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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097484
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】モーターユニット
(51)【国際特許分類】
   B25J 17/00 20060101AFI20240711BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240711BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B25J17/00 E
H02K7/116
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000967
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】本沢 岳人
【テーマコード(参考)】
3C707
3J027
5H607
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707AS06
3C707AS14
3C707BS15
3C707CT05
3C707CV07
3C707CW03
3C707CW07
3C707CX01
3C707CX03
3C707CY01
3C707CY35
3C707HS27
3C707HT17
3C707HT26
3C707KV01
3C707KX10
3C707MT03
3J027FA17
3J027FA25
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC07
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J027GE27
5H607AA12
5H607BB01
5H607CC03
5H607EE31
(57)【要約】
【課題】汎用性に優れ、組立が容易なモーターユニットを提供すること。
【解決手段】回転軸と前記回転軸を収納するケースを有するモーターと、剛性歯車と、剛体歯車の内側に配置され、可撓性を有する可撓性歯車と、可撓性歯車の内側に配置され、回転軸に固定される波動発生器と、を有する減速機と、回転軸を挿通する挿通孔を有し、モーターと減速機とを固定するアダプターと、を備え、ケースは、アダプターが取り付けられるフランジ部と、フランジ部の外径より小さく、可撓性歯車の内径よりも大きい第1の外径を有する第1段差部と、第1の外径より小さい第2の外径を有する第2段差部と、を有しアダプターは、挿通孔が第1段差部または第2段差部と嵌合していることを特徴とするモーターユニット。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と前記回転軸を収納するケースを有するモーターと、
剛性歯車と、前記剛体歯車の内側に配置され、可撓性を有する可撓性歯車と、前記可撓性歯車の内側に配置され、前記回転軸に固定される波動発生器と、を有する減速機と、
前記回転軸を挿通する挿通孔を有し、前記モーターと前記減速機とを固定するアダプターと、を備え、
前記ケースは、前記アダプターが取り付けられるフランジ部と、
前記フランジ部の外径より小さく、前記可撓性歯車の内径よりも大きい第1の外径を有する第1段差部と、
前記第1の外径より小さい第2の外径を有する第2段差部と、を有し、
前記アダプターは、前記挿通孔が前記第1段差部または前記第2段差部と嵌合していることを特徴とするモーターユニット。
【請求項2】
前記第1段差部は、外周に沿って形成され、第1シール部材が設置される第1凹部を有し、
前記第2段差部は、外周に沿って形成され、第2シール部材が設置される第2凹部を有する請求項1に記載のモーターユニット。
【請求項3】
前記回転軸の一端部は、ケースの外部に突出しており、
前記フランジ部、前記第1段差部および前記第2段差部は、前記回転軸の一端部の突出方向に沿ってこの順に配置されている請求項1または2に記載のモーターユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているロボットは、複数のアームと、隣接するアーム同士を回転可能に接続する関節部とを備えるロボットアームを有し、このロボットアームを所望の姿勢となるように駆動してワークに対し作業を行う。このロボットアームの各関節部には、アームを回転駆動するための駆動部として、モーターユニットが設置されている。モーターユニットは、モーターと、モーターの回転速度を減速する減速機と、モーターおよび減速機を固定する固定フレームと、を有する。
【0003】
また、各関節部において、減速比に応じて異なる大きさの減速機を用いることがある。この場合、減速機の大きさに応じて、それに対応する大きさの固定フレームを用意し、モーターと、減速機と、固定フレームとを組み立てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2018/055752
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているモーターユニットでは、モーターは、大きさの異なる減速機、大きさの異なる固定フレームに対応していない。このため、1つのモーターに大きさの異なる減速機、大きさの異なる固定フレームを取り付けるのは困難であった。
【0006】
本発明のモーターユニットは、回転軸と前記回転軸を収納するケースを有するモーターと、
剛性歯車と、前記剛体歯車の内側に配置され、可撓性を有する可撓性歯車と、前記可撓性歯車の内側に配置され、前記回転軸に固定される波動発生器と、を有する減速機と、
前記回転軸を挿通する挿通孔を有し、前記モーターと前記減速機とを固定するアダプターと、を備え、
前記ケースは、前記アダプターが取り付けられるフランジ部と、
前記フランジ部の外径より小さく、前記可撓性歯車の内径よりも大きい第1の外径を有する第1段差部と、
前記第1の外径より小さい第2の外径を有する第2段差部と、を有し
前記アダプターは、前記挿通孔が前記第1段差部または前記第2段差部と嵌合していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るモーターユニットを有するロボットおよび該ロボットを備えるロボットシステムの概略構成図である。
図2図1に示すモーターユニットの斜視図である。
図3図2中A-A線断面図である。
図4図2中B-B線断面図である。
図5図3中C-C線断面図である。
図6図1に示すモーターユニットにおいて、減速機およびアダプターをモーターに取り付ける前の部分断面図である。
図7図1に示すモーターユニットにおいて、各部を組み立てている状態を示す図である。
図8図1に示すモーターユニットにおいて、各部を組み立てている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のモーターユニットを添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、単に「減速機16」と言うときは、「減速機16A」および「減速機16B」を含む減速機の総称を言う。また、単に「アダプター15」と言うときは、「アダプター15A」および「アダプター15B」を含むアダプターの総称を言う。
【0009】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係るモーターユニットを有するロボットおよび該ロボットを備えるロボットシステムの概略構成図である。図2は、図1に示すモーターユニットの斜視図である。図3は、図2中A-A線断面図である。図4は、図2中B-B線断面図である。図5は、図3中C-C線断面図である。図6は、図1に示すモーターユニットにおいて、減速機およびアダプターをモーターに取り付ける前の部分断面図である。図7は、図1に示すモーターユニットにおいて、各部を組み立てている状態を示す図である。図8は、図1に示すモーターユニットにおいて、各部を組み立てている状態を示す図である。
【0010】
なお、図1図3図4図6図8中の上下方向は、鉛直方向と一致しており、図1図3図4図6図8中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。ロボットアーム72、第1アーム73および第2アーム74については、図1中の右側を「基端部」、左側を「先端部」と言う。
【0011】
また、本明細書において、「鉛直」とは、鉛直と一致している場合のみならず、鉛直に対して若干、例えば±10°以内傾斜している場合も含む意味である。また、本明細書において、「平行」とは、2つの対象が平行と一致している場合のみならず、平行から若干、例えば±10°以内傾斜している場合も含む意味である。
【0012】
図1に示すロボットシステム1は、本発明のモーターユニットの一例であるモーターユニット4およびモーターユニット6を備えるロボット7と、ロボット7の各部の駆動を制御するロボット制御装置9と、を有している。モーターユニット4およびモーターユニット6の各々が本発明のモーターユニットである。
【0013】
本実施形態におけるロボット7は、スカラロボットであり、例えば、電子部品等のワークの保持、搬送、組立および検査等の各作業で用いられる。ただし、ロボット7の用途は、特に限定されない。また、ロボット7は、スカラロボット以外、例えば、6軸多関節ロボット、双腕ロボット等であってもよい。
【0014】
図1に示すように、ロボット7は、基台71と、基台71に対し回転可能に接続されているロボットアーム72と、を有している。また、ロボットアーム72は、基端部が基台71に接続され、基台71に対して鉛直方向に沿う第1回転軸J1まわりに回転する第1アーム73と、基端部が第1アーム73の先端部に接続され、第1アーム73に対して鉛直方向に沿う第2回転軸J2まわりに回転する第2アーム74と、を有している。
【0015】
第2アーム74の先端部には作業ヘッド75が設けられている。作業ヘッド75は、第2アーム74の先端部に同軸的に配置されているスプラインナット751およびボールネジナット752と、スプラインナット751およびボールネジナット752に挿通されているスプラインシャフト753と、を有している。スプラインシャフト753は、第2アーム74に対して、その中心軸であり鉛直方向に沿う第3回転軸J3まわりに回転可能であり、かつ第3回転軸J3に沿う方向に昇降可能である。
【0016】
スプラインシャフト753の下端部には、エンドエフェクター76が装着されている。エンドエフェクター76は、スプラインシャフト753に対し着脱自在であり、目的の作業に適したものが適宜選択される。
【0017】
ロボット7は、基台71と第1アーム73とを回転可能に接続する第1関節部4Kを有し、この第1関節部4Kには、基台71に対して第1アーム73を第1回転軸J1まわりに回転させるモーターユニット4が設置されている。
【0018】
また、ロボット7は、第1アーム73と第2アーム74とを回転可能に接続する第2関節部6Kを有し、この第2関節部6Kには、第1アーム73に対して第2アーム74を第2回転軸J2まわりに回転させるモーターユニット6が設置されている。
【0019】
また、ロボット7は、スプラインナット751を回転させてスプラインシャフト753を第3回転軸J3まわりに回転させる第1駆動機構791と、ボールネジナット752を回転させてスプラインシャフト753を第3回転軸J3に沿った方向に昇降させる第2駆動機構792とを有する。第2駆動機構792は、第1駆動機構791の下部に設置されている。
【0020】
モーターユニット6は、モーターユニット4よりも先端部側に位置し、スプラインナット751、ボールネジナット752、スプラインシャフト753、第1駆動機構791および第2駆動機構792は、モーターユニット6よりも先端部側に位置している。
【0021】
次に、モーターユニット4およびモーターユニット6について説明するが、これらは設置向き、減速機16およびアダプター15の大きさが異なること以外はほぼ同じ構成であるため、モーターユニット4について代表的に説明する。
【0022】
図1図4に示すように、モーターユニット4は、モーター14と、アダプター15と、減速機16とを備え、第1アーム73に対しモーター14が図1中最も下側に位置するような姿勢で第1アーム73に対し設定されている。一方、モーターユニット6は、第2アーム74に対し、モーターユニット4と上下方向が逆の姿勢、すなわちモーター14が図1中最も上側に位置するような姿勢で第2アーム74に対し設定されている。モーターユニット4において、モーター14および減速機16は、アダプター15を介して固定されている。
【0023】
モーター14は、基台71に対して第1アーム73を回転させる駆動力を発生する。モーター14としては、特に限定されないが、例えば、ACサーボモーター、DCサーボモーター等のサーボモーターが好ましい。
【0024】
モーター14は、ステーター2と、ステーター2の内側で回転するローター3と、ステーター2およびローター3を収納するケース5と、ベアリング18および19と、回転検出器22とを備える。ステーター2は、ケース5の内周に沿って配置され、例えば三相巻線のような巻線を有している。ステーター2は、巻線への通電、例えば三相交流の通電により磁界を発生させる。ステーター2が備える各巻線への通電パターン、通電タイミング、通電量等は、ロボット制御装置9により制御される。
【0025】
ローター3は、回転軸17と、回転軸17の外周面に所定の配置で固定された永久磁石8とを有する。ローター3は、ステーター2の巻線への通電により生じた磁界と永久磁石8の磁力とにより、回転軸17と共に第1回転軸J1上の軸線aまわりに所定方向に回転する。
【0026】
ケース5は、下部の第1ケース20と、上部の第2ケース21とを有し、これらが接合されたものである。これにより、モーター14の組み立てに際し、ケース5内へのステーター2およびローター3の収納が容易に可能となる。ただし、この構成に限定されず、第1ケース20と第2ケース21とは、一体的に形成されたものであってもよい。
【0027】
ベアリング18およびベアリング19は、それぞれ、内輪と外輪とを有する転がり軸受である。回転軸17の上端部および下端部は、それぞれ、ベアリング18の内輪およびベアリング19の内輪に締まり嵌め等の方法で固定されている。ベアリング18の外輪は、第2ケース21上部の内周部に嵌合され固定されている。ベアリング19の外輪は、第1ケース20の内周部に嵌合され固定されている。これにより、回転軸17は、ベアリング18およびベアリング19を介して、ケース5に支持され、ケース5に対し、第1回転軸J1上の軸線aまわりに回転する。
【0028】
回転検出器22は、回転軸17と共に回転する回転子221を有し、回転子221の回転速度を光学的、電気的または磁気的に検出するロータリーエンコーダーで構成されている。この回転検出器22により、回転軸17の回転状態、特に回転方向および回転速度を検出することができる。
【0029】
回転軸17は、その下端部すなわちベアリング19側の端部bが、回転検出器22の回転子221に連結され、回転軸17の回転に伴って回転子221が回転する。回転検出器22で得られた検出値、すなわち回転軸17の回転方向および回転速度に関する情報は、ロボット制御装置9へ送信され、信号処理がなされ、ロボットアーム72の駆動の制御に用いられる。
【0030】
回転軸17は、その上端部すなわちベアリング18側の端部cが、ケース5外に露出し、上方へ向かって突出している。回転軸17は、端部cで減速機16の波動発生器25と連結し、モーター14の駆動力、すなわちローター3の回転力を減速機16に伝達する。この端部cがモーター14の出力軸である。端部bの径および端部cの径は、ぞれぞれ、回転軸17の永久磁石8を固定した部分の径に比べ、小さい。
【0031】
減速機16は、通称、波動歯車減速機と呼ばれる波動歯車機構による減速機であり、回転軸17より入力された駆動力の回転速度を減速して出力する。出力側では、減速比に比例したトルクを得ることができる。
【0032】
図3図5に示すように、減速機16は、内歯歯車としての剛性歯車23と、剛性歯車23の内側に設けられ、可撓性を有する外歯歯車としての可撓性歯車24と、可撓性歯車24の内側に設けられた波動発生器25と、を備える。
【0033】
剛性歯車23は、軸線aの径方向に実質的に撓まない剛体で構成された歯車であって、内歯29を備えるリング状の内歯歯車である。本実施形態では、剛性歯車23は、平歯車である。すなわち、内歯29は、軸線aに対して平行な歯スジを備える。なお、内歯29の歯スジは、軸線aに対して傾斜していてもよい。すなわち、剛性歯車23は、ハスバ歯車またはヤマバ歯車であってもよい。剛性歯車23は、下端部がアダプター15の凹部151に挿入され、固定される。
【0034】
可撓性歯車24は、筒状部31を有し、該筒状部31は、剛性歯車23の内側に挿通されている。可撓性歯車24は、その筒状部31が軸線aの径方向に撓み変形可能な可撓性を有しており、剛性歯車23の内歯29に噛み合う外歯30を備える外歯歯車である。また、可撓性歯車24の外歯30の歯数は、剛性歯車23の内歯29の歯数よりも少ない。
【0035】
可撓性歯車24は、筒状部31に加え、筒状部31の上端から軸線aの径方向外側に伸びる鍔部32を備え、全体形状がいわゆるシルクハット型の形状をなしている。外歯30は、筒状部31の上端部において、軸線aの径方向外側に形成されている。
【0036】
本実施形態では、可撓性歯車24は、シルクハット型の形状であるが、これに限定されず、例えば筒状部31の上端がカップの底のような形状に閉じられた、いわゆるカップ型の形状でもよい。
【0037】
波動発生器25は、波動発生部33と、固定部35と、を備える。
波動発生部33は、本体部38と、本体部38の外周に装着されているベアリング39と、を備える。
【0038】
図5に示すように、本体部38は、軸線aの軸方向から見たときに、外周が楕円形または長円形をなしている。
【0039】
ベアリング39は、可撓性を有する内輪40および外輪41と、これらの間に配置されている複数のボール42と、を備える転がり軸受である。内輪40は、本体部38の外周に嵌め込まれ、本体部38の外周面に沿って楕円形または長円形に弾性変形する。この内輪40の弾性変形に伴って、外輪41も楕円形または長円形に弾性変形する。また、内輪40の外周面および外輪41の内周面は、それぞれ、複数のボール42を周方向に沿って案内させつつ転動させる軌道面となっている。また、複数のボール42は、互いの周方向での間隔を一定に保つように図示しない保持器により保持されている。
【0040】
図3および図4に示すように、固定部35は、例えば、ネジまたはボルトで構成され、波動発生部33の本体部38と、回転軸17の端部cとを、軸線aの径方向から固定している。
【0041】
図3および図5に示すように、波動発生器25は、可撓性歯車24の内側に挿通され、軸線aまわりに回転可能である。そして、波動発生部33は、可撓性歯車24の筒状部31の内周面に接し、筒状部31を、長軸Laおよび短軸Lbとする楕円形または長円形に撓めて外歯30を剛性歯車23の内歯29に部分的に噛み合わせる。ここで、可撓性歯車24および剛性歯車23は、軸線aまわりに回転可能に互いに内外で噛み合う。
【0042】
減速機16の各部、特に可撓性歯車24と剛性歯車23との間の空間には、潤滑油等の潤滑剤Gが充填されており、円滑で安定した回転力の伝達に寄与している。
【0043】
このような減速機16において、波動発生器25に、前述したモーター14からの駆動力が入力されると、剛性歯車23および可撓性歯車24は、互いの噛み合い位置が周方向に移動しながら、内歯29と外歯30との歯数差に起因して軸線aまわりに相対的に回転する。これにより、駆動源であるモーター14の回転軸17から波動発生器25に入力された駆動力の回転が減速され、可撓性歯車24から出力される。そして、出力側では、減速比に比例したトルクを得ることができる。すなわち、波動発生器25を入力側、可撓性歯車24を出力側とする減速機16を実現することができる。また、可撓性歯車24は、ネジまたはボルト等の固定部材300の螺合により、鍔部32が第1アーム73に固定されている。これにより、基台71に対し第1アーム73を回転させることができる。
【0044】
アダプター15は、モーター14と減速機16とを固定するための部材である。モーター14と減速機16とがアダプター15を介して固定されている状態で、アダプター15は、基台71に固定される。アダプター15は、図3および図4中上下方向を厚さ方向とする板状の部材で構成され、上面150U側に減速機16が固定され、下面150D側にモーター14が固定される。
【0045】
図3および図4に示すように、アダプター15は、挿通孔150と、凹部151と、固定孔152と、固定孔153と、固定孔154と、突出部155と、を有する。挿通孔150、固定孔152および固定孔153は、アダプター15の厚さ方向に貫通する貫通孔で構成されている。固定孔154は、下方に開放する有底の凹部で構成される。
【0046】
アダプター15は、中心部に挿通孔150を有するため、その全体形状は、軸線a方向から見て円環状をなしている。
【0047】
挿通孔150は、軸a方向から見て円形であり、回転軸17の端部cを挿通している。図6に示すように、挿通孔150の内径d150Aは、図示の構成では、後述する第1段差部51の外径D51と略同じである。これにより、挿通孔150は、第1段差部51と嵌合する。
【0048】
凹部151は、上面150Uのうち、内周側、すなわち挿通孔150の周囲に形成されている。凹部151には、減速機16の剛性歯車23の下端部が嵌合している。また、下面150Dのうち、挿通孔150の周囲には、下側に向かって突出する突出部155が形成されている。凹部151および突出部155は、それぞれ、軸a方向から見て円環状をなしている。
【0049】
図3に示すように、固定孔152は、凹部151および突出部155に対応する位置に、周方向に沿って複数形成されている。固定孔152には、下面150D側からネジまたはボルト等の固定部材301が挿入される。挿入されたボルトの先端は、剛性歯車23に螺合により固定される。これにより、アダプター15を減速機16に固定することができる。
【0050】
固定孔152の形成個数は、本実施形態では、4つである。ただし、本発明ではこれに限定されず、固定孔152の形成個数は、1~3つ、または、5つ以上であってもよい。
【0051】
固定孔153は、アダプター15の外縁部付近に、周方向に沿って複数形成されている。基台71には、その上面に開放する固定孔711が形成されており、アダプター15は、軸a方向から見て固定孔153を固定孔711と一致させた位置で基台71に対し固定される。すなわち、軸a方向から見て一致した位置にある固定孔153および固定孔711に対し、上面150U側から図示しないボルトを一括して挿入する。挿入されたボルトの下端部は、基台71の固定孔711に螺合され、固定される。これにより、アダプター15を基台71に固定することができる。
【0052】
固定孔153の形成個数は、本実施形態では、4つである。ただし、本発明ではこれに限定されず、固定孔153の形成個数は、1~3つ、または、5つ以上であってもよい。
【0053】
図4に示すように、固定孔154は、アダプター15の下面150Dに開放する有底の凹部で構成される。固定孔154は、突出部155に、周方向に沿って複数形成されている。固定孔154には、下面150D側に向かってモーター14のフランジ部50を介してネジまたはボルト等の固定部材302が挿入され、螺合される。これにより、モーター14とアダプター15とを固定することができ、モーター14は、アダプター15を介して基台71に固定される。
【0054】
固定孔154の形成個数は、本実施形態では、4つである。ただし、本発明ではこれに限定されず、固定孔154の形成個数は、1~3つ、または、5つ以上であってもよい。
【0055】
図3図4および図6に示すように、モーター14のケース5は、フランジ部50と、第1段差部51と、第2段差部52とを有する。これらは軸線aを中心として同心的に形成されており、フランジ部50、第1段差部51および第2段差部52の順に、回転軸17の端部b側から端部c側に向かって、すなわち端部cの突出方向に沿って並んでいる。そして、フランジ部50、第1段差部51および第2段差部52は、この順にそれらの外径が段階的に小さくなっている。
【0056】
フランジ部50は、ケース5にアダプター15を取り付ける部分である。フランジ部50は、ケース5の各部のうち、最も外径が大きくなっている部分である。
【0057】
フランジ部50は、ケース5の外周に沿って外方へ突出する鍔状をなし、上面50Uを有する。フランジ部50は、厚さ方向、すなわち図4中上下方向に貫通する複数の固定孔501を有している。図4に示すように、固定孔501は、軸a方向から見てアダプター15の固定孔154と一致し、両固定孔501、154同士は連通している。軸a方向から見て一致した位置にある固定孔501および固定孔154に対し、固定部材302を下方より一括して挿入する。挿入された固定部材302の上端部は、固定孔154に螺合され、固定される。これにより、アダプター15の下面150Dがフランジ部50の上面50Uに圧着され、アダプター15がモーター14に取り付けられる。
【0058】
図6に示すように、第1段差部51は、第1の外径D51を有する。第1の外径D51は、フランジ部50の外径D50より小さく、可撓性歯車24の内径d24よりも大きい。第1段差部51は、フランジ部50の上部に設けられており、外周面51Rと上面51Uとを有する。外周面51Rは、ケース5の周方向に沿った面である。上面51Uは、外周面51Rと直交し、軸線aと平行な任意の軸を法線とする面である。
【0059】
第2段差部52は、ケース5の上端部、すなわち端部c側の端部でかつ第1段差部51より内側に設けられた、上方に向かって円環状に突出した部分である。第2段差部52は、外周面52Rを有する。外周面52Rは、ケース5の周方向に沿った面である。第2段差部52は、第1の外径D51より小さい第2の外径D52を有する。
【0060】
ここで、モーターユニットでは、同じモーター14に対し、減速比に応じて大きさの異なる減速機16が取り付けられる。例えば、第1アーム73を回転駆動するモーターユニット4では、ロボットアーム72全体を回転駆動するため、比較的大きいトルクを出力する必要があり、減速比の大きい減速機16が設置される。一方、例えば、第2アーム74を回転駆動するモーターユニット6では、モーターユニット4に比べ比較的小さいトルクを出力すればよいので、減速比の小さい減速機16が設置される。
【0061】
以下の説明では、モーターユニット4の減速機16を「減速機16A」とも言い、モーターユニット6の減速機16を「減速機16B」とも言う。減速機16Aと減速機16Bとは、動作原理は同じであるが、剛性歯車23の内径および外径と、可撓性歯車24の内径および外径と、波動発生器25の外径とが、それぞれ異なっている。すなわち、減速機16Aの剛性歯車23の内径および外径は、減速機16Bの剛性歯車23の内径および外径よりも大きい。また、減速機16Aの可撓性歯車24の内径および外径は、減速機16Bの可撓性歯車24の内径および外径よりも大きい。また、減速機16Aの波動発生器25の外径は、減速機16Bの波動発生器25の外径よりも大きい。
【0062】
また、モーターユニット4およびモーターユニット6では、減速機16Aまたは減速機16Bに応じて、形状、大きさの異なるアダプター15が設置される。
【0063】
以下の説明では、モーターユニット4のアダプター15を「アダプター15A」とも言い、モーターユニット6のアダプター15を「アダプター15B」とも言う。アダプター15Aとアダプター15Bとは、挿通孔150の内径d150が異なっている。アダプター15Aの、挿通孔150の内径(最小内径d150A)は、アダプター15Bの、挿通孔150の内径(最小内径d150B)よりも大きい。
【0064】
アダプター15Aは、図2図4に示すアダプター15である。アダプター15Bの挿通孔150は、ケース5への装着時に第1段差部51を避ける逃げ部156を有する。逃げ部156は、下面150D側に位置し、挿通孔150の上部に対し拡径した部分である。逃げ部156の内径は、第1段差部51の外径D51よりも大きい。
【0065】
図6および図7に示すように、モーターユニット4では、アダプター15Aの挿通孔150は、第1段差部51の外周面51Rに嵌合する。このとき、アダプター15Aの下面150Dは、フランジ部50の上面50Uに当接する。
【0066】
図6および図8に示すように、モーターユニット6では、アダプター15Bの挿通孔150は、第2段差部52の外周面52Rに嵌合する。このとき、アダプター15Bの下面150Dは、第1段差部51の上面51Uおよびフランジ部50の上面50Uに当接する。また、第1段差部51は、逃げ部156内に挿入される。
【0067】
このように、モーター14のケース5は、第1段差部51および第2段差部52を有することにより、異なる内径の挿通孔150を有するアダプター15Aおよびアダプター15Bのいずれにも対応することができる。すなわち、ケース5は、互いに異なるアダプター15Aおよびアダプター15Bの一方と選択的に嵌合することができる。よって、モーター14は、汎用性に優れる。
【0068】
また、図6に示すように、第1段差部51は、リング状の第1シール部材510が設置される第1凹部511を有する。第1凹部511は、外周面51Rに開放し、第1段差部51の外周に沿って形成された溝である。第1凹部511内に第1シール部材510を設置することにより、減速機16側から挿通孔150内に移行して来た潤滑剤Gが、第1段差部51の外周面51Rとアダプター15Aの挿通孔150の内周面150Qとの間から外部に漏れ出すのを防止または抑制することができる。
【0069】
また、第2段差部52は、リング状の第2シール部材520が設置される第2凹部521を有する。第2凹部521は、外周面52Rに開放し、第2段差部52の外周に沿って形成された溝である。第2凹部521内に第2シール部材520を設置することにより、減速機16側から挿通孔150内に移行して来た潤滑剤Gが、第2段差部52の外周面52Rとアダプター15Bの挿通孔150の内周面150Qとの間から外部に漏れ出すのを防止または抑制することができる。
【0070】
第1シール部材510および第2シール部材520としては、例えば、各種ゴム材料、各種熱可塑性エラストマー等の弾性材料で構成されたものを使用することができる。
【0071】
図6に示すように、モーターユニット4における可撓性歯車24の内径d24をd24Aとし、モーターユニット6における可撓性歯車24の内径d24をd24Bとすると、d24A>d24Bであるが、本実施形態では、d24A<D51を満足し、かつd24B<D52を満足する。これにより、モーターユニット4およびモーターユニット6の組み立てを容易に行うことができる。以下このことについて説明する。
【0072】
図7に示すように、モーターユニット4を組み立てる際、まず、回転軸17の端部cに波動発生器25を固定する。次いで、モーター14のフランジ部50および第1段差部51にアダプター15Aを固定する。波動発生器25の外径は、可撓性歯車24の内径d24(d24A)と略同じであり、かつ、第1段差部51の外径D51は、アダプター15Aの挿通孔150の最小内径d150Aと略同じである。このため、d24A<D51を満足することにより、端部cに装着された波動発生器25が挿通孔150を挿通するようにして上方からアダプター15Aをフランジ部50および第1段差部51に装着し固定することができる。次いで、剛性歯車23の内側に可撓性歯車24が挿入されている組立体を端部cに装着された波動発生器25に取り付けて固定する。
【0073】
このように、d24A<D51を満足することにより、回転軸17の端部cに波動発生器25を取り付け、その後でアダプター15Aをモーター14に順次取り付けることができる。よって、1つ1つの取り付けを簡単かつ正確に行うことができる。
【0074】
一方、図8に示すように、モーターユニット6を組み立てる際、まず、回転軸17の端部cに波動発生器25を固定する。次いで、モーター14のフランジ部50および第2段差部52にアダプター15Bを固定する。波動発生器25の外径は、可撓性歯車24の内径d24(d24B)と略同じであり、かつ、第2段差部52の外径D52は、アダプター15Bの挿通孔150の最小内径d150Bと略同じである。このため、d24B<D52を満足することにより、端部cに装着された波動発生器25が挿通孔150を挿通するようにして上方からアダプター15Bをフランジ部50および第2段差部52に装着し固定することができる。次いで、剛性歯車23の内側に可撓性歯車24が挿入されている組立体を端部cに装着された波動発生器25に取り付けて固定する。
【0075】
このように、d24B<D52を満足することにより、回転軸17の端部cに波動発生器25を取り付け、その後でアダプター15Bをモーター14に順次取り付けることができる。よって、1つ1つの取り付けを簡単かつ正確に行うことができる。
【0076】
なお、本発明では、モーターユニット4、6におけるケース5の各部の寸法、アダプター15A、15Bの各部の寸法、減速機16A、16Bの各部の寸法等の大小関係については、上述したものに限定されない。
【0077】
以上説明したように、モーターユニット4は、回転軸17と回転軸17を収納するケース5を有するモーター14と、剛性歯車23と、剛性歯車23の内側に内側に配置され、可撓性を有する可撓性歯車24と、可撓性歯車24の内側に配置され、回転軸17に固定される波動発生器25と、を有する減速機16と、回転軸17を挿通する挿通孔150を有し、モーター14と減速機16とを固定するアダプター15と、を備える。また、ケース5は、アダプター15(アダプター15Aまたはアダプター15B)が取り付けられるフランジ部50と、フランジ部50の外径D50より小さく、可撓性歯車24の内径d24(d24Aおよびd24B)よりも大きい第1の外径D51を有する第1段差部51と、第1の外径D51より小さい第2の外径D52を有する第2段差部52と、を有し、アダプター15は、挿通孔150が第1段差部51または第2段差部52と嵌合している。これにより、寸法等が異なる減速機やアダプターに対応可能な、汎用性に優れたモーターユニット4を得ることができる。また、組立が容易なモーターユニット4を得ることができる。
【0078】
また、前述したように、第1段差部51は、外周に沿って形成され、第1シール部材510が設置される第1凹部511を有し、第2段差部52は、外周に沿って形成され、第2シール部材520が設置される第2凹部521を有する。これにより、モーターユニット4およびモーターユニット6のいずれにおいても、減速機16に用いられる潤滑剤Gが外部に漏れ出すのを防止または抑制することができる。
【0079】
また、回転軸17の一端部である端部cは、ケース5の外部に突出しており、フランジ部50、第1段差部51および第2段差部52は、回転軸17の端部cの突出方向に沿ってこの順に配置されている。これにより、アダプター15Aおよびアダプター15Bのいずれにおいても、モーター14に対し回転軸17の一端部側から装着することができ、その装着作業も容易である。
【0080】
以上、本発明のモーターユニットを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、モーターユニットにおける各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、モーターユニットには、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…ロボットシステム、2…ステーター、3…ローター、4…モーターユニット、4K…第1関節部、5…ケース、6…モーターユニット、6K…第2関節部、7…ロボット、8…永久磁石、9…ロボット制御装置、14…モーター、15…アダプター、15A…アダプター、15B…アダプター、16…減速機、16A…減速機、16B…減速機、17…回転軸、18…ベアリング、19…ベアリング、20…第1ケース、21…第2ケース、22…回転検出器、23…剛性歯車、24…可撓性歯車、25…波動発生器、29…内歯、30…外歯、31…筒状部、32…鍔部、33…波動発生部、35…固定部、38…本体部、39…ベアリング、40…内輪、41…外輪、42…ボール、50…フランジ部、50U…上面、51…第1段差部、51R…外周面、51U…上面、52…第2段差部、52R…外周面、71…基台、72…ロボットアーム、73…第1アーム、74…第2アーム、75…作業ヘッド、76…エンドエフェクター、150…挿通孔、150U…上面、150D…下面、150Q…内周面、151…凹部、152…固定孔、153…固定孔、154…固定孔、155…突出部、156…逃げ部、221…回転子、300…固定部材、301…固定部材、302…固定部材、501…固定孔、510…第1シール部材、511…第1凹部、520…第2シール部材、521…第2凹部、711…固定孔、751…スプラインナット、752…ボールネジナット、753…スプラインシャフト、791…第1駆動機構、792…第2駆動機構、D50…外径、D51…外径、D52…外径、G…潤滑剤、J1…第1回転軸、J2…第2回転軸、J3…第3回転軸、La…長軸、Lb…短軸、a…軸線、b…端部、c…端部、d150…内径、d150A…最小内径、d150B…最小内径、d24…内径、d24A…内径、d24B…内径
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8