(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009757
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】液晶配向剤及びその製造方法、液晶配向膜、並びに液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240116BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240116BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240116BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
C08K5/00
C08L79/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086442
(22)【出願日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2022111291
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】石部 徹
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓海
【テーマコード(参考)】
2H290
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA18
2H290AA33
2H290AA53
2H290AA73
2H290BD01
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2H290DA03
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4J043ZA27
4J043ZA31
4J043ZA55
4J043ZB11
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】液晶配向膜の力学特性を維持しながら、液晶配向性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】ポリイミド及びポリアミック酸よりなる群から選択される少なくとも1種である重合体(P)と、沸点が230℃以上であり、炭素数5以上の鎖状炭化水素構造及び炭素数5以上の脂肪族環のうち少なくともいずれかを有し、かつアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基、塩基性官能基、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択される官能基を有しない化合物(C)(ただし、重合体を除く)とを含有し、化合物(C)の含有量が、重合体成分の合計量100質量部に対して1質量部以上180質量部以下である液晶配向剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド及びポリアミック酸よりなる群から選択される少なくとも1種である重合体(P)と、
沸点が230℃以上であり、炭素数5以上の鎖状炭化水素構造及び炭素数5以上の脂肪族環のうち少なくともいずれかを有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基、塩基性官能基、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択される官能基を有しない化合物(C)(ただし、重合体を除く。)と、
を含有し、
前記化合物(C)の含有量が、重合体成分の合計量100質量部に対して、1質量部以上180質量部以下である、液晶配向剤。
【請求項2】
前記化合物(C)は、環状構造を有する化合物であり、
前記環状構造として、環員数6の単環を分子内に2個以上有するか、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有するか、又は、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記化合物(C)は、下記式(3)で表される化合物である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【化1】
(式(3)中、A
1は、環員数6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。A
2は、環員数5若しくは6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。Y
1は、単結合又は2価の連結基である。R
1は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数1~10のアルコキシ基である。R
2は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基又は炭素数1~10のアルコキシ基である。nは0~4の整数である。ただし、nが0の場合、A
2は、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。式中のA
1及びA
2の全てが炭素数5以上の脂肪族環を有しない場合、R
1及びR
2のうち少なくともいずれかは、炭素数5~10のアルキル基、炭素数5~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数5~10のアルコキシ基である。A
2が環員数5の単環式脂肪族環である場合、nが2以上であるか、又はnが1であって、かつA
1が、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。nが2以上の場合、複数のA
1は同一又は異なり、複数のY
1は同一又は異なる。)
【請求項4】
前記化合物(C)は、環員数5若しくは6の単環式脂肪族炭化水素環、環員数6かつ炭素数5の単環式脂肪族複素環、縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が環員数6かつ炭素数5以上の脂肪族環である脂肪族縮合環、及び炭素数5以上の直鎖状アルケニル基よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項2に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記化合物(C)は、炭素数5以上の鎖状又は環状の飽和脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和脂肪族炭化水素における炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数5以上の化合物、及び脂肪族環又は芳香族環に炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基が結合した化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記化合物(C)の沸点が250℃以上である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記重合体(P)は、下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(1)中、X
1は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
2は2価の有機基である。式(2)中、X
3は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
4は、熱脱離性官能基を有する2価の有機基である。)
【請求項8】
前記X1及びX3が、置換シクロブタン環構造を有する4価の基である、請求項7に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記重合体(P)は、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有し、
前記化合物(C)は、環員数6の単環を分子内に2個以上有するか、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有するか、又は、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基、塩基性官能基、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択される官能基をいずれも有しない化合物である、請求項7に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
架橋剤を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項11】
前記重合体(P)は、熱脱離性官能基を有するジアミンに由来する部分構造を有しないポリアミック酸を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
請求項2~4及び9のいずれか一項に記載の液晶配向剤を製造する方法であって、
前記重合体(P)を含む重合体溶液と、前記化合物(C)を含む液晶組成物とを混合する、液晶配向剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項14】
請求項13に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項15】
前記化合物(C)を含有する液晶層を備える、請求項14に記載の液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤及びその製造方法、液晶配向膜、並びに液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、一般に、液晶層中の液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を備える。液晶配向膜は、通常、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって形成される。
【0003】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は従来よりも高まっている。そこで、液晶配向膜の性能を改善し、液晶素子の各種特性を優れたものとするべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、N,N’-ビス(2-((5-アミノピリジン-2-イル)アミノ)エチル)ウレア等の窒素含有ジアミンを含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸を液晶配向剤に含有させることにより、塗膜の光反応性やラビング耐性、液晶配向性、交流電圧の印加に伴う残像(AC残像)の低減及び電圧保持率をバランス良く改善することが開示されている。なお、AC残像は、液晶素子の長時間駆動によって初期配向の方向が液晶素子の製造当初からずれてくることに起因して生じる残像である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AC残像を低減させる方法の1つとして、特許文献1のように直鎖構造を重合体の主鎖に導入可能な単量体を用いることにより、加熱による分子鎖の再配向やラビング処理による分子鎖の延伸を促進させることが考えられる。その一方で、分子鎖の延伸を促進させた場合、液晶配向膜の力学特性が低下することが考えられる。液晶素子の更なる高品質化の観点からすると、液晶配向膜の力学特性を維持しながら、長時間駆動した後もAC残像が発生しにくく、液晶配向性が良好であることが求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、液晶配向膜の力学特性を維持しながら、液晶配向性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0009】
〔手段1〕 ポリイミド及びポリアミック酸よりなる群から選択される少なくとも1種である重合体(P)と、沸点が230℃以上であり、炭素数5以上の鎖状炭化水素構造及び炭素数5以上の脂肪族環のうち少なくともいずれかを有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基、塩基性官能基、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択される官能基を有しない化合物(C)(ただし、重合体を除く。)と、を含有し、前記化合物(C)の含有量が、重合体成分の合計量100質量部に対して、1質量部以上180質量部以下である、液晶配向剤。
【0010】
〔手段2〕 前記化合物(C)は、環状構造を有する化合物であり、前記環状構造として、環員数6の単環を分子内に2個以上有するか、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有するか、又は、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有する、〔手段1〕の液晶配向剤。
【0011】
〔手段3〕 前記化合物(C)は、下記式(3)で表される化合物である、〔手段2〕の液晶配向剤。
【化1】
(式(3)中、A
1は、環員数6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。A
2は、環員数5若しくは6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。Y
1は、単結合又は2価の連結基である。R
1は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数1~10のアルコキシ基である。R
2は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基又は炭素数1~10のアルコキシ基である。nは0~4の整数である。ただし、nが0の場合、A
2は、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。式中のA
1及びA
2の全てが炭素数5以上の脂肪族環を有しない場合、R
1及びR
2のうち少なくともいずれかは、炭素数5~10のアルキル基、炭素数5~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数5~10のアルコキシ基である。A
2が環員数5の単環式脂肪族環である場合、nが2以上であるか、又はnが1であって、かつA
1が、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。nが2以上の場合、複数のA
1は同一又は異なり、複数のY
1は同一又は異なる。)
【0012】
〔手段4〕 前記化合物(C)は、環員数5若しくは6の単環式脂肪族炭化水素環、環員数6かつ炭素数5の単環式脂肪族複素環、縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が環員数6かつ炭素数5以上の脂肪族環である脂肪族縮合環、及び炭素数5以上の直鎖状アルケニル基よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、〔手段2〕又は〔手段3〕の液晶配向剤。
【0013】
〔手段5〕 前記化合物(C)は、炭素数5以上の鎖状又は環状の飽和脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和脂肪族炭化水素における炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数5以上の化合物、及び脂肪族環又は芳香族環に炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基が結合した化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、〔手段1〕の液晶配向剤。
〔手段6〕 前記化合物(C)の沸点が250℃以上である、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかの液晶配向剤。
【0014】
〔手段7〕 前記重合体(P)は、下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかの液晶配向剤。
【化2】
(式(1)中、X
1は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
2は2価の有機基である。式(2)中、X
3は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
4は、熱脱離性官能基を有する2価の有機基である。)
【0015】
〔手段8〕 前記X1及びX3が、置換シクロブタン環構造を有する4価の基である、〔手段7〕の液晶配向剤。
【0016】
〔手段9〕 前記重合体(P)は、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有し、
前記化合物(C)は、環員数6の単環を分子内に2個以上有するか、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有するか、又は、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基、塩基性官能基、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択される官能基をいずれも有しない化合物である、〔手段7〕又は〔手段8〕の液晶配向剤。
【0017】
〔手段10〕 架橋剤を更に含有する、〔手段1〕~〔手段9〕のいずれかの液晶配向剤。
〔手段11〕 前記重合体(P)は、熱脱離性官能基を有するジアミンに由来する部分構造を有しないポリアミック酸を含む、〔手段1〕~〔手段10〕のいずれかの液晶配向剤。
【0018】
〔手段12〕 〔手段2〕~〔手段4〕及び〔手段9〕のいずれかの液晶配向剤を製造する方法であって、前記重合体(P)を含む重合体溶液と、前記化合物(C)を含む液晶組成物とを混合する、液晶配向剤の製造方法。
【0019】
〔手段13〕 〔手段1〕~〔手段11〕のいずれかの液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔手段14〕 〔手段13〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
〔手段15〕 前記化合物(C)を含有する液晶層を備える、〔手段14〕の液晶素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液晶配向剤によれば、液晶配向膜の力学特性を維持しながら、液晶配向性に優れた液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《液晶配向剤》
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)と化合物(C)とを含有する。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。なお、各成分については、特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ここで、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香族環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香族環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香族環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香族環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。芳香族環は単環式でも多環式でもよい。「脂肪族環」は、脂肪族炭化水素環及び脂肪族複素環を含む意味である。脂肪族環は単環式でも多環式でもよい。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。「環状基」とは、置換又は無置換の環の環部分からn個の水素原子を取り除いたn価の基をいう。
【0023】
重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」の部分から分岐した部分をいう。「(メタ)アクリロ」は、アクリロ及びメタクリロを包含する用語であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを包含する用語である。
【0024】
<重合体(P)>
重合体(P)は、ポリイミド及びポリアミック酸よりなる群から選択される少なくとも1種である。液晶配向性が良好な液晶素子を得ることができる点で、重合体(P)は、下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化3】
(式(1)中、X
1は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
2は2価の有機基である。式(2)中、X
3は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。X
4は、熱脱離性官能基を有する2価の有機基である。)
【0025】
・X1及びX3について
上記式(1)において、X1及びX3を与える脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状でも環状でもよい。なお、以下では、脂肪族テトラカルボン酸二無水物のうち、脂肪族炭化水素部分が鎖状である化合物を「鎖状テトラカルボン酸二無水物」をいい、脂肪族炭化水素部分に環状構造を有する化合物を「脂環式テトラカルボン酸二無水物」という。
【0026】
鎖状テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物等が挙げられる。なお、脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、テトラカルボン酸二無水物が有する2個の酸無水物基が脂肪族炭化水素構造に結合していればよく、2個の酸無水物基が鎖状又は環状の脂肪族構造に結合している限り、芳香族環構造を有していてもよい。
【0027】
置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が有する1個以上の水素原子が置換基で置き換えられた化合物である。置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物は下記式(t)で表される。
【化4】
(式(t)中、R
5及びR
7は、それぞれ独立して水素原子若しくは炭素数1~3のアルキル基であるか、又はR
5とR
7とが互いに合わせられてR
5が結合する炭素及びR
7が結合する炭素と共に構成される炭素数4~7の脂肪族環構造を表す。ただし、R
5及びR
7が同時に水素原子になることはない。R
6及びR
8は、それぞれ独立して水素原子若しくは炭素数1~3のアルキル基であるか、又はR
6とR
8とが互いに合わせられてR
6が結合する炭素及びR
8が結合する炭素と共に構成される炭素数4~7の脂肪族環構造を表す。)
【0028】
置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、下記式(t-1)~式(t-6)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0029】
X
1及びX
3で表される基は、液晶配向性の観点から、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基であることが好ましく、光配向法を適用した場合に優れた液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、置換シクロブタン環構造を有する4価の基であることがより好ましい。置換シクロブタン環構造が有する置換基は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。X
1及びX
3で表される基が置換シクロブタン環構造を有する4価の基である場合の具体例としては、下記式(x-1)~式(x-6)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化6】
(式(x-1)~式(x-6)中、「*」は結合手を表す。)
【0030】
X1及びX3で表される基は、液晶配向剤を用いて形成された塗膜の光反応性をより高くできる点で、上記の中でも、式(x-2)で表される基(すなわち、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基)であることが特に好ましい。
【0031】
・X2について
X2で表される2価の有機基は、ジアミンに由来する基である。X2を与えるジアミンは、液晶配向膜を得るためのポリアミック酸やポリイミドの合成に用いられる公知のジアミンを使用できる。X2を与えるジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンが挙げられる。
【0032】
X2を与えるジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。脂環式ジアミンとしては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸、6,6’-(ペンタメチレンジオキシ)ビス(3-アミノピリジン)、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1-(4-アミノフェノキシ)-2-(4-(4’-アミノフェニル)フェノキシ)エタン、下記式(d-1)~式(d-26)
【化7】
【化8】
【化9】
(式中の「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表す。)
で表される窒素含有ジアミン等の主鎖型ジアミン;
ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化10】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を示す。)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等が挙げられる。ジアミノオルガノシロキサンとしては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0034】
式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化11】
【0035】
・X4について
X4で表される2価の有機基は、熱脱離性官能基を有するジアミンに由来する基である。ここで、熱脱離性官能基とは、-NH-、-CO-NH-、-NH-CO-NH-、-NH-CO-O-、カルボキシ基、ヒドロキシ基、チオール基等の官能基が有する水素原子を置換する基であって、熱により脱離して水素原子に置き換わる基である。熱脱離性官能基は、膜形成時のポストベークにより脱離する基であることが好ましい。
【0036】
交流電圧の印加に伴う残像(AC残像)の発生を低減する効果を高める観点から、X4で表される2価の有機基が有する熱脱離性官能基は、上記の中でも、窒素原子に結合する水素原子を置換する基であることが好ましい。具体的には、X4で表される2価の有機基は、-NR3-、-CO-NR3-及び-NR3-CO-NR4-(R3及びR4は、それぞれ独立して熱脱離性官能基である。以下同じ。)よりなる群から選択される少なくとも1種の窒素含有官能基を有する基であることが好ましく、当該窒素含有官能基を重合体の主鎖中に有する基であることがより好ましい。
【0037】
R3及びR4で表される熱脱離性官能基としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量を少なくできる点で、Boc基が特に好ましい。
【0038】
X4を与えるジアミン(以下、「熱脱離性基含有ジアミン」ともいう)は、熱脱離性官能基を有していれば特に限定されず、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びジアミノオルガノシロキサンのいずれであってもよい。なお、脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。AC残像の低減効果をより高くできる点で、熱脱離性基含有ジアミンは、-NR3-、-CO-NR3-及び-NR3-CO-NR4-よりなる群から選択される少なくとも1種の窒素含有官能基を有するジアミンが好ましく、当該窒素含有官能基を主鎖中に有するジアミンが好ましい。熱脱離性基含有ジアミンは芳香族ジアミンであることが好ましく、その具体例としては、上記式(d-5)、式(d-7)、式(d-11)、式(d-12)、式(d-19)、式(d-22)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0039】
重合体(P)は、ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である。重合体(P)がポリアミック酸である場合、重合体(P)は上記式(2)で表される部分構造を有することが好ましい。重合体(P)がポリイミドである場合、重合体(P)は、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【0040】
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)として、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する重合体(以下、「重合体(P1)」ともいう)と共に、熱脱離性官能基を有するジアミンに由来する部分構造を有しないポリアミック酸(以下、「重合体(P2)」ともいう)を含有することが好ましい。重合体(P)として重合体(P1)と重合体(P2)とを含有する液晶配向剤とすることにより、重合体(P1)の塗膜表面における存在比率を高くでき、化合物(C)の配合による改善効果を高くできると考えられる。
【0041】
重合体(P2)を液晶配向剤に配合させる場合、重合体(P2)の含有割合は、重合体(P)100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、90質量部以下が更に好ましい。
【0042】
・ポリアミック酸の合成
重合体(P)がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。
【0043】
ポリアミック酸(P)の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物としては脂肪族テトラカルボン酸二無水物が使用される。ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。
【0044】
また、ポリアミック酸(P)の合成に際しては、ジアミンの少なくとも一部として熱脱離性基含有ジアミンが使用されることが好ましい。AC残像の低減効果を高める観点から、熱脱離性基含有ジアミンの使用割合(2種以上使用する場合にはその合計量)は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミンの全量に対して、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。また、熱脱離性基含有ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミンの全量に対して、100モル%以下であればよく、90モル%以下が好ましい。ポリアミック酸(P)の合成反応において、ジアミンとしては、熱脱離性基含有ジアミンのみを用いてもよいし、熱脱離性基含有ジアミンとは異なるジアミンのみを用いてもよい。また、熱脱離性基含有ジアミンと、熱脱離性基含有ジアミンとは異なるジアミンとを用いてもよい。熱脱離性基含有ジアミンとは異なるジアミンとしては、例えば、上記式(1)中のX2を与えるジアミンとして例示したジアミンのうち、熱脱離性官能基を有しないジアミンが挙げられる。
【0045】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。
【0046】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0047】
ポリアミック酸(P)の合成反応において、反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらのうち、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0048】
上記の重合によりポリアミック酸(P)を溶解してなる重合体溶液を得ることができる。この重合体溶液はそのまま液晶配向剤の調製に用いられてもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に用いられてもよい。製造工程の簡略化を図る観点や、化合物(C)と混合して液晶配向剤を製造する観点からすると、重合により得られた重合体溶液をそのまま液晶配向剤の調製に用いることが好ましい。
【0049】
・ポリイミドの合成
重合体(P)がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド(P)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによりポリアミック酸を合成し、次いでポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。イミド化には、上述したポリアミック酸(P)を用いることができる。すなわち、イミド化に用いるポリアミック酸は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物と、熱脱離性基含有ジアミンを含むジアミンとの反応生成物であってもよい。また、イミド化に用いるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物として芳香族テトラカルボン酸二無水物のみを用いて得られる重合体であってもよく、ジアミンとして熱脱離性基含有ジアミンを含まないジアミンのみを用いて得られる重合体であってもよい。上記反応による反応生成物としてのポリアミック酸は、置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含むことが好ましい。置換シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。
【0050】
ポリイミド(P)は、イミド化率が20~90%であることが好ましく、30~85%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0051】
ポリアミック酸の脱水閉環は、有機溶媒に溶解されたポリアミック酸に対し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われることが好ましい。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。
【0052】
脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド(P)を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いられてもよい。また、反応溶液中からポリイミド(P)を単離し、単離したポリイミド(P)を液晶配向剤の調製に用いてもよい。ポリイミド(P)は、ポリアミック酸エステルの脱水閉環により得ることもできる。
【0053】
重合体(P)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体(P)の良溶媒(例えば、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0054】
重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0055】
液晶配向剤中における重合体(P)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量(すなわち、液晶配向剤に含まれる溶媒以外の成分の合計質量)に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、重合体(P)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量に対して、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0056】
<化合物(C)>
化合物(C)は、沸点が230℃以上であって、炭素数5以上の鎖状炭化水素構造及び炭素数5以上の脂肪族環のうち少なくともいずれかを有する化合物である。ただし、化合物(C)は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基、アリルフェニル基、イソプロペニル基、マレイミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、酸性官能基(具体的には、フェノール性水酸基、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基)、塩基性官能基(具体的には、アミノ基、アミジノ基、グアニジノ基、含窒素芳香族複素環基)、極性官能基及び熱脱離性官能基よりなる群から選択されるいずれの官能基(以下、「特定官能基」ともいう)も有しない。
【0057】
なお、化合物(C)は重合体とは異なり、分子量分布を有しない低分子化合物である。化合物(C)の分子量は、例えば1,200以下であり、1,000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。
【0058】
化合物(C)が有する炭素数5以上の鎖状炭化水素構造の具体例としては、炭素数5~30の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素構造、炭素数5~30の直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素構造が挙げられる。液晶素子の液晶配向性をより良好にできる点で、化合物(C)が有する炭素数5以上の鎖状炭化水素構造は、これらのうち、鎖状アルキレン構造又は直鎖状アルケニル構造が好ましく、直鎖状アルキレン構造又は直鎖状アルケニル構造がより好ましい。
【0059】
化合物(C)が有する炭素数5以上の脂肪族環は、単環でもよく縮合環でもよい。また、炭化水素環及び複素環のいずれであってもよい。これらの具体例としては、炭素数5~12の飽和又は不飽和の単環式脂肪族炭化水素環、炭素数5~12の飽和又は不飽和の単環式脂肪族複素環、炭素数5~20の飽和又は不飽和の縮合環式脂肪族炭化水素環、及び炭素数5~20の飽和又は不飽和の縮合環式脂肪族複素環が挙げられる。化合物(C)が炭素数5以上の脂肪族環として縮合環を有する場合、当該縮合環は、縮合環を構成する2個以上の環のうち1個以上がシクロペンタン環又はシクロヘキサン環であることが好ましく、シクロヘキサン環であることがより好ましい。
【0060】
膜形成時の加熱の際(焼成時)に化合物(C)の揮発を抑制し、化合物(C)による液晶配向性の改善効果を十分に得る観点から、化合物(C)の沸点は230℃以上であり、250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。化合物(C)の沸点が230℃未満の場合、膜形成時の加熱の際に化合物(C)が揮発しやすく、液晶素子の液晶配向性を良化できない傾向がある。
【0061】
膜形成時の加熱の際に化合物(C)の分子運動を促進させ、液晶配向性の改善効果を十分に得る観点から、化合物(C)の融点は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましく、180℃以下であることがより更に好ましい。また、膜形成時において焼成後の塗膜を室温に冷却した際に化合物(C)の結晶化を抑制する観点から、化合物(C)の融点は30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。本開示の液晶配向剤が化合物(C)を2種以上含有している場合、その液晶組成物の融点が30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
【0062】
なお、液晶素子の液晶配向性(AC残像)の低下を招くため、化合物(C)は特定官能基をいずれも有しない。特定官能基のような反応性の官能基を化合物(C)が有していると、光配向法を適用する場合に、露光前の焼成時に化合物(C)が重合反応や架橋反応を誘発し、露光後の焼成において期待される配向増幅の効果を発現しないためである。同様に、ラビング配向法を適用する場合にも、焼成時に化合物(C)が重合反応や架橋反応を誘発することによって、ラビング処理で生じる剪断応力による配向膜表面の分子鎖の配向(延伸)が妨げられるためである。
【0063】
化合物(C)の好ましい1つの態様は、化合物(C)は環状構造を有する化合物であり、環状構造として、環員数6の単環を分子内に2個以上有するか、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有するか、又は、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有し、かつ、特定官能基を有しない化合物(以下、「化合物(C1)」ともいう)である。また、化合物(C)の他の好ましい1つの態様は、炭素数5以上の鎖状又は環状の飽和脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和脂肪族炭化水素における炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数5以上の化合物、及び脂肪族環又は芳香族環に炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基が結合した化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であって、かつ、特定官能基を有しない化合物(以下、「化合物(C2)」ともいう)である。以下、化合物(C1)及び化合物(C2)の詳細について説明する。
【0064】
・化合物(C1)
化合物(C1)は、典型的には液晶分子である。化合物(C1)は、メソゲン構造として上記環状構造を有する。
【0065】
化合物(C1)が、環員数6の単環を分子内に2個以上有する場合、当該単環は脂肪族環及び芳香族環のいずれであってもよく、また炭化水素環でもよく複素環でもよい。化合物(C1)が有する単環が炭化水素環である場合、当該炭化水素環としては、脂肪族環(シクロヘキサン環)及び芳香族環(ベンゼン環)が挙げられる。環員数6の複素環は飽和複素環が好ましく、含酸素飽和複素環がより好ましい。含酸素飽和複素環は、具体的にはテトラヒドロピラン環である。なお、化合物(C1)が有する2個以上の単環は同一でも異なっていてもよい。また、化合物(C1)が有する単環は無置換でもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基、炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。
【0066】
化合物(C1)が、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を分子内に1個以上有する場合、当該縮合環を構成する6員環は、ベンゼン環、シクロヘキサン環及び飽和複素環よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。飽和複素環としては、含酸素飽和複素環、含硫黄飽和複素環が挙げられる。化合物(C1)が、縮合環を構成する2個以上の環が6員環である縮合環を分子内に1個以上有する場合、液晶配向性の改善効果を高めることができる点で、縮合環を構成する環の1個以上がシクロヘキサン環であることが好ましい。
【0067】
2個以上の6員環をもつ縮合環の好ましい具体例としては、下記式(ca-1)~式(ca-5)のそれぞれで表される環及びステロイド構造が挙げられる。
【化12】
【0068】
化合物(C1)が、縮合環を構成する複数個の環のうち1個が6員環である縮合環と、環員数6の単環とをそれぞれ分子内に1個以上有する場合、縮合環を構成する6員環は、ベンゼン環、シクロヘキサン環及び飽和複素環よりなる群から選択される1種以上であることが好ましく、シクロヘキサン環がより好ましい。6員環を1個もつ縮合環の好ましい具体例としては、下記式(ca-6)で表される環が挙げられる。
【化13】
【0069】
化合物(C1)の具体例としては、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化14】
(式(3)中、A
1は、環員数6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。A
2は、環員数5若しくは6かつ炭素数5以上の単環式脂肪族環、環員数6の単環式芳香族環、又は縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。Y
1は、単結合又は2価の連結基である。R
1は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数1~10のアルコキシ基である。R
2は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数1~10の直鎖状アルケニル基又は炭素数1~10のアルコキシ基である。nは0~4の整数である。ただし、nが0の場合、A
2は、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。式中のA
1及びA
2の全てが炭素数5以上の脂肪族環を有しない場合、R
1及びR
2のうち少なくともいずれかは、炭素数5~10のアルキル基、炭素数5~10の直鎖状アルケニル基、又は炭素数5~10のアルコキシ基である。A
2が環員数5の単環式脂肪族環である場合、nが2以上であるか、又はnが1であって、かつA
1が、縮合環を構成する複数個の環のうち2個以上が6員環である縮合環を有する2価の環状基である。nが2以上の場合、複数のA
1は同一又は異なり、複数のY
1は同一又は異なる。)
【0070】
上記式(3)において、A1及びA2で表される2価の基が有する環の具体例については、上記の説明が適用される。Y1で表される2価の連結基としては、メチレン基、エチレン基、-CH2-O-、-CF2-O-が挙げられる。
【0071】
液晶配向性がより良好な液晶素子を得る観点から、化合物(C)は、2個以上のフェニレン基が単結合で結合されてなる構造(例えば、ビフェニル構造やターフェニル構造)、2個以上のフェニレン基が上記Y1で連結されてなる構造を有しないことが好ましい。
【0072】
液晶素子の液晶配向性(AC残像)をより良好にする観点から、化合物(C1)は中でも、環員数5若しくは6の単環式脂肪族炭化水素環、環員数6かつ炭素数5の単環式脂肪族複素環、縮合環を構成する複数個の環のうち1個以上が環員数6かつ炭素数5以上の脂肪族環である脂肪族縮合環、及び炭素数5以上の直鎖状アルケニル基よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。化合物(C1)が上記構造を有することにより、重合体(P)との相分離性をより良好にすることができ、また化合物(C1)の粘度の低下や分子運動性の促進を図ることができ、これにより液晶配向性をより高くできるものと考えられる。具体的には、単環式脂肪族炭化水素環はシクロヘキサン環が好ましい。単環式脂肪族複素環はテトラヒドロピラン環が好ましい。上記脂肪族縮合環としては、例えば、デカヒドロナフタレン環、ビシクロ[4.3.0]ノナン環、上記式(ca-1)~式(ca-6)のそれぞれで表される環、ステロイド構造等が挙げられる。
【0073】
なお、化合物(C1)は、必ずしも液晶性を示す必要はないが、室温(25℃)から230℃の温度範囲の一部でネマチック相を発現することが好ましい。融点を下げて液晶温度範囲を広げる観点から、本開示の液晶配向剤は、化合物(C1)を2種以上含有してもよく、2種以上の化合物(C1)が液晶組成物を構成してもよい。
【0074】
化合物(C1)は、誘電率異方性を有しない液晶(ニュートラル液晶)であってもよく、誘電率異方性を有する液晶(ネガ型液晶、ポジ型液晶)であってもよい。化合物(C1)を含む本開示の液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成した場合にも液晶層の電気特性に影響を与えにくい点で、これらのうち、ニュートラル液晶であるか、又は液晶層に使用する液晶と同一の液晶であることが好ましい。化合物(C1)としてポジ型液晶又はネガ型液晶を用いる場合には、液晶層に使用する液晶(ポジ型/ネガ型)と一致させることが好ましい。
【0075】
化合物(C1)がニュートラル液晶である場合の具体例としては、下記式で表される化合物等が挙げられる。
【化15】
【0076】
化合物(C1)がネガ型液晶である場合の具体例としては、下記式で表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【化17】
【0077】
化合物(C1)がポジ型液晶である場合の具体例としては、下記式で表される化合物等が挙げられる。
【化18】
【0078】
・化合物(C2)
化合物(C2)は、炭素数5以上の鎖状又は環状の飽和脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和脂肪族炭化水素における炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数5以上の化合物、及び脂肪族環又は芳香族環に炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基が結合した化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であり、かつ特定官能基を有しない。化合物(C2)は、典型的には非液晶分子である。
【0079】
化合物(C2)が炭素数5以上の鎖状飽和脂肪族炭化水素化合物である場合、当該鎖状飽和脂肪族炭化水素の具体例としては、炭素数5~30の直鎖状飽和脂肪族炭化水素、炭素数5~30の分岐状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。液晶素子の液晶配向性の改善効果が高い点で、鎖状飽和脂肪族炭化水素の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が更に好ましい。
【0080】
化合物(C2)が炭素数5以上の環状飽和脂肪族炭化水素化合物である場合、当該環状飽和脂肪族炭化水素化合物の炭素数は、液晶素子の液晶配向性の改善効果が高い点で、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が更に好ましい。
【0081】
化合物(C2)が、鎖状飽和脂肪族炭化水素における炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数5以上の化合物である場合、化合物(C2)中の-O-の数は、例えば1~5個であり、好ましくは1~3個、より好ましくは1個又は2個である。鎖状飽和脂肪族炭化水素の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が更に好ましい。
【0082】
化合物(C2)が、脂肪族環又は芳香族環に炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基が結合した化合物である場合、脂肪族環及び芳香族環はそれぞれ、単環式でも縮合環式でもよく、炭化水素環でも複素環でもよい。好ましくは、脂肪族炭化水素環又は芳香族炭化水素環であり、シクロヘキサン環又はベンゼン環がより好ましい。また、炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基は直鎖状でもよく、分岐状でもよい。鎖状飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は、7以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。脂肪族環又は芳香族環に結合する炭素数5以上の1価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。また、化合物(C2)中の脂肪族環又は芳香族環は、炭素数4以下の置換基(例えば炭素数1~4のアルキル基、ハロゲン原子)を有していてもよい。
【0083】
化合物(C2)の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化19】
【0084】
本開示の液晶配向剤において、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、1~180質量部である。化合物(C)の含有割合が1質量部未満であると、化合物(C)の配合による液晶配向性(AC残像特性)の改善効果を十分に得ることができない。また、化合物(C)の含有割合が180質量部よりも多いと、液晶配向剤の塗布性が低下し、液晶配向性(AC残像特性)に優れた液晶素子を得ることができない。液晶配向性(AC残像特性)及び信頼性の高い液晶素子を得る観点から、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましい。上記観点から、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、120質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましい。
【0085】
化合物(C)として化合物(C1)を用いる場合、液晶配向性及び信頼性の高い液晶素子を得る観点から、化合物(C)の含有割合を、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、1~20質量部とすることが特に好ましい。上記観点から、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、化合物(C)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
【0086】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体(P)及び化合物(C)のほか、必要に応じて、重合体(P)及び化合物(C)とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。その他の成分としては、重合体(P)とは異なる重合体(以下、「その他の重合体」ともいう)、架橋剤、溶剤等が挙げられる。
【0087】
・その他の重合体
その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、付加重合体等が挙げられる。信頼性の高い液晶素子を得る観点から、その他の重合体は、これらのうち、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。付加重合体は、重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であり、例えば、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、及びスチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。
【0088】
その他の重合体を液晶配向剤に配合する場合、その他の重合体の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分(すなわち、重合体(P)とその他の重合体との合計量)100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0089】
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)及びその他の重合体のうち一方又は両方が、環員数6の単環を側鎖部分に2個以上有する構造単位、縮合環を構成する環のうち2個以上が6員環である縮合環を側鎖部分に1個以上有する構造単位、縮合環を構成する環のうち1個が6員環である縮合環を側鎖部分に2個以上有する構造単位、及び縮合環を構成する環のうち1個が6員環である縮合環と環員数6の単環構造とをそれぞれ側鎖部分に1個以上有する構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種の構造単位(以下、「特定側鎖単位」ともいう)を含む重合体を含有していてもよい。化合物(C)と共に特定側鎖単位を含む重合体を本開示の液晶配向剤に含有させることにより、特定側鎖単位を含む重合体の表面偏在性や、特定側鎖単位を含む重合体が有する側鎖構造(以下、「液晶性側鎖構造」ともいう)の垂直配向性を促すようにしてもよい。
【0090】
特定側鎖単位を含む重合体は、重合体(P)であってもよいし、その他の重合体であってもよいし、それらの両方であってもよい。特定側鎖単位を含む重合体(P)は、例えば、側鎖型ジアミンを用いて重合することにより得ることができる。特定側鎖単位を含むその他の重合体は、その主骨格は特に限定されない。特定側鎖単位を含むその他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、付加重合体等が挙げられる。信頼性の高い液晶素子を得る観点から、特定側鎖単位を含むその他の重合体は、これらのうち、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0091】
特定側鎖単位を含む重合体を本組成物に配合する場合、特定側鎖単位を含む重合体の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。
【0092】
・架橋剤
本開示の液晶配向剤は、架橋剤を更に含有していてもよい。架橋剤としては、重合体(P)が有する反応性基(例えば、アミノ基やカルボキシ基、電子豊富な芳香族環基等)と反応可能な官能基(以下、「架橋性基」ともいう)を2個以上有する化合物を好ましく使用することができる。特に、本開示の液晶配向剤は、化合物(C)が可塑剤として機能することにより、架橋剤の配合により膜の力学特性の向上を図る場合にも重合体(P)由来の高分子鎖の分子運動性や延伸性が低下することを抑制でき、これにより、膜の力学特性の向上を図りつつ、塗膜に対する配向処理によって膜に異方性を十分に付与できると考えられる。
【0093】
本開示の液晶配向剤に含有させる架橋剤としては、環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、基「-CR10=CR11-R12-」(ただし、R10は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R11は水素原子又はアルキル基である。R12は電子求引性基である。)、基「-CONR13R14」(ただし、R13はヒドロキシアルキル基又は保護されたヒドロキシアルキル基である。R14は1価の有機基である。)シラノール基、アルコキシシリル基、アミノ基及び保護されたアミノ基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を有する化合物を好ましく使用できる。
【0094】
上記の架橋性基のうち、重合性炭素-炭素結合を有する基としては、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、アルケニル基、ビニルフェニル基、ビニルエーテル基、3-メチレンテトラヒドロフラン-2(3H)-オン-5-イル基等が挙げられる。基「-CR10=CR11-R12-」において、R10で表される1価の有機基としては、例えば炭素数1~5のアルコキシ基、ピロリドン-1-イル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。R12の電子求引性基としては、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。
【0095】
架橋剤が1分子内に有する架橋性基の数は、液晶配向性、電圧保持率及び膜硬度をバランス良く改善するとともに、液晶配向性の低下を抑制する観点から、2~12個が好ましく、2~10個がより好ましい。架橋剤の分子量は、保存安定性及び膜の機械的強度の観点から、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0096】
架橋剤の具体例としては、重合性炭素-炭素結合を有する化合物として、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、下記式(d1-1)~式(d1-8)のそれぞれで表される化合物等を;
環状(チオ)エーテル基を有する化合物として、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン等を;
イソシアネート基又は保護されたイソシアネート基を有する化合物として、例えば下記式(d2-1)~式(d2-5)のそれぞれで表される化合物等を;
メチロール基又は保護されたメチロール基を有する化合物として、例えば下記式(d3-1)~式(d3-6)のそれぞれで表される化合物等を;
環状カーボネート基を有する化合物として、例えば下記式(d4-1)及び式(d4-2)のそれぞれで表される化合物等を;
基「-CR
10=CR
11-R
12-」を有する化合物として、例えば下記式(d5-1)~式(d5-7)のそれぞれで表される化合物等を;
基「-CONR
13R
14」を有する化合物として、例えば下記式(d6-1)~式(d6-8)のそれぞれで表される化合物等を;
アルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物として、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等を
アミノ基又は保護されたアミノ基を有する化合物として、下記式(d7-1)~式(d7-4)のそれぞれで表される化合物等を、それぞれ挙げることができる。
【化20】
【化21】
【化22】
(式(d2-1)及び式(d2-2)中、R
23はtert-ブトキシ基である。)
【化23】
(式(d3-5)中、Acはアセチル基である。)
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【0097】
本開示の液晶配向剤に架橋剤を含有させる場合、その含有割合は、液晶配向膜の力学的強度を高める観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量(すなわち、重合体(P)と重合体(Q)との合計量)100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましい。架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。また、液晶配向性が良好な液晶素子を得る観点から、架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0098】
・溶剤
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)、化合物(C)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0099】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0100】
液晶配向剤に配合するその他の成分としては、上記のほか、例えば、密着助剤、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0101】
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)を含む重合体溶液と、化合物(C)を含む液晶組成物とを混合することにより得ることができる。重合体溶液の溶媒成分としては、液晶配向剤に含有させる溶剤と同一の種類の有機溶媒を好ましく使用できる。重合体溶液と液晶組成物とを混合する際の温度は特に限定されず、例えば10~40℃の温度範囲とすることができる。
【0102】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択される。液晶配向剤の固形分濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、より良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で好適である。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0103】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)、ECB(電界制御複屈折:Electrically Controlled Birefringence)型等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0104】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0105】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されない。基板への液晶配向剤の塗布は、例えば、スピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0106】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造をイミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。イミド化を促進させる観点から、焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0107】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)が施される。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットンやナイロン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好ましく用いることができる。
【0108】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0109】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/m2であり、より好ましくは500~10,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。光照射後に基板を加熱する処理を行うことにより、膜中の高分子鎖の配向を促進させ、液晶配向性の更なる向上を図ることが好ましい。
【0110】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶層が配置された液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶層を構成する液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。液晶層には化合物(C)を含有させ、液晶層の電気特性への影響を抑制してもよい。特に、化合物(C)としてネガ型液晶又はポジ型液晶を用いた場合、液晶層に使用する液晶と化合物(C)とでポジ型/ネガ型を一致させることが好ましい。
【0111】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSA型の液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、例えば0.01~3質量部、好ましくは0.05~1質量部である。
【0112】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0113】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例0114】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の各例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0115】
<化合物の構造と略号>
以下の例で使用した主な化合物の構造と略号は以下のとおりである。
[テトラカルボン酸二無水物]
化合物(TA-1)~化合物(TA-4);下記式(TA-1)~式(TA-4)のそれぞれで表される化合物
【化28】
【0116】
[ジアミン]
化合物(DA-1)~化合物(DA-7);下記式(DA-1)~式(DA-7)のそれぞれで表される化合物
【化29】
【0117】
[化合物(C)]
化合物(C-1);4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル
化合物(C-2);trans,trans-4-ブチル-4’-プロピル-1,1’-ビシクロヘキシル
化合物(C-3);trans,trans-4-メトキシ-4’-プロピル-1,1’-ビシクロヘキシル
化合物(C-4);trans,trans-4-プロピル-4’-ビニルビシクロヘキシル
化合物(C-5);trans,trans-4’-プロピル-4-(p-トリル)ビシクロヘキシル
化合物(C-6);trans,trans-4’-ブチル-4-(3,4-ジフルオロフェニル)ビシクロヘキシル
化合物(C-7);trans,trans-4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニル)-4’-プロピルビシクロヘキシル
化合物(C-8);下記式(C-8-1)~式(C-8-4)のそれぞれで表される化合物を24:36:25:15(質量%)の比率で含有するポジ型ネマチック液晶(Merck社製、ZLI-1132)
化合物(C-9);ネガ型ネマチック液晶(Merck社製、MJ20195NCMP)
化合物(C-10);ヘキサデカン (融点18℃、沸点287℃)
化合物(C-11);n-オクチルエーテル (融点-7℃、沸点287℃)
化合物(C-12);ドデシルシクロヘキサン (融点13℃、沸点331℃)
化合物(C-13);ドデシルベンゼン (融点-7℃、沸点290℃)
【化30】
【0118】
化合物(C-1)~(C-7)、化合物(C-8-1)~(C-8-4)、及び化合物(C-8-1)~(C-8-4)の混合物(表1中のC-8)の融点(melting point)、澄明点(clearing point)及び沸点(boiling point)を表1に示す。なお、融点(melting point)は、固体相-液晶相の相転移温度であり、固体相-ネマチック液晶相転移及び固体相-スメクチック液晶相転移のいずれか低い方の温度として、表1に記載の参考文献から引用した。澄明点(clearing point)は、液晶相-等方性液体相の相転移温度であり、ネマチック液晶-等方性液体相転移及びスメクチック液晶-等方性液体相転移のいずれか高い方の温度として、表1に記載の参考文献から引用した。沸点(boiling point)は、飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度であり、大気圧下での沸点をPerkinElmer製ChemDraw Professional Version 17.1の物性推算機能を用いて計算した。
【0119】
【0120】
表1中の参考文献は以下のとおりである。
・文献1:Molecular Crystals and Liquid Crystals (1969-1991), 1990, vol. 188, # 1, p. 235 - 250
・文献2:Molecular Crystals and Liquid Crystals Science and Technology, Section A: Molecular Crystals and Liquid Crystals, 1995, vol. 260, # pt 1, p. 277 - 286
・文献3:Bulletin of the Chemical Society of Japan, 2000, vol. 73, # 8, p. 1875 - 1892
・文献4:中国特許第104829409号明細書
・文献5:Berichte der Bunsen-Gesellschaft, 1993, vol. 97, # 10, p. 1349 - 1355
・文献6:Molecular Crystals and Liquid Crystals (1969-1991), 1991, vol. 209, p. 1 - 8
・文献7:Angewandte Chemie, 1994, vol. 106, # 13, p. 1435 - 1438
・文献8:Molecular Crystals and Liquid Crystals (1969-1991), 1991, vol. 209, p. 225 - 236
・文献9:Molecular Crystals and Liquid Crystals (1969-1991), 1991, vol. 209, p. 155 - 170
【0121】
[化合物(D)]
化合物(D-1)~化合物(D-7);下記式(D-1)~式(D-7)のそれぞれで表される化合物
化合物(D-8);フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) (融点-50℃、沸点385℃)
化合物(D-9);アジピン酸ビス(2-エチルへキシル) (融点-70℃、沸点335℃)
化合物(D-10);セバシン酸ジエチル (融点1℃、沸点312℃)
化合物(D-11);1,3-シクロヘキサンジオール (融点30℃、沸点247℃)
化合物(D-12);4-イソプロピルビフェニル (融点18℃、沸点291℃)
化合物(D-13);ジエチレングリコールジブチルエーテル (融点-60℃、沸点255℃)
化合物(D-14);n-ヘキシルエーテル (融点-43℃、沸点226℃)
【化31】
【0122】
[溶剤]
NMP;N-メチル-2-ピロリドン
GBL;ガンマ-ブチロラクトン
BC;ブチルセロソルブ
DAA:ジアセトンアルコール
【0123】
<重合体の合成及び評価>
以下の合成例1~5において重合体をそれぞれ合成した。なお、以下の例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトル(400MHz)から、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A1/(A2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、A1は化学シフト10ppm付近に現れるアミド基のプロトン由来のピーク面積であり、A2は化学シフト6~9ppm付近に現れる芳香族基のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるアミド基のプロトン1個に対する芳香族基のプロトンの個数割合である。)
【0124】
[合成例1]
ジアミン(ジアミン(DA-1)30モル部、ジアミン(DA-2)50モル部、及びジアミン(DA-3)20モル部)をNMPに溶解し、ジアミン合計量に対して0.95モル当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-2)を加え、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸の溶液を得た。得られた溶液に、脱水剤として、ポリアミック酸のカルボキシ基に対して0.50モル当量の1-メチルピペリジン及び無水酢酸を加え、60℃で3時間加熱撹拌した。得られた溶液に対して、減圧濃縮とNMPによる希釈を繰り返して、ポリイミド(PI-1)の10質量%溶液を得た。ポリイミド(PI-1)のイミド化率は60%であった。
【0125】
[合成例2]
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及びモル比をそれぞれ下記表2に記載のとおりに変更し、脱水剤の量を0.40モル当量に変更した以外は合成例1と同様にしてポリイミド(PI-2)を得た。ポリイミド(PI-2)のイミド化率は60%であった。
[合成例3]
ジアミン(DA-5)をNMPに溶解し、ジアミン合計量に対して0.90モル当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-4)を加え、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(PA-1)の15質量%溶液を得た。
[合成例4、5]
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及びモル比をそれぞれ下記表2に記載のとおりに変更した以外は合成例3と同様にしてポリアミック酸(PA-2、PA-3)をそれぞれ得た。
【0126】
【0127】
表2中の数値は、酸二無水物については、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計量(100モル%)に対する各化合物の使用割合(モル%)を示し、ジアミンについては、合成に使用したジアミンの合計量(100モル%)に対する各化合物の使用割合(モル%)を示す。
【0128】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:ラビング配向法によるFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
上記合成例により得られた重合体溶液(固形分換算:重合体(PI-1)20質量部、重合体(PA-2)80質量部に相当する量の重合体溶液)、化合物(D-1)5質量部、化合物(C-1)10質量部をNMP、GBL、BC及びDAAによって希釈することにより、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:GBL:BC:DAA=30:40:10:20(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0129】
(2)ラビング配向法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スピンコーターを用いて塗布し、110℃のホットプレート上で2分間加熱した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度30mm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmにて2回ラビング処理を行った。このラビング配向処理が施された塗膜を、超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のオーブンで10分間乾燥を行い、液晶配向膜を形成した。
【0130】
(3)FFS型液晶表示素子の製造
上記(2)で液晶配向膜を形成した基板のうちの1枚に対し、液晶配向膜を有する面の外周に、液晶注入口を残して直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をディスペンサー塗布した。その後、一対の基板の液晶配向膜を有する面を対向させ、各基板の配向処理方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型ネマチック液晶(Merck社製、MJ20195NCMP)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、120℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の配向処理方向と45°の角度をなすように貼り合わせることによりFFS型液晶表示素子を製造した。
【0131】
(4)塗布性(表面粗さ)の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)をシリコンウエハ上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレート上で2分間加熱した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。得られた塗膜表面を原子間力顕微鏡Dimension FastScan(Bruker社製)を用いてフレームサイズ10μmの範囲を走査し、算術平均粗さRaを測定した。評価は、算術平均粗さRaが0.5nm 未満を「優良」とし、0.5nm以上1.0nm未満を「良好」とし、1.0nm以上を「不良」とした。算術平均粗さRaが1.0nm未満であれば膜表面の平滑性が十分に高く、塗布性が良好であるといえる。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0132】
(5)力学特性(ラビング耐性)の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレート上で2分間加熱した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(Hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、ラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。ラビング処理前の膜のヘイズ値をHz1(%)、ラビング処理後の膜のヘイズ値をHz2(%)とした場合、ヘイズ変化値は下記数式(z-1)で表される。
ヘイズ変化値(%)=Hz2-Hz1 …(z-1)
液晶配向膜におけるヘイズ変化値が0.1未満であった場合を「優良」、0.1以上0.2未満であった場合を「良好」、0.2以上0.3未満であった場合を「可」、0.3以上であった場合を「不良」と評価した。ヘイズ変化値が小さいほど、膜強度が十分に高くラビング耐性が高い、すなわち膜の力学特性が良好であるといえる。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0133】
(6)液晶配向性(AC残像特性)の評価
上記(3)で製造した液晶表示素子に対して、複屈折計(AXOMETRICS社製、AXOSTEP高精度ミュラー行列イメージングポラリメータ)により、交流電圧11Vでバックライト照射下68時間駆動させた前後での液晶方位角の変化を測定した。評価は、液晶方位角の変化が、0.1度未満を「優良」とし、0.1度以上0.2度未満を「良好」とし、0.2度以上0.3度未満を「可」とし、0.3度以上を「不良」とした。液晶方位角の変化が小さいほど、液晶表示素子を長時間駆動した場合にもAC残像が生じにくく、液晶配向性が良好であるといえる。その結果、この実施例では「良好」の評価であった。
【0134】
[実施例2~18、比較例1~13]
上記実施例1において、液晶配向剤に含有させる重合体及び添加剤を下記表3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製してラビング配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0135】
[実施例19、比較例14及び15]
上記実施例1において、液晶配向剤に含有させる重合体及び添加剤を下記表3に示すとおりに変更し、液晶配向膜の膜厚を65nmに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製してラビング配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0136】
[実施例20:光配向法によるFFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
上記合成例により得られた重合体溶液(固形分換算:重合体(PI-2)20質量部、重合体(PA-3)80質量部に相当する量の重合体溶液)、化合物(C-4)10質量部、及び化合物(D-2)10質量部をNMP及びBCによって希釈することにより、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:BC=70:30(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-35)を調製した。
【0137】
(2)光配向法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-35)を、スピンコーターを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線200mJ/cm2を、基板法線方向から照射して光配向処理を行った。この光配向処理が施された塗膜を、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
【0138】
(3)FFS型液晶表示素子の製造
上記(2)で作製した液晶配向膜を有する一対の基板を用いて、実施例1と同様にしてFFS型液晶表示素子を製造した。
【0139】
(4)塗布性(表面粗さ)の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子について、実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では「優良」の評価であった。
【0140】
(5)力学特性(ラビング耐性)の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子について、実施例1と同様にして力学特性の評価を行った。その結果、この実施例では「良好」の評価であった。
【0141】
(6)液晶配向性(AC残像特性)の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子について、実施例1と同様にして液晶配向性の評価を行った。その結果、この実施例では「良好」の評価であった。
【0142】
[実施例21~23、比較例16及び17]
上記実施例20において、液晶配向剤に含有させる重合体及び添加剤を下記表3に示すとおりに変更した以外は実施例20と同様にして液晶配向剤を調製して、光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0143】
【0144】
表3中、液晶配向剤の各成分の質量比は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の合計100質量部に対する各化合物の配合割合(質量部)を示す。なお、表3中、評価欄の「-」の表記は、液晶配向剤の塗布性が不良であり、液晶配向膜の力学特性及び液晶素子の液晶配向性の評価を実施できなかったことを表す。
【0145】
表3に示すように、重合体(P)及び化合物(C)を含有する実施例1~23の液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜の力学特性、及び液晶表示素子の液晶配向性がいずれも「優良」、「良好」又は「可」であり、各種特性のバランスが取れていた。
【0146】
重合体(P)と化合物(C)を含有する液晶配向剤により力学特性を維持しながら液晶配向性が改善されたメカニズムは定かではないが、1つの仮説として、化合物(C)を含有することにより化合物(C)が塗膜に可塑性を付与し、せん断応力による高分子鎖の配向、熱による高分子鎖の再配列及び高分子ブレンドの相分離(層分離)を促進できたことが考えられる。つまり、ラビング配向法ではラビング工程での異方性の発現(せん断応力による膜表面分子鎖の一軸延伸挙動に由来する現象、以下「延伸性」という)が起こりやすくなり、光配向法では直線偏光照射後の焼成工程において異方性の増幅(光分解鎖の等方化を含む熱再配列挙動に由来する現象、以下「熱再配列性」という)が起こりやすくなり、これにより配向膜表面の分子配向性が向上し、AC残像特性が改善したと考えられる。
【0147】
添加剤の沸点に注目すると、化合物(C)は沸点が230℃以上であり、液晶配向膜の乾燥工程において一般に採り得る加熱温度よりも高く、徐々に揮発することでAC残像特性の改善効果を発現しやすかったと推測される。また、添加剤の化学構造に注目すると、化合物(C)は炭素数が5以上の鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有するため、柔軟なsp3炭素-sp3炭素結合を多く有しており分子運動性が高く、かつ双極子-双極子相互作用や水素結合の形成が抑制されることにより、重合体(P)との相分離性に優れていると考えられる。その結果、液晶配向膜の焼成過程で溶媒-ポリマー間の相分離が進みやすく、かつ液晶配向膜の表面が疎になりやすいことにより延伸性や熱再配列性が向上したと推測される。
【0148】
これに対して、比較例1~12及び比較例14~17は、液晶配向剤が化合物(C)を含有しないため、液晶配向膜の延伸性や分子運動性が化合物(C)によって補われず、その結果、液晶配向膜の力学特性及び液晶表示素子の液晶配向性の少なくとも一方が「不良」になったと推測される。また、比較例13は、液晶配向剤の化合物(C)の含有割合が過剰であるため、液晶配向剤の塗布性が「不良」になり、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得ることができなかったと推測される。
【0149】
以上より、重合体(P)及び化合物(C)を含有する液晶配向剤によって液晶配向膜を形成することにより、液晶配向膜の力学特性を高く維持しながら、液晶表示素子の液晶配向性を改善でき、長時間駆動後に観察されるAC残像の低減を図ることができることが明らかになった。