(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009731
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】屋外環境下で使用するFRP成形物の補修方法
(51)【国際特許分類】
B29C 73/04 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B29C73/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022120987
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】517362381
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・オー・エヌ・七二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝
(72)【発明者】
【氏名】青山 正義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公夫
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AD16
4F213AP20
4F213AQ01
4F213AR07
4F213WA94
4F213WB01
4F213WM02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、屋外環境下で使用するFRP成形物の損傷の補修を短時間で完結できる補修方法を提供する。
【解決手段】屋外環境下で使用されているFRP成形物の損傷をドローンに搭載した3DスキャナやX線装置などの診断装置で撮影して、亀裂等の損傷発生部の形状および繊維配列方向を特定し、それを基に補修材を設計、3Dプリンタで補修材を自動で製造する。製造した補修材をFRP成形物が設置されている現地へ送り、補修作業者が補修材を損傷部分に接着固定して補修を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP製成形体の損傷を補修するためのFRP製補修部材を設計する方法において、
FRP製成形体の損傷に応じて前記FRP製補修部材における強化繊維の配列方向を選択することを特徴とするFRP製補修部材の設計方法。
【請求項2】
前記損傷の種類から損傷の進展方向を予測し、予測した損傷の進展方向に垂直になるように強化繊維を配列することを特徴とする請求項1に記載のFRP製補修部材の設計方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2により設計されたデータに基づき前記FRP製補修部材を製造することを特徴とするFRP製補修部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3により製造された前記FRP製補修部材を用いて前記FRP製成形体の損傷を補修することを特徴とするFRP製成形体の補修方法。
【請求項5】
屋外環境下で使用するFRP成形物の損傷を補修するためのFRP製補修部材を設計する方法において、屋外環境下で使用するFRP成形物の損傷を撮影および診断装置で診断した画像などのデータから前記損傷の種類を抽出した後、抽出した前記損傷の種類に応じて前記屋外環境下で使用するFRP成形物の補修部材における強化繊維の配列方向を選択することを特徴とするFRP製補修部材の設計方法。
【請求項6】
前記損傷の種類から損傷の進展方向を予測し、予測した損傷の進展方向に垂直になるように強化繊維を配列することを特徴とする請求項5に記載のFRP製補修部材の設計方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6により設計されたデータに基づき前記FRP製補修部材を製造することを特徴とするFRP製補修部材の製造方法。
【請求項8】
請求項7により製造された前記FRP製補修部材を用いて前記屋外環境下で使用するFRP成形物の損傷を補修することを特徴とする屋外環境下で使用するFRP成形物の補修方法。
【請求項9】
屋外環境下で使用するFRP成形物の外観を撮影および診断装置で診断し、前記屋外環境下で使用するFRP成形物に損傷があった時に、撮影および診断した損傷の画像などのデータに基づいてFRP製補修部材を設計及び製造し、請求項8の補修を行うことを特徴とする屋外環境下で使用するFRP成形物のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外環境下で使用する繊維強化プラスチック(FRP)成形物の補修に好適なFRP補強用部材の設計方法並びに製造方法並びに補修方法関する。
【背景技術】
【0002】
屋外環境下で使用するFRP成形物は、定期的に点検が行われている。
屋外環境下で使用するFRP成形物の代表的な例を挙げると、遊園地などで利用するジェットコースターなどの遊具、地震などを観測するための観測機器を保護するための上屋、大型のオブジェ、大規模化学薬品プラント、飛行機、風力発電用ブレードおよびナセルカバーなどが挙げられる。
また、雹や積雪や落雷やバードストライクなどによる突発的な事故が発生する。
【0003】
何れの場合も、損傷を発見した時に、現地へFRP素材(ガラス等の強化繊維とプラスチック溶剤)を持ち込んで、損傷部を覆うようにプラスチック溶剤等と強化繊維を何層にも貼り付けて補修している。
屋外環境下で使用するFRP成形物の設置環境の特長としては、自然公園などのような人が容易に入り込めない環境や高所に設置されていることが多い。また、そのような環境下のため、補修箇所だけを取り外し、工場などの安定した環境下で補修をすることはできず、現地での補修が基本となるため、補修には相当の時間と労力を必要とする。
自然観測施設やダムなどの発電施設のFRP補修となると、宙吊りで行う事もあり、更に完了までに長時間を要し、そのため発電停止の時間や、測定が行えない時間も長時間となる。
なお、風力発電所での点検に関しては、ドローン等を利用してブレードの外観を撮影してブレードを点検することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
例えば、高所での作業において、直径3cm程度の穴1か所の補修であっても補修完了までには8時間かかり、損傷の長さが2mにも及ぶ裂傷の場合には、補修完了までに2日かかり、高所まで上り下りする段取りや身支度時間を入れると、プラス1日を要する。
ちなみに、工場での補修作業の場合、直径3cm程度の穴の補修では、0.5時間。2mの亀裂の補修では2時間で終えることができる。
また、損傷の種類、大きさに関わらず、各部位に合わせたハンドメイドの補修が必要になるため作業者の技量を要する作業である。
また、自然環境下で、長時間FRP成形物に身体を合わせての作業となるため、過酷で危険を伴う作業である。
保守関連の業界では、高齢・少子社会や若者のものづくり離れによるエンジニアの不足が懸念されているが、それによる熟練不足や、天候悪化などによる十分な補修時間が確保できなかった場合など、力量や作業環境の変化から安定した補修品質を維持できなくなり、補修したところから再び損傷が発生し、徐々に損傷が進展しながら最悪の場合FRP成形物が破壊する處がある。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献】
【特許文献1】特開2020-118141公報
【特許文献2】特許第6238113号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】日本風力発電協会「自主指針 風力発電設備 ブレード点検および補修ガイドライン(JWPA G0001-2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
屋外環境下で使用するFRP成形物を補修するためには、高所の場合、高所作業車のバケットの中に入って作業をしなければならない。また、地上においても作業台や安全装置など工場内での生産と比べ必要な環境は劣っている。またFRP成形物の設置環境に作業者の体を合わせて作業を行わなければならない。
遊園地での遊具の補修の場合になると、クレーン車に搭載したゴンドラなどの中に入り、地上から数十メートル上空まで上がらなければ補修場所にたどり着けない。
また、昨今の風力発電所や資源探索設備の大型化に伴う洋上設置等では、地上からのアクセスが困難となり、その場合、風力発電所最上部の屋上まで登り、屋上からロープを下ろして点検や補修場所まで吊られた状態でアクセスする必要があるため、多くの時間と危険が伴う。
【0007】
また補修方法は、ハンドレイアップ工法が一般的には採用されている。プラスチック溶材のエポキシやビニルエステル等の樹脂とカーボンやガラスなどの強化材である繊維を使い、工具で何層にも塗り重ねしていく工法で、積層と言われている。樹脂には硬化剤を入れて硬化させるが、温度や湿度などによって硬化時間が変わり、補修作業者は作業環境から硬化時間を計算し、補修を完了させなければならない。また、高所作業車のバケットやクレーンに搭載したゴンドラなどの中は狭く、行動範囲が制限される中での作業となり、作業の難易度はより高くなる。
一般的には、ハンドレイアップ工法の習熟には3年はかかり、難易度の高さから一人前の作業者を増やすことの妨げとなっている。
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、屋外環境下における補修作業時間を大幅に削減できる補修部材の設計方法、製造方法、補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ハンドレイアップ工法に代わり、3Dプリンタを使って事前に補修材を工場などの地上で作製する。
補修材は補修場所の形状に合うようにドローンに搭載した3Dスキャナで測定したデータを基に3Dプリンタを活用し三次元形状で作られる。
3Dスキャンで得た三次元データに拘束条件を与え、例えば有限要素法による応力解析を行い、亀裂の発生原因を特定する。そして同じくドローンに搭載したX線装置などの診断装置を使って亀裂発生部周囲の繊維の配向や亀裂の深度と亀裂発生部の亀裂の方向から、損傷の進展方向を予測し、補修材の強化繊維配列方向を決定する。
なお、亀裂が軽度であればドローンで撮影した映像でも強化繊維配列方向を決定できる。
また、AIの活用によりドローンが測定したデータや映像から自動解析され、無人で補修材を製作できる。
従来の工法では、補修場所を前にして、樹脂計量、硬化剤計量、調合、撹拌、積層を限られた時間と場所で完結しなければならないが、本補修方法では、補修材を接着剤で接着するだけであるため、作業が簡略できる。接着剤も二種類の材料を調合する必要があるものもあるが、カートリッジタイプで計量しなくても済むものがある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、屋外環境下における補修作業時間を大幅に削減できる。
補修方法が簡素化され、補修作業者の熟練度に依存しなくなることで、多くの補修作業者を短時間で訓練することができ、エンジニア不足を解消できる。
補修作業時間の短縮により、高所での拘束時間が短くなり、墜落事故の危険リスクが減る。
補修材は工場などの地上で事前に製作できる。また3Dプリンタでの製作のため品質は安定する。またAIによる自動解析を使い、人が手を加えなくても補修材の繊維配列方向を決定でき、24時間タイムリーに補修材を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】飛行機の主翼の形状を表したもので、(a)は主翼上面、(b)は主翼下面、(c)は(a)のA-A断面をそれぞれ示している。
【
図3】飛行機主翼に発生した損傷の一例を示しており、(a)は前縁(英語でリーディングエッジ(以下LE))に対し垂直に発生した亀裂(所翼上面側)、(b)は主翼上面側に発生した孔、(c)はLEの繋ぎ目に沿って発生した亀裂を示している。
【
図4】
図3における各損傷について、例えば有限要素法を用いて応力状態を解析し、素材自体の原因か、外的負荷による原因か特定し、X線装置などの診断装置を使って各損傷周囲の繊維の配向及び損傷の深度を確認した後の、予測した損傷の伸展の方向を示す。
【
図6】
図4で確認した亀裂部周囲の繊維配列を図に示している。
【
図7】
図4の予測する亀裂の進展の方向に対し、亀裂伝播を抑制するよう亀裂方向に対し、補修材の繊維を垂直に配列させ、補修を行った図を示している。
【
図8】
図7の補修に加え、剛性を高める目的として、繊維を亀裂方向に対し、平行に追加配列させた図を示している。
【
図9】
図8に対し更に剛性を高める目的として、
図6で示した繊維配列と同じ方向全てに繊維を配列させた図を示している。
【
図10】補強用部材製造システムの構成を示す。ドローンとドローンに搭載した3Dスキャナおよび高感度カメラおよびポータブル型バッテリー式X線装置。補修材を製作するための3Dプリンタがあり、各ハードウェアをつなぐためデータ送信手段のためのインターネット環境がある。
【
図11】補強用部材形成装置(パソコン)の構成を示す。
【
図12】画像撮影から補修材の製造までの工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
屋外環境下で使用するFRP成形物の定期点検を行う、或いは雹や雪や雷などによる突発的な事故が発生した場合、FRP成形物内に設置してある警報システムが作動し、アラームがメンテナンス会社へ送られてくる。
その後、メンテナンス事業者の職員が現地へ向かい事故発生場所の特定を行う。
この時、ドローンを活用し、職員が現地へ向かわずとも遠隔で事故発生場所の特定をすることができる。
ドローンに搭載した3Dスキャナや診断装置にて亀裂部の特定と及び亀裂部周囲の測定を行う。
測定データは、パソコンに転送される。
測定データの転送は、自動で行うことができる。
【0012】
送られたデータに拘束条件を与え例えば有限要素法を使って応力状態を見る。
そして、応力が素材自体のものか、外的負荷によるものかを特定する。
そして同じくドローンに搭載したX線装置などの診断装置を使った診断結果から、亀裂発生部周囲の繊維の配向や亀裂の深度と亀裂の方向を特定し、今後進展が予想される亀裂の進展方向を予測する。
そして、FRP成形物の亀裂周囲の形状と亀裂の位置と亀裂の方向を予測後、亀裂方向に対し、垂直に繊維を配列させる補修材の設計を行う。
亀裂の方向が多方向に渡る場合は、同心円状に繊維を配列させる。
この時、剛性を高める目的として、亀裂の方向若しくは配列してある繊維の方向に対し、平行に繊維を追加で配列させるかどうかも決定する。
また、繊維配列の基本構成や、過去の補修材の記録をデータベースとして残すことで、補修材の設計及び製造を短縮することができる。
【0013】
設計された後、3Dプリンタで補修材を製作する。
また、データベースとAIを活用し、送信されてきた測定や撮影情報から自動で補修を製作することができる。
3Dプリンタへは、パソコンから製作指示を送るが、解析や設計用のパソコンと同じパソコンでなくてもよい。
データ通信環境が整っていれば、設計場所、製作場所を問うことなく業務を行うことができる。
【0014】
3Dプリンタで製作された補修材は、設計通りに作られたか検査後、補修すべき現地へ送られる。
補修材は摩耗対策として、必要により表面にコーティングをして仕上げる。
補修材の送り方は、現場が近ければ持って行けるが、省力化や遠方の場合の場合では、郵送、宅配便で送ることができる。
現地で待機している補修作業者が補修材を受け取り、屋外環境下で使用するFRP成形物の亀裂発生場所の表面処理後、接着剤でもって補修材を接着する。
表面処理とは、補修材を接着しやすいようにするための処理であり、事前に汚れや埃、バリ等を除去し、表面を平滑に且つ目荒らしをしておくのが望ましいが、亀裂の程度や使用する接着剤によっては目荒らしをしなくても良い。
補修材接着後、接着剤と屋外環境下で使用するFRP成形物とに極力段差が無きよう、はみ出た接着剤などを取り除き補修完了。
ドローンによる測定や撮影データ、並びに補修記録は、後の点検に活用するため保存し、業務終了。
なお、この形態は、観測施設、遊具、計測器、プラント、風力発電設備や資源探索設備にも適用できる。
【実施例0015】
FRP製品の亀裂部を、LICA製3Dスキャナを使い、形状を3D化した。亀裂は単純で小さなものであったので、有限要素法による解析は行わず、目視によって亀裂の進展方向と補修材の接着面の処理方法を特定した。
また、ポータブル型デジタルX線装置により亀裂の深度と亀裂周囲の厚さ及び繊維の配向を測定した。
なお、実際にはドローン等を利用した外観点検は、特許文献1(特開2020-118141)により行うと仮定する。
【0016】
次に、3Dデータから補修材の立体的な形状を決定し、亀裂周囲の厚さと亀裂の深さから補修材の厚みを決定し、繊維の配向及び亀裂の進展方向から、損傷の進展方向を予測し、進展を抑止するための補修材の繊維の配向を決定した。
これにより、3Dプリンタへ入力する基礎データが集まった。
【0017】
次に、基礎データを基に、補修材を3Dプリンタで積層するための繊維の配向順番を決めた。
先ず剛性を保持するため繊維の配向と同じように0度に1層、45度に1層、-45度に1層、次に亀裂の進展を防止するため、亀裂に対し垂直方向に1層、また更に剛性を保持するため繊維の配向と同じように、0度に1層、45度に1層、-45度に1層で計7層からなるFRPを設計した。
これで、3Dプリンタへインプットするデータが揃った。
【0018】
3Dプリンタへインプットし、プリンタを稼働。
3Dプリンタのノズルから母材である樹脂が押し出されてきて、樹脂で補修材のベースを作る。その後、別のノズルから連続したガラス繊維がベースとなる樹脂の上に、設定した繊維の配列で付着させながら一筆書きの要領で形成され1層が完成する。1層終わると次の1層が形成され、最終的には7層の形成が完了した。
3Dプリンタから造形品を取り出し、立体で形成するためのサポート材などの余分な部分を除去し、補修材が完成。
【0019】
次に、完成した補修材をFRP成形物が設置された現地へ送り、補修作業者が補修材を損傷部分へ接着剤で固定し、補修が完了する。