(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000976
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】傾斜圧延方法および継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 19/06 20060101AFI20231226BHJP
B21B 17/02 20060101ALI20231226BHJP
B21B 19/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B21B19/06 Z
B21B17/02 Z
B21B19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095578
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022099503
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊輔
(57)【要約】
【課題】被圧延材の表面欠陥に基づく外面疵を抑制する傾斜圧延方法および継目無鋼管の製造方法を提供すること。
【解決手段】被圧延材1Aから中空素管2Aを得る傾斜圧延方法であり、
以下の式(1)および式(2)を満たす、傾斜圧延方法。
0.87×D≦G≦0.97×D ・・・式(1)
0.49×G≦L≦0.92×G ・・・式(2)
ここで、式(1)、式(2)において、
D(mm):被圧延材の管軸方向垂直断面の外径、
G(mm):被圧延材を挟圧する一対の圧延ロールのロール間隔、
L(mm):ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面から被圧延材内に挿入されるプラグの先端部までの長さ、である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材から中空素管を得る傾斜圧延方法であり、
以下の式(1)および式(2)を満たす、傾斜圧延方法。
0.87×D≦G≦0.97×D ・・・式(1)
0.49×G≦L≦0.92×G ・・・式(2)
ここで、式(1)、式(2)において、
D(mm):被圧延材の管軸方向垂直断面の外径、
G(mm):被圧延材を挟圧する一対の圧延ロールのロール間隔、
L(mm):ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面から被圧延材内に挿入されるプラグの先端部までの長さ、である。
【請求項2】
傾斜圧延の際に前記被圧延材の外表面に付与される円周方向へのせん断ひずみが形成される速度であるひずみ速度が、0.25sec-1以上0.41sec-1以下を満たす、請求項1に記載の傾斜圧延方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の傾斜圧延方法を用いて継目無鋼管を製造する、継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造過程で行われる傾斜圧延方法の技術に関する。具体的には、表面欠陥を有するビレットや中空素管を、継目無鋼管の製造ラインに設置されている傾斜圧延機であるピアサー、エロンゲーター等で圧延したときに発生する外面疵を抑制する圧延方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造では、まず、ビレットを回転炉で加熱した後、ピアサーにて穿孔を施し、素管を得る。その後、マンドレルミル、エロンゲーター、プラグミル等で素管を延伸圧延することで素管肉厚を減じる。減肉された素管を再加熱炉で加熱した後、ホットストレッチレデューサー、サイザー等によって所定の外径に定径圧延をすることで継目無鋼管が製造される。
【0003】
上記のピアサー、エロンゲーターは、回転軸が互いに傾斜している2個の樽型ロールもしくはコーン型ロールのロール間に位置するプラグによって被圧延材となるビレット、中空素管を圧延するミルである。また、ガイドシューが、圧延時に被圧延材が振れ回るのを防ぐために設置されている。
被圧延材は、上記の樽型ロールもしくはコーン型ロールに噛みこむことで縮径され、円周方向にねじれながら圧延方向に前進する。被圧延材は、圧延方向に前進すると樽型ロールもしくはコーン型ロールとプラグによって圧延される。この圧延時において、被圧延材は円周方向と圧延方向の両方向に延伸させられるため、非常に複雑な変形を受ける。
【0004】
継目無鋼管では外面疵が形成されることがあり、この外面疵は歩留まり低下の原因となるため、軽減、抑制することが望ましい。継目無鋼管における外面疵には様々な原因がある。具体的には、ロールやプラグなどの工具表面に付着している焼付きによる引っかきに基づく外面疵、圧延中の延性破壊などの圧延条件に基づく外面疵、加熱炉での不適切な加熱等に基づく材質劣化からの外面疵、ビレット等の被圧延材表面の初期欠陥などの材料起因の欠陥(以下、単に表面欠陥とも記す。)による外面疵が挙げられる。
【0005】
以上から、継目無鋼管の外面疵を軽減、抑制するための技術が検討されている。例えば、特許文献1には、C:0.15質量%以下、Mn:0.30~0.60質量%、Si:0.20~1.0質量%、Cr:8.0~10.0質量%、Mo:0.85~1.10質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる素材を、種々の圧延機を備えたマンドレル方式の圧延工程で継目無鋼管とする。その際、各圧延機での圧延時に、素材の歪速度を当該圧延機における圧延温度に応じて一定範囲内に制御することで外面疵を抑制する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、傾斜圧延中の素管とプラグの圧延方向、円周方向の接触弧長をある一定の範囲内に制御し、素管の円周方向への過度な広がりを抑制することで、素管がガイドシューに過剰に接触することにより発生する焼付きを防ぎ外面疵を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-131688号公報
【特許文献2】特開平10-058014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1、2などに開示されている従来技術では、回転炉で加熱中にビルドアップしたスケールや、スポーリングした炉床レンガが押し込まれることによって形成される表面欠陥を有するビレット、中空素管を圧延することで発生する外面疵を抑制したり、軽減したりすることができないという問題があった。
【0009】
上記のような問題点を鑑みてなされた本発明の目的は、被圧延材の表面欠陥に基づく外面疵を抑制することができる傾斜圧延方法および継目無鋼管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、被圧延材(ビレット、素管)の表面欠陥起因の外面疵が残存する原因を調査した結果、この表面欠陥がピアサーやエロンゲーター等の傾斜圧延機が付与する過大な円周方向せん断変形を受けることにより、被圧延材の円周方向、肉厚方向に欠陥が延伸することを見出した。
そこで、本発明者らは、ピアサー、エロンゲーター等による圧延中に発生するひずみを抑制することで、その後に得られる継目無鋼管において、被圧延材の表面欠陥起因の外面疵を軽減したり、抑制したりすることが可能であると考えた。圧延中のひずみを抑制することで、表面欠陥は素管の円周方向、肉厚方向に延伸することがなくなるためである。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は以下の通りである。
[1]被圧延材から中空素管を得る傾斜圧延方法であり、
以下の式(1)および式(2)を満たす、傾斜圧延方法。
0.87×D≦G≦0.97×D ・・・式(1)
0.49×G≦L≦0.92×G ・・・式(2)
ここで、式(1)、式(2)において、
D(mm):被圧延材の管軸方向垂直断面の外径、
G(mm):被圧延材を挟圧する一対の圧延ロールのロール間隔、
L(mm):ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面から被圧延材内に挿入されるプラグの先端部までの長さ、である。
[2]傾斜圧延の際に前記被圧延材の外表面に付与される円周方向へのせん断ひずみが形成される速度であるひずみ速度が、0.25sec-1以上0.41sec-1以下を満たす、前記[1]に記載の傾斜圧延方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の傾斜圧延方法を用いて継目無鋼管を製造する、継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被圧延材の表面欠陥に起因する外面疵を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】継目無鋼管の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図2】他の態様の継目無鋼管の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図3】ピアサーを用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例を説明するための図である。
【
図4】エロンゲーターを用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例を説明するための図である。
【
図5】プラグ外径を説明するためのプラグの断面図である。
【
図6】被圧延材に付与した人工欠陥形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0015】
本発明の傾斜圧延方法は、被圧延材(ビレット、素管)から中空素管を得る傾斜圧延方法であり、以下の式(1)および式(2)を満たす、傾斜圧延方法であり、その後に得られる継目無鋼管において、被圧延材の表面欠陥に基づく外面疵が形成されたり、増大したりすることを抑制できる。
0.87×D≦G≦0.97×D ・・・式(1)
0.49×G≦L≦0.92×G ・・・式(2)
ここで、式(1)、式(2)において、
D(mm):被圧延材の管軸方向垂直断面の外径、
G(mm):被圧延材を挟圧する一対の圧延ロールのロール間隔、
L(mm):ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面から被圧延材内に挿入されるプラグの先端部までの長さ(以下、プラグ先進量とも記す。)
【0016】
まず、本発明の傾斜圧延方法の詳細を説明する前に、
図1および
図2を参照しながら、本発明の傾斜圧延方法を適用しうる継目無鋼管の製造方法の例を説明する。
【0017】
図1は、継目無鋼管の製造方法の一例を説明するための図である。
図1に示すように、継目無鋼管を製造する場合、まず、ビレット1Aを回転炉100で加熱した後、ピアサー110で被圧延材(ビレット)1Aに穿孔を施し、素管(中空素管)2Aを得る。
その後、マンドレルミル120で素管2Aを延伸圧延することで素管肉厚を減じる。
減肉された素管を再加熱炉130で加熱した後、ホットストレッチレデューサー140によって定径圧延を施し、所望の外径を有する継目無鋼管3Aが製造される。
【0018】
また、
図2は、
図1とは異なる態様の継目無鋼管の製造方法の一例を説明するための図である。
図2に示すように、継目無鋼管を製造する場合、まず、ビレット1Bを回転炉200で加熱した後、ピアサー210でビレット1Bに穿孔を施し、被圧延材(素管)2Bを得る。
その後、エロンゲーター220、プラグミル230によって、被圧延材(素管)2Bを延伸圧延することで素管肉厚を減じて、リーラ―240によって、被圧延材(素管)2B内外面を滑らかにする。
素管を再加熱炉250で加熱した後、サイザー260によって定径圧延を施し、所望の外径を有する継目無鋼管3Bが製造される。
【0019】
ここで、本発明の傾斜圧延方法は、継目無鋼管の製造方法に適用することができ、以下では、
図1に示すピアサー110を用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例と、
図2に示すエロンゲーター220を用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例とを説明する。但し、本発明の傾斜圧延方法は、これらの例に限定されず、例えば、
図2に示すピアサー210を用いた傾斜圧延方法にも適用し得る(
図1、2中の「*」参照)。
【0020】
図3は、ピアサー110を用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例を説明するための図である。
図3に示すように、ピアサー110は、回転軸が互いに傾斜し、被圧延材(ビレット)1Aを挟圧する一対の圧延ロール11と、対向する圧延ロール11間に配置され、圧延方向に進行する被圧延材1Aを穿孔するプラグ12と、を有するミル(傾斜圧延機)である。また、ピアサー110は、圧延時に被圧延材1Aの軸が移動することを防ぐために、被圧延材1Aの周方向において圧延ロール11間に配置されたガイドシュー(
図3中図示せず)を有していてもよい。
被圧延材1Aは、樽型ロールもしくはコーン型ロールである圧延ロール11に噛みこむことで縮径され、また、円周方向にねじれながら圧延方向に前進し、圧延ロール11とプラグ12によって圧延される。圧延時に被圧延材1Aは、円周方向と圧延方向の両方向に延伸するため非常に複雑な変形を受ける。
【0021】
また、
図4は、エロンゲーター220を用いて本発明の傾斜圧延方法を実施する例を説明するための図である。
図4に示すように、エロンゲーター220は、回転軸が互いに傾斜し、被圧延材(素管)2Bを挟圧する一対の圧延ロール21と、対向する圧延ロール21間に配置され、圧延方向に進行する被圧延材1B内に挿入されるプラグ22と、を有するミル(傾斜圧延機)である。
図4に示す例においても、被圧延材2Bは、樽型ロールもしくはコーン型ロールである圧延ロール21に噛みこむことで縮径され、また、円周方向にねじれながら圧延方向に前進し、圧延ロール21とプラグ22によって圧延される。同様に、圧延時に被圧延材2Bは円周方向と圧延方向の両方向に延伸するため非常に複雑な変形を受ける。
【0022】
これらの傾斜圧延において、本発明では、被圧延材1A、2Bの管軸方向垂直断面の外径D、圧延ロール11、21のロール間隔G、プラグ12、22のプラグ先進量Lについて、以下に示すような式(1)、式(2)で特定する範囲に制御することで、被圧延材1A、2Bに圧延前に表面欠陥が存在していても、得られる継目無鋼管に外面疵が形成されたり、外面疵が増大したりすることを抑制できる。
【0023】
0.87×D≦G≦0.97×D ・・・式(1)
本発明では、被圧延材1A、2Bの外径D(mm)と、ロール間隔G(mm)の関係式として、0.87×D≦G≦0.97×Dを満たすようにする。ロール間隔Gが、0.97×Dを超えると、ロールの被圧延材の拘束力が弱くなり、安定して圧延することができなくなる。一方、ロール間隔Gが0.87×Dを下回ると圧延中に発生するひずみが大きく付与されて、表面欠陥が肉厚方向、円周方向により深く、長くなる。
よって、本発明では、式(1):0.87×D≦G≦0.97×Dを満たすようにする。好ましくは、Gは0.90×D以上である。また、好ましくは、Gは0.95×D以下である。
【0024】
0.49×G≦L≦0.92×G ・・・式(2)
本発明では、上記の式(1)に加えて、ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面から被圧延材内に挿入されるプラグ12、22の先端部までの長さL(mm)(プラグ12、22の先端部におけるロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面に対して突出している長さ(プラグ先進量L(mm))と、ロール間隔G(mm)の関係式として、0.49×G≦L≦0.92×Gを満たすようにする。プラグ先進量Lが、0.92×Gを超えると、被圧延材がロールに噛みこむ前にプラグに当たってしまい圧延ができなくなる。一方、プラグ先進量Lが0.49×Gを下回ると、圧延中に発生するひずみが大きく付与されて、表面欠陥が肉厚方向、円周方向により深くなり、また、長くなる。
よって、本発明では、式(2):0.49×G≦L≦0.92×Gを満たすようにする。好ましくは、Lは0.50×G以上である。また、好ましくは、Lは0.83×G以下である。
【0025】
ここで、本発明でいうロール間隔とは、一対の圧延ロールの距離(最短距離)のことを指す。
すなわち、一対の圧延ロールの間隔を圧延方向(管軸方向)各位置で測定していった際に最小となる間隔のことを指す。
【0026】
また、ロール間隔測定位置の管軸方向垂直断面からプラグ12、22の先端部までの長さ(プラグ先進量)において、ロール間隔測定位置は、一対の圧延ロールの間隔が最小となる位置のことを指す。なお、本発明において、圧延処理中、プラグ12、22は固定されている。また、プラグ12、22の先端部は、圧延時に被圧延材内に最初に挿入される部位である。
【0027】
本発明で対象とする被圧延材は特に限定されないが、外径D:58~360mm、管長250~8000mmとすることが好ましい。
また、被圧延材の成分組成も特に限定されないが、SUS420J2等の高合金鋼とすることが好ましい。
【0028】
本発明では、プラグの形状、サイズは特に限定されないが、プラグ外径Eと被圧延材の管軸方向垂直外径Dとが、0.69×D≦E≦0.78×Dを満たすことが好ましい。
図5はプラグの断面図である。プラグ形状は特に限定されないが、プラグは断面が三角形となるような円錐形状とすることができ、プラグ外径Eは、プラグ後端部の直径のことを指す。
【0029】
ピアサー110により、被圧延材(ビレット)1Aに穿孔圧延を施す場合には、上記式(1)について、Gは、0.87×D以上、0.97×D以下であり、0.90×D以上であることが好ましい。また、Gは、0.95×D以下であることが好ましい。
また、このとき、上記式(2)について、Lは、0.49×G以上、0.92×G以下であり、0.50×G以上であることが好ましい。また、Lは0.83×G以下であることがより好ましい。
【0030】
また、エロンゲーター220により、被圧延材(素管2B)に延伸圧延を施す場合には、上記式(1)について、Gは、0.87×D以上、0.97×D以下であり、0.91×D以上であることが好ましく、0.93×D以上であることがより好ましい。また、Gは、0.95×D以下であることが好ましく、0.94×D以下であることがより好ましい。
また、このとき、上記式(2)について、Lは、0.49×G以上、0.92×G以下であり、0.50×G以上であることが好ましく、0.51×G以上であることがより好ましい。また、Lは、0.89×G以下であることが好ましく、0.84×G以下であることがより好ましい。
【0031】
傾斜圧延の際のひずみ速度:0.25sec-1以上0.41sec-1以下
本発明では、傾斜圧延の際のひずみ速度が0.25sec-1以上0.41sec-1以下を満たすように圧延条件を設定することが好ましい。
ここで、ひずみ速度とは、傾斜圧延の際に被圧延材の外表面に付与される円周方向へのせん断ひずみが形成される速度を表す。
円周方向へのせん断ひずみについては、FEMによって被圧延材の外表面に発生する円周方向へのせん断ひずみを算出し、ひずみ速度(sec-1)は、ひずみ/傾斜圧延時間(sec)によって得られる。
ひずみ速度が0.25sec-1を下回ると圧延が完了する時間が遅くなり、圧延終了時には得られる素管2A、2Bの温度が下がり、次の圧延プロセスにおいて噛みこみ不良などが発生する場合がある。また、ひずみ速度が0.41sec-1を超えると、ビレット表面欠陥が圧延によって深く、長くなる場合がある。よって、傾斜圧延の際のひずみ速度は、0.25sec-1以上0.41sec-1以下であることが好ましい。
より好ましくは、0.27sec-1以上0.38sec-1以下である。さらに、好ましくは、0.29sec-1以上0.32sec-1以下である。
【0032】
以上、本発明の傾斜圧延方法によれば、被圧延材の表面欠陥に起因する外面疵が継目無鋼管に形成されることを抑制できる。
また、本発明では、この傾斜圧延方法を用いて継目無鋼管を製造する、継目無鋼管の製造方法も提供される。
【実施例0033】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
図6は、被圧延材に付与したV字型の人工欠陥形状を説明するための図である。
図6に示すV字型の欠陥(人工欠陥)(深さ2.5mm、角度28°)を付与した鋼種規格SUS420J2のビレット(外径D:58mm)または中空素管(D:58mm×肉厚t:19.5mm)を被圧延材とした。
ビレットについては、1200℃で加熱し、
図3に示すピアサーを用い、表1に示す条件で圧延した。また、中空素管については、
図4に示すエロンゲーターを用い表1に示す条件で圧延した。プラグ外径は、
図3に示すピアサーでは、45mmとし、
図4に示すエロンゲーターでは、43mmとした。
【0034】
ひずみ速度とは、傾斜圧延の際に被圧延材の外表面に付与される円周方向へのせん断ひずみが形成される速度を表す。
円周方向へのせん断ひずみについては、FEMによって被圧延材の外表面に発生する円周方向へのせん断ひずみを算出し、ひずみ速度(sec-1)は、ひずみ/傾斜圧延時間(sec)から算出した。
【0035】
圧延された中空素管の長手方向の中央部の管軸方向垂直断面(円周断面)を観察することで
図7に示すような欠陥(人工欠陥)の欠陥長さ、欠陥深さを調査した。
ここで、欠陥長さとは、疵の開口部(外周面端部の点a、点bのうち疵の先端(最奥部)からより離れた位置に存在する点a)から疵の先端(最奥部)までの長さ(管軸方向垂直断面における疵の最長長さ)のことを指す。
また、欠陥深さとは、
図7に示すように、上記欠陥長さを有する線を斜辺とする直角三角形のうち、点a、点bの中点から中空素管の管軸方向垂直断面円中心に向かう線に平行な線を一辺とする直角三角形における該一辺の長さのことを指す。
これらの欠陥長さ、欠陥深さは、いずれも管軸方向垂直断面を切断面とするように切断したサンプルを光学顕微鏡で観察することで測定することができる。
さらに、圧延によって付与された円周方向せん断ひずみは有限要素法によって評価した。
また、有限要素法では解析の安定化のために外径D:58mm×肉厚t:19.5mmの中空素管を被圧延材とした。なお、表1中、ビレットを被圧延材としたNo.1、2、3、8、9、10、13、15、16についても、有限要素法での解析においては、被圧延材は中空素管として解析した。
【0036】
欠陥長さ(人工欠陥長さ)が3.0mm以下であり、且つ欠陥深さが2.0mm以下であるものを浅い疵とし、円周方向せん断ひずみは0.40以下で抑制されるとした。
その結果を表1に示す。
表1から、本発明例では、被圧延材に表面欠陥が形成されていても外面疵を抑制できることを確認できた。
本発明例では、圧延条件を適正化することで、肉厚方向で圧縮する方向にひずみが発生し、圧延後の中空素管の欠陥深さは、被圧延材に付与した欠陥深さ(2.5mm)よりも小さくなった。
【0037】