(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097657
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂複合シートおよび繊維強化樹脂複合シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20240711BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20240711BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B5/28 Z
B29C70/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001263
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】畠山 広大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬洋
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AK01A
4F100AK01B
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4F205HB01
4F205HC06
4F205HF05
4F205HM13
4F205HT13
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】良好な難燃性および成形加工性を有し、かつ意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートを提供することができる繊維強化樹脂複合シートを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂複合シートは、チョップ材が分散した状態で堆積し、かつ一体化してなるチョップドシートと、チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されており、所定の結合および基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる耐熱性樹脂フィルムとを含み、繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂と繊維方向が同一方向に配向した状態で難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維とを含み、耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下であり、かつ耐熱性樹脂フィルムのUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上であり、厚さが350μm以下であり、かつUL94V燃焼試験の燃焼性分類がV-0である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物であるチョップ材が分散した状態で堆積し、かつ一体化してなるチョップドシートと、前記チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されており、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる耐熱性樹脂フィルムと、を含み、
前記繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂と、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維と、を含み、
前記耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下であり、かつ、前記耐熱性樹脂フィルムのUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上であり、
厚さが350μm以下であり、かつ、UL94V燃焼試験の燃焼性分類がV-0である、繊維強化樹脂複合シート。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂フィルムの樹脂は、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、およびポリフェニルスルフィド樹脂から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の繊維強化樹脂複合シート。
【請求項3】
前記ポリエーテルイミド樹脂は、リサイクルされたポリエーテルイミド樹脂である、請求項2に記載の繊維強化樹脂複合シート。
【請求項4】
難燃性熱可塑樹脂フィルムをさらに含み、かつ、
前記耐熱性樹脂フィルムは、前記耐熱性樹脂フィルムと前記チョップドシートの間に前記難燃性熱可塑樹脂フィルムを挟んで、前記チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されている、請求項1に記載の繊維強化樹脂複合シート。
【請求項5】
繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物であるチョップ材の分散した状態における堆積物と、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる耐熱性樹脂フィルムとを積層し、加圧下において前記耐熱性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱して一体化する工程を含み、
前記繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂と、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維と、を含み、
前記耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下であり、かつ、前記耐熱性樹脂フィルムのUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上である、繊維強化樹脂複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有し、かつ意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性のマトリックス樹脂と強化繊維とから構成される中間材料としての繊維強化樹脂シート(すなわち、プリプレグ)は、その優れた二次加工性の観点から、様々な形状の成形品の製造に用いられている。
【0003】
また、このような繊維強化樹脂シートに意匠性が付与されたシート(以下、「高意匠性の繊維強化樹脂複合シート」または単に「繊維強化樹脂複合シート」とも称する)も多く利用されている。一般的に、高意匠性の繊維強化樹脂複合シートを作製する方法としては、マトリックス樹脂と強化繊維とから構成されるシートの表層に織物等からなるクロス材を重ねる方法が広く知られている。
【0004】
一方、特許文献1には、織物等からなるクロス材を用いない新たな方法によって作製される高意匠性の繊維強化樹脂複合シートが記載されている。具体的には、特許文献1には、表面層の一方向(UD:Uni-Directional)シート片に、非矩形状に歪んだシート片が含まれている意匠性に優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)シートが記載されている。また、このようなCFRPシートは、次の方法によって製造できることが記載されている。まず、二次元方向に並べた多数のUDシート片に溶融樹脂をコーティングして熱プレスすることにより、CFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製する。その後、この中間シート材をさらに熱プレスすることによって、表面層のUDシート片を歪ませることができる。
【0005】
このような高意匠性の繊維強化樹脂複合シートは、例えば、様々な製品の筐体、部材等に適用、貼付等をすることによって、それらの意匠性を容易に高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/009125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ノートパソコン、ディスプレイ、デスクトップ等のパソコン周辺機器、スマートフォン、タブレット、ビデオカメラ、モバイル機器、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の電子機器、電気機器等の筐体、部材等に、前述した高意匠性の繊維強化樹脂複合シートを適用する場合、機器内部からの発熱によって、筐体、部材等が発火して、燃焼してしまうおそれがある。このような事故を防ぐために、電子機器、電気機器等の筐体、部材等に適用される場合、繊維強化樹脂複合シートは、難燃性を有することが必要とされる。
【0008】
繊維強化樹脂複合シートの難燃性を向上させる方法としては、繊維強化樹脂複合シートに対する強化繊維の体積含有率Vf(%)を増加させる方法、および/またはシートに含まれるマトリックス樹脂を難燃性樹脂とする方法がある。しかしながら、強化繊維の体積含有率Vf(%)を増加させると、繊維強化樹脂複合シート自体の厚さが大きくなってしまう。その結果、シートの成形加工性が悪くなり、様々な筐体、部材等に適用して意匠性を高めるためのシートとして適さなくなってしまう。
【0009】
一方、繊維強化樹脂複合シートに含まれるマトリックス樹脂に難燃性樹脂を使用しただけでは、所望する難燃性は得られない。また、別の方法として、一般的な難燃性樹脂からなるフィルムをシート上にさらに積層する方法によっても、所望する難燃性を得ることは難しい。加えて、このように難燃性樹脂フィルムをシート上にさらに積層する場合、シート全体の合計の厚さも増加するため、成形加工性にも影響を及ぼしてしまう。その結果、意匠性を高めるためのシートとして適さなくなる可能性もある。このように、繊維強化樹脂複合シートにおいて、所望する難燃性と意匠性を高めるためのシートとして好適な成形加工性の両方が得られるように調整することは難しい。
【0010】
そこで、本発明は、良好な難燃性および成形加工性を有し、かつ意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0012】
本発明の第一の局面に係る繊維強化樹脂複合シートは、繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物であるチョップ材が分散した状態で堆積し、かつ一体化してなるチョップドシートと、前記チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されており、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる耐熱性樹脂フィルムと、を含み、
前記繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂と、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維と、を含み、
前記耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下であり、かつ、前記耐熱性樹脂フィルムのUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上であり、
厚さが350μm以下であり、かつ、UL94V燃焼試験の燃焼性分類がV-0である。
【0013】
前述の繊維強化樹脂複合シートにおいて、前記耐熱性樹脂フィルムの樹脂は、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、およびポリフェニルスルフィド樹脂から選択される1つ以上を含むことが好ましい。
【0014】
上記繊維強化樹脂複合シートにおいて、前記ポリエーテルイミド樹脂は、リサイクルされたポリエーテルイミド樹脂であることがより好ましい。
【0015】
前述の繊維強化樹脂複合シートにおいて、難燃性熱可塑樹脂フィルムをさらに含み、かつ、
前記耐熱性樹脂フィルムは、前記耐熱性樹脂フィルムと前記チョップドシートの間に前記難燃性熱可塑樹脂フィルムを挟んで、前記チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されていることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の第二の局面に係る繊維強化樹脂複合シートの製造方法は、繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物であるチョップ材の分散した状態における堆積物と、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる耐熱性樹脂フィルムとを積層し、加圧下において前記耐熱性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱して一体化する工程を含み、
前記繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂と、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維と、を含み、
前記耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下であり、かつ、前記耐熱性樹脂フィルムのUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な難燃性および成形加工性を有し、かつ意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す繊維強化樹脂複合シートの可視面側からみた外観を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、チョップドシートを作製する方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第2の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す繊維強化樹脂複合シートの可視面側からみた外観を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、良好な難燃性および成形加工性を有し、かつ意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートについて、鋭意検討を行った。その結果、本発明に到達した。具体的には、難燃性樹脂を含む繊維強化樹脂シートの裁断物であるチョップ材からなるシート(以下、「チョップドシート」とも称する)の少なくとも一方の面に、所定の結合および/または基、所定の特性ならびに所定の範囲内の厚さを有する耐熱性樹脂フィルムを積層一体化することによって、前述したような繊維強化樹脂複合シートを提供することができる。
【0020】
本明細書全体において、「積層一体化」または「一体化」とは、必要に応じて加圧、加熱処理等が施されることによって、対象となるチョップ材、チョップドシート、耐熱性樹脂フィルム、難燃性熱可塑樹脂フィルム、難燃性熱可塑樹脂(樹脂マトリックス)、強化繊維等が、一部溶融した樹脂により、互いに接着、融着、圧着、含浸等している状態を意味する。
【0021】
本明細書において、「意匠性に優れる」または「良好な意匠性を有する」とは、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの少なくとも一方の面である可視面側から、当該シートの外観を目視にて確認した際、何らかの柄、模様等が確認できることを意味する。本明細書において、「可視面側」とは、繊維強化樹脂複合シートの良好な意匠が確認可能なシートの表面側のことを意味する。
【0022】
本明細書において、「繊維強化樹脂複合シート」、「難燃性熱可塑樹脂フィルム」および「耐熱樹脂フィルム」の厚さは、後の実施例で述べるように、膜厚計(デジマチックインジケーター)を用いて測定した厚さを意味する。
【0023】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0024】
<繊維強化樹脂複合シートの構成>
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例および第2の構成例を以下説明する。なお、いずれの構成例の繊維強化樹脂複合シートも、後述する本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの物性を満たす。
【0025】
1.繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例
まず、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例の全体構成を、図面を参照しながら説明する。
図1に、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例の断面図を模式的に示す。
図1に示すように、繊維強化樹脂複合シート1は、チョップドシート2と、耐熱性樹脂フィルム3とを含む。チョップドシート2は、チョップ材4(多数のチョップ材4)が一体化してなる。耐熱性樹脂フィルム3は、チョップドシート2の一方の面に積層一体化されている。
【0026】
耐熱性樹脂フィルム3は、チョップドシート2の少なくとも一方の面に積層一体化されていればよく、例えば、
図1に示す耐熱性樹脂フィルム3は、チョップドシート2の両面に積層一体化されていてもよい。その場合、繊維強化樹脂複合シートの両面を可視面側としてもよい。
【0027】
本明細書において、「耐熱性樹脂フィルムはチョップドシートの一方の面(または、少なくとも一方の面)に積層一体化されている」とは、本第1の構成例のように耐熱性樹脂フィルムとチョップドシートとがその間に他のフィルムまたは層を挟まずに積層一体化されていてもよいし、または後述する第2の構成例のように耐熱性樹脂フィルムとチョップドシートとがその間に他の1つ以上のフィルム(例えば難燃性熱可塑樹脂フィルム等)および/または層を挟んで積層一体化されていてもよいことを意味する。
【0028】
また、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、シートの難燃性、成形加工性および意匠性の効果を損なわない限り、積層一体化された耐熱性樹脂フィルムおよびチョップドシートの少なくとも一方のさらに外側に他の1つ以上のシート(例えばさらなる1枚以上のチョップドシート等)、フィルム(例えばさらなる1枚以上の耐熱性樹脂フィルム、難燃性熱可塑樹脂フィルム等)および/または層が積層一体化されていてもよい。
【0029】
図2に、
図1に示す繊維強化樹脂複合シートの可視面側からみた外観を模式的に示す。
図2に示すように、第1の構成例における繊維強化樹脂複合シートの可視面側から見た外観は、略矩形状のチョップ材積層柄の優れた意匠を有する。
【0030】
次いで、繊維強化樹脂複合シートの第1の構成例に含まれる各構成要素を説明する。
【0031】
[チョップドシート]
チョップドシートは、繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物であるチョップ材が分散した状態で堆積し、かつ一体化してなるシートである。チョップドシートの中間材料である繊維強化難燃性樹脂シートは、難燃性熱可塑樹脂(マトリックス樹脂)と、繊維方向が同一方向に配向した状態で当該難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維とを含む。
【0032】
本明細書において、「難燃性熱可塑樹脂」とは、難燃性特性を有する熱可塑樹脂、および必要に応じて難燃剤が添加された熱可塑樹脂の両方を意味する。さらに、難燃性熱可塑樹脂は、必要に応じて、難燃剤以外の他の添加剤等も含んでもよい。以下、難燃性熱可塑樹脂および複数の強化樹脂について説明する。
【0033】
(難燃性熱可塑樹脂)
難燃性熱可塑樹脂として用いられる樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等のポリスチレン系樹脂、PA9T等のポリアミド(PA)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリフェニルスルフィド(PPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、またはこれらの共重合体樹脂もしくは変性樹脂等が挙げられる。
【0034】
難燃性熱可塑樹脂の種類は、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートが後述の燃焼性分類の物性を満たすように、必要に応じて添加される難燃剤の種類およびその量、強化繊維の体積含有率Vf(%)、耐熱性樹脂フィルムの樹脂の種類等も考慮しつつ、適切な種類を選択すればよい。
【0035】
難燃性熱可塑樹脂は、単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、チョップドシートは、2種以上の難燃性熱可塑樹脂を含む樹脂混合物から作製された1種のチョップ材が一体化してなるシートであってもよい。あるいは、チョップドシートは、2種以上の難燃性熱可塑樹脂から作製された2種以上のチョップ材が所定の比率で混合され、一体化してなるシートであってもよい。
【0036】
必要に応じて添加される難燃剤は、特に限定されないが、例えば、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、その他の難燃剤等が挙げられる。
【0037】
リン系難燃剤としては、例えば、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤、含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤、その他のリン系難燃剤等が挙げられる。
【0038】
芳香族リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリフェニルフォスフェート、クレジルフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリキシリニルフォスフェート、トリス(t-ブチル化フェニル)フォスフェート、トリス(i-プロピル化フェニル)フォスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルフォスフェート等が挙げられる。芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、1,3フェニレンビス(ジフェニルフォスフェート)、1,2フェニレンビス(ジキシレニルフォスフェート)等が挙げられる。含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリス(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、2,2ビス(ジクロロメチル)トリメチレン,ビス(2-クロロエチル)フォスフェート等が挙げられる。その他のリン系難燃剤としては、例えば、赤燐、リン酸エステルアミド、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
ハロゲン系難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等が挙げられる。
【0040】
臭素系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、ビス(ペンタブロモフェニール)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、エチレンビステトラブロモフタールイミド、環状脂肪族系のヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、デクロラン、クロレンド酸、無水クロレンド酸等が挙げられる。
【0041】
シリコーン系難燃剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルオクチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリジメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン、ポリメチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)シロキサン等が挙げられる。
【0042】
無機系難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、5酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、モンモリロナイト、シリカ、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、硫化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム、ゼオライト、低融点ガラス等が挙げられる。
【0043】
その他の難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン、トリアジン化合物、グアニジン化合物、パーフルオロブタンスルフォン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルフォン酸カリウム、ジフェニルスルフォン酸カリウム、ジフェニルスルフォン-3-スルフォン酸カリウム、p-トルエンスルフォン酸カリウム、ヒンダードアミン化合物、膨張性黒鉛等が挙げられる。
【0044】
必要に応じて添加される難燃剤も、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートが後述の燃焼性分類の物性を満たすように、難燃性熱可塑樹脂の種類、強化繊維の体積含有率Vf(%)、耐熱性樹脂フィルムの樹脂の種類等も考慮しつつ、その種類を選択し、適切な量に調整すればよい。
【0045】
具体的には、例えば、難燃性熱可塑樹脂中において、難燃剤を、樹脂100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下程度含ませればよい。あるいは、前述したように、熱可塑樹脂自体が好適な難燃性特性を有する場合、難燃剤は添加しなくてもよい。
【0046】
加工性に優れた繊維強化難燃性樹脂シートが得られ、かつ最終的に本実施形態の繊維強化樹脂複合シートの燃焼性分類の物性を達成し易いという観点から、繊維強化難燃性樹脂シートに含まれる難燃性熱可塑樹脂は、リン系難燃剤を含むポリカーボネート樹脂であることが好ましい。また、難燃性熱可塑樹脂は、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤および含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤のうちの1つ以上を含むポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。さらに、資源の有効利用およびコスト低減の観点から、難燃性熱可塑樹脂は、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤および含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤のうちの1つ以上を含むリサイクルされたポリカーボネート樹脂であることが特に好ましい。
【0047】
あるいは、樹脂自体の難燃性が顕著に高く、難燃剤を添加しなくても最終的に繊維強化樹脂複合シートの燃焼性分類の物性を達成し易いとの観点から、難燃性熱可塑樹脂は、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂であることが好ましい。また、資源の有効利用およびコスト低減の観点から、難燃性熱可塑樹脂は、リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂であることがさらに好ましい。リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂は、成形加工時のスクラップ品、不良品等から入手することができる。あるいは、リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂は、市販されているリサイクル品を用いることもできる。
【0048】
難燃性熱可塑樹脂は、必要に応じて、本実施形態における難燃性、成形加工性および意匠性の効果を損なわない範囲で、公知の様々な添加剤を含んでもよい。例えば、難燃性熱可塑樹脂の貯蔵安定性向上、固化物の変色または変質の回避のために、酸化防止剤、光安定剤、耐候性改良材等が添加されていてもよい。
【0049】
(複数の強化繊維)
複数の強化繊維は、繊維方向が同一方向に配向した状態で、前述の難燃性熱可塑樹脂に一体化されている。一体化された複数の強化繊維は、強化繊維束から開繊した複数の強化繊維である。
【0050】
本明細書において、「(複数の強化繊維の)繊維方向が同一方向に配向した状態」とは、各々の強化繊維の繊維方向が略平行方向に延びている状態を意味する。
【0051】
強化繊維の材料としては、特に限定されず、繊維強化樹脂シートを構成する強化繊維として当業者に公知の任意の繊維から適宜選択すればよい。具体例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、バサルト繊維等の各種の繊維を用いることができる。これらのうち、チョップドシートの強度および耐食性等の向上の観点から、強化繊維は炭素繊維であることがより好ましい。炭素繊維は、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維であることがさらに好ましい。
【0052】
(チョップドシートの製造方法、構成および物性)
チョップドシートを製造するための中間材料となる繊維強化難燃性樹脂シートは、上述した難燃性熱可塑樹脂および複数の強化繊維を用いて製造することができる。以下、チョップドシートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0053】
まず、難燃性熱可塑樹脂、具体的にはフィルム状に成形された難燃性熱可塑樹脂の一方または両方の面に、繊維方向が同一方向に配向した状態となるように、加圧、加熱処理等を施すことによって、難燃性熱可塑樹脂と複数の強化繊維とを一体化させる。
【0054】
なお、フィルム状の難燃性熱可塑樹脂は、フィルムとして、後述する耐熱性樹脂フィルムと同様に、ASTM D4804規格に準拠するUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上(すなわち、VTM-0またはVTM-1)であることが好ましい。このような難燃特性を満たすフィルム状の難燃性熱可塑樹脂を用いてチョップドシートを製造することにより、最終的により良好な難燃性を有する繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。
【0055】
フィルム状の難燃性熱可塑樹脂は、当業者に公知である任意の方法を適用して成形することができる。フィルムの成形方法としては、特に限定されないが、例えば、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、溶融押出成形法、溶液流延法、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。
【0056】
その結果、
図3に示すように、繊維強化難燃性樹脂シート5を得ることができる。より高い強度が得られ、かつ加工時のハンドリング性に優れるとの観点から、複数の強化繊維は、フィルム状の難燃性熱可塑樹脂の両方の面に一体化されることが好ましい。なお、繊維強化難燃性樹脂シートの厚さは、例えば、20μm以上100μm以下程度である。
【0057】
次いで、
図3に示すように、繊維強化難燃性樹脂シート5を、例えば略矩形状に裁断することによって、チョップドシートを製造するために用いられるチョップ材4を得る。従って、チョップ材4は、繊維強化難燃性樹脂シート5と同様に、難燃性熱可塑樹脂と、その繊維方向が同一方向に配向した状態で難燃性熱可塑樹脂に一体化された複数の強化繊維とを含む。
【0058】
図3に示す例のように、チョップ材4が略矩形状である場合、チョップ材の短辺の長さは、特に限定されないが、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。チョップ材の短辺の長さは、30mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。チョップ材の長辺の長さは、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。チョップ材の長辺の長さは、50mm以下であることが好ましく、35mm以下であることがより好ましい。
【0059】
さらに、
図3に示すように、このような略矩形状のチョップ材4を分散した状態で堆積し、加圧、加熱処理等を施すことによって一体化させると、チョップドシート2が形成される。チョップドシート2における一体化されたそれぞれのチョップ材4は、本第1の構成例のように元の形状を概ね維持していてもよいし、または後の第2の構成例で述べるように樹脂の溶融により元の形状から歪んだ形状に変形していてもよい。このようなチョップ材4の形状の維持または変形は、チョップドシート2および/または繊維強化樹脂複合シートの製造時において、加圧および加熱の条件を適宜調整し、樹脂の溶融の程度を調節することによって制御することができる。
【0060】
すなわち、本明細書において、「チョップ材」とは、繊維強化難燃性樹脂シートの裁断物自体だけでなく、一体化された後における元の形状を概ね維持しているチョップ材、および樹脂の溶融により元の形状から歪んだ形状に変形したチョップ材も包含する全ての形状のチョップ材を意味する。
【0061】
チョップドシート2の厚さは、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートの厚さが後述する所定の厚さを満たす限り、特に限定されない。例えば、チョップドシート2の厚さは、100μm以上330μm以下であればよい。チョップドシート2の厚さが100μm以上であると、チョップドシート2の中において空隙が少なく、最終的により良好な意匠性を有する繊維強化樹脂複合シートが得られる。チョップドシート2の厚さが330μm以下であると、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートにより良好な成形加工性を付与することができる。本実施形態の繊維強化樹脂複合シートが一枚のチョップドシート2を含む場合、前述したチョップドシート2の厚さは、一枚のチョップドシートの厚さを指す。一方、前述したように、本実施形態の繊維強化樹脂複合シートにおいて、さらなる1枚以上のチョップドシートが積層一体化されている場合、前述したチョップドシート2の厚さは、2枚以上のチョップドシートの合計の厚さを指す。
【0062】
チョップドシート2に対する強化繊維の体積含有率Vf(%)は、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートが後述する難燃性分類および成形加工性の物性を満たすように、難燃性熱可塑樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類およびその量、耐熱性樹脂フィルムの樹脂の種類、他の樹脂フィルムの厚さ等も考慮しつつ、適宜調整すればよい。例えば、強化繊維の体積含有率Vf(%)は、30%以上65%以下程度である。強化繊維の体積含有率Vf(%)は、例えば燃焼法によって測定することができる。
【0063】
このようなチョップドシート2を積層一体化させた状態で繊維強化樹脂複合シートに含ませることによって、最終的にチョップ材が分散した柄の意匠性に優れた繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。
【0064】
例えば、チョップ材4は、二次元的にランダムに分散した状態、すなわち疑似等方性を有するように分散した状態で堆積し、一体化(積層一体化)されることが好ましい。このようにチョップ材を分散させることによって、最終的に、
図2に示したような、略矩形状のチョップ材積層柄の意匠を有する繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。
【0065】
[耐熱性樹脂フィルム]
耐熱性樹脂フィルムは、加圧、加熱処理等が施されることによって、チョップドシートの少なくとも一方の面に積層一体化されているフィルムである。
【0066】
耐熱性樹脂フィルムは、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有し、かつガラス転移温度Tgが90℃以上である樹脂からなる。本明細書において、「ガラス転移温度Tg」は、後の実施例で述べるように、示唆走査熱量計(DSC)にて測定した温度を意味する。
【0067】
耐熱性樹脂フィルムは、ASTM D4804規格に準拠するUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類がVTM-1以上(すなわち、VTM-0またはVTM-1)である。このような耐熱性樹脂フィルムを積層一体化させた状態で繊維強化樹脂複合シートに含ませることによって、最終的に良好な難燃性を有する繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。燃焼試験の詳細な方法は、後の実施例で述べる。
【0068】
このような所定の結合および/または基、ガラス転移温度TgならびにUL94VTM燃焼試験の燃焼性分類の条件を満たす耐熱性樹脂フィルムの樹脂としては、特に限定されないが、上記にて難燃性熱可塑樹脂としても述べたような、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる高耐熱性のプラスチック樹脂が挙げられる。具体的には、耐熱性樹脂フィルムの樹脂は、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、およびポリフェニルスルフィド(PPS)樹脂から選択される1つ以上を含むことが好ましい。耐熱性樹脂フィルムの樹脂がこれらの樹脂から選択される1つ以上を含むと、最終的に、良好な難燃性を有する繊維強化樹脂複合シートをより確実に得ることができる。
【0069】
これらの耐熱性樹脂フィルムの樹脂は、当業者に公知の市販品を利用してもよい。ポリエーテルイミド(PEI)樹脂の市販品としては、例えば、Sabic社製の「Ultem(登録商標)」等が挙げられる。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の市販品としては、例えば、東レ社製の「TORAY TPS(登録商標)PEEK」、ダイセル・エボニック社製の「ベスタキープ」、Victrex社製の「PEEKポリマー」等が挙げられる。ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂の市販品としては、例えば、アルケマ社製の「Kepstan(登録商標)PEKK」等が挙げられる。
【0070】
さらに、耐熱性樹脂フィルムの樹脂は、高いガラス転移温度Tgを有するため顕著に優れた難燃性を発揮するとの観点から、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂を含むことがより好ましい。加えて、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂は、リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂であることが特に好ましい。リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂を用いることによって、顕著に優れた難燃性を有するだけでなく、資源の有効利用およびコスト低減の観点からも好適な繊維強化樹脂複合シートを製造することができる。
【0071】
耐熱性樹脂フィルムの厚さは60μm以下である。耐熱性樹脂フィルムの厚さが60μm以下であると、最終的に、意匠性を高めるために良好な成形加工性を有する繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。耐熱性樹脂フィルムの厚さは、コスト負荷の低減の観点から、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0072】
耐熱性樹脂フィルムの厚さの下限値は、特に限定されないが、20μm以上であることが好ましい。耐熱性樹脂フィルムの厚さが20μm以上であると、耐熱性樹脂フィルムが確実に破断することなく、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートを良好に筐体、部材等に適用することができる。
【0073】
耐熱性樹脂フィルムは、前述したチョップドシートの製造に用いられるフィルム状の難燃性熱可塑樹脂と同様に、当業者に公知である任意の方法を採用してフィルム状に成形することができる。
【0074】
2.繊維強化樹脂複合シートの第2の構成例
まず、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第2の構成例の全体構成を、図面を参照しながら説明する。
図4に、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの第2の構成例の断面図を模式的に示す。
図4に示すように、繊維強化樹脂複合シート1は、チョップドシート2と、難燃性熱可塑樹脂フィルム6と、耐熱性樹脂フィルム3とを含む。耐熱性樹脂フィルム3は、耐熱性樹脂フィルム3とチョップドシート2の間に難燃性熱可塑樹脂フィルム6を挟んで、チョップドシート2の一方の面に積層一体化されている。
【0075】
第1の構成例と同様に、例えば、
図4に示す繊維強化樹脂複合シートにおいて、チョップドシート2のもう一方の面にも、耐熱性樹脂フィルム3が、難燃性熱可塑樹脂フィルム6を挟まず、または難燃性熱可塑樹脂フィルム6を挟んでさらに積層一体化されていてもよい。あるいは、繊維強化樹脂複合シートの難燃性、成形加工性および意匠性の効果を損なわない限り、他の1つ以上のシート(例えばさらなる1枚以上のチョップドシート等)、フィルム(例えばさらなる1枚以上の耐熱性樹脂フィルム、難燃性熱可塑樹脂フィルム等)および/または層が外側に積層一体化されていてもよい。
【0076】
図5に、
図4に示す繊維強化樹脂複合シートの可視面側からみた外観を模式的に示す。
図5に示すように、第2の構成例における繊維強化樹脂複合シートの可視面側から見た外観は、チョップドシートにおけるチョップ材の形状が元の形状から歪んだ形状に変形しているフォージド柄(以下、単に「フォージド柄」とも称する)の顕著に優れた意匠を有する。
【0077】
次いで、繊維強化樹脂複合シートの第2の構成例に含まれる各構成要素を説明する。チョップドシートおよび耐熱性樹脂フィルムは、前述の第1の構成例と概ね同様であるため、難燃性熱可塑樹脂フィルムのみについて主に説明する。
【0078】
[難燃性熱可塑樹脂フィルム]
第2の構成例における難燃性熱可塑樹脂フィルムは、加圧、加熱処理等が施されることによって、耐熱性樹脂フィルム3とチョップドシート2の間に積層一体化されている難燃性熱可塑樹脂からなるフィルムである。
【0079】
難燃性熱可塑樹脂フィルムにおける、難燃性熱可塑樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類等は、前述したチョップドシートに含まれる難燃性熱可塑樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類等と同様である。なお、難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類等は、チョップドシートに含まれる難燃性熱可塑樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類等と同一であっても、異なっていてもよい。
【0080】
難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂の種類は、最終的に本実施形態の繊維強化樹脂複合シートの難燃性分類の物性を達成し易いという観点から、チョップドシートの場合と同様に、難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂は、リン系難燃剤を含むポリカーボネート樹脂であることが好ましい。また、難燃性熱可塑樹脂は、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤および含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤のうちの1つ以上を含むポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。さらに、資源の有効利用およびコスト低減の観点から、難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂は、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合型リン酸エステル系難燃剤および含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤のうちの1つ以上を含むリサイクルされたポリカーボネート樹脂であることが特に好ましい。
【0081】
あるいは、樹脂自体の難燃性が顕著に高く、難燃剤を添加しなくても最終的に繊維強化樹脂複合シートの燃焼性分類の物性を達成し易いとの観点から、チョップドシートの場合と同様に、難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂は、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂であることが好ましく、リサイクルされたポリエーテルイミド(PEI)樹脂であることがさらに好ましい。
【0082】
難燃性熱可塑樹脂フィルムは、前述したチョップドシートの製造に用いられるフィルム状の難燃性熱可塑樹脂と同様に、当業者に公知である任意の方法を採用してフィルム状に成形することができる。
【0083】
難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さは、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートが後述する所定の厚さを満たし、かつ燃焼性分類および成形加工性の物性も満たすように、適宜調節すればよい。例えば、難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さは、15μm以上50μm以下程度であることが好ましい。難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さが15μm以上であると、フィルム成形時において難燃性熱可塑樹脂フィルムの形態を良好に維持し易い。また、難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さが50μm以下であると、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートも薄くすることができ、その成形加工性をより良好にすることができる。
【0084】
難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さは、18μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さは、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
【0085】
また、第2の構成例における繊維強化樹脂複合シートのチョップ材4も、例えば、二次元的にランダムに分散した状態、すなわち疑似等方性を有するように分散した状態で堆積し、一体化(積層一体化)されることが好ましい。このようにチョップ材を分散させることによって、最終的に、
図5に示したような、フォージド柄の意匠を有する繊維強化樹脂複合シートを得ることができる。
【0086】
<繊維強化樹脂複合シートの物性>
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの物性を、以下説明する。
【0087】
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの厚さは、350μm以下である。繊維強化樹脂複合シートの厚さが350μm以下であると、意匠性を高めるために良好な成形加工性が得られる。繊維強化樹脂複合シートの厚さの下限は、意匠性付与の用途のシートとしてのハンドリングが困難とならない限り特に限定されないが、約150μm程度であればよい。
【0088】
繊維強化樹脂複合シートの厚さは、330μm以下であることが好ましく、310μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。また、繊維強化樹脂複合シートの厚さは、160μm以上であることが好ましく、180μm以上であることがより好ましく、190μm以上であることがさらに好ましい。
【0089】
繊維強化樹脂複合シートの厚さは、チョップドシートの厚さ、耐熱性樹脂フィルムの厚さ、任意にて含まれる難燃性熱可塑樹脂フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vf(%)、繊維強化樹脂複合シートの製造時の加圧力、加熱温度等を適宜制御することによって、上記範囲内に調整することができる。
【0090】
さらに、繊維強化樹脂複合シートは、ASTM D3801規格に準拠したUL94V燃焼試験の燃焼性分類がV-0である。従って、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、良好な難燃性を有する。燃焼試験の詳細な方法は、後の実施例で述べる。
【0091】
上述してきたように、チョップドシートに含まれる難燃性熱可塑樹脂の種類、必要に応じて添加される難燃剤の種類およびその量、耐熱性樹脂フィルムの樹脂の種類、任意にて含まれる難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂の種類、これらのフィルムおよびシートの厚さ、強化繊維の体積含有率Vf(%)等について、適切な化合物を選択し、および/または数値を調整することによって、最終的に製造される繊維強化樹脂複合シートを、上記の燃焼性分類の条件を満たすようにすることができる。
【0092】
<繊維強化樹脂複合シートの製造方法>
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの製造方法は、前述の実施形態で述べた、チョップ材の分散した状態における堆積物(加圧、加熱処理等が施される前のチョップドシート)と、前述の実施形態で述べた耐熱性樹脂フィルムとを積層し、加圧下において加熱して一体化する工程を含む。
【0093】
本明細書において、「チョップ材の分散した状態における堆積物と耐熱性樹脂フィルムとを積層する」とは、チョップ材の堆積物と耐熱性樹脂フィルムとの間に他のフィルムまたは層を挟まずに積層すること、およびチョップ材の堆積物と耐熱性樹脂フィルムとの間に他の1以上のフィルムおよび/または層を挟んで積層することの両方を意味する。すなわち、例えば、前述の第2の構成例のような繊維強化樹脂複合シートを製造する場合、チョップ材の堆積物と、難燃性熱可塑樹脂フィルムと、耐熱性樹脂フィルムとをこの順に積層し、当該積層体を加圧下において加熱して一体化すればよい。
【0094】
また、繊維強化樹脂複合シートが、本実施形態におけるシートの難燃性、成形加工性および意匠性の効果を損なわず、他の1つ以上のシート、フィルムおよび/または層をさらに含む場合、当該他の1つ以上のシート、フィルムおよび/または層とチョップ材の堆積物と耐熱性樹脂フィルムとを所望する順に積層し、当該積層体を加圧下において加熱して一体化すればよい。
【0095】
チョップ材の堆積物および耐熱性樹脂フィルム以外に1以上のシート、フィルムおよび/または層を積層する場合、全ての堆積物、樹脂フィルム、層等を所望する順で積層させた後、一回の加圧下における加熱によって当該積層体を一体化してもよい。あるいは、二回以上の加圧下における加熱を行うことによって当該積層体を一体化してもよい。
【0096】
加熱は、前述の実施形態で述べた耐熱性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度で行う。このような温度で加熱することにより、樹脂の溶融によって、チョップ材の堆積物と耐熱性樹脂フィルムとを積層一体化させることができる。
【0097】
さらに、前述したように、繊維強化樹脂複合シートの製造時の加圧および加熱の条件を適宜調整し、樹脂の溶融の程度を調節することによって、チョップドシートにおけるチョップ材の形状の維持または変形を制御することができる。その結果、繊維強化樹脂複合シートの可視面側からの意匠を所望する柄となるように調整することができる。
【0098】
例えば、前述の第1の構成例における繊維強化樹脂複合シートを製造する場合、二次元的にランダムに分散した状態におけるチョップ材の堆積物と耐熱性樹脂フィルムとを積層し、加圧下において耐熱性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱して積層体を一体化させる。その際、チョップ材が元の形状を維持するように、加圧力および加熱温度を上げすぎず、かつ加圧下における加熱時間も長すぎない時間に適宜制御すればよい。例えば、加圧力は1MPa~3MPa程度とし、加熱温度は耐熱性樹脂のガラス転移温度Tgにもよるが250℃~280℃程度とし、加圧下における加熱時間は1分間~2分間程度とすればよい。
【0099】
あるいは、例えば、前述の第2の構成例における繊維強化樹脂複合シートを製造する場合、二次元的にランダムに分散した状態におけるチョップ材の堆積物と難燃性熱可塑性樹脂フィルムと耐熱性樹脂フィルムとをこの順に積層し、加圧下において耐熱性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱して積層体を一体化させる。その際、チョップ材が樹脂の溶融により元の形状から歪んだ形状に変形するように、加圧力および加熱温度を適度に上げ、かつ加圧下における加熱時間も適度な時間に制御すればよい。例えば、加圧力は2MPa~5MPa程度とし、加熱温度は耐熱性樹脂のガラス転移温度Tgおよび難燃性熱可塑性樹脂フィルムの樹脂のガラス転移温度Tgにもよるが280℃~300℃程度とし、加圧下における加熱時間は1分間~2分間程度とすればよい。
【0100】
なお、第2の構成例のように、繊維強化樹脂複合シートが難燃性熱可塑性樹脂フィルムをチョップドシートと耐熱樹脂フィルムとの間に挟み、チョップドシートの樹脂(マトリックス樹脂)と難燃性熱可塑樹脂フィルムの樹脂が同一である場合、製造される繊維強化樹脂複合シートの可視面側から見た外観は、フォージド柄の意匠を有することが多い。これは、加圧下における加熱時に、チョップドシートのマトリックス樹脂と難燃性熱可塑樹脂フィルムとが溶融し、チョップドシートに含まれる強化繊維が流動し、略矩形状のチョップ材の形状が歪んだ形状に変形するためである。
【0101】
このように、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、可視面側から見た外観において優れた意匠性を有するだけでなく、良好な難燃性および意匠性を高めるための良好な成形加工性を両立することができる。そのため、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、特に機器内部からの発熱、発火および燃焼のおそれがあるノートパソコン、スマートフォン、タブレット、ビデオカメラ、モバイル機器、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の電子機器、電気機器等の筐体、部材等に意匠性を高めるために適用するシートとして、好適に用いられる。
【実施例0102】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0103】
本実施例では、繊維強化樹脂複合シートの積層構造、チョップドシートの難燃性熱可塑樹脂の種類、積層一体化される樹脂フィルムの樹脂の種類とその厚さ等を変更した各種繊維強化樹脂複合シートを作製した。そして、繊維強化樹脂複合シートの厚さを測定し、燃焼性、成形加工性および意匠性の評価を行った。なお、本実施例では、樹脂フィルムおよび繊維強化樹脂複合シートの厚さは、(株)ミツトヨ製の膜厚計(デジマチックインジケーター)を用いて測定した。樹脂フィルムのガラス転移温度Tgは、示唆走査熱量計(DSC)にて測定した。
【0104】
まず、各実施例および各比較例における繊維強化樹脂複合シートの作製方法を、以下詳細に説明する。
【0105】
<繊維強化樹脂複合シートの作製方法>
(実施例1)
まず、繊維強化樹脂複合シートを構成するチョップドシートの中間材料である繊維強化難燃性樹脂シートを、次のように作製した。難燃性熱可塑樹脂(マトリックス樹脂)としては、ポリカーボネート樹脂とリン酸エステル系の難燃剤とポリテトラフルオロエチレンとを100:35:0.1の質量比で含む難燃性熱可塑樹脂(以下、「難燃剤添加PC樹脂」とも称する)を用いた。この難燃剤添加PC樹脂のペレットを、Tダイが取り付けられた押出成形機を用い、フィルム状に成形した。
【0106】
フィルム状に成形した難燃剤添加PC樹脂と、強化繊維として炭素繊維(東レ社製、「TORAYCA」、グレード:T-700(PAN系炭素繊維)、繊維径:7μm、フィラメント数:12K、繊度:800tex)とを用い、炭素繊維束を開繊しながら繊維強化樹脂シートを製造した。得られた繊維強化樹脂シートは、フィルム状の難燃剤添加PC樹脂の両面に、開繊された炭素繊維束が積層一体化している状態である。
【0107】
得られた繊維強化樹脂シートを、5mm×10mm×0.05mm(厚さ)の略矩形状に裁断し、多数のチョップ材を作製した。次いで、最終的に400mm×300mm×約200μm程度のサイズを有する繊維強化樹脂複合シートが作製できるよう、合計43gのチョップ材を基板上に二次元的にランダムに分散した状態で堆積させた。
【0108】
その後、チョップドシートの一方の面に直接積層一体化させる可視面側の樹脂フィルムとして、市販品のリサイクルされたポリエーテルイミド樹脂(以下、「R-PEI樹脂」とも称する)を用いた20μmの樹脂フィルムを準備した。
【0109】
チョップ材の堆積物とR-PEI樹脂フィルムとを積層し、300℃、2MPaの条件下において、1分間加圧下にて加熱し、チョップ材の堆積物とR-PEI樹脂フィルムとを一体化させた。その後、常温にて2分間程度冷却した。冷却後、積層体を基板から取り外し、400mm×300mm×約200μm(厚さ)のサイズを有する2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0110】
(実施例2~実施例3)
R-PEI樹脂フィルムの厚さを40μmまたは60μmとしたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0111】
(実施例4)
チョップドシートの中間材料の繊維強化難燃性樹脂シートの作製に用いる樹脂をR-PEI樹脂に変更し、加圧条件を350℃として積層一体化させたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0112】
(実施例5)
R-PEI樹脂フィルムとチョップドシートとの間に、難燃性熱可塑樹脂フィルムとして20μmの難燃剤添加PC樹脂フィルムを挟み、加熱条件を300℃として積層一体化させたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、3層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0113】
(実施例6)
実施例6では、5層構造の繊維強化樹脂複合シートを作製した。具体的には、合計21gの難燃剤添加PC樹脂のチョップ材からなるチョップドシートと、20μmのR-PEI樹脂フィルムと、合計21gの難燃剤添加PC樹脂のチョップ材からなるチョップドシートと、難燃性熱可塑樹脂フィルムとしての20μmの難燃剤添加PC樹脂フィルムと、可視面側の20μmのR-PEI樹脂フィルムとがこの順に積層一体化された繊維強化樹脂複合シートを作製した。加圧および加熱条件は、300℃、2MPa、1分間とした。他の詳細な方法は、前述の実施例1と同様の方法である。
【0114】
(実施例7)
チョップドシートの難燃性熱可塑樹脂(マトリックス樹脂)を、難燃剤添加PC樹脂とR-PEI樹脂の50(難燃剤添加PC樹脂)/50(R-PEI樹脂)の比率における2種の樹脂の混合物としたことを除き、他の方法は前述の実施例5と同様の方法によって、3層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0115】
(実施例8)
チョップドシートの作製に用いられるチョップ材を、難燃剤添加PC樹脂のチョップ材とR-PEI樹脂のチョップ材の70(難燃剤添加PC樹脂のチョップ材)/30(R-PEI樹脂のチョップ材)の比率における2種のチョップ材の混合物としたことを除き、他の方法は前述の実施例5と同様の方法によって、3層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0116】
(比較例1)
R-PEI樹脂フィルムの厚さを80μmとしたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0117】
(比較例2)
可視面側のR-PEI樹脂フィルムを積層せず、チョップドシートの加圧および加熱条件を300℃、2MPa、1分間としたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、1層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0118】
(比較例3)
可視面側の樹脂フィルムの樹脂の種類を難燃剤添加PC樹脂とし、加圧および加熱条件を300℃、2MPa、1分間としたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0119】
(比較例4)
可視面側の樹脂フィルムの樹脂の種類をABS樹脂とし、加熱条件を250℃としたことを除き、他の方法は前述の実施例1と同様の方法によって、2層構造の繊維強化樹脂複合シートを得た。
【0120】
このように作製した各実施例および各比較例における、チョップドシート、可視面側の樹脂フィルム、これらの間に積層された難燃性熱可塑樹脂フィルム、ならびにさらに積層された樹脂フィルムおよびチョップドシートについての詳細は、測定結果および評価結果と共に後の表3~表5にまとめて示す。
【0121】
次に、樹脂フィルムの難燃性の判定方法、繊維強化樹脂複合シートの厚さの測定方法、難燃性の評価方法、成形加工性および意匠性の評価方法を、以下説明する。
【0122】
<樹脂フィルムの難燃性の判定方法>
各実施例および各比較例で用いた樹脂フィルム(主として可視面側の樹脂フィルム)は、ASTM D4804規格に準拠するUL94VTM燃焼試験にて、その燃焼性を判定した。具体的には、樹脂フィルムの試験片(寸法:200±5mm×50±1mm×tmm)を円筒状に巻き、クランプに垂直に取付け、20mm炎による3秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により「VTM-0」、「VTM-1」、「VTM-2」または「not」の判定を行った。なお、t=20~25μmに設定した。具体的な判定基準について、下記表1に示す。
【0123】
【0124】
<繊維強化樹脂複合シートの厚さの測定方法>
各実施例および各比較例で作製した繊維強化樹脂複合シートの厚さは、次の方法で決定した。後述するUL94V燃焼試験を行うために切り出した5つの試験片の厚さを(株)ミツトヨ製の膜厚計(デジマチックインジケーター)を用いて測定し、その平均値を繊維強化樹脂複合シートの厚さとした。
【0125】
<繊維強化樹脂複合シートの難燃性の評価方法>
各実施例および各比較例で作製した繊維強化樹脂複合シートは、ASTM D3801規格に準拠するUL94V燃焼試験にて、その燃焼性を判定した。具体的には、作製した繊維強化樹脂複合シートから、5本の短冊状の試験片を切り出した(寸法:13mm×130mm)。切り出した試験片をクランプに垂直に取付け、t=2mmに設定し、20mm炎による10秒間接炎を、各試験片を用いて5回行った。これらの燃焼挙動により「V-0」、「V-1」、「V-2」、または「not」の判定を行った。具体的な判定基準について、下記表2に示す。
【0126】
【0127】
<繊維強化樹脂複合シートの成形加工性の評価方法>
各実施例および各比較例で作製した繊維強化樹脂複合シートの成形加工性は、次の方法で評価した。作製した繊維強化樹脂複合シートを、熱硬化性樹脂プレプリグの積層板に、可視面側の樹脂フィルムが最外層となるように、180℃、1MPa、2分間の条件下において貼り合わせた。その後、貼り合わせた積層体を可視面側から外観を目視にて再度確認し、以下の基準で評価した。
〇:元の可視面側から見た繊維強化樹脂複合シートの外観と比べて変化がない。
×:元の可視面側から見た繊維強化樹脂複合シートの外観と比べて変化がある。
【0128】
<繊維強化樹脂複合シートの意匠性の評価方法>
各実施例および各比較例で作製した繊維強化樹脂複合シートの外観を、可視面側から目視にて確認することにより、どのような柄を有しているかを評価した。
【0129】
<評価結果>
各実施例および各比較例における繊維強化樹脂複合シートの測定結果および評価結果を、各繊維強化樹脂複合シートの構成要素の詳細と共に、以下の表3~表5にまとめて示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
<考察>
上記表3~表5の結果から明らかなように、本実施形態における可視面側の耐熱樹脂フィルムの条件およびシートの全体構成の条件を満たす、実施例1~実施例8の繊維強化樹脂複合シートは、シートの積層枚数にかかわらず、UL94V燃焼試験の燃焼性分類がV-0の優れた難燃性、成形加工性、かつ可視面側から見た外観の優れた意匠性を有していた。
【0134】
特に、実施例5~実施例8の繊維強化樹脂複合シートは、可視面側から見た外観がフォージド柄となっており、顕著に優れた意匠性を有していた。これは、チョップドシートの難燃剤添加PC樹脂のマトリックス樹脂と難燃剤添加PC樹脂フィルムとが溶融し、チョップドシートに含まれる強化繊維が流動し、略矩形状のチョップ材の形状が歪んだ形状になったためと想定される。
【0135】
一方、比較例1の繊維強化樹脂複合シートは、成形加工性に劣っていた。これは、可視面側のR-PEI樹脂フィルムが、厚かったためと考えられる。比較例2の繊維強化樹脂複合シートは、チョップドシートのみで構成したため、シートの難燃性が劣っていた。また、比較例3の繊維強化樹脂複合シートも、難燃性に劣っていた。これは、可視面側の樹脂フィルムが、エーテル結合、スルフィド結合、イミド結合、ケトン基およびスルホニル基のうちの1つ以上を有さず、本実施形態の繊維強化樹脂複合シートを構成する耐熱樹脂フィルムの条件を満たさなかったためと想定される。さらに、比較例4の繊維強化樹脂複合シートも、難燃性に劣っていた。これは、可視面側の樹脂フィルムであるABS樹脂が、所定の結合および/または基を有さず、そのガラス転移温度Tgが90℃未満であり、難燃性を有しない樹脂であるためと想定される。
【0136】
上記実施例1~実施例8では、可視面側の樹脂フィルムとしてR-PEI樹脂フィルムが用いられている。PEI樹脂は、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれており、高い難燃性特性を有し、ガラス転移温度Tgも高い。そのため、例えば、以下の表6に示すような、高い難燃性特性を有し、かつガラス転移温度Tgが高い、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、およびポリフェニルスルフィド(PPS)樹脂等の類似した物性を有する熱可塑性樹脂についても、本実施形態における効果と同様の効果を発揮することが想定される。
【0137】
【0138】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。