(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097392
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
F16H15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000807
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】加藤木 隆朗
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051AA08
3J051BD02
3J051BE09
3J051CB07
3J051EA08
3J051EC01
3J051EC02
3J051FA02
3J051FA07
(57)【要約】
【課題】ころ軸受に発生するスキュー力による摩耗懸念部位の摩耗を抑制できるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】軸1Aと、この軸1Aにそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ軸1Aと一体的に回転可能に設けられた第1ディスク3および軸1Aに対して回転可能に設けられた第2ディスク2と、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラ11と、軸1Aと第2ディスク2との間に設けられたころ軸受70とを備え、ころ軸受70のコロ71の外径部に、樽形状の凸R形状面71fが形成され、軸1Aの外径面に、凸R形状面71fが係合する凹R形状面1fが形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、この軸にそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ前記軸と一体的に回転可能に設けられた第1ディスクおよび前記軸に対して回転可能に設けられた第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、前記軸と前記第2ディスクとの間に設けられたころ軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記ころ軸受のコロの外径面に、樽形状の凸R形状面が形成され、
前記軸の外径面および/または前記第2ディスクの内径面に、前記凸R形状面が係合する凹R形状面が形成されていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機の発電機または各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、
図7および
図8に示すように構成されている。
図7に示すように、ケーシング49の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車(伝達歯車)4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部(スリーブ)4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
入力軸1は、
図7中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング49内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0003】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、
図7中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、
図7中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(
図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0004】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面(内径面)2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図7の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0005】
図8は、
図7のA-A線に沿う断面図である。
図8に示すように、ケーシング49の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図8上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0006】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0007】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(
図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図8の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング49に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ56によって揺動自在に支持されている。
【0008】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0009】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0010】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0011】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(
図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ56と下側シリンダボディ57とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0012】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらにこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0013】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0014】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、トロイダル型無段変速機では、ディスク(入力側ディスクまたは出力側ディスク)と軸との間にころ軸受またはケージ&ローラを介在させることによって、軸によってディスクが回転可能に支持されている。ディスクと軸の回転の向きは反対であり、両者の間にある軸受は相対回転を支持する必要がある。高速回転で用いられる航空機向けのトロイダル型無段変速機では、当該軸受の相対回転数は最大3万rpm程度となり、軸受の保持器と、軸方向の位置を支持するための相手部品(例えば止め輪)とが接触すると焼き付きや保持器摩耗が懸念され、最終的には保持器破損や止め輪破損性に至る可能性がある。
【0017】
軸受の保持器が破損すると、支持しているディスクや軸の振れが大きくなり、トロイダル型無段変速機の非同期が発生し動力伝達不可となる可能性がある。また、保持器破損時に周辺部品に衝撃を与えディスクや軸の割れが発生する可能性がある。
また、軸受の止め輪が破損すると、軸受が軸方向に移動することで本来の軌道面ではない箇所で軸受のころが転動することになり、軸受の早期破損が発生する懸念がある。
ころ軸受はラジアル荷重が発生した際に相手面(軸の外径面やディスクの内径面)に対して傾いている(ころの軸が、ディスクを支持する軸に対して傾いている)と、スキュー力(アキシアル荷重)が発生する。このスキュー力により、ころ軸受の、軸方向の接触部位は摩耗の懸念がある。摩耗懸念部位として、例えばころ軸受が接触する止め輪接触部がある。止め輪の材料および熱処理は、止め輪としての機能を満足するため表面硬さに制約がある。このため、ころ軸受に対して相対的に止め輪の表面硬さが低い場合、止め輪の接触部の摩耗が発生する懸念がある。
【0018】
また、
図9に示す従来技術では、ころ軸受70の保持器72は、ディスク2のスプライン加工された段差部(スプライン部の軸方向端面)2dおよびシム73、止め輪74で軸方向に支持されている。このようなころ軸受70にスキュー力が発生すると、保持器72が段差部2dに接触する部位、ころ71が保持器72に接触する部位、保持器72がシム73に接触する部位、シム73が止め輪74に接触する部位、止め輪73が嵌合溝2eに接触する部位等の摩耗が発生する懸念がある。
【0019】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ころ軸受に発生するスキュー力による摩耗懸念部位の摩耗を抑制できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、軸と、この軸にそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ前記軸と一体的に回転可能に設けられた第1ディスクおよび前記軸に対して回転可能に設けられた第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、前記軸と前記第2ディスクとの間に設けられたころ軸受と、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記ころ軸受のコロの外径部に、樽形状の凸R形状面が形成され、
前記軸の外径面および/または前記第2ディスクの内径面に、前記凸R形状面が係合する凹R形状面が形成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、軸の外径面および/または第2ディスクの内径面に、ころの外径部に形成された凸R形状面が係合する凹R形状面が形成されているので、ころに発生するスキュー力を凹R形状面によって支持することができる。このため、円筒ころ軸受に発生するスキュー力による摩耗懸念部位の摩耗を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、円筒ころ軸受に発生するスキュー力による摩耗懸念部位の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示すもので、全体の概略を示す断面図である。
【
図3】同、(a)は
図2における要部の拡大断面図、(b)はころを変更した場合の要部の拡大断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示すもので、要部の断面図である。
【
図7】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
【
図9】従来の航空機向けのトロイダル型無段変速機の一例を示すもので、要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態のトロイダル型無段変速機は、航空機用発電機で用いられる変速機であり、航空機のエンジンからの回転数が変動する回転を一定の回転数となるように変速して発電機に出力する。
図1は第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の全体の概略を示す断面図、
図2は同要部の断面図、
図3は
図2における要部の拡大断面図である。
なお、
図7および
図8に示す従来技術では、出力側ディスク3を、軸受5を介して入力軸1によって回転可能に支持した場合を例にとって説明したが、本実施形態では、入力側ディスク2をころ軸受70を介して出力軸1Aによって回転可能に支持した場合を例にとって説明する。但し、本実施形態のトロイダル型無段変速機と従来のトロイダル型無段変速機では、入力側ディスク2と出力側ディスク3との間に挟持されるパワーローラ11、入力側ディスク2と出力側ディスク3とのうちの一方のディスク2(3)を他方のディスク3(2)に向けて押圧する押圧装置12等の他の構成は共通するので、その説明を省略する。また、
図1においてハッチングは省略している。
【0025】
本実施形態のトロイダル型無段変速機は、上述したように、航空機(の発電機)向けのダブルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機であり、一方のキャビティ内に配置された入力側ディスク(第2ディスク)2と、出力側ディスク(第1ディスク)3とが、出力軸(軸)1Aの周りに取り付けられ、他方のキャビティ内に配置された入力側ディスク(第2ディスク)2と、出力側ディスク(第1ディスク)3とが、出力軸(軸)1Aの周りに取り付けられている。
また、入力側ディスク2は、径方向中央部に断面円形状でかつ軸方向に延在する軸孔2Aを有しており、この軸孔2Aに出力軸1Aが挿通されている。軸孔2Aの一端は入力側ディスク2の小端面側(
図2において、軸方向右側)で開口し、他端は入力側ディスク2の大端面側(
図2において、軸方向左側)で開口している。
【0026】
出力側ディスク3は出力軸1Aと一体的に回転可能に設けられ、入力側ディスク2は出力軸1Aに対してころ軸受70を介して回転可能に設けられている。入力側ディスク2と出力側ディスク3との間にはパワーローラ11が設けられ、当該パワーローラ11は両ディスク2,3の間に挟持されている。
また、本実施形態では、出力側ディスク3を押圧装置12によって入力側ディスク2に向けて押圧するようになっている。
【0027】
また、
図1に示すように、一対の入力側ディスク2,2の間には、入力歯車40が設けられている。入力歯車40には、例えば、エンジンのタービンの回転軸からの回転力が歯車等を介して伝達される。
この入力歯車40は、
図2に示すように、入力側ディスク2の外側(軸方向外側)に配置された歯車部41と、この歯車部41の径方向中央部側(
図2において出力軸1A側)の右端部に設けられた円筒状のスリーブ42とを備えている。このスリーブ42は入力側ディスク2の軸孔2Aと同軸に配置され、当該スリーブ42の先端側略半分が軸孔2Aに挿入されている。なお、
図1に示すように、歯車部41の径方向中央部側の左端部には、前記スリーブ42と同様のスリーブ42が対称的に設けられており、このスリーブ42は、歯車部41の左側に配置されている他方のキャビティに設けられた入力側ディスク2の軸孔2Aに同様にして挿入されている。
【0028】
また、
図2に示すように、スリーブ42の先端部の外径面には、径方向に凹凸となる凹凸形状が周方向に沿って延在(連続)し、かつ軸方向に延在するスプライン部45aが設けられている。
一方、入力側ディスク2の軸孔2Aの前記スプライン部45aと径方向において対向する内径面には、径方向に凹凸となる凹凸形状が周方向に沿って延在(連続)し、かつ軸方向に延在する内径側スプライン部45bが設けられている。内径側スプライン部45bと前記スプライン部45aとは軸方向においてほぼ同長さとなっている。
そして、この内径側スプライン部45bとスリーブ42の外径側のスプライン部45aとがスプライン結合することによって、入力歯車40の回転が、スリーブ42を介して入力側ディスク2に伝達され、この入力側ディスク2の回転がパワーローラ11、出力側ディスク3を介して、出力軸1Aに伝達される。
【0029】
図1~
図4に示すように、前記ころ軸受70は、出力軸1Aと入力側ディスク2との間に設けられ、入力側ディスク2を回転可能に支持している。
また、ころ軸受70は、出力軸1Aと入力側ディスク2との間で転動可能な複数の樽形状のころ71と、これら複数のころ71を転動可能に保持し、かつ出力軸1Aに装着される円筒状の保持器72とを備えている。
【0030】
図4に示すように、保持器72の外周面(外径面)72aには、所定の等しい角度間隔をもって複数の保持穴72dが保持器72の径方向に開口して形成されている。各保持穴72dは、出力軸1Aと入力側ディスク2との間で転動するころ71を転動自在に保持できるようになっている。
【0031】
また、
図2に示すように、入力側ディスク2の、ころ軸受70が位置する内径面2cには、周方向に延在する嵌合溝2eが入力側ディスク2の小端面側に寄せて設けられている。嵌合溝2eには、円環板状の止め輪74の外周部が嵌め込まれ、当該止め輪74の内周部は内径面2cより径方向内方に突出している。
止め輪74ところ軸受70の保持器72の一端面(
図2において右端面)との間には円環板状のシム73が設けられている。シム73は保持器72と止め輪74との間の間隔を調整する部材であり、当該シム73は保持器72の一端面と止め輪74の端面に当接している。また、保持器72の他端面(
図2において左端面)は、入力側ディスク2の内径面2cに設けられた段差部(スプライン部の軸方向端面)2dに当接されている。このように、ころ軸受70は、段差部2dによって軸方向一方(
図2において左方)への移動が規制され、止め輪74によってシム73を介して軸方向他方(
図2において右方)への移動が規制されている。
【0032】
図3(a)に示すように、ころ71は、外径部に凸R形状面71fを有している。つまり、ころ71の外径面に、径方向外側に膨らむような樽形状に形成された凸R形状面71fが形成されている。凸R形状面71fは断面円弧状に形成されている。
また、
図3(b)に示すように、ころ71をころ81に変更してもよい。ころ81は、外径部において、軸方向両端部側に凸R形状面81f,81fを有している。当該凸R形状面81f,81fは軸方向において離間しており、軸方向中央部に設けられた直線領域81aによって滑らかに繋がれている。また、凸R形状面81fは断面円弧状に形成されている。
なお、ころ81では、断面円弧状のR形状面81fが単一の円弧によって形成されているが、R形状面を複数の円弧で形成してもよく、さらに対数関数で表される曲線で形成してもよい。
一方、
図3(a)に示すように、出力軸1Aの外径面1cには、凸R形状面71fが係合する凹R形状面1fが形成されている。凹R形状面1fは断面円弧状に形成されている。この凹R形状面1fは出力軸1Aの外径面1cに周方向に所定間隔で複数形成されている。
また、
図3(b)に示すように、ころ81に変更した場合、出力軸1Aの外径面1cには、凸R形状面81f,81fが係合する凹R形状面1f,1fと、この凹R形状面1f,1f間に形成されて、前記直線領域81aが当接する断面直線状の当接面1gが形成されている。
【0033】
また、凹R形状面1fは、凸R形状面71fに対して径方向(出力軸1Aの径方向)に対向して配置され、凹R形状面1fの曲率半径は、凸R形状面71fの曲率半径より大きくなっている。したがって、コロ71の凸R形状面71fは、出力軸1Aの凹R形状面1f内に配置され、出力軸1A側において凹R形状面1fに接している。また、凸R形状面71fは、入力側ディスク2側において、当該入力側ディスク2の内径面2cに接している。つまり、ころ71は、出力軸1Aの凹R形状面1fおよび入力側ディスク2の内径面2cに転動可能に接している。
【0034】
本実施形態では、ころ軸受70は、ラジアル荷重が発生した際に相手面(出力軸1Aの外径面1cや入力側ディスク2の内径面2c)に対して傾いている(
図3において、ころ71の軸が、出力軸1Aや入力側ディスク2の軸に対して紙面と直交する方向に傾いている)と、スキュー力(アキシアル荷重)が発生し(
図3参照)、このスキュー力により、ころ軸受70の、軸方向の接触部位は摩耗の懸念がある。しかし、出力軸1Aの外径面1cに、ころ71の外径部に形成された凸R形状面71fが係合する凹R形状面1fが形成されているので、ころ71に発生するスキュー力を凹R形状面1fによって支持することができる。このため、ころ軸受70に発生するスキュー力による摩耗懸念部位(保持器72が段差部2dに接触する部位、ころ71が保持器72に接触する部位、保持器72がシム73に接触する部位、シム73が止め輪74に接触する部位、止め輪73が嵌合溝2eに接触する部位等)の摩耗を抑制できる。
【0035】
(第2の実施形態)
図5および
図6は第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部を示す断面図である。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、ころ71に形成された凸R形状面71fの相手面となる凹R形状面を形成した部位であるので、以下ではこの点について説明し、第1の実施形態と同一構成には、同一符号を付してその説明を省略する場合もある。
【0036】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、ころ71は、外径部に凸R形状面71fを有している。
一方、第2ディスク2の内径面2cには、ころ71の凸R形状面71fが係合する凹R形状面2fが形成されている。凹R形状面2fは断面円弧状に形成されている。この凹R形状面2fは第2ディスク2の内径面2cに周方向に所定間隔で複数形成されている。
また、凹R形状面2fは、凸R形状面71fに対して径方向(出力軸1Aの径方向)に対向して配置され、凹R形状面2fの曲率半径は、凸R形状面71fの曲率半径より大きくなっている。したがって、コロ71の凸R形状面71fは、第2ディスク2の凹R形状面2f内に配置され、第2ディスク2側において凹R形状面2fに接している。また、凸R形状面71fは、出力軸1A側において、当該出力軸1Aの外径面1cに接している。つまり、ころ71は、入力側ディスク2の凹R形状面2fおよび出力軸1Aの外径面1cに転動可能に接している。
【0037】
本実施形態では、ころ軸受70は、ラジアル荷重が発生した際に相手面(出力軸1Aの外径面1cや入力側ディスク2の内径面2c)に対して傾いている(
図6において、ころ71の軸が、出力軸1Aや入力側ディスク2の軸に対して紙面と直交する方向に傾いている)と、スキュー力(アキシアル荷重)が発生し(
図6参照)、このスキュー力により、ころ軸受70の、軸方向の接触部位は摩耗の懸念がある。しかし、第2ディスク2の内径面2cに、ころ71の外径部に形成された凸R形状面71fが係合する凹R形状面2fが形成されているので、ころ71に発生するスキュー力を凹R形状面2fによって支持することができる。このため、ころ軸受70に発生するスキュー力による摩耗懸念部位(保持器72が段差部2dに接触する部位、ころ71が保持器72に接触する部位、保持器72がシム73に接触する部位、シム73が止め輪74に接触する部位、止め輪73が嵌合溝2eに接触する部位等)の摩耗を抑制できる。
【0038】
なお、第1の実施形態では、出力軸1Aの外径面1cに、ころ71の凸R形状面71fが係合する凹R形状面1fを形成し、第2の実施の形態では、第2ディスク2の内径面2cに、ころ71の凸R形状面71fが係合する凹R形状面2fを形成したが、出力軸1Aの外径面1cに凹R形状面1fを形成するとともに、第2ディスク2の内径面2cに、凹R形状面2fを形成してもよい。
【0039】
また、第1および第2の実施形態では、本発明を航空機向けのトロイダル型無段変速機を対象として説明したが、本発明はその他の用途(例えば自動車の変速機用)にも適用できる。
また、第1および第2の実施形態では本発明を、ダブルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機に適用する場合を例にとって説明したが、これに限ることなく、本発明はダブルキャビティ型のフルトロイダル型無段変速機にも適用でき、さらに、シングルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機や、シングルキャビティ型のフルトロイダル型無段変速機にも適用できる。
【0040】
さらに、第1および第2の実施形態では、出力側ディスク3を押圧装置12によって押圧する場合を例にとって説明したが、トロイダル型無段変速機では、入力側ディスクと出力側ディスクの入出力関係を逆にする場合もある。したがって、本発明は入力側ディスク2を押圧装置12によって押圧する場合にも適用できる。つまり、
図7および
図8に示すように、入力軸1と、この入力軸1にボールスプラインによってスプライン結合されて入力軸1と一体で回転する入力側ディスク2と、入力側ディスク2に対向し、かつ入力軸1に対して回転可能に設けられた出力側ディスク3とを備えたトロイダル型無段変速機にも適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1A 出力軸(軸)
1c 外径面
1f 凹R形状面
2 入力側ディスク(第2ディスク)
2c 内径面
2f 凹R形状面
3 出力側ディスク(第1ディスク)
11 パワーローラ
70 ころ軸受
71,81 ころ
71f,81f 凸R形状面
72 保持器