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特開2024-97658OTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097658
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】OTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/08 20090101AFI20240711BHJP
【FI】
H04W24/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001266
(22)【出願日】2023-01-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 豊行
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
5K067HH22
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】間欠的に受信した複数波混在信号から、通信中の無線通信システムに何ら影響を及ぼすことなく、OTAトラフィックの効率的かつ高精度の観測を可能にするOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法を提供する。
【解決手段】OTAトラフィック分析装置1は、OTA環境下で、基地局と無線端末間での無線通信による複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、その間欠的にキャプチャした受信信号から信号源ごとに分離した分離信号に基づいてOTAトラフィックを分析するものであって、複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御する装置制御部31aと、分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した分離信号パターンに基づいて無線通信によって送受信されるPDUを推定するPDU推定部43と、を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局(B1)と複数の無線端末(A1)の間で無線通信が行われるOTA環境下において、前記基地局と前記無線端末間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、前記キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から前記無線端末たる信号源(110)ごとに分離した分離信号に基づいて前記無線通信の通信トラフィックを分析するOTAトラフィック分析装置(1、1A)であって、
前記複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御するキャプチャ制御手段(31a)と、
キャプチャ後に分離された前記分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを前記同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した前記分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるプロトコルデータユニット(PDU)を推定するPDU推定手段(43、43A)と、
を具備することを特徴とするOTAトラフィック分析装置。
【請求項2】
前記通信トラフィックの分析に係るパラメータを設定する設定手段(41)をさらに有し、
前記設定手段は、前記パラメータとして、周波数、データレート、前記信号キャプチャ時間、前記受信間隔、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長を設定し、
前記キャプチャ制御手段は、設定された前記信号キャプチャ時間及び前記受信間隔で前記キャプチャが実施されるように制御し、
前記PDU推定手段は、設定された周波数、データレート、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長に合致する推定PDUが取得されるまで前記PDU推定処理を続行することを特徴とする請求項1に記載のOTAトラフィック分析装置。
【請求項3】
前記分離信号の到来方向を推定する到来方向推定手段(24)と、
前記分離信号の信号強度を推定する信号強度推定手段(25)と、をさらに有し、
前記PDU推定手段は、前記分離信号を、当該分離信号の到来方向及び信号強度を加味して同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるPDUを推定する
ことを特徴とする請求項2に記載のOTAトラフィック分析装置。
【請求項4】
前記設定手段は、到来角度の閾値をさらに設定し、
前記PDU推定手段は、隣り合う信号キャプチャ時間のそれぞれの前記分離信号のうち、前記到来方向が前記閾値の範囲内にある前記分離信号を同一の通信の構成要素として選出することを特徴とする請求項3に記載のOTAトラフィック分析装置。
【請求項5】
前記PDU推定手段は、前記信号キャプチャ時間に対応して前記分離信号が受信されたか、受信継続中か、受信されなくなったかに応じて、前記分離信号が前記PDUの先頭部であるか、前記PDUの継続部であるか、前記PDUの後端部であるかを判断し、
前記判断の結果に基づいて前記PDUの長さ及び間隔を推定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに1項に記載のOTAトラフィック分析装置。
【請求項6】
基地局(B1)と複数の無線端末(A1)の間で無線通信が行われるOTA環境下において、前記基地局と前記無線端末間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、前記キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から前記無線端末たる信号源(110)ごとに分離した分離信号に基づいて前記無線通信の通信トラフィックを分析するOTAトラフィック分析方法であって、
前記複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御するキャプチャ制御ステップ(S3)と、
キャプチャ後に分離された前記分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを前記同一の通信の構成要素ごとに推定するステップ(S61~S66)と、
推定した前記分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるプロトコルデータユニット(PDU)を推定するPDU推定ステップ(S7)と、
を含むことを特徴とするOTAトラフィック分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線端末が無線信号を送受信するOTA(Over The Air)空間で無線信号を間欠的に受信し、受信した無線信号からOTAによる通信トラヒックを解析するOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信規格5Gの実用化が始まっており、5Gの多岐に渡るニーズに応えるため、自治体や地域の企業などの様々な主体が柔軟に構築、利用可能なローカル5Gの検討が進められている。
【0003】
この中で、さらなるモバイルトラヒックの急増に対応するため、高効率な周波数利用技術である帯域内全二重通信(InBand Full-Duplex:以下、IBFDという)の適用が検討されている。
【0004】
IBFDは、既存の複信方式に対して理想的には周波数利用効率を2倍にすることができるが、新たに多くの干渉が発生する課題があり、様々な干渉量を取得し、その結果からIBFDの適用可否を判定する制御技術が必要となる。その実現のためには、時空間における例えば5G無線端末あるいは他の種々規格の端末の無線状況を把握し、複数の端末から空間に発射される電波の干渉状況を高速、高精度に測定する干渉モニタリング技術が必要であり、その一環として任意の地点における電磁波の到来方向を推定するシステムが必要となる。
【0005】
到来方向推定を行う従来のシステムとしては、例えば、直交する3つの偏波信号をそれぞれ受信する複数のアンテナの同位置での受信信号に基づいて電磁波の到来方向を推定するもの(例えば、特許文献1等)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-96191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された電波到来方向推定システムでは、例えば、3つのアンテナを、順次、同一の測定位置まで移動させ、その同一の位置で受信した全て(3つ)の偏波成分を用いて当該位置での電磁波の到来方向を精度よく推定することが可能である。
【0008】
しかしながら、従来の到来方向推定システムは、当該位置で受信された到来信号から、その到来信号による通信データの長さや間隔、データ量等の通信トラフィックを分析する機能については考慮されていなかった。このため、従来の到来方向推定システムでは、複数の無線端末が相互に無線信号を送受信するOTA環境下において、所望の観測地点で上記無線信号を受信し、受信した無線信号から、当該無線信号による通信データ、例えば、パケットやフレーム等のプロトコルデータユニット(Protocol Data Unit:PDU)を推定する運用への対応は困難であった。
【0009】
上記運用の妨げとなる要因の一つとして、例えば、信号処理能力が挙げられる。上述した従来の到来方向推定システムでは、OTA環境下での通信トラフィック(OTAトラフィック)の分析を行うべく、複数の無線端末から送出される無線信号が混在した複数波混在信号を、常時、受信して処理するには既存の処理能力では対応できない可能性が高く、これを回避するために無線信号の間欠的な受信処理を行うようにすると、OTAトラフィックの分析を効率よく行うことができず、分析精度も低下するという問題点があった。加えて、観測に際し、運用中の無線通信システムに影響を及ぼす危険性もあった。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、間欠的に受信した複数波混在信号から、通信中の無線通信システムに何ら影響を及ぼすことなく、OTAトラフィックの効率的かつ高精度の観測を可能にするOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るOTAトラフィック分析装置は、基地局(B1)と複数の無線端末(A1)の間で無線通信が行われるOTA環境下において、前記基地局と前記無線端末間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、前記キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から前記無線端末たる信号源(110)ごとに分離した分離信号に基づいて前記無線通信の通信トラフィックを分析するOTAトラフィック分析装置(1、1A)であって、前記複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御するキャプチャ制御手段(31a)と、キャプチャ後に分離された前記分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを前記同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した前記分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるプロトコルデータユニット(PDU)を推定するPDU推定手段(43、43A)と、を具備することを特徴とする。
【0012】
この構成により、本発明の請求項1に係るOTAトラフィック分析装置は、間欠的に受信した受信信号から分離した同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえで、その信号パターンから同一の通信の構成要素ごとのPDUの長さ及び間隔を容易に推定することができ、特定の周波数を使用する無線通信システムを対象に、その運用に何等影響を及ぼすことなく、無線端末数や各無線端末の通信量のOTAでの観測が可能となる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係るOTAトラフィック分析装置は、前記通信トラフィックの分析に係るパラメータを設定する設定手段(41)をさらに有し、前記設定手段は、前記パラメータとして、周波数、データレート、前記信号キャプチャ時間、前記受信間隔、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長を設定し、前記キャプチャ制御手段は、設定された前記信号キャプチャ時間及び前記受信間隔で前記キャプチャが実施されるように制御し、前記PDU推定手段は、設定された周波数、データレート、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長に合致する推定PDUが取得されるまで前記PDU推定処理を続行する構成であってもよい。
【0014】
この構成により、本発明の請求項2に係るOTAトラフィック分析装置は、設定手段によるパラメータの設定により、所望の周波数、所望のデータレートやサイズ等に合致するPDUの推定が容易に行える。
【0015】
また、本発明の請求項3に係るOTAトラフィック分析装置は、前記分離信号の到来方向を推定する到来方向推定手段(24)と、前記分離信号の信号強度を推定する信号強度推定手段(25)と、をさらに有し、前記PDU推定手段は、前記分離信号を、当該分離信号の到来方向及び信号強度を加味して同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるPDUを推定する構成であってもよい。
【0016】
この構成により、本発明の請求項3に係るOTAトラフィック分析装置は、既存のブラインド信号推定装置の到来方向推定手段、及び信号強度推定手段を併用し、分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果を加味して同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえでPDUを推定することで、構成を複雑化させることなく、到来方向及び信号強度の推定結果を加味しなかった場合に比べてPDU推定精度を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の請求項4に係るOTAトラフィック分析装置において、前記設定手段は、到来角度の閾値をさらに設定し、前記PDU推定手段は、隣り合う信号キャプチャ時間のそれぞれの前記分離信号のうち、前記到来方向が前記閾値の範囲内にある前記分離信号を同一の通信の構成要素として選出する構成であってもよい。
【0018】
この構成により、本発明の請求項4に係るOTAトラフィック分析装置は、到来角度の閾値を設定することでその閾値の角度範囲内にある分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出する処理が容易に実行でき、OTA環境下での通信トラフィックの分析処理の迅速化も図れる。
【0019】
また、本発明の請求項5に係るOTAトラフィック分析装置において、前記PDU推定手段は、前記信号キャプチャ時間に対応して前記分離信号が受信されたか、受信継続中か、受信されなくなったかに応じて、前記分離信号が前記PDUの先頭部であるか、前記PDUの継続部であるか、前記PDUの後端部であるかを判断し、前記判断の結果に基づいて前記PDUの長さ及び間隔を推定する構成としてもよい。
【0020】
この構成により、本発明の請求項5に係るOTAトラフィック分析装置は、推定結果として得られるPDU(推定PDU)を取得するまでの処理を簡略化することができ、処理時間の短縮も図れる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項6に係るOTAトラフィック分析方法は、基地局(B1)と複数の無線端末(A1)の間で無線通信が行われるOTA環境下において、前記基地局と前記無線端末間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、前記キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から前記無線端末たる信号源(110)ごとに分離した分離信号に基づいて前記無線通信の通信トラフィックを分析するOTAトラフィック分析方法であって、前記複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御するキャプチャ制御ステップ(S3)と、キャプチャ後に分離された前記分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを前記同一の通信の構成要素ごとに推定するステップ(S61~S66)と、推定した前記分離信号の信号パターンに基づいて前記同一の通信の構成要素ごとに前記無線通信により送受信されるプロトコルデータユニット(PDU)を推定するPDU推定ステップ(S7)と、 を含むことを特徴とする。
【0022】
この構成により、本発明の請求項6に係るOTAトラフィック分析方法は、間欠的に受信した受信信号から分離した同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえで、その信号パターンから同一の通信の構成要素ごとのPDUの長さ及び間隔を容易に推定することができ、特定の周波数を使用する無線通信システムを対象に、その運用に何等影響を及ぼすことなく、無線端末数や各無線端末の通信量のOTAでの観測が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、間欠的に受信した複数波混在信号から、通信中の無線通信システムに何ら影響を及ぼすことなく、OTAトラフィックの効率的かつ高精度の観測を可能にするOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るOTAトラフィック分析装置が配置されるOTA空間内の無線環境を説明するための概念図である。
図2】本発明に係るOTAトラフィック分析装置の分析対象とされるPDUを送受信する無線フレームの構成例を示す図であり、(a)は無線フレーム全体の構成を示し、(b)から(f)はそれぞれ異なるシンボル数を有するスロットの構成を示している。
図3】本発明に係るOTAトラフィック分析装置によるPDU推定処理に係るタイミングチャートを示す図であり、(a)~(f)は推定対象の各PDUパターン、(g)は各PDUパターンをそれぞれ送受信する無線信号が混在する複数波混在信号、(h)は複数波混在信号を間欠的にキャプチャして得られる受信信号、(i)は受信信号から信号源ごとに分離した分離信号、(j)は分離信号から推定された推定PDUのタイミングチャートをそれぞれ示している。
図4】本発明に係るOTAトラフィック分析装置における複数波混在信号のキャプチャ方式を示すタイミングチャートであり、(a)は逐次処理方式の例を示し、(b)はパイプライン処理方式の例を示している。
図5】本発明に係るOTAトラフィック分析装置における受信信号からの分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果を加味して実施するPDU推定処理のタイミングチャートを示す図であり、(a)は信号キャプチャ時間、(b)~(g)はそれぞれの分離信号、(h)、(i)、(j)はそれぞれの分離信号を構成要素とする各データのタイミングチャートをそれぞれ示している。
図6】本発明に係るOTAトラフィック分析装置の分析対象とされるPDUのサイズと信号キャプチャ間隔の関係の一例を示すタイミングチャートである。
図7】本発明の第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置の機能構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置のPDU推定部におけるPDU推定処理動作を示すフローチャートである。
図9図8のステップS7で同一の通信の構成要素として選出される分離信号の組ごとにPDUを推定するための分離信号パターン判断処理手順を示すフローチャートである。
図10】本発明の第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置のPDU推定処理に係る受信信号、分離信号パターン、及び推定PDUの対応関係の一例を示す図であり、(a)、(b)、(c)、(d)は、受信されたタイミングと受信されなくなったタイミングが異なる各分離信号と、図9に示す判断処理手順による判断結果に応じて推定される推定PDUとの関係をそれぞれ示している。
図11】本発明の第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置の機能構成を示すブロック図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置のPDU推定部におけるPDU推定処理動作を示すフローチャートである。
図13】本発明の第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置によるPDU推定処理のタイミングチャートを示す図であり、(a)は間欠的に実施する信号受信、(b)は間欠的に受信した信号に対する信号処理、(c)は信号処理によって信号源ごとに分離される分離信号、(d)は分離信号に基づくPDU推定処理、(e)はPDU推定処理によって得られる推定PDUのタイミングチャートをそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0026】
(概要)
本発明に係るOTAトラフィック分析装置1(ここでは、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1を例示しているが、第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aについても同様である)は、例えば、図1に示すように、無線基地局B1(或いは、交換局B2)と各種の無線端末A11、A12、A13、A14の間で無線通信が行われるOTA空間内に配置されて運用される。無線端末A11、A12、A13、A14は、例えば、基地局B1と無線信号(OFDMで多重化し、RF信号に変換されて送出される。以下、OFDM信号ということもある)の送受信を行い、基地局B1を介して、通信相手と通信を行うことができる。ここで、無線端末A11、A12、A13、A14は、例えば、当該基地局B1に接続されているネットワーク内の通信端末と基地局B1を介して通信することができる。また、無線端末A11、A12、A13、A14は、互いに他の無線端末と基地局B1を介して通信を行うこともできる。図1において、無線端末A11、A12、A13、A14(以下、これらをまとめて無線端末A1ということもある)としては、例えば、タブレット端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータ(PC)、無線ルータ等、種々の無線通信機器が挙げられる。
【0027】
上述したOTA環境下においては、基地局B1と複数の無線端末A1が同時に無線信号(OFDM信号)を送受信する場合には、これらの無線信号が混在する無線通信状況が生じる。本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、基地局B1と無線端末A1間の通信中、観測エリア6内の適宜な配置地点で、各無線端末A1を信号源110としてそれぞれ送出される無線信号(OFDM信号)が混在した複数波混在信号を受信し、当該複数波混在信号から混在しているそれぞれの無線信号を分離し、該分離した信号(分離信号)ごと、すなわち、それぞれの信号源110ごとにその到来方向及び信号強度を推定する到来方向/信号強度推定機能(後述する到来方向推定処理部24、信号解析部25に相当)を有している。
【0028】
また、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、例えば、到来方向/信号強度推定機能による信号源110ごとの信号到来方向及び信号強度の推定結果に基づき、基地局B1と無線端末A1間の通信に関する通信トラフィックの分析を行うOTAトラフィック分析機能をさらに有している。本発明では、OTAトラフィック分析機能として、特に、基地局B1と無線端末A1間での通信により送受信される通信データの間隔と長さを推定するデータ推定機能を想定している。
【0029】
<データ推定機能>
本発明において、基地局B1と複数の無線端末A1間での通信データの送受信には、例えば、図2に示す構成を有する無線フレームが用いられる。
【0030】
図2は、一例として、5G NR規格のIBFD通信に用いられる無線フレームの構成例を示している。図2(a)に示すように、無線フレームは例えば10ミリ秒(ms)の長さを有し、均等な時間長、例えば、1msの10個のサブフレームで構成されている。サブフレームは、1スロットが、14シンボル1組で構成されるもの(図2(b)参照)、14シンボル2組で構成されるもの(図2(c)参照)、14シンボル4組で構成されるもの(図2(d)参照)、14シンボル8組で構成されるもの(図2(e)参照)、14シンボル16組で構成されるもの(図2(f)参照)等が存在する。シンボルの構成については、例えば、低データレート動作の場合は14シンボル1組、高データレート動作の場合は14シンボル16組となる。
【0031】
5G規格のIBFD通信において、基地局B1と無線端末A1間では図2に示す無線フレームを用いて例えばパケットデータの送受信を行うようになっている。パケットデータにより送受信するデータ種別としては、例えば、メール、データ、音声、画像・映像等がある。これらデータは、基地局B1と無線端末A1間での無線通信の実施中、送信側においては、送信するデータをプロトコル仕様に基づいて標本化・量子化、符号化、暗号化、圧縮の処理を経てパケット化し、PDUとして組み立てた後、変調処理を経て無線信号として送信する。他方、受信側においては、送信側から送られてくる無線信号を受信し、復調処理を行った後、プロトコル仕様に基づいてPDUを再構した後、さらに伸長、復号化の処理を経て元のデータを再生するようになっている。
【0032】
上述した無線フレームによる基地局B1と無線端末A1間での各種データの無線通信に際し、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1では、通信中の基地局B1と無線端末A1間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を所定の間隔で所定の時間長、間欠的にキャプチャし、その複数波混在信号からそこに混在している信号源源110ごとの信号を分離する処理を行う。
【0033】
図3を参照すると、観測エリア6内で実施される基地局B1と無線端末A1間の通信としては、例えば、図3(a)~(f)に示すようなPDUパターン#1~#6を有する信号の送受信が想定され得る。PDUパターン#1~#6を有する信号の通信中、観測エリア6内のある地点に配置されるOTAトラフィック分析装置1では、例えば、図3(g)に示すように、PDUパターン#1~#6を有する信号が混在している送信信号(複数波混在信号)を受信し得るものとなる。
【0034】
このようなOTA環境下において、OTAトラフィック分析装置1は、例えば、図3(h)に示すように、受信間隔Tint(Tint1、2、3、...)ごとに受信時間(信号キャプチャ時間)Trx(Trx1、Trx2、Trx3、...)の期間、複数波混在信号を繰り返しキャプチャする。
【0035】
複数波混在信号のキャプチャ方式としては、例えば、逐次処理方式と、パイプライン処理方式が適用できる。逐次処理方式は、例えば、図4(a)に示すように、適宜な長さの時間間隔をおいて、逐次、キャプチャを実施する方式である。複数波混在信号の捕捉精度を重要視しない場合には、時間間隔を広く設定することにより処理負荷を軽減することが可能である。パイプライン方式は、図4(b)に示すように、キャプチャからキャプチャまでの間の時間間隔を逐次処理方式よりも短くし、トータルのキャプチャ時間を逐次処理方式に比べて長くなるようにした方式である。時間間隔を適宜な値に短く設定することにより、処理負荷は増えるが、逐次処理方式よりも捕捉精度を向上させることができる。本発明では、逐次処理方式、パイプライン方式のいずれも適用できるものであるが、以下においては逐次処理方式を適用することを前提に説明する。
【0036】
図3(h)に示す逐次処理方式による複数波混在信号(送信信号)のキャプチャに合わせ、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、受信間隔Tint1、2、3、...で複数波混在信号を受信し終えるたびに、図3(i)に示すように、その受信信号(複数波混在信号)からそこに混在する信号源110ごとの信号を分離する信号分離処理と、信号分離処理により分離した信号(分離信号)を取得する処理を繰り返し実施する。図3(i)において、順次実施される信号分離処理の処理時間TpをTp1、Tp2、Tp3、...で表し、取得される分離信号の時間TsをTs1、Ts2、Ts3、...で表している。
【0037】
さらに、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、図3(j)に示すように、図3(i)に示す信号分離処理によって取得したそれぞれ時間長Ts1、Ts2、Ts3、...の分離信号に基づき、図3(a)から図3(f)の形態で送受信されるPDUのパターンを推定するPDU推定処理を実施する。PDUは、データ通信において、プロトコル(通信規約)仕様に応じてひとまとまりにされたデータの送受信単位のことであり、一例としてはパケットが挙げられる。図3(j)に示すPDU推定処理によって推定されるPDU(推定PDU)は、OTAトラフィック分析精度の観点から、図3(a)から図3(f)に示すPDUパターン#1~#6にできるだけ近似していることが望まれる。
【0038】
このように、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、上述したデータ推定機能として、間欠的にキャプチャした複数波混在信号から信号源110ごとに分離した分離信号に基づいてPDUを推定するPDU推定処理機能を有している。
【0039】
<PDU推定処理機能>
PDU推定処理機能は、実行中の無線通信により送受信されるPDUパターン#1~#6(図3(a)~(f)参照)の一部構成(断片)要素(キャプチャタイミングTrx1、Trx2、Trx3、...でそれぞれ受信した通信データに相当)を同一の通信の構成要素ごとに選出し、該選出した同一の通信の構成要素ごとの断片要素から同一の通信別に推定PDUを認識するPDU推定処理を行う。
【0040】
なお、基地局B1と無線端末A1間で送受信される上述した各種のデータ(メール、データ、音声、画像・映像等)は、無線フレーム(図2参照)で送受信される際のPDUの長さ(最大サイズ、最小サイズ)や間隔(PDU間ギャップ)、或いはデータレート等、所謂、データパターンが、データ種別によっておおよそ類推できるものである。言い換えれば、基地局B1と無線端末A1間で無線通信される通信データの種別がある程度分かっている場合には、その通信データが間欠的に受信されたものであっても、その間欠的に受信された受信信号からPDU全体の長さや間隔からを推定できるものである。
【0041】
一例として、分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果と関連付けて実施するPDU推定処理について、図5を参照して説明する。なお、図5(a)に示すキャプチャの実施タイミングについては、キャプチャ開始時間(図3(h)における受信時間Trx1、Trx2、Trx3、...の起点に対応する時間)をt1、t2、t3、...で表している。また、図5(b)~(g)に示す分離信号については、キャプチャ開始時間t1、t2、t3、...後の信号処理時間(図3(i)に示す信号分離処理時間Tpに相当)を省略するとともに、それぞれ、到来方向及び信号強度の推定結果が関連付けられているものとする。
【0042】
到来方向及び信号強度の推定結果が関連付けられた分離信号(図5(b)~(g)参照)からPDUを推定する処理に際し、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1は、基地局B1と無線端末A1間での通信の実行中に受信した複数波混在信号から信号源110ごとに分離した信号(分離信号)Sa、Sb、Sc、Sa´、Sb´、Sc´、...の到来方向A、B、C、A´、B´、C´、...及び信号強度を推定し、当該分離信号Sa、Sb、Sc、Sa´、Sb´、Sc´、...をその到来方向A、B、C、A´、B´、C´、...及び信号強度の推定結果とともにキャプチャ開始時間t1、t2、t3、...に対応付けてデータベース33(図7参照)に記憶する処理を実施する。
【0043】
この処理に合わせて、PDU推定処理機能は、記憶された分離信号Sa、Sb、Sc、Sa´、Sb´、Sc´、...とその到来方向A、B、C、A´、B´、C´、...及び信号強度の推定結果をキャプチャ開始時間t1、t2、t3、...ごとに連続にサーチしていきながら(図5(a)~(g)参照)、該サーチされた複数の分離信号Sa、Sb、Sc、Sa´、Sb´、Sc´、...の中からそれぞれ同一通信の構成要素を選出していく。同一通信の構成要素を選出するためのパラメータとしては到来方向が参照される。
【0044】
具体的に、図5(a)の時間t1から時間t7の方向へ順にキャプチャが進行するものとしたとき、図5(b)~(g)に示す分離信号Sa、Sb、Sc、Sa´、Sb´、Sc´、...のうち、時間t1で受信、分離された分離信号Sa、Sb、Scについては、それぞれ、到来方向A、B、Cが捕捉される。
【0045】
同様に、時間t2で受信、分離された分離信号Sb、Sa´については、それぞれ、到来方向B、A´が捕捉され、時間t3で受信、分離された分離信号Sc、Sa´、Sb´については、それぞれ、到来方向C、A´、B´が捕捉され、時間t4で受信、分離された分離信号Sa、Sb´、Sc´については、それぞれ、到来方向A、B´、C´が捕捉され、時間t5で受信、分離された分離信号Sa、Sb、Sc´については、それぞれ、到来方向A、B、C´が捕捉され、時間t6で受信、分離された分離信号Scについては到来方向C´が捕捉され、時間t7で受信、分離された分離信号Sa´、Sb´、Sc´については、それぞれ、到来方向A´、B´、C´が捕捉される。
【0046】
ここで例えば、到来方向Aと到来方向A´の方向(角度)の角度差が、予め設定した閾値(閾値角度)の範囲内であった場合、到来方向Aの分離信号Saと到来方向A´の分離信号Sa´が同一の信号源110から到来した信号(同一の通信の構成要素)であると推察し得る。この推察方法は、到来方向Bの分離信号Sbと到来方向B´の分離信号Sb´、及び到来方向Cの分離信号Scと到来方向C´の分離信号Sc´についても同様である。
【0047】
すなわち、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1では、閾値角度を予め設定しておき、図5(a)に示すタイミングで、時間t1、t3、t4、t5、t6、t7、...の順に複数波混在信号をキャプチャして分離していくなかで、到来方向の推定結果が閾値角度の範囲内にある前後の分離信号については、同一の通信の構成要素として抽出することが可能となる。
【0048】
具体的に、図5(b)~(g)の例においては、分離信号Saと分離信号Sa´を同一の通信の構成要素として抽出することができる。同様に、分離信号Sbと分離信号Sb´、及び分離信号Scと分離信号Sc´を、それぞれ、他の同一の通信の構成要素として抽出することができる。なお、図5(b)~(g)のうち、時間t1、t3、t4、t5、t6、t7、...に対応する空白の部分は、分離信号が存在していない状態を示し、点線で示す部分は何らかの理由で受信できなかった状態(受信ミスの状態)を示している。
【0049】
上述した閾値角度に基づく同一の通信の構成要素の選出結果によれば、分離信号Saと分離信号Sa´は同一の通信要素として、図5(a)の時間t1、t3、t4、t5、t6、t7、...のうち、時間t6を除いて連続に選出されている。また、分離信号Sbと分離信号Sb´は他の同一の通信要素として、時間t6(受信ミス)を除いて連続に選出されている。また、分離信号Scと分離信号Sc´はさらに別の同一の通信要素として、時間t2(受信ミス)を除いて連続に選出されている。
【0050】
また、図5において、図5(h)、(i)、(j)は、観測エリア6内の基地局B1と無線端末A1間で図2に示す構成を有する無線フレームを使って送受信されるパケットデータA、B、Cの送受信パターンの一例を示している。図5(h)、(i)、(j)に亘って点線枠で付加する時間幅t0の区間は、図5(a)に示す時間t1~t7に亘る間欠的なキャプチャ区間に対応している。
【0051】
図5に示すタイミングチャートによれば、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1においては、基地局B1と無線端末A1間で送受信されるパケットデータA、B、Cが混在した複数波混在信号を、時間幅t0より広い期間を通して間欠的にキャプチャし、パケットデータA、B、Cそれぞれの構成要素の断片(分離信号)を取り出したうえで、これら分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出していくことで、当該分離信号をその一部として含むパケットデータA、B、C(PDU)の間隔及び長さを推定し得ることとなる。
【0052】
ここで、同一の通信の構成要素ごとに分離信号を選出した後にPDUの間隔及び長さを推定するためには、選出した分離信号ごとに、その分離信号がPDUの先頭部であるか、後端であるか、継続部であるか等を推定する必要がある。
【0053】
その理由について図6を参照して説明する。本発明に係るOTAトラフィック分析装置1のOTAトラフィック分析対象とされるPDUのサイズと信号キャプチャ間隔は、一例として、図6に示すような関係にある。
【0054】
図6の上段に示すように、PDUについては、PDU#1、#2、#3、...が、例えば、それぞれ異なる間隔(g1、g2、...)、かつ異なる時間長で適宜に送出され得る。一方、本発明に係るOTAトラフィック分析装置1では、図6の下段に示すように、PDU#1、#2、#3、...が混在する複数波混合信号を一定の間隔i1、i2、i3、i4、...で一定の時間長、間欠的に受信し信号源110ごとに分離したうえで、その分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出することによりPDU#1、#2、#3、...を取り出すようになっている。
【0055】
図6に示す関係からも分かるように、PDU#1はそのほぼ先頭部がキャプチャ間隔i1の先端近傍で受信開始されるが、キャプチャ間隔i2においては受信されなくなっている。PDU#2はそのほぼ先頭部がキャプチャ間隔i3の先端で受信開始され、後端においても受信された後、受信されなくなっている。PDU#3は先頭部から少し時間が経過したあたりでキャプチャ間隔i5の先端で受信開始され、その後端でも受信され続けている。
【0056】
このように、長さと間隔が異なるPDU#1、#2、#3、...を一定の間隔i1、i2、i3、i4、...でキャプチャし、できるだけ正確な長さを推定するためには、選出した同一の通信の構成要素の分離信号ごとに、その分離信号がPDUの先頭部であるか、継続部であるか、後端部であるか等を推定することができれば、推定PDUの精度を向上させるうえでも有用である。なお、分離信号がPDUの先頭部であるか、継続部であるか、後端部であるか等の判断処理手順については、後で図9を参照して詳しく説明する。
【0057】
なお、図5においては、受信した複数波混在信号から分離した分離信号の到来方向及び信号強度を加味した(関連付けた)PDU推定処理について述べたが、本発明は、分離信号と到来方向及び信号強度を関係づけることは必ずしも必要はなく、分離信号だけによってPDUを推定するようにしてよい。この構成については、第2の実施形態として後で詳述する。
【0058】
(第1の実施形態)
上述した概要の説明を踏まえ、以下、本発明の第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1の構成について図7を参照して説明する。なお、第1の実施形態においては、到来方向及び信号強度の推定結果が関連付けられた分離信号からPDUを推定することを前提としている。
【0059】
図7に示すように、本実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、アンテナ装置10、ブラインド信号推定装置20、データ処理装置30を備えて構成されている。
【0060】
アンテナ装置10は、観測エリア6(図1参照)内で、複数の信号源110から送信される複数波混在信号を受信するものである。アンテナ装置10の具体的な構成としては、例えば、特許文献1に記載されているような直交する3偏波をそれぞれ受信可能な3つのアンテナを複数のアンテナ素子として回転体にて回転させる構成、あるいは、アレーアンテナの各アンテナ素子を複数のアンテナ素子とする構成がある。
【0061】
本実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、周辺の無線環境から到来する到来信号、すなわち、観測エリア6内で複数の信号源110から送信される信号が混在した複数波混在信号をアンテナ装置10に設けられる複数のアンテナ素子で受信し、各アンテナ素子の受信信号をブラインド信号推定装置20、及びデータ処理装置30で信号処理することにより、各信号源110から送信される信号を分離して各信号源110の到来方向及び信号強度を推定するとともに、当該到来方向及び信号強度の推定結果に基づいてPDUを推定するものである。
【0062】
また、本実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、例えばローカル5G環境での使用が可能なものであり、捕捉する到来信号の周波数帯としては、例えば、3.75GHz、4.6GHz~4.8GHz及び28.2GHz~29.1GHz等の帯域が想定されている。OTAトラフィック分析装置1は、ローカル5G環境での使用に限定されるものではなく、例えば、WiFiなどの他の無線システムでの使用にも適用できるものである。
【0063】
なお、OTAトラフィック分析装置1において、アンテナ装置10は、上述した構成に限られるものではない。上述した周波数帯でのエリア間端末間干渉、基地局間干渉等に対して到来方向、及び諸特性を網羅的に取得できるものであれば、アンテナの種別、数、配列、駆動方式、到来方向推定方法等について種々の方式が適用可能である。
【0064】
ブラインド信号推定装置20は、図3に示すように、周波数変換部21、AD変換部22、信号分離部23、到来方向推定処理部24、信号解析部25を有している。
【0065】
周波数変換部21は、アンテナ装置10により受信された受信信号(複数波混在信号)を入力し、該受信信号を中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する処理を行う。
【0066】
AD変換部22は、周波数変換部21で周波数変換された受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して信号分離部23に出力する。AD変換部22は、アンテナ装置10、周波数変換部21とともに受信部20aを構成している。
【0067】
信号分離部23は、AD変換部22から入力するデジタル信号、すなわち、観測エリア6の所定の配置地点で受信した複数波混在信号から、複数の信号源110のいずれかから送信された信号を分離する信号分離処理を行う。
【0068】
到来方向推定処理部24は、信号分離部23で分離された信号(分離信号)を入力し、入力した信号ごとにその到来方向を推定する信号処理を行う。この信号処理において、到来方向を推定するアルゴリズムとしては、例えば、ビームフォーマ法、MUSIC法、ESPRIT法などが適用される。これらの方法では、例えば、横軸を角度、縦軸を信号レベルとし、到来信号の到来方向(角度)をその信号レベルに関連付けて表わす角度スペクトラムを生成したうえで、角度スペクトラムの縦軸における信号レベルのピークを読み取り、上記ピークに対応する横軸上の角度を、当該角度スペクトラムを有する到来信号の到来方向(角度)として推定するようになっている。到来方向推定処理部24は、本発明の到来方向推定手段を構成する。
【0069】
信号解析部25は、信号分離部23から入力する分離信号を入力し、該分離信号を対象に種々の項目について解析する信号処理を実施する。解析対象とされる項目(解析項目)としては、例えば、信号強度等が挙げられる。信号解析部25は、本発明の信号強度推定手段に相当し、上述した信号分離部23、到来方向推定処理部24とともに解析処理部20bを構成している。
【0070】
ブラインド信号推定装置20は、周波数変換部21、AD変換部22、信号分離部23、到来方向推定処理部24、信号解析部25を備えることで、観測エリア6の空間内で配置地点に到来する複数波混在信号を受信し、そこに混在している信号を分離して分離信号ごとに到来方向及び信号強度を推定できるようになっている。
【0071】
データ処理装置30は、例えば、PC(パーソナル・コンピュータ)で実現され、ブラインド信号推定装置20における受信信号の解析結果、特に、信号到来方向及び信号強度の推定結果に基づき、観測エリア6内の無線端末A1(信号源110)間で実施される通信のトラフィック(OTAトラフィック)を分析するためのデータ処理を行う。データ処理装置30は、制御部31、データベース33、入力部34、表示部35を有して構成されている。
【0072】
制御部31は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、OTAトラフィック分析装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、アンテナ装置10、ブラインド信号推定装置20を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)あるいはHDD(Hard Disc Drive)などの不揮発性メモリ、CPUが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を有している。
【0073】
上述したコンピュータ装置は、CPUがRAMを作業領域としてROMあるいはHDDなどの不揮発性メモリに格納されたプログラムを実行することにより制御部31として機能する。具体的に制御部31は、CPUがRAMの作業領域で上記不揮発性メモリに格納された各プログラムを実行することにより、図7に示すように、分析条件設定部41、アンテナ制御部42、PDU推定部43、表示制御部47の各機能を実現する。ここで分析条件設定部41、アンテナ制御部42は、ブラインド信号推定装置20を制御する装置制御部31aとしての機能部を構成し、PDU推定部43、表示制御部47は、OTAトラフィック分析に係るデータ処理を行うデータ制御部31bとしての機能部を構成している。
【0074】
分析条件設定部41は、観測エリア6でのOTAトラフィックの分析条件を設定するための機能部であり、例えば、OTAトラフィックの分析対象となる無線信号の周波数の設定等を行えるようになっており、本発明の設定手段を構成する。分析条件設定部41は、OTAトラフィック分析対象の周波数帯として、例えば、5Gの運用を考慮し、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定する構成であってもよい。
【0075】
アンテナ制御部42は、アンテナ装置10におけるアンテナ方向などの機械的な制御を行う。
【0076】
分析条件設定部41、アンテナ制御部42を有する装置制御部31aは、複数波混在信号のキャプチャ時間(図3(h)の受信時間Trx)と受信間隔(同、Tint)を制御する機能も備えている。装置制御部31aは、本発明のキャプチャ制御手段を構成している。
【0077】
PDU推定部43は、ブラインド信号推定装置20での複数波混在信号の間欠的な受信(キャプチャ)に合わせた信号処理によって生成した信号、すなわち、分離信号、該分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果をデータベース33に逐次記憶するとともに、記憶した分離信号と、該分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果とに基づいて、当該分離信号を一部構成要素として含むPDUの長さと間隔を推定するPDU推定処理を実行する。PDU推定部43は、本発明のPDU推定手段を構成する。
【0078】
表示制御部47は、OTAトラフィック分析条件の設定画面、PDU推定結果を表示する表示画面等、OTAトラフィック分析処理に係る種々の情報及び画面を表示する制御を行うものである。
【0079】
データベース33は、信号分離部23が出力する分離信号、到来方向推定処理部24、及び信号解析部25がそれぞれ出力する上記分離信号の到来方向、及び信号強度の推定結果、PDU推定部43によるPDU推定結果等、OTAトラフィック分析に係る各種情報を格納するための機能部である。
【0080】
入力部34は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、キーボード、マウス等の入力装置により構成されている。本実施形態において、入力部34は、OTAトラフィック分析処理に係る周波数をはじめとする各種パラメータの設定、OTAトラフィック分析処理の開始、あるいは終了を指示する機能(操作部としての機能)を備えていてもよい。
【0081】
表示部35は、上述した表示制御部47の表示制御によって、OTAトラフィック分析条件(設定パラメータ)の設定画面、PDU推定結果を表示する表示画面等、OTAトラフィック分析処理に係る種々の情報及び画面を表示するものである。表示部35は、設定パラメータやコマンドなどを入力可能とするためにタッチパネル等で構成されていてもよい。
【0082】
次に、本実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1におけるPDU推定処理動作について図8に示すフローチャートを参照して説明する。
【0083】
このPDU推定処理を行うためには、OTAトラフィック分析装置1を観測エリア6内の所望の地点に設置する。
【0084】
所望の地点に設置した後、OTAトラフィック分析装置1では、制御部31の分析条件設定部41において、PDU推定処理を実行するのに必要な設定項目(パラメータ)を設定する開始前設定(分析条件設定)処理を行う(ステップS1)。分析条件設定処理は、例えば、表示部35に設定画面を表示し、ユーザによる、その設定画面に表示される各設定項目の設定欄に対する入力部34からの設定値の入力を受け付けることにより行うことができる。
【0085】
ここで分析条件設定部41は、基地局B1と無線端末A1間の通信に用いられるプロトコル、及びそのプロトコル仕様に合致するPDUの構成を踏まえ、例えば、周波数、データレート、受信信号長(信号キャプチャ時間)、受信間隔、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長、閾値角度(到来方向から同一の通信の構成要素を選出する際に用いる)等の設定項目の入力(設定操作)を受け付け、その入力された各項目を設定する処理を実施する。受信信号長(信号キャプチャ時間)、受信間隔は、それぞれ、図3における受信時間Trx、受信間隔Tintに相当する。
【0086】
次いで、制御部31では、ユーザによる、例えば、入力部34でのトラフィック分析処理の開始操作を受け付ける(ステップS2)。この開始操作は、例えば、上述した設定画面に表示されている「開始」ボタンを押下する等の操作により行うことができる。
【0087】
トラフィック分析処理に関する所定の開始操作が行われると、OTAトラフィック分析装置1では、データ処理装置30の装置制御部31aからアンテナ装置10及びブラインド信号推定装置20を制御することにより、複数の無線信号が混在する複数波混在信号の受信を行わせる(ステップS3)。
【0088】
ここで、装置制御部31aのアンテナ制御部42は、分析条件設定部41により設定した周波数帯の複数波混在信号をステップS2で設定した受信信号長(信号キャプチャ時間)と受信間隔にて間欠的にキャプチャさせるようにアンテナ装置10を駆動制御する。また、装置制御部31aは、アンテナ装置10によって上記周波数帯の複数波混在信号が間欠的にキャプチャされるのに合わせて、キャプチャされた信号の信号処理を行わせるようにブラインド信号推定装置20を駆動制御する。この駆動制御により、ブラインド信号推定装置20では、アンテナ装置10により間欠的にキャプチャされた受信信号が、周波数変換部21により周波数変換され、該周波数変換後の受信信号がAD変換部22でアナログ信号からデジタル信号に変換される信号処理を経て、キャプチャ後、速やかに信号分離部23へと入力される。
【0089】
信号分離部23は、入力する信号(キャプチャされた信号)から当該地点でその周囲から到来する複数の信号源成分を信号源110ごとにそれぞれ分離する処理(図3における信号分離時間Tp参照)を実施し(ステップS4)、該分離された信号(分離信号)の信号源成分を到来方向推定処理部24、及び信号解析部25へ入力する。次いで、到来方向推定処理部24、及び信号解析部25は、入力する分離信号を解析して当該分離信号の到来方向、及び信号強度をそれぞれ推定する処理(図3における分離信号時間Ts≒受信時間Trx参照)を実施する(ステップS5)。
【0090】
上記ステップS5での到来方向推定処理部24による到来方向の推定処理は、入力される分離信号(複数の信号源110のいずれかから送信された信号源成分)に対して、例えば、MUSIC法、ビームフォーミング法等を適用して実施し、当該分離信号ごとの到来方向を推定する。到来方向推定処理部24は、信号源110の到来方向推定結果をデータ処理装置30へと出力する。また、上記ステップS5において、信号解析部25は、入力される分離信号ごとにその信号強度を算出するとともに、他の項目についても解析処理を実施し、算出した分離信号ごとの信号強度、及び他の項目の解析結果をデータ処理装置30へと出力する。
【0091】
具体的に、到来方向推定処理部24は、例えば、MUSIC法を適用する場合、信号分離部23から入力するそれぞれの信号源成分のMUSIC角度スペクトラムを生成する。MUSIC角度スペクトラムは、例えば、横軸を角度、縦軸を信号レベルとし、到来信号の到来方向(角度)をその信号レベルに関連付けて表わすグラフで構成されている。
【0092】
引き続き、到来方向推定処理部24は、MUSIC角度スペクトラムの縦軸における信号レベルのピークを読み取り、上記ピークに対応する横軸上の角度を、当該角度スペクトラムを有する到来信号の到来方向(角度)として推定する。
【0093】
これに対し、ビームフォーミング法を適用する場合、到来方向推定処理部24は、信号分離部23から入力するそれぞれの信号源成分のビームフォーミング角度スペクトラムを生成する。ビームフォーミング角度スペクトラムも、例えば、横軸を角度、縦軸を信号レベルとし、到来信号の到来方向(角度)をその信号レベルに関連付けて表わすグラフで構成されている。
【0094】
これにより、到来方向推定処理部24は、ビームフォーミング角度スペクトラムの縦軸における信号レベルのピークを読み取り、上記ピークに対応する横軸上の角度を、当該角度スペクトラムを有する到来信号の到来方向(角度)として推定する。
【0095】
上記ステップS4で分離された分離信号と、上記ステップS5での解析処理に基づく当該分離信号ごとの到来方向及び信号強度の推定結果は、データ制御部31bによって、データベース33の所定の格納領域に継続的に記録される(ステップS6)。
【0096】
これに合わせて、PDU推定部43は、上記ステップS6で記憶された分離信号と、分離信号ごとの到来方向及び信号強度の推定結果に基づいて、基地局B1と無線端末A1間で送受信される当該分離信号を一部構成要素として含むPDUのサイズを推定する処理を実施する(ステップS7)。
【0097】
ステップS7におけるPDU推定処理は、例えば、前述したように、図5に示すタイミングチャートに沿った手順により実施可能である。ここで、PDU推定部43は、各キャプチャ時間に対応して記憶された複数の分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果(ステップS6参照)を指標とし、キャプチャ時間の前後で予め設定した条件、すなわち、上記ステップS2で設定した閾値角度の範囲という条件を満たす分離信号を、各組ごとに、それぞれ、同一の通信の構成要素として選出する処理をキャプチャ時間の経過に合わせて継続的に実施する。
【0098】
この処理において、同一の通信の構成要素として選出されるそれぞれの分離信号(図5の例においては、SaとSa´、SbとSb´、ScとSc´)は、組ごとに、あるキャプチャ時間には選出されていないが次のキャプチャ時間には選出される第1のパターン、あるキャプチャ時間の後、複数のキャプチャ時間の区間選出され続けるパターン(第2のパターン)、あるキャプチャ時間には選出されて次のキャプチャ時間には選出されなくなったパターン(第3のパターン)等、種々のパターンが混在して出現することがある。
【0099】
このようなパターンで分離信号のパターン(分離信号パターン)が出現することを想定した場合、例えば、上述した第1のパターンの分離信号は、推定対象のPDU(推定PDU)における先頭部の分離信号と推察することが可能である。また、上述した第2のパターンの分離信号、第3のパターンの分離信号は、それぞれ、推定PDUにおける継続する部分(継続部)の分離信号、後端部の分離信号と推察し得るものと考えられる。
【0100】
受信信号、分離信号パターン、及び推定PDUの対応関係の一例を図10に示している。図10において、(a)は受信された次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンのみを含むときの対応関係を示し、(b)は受信された次の次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンと、受信された次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターン2つを含むときの対応関係を示し、(c)は受信された次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンと、受信されてから4つ後のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンを含むときの対応関係を示し、(d)は受信された次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンと、受信されないタイミングが2つ続いた後、受信された次の次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンを含むときの対応関係を示している。
【0101】
図10に示す受信信号、分離信号パターン、及び推定PDUの対応関係によれば、図10(a)~(d)に示すように、受信された次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンからは、それぞれ、先頭部の分離信号であって、受信されたキャプチャ時間から次のキャプチャ時間が始まる前まで連続するPDUの推定(推定PDUの取得)が可能となる。
【0102】
また、図10(b)、(d)に示すように、受信された次の次のタイミングで受信されなくなった分離信号パターンからは、受信されてから2つの後のキャプチャ時間が始まる前まで継続する推定PDUの取得が可能である。
【0103】
また、図10(c)に示すように、受信されてから4つ後のタイミングで受信されなくなった分離信号については、受信されてから4つの後のキャプチャ時間が始まる前まで継続する推定PDUの取得が可能である。
【0104】
図10に示す分離信号パターンと推定PDUの関係を利用したPDUの推定処理について、図9を参照して詳しく説明する。図8のステップS7でのPDU推定処理において、PDU推定部43は、記憶された複数の分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果(ステップS6参照)を順次読み出し、同一の通信の構成要素として選出される分離信号の組ごと、すなわち、信号源110ごとの分離信号の配列ごとにその分離信号のパターン(分離信号パターン)を判断する処理を図9に示すフローチャートにしたがって実施する。
【0105】
ここでPDU推定部43は、信号源110ごとの各キャプチャ時間における分離信号について、例えば、ある信号源110について、分離信号が検出された地点を推定され得るPDU(推定PDU)の先頭部と判断する(ステップS61)。
【0106】
また、引き続き分離信号が検出された場合、PDU推定部43は、例えば、推定PDUが継続しているものと判断する(ステップS62)。
【0107】
これに対し、分離信号が検出されなかった場合、PDU推定部43は、例えば、その時点で推定PDUの終端と判断する(ステップS63)。
【0108】
上記ステップS61からステップS63の処理に繰り返し実施しながら、PDU推定部43は、当該信号源110から送出された信号の分離信号から推定PDUを順次構築していく。推定PDUの構築処理の実行中、PDU推定部43は、PDUの先頭部からの経過時間とデータレートから算出したデータ長が予め設定したPDU最大サイズに達した場合にはPDUの終端と判断する(ステップS64)。
【0109】
これに対し、ステップS64において上記データ長が予め設定したPDU最小サイズより短かった場合、PDU推定部43は、PDU最小サイズに引き延ばすと共に、PDU先頭位置、PDU終端位置(時間)を調整する処理を実施する(ステップS65)。この処理を行うために、PDU推定部43は、先頭位置のみを見逃しているか、終端位置のみを見逃しているか、先頭位置と終端位置の両方を見逃しているかを判定できるようになっている。この判定結果に応じて、PDU推定部43は、先頭位置のみを見逃している場合は、先頭位置(時間)をサイズ延長分だけ前倒し、終端位置のみを見逃している場合は、終端位置(時間)をサイズ延長分だけ先送りにする。また、先頭位置、終端位置の両方を見逃している場合は、前後両方をサイズ延長分の半分ずつずらす処理を実施する。
【0110】
また、上記ステップS61からステップS63の繰り返しによる推定PDUの構築処理の実行中、PDU推定部43は、PDUの終端から予め設定したPDU間最少ギャップよりも短い間隔で次の分離信号を検出した場合、当該分離が検出された地点を次のPDUの先頭部と判断するとともに、直前の推定PDUに遡ってPDU間最少ギャップに見合ったサイズに修正する(ステップS66)。
【0111】
図9に示すように、PDU推定部43では、記憶された複数の分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果(図8のステップS6参照)に対して、同一の通信の構成要素として選出される分離信号を組ごとに選出していきながら、各組の別個の分離信号ごとに分離信号パターンの判断処理(図10参照)を適用して推定PDUを更新していく。
【0112】
この処理により、図8のステップS7において、PDU推定部43は、最終的に、同一の通信の構成要素ごと、つまり、信号源110ごとにその信号源110から無線信号により送出されるPDUのパターンを推定(推定PDUを取得)することができる。このように、PDU推定部43では、図8のステップS1で設定された周波数、データレート、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長に合致する推定PDUが取得されるまでPDU推定処理を続行するようになっている。
【0113】
上述したように、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、基地局B1と複数の無線端末A1の間で無線通信が行われるOTA環境下において、基地局B1と無線端末A1間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から無線端末A1たる信号源110ごとに分離した分離信号に基づいて無線通信の通信トラフィックを分析するものである。
【0114】
第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御する装置制御部31aと、キャプチャ後に分離された分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した分離信号の信号パターンに基づいて、同一の通信の構成要素ごとに、無線通信により送受信されるPDUを推定するPDU推定部43と、分離信号の到来方向を推定する到来方向推定処理部24と、分離信号の信号強度を推定する信号解析部25と、を有し、PDU推定部43は、分離信号を、当該分離信号の到来方向及び信号強度を加味して同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンに基づいて同一の通信の構成要素ごとに無線通信により送受信されるPDUを推定する構成を有している。
【0115】
この構成により、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、間欠的に受信した受信信号から分離した同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえで、その信号パターンから同一の通信の構成要素ごとのPDUの長さ及び間隔を容易に推定することができ、特定の周波数を使用する無線通信システムの運用に何等影響を及ぼすことなく、無線端末数や各無線端末の通信量のOTAでの観測が可能となる。
【0116】
特に、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1では、既存のブラインド信号推定装置20の到来方向推定機能、及び信号強度推定機能を併用し、分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果を加味して同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえでPDUを推定することで、構成を複雑化させることなく、到来方向及び信号強度の推定結果を加味しない場合に比べてPDU推定精度を向上させることができる。
【0117】
また、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、通信トラフィックの分析に係るパラメータを設定する分析条件設定部41をさらに有し、分析条件設定部41は、パラメータとして、周波数、データレート、信号キャプチャ時間、受信間隔、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長を設定し、装置制御部31aは、設定された信号キャプチャ時間及び受信間隔で複数波混在信号のキャプチャが実施されるように制御し、PDU推定部43は、設定された周波数、データレート、PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長に合致する推定PDUが取得されるまでPDU推定処理を続行する構成である。
【0118】
この構成により、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、分析条件設定部41によるパラメータの設定により、その設定した所望の周波数、所望のデータレートやサイズ(PDU最大サイズ、PDU最小サイズ、PDU間最少ギャップ長)等に合致するPDUの推定が容易に行える。
【0119】
また、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1において、分析条件設定部41は、到来角度の閾値をさらに設定し、PDU推定部43は、隣り合う信号キャプチャ時間のそれぞれの分離信号のうち、到来方向が上記閾値の範囲内にある分離信号を同一の通信の構成要素として選出する構成を有している。
【0120】
この構成により、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、到来角度の閾値を設定することでその閾値の角度範囲内にある分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出する処理が容易に実行でき、OTA環境下での通信トラフィックの分析処理の迅速化が図れる。
【0121】
また、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1において、PDU推定部43は、信号キャプチャ時間に対応して分離信号が受信されたか、受信継続中か、受信されなくなったかに応じて、分離信号がPDUの先頭部であるか、PDUの継続部であるか、PDUの後端部であるかを判断し、その判断の結果に基づいてPDUの長さ及び間隔を推定するようになっている。
【0122】
この構成により、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1は、推定結果として得られるPDU(推定PDU)を取得するまでの処理を簡略化することができ、処理時間の短縮も図れる。
【0123】
また、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析方法は、基地局B1と複数の無線端末A1の間で無線通信が行われるOTA環境下において、基地局B1と無線端末A1間で送受信される無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャし、キャプチャに対応して間欠的に取得される受信信号から無線端末A1たる信号源110ごとに分離した分離信号に基づいて無線通信の通信トラフィックを分析するものであって、複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御するステップ(S3)と、キャプチャ後に分離された分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した分離信号の信号パターンに基づいて、同一の通信の構成要素ごとに、無線通信により送受信されるPDUを推定するPDU推定ステップ(S7)と、を含み、PDU推定ステップ(S7)においては、分離信号を、当該分離信号の到来方向及び信号強度を加味して同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンに基づいて同一の通信の構成要素ごとに無線通信により送受信されるPDUを推定するようになっている。
【0124】
この構成により、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析方法は、間欠的に受信した受信信号から分離した同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえで、その信号パターンから同一の通信の構成要素ごとのPDUの長さ及び間隔を容易に推定することができ、特定の周波数を使用する無線通信システムを対象に、その運用に何等影響を及ぼすことなく、無線端末数や各無線端末の通信量のOTAでの観測が可能となる。特に、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析方法によれば、既存のブラインド信号推定装置20の到来方向推定機能、及び信号強度推定機能を併用し、分離信号の到来方向及び信号強度の推定結果を加味して同一の通信の構成成分の分離信号の信号パターンを推定したうえでPDUを推定することで、構成を複雑化させることなく、到来方向及び信号強度の推定結果を加味しない場合に比べてPDU推定精度の向上が見込める。
【0125】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aの構成を図11に示している。図11に示すように、第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aは、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1のデータ処理装置30におけるPDU推定部43に代えてPDU推定部43Aを備えたものである。PDU推定部43は、間欠的に受信した受信信号からそこに含まれる信号を同一の通信の構成要素(信号源110)ごとに分離し、その分離信号の到来方向及び信号強度に基づいてPDUの長さを推定するのに対して、PDU推定部43Aは、到来方向及び信号強度を用いず、受信信号から信号分離部23により分離された分離信号を直接入力し、その分離信号パターンに基づいてPDUの長さを推定するものである。
【0126】
第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aは、PDU推定部43A以外の構成は第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1と同じである。図11においては、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1の構成要素を同一の部分には同一の符号を付している。
【0127】
第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1AのPDU推定処理について図12に示すフローチャートを参照して説明する。図12において、図8に示す第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1のPDU推定処理と同一の処理については同一のステップ番号を付し、同一の処理の詳しい説明は割愛する。ここでは、第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aに特有の処理を主体に説明する。
【0128】
第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aにおいて、PDU推定部43Aは、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1と同様、まず、分析条件設定処理を実施する(ステップS1)。
【0129】
その後、PDU推定部43Aは、第1の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1と同様、分析開始操作を受け付けることにより(ステップS2)、複数の無線信号が混在する複数波混在信号を間欠的にキャプチャさせるようにブラインド信号推定装置20を駆動し(ステップS3)、キャプチャされた信号から、ブラインド信号推定装置20の信号分離部23により信号源110ごとの信号成分を分離する(ステップS4)処理を実行する。
【0130】
信号分離部23は、分離した複数の信号源成分(信号源110ごとにそれぞれ分離された分離信号)をデータ制御部31bのPDU推定部43Aに入力する。ここでPDU推定部43Aは、信号分離部23から入力する分離信号を取り込んで、該分離信号をデータベース33の所定の格納領域に継続的に記憶する処理を実施する(ステップS6A)。
【0131】
ステップS6Aに至るまでの信号処理について、図13を参照して説明する。第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aでは、図13に示すように、通信中の基地局B1と無線端末A1間で送受信される複数の無線信号が混在する複数波混在信号がブラインド信号推定装置20によって間欠的に受信される(図13(a)参照)。
【0132】
OTAトラフィック分析装置1Aにおいて、間欠的に受信された複数波混在信号は、ブラインド信号推定装置20の周波数変換部21、AD変換部22でそれぞれ信号処理された後(図13(b)参照)、信号分離部23により信号源110ごとに分離され、分離信号(図13(c)参照)としてデータベース33に記録されていく。図13(c)において、同一の網掛けにより示される分離信号は、それぞれ、同一の通信の構成要素を示している。ここでは、四種類の網掛けを用いて四種類のデータ通信に係る分離信号S11、S12、S13、S14の配列を示している。ここでの分離信号S11、S12、S13、S14の配列は、4種類のデータ通信によりそれぞれ送受信されるPDUの間欠的な分離信号パターンを構成している。これにより、PDU推定部43Aは、OTAトラフィック分析装置1のPDU推定部43と同様、上記分離信号パターンに基づいてデータA1、B1、C1、D1それぞれに対応するPDUを通信データの種別ごとに推定(推定PDUを取得)することが可能となる。
【0133】
すなわち、図12に示す一連の処理中、PDU推定部43Aは、ステップS6Aにおける分離信号を継続的に記録する処理に合わせて、その記憶された分離信号の分離信号パターンを検索し、該分離信号パターンに基づき、当該分離信号を一部構成要素として含むPDUのサイズを推定する処理を実施する(ステップS7A)。
【0134】
ステップS7Aの信号処理のタイミングチャートは、図13(d)、(e)に示されている。第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aでは、図13(d)に示すように、それ以前の処理で生成された分離信号S11、S12、S13、S14(図13(c)参照)の分離信号パターンから、データA1、B1、C1、D1にそれぞれに対応するPDUを推定する処理が行われる。
【0135】
このPDU推定処理は、PDU推定部43Aにおいて、図10に示す受信信号、分離信号、推定PDUの関係に照らした図9に示す判断フローを適用して実行される。このPDU推定処理によれば、図13(e)に示すように、図13(c)に示す分離信号S11、S12、S13、S14が連続する区間が、それぞれ、データA1、B1、C1、D1に対応するPDUが推定可能となっている。
【0136】
上述したように、第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aは、複数波混在信号の信号キャプチャ時間と受信間隔を制御する装置制御部31aと、キャプチャ後に分離された分離信号を同一の通信の構成要素ごとに選出し、選出された分離信号の信号パターンを同一の通信の構成要素ごとに推定するとともに、推定した分離信号の信号パターンに基づいて、同一の通信の構成要素ごとに無線通信により送受信されるPDUを推定するPDU推定部43Aと、を有している。
【0137】
ここで、PDU推定部43Aは、第1の実施形態に係るPDU推定部43とは異なり、分離信号の到来方向と信号強度を参照することなく分離信号パターンを推定し、さらにその分離信号パターンからPDUを推定する構成を有している。この構成により、第2の実施形態に係るOTAトラフィック分析装置1Aは、ブラインド信号推定装置20の到来方向推定処理部24による分離信号の到来方向の推定処理、及び信号解析部25での分離信号の信号強度の推定処理を行う必要はなく、PDU推定部43の処理負荷を低減できるとともに、処理能力アップへの要請も緩和することができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
以上のように、本発明は、間欠的に受信した複数波混在信号から、通信中の無線通信システムに何ら影響を及ぼすことなく、OTAトラフィックの効率的かつ高精度の観測を可能にするという効果を奏し、複数波混在信号の間欠的な受信が余儀なくされるOTAトラフィック分析装置、及びOTAトラフィック分析方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0139】
1、1A OTAトラフィック分析装置
6 観測エリア
10 アンテナ装置
20 ブラインド信号推定装置
20a 受信部
20b 解析処理部
21 周波数変換部
22 AD変換部
23 信号分離部
24 到来方向推定処理部(到来方向推定手段)
25 信号解析部(信号強度推定手段)
30 データ処理装置
31 制御部
31a 装置制御部(キャプチャ制御手段)
31b データ制御部
33 データベース
34 入力部(設定手段)
35 表示部
41 分析条件設定部(設定手段)
42 アンテナ制御部
43、43A PDU推定部(PDU推定手段)
47 表示制御部
110 信号源
A1 無線端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13