(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097667
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/282 20060101AFI20240711BHJP
G01S 7/34 20060101ALI20240711BHJP
G01S 7/35 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01S7/282 200
G01S7/34
G01S7/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001286
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】諸星 光則
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AB17
5J070AC02
5J070AC11
5J070AD10
5J070AH12
5J070AK08
5J070AK34
(57)【要約】
【課題】受信の雑音指数が劣化せず、しかも、簡易な構成で受信部の飽和を回避可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】送信波を送信する送信部2と反射波を受信する受信部3とを備え、送信部2による送信と受信部3による受信とを時分割で切り替えるレーダ装置1において、送信部2に、各送信時間の末期において送信波を減衰させる送信側可変減衰器25を備え、受信部3での受信電力が所定の電力以下になるように、送信側可変減衰器25による減衰特性が設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部とを備え、送信部による送信と受信部による受信とを時分割で切り替えるレーダ装置において、
前記送信部に、各送信時間の末期において前記送信波を減衰させる送信側減衰手段を備え、
前記受信部での受信電力が所定の電力以下になるように、前記送信側減衰手段による減衰特性が設定されている、
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送信側減衰手段は、各送信時間の初期においても前記送信波を減衰させ、
前記受信部に、各受信時間の初期および末期において前記反射波を減衰させる受信側減衰手段を備え、
前記反射波に対して窓関数を設定できるように、前記送信側減衰手段および受信側減衰手段による減衰特性が設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記窓関数が必要なときにのみ、前記送信側減衰手段による前記初期の減衰と前記受信側減衰手段による前記初期および前記末期の減衰を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信部に、電圧制御発振器からの前記送信波と基準波との位相を比較し、所定のループ帯域幅に基づく制御電圧を前記電圧制御発振器に出力することで、前記基準波の位相と前記送信波の位相を同期させるとともに、設定された出力周波数の時間的変化を示す設定周波数変化に沿った周波数の前記送信波を出力するPLL回路を備え、
前記所定のループ帯域幅が、位相雑音が所定の雑音レベルを超えない狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定され、前記第1のループ帯域幅では前記送信波の周波数と前記設定周波数変化における周波数との周波数誤差が所定の誤差を超える場合には、前記所定のループ帯域幅が、前記第1のループ帯域幅よりも広く前記周波数誤差が前記所定の誤差を超えないループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信と受信を時分割で切り替えるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、電波をターゲット・物標に向けて発信し、その反射波を受信することで、ターゲットまでの距離や方向を測定する装置であり、反射波の受信レベルは、距離の4乗に反比例することが知られている。従って、近距離に大きなターゲットがあると、受信レベルが大きすぎて受信部が飽和し、遠距離のターゲットが埋もれてしまうおそれがある。このため、近距離の反射波を抑圧するように、受信側の利得を時間的に変化させる手法(STC:Sensitivity Time Control)が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、受信部の初段・入力側の高周波低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)の入力最大定格やIP1dB(入力1dB利得圧縮点、利得が1dB低下する入力電力レベル)が低い場合、受信部の飽和を避けるには、高周波低雑音増幅器の前に可変減衰器を設けざるを得ないが、その場合、受信の雑音指数(NF)が劣化してしまう、という問題が生じる。
【0005】
また、受信アンテナが素子数の多いフェーズドアレイアンテナの場合、可変減衰器をアンテナ素子数と同じ数だけ設けなければならず、費用や大きさが嵩んでしまう。
【0006】
そこで本発明は、受信の雑音指数が劣化せず、しかも、簡易な構成で受信部の飽和を回避可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、送信波を送信する送信部と反射波を受信する受信部とを備え、送信部による送信と受信部による受信とを時分割で切り替えるレーダ装置において、前記送信部に、各送信時間の末期において前記送信波を減衰させる送信側減衰手段を備え、前記受信部での受信電力が所定の電力以下になるように、前記送信側減衰手段による減衰特性が設定されている、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダ装置において、前記送信側減衰手段は、各送信時間の初期においても前記送信波を減衰させ、前記受信部に、各受信時間の初期および末期において前記反射波を減衰させる受信側減衰手段を備え、前記反射波に対して窓関数を設定できるように、前記送信側減衰手段および受信側減衰手段による減衰特性が設定されている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレーダ装置において、前記窓関数が必要なときにのみ、前記送信側減衰手段による前記初期の減衰と前記受信側減衰手段による前記初期および前記末期の減衰を行う、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のレーダ装置において、前記送信部に、電圧制御発振器からの前記送信波と基準波との位相を比較し、所定のループ帯域幅に基づく制御電圧を前記電圧制御発振器に出力することで、前記基準波の位相と前記送信波の位相を同期させるとともに、設定された出力周波数の時間的変化を示す設定周波数変化に沿った周波数の前記送信波を出力するPLL回路を備え、前記所定のループ帯域幅が、位相雑音が所定の雑音レベルを超えない狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定され、前記第1のループ帯域幅では前記送信波の周波数と前記設定周波数変化における周波数との周波数誤差が所定の誤差を超える場合には、前記所定のループ帯域幅が、前記第1のループ帯域幅よりも広く前記周波数誤差が前記所定の誤差を超えないループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、送信側減衰手段によって各送信時間の末期・末尾において送信波が減衰されるため、近距離の物標からの受信レベルを下げて、受信部の飽和を回避することが可能となる。また、受信電力が所定の電力以下になるように送信波が減衰されるため、例えば、所定の電力を高周波低雑音増幅器の入力最大定格やIP1dBに設定することで、高周波低雑音増幅器の損傷や受信の雑音指数の劣化を防止することが可能となる。
【0012】
また、送信部に送信側減衰手段を備えるため、アンテナが素子数の多いフェーズドアレイアンテナであっても、送信側減衰手段を1つだけ設ければよく、構成を簡易にして費用や大きさを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、各送信時間の初期および末期において送信波が減衰されるとともに、各受信時間の初期および末期において反射波が減衰されて、反射波に対して窓関数が設定可能となる。このため、送信と受信が時分割で行われるレーダ装置においても、窓関数を設定して(時間窓をかけて)タイムサイドローブレベルを抑制することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、窓関数が必要なときにのみ、各送信時間の初期の減衰と各受信時間の初期および末期の減衰が行われるため、必要に応じてタイムサイドローブレベルを抑制できるとともに、必要でないときには、S/N比(信号雑音比)の低下を防止・抑制することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、まず、ループ帯域幅が、位相雑音が所定の雑音レベルを超えない狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定されるため、位相雑音・スプリアスの劣化を抑制することが可能となる。一方、設定周波数変化での周波数変化率が急峻なところでは、第1のループ帯域幅では送信波の周波数と設定周波数変化における周波数との周波数誤差が所定の誤差を超える。しかし、その場合には、ループ帯域幅が、第1のループ帯域幅よりも広く周波数誤差が所定の誤差を超えないループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定されるため、出力周波数を設定値(設定周波数変化)通りにすることが可能となる。
【0016】
なお、ループ帯域幅が第2のループ帯域幅に設定されることで位相雑音が一時的に劣化するが、設定周波数変化全体・周期全体では平均化されるため劣化は小さい。また、FMCWレーダでは、通常、三角波や鋸波での周波数折り返し点(周波数が急峻に変化する点)を信号処理に使用しないため、問題とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1のレーダ装置の変形例を示す概略構成図である。
【
図3】従来のレーダ装置において、送信時間末期の送信波を減衰させない場合の受信電力を説明するための図である。
【
図4】
図1のレーダ装置において、送信時間末期の送信波を減衰させた場合の受信電力を示す図である。
【
図5】この発明の実施の形態1において、エコーの受信電力を説明するための図である。
【
図6】
図1のレーダ装置において、送信波を減衰させるタイミングを説明するための第1の図(a)と第2の図(b)である。
【
図7】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示す概略構成図である。
【
図8】
図7のレーダ装置における受信電力を説明するための図である。
【
図9】従来の送受時分割レーダ装置によるスペクトル例を示す図である。
【
図10】
図7のレーダ装置の適用例を示す図(a)と、窓関数を設定しない場合の虚像を示す図(b)である。
【
図11】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置のPLL回路を示す概略構成図である。
【
図12】PLL回路において、設定周波数変化の全周期にわたってループ帯域幅が狭い場合の出力周波数(a)と、設定周波数変化に対する周波数誤差(b)と、位相雑音(c)を示す図である。
【
図13】PLL回路において、設定周波数変化の全周期にわたってループ帯域幅が広い場合の出力周波数(a)と、設定周波数変化に対する周波数誤差(b)と、位相雑音(c)を示す図である。
【
図14】
図11のPLL回路において、設定周波数変化の変化率に応じてループ帯域幅を適宜適正化した場合の出力周波数を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係るレーダ装置1を示す概略構成図である。このレーダ装置1は、送信波を送信する送信部2と反射波・受信波を受信する受信部3とを備え、送信部2による送信と受信部3による受信とを時分割で切り替えて行う送受時分割レーダ装置であり、送信波を減衰させる点で従来の送受時分割レーダ装置と構成が大きく異なるため、主として、この特徴点について以下に詳細に説明する。ここで、送受信が時分割であれば、FMチャープでもパルスであってもよく、また、この実施の形態では、送受信共用のアンテナ41を複数備えるフェーズドアレイレーダ装置の場合について説明する。
【0020】
各アンテナ41には、スイッチ42を介して送信用の高周波低雑音増幅器(以下、「送信用LNA」という)21と受信用の高周波低雑音増幅器(以下、「受信用LNA」という)31とが並列に接続されている。送信用LNA21および受信用LNA31にはそれぞれ、送信用移相器22と送信用可変アンプ23および受信用移相器32と受信用可変アンプ33が接続されている。また、各アンテナ41の送信用可変アンプ23が、送信部2の電圧制御発振器(VCO)24に並列に接続され、各アンテナ41の受信用可変アンプ33が、受信部3の乗算器34に並列に接続されている。さらに、電圧制御発振器24からの発信信号が乗算器34に入力されるようになっている。
【0021】
このように、アンテナ41、送信用LNA21、送信用移相器22、送信用可変アンプ23および電圧制御発振器24などで送信部2が構成され、アンテナ41、受信用LNA31、受信用移相器32、受信用可変アンプ33および乗算器34などで受信部3が構成されている。
【0022】
そして、各スイッチ42が送信側(送信用LNA21側)に接続されている状態(送信時間)では、電圧制御発振器24で生成された所定の周波数の送信波・送信信号が、各アンテナ41から送信されるとともに、乗算器34に入力される。一方、スイッチ42が受信側(受信用LNA31側)に接続されている状態(受信時間)では、物標から反射された反射波・受信信号が、各アンテナ41を介して受信され乗算器34に入力される。このようにして、時分割で繰り返して乗算器34に入力される送信波と反射波に基づいて、受信部3の図示しないレーダ処理装置によって、クラッタを除去するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理などが行われてターゲットが検出される。
【0023】
ここで、上記のように、この実施の形態では、アンテナ41が送受信共用の場合について説明するが、
図2に示すように、送信用のアンテナ41aと受信用のアンテナbを別々に設けてもよい。また、スイッチ42に代えてサーキュレータを用いてもよい。
【0024】
このような基本構成に対して本レーダ装置1は、送信部2に、各送信時間の末期において送信波を減衰させる送信側可変減衰器(送信側減衰手段)25を備え、受信部3での受信電力が所定の電力以下になるように、送信側可変減衰器25による減衰特性・減衰量が設定されている。すなわち、各アンテナ41の送信用可変アンプ23と電圧制御発振器24との間に、1つの送信側可変減衰器25が設けられ、この送信側可変減衰器25で各送信波(電圧制御発振器24からの発振・送信信号)の送信時間の末期・末尾を減衰させることで、受信部3の飽和などを防止・抑制するようになっている。
【0025】
ここで、まず、各送信時間の末期の送信波を減衰させない場合について、
図3に基づいて説明する。
【0026】
図3(a)、(b)に示すように、送信時間Ttと受信時間Trとを交互に繰り返し、
図3(c)に示すように、送信時間Ttにおいて送信周波数f(Tx)が直線的に変化する場合、
図3(d)の実線で示すように、送信時間Ttにおいて送信電力Ptが常に一定となる。この場合、
図3(e)に示すように、ローカルでの周波数f(Lo)は、送信時間Ttが終わった後の受信時間Trにおいても継続して変化し、
図3(f)に示すように、受信時間Trにおける反射波・受信信号の周波数f(Rx)は、物標の距離に応じて異なる周波数となる。例えば、
図3(f)中の「1」が最も近い物標からの反射波で、順に「2」、「3」、「4」、「5」と近く、「6」が最も遠い物標からの反射波となる。ここで、
図3(f)の破線は、受信時間Tr以外での反射波を示す。
【0027】
そして、
図3(g)に示すように、受信時間Trにおけるローカル周波数f(Lo)と各反射波の周波数f(Rx)との差(f(Lo)-f(Rx))は、最も近い物標からの反射波が最も小さく、物標が遠くになるに従って順に大きくなる。例えば、
図3(g)中の「1」が最も小さく、順に「2」、「3」、「4」、「5」と大きくなり、「6」が最も大きくなる。
【0028】
従って、
図3(h)に示すように、各周波数f(Rx)の反射波の受信電力Prは、差(f(Lo)-f(Rx))が小さい順に大きくなる。すなわち、最も近い物標からの反射波(
図3(h)中の「1」)が最も大きく、物標が遠くになるに従って順に(
図3(h)中の「2」、「3」、「4」、「5」の順に)小さくなり、最も遠い物標からの反射波(
図3(h)中の「6」)が最も小さくなる。ここで、
図3(h)中の両側の小さい破線は、受信時間Tr以外での各反射波の受信電力Prを示す。
【0029】
このように、送信時間Ttの末期の送信波を減衰させない場合、各物標からの反射波の受信電力Prが所定時間一定となり、近い物標からの反射波の受信電力Pr(例えば、
図3(h)中の「1」や「2」)が受信用LNA31の入力最大定格を超えると、受信用LNA31が損傷するおそれがある。また、受信電力Prが受信用LNA31の入力最大定格以下であってもIP1dBを超える場合、歪みによる高次元成分が発生し、虚像が発生するおそれがある。
【0030】
このため、送信側可変減衰器25によって各送信時間Ttの末期の送信波を減衰させることで、受信電力Prが受信用LNA31の入力最大定格やIP1dBを超えないようにする。すなわち、
図3(d)の破線で示すように、送信時間Ttの末期の送信電力Ptを直線的に減衰させると、
図4に示すように、各物標からの反射波の受信電力Prが、末期・末尾において下方に傾斜し、送信時間Ttにおける最大受信電力Pr(max)が抑制・低減される。
【0031】
この最大受信電力Pr(max)が所定の電力以下、つまり、受信用LNA31の入力最大定格以下およびIP1dB以下になるように、送信側可変減衰器25による減衰特性・減衰量が設定されている。すなわち、
図5に示すように、距離Rにある無限大の導体板101に対して送信アンテナ102から送信電力Ptで送信波を送信する場合、送信アンテナ102の鏡像と考えられる受信アンテナ103で受信する反射波の受信電力Prは、次式で表される。
Pr=Pt・Gt・Gr・L・λ
2/(4π・2R)
2
Gt:送信アンテナの利得
Gr:受信アンテナの利得
L:アンテナとLNAとの間の損失
λ:波長
R:物標までの距離
【0032】
この式で算出さる受信電力Prを受信用LNA31の入力最大許容レベルに設定する。例えば、受信用LNA31が損傷しないことを要件とする場合、受信用LNA31の入力最大定格に設定し、受信用LNA31が飽和しないことを要件とする場合、受信用LNA31のIP1dBに設定する。そして、最も近い物標までの距離Rに基づいて、このような受信電力Prになるように送信電力Ptを逆算・算出する。
【0033】
一方、送信波を送信してから、距離Rにある無限大の導体板101からの反射波・エコーを受信するまでの時間Δtは、次式で表される。
Δt=2R/c
c:光速
【0034】
そして、
図6(a)に示すように、送信時間Ttの終端・末端から、最も近い物標までの距離Rに基づく時間Δtまで遡った時間において、最も近い物標までの距離Rに基づいて算出した上記の送信電力Ptになるように、送信時間Ttの末期の送信電力の減衰量、つまり、送信側可変減衰器25の減衰特性・減衰量を設定する。この際、
図6(b)に示すように、送信側可変減衰器25の減衰量可変範囲25aが最大送信電力よりも小さい場合には、最大送信電力から減衰量可変範囲25aを超える低い送信電力(
図6(b)の時間ta以降)においては、送信波を送信しないこととする。
【0035】
このような構成のレーダ装置1によれば、送信側可変減衰器25によって各送信時間Ttの末期・末尾において送信波が減衰されるため、近距離の物標からの受信レベルを下げて、受信部3の飽和を回避することが可能となる。また、受信電力Prが所定の電力以下になるように送信波が減衰されるため、例えば、所定の電力を受信用LNA31の入力最大定格やIP1dBに設定することで、受信用LNA31の損傷や受信の雑音指数の劣化を防止することが可能となる。
【0036】
また、送信部2に送信側可変減衰器25を備えるため、アンテナ41を複数備えるフェーズドアレイレーダ装置であっても、送信側可変減衰器25を1つだけ設ければよく、構成を簡易にして費用や大きさを抑制することが可能となる。
【0037】
(実施の形態2)
図7は、この実施の形態に係るレーダ装置10を示す概略構成図である。この実施の形態では、送信側可変減衰器25が各送信時間Ttの初期においても送信波を減衰させ、受信部3に受信側可変減衰器(受信側減衰手段)35を備える点で、実施の形態1と構成がことなる。
【0038】
すなわち、送信側可変減衰器25は、各送信時間Ttの初期および末期において送信波を減衰させるようになっている。また、各アンテナ41の受信用可変アンプ33と乗算器34との間に、1つの受信側可変減衰器35が設けられ、この受信側可変減衰器35は、各受信時間Trの初期および末期において反射波を減衰させるようになっている。さらに、反射波に対して窓関数を設定できるように、送信側可変減衰器25および受信側可変減衰器35による減衰特性・減衰量が設定されている。
【0039】
具体的には、
図8(a)、(b)に示すように、送信時間Ttと受信時間Trとを交互に繰り返す場合において、
図8(c)に示すように、送信側可変減衰器25の減衰量は、送信時間Ttの始端が最大で徐々にゼロまで降下し、末期でゼロから徐々に上昇して終端で最大になるようになっている。これにより、
図8(d)に示すように、送信時間Ttの初期において送信電力Ptがゼロから徐々に上昇し、最大に達して所定時間継続し、送信時間Ttの末期において送信電力Ptが徐々に降下して、送信時間Ttの終端でゼロとなる。ここで、
図8(c)および
図8(d)においては、減衰量および送信電力Ptが直線的に変化する場合について図示しているが、減衰量および送信電力Ptが曲線的に変化してもよい。
【0040】
また、
図8(e)に示すように、受信側可変減衰器35の減衰量は、受信時間Trの始端が最大で徐々にゼロまで降下し、末期でゼロから徐々に上昇して終端で最大になるようになっている。
【0041】
このような送信側可変減衰器25および受信側可変減衰器35の減衰特性・減衰量によって、受信時間Trにおいて受信電力Prが常に上昇傾向と下降傾向を同時に示すようになっている。すなわち、受信し始めでは、
図8(f)に示すように、受信電力Prが略三角形状に、ゼロから徐々に上昇して最大に達して徐々にゼロまで降下する。その後、受信の中盤では、
図8(g)に示すように、受信電力Prがゼロから徐々に上昇して最大に達し、そのまま所定時間継続してから徐々にゼロまで降下する。さらに、その後の受信の終盤では、
図8(h)に示すように、受信電力Prが略三角形状に、ゼロから徐々に上昇して最大に達して徐々にゼロまで降下する。
【0042】
このように、受信時間Trにおいて受信電力Prが常に上昇傾向と下降傾向を同時に示すようになるため、反射波に対して窓関数を設定することが可能となる。さらに、窓関数が必要なときにのみ、送信側可変減衰器25による送信時間Ttの初期の減衰と、受信側可変減衰器35による受信時間Trの初期および末期の減衰を行うようになっている。すなわち、送信側可変減衰器25および受信側可変減衰器35による減衰動作を制御する制御部(図示せず)を備え、後述するような窓関数が必要なときにのみ、送信側可変減衰器25と受信側可変減衰器35に対して初期および末期の減衰を行わせ、窓関数が必要でないときには、送信側可変減衰器25による末期の減衰のみを行わせるようになっている。
【0043】
このように、この実施の形態によれば、各送信時間Ttの初期および末期において送信波が減衰されるとともに、各受信時間Trの初期および末期において反射波が減衰されて、反射波に対して窓関数が設定可能となる。このため、送信と受信が時分割で行われるレーダ装置においても、窓関数を設定して(時間窓をかけて)タイムサイドローブレベルを抑制することが可能となる。
【0044】
すなわち、従来の送受時分割レーダ装置では、反射波に対して窓関数を設定することができなかった。このため、FFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)によるサイドローブが大きく、大きな物標と小さい物標が隣接する場合、例えば、
図9に示すように、大きな物標のスペクトルL1のサイドローブL1aに小さい物標のスペクトルL2が埋もれてしまい、小さい物標を検知・識別できない場合があった。これに対して、この実施の形態によれば、反射波に対して窓関数を設定可能なため、大きな物標のサイドローブL1aを小さくして、小さい物標を検知することが可能となる。
【0045】
また、窓関数が必要なときにのみ、各送信時間Ttの初期の減衰と各受信時間Trの初期および末期の減衰が行われるため、必要に応じてタイムサイドローブレベルを抑制できるとともに、必要でないときには、S/N比(信号雑音比)の低下を防止・抑制することが可能となる。
【0046】
ここで、窓関数が必要なときとは、例えば、
図10(a)に示すように、検知対象の小物標J1と検知対象でない大物標J2とが同じ方位に存在したり、隣接したりする場合である。この場合、窓関数を設定しないと、大物標J2によるサイドローブが大きく、
図10(b)に示すような虚像が発生する。このため、このようなとき(大物標が観測レンジに入ったとき)を窓関数が必要なときとして、各送信時間Ttの初期および末期の減衰と各受信時間Trの初期および末期の減衰を行い、窓関数をかけるものである。
【0047】
この際、観測周期(例えば、1秒)での移動距離も考慮して、小物標J1と大物標J2が同じ方位に存在するか、隣接するかを判断する。また、窓関数をかけることでS/N比が低下するが、対象方位のみにスイープ積分数を増やす、などの方法で補うことが可能である。
【0048】
(実施の形態3)
図11は、この実施の形態に係るレーダ装置における送信部2のPLL回路200を示す概略構成図である。このPLL回路200は、電圧制御発振器24からの出力信号(送信波)の位相を基準信号源201からの基準信号(基準波)の位相と同期させるとともに、予め設定された周波数変化(設定周波数変化・仕様)に沿って出力信号の周波数を連続的に変化・変調させるFMCWレーダ用PLL回路であり、設定周波数変化の変化率に応じてループ帯域幅を適宜(動的に)適正化する。
【0049】
すなわち、基本的構成としては、従来と同様に、電圧制御発振器24からの出力信号を位相比較器/チャージポンプ202にフィードバックし、基準信号の位相と出力信号の位相とを比較する。比較の結果、基準信号に比べて出力信号の位相が進んでいる場合には、進相信号をハイレベルにし、逆の場合には、遅相信号をハイレベルにする。次に、位相比較器/チャージポンプ202から進相信号と遅相信号とを1つのCP出力信号としてループフィルタ203に入力し、ループフィルタ203によってCP出力信号の高周波成分を遮断した所定のループ帯域幅に基づいて、直流の制御電圧を生成して電圧制御発振器24に入力する。これにより、電圧制御発振器24からの出力信号の位相が、基準信号の位相と同期する。
【0050】
また、電圧制御発振器24からの出力信号をPLLシンセサイザ(周波数分周器)204で分周して位相比較器/チャージポンプ202に入力することで、基準信号の周波数の任意倍の周波数の出力信号を出力する。この際、予め設定された出力周波数の時間的変化を示す設定周波数変化(三角波や鋸波など)に従って分周数を変えることで、設定周波数変化に沿った周波数の出力信号を出力するようになっている。すなわち、PLLシンセサイザ204の分周数設定を位相比較器/チャージポンプ202の位相比較周波数の周期(例えば、10nsec)毎に書換えて、出力周波数を細かい階段状に変化させる。ここで、この実施の形態では、PLLシンセサイザ204は、非整数分周が可能なフラクショナル-Nで構成され、さらに、量子化ノイズを低減可能な分周比パターンを生成するΔΣ変調器が使用されている。
【0051】
このような基本的構成において、上記の所定のループ帯域幅が次のように動的・可変に設定されている。
基本的には、位相雑音が所定の雑音レベルを超えない狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定される。
ただし、第1のループ帯域幅では出力信号の周波数(出力周波数)と設定周波数変化における周波数との周波数誤差が所定の誤差を超える場合には、第1のループ帯域幅よりも広く周波数誤差が所定の誤差を超えないループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定される。
ここで、設定周波数変化などに応じて、第2のループ帯域幅として異なる2つ以上のループ帯域幅を設けてもよい。
【0052】
換言すると、設定周波数変化全体(周期全体)における位相雑音が所定の許容レベルを超えず、かつ、設定周波数変化全体を通じて周波数誤差が所定の誤差を超えないように、ループ帯域幅を設定、調整する。ここで、所定の雑音レベルとは、通常時(設定周波数変化が急峻でなく緩やかな時)にこのレベルを超えなければ、急峻時に一時的に位相雑音が上昇・劣化しても、設定周波数変化全体を通じての位相雑音が所定の許容レベルを超えないレベル・値である。
【0053】
このように、ループ帯域幅を動的に設定・調整するのは、次のような理由によるものである。
【0054】
すなわち、ループ帯域幅が狭い場合、位相雑音・スプリアスの劣化はないが、PLL回路200の応答が追い付かずに、出力周波数が設定周波数変化(設定値)から乖離した非線形変化となり、ターゲット距離を送受信の周波数差から算出するFMCWレーダでは大きな問題となる。
【0055】
例えば、
図12(a)に示すように、チャープ帯域を37.5MHz、掃引時間を5μsとする略直角三角形の三角波の設定周波数変化SCに対して、ループ帯域幅が狭い250kHzの場合、
図12(c)に示すように、小数点分周雑音(SDM)がVCO雑音よりも小さくなる。しかしながら、
図12(a)、(b)に示すように、設定周波数変化SCの急峻時(略垂直に周波数が降下する時)において、設定周波数変化SCに対する出力周波数FCの周波数誤差が大きくなる。なお、9μs程度で元の周波数に復帰するが、掃引開始が35μs後のため問題はない。
【0056】
一方、ループ帯域幅が広い(狭い場合の4倍程の)1MHzの場合、
図12と同じ設定周波数変化SCで
図13(a)、(b)に示すように、ループ帯域幅が狭い250kHzの場合に比べて、設定周波数変化SCに対する出力周波数FCの周波数誤差が改善される。しかしながら、
図13(c)に示すように、小数点分周雑音(SDM)が大きくなる。なお、2μs程度で元の周波数に復帰するが、掃引開始が35μs後のため問題はない。
【0057】
このように、ループ帯域幅が狭いと、位相雑音は小さいが設定周波数変化に対する出力周波数の誤差が大きくなり、ループ帯域幅が広いと、設定周波数変化に対する出力周波数の誤差は小さいが位相雑音が大きくなる、という相反する特性を解消するために、ループ帯域幅を動的に設定・調整するものである。具体的には、設定周波数変化における各変化率に応じて、制御部205によってループ帯域幅を逐次調整する。
【0058】
例えば、設定周波数変化SCが上記と同様な三角波で、
図14に示すように、設定周波数が徐々に直線的に変化し変化率が緩やかな変化部SC1と、設定周波数が略垂直に降下する急峻な変化部SC2があるとする。この場合、設定周波数変化SCの全周期に占める緩やかな変化部SC1の時間的割合が、急峻な変化部SC2よりも大きく、緩やかな変化部SC1での位相雑音が全周期における位相雑音に大きく影響する(大きく占める)。
【0059】
このため、緩やかな変化部SC1におけるループ帯域幅を狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定・調整し、急峻な変化部SC2におけるループ帯域幅を第1のループ帯域幅よりも広いループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定・調整する。例えば、緩やかな変化部SC1での第1のループ帯域幅を250kHzとし、急峻な変化部SC2での第2のループ帯域幅を1MHzとする。これにより、
図14に示すような出力周波数FCとなり、設定周波数変化SCの全周期における位相雑音が低く、かつ、全周期を通じて設定周波数変化SCに対する周波数誤差が小さくなる。
【0060】
ここで、ループ帯域幅を変える方法としては、一般にチャージポンプの電流を調整したり、ループフィルタの諸元を変えたりする手法がある。この実施の形態では、設定周波数変化における各変化率に応じて、制御部205から位相比較器/チャージポンプ202、ループフィルタ203およびPLLシンセサイザ204に制御信号を送信し、チャージポンプの電流を調整したり、ループフィルタ203のスイッチを開閉(諸元を変更)したりすることで、ループ帯域幅を調整する。
【0061】
このように、この実施の形態によれば、まず、ループ帯域幅が、位相雑音が所定の雑音レベルを超えない狭いループ帯域幅である第1のループ帯域幅に設定されるため、位相雑音・スプリアスの劣化を抑制することが可能となる。一方、設定周波数変化での周波数変化率が急峻なところでは、第1のループ帯域幅では出力信号の周波数と設定周波数変化における周波数との周波数誤差が所定の誤差を超える。しかし、その場合には、ループ帯域幅が、第1のループ帯域幅よりも広く周波数誤差が所定の誤差を超えないループ帯域幅である第2のループ帯域幅に設定されるため、出力周波数を設定値(設定周波数変化)通りにすることが可能となる。
【0062】
なお、ループ帯域幅が第2のループ帯域幅に設定されることで位相雑音が一時的に劣化するが、設定周波数変化全体・周期全体では平均化されるため劣化は小さい。また、FMCWレーダでは、通常、三角波や鋸波での周波数折り返し点(周波数が急峻に変化する点)を信号処理に使用しないため、問題とはならない。
【0063】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態2では、受信用可変アンプ33と乗算器34との間に受信側可変減衰器35を設けているが、受信部3のデジタル部(デジタル変換後)に受信側可変減衰器35を設けてもよい。また、アンテナ41を複数備えるフェーズドアレイレーダ装置の場合について説明したが、送受信でそれぞれ1つのアンテナ41を備えたり、送受信で共用の1つのアンテナ41を備えたりする場合にも適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1、10 レーダ装置
2 送信部
21 送信用LNA
25 送信側可変減衰器(送信側減衰手段)
3 受信部
31 受信用LNA
35 受信側可変減衰器(受信側減衰手段)
41 アンテナ
200 PLL回路
Tt 送信時間
Tr 受信時間
Pt 送信電力
Pr 受信電力