(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097569
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】管内調査装置、及び管内調査方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/25 20060101AFI20240711BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01B11/25 H
G01B11/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001108
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聡
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB08
2F065DD02
2F065DD06
2F065FF01
2F065FF02
2F065FF04
2F065FF08
2F065FF09
2F065GG04
2F065GG16
2F065HH05
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ26
2F065MM07
2F065PP22
2F065QQ21
(57)【要約】
【課題】水中移動体の移動性能を低下させずに、配管の内表面の形状を水中移動体によって計測する装置を提供する。
【解決手段】本発明による管内調査装置は、気中カメラ11と水中カメラ12とラインレーザ13を備える水中移動体10と、気中のラインビーム43の映像に光切断処理を行い、配管41の内表面を気中の点群61として求める気中光切断処理部22と、気中の点群61から水中移動体10の位置と姿勢を求める位置姿勢算出部24と、水中移動体10の位置と姿勢を用いて、配管41の形状に気中の点群61を統合した気中形状を得る気中形状データ演算部26と、水中のラインビーム43の映像に光切断処理を行い、配管41の内表面を水中の点群62として求める水中光切断処理部28と、配管41の形状に水中の点群62を統合した水中形状を得る水中形状データ演算部29と、気中形状と水中形状を統合する管内計測データ記録部30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気中を撮影する気中カメラと、水中を撮影する水中カメラと、ラインビームを照射するラインレーザとを備える水中移動体と、
前記気中カメラが撮影した、配管の気中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する気中映像記録部と、
前記水中カメラが撮影した、前記配管の水中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する水中映像記録部と、
前記気中映像記録部が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記気中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の2次元断面における気中の点群データとして求める気中光切断処理部と、
前記気中の点群データから、前記水中移動体の前記2次元断面における水平方向の位置と、前記水中移動体の姿勢角を求める位置姿勢算出部と、
前記配管の形状データを保存している管内形状データ記憶部と、
前記位置姿勢算出部が求めた前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角と、前記配管の水位とを用いて、前記管内形状データ記憶部が保存している前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記気中の点群データを統合して、気中形状データを得る気中形状データ演算部と、
前記水中映像記録部が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記水中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の前記2次元断面における水中の点群データとして求める水中光切断処理部と、
前記管内形状データ記憶部が保存している前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記水中の点群データを統合して、水中形状データを得る水中形状データ演算部と、
前記気中形状データと前記水中形状データを統合する管内計測データ記録部と、
を備えることを特徴とする管内調査装置。
【請求項2】
前記位置姿勢算出部は、楕円近似の計算を行って、前記気中の点群データから前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角を求める、
請求項1に記載の管内調査装置。
【請求項3】
前記気中映像記録部が記録する映像と前記水中映像記録部が記録する映像が互いに同時刻の映像であるように、前記気中映像記録部と前記水中映像記録部を制御する同期制御部を備える、
請求項1に記載の管内調査装置。
【請求項4】
前記ラインレーザは、緑色の波長帯の前記ラインビームを水中に照射する第1のラインレーザと、赤色の波長帯の前記ラインビームを気中に照射する第2のラインレーザと、を備える、
請求項1に記載の管内調査装置。
【請求項5】
前記位置姿勢算出部は、最小二乗法を用いて、前記気中の点群データと、前記管内形状データ記憶部が保存している前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データとの差が最小になるように、前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角を求める、
請求項1に記載の管内調査装置。
【請求項6】
前記位置姿勢算出部は、前記気中形状データ演算部が前記内壁の形状データに前記気中の点群データを統合したときの、前記気中の点群データと前記内壁の形状データとの差分の総和を前記気中の点群データの全てについて求め、
前記位置姿勢算出部は、求めた前記差分の総和を初期値として、最小二乗法を用いて、前記差分の総和が前記初期値以下となる範囲で、前記差分の総和が最小になるように、前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角を求める、
請求項2に記載の管内調査装置。
【請求項7】
気中を撮影する気中カメラと水中を撮影する水中カメラを備える水中移動体が、配管の内部にラインビームを照射する工程と、
前記気中カメラが撮影した、前記配管の気中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する気中映像記録工程と、
前記水中カメラが撮影した、前記配管の水中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する水中映像記録工程と、
前記気中映像記録工程で記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記気中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の2次元断面における気中の点群データとして求める気中光切断処理工程と、
前記気中の点群データから、前記水中移動体の前記2次元断面における水平方向の位置と、前記水中移動体の姿勢角を求める位置姿勢算出工程と、
前記位置姿勢算出工程で求めた前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角と、前記配管の水位とを用いて、前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記気中の点群データを統合して、気中形状データを得る気中形状データ演算工程と、
前記水中映像記録工程で記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記水中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の前記2次元断面における水中の点群データとして求める水中光切断処理工程と、
前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記水中の点群データを統合して、水中形状データを得る水中形状データ演算工程と、
前記気中形状データと前記水中形状データを統合する管内計測データ記録工程と、
を有することを特徴とする管内調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中移動体によって配管内を調査する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道などの管路においては、配管の内部の状態、例えば内壁の劣化状態を調査する必要がある。例えば、小口径の管路を持つ下水道では、水の流れを止め、遠隔操作などにより管内を移動する撮影機で管内を撮影することで、管内壁の状態を調査する。一方、大口径の管路を持つ下水道(幹線)では、幹線は常時使用されていることが多いので、管内の水位をある程度下げることができても、流水を止めることは困難である。水中又は水面を移動する水中移動体を用いると、管路内の流水を止めずに管内壁の状態を調査することができる。水中移動体は、管内壁の調査では、配管の長さ方向に垂直な断面における管内の表面形状を計測するが、このときには水中移動体の位置情報が必要である。
【0003】
管内壁を撮影する従来の装置の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された管内壁面画像撮影装置は、ストロボ発光装置とスチルカメラ(静止画撮影手段)を用いて管内壁面を撮影し、管内壁の断面形状を光切断法で計測する。
【0004】
特許文献2には、水中移動体の位置を検知する従来の装置の例が記載されている。特許文献2に記載された、水中移動体の位置検知装置では、水中移動体の周囲の構造物の外形が表された測定画像が得られたときの水中移動体の姿勢および位置に基づいて、構造物の外形が表された複数の画像データ(記憶画像)の中から、水中移動体の位置情報を取得するために利用する記憶画像を選択し、選択された画像に付された位置情報に基づいて水中移動体の位置を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-219130号公報
【特許文献2】特開2015-49192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、水中移動体を用いると、管路内の流水を止めずに配管内の状態を調査することができる。従来の水中移動体は、その位置や姿勢を検知するための各種センサを備え、これらのセンサにはケーブルが接続されている。例えば、特許文献1に記載された装置では、水中移動体の姿勢角を計測する傾斜角検出器を備え、特許文献2に記載された装置では、水中移動体の姿勢を検知する慣性センサ(角速度検出器と傾斜角検出器と方位角検出器)を備える。
【0007】
水中移動体が小型であると、管路の口径の大きさによらずに配管内の調査が可能である。しかし、小型の水中移動体では、センサに接続されたケーブルにより、移動性能が大きく低下することがある。すなわち、従来の水中移動体は、位置や姿勢を検知するための各種センサを備えるので、多くのケーブル又は太いケーブルが接続されており、このようなケーブルによって移動性能が大きく低下する懸念がある。水中移動体の移動性能が低下すると、配管内の調査に多くの時間がかかったり、調査の精度が低下したりするので、好ましくない。
【0008】
本発明の目的は、水中移動体の移動性能を低下させずに、配管の内表面の形状を水中移動体によって計測する装置と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による管内調査装置は、気中を撮影する気中カメラと、水中を撮影する水中カメラと、ラインビームを照射するラインレーザとを備える水中移動体と、前記気中カメラが撮影した、配管の気中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する気中映像記録部と、前記水中カメラが撮影した、前記配管の水中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する水中映像記録部と、前記気中映像記録部が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記気中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の2次元断面における気中の点群データとして求める気中光切断処理部と、前記気中の点群データから、前記水中移動体の前記2次元断面における水平方向の位置と、前記水中移動体の姿勢角を求める位置姿勢算出部と、前記配管の形状データを保存している管内形状データ記憶部と、前記位置姿勢算出部が求めた前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角と、前記配管の水位とを用いて、前記管内形状データ記憶部が保存している前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記気中の点群データを統合して、気中形状データを得る気中形状データ演算部と、前記水中映像記録部が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記水中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の前記2次元断面における水中の点群データとして求める水中光切断処理部と、前記管内形状データ記憶部が保存している前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記水中の点群データを統合して、水中形状データを得る水中形状データ演算部と、前記気中形状データと前記水中形状データを統合する管内計測データ記録部とを備える。
【0010】
本発明による管内調査方法は、気中を撮影する気中カメラと水中を撮影する水中カメラを備える水中移動体が、配管の内部にラインビームを照射する工程と、前記気中カメラが撮影した、前記配管の気中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する気中映像記録工程と、前記水中カメラが撮影した、前記配管の水中の内表面に投影された前記ラインビームの映像を記録する水中映像記録工程と、前記気中映像記録工程で記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記気中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の2次元断面における気中の点群データとして求める気中光切断処理工程と、前記気中の点群データから、前記水中移動体の前記2次元断面における水平方向の位置と、前記水中移動体の姿勢角を求める位置姿勢算出工程と、前記位置姿勢算出工程で求めた前記水中移動体の前記水平方向の位置と前記姿勢角と、前記配管の水位とを用いて、前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記気中の点群データを統合して、気中形状データを得る気中形状データ演算工程と、前記水中映像記録工程で記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、前記水中カメラから前記ラインビームが投影された前記配管の内表面までの距離を算出し、算出したこの距離を前記配管の前記2次元断面における水中の点群データとして求める水中光切断処理工程と、前記配管の前記2次元断面における内壁の形状データに、前記水中の点群データを統合して、水中形状データを得る水中形状データ演算工程と、前記気中形状データと前記水中形状データを統合する管内計測データ記録工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、水中移動体の移動性能を低下させずに、配管の内表面の形状を水中移動体によって計測する装置と方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例による管内調査装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例による管内調査方法の手順の例を示すフローチャートである。
【
図3】水中移動体の理想状態の位置の例を示す、管路座標系での配管のZX断面図である。
【
図4】水面に位置する水中移動体を示す、管路座標系でのYZ断面図である。
【
図5A】管路座標系において、配管の内部の水中移動体をZ軸方向に沿って上方から見たXY平面図の例である。
【
図5B】移動体座標系での配管のZ
LX
L断面図であり、静止画像を切り出した時刻における水中移動体の例を示す図である。
【
図6A】気中の光切断処理の結果の一例を示す図であり、気中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換された点群データの例を示す図である。
【
図6B】水中の光切断処理の結果の一例を示す図であり、水中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換された点群データの例を示す図である。
【
図7A】位置姿勢算出部が気中の点群データから求めた、レーザ座標系における楕円の例を示す図である。
【
図7B】配管のZX断面における内壁の形状データに表示された、気中の点群データの例を示す図である。
【
図8A】レーザ座標系での配管のZ
LX
L断面における内壁の形状データに表示された、水中の点群データの例を示す図である。
【
図8B】管路座標系での配管のZX断面における内壁の形状データに表示された、水中の点群データの例を示す図である。
【
図9】配管の内壁の形状に表示された、気中の点群データと水中の点群データの例を示す図である。
【
図10A】水中移動体の位置が理想状態の位置からX軸方向に距離ΔXだけ平行移動した場合の、配管の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
【
図10B】水中移動体の位置が理想状態の位置からY
r軸の周りに角度ΔΘだけ回転した場合の、配管の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
【
図10C】水中移動体の位置が理想状態の位置からZ
r軸の周りに角度ΔΨだけ回転した場合の、配管の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
【
図10D】水中移動体の位置が理想状態の位置からX
r軸の周りに角度ΔΦだけ回転した場合の、配管の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
【
図11】気中の点群データを構成する各点と配管の内壁の形状との差分を算出する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による管内調査装置と管内調査方法は、配管の内表面の形状を計測することができ、例えば下水道などの管路における配管の内部の状態を調査するのに用いることができる。配管の内壁は、時間経過とともに劣化して形状が変化することがある。また、配管の内部には、泥や砂などが堆積することがある。このような内壁の形状変化や管内の堆積物により、配管は、内表面の形状が変化することがある。本発明による装置と方法は、水中移動体を用いて配管の内表面の形状を計測して、配管の内部の状態を調査することができる。
【0014】
本発明によれば、配管の内表面の形状を計測する際に、水中移動体の位置と姿勢を計測するセンサが不要であり、水中移動体に接続されたケーブルの数を減らしたり、水中移動体に細いケーブルを接続したりすることができる。このため、水中移動体が小型であっても、水中移動体の移動性能を低下させずに配管の内表面の状態を調査することができる。
【0015】
以下、本発明の実施例による管内調査装置と管内調査方法を、図面を参照して説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
以下の説明では、配管(管路)に設定された座標系(グローバル座標系)を管路座標系(X,Y,Z)と呼ぶ。管路座標系において、配管の長さ方向をY軸方向とし、重力方向をZ軸方向とし、Y軸方向とZ軸方向に垂直な方向(水平方向)をX軸方向とする。
【0017】
図1は、本実施例による管内調査装置の構成例を示すブロック図である。本実施例による管内調査装置は、水中移動体10と、水中移動体10とケーブルで接続された形状計測装置20を備え、配管の内表面の形状を計測する。水中移動体10は、ケーブルにより電力が供給されるとともに形状計測装置20と通信する。
【0018】
水中移動体10は、気中カメラ11と、水中カメラ12と、ラインレーザ13を備え、水面に浮かんで配管の内表面の形状を計測する。水中移動体10は、水面又は水中を移動することができる。
【0019】
形状計測装置20は、気中映像記録部21と、気中光切断処理部22と、同期制御部23と、位置姿勢算出部24と、管内形状データ記憶部25と、気中形状データ演算部26と、水中映像記録部27と、水中光切断処理部28と、水中形状データ演算部29と、管内計測データ記録部30を備え、演算装置と記憶装置を備えるコンピューターで構成することができる。さらに、形状計測装置20は、表示装置として、気中映像表示部31と、水中映像表示部32と、表示部33を備える。形状計測装置20のこれらの構成要素については、後述する。
【0020】
気中カメラ11は、気中を撮影するのに用いられるカメラである。水中カメラは、水中を撮影するのに用いられるカメラである。気中カメラ11と水中カメラ12には、調査する管路系や調査目的に応じて任意のカメラを用いることができ、例えば、魚眼レンズを備えるカメラや全方位カメラなどが用いられる。
【0021】
ラインレーザ13は、ライン状のレーザ光(ラインビーム)を照射するレーザ光源であり、任意のレーザ装置で構成することができる。本実施例では、ラインレーザ13は、配管の内部で気中と水中にラインビームを照射する。ラインレーザ13のラインビームの走査角度は、気中カメラ11と水中カメラ12の視野に応じて決定される。なお、ラインレーザ13の代わりに、最大の走査角度を有するリングレーザ(リング状のレーザ光を照射するレーザ光源)を用いてもよい。
【0022】
なお、水中移動体10は、気中と水中の両方にラインビームを照射する1つのラインレーザ13を備えてもよく、気中にラインビームを照射するラインレーザ13と水中にラインビームを照射するラインレーザ13という2つのラインレーザ13を備えてもよい。
【0023】
気中カメラ11は、ラインレーザ13が照射して、配管の気中の内表面に投影されたラインビームを撮影することができる。水中カメラ12は、ラインレーザ13が照射して、配管の水中の内表面に投影されたラインビームを撮影することができる。
【0024】
気中カメラ11と水中カメラ12とラインレーザ13には、事前にキャリブレーションを行う。そして、キャリブレーション結果として、カメラ11、12の内部パラメータと外部パラメータ、及びカメラ11、12とラインレーザ13の位置姿勢データを、予め算出して求めておく。カメラ11、12の内部パラメータは、例えば、レンズの位置などの光学系のパラメータであり、外部パラメータは、例えば、水中移動体10における位置などのカメラ11、12の位置を定める幾何学的なパラメータである。カメラ11、12とラインレーザ13の位置姿勢データは、例えば、カメラ11、12とラインレーザ13の設置位置や設置角度に関するデータである。
【0025】
キャリブレーション結果であるこれらのパラメータと位置姿勢データは、光切断法による光切断処理などに用いられる。気中光切断処理部22と水中光切断処理部28は、このキャリブレーション結果を用いて、それぞれ気中と水中での光切断処理を行う。
【0026】
次に、本実施例による管内調査装置の動作と作用効果について、本実施例による管内調査方法の手順とともに説明する。
【0027】
図2は、本実施例による管内調査方法の手順の例を示すフローチャートである。
【0028】
S1で、作業者は、配管内の調査を開始する前に、配管内の水位Zwを計測する。水位Zwは、配管の底部から水面までの距離であり、光学式又は超音波式の計測器やスケールなど、水中移動体10と異なる任意の装置や器具を用いて計測することができる。計測した水位Zwのデータは、位置姿勢算出部24に保存される。
【0029】
S2で、作業者は、水中移動体10を配管の内部に設置する。例えば、配管が下水道の管路である場合には、作業者は、マンホールから水中移動体を管路内に投入する。作業者は、水中移動体10が理想状態の位置にできるだけ近くなるように、水中移動体10を設置するのが好ましい。
【0030】
図3は、水中移動体10の理想状態の位置の例を示す図であり、管路座標系での配管41のZX断面図である。配管41の内部には、水位Zwで水42が流れている。水中移動体10は、水42の水面45に位置している。
図3には、ラインレーザ13でラインビーム43を照射している水中移動体10を示している。なお、配管41は、ZX断面(長さ方向に垂直な断面)が円形であり、内径(直径)がd
pであるとする。
【0031】
水中移動体10は、理想状態の位置では、配管41の内部の中心(Z軸方向とX軸方向の中心)に位置し、姿勢を示す角度(X軸方向の周りの角度、Y軸方向の周りの角度、及びZ軸方向の周りの角度)がゼロである。なお、
図3に示した原点Oは、管路座標系での原点であり、配管41の最低部(Z軸方向の最下部)にある。また、
図3には、一例として、配管41のZ軸方向の中心に水位Zwの位置がある例を示している。
【0032】
作業者は、水中移動体10を配管41の内部に設置するときには、水中移動体10の位置と姿勢角を制御する機能を備えた器具を用いてもよい。
【0033】
【0034】
S3で、形状計測装置20は、気中と水中の映像を記録する。水中移動体10は、配管41の内部に設置されると、移動開始前にラインビーム43を照射し気中カメラ11と水中カメラ12で撮影を開始する。形状計測装置20は、カメラ11、12が撮影した気中映像と水中映像をそれぞれ記録し、水中移動体10の初期位置を計測する。
【0035】
形状計測装置20は、水中移動体10が移動を開始後、配管41の内表面の形状を計測する。本実施例では、形状計測装置20は、配管41の長さ方向(Y軸方向)に垂直な断面(ZX断面)における、配管41の内表面の形状を計測する。
【0036】
本実施例では、水中移動体10はY軸方向に移動して配管41の内表面の形状を計測するが、Y軸方向の位置については考えず、ZX断面における、配管41の内表面の形状を計測する。従って、水中移動体10に対しても、ZX断面における位置と姿勢を求める。
【0037】
本実施例において、配管41の内表面の形状を計測したY軸方向の位置(水中移動体10のY軸方向の位置)は、例えば、次の方法で求めることができる。1つは、水中移動体10に接続されたケーブルの送り量を計測し、この送り量から求める方法である。ケーブルの送り量は、ケーブルの送り出しと回収を行うケーブルドラムでケーブルの送り量を計測することで求められる。他の1つは、ストラクチャーフロムモーション(SfM)と呼ばれる方法、すなわち、単一カメラによる収録時期の異なる複数の画像を用い、画像内の複数の特徴点の移動量を検出して、移動量を算出する方法である。
【0038】
ここから、配管41の内表面の形状を計測する手順について、形状計測装置20の構成要素とともに説明する。
【0039】
初めに、形状計測装置20の気中映像記録部21と水中映像記録部27と同期制御部23について説明する。気中カメラ11と水中カメラ12は、配管41の内表面に投影されたラインビーム43を撮影する。
図2のS3で、気中映像記録部21は、気中カメラ11が撮影した、配管41の気中の内表面に投影されたラインビーム43の映像を記録し、水中映像記録部27は、水中カメラ12が撮影した、配管41の水中の内表面に投影されたラインビーム43の映像を記録する。気中映像記録部21と水中映像記録部27は、同期制御部23に制御されて、それぞれ同時刻の気中映像と水中映像を互いに関連付けて記録する。
【0040】
同期制御部23は、気中映像記録部21が記録する気中映像と水中映像記録部27が記録する水中映像が互いに同時刻の映像であるように、気中映像記録部21と水中映像記録部27を同期させる。すなわち、同期制御部23は、気中映像記録部21と水中映像記録部27が互いに同時刻の映像を記録するように、気中映像記録部21と水中映像記録部27を制御する。
【0041】
気中映像表示部31は、気中映像記録部21が記録した映像を表示する。水中映像表示部32は、水中映像記録部27が記録した映像を表示する。
【0042】
配管41の内表面の形状は、例えば次のような方法で計測することができる。1つは、水中移動体10の移動中にラインビーム43を常時照射して、連続的に計測を行う方法である。他の1つは、この連続計測中に特定の位置で水中移動体10を静止させ、カメラ11、12の照明を消灯して、暗闇でラインビーム43を撮影する方法である。他の1つは、水中移動体10の通常の移動時には映像の記録だけを行い、特定の位置のみで水中移動体10を静止させ、カメラ11、12の照明を消灯して、暗闇でラインビーム43を撮影する方法である。
【0043】
次に、気中における、配管41の内表面の形状を計測する手順について説明する。まず、S4における気中の光切断処理の手順について説明する。気中光切断処理部22は、気中映像記録部21が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、気中カメラ11から配管41の気中の内表面までの距離を配管41の2次元断面における点群データとして求める。
【0044】
S4で、気中光切断処理部22は、気中映像記録部21が記録した映像から、処理を行う時刻の静止画像を切り出す。処理を行う時刻は、任意に定めることができる。気中光切断処理部22は、切り出した静止画像を気中映像表示部31に表示することができる。
【0045】
図4は、水面45に位置する水中移動体10を示す、管路座標系でのYZ断面図である。水中移動体10には、ケーブル46が接続されている。水中移動体10は、ラインレーザ13によって、ラインビーム43をY軸方向の周りの任意の方向に照射することができる。
【0046】
以下の説明では、ラインレーザ13の発光源を中心とするローカル座標系をレーザ座標系(XL,YL,ZL)と呼び、水中移動体10の中央を中心とするローカル座標系を移動体座標系(Xr,Yr,Zr)と呼び、気中カメラ11のレンズを中心とするローカル座標系を気中カメラ座標系(Xca,Yca,Zca)と呼び、水中カメラ12のレンズを中心とするローカル座標系を水中カメラ座標系(Xcw,Ycw,Zcw)と呼ぶ。
【0047】
図5Aは、管路座標系において、配管41の内部の水中移動体10をZ軸方向に沿って上方から見たXY平面図の例である。
図5Aには、配管41の内径d
pと、レーザ座標系の座標軸(X
LとY
L)も示している。
【0048】
図5Aには、静止画像を切り出した時刻における、配管41の内部での水中移動体10の位置と姿勢の例を示している。
図5Aに示す例では、水中移動体10は、理想状態の位置と比べ、管路座標系のX軸方向に距離ΔXだけ平行移動し、Z軸の周りに角度ΔΨだけ回転している。なお、
図5Aには、配管41に堆積した堆積物44(例えば、泥や砂など)も示している。
【0049】
図5Bは、移動体座標系での配管41のZ
LX
L断面図であり、静止画像を切り出した時刻における水中移動体10の例を示す図である。
図5Bに示す例では、水位Zwは、配管41の内径d
pの1/2であり、水中移動体10のZ
r軸方向(Z
L軸方向)の中心は、水面45の位置、すなわち配管41のZ軸方向の中心にあるとする。
【0050】
図5Bには、水中移動体10から照射された気中と水中のラインビーム43と、水中に存在する堆積物44を示している。
【0051】
図2のS4の説明に戻る。気中光切断処理部22は、切り出した静止画像に映っているラインビーム43の幅の中心座標を算出する。気中光切断処理部22は、任意の方法でこの中心座標を算出することができ、例えば、画像処理を行って算出することができる。また、気中光切断処理部22が気中映像表示部31に表示した静止画像において、作業者がラインビーム43の幅の中心位置を指定することにより、気中光切断処理部22は、ラインビーム43の幅の中心座標を算出することもできる。
【0052】
気中光切断処理部22は、算出したラインビーム43の幅の中心座標と、事前に実施したキャリブレーションで得られた、気中カメラ11のパラメータ及び気中カメラ11とラインレーザ13の位置姿勢データとを用いて、光切断法による光切断処理を行う。光切断処理には、既存の任意の方法を用いることができる。
【0053】
気中光切断処理部22は、切り出した静止画像に光切断処理を行い、気中カメラ11のレンズ中心からラインビーム43が投影された配管41の内表面(気中では、主に配管41の内壁)までの距離を算出し、算出した距離を配管41の2次元断面における点群データとして求める。この点群データは、気中カメラ座標系でのZcaXca断面における点群データである。そして、気中光切断処理部22は、求めた点群データを、気中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換する。この座標変換には、キャリブレーション結果から得られた、気中カメラ11のレンズとラインレーザ13の発光源との相対的な位置関係を用いる。
【0054】
図6Aは、気中の光切断処理の結果の一例を示す図であり、気中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換された点群データの例を示す図である。
図6Aには、レーザ座標系でのZ
LX
L平面において、水中移動体10と、気中でのラインビーム43の照射で得られた気中の点群データ61を示している。
【0055】
【0056】
S5で、位置姿勢算出部24は、気中の点群データ61から、水中移動体10の位置姿勢データを算出する。水中移動体10の位置姿勢データには、例えば、水中移動体10の配管41の2次元断面における水平方向の位置と、水中移動体10の姿勢角と、水中移動体10のZ方向の位置が含まれる。水中移動体10の2次元断面における水平方向の位置は、例えば、X軸方向の移動距離ΔX(後述する移動距離ΔXLも含む)で表される。水中移動体10の姿勢角は、水中移動体10の3つの回転角、すなわち回転角ΔΨと後述する回転角ΔΦ、ΔΘで表される。水中移動体10のZ方向の位置は、配管41の水位Zwを用いて表される。
【0057】
初めに、位置姿勢算出部24は、S4で気中光切断処理部22が求めたレーザ座標系における点群データ61に対して、楕円当てはめを行う。楕円当てはめとは、点群データを最もよく表現する楕円を求める楕円近似の手法であり、公知の技術である。位置姿勢算出部24は、楕円近似の計算を実施して楕円当てはめを行う。
【0058】
楕円を示す方程式は、式(1)で表される。
【0059】
【0060】
但し、A~Fは、任意の定数であり、f0は、スケールを調整する定数である。式(1)において、係数A~Fの全てを何倍にしても同じ楕円を表すので、式(2)に示すように正規化する。
【0061】
【0062】
式(1)、(2)から、最小二乗法やくりこみ法などの手法で楕円当てはめを行うことができることが一般に知られている。
【0063】
図7Aは、位置姿勢算出部24が気中の点群データ61から求めた、レーザ座標系における楕円71の例を示す図である。なお、水中移動体10は、理想状態の位置と比べ、レーザ座標系のX
L軸方向に距離ΔX
Lだけ平行移動している。
【0064】
位置姿勢算出部24が求めた楕円71は、長径がdLであり、短径がdSである。長径dLは、楕円71の長軸の長さ、すなわちXL軸方向の長さである。短径dSは、楕円71の短軸の長さ、すなわちZL軸方向の長さであり、配管41の内径dpに等しい。
【0065】
位置姿勢算出部24は、楕円71を表す楕円方程式(式(1)、(2))から長径d
Lと短径d
Sを求め、長径d
L、短径d
S、及び移動距離ΔX
Lから、移動体座標系において、水中移動体10の、Zr軸の周りの回転角ΔΨ(
図5Aを参照)と、Xr軸の周りの回転角ΔΦを、式(3)、(4)のように求める。なお、移動距離ΔX
Lは、楕円71の中心の位置とレーザ座標系の原点の位置との差分として求められる。
【0066】
【0067】
【0068】
本実施例では、短径dSが配管41の内径dpに等しいので、式(4)からΔΦは0°である。
【0069】
さらに、位置姿勢算出部24は、移動体座標系において、水中移動体10の、Yr軸の周りの回転角ΔΘを、式(5)から求める。式(5)は、レーザ座標系における楕円71(
図7A)を、楕円71の中心を原点とする座標系に平行移動した後の楕円71を表す式である。
【0070】
【0071】
なお、本実施例では、ΔΘを0°とする。
【0072】
位置姿勢算出部24は、S5で以上のようにして、気中の点群データ61に対して楕円近似の計算である楕円当てはめを行い、水中移動体10の回転角ΔΨ、ΔΦ、ΔΘと、移動距離ΔXLを得る。また、水中移動体10のZ方向の位置は、配管41の水位Zwを用いて表される。位置姿勢算出部24は、回転角ΔΨ、ΔΦ、ΔΘと移動距離ΔXLと水位Zwを、水中移動体10の位置姿勢データとして求めて記憶する。本実施例では、ΔΦとΔΘが0°であるので、位置姿勢算出部24は、水中移動体10の位置姿勢データとして回転角ΔΨ、移動距離ΔXL、及び水位Zwを記憶する。
【0073】
【0074】
S6で、気中形状データ演算部26は、推定した、気中での配管41の内表面の形状を、配管41の内壁の形状データに統合し、気中形状データを得る。具体的には、気中形状データ演算部26は、位置姿勢算出部24が求めた、水中移動体10の位置姿勢データ(本実施例では、回転角ΔΨ、移動距離ΔX
L、及び水位Zw)を用いて、配管41のZX断面における内壁の形状データに、気中の点群データ61(
図7A)を統合し、この統合により得られたデータを気中形状データとする。気中の点群データ61は、気中形状データ演算部26が推定した、気中での配管41の内表面の形状を表す。従って、気中形状データには、推定された気中での配管41の内表面の形状と、配管41のZX断面における内壁の形状データとが含まれる。
【0075】
管内形状データ記憶部25は、配管41の形状データを予め保存している。管内形状データ記憶部25は、例えば、配管41の設計時のCADデータから得られた、配管41の内壁の形状データを保存している。
【0076】
気中形状データ演算部26は、管内形状データ記憶部25から、水中移動体10の位置姿勢データが得られたZX断面における、配管41の内壁の形状データを入力し、気中の点群データ61を、入力した配管41の内壁の形状データに統合し、統合して得られた気中形状データを表示部33に表示する。気中の点群データ61は、この統合により、配管41の内壁の形状データとともに表示部33に表示される。
【0077】
図7Bは、配管41のZX断面における内壁の形状データに表示された、気中の点群データ61の例を示す図である。
図7Bにおいて、気中の点群データ61は、レーザ座標系から変換されて、配管41の内壁の形状72とともに、管路座標系で表示されている。
【0078】
気中形状データ演算部26は、気中の点群データ61を管路座標系で表す。管路座標系で表された点群データ61は、気中形状データ演算部26が推定した、ZX断面における気中での配管41の内表面の形状を表す。
【0079】
図2の説明に戻る。次に、水中における、配管41の内表面の形状を計測する手順について説明する。まず、S7における水中の光切断処理の手順について説明する。
【0080】
S7で、水中光切断処理部28は、気中光切断処理部22と同様の処理を行い、水中の光切断処理を行う。水中光切断処理部28は、水中映像記録部27が記録した映像に光切断法による光切断処理を行い、水中カメラ12から配管41の水中の内表面までの距離を配管41の2次元断面における点群データとして求める。
【0081】
まず、水中光切断処理部28は、水中映像記録部27に記録された映像から、処理を行う時刻の静止画像を切り出す。水中光切断処理部28は、切り出した静止画像を水中映像表示部32に表示することができる。次に、水中光切断処理部28は、切り出した静止画像に映っているラインビーム43の幅の中心座標を算出する。
【0082】
そして、水中光切断処理部28は、算出したラインビーム43の幅の中心座標と、事前に実施したキャリブレーションで得られた、水中カメラ12のパラメータ及び水中カメラ12とラインレーザ13の位置姿勢データとを用いて、光切断の処理を行い、水中カメラ12のレンズ中心からラインビーム43が投影された物体の表面(水中では、主に配管41の内壁と配管41に堆積した堆積物44)までの距離を、水中カメラ座標系での点群データとして求める。そして、水中光切断処理部28は、求めた点群データを、水中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換する。
【0083】
図6Bは、水中の光切断処理の結果の一例を示す図であり、水中カメラ座標系からレーザ座標系に座標変換された点群データの例を示す図である。
図6Bには、レーザ座標系でのZ
LX
L平面において、水中移動体10と、水中でのラインビーム43の照射で得られた水中の点群データ62を示している。
【0084】
【0085】
S8で、水中形状データ演算部29は、推定した、水中での配管41の内表面の形状を、配管41の内壁の形状データに統合し、水中形状データを得る。具体的には、水中形状データ演算部29は、管内形状データ記憶部25から、配管41のZX断面における内壁の形状データを入力し、配管41のZX断面における内壁の形状データに、水中の点群データ62を統合し、この統合により得られたデータを水中形状データとする。水中の点群データ62は、水中形状データ演算部29が推定した、水中での配管41の内表面の形状を表す。
【0086】
本実施例では、水中形状データ演算部29は、レーザ座標系での配管41のZLXL断面における内壁の形状データに、水中の点群データ62を統合する。水中での配管41の内表面の形状には、配管41の内壁の形状72と、配管41に堆積物44が堆積していれば堆積物44の表面の形状が含まれる。
【0087】
水中形状データ演算部29は、統合して得られた水中形状データを表示部33に表示する。水中の点群データ62は、この統合により、配管41の内壁の形状データとともに表示部33に表示される。
【0088】
なお、水中の点群データ62に対しては、気中の点群データ61と異なり、楕円当てはめを行わなくてもよい。水中には配管41に堆積した堆積物44が存在していることがあり、水中の点群データ62は、この堆積物44の表面の形状(楕円や円と異なる不特定な形状)を表すことがあるからである。
【0089】
図8Aは、レーザ座標系での配管41のZ
LX
L断面における内壁の形状データに表示された、水中の点群データ62の例を示す図である。
図8Aには、レーザ座標系で表された、配管41の内壁の形状72と、水中の点群データ62が示されている。
図8Aに示した水中の点群データ62は、配管41に堆積した堆積物44の表面の形状を表している。
【0090】
さらに、水中形状データ演算部29は、水中の点群データ62をレーザ座標系から管路座標系に変換し、管路座標系において、配管41のZX断面における内壁の形状72と水中の点群データ62を表示部33に表示する。管路座標系で表された点群データ62は、水中形状データ演算部29が推定した、ZX断面における水中での配管41の内表面の形状または堆積物44の表面の形状を表す。
【0091】
図8Bは、管路座標系での配管41のZX断面における内壁の形状データに表示された、水中の点群データ62の例を示す図である。
図8Bには、管路座標系で表された、配管41の内壁の形状72と、水中の点群データ62が示されている。
図8Bに示した水中の点群データ62は、配管41に堆積した堆積物44の表面の形状を表している。
【0092】
【0093】
S9で、管内計測データ記録部30は、気中形状データ演算部26が得た気中形状データと、水中形状データ演算部29が得た水中形状データを、管内計測データとして1つのデータに統合する。同期制御部23が気中映像と水中映像が互いに同時刻の映像であるように制御しているので、管内計測データ記録部30は、同時刻の気中形状データと水中形状データを統合することができる。
【0094】
そして、管内計測データ記録部30は、統合して得られた管内計測データを表示部33に表示する。気中形状データと水中形状データに配管41のZX断面における内壁の形状データが含まれているので、管内計測データには、配管41のZX断面における内壁の形状データが含まれている。すなわち、管内計測データ記録部30は、管路座標系において、気中の点群データ61と水中の点群データ62を、配管41の内壁の形状72とともに表示する。
【0095】
図9は、配管41の内壁の形状72に表示された、気中の点群データ61と水中の点群データ62の例を示す図である。配管41の内壁の形状72は、管内形状データ記憶部25に保存されたデータ、例えば、配管41の設計時のCADデータから得られた形状である。気中の点群データ61と水中の点群データ62は、本実施例による管内調査装置が計測して得られたデータである。
【0096】
本実施例による管内調査装置は、このようにして、配管41の特定のZX断面において、気中と水中での、配管41の内表面の形状を水中移動体10によって計測することができる。このため、本実施例による管内調査装置は、配管41の内壁の形状変化や配管41に堆積した堆積物44による、配管41の内表面の形状の変化を求めることができ、配管41の内部の状態を調査することができる。
【0097】
本実施例では、気中の光切断処理で求めた点群データ61に対して楕円当てはめを行い、配管41の断面における水中移動体10の位置と姿勢を求める。このため、水中の光切断処理で求めた点群データ62についても、水中移動体10の位置と姿勢に対応した、配管41の内表面の形状を表す点群データとして求めることができる。したがって、本実施例による管内調査装置は、配管41の内表面の状態を調査するために、水中移動体10の位置と姿勢を計測するセンサが不要である。このため、本実施例では、水中移動体10に多数のケーブルを接続したり、水中移動体10に太いケーブルを接続したりする必要がなく、水中移動体10の移動性能を低下させずに配管41の内表面の状態を調査することができる。
【0098】
以下では、管内形状データ記憶部25が保存している配管41の内壁の形状データ(例えば、配管41の設計時のCADデータ)を、移動体座標系で示した例を、
図10Aから
図10Dに示す。
図10A~10Dは、水中移動体10の位置姿勢データが得られたZX断面における配管41の内壁の形状が、水中移動体10からどのように見えるかを示している。
【0099】
図10Aは、水中移動体10の位置が理想状態の位置からX軸方向に距離ΔXだけ平行移動した場合の、配管41の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
図10Bは、水中移動体10の位置が理想状態の位置からYr軸の周りに角度ΔΘだけ回転した場合の、配管41の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
図10Cは、水中移動体10の位置が理想状態の位置からZr軸の周りに角度ΔΨだけ回転した場合の、配管41の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
図10Dは、水中移動体10の位置が理想状態の位置からXr軸の周りに角度ΔΦだけ回転した場合の、配管41の移動体座標系でのZ
rX
r断面図である。
【0100】
図10A~10Dから、移動距離ΔXや角度ΔΘ、ΔΨ、ΔΦにより、楕円当てはめで得られる楕円の形状がどのように変化するかが分かる(例えば、楕円の長くなる方向や長径d
Lや短径d
Sの長さが変化することが分かる)。
【0101】
図2のS5で、位置姿勢算出部24は、気中の点群データ61と、管内形状データ記憶部25から得られた配管41の内壁の形状データとを照合し、点群データ61と配管41の内壁の形状72との差分を算出することができる。位置姿勢算出部24は、この差分を算出することにより、点群データ61の位置が配管41の内壁の形状72からどの程度離れているかを求めることができる。
【0102】
図11は、気中の点群データ61を構成する各点と配管41の内壁の形状72との差分を算出する方法を説明する図である。
図11には、一例として、レーザ座標系において、水中移動体10が理想状態の位置にあるときの配管41の内壁の形状72を、配管41の内壁の形状データとして示している。
【0103】
図11に示すように、点群データ61を構成する点61aと、配管41の内壁上の点72aとの距離をL
θLiとする。添え字iは、点群データ61を構成する点61aをそれぞれ区別する識別子である。点群データ61を構成する点61aの数は、(n+1)個であるとする(0≦i≦n)。点72aは、点61aとレーザ座標系での原点とを結ぶ直線上にある、配管41の内壁上の点である。点72aは、レーザ座標系のX
L軸からの角度がθ
Liの位置にある。距離L
θLiは、気中の点群データ61と、配管41の内壁の形状72との差分を表す。
【0104】
位置姿勢算出部24は、距離LθLi(点群データ61を構成する各点と配管41の内壁の形状データとの差分)を、式(6)を用いて求める。
【0105】
【0106】
式(6)において、
図11に示すように、ΔX
L_θLiは、点61aと点72aとのX
L軸方向の距離であり、ΔZ
L_θLiは、点61aと点72aとのZ
L軸方向の距離である。
【0107】
位置姿勢算出部24は、気中の点群データ61を構成する点61aの全てについて、差分(距離LθLi)の総和Lallを式(7)で求める。
【0108】
【0109】
位置姿勢算出部24は、移動距離ΔXLと回転角ΔΨ、ΔΦ、ΔΘをパラメータとし、式(7)で求められる差分の総和Lallが最小となるようにこれらのパラメータを直接変化させ、気中の点群データ61を管内形状データ記憶部25から得られた配管41の内壁の形状72と比較することで、水中移動体10の位置姿勢を求めることができる。すなわち、位置姿勢算出部24は、楕円当てはめで求めた上記のパラメータに対し、気中の点群データ61が作る形状と配管41の内壁の形状72との差が最小になるように上記のパラメータ(水中移動体10の位置姿勢データ)を変化させることで、水中移動体10の位置姿勢を求めることができる。
【0110】
また、位置姿勢算出部24は、
図2のS5で、楕円当てはめを行わず、最小二乗法などを用いて、気中の点群データ61と、管内形状データ記憶部25が保存している配管41のZX断面における内壁の形状データとの差が最小になるようにして、水中移動体10の位置姿勢データを求めてもよい。すなわち、位置姿勢算出部24は、楕円当てはめを行わず、移動距離ΔX
Lと回転角ΔΨ、ΔΦ、ΔΘをパラメータとし、最小二乗法などを用いて、気中の点群データ61が作る形状と管内形状データ記憶部25から得られた配管41の内壁の形状72との差が最小になるように上記のパラメータ(水中移動体10の位置姿勢データ)を直接変化させることで、水中移動体10の位置姿勢を求めてもよい。
【0111】
また、
図2のS6で、気中形状データ演算部26が配管41のZX断面における内壁の形状データに気中の点群データ61を統合した後に、位置姿勢算出部24は、この状態での差分の総和L
allを求め、この差分の総和L
allを初期値として、楕円当てはめで求めたパラメータ(移動距離ΔX
Lと回転角ΔΨ、ΔΦ、ΔΘ)を変化させ、最小二乗法などによって差分の総和L
allが最小となるような水中移動体10の位置姿勢データを求めてもよい。このとき、差分の総和L
allが初期値より大きくなったら上記のパラメータを変化させないようにする。このように、パラメータを変化させる範囲を、差分の総和L
allが初期値以下となる範囲に限定することで、計算時間を短縮したり計算に必要なメモリを減らしたりすることができる。
【0112】
水中移動体10は、気中にラインビームを照射するラインレーザ13と水中にラインビームを照射するラインレーザ13という2つのラインレーザ13を備えることができる。これら2つのラインレーザ13は、互いに異なる波長のラインビームを照射してもよい。例えば、水中では緑色の光が赤色の光よりも透過率が大きいので、水中にラインビームを照射するラインレーザ13は、緑色の波長帯のラインビームを照射し、気中にラインビームを照射するラインレーザ13は、赤色の波長帯のラインビームを照射するのが好ましい。
【0113】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0114】
10…水中移動体、11…気中カメラ、12…水中カメラ、13…ラインレーザ、20…形状計測装置、21…気中映像記録部、22…気中光切断処理部、23…同期制御部、24…位置姿勢算出部、25…管内形状データ記憶部、26…気中形状データ演算部、27…水中映像記録部、28…水中光切断処理部、29…水中形状データ演算部、30…管内計測データ記録部、31…気中映像表示部、32…水中映像表示部、33…表示部、41…配管、42…水、43…ラインビーム、44…堆積物、45…水面、46…ケーブル、61…気中の点群データ、61a…点群データを構成する点、62…水中の点群データ、71…楕円、72…配管の内壁の形状、72a…配管の内壁上の点。