(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097610
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】無水塩化ニッケル粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/09 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
C01G53/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001190
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】523007775
【氏名又は名称】レアメタルリサイクル環境合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松林 一
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE06
(57)【要約】
【課題】塩化ニッケル水和物を加熱する工程において、粒径を調整して、製造後に粉砕しなくてもニッケル微粉の製造に適した粒度分布を有する無水塩化ニッケル粉末を製造する方法を提供すること。
【解決手段】塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケル粉末を得る工程を有する無水塩化ニッケル粉末の製造方法であって、無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、塩化ニッケル水和物を振動させながら、塩化ニッケル水和物の品温が65℃に達するまで、あるいは、塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物になるまで、圧力を80torr以下、かつ塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケル粉末を得る工程を有する無水塩化ニッケル粉末の製造方法であって、
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、前記塩化ニッケル水和物を振動させながら、前記塩化ニッケル水和物の品温が65℃に達するまで、圧力を80torr以下、かつ前記塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、前記塩化ニッケル水和物の品温が250℃以下の範囲で、圧力を前記塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する請求項1に記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケル粉末を得る工程を有する無水塩化ニッケル粉末の製造方法であって、
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、前記塩化ニッケル水和物を振動させながら、塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物になるまで、圧力を80torr以下、かつ前記塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、前記塩化ニッケル二水和物が無水塩化ニッケルになるまで、前記塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する請求項3に記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において得られる無水塩化ニッケル粉末をJIS Z8801-1に準拠した目開き2mmの篩いで篩い分けした時に、当該篩いを通過しない粉末量が投入量の2.0重量%以下である請求項1から4のいずれかに記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記塩化ニッケル水和物を収容する容器と、前記容器を振動させる振動機構と、を有する振動乾燥機を用いて、前記塩化ニッケル水和物を加熱する請求項1から4のいずれかに記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水塩化ニッケル粉末の製造方法に関する。特に、本発明は、ニッケル微粉の製造に好適に用いられる無水塩化ニッケル粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル微粉は、たとえば、積層セラミックコンデンサ等の電子部品が備える電極を構成する材料の原料として好適に用いられている。このようなニッケル微粉は、通常、気化した塩化ニッケルを水素ガスで還元することにより製造される。
【0003】
塩化ニッケルは潮解性が高いため、大気中では、塩化ニッケル水和物が安定である。塩化ニッケル水和物を気化させるために、高温まで加熱すると、水和物中の水が解離して水蒸気が発生する。この水蒸気は、塩化ニッケルを酸化し、気化した塩化ニッケルの品質を低下させてしまう。したがって、塩化ニッケルは無水塩化ニッケルであることが好ましい。
【0004】
無水塩化ニッケルの製造方法としては、たとえば、特許文献1および特許文献2に記載の方法が例示される。
【0005】
特許文献1は、塩化ニッケル水溶液を脱水および乾燥して、塩化ニッケル水和物を得て、得られた塩化ニッケル水和物を脱水および乾燥して、無水塩化ニッケルを製造する方法を開示している。また、特許文献2は、塩化ニッケル6水塩を160℃以上200℃以下に加熱して、無水塩化ニッケルを製造する方法を開示している。
【0006】
また、特許文献3は、積層セラミックコンデンサ用のニッケル超微粉末の原料となる無水塩化ニッケルの粒度や特性に関しての具体的な記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-274854号公報
【特許文献2】特開平11-263625号公報
【特許文献3】特開2002-348122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケルを製造する場合、得られる無水塩化ニッケルは、凝集し塊状になりやすい。このような塊状の無水塩化ニッケルは、そのままでは粉末状ではなくニッケル微粉の原料に適さない。そのため、製造された無水塩化ニッケルを粉砕しなければ、ニッケル微粉の製造に適した粒度分布を有する無水塩化ニッケルが得られない。
【0009】
特許文献1および特許文献2には、これらの文献に開示された方法により得られる無水塩化ニッケルの形態については何ら記載されていない。したがって、これらの方法では、塩化ニッケル水和物を加熱して得られる無水塩化ニッケルは塊状であると推測される。
【0010】
また、特許文献3には、回収した無水塩化ニッケルの粒度が不適当なので、解砕を行うことが記載されている。したがって、特許文献3に記載されている無水塩化ニッケルの粒度等は、解砕された後の特性である。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、塩化ニッケル水和物を加熱する工程において、粒径を調整して、製造後に粉砕しなくてもニッケル微粉の製造に適した粒度分布を有する無水塩化ニッケル粉末を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上より、本発明の態様は、以下の通りである。
【0013】
[1]塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケル粉末を得る工程を有する無水塩化ニッケル粉末の製造方法であって、
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、塩化ニッケル水和物を振動させながら、塩化ニッケル水和物の品温が65℃に達するまで、圧力を80torr以下、かつ塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【0014】
[2]無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、塩化ニッケル水和物の品温が250℃以下の範囲で、圧力を塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する[1]に記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【0015】
[3]塩化ニッケル水和物を加熱して無水塩化ニッケル粉末を得る工程を有する無水塩化ニッケル粉末の製造方法であって、
無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、塩化ニッケル水和物を振動させながら、塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物になるまで、圧力を80torr以下、かつ塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【0016】
[4]無水塩化ニッケル粉末を得る工程において、塩化ニッケル二水和物が無水塩化ニッケルになるまで、塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する[3]に記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【0017】
[5] 無水塩化ニッケル粉末を得る工程において得られる無水塩化ニッケル粉末をJIS Z8801-1に準拠した目開き2mmの篩いで篩い分けした時に、当該篩いを通過しない粉末量が投入量の2.0重量%以下である[1]から[4]のいずれかに記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【0018】
[6] 塩化ニッケル水和物を収容する容器と、容器を振動させる振動機構と、を有する振動乾燥機を用いて、塩化ニッケル水和物を加熱する[1]から[5]のいずれかに記載の無水塩化ニッケル粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、塩化ニッケル水和物を加熱する工程において、粒径を調整して、製造後に粉砕しなくてもニッケル微粉の製造に適した粒度分布を有する無水塩化ニッケル粉末を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1に関して、振動乾燥機の設定温度、品温および缶内圧力と、乾燥時間と、の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2に関して、振動乾燥機の設定温度、品温および缶内圧力と、乾燥時間と、の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例3に関して、振動乾燥機の設定温度、品温および缶内圧力と、乾燥時間と、の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例4に関して、振動乾燥機の設定温度、品温および缶内圧力と、乾燥時間と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
【0022】
(無水塩化ニッケル粉末の製造方法)
本実施形態に係る方法により製造される無水塩化ニッケル粉末は、積層セラミックコンデンサ等の電子部品の電極材料として用いられるニッケル微粉の原料として好適に用いられる。また、当該無水塩化ニッケル粉末の含水率は1.0重量%以下である。含水率が1.0重量%以下であることにより、無水塩化ニッケル粉末が酸化されにくく、酸化ニッケルの生成を抑制することができる。その結果、ニッケル微粉の純度を高く維持することができる。
【0023】
無水塩化ニッケル粉末は、塩化ニッケル水和物を加熱することにより、塩化ニッケル水和物の結晶水を除去して製造される。塩化ニッケル水和物としては、塩化ニッケル六水和物、塩化ニッケル四水和物、塩化ニッケル二水和物等が例示される。本明細書では、塩化ニッケル水和物は、塩化ニッケル六水和物等の各塩化ニッケル水和物の総称として用いる場合と、各塩化ニッケル水和物を少なくとも1つを含む水和物を意味する場合とがある。
【0024】
本実施形態では、室温で通常得られる水和物である塩化ニッケル六水和物を無水塩化ニッケル粉末の原料として用いる。
【0025】
本実施形態では、塩化ニッケル水和物を加熱する工程において、塩化ニッケル水和物を振動させながら、塩化ニッケル水和物の品温が65℃に達するまでは、圧力を80torr(10665.8Pa)以下であり、かつ当該塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する。なお、塩化ニッケル水和物の品温とは、加熱時の設定温度ではなく、実際の塩化ニッケル水和物の温度を指す。
【0026】
すなわち、塩化ニッケル水和物を65℃まで加熱する段階において、圧力を上記の範囲内に減圧し、かつ塩化ニッケル水和物を振動させることが重要である。
【0027】
原料である塩化ニッケル六水和物は、大気圧下で室温から加熱していくと、塩化ニッケル四水和物を経て、温度が100℃近傍で塩化ニッケル二水和物に変化する。換言すれば、塩化ニッケル六水和物を室温から100℃近傍まで加熱すると、4分子の水が塩化ニッケル水和物から分離する。この分離した水分子は大気圧下では液体または気体であるため、分離した水分がすぐに塩化ニッケル水和物に吸収され、塩化ニッケル水和物の含水率を上昇させ、塩化ニッケル水和物の凝集を促進する。その結果、乾燥後に、強く凝集した状態で無水塩化ニッケルとなり、粉砕処理が必要となる。
【0028】
一方、本実施形態では、塩化ニッケル六水和物を加熱する際の圧力を上記の範囲に制御している。圧力を上記の範囲内に制御することにより、塩化ニッケル六水和物から分離した水分子は液体ではなく気体(水蒸気)として存在する。この水蒸気の一部は、塩化ニッケル水和物に接触する。このとき、塩化ニッケル水和物は、六水和物から二水和物に変化する際の潜熱により、塩化ニッケル水和物の品温は100℃以下、たとえば65℃程度に維持される。したがって、塩化ニッケル水和物に接触した水蒸気は冷却され凝縮し液体となる。
【0029】
塩化ニッケル水和物において局所的に上記の水蒸気の蒸発および凝縮が繰り返されるため、液体となった水分子の塩化ニッケル水和物への吸収が徐々に進行し、これに伴う塩化ニッケル水和物の凝集も徐々に進行する。さらに、本実施形態では、塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物に変化するまでの間、塩化ニッケル水和物を振動させている。この振動による破砕効果と、水蒸気の凝縮に起因する凝集効果とが、適切な範囲で生じるため、塩化ニッケル水和物の粒径が均一となり、粗大粒子が少ない粒径分布が得られる。
【0030】
したがって、塩化ニッケル水和物の過度な凝集を抑制しながら、塩化ニッケル水和物の六水和物から二水和物への乾燥をスムーズに進行させることができる。
【0031】
本実施形態では、塩化ニッケル水和物の品温が80℃に達するまで、圧力を上記の範囲内に制御することが好ましい。圧力を上記の範囲内に制御する塩化ニッケル水和物の品温を80℃に達するまでとすることにより、乾燥中の塩化ニッケル水和物の流動性を向上させることができる。その結果、塩化ニッケル水和物の凝集がさらに抑制される。
【0032】
これに対して、圧力が80torr(10665.8Pa)を超えると、上記の凝集効果と破砕効果とのバランスが崩れ、塩化ニッケル水和物の凝集が過度に進行する。その結果、振動による攪拌効果が得られがたくなる。
【0033】
本実施形態では、塩化ニッケル水和物の品温が65℃に達するまで、60torr(7999.3Pa)以下であることが好ましく、塩化ニッケル水和物の品温が55℃に達するまで、40torr(5332.9Pa)以下であることがより好ましい。
【0034】
上記のような圧力の制御と塩化ニッケル水和物への振動の付加とを行うことにより、塩化ニッケル水和物の粒径が均一に近づくため、最終的に得られる無水塩化ニッケル粉末の粒度分布に好影響を与える。すなわち、塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物に変化するまでに、塩化ニッケル水和物の凝集が抑制されるので、最終的に得られる無水塩化ニッケルは、粉砕処理しなくても、粗大粒子(たとえば、粒径が2000μm以上の粒子)が少なく、ニッケル微粉の製造に適した粉末として得ることができる。最終的に得られる無水塩化ニッケルについては後述する。
【0035】
塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物に変化してからの加熱は、最終的に得られる塩化ニッケルが無水塩化ニッケルであると判断できる含水率となるまで行えばよい。すなわち、塩化ニッケル二水和物から、2分子の水が分離するまで加熱を行う。本実施形態では、上記の含水率が1重量%以下である場合に、無水塩化ニッケルが得られたと判断する。塩化ニッケル六水和物が塩化ニッケル二水和物に変化するまでの加熱と同様に、塩化ニッケル水和物の凝集を制御するために、加熱時の圧力を、塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御する。さらに、引き続き、塩化ニッケル水和物を振動させる。
【0036】
塩化ニッケル二水和物から2分子の水が分離する温度は120℃以上であるため、本実施形態では、上記のような圧力の制御と塩化ニッケル水和物への振動の付加とを行いながら、塩化ニッケル水和物を120℃以上まで加熱すればよい。
【0037】
この段階では、塩化ニッケル水和物が振動しながら、乾燥が進行するので、塩化ニッケル水和物が凝集しにくい。その結果、塩化ニッケル水和物は流動性が良好な粉末状となる。そして、さらに乾燥が進行して、塩化ニッケル水和物粉末の含水率が1.0重量%以下となり、無水塩化ニッケル粉末が得られる。
【0038】
なお、塩化ニッケル水和物の含水率が1重量%以下となるまでの時間(乾燥時間)を短縮するために、塩化ニッケル水和物をさらに高い温度まで加熱してもよい。本実施形態では、塩化ニッケル水和物の品温が250℃以下となるように加熱することが好ましい。塩化ニッケル水和物の品温が250℃を超えると、塩化ニッケル水和物が酸化しやすくなり、不純物である酸化ニッケルが生成しやすくなる。
【0039】
得られる無水塩化ニッケル粉末は、上述したように、粗大粒子(たとえば、粒径が2000μm以上の粒子)の含有量が非常に少ない。具体的には、JIS Z8801-1に準拠した目開き2mmの篩いで篩い分けした時に、当該篩いを通過しない粉末量が投入量の2.0重量%以下である。換言すれば、得られる無水塩化ニッケル粉末の98.0重量%以上は、粒径が2000μm未満の粒子から構成されている。
【0040】
従来、塩化ニッケル水和物の乾燥では、塩化ニッケル水和物をバットに投入し、大気圧下、450℃程度の高温で乾燥することが一般的であった。このような乾燥では、熱が逃げやすく断熱効果が低い。したがって、エネルギー消費が多い。また、このような乾燥で得られる無水塩化ニッケルは、上述したように、強く凝集しており、粉砕処理が必要となる。すなわち、余分な工程が必要となる。
【0041】
一方、上述した方法により得られる無水塩化ニッケル粉末は、無水塩化ニッケルとなった時点で、すでに粗大粒子の少ない粉末状であり、さらなる粉砕処理を必要としない。すなわち、余分な工程を行う必要はない。したがって、粒度分布の観点からも、本実施形態に係る無水塩化ニッケル粉末の製造方法は、従来の無水塩化ニッケル粉末の製造方法と比較して有用である。
【0042】
また、上述したように、従来の塩化ニッケル水和物の乾燥は高温で行われるため、得られる無水塩化ニッケルも高温に曝され、無水塩化ニッケルが分解して、毒性および腐食性の高い塩化水素ガスが発生しやすい。したがって、塩化水素ガスに対して、作業者の安全確保、設備の腐食への対策、塩化水素ガスの回収設備等、様々な面から対策を講じる必要がある。
【0043】
一方、本実施形態に係る無水塩化ニッケル粉末の製造方法では、減圧下で加熱を行うため、無水塩化ニッケルの分解に起因する塩化水素ガスの発生が抑制される。また、原料の塩化ニッケル水和物に起因する塩化水素ガスも少量発生するものの、発生した塩化水素ガスは、塩化ニッケル水和物から分離した水蒸気と接触し、排ガスとしてコンデンサで凝縮され、希塩酸として回収される。そのため、環境に対する負荷が少ない。したがって、環境の観点からも、本実施形態に係る無水塩化ニッケル粉末の製造方法は、従来の無水塩化ニッケル粉末の製造方法と比較して有用である。
【0044】
さらに、本実施形態に係る無水塩化ニッケル粉末の製造方法は、断熱効果が高く、比較的に低温で乾燥が終了するので、省エネルギーを実現できる。しかも、塩化ニッケルの酸化が抑制されるため、無水塩化ニッケル粉末中の酸化ニッケル量を低くすることができる。
【0045】
上記の無水塩化ニッケル粉末の製造方法は、上述した条件下での加熱が可能な乾燥機を用いて行うことが好ましい。このような乾燥機としては、内部を減圧可能な容器と、当該容器を振動させる振動機構とを有する振動乾燥機を用いて行うことが好ましい。特に、円周方向に円振動を発生させる振動機構であることがより好ましい。
【0046】
このような振動乾燥機を用いることにより、塩化ニッケル水和物が流動し、かつある程度撹拌されながら乾燥されるため、塩化ニッケル水和物の凝集を抑制することができる。
【0047】
振動乾燥機の条件としては、振動時の振幅等は、振動乾燥機に設定された条件で行えばよい。また、振動数または乾燥時間を変化させることにより、あるいは、振動を、連続で行うまたは間欠で行うこと等により、塩化ニッケル水和物の乾燥を制御し、得られる無水塩化ニッケル粉末の粒度分布を制御することができる。また、加熱時の昇温速度および昇温パターンについては、塩化ニッケル水和物の品温に基づき、設定温度と品温とが離れすぎないように設定することが好ましい。設定温度と品温とが離れすぎると、塩化ニッケル水和物の乾燥が急激に進行し、塩化ニッケル水和物の凝集が生じる可能性がある。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0049】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
塩化ニッケル水和物として、塩化ニッケル六水和物(JIS K8152:2018塩化ニッケル(II)六水和物(試薬)同等品)を準備した。準備した塩化ニッケル六水和物10.05kgを、振動乾燥機(中央化工機製、VH-25)に投入して、表1に示す条件で乾燥を行った。また、振動乾燥機の設定温度、塩化ニッケル六水和物の品温および振動乾燥機内の缶内圧力を
図1に示す。
【0051】
【0052】
図1に示すように、塩化ニッケル水和物が六水和物から二水和物に変化する温度(65℃近傍)に達するまで、缶内圧力は80torr(10665.8Pa)以下、かつ塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下であった。また、塩化ニッケル水和物の品温が80℃近傍に達した時には、塩化ニッケル水和物は良好に流動撹拌されており、塩化ニッケル水和物の凝集が抑制されていた。さらに、塩化ニッケル水和物が二水和物に変化してからも、缶内圧力は50torr(6666.1Pa)以下、かつ塩化ニッケル水和物の品温での飽和水蒸気圧以下に制御しながら、塩化ニッケル二水和物の品温が239℃になるまで乾燥した。
【0053】
乾燥終了後、表1に示すように、含水率が1.0重量%以下の塩化ニッケル粉末が得られた。すなわち、無水塩化ニッケル粉末が得られた。得られた無水塩化ニッケル粉末を、JIS Z8801-1に準拠した目開き2mmの篩いで篩い分けしたところ、当該篩いを通過しない粉末量が投入量の0.1重量%未満であった。
【0054】
以上より、実施例1では、振動乾燥機を用いて、塩化ニッケル水和物を振動させながら、缶内圧力を上述した範囲内に制御して、所定の品温となるまで加熱することにより、含水率が低く、かつ凝集が抑制され粗大粒子が少ない無水塩化ニッケル粉末が得られることが確認できた。
【0055】
(実施例2から4)
表1に示す条件、および、
図2に示す条件とした以外は、実施例1と同じ方法により、塩化ニッケル水和物を乾燥して、無水塩化ニッケル粉末を得た。
【0056】
実施例2から4においても、含水率が低く、かつ凝集が抑制され粗大粒が少ない無水塩化ニッケル粉末が得られることが確認できた。
【0057】
また、実施例1の無水塩化ニッケル粉末中に含まれる酸素濃度と、市販の無水塩化ニッケル粉末の試薬中に含まれる酸素濃度と、を測定した結果、実施例1の無水塩化ニッケル粉末の酸素濃度は、市販の無水塩化ニッケル粉末の試薬の酸素濃度の半分程度であった。すなわち、実施例1の無水塩化ニッケル粉末中の酸化ニッケル量は低いことが確認できた。
本発明に係る無水塩化ニッケル粉末の製造方法は、電子部品が備える電極を構成する材料の原料として用いられるニッケル微粉の製造に好適な無水塩化ニッケル粉末を製造することができる。他の金属塩化物結晶水塩についても同様の方法で乾燥する事により本発明と同様の効果が得られると見込まれる。