(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097539
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】タイヤの減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラム
(51)【国際特許分類】
B60C 23/04 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
B60C23/04 160C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001059
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】守田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 英尚
(72)【発明者】
【氏名】村上 啓一
(57)【要約】
【課題】初期化を行わなくても、タイヤの減圧を適切に検出することができる装置を提供する。
【解決手段】減圧検出装置は、速度取得部と、第1指標算出部と、第2指標算出部と、減圧検出部とを備える。速度取得部は、車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、複数のタイヤの回転速度を取得する。第1指標算出部は、回転速度に基づいて、複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出する。第2指標算出部は、第1減圧指標とは異なる指標であって、複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出する。減圧検出部は、第1減圧指標及び第2減圧指標の双方が、複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、前記複数のタイヤの回転速度を取得する速度取得部と、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出する第1指標算出部と、
前記第1減圧指標とは異なる指標であって、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出する第2指標算出部と、
前記第1減圧指標及び前記第2減圧指標の双方が、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断する減圧検出部と
を備える、
減圧検出装置。
【請求項2】
前記第1減圧指標は、前記複数のタイヤの各々の回転速度が、前記複数のタイヤの回転速度の平均値に近くなるほど第1の値に収束し、前記少なくとも1つのタイヤの回転速度が、前記平均値から乖離するほど前記第1の値から乖離する指標である、
請求項1に記載の減圧検出装置。
【請求項3】
前記第2減圧指標は、前記回転速度信号に基づいて算出される指標である、
請求項1または2に記載の減圧検出装置。
【請求項4】
前記第2減圧指標は、前記複数のタイヤのうち、同軸のタイヤの回転速度信号の周波数特性が互いに近くなるほど第2の値に収束し、前記同軸のタイヤの回転速度信号の周波数特性が互いに乖離するほど前記第2の値から乖離する指標である、
請求項3に記載の減圧検出装置。
【請求項5】
前記第2減圧指標は、前記回転速度信号の周波数スペクトルにおいて、第1の周波数帯におけるゲインの積分値に対する第2の周波数帯におけるゲインの積分値の比を、同軸の左右輪タイヤで比較する指標である、
請求項4に記載の減圧検出装置。
【請求項6】
前記第2減圧指標は、前記複数のタイヤのねじり共振周波数を、同軸の左右輪タイヤで比較する指標である、
請求項4に記載の減圧検出装置。
【請求項7】
前記第2減圧指標は、前記回転速度のうち、駆動輪タイヤの回転速度と従動輪タイヤの回転速度とを比較する比較値と、前記車両の駆動力を表す値との関係を表す回帰係数を、前記車両の左右で比較する指標である、
請求項1または2に記載の減圧検出装置。
【請求項8】
前記減圧検出部が、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断した場合に、減圧警報を生成する減圧警報部
をさらに備える、
請求項1または2に記載の減圧検出装置。
【請求項9】
1または複数のコンピュータにより実行されるタイヤの減圧検出方法であって、
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、前記複数のタイヤの回転速度を取得することと、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出することと、
前記第1減圧指標とは異なる指標であって、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出することと、
前記第1減圧指標及び前記第2減圧指標の双方が、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断することと
を含む、
減圧検出方法。
【請求項10】
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、前記複数のタイヤの回転速度を取得することと、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出することと、
前記第1減圧指標とは異なる指標であって、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出することと、
前記第1減圧指標及び前記第2減圧指標の双方が、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断することと
を1または複数のコンピュータに実行させる、
減圧検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に装着されるタイヤの減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、乗り心地や燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。このため、従来、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
タイヤの減圧を検出する方式には、タイヤに圧力センサを取り付ける等して、タイヤの空気圧を直接的に計測する方式の他、他の指標値を用いてタイヤの減圧を間接的に評価する方式がある。このような方式では動荷重半径(Dynamic Loaded Radius;DLR)方式等が知られている。DLR方式は、減圧タイヤは走行時につぶれることで動荷重半径が小さくなり、より高速に回転するようになるという現象を利用するものであり、タイヤの回転速度からタイヤの減圧を推定する(特許文献1等)。
【0004】
特許文献1は、DLR方式を用いた補正装置を開示しており、DLR方式において減圧を評価するための減圧指標値として、DEL1~DEL3と呼ばれる3つの指標値について言及している。特許文献1では、DEL1~DEL3は、以下のように定義されている。ただし、V1~V4は、それぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪タイヤの回転速度である。
DEL1=[(V1+V4)/2-(V2+V3)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL2=[(V1+V2)/2-(V3+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL3=[(V1+V3)/2-(V2+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
【0005】
タイヤが減圧すると、回転速度が増加するため、DEL1~DEL3のような減圧指標値も変化する。従って、検出目標となる減圧量だけ減圧したときの減圧指標値を閾値(減圧閾値)として設定しておくことで、減圧の検出が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるような減圧検出方法では、減圧検出処理を実行するに先立ち、まず初期化の処理が必要となる。初期化とは、上記減圧閾値を定める、または上記減圧指標値の初期差異によるオフセット量を特定し、車載装置等に記憶させる処理である。この処理は、通常、タイヤの調圧を行った場合等に、ドライバーがTPMSに初期化の指示を入力することで開始し、車両が様々な速度で一定時間(例えば、10分から20分程度)走行すると完了する。このため、初期化の実行中に減圧が発生した場合や、タイヤが減圧した状態でドライバーが初期化の指示を入力してしまった場合は、減圧が適切に検出できないおそれがある。一方、初期化を省略すべく、上記減圧閾値を所定の固定値とした場合は、実際にはいずれのタイヤも減圧していないにも関わらず、タイヤの個体差等により、上記減圧指標値が所定の減圧閾値を超える(あるいは下回る)場合が生じ、誤って減圧を警報してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、初期化を行わなくても、タイヤの減圧を適切に検出することができるタイヤの減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係る減圧検出装置は、速度取得部と、第1指標算出部と、第2指標算出部と、減圧検出部とを備える。速度取得部は、車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、前記複数のタイヤの回転速度を取得する。第1指標算出部は、前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出する。第2指標算出部は、前記第1減圧指標とは異なる指標であって、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出する。減圧検出部は、前記第1減圧指標及び前記第2減圧指標の双方が、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断する。
【0010】
第2観点に係る減圧検出装置は、第1観点に係る減圧検出装置であって、前記第1減圧指標は、前記複数のタイヤの各々の回転速度が、前記複数のタイヤの回転速度の平均値に近くなるほど第1の値に収束し、前記少なくとも1つのタイヤの回転速度が、前記平均値から乖離するほど前記第1の値から乖離する指標である。
【0011】
第3観点に係る減圧検出装置は、第1観点または第2観点に係る減圧検出装置であって、前記第2減圧指標は、前記回転速度信号に基づいて算出される指標である。
【0012】
第4観点に係る減圧検出装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記第2減圧指標は、前記複数のタイヤのうち、同軸のタイヤの回転速度信号の周波数特性が互いに近くなるほど第2の値に収束し、前記同軸のタイヤの回転速度信号の周波数特性が互いに乖離するほど前記第2の値から乖離する指標である。
【0013】
第5観点に係る減圧検出装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記第2減圧指標は、前記回転速度信号の周波数スペクトルにおいて、第1の周波数帯におけるゲインの積分値に対する第2の周波数帯におけるゲインの積分値の比を、同軸の左右輪タイヤで比較する指標である。
【0014】
第6観点に係る減圧検出装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記第2減圧指標は、前記複数のタイヤのねじり共振周波数を、同軸の左右輪タイヤで比較する指標である。
【0015】
第7観点に係る減圧検出装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記第2減圧指標は、前記回転速度のうち、駆動輪タイヤの回転速度と従動輪タイヤの回転速度とを比較する比較値と、前記車両の駆動力を表す値との関係を表す回帰係数を、前記車両の左右で比較する指標である。
【0016】
第8観点に係る減圧検出装置は、第1観点から第7観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記減圧検出部が、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断した場合に、減圧警報を生成する減圧警報部をさらに備える。
【0017】
第9観点に係る減圧検出方法は、1または複数のコンピュータにより実行されるタイヤの減圧検出方法であって、以下のことを含む。また、第10観点に係る減圧検出プログラムは、以下のことを1または複数のコンピュータに実行させる。
(1)車両に装着された複数のタイヤの回転速度を表す回転速度信号から、前記複数のタイヤの回転速度を取得すること
(2)前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である第1減圧指標を算出すること
(3)前記第1減圧指標とは異なる指標であって、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧すると変化する指標である第2減圧指標を算出すること
(4)前記第1減圧指標及び前記第2減圧指標の双方が、前記複数のタイヤのうち、少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示す場合に、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断すること
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期化のための走行を省略することができ、タイヤの減圧を早期に適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る減圧検出装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図2】減圧検出装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図4A】後軸タイヤがともに正規内圧である場合の後軸タイヤの回転速度信号の周波数スペクトル。
【
図4B】左後輪タイヤのみが30%減圧した場合の後軸タイヤの回転速度信号の周波数スペクトル。
【
図5A】前軸タイヤがともに正規内圧である場合の前軸タイヤの回転速度信号の周波数スペクトル。
【
図5B】左前輪タイヤのみが40%減圧した場合の前軸タイヤの回転速度信号の周波数スペクトル。
【
図6A】各タイヤが全て正規内圧である場合のホイールトルクと左右のスリップ率とをプロットしたグラフ。
【
図6B】左前輪タイヤのみが40%減圧した場合のホイールトルクと左右のスリップ率とをプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムについて説明する。
【0021】
<1.減圧検出装置の構成>
図1は、本実施形態に係る減圧検出装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。減圧検出装置2は、これらの車輪に取り付けられたタイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRのうち少なくとも1輪の減圧を検出する機能を備えており、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧が検出されると、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行う。このような減圧検出処理の流れの詳細については、後述する。
【0022】
タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧状態は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRの車輪速(タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度)に基づいて検出される。左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRには、各々、車輪速センサ6が取り付けられており、車輪速センサ6は、各々、自身の取り付けられた車輪の車輪速を表す信号(タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度を表すため、以下、回転速度信号ということがある)を検出する。車輪速センサ6は、減圧検出装置2に通信線5を介して接続されている。車輪速センサ6で検出された回転速度信号は、通信線5を介してリアルタイムに減圧検出装置2に送信される。回転速度信号は、本実施形態では、後述する第1減圧指標及び第1減圧指標とは異なる第2減圧指標を算出するために用いられる。第1減圧指標及び第2減圧指標は、それぞれ減圧を検出するための指標である。
【0023】
車輪速センサ6としては、走行中の車輪FL,FR,RL,RRの車輪速を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、車輪速の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0024】
図2は、減圧検出装置2の電気的構成を示すブロック図である。減圧検出装置2は、ハードウェアとしては、車両1に搭載されている制御ユニット(車載コンピュータ)であり、
図2に示されるとおり、I/Oインタフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインタフェース11は、車輪速センサ6及び警報表示器3等の外部装置との通信を実現する通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9は、CD-ROM等の記憶媒体8からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に速度取得部20、第1指標算出部21、第2指標算出部22、減圧検出部23及び減圧警報部24として動作する。各部20~24の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0025】
警報表示器3は、タイヤの減圧が起きている旨をユーザに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子や液晶モニター等、任意の態様で実現することができる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(減圧検出装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0026】
<2.減圧検出処理>
以下、
図3を参照しつつ、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの少なくとも1つの減圧を検出するための減圧検出処理について説明する。
図3に示す減圧検出処理は、動荷重半径(DLR)方式を利用するものであるが、ドライバーによる初期化及び初期化のための走行を必要としない。
図3に示す減圧検出処理は、例えば、車両1の走行が開始したときに開始し、走行が停止したときに終了する。
【0027】
まず、速度取得部20が、車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられた各車輪速センサ6から回転速度信号を取得する。速度取得部20は、取得した回転速度信号を、それぞれタイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度V1~V4に換算する(ステップS1)。
【0028】
続いて、第1指標算出部21が、回転速度V1~V4に基づき、第1減圧指標P1を算出する(ステップS2)。第1減圧指標P1は、各タイヤの回転速度を比較する指標であり、本実施形態では、以下のように定義される。
【数1】
【0029】
上式の通り、本実施形態の第1減圧指標P1は、タイヤTFLとタイヤTRRとのペア、及びタイヤTFRとタイヤTRLとのペアで、回転速度の平均を比較する指標である。タイヤTFL,TFR,TRL,TRRのいずれも減圧していない場合(正規内圧である場合)、第1減圧指標P1は、0付近の値となるが、例えばタイヤTFL,TFR,TRL,TRRのいずれか1つが減圧した場合は、第1減圧指標P1は、0からずれた値となる。本実施形態では、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRのいずれか1つが正規内圧から所定の割合だけ減圧した場合に第1減圧指標P1が取り得る値が、減圧を検出するための第1減圧閾値Th1として予め定められる。第1減圧閾値Th1は、記憶装置15またはROM13に予め保存されているものとする。
【0030】
続いて、第2指標算出部22が、第2減圧指標を算出する(ステップS3)。第2減圧指標は、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRのうち少なくとも1つが減圧すると変化する指標であって、各タイヤの回転速度を比較する第1減圧指標P1と異なる指標であれば、特に限定されない。本実施形態の第2減圧指標は、各車輪速センサ6の回転速度信号に基づいて算出され、さらに、前軸及び後軸のそれぞれについて、2つの第2減圧指標P21及びP22が算出される点で第1減圧指標P1と異なる。以下、本実施形態の第2減圧指標P21及びP22について、具体的に説明する。
【0031】
本実施形態の第2減圧指標P21及びP22は、それぞれ、回転速度信号の周波数スペクトルにおいて、第1の周波数帯F1におけるゲインの積分値に対する第2の周波数帯F2におけるゲインの積分値の比を、同軸の左右輪タイヤで比較する指標である。一般に、タイヤに減圧が発生すると、路面との接地面積が増加し、路面からの入力が大きくなるため、回転速度信号の周波数スペクトルの形状が変化する。とは言え、この周波数スペクトルは、左右の偏荷重や路面の状態等の外乱の影響を受け易いため、周波数スペクトルの形状変化そのものに基づいて減圧を検出することは容易ではない。
図4A及び4Bは、後軸タイヤT
RL,T
RRの回転速度信号の周波数スペクトルを、タイヤT
RL,T
RRがともに正規内圧である場合と、タイヤT
RLのみが30%減圧した場合とで比較する図である。発明者らは、鋭意検討の結果、タイヤの回転速度信号の周波数スペクトルにおいて、高周波数帯域を含む帯域のゲインの積分値に対するねじり共振周波数付近の帯域のゲインの積分値の比Rが、タイヤの減圧が大きくなればなるほど増加することを見出した。つまり、同軸の左右輪に装着されているいずれかのタイヤが減圧した場合、上記ゲインの積分値の比Rを同軸の左右の2つのタイヤで比較することで、これを検出することができる。
【0032】
上記原理に基づいて、本実施形態の第2減圧指標P21及びP22は、それぞれ以下のように定義される。ただし、R
OOは、車輪「OO」に取り付けられたタイヤT
OOの回転速度信号の周波数スペクトルにおける、高周波数帯域を含む帯域のゲインの積分値に対するねじり共振周波数付近の帯域(ねじり共振周波数帯域)のゲインの積分値の比を表す。
【数2】
【数3】
【0033】
本実施形態では、前軸タイヤであるタイヤTFL及びTFRのうち、いずれかが正規内圧から所定の割合だけ減圧した場合に第2減圧指標P21が取り得る値が、前軸タイヤの減圧を検出するための第2減圧閾値Th21として予め定められる。同様に、後軸タイヤであるタイヤTRL及びTRRのうち、いずれかが正規内圧から所定の割合だけ減圧した場合に第2減圧指標P22が取り得る値が、後軸タイヤの減圧を検出するための第2減圧閾値Th22として予め定められる。第2減圧閾値Th21及びTh22は、第1減圧閾値Th1と同様、記憶装置15またはROM13に予め保存されているものとする。
【0034】
再び
図3を参照して、ステップS3では、第2指標算出部22が、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの回転速度信号を高速フーリエ変換し、それぞれの周波数スペクトルを導出する。周波数特性の評価は、高速フーリエ変換処理の他、自己回帰モデルによる時系列推定、及び時系列データの分散等から行うこともできる。次に、第2指標算出部22は、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRのそれぞれについて、回転速度信号の周波数スペクトルの第1の周波数帯F1におけるゲインの積分値に対する、第2の周波数帯F2におけるゲインの積分値の比R
FL,R
FR,R
RL,R
RRを算出する。ここで、第1の周波数帯F1は路面からのノイズが支配的な高周波数帯域を含む帯域(例えば、37Hz~61Hz)であり、第2の周波数帯F2はタイヤのねじり共振周波数帯域(例えば、37Hz~45Hz)である。また、ゲインの積分値は、上記周波数帯域におけるスペクトルの積分値である。続いて、第2指標算出部22は、ゲインの積分値の比R
FL,R
FR及びR
RL,R
RRをそれぞれ上の式に代入し、第2減圧指標P21及びP22を算出する。
【0035】
続いて、減圧検出部23が、ステップS2で算出された第1減圧指標P1に基づいて、第1減圧指標P1が少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示しているか否かを判断する(ステップS4)。本実施形態では、減圧検出部23は、第1減圧指標P1が、上述した第1減圧閾値Th1を超えている(P1>Th1)場合に、第1減圧指標P1が少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示している(YES)と判断し、第1減圧指標P1が、第1減圧閾値Th1以下である(P1≦Th1)場合に、第1減圧指標P1が少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示していない(NO)と判断する。
【0036】
ステップS4で、第1減圧指標P1がタイヤの減圧を示していない(NO)と判断される場合、減圧検出部23は、車両1のどのタイヤも減圧していないと判断する。そして、処理はステップS1に戻り、再びこれまでのステップが実行される。
【0037】
ステップS4で、第1減圧指標P1が少なくとも1つのタイヤが減圧していることを示している(YES)と判断される場合、減圧検出部23は、ステップS3で算出された第2減圧指標P21に基づいて、第2減圧指標P21が前軸タイヤのうち1つが減圧していることを示しているか否かを判断する(ステップS5)。本実施形態では、減圧検出部23は、第2減圧指標P21が、上述した前軸の第2減圧閾値Th21を超えている(P21>Th21)場合に、第2減圧指標P21が前軸タイヤのうち1つが減圧していることを示していると判断し、第2減圧指標P21が、前軸の第2減圧閾値Th21以下である(P21≦Th21)場合に、第2減圧指標P21が前軸タイヤのうち1つが減圧していることを示していないと判断する。
【0038】
さらに、減圧検出部23は、ステップS3で算出された第2減圧指標P22に基づいて、第2減圧指標P22が後軸タイヤのうち1つが減圧していることを示しているか否かを判断する。本実施形態では、減圧検出部23は、第2減圧指標P22が、上述した後軸の第2減圧閾値Th22を超えている(P22>Th22)場合に、第2減圧指標P22が後軸タイヤのうち1つが減圧していることを示していると判断し、第2減圧指標P22が、後軸の第2減圧閾値Th22以下である(P22≦Th22)場合に、第2減圧指標P22が後軸タイヤのうち1つが減圧していることを示していないと判断する。
【0039】
まとめると、ステップS5では、第2減圧指標P21及び第2減圧指標P22のうち少なくとも一方が、左右いずれかのタイヤが減圧していることを示している(P21>Th21またはP22>Th22である)か否かが判断される。そして、第2減圧指標P21及びP22のうち少なくとも一方が、左右いずれかのタイヤが減圧していることを示していると判断される場合、減圧検出部23は、車両1の少なくとも1つのタイヤが減圧している(YES)と判断し、次なるステップS6が実行される。一方、第2減圧指標P21及びP22の双方が、左右いずれかのタイヤが減圧していることを示していない(P21≦Th21かつP22≦Th22)と判断される場合、減圧検出部23は、車両1のどのタイヤも減圧していない(NO)と判断する。そして、処理はステップS1に戻り、再びこれまでのステップが実行される。
【0040】
ステップS6では、減圧警報部24が、タイヤが減圧していることをドライバーに報知する減圧警報を生成し、警報表示器3等を介してこれを出力する。警報は、タイヤの減圧を示す文字であってもよいし、予め定められたアイコンやグラフィックであってもよい。また、警報は、減圧していると考えられるタイヤの車輪または車軸を報知する表示を含んでもよい。これに加えてまたは代えて、減圧警報部24は、減圧警報を音声やブザー音等の態様で生成し、車両1のスピーカー等から出力するように構成されてもよい。
【0041】
<3.特徴>
上記実施形態に係る減圧検出装置2によれば、初期化のための走行を実行することなく、減圧検出処理を実行することができる。従って、タイヤに減圧が生じている場合、これを早期に検出し、ドライバーに報知することができる。また、減圧警報の出力後、ドライバーがタイヤの調圧をすることなく減圧検出装置2に対して減圧警報を解除する操作を行ったとしても、再び減圧が検出され、減圧警報が出力される。これにより、タイヤの減圧状態が放置されにくくなる。
【0042】
上記実施形態に係る減圧検出装置2によれば、第1減圧指標及び第2減圧指標のいずれもが少なくとも1つのタイヤの減圧を示す場合に、少なくとも1つのタイヤが減圧していると判断される。これにより、実際はいずれのタイヤも減圧していない場合に、誤ってタイヤの減圧を警報してしまう確率を低減することができる。仮に、いずれのタイヤも減圧していない場合に、第1減圧指標が第1減圧閾値を超えてしまう確率がa/100であり、第2減圧指標の少なくとも一方(つまり、P21、P22の少なくとも一方)が第2減圧閾値を超えてしまう確率がb/100であるとする。いずれのタイヤも減圧していない場合、第1減圧指標及び第2減圧指標の両方がそれぞれの減圧閾値を超えてしまう確率は、ab/10000であり、確率a/100やb/100と比較して、極めて低い。なお、確率a/100を低くするためには、第1減圧閾値を充分高く設定することも考えられる。しかし、その場合は、第1減圧閾値をタイヤが相当程度減圧したとき(例えば、50%減圧したとき)の第1減圧指標の値とする必要が生じ、早期に減圧を検出できないおそれがある。第2減圧指標についても同様のことが当てはまる。従って、上記実施形態に係る減圧検出装置2は、早期の減圧検出と、誤報が少ない適切な減圧検出との双方を両立させていると言える。
【0043】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0044】
(1)第1減圧指標P1は、各タイヤの回転速度を比較する指標であればよく、上記実施形態の式で定義されるものに限定されない。例えば、第1減圧指標P1は、上述したDEL1~3のいずれかであってもよい。また例えば、第1減圧指標P1は、以下の式で定義されてもよい。ただし、以下の式で定義される第1減圧指標P1と比較すると、上記実施形態の第1減圧指標P1は、外乱に対してロバスト性が高いという点で好ましい。
【数4】
【数5】
【0045】
さらに、第1減圧指標P1は符号を含めた値であってもよく、第1減圧閾値も符号を考慮して定められてもよい。まとめると、第1減圧指標P1は、各タイヤの回転速度が、全タイヤの回転速度の平均値に近くなるほど所定の値に収束し、少なくとも1つのタイヤの回転速度が、全タイヤの回転速度の平均値から乖離するほど所定の値から乖離する指標であればよい。
【0046】
(2)上記実施形態に係る減圧検出装置は、四輪車両において駆動方式に限られることはなく、FF車両、FR車両、MR車両、4WD車両のいずれにも適用することができる。さらに、四輪車両に限られず、三輪車両又は六輪車両などにも適用することができる。
【0047】
(3)上記実施形態に係る減圧検出方法の各ステップを実行する順序は、適宜変更することができる。例えば、ステップS2及びステップS4が実行された後に、ステップS3及びステップS5が実行されてもよい。また、車輪速センサ6からの回転速度情報に基づいてステップS3及びステップS5が実行された後に、回転速度V1~V4に基づいてステップS2及びステップS4が実行されてもよい。さらに、ステップS2とステップS3、及びステップS4とステップS5が実行される順序は、それぞれ入れ替えることができる。また、ステップS4で「NO」と判断される場合でも、その後ステップS5が実行されてもよく、反対にステップS5で「NO」と判断される場合でも、その後ステップS4が実行されてもよい。
【0048】
(4)第2減圧指標の定義式は、上記実施形態に限られない。高周波数帯域のゲインの積分値に対するねじり共振周波数付近帯域のゲインの積分値の比を左右で比較する指標であれば、上記実施形態の定義式を適宜変更したものを用いることも可能である。
【0049】
(5)さらに、第2減圧指標としては、別の指標を用いることもできる。例えば、タイヤのねじり共振周波数ωは、タイヤが減圧すると、正規内圧のときの値から変化することが知られている。
図5A及び5Bは、前軸タイヤT
FL,T
FRの回転速度信号の周波数スペクトルを、タイヤT
FL,T
FRがともに正規内圧である場合と、タイヤT
FLのみが40%減圧した場合とで比較する図である。
図5Aからは、タイヤT
FL,T
FRのねじり共振周波数ω
FL,ω
FRが、タイヤT
FL,T
FRが正規内圧である場合には48Hz~49Hz付近に位置することが読み取れる。一方、
図5Bからは、タイヤT
FLのみが40%減圧した場合、ねじり共振周波数ω
FLのみが45Hz付近に位置することが読み取れる。このことを利用して、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRのそれぞれについて導出されるねじり共振周波数ω
FL,ω
FR,ω
RL,ω
RRを、同軸の左右輪タイヤで比較する指標を、第2減圧指標P21及びP22とすることもできる。例えば、第2減圧指標P21及びP22は、以下の式でそれぞれ定義することができる。
P21=ω
FL-ω
FR
P22=ω
RL-ω
RR
あるいは、第2減圧指標P21及びP22は、以下の式でそれぞれ定義することもできる。
P21=ω
FL/ω
FR
P22=ω
RL/ω
RR
なお、上記第2減圧指標P21及びP22の定義式では、ω
FLとω
FR、ω
RLとω
RRとは、互いに入れ替わってもよい。
【0050】
上記実施形態と同様に、第2減圧指標P21及びP22のそれぞれについて、左右のタイヤのうち1つが所定の割合だけ減圧したときの値に基づき、第2減圧閾値Th21及びTh22を定めることができる。すなわち、第2減圧指標は、同軸のタイヤの回転速度の周波数特性が、左右のタイヤで互いに近くなるほど所定の値に収束し、同軸のタイヤの回転速度の周波数特性が、左右のタイヤで互いに乖離するほど所定の値から乖離する指標であればよい。
【0051】
(6)第2減圧指標は、前軸タイヤと後軸タイヤとで、互いに異なる指標が用いられてもよい。例えば、前軸タイヤについては上記ねじり共振周波数を左右で比較する指標を適用し、後軸タイヤについては上記ゲイン積分値の比Rを左右で比較する指標を適用してもよいし、その逆を行ってもよい。
【0052】
(7)別の例では、第2減圧指標は、駆動輪タイヤの回転速度と従動輪タイヤの回転速度とを比較する比較値H1及びH2と、車両1の駆動力Fを表す値との関係を表す回帰係数C1及びC2を、左右で比較する指標とすることもできる。車両1が前輪駆動車である場合、比較値H1及びH2は、例えば、以下の式でそれぞれ定義することができる。
H1=(V1-V3)/V3
H2=(V2-V4)/V4
あるいは、車両1が前輪駆動車である場合、比較値H1及びH2は、次のように定義することもできる。すなわち、比較値H1及びH2は、駆動輪タイヤ1つ当たりのスリップ率Sを表す指標であればよく、上記スリップ率Sと等価であれば、どのような式で定義されてもよい。
H1=V1/V3
H2=V2/V4
なお、車両1が後輪駆動車である場合、比較値H1及びH2は、例えば以下の式でそれぞれ定義することができる。
H1=(V3-V1)/V1
H2=(V4-V2)/V2
あるいは、車両1が後輪駆動車である場合、比較値H1及びH2は、次のように定義することもできる。
H1=V3/V1
H2=V4/V2
【0053】
本発明者らの検討によれば、駆動輪タイヤのスリップ率S、すなわち比較値H1及びH2は、車両1の駆動力FあるいはホイールトルクWT等の車両1の駆動力を表す値に応じてそれぞれ変化する。そして、駆動力FあるいはホイールトルクWTとスリップ率Sとの関係は、
図6Aに示すような直線に回帰することができる。駆動力Fは、例えば車両1の前後加速度αや、車両1の駆動源から取得される値(エンジントルク、エンジンの回転数、モーターのトルク、モーターの回転数等)等に基づいて導出することができる。前後加速度αは、例えば加速度センサからの出力信号や、回転速度V1~V4や、衛星測位システムの測位信号等に基づいて導出することができる。ホイールトルクWTは、例えばホイールトルクセンサからの出力信号等に基づいて導出することができる。つまり、車両1は、上記車輪速センサ6の他に、加速度センサ、ホイールトルクセンサ、及び衛星測位システムに接続される通信装置の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0054】
図6Aに示す回帰直線L1及びL2の式は、回帰係数C1、D1、C2、及びD2を用いて、それぞれ以下のように表すことができる。なお、式中のホイールトルクWTは、駆動力を表す他の値に置き換えることができる。
L1:H1=C1×WT+D1
L2:H2=C2×WT+D2
【0055】
タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRがいずれも正規内圧である場合、直線L1の傾きC1及び直線L2の傾きC2は、
図6Aに示すように、一定の範囲内に収束する。駆動輪タイヤが減圧すると、当該タイヤに生じるスリップが減少し、同じホイールトルクWTに対するスリップ率Sが小さくなる。このため、回帰直線の傾きは、小さくなる方向へ変化する。
図6Bは、このことを示すグラフであり、タイヤT
FLが駆動輪タイヤであって、タイヤT
FLのみが40%減圧した場合のホイールトルクWTと比較値H1あるいはH2との関係を示す図である。
図6Bのグラフから分かるように、直線L1の傾きC1は、
図6Aの状態から小さくなる方向に変化し、直線L2の傾きC2から乖離している。
【0056】
図7は、
図6Aの状態(タイヤがいずれも正規内圧である状態)における傾きC1と傾きC2との差分の絶対値と、
図6Bの状態(タイヤT
FLのみが40%減圧した状態)における傾きC1と傾きC2との差分の絶対値とを比較する図である。
図7から分かるように、左右いずれかの駆動輪タイヤが正規内圧から所定の割合だけ減圧した場合の傾きC1と傾きC2との差分の絶対値を第2減圧閾値として予め定めておけば、傾きC1と傾きC2との差分の絶対値(abs(C1-C2))を第2減圧指標として用いることができる。
【0057】
第2減圧指標は、傾きC1と傾きC2との差分の絶対値以外にも、符号を考慮した傾きC1と傾きC2との差分であってもよい。また、第2減圧指標は、傾きC1と傾きC2との比であってもよい。すなわち、第2減圧指標は、車両1のいずれかの駆動輪タイヤが減圧すればするほど、所定の値から乖離する指標とすることができる。さらに、車両1が4WD車両である場合等、駆動輪タイヤと従動輪タイヤとが固定されていない場合は、より大きな駆動力が加わる車輪のタイヤを駆動輪タイヤとし、駆動力の分配を考慮することで、上記第2減圧指標を適用することができる。
【0058】
(8)上記実施形態に係る減圧検出方法の各ステップは、複数のコンピュータで実行されてもよい。すなわち、ステップS1~S6のうち少なくとも一部は、減圧検出装置2に接続される他の外部コンピュータ等によって実行されてもよい。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0060】
<実験条件>
ガソリンエンジン式で、サイズ225/55R18のタイヤが四輪に装着されたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両で、欧州一般道を走行した。走行速度は、時速40km~100kmとした。各タイヤは、いずれも正規内圧とした。走行中に取得されたデータに基づき、上記実施形態の第1減圧指標及び第2減圧指標に基づく減圧検出方法(実施例)と、第1減圧指標のみに基づく減圧検出方法(比較例)とを実行し、タイヤが正規内圧であるにも関わらず、誤って減圧警報が出力されるか否かを検証した。
【0061】
より具体的には、実施例及び比較例では、第1減圧指標として、タイヤTFLとタイヤTRRとのペア、及びタイヤTFRとタイヤTRLとのペアで、回転速度の平均を比較する上記実施形態の指標を用いた。実施例及び比較例における第1減圧閾値は、ともに0.25とした。実施例では、さらに、第2減圧指標として、後軸タイヤの回転速度信号の周波数スペクトルにおいて、第1の周波数帯(37Hz~61Hz)におけるゲインの積分値に対する第2の周波数帯(37Hz~45Hz)におけるゲインの積分値の比を、左右輪タイヤで比較する上記実施形態の指標を用いた。実施例における第2減圧閾値は、0.15(40%減圧相当値)とした。このように、第1減圧閾値及び第2減圧閾値は、いずれも所定値であったため、減圧閾値初期化のための操作及び走行は特に行わなかった。
【0062】
<実験結果>
算出された第1減圧指標及び第2減圧指標は、以下の表1のようになった。表1に示すように、算出された第1減圧指標は、タイヤの個体差により第1減圧閾値を超えていた。このため、比較例に係る減圧検出方法では、減圧警報が出力された。一方、表1に示すように、算出された第2減圧指標は、第2減圧閾値以下であったため、実施例に係る減圧検出方法では、減圧警報が出力されなかった。以上より、実施例に係る減圧検出方法では、初期化が省略されても、減圧が適切に検出されることが確認された。
【表1】