれの程度)を利用して第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲を演算することができる。
【0049】
また、インクの種類によっては、第1ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲は、L-V線図の極小点より低励振側の領域にある場合もある。このような場合を
図6Bに示す。
図6Bにおいて、(a)は第1ノズルのL-V線図であり、(b)は第2ノズルのL-V線図を表している。この場合も、
図6B(b)に示すように、第1ノズルと第2ノズルのL-V線図の相対的位置関係の比較から、第2ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲を図に示すように推定演算することが可能である。
【0050】
図6Aと
図6Bで示したように、L-V線図と印字可能な励振電圧範囲の相対的位置関係は、インクの種類によって変わりうるため、L-V線図から一義的に印字可能な励振電圧条件を決めることは困難であるが、本発明では、印字可能な励振電圧範囲が既知の第1ノズルをレファレンスとした、L-V線図の相対的位置関係の比較から第2ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲を推定するので、第2ノズルにおける適切な励振電圧範囲を求めることができる。
【0051】
前述の通り、ROM202には、インク241のインク情報及び印字制御に最適なソフトウェアパラメータ値が記録されている。印字制御パラメータとしては、第1ノズルのL-V線図に関する情報と、第1ノズルで印字可能な励振電圧条件(印字可能な励振電圧範囲を含み、その他、ポンプ圧力、帯電電圧、偏向電圧及びインク粘度を含んでも良い)である。
【0052】
また、基準となる第1ノズル(参照ノズル)のL-V特性に関する情報は、第2ノズルのL-V特性と相対比較できる情報であれば特に制限はない。例えば、第1ノズルのL-V線図に関する情報として、第1ノズルのL-V線図そのものでも良いし、あるいは第1ノズルのL-V線図の特徴量として、第1ノズルのL-V線図に極小点および極大点が存在するので、極小点あるいは極大点における励振電圧値を用いても良い。この中では、L-V線図の極小点における励振電圧値がROM202に記録するL-V線図に関する情報として適切である。L-V線図全体だとROM202に記録する情報量が多くなるためである。また、L-V線図の極大点は、前述したように、測定条件によっては現れない可能性があるためである。
【0053】
次に、上述の実施例1におけるノズル211(第2ノズル)の印字可能な励振電圧範囲を具体的に求める手順の一例を説明する。
まず、インク241を充填したインクジェットプリンタ100に、第1ノズルを装着した。指定の圧力、励振周波数条件で印字評価を実施し、印字可能な励振電圧範囲を実験的に求めた。印字評価には
図7に示す印字パターンを用いた。
図7において、(a)は正常な印字状態を示し、(b)は正常でない場合を示している。インク粒子が印字基材(被印字物)の所定の位置に着弾して文字が描画できている場合は「印字可能」,インク粒子が印字基材の所定の位置に着弾せず,文字が描画できていない場合は「印字不可」であるとして、目視で判定した。更に、L-V線図を、最適位相を利用して特性測定部273により測定した。測定した第1ノズルのL-V線図を
図8に示す。
図8の場合、第1ノズルのL-V線図の極小点における励振電圧値Vm1は141Vであった。第1ノズルの印字可能な励振電圧範囲は102~198Vであった。以上の実験結果を踏まえて、ROM202には、インク241の名称、第1ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲と、そのときに供給されるインクの圧力、励振周波数、インク粘度、そして第1ノズル装着時のL-V線図の極小点における励振電圧値Vm1を記録した。
【0054】
次に、インク241を充填したインクジェットプリンタ100に、実際に印字に使用するノズル211(第2ノズル)を装着した。ROM202から、第1ノズルで印字評価を実施した時の圧力、励振周波数、インク粘度情報を呼び出し、第1ノズルで印字評価を実施した時と同じ条件になるようインクジェットプリンタ100を設定した上で、L-V線図を、最適位相により特性測定部273を介して測定した。測定した第2ノズルのL-V線図を
図9に示す。第2ノズルのL-V線図の極小点における励振電圧値Vm2は180Vであった。
【0055】
励振電圧演算部274には、第2ノズル装着時のL-V線図の極小点における励振電圧値Vm2と、ROM202から第1ノズル装着時のL-V線図の極小点における励振電圧値Vm1および第1ノズル装着時の印字可能な励振電圧範囲を呼び出した。第1ノズルと第2ノズルのL-V線図の相対的位置関係を定量化するため、励振電圧演算部274にてVm2とVm1の相対比Cを「C=Vm2/Vm1」により求めた。
【0056】
この例における第1ノズル、第2ノズルの相対比はC=180/141=1.28であった。ノズル間のL-V線図の横軸(励振電圧Vの対数軸)のずれと、ノズル間の印字可能な励振電圧範囲のずれが連動することから、この相対比Cを用いて第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲を演算する。つまり、第1ノズルの印字可能な励振電圧範囲は実測で102~198Vであったため、102×1.28=130V、198×1.28=253Vより、第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲の推定値は130~253Vであると推定演算した。第2ノズル(ノズル211)の印字可能な励振電圧範囲の推定値を、第2ノズルを装着したインクジェットプリンタ100の印字設定条件として使用した。
【0057】
この推定演算の妥当性を確認するため、第2ノズルを装着したインクジェットプリンタ100で印字評価を実施し、印字可能な励振電圧範囲を実測したところ、126~258Vであり、推定値と非常に近い値であることが分かった。
図10は、第1ノズルおよび第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲の実測値および推定値を示している。
【0058】
以上説明したように、本発明の実施例1によれば、ノズル毎に異なる印字可能な励振電圧範囲を、ノズル毎のL-V線図から推定し、インクジェットプリンタの印字設定条件に適用することによって、ノズルの個体差に依らず高い印字品質を実現する、ロバスト性の高いインクジェットプリンタを提供することができる。
【0059】
なお、上述の実施例1(
図2)では、制御部200内に特性測定部273および励振電圧演算部274を設けた例を示したが、本発明はこのような構成に縛られる必要はない。すなわち、上述した実施例1では、理解を容易にするために制御部200内に特性測定部273および励振電圧演算部274を設けたが、その代わりに、制御部200のMPU201に、特性測定部273および励振電圧演算部274の演算処理機能を持たせた構成でも良い。その場合、特性測定部273および励振電圧演算部274が不要となり、制御部200の構成を簡素化することができる。
【0060】
また、上述した実施例1では、制御部200内で第2ノズルのL-V線図に関する情報を計測した例を示したが、例えば、特性測定部273により演算される第2ノズルのL-V線図に関する情報は、第2ノズルを使用するインクジェットプリンタ100とは別の外部に設けた演算装置(例えば、
図2に示すインクジェットプリンタ100とは別のインクジェットプリンタ)により取得するようにしても良い。その場合、インクジェットプリンタ100の表示部5にて、外部の演算装置から得られた第2ノズルのL-V線図に関する情報を、通信によりインクジェットプリンタ100に入力すれば良い。あるいは、外部の演算装置で演算した第2ノズルの印字可能な励振電圧条件をバーコード、QRコード、ICタグ等の情報記録媒体に記録しておくことにより、それをインクジェットプリンタ100の読取部7で情報記録媒体から第2ノズルのL-V線図に関する情報を読み取るようにしても良い。このような例では、別の場所で、インクジェットプリンタ100の印字ヘッドに装着されるノズル211(第2ノズル)のL-V線図を得ることができるので、インクジェットプリンタ100の制御部200の構成が簡単になる。
【0061】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2について
図11を用いて説明する。
図11は、本発明の実施例2を概略的に説明するための図である。実施例2は、実施例1において励振電圧条件が推定演算された第2ノズルを別のインクジェットプリンタ110の印字ヘッド102に装着し、別のインクジェットプリンタ110により印字を行うものである。なお、
図11における破線で示す矢印は、ノズル211をインクジェットプリンタ110の印字ヘッド102に装着することを視覚的に示したものである。また、インクジェットプリンタ100からインクジェットプリンタ110方向の矢印は、ノズル211における印字可能な励振電圧条件のデータをインクジェットプリンタ110に入力すること(設定すること)を表したものであり、実際の構成とは異なる。
【0062】
図11に示す実施例2の動作は次のとおりである。まず、インクジェットプリンタ100において所定の励振電圧条件を適用して印字動作を行い、実施例1で説明したような方法によってノズル211における印字可能な励振電圧条件を測定する。
【0063】
次に、別のインクジェットプリンタ110の印字ヘッド102に、印字ヘッド2で使用したノズル211を装着する。そして、インクジェットプリンタ100で測定したノズル211に関する印字可能な励振電圧条件を、インクジェットプリンタ110に適用して印字を行う。すなわち、ノズル211に関する印字可能な励振電圧条件を、インクジェットプリンタ110の制御部120に入力設定して、印字動作を実行する。制御部120へのデータの入力は、どのような方法でも良い。例えば、ノズル211に関する印字可能な励振電圧条件を記憶したメモリを用いて制御部120に入力することで良い。また、プリンタ間で通信可能な場合は、外部の装置(例えば、サーバー)から通信により入力するようにしてもよい。
【0064】
このような構成では、ノズル211(第2ノズル)に関する印字可能な励振電圧条件が測定されているので、インクジェットプリンタ110において改めて印字可能な励振電圧条件を測定する必要はない。言い換えれば、一度、ノズル211に関する印字可能な励振電圧条件を演算しておけば、別のインクジェットプリンタでそのノズル211を装着して印字動作を行うことができる。そのため、夫々のプリンタ内において、ノズル211に関するL-V特性の測定、およびそのL-V特性を利用してノズル211に関する印字可能な励振電圧条件の演算を行うための構成は不要とすることができる。なお、このような構成により励振電圧条件で印字を実行した場合と、インクジェットプリンタ110においても印字可能な励振電圧条件を演算して印字を実行した場合とを比較してみたが、印字の品質においてほぼ同様の印字品質で印字ができることを確認することができた。
【0065】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3について説明する。実施例3は、基本的に実施例1と同様の構成であるため、実施例1と異なる点を中心に説明し、図面を用いた詳細な説明は省略する。
【0066】
実施例3が実施例1と異なる点は、次のとおりである。この実施例3では、第2ノズルのL-V線図の極小点における励振電圧値Vm2を、予めインクジェットプリンタ100で取得しておく。第2ノズルを別個体のインクジェットプリンタ110に装着する際に、表示部5にてノズル装着のシーケンスを選択・実行し、表示部5の指示に従いVm2の値を入力する。インクジェットプリンタ110は、すでに記憶している参照ノズルのデータおよび入力されたVm2の値に基づいて、インクジェットプリンタ110の制御部120にて第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲を演算し、インクジェットプリンタ110の印字設定条件として使用する。
【0067】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4について説明する。実施例4は、基本的に実施例3と同様の構成であるため、実施例3と異なる点を中心に説明する。なお、実施例4についても、図面を用いた詳細な説明は省略する。
【0068】
この実施例4が実施例3と異なる点は、次の通りである。実施例4では、まず、予めインクジェットプリンタ110で取得した第2ノズルのL-V線図の極小点における励振電圧値Vm2を、QRコードに記録し、インクジェットプリンタ100の読取部7で読み取り、制御部200内のメモリに記憶する。制御部200では、記憶したVm2の値から、インクジェットプリンタ100の励振電圧演算部274にて第2ノズルの印字可能な励振電圧範囲を推定し、インクジェットプリンタ100の印字設定条件として使用するようにした。
【0069】
[実施例5]
次に、本発明の実施例5について、
図12を使用して説明する。
図12は、本発明の実施例5の印字システム構成の概略を示している。
【0070】
図12において、サーバー501は、インターネット回線等の通信回線502を介して、インクジェットプリンタ100と接続されている。サーバー501には、インクジェットプリンタ100に使用する(実装されている)第2ノズルに関する印字可能な励振電圧条件が、第2ノズルに対応する番号とともに記憶されている。なお、第2ノズルに対応する番号の代わりにインクジェットプリンタ100の製造番号でも良い。要するに、データを検索するための検索用データとして、インクジェットプリンタ100において使用するノズル(第2ノズル)とその印字可能な励振電圧条件とを紐づけすることができるものであれば良い。サーバー501に記憶される第2ノズルの印字可能な励振電圧条件は、当該ノズルの製造時、あるいはその後の適当な時期において取得可能である。すなわち、製造時において、各ノズルについて、既知である参照ノズルのデータ(L-V特性および印字可能な励振電圧条件)と製造されたノズルにおけるL-V特性とから、当該ノズルにおける印字可能な励振電圧条件を演算して、サーバー501に記憶する。
【0071】
ここで、サーバー501は、どこに設置されていても良い。すなわち、サーバーは、メーカー側に設置する場合、顧客側の管理システムの一部として設置する場合、あるいはクラウドシステム内のサーバーを用いる場合などが考えられる。
【0072】
この
図12の構成において、インクジェットプリンタ100では、印字の実行に際して、外部装置であるサーバー501内に記憶(保存)されている自己の印字ヘッドに装着されているノズル(第2ノズル)に関する印字可能な励振電圧条件を、サーバー501から入手する。具体的には、インクジェットプリンタ100の表示装置(
図1の表示部5参照)を操作して、自己のノズル(第2ノズル)のシリアルナンバー(検索用データ)を入力し、インクジェットプリンタ100から通信回線502を介して、サーバー501にデータの送信要求を行う。この要求を受信したサーバー501は、送信された第2ノズルのシリアルナンバーから、該当する第2ノズルの印字可能な励振電圧条件を取り出し(検索し)、取り出したデータ(第2ノズルの印字可能な励振電圧条件)を、通信回線502を経由してインクジェットプリンタ100の制御部200に送信する。インクジェットプリンタ100の制御部200は、送信された励振電圧条件に基づき印字を実行する。
【0073】
なお、上記した実施例では、サーバー501には、第2ノズルにおける印字可能な励振電圧条件を記憶することにしたが、各第2ノズルのL-V線図測定結果から抽出したL-V線図あるいはL-V線図の特徴を示す極小点における励振電圧Vm2とを紐づけた形で保存することでも良い。その場合は、第2ノズルにおけるL-V線図あるいはL-V線図の特徴を示す極小点における励振電圧Vm2を、インクジェットプリンタ100に送信し、インクジェットプリンタ100の内部において第2ノズルの印字可能な励振電圧条件を演算することになる。
【0074】
すなわち、第2ノズルにおけるL-V線図あるいはL-V線図の特徴を示す極小点をサーバー501に記憶する場合には、インクジェットプリンタ100では、サーバー501内に記憶(保存)されている自己の印字ヘッドに装着されているノズルに関するデータ(L-V線図あるいはL-V線図の特徴を示す極小点)を、サーバー501から入手する。データの入手は、上述したように、インクジェットプリンタ100からデータ送信要求をサーバー501に送り、サーバー501から入手する。この送信要求を受信したサーバー501は、送信された第2ノズルのシリアルナンバーから、対応する第2ノズルのデータ(Vm2の値)を検索し、検索結果である第2ノズルのVm2の値を、通信回線502を経由してインクジェットプリンタ100に送信する。これにより、インクジェットプリンタ100は、受信したVm2の値から、インクジェットプリンタ100の励振電圧演算部274にて第2ノズル(ノズル211)の印字可能な励振電圧範囲を演算することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…本体、2…印字ヘッド、4…ケーブル、5…表示部、7…読取部、100…インクジェットプリンタ、110…インクジェットプリンタ、101…本体、102…印字ヘッド、120…制御部、200…制御部、201…MPU、202…ROM、203…RAM、204…入力パネル、205…表示制御部、206…バスライン、207…帯電電圧発生回路、208…励振電圧発生回路、209…記憶装置、210…最適位相検出回路、211…ノズル、213…帯電電極、214…偏向電極、215…ガター、221…インク柱、232a,232b…配管、233…回収ポンプ、234…帯電量測定部、240…インクタンク、241,242…インク、245…循環ポンプ、246…減圧弁、250…フィルタ、251…補助インクタンク、252…補力液タンク、260…搬送装置、261…被印字物、262…ロータリーエンコーダ、271…カメラ、272…ストロボ照明、273…特性測定部、274…励振電圧演算部、501…サーバー、502…通信回線