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特開2024-97564インバータ装置及びモータ定数補正方法
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  • 特開-インバータ装置及びモータ定数補正方法 図1
  • 特開-インバータ装置及びモータ定数補正方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097564
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】インバータ装置及びモータ定数補正方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240711BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001103
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】田原 智徳
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505EE49
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ16
5H505JJ17
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL45
5H505LL60
5H770AA15
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA11
5H770HA02X
5H770HA03X
5H770HA06Z
5H770HA07Z
5H770HA09X
5H770LA06Z
5H770LA07X
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】モータの運転環境の温度に応じて、モータ定数を補正できるインバータ装置を提供する。
【解決手段】実施形態のインバータ装置は、インバータを介してモータを制御するもので、前記モータの温度又は気温を検出する温度検出部と、オートチューニングを実行してモータ定数を取得する定数取得部と、前記オートチューニングの実行時に前記温度検出部により検出された温度と基準温度とに応じて、前記定数取得部により取得されたモータ定数を補正する定数補正部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを介してモータを制御するもので、
前記モータの温度又は気温を検出する温度検出部と、
オートチューニングを実行してモータ定数を取得する定数取得部と、
前記オートチューニングの実行時に前記温度検出部により検出された温度と基準温度とに応じて、前記定数取得部により取得されたモータ定数を補正する定数補正部と、を備えるインバータ装置。
【請求項2】
前記基準温度は、前記モータの運転環境として想定した最低温度である請求項1記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記定数補正部は、前記温度検出部により検出された温度が、前記モータの運転環境として想定した最低温度よりも低いか、又は前記モータの運転環境として想定した最高温度よりも高い際には、前記補正を行わない請求項1又は2記載のインバータ装置。
【請求項4】
モータの温度又は気温を検出し、
オートチューニングを実行してモータ定数を取得すると、
前記オートチューニングの実行時に前記温度検出部により検出された温度と基準温度とに応じて、前記定数取得部により取得されたモータ定数を補正するモータ定数補正方法。
【請求項5】
前記基準温度は、前記モータの運転環境として想定した最低温度である請求項4記載のモータ定数補正方法。
【請求項6】
前記定数補正部は、前記温度検出部により検出された温度が、前記モータの運転環境として想定した最低温度よりも低いか又は前記モータの運転環境として想定した最高温度よりも高い際には、前記補正を行わない請求項5又は6記載のモータ定数補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、オートチューニングによりモータ定数を取得するインバータ装置、及び前記モータ定数を補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータによりモータをベクトル制御する際には、モータ定数の設定が必要であり、モータ定数の一部は、所謂オートチューニングにより特定して設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-88257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オートチューニングを行った時点の温度と、実際にモータを運転する際の温度との差が大きくなると、予め設定したモータ定数の値と実際の値とに差が生じるため、モータの始動時に過電流や出力トルク不足等のエラーが発生して運転が停止するという問題がある。
そこで、モータの運転環境の温度に応じて、モータ定数を補正できるインバータ装置及びモータ定数補正方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態のインバータ装置は、インバータを介してモータを制御するもので、
前記モータの温度又は気温を検出する温度検出部と、
オートチューニングを実行してモータ定数を取得する定数取得部と、
前記オートチューニングの実行時に前記温度検出部により検出された温度と基準温度とに応じて、前記定数取得部により取得されたモータ定数を補正する定数補正部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態であり、本実施形態のインバータ装置の構成を示す機能ブロック図
図2】オートチューニングによりモータ定数を取得する処理、及びモータ定数を補正する処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のインバータ装置の構成を示す機能ブロック図である。インバータ装置1は、操作パネル2、CPU3及び主回路4等を備えている。操作パネル2は、作業者が操作入力を行うためのキーやダイアル、制御パラメータを表示させるディスプレイ等を備えている。操作パネル2の入力制御は、CPU3の操作パネル処理部11によって行われる。
【0008】
主回路4は、例えばMOSFETやIGBT等のスイッチング素子を3相ブリッジ接続して構成されたインバータであり、その各相出力端子は、モータ5の各相巻線の一端に接続されている。モータ5は、例えば3相の誘導モータや永久磁石モータである。主回路4を構成するスイッチング素子の各ゲートには、CPU3の波形成形部12において生成された3相PWM信号が入力される。その他、主回路4には、各種のセンサ等が配置されており、CPU3の電流検出部13、電圧検出部14、速度検出部15、地絡検出部16及び欠相検出部17は、対応するセンサ等より入力される信号に基づいて、それぞれモータ5の各相電流や電圧、回転速度、地絡や欠相を検出する。
【0009】
例えば、モータ5のハウジングには、温度センサ6が配置されている。温度センサ6の温度検出信号は、CPU3の温度検出部18に入力されている。温度検出部18によりA/D変換された温度のデータは、メモリ処理部19において例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリに書き込まれて記憶される。モータ定数取得部20は、オートチューニングによりモータ5の各種定数を演算して取得する。取得したモータ定数は、メモリ処理部19により不揮発性メモリに書き込まれて記憶される。モータ定数補正部にも相当するモータ定数取得部20は、温度検出部18を介して取得した温度データに基づいて、後述するようにモータ定数を補正する。
【0010】
その他、CPU3は、図示しない上位の制御装置と通信を行う通信部21、外部よりアナログ信号が入力されるアナログ入力部22、外部にアナログ信号を出力するアナログ出力部23、外部よりリレー等の接点の開閉状態が入力される接点入力部24、外部に接点の開閉制御信号を出力する接点出力部25等を備えている。
【0011】
次に、本実施形態の作用について説明する。図2は、CPU3によるインバータ装置1の制御内容を示すフローチャートである。電源が投入されてインバータ装置1の通常運転を開始すると(S1)、操作パネル2を介してオートチューニングの実行指示が入力されたか否かを判断する(S2)。実行指示の入力がなければ(NO)ステップS1に戻る。実行指示の入力があると(YES)、インバータ装置1の運転環境として想定される最低温度、最低温度の設定を作業者に促し、作業者は操作パネル2を介してそれらを設定する(S3)。
【0012】
続いて、温度センサの有無を判断する(S4)。図1に示すように、温度センサ6が配置されていれば(YES)、その時点で検出されている温度をチューニング温度として、そのデータをメモリ処理部19により記憶させる(S5)。温度センサがなければ(NO)、作業者にチューニング温度を入力させて設定する(S6)。それから、モータ定数取得部20は、チューニング温度が最低温度以上で、且つ最高温度以下の範囲内にあるか否かを判断する(S7)。上記の範囲外であれば(NO)、温度異常と判断してその時点で処理を停止する(S8)。
【0013】
チューニング温度が上記の範囲内であれば(YES)、モータ定数取得部20は、オートチューニングを実施する(S9)。そして、オートチューニングにより取得したモータ定数及びチューニング温度をワークエリア等に一時的に保存すると(S10)、前記のモータ定数を、最低温度、最高温度に基づいて補正する(S11)。補正したモータ定数をメモリ処理部19により保存して記憶させると(S12)、オートチューニングを解除して(S13)ステップS1に戻る。
【0014】
ここで、上記の補正の必要性について、本願発明の発明者らが把握した事例を示す。
・夏期にモータのオートチューニングを実施すると、チューニングにより得られる巻線抵抗の値が大きくなる。その巻線抵抗値に基づいて冬期にモータ運転すると、巻線抵抗による電圧降下の補正量が過剰となり、モータの始動時に電圧が過大となり過電流が発生した。
・冬期にモータのオートチューニングを実施すると、チューニングにより得られる巻線抵抗の値が小さくなる。その巻線抵抗値に基づいて夏期にモータを運転すると巻線抵抗による電圧降下の補正量が不足し、モータの始動時に電圧が不足してトルク不足となった。
・永久磁石モータの誘起電圧は、通常20℃換算の値を設定する。この誘起電圧値を用いて、例えば温度設定が-40℃の冷凍庫にモータを使用すると誘起電圧が上昇するため、正常に運転できない可能性があり、誘起電圧値を手動で調整する必要があった。
等がある。
【0015】
次に、ステップS11で行う補正の具体例を示す。以下の例では、モータ5の運転環境として想定される最低温度を基準温度としている。
例1)銅線の温度による抵抗値変化の近似式を使用して、巻線抵抗値を補正する。
(補正後巻線抵抗値)=(チューニング結果巻線抵抗値)×(234.5+最低温度(℃))
÷(234.5+チューニング温度(℃))
尚、式中の数値「234.5」は、0℃の銅の抵抗温度係数0.004264の逆数である。
例2)ネオジウム磁石の温度による誘起電圧変化の近似式を使用する。
(補正後誘起電圧値)=(チューニング結果誘起電圧値)
×(1+(チューニング温度(℃)-最低温度(℃)×0.1(%/℃))/100)
すなわち、各モータ定数の温度特性に応じて補正を行う。
【0016】
以上のように本実施形態によれば、インバータ装置1において、主回路4を介してモータ5を制御する際に、モータ5の温度を温度センサ6及び温度検出部17により検出する。モータ定数取得部20は、オートチューニングを実行してモータ定数を演算により取得すると、オートチューニングの実行時に検出された温度と基準温度とに応じてモータ定数を補正する。これにより、オートチューニングを実行した際の温度に応じたモータ定数を制御に使用できるので、モータ5の始動時に、過電流エラーやトルク不足等が発生して始動できなくなる事態を回避できる。
【0017】
また、前記基準温度を、モータ5の運転環境として想定した最低温度とすることで、温度に応じた補正を高い精度で行うことができる。更に、モータ定数取得部20は、温度センサ6により検出された温度が、最低温度よりも低いか又は最高温度よりも高い際には補正を行わないので、意義が無い補正が行われることを回避できる。
【0018】
(その他の実施形態)
モータ定数は、巻線抵抗や誘起電圧に限らない。
温度センサ6により検出する温度は、気温でも良い。
基準温度は、モータの運転環境として想定した最低温度に限らない。
【0019】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0020】
図面中、1はインバータ装置、2は操作パネル、3はCPU、4は主回、5はモータ、6は温度センサ、18は温度検出部、19はメモリ処理部、20はモータ定数取得部を示す。
図1
図2