(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009750
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】歩行状態評価システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074058
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022110999
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清原 武彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴成
(72)【発明者】
【氏名】樋口 誠
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 洋
(72)【発明者】
【氏名】肥田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真揮
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VA12
4C038VB14
4C038VB17
4C038VB24
4C038VB35
4C038VC05
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】健康状態の維持に適しているかという観点で歩行状態を評価できるようにすること。
【解決手段】被験者歩行情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段の取得した歩行情報を理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する状態評価手段と、前記状態評価手段による評価結果を出力する評価出力手段と、を備え、前記理想歩行情報としては、理想的な歩行状態による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータで構成されたものが、所定範囲にわたる股関節角度それぞれについて用意されたものであり、前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータを取得して、前記状態評価手段は、前記被験者歩行情報を、該被験者歩行情報と同じ股関節角度が含まれる前記理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する、歩行状態評価システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者による歩行状態に関する被験者歩行情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段の取得した歩行情報を、理想的な歩行状態に関する理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する状態評価手段と、
前記状態評価手段による評価結果を出力する評価出力手段と、を備え、
前記理想歩行情報としては、理想的な歩行状態による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータで構成されたものが、所定範囲にわたる股関節角度それぞれについて用意されており、
前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータを取得して、
前記状態評価手段は、前記被験者歩行情報を、該被験者歩行情報と同じ股関節角度が含まれる前記理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する、
歩行状態評価システム。
【請求項2】
前記理想歩行情報は、股関節角度の他、該股関節角度のときの歩幅および膝関節角度、を含む複数のパラメータで構成されており、
前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度に加え、該股関節角度のときの歩幅および膝関節角度を取得する、
請求項1に記載の歩行状態評価システム。
【請求項3】
前記理想歩行情報は、股関節角度の他、該股関節角度のときの歩幅としてこれを身長または脚長で割って百分率で表した値、および、該股関節角度のときの膝関節角度、を含む複数のパラメータで構成されており、
前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度に加え、該股関節角度のときの歩幅、身長または脚長、および、膝関節角度を取得して、
前記状態評価手段は、被験者の歩行状態を評価するに際し、前記被験者歩行情報のうちの歩幅としてこれを身長又は脚長で割って百分率で表したものを用いる、
請求項1に記載の歩行状態評価システム。
【請求項4】
前記状態評価手段は、前記被験者歩行情報をこれと同じ股関節角度が含まれる前記理想歩行情報と比較し、該股関節角度の大きさを評価するとともに、該股関節角度を除く各パラメータ同士の差異を評価する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歩行状態評価システム。
【請求項5】
コンピュータを請求項1に記載の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歩行状態を評価する歩行状態評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の歩行状態と健康状態との関係に注目が集まっており、その関係性を明らかにすべく歩行状態を評価するための技術が種々提案されている。例えば、股関節などの角度で歩行状態を規定してその評価を行うという技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただ、人間にとっての歩行とは少なからず身体への負担を伴うものであり、その歩行状態の良し悪しが健康状態に与える影響は大きいはずである。そのため、人の歩行状態は、健康状態の維持に適しているか、という観点で評価できることが望ましいが、これまでそのような観点での評価は行われていなかった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、健康状態の維持に適しているかという観点で歩行状態を評価できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1局面は、被験者による歩行状態に関する被験者歩行情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段の取得した歩行情報を、理想的な歩行状態に関する理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する状態評価手段と、前記状態評価手段による評価結果を出力する評価出力手段と、を備え、前記理想歩行情報としては、理想的な歩行状態による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータで構成されたものが、所定範囲にわたる股関節角度それぞれについて用意されており、前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度を含む複数のパラメータを取得して、前記状態評価手段は、前記被験者歩行情報を、該被験者歩行情報と同じ股関節角度が含まれる前記理想歩行情報と比較することにより、被験者の歩行状態を評価する、歩行状態評価システム、である。
【0007】
人の歩行時には、主に股関節を回転中心として左右の脚が前後に開くように動作するため、それ以外の部位が股関節と協調してどのように動作しているか、といったことが、歩行状態の良し悪しに大きな影響を与えるはずである。
【0008】
本願出願人は、このことを解明すべく被験者の歩行状態に基づいて種々の分析を行ったところ、健康状態の良好な被験者ほど股関節の動作を示す股関節角度が一定範囲内で大きくなる、健康状態に懸念のある被験者において関節への負担が大きくなりやすい、という傾向を見出した。この傾向からは、股関節角度に見合った適切な各部位の動作範囲となる理想的な歩行状態があり、この理想から乖離するほど各関節(特に股関節や膝関節など)への負担が大きくなるということがいえる。
【0009】
このように負担が大きい歩行状態は、長期的にみて各関節に不調を来しやすく、歩行に伴って痛み違和感が生じると、これを庇うような動作により別の部位への負担が増したり、歩行自体を避けるようになって生活に必要な筋力すら維持できなくなったり、という健康上の懸念が大きくなる。このようなことから、健康状態を良好に維持するには、身体への負担が小さい理想的な歩行状態で歩行することが有効といえる。
【0010】
そのため、被験者に対し、身体への負担が小さい歩行状態での歩行を促せるようにすることが望ましいが、そのためには、まず被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を把握できるようにすることが求められる。
【0011】
この要請に対し、上記局面の歩行状態評価システムでは、被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を股関節角度に基づいて比較することで、健康状態の維持に適しているかという観点で歩行状態を評価することができる。こうして、歩行状態の評価結果を出力することで、被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を把握できるようになる結果、理想的な歩行状態での歩行を被験者に促すことが可能となる。
【0012】
なお、歩行情報としては、股関節角度の他、歩行状態の評価に適したいくつかのパラメータを用いることが考えられる。歩行状態の評価に適したパラメータとしては、例えば、歩幅や膝関節角度などを用いることが考えられる。
【0013】
この場合、上記局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。第2局面において、前記理想歩行情報は、股関節角度の他、該股関節角度のときの歩幅および膝関節角度、を含む複数のパラメータで構成されており、前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度に加え、該股関節角度のときの歩幅および膝関節角度を取得する。
【0014】
この局面の歩行状態評価システムであれば、被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を、股関節角度、歩幅および膝関節角度に基づいて比較することで、歩行状態を評価することができる。
【0015】
この局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。第3局面において、前記理想歩行情報は、股関節角度の他、該股関節角度のときの歩幅としてこれを身長または脚長で割って百分率で表した値、および、該股関節角度のときの膝関節角度、を含む複数のパラメータで構成されており、前記情報取得手段は、前記被験者歩行情報として、被験者による歩行時の股関節角度に加え、該股関節角度のときの歩幅、身長または脚長、および、膝関節角度を取得して、前記状態評価手段は、被験者の歩行状態を評価するに際し、前記被験者歩行情報のうちの歩幅としてこれを身長又は脚長で割って百分率で表したものを用いる。
【0016】
この局面の歩行状態評価システムであれば、歩幅としてこれを身長または脚長で割って百分率で表した値を評価に用いることで、身長や脚長の影響を抑えてより適切に歩行状態を評価することができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために第4局面の歩行状態評価システムは、被験者が歩行する際の歩行情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段の取得した歩行情報で規定される歩行状態が、あらかじめ定められた複数パターンの歩行状態のうち、いずれの歩行状態に対応するものであるかを判定する状態判定手段と、歩行状態の評価、および、評価に応じたアドバイスを含む情報として、複数パターンの歩行状態それぞれに対応づけられた評価情報のうち、前記状態判定手段に判定された歩行状態に対応する評価情報を特定する評価特定手段と、前記評価特定手段に特定された評価情報を出力する評価出力手段と、を備える。
【0018】
上記局面の歩行状態評価システムであれば、歩行状態を健康状態に応じて複数パターンに分類し、被験者の歩行状態がいずれのパターンのものであるかを判定して評価することによって、評価に要する処理負荷を抑えることができる。
【0019】
また、上記局面は以下に示す第5局面のようにしてもよい。
【0020】
第5局面においては、被験者が歩行する様子を撮影した画像データを取得する画像取得手段、を備え、前記情報取得手段は、前記画像取得手段の取得した画像データに基づき、被験者の歩幅および股関節角度を含む歩行情報を取得する。
【0021】
本願出願人は、健康状態の悪化や老化及び中高年においても日々の生活では股関節の伸展を促す運動が乏しいことに起因して、歩行する際の股関節角度が小さくなる傾向に着目し、股関節角度を軸にどのようなパラメータで歩行状態を規定すべきか研究を進めたところ、股関節角度および歩幅で歩行状態を規定することの有用性を見出した。
【0022】
ここでいう有用性とは、複数の被験者それぞれにおいて、歩行時における股関節角度と歩幅との関係が、健康状態に問題がない被験者と、健康状態に何らかの問題を抱えている被験者とで異なる傾向があり、この傾向を踏まえた歩行状態の評価が可能になるというものである。本願出願人は、この傾向を歩行状態の評価に用いるべく創意工夫を施した結果として、上記のような構成に想到している。
【0023】
歩くという能力を評価するには、歩行状態が股関節角度だけでなく、膝関節角度など多くのパラメータで規定し得るものである一方、パラメータが多くなることは評価に要する処理負荷などが大きくなるため、上記のように股関節角度および歩幅というパラメータで歩行状態を規定して評価できることは、評価に要する処理負荷の低減という点で好適である。
【0024】
そのため、上記局面の歩行状態評価システムであれば、歩幅および股関節角度を含む歩行情報を被験者の歩行状態の情報として取得することにより、健康状態との関係での歩行状態としての評価を、その評価に要する処理負荷を抑えて効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示における歩行状態評価システムの構成を示すブロック図
【
図2】本開示においてカメラにより被験者を撮影する様子を示す模式図
【
図4】画像に含まれる被験者を骨格モデル化した図(1)
【
図6】状態評価処理の手順を示すフローチャート(1)
【
図9】画像に含まれる被験者を骨格モデル化した図(2)
【
図10】状態評価処理の手順を示すフローチャート(2)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)全体構成
【0027】
歩行状態評価システム1は、
図1に示すように、被験者の歩行に関する歩行情報を生成する情報生成装置10と、被験者の歩行状態を評価する状態評価装置20と、を備える。
【0028】
情報生成装置10は、情報生成装置10全体の動作を制御する制御部11と、各種データを格納する記憶部13と、ユーザとのやりとりを行うユーザインタフェース(U/I)15と、状態評価装置20との通信を制御する通信部17と、被験者が歩行する様子を撮影すべく設置されるカメラ19と、を備える。
【0029】
これらのうち、カメラ19は、
図2に示すように、被験者100の歩行する様子をその側方から撮影可能な位置に設置され、その歩行の様子を撮影して画像データを生成する。この画像データは、時系列で連続する複数の画像それぞれを示すものである。
【0030】
状態評価装置20は、状態評価装置20全体の動作を制御する制御部21と、各種データを格納する記憶部23と、ユーザとのやりとりを行うユーザインタフェース(U/I)25と、情報生成装置10との通信を制御する通信部27と、を備える。
【0031】
なお、本実施形態では、情報生成装置10と状態評価装置20とがインターネット200を介して通信可能に接続されているものを例示しているが、両者が直接通信可能に接続されていてもよい。
【0032】
(2)第1実施形態
ここでは、第1実施形態として、上記構成の歩行状態評価システム1による各種処理手順について説明する。
【0033】
(2-1)評価出力処理
まず、情報生成装置10の制御部11が実行する評価出力処理の処理手順を
図3に基づいて説明する。この評価出力処理は、記憶部13に格納されたプログラムに従って実行されるものであり、ユーザインタフェース15経由で評価出力処理の起動のための指令を受けた際に起動される。
【0034】
この評価出力処理では、まず、カメラ19から画像データが取得される(s110)。ここでは、カメラ19の撮影範囲を被験者が横切るタイミングに合わせ、制御部11からカメラ19へと撮影開始および撮影終了の指令が順になされ、この指令の間に時系列で撮影された連続する複数の画像を示す画像データが取得される。
【0035】
ここで、カメラ19への撮影開始および撮影終了の指令は、ユーザインタフェース15経由でユーザの指令を受けたタイミングで人為的になされるものであってもよく、撮影範囲における画像の変化や図示されないセンサの検出結果に基づいて自動的になされるものであってもよい。
【0036】
次に、上記s110にて取得された画像データから特定の画像が抽出される(s120)。ここでは、画像データで示される各画像に映る被験者がそれぞれ骨格モデル化された後、この骨格モデルにおいて観察対象となる脚(画像において手前側にくる脚;以降「観察肢」ともいう)の踵の位置に基づき、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像が抽出される。
【0037】
この「ヒールオフ画像」とは、歩行中の被験者における観察肢のうち、股関節伸展側の踵が地表面から離れるヒールオフ状態となった時点の画像であり、「ヒールコンタクト画像」とは、歩行中の被験者における観察肢のうち、股関節屈曲側の踵が地表面に接触するヒールコンタクト状態となった時点の画像である。このs120で抽出される画像は、観察肢において時系列で相前後するヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれを示すいずれか一組の画像データである。
【0038】
なお、ここでは、カメラ19で撮影された画像群の中から、観察肢の踵がヒールオフ状態およびヒールコンタクト状態に対応する位置となっている画像を、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像を抽出している。しかし、被験者が歩行に際してヒールオフ状態およびヒールコンタクト状態となったことをセンサ(例えば被験者や路面に設けた振動センサや加速度センサなど)で検知し、そうして検知されたタイミングの画像をヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像として抽出することとしてもよい。
【0039】
次に、上記s120で抽出された画像それぞれに基づき、被験者の歩行情報が算出される(s130)。ここでは、上記s120で抽出されたヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれから、
図4に示すように、被験者の股関節角度θc、歩幅Lsおよび身長Ltなどが算出される。なお、
図4は、ヒールコンタクト状態の観察肢と、ヒールオフ状態の観察肢とを、股関節の回転中心が一致するように重ね合わせた状態を示すものである。
【0040】
ここで、股関節角度θcは、ヒールオフ画像においてヒールオフ状態となっている脚の股関節伸展角度θc1(股関節から膝までの軸線と鉛直方向とのなす角度)と、ヒールコンタクト画像においてヒールコンタクト状態となっている脚の股関節屈曲角度θc2(同上)とを合計した角度(θc=θc1+θc2)として算出される。
【0041】
また、歩幅Lsは、被験者においてヒールオフ状態となっている足先(本実施形態ではつま先)の位置から進行方向前方に沿って股関節直下となる位置までのヒールオフ距離Ls1と、ヒールコンタクト状態となっている足先(本実施形態ではつま先)の位置から進行方向後方に沿って股関節直下となる位置までのヒールコンタクト距離Ls2とを合計した距離(Ls=Ls1+Ls2)として算出される。
【0042】
ここでは、観察肢において時系列で相前後するヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像、つまりヒールオフ状態となってからヒールコンタクト状態となった観察肢における各状態での足先となる位置に着目して歩幅Lsを算出しているが、観察肢の足先とその反対の脚(以下「非観察肢」という)における足先とに着目して歩幅Lsを算出することとしてもよい。具体的には、ヒールオフ状態およびヒールコンタクト状態のいずれか一方の状態となっている観察肢の足先と、この状態の画像と時系列で近接する画像においていずれか他方の状態となっている非観察肢の足先と、に基づいて上記と同様に算出することが考えられる。
【0043】
また、身長Ltは、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれにおける被験者の各脚の長さを平均した距離Llと、各画像における被験者の股関節から頭頂部までの距離Lbとを合計した距離(Lt=Ll+Lb)として算出される。
【0044】
次に、上記s130で算出された歩行情報が状態評価装置20へ送信される(s140)。状態評価装置20は、この歩行情報を受けて後述する状態評価処理を実行し、この歩行情報に対応する評価情報を返送してくるように構成されている。
【0045】
こうして歩行情報を送信したら、状態評価装置20からの評価情報が返送されてくるまで待機状態となる(s150:NO)。その後、評価情報が返信されてきたら(s150:YES)、この評価情報が出力された後(s160)、本評価出力処理が終了する。
【0046】
このs160では、
図5に示すように、評価情報に含まれる評価内容IeやアドバイスIaを既定のフォーマットに配置されたページデータが生成され、これがユーザインタフェース15経由で出力(例えば、紙媒体に印刷、ディスプレイに表示など)される。
【0047】
なお、本実施形態の評価出力処理では、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像の抽出後、これらに基づいて被験者の歩行情報が算出される。しかし、各画像の抽出後には、それら画像が歩行情報の算出に適したものであるかをチェックし、不適切な場合に画像データを取得し直すための処理を実施したり、評価出力処理自体を終了させたり、といった構成としてもよい。
【0048】
(2-2)状態評価処理
続いて、状態評価装置20の制御部21が実行する状態評価処理の処理手順を
図6に基づいて説明する。この状態評価処理は、状態評価装置20の起動後、記憶部23に格納されたプログラムに従って実行されるものである。
【0049】
この状態評価処理では、まず、情報生成装置10からの歩行情報が受信されるまで待機状態となる(s210:NO)。その後、情報生成装置10からの歩行情報が受信されたら(s210:YES)、この歩行情報で規定される歩行状態が、あらかじめ定められた複数パターンの歩行状態のうち、いずれの歩行状態に対応するものであるかが判定される(s220)。
【0050】
ここでは、s210で受信した歩行情報で規定される歩行状態が、少なくとも被験者の歩幅Lsを身長Ltで割った歩幅率(Ls/Lt)および股関節角度θcで規定される歩行状態がいずれのパターンの歩行状態に対応するものであるかが判定される。
【0051】
あらかじめ定められた複数パターンの歩行状態は、記憶部23に格納されたデータベースに登録されているため、このデータベースに基づいて判定がなされる。本実施形態では、
図7に示すように、各パラメータに応じて16パターンの歩行状態が登録されているが、これ以下または以上となるパターンの歩行状態が登録されていてもよい。
【0052】
次に、上記s220で判定された歩行状態に対応する評価情報が特定される(s230)。ここでは、あらかじめ定められた評価情報のうち、上記s220で判定された歩行状態に対応するものが特定される。この評価情報は、歩行状態としての評価内容、および、評価内容に基づくアドバイスを含む情報であり(
図5参照)、それぞれ歩行状態に対応するものとして記憶部23にあらかじめ格納されているため、ここから該当する評価情報が特定される。
【0053】
そして、上記s230で特定された評価情報が状態評価装置20へと返送された後(s240)、本状態評価処理が終了する。
【0054】
(2-3)変形例
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、歩行情報がカメラ19で撮影した画像データから取得されるように構成されたものを例示した。しかし、この歩行情報は、カメラ19で撮影する以外の方法により取得するように構成してもよい。また、情報生成装置10の外部から通信部17などを介して取得するように構成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、複数パターンの歩行状態のいずれに対応するものであるかを判定するにあたり(状態評価処理のs220)、歩幅Lsを身長Ltで割った歩幅率を用いた構成を例示した。しかし、この判定に際しては、歩幅Lsそのものを用いることとしてもよいし、歩幅Lsを脚の長さ(以降「脚長」という))や下半身長さなど他のパラメータで割った値を用いることとしてもよい。ここで、歩幅Lsそのものを用いる場合には、人種などの要因が身長に占める脚長の割合に与える影響を抑えるべく、その要因に応じた所定の係数を掛けた値を用いることしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、評価情報が、情報生成装置10のユーザインタフェース15経由で出力されるように構成されたものを例示した。しかし、評価情報は、状態評価装置2のユーザインタフェース25経由で出力したり、状態評価装置2から通信部27経由で外部の装置へと送信したりするように構成してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、歩行状態評価システム1が情報生成装置10と状態評価装置20との2つの装置で構成されたものを例示した。しかし、この歩行状態評価システム1は、各装置の備える全ての構成要素を備えた1つの装置により構成されたものであってもよい。また、それぞれ通信可能に接続された3つ以上の装置が、各装置の備える全ての構成要素を分散して備えたものとしてもよい。
【0059】
(2-4)作用効果
上記実施形態の歩行状態評価システム1であれば、歩行状態を健康状態に応じて複数パターンに分類し、被験者の歩行状態がいずれのパターンのものであるかを判定して評価することによって、評価に要する処理負荷を抑えることができる。
【0060】
ところで、本願出願人は、健康状態の悪化や老化及び中高年においても日々の生活では股関節の伸展を促す運動が乏しいことに起因して、歩行する際の股関節角度が小さくなる傾向に着目し、股関節角度を軸にどのようなパラメータで歩行状態を規定すべきか研究を進めたところ、股関節角度および歩幅で歩行状態を規定することの有用性を見出した。
【0061】
ここでいう有用性とは、複数の被験者それぞれにおいて、歩行時における股関節角度と歩幅との関係が、健康状態に問題がない被験者と、健康状態に何らかの問題を抱えている被験者とで異なる傾向があり、この傾向を踏まえた歩行状態の評価が可能になるというものである。本願出願人は、この傾向を歩行状態の評価に用いるべく創意工夫を施した結果として、上記のような構成に想到している。
【0062】
歩くという能力を評価するには、歩行状態が股関節角度だけでなく、膝関節角度など多くのパラメータで規定し得るものである一方、パラメータが多くなることは評価に要する処理負荷などが大きくなるため、上記のように2種類のパラメータで歩行状態を規定して評価できることは、評価に要する処理負荷の低減という点で好適である。
【0063】
そのため、上記実施形態の歩行状態評価システム1であれば、歩幅および股関節角度を含む歩行情報を被験者の歩行状態の情報を取得することにより、健康状態との関係での歩行状態としての評価を、その評価に要する処理負荷を抑えて効果的に実現できる。
【0064】
(3)第2実施形態
続いては、第2実施形態として、上記構成の歩行状態評価システム1による各種処理手順について説明する。
【0065】
(3-1)評価出力処理
まず、本実施形態における評価出力処理の処理手順を説明する。
【0066】
この評価出力処理では、第1実施形態と同様、s110~s120が行われた後、上記s120で抽出された画像それぞれに基づき、被験者の歩行情報が算出される(s130)。ここでは、上記s120で抽出されたヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれから、被験者の股関節角度θc、歩幅Ls、身長Lt、脚長Llおよび膝関節角度θkなどが算出される(
図4、
図8参照)。
【0067】
膝関節角度θkとしては、ヒールオフ状態となっている脚(つまり伸展側の脚;以下同様)の大腿がなす軸線と下腿がなす軸線とで形成される膝関節伸展角度θk1、および、ヒールコンタクト状態となっている脚(つまり屈曲側の脚;以下同様)の大腿がなす軸線と下腿がなす軸線とで形成される膝関節屈曲角度θk2、という2つのパラメータが算出される。ここでは、大腿がなす軸線を下腿に向けて延長した直線と下腿がなす軸線とで形成される角度を膝関節角度としているが、大腿と下腿とがなす角度(つまり大腿がなす軸線と下腿がなす軸線とで形成される角度)を膝関節角度θkとしてもよい。
【0068】
また、脚長Llは、ヒールオフ状態となっている脚の大腿の長さLlu1と下腿の長さLld1との合計Ll1、および、ヒールコンタクト状態となっている脚の大腿の長さLlu2と下腿の長さLld2との合計Ll2、の平均値((Ll1+Ll2)/2)として算出される。
【0069】
次に、上記s130で算出された歩行情報(以降「被験者歩行情報」ともいう)が状態評価装置20へ送信される(s140)。こうして歩行情報を送信したら、状態評価装置20からの評価情報が返送されてくるまで待機状態となる(s150:NO)。
【0070】
その後、評価情報が返信されてきたら(s150:YES)、この評価情報が出力された後(s160)、本評価出力処理が終了する。このs160では、
図9に示すように、評価情報に含まれる評価内容IeやアドバイスIaを既定のフォーマットに配置されたページデータが生成され、これがユーザインタフェース15経由で出力される。
【0071】
(3-2)状態評価処理 続いて、本実施形態における状態評価処理の処理手順を
図10に基づいて説明する。
【0072】
この状態評価処理では、まず、情報生成装置10からの被験者歩行情報が受信されるまで待機状態となる(s210:NO)。その後、被験者歩行情報が受信されたら(s210:YES)、この被験者歩行情報で規定される歩行状態に基づいて理想的な歩行状態を示す歩行情報(以降「理想歩行情報」ともいう)が抽出される(s250)。ここでは、あらかじめ複数種類用意されている理想歩行情報の中から、上記210にて受信した被験者歩行情報と股関節角度が同じ(所定の誤差範囲で一致するもの)が抽出される。
【0073】
本実施形態では、理想歩行情報として、身体への負担が小さい理想的な歩行状態による歩行時の股関節角度の他、その股関節角度のときの歩幅および膝関節角度を含む複数のパラメータで構成されたものが、所定範囲にわたる股関節角度それぞれについてあらかじめ用意(記憶部23に格納)されている。そのため、このs250では、ここから該当する理想歩行情報が抽出される。
【0074】
なお、歩行に際しては、ヒールコンタクト時の衝撃を緩和すべく、適度に膝関節を曲げることが望ましく、膝関節が伸び切っていると膝関節を中心として大きな負担が生じる一方で、膝関節が必要以上に曲がっていると関節が充分に動いておらず、場合によって腰や股関節など他の関節に大きな負担が生じる。本実施形態では、このような観点から理想的な歩行状態を規定している。具体的には、股関節角度を頂角とし、かつ、この股関節角度のときの理想的な歩幅を底辺とする三角形を基準に、この三角形において頂点を挟む2辺となる両脚の膝関節角度が理想的な膝関節角度になっている歩行状態が、理想的な歩行状態である。膝関節角度は、膝関節伸展角度θk1が10度以下、かつ、膝関節屈曲角度θk2が15度以下となっていると理想的である。
【0075】
次に、上記s210にて受信した被験者歩行情報が、上記s250にて抽出した理想歩行情報に基づいて評価される(s260)。ここでは、両方の歩行情報における各パラメータが比較され、股関節角度θcの大きさを評価するとともに、歩幅Lsおよび膝関節角度θk同士の差異が評価される。その後、これら評価値(股関節角度θcの大きさ、歩幅Lsの理想との差異、および、膝関節角度θkの理想との差異)の組合せに応じた評価情報が第1実施形態と同様に割り当てられる。
【0076】
そして、上記s250による評価結果を示す評価情報が状態評価装置20へと返送された後(s240)、本状態評価処理が終了する。
【0077】
(3-3)変形例
以上、本発明の第2実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0078】
例えば、上記実施形態では、歩行情報に含まれる歩幅Lsを用いて歩行状態を評価するように構成されたものを例示した。この歩幅Lsとしては、これを身長Ltや脚長Llで割って百分率で表した値を用いるように構成してもよい。この構成では、理想歩行情報についても歩幅を百分率で表したものとしておき、状態評価処理において被験者歩行情報の歩幅Lsを百分率に換算して評価するようにすればよい。
【0079】
また、上記実施形態では、評価出力処理において、膝関節角度θkとして、膝関節伸展角度θk1と膝関節屈曲角度θk2とが算出されるように構成されたものを例示した。しかし、膝関節角度θkとしては、例えば、膝関節伸展角度θk1と膝関節屈曲角度θk2との平均値として算出したものを用いたり、いずれか一方の股関節角度を選択して用いたりすることとしてもよい。この構成では、理想歩行情報についても、同じ平均値として算出されたまたは選択された膝関節角度θkに基づいて評価するようにすればよい。
【0080】
(3-4)作用効果
上述したように、負担が大きい歩行状態は、長期的にみて各関節に不調を来しやすく、歩行に伴って痛み違和感が生じると、これを庇うような動作により別の部位への負担が増したり、歩行自体を避けるようになって生活に必要な筋力すら維持できなくなったり、という健康上の懸念が大きくなる。このようなことから、健康状態を良好に維持するには、身体への負担が小さい理想的な歩行状態で歩行することが有効といえる。
【0081】
そのため、被験者に対し、身体への負担が小さい歩行状態での歩行を促せるようにすることが望ましいが、そのためには、まず被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を把握できるようにすることが求められる。
【0082】
この要請に対し、上記実施形態の歩行状態評価システムでは、被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を股関節角度θcに基づいて比較することで、健康状態の維持に適しているかという観点で歩行状態を評価することができる。こうして、歩行状態の評価結果を出力することで、被験者の歩行状態と理想的な歩行状態との差異を把握できるようになる結果、理想的な歩行状態での歩行を被験者に促すことが可能となる。
【0083】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1では、被験者の股関節角度θc、歩幅Lsおよび膝関節角度θkに基づく歩行状態を理想的な歩行状態と比較することで、歩行状態を評価することができる。
【0084】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1において、歩幅Lsとしてこれを身長Ltまたは脚長Llで割って百分率で表した値を評価に用いる場合には、身長Ltや脚長Llの影響を抑えてより適切に歩行状態を評価することができる。
【0085】
(4)本発明との対応関係
上記実施形態において、評価出力処理におけるs110が画像取得手段であり、s120が画像抽出手段であり、s130が第1算出手段および第2算出手段であり、s160が評価出力手段である。また、状態評価処理におけるs210が情報取得手段であり、s230およびs260が状態評価手段である。
【符号の説明】
【0086】
1…歩行状態評価システム、10…情報生成装置、11…制御部、13…記憶部、15…ユーザインタフェース、17…通信部、19…カメラ、20…状態評価装置、21…制御部、23…記憶部、27…通信部、100…被験者、200…インターネット。