(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097537
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】車載バッテリ装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240711BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20240711BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240711BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20240711BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240711BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240711BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240711BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240711BHJP
B60L 58/18 20190101ALI20240711BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02J7/00 P
H02J7/04 L
H02J7/10 L
H02H7/18
H02J7/00 302C
H01M10/48 301
H01M10/44 P
H01M10/48 P
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001049
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 敦司
(72)【発明者】
【氏名】密岡 重日
(72)【発明者】
【氏名】長内 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】阿川 宏
【テーマコード(参考)】
5G053
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G053AA14
5G053BA01
5G053CA01
5G053CA04
5G053EB08
5G053EC03
5G053FA05
5G503AA01
5G503AA07
5G503BA04
5G503BB01
5G503CB11
5G503CC02
5G503DA04
5G503DA18
5G503FA06
5G503FA18
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC06
5H125BC19
5H125BC30
5H125CD04
5H125EE25
(57)【要約】
【課題】バッテリモジュールの高温時に、バッテリセルの劣化を軽減でき、車載電装品の作動に影響を及ぼすことを防止できる車載バッテリ装置を提供すること。
【解決手段】BMSは、特定のバッテリモジュールの温度が他のバッテリモジュールの平均温度よりも所定温度差以上高い場合、特定のバッテリモジュールの充放電量(I2)を制限する。複数のバッテリモジュールは、並列回路に対して接続状態または切断状態に切替わる切替部を有する。BMSは、特定のバッテリモジュールの切替部を接続状態と切断状態とに周期的に切替えることで、特定のバッテリモジュールの充放電量を制限する。BMSは、特定のバッテリモジュールの充放電量を制限する場合、他のバッテリモジュールの充放電量(I1、I3)を増加させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用のモータを備える車両に搭載され、
並列回路を構成するように互いに並列に接続された複数のバッテリモジュールから構成されるバッテリモジュール群を備える車載バッテリ装置であって、
前記バッテリモジュール群の何れかの前記バッテリモジュールの温度が所定の上限温度を超えた場合、前記モータとの間の前記バッテリモジュール群の充放電を停止する制御部を備え、
前記制御部は、特定の前記バッテリモジュールの温度が他の前記バッテリモジュールの平均温度よりも所定温度差以上高い場合、特定の前記バッテリモジュールの充放電量を制限することを特徴とする車載バッテリ装置。
【請求項2】
複数の前記バッテリモジュールは、前記並列回路に対して接続状態または切断状態に切替わる切替部を有し、
前記制御部は、特定の前記バッテリモジュールの前記切替部を接続状態と切断状態とに周期的に切替えることで、特定の前記バッテリモジュールの充放電量を制限することを特徴とする請求項1に記載の車載バッテリ装置。
【請求項3】
前記制御部は、特定の前記バッテリモジュールの充放電量を制限する場合、他の前記バッテリモジュールの充放電量を増加させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車載バッテリ装置。
【請求項4】
前記制御部は、特定の前記バッテリモジュールの温度が前記上限温度を超えた場合、特定の前記バッテリモジュールの前記切替部を切断状態に切替え、他の前記バッテリモジュールの前記切替部を接続状態に維持することを特徴とする請求項2に記載の車載バッテリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載バッテリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バッテリモジュールを構成するバッテリセルを個別に加熱または冷却することにより、バッテリセル間の温度差を低減するバッテリ装置が記載されている。特許文献1に記載の技術によれば、バッテリ装置の充放電特性及び電気的特性を安定させることができ、寿命特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、バッテリセル間の温度差を低減することはできるが、複数のバッテリモジュールを備える場合にバッテリモジュール間で発熱量の相違による温度のバラつきが発生する。一般的にバッテリ装置は、安全性等を考慮して許容される上限温度が設定されており、この上限温度を超える場合に充放電が停止されるようになっている。さらなる温度上昇を抑制するために充放電を停止した場合、モータ等の車載電装品の作動に影響を及ぼすおそれがある。一方で、充放電を停止しない場合は、さらなる温度上昇によりバッテリセルの劣化が促進されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明では、バッテリモジュールの高温時に、バッテリセルの劣化を軽減でき、車載電装品の作動に影響を及ぼすことを防止できる車載バッテリ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、車両駆動用のモータを備える車両に搭載され、並列回路を構成するように互いに並列に接続された複数のバッテリモジュールから構成されるバッテリモジュール群を備える車載バッテリ装置であって、前記バッテリモジュール群の何れかの前記バッテリモジュールの温度が所定の上限温度を超えた場合、前記モータとの間の前記バッテリモジュール群の充放電を停止する制御部を備え、前記制御部は、特定の前記バッテリモジュールの温度が他の前記バッテリモジュールの平均温度よりも所定温度差以上高い場合、特定の前記バッテリモジュールの充放電量を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明によれば、バッテリモジュールの高温時に、バッテリセルの劣化を軽減でき、車載電装品の作動に影響を及ぼすことを防止できる車載バッテリ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置における出力低減制御がない場合の各バッテリモジュールの電流値の時間推移を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置における出力低減制御がない場合の各バッテリモジュールの温度の時間推移を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置における出力低減制御がある場合の各バッテリモジュールの電流値の時間推移を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置における出力低減制御がある場合の各バッテリモジュールの温度の時間推移を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置における出力低減制御がある場合の各バッテリモジュールの電圧および電流の時間推移を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置を搭載する車両のEV走行距離を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の変形例に係る車載バッテリ装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車載バッテリ装置は、車両駆動用のモータを備える車両に搭載され、並列回路を構成するように互いに並列に接続された複数のバッテリモジュールから構成されるバッテリモジュール群を備える車載バッテリ装置であって、バッテリモジュール群の何れかのバッテリモジュールの温度が所定の上限温度を超えた場合、モータとの間のバッテリモジュール群の充放電を停止する制御部を備え、制御部は、特定のバッテリモジュールの温度が他のバッテリモジュールの平均温度よりも所定温度差以上高い場合、特定のバッテリモジュールの充放電量を制限することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車載バッテリ装置は、バッテリモジュールの高温時に、バッテリセルの劣化を軽減でき、車載電装品の作動に影響を及ぼすことを防止できる。
【実施例0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る車載バッテリ装置について詳細に説明する。
【0011】
図1において、本発明の一実施例に係る車載バッテリ装置3は、モータ2を備える車両1に搭載されており、モータ2との間で充放電を行う。モータ2は、車両駆動用の車載電装品である。
【0012】
車両1は、車載バッテリ装置3に蓄電された電力によりモータ2を駆動することで走行する電気自動車である。または、車両1は、モータ2の他に発電用または車両駆動用のエンジンを備えるハイブリッド車両である。
【0013】
車載バッテリ装置3は、車両1の加速走行時にモータ2への放電を行うだけでなく、車両1の減速走行時にモータ2で回生発電された電力を充電する。車両1は、外部から給電される電力を車載バッテリ装置3に充電するための図示しない外部給電端子を備える、いわゆるプラグインハイブリッド車両であってもよく、この場合、車載バッテリ装置3は、モータ2の回生による充電よりも急速な急速充電を行うことができる。
【0014】
車載バッテリ装置3は、複数のバッテリモジュール10を備えている。複数のバッテリモジュール10は、並列回路を構成するように互いに並列に接続されており、バッテリモジュール群4を構成している。バッテリモジュール群4から出力される電流は、各バッテリモジュール10から出力される電流の和となる。
【0015】
本実施例において、各バッテリモジュール10は、正極母線5Aおよび負極母線5Bによって互いに並列に接続されている。正極母線5Aおよび負極母線5Bは、車載バッテリ装置3とモータ2との間で相互に電力を供給する。
【0016】
バッテリモジュール10は、複数のバッテリセル11Aを直列に接続してなる組電池11と、制御部としてのBMS(Battery Management System)13と、切替部12と、プリチャージ回路14とを備えている。
【0017】
BMS13の行う制御には、セルの過充電および過放電を防ぐ制御と、セルの過電流を防ぐ制御と、セルの温度管理を行う制御と、充電状態(SOC)を算出する制御と、セル電圧の均等化(セルバランス)を行う制御とが含まれる。
【0018】
切替部12は、組電池11と正極母線5Aとの間に設けられており、BMS13の制御によって接続状態または切断状態に切替わる。切替部12が切断状態に切替えられたバッテリモジュール10は、並列回路から遮断される。切替部12は、高速で周期的に接続状態または切断状態に切替えが可能な半導体のスイッチング素子から構成することが望ましい。なお、切替部12を機械式のスイッチから構成してもよい。
【0019】
プリチャージ回路14は、各バッテリモジュール10の電位差が小さくなるように切替部12を接続状態または切断状態に切替える。プリチャージ動作が行われることで、相対的に高電圧のバッテリモジュール10から相対的に低電圧のバッテリモジュール10への電力の供給(移動)が行われる。このプリチャージ回路14によるプリチャージ動作は、各バッテリモジュール10が充放電を行っていないときにBMS13の制御により実行される。
【0020】
BMS13は、各バッテリモジュール10が充放電を行う前に、組電池11の複数のバッテリセル11Aの電位差を小さくするセルバランス動作を実施する。BMS13は、切替部12を切断状態に切替えてバッテリモジュール10を並列回路から遮断した状態でセルバランス動作を実施する。
【0021】
BMS13は、バッテリモジュール群4の何れかのバッテリモジュール10の温度が所定の上限温度(例えば、60℃)を超えた場合、モータ2との間のバッテリモジュール群4の充放電を停止する。上限温度は、車載バッテリ装置3や車両1の安全性を考慮して設定されている。これにより、バッテリモジュール10の過熱を防止でき、車載バッテリ装置3や車両1の安全性を確保できる。
【0022】
ここで、何れかのバッテリモジュール10の温度が所定の上限温度を超えないようにするためには、各バッテリモジュール10の温度を均一化することが望ましい。つまり、温度上昇が顕著な特定のバッテリモジュール10に対して、それ以上の温度上昇が発生しないように対処することが望ましい。
【0023】
本実施例において、バッテリモジュール群4は、直線状に配置された3つのバッテリモジュール10から構成されている。このため、中央の位置#2のバッテリモジュール10は、両端の位置#1、#3のバッテリモジュール10よりも熱が篭りやすく放熱性能に劣るため高温になりやすい。そのため、放熱性能に劣る位置#2のバッテリモジュール10の放熱性能や冷却性能を向上させることで、温度の均一化を図ることができる。
【0024】
一方で、例えば、3つのバッテリモジュール10を放熱性能が等しくなるように配置して温度の均一化を図った場合であっても、各バッテリモジュール10の内部のバッテリセル11Aの劣化度合や内部抵抗の違い等によって高温状態になるバッテリモジュール10が存在する場合もある。このため、複数のバッテリモジュール10を放熱性や冷却性に配慮して配置するだけでは、温度の均一化を図ることができないことがある。
【0025】
ここで、モータ2に対して車載バッテリ装置3が充放電をしながら車両1が走行している状態において、位置#1、#2、#3の各バッテリモジュール10が出力する電流をI1、I2、I3とし、車載バッテリ装置3から出力される電流をI4とするとき、
図2に示すように、I1、I2、I3の値は何れもI(A)で推移し、I4の値は、I1、I2、I3の和であるI(B)で推移する。
【0026】
この状態では、位置#1、#2、#3の各バッテリモジュール10の温度をT1、T2、T3とすると、
図3に示すように、放熱がされやすい位置#1、#3のバッテリモジュール10の温度であるT1、T3は最終的に55℃まで上昇するが、熱が篭りやすく放熱がされにくい位置#2のバッテリモジュール10の温度であるT2が最終的に上限温度の60℃まで上昇してしまう。このため、BMS13の制御によって車載バッテリ装置3の充放電が停止されてしまう。
【0027】
そこで、BMS13は、特定のバッテリモジュール10の温度が他のバッテリモジュール10の平均温度よりも所定温度差(例えば、5℃)以上高い場合、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する。
【0028】
BMS13は、特定のバッテリモジュール10の切替部12を接続状態と切断状態とに周期的に切替えることで、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する。
【0029】
BMS13は、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する場合、他のバッテリモジュール10の充放電量を増加させる。以下、高温になった特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限するとともに、他のバッテリモジュール10の充放電量を増加させる制御を出力低減制御ともいう。
【0030】
BMS13は、特定のバッテリモジュール10の温度が上限温度を超えた場合、特定のバッテリモジュール10の切替部12を切断状態に切替え、他のバッテリモジュール10の切替部12を接続状態に維持することが好ましい。
【0031】
詳しくは、
図3に示すように、初期状態においてT2がT1、T3よりも高く、T2とT1、T3との温度差が5℃であった場合、BMS13は、出力低減制御を行う。BMS13は、
図4に示すように、I2を元のI(A)より小さいI(C)に制御し、I1、I3を元のI(A)より大きいI(D)に制御する。I(D)は、I(A)からI(C)への減少分を相殺するように設定される。このため、I1、I2、I3の和であるI4は、出力低減制御が行われない場合と等しいI(B)で推移する。そして、出力低減制御が行われることで、
図5に示すように、T1、T3は最終的に53℃に上昇するが、T2の最終的な温度は上限温度の60℃より低い55℃に抑制される。このため、車載バッテリ装置3の充放電が停止されることを回避できる。
【0032】
BMS13は、切替部12を接続状態と切断状態とに周期的に切替える動作をPWM(Pulse Width Modulation)制御により行うことが好ましい。PWM制御はパルス幅変調とも呼ばれる。PWM制御とは、接続状態と切断状態とを所定のスイッチング周波数で高速に切替え、1周期に対する接続状態の時間(オン時間)の比率(デューティー比)を変化させることで出力を調整する制御をいう。
【0033】
高いスイッチング周波数でPWM制御を行う場合は電流の急激な変化を抑制できる。一方、スイッチング周波数を低くして、オン/オフ制御の態様でPWM制御を行う場合は、切替部12自体の発熱によるT2の上昇を抑制できる。また、切断状態の時間(オフ時間)にプリチャージ動作を実行することで、バッテリモジュール10間の電圧差を緩やかに均一化することができる。なお、オン/オフ制御の態様でPWM制御を行う場合、I2のオフ期間にI1、I3がオン期間となるように制御が行われる。
【0034】
図6に示すように、初期状態の時刻t0において、車載バッテリ装置3はモータ2に対して放電を行っている。この時刻t0では、出力低減制御なし(図中、制御無しと記す)の状態であり、I1、I2、I3の和であるI4は一定の値で推移している。また、位置#1、#2、#3の各バッテリモジュール10の電圧であるV1、V2、V3は、充電状態(SOC)の低下に伴って起電力が減少することで、徐々に低下している。また、この時刻t1では、位置#2のバッテリモジュール10の温度は、位置#1、#3のバッテリモジュール10の温度よりも高くなっている。
【0035】
その後、時刻t1において、出力低減制御あり(図中、制御有りと記す)の状態となる。この状態では、I2が減少されるとともに、I2の減少分を相殺するようにI1、I3が増加される。このため、I4は出力低減制御なしの場合と等しい値に維持される。また、この状態では、位置#2のバッテリモジュール10の充電状態の低下速度が減少し、V2の低下速度が減少する。一方、位置#1、#3のバッテリモジュール10の充電状態の低下速度が増加し、V1、V3の低下速度が増加する。
【0036】
その後、時刻t2において、モータ2(図中、負荷と記す)への放電が無くなったことで、バッテリモジュール10の間のプリチャージ動作(図中、モジュール間プリチャージと記す)が実行される。これにより、V1、V3が上昇し、V2が低下する。
【0037】
その後、プリチャージ動作が継続されたことで、時刻t3において、V1、V2、V3が等しくなる。
【0038】
図7において、縦軸は最高セル温度を示し、横軸はEV走行距離を示している。また、PWM制御による出力低減制御を行った場合の位置#2のバッテリモジュール10の最高セル温度をT2(PWM)と記し、出力低減制御を行わなかった場合のバッテリモジュール10の最高セル温度をT2(NO-PWM)と記している。
【0039】
図7に示すように、出力低減制御を行わなかった場合のT2(NO-PWM)は、走行距離がL1kmのときに上限温度の60℃に到達してしまうため、充電状態が下限値まで低下していないにもかかわらず、これ以上のEV走行ができなくなる。一方、出力低減制御を行った場合のT2(PWM)は、走行距離がL1kmのときに55℃であり、その後も55℃を維持することができるので、充電状態が下限値まで低下するL2kmまでEV走行距離を拡張することができる。
【0040】
なお、本発明は、1つのバッテリモジュール群4を備える車載バッテリ装置3(
図1参照)だけでなく、
図8に示すように、複数(
図8では3つ)のバッテリモジュール群4A、4B、4Cが多並多直の形式で接続された車載バッテリ装置3Aにも適用することができる。
【0041】
図8の車載バッテリ装置3Aにおいて、バッテリモジュール群4と同様に構成された各バッテリモジュール群4A、4B、4Cは直列に接続されている。車載バッテリ装置3Aは、9つのバッテリモジュール10を3行3列のマトリックス状に配置した構成となっている。
【0042】
車載バッテリ装置3Aにおいて、バッテリモジュール群4Bは、バッテリモジュール群4Aとバッテリモジュール群4Cとに挟まれる位置に配置されている。バッテリモジュール群4Aは、位置#1-3、#2-3、#3-3の3つのバッテリモジュール10から構成されている。バッテリモジュール群4Bは、位置#1-2、#2-2、#3-2の3つのバッテリモジュール10から構成されている。バッテリモジュール群4Cは、位置#1-1、#2-1、#3-1の3つのバッテリモジュール10から構成されている。
【0043】
このように構成された車載バッテリ装置3Aは、位置#2-2のバッテリモジュール10が、他のバッテリモジュール10に周囲を囲まれているために熱が篭って高温になりやすい。そこで、位置#2-2のバッテリモジュール10の充放電量を制限するように出力低減制御を実施することで各バッテリモジュール10の温度を均一化できる。
【0044】
また、複数のバッテリモジュール10にそれぞれ設けられたBMS13は、相互に通信できるとともに、車載バッテリ装置3、3Aにおける配置または回路上の位置に応じた主従関係をこの通信によって設定できるようにすることが好ましい。
【0045】
例えば、ある1つのバッテリモジュール10のBMS13を「大マスタBMS」として設定し、その「大マスタBMS」に直列に接続されたバッテリモジュール10のBMS13を「スレーブBMS」として設定し、「大マスタBMS」に並列に接続されたバッテリモジュール10のBMS13を「小マスタBMS」として設定する。各BMS13は、車載バッテリ装置3、3Aにおける配置または回路上の位置に応じて自律的に「大マスタBMS」、「スレーブBMS」、「小マスタBMS」の何れかを設定する。
【0046】
このようにすることで、直列に接続されるバッテリモジュール10の数を、車載バッテリ装置3、3Aが必要とする電圧に応じて自由に設定することができる。また、並列に接続されるバッテリモジュール10の数を、車載バッテリ装置3、3Aが必要とする電気容量に応じて自由に設定することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施例では、バッテリモジュール群4の何れかのバッテリモジュール10の温度が所定の上限温度を超えた場合、モータ2との間のバッテリモジュール群4の充放電を停止するBMS13を備える。そして、BMS13は、特定のバッテリモジュール10の温度が他のバッテリモジュール10の平均温度よりも所定温度差以上高い場合、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する。
【0048】
これにより、温度上昇が顕著な特定のバッテリモジュール10のみを対象として充放電量が制限され、特定のバッテリモジュール10の温度が更に上昇して上限温度を超えることを抑制できるので、特定のバッテリモジュール10における温度上昇に起因するバッテリセル11Aの劣化を軽減できる。
【0049】
また、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する際に、その他のバッテリモジュール10の充放電は継続され、車載バッテリ装置3の全体としての充放電を継続することができるので、モータ2の作動に影響を及ぼすことを防止できる。
【0050】
この結果、バッテリモジュール10の高温時に、バッテリセルの劣化を軽減でき、車載電装品の作動に影響を及ぼすことを防止できる。
【0051】
また、本実施例では、複数のバッテリモジュール10は、並列回路に対して接続状態または切断状態に切替わる切替部12を有する。そして、BMS13は、特定のバッテリモジュール10の切替部12を接続状態と切断状態とに周期的に切替えることで、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する。
【0052】
これにより、特定のバッテリモジュール10の切替部12を接続状態と切断状態とに周期的に切替えることで、接続状態が維持される他のバッテリモジュール10が担う電気負荷が長時間にわたって大きくなることを抑制できる。また、切替部12の切替周期を短くして高速でスイッチングさせることにより電流の急激な変化を抑制でき、切替部12の切替周期を長くして低速のオン/オフ制御とすることにより切替部12自体の発熱を抑制できる。
【0053】
また、本実施例では、BMS13は、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する場合、他のバッテリモジュール10の充放電量を増加させる。
【0054】
これにより、特定のバッテリモジュール10の充放電量を制限する際に車載バッテリ装置3の全体の充放電量が大きく低下することを防止でき、モータ2による車両1の走行を継続することができる。
【0055】
また、本実施例では、BMS13は、特定のバッテリモジュール10の温度が上限温度を超えた場合、特定のバッテリモジュール10の切替部12を切断状態に切替え、他のバッテリモジュール10の切替部12を接続状態に維持する。
【0056】
これにより、上限温度を超えた特定のバッテリモジュール10のみを並列回路から切り離してバッテリセル11Aの劣化を軽減でき、かつ、温度が正常範囲のバッテリモジュール10の充放電を継続することができる。
【0057】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。