(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097604
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】状態推定装置、及び状態推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240711BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001174
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】矢田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓久
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁崇
(72)【発明者】
【氏名】東 智明
(72)【発明者】
【氏名】大澤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】黒田 訓行
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 匠
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊彦
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】 検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を適切に推定できる状態推定装置、及び状態推定方法を提供する。
【解決手段】 状態推定装置10が、録音対象機器の発生音の第1録音データと、録音対象機器の発生音の録音時点における録音対象機器の状態を示す状態データと、が蓄積されたデータベースサーバ11から、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを取得する第1取得部33と、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する特定部35と、検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを、複数の検査時点のそれぞれについて取得する第2取得部36と、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データと、対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を推定する推定部38と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
録音対象機器の発生音の第1録音データと、前記録音対象機器の発生音の録音時点における前記録音対象機器の状態を示す状態データと、が蓄積された記憶装置から、複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データ及び前記状態データを取得する第1取得部と、
前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データ及び前記状態データに基づいて、前記録音対象機器の発生音の変化と前記録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する特定部と、
検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを、複数の検査時点のそれぞれについて取得する第2取得部と、
前記複数の検査時点のそれぞれにおける前記第2録音データと、前記対応関係とに基づいて、前記検査対象機器の状態の変化を推定する推定部と、を備える状態推定装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記対応関係を特定するために、前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データ及び前記状態データを用いた機械学習を実施し、
前記機械学習により、前記検査対象機器の発生音の変化から前記検査対象機器の状態の変化を推定するための推定モデルが構築される、請求項1に記載の状態推定装置。
【請求項3】
前記検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報を、ユーザに対して提示する提示部を備え、
前記支援情報は、前記検査対象機器に応じて生成された情報である、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項4】
前記提示部は、前記ユーザが前記検査対象機器の発生音の録音に使用する機器に備わる表示画面に、前記支援情報を表示させる、請求項3に記載の状態推定装置。
【請求項5】
前記録音対象機器が配置された第1環境の音を前記録音対象機器の発生音が発生していない時点に録音することで得られる第1環境音データに基づき、前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データを、前記第1録音データが示す前記録音対象機器の発生音から前記第1環境の音が除去されるように補正する第1補正部を備え、
前記特定部は、補正された前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データと、前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記状態データとに基づいて、前記対応関係を特定する、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項6】
前記検査対象機器が配置された第2環境の音を前記検査対象機器の発生音が発生していない時点に録音することで得られる第2環境音データに基づき、前記複数の検査時点のそれぞれにおける前記第2録音データを、前記第2録音データが示す前記検査対象機器の発生音から前記第2環境の音が除去されるように補正する第2補正部を備え、
前記推定部は、補正された前記複数の検査時点のそれぞれにおける前記第2録音データから特定される前記検査対象機器の発生音の変化と、前記対応関係とに基づき、前記検査対象機器の状態の変化を推定する、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記検査対象機器と同じ種別である前記録音対象機器の前記第1録音データ及び前記状態データに基づいて特定された前記対応関係を用いて、前記検査対象機器の状態の変化を推定する、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項8】
ユーザが建物内の機器の中から前記検査対象機器を指定するために行う指定操作を受け付け、該指定操作に基づいて前記検査対象機器を設定する設定部をさらに備える、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項9】
前記複数の録音時点における前記第1録音データ及び前記状態データには、前記録音対象機器の状態が正常である録音時点における前記第1録音データ及び前記状態データと、前記録音対象機器の状態が異常である録音時点における前記第1録音データ及び前記状態データとが含まれる、請求項1又は2に記載の状態推定装置。
【請求項10】
プロセッサが、
録音対象機器の発生音の第1録音データと、前記録音対象機器の発生音の録音時点における前記録音対象機器の状態を示す状態データと、が蓄積された記憶装置から、複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データ及び前記状態データを取得する処理と、
前記複数の録音時点のそれぞれにおける前記第1録音データ及び前記状態データに基づいて、前記録音対象機器の発生音の変化と前記録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する処理と、
検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを、複数の検査時点のそれぞれについて取得する処理と、
前記複数の検査時点のそれぞれにおける前記第2録音データと、前記対応関係とに基づいて、前記検査対象機器の状態の変化を推定する処理と、を実行する状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の状態を推定する状態推定装置及び状態推定方法に係り、特に、機器の発生音に基づいて当該機器の状態を推定する状態推定装置及び状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の発生音を録音し、その録音データを解析して当該機器の状態、例えば異常状態であるか否かを判定することは、機器を利用する様々な分野で既に行われている。例えば、特許文献1には、電動機の関連箇所の音を収音し、収音した音に基づいて電動機の状態を解析し、状態の解析結果に基づいて電動機の異常を診断する診断プログラムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機器に異常が発生してしまうと、機器を利用した生活又は事業に支障をきたすため、機器の状態について定期的な検査を行い、具体的には、機器の発生音の変化から、その機器の異常の兆候を把握することが求められる。
【0005】
一方、これまでの機器検査では、機器の発生音を適切に録音するための技能(スキル)、及び発生音から機器の状態を推定するための専門知識を必要とし、そのため、専門業者に機器検査を依頼するケースがあった。ただし、専門業者に機器検査を頻繁に依頼することは一般的に難しい。しかし、機器検査の実施間隔が長くなってしまうと、その機器の状態の変化に気付きにくく、例えば、前回の検査から長期間が経過した時点で検査を行った場合、その時点で既に機器の劣化や変状が相当進行している虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を適切に推定できる状態推定装置、及び状態推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、本発明の状態推定装置によれば、録音対象機器の発生音の第1録音データと、録音対象機器の発生音の録音時点における録音対象機器の状態を示す状態データと、が蓄積された記憶装置から、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを取得する第1取得部と、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する特定部と、検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを、複数の検査時点のそれぞれについて取得する第2取得部と、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データと、上記の対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を推定する推定部と、を備えることにより解決される。
【0008】
上記のように構成された本発明の状態推定装置では、録音対象機器の発生音の録音データと録音時の状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係が特定される。また、検査対象機器の発生音の録音データを定期的に取得し、各検査時点における検査対象機器の発生音の録音データと、上記の対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を適切に推定することができる。
【0009】
また、本発明の状態推定装置は、特定部は、上記の対応関係を特定するために、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを用いた機械学習を実施してもよい。また、機械学習により、検査対象機器の発生音の変化から検査対象機器の状態の変化を推定するための推定モデルが構築されるとよい。
上記の構成であれば、機械学習によって構築された推定モデルを用いることにより、検査対象機器の状態を精度よく推定することができる。
【0010】
また、本発明の状態推定装置は、検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報を、ユーザに対して提示する提示部を備えてもよい。この場合、支援情報は、検査対象機器に応じて生成された情報であるとよい。
上記の構成であれば、検査対象機器の発生音の録音を、専門的な知識がなくとも適切に行うことができる。
【0011】
また、上記の構成において、提示部は、ユーザが検査対象機器の発生音の録音に使用する機器に備わる表示画面に、支援情報を表示させると好適である。
上記の構成であれば、ユーザが発生音の録音時に支援情報を容易に確認することができる。
【0012】
また、本発明の状態推定装置は、録音対象機器が配置された第1環境の音を録音対象機器の発生音が発生していない時点に録音することで得られる第1環境音データに基づき、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データを、第1録音データが示す録音対象機器の発生音から第1環境の音が除去されるように補正する第1補正部を備えてもよい。この場合、特定部は、補正された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データと、複数の録音時点のそれぞれにおける状態データとに基づいて、上記の対応関係を特定するとよい。
上記の構成であれば、録音対象機器の発生音の録音データを、録音対象機器が配置された環境の音が除去されるように補正する。このように補正された録音データを用いることで、検査対象機器の状態の推定精度を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の状態推定装置は、検査対象機器が配置された第2環境の音を検査対象機器の発生音が発生していない時点に録音することで得られる第2環境音データに基づき、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データを、第2録音データが示す検査対象機器の発生音から第2環境の音が除去されるように補正する第2補正部を備えてもよい。この場合、推定部は、補正された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから特定される検査対象機器の発生音の変化と、上記の対応関係とに基づき、検査対象機器の状態の変化を推定するとよい。
上記の構成であれば、検査対象機器の発生音の録音データを、検査対象機器が配置された環境の音が除去されるように補正する。このように補正された録音データを用いることで、検査対象機器の状態の推定精度を向上させることができる。
【0014】
また、推定部は、検査対象機器と同じ種別である録音対象機器の第1録音データ及び状態データに基づいて特定された対応関係を用いて、検査対象機器の状態の変化を推定してもよい。
上記の構成であれば、検査対象機器と同じ種別である録音対象機器の発生音の録音データ及び状態データを活用して、検査対象機器の状態の変化を適切に推定することができる。
【0015】
また、本発明の状態推定装置は、ユーザが建物内に設置された複数の機器の中から検査対象機器を指定するために行う指定操作を受け付け、指定操作に基づいて検査対象機器を設定する設定部をさらに備えてもよい。
上記の構成であれば、建物内の機器のうち、ユーザが指定した機器を検査対象機器として当該機器の状態の変化が推定される。これにより、ユーザは、検査対象機器として指定した機器の状態の変化を適切に把握することができる。
【0016】
また、複数の録音時点における第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれるとよい。
上記の構成であれば、検査対象機器の状態の変化を推定するのに必要な、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を適切に特定することができる。
【0017】
また、前述した課題は、本発明の状態推定方法により解決される。本発明の状態推定方法では、プロセッサが、録音対象機器の発生音の第1録音データと、録音対象機器の発生音の録音時点における録音対象機器の状態を示す状態データと、が蓄積された記憶装置から、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを取得する処理と、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する処理と、検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを、複数の検査時点のそれぞれについて取得する処理と、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データと、対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を推定する処理と、を実行する。
本発明の状態推定方法によれば、検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、当該機器の状態の変化を適切に推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、当該機器の状態の変化を適切に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明の一つの実施形態に係る状態推定装置を含む機器検査用システムの構成を示す図である。
【
図3】本発明の一つの実施形態に係る状態推定装置の機能についての説明図である。
【
図4】録音ガイダンスの一例を示す図である(その1)。
【
図5】録音ガイダンスの一例を示す図である(その2)。
【
図6】検査対象機器の状態の変化についての推定結果が出力された画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一つの実施形態(以下、本実施形態)について、添付の図面を参照しながら説明する。
なお、以下の実施形態では、「住宅」を建物の一例として挙げているが、本発明は、住宅以外の建物、例えば、事務所、店舗、病院又は学校等の施設、工場内の建屋等、様々な用途の建物において実施可能である。
【0021】
また、本明細書において、「装置」という概念には、特定の機能を一台で発揮する単一の装置が含まれるとともに、分散してそれぞれが独立して存在しつつも協働(連携)して特定の機能を発揮する複数の装置の組み合わせも含まれることとする。
【0022】
また、本実施形態の内容を実現するための基礎的なデータ処理技術(通信/伝送技術、データ取得技術、データ記録技術、データ加工/解析技術、画像処理技術、及び可視化技術等)は、公知の技術であるため、それに関する説明については省略することとする。
【0023】
<<本実施形態に係る機器検査の概要>>
先ず、本実施形態に係る機器検査について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、機器検査についての説明図である。
本実施形態に係る機器検査は、
図1に示すように住宅H内で利用される機器を対象として実施される。検査対象機器は、住宅付属の設備機器のうち、音を発生させながら作動する機器であり、例えば、トイレ、キッチン、換気扇、食洗器、浴室乾燥機、電気温水器、自家発電機、及び、その他の一般的な電気機器(具体的には、冷蔵庫及びエアコン等)が挙げられる。
【0024】
機器検査では、本発明の状態推定装置及び状態推定方法を利用して、検査対象機器の発生音から当該機器の状態を診断する。機器検査は、住宅H内の機器を検査対象機器として定期的に実施される。具体的に説明すると、ユーザは、住宅H内の機器から検査対象機器を指定し、その機器の発生音を録音し、その録音データに基づいて検査対象機器の状態の良否が診断される。機器の発生音は、機器が作動したときに機器から発生する音であり、例えば、機器がトイレである場合には排水音が発生音に該当する。
ここで、「ユーザ」とは、本発明の状態推定装置の機能を活用して機器検査を実施する者であり、具体的には、検査対象機器が設置された住宅の居住者、あるいは住宅のオーナー等である。
【0025】
以上のように、本実施形態では、ユーザが録音する検査対象機器の発生音から、検査対象機器の状態の良否が診断される。換言すると、本実施形態の機器検査は、ユーザによる点検(セルフモニタリング)であり、専門業者に依頼することなく、ユーザが自ら実施することができる。これにより、ユーザは、検査対象機器について定期的な機器検査、すなわち定点観察を実施することができる。
なお、住宅内における検査対象機器の数は、1台でもよく、あるいは2台以上でもよい。以下では、説明を分かり易くする理由から、住宅H内の検査対象機器が1台である場合を想定して説明することとする。
【0026】
本実施形態では、機器検査の実施にあたり、機器検査に必要なデータの収集が実施され、収集されたデータがデータベースとして蓄積される。具体的には、
図1に示すように、例えば機器検査が行われる住宅H以外の住宅Iにおいて、録音対象機器の発生音の録音データと、録音対象機器の状態データが収集される。録音対象機器は、検査対象機器と同様、住宅付属の設備機器のうち、音を発生させながら作動する機器であり、例えば、トイレ、キッチン、換気扇、食洗器、浴室乾燥機、電気温水器、自家発電機、及び、その他の一般的な電気機器(具体的には、冷蔵庫及びエアコン等)が挙げられる。また、録音対象機器と検査対象機器とは、互いに同じ種別の機器であり、例えば、検査対象機器がトイレである場合、対応する録音対象機器は、トイレとなる。
【0027】
録音データは、少なくとも機器の発生音を含み、発生音が発生する前の音、及び、発生音の発生が終了した後の音をさらに含んでもよい。状態データは、録音対象機器の発生音の録音時点における当該録音対象機器の状態を示すデータである。
なお、録音対象機器についての録音データ及び状態データの収集は、機器検査が行われる住宅Hにて行われてもよい。つまり、検査対象機器を録音対象機器として取り扱ってもよく、その機器について収集された録音データ及び状態データをデータベースに蓄積してもよい。
【0028】
録音対象機器の発生音は、録音者によって定期的に録音され、その録音データが録音対象機器と関連付けてデータベースに蓄積される。録音者とは、例えば、録音対象機器の利用者であり、具体的には、
図1に示すように録音対象機器が設置された住宅Iの居住者又はオーナー等である。また、録音データ提供のインセンティブとして、録音データを提供した録音者に対しては、日常生活で利用できる有価ポイント等のような恩恵や特典を付与してもよい。
なお、以下では、録音対象機器の発生音の録音データを第1録音データと呼ぶこととし、検査対象機器の発生音の録音データを第2録音データと呼ぶこととする。
【0029】
録音対象機器の状態は、録音対象機器の発生音の録音時点での当該機器の状態であり、例えば録音者又は検査者等によって特定される。検査者とは、録音者の住宅に出向いて録音対象機器の検査を行う者、具体的には専門業者等である。
録音対象機器の発生音が録音されている間、録音対象機器が正常に動作していれば、録音者は、録音対象機器の状態を正常と特定する。他方、録音対象機器の発生音が録音されている間、録音対象機器が正常に動作しない場合には、検査者が録音対象機器を検査し、機器に不具合が見つかれば、録音対象機器の状態を異常と判断し、また、異常の原因を特定する。そして、特定された録音対象機器の状態データ、すなわち、録音対象機器の発生音の録音時点における録音対象機器の状態を示すデータが、録音対象機器と関連付けてデータベースに蓄積される。
【0030】
第1録音データ及び状態データは、録音対象機器毎に収集され、録音対象機器毎にデータベースに蓄積される。また、本実施形態では、各録音対象機器について発生音の録音が複数の録音時点にて行われ、例えば、所定の録音周期にて行われる。そのため、各録音対象機器について、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データが取得される。また、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれる。
【0031】
そして、本実施形態では、データベースに蓄積された第1録音データ及び状態データを利用し、検査対象機器の状態の良否を診断する。より詳しく説明すると、本実施形態では、検査対象機器の検査用に当該機器の発生音を所定の周期にて定期的に行う。すなわち、検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを複数の検査時点のそれぞれにおいて取得する。複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データからは、検査対象機器の発生音の変化が特定できる。発生音の変化とは、発生音の特徴の時間変化であり、より詳しくは、住宅の竣工時点等のような過去の一時点からの経時変化である。すなわち、発生音の変化は、発生音の特徴の変化傾向(厳密には、過去の一時点からの差異)を意味する。なお、発生音の特徴とは、発生音を特徴づける音の指標値又は音響的特性(性質)であり、例えば、ピーク周波数の音圧又は周波数スペクトル等である。
【0032】
また、本実施形態では、
図1に示すように、データベースに蓄積された第1録音データ及び状態データを利用して機械学習が実施され、その学習結果として、推定モデルが構築される。推定モデルは、検査対象機器の発生音の変化から検査対象機器の状態の変化を推定するための数理モデルである。ここで、機器の状態の変化とは、機器の状態の良否の時間変化であり、より詳しくは、住宅の竣工時点等のような過去の一時点からの変化度合いである。すなわち、機器の状態の変化は、状態の変化傾向、分かり易くは、機器の劣化や変状の進行度合い(具体的には、過去の一時点からの差異)を意味する。
なお、検査対象機器の状態には、検査項目の内容が含まれ、例えば、検査対象機器がトイレである場合には、詰まりの有無等が含まれる。そのため、検査対象機器の状態の変化からは、その機器が異常である場合の原因を特定することができる。
【0033】
そして、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから特定された検査対象機器の発生音の変化を、上記の推定モデルに入力することで、検査対象機器の状態の変化が推定される。その推定結果は、ユーザに対して提示され、具体的には、ユーザが利用する端末(詳しくは、後述のユーザ端末12)の表示画面に表示される。これにより、ユーザは、検査対象機器の状態の良否、厳密には、良否の変化傾向(つまり、状態の変化)を把握することができ、検査対象機器が劣化又は変状する傾向にあったとしても、その兆候を早い段階で気づくことができる。これにより、検査対象機器の劣化や変状に対する対策が比較的簡易な措置で済む一方で、検査対象機器の劣化や変状の進行を適切に抑えることができる。
【0034】
また、第1録音データ及び状態データの収集とデータベースへの蓄積は、逐次且つ継続的に行われる。そして、新たなデータが蓄積されることに伴って、上記の機械学習を繰り返し実行し、機械学習の結果としての推定モデルを更新する。これにより、推定モデルを用いた機器状態の推定の精度が向上し、以降は、更新された推定モデルを用いて、検査対象機器の発生音の変化から当該機器の状態の変化を推定することができる。
【0035】
<<機器検査用システムの構成について>>
次に、ユーザが上述の機器検査を実施する際に利用される機器検査用システムSについて、
図2を参照しながら説明する。
機器検査用システムSは、
図2に示すように、状態推定装置10と、記憶装置としてのデータベースサーバ11と、ユーザが利用するユーザ端末12と、録音者が利用する録音者端末13とによって構成される。なお、
図2では、ユーザ端末12の台数が1台となっているが、実際には、ユーザの人数に応じた台数のユーザ端末12が存在する。
【0036】
状態推定装置10は、コンピュータからなり、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション又はサーバコンピュータ等によって構成される。状態推定装置10は、1台のコンピュータによって構成されてもよく、あるいは並列分散された複数台のコンピュータによって構成されてもよい。また、状態推定装置10を構成するコンピュータがサーバコンピュータである場合、ASP(Application Service Provider)、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)又はIaaS(Infrastructure as a Service)用のサーバコンピュータであってもよい。この場合、クライアント端末にて必要な情報を入力すると、上記のサーバコンピュータが入力情報に基づいて各種の処理(演算)を実施し、その演算結果がクライアント端末側で出力される。つまり、状態推定装置10であるサーバコンピュータの機能をクライアント端末側で利用することができる。
【0037】
状態推定装置10を構成するコンピュータは、
図2に示すように、プロセッサ21、メモリ22、ストレージ23、通信用インタフェース24、入力装置25及び出力装置26を有する。
【0038】
プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、TPU(Tensor Processing Unit)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成される。
メモリ22は、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリによって構成される。
【0039】
ストレージ23は、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、FD(Flexible Disc)、MOディスク(Magneto-Optical disc)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SDカード(Secure Digital card)、又はUSBメモリ(Universal Serial Bus memory)等によって構成される。なお、ストレージ23は、状態推定装置10を構成するコンピュータ本体内に内蔵されてもよく、外付け形式でコンピュータ本体に取り付けてもよい。
【0040】
通信用インタフェース24は、例えばネットワークインターフェースカード、又は通信インタフェースボード等によって構成されるとよい。状態推定装置10を構成するコンピュータは、通信用インタフェース24を介して、インターネット又はモバイル通信回線等に接続された他の機器とデータ通信することが可能である。
【0041】
入力装置25は、例えばキーボード、マウス又はタッチパネル等によって構成される。
出力装置26は、例えばディスプレイ及びスピーカ等によって構成される。
【0042】
また、状態推定装置10を構成するコンピュータには、ソフトウェアとして、オペレーティングシステム(OS)用のプログラム、及び、機器検査用のプログラムがインストールされている。これらのプログラムがプロセッサ21によって読み出されて実行されることで、状態推定装置10を構成するコンピュータが、状態推定装置10としての機能を発揮し、具体的には、機器検査に係る一連のデータ処理を実行する。
【0043】
データベースサーバ11は、例えば状態推定装置10を利用したサービスの運営会社、具体的には住宅H、Iの提供会社(住宅メーカ)等によって用意されたクラウド型のサーバであり、機器検査に必要な各種データを蓄積する。状態推定装置10は、ネットワークNを通じてデータベースサーバ11と通信可能に接続されており、データベースサーバ11に蓄積されたデータを自由に読み出すことができる。
【0044】
データベースサーバ11に蓄積されるデータには、ユーザに関するデータ、検査対象機器に関するデータ、及び録音対象機器に関するデータ等が含まれる。検査対象機器に関するデータ、及び、録音対象機器に関するデータは、機器の種別、機器の仕様(具体的には型式、製造年月日、及びサイズ等)、並びに、住宅における機器の設置場所等を示すデータである。検査対象機器に関するデータは、検査を実施するユーザと関連付けられて、機器毎に記憶される。録音対象機器に関するデータは、発生音を録音する録音者と関連付けられて、機器毎に記憶される。
【0045】
データベースサーバ11には、録音対象機器について収集された第1録音データ及び状態データが、機器毎に蓄積されている。本実施形態では、録音対象機器について、複数の録音時点における第1録音データ及び状態データが、録音対象機器と関連付けて機器毎に蓄積されている。複数の録音時点における第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれている。また、本実施形態において、第1録音データ及び状態データは、各住宅Iに設置された録音対象機器について定期的又は不定期に収集され、随時、データベースサーバ11に記憶される。これにより、データベースサーバ11における第1録音データ及び状態データの蓄積量が徐々に増えていく。
【0046】
また、データベースサーバ11には、検査対象機器について収集された第2録音データが、機器毎に蓄積されている。つまり、本実施形態では、検査対象機器について、複数の検査時点における第2録音データが、検査対象機器と関連付けて蓄積されている。複数の検査時点における第2録音データには、少なくとも、住宅Hの竣工時点又は引き渡し時点における第2録音データが含まれている。
なお、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データは、データベースサーバ11から読み出し可能である。そのため、ユーザ端末12がデータベースサーバ11から第2録音データを読み出すことができ、また、その録音データが示す発生音をユーザ端末12にて再生することができる。これにより、ユーザは、例えば、最初の検査時点(例えば、住宅Hの竣工時点等)における検査対象機器の発生音を、ユーザ端末12を通じて聞くことができる。
【0047】
なお、データベースサーバ11には、上述のデータ以外のデータが蓄積されてもよく、例えば、過去の機器の不具合事例、及び、ユーザによる機器の修理等の申し出に関する事例等が蓄積されてもよい。
【0048】
ユーザ端末12は、機器検査時にユーザが利用する情報処理端末であり、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ラップトップ型のパソコン、又はウェアラブル端末等によって構成される。ユーザ端末12は、ディスプレイからなる表示器、マイクからなる録音機器、及びカメラからなる撮影機器を備える。また、ユーザ端末12は、ネットワークNを通じて状態推定装置10と通信可能であり、表示器が構成する表示画面には、例えば、状態推定装置10から送信される情報を表示することができる。
【0049】
ユーザ端末12には、機器検査用のアプリケーションプログラム(以下、検査用アプリ)がインストールされている。ユーザ端末12において検査用アプリを起動することにより、ユーザは、住宅Hにおいて検査対象機器を指定し、指定された検査対象機器の発生音を録音し、その録音データ(第2録音データ)を状態推定装置10に送信することができる。また、ユーザは、検査対象機器の発生音の録音に際して、検査用アプリを通じて録音ガイダンスを確認することができる。録音ガイダンスについては、後に詳述する。
【0050】
なお、検査対象機器の発生音の録音は、例えば、ユーザがユーザ端末12において録音ボタンをクリックする等の操作を行った際に、その操作を契機として実施されてもよい。あるいは、検査用アプリの機能によって検査対象機器の発生音を検知し、発生音を検知した場合には、検知された発生音の録音をユーザ端末12が自動的に行ってもよい。この場合、ユーザ端末12は、公知の技術を利用し、発生音の検知時点に遡って発生音を録音するとよい。
【0051】
第2録音データの送信後、状態推定装置10によって検査対象機器の状態の変化が推定され、その推定結果がユーザ端末12の表示画面に表示される。ユーザは、表示画面にて検査対象機器の状態の変化を確認することができる。
【0052】
録音者端末13は、録音対象機器の発生音の録音に用いられる情報処理端末であり、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ラップトップ型のパソコン、又はウェアラブル端末等によって構成される。録音者端末13は、ディスプレイからなる表示器、マイクからなる録音機器、及びカメラからなる撮影機器を備える。また、録音者端末13は、ネットワークNを通じてデータベースサーバ11と通信可能である。
【0053】
録音者端末13は、録音用のアプリケーションプログラム(以下、録音用アプリ)がインストールされている。録音者端末13において録音用アプリを起動することにより、録音者は、住宅Iにおいて録音対象機器を指定し、指定された録音対象機器の発生音を録音し、その録音データ(第1録音データ)をデータベースサーバ11に送信することができる。また、録音者は、録音対象機器の発生音の録音時点における当該機器の状態を、録音者端末13を操作して入力し、入力された状態を示すデータを状態データとしてデータベースサーバ11に送信することができる。
【0054】
なお、前述した検査用アプリが、録音用アプリを兼ねてもよい。この場合、録音者は、録音対象機器の発生音の録音に際して、録音ガイダンスを確認することができてもよい。
また、第1録音データ及び状態データは、録音者端末13からネットワークNを通じてデータベースサーバ11に直接送信されてもよいし、録音者端末13からホームサーバ(不図示)に送られてホームサーバに一時的に記憶された後、ホームサーバからデータベースサーバ11に送信されてもよい。ホームサーバは、録音者の住宅Iに設置されており、住宅I内に構築された宅内ネットワークを通じて、録音者端末13を含む住宅I内の通信機器と通信し、当該機器との間でデータの送受信を行う装置である。
同様に、第2録音データについても、ユーザ端末12からネットワークNを通じて状態推定装置10に直接送信されてもよいし、ユーザ端末12からホームサーバを経由して状態推定装置10に送信されてもよい。
【0055】
また、録音対象機器の発生音の録音は、例えば、録音者が録音者端末13において録音ボタンをクリックする等の操作を行った際に、その操作を契機として実施されてもよい。あるいは、録音用アプリの機能によって録音対象機器の発生音を検知し、発生音を検知した場合には、検知された発生音の録音を録音者端末13が自動的に行ってもよい。この場合、録音者端末13は、公知の技術を利用して、発生音の検知時点に遡って発生音を録音するとよい。
【0056】
<<本実施形態に係る状態推定装置の機能について>>
次に、本実施形態に係る状態推定装置10の構成について機能面から改めて説明する。状態推定装置10は、
図3に示すように、設定部31、提示部32、第1取得部33、第1補正部34、特定部35、第2取得部36、第2補正部37、推定部38、及び出力部39を有する。これらの機能部は、状態推定装置10を構成するコンピュータが備えるハードウェア機器と、そのコンピュータに搭載されたプログラム(すなわち、ソフトウェア)との協働によって実現される。
以下、それぞれの機能部について説明する。
【0057】
(設定部)
設定部31は、機器検査の実施に際して、ユーザの指定操作に基づいて検査対象機器を設定する。具体的に説明すると、設定部31は、ユーザが住宅H内の機器の中から検査対象機器を指定するために行う指定操作を受け付ける。指定操作は、例えば、ユーザが、ユーザ端末12に備えられた撮影機器を利用して検査対象機器の画像を撮影する操作である。撮影された検査対象機器の画像データは、状態推定装置10に向けて送信される。設定部31は、上記の画像データを受信し、その画像データが示す撮影画像を解析して検査対象機器を設定する。
なお、指定操作は、上記の操作内容に限定されず、例えば、ユーザが検査対象機器を示す文字情報をユーザ端末12にて入力する操作でもよい。
【0058】
(提示部)
提示部32は、ユーザが検査対象機器の発生音を録音する際に、録音ガイダンスをユーザに対して提示し、具体的には、検査対象機器の発生音の録音に使用する機器としてのユーザ端末12を制御して、その表示画面に録音ガイダンスを表示させる。
【0059】
録音ガイダンスは、検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報であり、具体的には、録音の条件及び具体的な手順等に関する案内である。例えば、検査対象機器がトイレである場合、発生音の録音の開始前に、
図4に示すように録音条件が録音ガイダンスとして表示され、具体的には、「小」の流水で連続3回録音するという録音条件が表示される。その後、録音の準備が整った時点でユーザがユーザ端末12を操作すると、
図5に示すように各回の発生音(流水音)の録音を指示するアナウンスが録音ガイダンスとして表示される。
図5に示すケースでは、「小」の流水を実施して発生音を発生させ、その発生音の録音を開始させる指示が表示される。
【0060】
本実施形態において、録音ガイダンスは、検査対象機器に応じて生成された情報であり、機器毎に用意されている。具体的に説明すると、本実施形態では、複数の録音ガイダンスが状態推定装置10のストレージ23に記憶されており、複数の録音ガイダンスの各々は、ユーザ毎に登録された検査対象機器と関連付けられている。詳しく説明すると、各録音ガイダンスは、対応する検査対象機器の種別、仕様(型式、サイズ及び製造年月日等)、住宅H内での設置場所、並びに、検査対象機器が設置された住宅Hの周辺環境等に基づいて生成され、これらの要素を考慮してユーザが発生音を正しく録音できる内容になっている。
なお、録音ガイダンスは、状態推定装置10のストレージ23ではなく、データベースサーバ11において、検査対象機器と関連付けられて機器毎に記憶されてもよい。
【0061】
また、同一の検査対象機器について発生音を録音する場合には、録音条件を統一することが好ましい。そのため、ある検査対象機器の発生音を録音し、その後に同じ機器の発生音を再び録音する場合には、過去の録音データから、その時点で採用していた録音条件を特定し、特定された条件で新たな録音を行うのがよい。
【0062】
提示部32は、設定部31により設定された検査対象機器と対応する録音ガイダンスをストレージ23から読み出し、その録音ガイダンスをユーザに対して提示する。なお、ユーザに録音ガイダンスを提示する方法は、ユーザ端末12の表示画面に録音ガイダンスを表示させる方法に限定されず、例えば、録音ガイダンスの内容を表す音声をユーザ端末12のスピーカから発することで、ユーザに録音ガイダンスを提示してもよい。
【0063】
(第1取得部)
第1取得部33は、録音対象機器について収集された第1録音データ及び状態データをデータベースサーバ11から読み出して、これらのデータを取得する。第1取得部33が取得する第1録音データ及び状態データは、設定部31により設定された検査対象機器と同じ種別の録音対象機器について収集されたデータであり、より詳しくは、仕様が検査対象機器と同一又は類似する録音対象機器について収集されたデータである。
【0064】
また、第1取得部33は、検査対象機器と同じ種別である1又は複数の録音対象機器について、複数の録音時点における第1録音データ及び状態データを取得する。複数の録音時点における第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれる。
【0065】
また、本実施形態において、第1録音データには、録音対象機器の発生音のデータとともに、その発生音の発生前又は発生後における録音対象機器周辺の環境音、厳密には、録音対象機器が配置された第1環境の音のデータが含まれる。つまり、本実施形態では、録音対象機器の発生音の発生していない間に第1環境の音を録音して第1環境音データが得られ、第1取得部33は、第1環境音データを含んだ形態の第1録音データを取得する。
【0066】
(第1補正部)
第1補正部34は、第1取得部33により取得された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データに対して第1補正処理を実行する。第1補正処理では、第1録音データから第1環境音データを抽出し、抽出された第1環境音データに基づくフィルタ処理を、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データに対して施す。これにより、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データは、その第1録音データが示す録音対象機器の発生音から第1環境の音が除去されるように補正される。
【0067】
(特定部)
特定部35は、第1取得部33により取得された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を、特定する。具体的に説明すると、本実施形態において、特定部35は、上記の対応関係を特定するために、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを用いた機械学習を実施する。そして、特定部35が機械学習を実施することで、前述の推定モデルが構築される。
【0068】
なお、機械学習の手法等については、特に限定されず、学習アルゴリズムについては、例えば、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、リカレントニューラルネットワーク、アテンション、トランスフォーマー、敵対的生成ネットワーク、ディープラーニングニューラルネットワーク、ボルツマンマシン、マトリクス・ファクトーリゼーション、ファクトーリゼーション・マシーン、エムウエイ・ファクトーリゼーション・マシーン、フィールド認識型ファクトーリゼーション・マシーン、フィールド認識型ニューラル・ファクトーリゼーション・マシーン、サポートベクタマシン、ベイジアンネットワーク、決定木、又はランダムフォレスト等が利用可能である。
【0069】
また、本実施形態では、機械学習の妥当性及び信憑性を向上させる理由から、第1補正部34により補正された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データと、複数の録音時点のそれぞれにおける状態データとを用いて、上記の機械学習が実施される。換言すると、特定部35は、複数の録音時点のそれぞれにおける補正後の第1録音データと、複数の録音時点のそれぞれにおける状態データとを用いて、上記の対応関係を特定する。
【0070】
(第2取得部)
第2取得部36は、検査時点における検査対象機器の発生音の第2録音データを取得する。具体的には、ユーザがユーザ端末12を操作して検査対象機器の発生音を録音した場合、第2取得部36は、ユーザ端末12から送られてくる第2録音データを、ネットワークNを通じて取得する。また、本実施形態では、ユーザが検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その都度、第2録音データが生成されて状態推定装置10に向けて送信される。これにより、第2取得部36は、複数の検査時点のそれぞれについて第2録音データを取得する。ここで、複数の検査時点のうち、最初の検査時点は、例えば、住宅Hの竣工時点(すなわち、建設工事の完了時点)に設定されてもよい。
【0071】
また、本実施形態において、第2録音データには、検査対象機器の発生音のデータとともに、その発生音の発生前又は発生後における検査対象機器周辺の環境音、厳密には、検査対象機器が配置された第2環境の音のデータが含まれる。つまり、本実施形態では、検査対象機器の発生音の発生していない間に第2環境の音を録音して第2環境音データが得られ、第2取得部36は、第2環境音データを含んだ形態の第2録音データを取得する。
【0072】
(第2補正部)
第2補正部37は、第2取得部36により取得された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データに対して第2補正処理を実行する。第2補正処理では、第2録音データから第2環境音データを抽出し、抽出された第2環境音データに基づくフィルタ処理を、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データに対して施す。これにより、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データは、その第2録音データが示す検査対象機器の発生音から第2環境の音が除去されるように補正される。
【0073】
(推定部)
推定部38は、第2取得部36によって取得された第2録音データと特定部35によって特定された対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を推定する。具体的に説明すると、推定部38は、複数の検査時点における第2録音データから特定される検査対象機器の発生音の変化を、上記の対応関係としての推定モデルに入力する。入力される発生音の変化は、例えば、複数の検査時点のうち、最初の検査時点(具体的には、住宅Hの竣工時点)から直近の検査時点までの変化であり、詳しくは、最初の検査時点と比較した際の発生音の特徴の差分である。具体例を挙げて説明すると、最初の検査時点と比較して発生音中の低周波(又は高周波)の音が増えている場合には、その増加量が、発生音の変化に該当する。
【0074】
検査対象機器の発生音の変化を推定モデルに入力することにより、検査対象機器の状態の変化が出力される。出力される状態の変化は、例えば、最初の検査時点から直近の検査時点までの変化であり、詳しくは、検査対象機器における検査箇所が最初の検査時点からどの程度変化しているか、つまり、検査箇所での劣化又は変状の進行度合いである。具体例を挙げると、最初の検査時点と比較して検査対象機器の所定部位が劣化している状況での劣化の進行度合いが、状態の変化に該当する。
【0075】
推定部38が検査対象機器の状態の変化を推定する際に利用する推定モデルは、検査対象機器と同じ種別である録音対象機器の第1録音データ及び状態データを用いた機械学習によって得られるものである。すなわち、本実施形態において、推定部38は、検査対象機器と同じ種別である録音対象機器の第1録音データ及び状態データに基づいて特定された対応関係を用いて、検査対象機器の状態の変化を推定する。
【0076】
また、本実施形態では、推定の精度と妥当性を向上させる理由から、検査対象機器の状態の変化を推定する際には、第2補正部37によって補正された第2録音データが用いられる。つまり、推定部38は、補正された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから特定される検査対象機器の発生音の変化と、対応関係としての推定モデルとに基づき、検査対象機器の状態の変化を推定する。
【0077】
また、推定部38による推定結果、すなわち、検査対象機器の状態の変化は、検査対象機器の種別及び仕様と関連付けて状態推定装置10又はデータベースサーバ11に記憶してもよい。
【0078】
(出力部)
出力部39は、推定部38によって推定された検査対象機器の状態の変化を、ユーザに対して出力する。推定結果の出力方法については、特に限定されないが、本実施形態において、出力部39は、ユーザ端末12を制御し、
図6に示すように、推定された検査対象機器の状態の変化をユーザ端末12の表示画面に表示させる。
【0079】
また、出力部39は、検査対象機器の劣化が進行している場合、又は当該機器の状態が異常である場合には、検査対象機器の状態の変化とともに、異常状態の改善策等を出力してもよい。
なお、異常状態の改善策は、それぞれの検査対象機器について、異常状態の内容毎に用意して状態推定装置10又はデータベースサーバ11に記憶しておくとよい。そして、状態推定装置10又はデータベースサーバ11に記憶された改善策のうち、推定部38によって推定された検査対象機器の状態の変化に応じて選定された改善策を推奨対策として出力するとよい。
【0080】
また、出力部39は、推定された検査対象機器の状態の変化を、ユーザ以外の者、例えば住宅Hを提供した住宅メーカ等に通知してもよい。これにより、検査対象機器の状態が異常状態に遷移していた場合、住宅メーカ等の業者は、その状態変化を把握し、機器の異常に対して迅速に対応(フォロー)することができる。
【0081】
<<本実施形態に係る機器検査フローについて>>
次に、上述した状態推定装置10を用いたデータ処理フローである機器検査フローについて説明する。本実施形態に係る機器検査フローは、本発明の状態推定方法を採用しており、
図7に示す流れに沿って進行する。つまり、
図7に図示のフロー中の各ステップは、本発明の状態推定方法を構成する各要素に該当する。
なお、
図7に示す機器検査フローは、あくまでも一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、ステップの実施順序を入れ替えてもよい。
【0082】
機器検査フローの前段階では、録音対象機器の発生音が録音され、録音時点における当該機器の状態が特定され、録音対象機器について第1録音データ及び状態データがデータベースサーバ11に記憶される。すなわち、機器検査フローの実施に当たり、データベースサーバ11には、複数の録音対象機器のそれぞれについて、複数の録音時点における第1録音データ及び状態データが蓄積されている。データベースサーバ11に蓄積される複数の録音時点における第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれる。
【0083】
また、住宅Hの竣工時点等を最初の検査時点とし、最初の検査時点を含む1以上の検査時点において検査対象機器の発生音が録音されており、データベースサーバ11には、1以上の検査時点における第2録音データが蓄積されている。
【0084】
機器検査フローの各ステップでは、状態推定装置10を構成するコンピュータのプロセッサ21が、各ステップと対応する処理を実行する。具体的に説明すると、機器検査フローでは、先ず、プロセッサ21が、ユーザの指定操作に基づいて検査対象機器を設定する(S001)。より詳しく説明すると、ユーザが、指定操作としてユーザ端末12のカメラにより検査対象機器の画像を撮影する操作を行う。プロセッサ21は、検査対象機器の画像データをユーザ端末12から受信し、その画像データから検査対象機器を設定する。
なお、ユーザがカメラにて検査対象機器の画像を撮影する際には、検査対象機器が適切に撮影されるように、AR(Augmented Reality)技術等を利用して、撮影ガイド用のフレームやマーク等を検査対象機器の表示画像(詳しくは、ライブビュー画像)に重畳表示してもよい。
【0085】
次に、プロセッサ21は、ユーザ端末12を制御し、前ステップで設定された検査対象機器に応じた録音ガイダンスを、ユーザ端末12の表示画面に表示してユーザに対して提示する(S002)。録音ガイダンスは、前述したように、検査対象機器に応じて生成されており、対応する検査対象機器の種別、仕様、住宅H内での設置場所、並びに、検査対象機器が設置された住宅Hの周辺環境等を反映した内容であり、これらを踏まえた録音条件や録音手順等を示している。
【0086】
そして、ユーザは、録音ガイダンスに従って、検査対象機器を作動させ、その発生音を録音する。検査対象機器の発生音の録音データ(第2録音データ)は、ユーザ端末12から状態推定装置10に向けて送信される。プロセッサ21は、ユーザ端末12から送られてきた第2録音データを取得するとともに、同じ検査対象機器について過去に取得された第2録音データをデータベースサーバ11から読み出す。これにより、プロセッサ21は、複数の検査時点における第2録音データを取得する(S003)。
【0087】
また、プロセッサ21は、検査対象機器と同じ種別の録音対象機器について、複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データをデータベースサーバ11から読み取ることで、これらのデータを取得する(S004)。
【0088】
そして、プロセッサ21は、取得された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データに基づいて、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係を特定する(S005)。具体的には、プロセッサ21は、取得された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データ及び状態データを教師データとして用いた機械学習を実施する。この機械学習により、検査対象機器の発生音の変化から検査対象機器の状態の変化を推定するための推定モデルが構築される。
【0089】
なお、
図7には図示していないが、プロセッサ21は、上記の機械学習の実施に際して、ステップS004にて取得された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データに対して、前述の第1補正処理を実施してもよい。この場合、ステップS005では、プロセッサ21が、補正された複数の録音時点のそれぞれにおける第1録音データと、複数の録音時点のそれぞれにおける状態データとを用いて、上記の機械学習を実施するとよい。
【0090】
また、ステップS004及びステップS005は、ステップS003以前に実施されてもよい。また、第1録音データ及び状態データが新たにデータベースサーバ11に蓄積された場合には、適宜、機械学習を再実施して上記の推定モデルを更新してもよい。これにより、推定モデルによる推定精度を向上させることができる。
【0091】
その後、プロセッサ21は、ステップS003にて取得された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データと、ステップS005にて特定された対応関係とに基づいて、検査対象機器の状態の変化を推定する(S006)。具体的には、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから、検査対象機器の発生音の変化を特定し、特定された発生音の変化を、上記の対応関係としての推定モデルに入力することにより、検査対象機器の状態の変化が推定される。
【0092】
なお、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから、検査対象機器の発生音の変化を特定する際、各第2録音データから、検査対象機器の発生音が発生している期間中のデータを抽出してもよい。そして、複数の検査時点のそれぞれについて抽出されたデータから、検査対象機器の意発生音の変化を特定してもよい。
また、
図7には図示していないが、プロセッサ21は、ステップS006に際して、ステップS003にて取得された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データに対して、前述の第2補正処理を実施してもよい。この場合、ステップS006では、プロセッサ21が、補正された複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから特定される検査対象機器の発生音の変化と、上記の推定モデルとに基づき、検査対象機器の状態の変化を推定するとよい。
【0093】
その後、プロセッサ21は、ユーザ端末12を制御して、ステップS006での推定結果をユーザ端末12の表示画面に表示させる(S007)。また、ステップS006での推定結果、すなわち、推定された検査対象機器の状態の変化は、検査対象機器と対応付けてデータベースサーバ11に保存される(S008)。
なお、ステップS006において検査対象機器の状態が異常状態に遷移していると推定された場合、プロセッサ21は、その推定結果を専門業者等に通知してもよい。
【0094】
以上までの一連のステップが終了した時点で、検査対象機器について、一回分の機器検査フローが終了する。また、本実施形態において、検査対象機器の検査は、定期的に行われることになっており、検査が行われる度に、上述の手順により機器検査フローが繰り返し実施される。
【0095】
<<本実施形態の有効性について>>
本実施形態の状態推定装置10及び状態推定方法を用いることにより、検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、検査対象機器の状態の変化を適切に推定することができる。
【0096】
より詳しく説明すると、住宅等の建物にて利用される機器に異常が発生すると、修復に時間及び費用が掛かるため、定期的に機器検査を行って機器の異常の兆候を検知し、異常の発生を未然に防ぐ必要がある。また、機器の状態を診断又は判定する方法としては、従来から機器の発生音を用いる方法が知られており、機器の発生音の変化(例えば、異音の発生、及び高周波音若しくは低周波音の増加等)から当該機器の状態の変化を特定することがある。ただし、機器の発生音の変化から異常の兆候を検知するには、一般的に専門的な知識や技能(スキル)を必要とし、あるいはセンサ等の機器を設置して日々のデータを収集する必要がある。しかし、専門の検査員に機器検査を依頼する場合には、頻繁に来訪してもらうことは一般的に難しく、検査の実施頻度(検査周期)に限界がある。また、センサ等の機器を設置する場合には、機器の導入コストが掛かってしまう。
【0097】
また、検査対象機器の発生音を録音し、その録音データに基づいて機器の状態を診断又は判定する場合には、十分な量の録音データの蓄積が必要となるが、個々の住宅で録音データを十分に蓄積することは困難である。また、実際の住宅では、機器に異常が発生した場合には、その機器の修理が優先されるため、異常時の機器の発生音を録音することは現実的に難しい。
【0098】
これに対して、本実施形態では、ユーザがユーザ端末12のマイク等を利用して検査対象機器の発生音を録音するため、当該発生音の録音データである第2録音データを比較的簡便且つ手軽に取得することができる。これにより、ユーザは、より容易に、検査対象機器の発生音の録音データに基づく検査(セルフモニタリング)を定期的に実施することができる。
【0099】
また、本実施形態では、検査対象機器の発生音の録音時には、録音ガイダンスがユーザに対して提示される。これにより、ユーザは、専門的な知識がなくとも、検査対象機器の発生音を適切に録音することができる。また、検査対象機器の発生音を録音する際、録音機器と検査対象機器との位置関係や距離で録音内容(例えば、音量等)が変わり得るが、録音時に録音ガイダンスが提示されることにより、ユーザは、ガイダンス中の指示等に従って、統一された条件で検査対象機器の発生音を録音することができる。
【0100】
また、本実施形態では、複数の住宅に設置された録音対象機器のそれぞれについて、複数の録音時点における発生音の録音データ及び録音対象機器の状態データを収集してデータベースサーバ11に蓄積する。ここで、複数の録音時点における第1録音データ及び状態データには、録音対象機器の状態が正常である録音時点における第1録音データ及び状態データと、録音対象機器の状態が異常である録音時点における第1録音データ及び状態データとが含まれる。このように、本実施形態では、録音対象機器の状態が正常であるときのデータと、録音対象機器の状態が異常であるときのデータとを用いることができる。
【0101】
また、蓄積された録音データ及び状態データを用いて機械学習を実施することで、録音対象機器の発生音の変化と録音対象機器の状態の変化との対応関係が特定され、その対応関係に基づく数理モデルとして、前述の推定モデルが構築される。そして、複数の検査時点のそれぞれにおける第2録音データから検査対象機器の発生音の変化を特定し、当該発生音の変化を上記の推定モデルに入力することで、検査対象機器の状態の変化が推定される。このように、データベースサーバ11に蓄積された第1録音データ及び状態データを用いた機械学習を実施し、その学習結果としての推定モデルを利用することにより、検査対象機器の状態の変化を精度よく推定することができる。
【0102】
また、第1録音データ及び状態データの収集を継続することでデータベースサーバ11への蓄積量が増えることに伴い、機械学習を再実施して上記の推定モデルを更新すれば、検査対象機器の状態の変化を推定する精度がより向上する。これにより、実験室等で専門的な分析を要さずに、検査対象機器の状態の変化を精度よく推定することができる。
【0103】
また、本実施形態では、検査対象機器の発生音の変化から、検査対象機器の状態の変化を推定し、例えば、最初の検査時点からの劣化又は変状の程度を推定する。これにより、検査対象機器の状態が異常となる兆候を適切に把握することができる。詳しく説明すると、検査対象機器の発生音の録音データから特定される発生音の特徴が基準値(閾値)以上であるか否かを判定することで検査対象機器の状態を推定する場面を想定する。かかるケースでは、機器周辺の環境音等の影響により、検査対象機器が正常状態であるにもかかわらず、録音データから特定される発生音の特徴が通常時の特徴とは異なる可能性があり得る。その場合、発生音の特徴から検査対象機器の状態を適切に推定できない虞がある。これに対して、本実施形態では、検査対象機器の発生音の変化、つまり、住宅Hの竣工時点等のような過去の一時点からの状態の変化を推定するため、上述した不具合を回避することができる。
【0104】
また、本実施形態では、検査対象機器の状態の良否を単に判定するのではなく、状態の変化を推定することで、状態変化の傾向、より詳しくは劣化や変状の進行度合い、及び進行速度等を把握することができる。これにより、ユーザは、検査対象機器の異常の兆候を事前に把握し、機器に異常が発生する前に適切な対策を講じることができる。この結果、検査対象機器の修繕費用を、当該機器に異常が発生した場合に掛かる費用に比べて抑えることができる。
【0105】
<<その他の実施形態について>>
以上までに、本発明の状態推定装置、及び状態推定方法に関する一つの実施形態を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれることは勿論である。
【0106】
上記の実施形態では、録音対象機器の発生音の録音者が、録音対象機器が設置された住宅Iの利用者(具体的には、居住者又はオーナ等)であることとした。ただし、これに限定されず、例えば、録音対象機器が設置された住宅の提供メーカ等が当該機器の発生音を録音してもよい。
【0107】
上記の実施形態では、建物の利用者、具体的には、住宅の居住者又はオーナーが本発明の状態推定装置及び状態推定方法を用いて検査対象機器を検査するケースについて説明した。ただし、本発明の状態推定装置及び状態推定方法は、当然ながら、上記以外の者、例えば、専門業者等の検査員によって利用されてもよい。
【0108】
上記の実施形態において、一つの住宅において検査対象機器として設定できる機器は、2台以上存在してもよい。その場合、検査対象機器の発生音を録音する際にユーザに対して提示される録音ガイダンスは、検査対象機器毎に生成されるとよい。また、検査対象機器の状態の変化を推定するための推定モデルについても、検査対象機器別に構築されるとよい。
【0109】
上記の実施形態では、検査対象機器がユーザの指定操作に基づいて設定されることとしたが、これに限定されず、例えば、住宅の提供メーカ(住宅メーカ)等が所定の選定ルールに従って選定した機器を検査対象機器として設定してもよい。この場合、住宅メーカが側で選定された検査対象機器は、検査用アプリを通じて、ユーザに通知されるとよい。
【0110】
また、上記の実施形態では、ユーザの指定操作に基づいて検査対象機器が決まり、具体的には、ユーザによって撮影された機器が検査対象機器になることとした。ただし、これに限定されず、例えば、発生音の録音データ(第2録音データ)を解析し、その解析結果に基づいて検査対象機器が決められてもよい。具体的には、第2録音データに収録された音がトイレの排水音である場合、トイレが検査対象機器として設定されてもよい。
【0111】
上記の実施形態では、録音対象機器の発生音の第1録音データと録音対象機器の状態データとが蓄積された記憶装置が、状態推定装置10とは別機器であるデータベースサーバ11によって構成されていることとした。ただし、これに限定されず、上記の記憶装置が状態推定装置10に備えられてもよく、具体的には、状態推定装置10のストレージ23に第1録音データ及び状態データが蓄積されてもよい。
【0112】
上記の実施形態では、録音対象機器又は検査対象機器の発生音を録音する際に、その発生音が発生していない間の音、すなわち環境音も併せて録音することとした。つまり、上記の実施形態では、第1/第2録音データが、環境音のデータ(詳しくは、第1/第2環境音データ)を含んでいることとした。ただし、これに限定されず、環境音が発生音とは別に録音されてもよく、つまり、環境音のデータが、第1/第2録音データとは別のデータとして取得されてもよい。
【0113】
上記の実施形態では、録音対象機器の発生音の第1録音データ及び状態データを用いて機械学習を実施した。ただし、これに限定されず、これらのデータに加えて、検査対象機器の発生音の第2録音データと、検査対象機器の状態の変化についての推定結果と、を利用して機械学習を実施してもよい。
【0114】
また、上記の実施形態では、状態推定装置10を構成するコンピュータが、ユーザ端末12から送られてくるデータを取得し、そのデータを用いて状態推定装置10としての機能を発揮することとした。ただし、これに限定されず、状態推定装置10の機能の一部がユーザ端末12に備わってもよい。あるいは、ユーザ端末12が本発明の状態推定装置を構成し、状態推定装置としての機能すべてを発揮することができてもよい。
【符号の説明】
【0115】
10 状態推定装置
11 データベースサーバ(記憶装置)
12 ユーザ端末
13 録音者端末
21 プロセッサ
22 メモリ
23 ストレージ
24 通信用インタフェース
25 入力装置
26 出力装置
31 設定部
32 提示部
33 第1取得部
34 第1補正部
35 特定部
36 第2取得部
37 第2補正部
38 推定部
39 出力部
H,I 住宅
N ネットワーク
S 機器検査用システム