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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097555
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】セメント原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20240711BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C04B7/38
C04B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001087
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩希
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高品位のセメント原料を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)(工程A)石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上の原料をローラーミルに投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程、及び(工程B)前記ミル排石と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離した後、非磁着物と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行う工程であって、前記ミル排石の使用量が前記原料100質量部に対して10~100質量部である工程、を含む粉砕工程と、
(2)工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する処理を所定時間繰り返し行う循環工程を含む、セメント原料の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記の工程A及び工程Bを含む粉砕工程と、
(工程A)石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上の原料をローラーミルに投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程
(工程B)前記ミル排石と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離した後、非磁着物と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行う工程であって、前記ミル排石の使用量が前記原料100質量部に対して10~100質量部である工程
(2)工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離した後、ミル排石を前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する処理を所定時間繰り返し行う循環工程
を含む、セメント原料の製造方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、前記ミル排石を磁力選別に加え、渦電流選別に供する、請求項1記載のセメント原料の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕工程前に、前記原料を磁力選別する磁力選別工程、前記原料を渦電流選別する渦電流選別工程、前記原料を篩選別する粒度調整工程、及び前記原料の含水率を低下させる乾燥工程から選択される1以上に供する予備処理工程を含む、請求項1又は2記載のセメント原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚泥、石炭灰、鉱さい、焼却灰、建設発生土等の廃棄物や副産物がセメント原料として使用されてきたが、これら廃棄物や副産物の使用量を増加することで、資源の有効利用や環境保護を積極的に推進する技術が検討されている。
【0003】
例えば、金属含有廃棄物を含む原料を竪型ローラーミルで粉砕し、セメント原料を含む第1粉砕物と、第1粉砕物よりも大きいサイズを有する第2粉砕物とに分離し、第2粉砕物から渦電流選別によって第2粉砕物よりも金属含有量が低い選別原料を得、当該選別原料を前記原料の一部として竪型ローラーミルで粉砕することで、竪型ローラーミル及びその下流側の製造設備の負荷を十分に低減しつつ、金属含有量が少ないセメント原料を回収できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-80509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来技術によれば、渦電流選別で比較的大きい金属を回収することができるが、数mm以下の小さい有価金属を含む粒子を回収することは困難であり、また竪型ローラーミルは通常処理量が多く、発生する排石量も多いことから、渦電流選別では細粒の金属を回収することも難しい。加えて、ミル排石の循環を繰り返し行った場合、金属が過度に粉砕されてミル精粉側に移行するため、セメント原料の品位が低下する。また、上記した廃棄物や副産物にはクロム等のセメント忌避成分が含まれているため、ミル精粉のクロム含有量が高いとセメント原料としての利用が制限されることから、クロム含有量の低減が求められている。
本発明の課題は、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料を効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属を含む原料をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を原料の一部として使用し、前記原料とともにローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離した後、非磁着物を原料の一部として更に使用し、前記原料とともにローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行い、そしてローラーミルへの前記原料の供給を停止し、所定時間後に排出されたミル排石をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する処理を所定時間繰り返し行うことで、ミル排石や磁着物に金属が濃縮されるため、ミル精粉を回収することで、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料を効率よく回収できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕(1)下記の工程A及び工程Bを含む粉砕工程と、
(工程A)石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上の原料をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程
(工程B)前記ミル排石と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離した後、非磁着物と前記原料とを前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行う工程であって、前記ミル排石の使用量が前記原料100質量部に対して10~100質量部である工程
(2)工程Bで所定時間後に排出されたミル排石を前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離した後、ミル排石を前記ローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する処理を所定時間繰り返し行う循環工程
を含む、セメント原料の製造方法。
〔2〕前記工程Bにおいて、前記ミル排石を磁力選別に加え、渦電流選別に供する、前記〔1〕記載のセメント原料の製造方法。
〔3〕前記粉砕工程前に、前記原料を磁力選別する磁力選別工程、前記原料を渦電流選別する渦電流選別工程、前記原料を篩選別する粒度調整工程、及び前記原料の水分含有量を低下させる乾燥工程から選択される1以上に供する予備処理工程を含む、前記〔1〕又は〔2〕記載のセメント原料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のセメント原料の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】比較例1のセメント原料の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセメント原料の製造方法について詳細に説明する。図1に、本発明のセメント原料の製造方法の好適な一実施形態のフローチャートを示す。
【0011】
本発明のセメント原料の製造方法は、粉砕工程及び循環工程を必須の工程とするが、高品位のセメント原料を効率よく製造するために、図1に示されるように、粉砕工程前において、原料を予備処理工程に供することが好ましい。
【0012】
〔予備処理工程〕
予備処理工程としては、例えば、磁力選別工程、渦電流選別工程、粒度調整工程及び乾燥工程から選択される1又は2以上を挙げることができる。2以上行う場合、各工程を任意の順序で行うことが可能であり、一の工程を複数回行っても構わない。
【0013】
(原料)
原料は、石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される1以上を含むものである。
「石灰石」としては、主に天然の石灰石であるが、鋳物砂も包含される。「珪石」としては、天然の珪石の他に、鋳物砂がある。「粘土類」としては、例えば、建設発生土、上水汚泥、下水汚泥を挙げることができる。建設発生土としては、例えば、建設工事や土木工事に伴い副次的に発生する土砂や汚泥を挙げることができる。上水汚泥及び下水汚泥としては、例えば、汚泥単味のほか、これに生石灰又は石灰石を加えて乾粉化したものを挙げることができる。また、「鉱さい」とは、スラグの総称であり、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄金属スラグを挙げることができる。
【0014】
(磁力選別工程)
本工程は、原料を磁力選別する工程である。建設発生土等には、釘、ボルト、針金、座金、ベアリングなどの鉄、ステンレス鋼等の磁性金属が含まれているため、本工程に供することで、有価金属として磁性金属を回収し、ローラーミル内部の摩耗・破損・振動を低減することができる。
磁力選別は、磁力選別機を使用することができる。磁力選別機は、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、ドラム式、プーリー式及び吊下げ式のいずれでもよく、特に限定されない。
磁力選別機の表面磁束密度は、セメント原料の高品位向上の観点から、好ましくは100~3000ガウスであり、より好ましくは150~2000ガウスであり、更に好ましくは200~1000ガウスである。
【0015】
(渦電流選別)
本工程は、原料を渦電流選別する工程である。鉱さいや粘土類には、アルミニウム、亜鉛等の非磁性金属が含まれているため、本工程に供することで、有価金属として非磁性金属を回収し、ローラーミル内部の摩耗・破損・振動を低減することができる。
渦電流選別は、渦電流選別機を使用することができる。渦電流選別機は、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、回転磁石式、直行ベルトコンベヤ式及び回転円筒式のいずれでもよく、特に限定されない。
回転磁石体の回転数は、セメント原料の高品位向上の観点から、好ましくは1500rpm以上であり、より好ましくは2500rpm以上であり、更に好ましくは3500rpm以上である。なお、回転磁石体の回転数の上限値は、通常5000rpm以下であり、更に好ましくは4800rpm以下である。
【0016】
(粒度調整工程)
本工程は、原料を篩選別する工程である。これにより、原料をローラーミルの操業条件に適合する大きさに調整し、ローラーミル内部の摩耗・破損・振動を低減することができる。
粒度調整には、篩選別機を使用することができる。篩選別機としては、工業用の装置を使用することが可能であり、例えば、振動式、面内運動式、回転式及び固定式のいずれでもよく、特に限定されない。
また、廃棄物を破砕機で破砕した場合、破砕機に所望する篩目のスクリーンを装着するか、あるいはスクリーンを装着しない場合には、固定歯、回転歯、内壁等を所望するクリアランスに調整してもよい。
粒度調整後の廃棄物は、セメント原料の高品位向上、ローラーミル内部の摩耗・破損・振動の低減の観点から、最大粒径が、好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは50mm以下である。ここでいう「最大粒径」とは、試料がすべて通過する篩の最小の目開きで表した粒径をいう。
【0017】
(乾燥工程)
本工程は、原料を乾燥する工程である。原料の水分含有量を低減することで、粉砕工程において粉砕機内で付着が発生せず、粉砕した微粉を気流で回収することができるため、安定して操業することができる。
原料の水分含有量の調整は、原料を乾燥機で乾燥し、水分を除去すればよい。なお、乾燥機は、工業用の装置を使用することができる。
乾燥後の水分含有量は、粉砕工程における粉砕機内での付着防止、微粉の効率的回収の観点から、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。なお、水分含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わない。ここで、本明細書において「水分含有量」とは、試料1kgを105℃で恒量になるまで乾燥し、質量減少量から算出した値をいう。
【0018】
予備処理工程としては、セメント原料の高品位向上の観点から、磁力選別工程、粒度調整工程及び乾燥工程から選択される1以上が好ましく、磁力選別工程及び乾燥工程から選択される1以上がより好ましく、少なくとも乾燥工程を行うことが更に好ましい。
【0019】
〔(1)粉砕工程〕
粉砕工程は、図1に示されるように、工程Aと工程Bから構成され、工程Aを行った後、工程Bを行う。
(工程A)
工程Aは、原料をローラーミルで粉砕してミル精粉とミル排石とに分離する工程である。ここで、本明細書において「精粉」とは、粉砕時に気流によって排出される微粉をいい、また「排石」とは、粉砕により気流で排出される粉体とならない粒状、塊状の固体をいう。
【0020】
本工程においては、例えば、原料を原料供給部に搬送し、原料供給部によって原料をローラーミルに供給して粉砕する。これにより、気流に乗ってローラーミルから排出されるミル精粉と、ローラーミルの下部の排出部より排出されるミル排石とに分離される。ミル精粉は、吸引ファンに導かれた気体とともにサイクロンで捕集され、セメント原料として回収される。他方、ミル排石は、ミル精粉よりも粒径が大きいうえ、有価金属を多く含んでいる。そのため、ローラーミルから排出されたミル排石は、循環経路を介して原料供給部に搬送される。
【0021】
原料として石灰石、珪石、粘土類及び鉱さいから選択される2以上使用する場合、粉砕時に各原料がローラーミル内に共存した状態にあればよく、各成分を混合して予め原料を調製してローラーミルに投入しても、各成分を別々にローラーミルに投入してもよい。なお、2成分以上使用する場合、各成分の割合は適宜選択することが可能であり、ローラーミルへの搬送路で各成分を混合してもよい。
【0022】
ローラーミルとしては、複数個のローラと回転するテーブルとの間で混合物を圧縮、剪断しながら粉砕する装置であれば特に限定されず、例えば、工業用の竪型ローラーミルを使用することができる。被粉砕物は上部のセパレータで分級され、ミル精粉を得ると共に、粒径の大きい被粉砕物は再びローラとテーブルで粉砕される。テーブルの周囲にはダムリングが設けられ、ダムリングを超えて落下して排出されるのがミル排石である。
【0023】
処理量は、原料の種類や製造スケール等により適宜設定可能であるが、粉砕工程の合理化の観点から、好ましくは15~400t/hであり、より好ましくは50~300t/hであり、更に好ましくは150~250t/hである。
【0024】
(工程B)
工程Bは、工程Aで得られたミル排石を原料の一部として使用し、上記した原料とともにローラーミルに再投入し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、分離されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する。そして、分離された非磁着物を原料の一部として更に使用し、上記した原料とともにローラーミルに再投入し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、分離されたミル排石を磁力選別して磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行う。このように、ミル排石から磁力選別により分離された非磁着物を原料の一部として使用し、上記した混合物とともに、ローラーミルによる粉砕と磁力選別とを組み合わせて所定時間繰り返し処理することで、金、銅等の金属が非磁着物に濃縮され、鉄、主要なクロム源となるステンレス鋼等を含む磁性金属は磁着物として回収される。したがって、ミル精粉側への金属の移行が抑制されるため、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料を製造することができる。
【0025】
本工程においては、工程Aでローラーミルから排出されたミル排石を循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によってミル排石を上記した原料とともにローラーミルに供給して粉砕することで、気流に乗ってローラーミルから排出されるミル精粉と、ローラーミルの下部の排出部より排出されるミル排石とに分離する。次いで、ミル精粉をセメント原料として回収する一方、分離されたミル排石を磁力選別部に搬送し、磁力選別部によってミル排石を磁力選別機に供給して磁力選別し磁着物と非磁着物とに分離する。以降において、非磁着物を循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によって非磁着物を上記した原料とともにローラーミルに供給し粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉をセメント原料として回収する一方、分離されたミル排石を磁力選別部に搬送し、磁力選別部によってミル排石を磁力選別機に供給して磁力選別し磁着物と非磁着物とに分離する処理を所定時間繰り返し行う。
【0026】
ミル排石の使用量は、原料100質量部に対して10~100質量部であるが、セメント原料の高品位向上の観点から、好ましくは30~100質量部であり、より好ましくは50~100質量部であり、更に好ましくは70~100質量部である。なお、ミル排石及び原料の使用量は、乾燥質量を基準とする。また、ミル排石及び原料の使用量は、ローラーミルの容量に応じて適宜設定することができる。
【0027】
磁力選別は、磁力選別機を使用することができる。磁力選別機の具体的構成は、予備処理工程において説明したとおりである。
【0028】
本工程においては、セメント原料の高品位向上の観点から、ミル排石を磁力選別に加え、更に渦電流選別して磁性金属と非磁性金属とに分離してもよい。これにより、粒径の大きいアルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金、ステンレス鋼等を除去することで、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、クロム等を除去できるため、セメント原料の品位が更に向上する。
磁力選別と渦電流選別は、任意の順序で行うことができるが、設備の損傷を防止し保護する観点から、磁力選別により分離された非磁着物を渦電流選別することが好ましい。この場合、上記において説明した非磁着物に代えて、渦電流選別により分離された磁性金属について、ローラーミルによる粉砕と、磁力選別・渦電流選別とを組み合わせて所定時間繰り返し行えばよい。
渦電流選別は、渦電流選別機を使用することができる。渦電流選別機の具体的構成は、予備処理工程において説明したとおりである。
【0029】
処理時間は、製造スケール等により適宜設定可能であるが、長すぎると粉砕時間が長くなり、金属がミル精粉側に移行する量が増加し、短すぎると運転切り替えの頻度が増え、粉砕量が低下する、かかる観点から、処理時間は、好ましくは1~20日であり、より好ましくは3~20日であり、更に好ましくは5~20日であり、より更に好ましくは10~20日である。
【0030】
本工程で使用する、原料の具体的構成は、工程Aにおいて説明したとおりである。
【0031】
〔(2)循環工程〕
本工程は、ローラーミルへの上記した原料の供給を停止し、工程Bで所定時間後に排出されたミル排石をローラーミルに再投入して粉砕しミル精粉とミル排石とに分離する。以降において、分離されたミル排石をローラーミルに再投入して粉砕しミル精粉とミル排石とに分離する処理を所定時間繰り返し行う。このように、ミル排石をローラーミルで所定時間循環粉砕することで、ミル排石に金属が濃縮される。そのため、ミル精粉を回収することで、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料が得られる。ここで、本明細書において「循環粉砕」とは、被粉砕物をローラーミルに投入して粉砕する処理を繰り返し行うことをいう。
【0032】
本工程においては、例えば、工程Bでローラーミルから排出されたミル排石を、循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によってミル排石をローラーミルに供給して粉砕する。これにより、気流に乗ってローラーミルから排出されるミル精粉と、ローラーミルの下部の排出部より排出されるミル排石とに分離される。次いで、ミル精粉をセメント原料として回収する一方、分離されたミル排石を、循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によってミル排石をローラーミルに供給して粉砕しミル精粉とミル排石とに分離する。以降においても、ミル精粉をセメント原料として回収する一方、分離されたミル排石を、循環経路を介して原料供給部に戻し、原料供給部によってミル排石をローラーミルに供給して粉砕する処理を所定時間繰り返し行う。
【0033】
処理時間は、製造スケール等により適宜設定可能であるが、長すぎると粉砕時間が長くなり、金属がミル精粉側に移行する量が増加し、短すぎると石灰石等の原料が粉砕されず、ミル排石の発生量が多くなり、ミル精粉の回収量が低下する。かかる観点から、処理時間は、好ましくは10~60分であり、より好ましくは15~50分であり、更に好ましくは20~40分である。
【0034】
〔回収工程〕
本発明においては、各工程で分離されたミル精粉をセメント原料として回収するが、所定時間後に排出されたミル排石を回収することで、有価金属、とりわけ金、銅等の貴金属や、クロム等のセメント忌避成分の濃縮物を回収することができる。なお、鉄、クロム源となるステンレス鋼等の磁性金属は、工程Bの磁力選別において磁着物として主に回収され、鉄鋼原料として利用することができる。
【0035】
このように、セメント忌避成分のクロムは、工程Bの磁着物、循環工程のミル排石として回収されるため、クロム含有量が低減された高品位のセメント原料を製造することができる。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
クロムの分析
クロムの分析はマット融解による前処理を行った分析対象物を100μm以下に粉砕したものに対し、JIS M 8224に準拠して分析を行った。
【0038】
実施例1
図1に示すフローチャートにしたがって原料を処理した。具体的には、以下のとおりである。なお、本実施例で使用した原料は、粘土類、珪石、石灰石及び鉱さいである。
【0039】
〔予備処理工程〕
粘土類を乾燥機にて水分含有量4質量%以下まで乾燥した。
【0040】
〔粉砕工程〕
(工程A)
乾燥質量割合で、14質量%の粘土類と、5質量%の珪石、2質量%の鉱さい及び79質量%の石灰石を原料供給部への搬送上で合流させて原料を調製した。そして、原料を竪型ローラーミルに投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉をセパレータに通過させてサイクロンで回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。
(工程B)
工程Aで回収したミル排石と、工程Aで調製した原料とを竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。次いで、回収したミル排石を吊下げ型磁力選別機(有効磁束密度300G)にて磁着物と非磁着物とに分離した。以降、回収した非磁着物を、工程Aで調製した原料とともに竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した後、ミル排石を吊下げ型磁力選別機(有効磁束密度300G)にて磁着物と非磁着物とに分離する処理を14日間繰り返し行った。なお、ミル排石の使用量は、いずれも原料100質量部に対して99質量部であった。
〔循環工程〕
工程Bで14日後に回収したミル排石を竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、竪型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。以降、回収したミル排石を竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、竪型ローラーミルの下部からミル排石を回収する処理を30分間繰り返し行った。
そして、各工程で回収されたミル精粉、循環工程で回収したミル排石、工程Bで回収された磁着物についてクロム含有量を分析し、各回収物におけるクロムの分配率を算出した。その結果を表1、2に示す。なお、分配率は、ミル精粉、ミル排石、磁着物のクロムのフロー量(質量×クロム濃度)の合計を100%とし、下記式により算出した。
【0041】
分配率(%)=各回収物のフロー量/総フロー量×100
【0042】
比較例1
図2に示すフローチャートにしたがって原料を処理した。具体的には、工程Aを実施例1と同様の操作で行った後、次の循環工程を行った。循環工程は、工程Aで回収したミル排石と、工程Aで調製した原料とを竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、堅型ローラーミルの下部からミル排石を回収した。次いで、以降、回収したミル排石を竪型ローラーミルに再投入して粉砕してミル精粉とミル排石とに分離し、ミル精粉を上記と同様にセメント原料として回収し、竪型ローラーミルの下部からミル排石を回収する処理を30分間繰り返し行った。
そして、各工程で回収されたミル精粉、循環工程で回収したミル排石についてクロム含有量を分析し、各回収物におけるクロムの分配率を実施例1と同様に算出した。その結果を表1、2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1に示されるように、実施例1のミル精粉は、比較例1よりもクロム含有量が低減されており、また表2に示されるように、実施例1は、比較例1よりもミル精粉のクロム分配率が低くなっていることから、セメント原料の品位が高いことがわかる。
図1
図2