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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097591
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】除去方法、除去装置及び溝形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/06 20060101AFI20240711BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20240711BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B41N1/06
B23B1/00 Z
B23B5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001145
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100140682
【弁理士】
【氏名又は名称】妙摩 貞茂
(72)【発明者】
【氏名】小峯 寛裕
(72)【発明者】
【氏名】登口 義隆
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 壮一
【テーマコード(参考)】
2H114
3C045
【Fターム(参考)】
2H114AA03
2H114AA09
2H114AA16
2H114AA17
2H114GA29
2H114GA31
3C045AA10
(57)【要約】
【課題】グラビア印刷用のシリンダが変形している場合であっても、メッキ層の除去を自動制御できる除去方法を提供する。
【解決手段】除去方法は、シリンダの軸方向の端部の形状を計測する計測工程と、端部の形状が計測されたシリンダのメッキ層に案内溝を形成する溝形成工程と、案内溝が形成されたシリンダのメッキ層における軸方向の端面を切削装置によって露出させる露出工程と、露出したメッキ層の端面に剥離起点を形成する起点形成工程と、を備える。露出工程は、計測工程で計測された端部の形状データに基づいて、端部に沿うように切削装置を移動させる。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなすシリンダベース、前記シリンダベースの外表面に形成された下地層、前記下地層よりも外側に形成されたメッキ層、及び、前記下地層と前記メッキ層の界面をなすバラード層、を備え、前記バラード層から前記メッキ層を剥離可能なバラード方式のグラビア印刷用シリンダの前記メッキ層を除去するための方法であって、
前記シリンダの軸方向の端部の形状を計測する計測工程と、
前記端部の形状が計測された前記シリンダの前記メッキ層に案内溝を形成する溝形成工程と、
前記案内溝が形成された前記シリンダの前記メッキ層における前記軸方向の端面を切削装置によって露出させる露出工程と、
露出した前記メッキ層の前記端面に剥離起点を形成する起点形成工程と、
を備え、
前記露出工程は、前記計測工程で計測された前記端部の形状データに基づいて、前記端部に沿うように前記切削装置を移動させる、除去方法。
【請求項2】
前記シリンダベースは、
筒状をなす筒状部と、
前記筒状部の両端に形成され、軸方向の端縁に向かって外径が小さくなる湾曲部と、を有しており、
前記露出工程は、前記湾曲部に形成された前記メッキ層を切削する、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
前記案内溝は、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしており、
前記溝形成工程は、周方向における前記案内溝の開始位置を取得し、
前記起点形成工程は、前記計測工程で計測された前記端部の形状データに基づいて、前記案内溝の前記開始位置に前記剥離起点を形成する、請求項1に記載の除去方法。
【請求項4】
前記起点形成工程で形成された剥離起点から剥離装置によって前記メッキ層を順次剥離する剥離工程をさらに備え、
前記剥離工程は、前記計測工程で計測された前記端部の形状データに基づいて、前記下地層から前記剥離装置を離間させた状態で前記開始位置から前記メッキ層を剥離する、請求項3に記載の除去方法。
【請求項5】
筒状をなすシリンダベース、前記シリンダベースの外表面に形成された下地層、前記下地層よりも外側に形成されたメッキ層、及び、前記下地層と前記メッキ層の界面をなすバラード層、を備え、前記バラード層から前記メッキ層を剥離可能なバラード方式のグラビア印刷用シリンダの前記メッキ層を除去するための装置であって、
前記シリンダの軸方向の端部の形状を計測する計測部と、
前記シリンダの前記メッキ層に案内溝を形成する溝形成部と、
前記案内溝が形成された前記シリンダの前記メッキ層における前記軸方向の端面を露出させる切削部と、
露出した前記メッキ層の前記端面に剥離起点を形成する起点形成部と、
を備え、
前記切削部は、前記計測部で計測された前記端部の形状データに基づいて、前記端部に沿うように移動制御される、除去装置。
【請求項6】
前記シリンダベースは、
筒状をなす筒状部と、
前記筒状部の両端に形成され、軸方向の端縁に向かって外径が小さくなる湾曲部と、を有しており、
前記切削部は、前記湾曲部に形成された前記メッキ層を切削する、請求項5に記載の除去装置。
【請求項7】
前記案内溝は、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしており、
前記溝形成部は、周方向における前記案内溝の開始位置を取得し、
前記起点形成部は、前記計測部で計測された前記端部の形状データに基づいて、周方向における前記案内溝の前記開始位置に前記剥離起点を形成する、請求項5に記載の除去装置。
【請求項8】
前記剥離起点から前記メッキ層を順次剥離する剥離ベラを有する剥離部をさらに備え、
前記剥離部は、前記計測部で計測された前記端部の形状データに基づいて、前記下地層から前記剥離ベラを離間させた状態で周方向における前記案内溝の前記開始位置から前記メッキ層を剥離する、請求項7に記載の除去装置。
【請求項9】
前記溝形成部は、
前記表面に当接した状態で前記シリンダの周方向に相対的に移動するローラと、
前記ローラを回転可能に保持する保持機構と、
前記ローラが前記表面の形状に追従して前記表面に当接するように、前記保持機構を前記シリンダに向けて付勢する付勢機構と、
前記保持機構に接続され、前記ローラの位置を基準として切削深度を変更可能な切削刃と、を備える、請求項5に記載の除去装置。
【請求項10】
筒状をなすシリンダの表面に案内溝を形成する溝形成装置であって、
前記表面に当接した状態で前記シリンダの周方向に相対的に移動するローラと、
前記ローラを回転可能に保持する保持機構と、
前記ローラが前記表面の形状に追従して前記表面に当接するように、前記保持機構を前記シリンダに向けて付勢する付勢機構と、
前記保持機構に接続され、前記ローラの位置を基準として切削深度を変更可能な切削刃と、を備える溝形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、除去方法及び除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はバラード方式のグラビア印刷用シリンダのメッキ層の除去方法を開示する。この除去方法では、カッター刃を立設した高圧空気噴射ノズルを、バラードメッキの下地銅メッキに対する浮き上がり箇所に差し込んで、高圧空気の噴射によりバラードメッキを浮き上がらせて高圧空気噴射ノズルを進行させカッター刃で浮き上がったバラードメッキを引き裂きカットを進行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-250251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円筒状を呈するグラビア印刷用のシリンダは、公差等の影響もあり、軸方向から見たときに必ずしも全てが真円になっているわけではなく、僅かに楕円形状を呈する場合がある。また、当該シリンダは、繰り返し再利用される過程の中で、使用により変形等する場合がある。シリンダのメッキ層を除去する工程を自動制御する場合、形状が一様ではないシリンダに対応できず、シリンダの下地層を損傷することが考えられる。
【0005】
本開示は、グラビア印刷用のシリンダが変形している場合であっても、メッキ層の除去を自動制御できる除去方法及び除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一例の除去方法は、筒状をなすシリンダベース、シリンダベースの外表面に形成された下地層、下地層よりも外側に形成されたメッキ層、及び、下地層とメッキ層の界面をなすバラード層、を備えるグラビア印刷用シリンダのメッキ層を除去する方法である。該方法は、シリンダの軸方向の端部の形状を計測する計測工程と、端部の形状が計測されたシリンダのメッキ層に案内溝を形成する溝形成工程と、案内溝が形成されたシリンダのメッキ層における軸方向の端面を切削装置によって露出させる露出工程と、露出したメッキ層の端面に剥離起点を形成する起点形成工程と、を備える。露出工程は、計測工程で計測された端部の形状データに基づいて、端部に沿うように切削装置を移動させる。
【0007】
上記除去方法では、メッキ層に案内溝が形成された後に、メッキ層の端面を露出させ、露出した端面に剥離起点を形成することで、剥離起点からメッキ層を順次剥離することが可能となる。メッキ層の端面を露出させる露出工程では、計測されたシリンダの端部の形状に基づいて、端部に沿うように切削装置が移動される。すなわち、シリンダの端部の形状が変形している場合であっても、変形した端部形状に沿って切削装置が移動されるため、一連の工程を自動制御することができる。
【0008】
一例のシリンダベースは、筒状をなす筒状部と、筒状部の両端に形成され、軸方向の端縁に向かって外径が小さくなる湾曲部と、を有している。露出工程は、湾曲部に形成されたメッキ層を切削する。この構成では、湾曲部のメッキ層が切削されることにより、筒状部のメッキ層の端面が露出される。筒状部を切削しないため、筒状部が損傷する虞がない。
【0009】
一例の案内溝は、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしている。溝形成工程は、周方向における案内溝の開始位置を取得する。起点形成工程は、計測工程で計測された端部の形状データに基づいて、案内溝の開始位置に剥離起点を形成する。この構成では、案内溝の開始位置に剥離起点が形成されるため、剥離起点からメッキ層が順次剥離されることで、メッキ層がシリンダに残留することが抑制される。
【0010】
一例において、除去方法は、起点形成工程で形成された剥離起点から剥離装置によってメッキ層を順次剥離する剥離工程をさらに備え得る。剥離工程は、計測工程で計測された端部の形状データに基づいて、下地層から剥離装置を離間させた状態で開始位置からメッキ層を剥離する。この構成では、剥離工程によって下地層が損傷することが抑制される。
【0011】
一例の除去装置は、筒状をなすシリンダベース、シリンダベースの外表面に形成された下地層、下地層よりも外側に形成されたメッキ層、及び、下地層とメッキ層の界面をなすバラード層、を備えるグラビア印刷用シリンダのメッキ層を除去するための装置である。除去装置は、シリンダの軸方向の端部の形状を計測する計測部と、シリンダのメッキ層に案内溝を形成する溝形成部と、案内溝が形成されたシリンダのメッキ層における軸方向の端面を露出させる切削部と、露出したメッキ層の端面に剥離起点を形成する起点形成部と、を備える。切削部は、計測部で計測された端部の形状データに基づいて、端部に沿うように移動制御される。
【0012】
上記除去装置では、溝形成部によってメッキ層に案内溝が形成された後に、切削部によってメッキ層の端面を露出させる、そして、起点形成部によって、露出した端面に剥離起点を形成することができるので、剥離起点からメッキ層を順次剥離することが可能となる。メッキ層の端面を露出させる切削部は、計測されたシリンダの端部の形状に基づいて、端部に沿うように移動する。すなわち、シリンダの端部の形状が変形している場合であっても、変形した端部形状に沿って切削部が移動されるため、一連の工程を自動制御することができる。
【0013】
一例のシリンダベースは、筒状をなす筒状部と、筒状部の両端に形成され、軸方向の端縁に向かって外径が小さくなる湾曲部と、を有し得る。切削部は、湾曲部に形成されたメッキ層を切削し得る。この構成では、湾曲部のメッキ層が切削されることにより、筒状部のメッキ層の端面が露出される。筒状部を切削しないため、筒状部が損傷する虞がない。
【0014】
一例の案内溝は、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしていてよい。起点形成部は、計測部で計測された端部の形状データに基づいて、周方向における案内溝の開始位置に剥離起点を形成してよい。この構成では、案内溝の開始位置に剥離起点が形成されるため、剥離起点からメッキ層が順次剥離されることで、メッキ層がシリンダに残留することが抑制される。
【0015】
除去装置は、剥離起点からメッキ層を順次剥離する剥離ベラを有する剥離部をさらに備え得る。剥離部は、計測部で計測された端部の形状データに基づいて、下地層から剥離ベラを離間させた状態で周方向における案内溝の開始位置からメッキ層を剥離し得る。この構成では、剥離部によって下地層が損傷することが抑制される。
【0016】
一例の溝形成装置は、筒状をなすシリンダの表面に案内溝を形成する。溝形成装置は、表面に当接した状態でシリンダの周方向に相対的に移動するローラと、ローラを回転可能に保持する保持機構と、ローラが表面の形状に追従して表面に当接するように、保持機構をシリンダに向けて付勢する付勢機構と、保持機構に接続され、ローラの位置を基準として切削深度を変更可能な切削刃と、を備える。この構成では、表面からの深度が一定である案内溝を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、グラビア印刷用のシリンダが変形している場合であっても、メッキ層の除去を自動制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】バラード方式のグラビア印刷用シリンダの一例を示す断面図である。
図2】一例の除去装置の構成を示すブロック図である。
図3】一例の回転装置を模式的に示す図である。
図4】一例の計測装置を模式的に示す図である。
図5】一例の計測装置を模式的に示す図である。
図6】一例の溝形成装置を模式的に示す図である。
図7】溝形成装置の切削刃がバラード層に至っている様子を模式的に示す断面図である。
図8】一例の端部切削装置を模式的に示す図である。
図9】一例の起点形成装置を模式的に示す図である。
図10】一例の剥離装置を模式的に示す図である。
図11】一例の切削装置を模式的に示す図である。
図12】一例の研磨装置を模式的に示す図である。
図13】一例の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図14】一例の除去装置による除去方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら一例の除去装置及び除去方法について説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
図1はバラード方式のグラビア印刷用シリンダの一例を示す断面図であり、シリンダ10の長手方向に直交する面における断面を示したものである。同図に示すとおり、シリンダ10は、シリンダベース1と、シリンダベース1の表面に設けられた下地層2と、バラード層3と、バラード層3の外側に設けられたメッキ層5とを備える。バラード層3は下地層2とメッキ層5との界面をなしている。メッキ層5は、彫刻形成層5aと保護層5bとを備え、これらの層が下地層2側からこの順で形成されている。グラビア印刷の終了後、シリンダベース1側に下地層2を残したまま、バラード層3を境にメッキ層5を剥離することによってシリンダベース1を再利用することができる。
【0021】
一例のシリンダ10は、円筒状をなす筒状部10aと、筒状部10aの両端に形成される湾曲部10cと、シリンダ10の軸方向の端面を構成する端面部10bとを有する(図5参照)。湾曲部10cは、筒状部10aと端面部10bとを接続する領域であり、筒状部10aから端面部10bに向かって外径が小さくなるように湾曲している。
【0022】
シリンダベース1は、例えば長さ300~5000mm、外径100~1500mmの円筒状部材であり、長手方向に沿った中心軸を有する。シリンダベース1の材質として、例えばアルミニウム、鉄などが挙げられる。
【0023】
下地層2は、シリンダベース1の表面を覆うように形成された層である。下地層2の材質として、例えば銅、亜鉛、スズ、ニッケル及びこれらの合金ならびにステンレス及びその他の合金などが挙げられる。
【0024】
バラード層3は、下地層2の表面2fと彫刻形成層5aの裏面5fとの間に位置する。バラード層3は、シリンダ10の製作過程において下地層2の表面2fにバラード液と称される液を塗布することによって形成される。使用するバラード液の種類や塗布量によるが、バラード層3の厚さは例えば1μm以下であってよい。バラード液としては、例えば無水亜硫酸ナトリウム、硝酸銀又はチオ硫酸の水溶液あるいは水を使用できる。バラード液の塗布後に彫刻形成層5a及び保護層5bがメッキ処理によって順次形成される。
【0025】
彫刻形成層5aは、バラード液が塗布された下地層2の表面を覆うように形成されている。彫刻形成層5aはメッキ処理によって形成される。彫刻形成層5aの材質として、例えば銅、亜鉛、スズ及びこれらの合金ならびにステンレス及びその他の合金などが挙げられる。彫刻形成層5aはメッキ処理によって形成され、その後、レーザ、ヘリオ彫刻などによってグラビア印刷用の凹部が彫刻される。
【0026】
保護層5bは、彫刻形成層5aに形成された版を保護するためのものであり、彫刻形成層5aの表面を覆うように形成されている。保護層5bはメッキ処理によって形成される。保護層5bの材質として、例えばクロム、ニッケル、亜鉛及びこれらの合金などが挙げられる。彫刻形成層5aと保護層5bとの厚さの合計は、例えば60μm~300μm程度であってよい。
【0027】
図2図13を参照しながら、シリンダ10からメッキ層5を取り除くための除去装置100について説明する。除去装置100は、回転装置120と、計測装置130と、溝形成装置140と、端部切削装置150と、起点形成装置160と、剥離装置170と、切削装置180と、研磨装置190と、制御装置110と、を備える。
【0028】
回転装置120は、シリンダ10を回転自在に支持する一対のシリンダ支持部121(図3参照)と、シリンダ支持部121に支持された状態のシリンダ10を回転させる回転機構(不図示)とを有する。例えば、シリンダ支持部121は、円錘台形状を有しており、シリンダ10の端面部10bに形成された軸孔10dに嵌合し得る。回転機構の動作に応じてシリンダ支持部121が回転することにより、シリンダ10は、シリンダ支持部121の回転軸Cを中心に、設定された回転方向に設定された回転速度で回転し得る。
【0029】
計測装置130(計測部)は、少なくとも、シリンダ10の軸方向の端部領域の形状を計測する。例えば、計測装置130は、接触式のセンサを有するプローブ131を備えており(図4参照)、プローブ131がシリンダ10に接触したときの信号を検出することにより、シリンダ10の形状を反映する位置情報を取得する。プローブ131は、いわゆるタッチプローブであってよい。シリンダ10の複数箇所の位置情報が計測装置130によって取得されることで、シリンダ10の外形を示す三次元データが取得される。一例の計測装置130は、シリンダ10の軸方向の端部領域における筒状部10aの外周面を45度のピッチで8点計測し、8点のそれぞれの位置情報を取得する。また、計測装置130は、上述の8点の位置のそれぞれからプローブ131を湾曲部10cに沿って移動させ、湾曲部10cに沿って9点の位置情報を取得する(図5参照)。なお、プローブ131による計測点の数は、上記の例示よりも多くてもよいし、少なくてもよい。
【0030】
溝形成装置140(溝形成部)は、シリンダ10のメッキ層5に案内溝5cを形成する(図6参照)。一例において、案内溝5cは、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしている。溝形成装置140は、ローラ142と、保持機構143と、付勢機構145と切削刃146とを備える。ローラ142は、回転軸Cに平行な回転軸を有しており、シリンダ10の筒状部10aの表面に当接可能に構成されている。ローラ142が筒状部10aの表面に当接した状態でシリンダ10が回転することにより、ローラ142は、シリンダ10の周方向に相対的に移動する。また、溝形成装置140は、ローラ142の軸方向に沿って移動可能に構成されている。溝形成装置の位置は、不図示の移動機構によって制御可能であってよい。シリンダ10が回転している状態でローラ142が軸方向に移動することにより、溝形成装置140は、シリンダ10の表面を螺旋状に移動し得る。
【0031】
保持機構143は、ローラ142を回転可能に保持する。保持機構143は、ローラ142の周方向の一部が露出するように、ローラ142の回転軸を保持する。図示例では、ローラ142のうちのシリンダ10の表面に当接する面が保持機構143から露出している。
【0032】
付勢機構145は、ローラ142がシリンダ10の表面の形状に追従して表面に当接するように、保持機構143をシリンダ10に向けて付勢する。例えば、付勢機構145は、ローラ142が外部に露出するように保持機構143を収容する筐体145aと、筐体145a内に配置されて保持機構143を一方向に付勢するスプリング145bと、を有する。ローラ142がシリンダ10側から押圧された場合、ローラ142を保持する保持機構143はスプリング145bを収縮させるように移動する。ローラ142は、シリンダ10の表面の形状に追従して、シリンダ10の表面に当接した状態で回転する。
【0033】
切削刃146は、保持機構143に接続されており、保持機構143の移動に伴って保持機構143の移動方向に移動する。例えば、保持機構143には、筐体145aの外部に露出するアーム143aが固定されており、このアーム143aに切削刃146が取り付けられていてもよい。アーム143aは、保持機構143の付勢方向と直交する方向に延在している。すなわち、スプリング145bの軸方向に保持機構143が移動した場合、保持機構143の移動距離と同じ距離だけアーム143aもスプリング145bの軸方向に移動する。
【0034】
切削刃146は、その刃先146aがアーム143aからスプリング145bの軸方向に突出するように、アーム143aに接続されている。アーム143aから切削刃146の刃先146aまでの位置は調整可能であってよい。切削刃146の切削深度は、スプリング145bの軸方向においてローラ142よりも突出した刃先146aの長さに対応している。切削深度は、ローラ142の位置を基準として変更可能となっている。例えば、アーム143aは、切削刃146の位置(切削深度)を変更するためのアクチュエータを有していてよい。一例においては、図7に示すように、切削刃146の刃先146aがバラード層3に到達するように調整されてもよいが、切削刃146の刃先146aが彫刻形成層5aの中間位置まで到達するように調整されていれば、十分に機能を発揮する案内溝5cを形成することができる。
【0035】
端部切削装置150(切削部)は、案内溝5cが形成されたシリンダ10のメッキ層5における軸方向の端面10a1を露出させる。一例のシリンダ10では、湾曲部10cに形成されたメッキ層5が切削されることにより、筒状部10aに形成されたメッキ層5の端面10a1が露出される。図8は、端部切削装置の動作を示す図である、図8において、端部切削装置150は、実線で示す位置から一点鎖線で示す位置に移動し、さらに二点鎖線で示す位置に移動し得る。端部切削装置150は、ロボットアーム等の不図示の移動機構によって位置制御される切削刃151を有していてよい。一例において、切削刃151は、Z軸方向に沿って下向きに移動し、端面10a1を形成した後に、湾曲部10cに沿って移動制御されてよい。
【0036】
起点形成装置160(起点形成部)は、露出したメッキ層5の端面10a1に剥離起点Pを形成する。剥離起点Pは、案内溝5cに沿って連続的にメッキ層5を除去するためのきっかけとして機能する部分である。一例の剥離起点Pは、溝形成装置140によって形成された案内溝5cとメッキ層5の軸方向の端部とが交わる位置に形成される。剥離起点Pは、シリンダ10から剥離された状態のメッキ層5であってよい。起点形成装置160は、メッキ層5を引っかけて捲り上げるための刃物161を有している(図9参照)。
【0037】
剥離装置170(剥離部)は、剥離起点Pからメッキ層5を順次剥離する剥離ベラ171を有する(図10参照)。剥離装置170(剥離ベラ171)の位置は、ロボットアーム等の不図示の移動機構によって制御可能であってよい。シリンダ10が回転している状態で、剥離起点Pにおいてメッキ層5とシリンダ10との間に剥離ベラ171を挿入し、剥離ベラ171を軸方向に移動させることで、メッキ層5を案内溝5cに沿って剥離することができる。
【0038】
切削装置180は、シリンダ10の軸方向の端面部10bのメッキ層5を切削するための装置である。一例の切削装置180は、メッキ層5除去するための回転刃181を有していてもよい(図11参照)。例えば、切削装置180は、ロボットアーム等の図示しない移動機構によって移動可能であってよい。
【0039】
研磨装置190は、シリンダ10の湾曲部10c及び端面部10bのメッキ層5の残りを除去する装置である。また、研磨装置190は、シリンダ10の湾曲部10c及び端面部10bに形成されたバリを除去する装置である。一例の研磨装置190は、メッキ層5除去するための回転ヤスリ191を有していてもよい(図12参照)。例えば、研磨装置190は、ロボットアーム等の図示しない移動機構によって移動可能であってよい。
【0040】
制御装置110は、回転装置120、計測装置130、溝形成装置140、端部切削装置150、起点形成装置160、剥離装置170、切削装置180および研磨装置190の動作を制御する。制御装置110は、例えば、CPUといったプロセッサ、及び、メモリといった記憶装置などを備えるコンピュータによって構成されていてよい。図13は、制御装置110において実現される機能を示すブロック図である。制御装置110は、その機能として、主制御部110a、回転制御部110b、計測制御部110c、溝形成制御部110d、端部切削制御部110e、起点形成制御部110f、剥離制御部110g、切削制御部110hおよび研磨制御部110iを有する。
【0041】
主制御部110aは、除去装置100の動作を統括的に制御する。すなわち、主制御部110aは、以下に説明する回転制御部110b、計測制御部110c、溝形成制御部110d、端部切削制御部110e、起点形成制御部110f、剥離制御部110g、切削制御部110hおよび研磨制御部110iを統括的に制御する。
【0042】
回転制御部110bは、回転装置120の動作を制御する。一例において、回転制御部110bは、回転装置120の回転機構を制御することにより、シリンダ10の回転方向及び回転速度を制御する。回転制御部110bは、以下に説明する計測制御部110c、溝形成制御部110d、切削制御部110h、起点形成制御部110f、剥離制御部110g、切削制御部110hおよび研磨制御部110iのそれぞれの制御に応じて、シリンダ10の回転動作を制御する。
【0043】
計測制御部110cは、計測装置130の動作を制御する。一例において、計測制御部110cは、計測装置130のプローブ131の位置をシリンダ10の軸方向の端部領域の位置に移動させ、回転制御部110bによってシリンダ10が回転している状態で、プローブ131をシリンダ10に接触させる。計測制御部110cは、例えば、シリンダ10が一回転する間にシリンダ10に8回接触することで、シリンダ10の軸方向の端部領域における外周面を45度のピッチで8点計測してもよい。また、計測制御部110cは、シリンダ10の回転が停止している状態で、先に計測された8点の位置のそれぞれからプローブ131を湾曲部10cに沿って移動させ、湾曲部10cの形状を計測してもよい。
【0044】
計測制御部110cは、計測装置130によって取得された計測結果をシリンダ10の端部形状の位置データとして記憶する。また、計測制御部110cは、外周面の位置データを取得した8点のうちの1点を基準位置として設定してもよい。基準位置は、例えばシリンダ10の周方向の位置(角度)を示すデータであってもよい。
【0045】
溝形成制御部110dは、溝形成装置140の動作を制御する。一例において、溝形成制御部110dは、周方向における案内溝5cの開始位置を取得する。例えば、案内溝5cの開始位置は、計測制御部110cによって設定された基準位置であってよい。溝形成装置140は、切削刃146の刃先146aが軸方向において筒状部10aの端部(筒状部10aと湾曲部10cとの境界位置)に一致し、切削刃146の刃先146aがシリンダ10(メッキ層5)の表面から離間するように、溝形成装置140の位置を制御する。そして、回転制御部110bによってシリンダ10の回転が開始した後に、周方向において切削刃146が待機している位置に基準位置が一致したタイミングで、切削刃146がシリンダ10の表面に接触するように溝形成装置140の位置が制御される。切削刃146がシリンダ10の表面に接触した後、溝形成装置140は軸方向に沿って他端に向かって一定速度で移動するように制御される。これにより、シリンダ10の表面には螺旋状の案内溝5cが形成される。
【0046】
端部切削制御部110eは、端部切削装置150の動作を制御する。一例において、端部切削制御部110eは、計測装置130によって計測された端部領域の形状データに基づいて、切削刃151が筒状部10aのメッキ層5における端面10a1に沿うように端部切削装置150の位置を制御する。例えば、端部切削制御部110eは、メッキ層の厚さを示す厚さ情報を取得していてよい。厚さ情報は、シリンダ10に関する各種情報を管理するデータサーバから取得されてもよいし、ユーザによって入力されてもよい。
【0047】
端部切削制御部110eは、切削刃151の先端が軸方向において筒状部10aの端部に一致し、切削刃151の先端がシリンダ10の表面から離間するように、端部切削装置150の位置を制御する。そして、回転制御部110bによってシリンダ10の回転が開始した後に、切削刃151がシリンダ10の表面に接触するように端部切削装置150の位置が制御される。切削制御部110hは、軸方向の位置を移動させることなく、切削刃の深度が徐々に大きくなるように、端部切削装置150をシリンダ10の軸心に向けてZ軸方向に移動させる。切削刃151の深度は、取得された厚さ情報とシリンダ10の湾曲部10cの位置データとに基づいて、切削刃151がシリンダベース1に接触しないように調整される。例えば、切削刃151がバラード層3に到達する程度に深度が調整されてもよい。切削刃151がバラード層3に到達した状態でシリンダ10が1回転以上した後、切削制御部110hは、切削刃151が湾曲部10cに沿ってシリンダ10の端面部10bまで移動するように、端部切削装置150の位置を制御する。これにより、シリンダ10の筒状部10aに形成されたメッキ層5の軸方向の端面10a1が露出する。
【0048】
切削刃151の深度はバラード層3に到達している必要はなく、起点形成装置160の刃物161が突き当たることができる程度の厚さの端面10a1が形成される深度であればよい。例えば、切削刃151の深度は、メッキ層5の厚さに対して所定の厚さだけ浅い深度に制御されてもよい。すなわち、切削刃151は、メッキ層5のうちのバラード層3に近い領域を所定の厚さだけ残すようにして、メッキ層5を表面側から切削するように制御され得る。一例として、切削刃151の深度は、メッキ層5の厚さに対して20μm程度浅い深度であってもよい。例えば、メッキ層5の厚さが160μmである場合、切削刃151の深度は140μm程度に制御されてもよい。
【0049】
起点形成制御部110fは、起点形成装置160の動作を制御する。一例において、起点形成制御部110fは、計測装置130によって計測された端部領域の形状データに基づいて、周方向における案内溝5cの開始位置に剥離起点Pを形成する。例えば、起点形成制御部110fは、メッキ層5の厚さを示す厚さ情報を取得していてよい。また、起点形成制御部110fは、案内溝5cの開始位置である基準位置の情報を取得していてよい。
【0050】
起点形成制御部110fは、刃物161の先端が径方向においてメッキ層5の表面と下地層2との間に位置し、刃物161の先端が軸方向において筒状部10aのメッキ層5の端面10a1から離間するように、起点形成装置160の位置を制御する。Z軸方向(径方向の一例)における刃物161の位置(深度)は、取得された厚さ情報とシリンダ10の筒状部10aの位置データとに基づいて、刃物161がシリンダベース1に接触しないように調整される。例えば、刃物161がバラード層3に到達する程度に深度が調整されてもよい。なお、刃物161の深度は、上述の切削刃151の深度と同程度であってもよい。
【0051】
起点形成制御部110fは、回転制御部110bによってシリンダ10の回転が開始された後に、刃物161がメッキ層5の端面10a1に接触するように起点形成装置160の位置を制御する。起点形成制御部110fは、刃物161の深度を移動させることなく、刃物161の軸方向の位置を端面10a1に向けてX軸方向に移動させる。たとえば、起点形成制御部110fは、回転に伴って周方向に移動する案内溝5cの開始位置が刃物161の待機位置に到達するタイミングに合わせて、刃物161が端面10a1に当接するように刃物161を軸方向に沿って移動させる。これにより、メッキ層5に形成された案内溝5cの開始位置に刃物が入り込み、案内溝5cの開始位置の部分が刃物161によって捲り上げられることによって剥離起点Pが形成される。
【0052】
剥離制御部110gは、剥離装置170の動作を制御する。一例の剥離制御部110gは、計測装置130によって計測された端部領域の形状データに基づいて、下地層2から剥離ベラ171を離間させた状態で、周方向における案内溝5cの開始位置からメッキ層5を剥離するように剥離装置170を制御する。例えば、剥離制御部110gは、メッキ層5の厚さを示す厚さ情報を取得していてよい。また、剥離制御部110gは、案内溝5cの開始位置である基準位置の情報を取得していてよい。
【0053】
剥離制御部110gは、剥離ベラ171が径方向(Z軸方向)において捲り上がったメッキ層5と下地層2との間に位置するとともに、剥離ベラ171が軸方向(X軸方向)において端面10a1から離間するように、剥離装置170の位置を制御する。剥離制御部110gは、回転制御部110bによってシリンダ10の回転が開始した後に、案内溝5cと同じピッチで剥離ベラ171が軸方向に移動するように、剥離装置170の位置を制御する。これにより、剥離ベラ171が案内溝5cに沿って移動することで、剥離ベラ171によってメッキ層5が順次剥離される。剥離制御部110gは、計測装置130によって計測された形状データとメッキ層5の厚さ情報とに基づいて、剥離ベラ171が下地層2に接触しないように剥離ベラ171の位置を制御していてよい。
【0054】
切削制御部110hは、切削装置180の動作を制御する。一例の切削制御部110hは、計測装置130によって計測された端部領域の形状データに基づいて、湾曲部10c及び端面部10bに残留するメッキ層5を除去するように切削装置180を制御する。
【0055】
研磨制御部110iは、研磨装置190の動作を制御する。一例の研磨制御部110iは、計測装置130によって計測された端部領域の形状データに基づいて、湾曲部10c及び端面部10bに残留するメッキ層5を除去するとともに、湾曲部10c及び端面部10bのバリを除去するように研磨装置190を制御する。
【0056】
図14は、上記除去装置100によって実行される除去方法を示すフロー図である。図14に示すように、この除去方法では、まず、メッキ層5の除去の対象となるシリンダ10が搬送される(搬送工程S1)。一例の除去装置100では、メッキ層5の除去の対象となる使用済の複数のシリンダ10が保管される保管スペースが設けられていてもよい。例えば、保管スペースでは、それぞれのシリンダ10のIDと保管位置とか対応付けられた状態で、シリンダ10が保管されていてよい。搬送工程S1では、ID及び保管位置の情報に基づいて特定されたシリンダ10が搬送用のロボット等によって搬送され、回転装置120にセットされてもよい。
【0057】
続いて、シリンダ10の軸方向の端部領域の形状が計測される(計測工程S2)。計測工程S2では、回転装置120にセットされたシリンダ10が回転した状態で、シリンダ10の軸方向の一方の端部領域の形状が計測装置130によって計測される。すなわち、シリンダ10の軸方向の一方の端部領域の3Dマッピングが実行される。
【0058】
続いて、シリンダ10のメッキ層5に案内溝5cが形成される(溝形成工程S3)。溝形成工程S3では、回転装置120によって回転するシリンダ10の表面を溝形成装置140が軸方向に移動することで、メッキ層5に螺旋状の案内溝5cが形成される。
【0059】
続いて、案内溝5cが形成されたシリンダ10の筒状部10aのメッキ層5において、軸方向の端面10a1が露出される(端部切削工程S4)。端部切削工程S4(露出工程)では、計測工程S2で計測されたシリンダ10の端部領域の形状に基づいて、端部切削装置150の切削刃151の位置が制御される。
【0060】
続いて、露出したメッキ層5の端面10a1に剥離起点Pが形成される(起点形成工程S5)。起点形成工程S5では、シリンダ10の端部領域の形状、及び、案内溝5cの開始位置の位置情報に基づいて、起点形成装置160の刃物161が軸方向に沿って端面10a1に突き当たることにより、案内溝5cの開始位置が捲り上げられて剥離起点Pが形成される。
【0061】
続いて、起点形成工程S5で形成された剥離起点Pから剥離装置170によってメッキ層5が順次剥離される(剥離工程S6)。剥離工程S6では、シリンダ10の端部領域の形状に基づいて、剥離装置170の剥離ベラ171が案内溝5cに沿って移動することで、メッキ層5が順次剥離される。この際、メッキ層5の厚さ情報に基づいて、剥離ベラ171の位置は、下地層2に当接しないように制御される。
【0062】
続いて、湾曲部10c及び端面部10bに残留するメッキ層5が切削装置180によって除去され(切削工程S7)、湾曲部10c及び端面部10bに残留するメッキ層5及びバリが研磨装置190によって除去される(研磨工程S8)。
【0063】
以上説明のとおり、一例の除去装置100は、筒状をなすシリンダベース1、シリンダベース1の外表面に形成された下地層2、下地層2よりも外側に形成されたメッキ層5、及び、下地層2とメッキ層5の界面をなすバラード層3、を備えるシリンダ10のメッキ層5を除去するための装置である。除去装置100は、シリンダ10の軸方向の端部領域の形状を計測する計測装置130と、シリンダ10のメッキ層5に案内溝5cを形成する溝形成装置140と、案内溝5cが形成された筒状部10aのメッキ層5の端面10a1を露出させる端部切削装置150と、露出したメッキ層5の端面10a1に剥離起点Pを形成する起点形成装置160と、を備える。少なくとも、端部切削装置150は、計測装置130で計測されたシリンダ10の端部領域の形状データに基づいて、端面10a1に沿うように移動制御される。
【0064】
上記除去装置100では、溝形成装置140によってメッキ層5に案内溝5cが形成された後に、端部切削装置150によってメッキ層5の端面を露出させる、そして、起点形成装置160によって、露出した端面10a1に剥離起点Pを形成することができるので、剥離起点Pからメッキ層5を順次剥離することが可能となる。メッキ層5の端面10a1を露出させる端部切削装置150は、計測されたシリンダ10の端部の形状に基づいて、端部に沿うように移動する。すなわち、シリンダ10の端部の形状が変形している場合であっても、変形した端部形状に沿って端部切削装置150が移動されるため、一連の工程を自動制御することができる。
【0065】
一例のシリンダベース1は、筒状をなす筒状部10aと、筒状部10aの両端に形成され、軸方向の端縁に向かって外径が小さくなる湾曲部10cと、を有し得る。端部切削装置150は、湾曲部10cに形成されたメッキ層5を切削し得る。この構成では、湾曲部10cのメッキ層5が切削されることにより、筒状部10aのメッキ層5の端面10a1が露出される。筒状部10aを切削しないため、筒状部10aが損傷する虞がない。
【0066】
一例の案内溝5cは、軸方向に所定のピッチを有する螺旋状をなしていてよい。起点形成装置160は、計測装置130で計測された端部領域の形状データに基づいて、周方向における案内溝5cの開始位置に剥離起点Pを形成してよい。この構成では、案内溝5cの開始位置に剥離起点Pが形成されるため、剥離起点Pからメッキ層5が順次剥離されることで、メッキ層5がシリンダに残留することが抑制される。
【0067】
除去装置100は、剥離起点Pからメッキ層5を順次剥離する剥離ベラ171を有する剥離装置170をさらに備え得る。剥離装置170は、計測装置130で計測された端部領域の形状データに基づいて、下地層2から剥離ベラ171を離間させた状態で周方向における案内溝5cの開始位置からメッキ層5を剥離し得る。この構成では、剥離装置170によって下地層2が損傷することが抑制される。
【0068】
一例の溝形成装置140は、筒状をなすシリンダ10の表面に案内溝5cを形成する。溝形成装置140は、表面に当接した状態でシリンダ10の周方向に相対的に移動するローラ142と、ローラ142を回転可能に保持する保持機構143と、ローラ142が表面の形状に追従して表面に当接するように、保持機構143をシリンダ10に向けて付勢する付勢機構145と、保持機構143に接続され、ローラ142の位置を基準として切削深度を変更可能な切削刃146と、を備える。この構成では、表面からの深度が一定である案内溝5cを形成することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0070】
例えば、起点形成装置160は、刃物161に加わる負荷を計測するセンサを有していてもよい。この構成では、センサによる計測結果に基づいて、起点形成装置160の動作制御がなされてもよい。例えば、センサによる計測値が所定の値以上であるときに、起点形成装置の動作が停止されてもよい。
【0071】
例えば、剥離装置170は、剥離ベラ171に加わる負荷を計測するセンサを有していてもよい。この構成では、センサによる計測結果に基づいて、剥離装置170の動作制御がなされてもよい。例えば、センサによる計測波形に基づいて、メッキ層が切断されたか否かの判定を行い、切断された場合には剥離装置170の動作が停止されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…シリンダベース、2…下地層、5…メッキ層、3…バラード層、10…シリンダ、100…除去装置、130…計測装置(計測部)、140…溝形成装置(溝形成部)、150…端部切削装置(切削部)、160…起点形成装置(起点形成部)、170…剥離装置(剥離部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14