(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097573
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム、作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
E02F9/22 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001112
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 祥平
(72)【発明者】
【氏名】坂田 淳哉
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB05
2D003BA05
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA04
2D003DB08
2D003FA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃費性能に優れ、旋回停止時のキャビテーションを抑制する作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システムと作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械の制御方法は、作業機械の上部体を旋回させるアクチュエータ490の操作を停止すると共に、油圧ポンプ511の最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で油圧ポンプ511から油を吐出させることから構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御方法であって、 前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させることと、を有する作業機械の制御方法。
【請求項2】
前記アクチュエータと前記油圧ポンプから油を圧送される他のアクチュエータの操作量に応じて前記油圧ポンプの吐出流量を設定する第1制御を実行することと、 前記他のアクチュエータが操作されていない時に、前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記スタンバイ流量より大きい流量になるように前記油圧ポンプの吐出流量を設定する第2制御を実行することと、を有する請求項1記載の作業機械の制御方法。
【請求項3】
前記第2制御実行中に設定される前記油圧ポンプの吐出流量が前記旋回モータの最大要求流量より小さい、請求項2記載の作業機械の制御方法。
【請求項4】
前記アクチュエータの停止又は、前記アクチュエータの操作又は、前記他のアクチュエータの操作により、前記第2制御から前記第1制御に切り替わる請求項2記載の作業機械の制御方法。
【請求項5】
前記他のアクチュエータが操作中に、前記アクチュエータの操作を停止すると、前記第1制御を実行する請求項4記載の作業機械の制御方法。
【請求項6】
第2制御実行時に、前記油圧ポンプから吐出される前記油が、前記油を貯蔵するタンクに接続するメークアップラインを介して前記アクチュエータのメータアウト側の前記油をメータイン側に戻す油圧ブレーキ回路のメータイン側の流路に流入する請求項1から請求項5記載の何れか1項に記載の作業機械の制御方法。
【請求項7】
請求項6記載の作業機械の制御方法を、1以上の演算装置で実行させるための作業機械用制御プログラム。
【請求項8】
下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御システムであって、 前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させる流量制御部と、を備える作業機械用制御システム。
【請求項9】
請求項8記載の作業機械用制御システムを備える作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、旋回停止時の旋回台の慣性によるオーバランにより圧油給油路内が負圧となって発生するキャビテーションを防止のために、油圧モータ(旋回モータ)への圧油供給路の途中部位にチェック弁を介してタンク内と連通させ、吸込油路を形成する油圧回路構造が知られている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧ショベル等の作業機械は、近年燃費性能の向上が求められており、このような要望に対して、アクチュエータの操作量に応じてポンプ流量を設定する油圧ポンプの制御システムを備えた作業機械などが知られている。このような油圧ポンプの制御システムを備えた作業機械においては、旋回停止に伴い油圧ポンプの流量も低下することから、圧油供給路(メークアップライン)を流れる油の流量が減るためタンク内の油を吸引することが十分できなくなり圧油給油路内が負圧となってキャビテーションが発生するという問題がある。
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、その課題は、燃費性能に優れ、旋回停止時のキャビテーションを抑制する作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システムと作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る作業機械の制御方法は、下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御方法であって、前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させることと、を有する。
【0007】
本発明の一態様に係る作業機械用制御プログラムは、前記作業機械の制御方法を1以上の演算装置で実行させる。
【0008】
本発明の一態様に係る作業機械用制御システムは、下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御システムであって、前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させる流量制御部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係る作業機械は、前記作業機械用制御システムを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃費性能に優れ、旋回停止時のキャビテーションを抑制する作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システムと作業機械を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの制御システムの模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの制御装置の制御フローのフローチャート図である。
【
図4】本発明の実施形態の変形例に係る油圧ショベルの制御システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る建設機械の代表例として油圧ショベル100を例に挙げ添付図面を参照しつつ本発明にかかる実施形態について詳細に説明する。なお上部旋回体300が旋回することなく下部走行体200が直進する走行方向を前後方向とし直進する走行方向と直交する方向を左右方向とする。これらの方向は、運転室の運転座席に着座したオペレータを基準として設定された方向である。
【0013】
図1で示すように油圧ショベル100は、自走可能な下部走行体200と、下部走行体200上に旋回可能に支持された上部旋回体300と、上部旋回体300の前方で上下に回動自在に支持された作業装置400を備え、さらに
図2の制御システム500をさらに備えている。
【0014】
下部走行体200は、センターフレーム210とセンターフレーム210に左右対称に対をなし前後方向に延びるサイドフレーム211を有しており、左右のサイドフレーム211の後端には走行モータ212により駆動する駆動輪213が設置され、前方に向け複数の遊動輪214が配置されており、そして駆動輪213と遊動輪214は、履帯215が巻装されている。そしてセンターフレーム前方には、排土装置220が装着され、排土装置220の排土板の裏面とセンターフレームをつなぐように装着されたブレードシリンダ221によって排土装置220は、上下に昇降する。
【0015】
上部旋回体300は、機体後端部に立設される2本の支柱に支持され、機体後方から前方に延びるキャノピー310の下方に配置された運転部320と、機体内部に形成された機関室330と、機体前端の突設部に左右に回動自在に支持され、作業機400を上下に回動自在に支持するブームブラケット410を含んでいる。
【0016】
作業装置400は、ブームブラケット410に上下に回動自在に支持されたブーム420と、ブーム420の先端に上下に回動可能に装着されたアーム430と、アーム430の先端に回動可能に装着されたバケット450と、上部旋回体300のフレーム内の右側方には、ブームブラケット410を水平に動かすスイングシリンダ(図示せず)が配置され、ブーム420の前方かつ下方に設置されたブーム420を上下に動かすブームシリンダ460と、ブーム420の上方に設置され、アーム430を前後に動かすアームシリンダ470と、アーム430の前方に設置され、バケットリンク440を介してバケット450を前後に動かすバケットシリンダ480を含んでいる。
【0017】
機関室330には、エンジン(図示せず)と、エンジンにより駆動し、ブームシリンダ460やアームシリンダ470、上部旋回体300を旋回させる旋回モータ490等の油圧ショベル100を動かす複数のアクチュエータに作動油を圧送する可変容量ポンプ511と、対応するアクチュエータを制御する方向切換弁の集合体であるコントロールバルブ513、とコントロールバルブ513に入力される制御信号圧(パイロット圧)及び可変容量ポンプ511の流量を制御するレギュレータ511bに入力されるパイロット圧の1次圧を生成するパイロットポンプ512等の複数の機器が配置されている。
【0018】
運転部320は、座席321と、座席321の下方のシートマウント322の下部前面から前方に向けて延びる床材323と、操作装置324等から形成される。
【0019】
操作装置324は、運転席321の前方に左右に列設され、床材323から突設された左走行レバー324a及び右走行レバー324bと、座席321の左右に配置されたコンソールボックスに立設された左操作レバー324cと、右操作レバー324dを含んでいる。
【0020】
操作装置324を操作することにより、対応するアクチュエータを動作させ油圧ショベル100に所定の動作をさせることができる。
【0021】
左走行レバー324a及び右走行レバー324bに対して傾倒させる操作を行うと、傾倒させる方向に対応する回転方向で、操作量に応じて、左走行モータ(212)及び右走行モータ(212)の回転数は、増加し、左走行レバー324a及び右走行レバー324bが中立位置に戻ると対応する走行モータは停止する。
【0022】
右操作レバー324dを前方、後方に傾倒させるとブーム420は下方、上方に回動し、右操作レバー324dを中立位置に戻すとブーム420は直ちに停止する。
【0023】
右操作レバー324dを左方、右方に傾倒させるとバケット450は、後方、前方に回動し右操作レバー324dを中立位置に戻すとバケット450は、直ちに停止する。
【0024】
左操作レバー324cを前方、後方に傾倒させるとアーム430は前方、後方に回動し、左操作レバー324cを中立位置に戻すとアーム430は直ちに停止する。
【0025】
左操作レバー324cを左方、右方に傾倒させると上部旋回体300は左方、右方に旋回し、左操作レバー324cを中立位置に戻すと上部旋回体300は、減速して停止する。例えば左操作レバー324cの操作レバー324cの操作量の大きな位置から急に中立位置に戻した場合、上部旋回体300に大きな慣性力がかかるため減速して停止するのに時間を要する場合がある。
【0026】
上記で述べた左操作レバー324c及び右操作レバー324dの操作の割り付けは、例示にすぎずこれに限定されるものでなく既知の操作割り付け変更手段により操作割り付けを変更することができる。
【0027】
続いて、
図2を用いて油圧ショベル100の制御システム500について説明する。
【0028】
制御システム500は、油圧回路510と、旋回検知装置520と、制御装置530と、操作装置324を含んでいる。
【0029】
操作装置324は、各操作レバーの操作方向および操作量を操作信号として制御装置530に出力することにより、制御装置530は、電気信号を電磁比例弁514に出力し、電磁比例弁514は、パイロット圧をコントローバルブ513の入力ポートに出力し各アクチュエータを操作することができる。
【0030】
油圧回路510は、可変容量ポンプ511から延設される高圧の作動油配管を実線で表し、パイロットポンプ512から延設される低圧の作動油(パイロット圧)配管を点線で表す。
【0031】
油圧回路510は、電磁比例弁511aから出力されたパイロット圧をレギュレータ511bに入力することにより吐出流量を制御する可変容量ポンプ511から延びるセンターバイパス流路515と、センターバイパス流路515から延びる油路とそれぞれ接続する各アクチュエータを制御する方向切換弁から構成されるコントールバルブ513を含み、油圧回路510は、方向切換弁のスプールの摺動位置にかかわらずセンターバイパス流路515からタンク516に至るタンクライン517に直接つながらず、アンロード弁515aを介してつながるクローズドセンター回路であるが、これに限定されるものではない。
【0032】
可変容量ポンプ511は、制御装置530によって設定される吐出流量を目標としてレギュレータ511bにより制御されており、可変容量ポンプ511の最小吐出流量としてスタンバイ流量が設定されている。
【0033】
タンクライン517は、コントールバルブ513を介して各アクチュエータが排出する戻り油をタンクに戻す流路である。
【0034】
アンロード弁515aは、センターバイパス流路515の圧力が任意に設定された設定圧を超えるとタンクライン517とセンターバイパス流路515を連通させ、可変容量ポンプ511から吐出する油をタンクライン517に送ることを可能とする。
【0035】
コントロールバルブ513は、旋回モータ490を制御する方向切換弁513aと、ブームシリンダ460を制御する方向切換弁513bと、複数の他のアクチュエータ例えば、走行モータ212、アームシリンダ470、バケットシリンダ480、ブレードシリンダ221、等をそれぞれ制御する複数の他の方向切換弁からなり、複数の他のアクチュエータと複数の他の方向切換弁については、油圧回路510には、記載を省略している。
【0036】
コントロールバルブ513を構成する方向切換弁のパイロット圧の入力ポートには、操作装置324の操作量に応じて制御装置530から出力される信号に従い電磁比例弁514からパイロット圧が入力される。
【0037】
旋回モータ490は、旋回モータ本体490aと、油圧ブレーキ回路490bと、メークアップライン490c等から構成されている。
【0038】
油圧ブレーキ回路490は、旋回モータ本体490aが右方側に回転している時のメータアウト側のラインを、リリーフ弁490b1を介してメータイン側のラインに油を戻すように連結する流路と、この流路と平行につながり、旋回モータ本体490aが左方側に回転している時のメータア
ウト側のラインを、リリーフ弁490b2を介してメータイン側のラインに油を戻すように連結する流路等から構成されている。
【0039】
メークアップライン490cは、油圧ブレーキ回路の下流で、タンクライン517から延出する流路を2本に分岐させ、旋回モータ本体490aが右方に回転している時のメータイン側に油が流れるようにチェック弁490c1介して連結する一方の流路と、旋回モータ本体490aが左方に回転している時のメータイン側に油が流れるようにチェック弁490c2介して連結する一方の流路を含む。
【0040】
方向切換弁513aのパイロット圧の入力ポート513a1は、左操作レバー324cの左方の傾倒操作の操作量に応じて電磁比例弁514a1からパイロット圧が入力される。そして方向切換弁513aのスプールが摺動し、対応するスプールの開口量に応じた油が旋回モータ490に流入し、流入した油の量に応じた速度では、上部体300は、左に旋回し、旋回モータ本体490aのメータアウトから流れる油は、方向切換弁513aを介してタンクライン517からタンク516に排出される。
【0041】
方向切換弁513aのパイロット圧の入力ポート513a2は、左操作レバー324cの右方の傾倒操作の操作量に応じて電磁比例弁514a2からパイロット圧が入力される。そして方向切換弁513aのスプールが摺動し、対応するスプールの開口量に応じた油が旋回モータ490に流入し、流入した油の量に応じた速度では、上部体300は、右に旋回し、旋回モータ本体490aのメータアウトから流れる油は、方向切換弁513aを介してタンクライン517からタンク516に排出される。
【0042】
左操作レバー324cの左方の傾倒操作を停止し、左操作レバー324cが中立位置に戻ると、方向切換弁513aのスプールの開口を閉じた後も旋回モータ本体490aは慣性力により左に旋回し旋回モータ本体490aのメータアウトから流れる油は、リリーフバルブ490b2を介して旋回モータ本体490aのメータイン側に戻され、管路が負圧になることを防止ししつつ油圧ブレーキとして機能する。
【0043】
旋回モータ本体490aのメータイン側には、チェック弁490C1を介してメークアップライン490cから油が流入し管路が負圧になることを防止しキャビテーションの抑制を行うことができる。
【0044】
メークアップライン490cには、後述する第2制御により、可変容量ポンプ511から吐出する油がスタンバイ流量より大きい流量(後述する第2制御値)で吐出されることにより、タンクライン517からメークアップライン490cに油が供給されることによりさらなるキャビテーションの抑制を可能とすることができる。
【0045】
さらに可変容量ポンプ511の流量を旋回モータ本体490aの最大要求流量以下に設定することにより、キャビテーションの抑制と共に油圧ショベル100の燃費性能も向上することができる。
【0046】
方向切換弁513bのパイロット圧の入力ポート513b1は、右操作レバー324dの前方の傾倒操作の操作量に応じて電磁比例弁514b1からパイロット圧が入力される。そして方向切換弁513bのスプールが摺動し、対応するスプールの開口量に応じた油がブームシリンダ460のロッド側に流入し、流入した油の量に応じた速度では、ブーム420は下方に回動し、ブームシリンダ460のボトム側から流れる油は、方向切換弁513bを介してタンクライン517からタンク516に排出される。
【0047】
方向切換弁513bのパイロット圧の入力ポート513b2は、右操作レバー324dの後方の傾倒操作の操作量に応じて電磁比例弁514b2からパイロット圧が入力される。そして方向切換弁513bのスプールが摺動し、対応するスプールの開口量に応じた油がブームシリンダ460のボトム側に流入し、流入した油の量に応じた速度では、ブーム420は上方に回動し、ブームシリンダ460のロッド側から流れる油は、方向切換弁513bを介してタンクライン517からタンク516に排出される。
【0048】
上記構成によれば、左操作レバー324cの左方(右方)の傾倒操作を停止し、左操作レバー324cが中立位置に戻し、上部体300の旋回停止を実行している時に旋回モータ490以外のアクチュエータ(例えばブームシリンダ460)が動いている場合、アクチュエータから排出される戻り油がタンクライン517に流れるため、メークアップライン490cに油が供給され、可変容量ポンプ511の吐出流量に関わらず、管路は負圧になることがないため、キャビテーションは抑制される。
【0049】
旋回検知装置520は、上部旋回体が下部走行体上で旋回しているかを検知する装置であり、たとえばポテンショメータで回転角を検知して旋回角度を検知してもよい、また各速度センサで、角速度を検知してもよく、加速度センサにより角加速度を検知してもよく、旋回検知装置520により検出された値は、制御装置530に出力される。
【0050】
制御装置530は、ECU(電子制御ユニット)であり、デジタル入力信号の信号レベルの変換を行う入力バッファ及びアナログ入力信号のデジタル変換を行うADコンバータと、各種入力信号から制御量の演算を行うマイコンからなる演算部531と、マイコンの出力信号に従いアクチュエータを駆動させる駆動信号の形態に変換させる出力ドライバと、マイコンの出力データを通信規格に適した信号に変更する通信ドライバと、他のECUが送信する信号をマイコンに入力できるレベルに変換する通信レシーバを含む。
【0051】
制御装置530に入力される信号は、制御装置530に向かう矢印が先端にある一点鎖線で表現され、制御装置324から出力される信号は、信号が入力される機器に向かう矢印が先端にある一点鎖線で表現される。
【0052】
演算部531は、作業機械用制御プログラムを実行することにより、制御システム500に対して、本実施形態に係る制御方法を実行せしめるものであって、記憶部532と、演算部533を含む。
【0053】
記憶部532は、演算部533が都度呼び出し実行する作業機械用制御ブログラブの他、アクチュエータに対する操作装置324の操作(旋回単独操作を停止する操作は除く)の操作量に対する可変容量ポンプ511の目標吐出流量のマップである第1制御マップと、旋回単独操作を停止する際に設定される可変容量ポンプ511の目標吐出流量である第2制御目標値等が記憶される。
【0054】
演算部533は、データ収得部533aと、操作処理部533bと、吐出流量決定部533cを含む。
【0055】
データ収得部533aは、操作装置324の操作信号を収得するほか、旋回検知装置520の旋回検知信号を収得する。
【0056】
操作処理部533bは、収得した操作信号から操作装置324の操作量に対応するアクチュエータの速度を算出し、電磁弁514に制御信号を、出力ドライバを介して出力し、コントロールバルブ513の対応する方向切換弁のスプールを開きアクチュエータを制御する。
【0057】
吐出流量決定部533cは、データ収得部533aによって操作されたアクチュエータの種類と操作量よって選択されるポンプ流量制御に応じて設定される可変容量ポンプ511の目標吐出流量を算出し、算出結果に応じた制御信号を、出力ドライバを介して電磁比例弁511aに出力させレギュレータ511bにより可変容量ポンプ511の吐出流量を制御する。
【0058】
ポンプ流量制御は、第1流量制御と第2流量制御を有している。
【0059】
第1流量制御は、旋回単独操作を停止する操作を除く操作装置324の操作によって実行される。
【0060】
第2流量制御は、旋回単独操作を停止する操作により実行される。
【0061】
吐出流量決定部533cは、データ収得部533aの収得された操作信号と旋回検知信号により、第1流量制御又は第2流量制御を実行するか判定し可変容量ポンプ511の吐出流量を制御する。
【0062】
データ収得部533aの収得されたデータが操作レバー324cのみが左又は右に傾倒(旋回操作)した後に中立位置(旋回停止操作)に戻る特定操作条件に一致しない場合、第1流量制御を実行し、記憶部532に記憶された第1制御マップに基づきデータ収得部533aの収得した操作装置324の操作量に応じた可変容量ポンプ511の目標吐出流量である第1制御目標値を算出し、可変容量ポンプ511の吐出流量を制御する。
【0063】
例えば、データ収得部533aの収得されたデータが操作レバー324dを後方に傾倒(ブーム上げ操作)させた操作信号である場合や操作レバー324dを後方に傾倒(ブーム上げ操作)させると同時に操作レバー324cを左方に傾倒(左旋回操作)させた操作信号である場合、第1流量制御が実行されることになる。
【0064】
第1流量制御中にデータ収得部533aの収得されたデータがアクチュエータの操作装置324の操作量が0であると検知された時は、第1制御目標値は、可変容量ポンプ511の最小流量であるスタンバイ流量になる。
【0065】
データ収得部533aの収得されたデータが特定操作条件に一致する場合、第2流量制御を実行し、第2制御値に可変容量ポンプ511の目標吐出流量を設定し、可変容量ポンプ511の吐出流量を制御する。
【0066】
例えば、データ収得部533aの収得されたデータが操作レバー324dのみを左方に傾倒(左旋回操作)させた操作信号が操作停止信号に遷移した場合は、第2流量制御が実行されることになる。
【0067】
第2制御値は、スタンバイ流量より大きい値に設定されており、これにより、タンクライン517からメークアップライン490cに油を供給することができるため、旋回停止時のキャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0068】
第2制御値は、旋回モータ本体490の最大要求流量より小さい流量に設定することもできる。その場合、タンクライン517からメークアップライン490cに油を必要最低限の油を供給することが可能となり燃費への影響を小さくしつつ旋回停止時のキャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0069】
データ収得部533aの収得されたデータが特定操作条件に該当した後に、旋回検知信号が旋回中から旋回停止状態に遷移すると、第2制御から第1制御に切り替わり、第1制御マップに基づきデータ収得部533aの収得した操作装置324の操作量に応じた可変容量ポンプ511の目標吐出流量である第1制御目標値を算出し、可変容量ポンプ511の吐出流量を制御する。ここで操作装置324の操作量は、0であることから可変容量ポンプ511の目標吐出流量をスタンバイ流量に設定される。
【0070】
例えばデータ収得部533aの収得されたデータが操作レバー324dのみを左方に傾倒(左旋回操作)させた操作信号が操作停止信号に遷移した後に、旋回検知装置520の左旋回検知信号(上部旋回体300が慣性で左に旋回中)が旋回停止信号に遷移した時に、第2制御は、第1制御に切り替わる。
【0071】
上記制御によれば、旋回停止後直ちに可変容量ポンプ511の流量を下げることができることから、燃費への影響を小さくしつつ旋回停止時のキャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0072】
また上記の第2制御から第1制御に切り替わるための条件は、データ収得部533aの収得されたデータが特定操作条件に該当した後に、何れかのアクチュエータが操作装置324により操作された操作信号であってもよく、アクチュエータの操作性の影響を小さくしつつ旋回停止時のキャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0073】
図3を用いて制御フローについて説明する。
図3は制御方法に係るフローチャートである。
【0074】
操作装置324の操作が特定操作条件に該当する場合(S1:YES)、制御装置530は、第2制御を実行する。(S2)
【0075】
操作装置324の操作が特定操作条件に該当しない場合(S1:NO)、制御装置530は、第1制御を実行する。(S4)そしてフローを終了する。
【0076】
上部旋回体300が旋回停止状態に該当する場合(S3:YES)、制御装置530は、第1制御を実行す
る。(S4)そしてフローを終了する。
【0077】
上部旋回体300が旋回停止状態に該当しない場合(S3:NO)、制御装置530は、何れかの操作装置が操作されたか否か判定する。(S5)
【0078】
何れかの操作装置324が操作された場合。(S5:YES)、制御装置530は、第1制御を実行する。(S4)そしてフローを終了する。
【0079】
何れの操作装置324も操作されなかった場合。(S5:NO)S3の処理を繰り返す。
【0080】
図3に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理を繰り返して実行してもよく、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0081】
続いて本発明の実施形態の変形例につい説明する。
【0082】
図4で示すように油圧回路510は、方向切換弁のスプールの摺動位置にかかわらず可変容量ポンプ511から延びるセンターバイパス流路515からタンク516に至るタンクライン517に直接つながるオープンセンター回路である。
【0083】
その場合、センターバイパス流路515の下流にネガコン絞り515bを設け、圧力センサ515cで検知されたネガコン信号圧をデータ収得部533aで収得し、ネガコン信号圧の大きさにより吐出流量決定部533cにて吐出流量を決定し、可変容量ポンプ511の吐出流量を制御するいわゆるネガティブコントロール制御により可変容量ポンプ511を制御する。
【0084】
操作装置324が操作されない場合は、ネガコン信号圧が大きくなるため可変容量ポンプ511の吐出流量は最小流量であるスタンバイ流量に設定される。
【0085】
操作装置324が操作される場合は、ネガコン信号圧が小さくなるため可変容量ポンプ511の吐出流量は増加する。
【0086】
つまりネガティブコントロール制御においても、可変容量ポンプ511は、操作装置324の操作量に応じて吐出流量を制御される。
【0087】
続いて本発明の実施形態の他の変形例について説明する。
【0088】
可変容量ポンプ511は、各アクチュエータの最高圧と可変容量ポンプ511の差圧を一定の圧力になるように制御するロードセンシング制御される。
【0089】
ロードセンシング制御においても、可変容量ポンプ511は、操作装置324の操作量に応じて吐出流量を制御される。
【0090】
本発明の実施形態にかかる発明は、以下の付記のように特定することができる。
【0091】
〈付記1〉下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御方法であって、前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させることと、を有する作業機械の制御方法。
【0092】
〈付記2〉前記アクチュエータと前記油圧ポンプから油を圧送される他のアクチュエータの操作量に応じて前記油圧ポンプの吐出流量を設定する第1制御を実行することと、前記他のアクチュエータが操作されていない時に、前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記スタンバイ流量より大きい流量になるように前記油圧ポンプの吐出流量を設定する第2制御を実行することと、を有する付記1記載の作業機械の制御方法。
【0093】
〈付記3〉前記第2制御実行中に設定される前記油圧ポンプの吐出流量が前記旋回モータの最大要求流量より小さい、付記1又は付記2記載の作業機械の制御方法。
【0094】
〈付記4〉前記アクチュエータの停止又は、前記アクチュエータの操作又は、前記他のアクチュエータの操作により、前記第2制御から前記第1制御に切り替わる付記1から付記3の何れかに記載の作業機械の制御方法。
【0095】
〈付記5〉前記他のアクチュエータが操作中に、前記アクチュエータの操作を停止すると、前記第1制御を実行する付記1から付記4の何れかに記載の作業機械の制御方法。
【0096】
〈付記6〉第2制御実行時に、前記油圧ポンプから吐出される前記油が、前記油を貯蔵するタンクに接続するメークアップラインを介して前記アクチュエータのメータアウト側の前記油をメータイン側に戻す油圧ブレーキ回路のメータイン側の流路に流入する付記1から付記5の何れかに記載の作業機械の制御方法。
【0097】
〈付記7〉付記1から付記6記載の何れかに記載の作業機械の制御方法を1以上の演算装置で実行させるための作業機械用制御プログラム。
【0098】
〈付記8〉下部走行体に旋回自在に支持される上部体を旋回させるアクチュエータに油を圧送する油圧ポンプを備える作業機械の制御システムであって、 前記アクチュエータの操作を停止すると共に、前記油圧ポンプの最小吐出流量として設定されるスタンバイ流量より大きい流量で前記油圧ポンプから油を吐出させる流量制御部と、を備える作業機械用制御システム。
【0099】
〈付記9〉付記8記載の作業機械の制御システムを備える作業機械。
【0100】
上記で説明した第1,第2の実施形態及びこれらの変形例で説明した種々の構成は、適宜組み合わせて採用可能である。
【0101】
以上では、作業機械として油圧ショベルを例に挙げて説明したが、作業機械は油圧ショベルに限定されず、クレーン車等の建設機械であってもよく、さらに原動機としてエンジンを挙げて説明したが電動モータでもよい。
【0102】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で拡張又は、変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム、作業機械に関するものであり産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0104】
100 油圧ショベル(作業機械)511 可変容量ポンプ(油圧ポンプ)490 旋回モータ(アクチュエータ)324c 左操作レバー520 旋回検出装置530 制御装置532 記憶部533a データ収得部533b 操作処理部533c 吐出流量決定部