(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097352
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/915 20130101AFI20240711BHJP
【FI】
A61F2/915
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024888
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小松 智哉
(72)【発明者】
【氏名】海田 翔平
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA49
4C267AA55
4C267BB06
4C267BB07
4C267BB26
4C267BB31
4C267BB40
4C267BB47
4C267CC09
4C267DD01
4C267GG16
(57)【要約】
【課題】プロファイルを小さくしても、ストラットの周方向の間隔に明瞭な差が生じて、バルーンに対するステント保持力が安定化するステントを提供する。
【解決手段】ステント100は、1つの環状体10に含まれる4つの基本ユニット30A、30B、30C、30Dの少なくとも一つにおいて、大傾斜線状部33と第1小傾斜線状部32aの間、又は大傾斜線状部33と第2小傾斜線状部32bの間の成す第1角度(a)を、軸平行線状部31aと第1小傾斜線状部の間、又は軸平行線状部と前記第2小傾斜線状部の間の成す第2角度で除した角度比(a/b)が2.17以上2.96以下の関係を満たし、かつ、大傾斜線状部の長さ(t)を、第1小傾斜線状部の長さ(s1)又は第2小傾斜線状部の長さ(s2)で除した長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下の関係を満たす。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸方向に延びる円筒形状に形作られたステントであって、
基端と先端を有し、前記長軸方向と平行に延びる軸平行線状部と、
基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びる第1小傾斜線状部と、
基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びる第2小傾斜線状部と、
基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びるとともに前記第1小傾斜線状部と前記第2小傾斜線状部の間に配置された大傾斜線状部と、
前記軸平行線状部の先端と前記第1小傾斜線状部の先端を接続する第1小湾曲部と、
前記第1小傾斜線状部の基端と前記大傾斜線状部の基端を接続する第1大湾曲部と、
前記大傾斜線状部の先端と前記第2小傾斜線状部の先端を接続する第2大湾曲部と、
前記第2小傾斜線状部の基端に接続された第2小湾曲部と、を有する基本ユニットが前記長軸方向周りの周方向に4つ配列されており、
一の前記基本ユニット内の前記第2小湾曲部と、前記一の基本ユニットと前記周方向において隣接する他の前記基本ユニット内の前記軸平行線状部の基端と、を接続することで形成される環状体が、前記長軸方向において同位相で複数配列されており、
一の前記環状体の前記第1小湾曲部又は前記第2小湾曲部と、前記一の環状体と前記長軸方向において隣接する他の前記環状体の前記第2小湾曲部又は前記第1小湾曲部と、を接続するリンク部を少なくとも一つ以上有し、
1つの前記環状体に含まれる4つの前記基本ユニットの少なくとも一つにおいて、
前記大傾斜線状部と前記第1小傾斜線状部の間、又は前記大傾斜線状部と前記第2小傾斜線状部の間の成す第1角度を、前記軸平行線状部と前記第1小傾斜線状部の間、又は前記軸平行線状部と前記第2小傾斜線状部の間の成す第2角度で除した角度比が2.17以上2.96以下の関係を満たし、かつ、
前記大傾斜線状部の長さを、前記第1小傾斜線状部の長さ又は前記第2小傾斜線状部の長さで除した長さ比が1.24以上1.51以下の関係を満たす、ことを特徴とするステント。
【請求項2】
前記リンク部は、前記長軸方向において隣接する前記環状体の間である間隙の範囲内の前記長軸方向と直交する軸直交断面上において、径方向で対向する2つの位置に配置されており、
一の前記間隙に配置されるそれぞれの前記リンク部の前記周方向の位相と、前記一の間隙と前記長軸方向において隣接する他の前記間隙に配置されるそれぞれの前記リンク部の前記周方向の位相が90°ずれている、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第1小傾斜線状部の前記先端には、前記一の基本ユニット内の前記軸平行線状部に向かって突出した形状となる第1屈曲部が形成されており、
前記第2小傾斜線状部の前記基端には、前記他の基本ユニット内の前記軸平行線状部に向かって突出した形状となる第2屈曲部が形成されている、請求項1又は請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記リンク部の長さを前記第1小傾斜線状部の長さ又は前記第2小傾斜線状部の長さで除したリンク部長さ比が0.35以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のステント。
【請求項5】
前記4つの基本ユニットの前記周方向の位相はそれぞれ90°ずれており、
前記一の環状体内の前記径方向で対向する2つの前記基本ユニット内、及び前記一の環状体と前記長軸方向において隣接する前記他の環状体内の前記基本ユニットであって、前記周方向の位相が前記一の環状体内の前記2つの基本ユニットの前記周方向の位相と90°ずれた位置にある2つの前記基本ユニット内において、
前記角度比が2.17以上2.96以下の関係を満し、かつ、
前記長さ比が1.24以上1.51以下の関係を満す、請求項1~4のいずれか1項に記載のステント。
【請求項6】
全ての前記基本ユニット内において、
前記角度比が2.17以上2.96以下の関係を満し、かつ、
前記長さ比が1.24以上1.51以下の関係を満す、請求項5に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、血管などの生体管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、ステントデリバリーシステムによって生体管腔内の病変部まで送達された後に留置され、狭窄部や閉塞部などの病変部を拡張し、内腔を確保する医療用具である。ステントは、半径方向に拡径及び縮径可能な隙間を有する円筒形状体となるように、線状の構成要素であるストラットによって形成される。
【0003】
ステントは、拡張方法によって、バルーン拡張型と自己拡張型とに区分けされる。このうち、バルーン拡張型のステントは、クリンプされた状態でバルーンカテーテルに装着され、目的の病変部まで送達(デリバリー)した後、生体管腔内に留置される。ステントは、デリバリー時のバルーンからの脱落を防ぐ必要がある。そのため、ステントは、クリンプした際にストラットの間の隙間からバルーンがステント内面よりも外側に突出されるように、バルーンを低圧で膨張させながらクリンプ(加圧クリンプ)される。加圧クリンプの前には、バルーンがストラットの隙間から突出されやすくなるように、バルーンの外表面に皺を形成させるための前拡張がバルーンに対して行われる。
【0004】
ステントに求められる特性としては、例えば、拡張前後においてステントの軸方向の長さの変化が抑えられること、生体管腔の形状に柔軟に追従すること、末梢到達性が得られるようにデリバリー中のステント装着部のカテーテル外径(プロファイル)が小さいこと等が挙げられる。バルーン拡張型ステントの場合は、上記の各特性に加えて、デリバリー中にステントがバルーンから脱落しないように、ステントとバルーンの間の保持力(ステント保持力)が高い、という特性も求められる。
【0005】
しかし、バルーンの前拡張時に生じる皺の形状はランダムであり、加圧クリンプの際にストラットの間の目的とする位置からバルーンを突出させることが難しい。バルーンの突出はステント保持力に影響するため、ステントがクリンプされたステントデリバリーシステムを大量生産した際は、ステント保持力に個体差が生じる。
【0006】
上記のようなステント保持力の課題を解決し得るステントとして、下記特許文献1に開示されるステントが提案されている。下記特許文献1のステントは、波状環状体を形成するストラットの周方向の間隔が均一ではなく、平行直線状部と第1傾斜直線状部の間隔及び平行直線状部と第2傾斜直線状部の間隔よりも、傾斜曲線状部と第1傾斜直線状部の間隔及び傾斜曲線状部と第2の傾斜直線状部の間隔の方が大きくなるように形成されている。
【0007】
上記のように、特許文献1のステントには、ストラットの周方向の間隔が小さい隙間と大きい隙間が形成される。ストラットの間隔が小さい隙間ではバルーンの突出が起きにくくなる一方、ストラットの間隔が大きい隙間ではバルーンの突出が起きやすくなる。このため、特許文献1のステントは、周方向のストラットの間隔が均一なステントよりも、大量生産した際のバルーンの突出が起きる隙間の数の個体間のバラつきが減少し、ステント保持力の個体差が小さくなる。従って、特許文献1のステントは安定したステント保持力を発揮することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、ステントは、末梢到達性の向上を図るために、ステントのプロファイルの小径化が望まれるが、プロファイルが小さくなるほど、クリンプ前のステントが本来持つステントデザインの特徴を損なうような過度な変形が生じ得る。特許文献1のステントについても、同様の可能性があった。
【0010】
本発明の一実施形態は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、プロファイルを小さくしても、ストラットの周方向の間隔に明瞭な差が生じて、バルーンに対するステント保持力が安定化するステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係るステントは、長軸方向に延びる円筒形状に形作られたステントであって、基端と先端を有し、前記長軸方向と平行に延びる軸平行線状部と、基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びる第1小傾斜線状部と、基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びる第2小傾斜線状部と、基端と先端を有し、前記長軸方向に対して傾いて延びるとともに前記第1小傾斜線状部と前記第2小傾斜線状部の間に配置された大傾斜線状部と、前記軸平行線状部の先端と前記第1小傾斜線状部の先端を接続する第1小湾曲部と、前記第1小傾斜線状部の基端と前記大傾斜線状部の基端を接続する第1大湾曲部と、前記大傾斜線状部の先端と前記第2小傾斜線状部の先端を接続する第2大湾曲部と、前記第2小傾斜線状部の基端に接続された第2小湾曲部と、を有する基本ユニットが前記長軸方向周りの周方向に4つ配列されており、一の前記基本ユニット内の前記第2小湾曲部と、前記一の基本ユニットと前記周方向において隣接する他の前記基本ユニット内の前記軸平行線状部の基端と、を接続することで形成される環状体が、前記長軸方向において同位相で複数配列されており、一の前記環状体の前記第1小湾曲部又は前記第2小湾曲部と、前記一の環状体と前記長軸方向において隣接する他の前記環状体の前記第2小湾曲部又は前記第1小湾曲部と、を接続するリンク部を少なくとも一つ以上有し、1つの前記環状体に含まれる4つの前記基本ユニットの少なくとも一つにおいて、前記大傾斜線状部と前記第1小傾斜線状部の間、又は前記大傾斜線状部と前記第2小傾斜線状部の間の成す第1角度を、前記軸平行線状部と前記第1小傾斜線状部の間、又は前記軸平行線状部と前記第2小傾斜線状部の間の成す第2角度で除した角度比が2.17以上2.96以下の関係を満たし、かつ、前記大傾斜線状部の長さを、前記第1小傾斜線状部の長さ又は前記第2小傾斜線状部の長さで除した長さ比が1.24以上1.51以下の関係を満たす。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、プロファイルを小さくしても、ストラットの周方向の間隔に明瞭な差が生じて、バルーンに対するステント保持力が安定化するステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るステントデリバリーシステムの概略平面図である。
【
図2】本実施形態に係るステントの外周の一部を長軸方向に沿って直線状に切断して展開した展開図である。
【
図4】
図3の破線部Bを拡大して示す図であり、本実施形態に係るステントの基本ユニットを示す図である。
【
図5】バルーンにクリンプした状態における本実施形態に係るステントの一部を拡大して示す概観斜視図である。
【
図6】
図5の矢印6A-6Aで示す方向のステントの一部の軸直交断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0015】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0016】
本明細書では、線状の構成要素であるストラットによって形成された円筒形状のステント100の長軸方向(ステント100の長手方向である。
図2において、二点鎖線で示したステント100の中心軸Xに沿う方向)は、単に「長軸方向」とする。また、
図2に示すステント100(環状体10)の長軸周りの周方向(
図2において、二点鎖線で示したステント100の中心軸Xに垂直な方向)は、単に「周方向」とし、ステント100(環状体10)の径方向は、単に「径方向」とする。また、生体内に挿入される側を「先端側」とし、先端側と反対側であって術者が医療デバイスを操作する側を「基端側」とする。先端側は図中の矢印X1で示し、基端側は図中の矢印X2で示す。
【0017】
なお、以下の説明において、「第1」、「第2」のような序数詞を付して説明する場合は、特に言及しない限り、便宜上用いるものであって何らかの順序を規定するものではない。
【0018】
本実施形態に係るステント100は、血管、胆管、気管、食道、尿道、又はその他の生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部を治療するために用いられる。ステント100は、クリンプされた状態でバルーン220に装着され、病変部まで送達された後に拡張されて病変部に留置される、いわゆるバルーン拡張型ステントである。
【0019】
図1に示すように、ステントデリバリーシステム300は、ステント100と、バルーンカテーテル200とを備える。バルーンカテーテル200は、ステント100を収縮した状態で病変部まで送達し、拡張させて病変部に留置するために利用される。
【0020】
バルーンカテーテル200は、長尺なカテーテル本体部210と、カテーテル本体部210の先端に設けられるバルーン220と、カテーテル本体部210の基端に固着されるハブ230とを備えている。
【0021】
カテーテル本体部210は、外管と、外管の内部に配置される内管とを備えている。
【0022】
外管の内部には、バルーン220を拡張するための拡張用流体が流通する拡張用ルーメンが形成されている。外管の先端部は、バルーン220の基端部に固着されている。外管の基端部は、ハブ230に固定されている。
【0023】
内管の内部には、ガイドワイヤが挿入されるガイドワイヤルーメンが形成されている。内管の先端部は、バルーン220の内部を貫通し、バルーン220よりも先端側で開口している。内管の基端部は、バルーン220よりも基端側で外管の側壁を貫通して、外管に固着されている。
【0024】
カテーテル本体部210の構成材料は、ある程度の可撓性を有する材料が好ましく、一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら2種以上の混合物などのポリオレフィンや、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴムなどが挙げられる。
【0025】
バルーン220は、例えば狭窄部の内部で拡張することで、狭窄部を押し広げる部材である。バルーン220の先端側は、内管の外壁面に固着されている。バルーン220の基端側は、外管の先端部の外壁面に固着されている。そのため、バルーン220の内部は、外管に形成される拡張用ルーメンと連通する。バルーン220は、拡張用ルーメンを介して基端開口部231から拡張用流体が流入可能となっている。バルーン220は、拡張用流体の流入により拡張し、流入した拡張用流体を排出することにより収縮して折り畳まれた状態となる。
【0026】
バルーン220の構成材料は、拡張用流体の流入出により拡張及び収縮する可撓性を有する材料が好ましく、一例としてポリオレフィン、ポリオレフィンの架橋体、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、フッ素樹脂などの高分子材料、シリコーンゴム、ラテックスゴムなどが挙げられる。バルーン220の構成材料は、上記高分子材料を単独で利用する形態に限定されず、上記高分子材料を適宜積層したフィルムを適用してもよい。また、拡張用流体は、気体でも液体でもよく、例えば、ヘリウムガス、CO2ガス、O2ガスなどの気体や、生理食塩水、X線造影剤などの液体が挙げられる。
【0027】
ハブ230は、外管の拡張用ルーメンと連通する基端開口部231を備えている。基端開口部231は、拡張用流体を流入出させるポートとして機能する。
【0028】
ハブ230の構成材料は、特に限定されないが、一例として、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0029】
次に、
図2~
図6を適宜参照しながら、ステント100について説明する。
図2~
図4にはバルーン220にクリンプする前の状態のステント100を示し、
図5、
図6にはバルーン220にクリンプした状態のステント100を示す。
【0030】
ステント100は、
図2、
図3に示すように、複数の環状体10が長軸方向において複数配列された円筒形状を有する。各環状体10は周方向の位相を揃えて(同位相で)配置されている。
【0031】
ステント100は、長軸方向において隣接する環状体10同士を接続する複数のリンク部20A、20Bを有する。
【0032】
図3、
図4に示すように、1つの環状体10には、周方向に4つ配列された基本ユニット30が含まれる。明細書の説明では、各基本ユニット30は、周方向に沿って順に、第1基本ユニット30A、第2基本ユニット30B、第3基本ユニット30C、第4基本ユニット30Dと称する。
【0033】
4つの基本ユニット30は、周方向に沿ってジグザグに折り返したストラットにより構成されている。
【0034】
基本ユニット30は、
図4に示すように、軸平行線状部31aと、第1小傾斜線状部32aと、第2小傾斜線状部32bと、大傾斜線状部33と、第1小湾曲部34aと、第1大湾曲部35aと、第2大湾曲部35bと、第2小湾曲部34bと、を有する。以下では、4つの基本ユニット30のうち、第1基本ユニット30Aを例にして詳細な構造を説明する。
【0035】
軸平行線状部31aは、基端と先端を有し、長軸方向と平行に延びている。
【0036】
第1小傾斜線状部32aは、基端と先端を有し、長軸方向に対して傾いて延びている。
【0037】
第2小傾斜線状部32bは、基端と先端を有し、長軸方向に対して傾いて延びている。
【0038】
大傾斜線状部33は、基端と先端を有するとともに第1小傾斜線状部32aと第2小傾斜線状部32bの間に配置されている。
【0039】
第1小湾曲部34aは、軸平行線状部31aの先端と第1小傾斜線状部32aの先端を接続する。
【0040】
第1大湾曲部35aは、第1小傾斜線状部32aの基端と大傾斜線状部33の基端を接続する。
【0041】
第2大湾曲部35bは、大傾斜線状部33の先端と第2小傾斜線状部32bの先端を接続する。
【0042】
第2小湾曲部34bは、第2小傾斜線状部32bの基端に接続されている。また、第2小湾曲部34bは、第2小傾斜線状部32bの基端と第1基本ユニット30Aに隣接する第2基本ユニット30Bの軸平行線状部31bの基端を接続する。
【0043】
なお、周方向において互いに隣接する第2基本ユニット30Bと第3基本ユニット30C、及び第3基本ユニット30Cと第4基本ユニット30Dの各々は、第2小湾曲部34b及び各軸平行線状部31a、31bを介して相互に接続されている(
図3を参照)。
【0044】
図4に示すように、第1小傾斜線状部32aの先端には、第1基本ユニット30A内の軸平行線状部31aに向かって突出した形状となる第1屈曲部36aが形成されている。
【0045】
第1屈曲部36aは、例えば、軸平行線状部31aに向けて緩やかに湾曲した凸形状に形成することができる。なお、第1屈曲部36aは、軸平行線状部31aに向かって突出した形状である限り、具体的な形状は限定されない。例えば、第1屈曲部36aは、軸平行線状部31aに向かって鋭角に突出する凸形状や矩形の凸形状を有していてもよい。
【0046】
図4に示すように、第2小傾斜線状部32bの基端には、第1基本ユニット30A(一の基本ユニット)の周方向に隣接する第2基本ユニット30B(他の基本ユニット)内の軸平行線状部31bに向かって突出した形状となる第2屈曲部36bが形成されている。
【0047】
第2屈曲部36bは、例えば、軸平行線状部31bに向けて緩やかに湾曲した凸形状に形成することができる。なお、第2屈曲部36bは、第1屈曲部36aと同様に、具体的な形状は特に限定されない。
【0048】
本実施形態に係るステント100は、
図2に示すように、9つの環状体10を有する。明細書の説明では、9つの各環状体10は、長軸方向の基端側から先端側に向かって順に第1~第9環状体10A~10Iと称する。
【0049】
長軸方向に隣接する二つの環状体10は、二つのリンク部20A、20Bを介して接続されている。
【0050】
図3に示すように、第1環状体10A(一の環状体)の第2基本ユニット30Bの第1小湾曲部34aと、第2環状体10B(他の環状体)の第1基本ユニット30Aの第2小湾曲部34bは、一のリンク部20Aを介して接続している。
【0051】
また、第1環状体10Aの第4基本ユニット30Dの第1小湾曲部34aと第2環状体10Bの第3基本ユニット30Cの第2小湾曲部34bは、他のリンク部20Bを介して接続している。
【0052】
本実施形態では、第1環状体10Aと第2環状体10Bとは、長軸方向と直交する軸直交断面上において、径方向で対向する2つのリンク部20A、20Bで接続されている。つまり、一のリンク部20Aと他のリンク部20Bは、ステント100の軸直交断面上において周方向に180度の角度を空けて配置されている。各リンク部20A、20Bの間に設けられる周方向の角度差は、第1環状体10Aと第2環状体10Bを接続するリンク部以外のリンク部でも同様としている。
【0053】
図3に示すように、第2環状体10Bの第1基本ユニット30Aの第1小湾曲部34aと、第3環状体10Cの第4基本ユニット30Dの第2小湾曲部34bは、一のリンク部20Aを介して接続している。
【0054】
また、第2環状体10Bの第3基本ユニット30Cの第1小湾曲部34aと、第3環状体10Cの第2基本ユニット30Bの第2小湾曲部34bは、他のリンク部20Bを介して接続している。
【0055】
各リンク部20A、20Bは、
図2、
図3に示すように、接続対象となる環状体10が長軸方向に沿って基端側から先端側に向かって一組ずれるのに伴って、周方向に90度ずつ互い違いにずれる。そのため、第1環状体10Aと第2環状体10Bを接続する各リンク部20A、20Bの周方向の位置は、第3環状体10Cと第4環状体10Dを接続する各リンク部20A、20Bの周方向の位置と略同一となる。一方で、第2環状体10Bと第3環状体10Cを接続する各リンク部20A、20Bの周方向の位置は、第4環状体10Dと第5環状体10Eを接続する各リンク部20A、20Bの周方向の位置と略同一となる。
【0056】
ステント100では、上記のように各リンク部20A、20Bが配置されているため、
図2に示すように、長軸方向の両端部に位置する第1環状体10A及び第9環状体10I以外の環状体10では、周方向に配列された4つの基本ユニット30A、30B、30C、30Dの各軸平行線状部31a、31bが隣接する他の環状体10と接続される。一方で、長軸方向の両端部に位置する各環状体10A、10Iには、長軸方向に隣接する他の環状体10と接続されていない軸平行線状部31a、31bが存在する。例えば、
図3に示すように、第1環状体10Aでは、第1基本ユニット30Aの軸平行線状部31aと第3基本ユニット30Cの軸平行線状部31aが長軸方向に隣接する第2環状体10Bと接続されていない。
【0057】
ステント100は、バルーン220にクリンプされた状態において、軸平行線状部31aと第1小傾斜線状部32aとの間に形成された第1の隙間g1と、大傾斜線状部33と第1小傾斜線状部32aとの間に形成された第2の隙間g2を有する。
【0058】
第1の隙間g1及び第2の隙間g2の大きさを表す目安として、
図6に示す長軸方向と直交する軸直交断面における中心軸Xを基準とした角度範囲において、角度範囲(θ1)及び角度範囲(θ2)を用いる。θ1は
図4に示す軸平行線状部31aの基端の位置における軸直交断面上で定義し、θ2は
図4に示す第1小傾斜線状部32aの先端の位置における軸直交断面上で定義することとする。
【0059】
ステント外径が1mmの状態で、第1の隙間g1の角度範囲(θ1)は、例えば、2°以上7°以下がより好ましい。
【0060】
ステント外径が1mmの状態で、第2の隙間g2の角度範囲(θ2)は、例えば、15°以上30°以下がより好ましい。
【0061】
なお、ステント100では、
図5、
図6に示すように、第1基本ユニット30Aの第2小傾斜線状部32bと、第1基本ユニット30Aと周方向で隣接する第2基本ユニット30Bの軸平行線状部31bとの間にも隙間g1が形成されている。この隙間g1は、第1基本ユニット30Aの軸平行線状部31aと第1小傾斜線状部32aとの間に形成される隙間g1と周方向の間隔(大きさ)が略同一である。
【0062】
同様に、ステント100では、
図5、
図6に示すように、第1基本ユニット30Aの大傾斜線状部33と第2小傾斜線状部32bとの間にも隙間g2が形成されている。この隙間g2は、第1基本ユニット30Aの大傾斜線状部33と第1小傾斜線状部32aとの間に形成される隙間g2と周方向の間隔(大きさ)が略同一である。
【0063】
ステント100の各部(環状体10、リンク部20A、20B、基本ユニット30)を形成する材料は、例えば、ステンレス鋼、コバルト-クロム合金(例えばCoCrWNi合金)等のコバルト系合金、プラチナ-クロム合金(例えばPtFeCrNi合金)、ニッケル-チタン合金などの金属材料や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体などの生分解性高分子材料が挙げられる。
【0064】
ステント100は、例えば、上記材料で構成される管状部材(中空のパイプ材)に対してレーザーを照射し、所望のステントデザインを形成することで製造できる。なお、例えば、エッチング等の方法によりステント100を製造してもよく、製造方法はレーザーを利用した方法のみに限定されない。
【0065】
ステント100の外表面には、薬剤を含む被覆体を備えてもよい。被覆体は、ステント100の外表面のうち、好ましくは、生体管腔の内周面と対向する側の外表面に形成されるが、これに限定されない。被覆体は、新生内膜の増殖を抑制可能な薬剤と、薬剤を担持するための薬剤担持体と、を含んでいてよい。被覆体は、薬剤のみによって構成されていてもよい。被覆体に含まれる薬剤は、例えば、シロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルなどからなる群より選択される少なくとも1種である。薬剤担持体の構成材料としては、特に限定されないが、生分解性材料が好ましい。
【0066】
次に、
図4を参照しつつ、基本ユニット30の各部の寸法例を説明する。以下では、第2環状体10Bの第1基本ユニット30Aを例にして説明する。なお、ステント100は、環状体10に含まれる少なくとも1つの基本ユニット30に対して以下に説明する角度比(a/b)及び長さ比(t/s1及びt/s2)が適用されている限り、後述する本願発明の効果を好適に発揮することができる。
【0067】
なお、第1角度(a)や第2角度(b)などは、ステント外径に依存して変化するパラメータである。以下に説明する各寸法例は、ステント100をバルーン220にクリンプする前の外径(ステント100の元となる管状部材の外径)における値であり、ここではステント外径が2mmにおける値である。その外径は、薬事申請書類などに記載の情報から取得可能である。
【0068】
<角度比(a/b)について>
ステント100では、大傾斜線状部33と第1小傾斜線状部32aの間、又は大傾斜線状部33と第2小傾斜線状部32bの間の成す角度を第1角度(a)と定義する。以下、単に「第1角度(a)」と称する。
【0069】
第1角度(a)は、第1小湾曲部34aの最内湾曲点p1と第1大湾曲部35aの最外湾曲点p2を結ぶ仮想直線H1と、第1大湾曲部35aの最外湾曲点p2と第2大湾曲部35bの最外湾曲点p3を結ぶ仮想直線H2が成す角度、又は第2小湾曲部34bの最内湾曲点p4と第2大湾曲部35bの最外湾曲点p3を結ぶ仮想直線H3と仮想直線H2が成す角度で定義することができる。
【0070】
ステント100では、軸平行線状部31aと第1小傾斜線状部32aの間、又は軸平行線状部31bと第2小傾斜線状部32bの間の成す角度を第2角度(b)と定義する。以下、単に「第2角度(b)」と称する。
【0071】
第2角度(b)は、軸平行線状部31aと仮想直線H1が成す角度、又は軸平行線状部31bと仮想直線H3が成す角度で定義することができる。なお、各軸平行線状部31a、31bは中心軸Xに平行であるため、第2角度(b)を定義する際、軸平行線状部31a及び軸平行線状部31bのいずれを用いてもよい。
【0072】
ステント100の第1基本ユニット30Aでは、
図4に示す平面視上の幾何学的な中心位置Oを基準とし、周方向において各小傾斜線状部32a、32b、各小湾曲部34a、34b、及び各大湾曲部35a、35bの各々が対称な形状を有する。そのため、大傾斜線状部33と第1小傾斜線状部32aの間の成す第1角度と、大傾斜線状部33と第2小傾斜線状部32bの間の成す第1角度は略同一であり、軸平行線状部31aと第1小傾斜線状部32aの間の成す第2角度と、軸平行線状部31bと第2小傾斜線状部32bの間の成す第2角度も略同一である。また、後述する第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)と第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)も略同一である。
【0073】
ステント100は、第1角度(a)を第2角度(b)で除した角度比(a/b)を2.17以上2.96以下で形成することができる。ステント100は、角度比(a/b)が2.37以上2.62以下で形成されていることがより好ましい。
【0074】
第1角度(a)は、例えば、60.10°以上62.74°以下が好ましく、61.08°以上61.97°以下がより好ましい。
【0075】
第2角度(b)は、例えば、20.30°以上28.94°以下が好ましく、23.28°以上26.16°以下がより好ましい。
【0076】
<長さ比(t/s1及びt/s2)について>
ステント100は、大傾斜線状部33の長さ(t)を第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)、又は第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)で除した長さ比(t/s1又はt/s2)を1.24以上1.51以下で形成することができる。ステント100は、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.33以上1.42以下で形成されていることがより好ましい。
【0077】
大傾斜線状部33の長さ(t)は、仮想直線H2の長さで定義することができる。また、第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)は、仮想直線H1の長さで定義することができる。また、第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)は、仮想直線H3の長さで定義することができる。
【0078】
大傾斜線状部33の長さ(t)は、例えば、0.995mm以上1.313mm以下が好ましく、1.064mm以上1.234mm以下がより好ましい。
【0079】
第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)及び第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)は、例えば、0.800mm以上0.870mm以下(実施例での計測値:0.832mmのみ記載)が好ましく、0.810mm以上0.850mm以下がより好ましい。
【0080】
<その他の寸法例>
ステント100は、一のリンク部20A(又は他のリンク部20B)の長さ(L)を第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)、又は第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)で除したリンク部長さ比(L/s1又はL/s2)を0.35以上0.44以下で形成することができる。ステント100は、リンク部長さ比(L/s1又はL/s2)が0.35以上0.38以下で形成されていることがより好ましい。
【0081】
なお、リンク部20Aの延在方向は、第1小湾曲部34aの最内湾曲点p1から第2小湾曲部34bの最内湾曲点p4に向かう方向とし、その両端は、軸平行線状部31aの第2小傾斜線状部32b側の縁線と第1小傾斜線状部32aの大傾斜線状部33側の縁線に内接する円弧、及び軸平行線状部31bの第1小傾斜線状部32a側の縁線と第2小傾斜線状部32bの大傾斜線状部33側の縁線に内接する円弧と定義する。リンク部20Aの長さLは、
図3に示すように、リンク部20Aの延在方向の一端から他端までの長軸方向に平行な距離と定義する。
【0082】
リンク部20Aの長さは、例えば、0.20mm以上0.35mm以下(実施例での計測値:0.295mmのみ記載)が好ましく、0.22mm以上0.30mm以下がより好ましい。
【0083】
第1小傾斜線状部32aの先端に形成された第1屈曲部36aは、例えば、第1小湾曲部34aの最内湾曲点p1から0.1825mm離れた位置に形成することができる。第1屈曲部36aと最内湾曲点p1との間の上記距離は、第1屈曲部36aの軸平行線状部31a側に最も突出した位置と最内湾曲点p1の間の長軸方向の長さで定義することができる。
【0084】
第2小傾斜線状部32bの基端に形成された第2屈曲部36bは、例えば、第2小湾曲部34bの最内湾曲点p4から0.1825mm離れた位置に形成することができる。第2屈曲部36bと最内湾曲点p4との間の上記距離は、第2屈曲部36bの軸平行線状部31b側に最も突出した位置と最内湾曲点p4の間の長軸方向の長さで定義することができる。
【0085】
ステント100の長軸方向に沿う長さ(全長)は、例えば、3.9mm~51.6mmに形成することができる。
【0086】
バルーン220にステント100をクリンプした状態でのプロファイルは、ステント100を構成する管状部材の外径が2.0mmである場合、例えば、0.80mm~1.26mmとすることができる。ステント100は、上記プロファイルが1.0mmであることがより好ましい。
【0087】
[作用効果]
ステント100では、上述したように角度比(a/b)が2.17以上2.96以下、かつ、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下で形成されている。そのため、次のような効果を奏する。
【0088】
第1の隙間g1が第2の隙間g2よりも小さい関係は、ステント100の縮径量が大きい場合でも維持されるため、ステント100をバルーン220に加圧クリンプする際に、第1の隙間g1からのバルーン220の突出が起きにくくなり、第2の隙間g2からのバルーン220の突出が起きやすくなる。従って、ステントデリバリーシステム300を大量生産した際、プロファイルが小さくても、ステント100内のバルーン220の突出が起きる隙間の数の個体間のバラつきが減少し、ステント保持力が安定化する。
【0089】
ステント100では、第1環状体10A(一の環状体)と第2環状体10B(他の環状体)は、それぞれの環状体10A、10Bの間である間隙の範囲内の長軸方向と直交する軸直交断面上において、径方向で対向する2つのリンク部20A、20Bにより接続されている(
図2を参照)。また、一の間隙に配置されるリンク部20A、20Bの周方向の位相と、長軸方向に隣接する他の間隙に配置されるリンク部20A、20Bの周方向の位相が90°ずれている。
【0090】
このような構成とすることにより、ステント100の全長に対してリンク部20A、20Bの置かれる周方向上の位置が分散され、ステント100の周方向位置における柔軟性が均一化した上で、第1の隙間g1が第2の隙間g2よりも小さい関係が、ステント100の縮径量が大きい場合でも維持される。
【0091】
ステント100では、第1小傾斜線状部32aの先端には、第1基本ユニット30A内の軸平行線状部31aに向かって突出した形状となる第1屈曲部36aが形成されている。また、第2小傾斜線状部32bの基端には、第2基本ユニット30B内の軸平行線状部31bに向かって突出した形状となる第2屈曲部36bが形成されている。
【0092】
このような構成とすることにより、第1小傾斜線状部32aの先端近傍に位置する第1小湾曲部34aの内湾部分及び、第2小傾斜線状部32bの基端近傍に位置する第2小湾曲部34bの内湾部分の円弧長が長くなるため、これらの部分の応力集中が緩和され、第1小湾曲部34a及び第2小湾曲部34bでのステントフラクチャーが発生するリスクが低減される。
【0093】
ステント100では、リンク部20A、20Bの長さ(L)を第1小傾斜線状部32aの長さ(s1)又は第2小傾斜線状部32bの長さ(s2)で除したリンク部長さ比(L/s1又はL/s2)が0.35以上0.44以下である。
【0094】
このような構成とすることにより、ステント100を縮径させても、一の環状体10(例えば、第2環状体10B)の第1大湾曲部35aと一の環状体10に隣接する他の環状体(例えば、第1環状体10A)の第1小湾曲部34aが当接することを防止できる(
図5を参照)。それにより、一の環状体10の第1大湾曲部35aと他の環状体10の第1小湾曲部34aの間にバルーン220が過剰に挟み込まれてバルーン220にピンホールが発生するリスクが低減される。
【0095】
ステント100では、全ての環状体10において、1つの環状体10内の基本ユニット30A、30C及び隣り合う他の環状体10内の基本ユニット30B、30Dの角度比(a/b)が2.17以上2.96以下、かつ、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下で形成されている。1つの環状体10内の基本ユニット30A、30Cの周方向の位置は、隣り合う他の環状体10内の基本ユニット30B、30Dの周方向の位置に対して90°ずれている。
【0096】
このような構成にすることにより、ステント100内のバルーン220の突出が起きる隙間の数の個体間のバラつきがより減少し、ステント保持力が安定化する。
【0097】
ステント100では、全ての基本ユニット30A、30B、30C、30Dの角度比(a/b)が2.17以上2.96以下、かつ、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下で形成されている。
【0098】
このような構成にすることにより、ステント100内のバルーン220の突出が起きる隙間の数の個体間のバラつきがさらに減少し、ステント保持力が安定化する。
【0099】
なお、長さ比(t/s1又はt/s2)が大きいほど、第1角度(a)及び/又は第2角度(b)の単位角度あたりのステント外径の変化量が増加するため、拡張限界径が大きくなる。本実施形態に係るステント100の長さ比(t/s1又はt/s2)は1.24以上1.51以下であるが、拡張限界径の観点からして長さ比(t/s1又はt/s2)は大きい方が好ましい。
【0100】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[評価試験]
評価試験は、FEM解析アプリケーションソフト「Abaqus(Dassault Systems社製)」を用いて外径2mmのステント100をモデリングし、外径1mmになるまでの縮径挙動をシミュレートした後、ステント100の中心軸Xを基準とした角度範囲において、第1の隙間g1の角度範囲(θ1)及び第2の隙間g2の角度範囲(θ2)を解析した。θ1は
図4に示す軸平行線状部31aの基端の位置における軸直交断面上で測定し、θ2は
図4に示す第1小傾斜線状部32aの先端の位置における軸直交断面上で測定した。
【0102】
当解析を実施する上で使用した条件を以下に示す。
・材料特性:原材料となるCoCr合金の引張試験により得られた真応力と真ひずみの相関関係を有する材料とした。
・要素特性:弾塑性体とした。
・要素の大きさ:ストラットの厚さ方向に4分割した高さと、ストラットの線幅方向及び延在方向に同程度の大きさの横幅及び縦幅を有する大きさとした。
・要素タイプ:3次元低減積分要素に3次元低減要素をラップしたC3D8R+M3D4Mを利用した。
・境界条件:ステントの外径より大きな内径を有する円筒形のパートをステントの周囲に配置し、ステント外径が1mmになるまでパートを収縮させた。パートの材料特性は超弾性特性とした。
【0103】
当解析を実施する上で、実施例1~5、比較例1~2の計7つのステント100をモデリングした。角度比(a/b)、長さ比(t/s1又はt/s2)、リンク部長さ比(L/s1又はL/s2)、角度比(θ1/θ2)と、これらに関わる寸法を表1に示す。この中で、第1の隙間g1の角度範囲(θ1)及び第2の隙間g2の角度範囲(θ2)は縮径後の数値であり、その他の比率及び寸法は縮径前の数値である。実施例1~5と比較例1~2の間で共通する縮径前のその他の寸法を表2に示す。なお、全ての環状体10において、環状体10内の2つの基本ユニット30A、30C、又は基本ユニット30B、30Dが表1及び表2に示す寸法を有している。表1及び表2に示す寸法が適用される基本ユニットのそれぞれの周方向の位置は、一の環状体10と隣り合う他の環状体10で90°ずれている。
【0104】
【0105】
【0106】
上記表2において、※1は次の意味である。リンク部の最小線幅及びリンク部の最大線幅は、リンク部の延在方向の範囲内における線幅方向の最小値及び最大値としている。リンク部の線幅方向は、リンク部の延在方向に垂直な方向としている。
【0107】
上記表2において、※2は次の意味である。屈曲部の位置は、第1屈曲部36aの軸平行線状部31a側に最も突出した位置と第1小湾曲部34aの最内湾曲点p1の間の長軸方向の長さ、又は第2屈曲部36bの軸平行線状部31b側に最も突出した位置と第2小湾曲部34bの最内湾曲点p4の間の長軸方向の長さとしている。
【0108】
[評価結果]
比較例2はθ1が9.5°であった。これは角度比(a/b)が2.17より小さいため、第2角度(b)が減少しにくかったためと推測される。ステント100を縮径する際、軸平行線状部31a、31bと小傾斜線状部32a、32bは、ステント断面(軸直交断面と同義)の円周の接線方向に互いに逆向きとなるような外力を受ける。この際、第2角度(b)が大きい、つまり中心軸Xに対する小傾斜線状部32a、32bの角度が大きいと、小傾斜線状部32a、32bの受ける外力を小傾斜線状部32a、32bの延在方向と線幅方向に分解した際の線幅方向の寄与が減る。線幅方向成分の外力は、第2角度(b)の減少を促すため、第2角度(b)に対して第1角度(a)が相対的に大きい、つまり角度比(a/b)が小さいほど、第2角度(b)が減少しにくい。従って、比較例2ではθ1が9.5°と比較的大きな値になったものと推測される。θ1がこの値においては、第1の隙間g1からバルーン220の突出が起こり得る。これより、角度比(a/b)を2.17以上で形成することにより、縮径を開始した早い段階で第2角度(b)の減少を促すことが示唆される。
【0109】
比較例1はθ1が3.1°であり、θ2が5.2°であった。これは角度比(a/b)が2.96より大きいため、第2角度(b)が減少しやすく、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.51より大きいため、第1角度(a)が減少しやすかったためと推測される。比較例1では、角度比(a/b)が大きいことからステント100の縮径を開始した早い段階で第2角度(b)が減少し、軸平行線状部31a、31bと小傾斜線状部32a、32bが当接したものと推測される。軸平行線状部31a、31bと小傾斜線状部32a、32bが当接すると、軸平行線状部31a、31bは縮径により生じるステント断面の円周の接線方向の外力を小傾斜線状部32a、32bの大湾曲部35a、35b側から受ける。それにより、軸平行線状部31a、31bは大傾斜線状部33の延在方向と平行な方向に向かうモーメントを受ける。軸平行線状部31a、31bと接続されたリンク部20A、20Bは、軸平行線状部31a、31bがステント100の外周面上で回転しないようにこれらを支持する効果を持つが、リンク部20A、20Bと接続されていない軸平行線状部31a、31bは、リンク部20A、20Bと接続されている軸平行線状部31a、31bよりも、縮径時に回転し易い。比較例1では、長さ比(t/s1又はt/s2)が大きいが、このモーメントは大傾斜線状部33が長いほど大きくなり、それに伴ってリンク部20A、20Bと接続されていない軸平行線状部31a、31bは回転しやすくなる。そして、軸平行線状部31a、31bが回転すると、その回転に連動して小傾斜線状部32a、32bも回転し、第1角度(a)が減少したものと推測される。従って、比較例1ではθ2が5.2°と比較的小さな値になったものと推測される。θ2がこの値においては、第2の隙間g2からバルーン220の突出が起こり得る。これより、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.51以下であることで第1角度(a)の減少が防止できることが示唆される。
【0110】
実施例1~5のステント100は、角度比(a/b)が2.17以上2.96以下で形成されており、かつ、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下で形成されている。実施例1~5のステント100では、縮径後に、第1の隙間g1の周方向の間隔と第2の隙間g2の周方向の間隔の間に明瞭な差が確認された。具体的には、実施例1~5のステント100では、第1の隙間g1の角度範囲(θ1)が2.5°~5.2°であり、第2の隙間g2の角度範囲(θ2)が18.0°~27.7°であった。実施例1~5のステント100は、第2の隙間g2の角度範囲(θ2)が第1の隙間g1の角度範囲(θ1)よりも十分に大きく形成されていることにより、第1の隙間g1からのバルーン220の突出が起きにくくなり、第2の隙間g2からのバルーン220の突出が起きやすくなる。従って、ステント100を使用してステントデリバリーシステム300を大量生産した際、ステント内のバルーンの突出が起きる隙間の数の個体間のバラつきが減少し、ステント保持力が安定化する。
【0111】
また、実施例1~5のステント100では、縮径後に第2環状体10Bの第1大湾曲部35aと第1環状体10Aの第1小湾曲部34aの当接が確認されなかった。このように、角度比(a/b)が2.17以上2.96以下で形成されており、かつ、長さ比(t/s1又はt/s2)が1.24以上1.51以下で形成されているステント100においては、リンク部長さ比(L/s1又はL/s2)が0.35以上である場合に、隣接する環状体10の第1大湾曲部35aと第1小湾曲部34aの当接を好適に防止することができ、ピンホールが発生するリスクを低減することが可能であることを確認できた。
【符号の説明】
【0112】
10 環状体、
10A 第1環状体、
10B 第2環状体、
10C 第3環状体、
10D 第4環状体、
10E 第5環状体、
10F 第6環状体、
10G 第7環状体、
10H 第8環状体、
10I 第9環状体、
20A 一のリンク部(リンク部)、
20B 他のリンク部(リンク部)、
30 基本ユニット、
30A 第1基本ユニット、
30B 第2基本ユニット、
30C 第3基本ユニット、
30D 第4基本ユニット、
31a 軸平行線状部、
31b 軸平行線状部、
32a 第1小傾斜線状部、
32b 第2小傾斜線状部、
33 大傾斜線状部、
34a 第1小湾曲部、
34b 第2小湾曲部、
35a 第1大湾曲部、
35b 第2大湾曲部、
36a 第1屈曲部、
36b 第2屈曲部、
100 ステント、
200 バルーンカテーテル、
220 バルーン、
300 ステントデリバリーシステム、
g1 第1の隙間、
g2 第2の隙間、
a 第1角度、
b 第2角度、
t 大傾斜線状部の長さ、
s1 第1小傾斜線状部の長さ、
s2 第2小傾斜線状部の長さ、
θ1 第1の隙間の角度範囲、
θ2 第2の隙間の角度範囲、
L リンク部の長さ。