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特開2024-97544磁気共鳴現象シミュレーション装置、磁気共鳴現象シミュレーション方法、および磁気共鳴現象シミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097544
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】磁気共鳴現象シミュレーション装置、磁気共鳴現象シミュレーション方法、および磁気共鳴現象シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61B5/055 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001067
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹島 秀則
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA20
4C096AB50
4C096AD30
(57)【要約】
【課題】磁気共鳴現象シミュレーションにおけるサブボクセルの数が増えた場合において、計算速度の低下を低減すること。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置は、入力部と、特定部と、計算部と、を備える。入力部は、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスと、前記磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)とを入力する。特定部は、前記複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である複数の等価アイソクロマットを、前記サブシーケンスに基づいて特定する。計算部は、前記複数の等価アイソクロマットを共通化して、前記サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスと、前記磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)とを入力する入力部と、
前記複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である複数の等価アイソクロマットを、前記サブシーケンスに基づいて特定する特定部と、
前記複数の等価アイソクロマットを共通化して、前記サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算する計算部と、
を備えた磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項2】
前記特定部は、1以上の特定方向に沿った複数のアイソクロマットを、前記複数の等価アイソクロマットとして特定する、
請求項1に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項3】
前記特定部は、
前記サブシーケンスに基づいて、複数の方向に沿った磁場の位置依存性の有無を判定し、
前記複数の方向のうち前記位置依存性が無い方向を、前記特定方向として特定する、
請求項2に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項4】
前記複数の方向は、直交3軸であって、
前記特定部は、前記直交3軸における軸方向各々において、前記サブシーケンスに基づいて、前記位置依存性の有無を判定する、
請求項3に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項5】
前記特定部は、前記サブシーケンスにおいて傾斜磁場の印加が無ければ、前記位置依存性の有無を判定しない、
請求項3に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項6】
前記サブシーケンスとしてRFパルスとともに傾斜磁場の印加が実施される場合、前記計算部は、前記RFパルスの送信感度が共通の前記複数の等価アイソクロマットに対して、前記サブシーケンスによる前記挙動を計算する、
請求項3に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項7】
前記サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合、前記計算部は、前記磁気共鳴信号の受信感度が共通の前記複数の等価アイソクロマットに対して、前記サブシーケンスによる前記挙動を計算する、
請求項3に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項8】
前記サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合、前記計算部は、前記特定方向に沿った複数のアイソクロマットにおける磁化の和を計算し、前記計算された磁化の和に対して、前記サブシーケンスによる前記挙動を計算する、
請求項3に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項9】
前記アイソクロマットは、前記サブボクセルを代表する代表点において、複数の物理パラメータを有する集合体に対応する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の磁気共鳴現象シミュレーション装置。
【請求項10】
磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスを入力し、
前記磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)を入力し、
前記複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である複数の等価アイソクロマットを、前記サブシーケンスに基づいて特定し、
前記複数の等価アイソクロマットを共通化して、前記サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算する、
ことを備えた磁気共鳴現象シミュレーション方法。
【請求項11】
コンピュータに、
磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスを入力し、
前記磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)を入力し、
前記複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である等価アイソクロマットを、前記サブシーケンスに基づいて特定し、
前記等価アイソクロマットを共通化して、前記サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算する、
ことを実現させる磁気共鳴現象シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴現象シミュレーション装置、磁気共鳴現象シミュレーション方法、および磁気共鳴現象シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴現象シミュレーションは、静磁場の例えば1ボクセルに含まれる複数の水素原子をまとめた仮想的な仮想水素原子の磁化に対して、磁気共鳴を現象論的に記述したブロッホ(Bloch)方程式を数値的に逐次解くことで実現される。ブロッホ方程式は、非特許文献1に記載のように、以下の式(1)で与えられる。
【0003】
【数1】
【0004】
式(1)を表す記号、添え字等は、非特許文献1の式(1)と同様なものを用いている。例えば、式(1)におけるベクトルM(t、r)は、空間位置(spatial position)rと時刻tとにおける磁化ベクトル(magnetization vector)を示している。また、式(1)におけるTは、終了時刻(terminal time)を示している。式(1)におけるγは、磁気回転比(gyromagnetic ratio)を示している。式(1)におけるベクトルB(t、r)は、空間位置rと時刻tとにおける外部磁場(external magnetic field)を示している。また、式(1)において、磁化ベクトルM(t、r)を引数とするベクトルRは、緩和項(relaxation term)を示している。また、式(1)におけるベクトルM(0、r)は、時刻t=0、空間位置rにおける初期磁化(initial magnetization)ベクトルを示している。磁気共鳴現象シミュレーションでは、磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるモデルに配置されたすべての仮想水素原子の数に応じた複数のブロッホ方程式が、任意の時刻に応じて解かれることとなる。
【0005】
磁気共鳴現象シミュレーションにおけるシミュレーションの精度を向上させるために、1つのボクセルは、複数のサブボクセルに分割されることがある。これにより、例えば、グラディエントスポイリング(Gradient spoiling)による効果およびT による効果が、磁気共鳴現象シミュレーションにより再現される。
【0006】
しかしながら、1つのボクセルに対するサブボクセルの分割数が増えると、計算量が膨大になり、磁気共鳴現象シミュレーションの計算速度が大幅に遅くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Graf C, Rund A, Aigner CS, Stollberger R. Accuracy and Performance Analysis for Bloch and Bloch-McConnell Simulation Methods. Journal of Magnetic Resonance. 2021; 329: 107011. doi: 10.1016/j.jmr.2021.107011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、磁気共鳴現象シミュレーションにおけるサブボクセルの数が増えた場合において、計算速度の低下を低減することにある。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置は、入力部と、特定部と、計算部と、を備える。入力部は、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスと、前記磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)とを入力する。特定部は、前記複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である複数の等価アイソクロマットを、前記サブシーケンスに基づいて特定する。計算部は、前記複数の等価アイソクロマットを共通化して、前記サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置の一例を示すブロック図。
図2図2は、実施形態に係り、スピンエコー法におけるパルスシーケンスの一例を示す図。
図3図3は、実施形態に係り、ボクセルに対する64個のサブボクセルへの分割の一例を示す図。
図4図4は、実施形態に係り、MRシミュレーション処理の手順の一例を示すフローチャート。
図5図5は、実施形態に係る仮想MRI装置の一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、磁気共鳴現象シミュレーション装置、磁気共鳴現象シミュレーション方法、および磁気共鳴現象シミュレーションプログラムの実施形態について詳細に説明する。図1は、磁気共鳴現象シミュレーション装置1の一例を示すブロック図である。
【0012】
(実施形態)
以下、説明を具体的にするために、磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、磁気共鳴を古典力学に従って現象論的に記述したブロッホ(Bloch)方程式を用いて、磁気共鳴現象を計算(シミュレート)するものとする。磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、例えば、ロドリゲス回転公式を適用して、磁気共鳴の数値計算を行う。なお、磁気共鳴現象シミュレーション装置1による磁気共鳴の数値計算は、ロドリゲス回転公式を適用することに限定されず、非特許文献1で述べられているように、例えば、ルンゲクッタ法や可変時間ルンゲクッタ法など、他の手法により実現されてもよい。ロドリゲス回転公式を用いたシミュレーションの方法については、非特許文献1に記載されており既知であるため、説明は省略する。本発明はBloch方程式以外にも、例えば、Bloch-Torrey方程式やBloch-McConnel方程式に対しても同様に適用可能である。
【0013】
また、磁気共鳴現象シミュレーション装置1による磁気共鳴現象のシミュレーションは、古典力学に従った方程式を用いたものに限定されず、シュレディンガー方程式などの量子力学に従った方程式を用いて実行されてもよい。このとき、磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、例えば、密度行列シミュレーション(Density Matrix Simulation)などにより、磁気共鳴現象のシミュレーションを実行する。
【0014】
磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、入力インターフェース11と、出力インターフェース13と、キャッシュメモリ15と、中央演算処理回路17と、保持メモリ19と、数値演算回路21と、を備える。なお、磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、中央演算処理回路17と数値演算回路21とにおいて実行される各種機能を実現するプログラム、および/または出力値算出機能217による出力結果を記憶する記憶装置(例えば、各種ストレージ、各種メモリなど)を備えていてもよい。記憶装置は、例えば、HDD(Hard disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、CD(Compact Disc)およびDVD(Digital Versatile Disc)などの光学ディスク、可搬性記憶媒体等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。
【0015】
入力インターフェース11は、例えば、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と呼ぶ)におけるパルスシーケンス入力機能2に電気的に接続される。具体的には、パルスシーケンス入力機能2は、MRI装置において、シーケンス制御回路から出力されたパルスシーケンスにおける一つの断片(セグメント)に対応する複数のサブシーケンス各々を、入力インターフェース11に入力する。すなわち、パルスシーケンスは、時系列に沿った複数のサブシーケンスにより構成される。入力インターフェース11は、MRI装置のパルスシーケンス入力機能2の出力端に接続される。入力インターフェース11は、入力部に相当する。
【0016】
サブシーケンスは、パルスシーケンスにおいて、傾斜磁場の印加のみの期間(Gradient)と、RFパルスとともに傾斜磁場が印加される期間(RF&Gradient)と、傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートを行う期間(Graidient&ADC)と、傾斜磁場の印加無しの時間(No-Gradient)と、に大別される。例えば、入力インターフェース11は、例えば、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスを、中央演算処理回路17と数値演算回路21とに入力する。すなわち、入力インターフェース11は、MRI装置におけるシーケンス制御回路からの出力された複数のサブシーケンス各々を、時系列に沿って中央演算処理回路17と数値演算回路21とに入力する。なお、中央演算処理回路17と数値演算回路21とは、まとめて処理回路として称されてもよい。
【0017】
図2は、スピンエコー法におけるパルスシーケンスの一例を示す図である。図2におけるTxrealは、実部の送信RFパルスを示している。なお、虚部の送信RFパルスの波形は、実部の送信RFパルスと同形であってもよいし、異なっていてもよい。Gzは、スライス選択傾斜磁場を示している。Gyは、位相エンコード傾斜磁場を示している。Gxは、リードアウト傾斜磁場を示している。図2に示すパルスシーケンスにおいて、90°のRFパルスの印加からエコー時間(TE)経過後に、リードアウト傾斜磁場の印加とともに、MR信号が収集される。MR信号は、アナログデジタルコンバーター(ADC)によりデジタル信号に変換される。なお、図2には不図示であるが、例えば、プリパレ―ションパルス(Preparation pulse)などの各種パルスが、パルスシーケンスの種別に応じて適宜実施されてもよい。
【0018】
図2に示すように、パルスシーケンスは、傾斜磁場の印加(Gradient)と、傾斜磁場およびRFパルスの印加(RF&Gradient)と、傾斜磁場の印加およびアナログデジタルコンバート(Gradient&ADC)と、傾斜磁場の印加無しの時間(No-Gradient)との組み合わせにより表現される。例えば、図2に示すスピンエコー法の場合、Gradientと、RF&Gradientと、Gradient&ADCと、No-gradientとの組み合わせが、位相エンコードのステップ数に亘って繰り返される。位相エンコードごとに、図2に示すGradientは1回の計算、Gradient&ADCは、ADCの回数(サンプリングの回数)だけ繰り返される。これらの計算は、例えば、RF&Gradientに比べて少ない計算回数で実現される。
【0019】
パルスシーケンス入力機能2は、プリパルスなどのGradientと、RF&Gradientと、クラッシャーなどのGradientと、RF&Gradientと、Gradient&ADCと、No-Gradientとを時系列に沿って入力インターフェース11に入力する。入力インターフェース11は、Gradientと、RF&Gradientと、RF&Gradientと、Gradient&ADCとを、時系列に沿って中央演算処理回路17へ出力する。
【0020】
なお、本実施形態に関するパルスシーケンスは、図2に示すシーケンスに限定されない。一般的なパルスシーケンスでは、RF&Gradientと、Gradientと、Gradient&ADCとNo-Gradientとの組み合わせが、適宜繰り返されることとなる。
【0021】
また、入力インターフェース11は、例えば、MRI装置において、送信回路の出力端および傾斜磁場電源の出力端に接続されてもよい。このとき、サブシーケンスは、傾斜磁場の強度に対応する電流および電圧、当該傾斜磁場の印加タイミング、送信コイルに供給される電流およびRFパルスの印加タイミング、検出タイミングを有する。また、入力インターフェース11は、MRI装置に接続されることに限定されず、例えば、サブシーケンスを含むパルスシーケンスのデータを生成し、出力可能な外部装置(例えば、シーケンス生成装置)に接続されてもよい。なお、パルスシーケンスの入力元の各種装置と入力インターフェース11との接続は、ネットワークを介して接続されてもよい。
【0022】
また、入力インターフェース11は、ユーザからの各種指示や情報入力を受け付ける入力装置を有していてもよい。このとき、入力インターフェース11は、例えば、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス、キーボード等の入力デバイスに相当する。例えば、入力インターフェース11は、磁気共鳴現象シミュレーション装置1によるシミュレーションの結果に関する出力指示が入力されてもよい。出力指示とは、例えば、複数のボクセル各々に関する、IQ信号に相当する。
【0023】
入力インターフェース11は、磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)を、例えば、中央演算処理回路17と数値演算回路21とに入力する。複数のサブボクセルは、1つのボクセルを分割することにより設定される。
【0024】
1つのボクセルに対する複数のサブボクセルによる分割の方向は、任意に設定可能である。以下、説明を具体的にするために、1つのボクセルに対する分割の方向は、直交3軸であるものとする。直交3軸は、例えば、静磁場の印加方向をZ方向とし、Z方向に互いに直交する2軸をX方向とY方向とする。また、複数のサブボクセルの総数は、直交3軸で1つのボクセルを4分割した64個であるものとする。なお、分割の総数は、64に限定されず、任意に設定可能である。
【0025】
シフトは、複数のサブボクセル各々におけるB(静磁場)の揺らぎ、すなわち磁場の不均一に相当する。換言すれば、Bシフトは、サブボクセルに含まれる複数の分子が有する磁気的な揺らぎであって、静磁場強度により規定される共鳴周波数に対する不完全性を示すものである。Bシフトは、例えば、数ヘルツオーダーの共鳴周波数の揺らぎを表すものである。
【0026】
複数のサブボクセルにおいて、異なるBシフトを与えることで、T による効果が、磁気共鳴現象シミュレーションの結果に反映されることとなる。なお、Bシフトは、複数のサブボクセル全域に亘って一定に設定されてもよいし、特定の方向に沿って一定に設定されてもよい。複数のサブボクセルへの1つのボクセルの分割は、複数のサブボクセルにおいて、少なくとも一部のBシフト値が同じになる形で実施される。
【0027】
図3は、ボクセルVXLに対する64個のサブボクセルSVLへの分割の一例を示す図である。図3に示すように、ボクセルVXLは、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向にそれって、それぞれ4分割されている。図3に示す同一のハッチングは、Bシフトの値が同一であることを示している。なお、図3に示すように、Bシフトの値は、全方向で均一に変化することに限定されず、任意の方向に沿って、変化されてもよい。
【0028】
シフトの値に対する、Bシフトの値の度数(サブボクセルの数)の分布は、T による効果を磁気共鳴現象シミュレーションの結果に反映させるため、例えばローレンシアン(ローレンツ曲線、コーシー分布とも称される)に従った分布となるように設定される。以下、図3に示すように、ボクセルVXLが複数のサブボクセルSVLに分割されているものとして説明する。
【0029】
複数のサブボクセルに対して複数のアイソクロマット(isochromat)が設定される。複数のアイソクロマット各々は、複数のサブボクセル各々を代表する代表点であって、複数の物理パラメータを有する集合体に対応する。すなわち、複数のアイソクロマット各々は、質点に類するものである。複数の物理パラメータは、例えば、磁化、T、Tなどである。なお、複数の物理パラメータは、磁化、T、Tなどに限定されず他の物理的なパラメータをさらに備えてもよい。また、集合体は、上記物理パラメータに加えて、MT(マグネティック トランスファー)、Bloch-Torrey equation法における拡散に関するパラメータなどの他のパラメータをさらに備えていてもよい。
【0030】
出力インターフェース13は、例えばMRI装置におけるシーケンス制御回路のサンプリングデータ出力機能4に接続される。出力インターフェース13は、制御機能171による制御のもとで、サンプリングデータ出力機能4に、出力値算出機能217により算出された出力値を出力する。なお、出力インターフェース13との接続先は、シーケンス制御回路に限定されず、表示、解析、処理などで当該出力値を利用可能な各種装置(例えば、ディスプレイ、解析装置、画像生成装置など)であってもよい。また、出力値の出力先の各種装置と出力インターフェース13との接続は、ネットワークを介して接続されてもよい。また、出力インターフェース13は、制御機能171による制御の下で、出力値等を表示するディスプレイを有していてもよい。このとき、ディスプレイは、例えば、液晶表示器等の表示デバイスである。出力インターフェース13は、出力部に相当する。
【0031】
キャッシュメモリ15は、中央演算処理回路17に接続される。キャッシュメモリ15は、複数のサブシーケンスを一時的に記憶する。キャッシュメモリ15は、一時記憶部(CPUメモリ)に相当する。複数のサブシーケンスは、保持メモリ19に保持されたロドリゲス回転公式に関する行列と、例えばルックアップテーブル(Look Up table)などにより関連付けられている。当該行列は、例えば、パルシーケンスの一部(サブシーケンス)を用いて計算機能211により算出された粒子の状態遷移を示す行列である。例えば、キャッシュメモリ15は、図2に示すように、複数のサブシーケンス(Gradient、RF&Gradient、Graidient&ADC、No-Gradient)各々が実施される期間に亘る当該行列の積を記憶する。行列の積は、複数のサブシーケンス各々の実行による状態遷移の結果に相当する。以下、当該行列の積を、結合遷移行列と呼ぶ。
【0032】
中央演算処理回路17は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサにより実現される。なお、中央演算処理回路17は、特定用途向け集積回路、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイFPGA))等の回路の組み合わせにより実現されてもよい。中央演算処理回路17は、自身のメモリまたは不図示の記憶装置に保存されたプログラムを読み出し実行することで、制御機能171および特定機能173を実現する。中央演算処理回路17は、中央演算処理部または中央処理部と称されてもよい。
【0033】
中央演算処理回路17は、制御機能171により、磁気共鳴現象シミュレーション装置1における各構成要素を制御する。例えば、中央演算処理回路17は、制御機能171により、パルスシーケンス入力機能2および入力インターフェース11を介して入力されたサブシーケンスに対して、特定機能173による処理を実行する。また、中央演算処理回路17は、制御機能171により、出力値算出機能217で算出された出力値を、出力インターフェース13およびサンプリングデータ出力機能4を介して、サンプリングデータとして外部の装置に出力する。制御機能171を実現する中央演算処理回路17は、制御部に相当する。
【0034】
中央演算処理回路17は、特定機能173により、複数のアイソクロマットにおいて磁気共鳴現象の挙動が等価な複数の等価アイソクロマットを、サブシーケンスに基づいて特定する。すなわち、特定機能173は、複数のボクセル各々において、サブシーケンスに基づいて、複数のアイソクロマットから複数の等価アイソクロマットを選択する。等価アイソクロマットは、ボクセルVXLにおける複数のサブボクセルSVLにおいて、Bシフトが同一であって傾斜磁場の印加方向と直交する方向に沿った複数のアイソクロマット、またはBシフトが同一であって傾斜磁場が印加されていない複数のアイソクロマットに対応する。特定機能173を実現する中央演算処理回路17は、特定に相当する。
【0035】
例えば、中央演算処理回路17は、特定機能173により、1以上の特定方向に沿った複数のアイソクロマットを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。より詳細には、特定機能173は、サブシーケンスに基づいて、複数の方向に沿った磁場の位置依存性の有無を判定し、複数の方向のうち位置依存性が無い方向を、特定方向として特定する。すなわち、特定機能173は、複数のボクセル各々における複数のサブボクセルにおいて、サブシーケンスによる位置依存性がなく、Bシフト値が等しい複数のアイソクロマットを、等価アイソクロマットとして選択する。当該複数の方向が直交3軸である場合、特定機能173は、直交3軸における軸方向各々において、サブシーケンスに基づいて、位置依存性の有無を判定する。
【0036】
具体的には、特定機能173は、図2において、Z方向に沿った傾斜磁場(Gz)の印加期間(Gzに関するGradient)と、RFパルスとともにZ方向に沿った傾斜磁場(Gz)が印加される期間(RF&GzのGradient)とにおいて、Bシフトが同一であってX方向に沿った複数のアイソクロマットと、Bシフトが同一であってY方向に沿った複数のアイソクロマットとを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。これにより、図2に示す例では、64個のアイソクロマットが16個の等価アイソクロマットとして選択される。
【0037】
また、特定機能173は、図2において、X方向に沿った傾斜磁場(Gx)の印加期間(Gxに関するGradient)と、X方向に沿った傾斜磁場(Gx)の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートを行う期間(GxのGraidient&ADC)とにおいて、Bシフトが同一であってY方向に沿った複数のアイソクロマットと、Bシフトが同一であってZ方向に沿った複数のアイソクロマットとを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。
【0038】
なお、特定機能173は、サブシーケンスにおいて傾斜磁場の印加が無ければ、位置依存性の有無を判定しなくてもよい。位置依存性の有無の判定のスキップは、例えば、サブシーケンスが斜磁場の印加無しの時間(No-Gradient)である場合に実施される。具体的には、特定機能173は、図2おいて、斜磁場の印加無しの時間(No-Gradient)の期間において、Bシフトが同一の複数のアイソクロマットを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。
【0039】
保持メモリ19は、数値演算回路21に接続される。保持メモリ19は、キャッシュメモリ15に記憶されたサブシーケンスに対応する行列を記憶する。すなわち、保持メモリ19は、パルスシーケンスの一部を用いて算出された複数のアイソクロマット各々に対応する仮想原子の状態遷移を示す行列を保持する。保持メモリ19は、GPU(Graphics Processing Unit)メモリに相当し、例えば、VRAM(Video RAM(Random access memory))などのメモリ素子より実現される。保持メモリ19は、磁気共鳴現象シミュレーションの算出結果を記憶する。なお、保持メモリ19は、数値演算回路21により実行される計算機能211、および出力値算出機能217に関する各種プログラムを記憶してもよい。保持メモリ19は、保持部に相当する。
【0040】
数値演算回路21は、例えば、GPUなどのプロセッサにより実現される。なお、数値演算回路21は、特定用途向け集積回路、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイFPGA))等の回路の組み合わせにより実現されてもよい。数値演算回路21は、保持メモリ19、自身のメモリまたは不図示の記憶装置に保存されたプログラムを読み出し実行することで、計算機能211、および出力値算出機能217を実現する。計算機能211、および出力値算出機能217を実現する数値演算回路21は、計算部、および出力値算出部にそれぞれ対応する。
【0041】
数値演算回路21は、計算機能211により、複数の等価アイソクロマットを共通化して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を、当該等価アイソクロマットに対して計算する。例えば、計算機能211は、等価アイソクロマットに関する磁化に対して結合遷移行列を乗じることで、サブシーケンスが実施された際の磁化を計算する。具体的には、複数の等価アイソクロマットのうち1つのアイソクロマット(代表アイソクロマット)に対して結合遷移行列を乗算して、等価アイソクロマットに関する磁化を計算する。代表アイソクロマットに対して磁気共鳴現象の挙動を計算することは、複数の等価アイソクロマットに関する磁気共鳴現象の挙動を計算することに相当する。これにより、計算機能211は、複数の等価アイソクロマットに対して、共通化して磁気共鳴現象の挙動を計算する。
【0042】
具体的には、サブシーケンスとしてRFパルスとともに傾斜磁場の印加が実施される場合(RF&Gradient)、計算機能211は、RFパルスの送信感度が共通の複数の等価アイソクロマット(以下、送信等価アイソクロマットと呼ぶ)に対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。例えば、特定機能173により特定された複数の等価アイソクロマットから送信等価アイソクロマットが特定(選択)される。複数の等価アイソクロマットから送信等価アイソクロマットの特定(選択)は、計算機能211または特定機能173により実行される。計算機能211は、送信等価アイソクロマットに関する磁化に対して、RF&Gradientに関するサブシーケンスに対応する結合遷移行列を乗じることで、RF&Gradientに関するサブシーケンスが実施された際の磁化を、共通化して計算する。
【0043】
また、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合(Graidient&ADC)、計算機能211は、磁気共鳴信号の受信感度が共通の複数の等価アイソクロマット(以下、受信等価アイソクロマットと呼ぶ)に対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。例えば、特定機能173により特定された複数の等価アイソクロマットから受信等価アイソクロマットが特定(選択)される。複数の等価アイソクロマットから受信等価アイソクロマットの特定(選択)は、計算機能211または特定機能173により実行される。計算機能211は、受信等価アイソクロマットに関する磁化に対して、Graidient&ADCに関するサブシーケンスに対応する結合遷移行列を乗じることで、Graidient&ADCに関するサブシーケンスが実施された際の磁化を、共通化して計算する。
【0044】
また、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加無しの時間が実施される場合(No-Gradient)、計算機能211は、複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。例えば、計算機能211は、複数の等価アイソクロマットに関する磁化に対して、No-Gradientに関するサブシーケンスに対応する結合遷移行列を乗じることで、No-Gradientに関するサブシーケンスが実施された際の磁化を、共通化して計算する。
【0045】
なお、計算機能211による磁気共鳴現象のシミュレーションにおいて単純なブロッホ方程式が用いられる場合、Graidient&ADCに関するサブシーケンスおよび傾斜磁場の印加無しの時間に関するサブシーケンス(No-Gradient)に関して、計算機能211は、複数の等価アイソクロマットに対して共通の解析解を用いて計算することができる。単純なブロッホ方程式は、例えば、各種補正項無しのブロッホ方程式である。単純なブロッホ方程式における解析解では、X方向およびY方向における計算と、Z方向における計算とが分離されている。
【0046】
また、複数の等価アイソクロマットにおいて、TおよびTは同様であって、磁化の時間変化を示す指数関数(エクスポネンシャル:exponential)は共通であるため、計算機能211は、傾斜磁場の印加に伴う位置依存性を用いて特定された等価アイソクロマットに対して磁化の計算を共通化することができる。なお、Graidient&ADCに関するサブシーケンスによる磁化の時間発展を計算する場合、受信感度が共通の等価アイソクロマットに対して磁化の計算の共通化が可能となるため、計算機能211は、受信等価アイソクロマットに対して解析解を適用することで、受信等価アイソクロマットに関する磁化を計算する。
【0047】
なお、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合、計算機能211は、特定方向に沿った複数のアイソクロマット(等価アイソクロマット)における磁化の和を計算し、計算された磁化の和にサブシーケンスに対応する結合遷移行列を乗じることで、Graidient&ADCに関するサブシーケンスが実施された際の磁化を、共通化して計算してもよい。すなわち、Graidient&ADCに関するサブシーケンスにおいて横磁化の積分値が必要な場合、計算機能211は、等価アイソクロマットに対応する横磁化を束ねてから、当該横磁化の時間発展を計算してもよい。このとき、計算機能211は、まず、以下の式(2)により、サブボクセルに亘る出力値ADCsubvoxel(t)を計算する。
【0048】
【数2】
【0049】
上式(2)において、和記号Σにおけるiは、サブボクセルを識別する名義的添え字(ダミーサフィックス:dummy suffix)である。また、上式(2)の右辺におけるsは、受信感度を示している。また、上式におけるMxy (i)(t)は、X軸方向の磁化とY軸方向の磁化とをまとめた横磁化を表している。
【0050】
次いで、計算機能211は、磁気共鳴現象シミュレーションとして単純なブロッホ方程式が用いられる場合、解析解を用いて、ADCにおけるサンプリング間における横磁化の変化(横磁化の時間発展)を算出する。続いて、計算機能211は、ADCによる出力値を以下の式(3)により計算する。
【0051】
【数3】
【0052】
式(3)は、複数のサブボクセルに亘る複数の出力値ADCsubvoxel(t)の和を取ることで、出力値ADC(t)を算出する。
【0053】
数値演算回路21は、出力値算出機能217により、入力インターフェース11を開始磁気共鳴現象シミュレーションの結果の出力指示が入力された場合、磁気共鳴現象シミュレーションの結果に基づいて、出力指示に対応する出力値を算出する。例えば、出力指示がIQ信号である場合、出力値算出機能217は、複数の磁化ベクトルMの各成分(Mx、My、Mz)において、複数の仮想原子に亘って和を取ることにより、磁化ベクトルMのx成分における和(ΣMx)と、磁化ベクトルMのy成分おける和(ΣMy)と、磁化ベクトルMのz成分おける和(ΣMz)とを、出力値として算出する。なお、出力値算出機能217は、IQ信号(ΣMx、ΣMy)に対する逆フーリエ変換により、虚部画像と実部画像とを生成し、シミュレーションの結果に対応するMR画像を生成してもよい。
【0054】
以上のように構成された本実施形態の磁気共鳴現象シミュレーション装置1により実行される磁気共鳴現象シミュレーションの処理(以下、MRシミュレーション処理と呼ぶ)について説明する。図3は、MRシミュレーション処理の概要の一例を示す図である。図3におけるキャッシュメモリ15内のRF&Gradientパターンは、図2におけるRF&GradientにおけるRFパルスと傾斜磁場との組み合わせに対応し、キャッシュメモリ15に記憶された入力パターンに相当する。
【0055】
図4は、MRシミュレーション処理の手順の一例を示すフローチャートである。MRシミュレーション処理の実施に先立って、入力インターフェース11が、パルスシーケンスを出力する外部装置(例えば、MRI装置のシーケンス制御回路、またはシーケンサなど)に接続される。加えて、出力インターフェース13が、出力値の出力先の外部装置(例えば、MRI装置、画像生成装置、または出力値解析装置など)に接続される。
等価アイソクロマットを容易に識別することあるいは記憶容量を減らすことができるように、例えば、位置のみが異なる複数のアイソクロマットについては、それらすべてのアイソクロマット固有情報(M、T1、T2、Bシフト、およびBloch-TorreyやBloch-McConnellや密度行列を用いる場合はそれらの追加情報)を個別に保存しなくても良い。この場合は例えば、アイソクロマットを代表アイソクロマットおよびサブボクセル分割による付随アイソクロマットとして扱い、すべての代表アイソクロマットに対してアイソクロマット固有情報を保持し、付随アイソクロマットに対しては代表アイソクロマットからアイソクロマット差分情報を利用してアイソクロマット固有情報を算出することができる。アイソクロマット差分情報とは例えば(X,Y,Z)方向の位置をそれぞれ(0.1mm、-0.1mm、0.0mm)ずらすといった情報である。異なる代表アイソクロマットに対して同じ方法を適用することで生成可能な付随アイソクロマットに対し、このアイソクロマット差分情報を1つだけ保持することで、等価アイソクロマットを容易に識別することあるいは記憶容量を減らすことができる。
直交する3軸はX,Y,Z軸でなく、それらを任意に回転させて得られる3軸(以後、回転直交3軸)であっても良い。シミュレーションの対象とするパルスシーケンスがこのような軸を用いることが既知である(あるいは予想できる)場合には、サブボクセル分割を回転直交3軸に沿った方向で行う(アイソクロマット差分情報で表現する場合には、その差分情報として回転直交3軸に沿った方向にずらす情報を含める)ことで、本発明を効果的に用いることができる。
【0056】
(MRシミュレーション処理)
(ステップS401)
外部装置におけるパルスシーケンス入力機能2から入力インターフェース11に、複数のサブシーケンスが入力される。入力インターフェース11は、入力された複数のサブシーケンスを、中央演算処理回路17に入力する。また、入力インターフェース11は、複数のアイソクロマットを、中央演算処理回路17と数値演算回路21とに入力する。アイソクロマットは、例えば、サブボクセルを代表する代表点において、複数の物理パラメータを有する集合体に対応する。
【0057】
(ステップS402)
中央演算処理回路17は、特定機能173により、複数のサブシーケンス各々に基づいて、複数のサブシーケンス各々における複数の等価アイソクロマットを特定する。例えば、特定機能173は、位置依存性が無い特定方向に沿った複数のアイソクロマットを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。具体的には、特定機能173は、サブシーケンスにおける傾斜磁場の印加方向に基づいて、複数の方向に沿った磁場の位置依存性の有無を判定し、複数の方向のうち位置依存性が無い方向を、特定方向として特定する。
【0058】
例えば、複数の方向は、直交3軸であって、特定機能173は、直交3軸における軸方向各々において位置依存性の有無を判定する。なお、特定機能173は、サブシーケンスにおいて傾斜磁場の印加が無ければ、位置依存性の有無を判定せず、本ステップはスキップされてもよい。このとき、特定機能173は、複数のアイソクロマットを等価アイソクロマットとして特定する。特定機能173は、等価アイソクロマットをサブシーケンスと対応付けて、数値演算回路21に出力する。
【0059】
(ステップS403)
数値演算回路21は、計算機能211により、複数の等価アイソクロマットを共通化して、サブシーケンスによるアイソクロマットに関する磁気共鳴現象の挙動を、等価アイソクロマットに対して計算する。具体的には、サブシーケンスとしてRFパルスとともに傾斜磁場の印加が実施される場合(RF&GzのGradient)、計算機能211は、RFパルスの送信感度が共通の複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。また、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加無しの時間が実施される場合(No-Gradient)、計算機能211は、複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。
【0060】
また、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合(Graidient&ADC)、計算機能211は、磁気共鳴信号の受信感度が共通の複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。なお、Graidient&ADCにおいて、計算機能211は、特定方向に沿った複数のアイソクロマットにおける磁化の和を計算し、計算された磁化の和に対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算してもよい。
【0061】
(ステップS404)
入力インターフェース11により出力指示が入力されていれば(ステップS404のYes)、ステップS405の処理が実行される。入力インターフェース11により出力指示が入力されていなければ(ステップS404のNo)、ステップS401以降の処理が繰り返される。なお、ステップS401において、パルスシーケンスに関する全てのサブシーケンスがステップS401で入力されている場合、本ステップはスキップされてもよい。このとき、本ステップに続いて、ステップS405の処理が実行される。
【0062】
(ステップS405)
出力値算出機能217には、ステップS403における計算結果(磁気共鳴現象シミュレーションの結果)に基づいて、出力指示に対応する出力値を、サンプリングデータとして算出する。制御機能171は、算出された出力値を、出力インターフェース13を介して、MRI装置などの外部装置のサンプリングデータ出力機能4へ出力する。なお、本実施形態の変形例として、MRシミュレーション処理を実行する各種機能は、MRI装置に搭載されてもよい。
【0063】
以上に述べた実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスと、当該磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマットとを入力し、複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価である複数の等価アイソクロマットをサブシーケンスに基づいて特定し、複数の等価アイソクロマットを共通化して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を等価アイソクロマットに対して計算する。また、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、例えば、1以上の特定方向に沿った複数のアイソクロマットを、複数の等価アイソクロマットとして特定する。
【0064】
例えば、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、サブシーケンスに基づいて、複数の方向に沿った磁場の位置依存性の有無を判定し、複数の方向のうち位置依存性が無い方向を、上記特定方向として特定する。このとき、上記複数の方向は直交3軸であって、磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、当該直交3軸における軸方向各々において、サブシーケンスに基づいて位置依存性の有無を判定する。また、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、サブシーケンスにおいて傾斜磁場の印加が無ければ、当該位置依存性の有無を判定しなくてもよい。
【0065】
また、サブシーケンスとしてRFパルスとともに傾斜磁場の印加が実施される場合、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、RFパルスの送信感度が共通の複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。また、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、磁気共鳴信号の受信感度が共通の複数の等価アイソクロマットに対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算する。
【0066】
なお、サブシーケンスとして傾斜磁場の印加とともに磁気共鳴信号を収集してアナログデジタルコンバートが実施される場合、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、当該特定方向に沿った複数のアイソクロマットにおける磁化の和を計算し、計算された磁化の和に対して、サブシーケンスによる磁気共鳴現象の挙動を計算してもよい。
【0067】
以下の式(4)は、比較例として、従来の出力値ADC(t)を算出式の一例である。
【数4】
【0068】
式(4)に示すように、従来では、複数のサブボクセル各々において横磁化Mxy (i)(t)を算出する必要がある。すなわち、従来では、出力値ADC(t)を算出するにあたって、全てのサブボクセルにおいて、横磁化Mxy (i)(t)の時間発展を算出する必要がある。一方、本実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1では、式(2)に示すように、予めサブボクセルに亘って横磁化をまとめているため、計算時間の大幅な短縮が可能となる。
【0069】
これらのことから、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1によれば、Bシフトの値が同一であって傾斜磁場の印加の位置依存性が無い複数の等価アイソクロマットでは、磁化の挙動を示す計算式が同一となるため、複数の等価アイソクロマットに対する計算を共通化して、磁気共鳴現象の挙動を計算することができる。具体的には、図2に示す例では、64個のアイソクロマットが16個の等価アイソクロマットとして選択されため、計算回数を64回から16回に低減することができる。当該計算回数の低減は、1つのボクセルに対してのものである。このため、計算対象の空間に含まれるボクセルが、例えば512×512×512=134217728である場合、134217728の64倍の計算回数を、134217728の16倍の計算回数に大幅に低減することができる。
【0070】
以上のことから、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1によれば、ボクセルを複数のサブボクセルへ分割することで磁気共鳴現象シミュレーションの精度を高めつつ、かつ計算時間を大幅に短縮して磁気共鳴現象のシミュレーションを実行することができる。すなわち、実施形態に係る磁気共鳴現象シミュレーション装置1によれば、サブボクセル分割したときのシミュレーションの速度を向上させることができる。
【0071】
本実施形態における磁気共鳴現象シミュレーション装置1によれば、磁気共鳴現象シミュレーションにおいて、計算時間を短縮させた完全な仮想化(Full Virtualization)を実現することができる。これにより、本磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、例えば、教育現場や開発現場などでの利用が有用となる。
【0072】
本磁気共鳴現象シミュレーション装置1が教育現場で利用される場合、実際にMRI装置で用いられるパルシーケンスや検査の種類に応じたパルスシーケンスを有する撮像プロトコルを完全に仮想的に実現するため、撮像プロトコル内(例えば高速Spin Echo法における波形の使いまわし)および/または撮像プロトコル間(例えば脂肪飽和(Fat Sat)の波形使いまわし)のそれぞれでRF波形の使いまわしの状況が発生する。このとき、本磁気共鳴現象シミュレーション装置1におけるMRシミュレーション処理によれば、磁気共鳴現象シミュレーションにおける計算時間を大幅に短縮させることができ、高速に磁気共鳴現象シミュレーションを実行することができる。
【0073】
本磁気共鳴現象シミュレーション装置1が開発現場で利用される場合、パルスシーケンスを何度も編集しながら、すなわち同一のRF&Gradientパターンを何度も調整して、完全に仮想的に同一の波形での磁気共鳴現象シミュレーションを実行する。このため、本磁気共鳴現象シミュレーション装置1におけるMRシミュレーション処理によれば、磁気共鳴現象シミュレーションにおける計算時間を大幅に短縮させることができる。
【0074】
また、本磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、完全な仮想化(Full Virtualization)の計算時間を短縮できるため、実施形態の応用例として、仮想的なMRI装置(以下、仮想MRI装置と呼ぶ)として実現することができる。図5は、実施形態に係る仮想MRI装置3の一例を示す構成図である。図5に示すように、仮想MRI装置3は、図1に示す磁気共鳴現象シミュレーション装置1の構成に加えて、傾斜磁場制御機能6と、RF制御機能8と、アナログデジタル変換制御機能10と、アナログデジタル変換機能12とを備える。傾斜磁場制御機能6と、RF制御機能8と、アナログデジタル変換制御機能10と、アナログデジタル変換機能12とは、例えば、シーケンス制御回路などの各種プロセッサにより実行されてもよい。
【0075】
傾斜磁場制御機能6は、傾斜磁場の制御に関する情報を、入力インターフェース11に出力する。具体的には、傾斜磁場制御機能6は、斜磁場電源により傾斜磁場コイルに供給される電流に応じた傾斜磁場の強度、当該傾斜磁場の印加タイミング、当該傾斜磁場の印加時間などに関する情報を、入力インターフェース11に出力する。
【0076】
RF制御機能8は、RFパルスの制御に関する情報を、入力インターフェース11に出力する。具体的には、RF制御機能8は、送信回路により送信コイルに供給される電流に応じたRFパルスの強度、RFパルスのフリップ角およびRFパルスの印加タイミングなどに関する情報を、入力インターフェース11に出力する。
【0077】
アナログデジタル変換制御機能10は、磁気共鳴信号の収集に関する情報を、入力インターフェース11に出力する。具体的には、アナログデジタル変換制御機能10は、受信回路により磁気共鳴信号が検出される検出タイミング、磁気共鳴信号のサンプリングに関するサンプリング周波数、磁気共鳴信号に対してアナログデジタルコンバートを行う期間などに関する情報を、入力インターフェース11に出力する。
【0078】
アナログデジタル変換機能12は、出力インターフェース13から出力された出力値をデジタルデータに変換する。
【0079】
図5に示すように、図1における磁気共鳴現象シミュレーション装置1は、仮想MRI装置3に搭載される。図5に示す仮想MRI装置3により実行されるMRシミュレーション処理の手順および効果は、実施形態と同様なため説明は省略する。本磁気共鳴現象シミュレーション装置1を備えた仮想MRI装置3によれば、図5の仮想MRI装置3内の「傾斜磁場制御機能6」、「RF制御機能8」、「アナログデジタル変換制御機能10」のそれぞれを本磁気共鳴現象シミュレーション装置1に対する入力とすることで、仮想MRI装置3のソフトウェア部分におけるバグ(不具合)を取るデバッグ装置(不具合分析装置)として利用することもできる。
【0080】
実施形態における技術的思想を磁気共鳴現象シミュレーション方法で実現する場合、当該磁気共鳴現象シミュレーション方法は、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスを入力し、磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)を入力し、複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価な複数の等価アイソクロマットを、サブシーケンスに基づいて特定し、複数の等価アイソクロマットを共通化して、サブシーケンスによる当該挙動を等価アイソクロマットに対して計算する。磁気共鳴現象シミュレーション方法により実行されるMRシミュレーション処理の手順および効果は、実施形態と同様なため、説明は省略する。
【0081】
実施形態における技術的思想を磁気共鳴現象シミュレーションプログラムで実現する場合、当該磁気共鳴現象シミュレーションプログラムは、コンピュータに、磁気共鳴に関するパルスシーケンスのうち磁気共鳴現象シミュレーションの対象となるサブシーケンスを入力し、磁気共鳴現象シミュレーションに関する複数のボクセル各々を分割した複数のサブボクセルに対応する異なる位置において同一のBシフトを有する複数のアイソクロマット(isochromat)を入力し、複数のアイソクロマットにおいて、磁気共鳴現象の挙動が等価な等価アイソクロマットを、サブシーケンスに基づいて特定し、等価アイソクロマットを共通化して、サブシーケンスによる前記挙動を前記等価アイソクロマットに対して計算することを実現させる。
【0082】
例えば、MRI装置や各種シミュレーションサーバなどにおけるコンピュータに磁気共鳴現象シミュレーションプログラムをインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても、MRシミュレーション処理を実現することができる。このとき、コンピュータに当該処理を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。また、磁気共鳴現象シミュレーションプログラムの頒布は、上記媒体に限定されず、例えば、インターネットを介したダウンロードなど、電気通信機能を用いて頒布されてもよい。磁気共鳴現象シミュレーションプログラムにおける処理手順および効果は、実施形態と同様なため、説明は省略する。
【0083】
以上説明した少なくとも1つの実施形態等によれば、磁気共鳴現象シミュレーションにおけるサブボクセルの数が増えた場合において、計算速度の低下を低減することができる。
【0084】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 磁気共鳴現象シミュレーション装置
3 仮想磁気共鳴イメージング装置
11 入力インターフェース
13 出力インターフェース
15 キャッシュメモリ(CPUメモリ)
17 中央演算処理回路(CPU)
19 保持メモリ(GPUメモリ)
21 数値演算回路(GPU)
171 制御機能
211 計算機能
217 出力値算出機能
図1
図2
図3
図4
図5