(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097666
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライト、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/24 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
C01B39/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001285
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 健夫
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】香川 智靖
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA69
4G073BA75
4G073BA76
4G073BD13
4G073BD21
4G073CZ03
4G073CZ05
4G073FE03
4G073FE05
4G073GA01
4G073GA02
4G073GA03
4G073GA05
4G073GA12
4G073GA13
4G073UA01
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】結晶性が高く、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが大きく、2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトを提供すること。
【解決手段】(a)SiO2/Al2O3のモル比が4以上かつ10以下、(b)細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2~10nmが60m2/g以上かつ120m2/g以下、(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が85%以上、(d)結晶化度が0.70以上、である、フォージャサイト型ゼオライト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SiO2/Al2O3のモル比が4以上かつ10以下、
(b)細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが60m2/g以上かつ120m2/g以下、
(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が85%以上、
(d)結晶化度が0.70以上、
である、フォージャサイト型ゼオライト。
【請求項2】
Naを、Na2O換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、
前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、
前記スチーム処理前駆体をスチーム処理するスチーム処理工程、を含む、
フォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ孔領域、特に細孔直径が2~10nmの小さいメソ孔領域の比表面積およびその割合が大きいものでありながら、結晶崩壊を抑制することで、結晶性を高く保持したフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトという物質名は、結晶性の多孔質アルミノシリケートの総称である。ゼオライトの中でも、強い固体酸を有する多孔性材料であるフォージャサイト型ゼオライトが古くから使用されてきた。また、フォージャサイト型ゼオライトは、石油精製や石油化学分野に用いる触媒の構成成分としてや吸着剤としても、古くから使用されている。フォージャサイト型ゼオライトの特性は、SiとAlとの比率によって大きく影響を受けることが知られている。この比率は、一般的にケイバン比(SAR)とも呼ばれ、SiO2/Al2O3のモル比で表される。
【0003】
フォージャサイト型ゼオライトを触媒の構成成分や吸着剤として用いる際には、反応や吸着の対象となる分子の大きさに対して適切な細孔径の比表面積が大きいことが望ましい。すなわち、標的分子よりも小さい細孔に対して、分子は、小さい細孔に侵入することが出来ない。反対に、標的分子よりも大きい細孔に対して、分子は、大きい細孔を通過してしまうため、吸着あるいは反応することが困難である上、意図しない分子が反応する可能性が生じる。
【0004】
フォージャサイト型ゼオライトの細孔分布を変化させる手段としては、1)アルカリ金属置換フォージャサイトを鉱酸やアンモニウム塩などで処理する方法、2)水蒸気による熱処理により脱アルミニウム処理する方法、または3)このような処理を2つ組み合わせる方法が報告されている(特許文献1~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-502876号公報
【特許文献2】特許第2933708号公報
【特許文献3】特開2012-140287号公報
【特許文献4】特開昭60-46916号公報
【特許文献5】特表平9-502416号公報
【特許文献6】米国特許第5601798号明細書
【特許文献7】米国特許第5013699号明細書
【特許文献8】米国特許第3383169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような製造方法を用いて、フォージャサイト型ゼオライトの細孔分布を変化させることが可能であるが、当該ゼオライトの結晶性を過度に低下させることなく、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積を選択的に増加する技術は報告されていなかった。
【0007】
このような状況を踏まえ、本発明は、結晶性が高く、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが大きく、細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、結晶性が高く、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが大きく、かつ細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトが得られることを見出した。
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、
[1](a)SiO2/Al2O3のモル比が4以上かつ10以下、
(b)細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが60m2/g以上かつ120m2/g以下、
(c)細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が85%以上、
(d)結晶化度が0.70以上、である。
【0010】
さらに、上記課題を有利に解決する本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は、
[2]Naを、Na2O換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理するスチーム処理工程、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶性が高く、メソ孔領域(細孔直径2nm~50nm)の細孔の中でも、特に、細孔直径が2~10nmの領域にある小さい細孔の比表面積2-10nmが大きいフォージャサイト型ゼオライトが得られる。また、このフォージャサイト型ゼオライトは、細孔直径が2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が多い。つまり、このフォージャサイト型ゼオライトは、細孔直径が10~200nmの領域にある大きい細孔の比表面積が小さい。このため、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトは、大きい分子が当該ゼオライトの細孔内に侵入しにくくなり、小さい分子をより選択的に吸着したり反応したりするための素材としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライト(以下、単に「本発明のゼオライト」ともいう。)について、詳述する。
【0013】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、(a)SiO2/Al2O3のモル比(以下、単に「ケイバン比」ともいう。)が4以上かつ10以下であることを特徴の一つとする。このケイバン比は、5以上かつ10以下であることが好ましく、5以上かつ7以下であることがより好ましい。このケイバン比は、ゼオライトの組成比から算出したものである。ケイバン比が前述の範囲内であれば、本発明のゼオライトは、適度な細孔分布を有し、結晶性が高いまま保持されるため好ましい。
【0014】
本発明のゼオライトは、(b)細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが60m2/g以上かつ120m2/g以下であることを特徴の一つとする。この細孔は、一般的にメソ孔と呼ばれる細孔(細孔直径が2~50nmの細孔)の中でも、特に小さい領域の細孔であって、本明細書においては小メソ孔ともいう。なお、メソ孔領域の比表面積は、吸着質である窒素がメソ孔から脱離するときの相対圧と窒素の吸着量との関係を示す窒素吸着等温線を使って、例えば、JISZ 8831-2:2010に規定されるBJH法により解析・算出することができる。
【0015】
本発明のゼオライトは、(c)細孔直径が2~200nmの領域にある比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が85%以上であることを特徴の一つとする。
すなわち、本発明のゼオライトは、小メソ孔の比表面積が大きく、かつ細孔直径が10~200nmの領域にある細孔の比表面積が小さい、という特徴的な細孔構造を有している。本発明のゼオライトは、このような特徴的な細孔構造を有することで、小さい分子をより選択的に吸着したり、反応したりすることができる。この割合は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
なお、細孔直径が2~200nmの領域にある比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合は、小さい分子をより選択的に吸着させるという観点から高ければ高いほど好ましい。なお、その上限は、100%を超えることはない。
【0016】
本発明のゼオライトは、(d)結晶化度が0.70以上であることを特徴の一つとする。すなわち、本発明のゼオライトは、結晶性が高い。本発明においては、ゼオライトの結晶性を表す指標として、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来する回折ピークの強度を用いた(JIS K0131 X線回折分析通則)。具体的には、特定の方法で得られたフォージャサイト型ゼオライトを基準物質とし、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来するピークの強度比を結晶化度と定義し、これを結晶性の指標とした。この結晶化度は、0.80以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。本発明のゼオライトにおいて、結晶化度は、高ければ高いほど好ましいが、その上限は1.50以下であってもよく、1.25以下であってもよく、1.00以下であってもよい。その理由は、ゼオライトの結晶性は、ゼオライトの耐久性や固体酸性質に良い影響を与えるからである。
【0017】
本発明のゼオライトは、格子定数が、2.445nm以上かつ2.465nm以下であることが好ましく、2.450nm以上かつ2.460nm以下であることがより好ましく、2.452nm以上かつ2.460nm以下であることが特に好ましい。本発明において、格子定数は、ゼオライト骨格のケイバン比を示す指標である。ゼオライト骨格内のアルミニウムが増える(ゼオライト骨格のケイバン比が小さくなる)と格子定数は大きくなる。一方、ゼオライト骨格内のアルミニウムが減る(ゼオライト骨格のケイバン比が大きくなる)と格子定数は小さくなる。この格子定数が前述の範囲にあると、ゼオライト骨格の水熱安定性が高く、かつ固体酸量も多くなりやすい。
【0018】
本発明のゼオライトは、比表面積が、550m2/g以上であることが好ましく、600m2/g以上であることがより好ましい。この比表面積は、高ければ高いほど好ましいが、その上限は、700m2/g以下であってもよい。ゼオライトは、一般的に、その骨格に由来する細孔構造によって極めて広い比表面積を有する。この比表面積が前述の範囲にあると、ゼオライト骨格が発達し、より結晶性も高くなりやすい。
【0019】
本発明のゼオライトは、例えば、石油精製や石油化学分野に用いる触媒の構成成分として、また吸着剤としても用いることができる。
【0020】
以下、本発明に係るフォージャサイト型ゼオライトの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)について、詳述する。
【0021】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、Naを、Na2O換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程を含む。
【0022】
<懸濁液調製工程>
この工程では、原料ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する。この工程では、Naを、Na2O換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト(以下、単に「原料ゼオライト」ともいう。)を原料として用いる。原料ゼオライトは、Naを、Na2O換算で、12質量%以上、かつ14質量%以下含むことが好ましく、13質量%以上、かつ14質量%以下含むことがより好ましい。このような原料ゼオライトを用いると、最終的に得られる本発明のゼオライトの小メソ孔の比表面積がより大きくなる。
【0023】
この工程では、原料ゼオライトとして、市販されているものを購入したものを用いてもよく、また従来公知の方法で合成したものを用いてもよい。例えば、Si原料、Al原料を加え、さらにNa原料および水を加えた後、80℃以上かつ120℃以下の温度で水熱処理する方法で、原料ゼオライトを調製することもできる。この工程で用いる原料ゼオライトは、NaY型ゼオライトであることが好ましい。ここで、NaY型ゼオライトは、ナトリウムイオン(Na+)でイオン交換され、ケイバン比が4以上のフォージャサイト型ゼオライトを指す。また、そのケイバン比は、4以上かつ7以下であることがより好ましく、4.5以上かつ5.5以下であることが特に好ましい。ケイバン比がこの範囲にあるNaY型ゼオライトは、結晶性が高く、工業的にも量産しやすい。また、原料ゼオライトの格子定数は、2.465nm以上かつ2.475nm以下であることが好ましく、2.468nm以上かつ2.473nm以下であることがより好ましい。さらに、原料ゼオライトの比表面積は、700m2/g以上であることが好ましい。このような原料ゼオライトを用いると、最終的に得られる本発明のゼオライトの結晶性がより高くなりやすく、小メソ孔の比表面積も大きくなりやすい。
【0024】
この工程では、アンモニウム塩を原料として用いる。アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。この工程では、原料ゼオライト中に含まれるアルミニウム原子(Al)のモル数に対するアンモニウム塩に含まれるアンモニウムイオン(NH4
+)のモル数の比率(NH4
+/Al)が1以上かつ10以下となるように懸濁液を調製することが好ましい。さらに、この比率が1以上かつ5以下となるように懸濁液を調製することがより好ましい。この比率が前述の範囲にあると、原料ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換される。この比率が高すぎると、排水中のアンモニウム塩の濃度が高くなり、環境負荷も高くなるので、工業的に好ましくない。また、前記懸濁液の温度は10℃以上かつ60℃以下であることが好ましく、10℃以上、50℃以下であることがより好ましい。なお、この工程には、水にアンモニウム塩が妖怪した水溶液の温度を前述の範囲に調整し、これに原料ゼオライトを混合する工程も包含される。
【0025】
この工程では、水を原料として用いる。水は、水道水、蒸留水、イオン交換水などが挙げられる。この工程では、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水を用いると、原料ゼオライト中のナトリウムイオンがアンモニウムイオンに効率的にイオン交換される。
【0026】
<前処理工程>
本発明の製造方法は、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程を含む。この工程では、原料ゼオライトに含まれるナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換することで、後述のスチーム処理工程においてゼオライト骨格からの脱アルミニウムおよび小メソ孔の生成が促進されやすいスチーム処理前駆体が得られる。また、原料ゼオライトのゼオライト骨格からアルミニウムの一部が溶出(脱アルミニウム)することで、後述のスチーム処理工程において小メソ孔が生成しやすくなる。
【0027】
この工程では、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下に調整する。このpHを前述の範囲に調整することで、原料ゼオライトのゼオライト骨格からアルミニウムが一部溶出(脱アルミニウム)したスチーム処理前駆体が調製される。このスチーム処理前駆体を後述のスチーム処理工程においてスチーム処理すると、小メソ孔が生成する。このpHが5.0以下である場合は、ゼオライト骨格からのアルミニウムの溶出が十分となり、小メソ孔の生成が多くなるため好ましい。また、このpHが3.0以上である場合は、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトの結晶性が低下しにくくなるため、好ましい。
【0028】
この工程では、前記懸濁液のpHを調整するために、pH調整剤として従来公知の酸を用いることができる。例えば、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸を用いることができる。
【0029】
この工程では、前記懸濁液の温度を、10℃以上かつ60℃以下に調整する。この工程では、この温度を10℃以上かつ50℃以下に調整することが好ましく、10℃以上かつ40℃以下に調整することが特に好ましい。この温度を前述の範囲に調整することで、効率よく原料ゼオライトに含まれるナトリウムイオンをアンモニウムイオンに交換するとともに、ゼオライト骨格のアルミニウムを溶出させることができる。懸濁液を60℃以下の温度で処理した場合、ゼオライト骨格から溶出したアルミニウムが再度ゼオライト骨格に再挿入する現象が発生しにくくなるため、好ましい。また、懸濁液の温度が低いほどゼオライト骨格からのアルミニウムの溶出効率が高くなるが、懸濁液を10℃以上とする場合、水の一部が凍結し、懸濁液の攪拌が不十分になるという問題が生じることがないため好ましい。
【0030】
この工程では、前記懸濁液の温度およびpHを前述の範囲に維持する時間(処理時間)が、5分以上かつ240分以下であることが好ましく、5分以上かつ120分以下であることがより好ましい。この処理時間が前述の範囲にあると、原料ゼオライトからの脱アルミニウムが適切に進み、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0031】
この工程で得られるスチーム処理前駆体は、NH4Y型ゼオライトであることが好ましい。ここで、NH4Y型ゼオライトは、原料ゼオライトに含まれるNa+がNH4
+でイオン交換され、ケイバン比が4以上のフォージャサイト型ゼオライトを指す。スチーム処理前駆体のNa含有量は、Na2O換算で、1質量%以上かつ5.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ5.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上かつ5質量%以下であることが特に好ましい。このNa含有量が前述の範囲にあると、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトの結晶性がより高くなりやすい。また、本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0032】
<スチーム処理工程>
本発明の製造方法は、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理するスチーム処理工程を含む。この工程では、前述の工程で得られたスチーム処理前駆体をスチーム処理して、ゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜く。このとき、引き抜かれたアルミニウムは、ゼオライト結晶内部もしくはその表面にアルミニウム化合物として残留する。これはゼオライト骨格外アルミニウムとも呼ばれる。また、ゼオライト骨格からアルミニウムが脱離する際に、ゼオライトの一部が崩壊して小メソ孔が生成する。
【0033】
この工程では、前記スチーム処理前駆体を500℃以上かつ700℃以下の温度でスチーム処理することが好ましく、550℃以上かつ650℃以下の温度でスチーム処理することがより好ましい。この温度領域でスチーム処理を行うと、ゼオライト骨格の崩壊を抑制しつつ、効率よくゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜くことができるため好ましい。
【0034】
この工程では、スチーム処理の処理時間が、1時間以上かつ24時間以下であることが好ましく、1時間以上かつ12時間以下であることがより好ましく、1時間以上かつ6時間以下であることが特に好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、前述の範囲でスチーム処理すると、効率よくゼオライト骨格からアルミニウムを引き抜くことができ、かつ本発明のゼオライトの生産性という観点でもより好ましい。
【0035】
この工程におけるスチーム濃度は、50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。また、この工程におけるスチーム濃度は、本発明のゼオライトの生産性という観点から100%であってもよい。スチーム濃度が前述の範囲にある場合、ゼオライト骨格からアルミニウムが引き抜かれやすくなり、かつゼオライトの骨格もより壊れにくくなる。
【0036】
本発明の製造方法は、前述の各工程の前後に、最終的に得られる本発明のゼオライトの特徴を損なわない範囲で、さまざまな工程を含むことができる。例えば、イオン交換工程、ろ過工程、洗浄工程、乾燥工程、焼成工程、酸処理工程等を含んでもよい。その一例として、前述の前処理工程において、スチーム処理前駆体のNa含有率を下げるために、スチーム処理前駆体をアンモニウム塩が溶解した水溶液でイオン交換するイオン交換工程を含むこともできる。また、異なる例として、最終的に得られた本発明のゼオライトを酸処理して、ゼオライト骨格外アルミニウムを除去する工程を含むこともできる。さらに、本発明のゼオライトに含まれるNa+をイオン交換等の方法で除去することで、その固体酸量を増加させることもできる。
【実施例0037】
以下、本発明のゼオライトおよびその製造方法について、実施例を示し、本例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明の実施例において製造したゼオライトの物性値の測定およびその評価は次の方法で行った。
【0038】
<組成分析>
ゼオライトの組成分析には、蛍光X線測定装置(リガク社製、製品名「RIX-3000」)を使用した。SiおよびAl含有量は、それぞれSiO2、Al2O3に換算して、ケイバン比(SiO2/Al2O3モル比)を算出した。
【0039】
<Na含有量測定>
Na含有量の測定には、原子吸光光度測定装置(日立製作所製、製品名「Z-5300」)を使用した。サンプルを白金るつぼに採取して、硫酸およびフッ化水素酸を加えた後、加熱処理し蒸発乾固させた。次いで、塩酸と水を加えた後に加熱し、溶解させた後、イオン交換水を加えて希釈し、この希釈液のNa+濃度を前述の原子吸光測定装置を用いて測定し、その結果からサンプルのNa含有量をNa2O換算で算出した。
【0040】
<結晶構造解析および結晶化度測定>
ゼオライトの結晶構造測定には、X線回折装置(リガク社製、製品名「RINT-2100」、線源:CuKα)を使用した。2θ=5~50°におけるX線回折パターンから、フォージャサイト型ゼオライトの回折面に帰属されるピークが確認できたものは、フォージャサイト型ゼオライトであると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、および(555)面に帰属されるピークの有無を確認した。これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDERPATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。
なお、ピークの位置は測定条件などによって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト型ゼオライトに由来するピークを有しているものとみなせる。
このようにして得られたX線回折パターンから、フォージャサイト型ゼオライトの(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、および(555)面に帰属されるピークの強度を合計した。同様にして測定した触媒学会参照触媒のフォージャサイト型ゼオライト(JRC-Z-Y5.3)のピークの強度を合計した。かかるピークの強度の合計に対する実施例で得られたフォージャサイト型ゼオライトに係るピークの強度の合計の割合を算出することによりX線回折強度比を算出し、これを実施例で得られたゼオライトの結晶化度とした。
【0041】
<格子定数測定>
ゼオライトの格子定数測定には、X線回折装置(リガク社製、製品名「RINT-2100」線源:CuKα)を使用した。ゼオライト粉末と内部標準としてTiO2アナターゼ型の粉末(関東化学株式会社製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))とを2:1(重量比)で乳鉢にて混合したものを測定試料とした。CuKα線を用いて、2θ=23~33°におけるX線回折パターンを測定し、TiO2アナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半値幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0042】
【数1】
A:(533)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
B:(642)面を示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
C:TiO
2アナターゼ型が示すピーク半価幅の中心(2θ)[°]
【0043】
<比表面積測定>
ゼオライトの比表面積測定には、日本ベル社製、製品名「MR-6」を使用した。不活性ガス雰囲気下にて500℃で1時間の前処理を実施したゼオライト粉末について、測定用試料セル内で-196℃雰囲気下にて窒素ガス濃度30vol%、ヘリウムガス濃度70vol%の混合ガスを充分流通させて、ゼオライト粉末に窒素を吸着させた。その後、雰囲気温度を25℃に上昇し、ゼオライト粉末に吸着した窒素を脱離させて、その脱離量をTCD(熱伝導度)検出器にて検出した。検出された窒素の脱離量を窒素分子の断面積を用いて比表面積に換算することによって、ゼオライト粉末1g当たりの比表面積を求めた。
【0044】
<細孔比表面積測定>
ゼオライトの細孔比表面積測定には、マイクロトラック・ベル社製、製品名「BEL SORP-miniII」を用いた。不活性ガス雰囲気下にて500℃で1時間の前処理を実施したゼオライト粉末について、相対圧範囲0~1.0で窒素吸着法による細孔分布測定を行った。得られた窒素吸着等温線からBJH法で細孔直径2~10nmおよび2~200nmの範囲における細孔群の細孔比表面積を算出した。
【0045】
<pH測定>
懸濁液のpHの測定には、pH1.68、6.86および9.18の標準液で更正が完了した株式会社堀場製作所製のpHメータ、製品名「D-74」およびガラス電極、製品名「9625-10D」を用いた。このガラス電極を各測定対象に接触させ、pHを測定した。また、前処理工程においては、測定対象が充填された反応槽に前述のガラス電極をセットし、pHを測定した。
【0046】
[実施例1]
(懸濁液調製工程)
SiO2/Al2O3(モル比)が5.1、格子定数が2.470nm、比表面積が750m2/g、Naの含有量がNa2O換算で13.1質量%のNaY型ゼオライトを原料ゼオライトとして用いた。このNaY型ゼオライト20kgをイオン交換水200Lに加え、さらに硫酸アンモニウム8kgを加えて懸濁液を得た。
【0047】
(前処理工程)
この懸濁液を30℃に昇温し、硫酸を添加してpHを3.5に調整した。この懸濁液を30℃で20分攪拌した後、濾過し固形分を分離した。濾過により得られた固形分を60℃の温水で洗浄した。次いで、この固形分を、60℃の温水200Lに硫酸アンモニウム8kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃のイオン交換水200Lで洗浄し、洗浄ケーキを得た。得られた洗浄ケーキを110℃で24時間乾燥し、NaY型ゼオライトに含まれるNaの約70質量%がアンモニウムイオン(NH4
+)でイオン交換されたY型ゼオライト(NH4Y型ゼオライト)を得た。このNH4Y型ゼオライトのNa含有量はNa2O換算で3.9質量%であり、これをスチーム処理前駆体とした。
【0048】
(スチーム処理工程)
このスチーム処理前駆体10kgを、スチーム濃度100%の雰囲気中にて600℃で1時間スチーム処理し、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
前処理工程において、pHを3.3に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
前処理工程において、pHを3.1に、温度を35℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライトの性状(物性値)を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
前処理工程において、pHを3.8に、温度を55℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0052】
[実施例5]
前処理工程において、pHを3.6に、温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0053】
[実施例6]
前処理工程において、pHを4.5に、温度を10℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0054】
[実施例7]
前処理工程において、pHを3.1に、温度を10℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
前処理工程において、pHを3.1に、温度を90℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表2に示す。
【0056】
[比較例2]
前処理工程において、pHを5.6に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表2に示す。
【0057】
[比較例3]
前処理工程において、pHを2.7に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表2に示す。
【0058】
[比較例4]
前処理工程において、pHを6.5に、温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表2に示す。
【0059】
[比較例5]
スチーム処理を実施しなかったこと以外は実施例3と同様の方法で、ゼオライト粉末を得た。ゼオライトの調製方法及び得られたゼオライト粉末の性状(物性値)を表2に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表1~2によれば、実施例1~7のゼオライトは、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが大きく、かつ結晶化度が高いことが明らかとなった。これに対し、前処理工程における懸濁液の温度が60℃を超える場合(比較例1)や、前処理工程における懸濁液のpHが5.0を超える場合(比較例2、4)、スチーム処理を実施しない場合(比較例5)には、ゼオライトの比表面積2-10nmが低くなることも明らかとなった。
また、前処理工程における懸濁液のpHが3.0未満の場合(比較例3)、ゼオライトの比表面積2-10nmが増加するものの、その結晶化度が低くなることも明らかとなった。
【0063】
これらの結果から、10℃~60℃の温度範囲かつ3.0~5.0のpH範囲にて懸濁液を前処理した後、スチーム処理することで、Naを、Na2O換算で、10質量%以上含むフォージャサイト型ゼオライト、アンモニウム塩および水を含む懸濁液を調製する懸濁液調製工程、前記懸濁液の温度を10℃以上かつ60℃以下、前記懸濁液のpHを3.0以上かつ5.0以下、に調整してスチーム処理前駆体を調製する前処理工程、前記スチーム処理前駆体をスチーム処理するスチーム処理工程を含む方法を用いることで、結晶性が高く、細孔直径が2~10nmの領域にある細孔の比表面積2-10nmが大きく、2~200nmの領域にある細孔の比表面積2-200nmに占める前記比表面積2-10nmの割合が多いフォージャサイト型ゼオライトが得られることが明らかになった。