(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097411
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】無機系塗料組成物及び無機系塗料組成物の塗装方法
(51)【国際特許分類】
C09D 1/02 20060101AFI20240711BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240711BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240711BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240711BHJP
C04B 41/65 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C09D1/02
C09D7/65
B05D7/24 303E
B05D7/24 303A
B05D7/24 302B
B05D3/00 F
C04B41/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000842
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰士
(72)【発明者】
【氏名】都築 和貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴久
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】関 正明
【テーマコード(参考)】
4D075
4G028
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC51
4D075BB57Z
4D075BB60Z
4D075BB64Y
4D075BB77Y
4D075BB92Y
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4D075EC01
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4D075EC07
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4D075EC51
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4G028DA01
4G028DB01
4J038AA011
4J038CG142
4J038HA176
4J038HA282
4J038HA431
4J038HA451
4J038KA04
4J038MA08
4J038NA11
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】ジオポリマーを主成分とした塗料であり、それにより形成される薄い塗膜であっても、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができる無機系塗料組成物及び無機系塗料組成物の塗装方法を提供する。
【解決手段】潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーを含有した塗料であって、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%であり、潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きい無機系塗料組成物であることにより、ジオポリマーを主成分とした塗料で形成される薄い塗膜であっても、その表面の割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものとなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーとを含有した塗料であって、
その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、
固形分が30.0~80.0重量%であり、
潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、
フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、
フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きい無機系塗料組成物。
【請求項2】
さらに、酸化チタンを含み、その含有量が塗料中に0.1~10.0重量%の範囲で含まれる請求項1に記載の無機系塗料組成物。
【請求項3】
合成樹脂エマルションを添加した請求項1又は請求項2に記載の無機系塗料組成物。
【請求項4】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーを含有した塗料であって、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%であり、ジオポリマーを構成する潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、フィラー成分の粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きい無機系塗料組成物を100~3000μmの範囲で下地に対して、塗布する無機系塗料組成物の塗装方法。
【請求項5】
前記下地のpHが7~14の範囲を示す下地である請求項4に記載の無機系塗料組成物の塗装方法。
【請求項6】
前記下地がセメント又はジオポリマーにより形成されたものである請求項4又は請求項5に記載の無機系塗料組成物の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗料であり、その塗料の中でもバインダー成分にジオポリマーを用いた無機系塗料組成物及びその塗装方法に関するもので、その利用分野は、主に建築や土木分野である。
【背景技術】
【0002】
従来から建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗料として、合成樹脂エマルションなどの有機系の結合材を主成分としたものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものなどが数多く存在している。
これらの塗料により形成された塗膜は、壁面の耐久性を向上させることや意匠性向上のために用いられている。
【0003】
これらの中でも、塗装対象の面がコンクリートなどには、セメントと合成樹脂エマルションとを混合したものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものも用いられることもある。
このセメントなどの無機系の結合材を用いたものは、形成された塗膜の強度や使い勝手、入手の容易さなどにより多く用いられることがある。その中でも特開2021-1260号公報には、高炉スラグ系塗料が提案されている。
【0004】
これは、高炉スラグを含有する安定化された高炉スラグ水性懸濁液を主材の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージしてなることを特徴とする高炉スラグ系2材型塗料が記載されている。
【0005】
これにより、高炉スラグを用いた場合でもアルミナセメントの場合と同様の効果が得ることができたのであって、高炉スラグを主要成分とする液体懸濁液からなる液状の無機系素材と、その流体懸濁液を用いた高炉スラグ系2剤型もしくは1材型水性塗料を得ることができるものであった。
この水性塗料により常温で硬化し強度の高いもので、耐水性や耐候性などの各種物性の優れた塗膜を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような塗料の場合、塗膜の膜厚により、その塗膜に割れが生じることがある。これは、高炉スラグに珪酸ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体が反応した水硬反応によるものであり、その硬化反応が比較的強いからと考えられる。
本開示は、ジオポリマーを主成分とした塗料であり、それにより形成される薄い塗膜であっても、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができる無機系塗料組成物及び無機系塗料組成物の塗装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーを含有した塗料であって、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%であり、潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものである。
このことにより、ジオポリマーを主成分とした塗料で形成される薄い塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜下部への偏りが少なくなり、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものである。
【0009】
さらに、酸化チタンを含み、その含有量が塗料中に0.1~10.0重量%の範囲で含まれるものであることにより、形成される比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、比較的硬い塗膜を形成し、被覆物を保護することができるものである。
合成樹脂エマルションを添加したものであることにより、被覆物への密着性が良好なものとなる。
【0010】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーを含有した塗料であって、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%であり、ジオポリマーを構成する潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きい無機系塗料組成物を100~3000μmの範囲で下地に対して、塗布することである。
【0011】
このことにより、ジオポリマーを主成分とした塗料で、形成される100~3000μmの範囲の塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜下部への偏りが少なくなり、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものである。
【0012】
前記下地のpHが7~14の範囲を示す下地であることにより、下地となる被覆物への密着性が良好なものとなる。
前記下地がセメント又はジオポリマーにより形成されたものであることにより、下地となる被覆物への密着性がより良好なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とし、フィラーを含有した塗料であって、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%であり、ジオポリマーを構成する潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%であり、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものである。
【0014】
まず、ジオポリマーとは、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるものであり、その潜在水硬性物質には、代表的なものとして高炉スラグが挙げられる。
この潜在水硬性物質は、アルカリ溶液などのアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され、硬化するものである。
【0015】
これは、アルカリ水溶液に可溶な潜在水硬性物質がアルカリ化合物により、その表面を不安定にし、そのアルカリ刺激剤の水分がなくなるにつれて、活性フィラー同士が近づきそれぞれが結合するものである。
この高炉スラグは、鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、銑鉄を製造する溶鉱炉から銑鉄と共に約1500℃の溶融状態で取り出された後、比重差により分離された脈石分で、冷却固化の方法により、徐冷スラグと水砕スラグがある。
【0016】
この潜在水硬性物質の粒子径は、1~50μmの範囲で、微粉末のもので、反応性が高いため、硬化性が良好で、塗膜を形成し易く、初期の耐水性が良好なものとなる。又、色が白いため、塗膜の隠蔽性を高め、塗料の着色を行い易いものとなる。
その組成は、CaO,SiO2,Al2O3を主成分としており、セメントに似た化学成分を有しているものである。
【0017】
この潜在水硬性物質は、無機系塗料組成物中に10~40重量%含有したものであり、40重量%より多い場合では、塗膜の結合力が強くなり、塗膜に割れが生じることが多くなり、10重量%より少ない場合では、塗膜の強度や下地への密着が悪くなることが多い。
また、潜在水硬性物質の含有量が10~35重量%の範囲内であれば、塗膜強度や下地への密着性が良好で、塗膜の割れが生じ難いものとなる。更に含有量が15~30重量%の範囲内であれば、塗膜の割れと強度及び密着性の釣り合いの取れたものとなる。
【0018】
アルカリ化合物は、前記潜在水硬性物質が可溶で、その表面を不安定にすることができるものであれば良く、水など揮発成分に溶けているものであれば良い。
このアルカリ化合物は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,メタケイ酸ナトリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことでpHが7~14のアルカリ水溶液を得られる。
【0019】
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液であっても良く、好ましく用いられる。
これら水溶液や分散液を用いることで、高炉スラグと反応し、無機系塗料組成物により形成される塗膜に強度を持たせ、下地との密着性が良好なものとなる。これらのアルカリ刺激剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0020】
コロイダルシリカは、非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散された状態のものであり、水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液で、ケイ酸ナトリウムを水に溶かして加熱することで得られる高い粘性を持つものである。
リチウムシリケートは、アルカリ珪酸塩の一種で、有機系バインダーと比べて耐熱性に優れもので、アルミナゾルは、水を分散媒とした、アルミナ水和物のコロイド溶液である。
【0021】
これらの水溶液や分散液の中でも、シリカ微細粒子の水分散液であるコロイダルシリカが好ましく用いられる。
このコロイダルシリカは、取り扱いの容易さや表面強度を上げることができ、下地との密着性が良好であり、塗膜を親水性にすることができ、良好な親水性の塗膜を形成することから雨だれ汚れなどの汚れが付き難くるために好ましく用いられる。
【0022】
このシリカ溶液中に分散されるシリカ微粒子の平均粒子径は、好ましくは4~100nmであり、より好ましくは6~50nmであり、最も好ましくは10~20nmである。
この範囲にあるとき、親水性を調整することが容易であり、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。
【0023】
シリカ微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合には、シリカ微粒子間の結合力が強すぎて、塗膜に収縮クラックが発生するおそれがある。逆に、100nmを超える場合には、シリカ微粒子間の結合力が弱く、塗膜の強度が弱い場合がある。
前記シリカ微粒子の粒子形状としては球状、パールネックレス状、針状、棒状などがあり、球状であることが好ましく用いられ、これは、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、塗材による塗膜の強度を向上させることができる。
【0024】
フィラーには、無機系塗料組成物による塗膜の硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和させ、乾燥収縮を低減させるためのものである。
そのため、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものである必要がある。
【0025】
このフィラーには、亜鉛華,カオリン,タルク,クレー,炭酸カルシウム,珪藻土,ベントナイト,ホワイトカーボン,ガラスビーズ,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムや珪砂などのフィラーがある。
これらフィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものである。これにより塗膜硬化時にフィラーが潜在水硬性物質同士の間に入り易く、干渉し易くなり、硬化反応に発生する応力を緩和させるためのものである。
【0026】
より好ましくは、フィラーの粒子径が5~1000μmの範囲であり、この範囲内であれば、よりその効果が良好なものとなり、塗膜の割れが少ないものとなる。
本開示の無機系塗料組成物は、上記記載の潜在水硬性物質とアルカリ化合物とフィラーにより構成されるものであり、その塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に1000~100000mPa・sの範囲であり、固形分が30.0~80.0重量%である。
【0027】
この塗料粘度が1000mPa・sより低い場合では、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑えられないことがあり、100000mPa・sより高い場合では、比較的薄く均一な塗膜を形成させることができず、この範囲外では、良好な塗膜を形成させることが難しい。
また、ビスコテスタにより測定した場合は、5~300dPa・sの範囲である。ビスコテスタはB型粘度計より簡易的に測定できる粘度計であり、現場で容易に管理することができる。
【0028】
B型粘度計で測定した値とビスコテスタで測定した値には完全には相関があるものではないが、ビスコテスタの5~300dPa・sの範囲は、B型粘度計の1000~100000mPa・sの範囲の中に入る値であり、好ましい範囲である。
ジオポリマーは、潜在水硬性とアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され硬化するものであり、ジオポリマーを主成分とした塗料によっては粘度が変化してしまうことがある。
【0029】
ビスコテスタは、塗装現場でも容易に粘度を測定することができるため、塗装直前に測定することで、より安定的に塗装作業を行うことができる。
そして、安定的に塗装作業を行うことができることで、本開示のジオポリマーを主成分とした塗料より形成される塗膜は、表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護できる塗膜となる。
【0030】
この無機系塗料組成物の固形分は、30.0~80.0重量%であり、その塗料による塗膜の表面に割れの発生が少なくなる。
この固形分が30.0重量%より少ない場合では、十分な成膜ができず、塗膜表面に割れが生じることがあり、80.0重量%より高い場合では、塗料を構成する粒子間に空隙ができ、塗膜表面に割れが生じることがある。
【0031】
さらに、酸化チタンを含有させることが好ましく、酸化チタンの粒子が、比較的硬く、その形状が球形に近いため、形成される比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、比較的硬い塗膜を形成し、被覆物を保護することができるものである。
この含有量が塗料中に0.1~10.0重量%の範囲であることが好ましく、この範囲内であれば、比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、硬い塗膜を形成することができる。
【0032】
さらに、この無機系塗料組成物には、合成樹脂エマルションを添加することが好ましく行われ、下地である被覆物への密着性が良好で、塗膜に適度な柔らかさを与えることができ、塗膜表面の割れをより少なくすることができるものとなる。
この合成樹脂エマルションの添加量は、その合成樹脂の種類にもよるが、無機系塗料組成物の固形分に対して、合成樹脂エマルションの固形分量で、1~50重量%の範囲が好ましい。
【0033】
この範囲内であれば、塗膜の硬化に影響を与えることなく、形成された塗膜に適度な柔らかさを持たせることができる。
この合成樹脂エマルションは、通常の塗料や塗材の配合に用いられるものでよく、アルカリ化合物と良好に混和できるものであればよい。
【0034】
この合成樹脂エマルションは、合成樹脂を水に分散させたものであり、その合成樹脂には、アクリル樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂などを単独又は共重合したものが挙げられる。
この合成樹脂エマルションは、乳化重合のような通常の重合技術で製造できる一般的なもので、前記記載の合成樹脂などより製造された合成樹脂エマルションなどがある。
【0035】
また、この無機系塗料組成物には、セメントなどの水硬性結合材や消石灰などの気硬性結合材、フライアッシュやシリカヒュームなどのポゾラン反応成分も加えることも可能である。これらを加えることで、無機系塗料組成物による塗膜の強度をより向上させることが可能となる。
また、この無機系塗料組成物には、一般的な塗料に用いられる消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤、粘度,粘性調整のための増粘剤やレベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0036】
また、着色顔料も添加させることも可能であり、場合によっては、造膜助剤,防凍剤などとして用いられる高沸点溶剤も添加することができる。
さらに、撥水剤や親水化剤、光触媒、紫外線防止剤などのように塗膜の性能を付与させる添加剤を加えることも可能であり、好ましく使用されることがある。
【0037】
この着色顔料としては、無機,有機系顔料及びその両方を用いられ、酸化チタン,カーボンブラック,オキサイドイエロー,弁柄,シアニンブルー,シアニングリーンなど一般的な塗料の着色に使用することができるものである。
また、繊維を加えることが好ましく行われ、この繊維を加えることで、無機系塗料組成物を塗布した後の急激な乾燥を緩和せることができ、塗膜のアルカリ湿潤状態を長くすることが可能になり、反応硬化をゆっくり進行させることができることで、より塗膜強度が向上するものである。
【0038】
また、塗膜の収縮を抑えることができ、塗膜の割れを低減させることもできる。この繊維には、パルプや綿など天然繊維やガラス繊維、鉱物繊維などがある。
上記記載のようなものにより構成される無機系塗料組成物は、下地である被覆物に対して、塗布され、乾燥硬化した後に塗膜を形成するものであり、その塗膜の膜厚が100~3000μmの範囲であることが好ましい。
【0039】
このことにより、この範囲の塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜下部への偏りが少なく、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なくすることができる。
この下地である被覆物には、建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等の種々の下地に塗布することが可能である。
【0040】
これら下地のpHが7~14の範囲を示す下地である場合が好ましいものとなる。これは、ジオポリマーを主成分とした無機系塗料組成物の場合、下地のpHが7~14の範囲内であれば、その下地との界面との反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
このpHが7~14の範囲を示す下地には、セメントを主成分としたコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,スレートなどがある。好ましくは、pHが8以上である。
【0041】
また、これらの下地の中でもセメント又はジオポリマーにより形成されたものであることが好ましく、成分的に類似したジオポリマーを主成分とした無機系塗料組成物であるため、下地となる被覆物への密着性がより良好なものとなる。
さらに、下地にアルカリ付与剤を塗布し、下地のpHを7~14の範囲に調整した後に、ジオポリマーを主成分とした無機系塗料組成物を塗布することも可能であり、好ましく行われる。
【0042】
より好ましくは、下地のpHを8以上にすることである。このような方法は、下地のpHが6以下の場合に行われることが多い。
このようにすることで、塗布したアルカリ付与剤により下地との界面の反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【0043】
このアルカリ付与剤には、前記記載のアルカリ化合物と同様で、水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことにより得られる。
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液であっても良く、好ましく用いられる。
【0044】
さらに、コンクリートの防錆目的で使用されるような亜硝酸系の亜硝酸カルシウムや亜硝酸リチウムなどの溶液も好ましく用いられる。
無機系塗料組成物を100~3000μmの範囲で下地に対して、塗布することで、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜下部への偏りが少なくすることができる。
【0045】
また、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なくすることができる。
この塗膜の厚みが100μmより薄い場合では、下地を十分に被覆することができないことがあり、被覆物を保護しきれないことがある。
【0046】
3000μmより厚い場合は、塗膜の重量が多くなり、垂直面での効率的な塗布作業が行うことが難しく、硬化乾燥過程で、塗料の垂れなどが発生し、きれいな塗膜を得ることができないことがある。塗膜の厚みムラが多くなり、塗膜の厚み差による割れが発生することがある。
好ましい膜厚としては、200~1000μmの範囲であり、この範囲内であれば、この塗料により形成される塗膜の性能を十分に発揮し、その表面に割れの発生が少なくすることができる。
【0047】
この無機系塗料組成物の塗布には、スプレー,塗装用ローラーや刷毛など一般的に塗装工事で用いられる塗装器具により塗装することができる。
また、塗装済み外壁板など板材に前もって工場などで塗装機械を用いて行うライン塗装の場合では、レシプロタイプのスプレー,ロールコーターやカーテンフローコータなどにより塗装を行うこともできる。
【0048】
このように無機系塗料組成物により塗膜を形成させた後に、その表面に更に、アルカリ付与剤を塗布することが好ましい。
塗膜にアルカリ付与剤を塗布することで、塗膜の乾燥を緩やかにし、硬化が進むことになり、そのため塗膜表面が緻密になり、強度や硬度も上がることになる。そのため塗膜表面の耐摩耗性も向上することになり、耐久性の優れたものとなる。
【0049】
また、アルカリ付与剤が非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散されたコロイダルシリカの場合では、塗膜表面にコロイダルシリカの粒子が点在することになり、そのため塗膜表面が親水性の状態となり、塗膜表面に汚れが付き難いものとなり、付着した汚れも落とし易いものとなる。
【0050】
上記のように構成される無機系塗料組成物及びその塗装方法を、より具体的な実施形態を用いて説明する。
表1に示す原材料を、均一に撹拌して無機系塗料組成物を作製した。潜在水硬性物質として、粒子径が5μmの高炉スラグを使用した。
【0051】
フィラーとして、粒子径が150μmの珪砂、平均粒子径が5.5μmの炭酸カルシウムA、平均粒子径が1.1μmの炭酸カルシウムBを使用した。なお、粒子径はレーザー回折法で測定した体積基準の粒度分布から算出されるD50値である。
アルカリ化合物として、水酸化カリウムを使用した。合成樹脂エマルションとして、固形分50%のアクリル樹脂エマルションを使用した。
【0052】
【0053】
作製した無機系塗料組成物の粘度、塗膜の外観、密着性の結果を表2に示した。粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製)とビスコテスター(リオン株式会社製)を用いて測定した。なお、B型粘度計は6号ローターを使用して20rpmで、ビスコテスタは2号ローターを使用して、23℃で測定した。
塗膜の外観は、コンクリート板に1mm厚で塗り付け、23℃で風速3mの風を3時間当てた後の状態を目視で観察した。
密着性の確認は、JIS A6909 7.10付着強さ試験に準拠した。ただし、試験体は、JIS A5371に規定されるコンクリート平板に1mm厚で作製し、上部引張り用鋼製ジグを貼付け、ジグの周り4辺に基板に達するまで切込みを入れた後、引張試験機を用いて確認した。
【0054】
【0055】
比較例1は、無機系塗料組成物の固形分量と、潜在水硬性物質の量が多かったためか、塗膜がひび割れた。比較例2は、潜在水硬性物質の量が多かったためか、塗膜が僅かにひび割れた。
比較例3は、添加したフィラーの粒子径が小さかったためか、塗膜がひび割れ、付着強度も低かった。
【0056】
次に、セメントモルタル板、ジオポリマーモルタル板、セメントモルタル板にアクリル樹脂塗料を塗布した基材に、実施例2の配合の無機系塗料組成物を塗布して、密着性を確認した。密着性は上記と同様にJIS A6909 7.10付着強さ試験に準拠して確認した。
表3に確認結果を示した。
【0057】
【0058】
ジオポリマーモルタル板に実施例2の配合の無機系塗料組成物を塗布した試験体は、成分的に類似したもののため界面との反応硬化が進んだためか、密着性が良く付着強度も高い値となった。