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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097292
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】リン酸亜鉛処理鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/78 20060101AFI20240710BHJP
   C23C 22/12 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C23C22/78
C23C22/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200730
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2023000363
(32)【優先日】2023-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】加瀬谷 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 那央人
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA12
4K026AA22
4K026BA04
4K026BB10
4K026CA13
4K026DA02
4K026EA09
(57)【要約】
【課題】板厚が0.3mm以上3.3mm以下の亜鉛系めっき鋼板を下地としたリン酸亜鉛処理鋼板について、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを適切に抑制することができるリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸亜鉛処理鋼板の製造方法は、表面調整処理工程(ステップS1)と、表面調整処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面にリンガーロール21を押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行う膜厚均一化処理工程(ステップS2)と、リン酸亜鉛処理工程(ステップS4)とを含む。膜厚均一化処理工程において、リンガーロール21の亜鉛系めっき鋼板Sに対する押し付け圧力P[kgf/cm]を、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚をt[mm]としたとき、下記式の範囲に制御する。
0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.3mm以上3.3mm以下の亜鉛系めっき鋼板を下地としたリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法であって、
前記亜鉛系めっき鋼板の表面上に表面調整液を塗布し表面調整処理を行う表面調整処理工程と、
該表面調整処理工程の後、表面調整処理が施された前記亜鉛系めっき鋼板の表面にリンガーロールを押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行う膜厚均一化処理工程と、
該膜厚均一化処理工程の後、リン酸亜鉛系処理液を表面調整液の膜厚均一化処理が施された前記亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成するリン酸亜鉛処理工程とを含み、
前記膜厚均一化処理工程においては、前記リンガーロールの前記亜鉛系めっき鋼板に対する押し付け圧力を、当該押し付け圧力をP[kgf/cm]、亜鉛系めっき鋼板の板厚をt[mm]としたとき、下記式の範囲に制御することを特徴とするリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法。
0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60
【請求項2】
前記リン酸亜鉛系処理液の塗布量を1.0g/m以上3.0g/m以下とすることを特徴とする請求項1に記載のリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材等の用途に用いられるリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸亜鉛系被膜を有する鋼板(以下、リン酸亜鉛処理鋼板と称す)は、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、鋼板をプレス金型へ流入させやすいため、自動車車体用途を中心に用いられている。
リン酸亜鉛処理鋼板は、例えば、冷延鋼板上に亜鉛めっきを施した後、表面調整液を鋼板表面に吹き掛けリン酸亜鉛結晶の核となる物質を鋼板表面に散布した後、リン酸亜鉛処理を施してリン酸亜鉛被膜を形成させ製造される。リン酸亜鉛処理法としては、スプレー方式やコーター方式が挙げられる。
【0003】
ここで、鋼板表面において化成ムラ(絞りムラ)が発生する問題がある。特に、鋼板のリン酸亜鉛処理法としてスプレー方式やコーター方式等はいずれも反応型の化成処理被膜(リン酸亜鉛被膜)形成であるため、鋼板表面において化成ムラが発生しやすい。
この問題を解決するために、従来、例えば、特許文献1に示すリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に示すリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法は、亜鉛めっき鋼板の表面上に表面調整液を塗布し表面調整処理を行った後、鋼板表面に吹き付け圧力:0.20MPa以上で気体を吹き付け、次いで、リン酸亜鉛系処理液を鋼板表面に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成するものである。
【0005】
特許文献1に示すリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法によれば、表面調整処理直後に鋼板表面に気体を吹き付けることにより表面調整液が鋼板表面に均一にレベリング(平滑化)され、その後のリン酸亜鉛被膜形成時において化成ムラが抑制される。その結果、表面性状に優れたリン酸亜鉛処理鋼板を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-16835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この従来の特許文献1に示すリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法にあっては、鋼板の板厚が0.3mm~3.3mmの鋼板に関して、表面調整液の飛散によってリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラが残存し、当該化成ムラを抑制する対策としては十分ではなかった。特に、鋼板の板厚が2.3mm以上の厚物材については、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラが顕在化していた。
【0008】
従って、本発明はこの従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、板厚が0.3mm以上3.3mm以下の亜鉛系めっき鋼板を下地としたリン酸亜鉛処理鋼板について、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを適切に抑制し、表面外観品質に優れたリン酸亜鉛処理鋼板とすることができるリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、表面調整処理直後の鋼板の表面の状態に着目し、化成ムラの発生原因と対策を検討した。その結果、鋼板のリン酸亜鉛処理法としてのスプレー方式やコーター方式等では、主に圧延工程で鋼板に生じた波状の形状に起因して表面調整液の膜厚がわずかに変動し、それがリン酸亜鉛被膜形成時において絞り不良による化成ムラを引き起こしていることを知見した。また、そのような鋼板に生じた波状の形状の影響は、板厚が0.3mm~3.3mmの鋼板、特に板厚が2.3mm以上の厚物材において顕在化していることを知見した。
【0010】
そこで、本発明者らは、表面調整処理後において、リン酸亜鉛処理の前に、リンガーロールによって鋼板を押圧し、表面調整液の膜厚を均一化し、化成ムラの解消を試みた。当初、リンガーロールの押し付け圧力を2.0kgf/cm程度から3.0kgf/cm未満程度としてリンガーロールによって鋼板を押圧した。これは、表面調整液の膜厚を均一化するという思想に基づくものであり、平坦な鋼板上の表面調整液の膜厚を均一化する場合には、それで十分であり、これ以上のリンガーロールの押し付け圧力としても、膜厚の均一化効果は飽和していたずらに荷重増加に伴う電力の増加を招くのみであった。
【0011】
しかしながら、化成ムラは、リンガーロールの押し付け圧力が2.0kgf/cm程度から3.0kgf/cm未満程度では、慢性的に発生しており、本発明者らが鋭意調査した結果、鋼板の形状は完全には平坦ではなく非平坦部で化成ムラが発生しやすく、また、化成ムラを抑制する最適なリンガーロールの押し付け圧力は、鋼板の板厚により決定づけられることを知見した。
【0012】
このため、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法は、板厚が0.3mm以上3.3mm以下の亜鉛系めっき鋼板を下地としたリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法であって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面上に表面調整液を塗布し表面調整処理を行う表面調整処理工程と、該表面調整処理工程の後、表面調整処理が施された前記亜鉛系めっき鋼板の表面にリンガーロールを押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行う膜厚均一化処理工程と、該膜厚均一化処理工程の後、リン酸亜鉛系処理液を表面調整液の膜厚均一化処理が施された前記亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成するリン酸亜鉛処理工程とを含み、前記膜厚均一化処理工程においては、前記リンガーロールの前記亜鉛系めっき鋼板に対する押し付け圧力を、当該押し付け圧力をP[kgf/cm]、亜鉛系めっき鋼板の板厚をt[mm]としたとき、下記式の範囲に制御することを要旨とする。
【0013】
0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法によれば、板厚が0.3mm~3.3mmの鋼板についてリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを適切に抑制し、表面外観品質に優れたリン酸亜鉛処理鋼板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法が適用される化成処理設備の概略構成図である。
図2図1に示す化成処理設備における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係るリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法が適用される化成処理設備の概略構成が示されている。
図1に示す化成処理設備1は、電気亜鉛メッキラインに備えられ、冷間圧延後焼鈍を施した鋼板S上に電気めっき設備50で亜鉛めっき等を施された亜鉛系めっき鋼板Sに化成処理被膜(リン酸亜鉛被膜)を形成するものである。これにより、リン酸亜鉛処理鋼板が製造される。
【0018】
ここで、化成処理が施される下地鋼板としての亜鉛系めっき鋼板Sとしては、例えば、電気亜鉛めっきをした電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛―ニッケル合金めっき鋼板などが挙げられる。また、亜鉛系めっき鋼板Sは、電気めっき設備50を経ていない溶融めっきした溶融亜鉛めっき鋼板であってもよい。また、鋼板は冷延鋼板であるが、熱延鋼板であってもよい。
【0019】
また、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚(鋼板Sの板厚)は、0.3mm以上とする。板厚が0.3mm未満では、板形状が波状になりにくく、本発明で対象とするリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラは生じ難い。一方、板厚が0.3mm以上では、波状の板形状不良が生じ、リン酸亜鉛処理法としてのスプレー方式やコーター方式ではリン酸亜鉛処理薬液の付着量の不均一性に起因してリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラにより表面外観不良が生じる。板厚が3.3mmを超えると、本発明の方法(後述するリンガーロール21の亜鉛系めっき鋼板Sに対する押し付け圧力の設定)を採用しても板形状の矯正が不十分となり、表面外観不良は十分には改善されない。従って、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚(鋼板Sの板厚)を0.3mm以上3.3mm以下とした。
【0020】
化成処理設備1は、表面調整処理装置10と、膜厚均一化処理装置20と、気体吹き付け装置30と、リン酸亜鉛処理装置40とを備えている。
表面調整処理装置10は、亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)上に表面調整液を塗布し表面調整処理を行うものである。リン酸亜鉛処理装置40でリン酸亜鉛処理を行う前に表面調整処理を行うことで、リン酸亜鉛処理時にリン酸亜鉛系処理液とめっきとの反応性を増大させることができる。
【0021】
表面調整処理装置10は、表面調整液をスプレーする方法を用いており、上下で対をなす複数対の表面調整液吹き付けノズル12を備えている。各対の表面調整液吹き付けノズル12から亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び下面のそれぞれに表面調整液を吹き付け、亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び下面上に表面調整液を塗布する。なお、表面調整処理の方法としては、亜鉛系めっき鋼板Sを表面調整液中に浸漬する方法であってもよい。
【0022】
ここで、表面調整液中には、Tiコロイドを含有することが好ましい。表面調整液中にTiコロイドを含有させることで、Tiコロイドは分散性が高いためその後のリン酸亜鉛処理時に反応核となりリン酸亜鉛被膜を形成することができる。
なお、表面調整処理装置10において、表面調整液吹き付けノズル12の上流側には搬送ロール11が設置されている。
【0023】
また、膜厚均一化処理装置20は、表面調整処理装置10の下流側に設置され、表面調整処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)にリンガーロール21を押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行う。
膜厚均一化処理装置20は、上下から亜鉛系めっき鋼板Sを所定の押し付け圧力で押圧するリンガーロール21を備えている。リンガーロール21は、上下から亜鉛系めっき鋼板Sを所定の押し付け圧力で押圧し、表面調整処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に存在する表面調整液の膜厚の均一化処理を行う。
【0024】
ここで、リンガーロール21の亜鉛系めっき鋼板Sに対する押し付け圧力は、当該押し付け圧力をP[kgf/cm]、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚をt[mm]としたとき、下記式の範囲に制御される。
【0025】
0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60
【0026】
ここで、リンガーロール21の押し付け圧力P[kgf/cm]を、「0.27t-0.90t+1.60t+2.60」未満とすると、表面調整液の液絞りが不十分となる。これにより、リン酸亜鉛処理装置40によるリン酸亜鉛系処理液の塗布に際し、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量が不均一となり、その不均一性に起因するリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラにより表面外観不良が生じる。これは、特に、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚が2.3mm以上の厚物材について、主に板形状が波状となる板形状不良が生じ、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量の不均一性に起因するリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラが顕著となる。このため、リンガーロール21の押し付け圧力P[kgf/cm]を、「0.27t-0.90t+1.60t+2.60」以上として、表面調整液の液絞りを十分なものとし、リン酸亜鉛系処理液の塗布に際し、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量を均一なものとし、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量の不均一性に起因するリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを防止している。一方、リンガーロール21の押し付け圧力P[kgf/cm]を、「0.27t-0.90t+1.60t+3.60」より大きくすると、過荷重によりリンガーロール21が荒れたり、リンガーロール21の荒れによりリンガーロール21が荒れた状態で表面調整液が局所的に不均一な状態に均されることで梨肌状ムラと呼ばれるムラが鋼板表面に発生したりする。また、過荷重により過剰に表面調整液が液絞りされ、表面調整液が局所的に不均一な状態に均されることで化成ムラが発生する。リンガーロール21の押し付け圧力P[kgf/cm]を、0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60とすると、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚tに応じて亜鉛系めっき鋼板Sの波状形状が矯正され、表面調整液の液絞りが適切になされて鋼板表面に付着する表面調整液の付着量がレベリングされる。これにより、リン酸亜鉛系処理液の塗布に際し、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量が均一化し、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを改善することができる。このため、本実施形態においては、リンガーロール21の押し付け圧力P[kgf/cm]を、0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60とした。
【0027】
また、気体吹き付け装置30は、膜厚均一化処理装置20の下流側に設置され、表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に気体を吹き付ける。これにより、表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)の表面調整液が更に均一にレベリング(平滑化)される。このため、リン酸亜鉛系処理液の付着量の不均一性に起因するリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラをより抑制することができる。
【0028】
気体吹き付け装置30は、上下で対をなす気体吹き付けノズル31を備えている。対の気体吹き付けノズル31から亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び裏面のそれぞれに気体を吹き付ける。
気体吹き付けノズル31からの亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び裏面への気体の吹き付け圧力は、0.20MPa以上、特に0.30MPa以上0.40MPa以下であることが好ましい。
【0029】
また、気体吹き付けノズル31から亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び裏面へ吹き付けられる気体は、表面調整液の表面調整機能に実用上の影響を及ぼさない気体であれば適用可能であり、例えば、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が使用可能である。
また、リン酸亜鉛処理装置40は、気体吹き付け装置30の下流側に設置され、リン酸亜鉛系処理液を表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成する。
【0030】
リン酸亜鉛処理装置40は、リン酸亜鉛系処理液をスプレーする方法を用いており、上下で対をなす複数対のリン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル42を備えている。各対のリン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル42から亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び下面のそれぞれにリン酸亜鉛系処理液を吹き付け、亜鉛系めっき鋼板Sの上面及び下面上にリン酸亜鉛系処理液を塗布する。なお、リン酸亜鉛処理法としては、前述のスプレー方式の他、コーター方式であってもよい。
【0031】
ここで、リン酸亜鉛系処理液としては、特に限定はしない。通常用いられているリン酸亜鉛系処理液を用いることができる。Znイオン、リン酸イオンの他に硝酸イオン、F化合物等を含有するものを用いることができる。Ni,Mn,Mg,Co,Cu等を含有させることもできる。
【0032】
なお、リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m以上3.0g/m以下とすることが好ましい。リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m未満では、リン酸亜鉛結晶が粗大化し、耐食性の低下や外観不良を招くおそれがある。一方、リン酸亜鉛系処理液の塗布量が3.0g/mを超えると、リン酸亜鉛処理鋼板の成形性やリン酸亜鉛被膜の密着性が低下する。このため、本実施形態においては、リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m以上3.0g/m以下とした。
【0033】
なお、リン酸亜鉛処理装置40において、リン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル42の上流側には搬送ロール41が設置され、リン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル42の下流側には搬送ロール43が設置されている。
リン酸亜鉛処理装置40によってリン酸亜鉛被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板Sは、後工程に供され、リン酸亜鉛処理鋼板が製造される。
【0034】
次に、本発明の一実施形態に係るリン酸亜鉛処理鋼板の製造方法を表す化成処理設備における処理の流れを、図2に示すフローチャートを参照して説明する。図2は、図1に示す化成処理設備における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0035】
先ず、化成処理設備1によって化成処理を行う前に、冷間圧延後焼鈍を施した鋼板Sが電気めっき設備50において亜鉛めっき等を施される。そして、亜鉛めっき等を施された亜鉛系めっき鋼板Sは、化成処理設備1によって化成処理が施される。
【0036】
亜鉛系めっき鋼板Sの板厚は、0.3mm以上3.3mm以下である。板厚が0.3mm未満では、板形状が波状になりにくく、本発明で対象とするリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラは生じ難い。一方、板厚が0.3mm以上では、波状の板形状不良が生じ、リン酸亜鉛処理法としてのスプレー方式やコーター方式ではリン酸亜鉛処理薬液の付着量の不均一性に起因してリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラにより表面外観不良が生じる。板厚が3.3mmを超えると、本発明の方法(後述するリンガーロール21の亜鉛系めっき鋼板Sに対する押し付け圧力の設定)を採用しても板形状の矯正が不十分となり、表面外観不良は十分には改善されない。従って、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚(鋼板Sの板厚)を0.3mm以上3.3mm以下とした。
【0037】
化成処理設備1における化成処理においては、亜鉛系めっき鋼板Sは表面調整処理装置10に搬送され、先ず、ステップS1において、表面調整処理装置10が、亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)上に表面調整液を塗布し表面調整処理を行う(表面調整処理工程)。
【0038】
次いで、ステップS2において、ステップS1の後、膜厚均一化処理装置20が、表面調整処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)にリンガーロール21を押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行う(膜厚均一化処理工程)。
【0039】
そして、この膜厚均一化処理工程においては、リンガーロール21の亜鉛系めっき鋼板Sに対する押し付け圧力を、当該押し付け圧力をP[kgf/cm]、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚をt[mm]としたとき、前述の式の範囲に制御する。
【0040】
これにより、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚tに応じて亜鉛系めっき鋼板Sの波状形状が矯正され、表面調整液の液絞りが適切になされて鋼板表面に付着する表面調整液の付着量がレベリングされる。これにより、リン酸亜鉛系処理液の塗布に際し、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量が均一化し、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを改善することができる。このため、板厚が0.3mm以上3.3mm以下の亜鉛系めっき鋼板Sを下地としたリン酸亜鉛処理鋼板について、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを適切に抑制し、表面外観品質に優れたリン酸亜鉛処理鋼板とすることができる。
【0041】
次いで、ステップS3において、ステップS2の後、気体吹き付け装置30が、表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に気体を吹き付ける(気体吹き付け工程)。
【0042】
これにより、表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)の表面調整液が更に均一にレベリング(平滑化)される。このため、リン酸亜鉛系処理液の付着量の不均一性に起因するリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラをより抑制することができる。
【0043】
次いで、ステップS4において、ステップS3の後、リン酸亜鉛処理装置40が、リン酸亜鉛系処理液を表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成する(リン酸亜鉛処理工程)。
【0044】
ここで、リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m以上3.0g/m以下とすることが好ましい。リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m未満では、リン酸亜鉛結晶が粗大化し、耐食性の低下や外観不良を招くおそれがある。一方、リン酸亜鉛系処理液の塗布量が3.0g/mを超えると、リン酸亜鉛処理鋼板の成形性やリン酸亜鉛被膜の密着性が低下する。このため、本実施形態においては、リン酸亜鉛系処理液の塗布量は1.0g/m以上3.0g/m以下とした。
【0045】
これにより、化成処理設備1における処理が終了し、リン酸亜鉛被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板Sは、後工程に供され、リン酸亜鉛処理鋼板が製造される。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
【0046】
例えば、気体吹き付け装置30及び気体吹き付け工程(ステップS3)を省略し、膜厚均一化処理装置20で膜厚均一化処理(ステップS2)を行った直後にリン酸亜鉛処理装置40でリン酸亜鉛処理(ステップS4)を行うようにしてもよい。この場合でも、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚tに応じて鋼板Sの波状形状が矯正され、表面調整液の液絞りが適切になされて鋼板表面に付着する表面調整液の付着量がレベリングされる。これにより、リン酸亜鉛系処理液の塗布に際し、当該リン酸亜鉛系処理液の付着量が均一化し、リン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを改善することができる。これにより、板厚が0.3mm~3.3mmのリン酸亜鉛処理鋼板についてリン酸亜鉛被膜形成時における化成ムラを適切に抑制し、表面外観品質に優れたリン酸亜鉛処理鋼板とすることができる。
【実施例0047】
冷間圧延後焼鈍を施した板厚0.8mm、2.3mm、3.0mmの鋼板S上に、電気めっき設備50にて片面当たり付着量18g/m、すなわち両面合計の付着量が36g/mとなるように電気亜鉛めっきを施した。
次いで、表面調整処理装置10によって、電気亜鉛めっきを施した亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)上に表面調整液(チタンコロイド系処理液、日本パーカライジング(株)製PL-ZN3.0g/l)を塗布することにより表面調整処理を行った。
【0048】
次いで、膜厚均一化処理装置20によって、表面調整処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)にリンガーロール21を表2に示す押し付け圧力で押し付けて表面調整液の膜厚の均一化処理を行った。表2において「押し付け圧力の範囲」は、各板厚に対して前述の式で計算される数値範囲である。
次いで、気体吹き付け装置30によって、表面調整液の膜厚均一化処理が施された亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に気体を吹き付けた。気体吹き付け装置30の気体吹き付けノズル31としてはスリット状のノズルを用いた。
【0049】
次いで、リン酸亜鉛処理装置40によって、表1に示す浴組成からなるリン酸亜鉛系処理液を亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に塗布することによりリン酸亜鉛被膜を形成し、リン酸亜鉛処理鋼板を製造した。リン酸亜鉛系処理液の塗布量は表2に示す通りである。リン酸亜鉛処理装置40においては、スプレー方式を用い、リン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル42によってリン酸亜鉛系処理液を亜鉛系めっき鋼板Sの表面(上面及び下面)に吹き付けた。
【0050】
【表1】
【0051】
以上により得られたリン酸亜鉛処理鋼板に対して、鋼板表面のムラを目視にて観察し、梨肌状ムラ、絞り不良ムラの有無を確認した。ここで、梨肌状ムラとは、リンガーロール21の荒れによりリンガーロール21が荒れた状態で表面調整液が局所的に不均一な状態に均されることで発生するムラである。この梨肌状ムラは、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式で決定される押し付け圧力の上限値(すなわち前述の式の右辺の値)を超えると発生しやすい。また、絞り不良ムラとは、リンガーロール21が表面調整液を絞り切れずに、鋼板上の一部の表面調整液がそのまますり抜け、リン酸亜鉛系処理液の付着量が不均一化し、リン酸亜鉛被膜形成時において発生する化成ムラである。この絞り不良ムラは、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(すなわち前述の式の左辺の値)未満であると発生しやすい。
【0052】
以上により得られた結果を条件とともに表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2では、各ムラの判定において、○は均一でムラなし、×はムラありである。すべての評価結果がすべて○の場合を合格とした。
表2より、板厚が0.8mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを2.8kgf/cmとした場合(試験No.1)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(3.4kgf/cm)未満となっており、比較例を構成し、絞り不良ムラが発生した。
【0055】
また、板厚が0.8mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを3.2kgf/cmとした場合(試験No.2)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(3.4kgf/cm)未満となっており、比較例を構成し、絞り不良ムラが発生した。
また、板厚が0.8mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを5.0kgf/cmとした場合(試験No.4)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の上限値(4.4kgf/cm)を超えており、比較例を構成し、梨肌状ムラが発生した。
【0056】
一方、板厚が0.8mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを4.0kgf/cmとした場合(試験No.3)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の範囲(3.4~4.4kgf/cm)内であり、本発明例を構成し、梨肌状ムラ及び絞り不良ムラが発生せず、合格となった。
また、板厚が2.3mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを4.5kgf/cmとした場合(試験No.5)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(4.8kgf/cm)未満となっており、比較例を構成し、絞り不良ムラが発生した。
【0057】
また、板厚が2.3mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを6.5kgf/cmとした場合(試験No.7)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の上限値(5.8kgf/cm)を超えており、比較例を構成し、梨肌状ムラが発生した。
一方、板厚が2.3mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを5.5kgf/cmとした場合(試験No.6)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の範囲(4.8~5.8kgf/cm)内であり、本発明例を構成し、梨肌状ムラ及び絞り不良ムラが発生せず、合格となった。
【0058】
また、板厚が3.0mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを4.5kgf/cmとした場合(試験No.8)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(6.6kgf/cm)未満となっており、比較例を構成し、絞り不良ムラが発生した。
また、板厚が3.0mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを6.0kgf/cmとした場合(試験No.9)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の下限値(6.6kgf/cm)未満となっており、比較例を構成し、絞り不良ムラが発生した。
【0059】
一方、板厚が3.0mmの亜鉛系めっき鋼板Sに対してリンガーロール21の押し付け圧力Pを7.0kgf/cmとした場合(試験No.10)、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の範囲(6.6~7.5kgf/cm)内であり、本発明例を構成し、梨肌状ムラ及び絞り不良ムラが発生せず、合格となった。
【0060】
なお、これら試験No.1~10では、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚が0.8mm、2.3mm、3.0mmに限定されているが、亜鉛系めっき鋼板Sの板厚が0.3mm~3.3mmの範囲内のいずれの板厚の場合でも、良好な結果が得られることが確認されている。
また、リンガーロール21の押し付け圧力Pが前述の式における押し付け圧力の範囲(0.27t-0.90t+1.60t+2.60≦P≦0.27t-0.90t+1.60t+3.60)内とした場合、梨肌状ムラ及び絞り不良ムラのすべてのムラによる歩留り率は0.03%向上したことが確認されている。
【符号の説明】
【0061】
1 化成処理設備
10 表面調整処理装置
11 搬送ロール
12 表面調整液吹き付けノズル
20 膜厚均一化処理装置
21 リンガーロール
30 気体吹き付け装置
31 気体吹き付けノズル
40 リン酸亜鉛処理装置
41 搬送ロール
42 リン酸亜鉛系処理液吹き付けノズル
43 搬送ロール
50 電気めっき設備
S 鋼板
亜鉛系めっき鋼板
図1
図2