(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097540
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】回転子
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001060
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山岸 大介
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC22
5H601GC34
5H601KK07
5H601KK12
(57)【要約】
【課題】鋼板の破断を抑制し、信頼性の向上した回転子を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、回転子は、複数枚の磁性鋼板27を積層して構成された回転子鉄心と、回転子鉄心の磁石保持スロットに配置された複数の永久磁石Mと、を備えている。磁性鋼板は、中心軸線を中心とする周方向に並んだ複数の磁極形成部を有し、磁極形成部の各々は、周方向に間隔を置いて互いに対向して設けられた少なくとも2つの磁石保持スロット34と、周方向において2つの磁石保持スロットの間に位置する第1鉄心部24aと、2つの磁石保持スロットと前記中心軸線との間に位置する第2鉄心部24bと、第1鉄心部と第2鉄心部とを繋いだブリッジ50と、第1鉄心部に形成されたカシメ用突起54と、を有している。複数枚の磁性鋼板は、カシメ用突起が互いに嵌合した状態に積層されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を中心とする周方向に並んだ複数の磁極形成部を有し、前記磁極形成部の各々は、前記周方向に間隔を置いて互いに対向して設けられた少なくとも2つの磁石保持スロットと、前記周方向において前記2つの磁石保持スロットの間に位置する第1鉄心部と、前記2つの磁石保持スロットと前記中心軸線との間に位置する第2鉄心部と、前記第1鉄心部と前記第2鉄心部とを繋いだブリッジと、前記第1鉄心部に形成されたカシメ用突起と、を有している複数枚の磁性鋼板を、前記カシメ用突起が互いに嵌合した状態に積層して構成された回転子鉄心と、
それぞれ前記磁石保持スロットの内に配置された複数の永久磁石と、
を備える回転子。
【請求項2】
前記中心軸線と直交する前記回転子鉄心の横断面において、前記磁極形成部の前記周方向の磁極中心および前記中心軸線を通り前記回転子鉄心の径方向に延びる軸をd軸とすると、前記カシメ用突起は、前記第1鉄心部において前記d軸の上に設けられている、請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記磁性鋼板は、前記d軸上で前記第1鉄心部に設けられた空隙孔と、前記空隙孔の内に突出している突出部と、を有し、前記カシメ用突起は前記突出部に設けられ、前記d軸上に位置している、請求項2に記載の回転子。
【請求項4】
前記磁石保持スロットの各々は、前記永久磁石が装填された磁石装填領域と、前記磁石装填領域から前記d軸の側に延出している内周側空隙と、前記磁石装填領域から前記磁性鋼板の外周縁の側に延出している外周側空隙と、を含み、
前記ブリッジは、前記2つの磁石保持スロットの前記内周側空隙の間に形成されたセンターブリッジを含んでいる、請求項2に記載の回転子。
【請求項5】
前記カシメ用突起は、前記d軸の上で前記センターブリッジの近傍に設けられ、かつ、前記永久磁石の磁束方向において、前記内周側空隙と対向する領域に設けられている、請求項4に記載の回転子。
【請求項6】
前記磁性鋼板は、前記第1鉄心部において、前記永久磁石の磁束方向において前記外周側空隙と対向する領域に設けられた他のカシメ用突起を更に備えている、請求項4に記載の回転子。
【請求項7】
前記ブリッジは、前記磁石保持スロットの前記外周側空隙と前記磁性鋼板の外周縁との間に設けられ前記周方向に延びるトップブリッジを含んでいる、請求項4から6のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項8】
前記磁石保持スロットの前記外周側空隙は、前記磁性鋼板の外周縁に開口している、請求項4から6のいずれか1項に記載の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、筒状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に支持された円柱形状の回転子と、を備えている。回転子は、回転子鉄心と回転子鉄心に埋め込まれた複数の永久磁石と、を備えている。回転子鉄心としては、多数枚の電磁鋼板を積層して構成された積層鉄心が広く用いられている。
磁石埋込型の回転子において、鋼板形状の製造バラツキや鋼板の積層ズレがある場合、回転子鉄心に作用する回転時の遠心応力が各鋼板で一様とならず、鋼板の強度を超える応力がある鋼板に局所的に作用し、あるいは、電磁鋼板の組織欠陥や傷等を生じる可能性がある。特に、応力が集中する電磁鋼板のブリッジ部が破断することがある。
1つ以上のブリッジ部が破断した場合、鋼板の破断部が回転子鉄心の外周部から外側に突出して固定子と接触し、固定子の絶縁破壊などの故障に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の課題は、鋼板の破断を抑制し、信頼性の向上した回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、中心軸線を中心とする周方向に並んだ複数の磁極形成部を有し、前記磁極形成部の各々は、前記周方向に間隔を置いて互いに対向して設けられた少なくとも2つの磁石保持スロットと、前記周方向において前記2つの磁石保持スロットの間に位置する第1鉄心部と、前記2つの磁石保持スロットと前記中心軸線との間に位置する第2鉄心部と、前記第1鉄心部と前記第2鉄心部とを繋いだブリッジと、前記第1鉄心部に形成されたカシメ用突起と、を有している複数枚の磁性鋼板を、前記カシメ用突起が互いに嵌合した状態に積層して構成された回転子鉄心と、それぞれ前記磁石保持スロットの内に配置された複数の永久磁石と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る永久磁石型の回転電機の横断面図。
【
図2】
図2は、前記回転電機の回転子を示す斜視図。
【
図3】
図3は、前記回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図4】
図4は、前記回転子のカシメ用突起部分を拡大して示す斜視図。
【
図5】
図5は、前記カシメ用突起が積層、嵌合した状態を模式的に示す断面図。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図8】
図8は、第4実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
【
図9】
図9は、第5実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る永久磁石型の回転電機の横断面図、
図2は、回転子の斜視図である。
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成され、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子の内側に中心軸線Cの回りで回転自在に、かつ固定子12と同軸的に支持された回転子14と、を備えている。回転電機10は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、駆動モータあるいは発電機に好適に適用される。
【0009】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と固定子鉄心16に巻き付けられた電機子巻線(コイル)18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性鋼板、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板(鉄心片)を多数枚、同芯状に積層して構成されている。固定子鉄心16の内周部には、複数のスロット20が形成されている。複数のスロット20は、周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面に開口し、この内周面から放射方向に延出している。また、各スロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って延在している。複数のスロット20を形成することにより、固定子鉄心16の内周部は、回転子14に面する複数(例えば、本実施形態では48個)のティース21を構成している。電機子巻線18は複数のスロット20に挿通され、各ティース21に巻き付けられている。電機子巻線18に電流を流すことにより、固定子12(ティース21)に所定の鎖交磁束が形成される。
【0010】
回転子14は、両端が図示しない軸受により回転自在に支持された円柱形状のシャフト(回転軸)22と、このシャフト22の軸方向ほぼ中央部に固定された円筒形状の回転子鉄心24と、回転子鉄心24内に埋め込まれた複数の永久磁石Mと、を有している。回転子14は、固定子12の内側に僅かな隙間(エアギャップ)を置いて固定子12と同軸的に配置されている。すなわち、回転子14の外周面は、僅かな隙間をおいて、固定子12の内周面に対向している。回転子鉄心24は中心軸線Cと同軸的に形成された内孔25を有している。シャフト22は内孔25に挿通および嵌合され、回転子鉄心24と同軸的に延在している。
図2に示すように、回転子鉄心24は、磁性鋼板、例えば、ケイ素鋼などで形成された厚さ0.5mm程度の円環状の電磁鋼板27を多数枚、同芯状に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心24は、磁性板材の積層方向に延びる前記中心軸線Cと、中心軸線Cと同軸の内孔25と、中心軸線Cと同軸の外周面と、を有している。
【0011】
図1に示すように、本実施形態において、回転子14は、周方向に並んで位置する複数の磁極、例えば、8磁極を有している。回転子鉄心24において、周方向に隣合う磁極間の境界および中心軸線Cを通り回転子鉄心24の放射方向あるいは径方向に延びる軸をq軸、およびq軸に対して周方向に電気的に90°離間した軸、つまり、磁極の周方向の磁極中心と中心軸線Cとを通る軸、をd軸と称する。ここでは、固定子12によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向をq軸と称する。d軸およびq軸は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心24の1磁極分(磁極形成部と称する場合がある)とは、周方向に隣合う2本のq軸間の領域(1/8周の周角度領域)をいう。回転子鉄心24は、8極(磁極)に構成され、1磁極のうちの周方向中央がd軸となる。
【0012】
回転子鉄心24には、1磁極ごとに、複数の永久磁石、例えば、2つの永久磁石Mが埋設されている。回転子鉄心24の周方向において、各d軸の両側に、永久磁石Mを装填するための2つの磁石保持スロット(磁石埋め込み孔あるいは磁石保持空洞部と称する場合もある)34が形成されている。2つの永久磁石Mは、それぞれ磁石保持スロット34内に装填および配置され、例えば、接着剤等により回転子鉄心24に固定されている。中心軸線Cと直交する回転子鉄心24の横断面において、磁石保持スロット34および装填された永久磁石Mは、長手方向の中心軸がd軸に対し傾斜して位置し、回転子鉄心の外周面に向かって開く向きのほぼV字状に配置されている。
【0013】
図1に示すように、回転子鉄心24に複数の空隙孔(空洞部)30が形成されている。空隙孔30は、それぞれ回転子鉄心24を軸方向に貫通して延びている。空隙孔30は、それぞれq軸上で、回転子鉄心24の径方向ほぼ中央に位置し、隣合う磁極の2つ磁石保持スロット34の間に設けられている。空隙孔30は、多角形、例えば、ほぼ五角形の断面形状を有している。各空隙孔30は、磁束を通り難くするフラックスバリアとして機能し、回転子14における鎖交磁束の流れや永久磁石Mの磁束の流れを規制する。また、複数の空隙孔30を形成することにより、回転子鉄心24の軽量化を図ることができる。
【0014】
更に、本実施形態では、回転子鉄心24の外周部に複数の外周空隙孔32が形成されている。外周空隙孔32は、それぞれ回転子鉄心24を軸方向に貫通して延びている。外周空隙孔32は、それぞれd軸上で、回転子鉄心24の外周面の近傍に位置し、2つの磁石保持スロット34の間に設けられている。各空隙孔32は、磁束を通り難くするフラックスバリアとして機能し、回転子14における鎖交磁束の流れや永久磁石Mの磁束の流れを規制する。
【0015】
次に、回転子14および回転子鉄心24の構成について詳細に説明する。
図3は、回転子の1磁極相当部分(電磁鋼板の磁極形成部)を拡大して示す断面図、
図4は、固定子鉄心のカシメ用突起部分を拡大して示す斜視図、
図5は、前記カシメ用突起が積層、嵌合した状態を模式的に示す断面図である。
図2および
図3に示すように、各磁石保持スロット34は、回転子鉄心24を軸方向に貫通して形成されている。回転子鉄心24の中心軸線Cと直交する横断面でみた場合、2つの磁石保持スロット34は、d軸に対して線対称に形成および配置され、例えば、ほぼV字状に並んで配置されている。
【0016】
図3に示すように、フラックスバリアとして機能する磁石保持スロット34は、永久磁石Mの断面形状に対応したほぼ矩形状の磁石装填領域34aと、磁石装填領域34aの外周側端から回転子鉄心の外周面の近傍まで膨出した外周側空隙(第1磁気空隙)34cと、磁石装填領域34aの内周側端からd軸の近傍まで膨出した内周側空隙(第2磁気空隙)34bと、を有している。回転子鉄心24は、磁石装填領域34aの長手方向両端において磁石保持スロット34の第2側縁35bから磁石保持スロット34内に突出した一対の保持突起(凸形状部)33a、33bを有している。一例では、各保持突起33a、33bは、円弧状に湾曲した突出端(頂部)を有している。
【0017】
磁石装填領域34aは、平坦な第1側縁(外周側長辺)35aと、この第1側縁35aと隙間を置いて平行に対向する平坦な第2側縁(内周側長辺)35bとの間に形成されている。第2側縁35bおよび第1側縁35aは、d軸に対して、90度よりも小さい角度θで傾斜して延在している。すなわち、磁石装填領域34aは、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように傾斜して設けられている。角度θは、図示の例に限定されることなく、任意に変更可能である。なお、前述した一対の保持突起33a、33bは、第2側縁35bの長手方向の両端から外周側空隙34c内、および内周側空隙34b内にそれぞれ突出している。
【0018】
図2および
図3に示すように、永久磁石Mは、例えば、横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。永久磁石Mは、磁石保持スロット34の磁石装填領域34aに装填され、回転子鉄心24のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石Mは、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。
図3に示したように、各永久磁石Mは、矩形状の断面形状を有し、この断面は、互いに平行に対向する一対の長辺および互いに対向する一対の短辺を有している。なお、永久磁石Mの断面形状は、矩形状(長方形)に限らず、平行四辺形としてもよい。
【0019】
永久磁石Mは、磁石保持スロット34の磁石装填領域34aに装填され、一方の長辺が第1側縁35aに当接し、あるいは、僅かな隙間を置いて対向し、他方の長辺が第2側縁35bに当接し、あるいは、僅かな隙間を置いて対向している。永久磁石Mの一対の短辺は、保持突起33a、33bにそれぞれ当接している。これにより、永久磁石Mは、長手方向の位置および幅方向の位置が位置決めされた状態で磁石装填領域34a内に保持されている。永久磁石Mは接着剤等により回転子鉄心24に固定されてもよい。
d軸の両側に位置する2つの永久磁石Mは、ほぼV字状に並んで配置されている。永久磁石Mの一対の長辺は、d軸に対して、90度よりも小さい角度θだけ傾斜して延在している。すなわち、2つの永久磁石Mは、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように傾斜して配置されている。
【0020】
各永久磁石Mは、長辺に垂直な方向に磁化されている。d軸の円周方向の両側に位置する2つの永久磁石M、すなわち、1磁極を構成する2つの永久磁石Mは、磁化方向が同一となるように配置されている。また、各q軸の円周方向の両側に位置する2つの永久磁石Mは、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。本実施形態では、回転電機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石MのN極とS極の表裏を交互に配置した8磁極(4極対)の永久磁石埋め込み型の回転電機を構成している。
【0021】
図3に示すように、回転子鉄心24を構成している各電磁鋼板27は、各磁極において、周方向において2つの磁石保持スロット34の間に位置する扇状の外周領域(第1鉄心部)24aと、2つの磁石保持スロット34と内孔25(中心軸線C)との間に位置する内周領域(第2鉄心部)24bと、第1鉄心部24aと第2鉄心部24bとを連結するセンターブリッジ50および2つのトップブリッジ52と、を備えている。
図3においては、第1鉄心部24aと第2鉄心部24bとにそれぞれ破線の斜線を付して示している。
センターブリッジ50は、2つの磁石保持スロット34の内周側空隙34bの間に設けられ、d軸の上に位置している。2つのトップブリッジ52は、それぞれ磁石保持スロット34の外周側空隙34cと電磁鋼板27の外周縁との間に設けられ、円周方向に延在している。
【0022】
各電磁鋼板27は、第1鉄心部24aに設けられたカシメ用の突起(ダボ)54を更に備えている。本実施形態では、電磁鋼板27は、中心軸線Cの側から空隙孔32の中に突出している突出部56を有し、この突出部56にカシメ用の突起54が設けられている。すなわち、カシメ用突起54は、磁束が通り難い空隙孔32の内に配置されている。また、カシメ用突起54はd軸の上に位置している。
【0023】
図4に示すように、一例では、カシメ用突起(ダボ)54は、例えば、Vカシメ、V突起カシメで構成され、電磁鋼板の一部を打ち出すことによりほぼV字状に突出したカシメ用突起あるいはカシメ用凸部である。カシメ用突起54は、平面視で矩形状を有し、中央部が軸方向に突出するように屈曲している。カシメ用突起54は、電磁鋼板27をプレス加工する際に同時に形成される。すなわち、カシメ用突起54は、突出部56に形成された互いに平行な2本のスリットの間の部分を軸方向に打ち出すことで形成され、突出部56に繋がる長手方向の両端を有する両持ちの突起としている。
なお、カシメ用突起54は、矩形状に限らず、他の種々の形状を選択可能である。また、カシメ用突起54は、両持ちの突起に限らず、片持ちの突起としても良い。
【0024】
複数枚の電磁鋼板27を軸方向に同軸的に積層することにより回転子鉄心24が構成されている。多数枚の電磁鋼板27は、カシメ用突起54の突出方向が同一方向を向いた状態で積層されている。
図5に示すように、積層することにより、各電磁鋼板27のカシメ用突起54は、隣合う電磁鋼板27のカシメ用突起54に順に嵌合されている。電磁鋼板27を積層した後、カシメ用突起54を軸方向にカシメることで、カシメ用突起54同士が一層強固に嵌合させても良い。
【0025】
このようにカシメ用突起54を互いに嵌合することにより、複数枚の電磁鋼板27は周方向の位置が互いに位置決めされ、更に、隣合う電磁鋼板27の第1鉄心部24a同士が軸方向(積層方向)に強固に連結される。そのため、何れか1枚の電磁鋼板27に大きな外力が作用した場合でも、この外力はカシメ用突起54で連結されている複数枚の電磁鋼板27の第1鉄心部24aに分散して作用する。これにより、各電磁鋼板27のセンターブリッジ50およびトップブリッジ52に大きな外力が作用することを抑制し、センターブリッジ50およびトップブリッジ52の損傷、破断を未然に防止することができる。
なお、前述したように、カシメ用突起54は、回転子鉄心24を流れる磁束に影響を与え難い位置、例えば、d軸上、あるいは、空隙孔の内部、に設けられていることが望ましい。また、カシメ用突起54は、1つに限らず、第1鉄心部24aに複数のカシメ用突起を設けてもよい。
【0026】
以上のように構成された第1実施形態によれば、カシメ用突起を介して電磁鋼板の第1鉄心部を互いに連結することにより、電磁鋼板の破断を抑制し、信頼性の向上した回転子を提供することができる。
【0027】
次に、他の実施形態に係る回転子について説明する。なお、以下に説明する他の実施形態において、前述した第1実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、第1実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す横断面図である。
図示のように、第2実施形態によれば、各電磁鋼板27の第1鉄心部24aに設けられた突出部56は、空隙孔32に対して、電磁鋼板27の外周側から空隙孔32に突出している。カシメ用突起54は、突出部56に形成され、空隙孔32の内に位置している。更に、カシメ用突起54は、d軸上に配置されている。回転子の他の構成は、前述した第1実施形態に係る回転子と共通である。
上記のように構成された第2実施形態に係る回転子においても、前述した第1実施形態に係る回転子と同様の作用、効果を得ることができる。
【0028】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す横断面図である。
図示のように、第3実施形態によれば、第1鉄心部24aに空隙孔32が設けられていない。第1鉄心部24aのカシメ用突起54は、センターブリッジ50の近傍でd軸の上に設けられている。更に、カシメ用突起54は、永久磁石Mの磁束に影響を与え難い位置、ここでは、永久磁石Mの長辺と対向していない領域、すなわち、磁石保持スロット34の内周側空隙34bと対向する領域、に設けられている。
回転子の他の構成は、前述した第1実施形態に係る回転子と共通である。
上記のように構成された第3実施形態に係る回転子においても、前述した第1実施形態に係る回転子と同様の作用、効果を得ることができる。
【0029】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す横断面図である。
図示のように、第4実施形態によれば、電磁鋼板27の第1鉄心部24aに複数、例えば、3つのカシメ用突起54a、54bを設けている。
カシメ用突起54aは、センターブリッジ50の近傍でd軸の上に設けられている。更に、カシメ用突起54aは、永久磁石Mの磁束に影響を与え難い位置、ここでは、永久磁石Mの長辺と対向していない領域、すなわち、永久磁石Mの長辺と直交する方向において、磁石保持スロット34の内周側空隙34bと対向する領域、に設けられている。
【0030】
2つのカシメ用突起54bは、第1鉄心部24aにおいて、一方の磁石保持スロット34の外周側空隙34cと電磁鋼板27の外周縁との間の領域、および、一方の磁石保持スロット34の外周側空隙34cと電磁鋼板27の外周縁との間の領域、にそれぞれ設けられている。更に、カシメ用突起54bは、永久磁石Mの磁束に影響を与え難い位置、ここでは、永久磁石Mの長辺と対向していない領域、すなわち、永久磁石Mの長辺と直交する方向において、磁石保持スロット34の内周側空隙34bと対向する領域、に設けられている。本実施形態において、3つのカシメ用突起54a、54bは、同一の形状、例えば、V字状突起とし、同一の方向に突出している。
【0031】
第4実施形態において、回転子の他の構成は、前述した第1実施形態に係る回転子と共通である。上記のように構成された第4実施形態に係る回転子においても、前述した第1実施形態に係る回転子と同様の作用、効果を得ることができる。また、第4実施形態によれば、カシメ用突起を複数設けることにより、隣合う電磁鋼板の第1鉄心部同士を一層強固に連結することが可能となる。
なお、第4実施形態において、複数のカシメ用突起は、互いに異なる形状に形成されていてもよく、あるいは、互いに異なる方向に突出した突起としても良い。
【0032】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す横断面図である。
図示のように、第5実施形態によれば、各磁石保持スロット34の外周側空隙34cは、電磁鋼板27の外周縁に開口している。一対のトップブリッジは省略されている。電磁鋼板27の第1鉄心部24aは、センターブリッジ50のみを介して第2鉄心部24bに連結されている。
第5実施形態において、回転子の他の構成は、前述した第1実施形態に係る回転子と共通である。
【0033】
上記のように構成された第5実施形態に係る回転子においても、前述した第1実施形態に係る回転子と同様の作用、効果を得ることができる。また、第5実施形態によれば、トップブリッジを省略することにより、回転子鉄心のブリッジにおける磁石の磁束漏れを低減し、磁石重量当たりに発生する磁石トルクを増加することが可能となる。センターブリッジ50のみの場合でも、隣合う電磁鋼板の第1鉄心部をカシメ用突起54によって互いに連結することにより、センターブリッジに作用する外力を低減し、センターブリッジの損傷、破断を防止することができる。
第5実施形態において、第1鉄心部24aの空隙孔32は省略しても良い。また、カシメ用突起54は、1つに限らず、第1鉄心部24aに複数のカシメ用突起を設けても良い。
【0034】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、回転子の寸法、材質、形状等は、前述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。電磁鋼板の積層枚数は、上述した実施形態に限定されることなく、種々選択可能である。カシメ用突起54は、設置位置は任意に変更可能である。第1転身部に設けるカシメ用突起54の数は、1つあるいは3つに限らず、2つあるいは4つ以上としてもよい。カシメ用突起は、V字状のカシメ用突起に限らず、他の形状の突起で構成してもよい。
【符号の説明】
【0035】
10…回転電機、12…固定子、14…回転子、24…回転子鉄心、
24a…第1鉄心部、24b…第2鉄心部、27…電磁鋼板、
34…磁石保持スロット、50…センターブリッジ、52…トップブリッジ、
54…カシメ用突起、M…永久磁石