(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097654
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】不透明なシートとして紡糸された水溶性ナノファイバーシート
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20240101AFI20240711BHJP
A61F 13/00 20240101ALI20240711BHJP
A61F 13/0246 20240101ALI20240711BHJP
【FI】
A61F13/02 310R
A61F13/00 300
A61F13/02 310D
A61F13/02 310J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001258
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】509127147
【氏名又は名称】株式会社キコーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 あい子
(72)【発明者】
【氏名】関口 徹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 えり子
(57)【要約】
【課題】顔の表面や創傷部位などにおいて短時間に簡単にゲルやフィルムを形成するためのシートおよび方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
基材シートと、該基材シートの表面に設けられた不透明なナノファイバーシートと、剥離可能に設けられたカバーシートと、を有するゲル形成シートを提供することによって、上記課題が解決された。不透明なナノファイバーシートは、水分の存在によってゲル化することを特徴とする。例えば、本発明は、美容効果や創傷被膜によるキズの保護、および薬剤の貼付などを行うシートおよび方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シートの表面に設けられた不透明なナノファイバーシートと、該不透明なナノファイバーシートの表面に設けられたカバーシートと、を有するゲル形成シートであって、ここで、該基材シートが多数の開孔を備えるメッシュシートである、ゲル形成シート。
【請求項2】
基材シートと、該基材シートの表面に設けられた不透明なナノファイバーシートと、を有するゲル形成シートであって、ここで、該基材シートが多数の開孔を備えるメッシュシートである、ゲル形成シート。
【請求項3】
前記不透明なナノファイバーシートが、微量の水分で瞬時に溶解し不透明から透明に変化する、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項4】
前記不透明なナノファイバーシートが、美容成分または薬効成分を含有する、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項5】
前記基材シートは、メッシュ状の貫通した穴を有する水に不溶性の透明なフィルムであり、該穴の直径は0.1~5mmであり、該基材シートは1インチ当たり10~400個の穴を備える、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項6】
前記不透明なナノファイバーシートは電界紡糸法によって前記基材シート上に積層されており、該不透明なナノファイバーシートの厚みは0.1ミクロン~3mmであり、ナノファイバーの繊維径は100~500ナノメーターである、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項7】
前記ナノファイバーシートを作製する水溶性高分子が含有する美容成分または薬効成分が水溶性であり、該美容成分または薬効成分の100gの水に対する溶解度が0.05g以上である、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項8】
前記ナノファイバーシートを作製する水溶性高分子が含有する美容成分または薬効成分が水不溶性であり、包摂化合物が該水溶性高分子に含まれる、請求項1または2に記載のゲル形成シート。
【請求項9】
前記不透明なナノファイバーシートを水によって肌の上で溶解するとき、前記美容成分または薬効成分が肌に塗布される、請求項4に記載のゲル形成シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不透明な水溶性ナノファイバーシートに関する。また本発明は水溶性ナノファイバーシートの水溶解前後の視認性を制御する方法、および、そのような方法によって製造されたナノファイバーシートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在ナノファイバーはナノサイズ効果を利用した高透明性などの光学特性が高吸着特性など、産業のあらゆる分野での応用研究が行われている。このような特徴を有するナノファイバーは単繊維として用いられるほか集積体や複合体としても用いられている。
【0003】
ナノファイバーの応用例として、高分子化合物のナノファイバーからなる網目構造体に美容成分や薬効を有する成分を保持させてなる化粧用シートが提案されている(特許文献1参照)同文献によればこの化粧用シートは肌に対する密着性や装着感を向上させることができるという。
また異なる材質からなる多層のナノファイバーの技術が特許文献2に記載されているが、このナノファイバーは基材シートを保持してナノファイバーを肌に張り付けるとナノファイバーは基材シートから容易に剥離して皮膚に張り付くという。
さらに特許文献3に記載された多層のナノファイバーシートも水溶性のナノファイバーシートと水不溶性のナノファイバーシートを組み合わせた3層のナノファイバーシートが提案されている。これらのナノファイバーシートはいずれの場合も透明化を目指して作成されているが、多層のナノファイバーシートには必ず不溶性のナノファイバーシートを含んでおり、肌に適用するとき水溶性ナノファイバーシートの溶解性や肌の上にあるシートのムラを視認することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6343088号明細書
【特許文献2】特許6956406号明細書
【特許文献3】特許6480059号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、肌に適用可能な水溶性ナノファイバーシートであって、視認性が良いナノファイバーシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は例えば以下を特徴とする。
[項目1]
基材シートと、該基材シートの表面に設けられた不透明なナノファイバーシートと、該不透明なナノファイバーシートの表面に設けられたカバーシートと、を有するゲル形成シートであって、ここで、該基材シートが多数の開孔を備えるメッシュシートである、ゲル形成シート。
[項目2]
基材シートと、該基材シートの表面に設けられた不透明なナノファイバーシートと、を有するゲル形成シートであって、ここで、該基材シートが多数の開孔を備えるメッシュシートである、ゲル形成シート。
[項目3]
前記不透明なナノファイバーシートが、微量の水分で瞬時に溶解し不透明から透明に変化する、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目4]
前記不透明なナノファイバーシートが、美容成分または薬効成分を含有する、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目5]
前記基材シートは、メッシュ状の貫通した穴を有する水に不溶性の透明なフィルムであり、該穴の直径は0.1~5mmであり、該基材シートは1インチ当たり10~400個の穴を備える、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目6]
前記不透明なナノファイバーシートは電界紡糸法によって前記基材シート上に積層されており、該不透明なナノファイバーシートの厚みは0.1ミクロン~3mmであり、ナノファイバーの繊維径は100~500ナノメーターである、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目7]
前記ナノファイバーシートを作製する水溶性高分子が含有する美容成分または薬効成分が水溶性であり、該美容成分または薬効成分の100gの水に対する溶解度が0.05g以上である、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目8]
前記ナノファイバーシートを作製する水溶性高分子が含有する美容成分または薬効成分が水不溶性であり、包摂化合物が該水溶性高分子に含まれる、項目1または2に記載のゲル形成シート。
[項目9]
前記不透明なナノファイバーシートを水によって肌の上で溶解するとき、前記美容成分または薬効成分が肌に塗布される、項目4に記載のゲル形成シート。
【0007】
本発明は美容成分または薬効を示す成分(すなわち、薬効成分)を含有した水溶性ナノファイバーシートを提供することもできる。例えば、本発明の水溶性ナノファイバーシートは、基材にナノファイバー不織布として積層され、シート状に視認可能な乾燥した美容液シートであり、穴の開いた透明フィルムまたはプラスチック製のメッシュを基材として電界紡糸法によって作成されたナノファイバーシートを提供する。
【0008】
また本発明は前記の水溶性ナノファイバーシートを肌に貼るとき、不透明なシートが溶解して肌に塗布される様子が視認できると同時に、シートに含有される美容成分や薬効を示す成分を均一に無駄なく肌に塗布できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、肌に適用可能な水溶性ナノファイバーシートであって、視認性が良いナノファイバーシートを提供する。また、本発明によれば、水溶性ナノファイバーシートを適量の水を用いて肌に塗布すると、視認性良くシートを無駄なくほぼ全量を肌に塗布できる。本発明の水溶性ナノファイバーシートは、美容成分や薬効を示す成分を含んでもよい。また、本発明の不透明なナノファイバーシートは、美容液や薬効成分を含むことができ、肌の上での溶解性やムラをチェックすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の水溶性ナノファイバーシートの一実施形態の構造を模式的に示す厚さ方向の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の水溶性ナノファイバーシートの一実施形態の構造を模式的に示す厚さ方向の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の水溶性ナノファイバーシートの一実施形態の構造を模式的に示す厚さ方向の断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1で得られたナノファイバーシートを顔型に打ち抜き、その半分を顔面上で溶解し美容成分を肌に塗布した様子である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、ゲル形成シート(10)は、基材シート(11)と基材シート(11)の表面に設けられたナノファイバーシート(12)と、ナノファイバーシート(12)の表面に設けられたカバーシート(14)と、を有する。また、実際に使用する際には、カバーシート(14)を取り除くため、ナノファイバーシート(12)と基材シート(11)を備えたシートとなる。
【0012】
本発明の一つの局面では、
図2に示すように、ゲル形成シート(20)は、基材シート(11)と基材シート(11)の表面に剥離可能に設けられたナノファイバーシート(12)と、ナノファイバーシート(12)の表面に設けられたゲル化領域規定シート(13)と、ゲル化領域規定シート(13)の表面に剥離可能に設けられたカバーシート(14)と、を有する。また、実際に使用する際には、カバーシート(14)を取り除くため、ゲル化領域規定シート(13)とナノファイバーシート(12)と基材シート(11)を備えたシートとなる。
【0013】
ナノファイバーシートと、ゲル化領域規定シートとは、粘着剤(15)によって貼り付けられていてもよい。また、ゲル化領域規定シートと、カバーシートとは、粘着剤(15)によって貼り付けられていてもよい。ゲル形成シートにおいて、ナノファイバーシート(12)とゲル化領域規定シート(13)とを粘着剤(15)によって貼り付け、さらに、ゲル化領域規定シート(13)とカバーシート(14)とを粘着剤(15)によって貼り付けて作製したゲル形成シート(30)を
図3に示す。
【0014】
基材シート、ナノファイバーシート、ゲル化領域規定シート、および、カバーシートは、ほぼ同じ平面形状であっても、さらに、シートを貼付したり剥がすための操作を容易にするための把持部を備えていてもよい。ゲル化領域規定シートは、打ち抜かれた領域、および/または、欠けている領域を備え、その打ち抜かれた領域、および/または、欠けている領域では、ゲルの形成が意図される標的とされる部位(例えば、皮膚上の目的の領域)にナノファイバーシートが直接的に接する。
【0015】
(ナノファイバーシート)
ナノファイバーシート(12)は、ナノファイバーのみから構成されていて、水溶性高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれを用いてもよい。本発明のナノファイバーシートは、好ましくは水溶性である。天然高分子としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース等が挙げられる。合成高分子としては、例えば部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバーの調製が容易である観点から、プルラン等の天然高分子、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。ナノファイバーに含まれる水溶性高分子化合物の割合は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。上限値に特に制限はなく、水溶性高分子化合物の割合がナノファイバーに対して100質量%でも良い。ナノファイバーが水溶性高分子化合物を含有する場合には、該ナノファイバーに他の成分を含有させることもできる。他の成分としては、例えば薬用成分、保湿成分、各種ビタミン、香料、紫外線防御剤、界面活性剤、着色顔料、体質顔料、染料、安定剤、防腐剤、及び酸化防止剤などが挙げられる。これらの成分は単独で使用することもでき、あるいは2種以上を組み合わせて一つのナノファイバーに含有させることもできる。ナノファイバーに他の成分を含有させる場合、他の成分が水中に溶出可能な状態で含有していれば特に制限はない。ナノファイバーに水不溶性の成分(例えば、美容成分および/または薬効成分など)を含有させる場合、包摂化合物をさらに添加することによって、水不溶性の成分を含んだナノファイバーを作製することが可能である。ナノファイバーに他の成分を含有させる方法としては、例えば、ナノファイバーと他の成分とが水に完全に溶解した状態下で混合して調製することによって、ナノファイバーに他の成分を含有させることができる。ナノファイバーに他の成分を含有させる形態が上述のいずれであっても、ナノファイバーに含まれる他の成分の割合は、0.1%以上が好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、またその上限値は20%以下であることが好ましく、15%以下であることが好ましい。他の成分の含有割合を20%以下にすることで、ナノファイバーの電界紡糸を効率よく行うことができる。
【0016】
一方、ナノファイバーを構成する水溶性ポリマーとしては、例えば天然高分子や合成高分子から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。天然高分子としては、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。合成高分子としては、アクリル酸系ポリマー、ビニル系ポリマー、エチレングリコールなどである。
【0017】
上記ナノファイバーシートの坪量は、0.01g/m2以上、0.1g/m2以上であってもよいが、不透明なナノファイバーシートの作製のためには、好ましくは1m2あたり1.0g以上である。また、坪量は、好ましくは10g/m2以下であり、更に好ましくは5g/m2以下である。具体的には、ナノファイバーシートの坪量は、好ましくは1.0g/m2以上5.0g/m2以下である。
【0018】
本明細書でいうナノファイバーシートは、例えば、エレクトロスピニング法(電界防止法)によって得られたナノファイバーからなる繊維構造体を包含する。ナノファイバーの作製方法は、特に限定されることはなく、周知の他の方法を使用することが可能である。本発明において使用される不透明なナノファイバーシートは、繊維径、シート厚み、および坪量からなる群から選択されるパラメータを制御しながらエレクトロスピニング法などによって繊維構造体を調製することによって製造される。不透明なナノファイバーシートの製造において、好ましい繊維径は100nm~500nmである。不透明なナノファイバーシートの製造において、ナノファイバーシートの厚みは、好ましくは0.1ミクロン~3mm、より好ましくは1ミクロン~1mmである。不透明なナノファイバーシートの製造において、坪量は、好ましくは1m2あたり1.0g以上である。不透明なナノファイバーシートの製造において、坪量は、好ましくは1m2あたり5.0g以下である。
【0019】
本発明において使用する不透明なナノファイバーシートを製造する場合、繊維径、シート厚み、および坪量の全てを厳密に上記数値範囲内とすることは必ずしも必要ではない。当業者は、目的の不透明度を達成するために、上記パラメータの少なくとも1つを適宜調整して、ナノファイバーシートを作製することができる。
【0020】
ナノファイバーシートの不透明度は、肉眼による観察にて測定することができる。あるいは、660nmの光源を採用する分光光度計を使用して透過率から不透明度を測定することも可能である。あるいは、JIS P 8148「紙、板紙及びパルプ-ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」(ISO 2470 MOD)やJIS P 8149「紙及び板紙―不透明度試験方法(紙の裏当て)―拡散照明法」(ISO 2471 MOD)などを利用することも可能である。代表的には、JISP8149において規定される不透明度を客観的な指標とすることも可能である。本発明のナノファイバーシートにおける好ましい不透明度は、光透過率が10%以下である。しかしながら、光透過率が10%を超えるナノファイバーシートも本発明において製造可能であり、当業者は、本発明において、目的に応じて所望の光透過率を有する不透明なナノファイバーシートを製造することができる。本発明において製造される不透明なナノファイバーシートは、光透過率が80%以下、光透過率が70%以下、光透過率が60%以下、光透過率が50%以下、光透過率が40%以下、光透過率が30%以下、光透過率が20%以下、または、光透過率が10%以下である。
【0021】
本発明の不透明なナノファイバーシートは、微量の水分を適用することによって溶解し、透明となる。例えば、
図4示す形状の不透明のナノファイバーシートを作製し、右半分にのみ水分を提供すると、右半分のみが透明となる(
図4参照)。
【0022】
ナノファイバーシートを作製する水溶性高分子に含有される美容成分または薬効成分は100gの水に対する溶解度が好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上である。水不溶性の成分を使用する場合、シクロデキストリンなどの包摂化合物によって水溶性となったものを使用する。
【0023】
(基材シート)
基材シートとしては水不溶性のものであることが好ましい。水不溶性高分子化合物としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などがある。
【0024】
基材シートの形態としては、貫通する穴を持ったフィルムやメッシュ状のものであることが好ましい。基材シートが穴の開いたフィルムの形態である場合、その厚さは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。また、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましい。具体的には、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0025】
基材シートが透明のフィルムまたはメッシュの形態であることは、水溶性ナノファイバーシートを皮膚に貼付した場合に、貼付部位の皮膚の状態や、ナノファイバーシートの溶解状態を、基材シートを通じて視認することができる。また、皮膚の状態や、水溶性ナノファイバーシートの溶解状態が、使用者にもはっきりと視認できる。代表的には、基材シートの穴の直径は、0.1~5mmである。また、代表的には1インチあたり10~400個の穴(例えば、四角形または多角形)を有する。
【0026】
一般的にプラスチックメッシュに直接紡糸するとプラスチックメッシュの帯電性により防止されたナノファイバーシートが基材と強く結合し、基材から簡単に剥離できなくなるからである。そのため特許第5563908号などに示される従来技術においては、プラスチックメッシュを使う場合は基材を予め帯電防止処理する必要があった。これに対して本発明では、必ずしも基材シートをナノファイバーシートから剥離して使用する必要がない。例えば、本発明では、基材シートとナノファイバーシートを剥離することなく皮膚などの対象となる領域に貼付し、その上から水分を適用することによりナノファイバーシートをゲル化することにより対象となる領域上にゲルを形成する。ゲルが形成された場合、基材シートは容易にゲルから剥離される。そのため、本発明の基材シートは、帯電防止処理をする必要がない。
【0027】
(ゲル化領域規定シート)
ナノファイバーシートがゲル化する領域を限定するために、ナノファイバーシートと適用部位との間にゲル化領域規定シートを備えてもよい。また、ナノファイバーシートが予めゲルを形成する領域の形状である場合、ゲル化領域規定シートを備える必要はない(
図1参照)。ゲル化領域規定シートとしては、基材シートと同じ材料を用いても、基材シートと異なる材料を用いてもよい。
【0028】
好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド繊維、レーヨン繊維、その他の合成繊維製からなる不織布や、綿、絹、麻、パルプ(セルロース)繊維等が混合されて製造された不織布等が挙げられる。
【0029】
これらの不織布のなかでも、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維からなる不織布であるのが好ましい。特に好ましくは、カバーシートとして、ポリプロピレン、レーヨンからなる不織布であり、熱処理(スパンボンド)されたポリプロピレン、レーヨンからなる不織布である。また、本発明において、和紙をゲル化領域規定シートとして使用してもよい。
【0030】
ゲル化領域規定シートは、ゲルを形成する領域を規定する。すなわち、ゲル化領域規定シートは、打ち抜かれた領域、および/または、欠けている領域を備え、その打ち抜かれた領域、および/または、欠けている領域では、ナノファイバーシートが直接的にゲルの形成が意図される標的とされる部位(例えば、皮膚)に接する。
【0031】
(カバーシート)
カバーシートとしては、基材シートと同じ材料を用いても、基材シートと異なる材料を用いてもよい。
【0032】
好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド繊維、レーヨン繊維、その他の合成繊維製からなる不織布や、綿、絹、麻、パルプ(セルロース)繊維等が混合されて製造された不織布等が挙げられる。
【0033】
これらの不織布のなかでも、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維からなる不織布であるのが好ましい。特に好ましくは、カバーシートとして、ポリプロピレン、レーヨンからなる不織布であり、熱処理(スパンボンド)されたポリプロピレン、レーヨンからなる不織布である。
【0034】
(粘着剤)
ゲル形成シート(30)において、ナノファイバーシート(12)とゲル化領域規定シート(13)とを粘着剤(15)によって貼り付けてもよい。粘着剤を使用しない場合は、静電的相互作用または疎水的相互作用などによって貼り付けてもよい。さらに、ゲル化領域規定シート(13)とカバーシート(14)とを粘着剤(15)によって貼り付けてもよい。粘着剤を使用しない場合は、静電的相互作用または疎水的相互作用などによって貼り付けてもよい。
【0035】
粘着剤としては、例えば、アクリル樹脂系、ゴム系の粘着剤を用いることができる。その主剤としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸エステル、塩化ゴム、天然ゴム、合成ゴム、再生ゴムが挙げられるがこれらに限定されない。好ましい粘着剤は、アクリル樹脂系の粘着剤である。
【0036】
(ゲル形成シートの製造)
本発明のゲル形成シートの製造は、限定されることはないが、代表的には、
(1)基材シート上にナノファイバーシートを形成する工程;
(2)基材シート上に形成されたナノファイバーシート上にゲル化領域規定シートを貼り付けて重層化する工程;および
(3)上記(2)で形成された重層化シートのゲル化領域規定シート上にさらにカバーシートを貼り付けて重層化する工程;
を含んでもよい。
【0037】
あるいは、別の実施形態では、本発明のゲル形成シートの製造は、
(1)基材シート上にナノファイバーシートを形成する工程;
(2)ゲル化領域規定シート上にカバーシートを貼り付けて重層化したシートを作製する工程;
(3)基材シート上に形成されたナノファイバーシート上に上記(2)で作製したシートを貼り付けて重層化する工程であって、ナノファイバーシートに対して、上記(2)で作製したシートのゲル化領域規定シートの面が接する、工程
を含んでもよい。
【0038】
上記の重層化では、粘着剤を用いても用いなくてもよい。粘着剤を使用しない場合、静電的相互作用または疎水的相互作用などによって重層化してもよい。
【0039】
(ゲル形成シートの使用)
例えば、本発明のゲル形成シートによって、顔の表面や創傷部位など皮膚表面にゲルを形成する場合、(1)ゲル形成シートからカバーシートを剥がす、(2)カバーシートを剥がした面を、皮膚などの所定の場所に貼る、(3)皮膚などの所定の場所に貼付したシートから基材シートを剥がす(これにより、ナノファイバーシートおよびゲル化領域規定シートが剥がれることなく皮膚上に残る)、(4)皮膚上に残ったナノファイバーシートおよびゲル化領域規定シートに対して、水溶液または水を添加ナノファイバーシートを瞬時にゲル化させる、(5)ゲル化領域規定シートを剥がすことによって、ゲル化領域規定シートによって規定される面積にゲルを形成することができる。上記(4)の水溶液または水の添加は、スプレーや加湿器などの噴霧器を用いてもよい。
【0040】
本発明の別の実施形態では、以下の手順により、本発明のゲル形成シートによって、顔の表面や創傷部位など皮膚表面にゲルを形成する場合、(1’)ゲル形成シートからカバーシートを剥がす、(2’)カバーシートを剥がした面を、予め水溶液または水を塗布した皮膚などの所定の場所に貼る、という手順によって、皮膚などの所定の表面にゲルを形成することができる(なお、ゲル形成が十分でない場合には、基材シートを剥がした後に水溶液または水を添加してもよい)。その後、(3’)(ア)皮膚などの所定の場所に貼付したシートから基材シートを剥がし、続いて、ゲル化領域規定シートを剥がすか、あるいは、(イ)皮膚などの所定の場所に貼付したシートから、基材シートおよびゲル化領域規定シートを同時に剥がす。
【0041】
上記(4)の水溶液もしく水、あるいは、上記(2’)において予め標的となる表面に塗布しておく水溶液または水には、所望の物質、例えば、医療用成分(例えば、抗生物質または抗菌剤)、あるいは、化粧用成分を含ませてもよい。あるいは、形成されるゲルにおいて望まれる物理的性質に応じて、例えば、硬いゲルを形成することが望まれる場合、アルギン酸からゲルを形成する場合にはカルシウムを添加してもよく、または、ヒアルロン酸からゲルを形成する場合には亜鉛やコンドロイチン硫酸などを添加してもよい。
【実施例0042】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図1に示す構造を有する不透明の水溶性ナノファイバーシートを備えるゲル形成シートを製造した。基材シートとして厚さ50ミクロン、200メッシュのポリプロピレン(PP)メッシュシート(日本製さんさんネット)を用いた。このPPメッシュの上にPVA、ヒアルロン酸Naのナノファイバ-を形成した。ナノファイバーの太さは150~200nmであり、シートの厚みは10~15μmであり、ナノファイバーシートの坪量は1.8g/m
2であった。
【0044】
これを、顔全面を覆う楕円形に打ち抜き、被験者の顔全面にスプレーによって精製水をほぼ均一になるように吹き付けたのち、基材面を外側に、水溶性ナノファイバー面を顔側にして押し付けるようにして貼付し、全体をなじませるように押さえてナノファイバーを溶解させた。被験者が自らシートが溶解した状態を確認したのち、基材のメッシュを顔から外し、顔に塗布されたナノファイバーシートが乾燥するまで待って、その貼り心地や効果について検証した。比較には日本の大手化粧品会社が販売しているフルフェイス型の美容液を含んだシートマスクを使用し、同様に貼り心地や効果について検証した。
【0045】
【0046】
10例の報告の結果を上記表1に示した。
【0047】
(実施例2)
図1に示す構造を有する不透明の水溶性ナノファイバーシートを備えるゲル形成シートを製造した。基材シートとして厚さ50ミクロン、200メッシュのポリプロピレン(PP)メッシュシート(日本製さんさんネット)を用いた。このPPメッシュの上にPVA、ヒアルロン酸Naにカフェインを2%添加したナノファイバーを形成した。ナノファイバーの太さは250~300nmであり、シートの厚みは10~15μmであり、ナノファイバーシートの坪量は2.0g/m
2の白いシートであった。
【0048】
これを目の下に匹敵する幅2cm長さ7cmの眉形に打ち抜き、被験者の目に沿って精製水をほぼ均一になるようにコットンにしみこませて塗布し、基材面を外側に、水溶性ナノファイバー面を顔側にして押し付けるようにして貼付し、全体をなじませるように押さえてナノファイバーを溶解させた。被験者が自らシートが溶解しシートが透明となった状態を確認したのち、基材のメッシュを顔から外し、顔に塗布されたナノファイバーシートが乾燥するまで待って、目のクマや貼った部位の状態について観察した。比較には日本の大手化粧品会社が販売している眉型の美容液を含んだシートマスクを使用し、同様に目のクマや貼った部位の状態について観察した。
【0049】
【0050】
10例の報告の結果を上記表2に示した(ただし、目のクマは10例中7例に存在)。
【0051】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される
本発明によれば、顔の表面や創傷部位などにおいて短時間に簡単にゲルやフィルムを形成するためのシートおよび方法が提供される。例えば、本発明は、美容効果や創傷被膜によるキズの保護、および薬剤の貼付などを行うシートおよび方法が提供される。また、本発明のナノファイバーシートは不透明であることから、本発明によって肌に適用可能な水溶性ナノファイバーシートであって、視認性が良いナノファイバーシートが提供される。