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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097578
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】生体組織用ジェル組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/22 20060101AFI20240711BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20240711BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K49/22
A61L2/18
A61Q17/00
A61K8/25
A61K8/81
A61K8/73
A61K8/41
A61K8/20
A61K8/02
A61K9/06
A61K47/32
A61K47/04
A61K47/36
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001124
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】太田 愛美
【テーマコード(参考)】
4C058
4C076
4C083
4C085
【Fターム(参考)】
4C058AA28
4C058BB07
4C058JJ08
4C076AA09
4C076DD28
4C076EE09
4C076EE30
4C076EE32
4C076FF01
4C083AB101
4C083AB102
4C083AB282
4C083AB441
4C083AB442
4C083AC691
4C083AC692
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD281
4C083AD282
4C083AD351
4C083AD352
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE06
4C083EE07
4C085HH09
4C085JJ11
4C085KA23
4C085KB45
4C085LL20
(57)【要約】
【課題】ラジカル発生源とラジカル発生触媒を含む生体組織用ジェル組成物の新たな形態を提供すること。
【解決手段】本発明は、(a)ラジカル発生触媒;(b)ラジカル発生源;(c)増粘剤;及び(d)水を含有し、伸び性が30mm以上、保形性が30mm以下であることを特徴とする生体組織用ジェル組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラジカル発生触媒;
(b)ラジカル発生源;
(c)増粘剤;及び
(d)水
を含有し、伸び性が30mm以上、保形性が30mm以下であることを特徴とする生体組織用ジェル組成物。
【請求項2】
660nmにおける吸光度が70以上であることを特徴とする、請求項1に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項3】
皮膚上で被膜を形成しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項4】
超音波検査用であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項5】
前記増粘剤が、ポリアクリル酸ナトリウム、スメクタイト及びキサンタンガムからなる群から1又は複数選択される、請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項6】
前記増粘剤が、ヒドロキシアルキルセルロース又はタマリンドガムをさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項7】
前記ラジカル発生触媒はルイス酸性度が0.4eV以上のアンモニウム塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項8】
前記ラジカル発生触媒が、下記化学式(I)で表されるアンモニウム塩を含む、請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【化1】

(前記化学式(I)中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、もしくはアミド結合、又は芳香環が含まれていてもよく、Xは、アニオンである。)
【請求項9】
前記化学式(I)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(II)で表されるアンモニウム塩である、請求項8に記載の生体組織用ジェル組成物。
【化2】

(前記化学式(II)中、R11は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、もしくはアミド結合、又は芳香環が含まれていてもよく、R及びXは、前記化学式(I)と同じである。)
【請求項10】
前記化学式(II)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(III)で表されるアンモニウム塩である、請求項9の生体組織用ジェル組成物。
【化3】
(前記化学式(III)中、R11及びXは、前記化学式(II)と同じである。)
【請求項11】
前記ラジカル発生源は亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン及び亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【請求項12】
前記生体組織用ジェル組成物は、中性又はアルカリ性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織用ジェル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査を行う際、超音波装置の探触子(プローブ)と生体組織(例えば、皮膚)との間に空気が存在すると、プローブから発する超音波が生体組織に伝達されず、体内の画像がうまく取得できない。従って、プローブと生体組織との間に接触媒質(例えば、ジェル組成物など)を介在させることにより、プローブから発する超音波を生体組織に伝達させる手段が用いられている。
【0003】
超音波検査に用いられる接触媒質は、皮膚とプローブとの滑りを良くすること、被験者に不快感を与えたり、皮膚などへの影響を及ぼさないことなど、様々な特性が要求されており、これらの要求を満たすために様々な接触媒質が開発されている(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
殺菌効果や防腐効果を発揮するために様々な消毒剤や殺菌剤が開発されているが、細菌のなかには、極めて耐久性の高い細胞構造である芽胞を形成する細菌も存在しており、一般的な消毒剤(例えばアルコール系の消毒剤)では殺菌効果が不十分な場合がある。殺菌効果が高い薬剤も数多く存在するが、超音波検査の接触媒質に用いられるジェル組成物のように、生体組織においても適用される場合は、特に安全性が高いことが要求される。
【0005】
ラジカルは、反応性に富み、強い酸化力を持つことから、広く利用されている重要な化学種である。例えば、細菌やウイルスがラジカルと接触すると、その酸化力により消滅(不活化ともいう)するため、除菌、脱臭等の効果が得られ、医療、衛生、食品加工、水処理等様々な分野に利用されている。
【0006】
近年、ラジカルを利用し、生体組織においても適用可能な殺菌技術が開発されている。例えば、特許文献4には、ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、前記ラジカル発生触媒が、アンモニウムおよびその塩の少なくとも一方と、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質との、一方または両方を含む薬剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-249519号公報
【特許文献2】特開平11-235337号公報
【特許文献3】特開昭62-26049号公報
【特許文献4】特開2017-109978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薬剤を生体組織に用いる際には、チクソ性が高く、適度な保形性とすべり性を有し、透明性が高く外観が優れるなどの特性が求められる。これらの物性を実現するために、一般的に、アニオン性増粘剤が用いられる。ラジカル発生源とラジカル発生触媒を含む組成物は、アニオン性増粘剤と共存させると、製剤中で凝集塊を生じ、抗菌活性や著しい低下等を引き起こすことから、ラジカル発生源を含む組成物と、これらの増粘剤を組み合わせることは適切ではない。このため、従来用いられている増粘剤は、ラジカル発生源を含有する組成物では生体組織用のジェル組成物に適さない物性しか実現できなかった。さらに、これまでの組成物を、洗い流さない用法(リーブオン)や、ワイプオフで使用すると、生体組織上に膜状の残渣が残りやすいことも大きな課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく検討を行った結果、ラジカル発生源と特定の増粘剤とを組み合わせた場合においても、生体組織用ジェル組成物として適した物性を示し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下を含む。
【0010】
[1] (a)ラジカル発生触媒;
(b)ラジカル発生源;
(c)増粘剤;及び
(d)水
を含有し、伸び性が30mm以上、保形性が30mm以下であることを特徴とする生体組織用ジェル組成物。
[2] 660nmにおける吸光度が70以上であることを特徴とする、項目1に記載の生体組織用ジェル組成物。
[3] 皮膚上で被膜を形成しないことを特徴とする、項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
[4] 超音波検査用であることを特徴とする項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
[5] 前記増粘剤が、ポリアクリル酸ナトリウム、スメクタイト及びキサンタンガムからなる群から1又は複数選択される、項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
[6] 前記増粘剤が、ヒドロキシアルキルセルロース又はタマリンドガムをさらに含むことを特徴とする、項目5に記載の生体組織用ジェル組成物。
[7] 前記ラジカル発生触媒はルイス酸性度が0.4eV以上のアンモニウム塩であることを特徴とする、項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
[8] 前記ラジカル発生触媒が、下記化学式(I)で表されるアンモニウム塩を含む、項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【化1】
(前記化学式(I)中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、もしくはアミド結合、又は芳香環が含まれていてもよく、Xは、アニオンである。)
[9] 前記化学式(I)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(II)で表されるアンモニウム塩である、項目8に記載の生体組織用ジェル組成物。
【化2】

(前記化学式(II)中、R11は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、もしくはアミド結合、又は芳香環が含まれていてもよく、R及びXは、前記化学式(I)と同じである。)
[10] 前記化学式(II)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(III)で表されるアンモニウム塩である、項目9の生体組織用ジェル組成物。
【化3】
(前記化学式(III)中、R11及びX-は、前記化学式(II)と同じである。)
[11] 前記ラジカル発生源は亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン及び亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
[12] 前記生体組織用ジェル組成物は、中性又はアルカリ性であることを特徴とする項目1又は2に記載の生体組織用ジェル組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外観の美しさと使用感に優れたラジカル発生源とラジカル発生触媒を含む、生体組織用ジェル組成物を提供することが可能となる。さらには、本発明の生体組織用ジェル組成物は、保形性が良くたれにくいため、様々な器具、例えば、超音波検査用のプローブなどに塗ってから身体上へ塗り広げるなど、幅広い用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の生体組織用ジェル組成物を規定し得る「伸び性」を決定するための試験方法の概略図である。
図2図2は、本発明の生体組織用ジェル組成物を規定し得る「保形性」を決定するための試験方法の概略図である。
図3図3は、660nmにおける各吸光度と各サンプルの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
【0014】
一実施態様において、本発明は、
(a)ラジカル発生触媒;
(b)ラジカル発生源;
(c)増粘剤;及び
(d)水
を含有し、伸び性が30mm以上、保形性が30mm以下であることを特徴とする生体組織用ジェル組成物を提供する。以下に、本発明を構成する各要素について説明する。
【0015】
本明細書において、「生体組織用」とは、ヒトを含む動物(好ましくはヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、ラット、マウス、ブタなど)又は鳥類、より好ましくはヒト)の生体組織(biological tissue)(例えば皮膚など)への適用を意味する。本発明の生体組織用ジェル組成物は、ヒトを含む動物の生体組織に適用されるが、適用対象としての動物は、生きている動物であってもよく、死んでいる動物であってもよく、いずれの状態であっても適用され得る。本明細書において、「皮膚」は「肌」とも言い換えてもよく、本明細書において相互に交換しても同一の意味で用いられ得る。
【0016】
<伸び性>
本明細書において、「伸び性」とは、アクリル樹脂製の第1の板に、0.05gの対象の生体組織用ジェル組成物を載置し、その上に20mm×20mmのアクリル樹脂製の第2の板を載せ、前記第2の板に200gの加重をかけながら20mm/秒でスライドさせたときに、前記第1の板の上で塗り広げられた対象の生体組織用ジェル組成物の領域のうちで最も長軸となる長さ、と定義することができる(図1を参照のこと)。
【0017】
本発明の生体組織用ジェル組成物は、伸び性が30mm以上を示す。伸び性が30mm以上(例えば、35mm以上、40mm以上、45mm以上、50mm以上、55mm以上、60mm以上、65mm以上、70mm以上)であれば、生体組織に適用した場合に十分に塗り広げることができ、また、皮膚に適用した場合になめらかな感触を与えることができる。伸び性は、30mm以上であればよく、50mm以上が好ましく、70mm以上がより好ましい。
【0018】
<保形性>
本明細書において、「保形性」とは、水平状態のアクリル樹脂製の板の任意の部位に、1gの対象の生体組織用ジェル組成物を直径約20mmの略円となるように塗布し、当該アクリル樹脂製の板を垂直にして30秒間静置した場合に、重力によって移動した対象の生体組織用ジェル組成物の領域のうちで最も長軸となる長さから20mmを引いた長さ、と定義することができる(図2を参照のこと)。
【0019】
本発明の生体組織用ジェル組成物は、保形性が30mm以下を示し得る。保形性が30mm以下(例えば、25mm以下、20mm以下、15mm以下、10mm以下、5mm以下、又は0mm)であれば、任意の部位に生体組織用ジェル組成物を塗布した場合、その形状を維持することができ、周囲に垂れることが防止される。保形性の値が低い方が、周囲に垂れることが防止されるため、好ましい。保形性は30mm以下が良く、好ましくは25mm以下、より好ましくは15mm以下、さらに好ましくは5mm以下、最も好ましくは0mmである。
【0020】
<吸光度>
「吸光度」とは、分光法において、光が試料物体を通った際に、強度がどの程度弱まるかを示す無次元量として表されるものである。分析化学においては、入射光強度Iと、透過光強度Iとし、波長λにおける吸光度A(λ)は、即ち、A(λ)=-log10(I/I)とされる。試料が液体である場合、「I」は試料を入れる空のセルの透過光強度を示し、「I」は試料を入れたセルの透過光強度を示す。「吸光度」は、測定する光の波長を呈する光源と、測定する検出器とを備えた分光光度計を用いて測定することができる。
【0021】
吸光度を測定することにより、物性の透明性(又は濁度)を評価することができる。吸光度の波長は、任意の波長を用いるが、一般に濁度の測定に用いられる660nm付近における透過光の吸光度を測定することによって評価してもよい。
【0022】
一実施態様において、本発明の生体組織用ジェル組成物は、660nmにおける吸光度が70以上であることを特徴とするものであってもよい。660nmにおける吸光度が70以上であれば、肌に適用する際に透明性も高く、肌表面の視認性も高まり、好ましい。660nmにおける吸光度は、70以上が良く、80以上が好ましく、85以上がより好ましく、90以上がさらに好ましい。
【0023】
<被膜形成>
本明細書において、「被膜」とは、ヒトの皮膚(例えば、腕)に、0.05gの対象の生体組織用ジェル組成物を2cm×2cmに均一に塗布し、室温(例えば、25℃前後)で15分間乾燥させた場合に形成される膜であって、乾いた布で軽く拭いても取ることができない膜をいう。「被膜形成あり」とは、上記の評価方法において、被膜が形成された状態を意味し、逆に「被膜形成なし」とは、上記の評価方法において、乾いた布で軽く拭いた場合に、対象の生体組織用ジェル組成物が除去可能である、又は、乾いても膜とならず、膜の跡がほとんど残らないものをいう。一実施態様において、本発明の生体組織用ジェル組成物は、皮膚上で被膜を形成しないことを特徴としている。そのため、皮膚に適用された場合に、被膜が形成されないことから、被膜が形成されることで生じる不快感が生じず、また、皮膚からの除去も容易であり、好ましい。
【0024】
一実施態様において、本発明の生体組織用ジェル組成物は、上記のような物理特性を有していることから、肌用ジェルとしても用いることができ、超音波検査用のジェルとして用いることも可能である。
【0025】
<(a)ラジカル発生触媒>
本発明の組成物に含まれるラジカル発生触媒(以下、「本発明のラジカル発生触媒」ということがある。)は、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒するものであれば特に限定されず、既知の化合物を用いることができる。ラジカル発生触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明では、ラジカル発生触媒としてルイス酸を用いるのが好ましく、ルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸がより好ましい。ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、20eV以下であるのが好ましい。なお、ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur.J.、 2000, 6, 453 2、J. AM. CHEM.SOC.2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org.Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の方法により測定することができる。
【0027】
(ルイス酸性度の測定方法)
下記反応スキーム(A)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン(CoTPP)、飽和Oおよびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記反応スキーム(A)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。kcatの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0028】
【化4】
【0029】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表1において、「kcat,M-2-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素である「LUMO,eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。
【0030】
【表1】
【0031】
本発明のラジカル発生触媒は、ルイス酸としての性質を有するアンモニウム又はその塩であるのが好ましい。このようなアンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでもよいし
、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでもよい。
【0032】
アンモニウム及びその塩としては、例えば、陽イオン界面活性剤が挙げられ、中でも、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤が好ましい。
【0033】
第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ただし、本発明において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0035】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(I)で表されるアンモニウムであってもよい。
【0036】
【化5】
【0037】
前記化学式(I)中、R、R、RおよびRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、X-は、アニオンである。前記アルキル基は、炭素数1~40の直鎖または分枝アルキル基であるのが好ましい。
【0038】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムは、下記化学式(II)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
前記化学式(II)中、R11は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、RおよびXは、前記化学式(I)と同じである。
【0041】
前記化学式(II)中、Rは、メチル基またはベンジル基であるのが好ましく、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくてもよく、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、アルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)が挙げられる。
【0042】
前記化学式(II)で表されるアンモニウムは、下記化学式(III)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0043】
【化7】
【0044】
前記化学式(III)中、R11およびXは、前記化学式(II)と同じである。
【0045】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムの具体例としては、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウムが挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。中でも、式(II)で表される塩化ベンゼトニウムであるのが特に好ましい。
【0046】
なお、塩化ベンゼトニウム(BznCl)は、例えば、下記化学式(IV)で表すことができる。式(IV)中、Meはメチル基であり、Buはターシャリーブチル基である。また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(III)中、R11が炭素数8~18のアルキル基であり、Xが塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【化8】
【0047】
なお、前記化学式(I)、(II)および(III)中、Xは、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、X-は、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでもよい。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(I)、(II)および(III)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。Xとしては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0048】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N)を複数含んでいてもよい。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していてもよい。
【0049】
また、本発明において、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。
【0050】
また、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)が塩を形成し得る場合は、前記塩は、酸付加塩でもよいが、塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等が挙げられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等が挙げられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等が挙げられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が挙げられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0051】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に限定されないが、以下好ましい順に、1~40、1~32、1~24、1~18、1~1 2、1~6、または1~2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)である。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、以下好ましい順に、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10である。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でもよく、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0052】
本発明の組成物において、ラジカル発生触媒の含有量は、0.01~1500質量ppmであるのが好ましい。組成物中のラジカル発生触媒の濃度が低すぎると、ラジカルの発生が抑制されてしまい殺菌効果等が得られなくなる虞がある。また、ラジカル発生触媒の含有量が1500質量ppm以下であると、安全性が確保できるので好ましい。ラジカル発生触媒の含有量は、組成物中、0.1~1000質量ppmであるのがより好ましく、0.1~500質量ppmがさらに好ましく、1~200質量ppmが特に好ましく、1~100質量ppmが最も好ましい。なお、ミセル形成により殺菌効果等が得られなくなることを防止する観点からは、ラジカル発生触媒の濃度が、ミセル限界濃度以下であることが好ましい。
【0053】
<(b)ラジカル発生源>
ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオン等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つを含むのが好ましい。
【0054】
ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいてもよい。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ素、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0055】
中でも、ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン及び亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましく、ラジカル発生触媒との反応性が穏やかで反応の制御がしやすいという点から、亜塩素酸、亜塩素酸イオン及び亜塩素酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがさらに好ましい。具体的には、亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0056】
本発明の組成物において、ラジカル発生源の含有量は、0.01~1500質量ppm であるのが好ましい。組成物中のラジカル発生源の濃度が低すぎると、ラジカルの発生量が少なくなり過ぎて殺菌効果等が得られなくなるおそれがある。また、ラジカル発生源の濃度が高いほど殺菌効果等は得られるが、安全性の確保の観点から1500質量ppm以下とするのが好ましい。ラジカル発生源の含有量は、組成物中、1~1000質量ppmであるのがより好ましく、10~500質量ppmがさらに好ましく、50~250質量ppmが特に好ましい。
【0057】
本発明の組成物において、ラジカル発生源とラジカル発生触媒の組成物中の濃度比(ラジカル発生源/ラジカル発生触媒)は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0058】
<(c)増粘剤>
本発明の生体組織用ジェル組成物において、水溶性の増粘剤を使用することができるが、一実施態様における生体組織用ジェル組成物中で上述の特徴的な物理的特性を示し得る増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、スメクタイト及びキサンタンガムからなる群から1又は複数選択される増粘剤が適用され得る。ポリアクリル酸ナトリウムは、架橋型又は非架橋型のポリアクリル酸ナトリウムであってもよいが、架橋型のポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。キサンタンガムは、水酸基の一部がカチオン化されたカチオン化キサンタンガム(例えば、ラボールガム(登録商標)CXなど)であってもよい。
【0059】
一実施態様の本発明の生体組織用ジェル組成物において、上記の増粘剤に加え、ヒドロキシアルキルセルロース又はタマリンドガムをさらに含むものであってもよい。本明細書において、ヒドロキシアルキルセルロースは、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキルセルロースの誘導体、例えば、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル)も含む意味で用いられる。
【0060】
ラジカル発生源として好適に用いられる亜塩素酸は、有用性の高いラジカル発生源であるが、共存する成分によっては分解し、減少することがある。本発明者らの検討により、上記増粘剤であれば、亜塩素酸の分解を引き起こし難いことがわかり、ラジカル発生源として亜塩素酸、亜塩素酸イオン及び亜塩素酸塩からなる群から選択される少なくとも1つを含むときには、これらを好適に使用できる。例えば、一実施態様において、本発明の生体組織用ジェル組成物において適用される好ましい増粘剤としては、スメクタイト;架橋型ポリアクリル酸ナトリウム;カチオン化キサンタンガム;架橋型ポリアクリル酸ナトリウム及び疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース;又は架橋型ポリアクリル酸ナトリウム及びタマリンドガムが挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
本発明の組成物において、増粘剤の含有量は使用する増粘剤の種類や所望する組成物の粘度等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、0.1~20質量%であるのが好ましい。増粘剤の含有量が0.1質量%以上であると、組成物の粘度の過度な低下を抑制するのでハンドリング性が向上し、また、20質量%以下であると、粘度の過度な増加を抑制するので使用感を向上できる。
【0062】
<(d)水>
本発明の組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び増粘剤を溶解又は分散させるための溶媒として、水を含む。
【0063】
水としては、例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水等が挙げられる。
【0064】
本発明の組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、添加剤として上記したラジカル発生触媒、ラジカル発生源、増粘剤及び水以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、有機溶剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0065】
有機溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール溶媒等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明の組成物は、(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)増粘剤、(d)水、及び所望により他の成分を順次混合し均一に溶解させることにより調製できる。
【0068】
また、本発明の組成物は、該組成物の性状が、中性又はアルカリ性であるのが好ましい。組成物が酸性であると、ラジカル発生源とラジカル発生触媒が急激に反応し、ラジカルが発生するので、長時間安定的にラジカルを発生させることが困難である。本発明では、組成物中に生成された水性ラジカル(活性種)が中性又はアルカリ性環境下にてその状態が維持される。そして、反応の対象となる細菌やウイルスなどが存在したときに組成物中に存在する水性ラジカルが作用してこのラジカルは無くなるが、組成物中から新たなラジカルが生成される。これにより、要時においてラジカルを発生させることができる。組成物のpHは、7~10であるのがより好ましく、7~9がさらに好ましい。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0070】
<試験項目・目的>
・透明性:本製品は、肌に塗布して使用するため、外観の良いものである必要がある。外観の良いものの基準として、透明性の高さが必要となる。
・伸び性:肌に乗せて使用する際、肌上での伸びが良いと肌に広げやすく、使用感が良い。伸びが悪いと肌に塗りにくく、肌への負荷もかかるため、使用感が悪くなる。
・保形性:肌に乗せて使用する際に、適度な保形性があると垂れないので使用しやすい。保形性が弱いと、すぐに垂れてしまい、肌から落ちてしまうなど、使用しにくい。
・膜形成:本製剤は使用後、拭き取るが、完全に拭き取れずに残る場合がある。残ったジェル剤が乾燥し、膜を形成すると不快に感じる。膜を形成しないものが本製剤に適しているといえる。
【0071】
<試験方法>
上記の試験項目の向上を達成するために、以下の処方に従い、製剤を作製し、各項目に関して試験を行い、評価を行った。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
伸び性
製剤0.05gをアクリル板に乗せ、移動用アクリル板をその上に置き、200gの荷重をかけて20mm/秒で70mmスライドさせ、製剤の伸びた長さを静・動摩擦測定機 TL201Tt(トリニティーラボ製)を用いて測定した。伸びた長さが30mm以上となったものが伸びの良いもの、30mm未満のものを伸びの悪いものとした(図1)。
【0075】
保形性
アクリル板に製剤1gを20mm×20mm上にのせ、垂直にして30秒間静置し、たれた長さを測定した。長さが30mm以下のものを保形性の良いもの、30mmより長いものを保形性の悪いものとした(図2)。
【0076】
透明性
紫外可視分光光度計 UV-1280(島津製作所製)を用いて660nmにおける吸光度の測定を行った。吸光度の値が70以上のものを透明とした(図3)。
【0077】
膜形成
人の腕2cm×2cm上に製剤0.05gを均一に塗り、室温で15分間乾燥させた。乾燥して被膜形成したもの(乾いた布で軽く拭いても取ることができない膜)を膜形成するもの(×)、しなかったもの(乾いた布で軽く拭けば取れる、または乾いて跡が残らなかったもの)を膜形成しないもの(●)とした。
【0078】
<結果>
結果を以下に示す。なお、表中の項目「肌用ジェルとしての適性」及び「超音波検査用ジェルとしての適性」は、各評価項目(透明性、伸び性、保形性及び膜形成)から総合的に判断した評価結果を示すものであり、前者は「不適」、「可」又は「適」、後者は「不適」又は「適」で表示されている。
【0079】
具体的に、「肌用ジェルとしての適性」において「可」は、膜形成しないもの(●)であって、透明性に欠ける(吸光度の値が70以下)が、保形性及び伸び性の条件は満たす増粘剤又はその組み合わせにおいて表示されている。「適」は、膜形成しないもの(●)であって、透明性、保形性及び伸び性の条件を満たす増粘剤又はその組み合わせにおいて表示されている。「不適」は、「適」又は「可」と判断されなかった増粘剤又はその組み合わせである。
【0080】
また、「超音波検査用ジェルとしての適性」において「適」は、膜形成しないもの(●)であって、透明性が高く(吸光度の値が85以上)、保形性及び伸び性の条件も満たす増粘剤又はその組み合わせにおいて表示されている。「不適」は、「適」と判断されなかった増粘剤又はその組み合わせにおいて表示されている。
【0081】
【表4】
図1
図2
図3