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特開2024-97634風騒音低減装置、手摺子及び格子状構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097634
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】風騒音低減装置、手摺子及び格子状構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/86 20060101AFI20240711BHJP
   E04F 11/18 20060101ALI20240711BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
E04B1/86 U
E04F11/18
E04B1/82 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001224
(22)【出願日】2023-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年7月20日、一般社団法人日本建築学会が発行した2022年度大会(北海道) 学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集 第395~396頁において発表
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優輝
(72)【発明者】
【氏名】黒木 拓
【テーマコード(参考)】
2E001
2E301
【Fターム(参考)】
2E001DF01
2E001DF04
2E001FA08
2E001FA18
2E001FA32
2E001GA02
2E001GA12
2E001HB02
2E001HB04
2E001HC01
2E001HD11
2E001HE01
2E301GG00
2E301HH01
2E301HH18
2E301JJ07
2E301JJ13
2E301NN34
(57)【要約】
【課題】格子状構造物の手摺子への設置が容易で風騒音を低減できる風騒音低減装置、風騒音低減装置が取り付けられた手摺子、及び手摺子を備える格子状構造物を提供する。
【解決手段】風騒音低減装置14は、一対の板部材22と、両板部材22間にこれらの長さ方向に互いに間隔をおいて配置されまた両板部材22に固定された複数のばね部材24とを備える。複数のばね部材24は、両板部材22に対して、両板部材22のそれぞれの接触面22aの全面を内壁面12eに常に接触させ、かつ、手摺子12が変形したときには板部材22と内壁面12eとが相対的に移動可能な押圧力を及ぼす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の断面形状を有する複数の中空の手摺子を備える手摺又は柵からなる格子状構造物に適用される風騒音低減装置であって、
各手摺子の内部に配置される互いに相対する一対の板部材であって前記手摺子の内部において前記手摺子の伸長方向へ伸びる一対の板部材と、
両板部材間に両板部材の長さ方向へ互いに間隔をおいて配置されまた両板部材に固定された複数の弾性体とを備え、
前記複数の弾性体は、両板部材に対して、両板部材のそれぞれの前記手摺子の内壁面に接触する面の全面を前記内壁面に常に接触させ、かつ、前記手摺子が変形したときには前記板部材と前記内壁面とが相対的に移動可能な押圧力を及ぼす、風騒音低減装置。
【請求項2】
両板部材は、前記格子状構造物が風を受けて各手摺子に1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードの振動のうちの1以上の振動モードの振動が生じたとき、生じた振動における振幅のピークの箇所において各手摺子の内壁面に当接可能である長さ寸法を有する、請求項1に記載の風騒音低減装置。
【請求項3】
両板部材はそれぞれ各手摺子の長さ寸法の10/12に相当する長さ寸法を有する、請求項2に記載の風騒音低減装置。
【請求項4】
両板部材は、その両端の一方及び他方が、それぞれ、前記手摺子の両端の一方及び他方から前記手摺子の長さ寸法の1/12に相当する間隔をおいて配置されている、請求項3に記載の風騒音低減装置。
【請求項5】
前記複数の弾性体は、両板部材の両端の近傍にそれぞれ位置する2つの弾性体と、前記2つの弾性体の位置の中間に位置する1つの弾性体とからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の風騒音低減装置。
【請求項6】
前記弾性体は、圧縮コイルばねからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の風騒音低減装置。
【請求項7】
手摺又は柵からなる格子状構造物の製造に供される手摺子であって、
矩形の断面形状を有する管部材と、
前記管部材の内部に配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の風騒音低減装置を備える、手摺子。
【請求項8】
複数の手摺子を有する手摺又は柵からなる格子状構造物であって、
各手摺子が請求項7に記載の手摺子からなる、格子状構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の窓、ベランダ、バルコニー、屋上、非常階段等に設置される手摺又は土地、家屋等の境界に設置される柵からなる格子状構造物が風を受けて発する固体音(以下、風騒音という。)の大きさの低減に向けられている。
【背景技術】
【0002】
上述のような格子状構造物は互いに間隔をおいて配置され縦、横又は斜めに直線的に伸びる複数の手摺子を備える。風騒音は、格子状構造物の手摺子相互間を風が吹き抜けるときに発生するカルマン渦の卓越振動数と手摺子の固有振動数とが一致するとき、又は、カルマン渦の卓越振動数が手摺子の固有振動数に近いときに生じる共振現象(渦励振)により発生する。
【0003】
格子状構造物の1つである縦格子手摺における風騒音の大きさを低減する技術として、特許文献1には、手摺子の表面または内部に固定した板部材を備える風騒音低減構造が開示されている。この風騒音低減構造では、板部材を設置しない場合に比べ、風圧力による手摺子を振動させるエネルギーが低減するため、振動を抑えることができる。これにより、手摺子の振動による風騒音の大きさが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-154394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の技術では、タッピングビス、リベット等の締結具や、接着剤、溶接等により、板部材を手摺子に固定している。このため、特に手摺子の内部に板部材を固定する場合には、狭い空間での作業を要するため、手摺子への板部材の設置が困難であった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、格子状構造物の手摺子への設置が容易で風騒音を低減できる風騒音低減装置、風騒音低減装置が取り付けられた手摺子、及び手摺子を備える格子状構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の風騒音低減装置は、矩形の断面形状を有する複数の中空の手摺子を備える手摺又は柵からなる格子状構造物に適用される風騒音低減装置であって、各手摺子の内部に配置される互いに相対する一対の板部材であって前記手摺子の内部において前記手摺子の伸長方向へ伸びる一対の板部材と、両板部材間に両板部材の長さ方向へ互いに間隔をおいて配置されまた両板部材に固定された複数の弾性体とを備え、前記複数の弾性体は、両板部材に対して、両板部材のそれぞれの前記手摺子の内壁面に接触する面の全面が前記内壁面に常に接触し、かつ、前記手摺子が変形したときには前記板部材と前記内壁面とが相対的に移動可能な押圧力を及ぼす。
【0008】
本発明の手摺子は、手摺又は柵からなる格子状構造物の製造に供される手摺子であって、矩形の断面形状を有する管部材と、前記管部材の内部に配置された、上記した本発明の風騒音低減装置を備える。
【0009】
本発明の格子状構造物は、複数の手摺子を有する手摺又は柵からなる格子状構造物であって、各手摺子が上記した本発明の手摺子からなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、格子状構造物の手摺子への設置が容易で風騒音を低減できる風騒音低減装置、風騒音低減装置が取り付けられた手摺子、及び手摺子を備える格子状構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る格子状構造物の1つである縦格子手摺の斜視図である。
図2】風騒音低減装置と、該風騒音低減装置が取り付けられた手摺子とを示す概略的な縦断面図である。
図3図2に示す風騒音低減装置及び手摺子の平面図である。
図4】(a)は非振動時における手摺子及びその内部の風騒音低減装置の概略的な縦断面図である。(b)は1次振動モードの振動時における手摺子及びその内部の風騒音低減装置の概略的な縦断面図である。(c)は2次振動モードの振動時における手摺子及びその内部の風騒音低減装置の概略的な縦断面図である。(d)は3次振動モードの振動時における手摺子及びその内部の風騒音低減装置の概略的な縦断面図である。
図5】手摺子の内壁面と板部材の接触面との間の接触面圧の説明図である。
図6】ハンマリング試験の結果を示す図である。
図7】ハンマリング試験の結果を示す図である。
図8】1次振動モードの振動におけるすべり比を示す図である。
図9】2次振動モードの振動におけるすべり比を示す図である。
図10】3次振動モードの振動におけるすべり比を示す図である。
図11】手摺子の内壁面と板部材の接触面との間の接触面圧とすべり比との関係を模式的に示す図である。
図12】風洞実験の結果を示す図である。
図13】風洞実験の結果を示す図である。
図14】風洞実験の結果を示す図である。
図15】風洞実験の結果を示す図である。
図16】風洞実験の結果を示す図である。
図17】風洞実験の結果を示す図である。
図18】風洞実験の結果を示す図である。
図19】風洞実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、建物の窓、ベランダ、バルコニー、屋上、非常階段等に設置される手摺(縦格子手摺、横格子手摺、斜め格子手摺等)、又は土地、家屋等の境界に設置される柵からなる格子状構造物の風騒音の低減に向けられている。
【0013】
図1に示すように、本発明が適用された格子状構造物の一例である縦格子手摺10は、複数の手摺子12と、各手摺子12に取り付けられた風騒音低減装置14(図2及び図3)とを備える。
【0014】
図示の縦格子手摺10は、縦方向(上下方向)へ伸びる一対の支柱16と、両支柱16に固定され横方向へ伸びる上下2つの弦部材18とを備える。複数の手摺子12は両弦部材18間に互いに間隔をおいて配置され縦方向へ伸びている。各手摺子12、各支柱16、各弦部材18は、例えばアルミニウムの押出型材からなる。
【0015】
図2及び図3に示すように、手摺子12は矩形の断面形状を有する中空のすなわち管状の部材からなる。手摺子12は互いに相対する上端12a及び下端12bを有し、上下両端12a,12bにおいて上下の両弦部材18に固定されている。また、手摺子12は、互いに相対する二対の外壁面(外側面)12c,12dと、互いに相対する二対の内壁面(内側面)12e,12fとを有する(図2及び図3参照)。手摺子12の一対の外壁面12cは、隣接する手摺子12又は支柱16に面している。また、他の一対の外壁面12dはそれぞれ縦格子手摺10の正面の側及び背面の側にそれぞれ面している。
【0016】
風騒音低減装置14は、手摺子12の内部に配置される互いに相対する一対の板部材22と、複数(図示の例において3つ)のばね部材(弾性体に相当)24とを備える。両板部材22は手摺子12の内部において、手摺子12の伸長方向へ伸びまたばね部材24のばね力を受けて手摺子12の両内壁面12eに当接する。また、複数のばね部材24は、両板部材22間にこれらの長さ方向へ互いに間隔をおいて配置されている。
【0017】
風騒音低減装置14の一対の板部材22は、それぞれ、例えばアルミニウム製や鋼製のような金属製の平板、木製、合成樹脂製又はゴム製の平板からなる。板部材22は、手摺子12の長さ寸法L1より短い長さ寸法L2(L2<L1)を有する(図3参照)。また、手摺子12は、手摺子12の内壁面12eの幅寸法より小さい幅寸法を有する(図3参照)。また、板部材22は、その弾性変形性(湾曲性)を考慮して、好ましくは0.5~3.0mmの範囲の厚さ寸法を有する。なお、両板部材22の当接対象を一対の内壁面12eとする図示の例に代えて、他の一対の内壁面12dとすることができる。
【0018】
板部材22の長さ寸法L2は、縦格子手摺10が風を受けて、縦格子手摺10の手摺子12相互間を風が吹き抜け、これにより手摺子12に1次振動モード(図4(b))、2次振動モード(図4(c))及び3次振動モード(図4(d))のうちの1以上の振動モードの振動が生じたとき、生じた振動における山の頂又は谷の底である振幅のピークの箇所(1次振動モードにおける1つのピークP1の箇所、2次振動モードにおける2つのピークP2及びP3の箇所、3次振動モードにおける3つのピークP4~P6の箇所)において手摺子12の内壁面12eに当接可能である長さ寸法を有する。ここに、縦格子手摺10が風を受けて各手摺子12に1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードの振動のうちの1以上の振動モードの振動が生じたときとするのは、縦格子手摺10に日常的に作用する風の速度(風速)は5~15m/sの範囲内にあり、この風速の範囲内おける各手摺子12の振動は1~3次振動モードのうちの1以上の振動モードの振動であるとの知見に基づく。
【0019】
図示の例において、1次振動モードの振動における振幅の1つのピークの箇所P1は、手摺子12の上端12a及び下端12bから、手摺子12の長さ寸法L2の6/12=1/2(図4(b)参照)に相当する距離を隔てた位置、すなわち手摺子12の長さ方向における中央位置にある。また、2次振動モードの振動における振幅の2つのピークの箇所P2及びP3は、それぞれ、手摺子12の上端12a及び下端12bから、手摺子12の長さ寸法L2の3/12=1/4(図4(c)参照)に相当する距離を隔てた位置にある。さらに、3次振動モードの振動における振幅の3つのピークの箇所のうちの2つのピークの箇所P4及びP6は、それぞれ、手摺子12の上端12a及び下端12bから、手摺子12の長さ寸法L2の2/12=1/6(図4(d)参照)に相当する距離を隔てた位置にあり、また、残りのピークの箇所P5は、手摺子12の長さ寸法L2の6/12=1/2に相当する距離を隔てた位置すなわち手摺子12の長さ方向における中央位置にある。
【0020】
風騒音低減装置14の3つのばね部材24は、図示の例においては、両板部材22の両端の近傍にそれぞれ位置する2つのばね部材24と、1つのばね部材24とからなる。この1つのばね部材24は、両板部材22の両端の近傍にそれぞれ位置する2つのばね部材24の位置の中間、すなわち手摺子12の長さ方向における中央(図4(b)参照)に位置する。図示のばね部材24は圧縮コイルばねからなり、その両端部24aにおいて両板部材22に固定されている。両板部材22は、これにより、3つのばね部材24を介して互いに連結されている。
【0021】
風騒音低減装置14は、その一対の板部材22を互いに他の一方に向けて圧迫し、両板部材22間の複数のばね部材24を圧縮した状態にして、縦格子手摺10の製造に供される手摺子12の上下両端12a,12bの一方から他方に向けて手摺子12の内部に差し込むことができる。これにより、風騒音低減装置14は、手摺り子12の内部に容易に配置することができる。
【0022】
両板部材22は、手摺子12の内部において、圧縮された複数のばね部材24の弾性復帰力である押圧力を受けて、手摺子12の両内壁面12eにそれぞれ当接し、手摺子12の両内壁面12eに対してそれぞれ接触面22aが密着した状態におかれる。
【0023】
ここで、板部材22の接触面22aは、板部材22における手摺子12の内壁面12eに接触する面である。また、風騒音低減装置14において、板部材22の接触面22aが手摺子12の内壁面12eに密着した状態とは、接触面22aの全面が内壁面12eに接触している状態である。
【0024】
風騒音低減装置14では、複数のばね部材24が、両板部材22に対して、両板部材22のそれぞれの接触面22aを内壁面12eに常に密着させ、かつ、手摺子12が変形したときには板部材22と内壁面12eとが相対的に移動可能な押圧力を及ぼすように、ばね部材24のばね定数、ばね部材24の長さ、及びばね部材24の個数が設定されている。
【0025】
これにより、風騒音低減装置14では、後述するように縦格子手摺10が風を受けることで手摺子12が弾性変形した場合でも、接触面22aが内壁面12eに密着した状態が維持される。また、手摺子12が弾性変形したときには、接触面22aと内壁面12eとの間に微小なすべりが生じ、摩擦が発生する。
【0026】
次に、風騒音低減装置14の作用について説明する。
【0027】
風騒音低減装置14が取り付けられた複数の手摺子12を備える縦格子手摺10が風を受けて手摺子12に1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードの振動のうちの1以上の振動モードの振動が生じ、手摺子12がこれに生じた振動に対応する弾性変形(湾曲状の変形)をすると、手摺子12の両内壁面12eに接触面22aが密着した状態にある両板部材22が、手摺子12からその弾性変形による外力を受けて湾曲した手摺子12の内壁面12eに沿った弾性変形をする。このとき、両板部材22は各ばね部材24を支点とする振動をし、また、手摺子12の両内壁面12eに接触面22aが密着した状態を維持しつつ、手摺子12の両内壁面12e上を僅かにすべる。その結果、手摺子12の内壁面12eと両板部材22の接触面22aとの間に摩擦が生じる。
【0028】
この摩擦は、摩擦減衰として振動を止めようとする力(エネルギーの釣り合いで考えると摩擦によるエネルギー損失)として働き、手摺子12の減衰能を高める。したがって、手摺子12の内壁面12eと両板部材22の接触面22aとの間に摩擦が生じることで、手摺子12の振動とこれに伴う風騒音とが低減される。
【0029】
図示の例において、板部材22の長さ寸法L2が各手摺子の長さ寸法L1の10/12に設定され(図4(a))、また、板部材22の上下両端12a,12bがそれぞれ手摺子12の上下両端12a,12bから手摺子12の長さ寸法L1の1/12の間隔をおいて配置されている。図示の例によれば、手摺子12の振動時に風騒音低減装置14がその自重により手摺子12の内部を該手摺子の下端12bまで滑り落ちることがあっても、両板部材22は、1次振動モードの1つのピークの箇所P1において、2次振動モードの2つのピークの箇所P2,P3において、また、3次振動モードの3つのピークの箇所P4,P5,P6において、手摺子12の内壁面12eに当接可能の状態に維持される。
【0030】
次に、風騒音低減装置14が手摺子12の振動を低減する原理について説明する。
【0031】
手摺子12の減衰定数hを、手摺子12そのものが持つ減衰定数h1と、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとのすべりによる摩擦減衰の減衰定数h2との和であると考えると、下記の式(1)が成り立つ。
【0032】
h=h1+h2 …(1)
ここで、「2枚合せ板構造の減衰能発生機構」(益子正巳、外2名、日本機械学会論文集(第3部)、昭和48年、39巻、317号、pp.382-392)における摩擦による減衰能の式を変形することで、減衰定数h2は、下記の式(2)で表すことができる。
【0033】
h2=4μypα/k …(2)
ここで、μは動摩擦係数、yは2枚の合せ板(手摺子12と板部材22)の板厚の半分/初期変位、pは2枚の板材間(手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aと間)の接触面圧、αは2枚の板材間のすべり特性を示すすべり比、kは2枚の合せ板の曲げ剛性である。
【0034】
また、上記論文によれば、すべり比αは、下記の式(3)で表すことができる。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、A,a,εは2枚の板材間の接合面の表面状態により定まる定数である。
【0037】
上記式(3)は、すべり比αが大きいほど、摩擦による振動の減衰能が高いことを意味している。
【0038】
すなわち、風騒音低減装置14が取り付けられた手摺子12が式(3)と同様の傾向を示すものであれば、手摺子12の振動の低減が、摩擦減衰によるものと判断できる。
【0039】
このことを検証するため、ハンマリング試験から風騒音低減装置14が取り付けられた手摺子12における減衰定数hを求め、すべり比αを算出した。
【0040】
このハンマリング試験では、横20mm×縦30mmの矩形の断面形状を有するものと、横20mm×縦40mmの矩形の断面形状を有するものとの2種類の、いずれも長さが1000mmのアルミニウム製の管部材からなる手摺子12を用いた。
【0041】
また、風騒音低減装置14の板部材22としては、厚さ寸法が0.5mm、長さ寸法が950mm、幅寸法が15mmの鋼製の平板を用いた。また、ばね部材24としては、ばね定数が0.5N/mmの圧縮コイルばねを用いた。
【0042】
上述した断面形状が異なる2種類の手摺子12のそれぞれに対し、ばね部材24の個数が異なる複数通りの風騒音低減装置14のそれぞれを取り付けた場合についてハンマリング試験を行った。
【0043】
このハンマリング試験では、図5に示すように、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの間の接触面圧pは、各ばね部材24が板部材22に及ぼす押圧力fの合計を板部材22の接触面22aの面積で平均化することで等分布荷重として扱うものとした。ここで、ばね部材24による押圧力fは、ばね剛性とばねの変形量とから求められるものである。ハンマリング試験を行った手摺子12において、取り付けられた風騒音低減装置14のばね部材24の個数が多いほど接触面圧pは大きくなり、接触面圧pの範囲は約0.0003N/mm~0.0026N/mmであった。
【0044】
このハンマリング試験では、縦格子手摺10に日常的に作用する風速5~15m/sの範囲内において手摺子12の振動は1~3次振動モードのうちの1以上の振動モードの振動であるとの知見に基づき、1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードの振動を評価の対象とした。
【0045】
ハンマリング試験の結果を図6図7に示す。図6は、横20mm×縦30mmの手摺子12における接触面圧pと減衰定数との関係を示すグラフである。図7は、横20mm×縦40mmの手摺子12における接触面圧pと減衰定数hとの関係を示すグラフである。ここで、減衰定数hは、ハンマリング試験において手摺子12に加えた加振力及び加速度から推定することができる。
【0046】
図6図7は、接触面圧pが大きいほど減衰定数hが小さい傾向を示している。
【0047】
図6図7に示した結果に基づき、前述の式(1)、式(2)の関係を用いて求めたすべり比αを図8図10に示す。図8は、横20mm×縦30mmの手摺子12及び横20mm×縦40mmの手摺子12における1次振動モードの振動の接触面圧pとすべり比αとの関係を示すグラフである。図9は、横20mm×縦30mmの手摺子12及び横20mm×縦40mmの手摺子12における2次振動モードの振動の接触面圧pとすべり比αとの関係を示すグラフである。図10は、横20mm×縦30mmの手摺子12及び横20mm×縦40mmの手摺子12における3次振動モードの振動の接触面圧pとすべり比αとの関係を示すグラフである。
【0048】
図8図10に示すように、手摺子12の断面形状によらず式(3)と同様の傾向を示した。すなわち、接触面圧pとすべり比αとは、図11に模式的に示すような関係を有する。このことから、手摺子12の振動の低減が、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの間の摩擦減衰によるものと判断できる。
【0049】
ここで、図11のような接触面圧pとすべり比αとの関係を示す曲線は、手摺子12及び板部材22の材質、接触面積、振動モード等の条件により異なる。また、すべり比αは、接触面圧pが大きくなると、最終的には0になる。すなわち、接触面圧pが大きすぎると、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの間ですべりが生じなくなる。
【0050】
また、図11に示すように、接触面圧pが小さすぎる領域では、理論上、すべり比αの値が存在はするが、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの密着を維持できない。内壁面12eと接触面22aとが密着した状態を維持できない場合、内壁面12eと接触面22aとの間の摩擦減衰により手摺子12の振動を低減する効果が十分には得られない。
【0051】
これに対し、風騒音低減装置14では、前述のように、複数のばね部材24が、両板部材22に対して、両板部材22のそれぞれの接触面22aを内壁面12eに常に密着させ、かつ、手摺子12が変形したときには板部材22と内壁面12eとが相対的に移動可能な(内壁面12eと接触面22aとの間ですべりが生じる)押圧力を及ぼしている。
【0052】
次に、上述したハンマリング試験の結果、減衰定数hが比較的高かった場合と比較的低かった場合とを対象に行った風洞実験について説明する。
【0053】
この風洞実験では、風騒音低減装置14のばね部材24が4個でp=0.000421N/mmの場合(減衰定数hが比較的高かった場合)と、ばね部材24が14個でp=0.001474N/mmの場合(減衰定数hが比較的低かった場合)とを対象とした。また、比較のため、風騒音低減装置14が取り付けられていない手摺子12(対策なしの手摺子12)も対象とした。
【0054】
この風洞実験では、横20mm×縦30mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10、横20mm×縦40mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10、横20mm×縦30mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10、及び横20mm×縦40mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10を用いた。手摺子12が10本配置された縦格子手摺10は、手摺子12が20本配置された縦格子手摺10に対して、手摺子12の間隔が半分である。
【0055】
上述したそれぞれの縦格子手摺10において、ばね部材24が4個の風騒音低減装置14を手摺子12に取り付けた場合、ばね部材24が14個の風騒音低減装置14を手摺子12に取り付けた場合、及び対策なしの手摺子12を用いた場合のそれぞれについて、風洞実験を行った。
【0056】
この風洞実験では、縦格子手摺10に対して、その正面から背面に向けて、風速3~20m/sの風を吹き当てた。そして、A特性音圧レベルと、X方向(横方向)振動加速度レベルとを測定した。
【0057】
風洞実験の結果を図12図19に示す。図12は、横20mm×縦30mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとA特性音圧レベルとの関係を示すグラフである。図13は、横20mm×縦30mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとX方向振動加速度レベルとの関係を示すグラフである。
【0058】
図14は、横20mm×縦40mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとA特性音圧レベルとの関係を示すグラフである。図15は、横20mm×縦40mmの手摺子12が20本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとX方向振動加速度レベルとの関係を示すグラフである。
【0059】
図16は、横20mm×縦30mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとA特性音圧レベルとの関係を示すグラフである。図17は、横20mm×縦30mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとX方向振動加速度レベルとの関係を示すグラフである。
【0060】
図18は、横20mm×縦40mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとA特性音圧レベルとの関係を示すグラフである。図19は、横20mm×縦40mmの手摺子12が10本配置された縦格子手摺10における接触面圧pとX方向振動加速度レベルとの関係を示すグラフである。
【0061】
図12図19に示すように、ばね部材24が4個の場合及び14個の場合のいずれでも、対策なしの場合と比べて、A特性音圧レベル及びX方向振動加速度レベルが低く、風騒音が低減する効果が確認された。また、ばね部材24が4個の場合及び14個の場合のいずれでも、聴感上、風騒音は確認されなかった。
【0062】
ここで、ばね部材24が14個の場合、ハンマリング試験の結果では減衰定数hが比較的低かったが、風洞実験ではばね部材24が4個の場合と同様にA特性音圧レベル及びX方向振動加速度レベルが低く抑えられた。これは、風洞実験ではハンマリング試験よりも手摺子12を振動させる力が大きいため、手摺子12がより大きく振動し、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの間の摩擦減衰により手摺子12の振動とこれに伴う風騒音とが低減されたためと考えられる。
【0063】
以上説明したように、風騒音低減装置14は、一対の板部材22と、両板部材22に固定された複数のばね部材24とを備える。複数のばね部材24は、両板部材22に対して、両板部材22のそれぞれの接触面22aを内壁面12eに常に密着(接触面22aの全面が内壁面12eに常に接触)させ、かつ、手摺子12が変形したときには板部材22と内壁面12eとが相対的に移動可能な押圧力を及ぼす。
【0064】
これにより、手摺子12に振動が生じ、手摺子12がこれに生じた振動に対応する弾性変形をすると、両板部材22が手摺子12の内壁面12eに沿った弾性変形をする。このとき、両板部材22は、手摺子12の両内壁面12eに接触面22aが密着した状態を維持しつつ、手摺子12の両内壁面12e上を僅かにすべる。その結果、手摺子12の内壁面12eと両板部材22の接触面22aとの間に摩擦が生じ、摩擦減衰により手摺子12の振動とこれに伴う風騒音とが低減される。
【0065】
ここで、風騒音低減装置14は、締結具や溶接等により手摺子12に固定されてはいないため、上述のように板部材22が手摺子12の内壁面12e上をすべることができる。このため、上述のように、手摺子12の内壁面12eと板部材22の接触面22aとの間の摩擦減衰により手摺子12の振動とこれに伴う風騒音とを低減できる。
【0066】
また、風騒音低減装置14は、両板部材22間の複数のばね部材24を圧縮した状態にして手摺子12の内部に差し込むことができ、締結具や溶接等により手摺子12に固定する必要がないので、手摺り子12に容易に設置することができる。
【0067】
したがって、風騒音低減装置14は、手摺子12への設置が容易で縦格子手摺10の風騒音を低減できるものである。
【0068】
なお、上述した実施形態では、風騒音低減装置14が複数のばね部材24を備えるものとしたが、ばね部材24に限らず、スポンジ等の他の弾性体を用いてもよい。
【0069】
また、上述した実施形態では、板部材22は、手摺子12に1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードの振動のうちの1以上の振動モードの振動が生じたとき、生じた振動における振幅のピークの箇所において手摺子12の内壁面12eに当接可能である長さ寸法を有するものとしたが、これ以外の長さ寸法を有するものでもよい。
【0070】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 縦格子手摺
12 手摺子
12e,12f 内壁面
14 風騒音低減装置
22 板部材
22a 接触面
24 ばね部材
P1~P6 振動のピークの箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19